以下の説明では、単体のDACによって本来的に出力可能な帯域を越えて、より広帯域のアナログ信号を出力可能な信号発生装置が開示される。既に述べたように、従来技術では、図13Bの左側に概念的に示したように、複数のDACを使用しても単体のDACの帯域と同じ帯域を持つ出力しか得られなかった(非特許文献1)。あるいは、広帯域な出力が得られるものでも、回路構成の非対称性に関連する問題があった(非特許文献2)。本発明の信号発生装置では通常のDACを複数個組み合わせて、図13Bの右側に概念的に示したように、単体のDACの出力帯域を越えてより広帯域なアナログ出力を実現し、回路構成の非対称性の問題も解消する。
本発明の信号発生装置の様々な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明において、信号の上限周波数および下限周波数について言及するときは、対象とする信号に含まれる上限周波数以上および下限周波数以下の周波数成分の電力が、実質的に無視できる程度に小さいことを意味する。より具体的には、ある周波数以上または以下の信号成分の電力が、総信号電力の−20dB以下の場合を言う。
また、DACやアナログマルチプレクサなどの出力帯域とは、そのデバイスが実質的に出力可能なアナログ信号の上限周波数を言う。一般には、出力レベルが直流近傍のレベルに比べ3dB〜6dB程度減衰する周波数を言う。また、フィルタのカットオフ周波数とは、通過利得が通過域の利得から3dB減衰する周波数を言う。
最初に、本発明の信号発生装置の最も基本的な構成およびその動作原理について詳細に説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る信号生成装置の構成を模式的に示した図である。信号生成装置100は、デジタル信号処理部110、2つのDAC121、122およびアナログマルチプレクサ131から構成される。信号生成装置100への入力信号101は、デジタル信号処理部110において本発明に特有のデジタル信号処理を施される。デジタル信号処理部110からの後述の信号処理をされたデジタルデータ信号は、第1のDAC121および第2のDAC122においてそれぞれアナログ信号へ変換される。最後に、2つのDACからのアナログ信号出力は、アナログマルチプレクサ131により出力信号102へと変換される。
本発明の信号生成装置において、デジタル信号処理部110に入力される信号は、サンプリングされたデジタル信号である点に留意されたい。デジタル信号処理部への入力信号の生成は、これに限定されないが典型的にはDSPによって実現され、DSPからデジタル信号処理部110への入力信号は、デジタルデータ情報や所望のアナログ信号をデジタイズ(サンプリング)したデジタル信号となる。また、所望のアナログ信号は、DSP等の内部で、演算処理により生成され、そのデジタイズされた信号が本発明の信号生成装置におけるデジタル信号処理部に入力される。したがって、以下の説明において、所望の信号をサンプリングするとの記載があっても、アナログデジタル変換器(ADC)によって現実のアナログデジタル変換が行われるわけではない。DSPによる演算処理の一過程として観念されるものであって、現実の信号ではないことに留意されたい。DSP内において仮想的にアナログ波形を直接デジタイズしたデータがまず生成され、このデジタイズされたデータが、本発明の信号生成装置に供給されて、後述の本発明に特有の信号処理が加えられる。信号処理されたデジタルデータが2つのDAC121、122に入力され、アナログマルチプレクサ131を経て、現実の所望のアナログ信号が出力されることになる。本発明は、図1に示した信号生成装置の構成と、デジタル信号処理部によって実行される本発明特有の信号処理によって、出力帯域が不十分なDAC121、122を組み合わせて用いて、単体のDAC121、122の出力帯域と比べてより広帯域のアナログ出力を実現する。
2つのDAC121、122は、いずれもアナログマルチプレクサ131に対し同じ長さの配線で接続されている。また後述の通り、アナログマルチプレクサ131も、その2つの入力ポートから出力点に至るまでの仮想的な信号進行方向に対して、対称な構成を持っている。このため、DAC121出力点からアナログマルチプレクサ131出力点までのアナログ信号経路と、DAC122出力点からアナログマルチプレクサ131出力点までのアナログ信号経路は、同一な構成となっている。回路図上で、また実際のアナログ回路構成の点でも、電気信号の進行方向に沿って2つの信号経路を見た場合、進行方向を仮想的な中心軸として対称な構成となっている。同等な回路構成および電気特性を持つ2つのDAC121、122を用いることで2つのアナログ信号経路は同じ長さとなり、2つDACを同位相のクロックで駆動すれば、信号遅延の調整は不要となる。
したがって、本発明の信号生成装置では、非特許文献2に示された従来技術の複数のDACを用いた信号発生装置と比べて、調整が格段に容易となる。尚、上の説明において、回路図上のまたはアナログ信号経路の回路構成が対称であるということは、実際の構成回路素子の装置基板や半導体チップの基板上で物理的な形状や配置が必ずしも同一または対称である必要は無い。上述の2つのDACに関する信号経路の損失や遅延が同じであれば、DACの調整を大幅に簡略化できることに変わりはない。したがって、2つのDACのアナログ動作を伴う信号経路の形状や配置が多少異なっていても、各DACからアナログマルチプレクサ出力点までの信号経路が実質的に同一の長さとなって、同一の損失や遅延が実現できれば、本発明の特徴は発揮される点に留意されたい。
本実施形態の信号生成装置においては、アナログマルチプレクサ131はクロック周波数fcで駆動され、DAC121、122の出力帯域はfc/2程度、アナログマルチプレクサ131の出力帯域はfc以上である。本発明の信号生成装置100の基本的な動作を説明するにあたって、以下、まずアナログマルチプレクサ131の動作について説明する。
図2Aおよび図2Bは、本発明の信号生成装置におけるアナログマルチプレクサの動作を説明する図である。図2Aに示したように、アナログマルチプレクサ131は、2系統の入力アナログ信号201、202を周波数fcのクロック信号203で高速に切換えながら出力するスイッチ回路である。このスイッチ回路は、図2Bに示したような等価的な回路と同等な動作をするものと考えることができる。すなわち、アナログマルチプレクサ131は、乗算器204a、204bにおいて、入力信号201、202に、時間領域で交互に切り出すパルス列203a、203bをそれぞれ乗じた後、2つの乗算器出力を加算器205で加え合わせて出力206を得る回路と考えることができる。2つのパルス列203a、203bの時間波形は理想的には0と1の2値をとり、値が瞬時に変わる周波数fcの矩形波である。実際の回路ではスイッチの切換え遷移時間は0でなく一定の時間が掛かるため、時間波形は矩形波がある程度なまった波形となる。
図3Aおよび図3Bは、アナログマルチプレクサに乗算されるパルス列の周波数スペクトルを示す図である。図3Aは、図2Bのモデルにおいて第1の入力信号201に対し乗算されるパルス列203aのスペクトルを、図3Bは、第2の入力信号202に対し乗算されるパルス列203bのスペクトルを、それぞれ模式的に示している。図3Aおよび図3Bを参照すれば、パルス列203a、203bの時間波形をフーリエ変換すると、直流成分とfcの奇数倍の成分からなる線スペクトルが得られることがわかる。ここではパルス列時間波形が理想的矩形波の場合を想定しており、直流成分(f=0)の振幅を1としたとき、整数kに対し周波数±(2k−1)fcの高調波成分の振幅は2/{(2k−1)π}となる。尚、パルス列時間波形のなまりが大きく、パルス列が自乗余弦波で近似できるような波形の場合は、直流成分の振幅を1としたとき、周波数±fcの成分の振幅はほぼ1/2、それ以外の高調波成分の強度はほぼゼロとなる。
また非常に特殊な場合として、パルス列時間波形が値1をとる時間が、値0をとる時間に比べて短い短パルス列で表される場合には、直流成分の振幅を1としたとき、周波数±fcの成分の振幅は2/πより大きくなる。このようにパルス列時間波形が短パルス列で表されるアナログマルチプレクサは、例えばごく短い時間だけ入力アナログ信号201を出力した後、しばらくゼロを出力し、続いてごく短い時間だけ入力アナログ信号202を出力し、またしばらくゼロを出力する動作を行う。すなわち、このように短パルス列で表されるアナログマルチプレクサは、スイッチングというよりは交互にサンプリングするような動作に近い動作を行うものである。このような動作は、技術的に可能ではあるが、あまり一般的ではない。
パルス列信号の各周波数成分の位相は、パルス列の波形の時間原点の取り方に依存する。第1の入力信号201に乗算されるパルス列203aが値1を取る時間スロットの中心点を時間原点とすると、図3Aに示したスペクトルにおける周波数±(2k−1)fcの成分の位相は、kが奇数の場合にはゼロ、偶数の場合にはπとなる。また、時間原点の取り方に依らず、図3Aのスペクトルと図3Bのスペクトルとの間で同じ周波数の成分間における位相差は、直流成分においてゼロ、直流以外の成分においてはπとなる。以下の説明では、パルス列信号の直流成分の強度を1とした場合、周波数±fcの成分の強度を1/rとする。rの値を、本発明の本実施形態における定数とする。
図4は、本発明の信号生成装置におけるアナログマルチプレクサの動作を周波数領域で模式的に示した図である。図4の(a)および(c)は第1の入力信号201および第2の入力信号202のスペクトルを表し、それぞれ、信号帯域幅が片側fc/2程度である場合を考える。図4の(b)は、図2Bに示したモデルにおいて第1の入力信号201にパルス列203aを乗算した後の信号のスペクトルを、図4の(d)は、図2Bのモデルにおいて第2の入力信号202にパルス列203bを乗算した後の信号のスペクトルをそれぞれ表す。図4の(b)は、図4の(a)の信号スペクトルに図3Aのパルス列スペクトルを重畳したもの、図4の(d)は、図4の(b)の信号スペクトルに図3Bのパルス列スペクトルを重畳したものとなる。
先に定義したように、周波数±fcの成分に重畳された信号強度は、直流成分に重畳された信号に対し1/rの強度とした。アナログマルチプレクサ131の出力信号は図4の(b)および(d)に示される信号を加算したものとなる。図4の(b)と(d)のスペクトルの間における各周波数成分の位相差を見ると、直流成分に重畳された入力信号間の位相差はゼロ、fcの奇数倍の成分に重畳された入力信号間の位相差はπとなる。尚、周波数±3fcおよびさらに高次の高調波成分に重畳された信号成分は、周波数±fcの成分に重畳された信号とは重なりを持たないため、適宜ローパスフィルタを用いて簡単に除去できる。また、これらの高調波成分は、アナログマルチプレクサ131の出力側回路または伝送路中に、さらには受信側において、自然にカットオフされる。このため、以降の説明においては直流成分および周波数±fcに重畳された信号成分のみに着目する。
本発明の信号生成装置では、図3A、図3Bおよび図4に示したアナログマルチプレクサ131の動作特性を踏まえた上で、デジタル信号処理部110において、所望のアナログ信号をデジタイズしたデジタル信号に本発明特有の信号処理を加える。2つのDAC121、122の出力信号の上限周波数(出力帯域)がfc/2を少し上回る程度のとき、最終的な出力信号102の上限周波数がfc/2より十分大きい広帯域な信号となるよう、デジタル信号処理部110において本発明特有の信号処理を加える点に注目されたい。
図5は、本発明の第1の実施形態の信号生成装置における波形合成動作を周波数領域で模式的に表した図である。図5で説明される波形合成動作の信号処理は、図1の本発明の本発明の信号生成装置において、デジタル信号処理部110からアナログマルチプレクサ131までの構成要素で実施される。図5の(a)〜(g)のいずれの図も、横軸は周波数を、縦軸は信号レベル(振幅)を概念的に示している。横軸よりも下のレベルにある信号は、横軸よりも上にある信号と、横軸よりも下にある信号との間で位相差がπであることを示している。図3Aおよび図3Bに示したパルス列のスペクトルに基づいた図5の説明の過程では、各信号成分間の位相差は0またはπの場合だけに限定されている。2つの位相差の場合に応じて信号レベルを単純化して説明しているが、厳密に信号の位相を表現するためには、2次元ではなくて3次元の表記が必要となる。したがって、図5の(a)〜(g)の各図は、本発明の信号生成装置における信号処理の概念的な説明のために単純化して表現されている点に留意されたい。
図5の(a)は、最終的に本発明の信号生成装置から出力させたい所望信号のスペクトルとする。所望信号は時間軸上で実数信号であり、かつ上限周波数がfc未満である限りにおいて、任意の信号を設定することができる。所望の信号は、まずデジタイズ(サンプリング)された入力データとしてデジタル信号処理部110に供給されるが、一連のデジタル信号処理の1つの過程としての仮想的なものであって、演算処理によって直接デジタルデータが生成される。デジタル信号処理部110への入力については、後述する図6のより具体的なデジタル信号処理部のブロック図とともに再び説明する。以下の図5の説明では、一連の信号処理が周波数軸上の操作として概念的に説明される。
デジタル信号処理部110では、まず図5の(a)に示した所望信号を図5の(b)で示したように、記号A、B、Cで示した各信号成分に分離する。Aの信号成分は時間軸上で実数の低周波数信号であり、Bの信号成分およびCの信号成分を合せた信号も、時間軸上で実数の高周波数信号である。Bの信号成分は正周波数成分、Cの信号成分は負周波数成分とする。Bの信号成分およびCの信号成分は、互いに、周波数ゼロを中心に折返して複素共役を取った関係となる。このとき、Aの低周波数信号の信号電力はほぼ|f|≦fc/2の範囲内に、BおよびCの各高周波信号の信号電力はほぼ|f|≧fc/2の範囲内にそれぞれ収まるように分離する。
次に、デジタル信号処理部110では、図5の(b)で分離した信号成分のうちBの信号成分とCの信号成分をそれぞれ縦軸(振幅軸)上でr倍し、周波数軸上でCの信号成分を+fc、Bの信号成分を−fcだけそれぞれ水平シフトする。r倍の操作と水平シフトの操作の順序は問わない。周波数軸上でシフトした各信号成分は、Aの信号成分と加算され、図5の(c)に示したスペクトルを持つ第1の信号が得られる。上述のBの信号成分とCの信号成分に対するスペクトルの振幅をr倍しおよび周波数軸上でシフトする操作は、Bの信号成分およびCの信号成分をそれぞれfc/2およびfc/2を中心に折返して複素共役を取り、r倍してAの信号成分に加算する操作と等価である。
一方で、上述の第1の信号を得た操作において最後処理であるAの信号成分への加算処理を、A信号成分から減算する処理に置き換えた場合、図5の(d)に示したスペクトルを持つ第2の信号を得る。ここで、振幅変更のための定数rの値は、前述の通りアナログマルチプレクサ131におけるスイッチの切換え遷移特性、すなわち図2Bのモデルにおけるパルス列の波形に応じて設定する。パルス列が理想的矩形波で表される場合はr=π/2とし、パルス列のなまりが大きく自乗余弦波で近似できるような波形の場合はr=2とする。定数rは、通常はπ/2<r<2の範囲で設定される。図5の(c)の第1の信号および(d)の第2の信号の各スペクトルの電力は、共にほぼ|f|<fc/2の周波数範囲内に収まっている。したがって、第1の信号および第2の信号のいずれも、出力帯域がfc/2程度のDACであっても充分に生成される。図5の(c)のスペクトルを持つ第1の信号および図5の(d)のスペクトルを持つ第2の信号が、それぞれDAC121、122からの出力アナログ信号とすべき信号となる。したがって、第1の信号および第2の信号を出力するデジタル信号が、図1のデジタル信号処理部110からDAC121、122にそれぞれ与えられる。2つのDAC121、122の出力特性が周波数依存性を持つ場合には、デジタル信号処理部110は、この周波数依存性を補償するための処理もさらに施すことができる。デジタル信号処理部110は、上述の第1の信号および第2の信号を出力するための補償されたデジタル信号を、DAC121、122に供給する。
図5の(c)に示したスペクトルを持つアナログ信号が、DAC121からアナログマルチプレクサ131へ、第1の入力信号として供給される。同様に、図5の(d)に示したスペクトルを持つアナログ信号が、DAC122からアナログマルチプレクサ131へ、第2の入力信号として供給される。このとき、図2Bのモデルにおいて入力信号201、202にパルス列203a、203bを乗算したときの図4の(b)および(d)の各スペクトルを参照すれば、アナログマルチプレクサ131からの第1の入力信号および第2の入力信号に対応する出力信号は、それぞれ、図5の(e)および(f)に示したスペクトルとなる。
図5の(e)および(f)に示した各スペクトルの信号間において、直流成分に重畳された信号については、Aの信号成分が互いに同相となっている。一方、振幅をr倍して周波数軸上でシフトして得られたrBと表示された信号成分は互いに逆相(rBと−rB)に、同様に振幅をr倍して周波数軸上でシフトして得られたrCと表示された信号成分も互いに逆相(rCと−rC)となっている。周波数±fcに重畳された信号については、A/rと表示された信号成分が互いに逆相となっている。一方、Bと表示された信号およびCと表示された信号は、それぞれ、互いに同相となることがわかる。ここで、図5の(e)で周波数±fcに重畳されたBと表示された信号は、図5の(c)で直流成分に重畳されていたrBと表示された成分がパルス列と乗算される。このため、図3Aおよび図3Bで先に定義した通り、パルス列を乗じて周波数±fcの成分のレベルは直流成分に対して1/rの関係にあることから、振幅が(rB)×(1/r)=Bとなっている点に留意されたい。周波数±fcに重畳されたCと表示された信号についても、同様に、振幅が(rC)×(1/r)=Cとなっている。
図5の(e)および(f)のスペクトルは、アナログマルチプレクサ131によって加算され、最終的にアナログマルチプレクサ131の出力点から得られる信号は、図5の(g)に示したスペクトルを持つ信号となる。図5の(g)においては、図5の(e)および(f)に示した信号間で互いに逆相となっていた成分(rB、rC)が打ち消し合い、同相(A、B、C)となっていた成分だけが残される。これによって、|f|<fcの周波数範囲において図5の(a)および(b)に示した所望の信号が得られる。f<−fcおよびfc<fの周波数範囲おいては、それぞれ、Bと表示された不要な成分およびCと表示された不要な成分が残る。これらの不要成分は、周波数fc付近にカットオフ周波数を有するローパスフィルタを用いれば簡単に除去できる。また、場合によってはアナログマルチプレクサ131の出力側回路または引き続く伝送路、さらには対応する受信側回路で自然にカットされる。
図5の(a)から(g)までの一連のスペクトル操作を参照すれば、DAC121、122から出力すべき信号のスペクトルは(c)および(d)となっている。したがって、DAC121、122の出力帯域がfc/2程度であっても、本発明の信号生成装置の最終的な出力信号102として、図5の(a)および(g)に示したような上限周波数がfc/2より十分に大きい(但しfcよりは小さい)任意の所望信号を得ることができる。
本発明における図5の(a)から(g)までのスペクトル操作の過程を数式で示すと、以下の通りとなる。図5の(a)に示した所望信号のスペクトルをS
trg(f)、図5の(b)における信号成分A、信号成分Bおよび信号成分CをそれぞれS
A(f)、S
B(f)およびS
C(f)とする。ここで、図5の(c)に示した第1のDAC121の出力アナログ信号のスペクトルS
1(f)、図5の(d)に示した第2のDAC122の出力アナログ信号のスペクトルS
2(f)は、それぞれ次式となる。
一方、図2Bのアナログマルチプレクサの動作モデルにおいて、|f|≧3f
cの周波数範囲の成分を無視すると、アナログマルチプレクサへの第1の入力信号および第2の入力信号にそれぞれ乗じられるパルス列のスペクトルP
1(f)およびP
2(f)は、次式で与えられる。
ここでδは、ディラックのデルタ関数である。重畳演算を記号*で表すと、式(1)および式(2)より、図5の(g)に示したアナログマルチプレクサ131の出力信号S
out(f)は、次式によって与えられる。
式(3)のように、アナログマルチプレクサ131の出力信号Sout(f)は、所望信号Strg(f)に対して、信号成分Bを周波数軸上で−2fc だけ水平シフトさせた信号および信号成分Cを周波数軸上で+2fc だけ水平シフトさせた信号を加えた信号となっている。上述の式(3)から把握される処理は、図5の(c)および(d)で説明したデジタル信号処理部110で実行される処理と同じであり、図5で説明した処理と式(3)から得られる処理は整合している。前述の通り、所望信号のスペクトルStrg(f)は、|f|≧fc の範囲ではほぼ信号レベルがゼロである。したがって、式(3)の信号成分SB(f+2fc )はf≧−fc において、信号成分SC(f−2fc )はf≦fc においてそれぞれ信号電力はほぼゼロであり、周波数軸上で所望信号のスペクトルStrg(f)と重なることはない。
尚、上述の数式を用いた説明においては非本質的なスケーリングファクタは省略されている。本発明の信号発生装置の実際の回路動作を記述するためには、例えばアナログマルチプレクサ131の損失またはゲイン(増幅回路が含まれる場合)に対応する定数を式(3)の右辺に乗じる必要がある。
上述のように、本発明の信号生成装置においてデジタル信号処理部110が果たす役割は、2つのDAC121、122からの各出力アナログ信号が図5の(c)および(d)にそれぞれ示したスペクトルを持つ信号となるようなデジタル信号を生成し、DAC121、122にそれぞれ供給することにある。そのために、所望信号に基づいて、図5の(c)および(d)に相当する信号をそれぞれデジタル領域で生成するとともに、DAC121、122が持っている出力特性の周波数依存性があれば、これを補償する処理も合わせて行えば良い。
図6は、本発明の第1の実施形態に係る信号生成装置におけるデジタル信号処理部の構成およびフローを説明するブロック図である。図6のデジタル信号処理部110は、機能ブロック図として表現されているが、デジタル信号処理部110の各ブロックの機能は例えばDSPを用いた演算処理でも実行できる。したがって、図6は実質的に矢印の向きに実行される演算フローを示していると見ることもできる。もちろん、各ブロックの処理の一部をハードウェア処理で実現することも、また、ハードウェア処理および演算処理を組み合わせても実現することできる。以下、信号の流れに沿って、デジタル信号処理部110における各機能ブロックの処理を順に説明する。
本発明の信号生成装置の入力信号101としては、所望信号をサンプリングレートfs0でサンプリングしたデジタル信号を用いる。先に述べたとおり、入力信号101は生成したい所望信号をデジタル領域で生成したものであって、現実の所望信号は存在していない。サンプリングレートfs0は、所望信号のスペクトルStrg(f)の上限周波数の2倍より大きな値に設定する。サンプリング定理からも明らかなように、この設定によって所望信号をほぼ情報損失なくデジタル領域で取り扱うことができる。簡単のため、アナログマルチプレクサ131は、出力側の周波数応答がフラットな理想特性を持つものと仮定する。実際には、マルチプレクサは高周波数側において減衰する応答特性を有していることが一般的である。その場合は、入力信号101として、所望信号をサンプリングした信号に対し、アナログマルチプレクサ131の応答特性を予め補償する処理をさらに施したデジタル信号を入力する。
図6の帯域分割部611においては、入力された入力信号101を低周波数信号661と高周波数信号662とに分離する。低周波数信号661は、図5の(b)においてAで示した信号成分、すなわち式(1)におけるSA(f)で示される信号に相当する。高周波数信号662は、図5の(b)においてBで示した信号成分およびCで示した信号成分、すなわち式(1)におけるSB(f)+SC(f)で示される信号に相当する。具体的には、例えばカットオフ周波数fc/2程度のデジタルローパスフィルタ(LPF)を用いて、入力信号101の低周波数成分を切り出して低周波数信号661を得ることができる。さらに、入力信号101のコピーから得られた低周波数信号661を減算して高周波数信号662を得ることができる。この時、LPFの通過域における通過利得は0dBとする。
別法として、ハイパスフィルタ(HPF)を用いて入力信号101から直接高周波数信号662を得て、これを入力信号101から減算して低周波数信号661を得ることもできる。また、LPFおよびHPFを個別に用いて入力信号101から低周波数信号661および662をそれぞれ得ることもできる。LPFとしては、例えばカットオフ周波数fc/2のコサインロールオフ特性を有する有限インパルス応答(FIR)フィルタ等を用いることができる。上述のように、本発明の信号生成装置におけるデジタル信号処理として様々な実装方法を採ることが可能であって、具体的な信号処理方法は、以後説明する他のブロックの処理を含めて明細書の記載だけに限定されない。
図6の折返し部621においては、周波数領域において高周波数信号662の正周波数成分を−f
c 、負周波数成分を+f
c それぞれシフトさせ、さらに振幅をr倍して折返し信号663を出力する。具体的には、例えばヒルベルト変換を用いて以下のような演算を行えば良い。ヒルベルト変換は、一般にFIRフィルタにより実現可能である。すなわち、x(n)のヒルベルト変換をHilbert[x(n)]とすると、入力される高周波数信号662をx(n)(nは整数のインデックス)の正周波数成分をx
+(n)および負周波数成分x
−(n)は、次式によって与えられる。
さらに周波数領域でスペクトルを±f
c シフトさせる操作は、時間領域でexp(±j2πf
c n/f
s0 )を乗算することに相当する。したがって、折返し部621では、次式の演算を行い、折返し信号663y(n)を出力する。
式(5)によって得られる折返し信号663は、図5の(c)に示した周波数領域においてrBで示された信号成分およびrCで示された信号成分に相当する。すなわち式(1)において2つのDAC121、122から出力されることになるアナログ信号のスペクトルS1(f)、S2(f)の各第2項r{SB(f+fc )+SC(f−fc )}を、時間領域においてサンプリングレートfs0 でサンプリングした信号に相当する。実際には、式(4)および式(5)の2行目の演算はヒルベルト変換による遅延分だけ第1項のx(n)を遅延させて実行する必要があるが、簡単のため遅延操作は省略して記述した。
図6のリサンプル部631、632では、低周波数信号661および折返し信号663のデジタル信号のサンプリングレートをfs0 からfs1 に、それぞれ変換する。ここでfs1はDAC121、122のサンプリングレートであり、前述の通りDAC121の出力信号S1(f)およびDAC122の出力信号S2(f)の上限周波数の2倍より大きな値とする必要がある。S1(f)およびS2(f)の上限周波数はfc /2を少し上回る程度であり、所望信号Strg(f)の上限周波数より小さいので、一般にfs1<fs0 と考えることができる。但しfs1=fs0 とすることも可能であり、その場合は当然ながらリサンプル部631、632は省くことができる。fs1=fs0 とする場合とは、例えばDAC121、122の動作可能なサンプリングレートが同DACの出力帯域fc /2の4倍程度と相対的に大きい場合である。
図6の加算部641では、リサンプルされた低周波数信号661にリサンプルされた折返し信号663が加算され、第1の信号671が生成される。第1の信号671は、図5の(c)に示されたすべてのスペクトルの総和、すなわち式(1)におけるS1(f)で示された第1の信号に相当する。減算部642ではリサンプルされた低周波数信号661からリサンプルされた折返し信号663が減算され、第2の信号672が生成される。第2の信号672は、図5の(d)に示されたすべてのスペクトルの総和、すなわち式(1)におけるS2(f)で示された第2の信号に相当する。第1の信号671および第2の信号672は、まだデジタル信号である点に留意されたい。
したがって本発明は、デジタル信号処理部110と、2つのデジタル−アナログ変換器(DAC)121、122と、前記2つのDACから出力されるアナログ信号を周波数fcで交互に切り替えてアナログ信号として出力するアナログマルチプレクサ131とを備え、前記デジタル信号処理部は、上限周波数がfc未満の所望の出力信号のうち周波数の絶対値が概ねfc/2以下の成分からなる信号を低周波数信号(信号成分A)とし、前記所望の出力信号のうち周波数の絶対値が概ねfc/2以上の成分からなる正周波数成分(信号成分B)および負周波数成分(信号成分C)に対して、周波数軸上で前記正周波数成分を−fcシフトした信号、並びに、周波数軸上で前記負周波数成分を+fcシフトした信号を折返し信号としたとき、前記折返し信号に定数(r)を乗じ、前記低周波数信号に加算した信号に等しい第1の信号671を生成する手段と、前記折返し信号に前記定数(r)を乗じ、前記低周波数信号から減算した信号に等しい第2の信号672を生成する手段とを含み、前記デジタル信号処理部で生成された前記第1の信号に対応するデジタル信号が、前記2つのDACの一方のDACに入力され、前記デジタル信号処理部で生成された前記第2の信号に対応するデジタル信号が、前記2つのDACの他方のDACに入力されることを特徴とする信号生成装置として実施できる。
最後に、図6の補償部651、652においてDAC121、122が本来的に持っている周波数応答特性が補償される。具体的には、近似的にDAC121、122の周波数応答特性をキャンセルする逆特性となるような応答特性を有するフィルタを用いれば良い。このような補償処理は予等化とも呼ばれ、DACを用いた高速通信システムにおいて一般的に行われている。補償部651、652からの出力デジタル信号が、デジタル信号処理部110の出力としてDAC121、122へそれぞれ供給される。DAC121の出力からは、アナログ信号として図5の(c)に示したスペクトルを有しており、式(1)におけるS1(f)として示される第1の信号が得られる。同様に、DAC122の出力からは、アナログ信号として図5の(d)に示したスペクトルを有しており、式(1)におけるS2(f)として示される第2の信号が得られる。DAC121、122の周波数応答特性が第1の信号S1(f)および第2の信号S2(f)の上限周波数までの帯域でほぼフラットである場合は、補償部651、652を省くことができる。
図6の折返し部621における演算は、本発明の信号生成装置の入力信号101のサンプリングレートf
s0 が一定の条件を満たす場合、上述したヒルベルト変換を使わずに実施することもできる。ヒルベルト変換を使わずに折返し部621の演算を行う別の実装方法を以下に示す。ここで、入力される高周波数信号662をx(n)とし、x(n)のスペクトル(離散時間フーリエ変換)をX(f)とする。スペクトルX(f)は周波数軸上で周期f
s0 の周期関数となり、式(1)におけるS
B(f)およびS
C(f)を用いて次式のように表すことができる。
x(n)に時間領域で周波数f
c の余弦波を乗算し2r倍することで得られる信号を、次式のようにy´(n)とする。
このとき、y´(n)のスペクトル(離散時間フーリエ変換)Y´(f)は、次式によって表される。
一方、前述のように折返し部621の出力として得たい信号y(n)は、式(1)におけるr{S
B(f+f
c )+S
C(f−f
c )}を時間領域においてサンプリングレートf
s0でサンプリングした信号である。したがって、y(n)のスペクトル(離散時間フーリエ変換)Y(f)は、次式によって表される。
式(9)および式(8)を参照すれば、式(8)の右辺3行目の第1項SB(f−fc −kfs0 )および第4項SC(f+fc −kfs0 )を除去するようなフィルタ処理を式(8)に対応するy´(n)に対して施せば、y(n)が得られることがわかる。
図7Aおよび図7Bは、ヒルベルト変換を使わない場合の折返し部における演算動作を説明するスペクトル図である。以下では式(8)の右辺3行目の第1項SB(f−fc −kfs0 )に着目する。式(8)のこの第1項は、図5の(b)におけるBの信号成分をr倍し、周波数軸上で+fc シフトしたものがfs0 間隔で繰り返し現れるスペクトルを表している。ここで、Bの信号成分の上限周波数をfMax 、下限周波数をfMinとする。式(8)の第1項のスペクトルは、入力信号101のサンプリングレートfs0 がfs0 >fMax +fc の場合、図7Aに示したように、ナイキスト帯域内すなわち|f|<fs0 /2ではk=0の成分すなわちSB(f−fc )のみが現れる。これは例えばカットオフ周波数fc 程度のLPFを用いれば簡単に除去できる。
一方、入力信号101のサンプリングレートfs0 がfs0 <fMax +fc の場合は、図7Bに示したようにk=−1の成分すなわちSB(f−fc +fs0 )が負周波数側に現れる。この負周波数側に現れる不要成分の上限周波数はfMax +fc−fs0 となり、必要成分であるSB(f+fc )の下限周波数はfMin −fc となる。したがって、fMax+fc−fs0 <fMin −fc の関係があれば、負周波数側に現れるこの不要成分はカットオフ周波数|fMin −fc|程度のLPFを用いて除去可能である。以上の議論は、式(8)の右辺3行目の第4項SC(f+fc −kfs0 )についても同様に成り立つ。すなわち、fMax +fc−fs0 <fMin −fcであれば、折返し部621における処理としては、式(7)に示したように入力信号に対し周波数fc の余弦波を乗算した後で、適切なLPFによって不要周波数成分を除去すれば良い。
さらに、f
s0 =2f
c とすれば、余弦波の乗算により生じる不要成分であったS
B(f− f
c+f
s0 )が必要成分であるS
B(f+f
c )とちょうど一致するため、除去する必要が無くなる。このため、折返し部621における処理をさらに簡易化でき、所望の折返し信号y(n)は、LPFを用いることなく次式の演算のみで得られる。
すなわち、r・x(n)の符号を交互に反転させたものをy(n)とすれば良い。このことを確認するため、式(10)のスペクトル(離散時間フーリエ変換)Y(f)を求めると、次式のように展開できる。
式(11)は、式(9)においてfs0 =2fc とした結果と一致する。
さらに別の実装方法として、図6に示したデジタル信号処理部110における処理フロー全体は、これまで説明したような時間領域での処理ではなく、周波数領域の処理を用いて実現することもできる。例えば、まず入力信号101の時間領域信号を帯域分離部の前段で離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)により周波数領域信号に変換する。その後、帯域分離部611、折返し部621、加算部641、減算部642、補償部651、652の各処理を全て周波数領域で行う。最後に、補償部651、652の周波数領域信号出力を逆離散フーリエ変換(IDFT:Inverse DFT)により時間領域信号に再変換して、DAC121、122へ出力する。周波数領域では、帯域分離およびDAC応答特性補償の各操作は、適当なフィルタ形状関数を乗算することによって簡単に実現できる。折返し操作(周波数シフト)についても、周波数領域ではインデックスの入れ替え(データ点の並べ替え)により簡単に実現できる。この場合、DFTおよびIDFTのポイント数毎にブロック処理を行うことになるが、ブロック間干渉の影響を除去するために、一般的によく用いられるようなオーバラップ処理を行えば良い。
以上、デジタル信号処理部110の各ブロックの処理について、その実装方法の異なるバリエーションを示したが、本発明の特徴は具体的な演算処理の実装方法に依らない。本発明は、2つのDAC121、122の出力アナログ信号として図5の(c)に示したスペクトルを持つ第1の信号および図5の(d)に示したスペクトルを持つ第2の信号を、アナログマルチプレクサへ131出力するように、デジタル信号処理部110を動作させるところに特徴がある。すなわち、デジタル信号処理部110が、式(1)における第1の信号S1(f)および第2の信号S2(f)として示した信号を出力させるデジタル信号を2つのDACへ供給することで、本発明に特有の次の効果が発揮される。
すなわち、デジタル信号処理部110における本発明に特有の信号処理によって、2つのDACおよびアナログマルチプレクサから構成される信号生成装置において、単体のDACの出力帯域と比べてより広帯域な任意の信号を出力することが可能となる。具体的には、現行のCMOS−DACを本発明と組み合わせれば30GHz程度の出力帯域を実現することができる。単体のCMOS−DACの帯域も伸びてきており、またSiGeやInP等の化合物半導体のデバイスを利用すれば、本発明と組み合わせて〜50GHz程度の出力帯域が期待できる。
また、図1に示した信号生成装置の全体構成から明らかなように、DAC121、122の各出力点からアナログマルチプレクサ131の出力までは、電気信号の進行方向に沿って2つの信号経路を見た場合、進行方向を仮想的な中心軸として対称な構成となっている。したがって、DACの振幅および遅延の調整は最低限度のもので済む。本発明の信号生成装置でも、半導体チップの製造ばらつきに起因するDACの間の調整、装置内の接続ケーブル間の調整、アナログマルチプレクサの入力ポート間の特性差を補償する調整が必要な場合もある。例えば一方DACが他方のDACより出力振幅が小さい場合、他方のDACの出力を絞るような調整が必要となるが、一般に同一設計・同一プロセスで製造したDACを用いればこのような調整は簡単な微調整で済む。このような本発明に特有の効果は、第1の信号S1(f)および第2の信号S2(f)を得るためのデジタル信号処理部110における処理フローの具体的な実装方法の詳細には依存しない。
[第2の実施形態]
図8は、本発明の第2の実施形態に係る信号生成装置を含む光送信器の構例を模式的に示した図である。本実施形態では、図1に示した信号生成装置と同等の信号生成装置800が光送信器890の中に組み込まれている。本実施形態の信号生成装置800は、図1に示した信号生成装置100と比べ、アナログマルチプレクサ831の後段にローパスフィルタ(LPF)861が接続されている点で相違している。LPF861は、カットオフ周波数fc程度のアナログLPFによって実現できる。LPF861は、図5の(g)に示した出力信号スペクトルのうち、f<−fcに存在するBの信号成分およびf>fcに存在するCの信号成分を、不要な信号成分として除去する。前述のように、これらの不要成分はアナログマルチプレクサ831が持つ出力特性により自然に除去される場合があり、また、本光送信器890に対応する受信側装置でもこれらの不要成分を除去することもできる。本実施形態のように、LPF861をアナログマルチプレクサ831の後段に挿入することで、これらの不要成分を確実に送信側装置内で除去できる。本実施形態のLPFを含む構成によって、例えば伝送路の非線形性が大きい場合に生じる、不要成分から所望信号成分への干渉を防ぐことができる。また、本発明の信号生成装置で生成した信号を光等のキャリアに載せて他の信号と周波数(波長)多重して伝送する場合においても、不要成分によって生じる隣接チャネルへのクロストークを抑制することができる。
本実施形態の光送信器890は、光の強度変調を用いる光送信器であり、強度変調−直接検波方式を用いた光伝送システム等で用いられる。本実施形態において、信号生成装置800のデジタル信号処理部810は、光の強度変調を用いる送信器のためのベースバンド信号を生成することになる。信号生成装置800は、送信情報データにデジタル変調と、次に述べるような他の処理を加えた実数のデジタル波形802を出力する。光送信器890はでは、まず、予め誤り訂正符号化された送信情報データ881に対して、デジタル変調部882で所定の変調方式に応じたシンボルマッピングが行われる。波形整形・補償部883で、パルス整形、チャネル応答の補償処理(予等化)および光送信器890の後段に配置される電気/光変換(E/O)デバイスの電圧応答の非線形性を補償する処理等が行われる。信号生成装置800に対しては、上述の一連の処理がなされたデジタイズされたデータが入力データ801としてデジタル信号処理部810に供給される。上述の誤り訂正符号化、シンボルマッピング、パルス整形、チャネル予等化などの機能は、通常、物理的には全て送信側DSPによって実装され得る。したがって、典型的には信号生成装置800への入力データ801は送信側DSPから供給される。本実施形態の光送信器890においては、信号生成装置800に含まれるデジタル信号処理部810の機能も、上述の送信側DSPに一体的に組み込んで構成しても良い。
信号生成装置800からのアナログ出力信号802は、増幅器884により増幅された後、E/Oデバイス885により光信号に変換され、伝送路へと出力される。E/Oデバイス885としては、直接変調レーザや、吸収型変調器集積レーザ等、電気信号を光の強度情報に変換するデバイスを用いる。本実施形態の信号生成装置800を含む光送信器890でも、2つのDAC821、822が、図5の(c)に示したスペクトルを持つ第1の信号および図5の(d)に示したスペクトルを持つ第2の信号を、出力アナログ信号としてアナログマルチプレクサ831へ出力するように、デジタル信号処理部810を動作させる。本実施形態では、デジタル信号処理部810は光の強度変調を用いる送信器のためのベースバンド信号を生成する。デジタル信号処理部810が、2つのDACに対して、式(1)における第1の信号S1(f)および第2の信号S2(f)として示した信号を出力させるデジタル信号を供給することで、本発明の効果が発揮される。デジタル信号処理部810における本発明に特有の信号処理によって、2つのDAC821、822およびアナログマルチプレクサ831から構成される信号生成装置では、単体のDACの出力帯域と比べてより広帯域な任意の信号を出力することが可能となる。また、図8に示したデジタル信号処理部810の全体構成から明らかなように、DAC821、822の各出力点からアナログマルチプレクサ831の出力までは、電気信号の進行方向に沿って2つの信号経路を見た場合、進行方向を仮想的な中心軸として対称な構成となっている。したがって、第1の実施形態の信号生成装置と同様に、本実施形態でもDACの振幅および遅延の調整は最低限度のもので済む。
[第3の実施形態]
図9は、本発明の第3の実施形態に係る信号生成装置を含む光送信器の構成を模式的に示した図である。光送信器990は、4つの信号生成装置900a〜900dを備えている。信号生成装置900a〜900dの各々の構成は、図8に示した第2の実施形態の信号生成装置800と同等である。本実施形態の光送信器990は、光の直交する2偏波の強度および位相を用いる送信器であり、コヒーレント光伝送システム等で用いられる。直交する2偏波をX偏波およびY偏波とし、同相成分をI、直交位相成分をQでそれぞれ表すと、各信号生成装置900a〜900dは、X偏波I成分、X偏波Q成分、Y偏波I成分、Y偏波Q成分に対応する4種類の実数波形を生成する。
光送信器990では、まず、予め誤り訂正符号化された送信情報データ981に対して直交する2偏波を用いた変調方式に応じたシンボルマッピング等を行う。さらにパルス波形整形と必要なチャネル予等化を施し、X偏波I成分、X偏波Q成分、Y偏波I成分、Y偏波Q成分の各実数波形に対応するデジタイズされたデータが入力データ901a〜901dとして信号生成装置900a〜900dに供給される。信号生成装置900a〜900dからのアナログ出力信号は、それぞれ、増幅器984a〜984dにより増幅される。増幅された信号は、送信レーザ985に接続された偏波多重IQ変調器986へと入力され、光信号として伝送路へと出力される。本実施形態の光送信器990でも、誤り訂正符号化、シンボルマッピング、パルス整形、チャネル応答補償、IQ変調器応答の非線形性補償などの機能を全て送信側DSPによって実装することができる。したがって、典型的には信号生成装置900a〜900dへの入力データ901a〜901dは送信側DSPから供給され得る。本実施形態の光送信器990においては、信号生成装置900a〜900dに含まれるデジタル信号処理部910a〜910dの各機能も、上述の送信側DSPに一体的に組み込んで構成しても良い。
本実施形態の信号生成装置900a〜900dを含む光送信器990でも、各々の信号生成装置において例えば信号生成装置900aでは、2つのDAC921a、922aが図5の(c)に示したスペクトルを持つ第1の信号および図5の(d)に示したスペクトルを持つ第2の信号を、出力アナログ信号としてアナログマルチプレクサ931aへ出力するように、デジタル信号処理部910aを動作させる。本実施形態の光送信器990の信号生成装置900a〜900dでは、各デジタル信号処理部は直交2偏波を用いた変調を用いる変調器のための4種類のベースバンド信号を生成する。各デジタル信号処理部が、対応する2つのDACに対して、式(1)における第1の信号S1(f)および第2の信号S2(f)として示した信号を出力させるデジタル信号を供給することで、本発明の効果が発揮される。デジタル信号処理部における本発明に特有の信号処理によって、2つのDACおよびアナログマルチプレクサから構成される信号生成装置において、単体のDACの出力帯域と比べてより広帯域なベースバンド信号を出力することが可能となる。DACの振幅および遅延の調整も、第1の各実施形態および第2の各実施形態と同様に、最低限度のもので済む。
[第4の実施形態]
図11は、本発明の第4の実施形態に係る信号生成装置におけるデジタル信号処理部の構成を示した図である。本実施形態の信号生成装置の全体構成は、図1に示した第1の実施形態の信号生成装置100と同じであるが、デジタル信号処理部として、図11に示したような処理を行うデジタル信号処理部1110を備える点で第1の実施形態と相違する。また、第1の実施形態〜第3の実施形態の信号生成装置は、アナログマルチプレクサのクロック周波数をfcとするとき、上限周波数fc未満の任意の所望信号を生成できるものであった。本実施形態の信号生成装置で生成可能な信号は、直交周波数多重(OFDM:Orthogonal Frequency−Division Multiplexing)信号や離散マルチトーン(DMT:Discrete Multi-tone)のようなマルチキャリア信号に限られ、本実施形態の信号生成装置は、マルチキャリア信号に適合したものである。
OFDM信号やDMT等のマルチキャリア信号を生成する一般的なフローは、例えば、非特許文献3に以下のように示されている。その概要は、まずデジタル領域において入力データをシリアル−パラレル変換(S/P変換)してサブチャネルに分け、各サブチャネルのデータを送信コンスタレーションにマッピングして各周波数サブキャリアに対する複素シンボル値(サブシンボル値)を生成する。次に、サブシンボル列を逆離散フーリエ変換(IDFT)することにより、各サブキャリアを対応するサブシンボルで変調した信号に相当する時間領域データ列を得る。最後に、パラレル−シリアル変換(P/S変換)してDACに送り、DAC出力としてマルチキャリア信号を得る。これらの一連の処理はIDFTのポイント数毎にブロック処理として行われる。多くの場合、P/S変換の前段または後段においてサイクリックプリフィックス(CP)等のガードインターバルを各シンボルに付加し、伝送路分散等に起因するブロック間干渉を受信側で除去できるようにする。また、通常は周波数領域信号から時間領域信号への変換にはIDFTを高速に実行するアルゴリズムである逆高速フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform)が用いられる。OFDMの場合は基本的に全サブキャリアに対し同一の変調コンスタレーションが用いられ、DMTの場合には伝送路の周波数応答特性に応じてサブキャリア毎に変調多値数と強度が最適化された変調コンスタレーションが用いられる(非特許文献4)。
図5の(a)〜(g)で説明した本発明の信号生成装置の原理を用いて、単体のDACの出力帯域よりもより広帯域なマルチキャリア信号の出力を得たい場合、簡単には第1の実施形態おける所望信号として、マルチキャリア信号を設定すれば良い。すなわち、非特許文献3に示されたようなマルチキャリア信号生成処理を行うデジタル信号処理回路を本発明の信号生成装置とは別個に外部に設け、そのデジタル信号処理回路からの出力デジタルデータ信号を図6のデジタル信号処理部110への入力信号101とすれば良い。しかしながら、所望信号がマルチキャリア信号である場合には、非特許文献3に示されたようなマルチキャリア信号生成のためのデジタル信号処理回路を別個に備えずに、マルチキャリア信号生成過程の処理を本発明のデジタル信号処理部の中に含めることで、より効率的にマルチキャリア信号を生成することができる。以下、本発明の信号生成装置のデジタル信号処理部に、マルチキャリア信号生成過程そのものを改変した処理をさらに導入した構成例、その動作および実装方法を説明する。
図10は、本実施形態の信号生成装置によってOFDM信号が生成されるまでの処理を周波数領域で説明する図である。図10の(a)は、所望信号であるベースバンドOFDM信号を示す。ここでサブキャリア数はMであり、m番目(m=0、1、...、M−1)のサブチャネルに対するサブシンボル値をc
m(t)、サブキャリア周波数をmΔfとする。したがって、Δfはサブキャリア周波数間隔となる。さらに、信号生成装置のアナログマルチプレクサ131の駆動クロック周波数f
cと、p番目のサブキャリア周波数pΔfとの間に次式の関係が成り立つよう、Δfおよびf
cを設定する。
第1の実施形態の信号生成装置と同様、所望信号の全体の上限周波数はアナログマルチプレクサのクロック周波数fc未満とする。このため、式(12)からM−1<2pの関係が成り立つ。各複素シンボル値cm(t)はシンボルレートΔfで変化するが、図10の各図では簡単のため時間変数tを省略して示している。
図10の(a)に示したスペクトルを持つ所望OFDM信号を、図5の(a)〜(g)に示した周波数領域上での一連のデジタル信号処理と同様の考え方に基づいて、異なる周波数成分に分けて、以下の信号処理を行う。図5の(a)〜(d)と同様に、所望信号をAで示した低周波数信号と、Bで示した高周波信号(正周波数成分)およびCで示した高周波信号(負周波数成分)とに分離する。さらに、Bの信号成分とCの信号成分を、それぞれ縦軸方向に振幅をr倍し、Cの信号成分を+fc、Bの信号成分を−fcだけそれぞれ横軸方向に水平シフトしてAの信号成分に重ねる一連の操作を行う。但し本実施形態では、デジタル領域で生成をした所望信号からLPF等を用いて各信号成分を切り出すのではなく、信号生成の段階において周波数領域で上述の振幅変更・周波数シフト操作を行う。すなわち、図10の(a)に示したように0〜p番目のサブチャネル信号を信号成分Aとして、p+1〜M−1番目のサブチャネル信号の正周波成分を信号成分Bとして、負周波数成分を信号成分Cとして、それぞれ取り扱い、OFDM信号の生成段階において周波数領域で信号成分Bおよび信号成分Cをシフトして信号成分Aに重ねる。以下、OFDM信号の生成時の操作をより詳細に説明する。
図10の(b)は、OFDM信号の高周波信号である信号成分Bおよび信号成分Cを折返した後の第1のスペクトルを示し、この状態は図5の(c)に示したスペクトルの状態に対応する。図10の(b)のスペクトルを生成するには、OFDM信号の生成段階で予め所望信号のOFDM信号のp+1番目からM−1番目までのサブシンボル値をr倍して複素共役を取り、これをp−1番目から2p−M+1番目までのサブシンボル値に加算してからIDFT演算を行えば良い。図10の(c)は、OFDM信号の高周波信号である信号成分Bおよび信号成分Cを折返した後の第2のスペクトルを示し、この状態は図5の(d)に示したスペクトルの状態に対応する。図10の(c)のスペクトルを生成するには、上述の図10の(b)に示した信号の生成手順において加算を減算に置き換えれば良い。振幅変更のための係数rの値の設定については第1の実施形態と同様である。図10の(b)および(c)に示されたスペクトルを持つ信号の上限周波数は、ほぼfc/2+Δf/2である。サブキャリア周波数間隔Δfを十分小さくとれば、出力帯域がfc/2程度のDACであっても、充分生成できる波形となっている。
図10の(b)の第1のスペクトルを持つ信号および図10の(c)の第2のスペクトルを持つ信号が、DAC121、122からそれぞれ出力されれば、図5の(e)〜(g)に示したスペクトル操作と同様の原理により、アナログマルチプレクサ131の出力として図10の(d)に示したスペクトルの信号が得られる。図5の(g)に示したスペクトルと同様、f<−fcおよびfc<fの周波数領域においてそれぞれ不要な信号成分Bおよび信号成分Cが残る。これら不要信号成分は周波数fc 付近にカットオフ周波数を有するローパスフィルタを用いれば簡単に除去できる。場合によってはアナログマルチプレクサの出力側回路もしくは伝送路上で、または、本発明の信号生成装置に対応する受信装置側で自然に除去される。このようにDAC121、122の出力帯域がfc /2程度であっても、本実施形態の信号生成装置では、最終的なアナログマルチプレクサ131の出力信号として上限周波数がfc /2より十分大きい(但しfc よりは小さい)任意のOFDM信号を得ることができる。図10で説明した、OFDM信号生成の一連の処理例は、DMT信号などのマルチキャリア信号にも適用できる。
図10とともに説明した上述のマルチキャリア信号に対する周波数領域上の一連の処理を式によって表すと、以下の通りとなる。まず、所望信号の時間波形s
trg(t)およびスペクトルS
trg(f)は、非本質的なスケーリングファクタを省略すると、次式で表すことができる。
但しC
m (f)は、c
m (t)のフーリエ変換を示す。理想的にはc
m (t)のパルス波形は時間幅1/Δfの矩形パルスであり、この場合C
m (f)の包絡線は周波数軸上でΔfの整数倍にnull点を有するsinc関数となる。図10の(a)における低周波数信号である信号成分AのスペクトルS
A(f)、高周波数信号である信号成分BのスペクトルS
B(f)および信号成分CのスペクトルS
C(f)は、それぞれ次式で表される。
また、図10の(b)に示したDAC121の出力アナログ信号のスペクトルS
1(f)および(c)に示したDAC122の出力アナログ信号のスペクトルS
2(f)は以下の通りとなる。
式(15)を参照すれば、結局SA(f)、SB(f)、SC(f)、S1(f)およびS2(f)のスペクトルの間には、第1の実施形態で説明した式(1)と同様の関係が成り立っていることがわかる。従って、アナログマルチプレクサ131の出力信号のスペクトルSout(f)は式(3)と同じ形となり、本実施形態の信号生成装置においても第1の実施形態と同等の信号処理が行われ、同様の効果が得られることがわかる。すなわち、本実施形態の信号生成装置では、単体のDAC121、122の出力帯域を越えてより広帯域なマルチキャリア信号出力を実現することができる。
再び図11を参照して、本実施形態の信号生成装置におけるデジタル信号処理部1110の信号処理のフローを説明する。図11のデジタル信号処理部1110は、機能ブロック図として表現されているが、デジタル信号処理部1110の各機能は例えばDSPを用いた演算処理で実行できるので、実質的に矢印の向きに実行される演算フローを示していると見ることもできる。もちろん、各ブロックの処理の少なくとも一部をハードウェア処理で実現することも、また、ハードウェア処理および演算処理を組み合わせても実現することできる。以下、信号の流れに沿って、デジタル信号処理部1110の各機能の処理を順に説明する。
デジタル信号処理部1110の信号処理は、基本的にシンボル時間毎のブロック処理となる。ここでは簡単のため、あるシンボル時間に対する処理のみに着目し、当該シンボル時間に対するサブシンボル値を単にcm と表す。OFDM信号によって送信する情報データである入力データ1101は、S/P変換部1111でサブチャネルに分けられ、さらにシンボルマッピング部1121で各周波数サブキャリアに対するサブシンボル値c0 〜cM−1に変換される。サブシンボル値の生成までは、非特許文献3などに示された通常のOFDM信号の生成手順と同様である。
次に、複素共役変換部1131において、図10の(a)に示した信号成分Bおよび信号成分Cに相当するサブシンボル値c
p+1 〜c
M−1 をr倍して複素共役を取る。その後、サブシンボル値c
0 〜c
p およびrc
p+1* 〜rc
M−1* はそれぞれ2分岐され、それぞれ一方は加算部1141へ、他方は減算部1142へと送られる。加算部1141および減算部1142においては、中間サブシンボル値g
0〜g
pおよびh
0〜h
pがそれぞれ次式によって求められる。
続いてIDFT演算部1151、1152において、式(16)で求められた中間サブシンボル値g
0〜g
pおよびh
0〜h
pで、周波数0〜pΔf(=f
c/2)の範囲内の各サブキャリアを変調したマルチキャリア信号の時間領域信号に対応するデジタル信号が生成される。このとき、本実施形態における第1のDAC121および第2のDAC122のサンプリングレートをf
s=1/T
sとすると、サンプリング定理より、f
c/2<f
s/2とする必要がある。ここでは、f
s(DACサンプリングレート)、f
c(アナログマルチプレクサクロック周波数)、Δf(サブキャリア間隔)を、次式のようにf
s/2−f
c/2がちょうどΔfの整数倍となる関係に設定する。
式(17)において、Nはpより大きい自然数である。周波数f
c/2〜f
s/2の領域はガードバンドとするため、中間サブシンボル値g
nおよびh
nを次式のように定義する。
IDFT演算部1151、1152から出力される時間領域信号は実数信号であるため、中間サブシンボル値g
nおよびh
nはさらに次式となる。
上述の式(16)、式(18)、式(19)により得られる中間サブシンボル値g
0〜g
2N−1およびh
0〜h
2N−1をそれぞれIDFT演算部1151、1152への入力とする。但し、図11では簡単のためIDFT演算部1151、1152への入力としてg
0〜g
N−1およびh
0〜h
N−1のみを図示し、g
N〜g
2N−1およびh
N〜h
2N−1については省略している。式(18)および式(19)に示したようなガードバンド挿入(オーバーサンプリング)および実数出力を得るための処理は、非特許文献3にも示される通り、ベースバンドOFDM信号生成において一般的に用いられる処理である。非本質的なスケーリングファクタを省略すれば、IDFT演算部1151、1152からの出力u
0〜u
2N−1およびv
0〜v
2N−1は、それぞれ、次式で表わされる。
IDFT演算部1151、1152からの出力はそれぞれP/S変換部1161、1162においてシリアル信号に変換される。ここで、式(20)に式(16)および式(17)を代入し、シグマ演算のインデックスを少し書き換えると、IDFT演算部1151からの出力u
k およびIDFT演算部1152からの出力v
k は、それぞれ次式となる。
一方で式(15)に示したS
1(f)およびS
2(f)を逆フーリエ変換して、DAC121からのアナログ出力信号の時間波形S
1(t)およびDAC122からのアナログ出力信号の時間波形S
2(t)を表すと、次式となる。
従って、IDFT演算部1151、1152からの出力uk およびvk は、あるシンボル時間内(長さ1/Δf)でcm (t)が一定値cmを取るとした場合(すなわちパルス波形が理想的な矩形パルスである場合)において、s1(t)およびs2(t)をサンプリングレートfs=1/Tsでサンプリングした波形になっていることがわかる。実際には、DAC121、122の出力応答特性やその後の伝送路特性(帯域特性、分散等)のためにパルス波形は理想的な矩形パルスとはならず、ブロック間干渉が生じる。しかしながら、OFDMで一般に用いられているようにCP等のガードインターバルを挿入しておくことによって、ブロック間干渉は受信側で除去できる。本実施形態においても、P/S変換部1161、1162においてCP付加を行うことが望ましい。
したがって、本発明の信号生成装置の別の構成例では、前記所望の信号は、直交周波数分割多重(OFDM)信号および離散マルチトーン(DMT)信号等の、複数の周波数サブキャリア信号で構成されたマルチキャリア信号であって、前記デジタル信号処理部1110は、送信情報データを並列に分岐する、シリアル/パラレル変換手段1111と、前記分岐されたデータをシンボルマッピングし、前記複数のサブキャリアの各々に載せる複数のサブシンボルからなるサブシンボル列を生成するシンボルマップ手段1121と、前記正周波数成分および前記負周波数成分に対応する前記複数のサブシンボルの一部のサブシンボルに対し、前記周波数軸上のシフトを行うことで、前記低周波数信号に対応する周波数帯域に折り返したサブシンボルを生成する手段1131と、前記低周波数信号に対応するサブシンボルおよび前記折り返したサブシンボルに前記定数を乗じたサブシンボルを加算または減算して、中間サブシンボル列を得る手段1141、1142と、前記中間サブシンボル列を逆離散フーリエ変換(IDFT)するIDFT演算手段1151、1152と、前記IDFT演算手段からの出力データ列を直列に並べるパラレル/シリアル変換手段1161、1162とを含むものとして実施できる。
P/S変換部1161、1162からの出力信号は、第1の実施形態と同様に、補償部1181、1182において、DAC121、122が本来的に持っている周波数応答特性がそれぞれ補償される。補償部1171、1172からの出力デジタル信号は、本実施形態の信号生成装置におけるデジタル信号処理部1110出力として、DAC121、122へ供給される。DAC121からの出力アナログ信号として、図10の(b)のスペクトルを持ち、式(15)において第1の信号S1(f)として示される信号が得られる。同様に、DAC122からの出力アナログ信号として、図10の(c)のスペクトルを持ち、式(15)において第2の信号S2(f)として示される信号が得られる。
尚、本実施形態の信号生成装置においては、低周波数信号(図10における信号成分A)のサブキャリアの最大周波数pΔfをf
c /2と一致させたが、pΔfをf
c /2に対してΔf/2の整数倍だけずらしても、図10に示した本実施形態のデジタル信号処理部の動作原理は成り立つ。具体的には、例えばqを2pより小さい整数として、pΔfおよびqが次式の関係を満たすものとする。
この場合でも、高周波数信号(図10における信号成分Bおよび信号成分C)のサブキャリア周波数mΔf(但しmはpより大きい整数)をf
c /2を中心に折返した先のサブキャリア周波数は、次式によって表される。
式(24)を参照すれば、折返した先のサブキャリア周波数はΔfの整数倍となるので、折返した先のサブキャリア周波数は低周波数信号のいずれかのサブキャリア周波数と一致する。式(23)の条件を用いる場合には、式(15)および式(21)において2p−mを2p−q−mに置き換え、式(16)において2p−nを2p−q−nに置き換えれば良い。このとき低周波数信号の上限周波数は、ほぼfc /2+(q+1)Δf/2、折返した高周波数信号の上限周波数は、ほぼfc /2−(q+1)Δf/2となり、|(q+1)Δf/2|がfc /2に対し十分小さければ、出力帯域がfc /2のDAC121、122であっても、十分に取扱可能である。
上述の本実施形態の信号生成装置では所望信号としてOFDM信号を例としたので、各サブチャネルにおいて用いるコンスタレーションは同一のものとした。所望信号としてDMT信号を生成する場合は、シンボルマッピング部1121においてサブチャネル毎に信号点配置および強度(レベル)が最適化されたコンスタレーションを用いる。このためDMT信号を生成する場合は、出力信号のスペクトルも図10の各図に示したような各サブキャリアの縦軸のレベルが平坦なものではなく、サブキャリア(サブチャネル)毎にピーク強度が異なるようなスペクトルとなる。このような場合であっても、図10の(a)〜(d)に示したスペクトル操作を実現することが可能であって、本発明の信号生成装置の特徴はOFDM信号生成の場合と全く同様に得られる。さらに、OFDM信号を生成する場合においても、アナログマルチプレクサ131の出力応答特性を補償するために、シンボルマッピング部1121において高周波数側のサブキャリア強度を強調する等の予等化処理を施すことができる。
また、非特許文献5に示されたDFTスプレッドOFDMのように、シンボルマッピング部の後段にDFT処理を挿入して生成するようなマルチキャリア信号も、本実施形態のデジタル信号処理部を一部改変すれば生成可能である。具体的には、図11に示した本実施形態のデジタル信号処理部1110においてシンボルマッピング部1121の後段にDFTスプレッド処理ブロックを新たに挿入すれば良い。本実施形態の信号生成装置では、IDFT処理を用いるマルチキャリア信号生成において、通常の信号生成における処理フローを出発点として、IDFT演算部に入力されることになる複素シンボルのうち、高周波数成分にあたるサブキャリアに対して、複素共役変換部1131で本発明に特有の追加処理を行う。すなわち、図5の(c)および(d)、図10の(b)および(c)のスペクトル操作(振幅をr倍し、周波数軸上での水平シフト)が追加される。さらに、図11のIDFT演算部1151、1152以降の各ブロックに示した通り、IDFT演算以降の処理を2つの信号ルートに分ける。一方の信号ルートのIDFT演算部の前段側に加算部1141を、他方の信号ルートのIDFT演算部の前段側に減算部1142を配置し、式(16)〜(21)に示した2つのDACのためのデジタル信号入力を生成する一連の処理を行う。
上述のように、本実施形態の信号生成装置では、マルチキャリア信号を生成するために、マルチキャリア信号生成過程の処理を本発明のデジタル信号処理部の機能に含めることで、より効率的にマルチキャリア信号を生成することができる。マルチキャリア信号生成過程そのものを上述のように改変した処理が、本発明の先行する実施形態の信号生成装置の基本的なデジタル信号処理部の処理の中に組み入れられている。
本実施形態の信号生成装置でも、2つのDAC121、122が、図10の(b)に示したスペクトルを持つ第1の信号および図10の(c)に示したスペクトルを持つ第2の信号を、出力アナログ信号としてアナログマルチプレクサへ131出力するように、デジタル信号処理部1110を動作させるところに本発明の特徴がある。すなわち、デジタル信号処理部1110が、式(22)において第1の信号S1(f)および第2の信号S2(f)として示した信号を出力させるデジタル信号を2つのDACへ供給することで、本発明に特有の次の効果が発揮される。
すなわち、デジタル信号処理部1110におけるマルチキャリア信号生成過程の処理を含んだ本発明に特有の信号処理によって、2つのDACおよびアナログマルチプレクサから構成される信号生成装置において、単体のDACの出力帯域と比べてより広帯域なマルチキャリア信号を出力することが可能となる。また、図1に示した信号生成装置の全体構成から明らかなように、DAC121、122の各出力点からアナログマルチプレクサ131の出力までは、電気信号の進行方向に沿って2つの信号経路を見た場合、進行方向を仮想的な中心軸として対称な構成となっている。したがって、DACの振幅および遅延の調整は最低限度のもので済む。
また、所望の送信信号がマルチキャリア信号であれば、図8に示した信号生成装置800におけるデジタル信号処理部810や図9に示した信号生成装置900a〜900dにおけるデジタル信号処理部910a〜910dを、本実施形態で用いたデジタル信号処理部1110に置き換えて用いることもできる。
[第5の実施形態]
図12は、本発明の第5の実施形態に係る信号生成装置の構成を模式的に示した図である。本実施形態では、3段ネスト(入れ子)型構成の信号生成装置の例を示すが、任意の段数のN段(Nは自然数)ネスト型構成にも拡張可能である。
図12の信号生成装置1200−1は、図8に示した信号生成装置800において、DAC821、822をそれぞれ信号生成装置1200−2−1、1200−2−2で置き換えた構成となっている(第1の置き換え操作)。さらに信号生成装置1200−2−1は、図8に示した信号生成装置800において、DAC821、822をそれぞれ図8に示した信号生成装置800自体と同等の構成を有する信号生成装置1200−3−1、1200−3−2で置き換えた構成となっている(第2の置き換え操作)。信号生成装置1200−2−2についても同様である。信号生成装置1200−1は外側から数えて1段目に位置する信号生成装置であり、信号生成装置1200−2−1、1200−2−2はそれぞれ外側から数えて2段目に位置する信号生成装置であり、信号生成装置1200−3−1〜1200−3−4はそれぞれ外側から数えて3段目に位置する信号生成装置となっている。したがって、図12の信号生成装置1200−1は、信号生成装置の中に別の信号生成装置が入れ子状に構成されたネスト型の構成を持つことがわかる。
前述のように、図8に示した第2の実施形態の信号生成装置800は、アナログマルチプレクサ831の後段にLPF861を配置して、不要スペクトルを除去する構成を持つ。アナログマルチプレクサ831の出力信号から図5の(g)に示した|f|>fcに現れる信号成分Bおよび信号成分Cに相当する成分を除去することで、出力信号802として図5の(a)に相当する所望信号そのものを得る構成となっている。アナログマルチプレクサ831の出力特性が、周波数fcを超える信号成分を十分抑圧するような特性を有している場合は、LPF861を省略しても良い。
信号生成装置800では、入力信号801としてデジタル信号を受け入れ、出力信号802として所望のアナログ信号を出力するので、信号生成装置800自体がDAC121、122よりも出力帯域が広い1個の広帯域DACとして機能する。この点に着目すれば、信号生成装置800に含まれるDAC121、122を信号生成装置800自体で置き換えて2段ネスト型構成とし、アナログマルチプレクサ831として充分広帯域なものを用いれば、元の信号生成装置800よりさらに広帯域な信号生成装置を構成可能であることがわかる。本実施形態に示す多段ネスト型構成は、このような考えに基づき考案された。
本実施形態の多段ネスト型構成の信号生成装置において、各段の信号生成装置が満たすべき条件を以下で説明する。まず、各信号生成装置は、当然ながらその出力信号の上限周波数以上の出力帯域を有している必要がある。さらに、前述のように各信号生成装置におけるアナログマルチプレクサの駆動クロック周波数は、所望出力信号の上限周波数より大きくなければならない。以下では、外側からn段目に位置する信号生成装置におけるアナログマルチプレクサ1231−nの駆動クロック周波数をfc,nとする。
まず、信号生成装置1200−1のデジタル信号処理部1210−1においては、図5に示した一連の信号処理と同様、所望信号をfc,1/2を境に低周波数信号および高周波数信号に分離し、高周波数信号を折返し信号に変換して、さらに低周波数信号との和および差を取ることで第1の信号および第2の信号を得る。ここで得られた第1および第2の信号が、2段目の信号生成装置1200−2−1、1200−2−1への入力信号1201−2−1、1201−2−2となる。このとき、入力信号1201−2−1、1201−2−2の上限周波数はfc,1/2を少し上回る程度であり、これが2段目の信号生成装置1200−2−1、1200−2−2における所望出力信号の上限周波数となるので、fc,1/2<fc,2でなければならない。
2段目の信号生成装置1200−2−1におけるデジタル信号処理部1210−2−1では、入力信号1201−2−1をfc,2/2を境に低周波数信号および高周波数信号に分離し、高周波数信号を折返し信号に変換して、さらに低周波数信号との和および差を取ることで、上限周波数がfc,2/を少し上回る程度の2段目の第1の信号および第2の信号を得る。この処理により得られる2段目の第1の信号および第2の信号の上限周波数は、入力信号1201−2−1の上限周波数fc,1/2より小さくなければ、信号処理を行うメリットが無いので、fc,2<fc,1となる。
2段目の信号生成装置内のデジタル信号処理部1210−2−1で得られた第1の信号および第2の信号はそれぞれ3段目の信号生成装置1200−3−1、1200−3−2への入力信号1201−3−1、1201−3−2となり、同様の処理により上限周波数がfc,3/2程度の第1の信号および第2の信号が生成され、DACへと入力される。ここで、上記fc,1とfc,2の関係と同様、fc,2/2<fc,3<fc,2の関係となる。このため3段目の信号生成装置1200−3−1〜1200−3−4に含まれるDACの出力帯域は、fc,3/2程度で良い。一方で最終的な出力信号1202−1として設定し得る所望信号の上限周波数は、fc,1未満であれば良い。したがって、例えば所望信号として上限周波数がfc,1を少し下回る程度の信号を設定し、fc,2をfc,1/2を少し上回る程度に、fc,3をfc,2/2を少し上回る程度にそれぞれ設定すれば、DAC出力帯域は所望信号の1/4を少し上回る程度で良く、DACの出力帯域に比べて充分に広帯域な所望信号を出力できることがわかる。但し、各段のそれぞれのアナログマルチプレクサの出力帯域は自身の駆動クロック周波数程度かそれ以上でなければならない。
本実施形態の信号生成装置およびこれをさらに多段に拡張した構成は、前述の第2の実施形態および第3の実施形態で示したような光送信器に組込むことができる。また、第4の実施形態のように、マルチキャリア信号生成処理に帯域分離および折返し処理を組み込むことも可能である。さらには、図12では説明の便宜上デジタル信号処理部1210−1、1210−2−1、1210−2−2、1210−3−1〜1210−3−4をブロック毎に分けて描いたが、実際には1つの信号処理回路に一体的に組み込んでも良い。
[第6の実施形態]
本発明の第6の実施形態に係る信号生成装置の全体構成は、図1に示した第1の実施形態の信号生成装置100と同じであるが、後述することになる図14に示すように、波形合成動作の詳細の点で、図5に示した第1の実施形態の信号生成装置の動作と相違する。この波形合成動作の相違点に関連して、後述することになる図16の機能ブロック図に示すように、図6の第1の実施形態とは異なるデジタル信号処理部1610を備えている。
本実施形態の信号生成装置と第1の実施形態との間の主要な相違点は、以下の2点である。第1に、アナログマルチプレクサの駆動クロック周波数と最終的に出力できる信号の上限周波数との関係が相違する。第1の実施形態の信号生成装置は、周波数fcで駆動されるアナログマルチプレクサと出力帯域fc/2程度のDACを用いて上限周波数fc程度の任意信号を生成するものであった。これに対して本実施形態の信号生成装置は、周波数fc/2で駆動されるアナログマルチプレクサと出力帯域fc/2程度のDACを用いて上限周波数fc程度の任意信号を生成する。例えば出力帯域25GHz程度のDACを用いて上限周波数50GHz程度の信号を得たい場合、第1の実施形態ではアナログマルチプレクサの駆動クロック周波数を50GHzとする必要があったのに対し、本実施形態ではアナログマルチプレクサの駆動クロック周波数は25GHz程度で済む。本実施形態では、クロック源の動作周波数およびアナログマルチプレクサの切替応答速度に対する要求を緩和することができる信号生成装置が開示される。
第2に、第1の実施形態では所望信号の上限周波数を超える高周波数域に不要な成分が生じていたが、本実施形態ではこれに相当する不要成分を大幅に抑制できるという点で相違する。以下、詳細に本実施形態の信号生成装置の構成および動作について説明する。
図14は、本発明の第6の実施形態に係る信号生成装置における波形合成動作を周波数領域で模式的に表した図である。以下では、図5に示した第1の実施形態に係る信号生成装置における波形合成動作と相違する点を中心に説明する。
まず本実施形態では、第1の実施形態と同様、図14の(a)に示した所望信号を、図14の(b)に示したように低周波数信号A、高周波数域の正周波数信号B、および、高周波数域の負周波数信号Cに分離する。次に、これらの低周波数信号A、正周波数信号B、負周波数信号Cの信号成分を使って図14の(c)および(d)にそれぞれ示したような第3の信号および第4の信号を得る。第3の信号および第4の信号の生成手順を説明するにあたり、本実施形態における「折り返し信号」および「平行移動信号」を以下のように定義する。
本実施形態における「折り返し信号」とは、第1の実施形態で用いたものと同様、周波数軸上で負周波数信号Cの信号成分を+fc、正周波数信号Bの信号成分を−fcだけそれぞれ水平シフトして得られる信号である。
一方、本実施形態における「平行移動信号」とは、周波数軸上で負周波数信号Cの信号成分を+fc/2、正周波数信号Bの信号成分を−fc/2だけそれぞれ水平シフトして得られる信号である。
図14の(c)に示した第3の信号は、低周波数信号Aの信号成分から上述の折り返し信号を減算し、上述の平行移動信号をr倍したものを加算することで得られる。折り返し信号の減算および平行移動信号の加算の順序は問わない。また、図14の(d)に示した第4の信号は、Aの信号成分から上述の折り返し信号を減算し、上述の平行移動信号をr倍したものを減算することで得られる。折り返し信号の減算および平行移動信号の減算の順序は問わない。
定数rの値の設定は、第1の実施形態と同様、アナログマルチプレクサ131におけるスイッチの切換え遷移特性、すなわち図2Aのモデルにおけるパルス列の波形に応じて設定し、通常はπ/2<r<2の範囲で設定される。なお、平行移動信号を生成するための水平シフトの操作、および、上述の加減算におけるr倍の操作の順序も問わない。
図14の(c)に示した第3の信号および図14の(d)示した第4の信号の各スペクトルの電力は、共にほぼ|f|<fc/2の周波数範囲内に収まっている。したがって、第3の信号および第4の信号のいずれも、出力帯域がfc/2程度のDACであっても充分に生成される。
図14の(c)および図14の(d)にそれぞれ示したスペクトルを持つアナログ信号が、DAC121、122からアナログマルチプレクサ131へ、第1の入力信号および第2の入力信号として供給される。このとき、図2Aのモデルにおいて入力信号201、202にパルス列203a、203bを乗算したときの、図4の(b)および(d)の各スペクトルを参照すれば、アナログマルチプレクサ131からの第1の入力信号および第2の入力信号に対応する出力信号は、それぞれ、図14の(e)および(f)に示したスペクトルとなる。
図14の(e)に示した信号において、|f|<fc/2の低周波数領域に着目すると、直流成分に重畳された折り返し信号−Cおよび−Bと、周波数±fc/2に重畳された平行移動信号CおよびBは、それぞれ、互いに逆相となっている。図14の(f)に示した信号においても同様に、|f|<fc/2程度の低周波数領域においては、直流成分に重畳された折り返し信号−Cおよび−Bと、周波数±fc/2に重畳された平行移動信号CおよびBは、互いに逆相となっている。
さらに図14の(e)および(f)に示した各スペクトルの信号間において、直流成分に重畳された信号については、低周波数信号Aが互いに同相、rCおよびrBと表示された平行移動信号は互いに逆相となっている。周波数±fc/2に重畳された信号については、A/rと表示された低周波数信号が互いに逆相、C/rおよびB/rと表示された折り返し信号もそれぞれ互いに逆相、CおよびBと表示された平行移動信号はそれぞれ互いに同相となっている。
各信号の上述の位相関係から、アナログマルチプレクサ131から出力される信号は、図14の(g)に示したようなスペクトルを持つ信号となる。すなわち、|f|<fc/2の低周波数領域においては、直流成分に重畳された折り返し信号−Cおよび−Bはそれぞれ周波数±fc/2に重畳された平行移動信号CおよびBと打ち消し合う。また、直流成分に重畳された平行移動信号rCおよびrBは、図14の(e)および(f)に示した信号間で互いに打ち消し合う。さらに、±fc/2に重畳された折り返し信号C/rおよびB/rも、図14の(e)および(f)に示した信号間で互いに打ち消し合う。したがって、同相となっていた低周波数信号成分Aだけが残る。
一方、|f|>fc/2程度の高周波数領域においては、±fc/2に重畳された低周波成分A/rが、図14の(e)および(f)に示した信号間で互いに打ち消し合う。さらに、±fc/2に重畳された折り返し信号C/rおよびB/rも、図14の(e)および(f)に示した信号間で互いに打ち消し合う。したがって、同相となっていた平行移動信号に由来する信号成分CおよびBだけが残る。結果として、|f|<fcの周波数範囲において図14の(a)および(b)に示した所望の信号が得られる。
本実施形態の信号生成装置においては、上述のように1次のクロック成分(±fc/2)のみを考慮した場合、第1の実施形態の場合と異なり、所望信号の上限、周波数を超える周波数範囲で不要な信号成分が発生しない。実際には、図15に示すように、3次のクロック成分(±3fc/2)に起因する不要成分が|f|>fcに発生する。しかしながら、次に述べるように、3次のクロック成分に起因した不要成分の強度は、第1の実施形態の信号生成装置において|f|>fcに生じていた不要成分と比べると十分に小さい。
図15は、本発明の第6の実施形態に係る信号生成装置の出力信号において生じる不要成分を周波数領域で模式的に表した図である。第1の実施形態において|f|>fcに生じていた不要成分は、1次のクロック成分に重畳された信号の残留成分であるため、原理的に|f|<fcに生成される所望信号の正周波数信号Bおよび負周波数信号Cと同程度の強度を有していた。しかし、図15に示したような本実施形態における|f|>fcの不要成分は、3次のクロック成分に重畳された信号の残留成分である。このため、図3Aおよび図3Bにおける1次の成分(±fc/2)と3次の成分(±3fc/2)の強度比分だけ、所望信号より小さくなる。具体的には、図3Aおよび図3Bに示したスペクトルにおいて、DC成分の振幅を1、1次の成分の振幅を1/r、3次の成分の振幅を1/r3とする。このとき、図2Bのモデルにおいて、各入力信号に乗算されるパルス列の波形が完全な矩形波としても、1/r=2/π、1/r3=2/(3π)である。このため所望信号成分と不要成分との振幅比は3:1、強度比は9:1となる。パルス列時間波形のなまりが大きく、パルス列が自乗余弦波で近似できるような波形の場合は、1/r3はほぼ0となるため、不要成分はほぼ消滅する。実際の装置においてはパルス列の波形は完全な矩形波と自乗余弦波の中間的な波形とみなせるため、強度比はほぼ9:1以上となる。
このように、本実施形態の信号生成装置において不要成分の強度が大幅に抑制されることは、第1の実施形態に比べて、以下の点でメリットとなる。まず、アナログマルチプレクサ131の出力におけるピーク対平均信号電力比を抑制できるため、アナログマルチプレクサ131の出力側伝送路の線形性に対する要求を緩和することができる。また、アナログマルチプレクサ131の出力側にローパスフィルタを用いることなく不要成分を大幅に抑制できるため、装置構成をより簡易にできる。不要成分の抑圧比をさらに向上するために、周波数fc付近にカットオフ周波数を有するローパスフィルタを用いても良いが、その場合でも第1の実施形態に比べ、ローパスフィルタの抑圧比に対する要求を緩和することができる。
図14の(a)から(g)までの一連のスペクトル操作を参照すれば、DAC121、122から出力すべき信号のスペクトルは(c)および(d)となる。したがって、DAC121、122の出力帯域がfc/2程度であっても、本発明の信号生成装置の最終的な出力信号102として図14の(a)および(g)に示したような、上限周波数がfc/2より十分に大きい(但しfcよりは小さい)任意の所望信号を得ることができる。
本実施形態の信号生成装置における図14の(a)から(g)までのスペクトル操作の過程を数式で示すと、以下の通りとなる。高周波数域の不要成分も含めて記述するため、パルス列については3次成分まで考慮する。図14の(a)に示した所望信号のスペクトルをS
trg(f)、図14の(b)における信号成分A、信号成分Bおよび信号成分Cを、それぞれS
A(f)、S
B(f)およびS
C(f)とする。さらに、アナログマルチプレクサへの第1の入力信号および第2の入力信号にそれぞれ乗じられるパルス列のスペクトルを、P
1(f)およびP
2(f)とする。ここで、図14の(c)に示した第1のDAC121の出力アナログ信号のスペクトルS
3(f)、図14の(d)に示した第2のDAC122の出力アナログ信号のスペクトルS
4(f)は、それぞれ次式となる。
式(25)のように、アナログマルチプレクサ131の出力信号Sout(f)は、所望信号Strg(f)に対して、振幅がr/r3倍であるような不要成分を加えた信号となっており、図15に示した信号と一致することがわかる。
なお、上述の数式を用いた説明においては非本質的なスケーリングファクタは省略している。本実施形態の信号発生装置の実際の回路動作を記述するためには、例えばアナログマルチプレクサ131の損失またはゲイン(増幅回路が含まれる場合)に対応する定数を式(25)の右辺に乗じる必要がある。
図16は、本発明の第6の実施形態に係る信号生成装置におけるデジタル信号処理部の構成およびフローを説明するブロック図である。図16のデジタル信号処理部1610は、図1の信号発生装置におけるデジタル信号処理部110に対応する。上述のように、本実施形態の信号生成装置においてデジタル信号処理部1610が果たす役割は、2つのDAC121、122からの各出力アナログ信号が図14の(c)および(d)に示したスペクトルを持つ信号となるようなデジタル信号を生成し、図1のDAC121、122にそれぞれ供給することにある。そのために、所望信号に基づいて、図14の(c)および(d)に相当する信号をデジタル領域で生成するとともに、DAC121、122が持っている出力特性の周波数依存性があれば、これを補償する処理も合わせて行えば良い。
図16のデジタル信号処理部1610は、機能ブロック図として表現されているが、デジタル信号処理部1610の各ブロックの機能は例えばDSPを用いた演算処理でも実行できる。したがって、図16は実質的に矢印の向きに実行される演算フローを示していると見ることもできる。もちろん、各ブロックの処理の一部をハードウェア処理で実現することも、また、ハードウェア処理および演算処理を組み合わせても実現することできる。以下、信号の流れに沿って、デジタル信号処理部1610の各機能の処理を順に説明する。
本発明の信号生成装置の入力信号101としては、図6に示した第1の実施形態と同様、所望信号をサンプリングレートfs0でサンプリングしたデジタル信号を用いる。第1の実施形態と同様、入力信号101としては、所望信号をサンプリングした信号に対しアナログマルチプレクサ131の応答特性を予め補償する処理をさらに施したデジタル信号を用いても良い。
図16の帯域分割部1611は、図6に示した第1の実施形態における帯域分割部661と同等であり、LPFと減算器またはHPF等を用いて構成することができる。図16の帯域分割部1611から出力された高周波数信号1662は二手に分岐され、それぞれ折り返し部1621および平行移動部1622へと送られる。
図16の折返し部1621における処理は、定数r倍の操作を行わない点を除いては、図6に示した第1の実施形態における折返し部621における処理と同等である。具体的にはヒルベルト変換や余弦波の乗算とフィルタ処理の組み合わせ等を用いて実現できる。折返し部1621からは、折返し信号1663が出力される。
図16の平行移動部1622においては、周波数領域において高周波数信号1662の正周波数成分を−fc /2、負周波数成分を+fc/2それぞれシフトさせ、さらに振幅をr倍して平行移動信号1664を出力する。この平行移動部1622における演算も、図6に示した第1の実施形態における折返し部の演算と類似しており、例えばヒルベルト変換を用いて正周波数成分および負周波数成分に分割した後、それぞれ−fc/2と+fc/2シフトさせれば良い。また後に詳しく説明する通り、余弦波の乗算およびフィルタ処理の組み合わせを用いても良い。
図16のリサンプル部1631、1632および1633では、低周波数信号1661、折返し信号1663および平行移動信号1664のデジタル信号のサンプリングレートを、それぞれfs0 からfs1 に変換する。ここでfs1はDAC121、122のサンプリングレートであり、DAC121の出力信号S3(f)およびDAC122の出力信号S4(f)の上限周波数の2倍より大きな値とする必要がある。S3(f)およびS4(f)の上限周波数はfc/2を少し上回る程度であり、所望信号Strg(f)の上限周波数より小さいので、一般にfs1<fs0 と考えることができる。但しfs1=fs0 とすることも可能であり、その場合は当然ながらリサンプル部1631、1632を省くことができる。fs1=fs0 とする場合とは、例えばDAC121、122の動作可能なサンプリングレートが同DACの出力帯域fc/2の4倍程度と相対的に大きい場合である。
図16の減算部1643では、リサンプルされた低周波数信号1661からリサンプルされた折返し信号1663が減算される。加算部1641では、減算部1643からの出力信号にリサンプルされた平行移動信号1664が加算され、第3の信号1671が生成される。第3の信号1671は、図14の(c)に示されたすべてのスペクトルの総和、すなわち式(25)におけるS3(f)で示された第3の信号に相当する。減算部1642では、減算部1643からの出力信号からリサンプルされた平行移動信号1664が減算され、第4の信号1672が生成される。第4の信号1672は、図14の(d)に示されたすべてのスペクトルの総和、すなわち式(25)におけるS4(f)で示された第4の信号に相当する。第3の信号1671および第4の信号1672は、この段階ではまだデジタル信号である点に留意されたい。
したがって本発明は、デジタル信号処理部1610と、2つのデジタル−アナログ変換器(DAC)121、122と、前記2つのDACから出力されるアナログ信号を周波数fc/2で交互に切り替えてアナログ信号として出力するアナログマルチプレクサ131とを備え、前記デジタル信号処理部は、上限周波数がfc未満の所望の出力信号のうち周波数の絶対値が概ねfc/2以下の成分からなる信号を低周波数信号(信号成分A)とし、前記所望の出力信号のうち周波数の絶対値が概ねfc/2以上の成分からなる正周波数成分(信号成分B)および負周波数成分(信号成分C)に対して、周波数軸上で前記正周波数成分を−fcシフトした信号、並びに、周波数軸上で前記負周波数成分を+fcシフトした信号を折返し信号とし、周波数軸上で前記正周波数成分を−fc/2シフトした信号、並びに、周波数軸上で前記負周波数成分を+fc/2シフトした信号を平行移動信号としたとき、前記平行移動信号に定数を乗じた信号を前記低周波数信号に加算し、さらに前記折返し信号を減算した信号に等しい第3の信号1671を生成する手段と、前記平行移動信号に前記定数を乗じた信号を前記低周波数信号から減算し、さらに前記折返し信号を減算した信号に等しい第4の信号1672を生成する手段とを含み、前記デジタル信号処理部で生成された前記第3の信号に対応するデジタル信号が、前記2つのDACの一方のDACに入力され、前記デジタル信号処理部で生成された前記第4の信号に対応するデジタル信号が、前記2つのDACの他方のDACに入力されることを特徴とする信号生成装置として実施できる。
最後に、図16の補償部1651、1652においてDAC121、122が本来的に持っている周波数応答特性が補償される。具体的には、補償部として、近似的にDAC121、122の周波数応答特性をキャンセルする逆特性となるような応答特性を有するフィルタを用いれば良い。このような補償処理は予等化とも呼ばれ、DACを用いた高速通信システムにおいて一般的に行われている。補償部1651、1652からの出力デジタル信号が、デジタル信号処理部1610の出力としてDAC121、122へそれぞれ供給される。DAC121の出力からは、アナログ信号として図14の(c)に示したスペクトルを有し、式(25)におけるS3(f)として示される第3の信号が得られる。同様に、DAC122の出力からは、アナログ信号として図14の(d)に示したスペクトルを有し、式(25)におけるS4(f)として示される第4の信号が得られる。DAC121、122の周波数応答特性が第3の信号S3(f)および第4の信号S4(f)の上限周波数までの帯域でほぼフラットである場合は、補償部1651、1652を省くことができる。
図16の平行移動部1622における演算は、ヒルベルト変換を使わずに、余弦波の乗算およびLPFの組み合わせにより実装することもできる。すなわち、入力される高周波数信号1662に対し、時間領域で周波数f
c/2の余弦波を乗算し2r倍した上で、カットオフ周波数f
c/2程度のローパスフィルタを用いれば良い。入力される高周波数信号1662のスペクトルを数式(6)で示したとおりX(f)とし、X(f)に周波数f
c/2の余弦波を乗算して2r倍した信号のスペクトルをY´´(f)とすると、Y´´(f)は次式によって表される。
ここで、式(26)の右辺第2項および第3項が平行移動信号として必要な成分であり、第1項および第4項が不要成分である。
図17Aおよび図17Bは、ヒルベルト変換を使わない場合の平行移動部における演算動作を説明するスペクトル図である。図17Aおよび図17Bのスペクトル図は、第1の実施形態の説明で用いた図7Aおよび図7Bとは異なる。この差異はアナログマルチプレクサ131の駆動周波数が第1の実施形態ではfcであり、本実施形態ではfc/2であることに由来する。
以下では式(26)の右辺3行目の第1項rSB(f−fc/2 −kfs0 )に着目する。式(8)のこの第1項は、図14の(b)の正周波数信号Bの信号成分をr倍し、周波数軸上で+fc/2 シフトしたものがfs0 間隔で繰り返し現れるスペクトルを表している。ここで、正周波数信号Bの信号成分の上限周波数をfMax 、下限周波数をfMinとする。式(26)の第1項のスペクトルは、入力信号101のサンプリングレートfs0 がfs0 >fMax +fc/2の場合は、図17Aに示したように、ナイキスト帯域内すなわち|f|<fs0 /2ではk=0の成分すなわちSB(f−fc/2)のみが現れる。これらの不要成分は、例えばカットオフ周波数fc/2 程度のLPFを用いれば簡単に除去できる。
一方、入力信号101のサンプリングレートfs0 がfs0 <fMax +fc/2の場合は、図17Bに示したようにk=−1の成分すなわちSB(f−fc/2 +fs0 )が負周波数側に現れる。この負周波数側に現れる不要成分の上限周波数は、fMax +fc/2−fs0 となる。一方、必要成分であるSc(f−fc/2 )の下限周波数は−fMax +fc/2 となる。ここで、上記必要成分の下限周波数から上記不要成分の上限周波数を引くと(−fMax +fc/2)−(fMax +fc/2−fs0)=fs0−2fMaxとなるが、サンプリング定理よりfs0>2fMaxであることを考慮すると、上記必要成分の下限周波数は常に上記不要成分の上限周波数より大きい(周波数軸上でゼロに近い)ことがわかる。したがって、この負周波数側に現れる不要成分はカットオフ周波数|−fMax +fc/2|程度のLPFを用いて除去可能である。以上の議論は式(8)の右辺3行目の第4項SC(f+fc −kfs0 )についても同様に成り立つ。すなわち、平行移動部1622における処理としては、周波数fc の余弦波を乗算した後で、適切なLPFによって不要周波数成分を除去すれば良い。
さらに別の実装方法として、図16に示したデジタル信号処理部1610における処理フロー全体は、第1の実施形態と同様、これまで説明してきたような時間領域での処理ではなく、DFT等を用いた周波数領域の処理を用いても実現できる。
以上、デジタル信号処理部1610に各ブロックの処理について、その実装方法の異なる複数のバリエーションを示したが、本実施形態の信号生成装置においても、第1の実施形態と同様、本発明の特徴はデジタル信号処理部1610における具体的な演算処理の実装方法に依らない。本発明は、2つのDAC121、122の出力アナログ信号として、図14の(c)に示したスペクトルを持つ第3の信号、および、図14の(d)に示したスペクトルを持つ第4の信号を、アナログマルチプレクサ131へ出力するように、デジタル信号処理部1610を動作させるところに特徴がある。すなわち、デジタル信号処理部1610が、式(25)における第3の信号S3(f)および第4の信号S4(f)として示した信号を出力させるデジタル信号を2つのDACへそれぞれ供給することで、本発明の特徴および効果が発揮される。本実施形態の信号生成装置の全体構成は図1に示した第1の実施形態と同様、DAC121、122の各出力点からアナログマルチプレクサ131の出力までについて、電気信号の進行方向に沿って2つの信号経路を見た場合、進行方向を仮想的な中心軸として対称な構成となっている。したがって、第1の実施形態の場合と同様に、DACの振幅および遅延などの調整が簡易となる。
さらに、図8に示した信号生成装置800のデジタル信号処理部810や、図9に示した信号生成装置900a〜900dのデジタル信号処理部910a〜910d、図12に示した信号生成装置1200−3−1〜4のデジタル信号処理部1210−3−1〜4を、本実施形態で用いたデジタル信号処理部1610によってそれぞれ置き換えて用いることもできる。その場合は、DAC821、822、921、922の出力帯域を一定とすると、アナログマルチプレクサ131の駆動クロック周波数を、置き換える前の約1/2に設定する必要がある。
[第7の実施形態]
本発明の第7の実施形態に係る信号生成装置は、第4の実施形態として示したマルチキャリア信号生成に適合した信号生成装置に対し、上述の第6の実施形態で用いたアナログマルチプレクサの駆動クロック周波数を半分にする信号生成の原理を適用したものである。したがって、第4の実施形態と本実施形態との間の相違点は、第6の実施形態と第1の実施形態との間の相違点と同様である。すなわち第4の実施形態と比較して、本実施形態に係る信号生成装置は、所与の所望信号に対しアナログマルチプレクサの駆動クロック周波数が半分で済む点と、最終的な出力信号において所望信号の上限周波数を超える高周波数域に現れる不要成分を大幅に抑制できる点が特徴である。以下では、本実施形態と第4の実施形態との間の相違点に絞って説明する。
図18は、本発明の第7の実施形態に係る信号生成装置によってOFDM信号が生成されるまでの処理を周波数領域で模式的に説明する。図18の(a)は、所望信号であるベースバンドOFDM信号のスペクトルを示す。図18の(b)のスペクトルは、第6の実施形態の図14の(c)に示したスペクトルの状態に対応する。図18の(b)のスペクトルを生成するには、OFDM信号の生成段階で予め所望信号のOFDM信号のp+1番目からM−1番目までのサブシンボル値の複素共役を取り、これをp−1番目から2p−M+1番目までのサブシンボル値から減算し、またp+1番目からM−1番目までのサブシンボル値をr倍し、これを1番目から−p+M−1番目までのサブシンボル値に加算し、その後にIDFT演算を行えば良い。
図18の(c)のスペクトルは、第6の実施形態の図14の(d)に示したスペクトルの状態に対応する。図18の(c)のスペクトルを生成するには、OFDM信号の生成段階で予め所望信号のOFDM信号のp+1番目からM−1番目までのサブシンボル値の複素共役を取り、これをp−1番目から2p−M+1番目までのサブシンボル値から減算し、またp+1番目からM−1番目までのサブシンボル値をr倍し、これを1番目からM−p−1番目までのサブシンボル値から減算し、その後にIDFT演算を行えば良い。
図18の(b)の第1のスペクトルを持つ信号および図18の(c)の第2のスペクトルを持つ信号が、DAC121、122からそれぞれ出力されれば、図14の(e)〜(g)に示したスペクトル操作と同様の原理により、アナログマルチプレクサ131の出力として図18の(d)に示したスペクトルの信号が得られる。このように、DAC121、122の出力帯域がfc/2程度であっても、本実施形態の信号生成装置では、アナログマルチプレクサ131からの最終的な出力信号として、上限周波数がfc/2より十分大きい(但しfc よりは小さい)任意のOFDM信号を得ることができる。図18の(a)〜(d)で説明した、OFDM信号生成の一連の処理例は、DMT信号などの他のマルチキャリア信号にも適用できる。
図18の(b)に示した第3のスペクトルおよび(c)に示した第4の信号のスペクトルは、数式(15)と同様の記号を用いて表すと、以下の通りとなる。
式(27)を参照すれば、結局SA(f)、SB(f)、SC(f)、S3(f)およびS4(f)のスペクトルの間には、第6の実施形態で説明した式(25)と同様の関係が成り立っている。式(27)のアナログマルチプレクサ131の出力信号のスペクトルSout(f)は式(25)と同じ形となり、本実施形態の信号生成装置においても第6の実施形態と同等の信号処理が行われていることがわかる。したがって、第6の実施形態の信号生成装置で得られる効果が、本実施形態でもそのまま得られる。すなわち、本実施形態の信号生成装置によって、単体のDAC121、122の出力帯域を越えてより広帯域なマルチキャリア信号出力を実現することができる。このときアナログマルチプレクサの駆動クロック周波数fc/2は所望信号の上限周波数の1/2程度である。また同時に、最終出力信号において所望信号の上限周波数を超えた周波数帯域に現れる不要信号成分を、第4の実施形態の信号生成装置と比べて大幅に抑制することができる。
図19は、本発明の第7の実施形態に係る信号生成装置におけるデジタル信号処理部の構成を示した図である。図19のデジタル信号処理部1910は、図11に示した第4の実施形態の信号発生装置のデジタル信号処理部1110に対応している。以下の説明は、図11に示したデジタル信号処理部1110と、図19のデジタル信号処理部1910との相違点に絞って進める。
まず、シンボルマッピング部1921から出力されるサブシンボル値c
0〜c
M−1の内、信号成分Bおよび信号成分Cに相当するサブシンボル値c
p+1〜c
M−1は、それぞれ2分岐され、それぞれ一方は複素共役変換部1931へ、他方は定数乗算部1932へと送られる。複素共役変換部1931は入力されたサブシンボル値の複素共役をとり、減算部1943へと出力する。減算部1943では、サブシンボル値d
0〜d
pが次式によって求められる。
定数乗算部1932では、入力されたシンボル値をそれぞれr倍する。その後、サブシンボル値d
1〜d
pおよびrc
p+1〜rc
M−1はそれぞれ2分岐され、それぞれ一方は加算部1941へ、他方は減算部1942へと送られる。加算部1941および減算部1942においては、中間サブシンボル値g
0〜g
pおよびh
0〜h
pがそれぞれ次式によって求められる。
加算部1941および減算部1942よりも後の処理は、図11に示した第4の実施形態におけるデジタル信号処理部と同様である。IDFT演算部1951からの出力ukおよびIDFT演算部1952からの出力vkが、式(27)に示したS3(f)およびS4(f)の逆フーリエ変換として得られる時間波形をサンプリングレートfs=1/Tsでサンプリングした波形になっていることは、第4の実施形態の説明の場合と同様にして確認できる。
尚、本実施形態においては低周波数信号(図10における信号成分A)のサブキャリアの最大周波数pΔfをfc/2と一致させたが、第4の実施形態の場合と同様、pΔfをfc/2に対してΔf/2の整数倍だけずらしても、図18に示した本実施形態のデジタル信号処理部の動作原理は成り立つ。
所望信号としてはOFDMの他にDMTやDFTスプレッドOFDM等を用いることができる点、アナログマルチプレクサ131の出力応答特性を補償するためシンボルマッピング部1921において高周波数側のサブキャリア強度を強調する等の予等化処理を施すことができる点等についても、第4の実施形態の信号生成装置の場合と同様である。
また、図8に示した信号生成装置80のデジタル信号処理部810や、図9に示した信号生成装置900a〜900dのデジタル信号処理部910a〜910d、図12に示した信号生成装置1200−3−1〜4のデジタル信号処理部1210−3−1〜4を、本実施形態で用いたデジタル信号処理部1910によって置き換えて用いることもできる。その場合、DAC821、822、921、922の出力帯域を一定とすると、アナログマルチプレクサ131の駆動クロック周波数を、置き換える前の約1/2に設定する必要がある。
[第8の実施形態]
図20は、本発明の第8の実施形態に係る信号生成装置の構成を模式的に示した図である。本実施形態の信号生成装置2000は、デジタル信号処理部2010、2つのDAC2021、2022、アナログ加減算部2041、およびアナログマルチプレクサ2031から構成される。信号生成装置2000への入力信号2001は、デジタル信号処理部2010において本発明に特有のデジタル信号処理が施される。後述する信号処理をされたデジタル信号処理部2010からのデジタルデータ信号は、第1のDAC2021および第2のDAC2022においてそれぞれアナログ信号へ変換される。2つのDACからのアナログ信号出力は、アナログ加減算処理部2041において加減算処理を施される。最後に、アナログ加減算処理部2041からのアナログ信号出力は、アナログマルチプレクサ2031により出力信号2002へと変換される。
本実施形態の信号生成装置は、その全体構成において図1に示した第1の実施形態の信号生成装置と類似しているが、第1の実施形態における低周波数信号および折り返し信号の加減算処理の方法の点で相違している。具体的には、第1の実施形態の信号生成装置では、この加減算処理がデジタル信号処理部110内で行われていたのに対し、本実施形態では、同等の加減算処理がアナログ加減算処理部2041内で行われる。これにより、第1の実施形態の信号生成装置に比べてアナログ部品が増加するか、または、アナログ回路構成が複雑化するデメリットはあるものの、後述するように最終的な出力信号の信号対雑音比(SNR)を改善できるメリットが得られる。
図21Aは、本実施形態の信号生成装置におけるデジタル信号処理部の構成およびフローを説明するブロック図である。図6に示した第1の実施形態のデジタル信号処理部110と、図21Aの本実施形態のデジタル信号処理部2110との間の相違点は、以下の2点のみである。第1に、本実施形態のデジタル信号処理部2110では、図6の加算部641および減算部642に相当する部分が省かれている。したがって、低周波数信号2161をリサンプル部2131でリサンプルした信号が、そのまま第5の信号2171として、補償部2151を経てDAC2021へと出力される。同様に、折り返し信号2163をリサンプル部2132でリサンプルした信号が、そのまま第6の信号2172として、補償部2152を経てDAC2022へと出力される。第2に、本実施形態のデジタル信号処理部2110では、折り返し部2121において定数r倍の処理を行わない。
図21Bは、本発明の第8の実施形態に係る信号生成装置におけるアナログ加減算処理部の構成およびフローを説明するブロック図である。DAC2021、2022からの送られる2系統のアナログ入力信号は、それぞれ、まず振幅調整部2151、2152において、相対振幅が1:r(すなわちr倍)となるように調整される。次に2系統の各信号はそれぞれ2分岐される。分岐光の一方の組については、加算部2141において、振幅調整部2151、2152からの2つの信号が加算される。分岐光の他方の組については、減算部2142において、振幅調整部2151からの信号から振幅調整部2152からの信号が減算される。加算部2141および減算部2142の出力信号は、ともにアナログマルチプレクサ2031へと送られる。
図22は、本発明の第8の実施形態の信号生成装置におけるリサンプル部出力である第5の信号および第6の信号を周波数領域で模式的に表した図である。以下では、本実施形態の図22および第1の実施形態の図5を参照しながら、本実施形態における波形合成動作と第1の実施形態における波形合成動作との相違点に絞って説明する。図5(c)および(d)に示したように第1の実施形態においては、低周波数信号Aに折り返し信号rBおよびrCを同相で重ねて第1の信号を生成する段階まで、および、低周波数信号Aに折り返し信号rBおよびrCを逆相で重ねて第2の信号を生成する段階までを、それぞれすべてデジタル領域で行っていた。
これに対し本実施形態では、図22の(a)に示した低周波数信号Aは、第5の信号としてDAC2021へと送られる。また図22の(b)に示した未だ定数r倍されていない折り返し信号Bおよび折り返し信号Cは、第6の信号としてDAC2022へと送られる。第5の信号および第6の信号は、DAC2021、2022よって、それぞれアナログ信号へと変換される。その後アナログ領域で、アナログ加減算処理部2041において加減算などの処理が行われ、図5の(c)および(d)に相当する信号が出力される。すなわち、加算部2141の出力として、図5の(c)に示したr倍された折り返し信号rBおよびrCが低周波数信号Aに加算された信号に相当する信号が出力される。また減算部2142の出力として、図5の(d)に示したr倍された折り返し信号rBおよびrCを低周波数信号Aから減算した信号に相当する信号が、それぞれ出力される。その後の信号合成の原理は、図5の(e)〜(g)に示した第1の実施形態の場合と同様である。
図23Aは、第8の実施形態の信号生成装置におけるアナログ加減算部の構成例を示した図である。アナログ加減算部2041の具体的な回路構成は無数に考えられるが、図23Aはその一例を示す。ここでは、DAC2021、2022の出力、およびアナログマルチプレクサ2031がいずれも差動入出力である場合の構成を示している。振幅調整部2151、2152としてそれぞれ差動入出力の増幅回路を用い、振幅調整部2151に対して振幅調整部2152の出力振幅がr倍になるように設定する。この構成の他、増幅回路ではなくて減衰回路を使う構成とすることも可能である。加算部2141では、振幅調整部2151の正出力および振幅調整部2152の正出力を加算回路に入力してその加算出力を正出力とする。また、振幅調整部2151の負出力および振幅調整部2152の負出力を加算回路に入力して、その加算出力を負出力とする。減算部2142では、振幅調整部2151の正出力および振幅調整部2152の負出力を加算回路に入力して、その加算出力を正出力とする。また、振幅調整部2151の負出力および振幅調整部2152の正出力を加算回路に入力して、その加算出力を負出力とする。
DAC2021、2022の出力が差動構成ではなく単相(シングルエンド構成)の場合は、振幅調整部2151、2152として単相入力・差動出力増幅器を用いたり、バランを用いて単相信号を差動信号に変換したりすれば良い。また、アナログマルチプレクサ2031が差動構成ではなく単相(シングルエンド構成)の場合は、加算部2141および減算部2142の差動出力をバランや差動入力・単相出力の増幅器等を用いて単相出力に変換すれば良い。図23Aに示したアナログ加減算部2041は、いずれも独立した部品として作成しても良いし、またアナログマルチプレクサ2031と一体的に1個のアナログ集積回路として作成しても良い。
図23Bは、第8の実施形態の信号生成装置におけるアナログ加減算部の別の構成例を示した図である。ここでも、DAC2021、2022の出力、およびアナログマルチプレクサ2031がいずれも差動入出力となっている場合の構成を示している。但し、アナログマルチプレクサ2031に入力された差動信号のコモンモードは、アナログマルチプレクサ2031内で除去されるものとする。この場合、アナログマルチプレクサ2031の一方の入力ポートの正入力側に信号xを、負入力側に信号yを入力すれば、同入力ポートに信号x−yを入力した場合と同等の動作が得られる。図23Bの構成では、振幅調整部2151、2152としてそれぞれ差動入出力の増幅回路を用い、振幅調整部2151と振幅調整部2152の出力振幅比が2:rになるように設定する。振幅調整部2151の負出力は終端され、振幅調整部2151の正出力は2分岐した後で、それぞれアナログマルチプレクサ2031の各入力ポートの正入力側に接続される。一方、振幅調整部2152の負出力はアナログマルチプレクサ2031の第1の入力ポートの負入力側に、振幅調整部2151の正出力はアナログマルチプレクサ2031の第2の入力ポートの負入力側に、それぞれ接続される。振幅調整部2151の正出力は2分岐されることによって振幅が半分になるので、図23Bの構成により図23Aの構成を用いた場合と同等の動作を実現できる。
したがって本発明は、デジタル信号処理部2010と、2つのデジタル−アナログ変換器(DAC)2021、2022と、2系統のアナログ入力信号の相対振幅を調整し、相対振幅を調整された前記2系統のアナログ入力信号の和に等しい第1のアナログ出力信号と、相対振幅を調整された前記2系統のアナログ入力信号の差に等しい第2のアナログ出力信号を出力するアナログ加減算処理部2041と、前記アナログ加減算処理部から出力された前記第1のアナログ出力信号および前記第2のアナログ出力信号を、周波数fcで交互に切り替えてアナログ信号として出力するアナログマルチプレクサ2031とを備え、前記デジタル信号処理部は、上限周波数がfc未満の所望の出力信号のうち周波数の絶対値が概ねfc/2以下の成分からなる信号を低周波数信号(信号成分A)とし、前記所望の出力信号のうち周波数の絶対値が概ねfc/2以上の成分からなる正周波数成分(信号成分B)および負周波数成分(信号成分C)に対して、周波数軸上で前記正周波数成分を−fcシフトした信号、並びに、周波数軸上で前記負周波数成分を+fcシフトした信号を折返し信号としたとき、前記低周波数信号に等しい第1の信号2161を生成する手段と、前記折返し信号に等しい第2の信号2163を生成する手段とを含み、前記デジタル信号処理部で生成された前記第1の信号に対応するデジタル信号が、前記2つのDACの一方のDAC2021に入力され、前記デジタル信号処理部で生成された前記第2の信号に対応するデジタル信号が、前記2つのDACの他方のDAC2022に入力され、前記2つのDACからの各アナログ出力が、前記2系統のアナログ入力信号として前記アナログ加減算処理部2031に入力されることを特徴とする信号生成装置としても実施できる。
加減算処理などの一部をアナログ領域で行う本実施形態の信号生成装置と、すべての処理をデジタル領域で行っていた第1の実施形態とを比べた場合のメリットについて、以下にさらに説明する。これまで述べた本発明のすべての実施形態に係る信号生成装置では、出力信号における主要な雑音の発生源は2つのDACである。正確には雑音および歪が発生するが、以下の検討では、簡単のため歪も雑音に含めて説明する。各DACにおける雑音の大きさは、DACのフルスケール値によってほぼ決まり、DACが実際に出力する信号の波形には大きくは依存しない。また、DACへの入力デジタル信号は、基本的に時間波形における最大値および最小値がDACのフルスケール値の範囲内となるように規格化しなければならない。図5の(c)および(d)に示したように、デジタル領域で複数の信号成分を重ねたものをDACに入力する場合、重ね合わさった後の信号の時間波形における最大値および最小値がDACのフルスケールの範囲内になるよう規格化しなければならない。したがって、各信号成分を単独でDACから出力する場合と比べ、各信号成分の信号強度を下げる必要がある。結果として、DACの出力信号のSNRは劣化してしまう。そこで本実施形態の信号生成装置では、デジタル領域ではなくアナログ領域で複数信号成分の重ね合わせ(加減算)を行うことで、上述のSNRの劣化の問題を回避している。
上述のSNRの劣化の問題をより具体的に説明するため、以下では単純な2トーン信号を生成する場合を考える。まず、各DACのフルスケール値を最小−1、最大+1とする。周波数f1のシングルトーン正弦波信号を1個のDACにより生成する場合、この正弦波の全振幅は2(最小値−1、最大値+1)に設定できるため、信号強度は1/2となる。次に、デジタル領域で元のf1の正弦波に対して、新たに周波数f2の正弦波を振幅比1:1で加算し、DAC出力信号を2トーン信号に変更する場合を考える。このとき2トーン信号の時間波形(ビート波形)の全振幅を2(最小値−1、最大値+1)とするためには、周波数f1およびf2の成分の全振幅は、半減させてそれぞれ1(最小値−1/2、最大値+1/2)としなければならない。全振幅1の正弦波の信号強度は1/8である。従って、周波数f1の成分のみの信号強度に着目すれば、周波数f2の成分を加算する場合には、周波数f1の成分の信号強度は加算前に比べ1/4に減少することになる。前述のようにフルスケール値が一定である限り、DACによって付加される雑音強度は一定である。したがって、周波数f2の成分を加算するために、SNRは1/4となって、対数表記で6dBの劣化となる。
上述の周波数f1の成分を低周波数信号に、周波数f2の成分を折り返し信号にそれぞれ読み替えれば、本実施形態の信号生成装置と比べた場合の第1の実施形態におけるDAC部でのSNR劣化のメカニズムを概算的に理解できる。実際には、第1の実施形態におけるデジタル処理では、折り返し信号はr倍して折返すため、低周波数信号の劣化分と高周波数信号でDAC部でのSNR劣化幅は異なるが、平均としては6dB以上の劣化となる。
上述のDACのフルスケール値によって規定されるSNRの劣化が生じる一方で、第1の実施形態においては、2つのDACの出力がそれぞれ低周波数信号および折り返し信号の両方の信号成分を含み、これらを最後にアナログ加算して信号を再構成するという一種のダイバーシティ合成を行っている。このため、低周波数信号および折り返し信号をそれぞれ個別のDAC2021、2022で出力する本実施形態に比べ、逆にダイバーシティ効果によるSNR改善も得られる。しかしながら、このダイバーシティ効果によるSNR改善は3dBであり、その改善効果では上述のDACにおける6dBのSNR劣化分を埋め合わせることはできない。結局、第1の実施形態よりも本実施形態の信号生成装置の方が、良好なSNRを達成できることになる。
尚、一般のデータ変調信号等においては、上述のような単純な2トーン信号の場合に比べて低周波数信号と折り返し信号の間の相関が小さいため、第1の実施形態におけるDAC部でのSNR劣化分は6dBよりは小さくなる。しかしながら、所望信号における低周波数信号(A)と高周波数信号(BおよびC)の信号強度が等しい場合、第1の実施形態におけるDAC部でのSNR劣化分は3dB以上となる。このため、第1の実施形態におけるダイバーシティ効果による改善を考慮しても、本実施形態の方が一般により良好なSNRを達成できる。低周波数信号の信号強度および高周波数信号の信号強度の間に大きな差があり、かつ両者の相関が小さい場合では、第1の実施形態におけるDAC部でのスケーリングによるSNR劣化が3dB未満となる。このため、本実施形態よりも良好なSNRを達成できる場合もあると考えられる。しかしながら、本発明の効果が最大限に発揮されるのは、利用可能な帯域(DC〜周波数fc)を極力広く使う場合であって、そのような場合には低周波数信号および高周波数信号の間の信号強度差は小さくなる。したがって多くの場合、加減算処理などの一部をアナログ領域で行う本実施形態の信号生成装置を用いることにより、第1の実施形態と比べてSNR改善のメリットを得ることができる。
図20、図21A、図21Bおよび図23Aに示した構成から明らかなように、DAC2021、2022の各出力点からアナログマルチプレクサ2031の出力までは、電気信号の進行方向に沿って2つの信号経路を見た場合、進行方向を仮想的な中心軸とするとほぼ対称な構成となっている。したがって、本実施形態の信号生成装置においても、第1の実施形態と同様、DACの振幅および遅延の調整は最低限度のもので済む。図23Bの構成を用いた場合は2つの信号経路は対称とはならないが、単にパッシブな回路の接続形態が経路間で異なるだけの差異である。図13Aに示した従来技術の構成例のように通常はアクティブ素子からなるミキサを一方の経路のみに挿入するような構成と比べれば、本実施形態の信号生成装置では、DACの振幅および遅延等の調整はより軽度のもので済む。
[第9の実施形態]
図24は、本発明の第9の実施形態に係る信号生成装置のデジタル信号処理部の構成およびフローを説明するブロック図である。本実施形態の信号生成装置の全体構成は、図20に示したアナログ加減算処理部2041を含む第8の実施形態の信号生成装置2000と同じである。本実施形態の信号生成装置は、さらに、図14の(a)〜(g)に示した第6の実施形態の一連の波形合成処理を動作原理とする点で、第8の実施形態と相違する。第6の実施形態の一連の波形合成処理を行うため、図16の構成に類似しているが、デジタル領域の一部の加減算処理を含まない図24に示したようなデジタル信号処理部2410を備える。したがって、本実施形態の信号生成装置は、第6の実施形態の特徴および第8の実施形態の特徴の両方を備えたものとなる。
本実施形態の信号生成装置の動作原理は第6の実施形態と類似しているが、一部の加減算処理をアナログ領域で行っている。第6の実施形態においては低周波数信号と平行移動信号の加減算処理がデジタル信号処理部1610内で行われていた。これに対して、本実施形態では同等の加減算処理がアナログ加減算処理部2041内で行われる。したがって、本実施形態の信号生成装置は、第8の実施形態で説明した第1の実施形態に対するメリットデメリットの関係が、本実施形態の信号生成装置にもそのまま当てはまる。すなわち、本実施形態の信号生成装置では、第6の実施形態と比べてアナログ部品が増加するか、または、アナログ回路構成が複雑化するデメリットが生じるものの、最終的な出力信号の信号対雑音比(SNR)を改善することができるメリットが得られる。
図24に示した本実施形態のデジタル信号処理部2410と、図16に示した第6の実施形態のデジタル信号処理部1610とでは、以下の2点のみで相違する。第1に、図16の加算部1641および減算部1642に相当する部分がデジタル信号処理部2410からは省かれている。したがって、低周波数信号2461から折り返し信号2421を減算する減算部2443の出力は、そのまま第7の信号2471として、補償部2451を経てDAC2021へと出力される。同様に、平行移動信号2422をリサンプル部2433でリサンプルした信号は、そのまま第8の信号2472として、補償部2452を経てDAC2022へと出力される。第2に、デジタル信号処理部2410では、平行移動部2422において定数r倍の処理を行わない。
図25は、本発明の第9の実施形態の信号生成装置における減算部出力の第7の信号およびリサンプル部出力の第8の信号を周波数領域で模式的に表した図である。以下では、本実施形態の図25および第6の実施形態の図16を参照しながら、本実施形態の信号生成装置における波形合成動作と第6の実施形態における波形合成動作との間の相違点に絞って説明する。図14の(c)および(d)に示したように第6の実施形態においては、低周波数信号Aに折り返し信号Bおよび折り返し信号Cを逆相で重ね、さらにr倍された平行移動信号rBおよびrCを同相で重ね、または、r倍された平行移動信号rBおよびrCを逆相で重ねる段階までの処理を、それぞれすべてデジタル領域で行っていた。
これに対し本実施形態では、図25の(a)に示した低周波数信号Aに折り返し信号BおよびCを逆相で重ねた信号が、第7の信号としてDAC2021へと送られる。また、図25の(b)に示した、未だ定数r倍されていない平行移動信号BおよびCが、第8の信号としてDAC2022へと送られる。第7の信号および第8の信号は、DAC2021、2022よって、それぞれアナログ信号へと変換される。その後アナログ領域で、アナログ加減算処理部2041において加減算などの処理が行われ、図14の(c)および(d)に相当する信号を出力される。すなわち、加算部2141の出力として、図14の(c)に示したr倍された平行移動信号rBおよびrCを上述の第7の信号に加算した信号に相当する信号が出力される。また減算部2142の出力として、図14の(d)に示したr倍された平行移動信号rBおよびrCを上述の第8の信号から減算した信号に相当する信号が、出力される。その後の信号合成の原理は、図14の(e)〜(g)に示した第6の実施形態の場合と同様である。
したがって本発明は、デジタル信号処理部2410と、2つのデジタル−アナログ変換器(DAC)2021、2022と、2系統のアナログ入力信号の相対振幅を調整し、相対振幅を調整された前記2系統のアナログ入力信号の和に等しい第1のアナログ出力信号と、相対振幅を調整された前記2系統のアナログ入力信号の差に等しい第2のアナログ出力信号を出力するアナログ加減算処理部2041と、前記アナログ加減算処理部から出力された前記第1のアナログ出力信号および前記第2のアナログ出力信号を、周波数fc/2で交互に切り替えてアナログ信号として出力するアナログマルチプレクサ2031とを備え、前記デジタル信号処理部は、上限周波数がfc未満の所望の出力信号のうち周波数の絶対値が概ねfc/2以下の成分からなる信号を低周波数信号とし、前記所望の出力信号のうち周波数の絶対値が概ねfc/2以上の成分からなる正周波数成分および負周波数成分に対して、周波数軸上で前記正周波数成分を−fcシフトした信号、並びに、周波数軸上で前記負周波数成分を+fcシフトした信号を折返し信号2463とし、周波数軸上で前記正周波数成分を−fc/2シフトした信号、並びに、周波数軸上で前記負周波数成分を+fc/2シフトした信号を平行移動信号2464としたとき、前記低周波数信号から前記折返し信号を減算した信号に等しい第7の信号を生成する手段と、前記平行移動信号に等しい第8の信号を生成する手段とを含み、前記デジタル信号処理部で生成された前記第7の信号に対応するデジタル信号が、前記2つのDACの一方のDACに入力され、前記デジタル信号処理部で生成された前記第8の信号に対応するデジタル信号が、前記2つのDACの他方のDACに入力され、前記2つのDACからの各アナログ出力が、前記2系統のアナログ入力信号として前記アナログ加減算処理部に入力されることを特徴とする信号生成装置としても実施できる。
既に述べたように、本実施形態の信号生成装置は、第6の実施形態の特徴と、第8の実施形態の特徴とを組み合わせたものであって、両方の特徴を合わせ持つことになる。第1の実施形態に対して、第8の実施形態で既に説明したメリットデメリットの関係が、第6の実施形態に対して、本実施形態の信号生成装置にもそのまま当てはまる。すなわち、本実施形態の信号生成装置では、平行移動信号を加減算する処理をデジタル領域ではなくアナログ領域で行うことで、アナログ部品が増加するか、または、アナログ回路構成が複雑化するデメリットが生じるものの、最終的な出力信号の信号対雑音比(SNR)を改善することができるメリットが得られる。DACへの入力デジタル信号の振幅をDACフルスケール以内に収めるためのスケーリングによるSNR劣化を抑制し、最終的な出力信号のSNRを第6の実施形態と比べて改善することができる。
さらに、本実施形態の信号生成装置を第8の実施形態と比べれば、前述の第6の実施形態と第1の実施形態と比べた場合のメリットと同様、アナログマルチプレクサのクロック周波数を半分にして、かつ、イメージ信号を抑制することができる。但し、本実施形態では、図25の(a)に示したように、一方のDAC2021への入力信号として低周波数信号Aと折り返し信号BおよびCとを重ねた信号を用いるため、第8の実施形態に比べればSNRは悪くなる。
本実施形態の信号生成装置においても、DAC2021、2022の各出力点からアナログマルチプレクサ2031の出力までは、電気信号の進行方向に沿って2つの信号経路を見た場合、進行方向を仮想的な中心軸とすればほぼ対称な構成となっている。したがって、本実施形態においても、第1の実施形態の場合と同様に、DACにおける振幅および遅延の調整は最低限度のもので済む。
以上述べてきた本発明の信号生成装置のすべての実施形態では、デジタル信号処理部への入力信号として実数信号を仮定していた。このため、図5および図14に関連する説明においては、正周波数成分Bの成分および負周波数成分Cの信号成分は、互いに周波数軸上で折返して複素共役をとった関係となるような信号として記述してきた。しかし実際には、図5および図14を用いて説明した信号生成過程において、逆相干渉による信号成分の打ち消し合い、および、同相干渉による信号成分の残留は、Bの信号成分およびCの信号成分が互いに独立であっても成立する。言い換えると、Bの信号成分およびCの信号成分が折り返して複素共役をとった関係にない場合であっても、変わらずに成立することが図5および図14から容易に理解できる。このことは、デジタル信号処理部への入力信号が複素信号であっても、本発明の効果を変わらず得ることができることを意味している。
実際には図1におけるDAC121および122への入力信号は実数信号である必要があるが、例えば図9に示した第3の実施形態の光送信器のようにIQ変調を行う場合において、複素信号の同相(I)成分と直交(Q)成分に分けてから個別にデジタル信号処理を行う必要性は無い。すなわち、複素信号のままでデジタル信号処理を行って、第3の信号および第4の信号を得た後に、実部をIチャネル側のDACに、虚部をQチャネル側のDACに送る方法をとることも可能である。
以上詳細に述べてきたように、本発明の信号生成装置によれば、装置内に含まれる単体のDACによって本来的に出力可能な帯域を越えて、より広帯域のアナログ信号が出力可能となる。さらに、DACの各出力点からアナログマルチプレクサの出力までは、電気信号の進行方向に沿って2つの信号経路を見た場合、進行方向を仮想的な中心軸とすれば対称な構成となっている。したがって、DACの振幅および遅延の調整は最低限度のもので済み、従来技術の信号生成装置における回路構成の非対称性の問題も解消することができる。