JP4617716B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
電動パワーステアリング装置の操舵フィーリングが良い、と評価されるための重要な要素として、能動的な入力トルク(切り込み、切り返し)に対してタイヤ(車両)がリニアに動くことや、ロードインフォメーション(周波数帯域<5〜10Hz)のダイレクトな伝達性、などが挙げられる。
しかし、従来の電動パワーステアリング装置は、人工的でリニアリティに欠け、路面の状況を把握しにくく、運転者に不自然さを感じさせるものとなっていた。
つまり、従来の電動パワーステアリング装置におけるトルク伝達要素(ステアリングギヤ、操舵アシスト用モータ減速機等)の摩擦は、必要悪として比較的高い値に設定されていた。
トルク伝達要素の摩擦を高い値に設定すると、受動的な入力トルク(直進、保舵、戻され)に対してハンドルの据わりが良くなり、ロードノイズ(不要な周波数帯>5〜10Hz)がハンドル(操舵部材)に伝わり難くなり(耐ロードノイズ性)、さらにハンドルの収斂性が良好となるなどの利点が一応ある。
しかし、トルク伝達要素の摩擦が大きいと、能動的な入力トルクに対する伝達効率が下がる。しかも、摩擦が大きい場合に必要なアシスト力を得るには、大出力モータ又は高減速比の減速機が必要となり、操舵軸回りのロータ慣性が必然的に大きくなっていた。
慣性(イナーシャ)が大きくなることにより、操舵トルク入力(正入力)に対するトルク伝達の応答性が低下する。しかもハンドル戻りも著しく悪化する。
以上のように、摩擦及び慣性が大きいと良好な操舵フィーリングが得られない。
これらの問題を解消するために、高摩擦・高慣性を許容しつつ、それに対応するための様々な判定条件を必要とする補償ロジック(慣性補償、摩擦補償、ダンピング補償、ハンドル戻し制御等)が提案され、適用されている。
ところが、これらの補償ロジックは、系全体の見通しを悪くするだけでなく、夫々が独立に存在するため、動作条件が様々に変化する実際の運転状況においては、常に複数の補償出力が作用し、相互に干渉することは不可避である。
この結果、現状の電動パワーステアリングの操舵フィーリングは人工的でリニアリティに欠け、路面の状況を把握しにくく、運転者に不自然さを感じさせるものとなっている。
つまり、補償ロジックによる操舵フィーリングの改善は、対処療法的手段であり、却って運転者に不自然さを感じさせるものとなっていた。
例えば、特許文献1には、ブラシレスモータのイナーシャ及び減速機部の減速ギヤ比で決定されるハンドル軸換算イナーシャを4×10−2kg・m以上、10×10−2kg・m以下とすることが記載されている。特許文献1では、路面からのキックバックなどのロードノイズを抑えるために、4×10−2kg・m以上という比較的大きなイナーシャを許容し、大きなイナーシャによる慣性感に起因する操舵フィーリングの悪化を慣性補償制御によって補っている。つまり、特許文献1に記載のものは、慣性感を慣性補償によって補うものであり、まさに対処療法的手段である。
また、特許文献2には、周波数に対する相補感度関数を、抑圧したい外乱が存在する帯域では1に近づくようにし、伝えたい外乱が存在する帯域ではゼロに近づくように設定することが記載されている。特許文献2のものでも、比較的大きなモータイナーシャを許容することにより外乱抑圧がなされる。すなわち、不要外乱に対してはモータの慣性を積極的に利用し、操舵したときに感じるモータの慣性はトルク制御系で補償される。慣性が大きくなると操舵機構の共振周波数が低くなるため、比較的大きな慣性を許容すると、場合によっては、伝えたい外乱であるロードインフォメーションの周波数帯域までも減衰させなければならず、路面状況を把握しやすい電動パワーステアリングシステムを実現するのが困難である。
他にも、特許文献3には、操舵フィーリングを鋭敏に感じる領域に属するか否かの判定結果により、制御ゲインを変更したり、非干渉制御補正値又は脈動トルク補正値による補正の有無を切換えたりすることが記載されている。
また、特許文献4には、モータの界磁を制御する電流指令値を補正する補正手段を有し、操舵速度が速い時に上記モータの界磁を制御するための電流指令値を補正することが記載されている。
さらに、特許文献5には、粘性補償値を検出車速に応じて、高車速時には粘性が大となり、低車速時には粘性を打ち消す極性でかつ絶対値が小さくなるように補正することが記載されている。
特許文献3,4のような制御では、判定の切り替わり点において不連続なトルク変動を伴う。また、特許文献5のような補正でも、車速変化に伴い、不自然なトルク変動を伴う。
さらにまた、特許文献6には、モータのトルクリップルを10%以内に抑え、トルクセンサの応答周波数を20Hz以上にし、トルク制御の周波数帯域を20Hz以上とすることが記載されているが、通常、操舵系の機械的共振点が15〜20Hzに存在するため、実際にはトルク制御の周波数帯域を20Hz以上とすると、システムが振動的になりやすい。
なお、その他、本願において開示される発明に関連する文献としては、特許文献7〜21がある。
特開2003−40120号公報 特開2001−334948号公報 特開2001−18822号公報 特開2003−40128号公報 特開平3−178868号公報 特開2000−238655号公報 特開2001−275325号公報 特開2003−61272号公報 特開平6−227410号公報 特開2001−133343号公報 特公昭62−38589号公報 特開平11−124045号公報 特開2000−289638号公報 特開平8−91236号公報 特開平10−278818号公報 特開2001−233234号公報 特開平8−119132号公報 特開平8−308198号公報 特開2001−151121号公報 特開2002−372469号公報 特許第2782254号公報
さて、電動パワーステアリング装置では、ステアリングギヤや、車両側の足回りの機械的効率、摩擦などの回転方向差により、操舵トルクを中立(操舵トルク0位置)に保持しようとしても、車両がわずかに右又は左に流れるという現象が起こる。このため、車両を直進させようとすると、車両が流れる方向とは逆に運転者が操舵トルクを加え続けなくてはならず、そのため操舵フィーリングが悪化する。
ここで、特許文献15では、車両の操舵負荷の左右差を相殺するようにアシスト特性に左右差を設けたものが記載されているが、この特許文献15記載のものでは、操舵トルク中立状態で、車両が流れるのを防止するアシストトルクが加わっていないため、車両が左右に流れることを防止することはできず、車両の流れを防止するには、車両が流れる方向とは逆の操舵トルクが必要で操舵フィーリングが悪い。
そこで、本発明は、車両が左右に流れるのを防止して操舵フィーリングを向上させることを目的とする。
本発明は、トルクセンサによって検出した操舵トルクに応じたアシストトルクをモータに発生させるためのアシスト制御電流値を求める手段と、車両が左又は右に流れるのを抑えるためのトルクを前記モータに発生させるための流れ補償電流値を、前記アシスト制御電流値に加算する手段と、を備え、前記流れ補償電流は、Ic・G(v)の式に従って算出され、ここで、Icは一定の電流値であり、G(v)は車速ゲインであり、車速0又は0付近では車速ゲインG(v)が0とされ、車速の増加に従って連続的に車速ゲインG(v)が0から1まで増加し、所定速度以上では車速ゲインG(v)を1としたものであることを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
本発明によれば、アシスト制御電流値には、車両が左又は右に流れるのを抑えるためのトルクに相当する補償電流値が加わっているため、流れを抑えるための操舵トルクを運転者が加えなくとも車両の流れを防止でき、操舵フィーリングが向上する。
本発明によれば、流れを抑えるための操舵トルクを運転者が加えなくとも車両の流れを防止でき、操舵フィーリングが向上する。
以下の説明は、次のとおり構成されている。
[1.ステアリング装置について] 段落[0019]
[1.1 ステアリング装置の全体構成] 段落[0019]
[1.2 ロードノイズ抑制手段;位相補償部] 段落[0026]
[1.3 システム構成要素に関する考察] 段落[0030]
[1.3.1 弾性(Elasticity)] 段落[0032]
[1.3.2 粘性(Damping, Viscous Friction)] 段落[0033]
[1.3.3 慣性(Inertia)] 段落[0034]
[1.3.4 摩擦(friction)] 段落[0035]
[1.4 操舵機構の固有振動周波数] 段落[0036]
[2.ステアリング装置における機械系の主要な摩擦について] 段落[0041]
[2.1 ステアリングギヤ (Manual Steering Gear)] 段落[0041]
[2.1.1 ステアリングギヤの摩擦に関する考察] 段落[0041]
[2.1.2 ピニオン歯の好ましい形態] 段落[0057]
[2.2 減速機] 段落[0108]
[2.2.1 減速機に関する考察] 段落[0108]
[2.2.2 減速機の好ましい形態] 段落[0121]
[2.3 ステアリングギヤ及び減速機の摩擦に関する考察] 段落[0134]
[3.操舵アシスト用モータについて;ロータ慣性] 段落[0135]
[4.モータドライブ回路(駆動回路)について] 段落[0138]
[4.1 モータドライブ回路に関する考察] 段落[0138]
[4.2 モータドライブ回路の従来技術に関する基礎的検討] 段落[0144]
[4.3 ドライブ回路(駆動回路)を含む制御装置の全体構成] 段落[0148]
[4.4 モータ・駆動回路系の要部構成] 段落[0156]
[4.5 実施形態の駆動回路による作用および効果] 段落[0162]
[4.6 駆動回路の変形例] 段落[0164]
[5. 操舵感のリニアリティ] 段落[0166]
[5.1 トルク脈動補償] 段落[0166]
[5.1.1 トルク脈動補償に関する考察] 段落[0166]
[5.1.2 電動モータの構成呼びその駆動制御の概要] 段落[0174]
[5.1.3 ECUの構成及び動作] 段落[0177]
[5.1.4 電流制御系の構成及びその周波数特性] 段落[0189]
[5.1.5 磁界歪み補勝負の構成及びその動作] 段落[0190]
[5.1.6 電流高次歪み補償部の構成及びその動作] 段落[0199]
[5.2 不感帯] 段落[0212]
[5.2.1 不感帯に関する考察] 段落[0212]
[5.2.2 不感帯に関する好ましい実施の形態] 段落[0216]
[5.3 位相補償特性切替] 段落[0222]
[5.3.1 位相補償特性に関する考察 段落[0222]
[5.3.2 位相補償手段の好ましい実施の形態] 段落[0237]
[5.4 車両左右流れ補償] 段落[0264]
[5.4.1 車両左右流れに関する考察] 段落[0264]
[5.4.2 車両の左右流れ抑制のための好ましい形態] 段落[0267]
[5.5 電流検出器の温度特性補償] 段落[0271]
[5.5.1 電流検出器の温度特性に関する考察] 段落[0271]
[5.5.2 温度特性補償に関する好ましい実施の形態] 段落[0280]
[5.5.3 変形例] 段落[0294]
[5.6 減速機の位相合わせ] 段落[0296]
[5.6.1 減速機の歯の噛み合いとトルク変動に関する考察]段落[0296]
「5.6.2 トルク変動を小さくするための好ましい実施形態」段落[0302]
[6.非干渉化制御] 段落[0307]
[7.ラック軸におけるロードノイズ減衰] 段落[0309]
[7.1 ロードノイズに関する考察] 段落[0309]
[7.2 粘弾性部材に関する好ましい実施の形態] 段落[0316]
[8.操舵機構での振動抑制(収斂性向上)] 段落[0326]
[8.1 操舵機構での振動抑制に関する考察] 段落[0326]
「8.2 粘弾性部材に関する好ましい実施の形態」 段落[0332]
[1.ステアリング装置について]
[1.1 ステアリング装置の全体構成]
図1は、本発明の一実施形態による電動パワーステアリング装置の主要部の構成を示す模式図である。図において、当該装置は、例えば自動車に搭載され、操舵部材(ステアリングホイール)1に加わるドライバーの操舵動作に応じて、操向車輪5の向きを変えるための操舵軸2を備えている。この操舵軸2には、上記操舵部材1が上端部に取り付けられる筒状の取付軸21と、この取付軸21に一体回転可能に連結された筒状の入力軸22と、トーションバー23を介在させて入力軸22に同軸的に連結された筒状の出力軸24が設けられている。
この操舵軸2(出力軸24)の下端には、自在継手(ユニバーサルジョイント29a,29b;図37参照)などを介して、ステアリングギヤ3が連結されている。このステアリングギヤ3は、ピニオン軸31及びラック軸32を備えたラックピニオン式である。ラック軸32は、円筒形をなすラックハウジング33の内部に軸方向へ移動自在に支持されている。ラック軸32の左右端部には、タイロッド4a及びナックルアーム4bを介して左右の操向車輪5が連結されている。
ラックハウジング33の長手方向中途部には、軸心を交叉させてピニオンハウジング34が連設されており、このピニオンハウジング34の内部に、前記ピニオン軸31が軸回りに回転自在に支持されている。ピニオン軸31は、自在継手29a,29bなどを介して、操舵軸2の下端に連結されている。
ピニオンハウジング34の内部に延設されたピニオン軸31の下半部は、適長に亘って大径化され、この大径部の外周面にピニオン歯35が形成されている。またラックハウジング33の内部に支持されたラック軸32には、ピニオン軸31との対向部を含めた適長に亘ってラック歯36が形成されており、このラック歯36は、ピニオン軸31の周面に設けられたピニオン歯35に噛合させてある。
以上の構成により、操舵のために操舵部材1が回転操作された場合、該操舵部材1に操舵軸2を介して連結されたピニオン軸31が回転し、この回転が、ピニオン歯35とラック歯36との噛合部においてラック軸32の軸長方向の移動に変換されてラック軸32が左右両方向に移動する。
このようなラック軸32の移動は、該ラック軸32の両端に連結されたタイロッド4a,4aを介して左右のナックルアーム4b,4bに伝達され、これらのナックルアーム4b,4bの押し引きにより左右の操向車輪(前輪)5,5が、操舵部材1の操作方向に、操作量に対応する角度となるまで転舵されて操舵がなされる。
上記取付軸21は、ステアリングコラム25内に収納された状態で車体側に固定されるものであり、その下端部には、トーションバー23の一端部を内嵌固定した入力軸22の上端部がピン26により連結されている。また、上記トーションバー23の他端部はピン27により出力軸24の下端部に内嵌固定されている。
上記入力軸22及び出力軸24は、第1及び第2、第3のハウジングH1及びH2,H3の内部に軸受を介して回転自在に取り付けられている。なお、第1及び第2、第3のハウジングH1及びH2,H3は車体側に固定され、かつ図の上下方向に分離可能なものである。
上記出力軸24には、減速機8を介して電動モータ9が連結されている。減速機8は、
駆動歯車82及びこれに噛み合う従動歯軸81を有している。駆動歯車82には、モータ9の出力軸91が一体回転可能に取り付けられており、電動モータ9の回転は、駆動歯車82及び従動歯車81を介して出力軸24に伝達される。
電動モータ9は、操舵検出装置(操舵トルク及び/又は舵角の検出装置)7の検出結果に応じて駆動される。すなわち、電動モータ9は、操舵部材1から入力された操舵トルクに応じた操舵補助力を発生する。
これらの減速機8と駆動モータ9とが、操舵部材1から操向車輪5に至る操舵機構Aにモータ動力による操舵補助力を付与する操舵補助部を構成しており、ここでは、操舵軸2に対して操舵補助力を付与する操舵軸アシスト(コラムアシスト)式の操舵機構(C−EPS)Aとなっている。
[1.2 ロードノイズ抑制手段;位相補償部]
図27は、電動モータ9を制御するためのECU105の詳細な構成例を示すブロック図である。図に示すように、上記ECU105には、上記トルクセンサ7からのトルク信号Tsを入力する位相補償部(位相補償器)213などの各機能が含まれている
この位相補償部213は、本発明におけるロードノイズ抑制手段を構成している。位相補償部213には、トルクセンサ7からのトルク検出信号が与えられ、位相補償部213によってトルク検出信号の位相が進められることにより実用周波数帯域におけるシステム全体の応答性が向上する。
また、この位相補償部213は、ロードノイズを抑制するためのフィルタ部としても機能している。すなわち、この位相補償部213は、伝達関数として、下記式の特性を持つ。
(s)=(s+2ζωs+ω )/(s+2ζωs+ω
ただし、sはラプラス演算子、ζは補償後の減衰係数、ζは被補償系の減衰係数、ωは補償後の自然角周波数、ωは被補償系の自然角周波数である。
図2は、上記Gc(s)において、ζ=1.8、ζ=0.15としたときの位相補償部213のボード線図を示している。図2のボード線図からもわかるように、Gc(s)は帯域阻止型フィルタ(BEF)と同型である。同図において、ゲインが最も小さくなる周波数は、操舵機構Aの固有振動周波数近傍の16.5Hzとなっている。
図3は、位相補償を行わない場合と行った場合のステアリング装置のボード線図を示しており、同図における実線は位相補償がない場合の、点線は位相補償を行った場合を示している。なお、同図において上側の特性がゲインを、下側の特性が位相を示している。
また、図4は、位相補償がない場合のパワースペクトル解析結果を示し、図5は位相補償を行った場合のパワースペクトル解析結果を示している。
ここで、ロードノイズと評価される周波数は、要求される仕様に応じて異なるものであるが、ここでは10Hz以上をロードノイズとし、10Hz未満をロードインフォメーションとすると、図3〜図5では、ロードノイズである10Hz以上では、ゲインが低下しており、ロードノイズ相当周波数領域ではトルク伝達が減衰させられることがわかる。一方、10Hz未満のロードインフォメーション相当周波数領域ではトルク伝達がほとんど減衰していないことがわかる。
なお、ここでは、ロードノイズ減衰と位相特性改善の双方を行うために、上記伝達関数Gc(s)の位相補償部213を用いたが、所定周波数以上のロードノイズ減衰を行うには、伝達関数Gc(s)の位相補償部213に代えて、所定周波数以下の周波数は伝達し、所定周波数以上の周波数は遮断するローパスフィルタ(LPF)を用いても良く、伝達関数Gc(s)の位相補償部213とともに前記ローパスフィルタを併用してもよい。
[1.3 システム構成要素に関する考察]
次に図1のようなステアリング装置において、主要ダイナミクス要素が操舵フィーリングへ及ぼす影響についての概略を説明する。トルク(操舵トルク)Tを入力、角度(舵角)θを出力とするバネマス系の伝達関数は次の2次系で表される。
Figure 0004617716

但し、J:慣性[kg・m]=[Nm・s/rad]、C:粘性定数[Nm・s/rad]、T:トルク[Nm]、θ:角度[rad]
式(1)を変形すると式(1a)のようになる。
Figure 0004617716

よって、下記式(2)(3)が得られる。
Figure 0004617716
Figure 0004617716
(式3)より粘性定数Cは次の式4で表される。
Figure 0004617716
式(2)(4)より、固有振動数を上げ、かつ小さな粘性Cで適正な粘性係数ζを得るには、慣性Jを小さくするのが望ましいことがわかる。
[1.3.1 弾性(Elasticity)]
パワーステアリングのトルク伝達系における主な弾性要素Kは、トーションバー23、ユニバーサルジョイント29a,29b(操舵軸2とステアリングギヤ3との間に介在している;図37参照)、ステアリングギヤ3のマウントブッシュ、タイヤ5、操舵軸(コラム)2のマウントブラケットである。特に、コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置では、これらの弾性要素の前後に主要な慣性要素J(ステアリングホイール1、モータ9、ハブ及びホイール)が配置されるため、低周波数域(10〜80Hz)に複数の固有振動をもつ振動系となることが式(2)からも理解される。システムとして、これら複数の固有振動すべてを確実に抑制するには、トルク開ループ周波数特性におけるゲインを広範な周波数域で減衰させる必要がある。
また、式(3)より、この減衰性を実現するには、機構、制御等の如何に関わらず、粘性要素Cが必要であることが理解される。しかし、後述するように、最終的には安定性と操舵フィーリング(すっきり感)とのトレードオフを迫られることになる。従って弾性要素が何らかの機能に関与しないのであれば、背反を十分吟味した上で、極力、剛性(例えば、コラムブラケットや、ユニバーサルジョイントの剛性)を高めて弾性要素を削減する、あるいは固有振動周波数を高周波数域(100Hz以上)へ移行させることが好ましい。
[1.3.2 粘性(Damping, Viscous Friction)]
式(3)からわかるように 2次系(トルク入力−角度出力系)において粘性Cは固有振動を抑制する要素である。また、1次系(トルク入力−速度出力系)においては時定数を小さくする一方で、出力(速度)ゲインを低下させる因子として作用する。従って、摩擦が極端に小さい場合に、上記固有振動を機械的に安定させて落ち着いたハンドル挙動を得るには、個々の固有振動に対して適正な粘性要素が不可欠であるが、同時に操舵入力に対しては大きな粘性抵抗(粘っこさ)となり、すっきり感に欠けるフィーリングとなる。
主な機械的粘性要素には、摺動、回転部支持軸受のグリス粘性があり、電気的粘性要素としてはモータの逆起電力による速度項抵抗が挙げられるが、システムの中でこれらの配置、配分には注意を要する。すなわち減速機8〜モータ9間に大きな粘性要素が存在すると、非アシスト状態からアシスト状態へ移行する際に、粘っこさが急激に減少し、運転者に違和感を与える。このことは、操舵中立からの切り始めにおける操舵トルク変化の線形性に関与する重要な因子であり、この部位における粘性を極力小さくすることが望ましい。
また、上記適正粘性をモータトルク制御で実現する場合も、チューニングの際には同様に舵の安定性(落ち着き)と操舵フィーリング(すっきり感)のトレードオフを迫られる。
[1.3.3 慣性(Inertia)]
式(2)からわかるように、2次系(トルク入力―角度出力系)において、慣性要素Jは固有振動周波数を低周波数側へ移行させると同時に、固有周波数以上の高周波数域で出力ゲインを低下させる因子ともなる(式(1a)参照)。また、1次系(トルク入力―速度出力系)においては時定数を大きくするように作用する。従って正入力(操舵トルク)に対するトルク伝達の応答性を低下させる一方で、逆入力(外乱)を遮断する効果もある。
高剛性および低慣性という官能表現は同義であり、弾性要素と、それにより出力側に存在する慣性要素とのバランスに依存する。すなわち、両者の組み合わせによって式(2)に示される固有周波数が、運転者にとって感じることができない高い周波数である場合に高剛性、低慣性と感じ取られる。
従って、正入力(操舵トルク)に対して、高剛性で、且つ逆入力に対して遮蔽効果をもたせるには、弾性要素よりも入力側に存在する慣性要素を相対的に大きくすることが望ましい。
しかし、モータ9が2つの弾性要素(トーションバー23とユニバーサルジョイント(図示せず))の間に配置される場合、弾性定数の高い(ユニバーサルジョイント)側から低い(トーションバー23)側へのトルク伝達に対する遮断周波数が相対的に低くなるが、同時に遮断周波数以下での位相遅れも大きくなり剛性感の乏しいフワフワした操舵フィーリングとなる。このことからも慣性は極力小さくする方が好ましい。
[1.3.4 摩擦(Friction)]
摩擦は入力周波数に依存せず、正逆のいずれの入力に対しても一定の抵抗として作用し、トルク伝達効率低下の主要因子である。操舵フィーリング上は、常に引き摺り感として現れる。一方で、外乱に対してはフィルタ効果を呈するが、必要な路面情報まで遮断してしまうため、両者のトレードオフを認識する必要がある。
上記粘性の場合と同様に、系における摩擦要素の配分は重要で、減速機8〜モータ9間に存在する摩擦は、アシスト時と非アシスト時の引き摺り感に差を生じさせるため、極力小さくするのが望ましい。
また、静止摩擦は動摩擦よりも大きく、その値が不定であるため、再現性のないスティックスリップ動作の原因となり特に好ましくない。いずれにせよ摩擦は非線形要素であるため扱い難く、系全体としても極力小さくするのが好ましい。
[1.4 操舵機構の固有振動周波数]
後に詳述する本実施形態の電動パワーステアリング装置の固有振動周波数としては、17Hz前後(fn1)、40Hz前後(fn2)、50Hz前後(fn3)が確認された。固有振動周波数は、トーションバー23の弾性定数Kt、ユニバーサルジョイント29a,29bの弾性定数Ki、ロータ慣性Jm、バネ下慣性(トーションバーよりも下流側(車輪5側)の慣性)Jlなどによって式(2)に従い生じる。
本実施形態では、ロータ慣性Jmを小さくしているため、操舵機構Aにおいて発生する固有振動は、すべてロードノイズ周波数領域にある。特に、ロータ慣性Jmを小さくしたため、バネ下慣性Jlとトーションバー弾性定数Ktによる固有振動周波数fn1をロードノイズ領域(例えば10Hz以上)にまで高めることができた。
ここで、バネ要素であるトーションバー弾性定数Ktは、
Kt=29[kgf・cm/deg]
=29×9.8×10−2×180/π[Nm/rad]
モータ9のロータ慣性Jmは、
Jm=0.67×10−4[kg・m] (モータ出力軸91回り設計値)
=0.67×10−4×9.7[kg・m] (操舵軸2回り、減速比:9.7)
=0.0063[Nm・s/rad]
バネ下慣性(トーションバーよりも下流側(車輪5側)の慣性)Jlは、
Jl=0.0148[Nm・s/rad]
また、バネ下慣性Jlのうち、ロータ慣性以外の慣性Jwは、
Jw=0.0085[Nm・s/rad]
なお、固有振動周波数fn2は、Ki,Jwによるものであり、固有振動周波数fn3は、Kt,Ki,Jmによるものである。
本実施形態では、後述のようにステアリングギヤ3や減速機8などの主要な摩擦要素の摩擦を小さくすることによって操舵機構全体として摩擦を小さくしているために上記固有振動(特に固有振動周波数fn1)が現出しやすくなっているが、固有振動周波数がロードノイズ周波数領域にあるため、位相補償部213によって減衰させることができる。
[2.ステアリング装置における機械系の主要な摩擦について]
ステアリング装置の機械系における主要な摩擦要素としては、ステアリングギヤ3と減速機8とがある。
[2.1 ステアリングギヤ Manual Steering Gear)
[2.1.1 ステアリングギヤの摩擦に関する考察]
ラックピニオン式ステアリング装置においては、ピニオン軸に設けられたピニオン歯とラック軸に設けられたラック歯との噛合状態を適正に保ち、運転者に快適な操舵感を与えることを目的として、従来から、前記ピニオン歯及びラック歯の歯諸元(圧力角、モジュール、歯数等)に対して種々の提案がなされている(例えば、特許文献11参照)。
以上の如きラックピニオン式ステアリング装置において、ピニオン軸に設けられるピニオン歯の歯諸元は、搭載される車両側から与えられる設計条件を満たすべく、具体的には、ピニオン軸一回転当たりのラック軸の移動量、即ち、ストロークレシオにより拘束される長さの円周上において、要求される負荷条件に耐え得る強度を確保すべく選定される。
ここで前記歯諸元のうちの圧力角は、多くの場合、JIS(日本工業規格)において規定されている標準値(20°又は14.5°)とされ、この標準値を用いた場合、車両において一般的なストロークレシオ(35〜60mm/rev)の下で選定される他の歯諸元は、モジュールが2.5前後、また歯数が5枚となる。
ところが、ラックピニオン式ステアリング装置においては、ピニオン歯とラック歯との噛合部におけるラトル音を低減し、換舵感の悪化を防ぐことを目的として、ばね荷重を利用した予圧手段によりラック軸をピニオン軸に向けて押圧付勢し、前記ピニオン歯及びラック歯をバックラッシなしに噛合させるという特殊な噛合形態が採用される。
このようなピニオン歯の歯諸元を、前述した如く比較的小さい標準圧力角の下で選定した場合、前記予圧手段の作用によりピニオン歯の噛み込みが顕著となり、ラック歯との噛み合い摩擦が大きくなって、ピニオン軸に連結された操舵部材を操作する運転者に路面からの反力が伝わり難くなり、操舵感の悪化を招来する。
また、前述の如く選定されるピニオン軸の歯数は少なく(5枚)、このようなピニオン軸のピニオン歯をラック歯と噛合させた場合、正規の噛合位置を超えたラック歯の歯先がピニオン歯の歯元をえぐるように干渉する現象、所謂、トロコイド干渉が発生し、ピニオン歯とラック歯との噛み合い摩擦が更に大きくなって、前述した不具合が更に助長されることとなる上、トロコイド干渉が顕著に発生した場合、ピニオン歯の歯元の肉厚がラック歯の歯先との摩擦により経時的に減少して、該ピニオン歯の強度低下を引き起し、所望の耐久時間の経過前に破損に至る虞れさえある。
更には、操舵部材とピニオン軸とを連結する操舵軸(コラム軸)の中途に操舵アシスト用のモータを備え、該モータの回転力をピニオン軸に伝えて前述の如くなされる操舵を補助する構成としたコラムアシスト式の電動パワーステアリング装置においては、ピニオン軸に設けられたピニオン歯には、運転者により操舵部材に加えられる操舵トルクに加えて、前記モータの回転トルクが付加されるため、前述した破損の虞れが増す上、前記モータの回転がピニオン軸を介してラック軸に伝えられる際の応答性が悪化し、良好な操舵感が得られなくなるという問題がある。
前記特許文献11には、共に斜歯として形成されたピニオン歯及びラック歯の噛合部においてラック軸の軸回りの回動変位に伴ってピニオン歯との間に発生する食い付き現象を防止することを目的とし、ラック歯の振れ角及び圧力角をラック軸の断面形状との関係から選定する方法が示されているに過ぎず、噛み合い摩擦及びトロコイド干渉に起因する前述した問題を緩和する対策とはなり得ない。
また、トロコイド干渉の発生を防止するため、従来においては、ピニオン歯及び該ピニオン歯に噛合するラック歯を、ピッチ円よりも歯先側の歯丈が1モジュールよりも小さい「低歯」として、所定のクリアランスを確保する対策が施されているが、この場合、ラック歯及びピニオン歯間に1以上の正面噛み合い率を確保することが難しくなり、噛み合いが不連続となって、換舵のためのラック軸の滑らかな移動が阻害されるという新たな不具合が発生する。
大なる圧力角の採用によりラック歯との噛み合い摩擦を低減し、この圧力角の下での他の歯諸元の適正な設定がなされたピニオン歯を構成し、長期に亘って滑らかで良好な操舵感を安定して実現し得るラックピニオン式ステアリング装置としては、次の構成が好ましい。
すなわち、好ましいラックピニオン式ステアリング装置は、ピニオン軸の周面に設けたピニオン歯とラック軸の外面に設けたラック歯とをバックラッシなしに噛合させてあり、操舵部材に連結された前記ピニオン軸の回転を前記ピニオン歯及びラック歯の噛合部を介して前記ラック軸に伝え、該ラック軸を所定のストロークレシオにて軸長方向に移動させて操舵を行わせる構成としたラックピニオン式ステアリング装置において、前記ピニオン歯は、24°≦α≦30°なる範囲内にて設定された圧力角αと、該圧力角α及び前記ストロークレシオを用いて所定の設計条件を満たすべく選定され、夫々が下記の範囲内に収まるモジュールm、歯数z、歯丈h及び振れ角βを備えることを特徴とする。
モジュールm: 1.8≦m≦2.0
歯数z : 7≦z≦13
歯丈h : 2m≦h≦2.5m
振れ角β : β≦35°
前記構成においては、ピニオン軸に設けられるピニオン歯の圧力角αを、標準圧力角よりも十分に大きい24°の範囲にて選定し、ラック歯の押し付けによる予圧下での噛み合い摩擦を軽減し、滑らかな伝動を可能とする。圧力角αの上限値である30°は、加工上の制約による。このように選定された圧力角αとストロークレシオとを用い、モジュールm及び歯数zを、トロコイド干渉クリアランス及び歯先の歯厚を確保するという幾何学的条件を満たし、また歯元の曲げ強さ及び歯面の疲れ強さを確保するという強度的制約条件を満たすように選定し、このとき、転位を小さくし、噛み合い部での滑り変動を低く抑えるべく歯丈hを選定し、またピニオン軸の支持軸受の負荷を軽減すべく振れ角βを選定して歯諸元を決定し、バックラッシなしに噛み合うラック歯を備えるラック軸への伝動を滑らかに、しかも確実に行わせて良好な操舵感を実現する。
また、前記ピニオン歯は、歯形方向に、前記ラック歯との噛み合い応力が増す向きの圧力角誤差を設けると共に、中央が凸となる歯形修正を施してある修正歯面形状を備えるのが好ましく、更に前記ピニオン歯は、歯筋方向にクラウニングを施してある修正歯面形状を備えるのが好ましい。
これらの場合、歯形方向の圧力角の補正と歯筋方向のクラウニングとを、単独に、又は併せて実施した修正歯面形状を採用し、操舵時のトルク変動の原因となる歯当たりを改善して操舵感の向上を図り、また歯面の摩耗を均等化して、ピニオン歯の強度不足を補う。
また、前記操舵部材と前記ピニオン軸との間に操舵補助用のモータを備え、該モータの回転力を前記ピニオン軸に伝えて該ピニオン軸の回転に応じてなされる操舵を補助する電動パワーステアリング装置として構成してあるのが好ましい。
この場合においては、ピニオン歯とラック歯との噛合部に、運転者による操舵部材への作用力及びモータの発生力が併せて加わる電動パワーステアリング装置において上述した歯諸元を有するピニオン歯を採用し、歯の折損の虞れを解消し、また噛み合い摩擦の影響による応答性の悪化を防止して、良好な操舵感を実現する。
上記の構成によるラックピニオン式ステアリング装置においては、ピニオン軸に設けたピニオン歯の歯諸元の適正な選定により、ラック軸に設けたラック歯とのバックラッシなしの噛合を、可及的に小なる噛み合い摩擦下にてトロコイド干渉を伴うことなく実現することができ、滑らかで良好な操舵感を長期に亘って安定して実現することが可能となる等、優れた効果を奏する。
[2.1.2 ピニオン歯の好ましい形態]
図6は、ラック軸32とピニオン軸31との交叉部近傍の拡大図である。本図に略示するようにピニオン軸31に設けられたピニオン歯35は、該ピニオン軸31の軸心線に対して所定の捩れ角βを有する捩れ歯として形成されている。またラック軸32に設けられたラック歯26は、該ラック軸32の軸長方向と直交する方向に対して前記捩れ角βに対応する角度を有して傾斜する斜歯として形成されており、ピニオン軸31との交叉部においてピニオン歯35と噛合されている。
図7は、ラック歯36とピニオン歯35との噛合部の横断面図である。本図に示す如くラック歯36は、圧力角、即ち、歯形方向に対して歯面がなす角度がαとしてあり、このラック歯36に噛合するピニオン歯35の圧力角も同じくαである。
ここでラック軸32は、ばね荷重を利用した公知の予圧手段によりピニオン軸31に向けて押圧付勢されており、ラック歯36とピニオン歯35とは、図7に示す如く、バックラッシなしに噛合されている。これにより、例えば、操舵部材1の反転操作による操舵方向の転換時、ラック軸32からの逆入力の作用時等に、ラック歯36とピニオン歯35との噛合部に歯同士の衝突によって発生するラトル音を軽減することができる。
−方、バックラッシなしに噛み合わされたラック歯36とピニオン歯35との間の噛み合い摩擦は大きく、この噛み合い摩擦の影響が操舵軸2を介してピニオン軸31に連結された操舵部材1に伝わり、該操舵部材1を操作する運転者に体感されて操舵感の悪化を招来するという問題が生じる。
このような噛み合い摩擦を軽減して良好な操舵感を得るためには、例えば、ピニオン歯35(及びラック歯36)の圧力角αを大とし、バックラッシなしに噛合するラック歯36とピニオン歯35との間のクサビ効果が弱めることが有効である。また一方、圧力角αには、加工上の制約による上限が存在し、30゜を超える圧力角αの採用は難しい。本実施形態に係るラックピニオン式のステアリング装置においては、加工上の制約を受けずに噛み合い摩擦を可及的に軽減することを目的とし、ピニオン歯35の圧力角αを、JISに規定された標準圧力角よりも十分に大きい24°≦α≦30°なる範囲内にて選定する。
またラックピニオン式の操舵装置においては、これが装備される車両の側からの要求として、ピニオン軸31一回転当たりのラック軸32の移動量を示すストロークレシオSが与えられる。このストロークレシオSは、−般的な車両において、35mm≦S≦60mmなる範囲内に存在する。
ピニオン歯35の他の歯諸元としてのモジュールm、歯数z、歯丈h及び捩れ角βは、前述した圧力角α及びストロークレシオSの範囲内において、これらを用いて以下の手順により選定される。
図8は、ピニオン歯35の歯諸元の選定手順を示すフローチャートである。この選定に際しては、まず、圧力角α及びストロークレシオSを設定する(ステップ1)。
圧力角αは、歯切り用の工具によって採用可能な角度が制限されることから、例えば、前述した下限値(=24°)を初期値として設定し、この初期値から上限値(=30°)に至るまで、工具による制限下にて定まるピッチ毎に設定値を変えて以下の手順を実行する。またストロークレシオSは、実際の設計においては、ステアリング装置が装備される車両側からの設計要求として与えられる固定値であるが、ここでは、モジュールm及び歯数zの適正範囲を定めるために、下限値(=35mm)から上限値(=60mm)に至るまで段階的に設定値を変えて以下の手順を実行する。
以上の如く圧力角α及びストロークレシオSの設定を終えた後、これらの設定値を用いてピニオン歯35のモジュールm及び歯数zを算出する(ステップ2)。この算出は、ピニオン歯35が形成されるピニオン軸31の外径、ピニオン軸31とラック軸32との軸間距離等の周辺寸法と、前記圧力角α及びストロークレシオSとを用いた公知の手順によりなされ、モジュールm及び歯数zは、整数に限定される複数の歯数zと、対応するモジュールmとの組み合わせとして与えられる。
次いで、ピニオン歯35の捩れ角βを所定の上限角度以下の範囲内にて複数設定し(ステップ3)、また歯丈hを、モジュールmを含む所定の範囲内にて複数設定する(ステップ4)。
捩れ角βの上限角度は、ピニオン歯35を備えるピニオン軸31をピニオンハウジング34内に支持する軸受のスラスト負荷能力により決定されるが、一般的に40°前後とされる。
一方捩れ角βが小さい場合、ピニオン歯35とラック歯36との歯筋方向の噛み合い長さが短くなり、後述する強度条件を満たし難くなることから、実際の設計においては、上限角度に近い30°〜35°なる範囲の捩れ角βが採用されるが、ここでは、モジュールm及び歯数zの適正範囲を定めるために、上限角度(=40°)から下限角度(=0°)までの全範囲に亘って捩れ角βを設定し、以下の手順を実行する。
歯丈hは、2m≦h≦2.5m(mはモジュール)なる範囲内にて設定する。この範囲は、歯先側に1モジュール前後の歯丈を確保して並歯(h=2.25m)に近い歯形形状を採用し、ピニオン歯35及びラック歯36の噛合部に1以上の正面噛み合い率を確保して不連続な噛み合いの発生を緩和すべく決定されている。
次いで、ステップ2にて算出されたモジュールm及び歯数zに、ステップ3,4にて設定された各複数の捩れ角β及び歯丈hを順次組み合わせて定まる歯諸元の夫々について、所定の幾何学的条件を満たすか否かを判定し(ステップ5)、更に、所定の強度条件を満たすか否かを判定して(ステップ6)、両条件を共に満たす歯諸元のみを集積する(ステップ7)。次いで、圧力角α及びストロークレシオSの設定が全範囲に亘ってなされたか否かを判定し(ステップ8、9)、設定が完了していない場合、ステップ1に戻り、圧力角α及びストロークレシオSの再設定を行って同様の手順を繰り返す。
ステップ5において判定の基準となる幾何学的条件の一つは、ピニオン歯35とラック歯36とが干渉することなく噛み合わせ可能であるか否かであり、他の一つは、ピニオン歯の歯先に十分な歯厚が確保されているか否かである。前者の条件、即ち、噛み合わせの可否は、例えば、次式により算出されるトロコイド干渉クリアランスが0.3mm以上確保されるかによって判定する。
Figure 0004617716
式中のXは、転位係数であり、ピニオン歯35に設定される転位量をモジュールmで除した値として与えられる。またtは、トロコイド干渉クリアランスであり、図7に示す如きラック歯36とピニオン歯35の噛合状態において、所定の噛合位置を超えたラック歯36の歯先がピニオン歯35の歯元をえぐるように干渉する現象、所謂、トロコイド干渉が生じるか否かを示す指標値として用いられる。
図9は、トロコイド干渉クリアランスtの説明図である。図中のPは、ピニオン歯35の基礎円を示し、Pは、ピニオン歯35の歯先円を示している。また図中のRは、ラック歯36の基礎円を示し、Rは、ラック歯36の歯先円を示している。
更に図中のαbsは、噛み合い圧力角であり、ラック歯36とピニオン歯35との噛合部における噛み合い圧力角αbsは、ラック歯36及びピニオン歯35の圧力角αと等しい。
図9(a)には、ピニオン歯35の基礎円Pと歯先円Pとの直径差が大きい場合が示され、図9(b)には、前記直径差が小さい場合が示されている。トロコイド干渉クリアランスtは、噛み合い中心線の一側に噛み合い圧力角αbsだけ傾斜した噛み合い線bがピニオン歯35の基礎円Pと交わる点aと、ラック歯36の歯先円Rとの間の距離として与えられる。
ここで、噛み合い圧力角αbsが同一であるという条件下において、図9(a)中の交点aは、ラック歯36の歯先円Rよりも内側(歯元側)に位置するのに対し、図9(b)中の交点aは、ラック歯36の歯先円Rよりも外側に位置しており、ラック歯36とピニオン歯35とのトロコイド干渉は、図9(a)に示す状態において発生する。
式(11)におけるトロコイド干渉クリアランスtは、図9に示すラック歯36とピニオン歯35との幾何学的な位置関係に基づいて、図9(a)に示す状態において負となり、図9(b)に示す状態において正となる値であり、ステップ5においては.前述の如く設定された圧力角α、捩れ角β、モジュールm及び歯数zを式(11)に代入してトロコイド干渉クリアランスtを順次求め、この値が、前述の如く0.3mm以上であるものを噛み合わせ可として判定する。トロコイド干渉クリアランスtの下限値を0.3mmとしてあるのは、ピニオン歯35及びラック歯36の加工誤差の影響を排除し、しかも、前述した動作中にピニオン歯35又はラック歯36に発生する歪の影響を排除するためである。
また後者の条件、即ち、歯先歯厚の良否は、歯切り後の熱処理時における焼入れ過剰の防止のために設定される条件であり、例えば、次式により算出されるピニオン歯35の歯先歯厚(歯直角方向)sknが、動力伝達歯車の設計しきい値として用いられている0.3m(mはモジュール)以上確保されているか否かによって判定することができる。
Figure 0004617716
式中のsは、ピニオン歯35の正面円弧歯厚であり、rは、ピニオン歯35の歯先円半径、βは、ピニオン歯35の歯先円上での捩れ角である。またαksは、歯先位置に相当する歯車回転角度であり、αは、基準ピッチ円上の圧力角であって、これらは、次式により求められる。
Figure 0004617716
なおrは、ピニオン歯35の基礎円半径である。ステップ5においては.前述の如く設定された圧力角α、歯数z及び捩れ角βを式(12)(13)(14)式に代入してピニオン歯35の歯先歯厚(歯直角方向)sknを順次求め、この値が、前述の如く0.3m以上であるものを歯先歯厚が良であると判定する。なお、歯先歯厚が小さくなり易いピニオン歯35においては、熱処理に浸炭焼き入れを採用し、その上、歯先にフルトッピングを施して鋭角部をなくし、熱処理時における焼入れ過剰(オーバヒート)を軽減するのが望ましい。
一方ステップ6において判定の基準となる強度条件の一つは、ピニオン歯35の歯元の曲げ強さであり、他の一つは、歯面の疲れ強さである。歯元の曲げ強さは、平歯車において曲げ応力σの計算式として用いられている下式(ルイスの式)を用いて評価する。
Figure 0004617716
式中のFは、歯面法線荷重であり、ラックピニオン式のステアリング装置が装備される車両側からの設計条件として与えられる。また式中のωは、荷重線と歯形中心線とのなす角の余角、hは、荷重線と歯形中心線との交点から危険断面までの距離、Sは、危険断面の歯厚であって、これらは、はす歯のピニオン歯35の場合、次式により求められる。
Figure 0004617716
なお式中のαは、工具の圧力角、ρは、工具の歯先丸み半径、hは歯末の歯丈であり、θは、下式により求められる。
Figure 0004617716
一方歯面の疲れ強さは、ヘルツの弾性接触論を適用して、下式により求められる歯面接触応力σを用いて評価する。
Figure 0004617716
式中のEは、歯車材料の縦弾性係数、zは小歯車の歯数、zは大歯車の歯数、βは基礎円筒捩れ角、Nは歯幅有効度、εは正面噛み合い率、bは軸直角歯幅、αbsは正面噛み合い圧力角である。また、Pは歯直角方向の接線荷重、dは小歯車噛み合いピッチ円直径であって、夫々下式による求められる。
Figure 0004617716
ステップ6においては.前述の如く圧力角α、歯数z及び捩れ角βが設定されたピニオ
ン歯35において、式(15)式により算出される曲げ応力σ と式(22)式により算出される歯面接触応力σ とが、材料の許容応力を超えないものを強度条件を満たすと判定する。
以上の手順により24°≦α≦30°なる範囲内に存在する圧力角αと、35〜60mmなる範囲内に存在する一般的なストロークレシオSとを有する条件下において、良好な噛み合いが可能であり、しかも十分な曲げ強さ及び疲れ強さを有するピニオン歯35の歯諸元が決定されることとなり、この歯諸元は、
モジュールm : l.8≦m≦2.0
歯数z : 7≦z≦13
歯丈h : 2m≦h≦2.5m
振れ角β : β≦35°
となる。
例えば、圧力角α=27°である場合、ストロークレシオSが40mm/revである−般的な設計条件下において、捩れ角β=33°とした場合、ピニオン歯35の最適な歯諸元は、モジュールmが1.8mmとなり、歯数zが図7に示す如く7枚となる。
ここで、前述した設計条件下において従来一般的に採用されているピニオン歯35の標準的な歯諸元は、圧力角α=14.5°、モジュールm=2.5、歯数z=5である。ここでの歯諸元は、モジュールmが小さく、歯数zが多くなっており、小サイズのピニオン歯35を多数枚備える構成となっている。
このようなピニオン歯35の歯諸元を備えるラックピニオン式ステアリング装置において、ラック軸32に負荷を加えない状態でピニオン軸31を回転させるために必要な回転トルク(=操舵軸回りのトルク)を測定する試験を行った結果、図10に示すように、必要な回転トルクは0.4〜0.5Nm程度であった。これに対し、前述した標準的な歯諸元を備える従来のラックピニオン式ステアリング装置において同様の試験を行った結果、必要な回転トルクは1.2Nmであった。
この回転トルクは、ラック歯36とピニオン歯35との間の噛み合い摩擦の操舵軸回りのトルク換算値に相当するものであり、このラックピニオン式ステアリング装置によれば、試験時における条件設定の誤差を考慮に入れたとしても、噛み合い摩擦の大幅な低減が可能となることが明らかであり、具体的には、0.6Nm以下の摩擦にすることが可能である。なお、ラック歯36とピニオン歯35との間の噛み合い摩擦の操舵軸回りのトルク換算値の上限としては、0.5Nmが好ましい。摩擦を小さくすることにより、ステアリングギヤ3におけるトルク伝達効率が向上する。また、同値の下限としては、0.3Nmが好ましく、さらには0.4Nmが好ましい。
また、ステアリングギヤの逆転入力測定データは、図11に示す通りであり、80N程度とされている。
ステアリングギヤにおける摩擦を小さくした結果、ステアリングホイール1を操作する運転者に路面からの反力が直接的に伝わるようになり、例えば、路面反力が小さい低μ路の高速走行時における操舵感の向上を実現することができる。
また、前述した歯諸元の採用により、ピニオン歯35の歯元強度の低下が予想されるが、この低下は、大なる圧力角αの採用により歯元の歯幅が増大し、また歯数zの増加により正面噛み合い率が大きくなることにより緩和されるから、標準的な歯諸元を採用した場合に比して大幅な歯元強度の低下は生じず、前述の如くステアリングホイール1の操作力及びモータ9の回転力が負荷される電動パワーステアリング装置における耐久試験によっても十分な耐久性を有することが確かめられている。
なお歯元強度の低下を補うためには、次に述べる歯面形状の修正を併用するのが望ましい。図12は、望ましい歯面形状の修正形態を示す説明図である。本図は、ピニオン歯35の歯面を縦横にメッシュ分割して示す図であり、この歯面は、歯形方向には、歯先の圧力角が歯元の圧力角よりも大きい負の圧力角誤差を設定し、ラック歯36との噛み合い応力が増す方向の圧力角誤差を与えた上で、中央が凸となる歯形修正が施され、また歯筋方向には、クラウニングが施された修正歯面形状となっている。
このような歯面形状の修正により、ピニオン歯35の歯面における接触応力の分布を、歯筋方向及び歯形方向に均等化することができ、歯面の偏摩耗を防止して歯元強度の不足を補い、耐久性の向上を図ることができる。なお、前述した歯諸元を有するピニオン歯35において、前記クラウニングの適正量は、中央部での最大値が10μm前後であり、前記歯厚誤差の適正量は、歯先部での最大値が20μm前後である。
図13は、歯面形状修正の効果を調べるべく、所定の耐久試験の実施後におけるピニオン歯35の歯面の摩耗量を測定した結果を示す図である。図中に白抜きして示す棒グラフは、前述した歯面形状の修正を行った場合の結果を、また図中にハッチングを施して示す棒グラフは、歯面形状の修正を行わなかった場合の結果を夫々示しており、更に、図中にクロスハッチを施して示す棒グラフは、歯筋方向のクラウニングのみを実施した場合の結果を示している。
図の左側の3組の棒グラフは、基礎円近傍での歯筋方向の摩耗量の分布を示しており、左側から順に、ピニオン軸31の先端側の歯当たり境界部近傍、ピニオン軸31の歯筋方向の中央部近傍、及びピニオン軸31の基端側の歯当たり境界部近傍での測定値を夫々示してある。これらにより、クラウニングのみを行った場合、摩耗量の総量は歯面形状修正を行わなかった場合と同程度であるが、摩耗量の分布が歯筋方向に均等化されていることが明らかであり、前述した歯面形状修正を行った場合、クラウニングによる均等化を維持したまま、歯筋方向の全般において摩耗量が大幅に低減することが明らかである。
図の右側の2組の棒グラフは、歯形方向の摩耗量の分布を示しており、左側の1組は、
歯先近傍での測定値を、右側の1組は、歯形方向の略中央部での測定値を示してある。こ
れらにより、前述した歯面形状修正を行った場合、歯形方向においても、クラウニングに
よる均等効果を維持したまま摩耗量を大幅に低減することが可能となる。
なお以上の説明においては、歯形方向に、ラック歯36とピニオン歯35との噛み合い応力が増す方向の圧力角誤差を、歯先の圧力角が歯元の圧力角よりも大きい負の圧力角誤差を与えて実現しているが、歯元の圧力角が歯先の圧力角よりも大きい正の圧力角誤差を与えることによっても前記噛み合い応力の増加を実現することができる。
[2.2 減速機]
[2.2.1 減速機に関する考察]
従来の電動パワーステアリング装置では、電動モータの回転トルクを、ウォームギヤを介して操舵軸へ伝達しているのが一般的である。
しかし、ウォームギヤは、回転トルクの伝達効率が60〜80%と比較的低いことから、減速比を不変とした場合、所定の回転トルクを伝達するためには出力トルクがより大きい電動モータが必要となる。したがって、結果的に電動モータの外形が大きくなり、ステアリング装置全体のコンパクト化が困難であるという問題点があった。そこで、電動モータの出力軸を操舵軸と略平行になるよう取り付け、回転トルクの伝達効率が比較的高い平歯車またははすば歯車を使用する減速機が考案されている。
平歯車またははすば歯車を減速機に使用した場合、回転トルクの伝達効率は約95%と比較的高くなることから、それだけ電動モータの出力トルクを減じることができ、電動モータの外形の肥大化を抑制することで、ステアリング装置全体をコンパクトにすることが可能となる。
しかし、例えば平歯車を使用する減速機を用いる場合、電動モータの出力軸に設けられる歯車と、該歯車に噛合する操舵軸に取り付けられた歯車の1段構成で必要な減速比を得ようとすると、操舵軸側歯車のピッチ円が大きくなり、ステアリング装置全体としてコンパクト化を図ることが困難であるという状況は改善されない。
一方、平歯車を用いた減速機として、1段構成の減速機ではなく、例えば中間ギヤを介在させた多段構成の減速機を用いる場合、ステアリング装置全体としてコンパクト化を図ることはできるが、バックラッシの増加による心地よい操舵フィーリングの減退や、減速機の構造の複雑化に伴うコストアップが生じる等、新たな問題点が生じる。
斯かる問題点を解決するために、例えば特許文献12では、高い減速比に設定された一対の平歯車、またははすば歯車で構成された減速機をハウジング内に収納し、電動モータを操舵軸が収納されるハウジングに近接して設けることで、電動モータ及び減速機を配置したステアリング装置全体をコンパクトにすることができる電動パワーステアリング装置が開示されている。
特許文献12に開示されている電動パワーステアリング装置では、通常のインボリュート歯形では歯車の強度の確保が困難であることから、所定の特殊理論に基づいた歯形を用いることで、歯面強度を確保している。
しかし、特許文献12に開示されている特殊理論に基づいた歯形は、構造上実際に製造することは困難であり、量産工程において高品質の減速機を安定して供給することができるか否かが問題となる。すなわち、特殊理論に基づいた歯形を用いていることから、減速機の性能は歯車のアライメント誤差の影響を強く受けやすい。したがって、量産工程で高い加工精度及び組立精度が要求される。また、既存の製造設備では加工できない、加工精度の検査方法が確立されていない等、実際に量産工程に移行するには多くの課題が残されている。
そこで、一対の平歯車またははすば歯車で構成された場合であっても所定の減速比を実現し、簡易な構造で十分な歯車強度を確保するには、次の構成が好ましい
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、電動モータの回転トルクを、該電動モータの出力軸に設けた駆動歯車及び操舵軸に設けた従動歯車で該操舵軸へ伝達し、減速比が3以上である電動パワーステアリング装置において、前記操舵軸と前記電動モータの出力軸とが略平行に配置され、両軸の軸間距離は35mm以上85mm以下であり、前記駆動歯車は、歯数が6以上15以下、モジュールが0.8以上1.5以下、歯丈がモジュールの2.6倍以下、圧力角が20度以上30度以下、振れ角が0度以上40度以下であることを特徴とする。
この電動パワーステアリング装置では、操舵軸と電動モータの出力軸とが略平行である一対の歯車を用いることから、回転トルクの伝達効率が高く、ステアリング装置全体としてコンパクトに配置できる。また、上述した諸元寸法により、所定の特殊理論に基づいた歯形を用いることなく、通常の製造工程で製造可能な歯車を用いた場合であってもトロコイド干渉クリアランス、歯先の歯厚、及び歯面応力の適正値を確保することが可能となる。
また、前記駆動歯車及び前記従動歯車の一方、または両方の歯車で、歯車の歯先から歯元にかけて圧力角が増加するよう歯形を形成したインボリュート歯車を用いるのが好ましい。歯車の歯先から歯元にかけて圧力角が増加するよう歯形を形成したインボリュート歯車を用いることにより、最大トルク負荷時の歯元応力を軽減することができ、歯車の耐久性を確保することが可能となる。
また、前記駆動歯車及び前記従動歯車の一方、または両方の歯車において、歯筋方向にクラウニング処理を施したインボリュート歯車を用いるのが好ましい。歯筋方向にクラウニング処理を施したインボリュート歯車を用いることから、歯面応力が緩和される。これにより、定格負荷条件下での連続運転を行う場合であっても、歯車の耐久性を確保することが可能となる。
上記構成によれば、操舵軸と電動モータの出力軸とが略平行である一対の歯車を用いることから、回転トルクの伝達効率が高く、全体としてコンパクトに配置された電動パワーステアリング装置とすることができる。また、上述した諸元寸法により、所定の特殊理論に基づいた歯形を用いることなく、トロコイド干渉クリアランス、歯先の歯厚、及び歯面応力の適正値を確保することが可能となる。
[2.2.2 減速機の好ましい形態]
図1に示すように、減速機8は、操舵軸2の出力軸24に設けられた大歯車(従動歯車)81と、電動モータ9の出力軸91に設けられた小歯車(駆動歯車)82とを備えた平歯車またははすば歯車によって構成される。平歯車またははすば歯車を用いることにより、電動モータ9を操舵軸2と略平行となるよう配置することができる。しかし、操舵軸2と電動モータ9の出力軸91との軸間距離Lに応じて、電動モータ9の外形寸法にレイアウト上の物理的な制約が生じる。例えば、レイアウト上の制約より、電動モータ9の最大許容外形寸法は、直径73mm、高さ95mmとなる。この場合、操舵軸回りの操舵補助トルクとして35Nm以上の回転トルクを確保するため、定格トルクを4Nm、軸間距離Lを55mmとして、減速比は10前後(9.7)に設定される。減速比は、具体的には、11〜8程度が好ましく、さらには10〜9程度が好ましい。
図14は、操舵軸2と電動モータ9の出力軸との軸間拒離Lを55mm、減速比を10、捩れ角βを25度とした場合の、小歯車82、の歯数Zと小歯車82のモジュールmとの関係を示す図である。小歯車82のピッチ円の直径d(=ZXm)は8〜10mm程度であるが、歯数が極端に多い、または極端に少ない状況を回避すべく、歯数Zは6以上15以下、モジュールmは0.8以上1.5以下が実用に耐える範囲である。
次に、歯車の製造誤差と、定格負荷運転を実施する場合の歯車の歯の弾性変形量を考慮し、トロコイド干渉クリアランス、歯先の歯厚を適正値とすべく圧力角αを選定する。図15は、歯数Zが10、モジュールmが0.95であり、歯丈hがモジュールmの2.25倍である場合の、小歯車82の圧力角αとトロコイド干渉クリアランス、及び歯先の歯厚との関係を示す図である。図15で丸印はトロコイド干渉クリアランスを、四角印は歯先の歯厚をモジュール値で除算した値を、夫々示す。
トロコイド干渉が発生するのを回避するためには、トロコイド干渉クリアランスは0.3mm以上必要である。図15に示すように、圧力角αがJIS(日本工業規格)で標準値として定められている20度以上で35度以下である場合には、トロコイド干渉クリアランスは圧力角αが23度以上の領域で0.3mm以上になるので、トロコイド干渉は発生しない。一方、歯先強度を確保するためには、歯先の歯厚はモジュールmの0.3倍以上必要である。図15に示すように、歯先の歯厚がモジュールmの0.3倍以上であるためには、圧力角αは27度以下とする必要がある。なお、振れ角βは0度以上40度以下が実用域である。
また、小歯車82及び大歯車81の材質として鋼材を用いる場合、補助回転トルクにより生じる小歯車82の歯に直角な方向の接線荷重Pに対する歯面応力σは、次式を用いて近似的に求めることができる。
Figure 0004617716
なお、式(31)において、Eは歯車の材料(本実施の形態では鋼材)の縦弾性係数を、εは歯車の正面噛合い率を、bは小歯車82の歯幅を、dは小歯車82の噛合いピッチ円直径を、αは小歯車82の噛合い圧力角を、βは小歯車82の基礎円筒捩れ角を、Zは小歯車82の歯数を、Zは大歯車81の歯数を、Nは歯幅の有効度を、それぞれ示している。
図16は、式(31)で、Eを206000N/mm、Pを946N、bを14mm、Zを10、Zを97、mを0.95、圧力角αを25度、捩れ角βを25度、dを10.308mm、αを25.283度、βを22.521度、Nを0.995とした場合の、小歯車82の歯丈hに対する歯面応力σ及び歯先の歯厚の関係を示す図である。図16で丸印は歯面応力を、四角印は歯先の歯厚をモジュール値で除算した値を、夫々示す。
歯面応力σの目標値を、自動車の動力伝達系歯車の設計上の閾値1760N/mm以下とし、歯先の歯厚の目標値を、モジュールmの0.3倍以上とした場合、図16からも明らかなように、歯丈hをモジュールmの2.4倍以下とした場合に、両方の条件を同時に満たすことができる。
図17は、本発明の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置に使用する減速機8の歯面形状の説明図である。歯元強度の低下を補うため、大歯車81もしくは小歯車82のいずれか、または一対の歯車の双方の歯面形状を図17に示す形態で形成する。図17では、小歯車82の歯面を縦横にメッシュ分割して示す。歯形方向は、歯先の圧力角が歯元の圧力角よりも大きくなるよう負の圧力角誤差を設け、相互の噛合い応力が増加する方向に、すなわち中央部分が凸となるよう歯面形状を形成する。また歯筋方向にはクラウニング処理を施し、歯筋方向にも中央部分が凸となるよう歯面形状を形成する。
斯かる歯面形状とすることで、減速機8に使用する小歯車82の歯面における接触応力の分布を、歯形方向及び歯筋方向に均等化することができ、歯面の偏磨耗を防止して歯元強度の不足を補い、耐久性の向上に寄与することが可能となる。
この減速機8では、耐久性の面からも、バックラッシを許容しているが、バックラッシは非線形のむだ時間要素であり、また歯打ち音の要因ともなるため、極力小さくするのが望ましい。この点を踏まえ、加工および組立精度を考慮して、バックラッシを極力小さくしつつも許容した。バックラッシを許容することで同時に摩擦が大幅に低減された。
このようなアシストモータ9用の1段はすば歯車減速機8において、操舵軸2回りのトルクを測定する試験を行った結果、図18に示すように必要な回転トルクは0.26Nm程度であった。
この回転トルクは、小歯車82と大歯車81との間の噛み合い摩擦の操舵軸回りのトルク換算値に相当するものであり、この減速機8によれば、噛み合い摩擦を低く抑えることが可能となる。具体的には、0.6Nm以下の摩擦にすることが可能である。なお、両歯車81,82の噛み合い摩擦の操舵軸回りのトルク換算値の上限としては、0.5Nmが好ましく、さらには0.4Nmが好ましく、さらには0.3Nmが好ましく、さらには0.2Nmが好ましい。同値の下限としては、0.1Nmが好ましい。
減速機8からモータ9の間に存在する摩擦は、アシスト時と非アシスト時の引き摺り感に差を生じさせるため、極力小さいのが望ましく、上記程度の値であれば、好ましい操舵フィーリングを得る観点からは、十分に小さいものとなる。
また、前記1段はすば歯車減速機8の効率は、図19に示すように、90%以上が確保され、具体的には97%に達することができた。減速機8の効率が向上したことにより、モータへの負荷が大幅に軽減された。
[2.3 ステアリングギヤ及び減速機の摩擦に関する考察]
摩擦は、入力周波数に依存せず、正逆いずれの入力に対しても一定の抵抗として作用し、トルク伝達効率低下の主要因子である。操舵フィーリング上は常に引き摺り感として現れる。一方で、外乱に対してはフィルタ効果を呈することからフィルタ効果の観点からみると摩擦がある程度大きくてもよいが、摩擦が大きいと必要な路面情報までも遮断してしまう。
かかる観点からは、ステアリングギヤ3の摩擦と減速機8の摩擦の和の上限値としては、1Nm以下とするのが好ましく、さらには0.9Nmが好ましく、さらには、0.8Nmが好ましい。また、この和の下限値としては、0.5Nmが好ましく、さらには、0.6Nmが好ましい。
この程度に小さい摩擦であれば、操舵機構A全体としても電子制御システムに適した素直さを有する系が得られる。
[3.操舵アシスト用モータについて;ロータ慣性]
操舵アシスト用のモータ9は、3相ブラシレスモータであり、具体的には、永久磁石のSN各極が周方向に並ぶロータを内部に有するブラシレスモータによりなる。
操舵アシスト用モータ9のトルク伝達効率を低下させる要素としては、モータのロストルク、コギングトルク、ロータ慣性が挙げられる。なお、コギングトルクは、モータにおける極数やスロット数などの構造上の原因で生じるトルクムラである。
これらの要素は、モータのトルク伝達効率を向上させるため、小さい値であるのが好ましい。具体的には、ロストルクは、0.35Nm以下(操舵軸回り換算値)、コギングトルクは0.12Nm以下(操舵軸回り換算値)、ロータ慣性は0.012kgm以下(操舵軸回り換算値)であるのが好ましい。
なお、ロストルクとコギングトルクは、モータ9のトルク伝達効率を低下させる要因ともなるため、これらも小さく抑えるのが好ましい。この観点からは、ステアリングギヤ3の摩擦、減速機8の摩擦、モータ9のロストルク、モータ9のコギングトルクの総和(操舵軸回り換算値)の上限としては、1.35Nmが好ましい。また、当該総和の下限としては0.5Nmが好ましく、さらには0.6Nmが好ましい。また、当該総和は、1.2Nm程度であるのが好ましい。
本実施形態では、モータ9として、SN各極が5対(合計10極)でかつステータが4対(UVW3相で合計12スロット)のもの、すなわち10極12スロットのものを採用した。図20は、この10極12スロットのモータの特性曲線(コギングトルク曲線)を示している。ただし、このモータ特性曲線は、モータ出力軸回りのものである。
図20に示すように、10極12スロットのモータ9では、ロストルクが約0.02Nm(モータ出力軸回り)であり、コギングトルクが約0.008Nm(モータ出力軸回り)である。なお、図20の波形のP−P(Peak to Peak)最低値が0.016Nmであり、P−P最高値が0.024Nmである。
これらの、モータ出力軸回りのロストルク及びコギングトルクを操舵軸回りの値に換算すると、ロストルク(操舵軸回り換算値)=0.02Nm×コラム減速比9.7=0.19Nmであり、コギングトルク(操舵軸回り換算値)=0.008Nm×コラム減速比9.7=0.08Nmであり、トルク伝達効率を高くするためのロストルクとコギングトルクの上記上限値より小さくなっていることがわかる。
また、10極12スロットと同様に、ロストルクを0.35Nm以下、コギングトルクを0.12Nm以下にできるものとしては、8極12スロット、14極12スロット、12極18スロット、10極15スロットなどが確認できた。
記述のように本実施形態では、ステアリングギヤの摩擦、減速機の摩擦、モータのロストルク、モータのコギングトルクといったトルク伝達効率を低下させる要素が小さくなっているため、大出力モータや高減速比の減速機を用いる必要がない。よって、比較的出力が小さく、ロータ慣性が小さいモータ9であっても必要なアシストトルクを得ることができる。
この程度に小さいロータ慣性であれば、機械系が低慣性の素直なものとなり、慣性感が少ない良好な操舵フィーリングが得られる。
なお、モータ9は、操舵軸2に対して平行かつ鉛直下方に配置されているため、モータ9に作用する操舵軸2回りの慣性力及び左右差が低減されている。
[4.モータドライブ回路(駆動回路)について]
[4.1 モータドライブ回路に関する考察]
ブラシレスモータを用いた電動パワーステアリング装置では、通常、モータドライブ回路(以下、「駆動回路」ということもある)が故障した場合に、必要に応じてモータドライブ回路とモータとを電気的に切り離すための開閉手段(典型的にはリレー)が設けられている。この場合、コストやスペースの制約から、リレー等の開閉手段の個数はできるだけ少ない方が好ましいので、モータドライブ回路からモータに供給される電流を遮断するのに必要な最低限の個数の開閉手段が使用されている。例えば3相のブラシレスモータを使用した電動パワーステアリング装置では、ドライブ回路からモータに供給される3相の電流のうち2相の電流の供給を遮断するために2個の開閉手段としてのリレーが使用される。
上記のように開閉手段として使用されるリレーの個数を最低限にした構成では、ブラシレスモータと駆動回路との間の各相の電流経路においてリレーが介在する相と介在しない相とが存在する。このため、ブラシレスモータと駆動回路とからなるモータ・駆動回路系における抵抗成分について相間で差が生じ、このような回路構成を有する電動パワーステアリング装置では、ブラシレスモータに印加すべき相電圧(指令値)を入力とし当該モータに実際に流れる相電流を出力とする伝達要素としてのモータ・駆動回路系のゲインや位相が相間で異なることになる。その結果、ブラシレスモータの各相について制御上で等しい電圧が印加されたとしても、ブラシレスモータに流れる電流の振幅および位相につき相間で差が生じる。このようなモータ電流の相間での差は、ブラシレスモータにおいてトルクリップルを発生させる要因となるので、操舵操作において運転者に違和感を感じさせるとともにトルク伝達効率を低下させることになる。
そこで、モータ・駆動回路系のゲインや位相の相間での相違に起因するトルクリップルを抑えるには、次の構成が好ましい。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、車両操舵のための操作に応じて決定される目標値に基づきブラシレスモータを駆動することにより当該車両のステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置であって、前記目標値に基づき、前記ブラシレスモータに印加すべき電圧の指令値を算出する制御演算手段と、前記指令値に基づいて前記ブラシレスモータを駆動する駆動回路と、前記ブラシレスモータおよび前記駆動回路を含むモータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が所定値以下になるように、当該モータ・駆動回路系における抵抗成分を調整する抵抗調整手段とを備えることを特徴とする。
上記構成によれば、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が所定値以下となるので、各相についてのモータ・駆動回路系のゲインおよび位相が互いにほぼ等しくなり、その結果、ブラシレスモータのいずれの相についても、同一の相電圧が印加された場合にはほぼ同一の相電流が流れる。これにより、ブラシレスモータにおけるトルクリップルを低減し、操舵操作において運転者に違和感を与えないようにすることができ、トルク伝達効率も向上させることができる。
さらに、前記駆動回路から前記ブラシレスモータへの電流供給のために前記ブラシレスモータの相毎に設けられた電流供給経路のうち少なくとも1つの電流供給経路に挿入された開閉手段(例:リレー素子)を備え、前記抵抗調整手段は、前記電流供給経路の抵抗値の各相間での差が所定値以下となるように、前記開閉手段の閉状態における抵抗値に応じた抵抗値を有する抵抗であって前記開閉手段が挿入されていない前記電流供給経路に挿入された抵抗を含むのが好ましい。
この場合、駆動回路からブラシレスモータに電流を供給するための電流供給経路の抵抗値の各相間での差が所定値以下となるので、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が解消または低減される。これにより各相についてのモータ・駆動回路系のゲインおよび位相を互いにほぼ等しいものとすることで、ブラシレスモータにおけるトルクリップルを低減し、操舵操作において運転者に違和感を与えないようにすることができる。
また、前記駆動回路は、電源側に配置されたスイッチング素子であるHi側スイッチング素子と接地点側に配置されたスイッチング素子であるLo側スイッチング素子とからなる互いに直列に接続されたスイッチング素子対を前記ブラシレスモータの相数だけ並列に接続して構成され、前記Hi側スイッチング素子と前記Lo側スイッチング素子との接続点が前記電流供給経路を介して前記ブラシレスモータに接続されており、前記抵抗調整手段は、前記電源から前記Hi側スイッチング素子までの電流経路であるHi側電流経路の抵抗値の各相間での差、および/または、前記Lo側スイッチング素子から前記接地点までの電流経路であるLo側電流経路の抵抗値の各相間での差が所定値以下となるように、前記Hi側電流経路および/または前記Lo側電流経路の抵抗値を調整するための抵抗を含むのが好ましい。
この場合、Hi側電流経路の抵抗値の各相間での差、および/または、Lo側電流経路の抵抗値の各相間での差が所定値以下となるので、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が低減または解消される。これにより各相についてのモータ・駆動回路系のゲインおよび位相を互いにほぼ等しいものとすることで、ブラシレスモータにおけるトルクリップルを低減することができる。
さらにまた、前記抵抗調整手段は、前記電流供給経路の配線および/または前記駆動回路内の配線のためのバスバーであって、前記モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が所定値以下になるように断面積および/または長さが調整されたバスバーを含むのが好ましい。
この場合、配線のためのバスバーの断面積および/または長さが適切に設定されることでモータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が所定値以下となる。このため、相間での抵抗調整のための抵抗器等を別途付加する必要がないので、コスト増を抑えつつモータ・駆動回路系のゲインおよび位相の各相間での差を解消または低減することができる。
[4.2 モータドライブ回路の従来技術に関する基礎的検討]
図23は、電動パワーステアリング装置における電流制御系の構成を示すブロック線図である。この電流制御系では、モータ9に流すべき電流の目標値を入力としモータ9に流れる電流を出力としており、電流目標値とモータ9に流れる電流の値との偏差に対して比例積分制御演算(以下「PI制御演算」という)が行われ、それにより決定される電圧がモータ9に印加される。ここで、ブラシレスモータが使用される場合、当該モータは、各相につき、1相分のインダクタンスLと抵抗Rとにより決まる1次遅れ要素として扱うことができ、その伝達関数はK/(L・S+R)と表現することができる(Kは定数)。しかし、実際にはモータや駆動回路の配線抵抗などを含む外部抵抗も存在するので、これを考慮して駆動回路とモータとを1つの伝達要素であるモータ・駆動回路系として扱うことにすると、このモータ・駆動回路系の伝達関数Gm(s)は次式のようになる。
Gm(s)=Km/(L・s+R+R’)・・・(41)
ここで、Kmは定数であり、R’は、モータや駆動回路の配線抵抗等を含む外部抵抗であ
る。
モータ・駆動回路系では上記伝達関数Gm(s)を決定する特性値L,R,R’のうちモータ9のインダクタンスLおよび内部抵抗Rについての各相間での差は、ほとんど無視できる程度である。しかし、既述のように、開閉手段としてリレーが挿入される場合、そのリレーは、通常、全ての相について挿入されるわけではないので、外部抵抗R’につき相間で差が生じている。また、駆動回路において、電力用MOSトランジスタ等のスイッチング素子と電源または接地点との間の配線に使用されるバスバーの長さを相間で揃えるのが困難であること等により、上記の外部抵抗R’が相間で相違することもある。したがって、ブラシレスモータを使用する従来の電動パワーステアリング装置では、このような外部抵抗R’の相間での差に起因して、伝達要素としてのモータ・駆動回路系のゲインや位相が相間で相違する。
このような相違がモータ・駆動回路系の応答性につき相間で無視できない差異を生じさせることが、モータ・駆動回路系の周波数特性の測定により確認されている。
すなわち、図25は、ブラシレスモータを使用した電動パワーステアリング装置におけるモータ・駆動回路系の周波数特性についての2つの測定例を示すボード線図であり、図25において実線で示す曲線は、第1の測定例における測定結果としてのゲイン特性および位相特性を示すものであって、モータの線間のインダクタンスLが162[μH]で、線間の内部抵抗Rが53[mΩ]で、線間の外部抵抗R’が6[mΩ]であるときの、モータ・駆動回路系の線間についての周波数特性を示している。この測定例における外部抵抗R’(=6[mΩ])には、上記リレー2個のオン状態の抵抗である接触抵抗(=2×1.5[mΩ])が含まれている。これに対し、図25において点線で示す曲線は、第2の測定例における測定結果としてのゲイン特性および位相特性を示すものであって、モータ線間のインダクタンスLが162[μH]で、線間の内部抵抗Rが53[mΩ]で、線間の外部抵抗R’が4.5[mΩ]であるときの、モータ・駆動回路系の線間についての周波数特性を示している。この測定例は、リレー(開閉手段)を1個含まない線間を対象とするものであって、この測定例における外部抵抗R’(=4.5[mΩ])には、上記リレー1個の接触抵抗は含まれていない(他の測定条件は第1の測定例と同様である)。これら第1および第2の測定例の測定結果を示すボード線図(ゲイン特性および位相特性)より、リレーの挿入される相と挿入されない相との間ではモータ・駆動回路系の応答性(相電流の振幅および位相)に無視できない差が生じることがわかる。
そこで本実施形態では、ブラシレスモータを使用した電動パワーステアリング装置において、モータ・駆動回路系のゲインや位相の各相間での差を解消すべく、モータ・駆動回路系のうちリレーが挿入されていない相に対応する電流経路に適切な抵抗体を設ける等によりモータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間の差を解消または低減する抵抗調整手段を備えた構成となっている。
[4.3 ドライブ回路(駆動回路)を含む制御装置の全体構成]
図21は、モータドライブ回路(モータ駆動回路)150を含む制御装置(ECU)105を示している。ステアリング装置は、制御装置105に関連した構成要素として、操舵補助用の電動モータ(ブラシレスモータ)9と、モータ9のロータ回転位置を検出するレゾルバなどの位置センサ112と、トルクセンサ(操舵検出装置)7と、車速センサ104と、を備えている。前記制御装置105は、センサ112,7,104からのセンサ信号に基づきモータ9の駆動を制御する。
トルクセンサ7は、その操作による操舵トルクを検出し、操舵トルクを示す操舵トルク信号Tsを出力する。一方、車速センサ104は、車両の走行速度である車速を検出し、車速を示す車速信号Vsを出力する。制御装置としてのECU105は、それら換舵トルク信号Tsおよび車速信号Vsと、位置センサ112によって検出されるロータの回転位置とに基づいて、モータ9を駆動する。
前記ECU105は、車載バッテリ180からイグニッションスイッチを介して電流の供給を受けるものであり、モータ制御部120とモータ駆動部130とリレー駆動回路170と2個の電流検出器181,182とを備えている。モータ制御部120は、マイクロコンピュータで構成される制御演算手段であって、その内部のメモリに格納された所定のプログラムを実行することにより作動する。モータ駆動部130は、PWM信号生成回路140と駆動回路150とから構成される。
なお、モータ駆動部130は、モータ9の近傍に配置されて、必要最低限の長さの配線によって当該モータ9と結線されており、電気抵抗を小さくしている。また、モータ駆動部130は、トルクセンサ7、車速センサ104、電流検出器181、モータ位置センサ(モータ回転角センサ)112の駆動回路及びインターフェース回路と、モータ制御部(マイクロコンピュータ等)120とともに、同一ケース内に収納されており、当該ケースがモータ9の近傍に配置されている。
駆動回路150は、電源ライン側に配置されモータ9のU相、V相、W相にそれぞれ対応する電力用スイッチング素子であるFET(電界効果トランジスタ)151H,152H,153Hと、接地ライン側に配置されモータ9のU相、V相、W相にそれぞれ対応する電力用スイッチング素子であるFET151L,152L,153Lとを備えており、同一相に対応する電源ライン側FET(以下「Hi側FET」と略記する)15jLと接地ライン側FET(以下「Lo側FET」と略記する)15j Hとが互いに対となるように直列に接続されている(j=1,2,3)。一般に、FET151H〜153Hを含む電源ライン側の回路部分は「上アーム」と呼ばれ、FET151L〜153Lを含む接地ライン側の回路部分は「下アーム」と呼ばれる。上アームと下アームとの各接続点Nu,Nv,Nwは、モータの各相の端子9u,9v,9wと電力用のリード線(具体的にはバスバーで構成される)によって接続されており、これにより、駆動回路150からモータ9に駆動用の電流を供給するための電流供給経路が相毎に形成されている。そして、u相に対応する接続点Nuとモータ端子9uとを接続するリード線により形成される電流供給経路(以下「u相用電流供給経路」という)にはリレー191が、V相に対応する接続点Nvとモータ端子9vとを接続するリード線により形成される電流供給経路(以下「V相用電流供給経路」という)にはリレー192が、それぞれ挿入されている。また、駆動回路150においてHi側FET151H〜153Hのソース端子が互いに接続される接続点(後述の電源側分岐点)とバッテリ180との間にもリレー190が挿入されている。これに対し、W相に対応する接続点Nwとモータ端子9wとを接続するリード線により形成される電流供給経路(以下「w相用電流供給経路」という)にはリレーが挿入されていない。
2個の電流検出器181,182のうち一方の電流検出器181は、駆動回路150の接続点Nuとモータ端子161とを繋ぐリード線(u相用電流供給経路)に流れるu相電流iuを検出し、他方の電流検出器182は、駆動回路150の接続点Nvとモータ端子9vとを繋ぐリード線(V相用電流供給経路)に流れるV相電流ivを検出する。これらの電流検出器181,182で検出された電流値は、それぞれu相電流検出値IuおよびV相電流検出値Ivとしてモータ制御部120に入力される。
モータ制御部120は、トルクセンサ7で検出された操舵トルクと、車速センサ104で検出された車速と、電流検出器181,182で検出されたu相およびv相電流検出値iu、ivとを受け取る。また、モータ制御部120は、アシストマップと呼ばれる、操舵トルクと目標電流値とを対応づけるテーブルを参照して、操舵トルクと車速とに基づいて、モータ9に流すべき目標電流値を決定する。そして、その目標電流値と上記モータ電流検出値iu,ivから算出されるモータ電流値との偏差に基づく比例積分演算により、モータ9に印加すべき各相電圧の指令値Vu,Vv,Vwを算出する。
このような各相電圧の指令値Vu,Vv,Vwの算出において、通常、モータ駆動に関する3相交流としての電圧および電流が、モータのロータとしての界磁による磁束の方向のd軸と、d軸に垂直でd軸からπ/2だけ位相の進んだq軸とからなる回転する直交座標系(「d−q座標」と呼ばれる)で表現される。このようなd−q座標によれば、モータに流すべき電流をd軸成分とq軸成分とからなる直流電流として扱うことができる。この場合、上記のu相およびv相電流検出値iu,ivから座標変換によってモータ電流値のd軸成分およびq軸成分が算出された後、上記目標電流値のd軸成分とモータ電流値のd軸成分との偏差に基づく比例積分演算によってd軸電圧指令値が算出されると共に、上記目標電流値のq軸成分とモータ電流値のq軸成分との偏差に基づく比例積分演算によってq軸電圧指令値が算出される。そして、これらd軸およびq軸電圧指令値から座標変換によって上記各相電圧の指令値Vu,Vv,Vwが算出される。
また、モータ制御部120は、上記のような各相電圧の指令値Vu,Vv,Vwを算出する外、所定の故障検出処理の結果に基づいてリレー駆動回路70を制御するためのリレー制御信号をも出力する。
モータ駆動部130では、PWM信号生成回路140が上記各相電圧の指令値Vu,Vv,Vwをモータ制御部120から受け取り、それらの指令値Vu,Vv,Vwに応じてデューティ比の変化するPWM信号を生成する。駆動回路150は、既述のようにHi側FET151H〜153HおよびLo側FET151L〜153Lを用いて構成されるPWM電圧形インバータであって、上記PWM信号でこれらのFET51H〜153Hおよび151L〜153Lをオン/オフさせることにより、モータ9に印加すべき各相電圧Vu,Vv,Vwを生成する。これらの各相電圧Vu,Vv,Vwは、ECU105から出力されてモータ9に印加される。この電圧印加に応じてモータ9の各相u、v、wのコイル(不図示)に電流が流れ、モータ9はその電流に応じて操舵補助のためのトルク(モータトルク)を発生させる。
リレー駆動回路170は、モータ制御部120から出力されるリレー制御信号に基づいて動作する。リレー駆動回路170は、故障が検出された旨を示す信号をモータ制御部120から受け取るまでは、リレー190,191,192を閉状態に保ち、モータ駆動部130およびモータ9への電源供給を続ける。モータ制御部120における故障検出処理で故障が検出されると、リレー駆動回路170は、モータ制御部120より故障が検出された旨を示す信号を受け取る。これにより、リレー駆動回路170は、リレー190,191,192を開状態にし、モータ駆動部130およびモータ9への電源供給を遮断する。
[4.4 モータ・駆動回路系の要部構成]
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置は、駆動回路150、ブラシレスモータ9、および、それらを接続するリード線等からなる構成部分であるモータ・駆動回路系において、抵抗成分についての各相間(u,v,w相の相互の間)での差を解消または低減するために以下のような構成を備えている。なお、本実施形態においても、このモータ・駆動回路系の伝達関数Gm(s)は、各相につき次式のように表現することができる(図23参照)。
Gm(s)=Km/(L・s+R+R’) …(42)
ここで、Kmは定数であり、R’は、モータ9や、駆動回路150、各相用電流供給経路を形成するリード線の配線抵抗等を含む外部抵抗である。
既述のように、駆動回路150内の接続点Nuとモータ端子9uとを接続するu相用電流供給経路にはリレー191が挿入され、駆動回路150内の接続点Nvとモータ端子9vとを接続するv相用電流供給経路にはリレー192が挿入されているが、駆動回路150内の接続点Nwとモータ端子9wとを接続するw相用電流供給経路にはリレーが挿入されていない。
そこで本実施形態では、そのw相用電流供給経路に、図21に示すように、リレー191または192のオン状態における抵抗値である接触抵抗値にほぼ等しい抵抗値を有する抵抗体Raが挿入されている。
このような抵抗体Raの挿入により、外部抵抗R’のうち駆動回路150とモータ9との電気的接続に関わる抵抗成分、すなわち駆動回路150からモータ9に電流を供給するための電流供給経路の抵抗値のu,v,w相の各相間での差が低減または解消される。なお、抵抗体Raの挿入については、具体的には、それに相当する抵抗器をリレーの挿入されていないw相用電流供給経路に挿入すればよいが、これに代えて、後述のようにw相用電流供給経路としてのリード線を形成するバスバーの断面積(幅または厚み)および/または長さを適切に設定することによって上記抵抗体Raの挿入を実現してもよい。
また本実施形態では、上記外部抵抗R’の各相間での差を解消すべく、駆動回路150内の配線抵抗についても調整が施されている。すなわち、図22(a)に示す3相電圧形インバータが駆動回路150として使用されている場合、電源とHi側のスイッチング素子であるFET151H〜153Hとの間の配線長や、接地点とLo側のスイッチング素子であるFET151L〜153Lとの間での配線長を相間で揃えるのが困難である。そこで本実施形態では、電源であるバッテリ8からHi側FET151H〜153Hへ至る電流経路のうちHi側FET151H〜153Hにそれぞれに向かって分岐する接続点(以下「電源側分岐点」という)NH以降のバスバー155Hが、図22(b)に示すような形状となっている。すなわち、バスバー155Hのうち電源側分岐点NHからHI側FET151Hのソース端子までの部分の幅W1、電源側分岐点NHからHi側FET152Hのソース端子までの部分の幅W2、および、電源側分岐点NHからHI側FET153Hのソース端子までの部分の幅W3が、電源側分岐点NHから3個のHi側FET151H〜153Hのソース端子までの配線の抵抗値が互いにほぼ等しくなるように設定されている(通常は、W1=W3>W2となる)。また、接地点からLo側FET151L〜153Lへ至る電流経路のうちLo側FET151L〜153Lにそれぞれに向かって分岐する接続点(以下「接地側分岐点」という)NL以降のバスバー155Lが、図22(c)に示すような形状となっている。すなわち、バスバー155Lのうち接地側分岐点NLからLo側FET151Lのソース端子までの部分の幅W4、接地側分岐点NLからLo側FET152Lのソース端子までの部分の幅W5、および、接地側分岐点NLからLo側FET53Lのソース端子までの部分の幅W6が、接地側分岐点NLから3個のLo側FET151L〜153Lのソース端子までの配線の抵抗値が互いにほぼ等しくなるように設定されている(通常は、W4=W6>W5となる)。
上記のように駆動回路150内の配線を形成するバスバーの幅W1〜W6の設定(調整)により、外部抵抗R’のうち駆動回路150内の配線に関わる抵抗成分のu,v,w相の各相間での差が低減または解消される。モータ9の内部抵抗Rの相間での差はほぼ無視できるので、上記のようにして外部抵抗R’を各相間で調整することで、モータ・駆動回路系における内部抵抗Rと外部抵抗R’の双方を含めた抵抗成分の各相間での差を所定値以下(好ましくは10%、さらに好ましくは5%以下)とすることができる。
なお、一般にバスバーの厚みや長さを変えることは容易ではないので、本実施形態では
、バスバー155H,155Lの幅W1〜W3,W4〜W6を適切に設定することにより配線抵抗を各相間で調整している。しかし、幅と共にまたは幅に代えて、バスバー155H、155Lの厚み(または断面積)および/または長さを調整することにより配線抵抗を各相間で調整し、これにより駆動回路150における抵抗成分の各相間での差を低減または解消するようにしてもよい。
[4.5 実施形態の駆動回路による作用および効果]
上記のように本実施形態によれば、駆動回路150からモータ9に電流を供給するための電流供給経路の抵抗値および駆動回路150内の配線の抵抗値についての各相間での差が解消または低減され、これによりモータ・駆動回路系における外部抵抗R’の各相間での差が解消または低減される。そして、モータ9の内部抵抗RやインダクタンスLの各相間での相違はほぼ無視できる程度であることから、上記によりモータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が解消または低減されるだけでなく、各相についてのモータ・駆動回路系のゲインおよび位相が互いにほぼ等しくなる。その結果、u,v,w相のいずれにおいても、同一の相電圧が印加された場合にはモータ9に略同一の相電流が流れるので、モータ9におけるトルクリップルを低減することができる。例えば、従来の電動パワーステアリング装置におけるモータトルクのモータ電気角に対する変化は、図24において曲線C1(細い方の曲線)で示すような波形となるが、本実施形態によれば、モータトルクのモータ電気角に対する変化は、図24において曲線C2(太い方の曲線)で示すような波形となり、トルクリップルが大幅に低減されることがわかる。なお、図24において曲線C2で示す波形で表されるモータトルクを出力する例では、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差は1%以下となっている。このように本実施形態によれば、モータにおけるトルクリップルを低減し、操舵操作において運転者に違和感を与えないようにすることができる。
また、本実施形態によれば、配線のために使用されるバスバーの幅等を適切に設定する
ことによりモータ・駆動回路系における抵抗成分が調整されることから、相間での抵抗調
整用の抵抗器等を別途付加する必要がない。このため、コストの増大を抑えつつモータ・
駆動回路系のゲインおよび位相の各相間での差を低減または解消することができる。
[4.6 駆動回路の変形例]
上記実施形態では、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差を低減または
解消すべく、駆動回路150からモータ9に電流を供給するための電流供給経路のうちリレーが挿入されていない経路に調整用の抵抗体Raを挿入すると共に(図21)、駆動回路150内の配線を形成するバスバーの形状を調整した構成(図22)となっているが、これに代えて、モータ・駆動回路系における抵抗成分の相間調整のためのこれら2つの抵抗調整手段のうちいずれか一方のみを採用した構成としてもよい。例えば、駆動回路150からモータ9へ至る全ての電流供給経路にリレーが挿入されている場合には、駆動回路150内の配線抵抗についての相間での調整(例えばバスバーの幅の適切な設定)を施すだけでもよい。また、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差を低減または解消するための抵抗調整手段であれば、上記2つの抵抗調整手段以外の他の抵抗調整手段を更に備える構成であってもよい。
また、上記実施形態では、電動パワーステアリング装置の駆動源として3相のブラシレ
スモータ9が使用されているが、ブラシレスモータの相数は3に限定されるものではなく
、4相以上のブラシレスモータを使用する電動パワーステアリング装置にも適用可能である。
[5.操舵感のリニアリティ]
[5.1 トルク脈動補償]
[5.1.1 モータ9のトルク脈動に関する考察]
電動モータでは、そのロータ磁石の極数やステータ巻線用のスロット数等のモータ構成に起因して生じるコギングトルク(機械的リップル)と、誘導起電力波形が理想波形に対し歪むことによって発生する電気リップルとに大別されるリップル(脈動)が出力トルクに生じる。このようなモータ出力でのトルクリップルは、上記ステアリング装置における操舵フィーリングを低下させる要因の一つであり、ゆえに当該ステアリング装置ではトルクリップルを抑制することが強く望まれている。
そこで、従来装置には、上記スロットのロータ磁石に対向する部分の形状を変更したり、スキュー角度を調整したりすることにより、トルクリップルを低減しようとしたものがある(例えば、下記特許文献8参照。)。
電動パワーステアリング装置の電動モータとして一般に用いられる3相ブラシレスモータでは、歪みをもつ磁界の回転により生じる電流の高次成分に起因して、その出力トルクにトルクリップル(電気リップル)が表れて、操舵フィーリングの低下を生じることがあった。
したがって、電流高次成分に起因するトルクリップルを抑え、操舵フィーリングのリニアリティを向上させるには、次の構成が好ましい。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、操舵部材の操作に応じて電動モータの目標電流値を決定し、そのモータ動力を操舵機構に付与して操舵補助を行う電動パワーステアリング装置であって、前記電動モータの回転位置情報と決定された前記目標電流値とを用いて、当該モータを流れる電流の所定の高次成分に起因するトルクリップルを打ち消すための電流高次成分用の補償値を決定するトルクリップル補償決定手段と、前記トルクリップル補償決定手段からの補償値を用いて、前記決定された目標電流値を補正する補正手段と、前記補正手段によって補正された後の目標電流値に基づき、前記電動モータをフィードバック制御するフィードバック制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
上記のように構成された電動パワーステアリング装置では、トルクリップル補償決定手段が、電動モータの回転位置情報と、操舵部材の操作に応じて決定された目標電流値とを用いることにより、その目標電流値の電流が当該モータに供給されたときに、その電流の所定の高次成分によって発生するトルクリップルを予期し、この予期したトルクリップルを打ち消すための電流高次成分用の補償値を決定している。また、上記フィードバック制御手段は、補正手段がトルクリップル補償決定手段からの補償値を基に補正した目標電流値に基づき電動モータをフィードバック制御するので、当該制御手段が補正後の目標電流値の電流を供給させたときに上記所定の電流高次成分が取り除かれた状態で当該モータへの電流供給が行われて、電流高次成分に起因するトルクリップルを抑えることができる。
また、上記電動パワーステアリング装置において、前記トルクリップル補償決定手段は、前記決定された目標電流値に応じて、前記電流高次成分用の補償値を変化させることが好ましい。
この場合、上記の補償値がモータ負荷に応じて変化されることとなり、モータ負荷が変化したときでも、フィードバック制御手段はより適切な補償値にて補正された目標電流値を用いて電動モータを制御することができ、操舵フィーリング低下をより確実に防ぐことができる。
また、上記電動パワーステアリング装置において、前記トルクリップル補償決定手段には、前記電流高次成分用の補償値を決定する電流高次歪み補償部に加えて、前記電動モータの回転位置情報と決定された前記目標電流値とを用いて、当該モータ内に形成される磁界の歪みに起因するトルクリップルを抑制するための磁界歪み用の補償値を決定する磁界歪み補償部が設けられてもよい。
この場合、上記電流高次歪み補償部が決定する電流高次成分用の補償値に加えて、磁界歪み補償部が決定する磁界歪み用の補償値を用いて、目標電流値が補正されることとなり、上記フィードバック制御手段が当該目標電流値の電流を流させたときに電流高次成分に起因するトルクリップルだけでなく電動モータ内に形成される磁界歪みに起因するトルクリップルを抑制することができ、これらリップルによる操舵フィーリング低下を防ぐことができる。
また、上記電動パワーステアリング装置において、前記電動モータ及び前記フィードバック制御手段を含んだ電流制御系と、前記回転位置情報を基に前記電動モータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記回転速度検出手段からの前記電動モータの回転速度に基づいて、前記電流制御系の周波数特性に依存するゲイン低下を補償するためのゲイン補償値を求めるゲイン補償演算手段とを備え、前記補正手段は、前記トルクリップル補償決定手段からの補償値と、前記ゲイン補償演算手段からのゲイン補償値とを用いて、前記決定された目標電流値を補正することが好ましい。
この場合、上記フィードバック制御手段がトルクリップル補償決定手段からの補償値とゲイン補償演算手段からのゲイン補償値とを用いて補正された目標電流値に基づいて、電動モータをフィードバック制御することとなり、上記電流制御系の周波数特性に従って、そのモータを流れる電流のゲインがモータ回転速度の増加に応じて低下するのを補償することができ、当該ゲイン低下に伴って操舵フィーリングが低下するのを抑制することができる。
また、上記電動パワーステアリング装置において、前記回転速度検出手段からの前記電動モータの回転速度に基づいて、前記電流制御系の周波数特性に依存する位相遅れを補償するための位相補償値を求める位相補償演算手段を備え、前記補正手段は、前記トルクリップル補償決定手段からの補償値と、前記ゲイン補償演算手段からのゲイン補償値と、前記位相補償演算手段からの位相補償値とを用いて、前記決定された目標電流値を補正してもよい。
この場合、上記フィードバック制御手段がトルクリップル補償決定手段からの補償値とゲイン補償演算手段からのゲイン補償値と位相補償演算手段からの位相補償値とを用いて補正された目標電流値に基づいて、電動モータをフィードバック制御することとなり、上記電流制御系の周波数特性に従って、そのモータを流れる電流が誘起電圧に対してモータ回転速度の増加に応じて位相遅れを生じるのを補償することができ、当該位相遅れに伴う操舵フィーリング低下を抑制することができる。
[5.1.2 電動モータの構成及びその駆動制御の概要]
上記電動モータ9は、図26を参照して、例えば永久磁石を有するロータと、U相、V相、及びW相の各相コイル(ステータ巻線)とを備え、正弦波駆動方式の3相スター結線のブラシレスモータにより構成されている。
ここで、このモータ9において、所望の操舵補助力を発生させるために、各相コイルに供給すべき相電流の目標値、つまり各相コイルに対する電流指令値iu、iv、及びiwは、その供給電流の最大値(振幅)をI*としたときに次の(41)〜(43)式で表される。
u = I*×sinθre ――(41)
v = I*×sin(θre−2π/3) ――(42)
w = I*×sin(θre−4π/3) = −iu−iv ――(43)
但し、θreは、同図に示すように、例えばU相コイルを基準として時計方向まわりに正回転する永久磁石(ロータ)の回転角度(電気角)である。この電気角は、ロータの回転位置を示す情報であり、当該ロータの実際の回転角度を示す機械角をθmとし、ロータの磁極数をpとしたときに、θre=(p/2)×θmで表される。尚、以下の説明においては、特に明記するとき以外は、角度は電気角を表すものとする。
また、電動モータ9は、上記ECU105に含まれた後述のフィードバック制御部400によってフィードバック制御されており、さらにこのフィードバック制御ではd−q座標が用いられている。具体的には、上記d−q座標は、永久磁石による磁束の方向をd軸とし、このd軸に直交する方向をq軸と規定したものであり、上記磁石回転(回転界磁)と同期して回転する回転座標系である。そして、ECU105は、電動モータ9への印加電圧の指令値を決定する際に、まず上記(41)〜(43)式に示した各相コイルでの電流指令値iu、iv、及びiwを、次の(44)及び(45)にそれぞれ表されるd軸電流指令値id及びq軸電流指令値iqに変換し、これらの変換したd−q座標の電流指令値id及びiqに基づき上記印加電圧指令値を決めている。このように、3相交流座標(静止座標)での電流指令値iu、iv、及びiwをd−q座標の電流指令値id及びiqに変換することにより、モータ9の回転時でもECU105はその供給電流を直流量で制御可能となって、位相遅れの低減等を行いつつ、当該モータ9の駆動制御を高精度に実施して所望の操舵補助力を容易に発生させることができる。
d = 0 ――(44)
q = −√(3/2)×I* ――(45)
また、電動モータ9のU相、V相、及びW相の各相コイルを実際に流れる電流については、電流検出器181,182にてU相電流検出値iu及びV相電流検出値ivが検出されて、それらの検出値iu及びivを下記の(46)及び(47)式に代入することでd−q座標に変換した後のd軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqが求められるようになっている。そして、ECU105では、後に詳述するように、上記d軸電流指令値id及びq軸電流指令値iqとd軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqとを用いたフィードバック制御が行われる。
id = √2{iv×sinθre−iu×sin(θre−2π/3)} ――(46)
iq = √2{iv×cosθre−iu×cos(θre−2π/3)} ――(47)
[5.1.3 ECUの構成及び動作]
図27は、ECU105の詳細な構成例を示すブロック図である。図に示すように、上記ECU105には、上記トルクセンサ7からのトルク信号Tsを入力する位相補償部213などの各機能が含まれている
また、図27において点線で囲む範囲は、電動モータ9をフィードバック制御するフィードバック制御部400を構成している。また、モータ位置センサ112とロータ角度位置検出器235とが、電動モータ9の回転位置情報(電気角)を取得する回転位置情報取得手段を構成している。
ECUのモータ制御部120を構成するマイコンには、その内部に設けられた不揮発性のメモリ(図示せず)に予め格納されているプログラムを実行することにより、モータ制御に必要な所定の演算処理を行う複数の機能ブロックが設けられている。すなわち、このマイコンには、図27に示すように、目標電流値演算部214、回転方向指定部215、収斂性補正部216、加算器217、磁界歪み補償部218、電流高次歪み補償部219、ロータ角速度演算部220、加算器221,222、減算器223,224、d軸電流PI制御部225、q軸電流PI制御部226、d−q/3相交流座標変換部227、符号反転加算器228、3相交流/d−q座標変換部229、及び正弦波ROMテーブル230が含まれており、車速センサ104からの車速信号Vs等の入力信号を基に所望の操舵補助力を決定し、この決定した操舵補助力に対応した出力(指示)信号を上記モータ駆動部に与えるモータ制御部を構成している。
また、このモータ制御部120では、上記磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219を有するトルクリップル補償決定部301が設けられており、この補償決定部301の演算結果をモータ駆動部への指示信号に反映させることにより、後に詳述するように、電動モータ9内に形成される磁界の歪みに起因するトルクリップルと当該モータ9を流れる電流の高次成分に起因するトルクリップルとを低減できるようになっている。さらに、ロータ角速度演算部220が、上述の回転位置情報取得手段からの回転位置情報を基に電動モータ9の回転速度を検出する回転速度検出手段を構成している。
上記のように構成されたECU105では、トルクセンサ7から上記トルク検出信号Tsを入力すると、上記位相補償部213がそのトルク検出信号Tsに位相補償を施して目標電流値演算部214に出力する。また、このECU105は、上記車速センサ104から所定のサンプリング周期で出力される車速信号Vsを入力しており、その入力した車速信号Vsは、目標電流値演算部214及び収斂性補正部216に与えられている。さらに、ECU105では、モータ位置センサ112からセンサ信号Srがロータ角度位置検出器235に入力されると、このロータ角度位置検出器235は入力したセンサ信号Srに基づいて電動モータ9の永久磁石(ロータ)の回転位置、つまり上記電気角θreを検出する。そして、ロータ角度位置検出器235は、検出した電気角θreを示す角度信号を磁界歪み補償部218、電流高次歪み補償部219、ロータ角速度演算部220、及び正弦波ROMテーブル230に出力する。
上記目標電流値演算部214は、位相補償後のトルク検出信号Tsと車速信号Vsとに基づいて、電動モータ5に供給すべき供給電流の値である目標電流値Itを求める。詳細には、この演算部214には、アシストマップと呼ばれる、操舵軸2でのトルク、このトルクに応じて所望の操舵補助力を発生させるための上記目標電流値It、及び車速の関係を示したテーブルが予め格納されている。そして、当該演算部214は上記トルク検出信号Ts及び車速信号Vsの各値を入力パラメータとして、上記テーブルを参照することにより、目標電流値Itを取得し、回転方向指定部215及び加算器217に出力する。
また、この目標電流値Itは、上述の(45)式にて示されたq軸電流指令値iqに相当するものであり、モータ動力によるアシスト方向を示す符号を有している。つまり、目標電流値Itの符号は、モータロータの回転方向を指定しており、例えば正及び負の場合にそれぞれ操舵部材1での右方向操舵及び左方向操舵を補助するように電動モータ9を回動させることを示している。
上記回転方向指定部215は、目標電流値演算部214から入力した目標電流値Itの符号に基づきロータ回転方向を判別し、その回転方向を指定する方向信号Sdirを生成して収斂性補正部216に出力する。この収斂性補正部216には、上記車速信号Vsと、方向信号Sdirと、上記ロータ角速度演算部220がロータ角速度位置検出器235から入力した電気角θreを基に算出したロータ角速度ωreとが入力されており、当該補正部216はこれらの入力信号を用いた所定演算を行うことにより、車両収斂性を確保するための補償電流値icを求める。そして、この補償電流値icは、加算器217にて上記目標電流値Itに加算され、加算器217は、その加算結果をq軸基本電流指令値iq0として出力する。
上記q軸基本電流指令値iq0は、所望の操舵補助力を発生するためのモータ負荷(つまり、電動モータ9が発生すべきトルク)に対応する供給電流の基本的な指令値(目標電流値)であり、トルクリップル補償決定部301の磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219に同時に与えられるとともに、加算器222にも出力されて上記磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219での演算結果が反映されるよう加算される。
一方、d軸方向の電流はトルクに関与しないことから、そのd軸電流の基本的な指令値であるd軸基本電流指令値id0の値は“0”であり、id0=0として加算器221に設定入力されている。
上記磁界歪み補償部218は、ロータ角度位置検出器235からの電動モータ9の回転位置情報としての電気角θreと、加算器217からのq軸基本電流指令値iq0とを用いて、そのモータ9内に形成される磁界の歪みに起因するトルクリップルを抑制するための磁界歪み用の補償値を決定している。つまり、磁界歪み補償部218は、上記q軸基本電流指令値iq0にて指令される電流が電動モータ9の各相コイルに供給されたときに、各相コイルに誘起する誘導起電力波形での理想波形に対する歪み(モータ9内の磁界の歪み)に起因してモータ出力トルクに表れるトルクリップルを予期して、予期したトルクリップルが抑制されるように当該q軸基本電流指令値iq0を変更するための電流の補償値をd軸電流及びq軸電流毎に算出しd軸電流補償値Δid1及びq軸電流補償値Δiq1として決定している(詳細は後述)。そして、磁界歪み補償部218は、対応する加算器221及び222に定めた磁界歪み用のd軸電流補償値Δid1及びq軸電流補償値Δiq1を出力する。
また、この磁界歪み補償部218から出力されるd軸電流補償値Δid1及びq軸電流補償値Δiq1は、後に詳述するように、電動モータ9を含んだ後述の電流制御系の周波数特性に依存するゲイン低下及び位相遅れが極力生じないように補正されている。
また、上記電流高次歪み補償部219は、上述の電気角θre及びq軸基本電流指令値iq0を用いて、そのモータ9を流れる電流の所定の高次成分に起因するトルクリップルを打ち消すための電流高次成分用の補償値を決定している。つまり、電流高次歪み補償部219は、上記q軸基本電流指令値iq0にて指令される電流が電動モータ9の各相コイルに供給されたときに、各相コイルを流れる電流の所定の高次成分によって発生するトルクリップルを予期して、予期したトルクリップルが打ち消されるように当該q軸基本電流指令値iq0を変更するための電流の補償値をd軸電流及びq軸電流毎に算出しd軸電流補償値Δid2及びq軸電流補償値Δiq2として決定している(詳細は後述)。そして、電流高次歪み補償部219は、対応する加算器221及び222に定めた電流高次成分用のd軸電流補償値Δid2及びq軸電流補償値Δiq2を出力する。
また、電流高次歪み補償部219から出力されるd軸電流補償値Δid2及びq軸電流補償値Δiq2は、後に詳述するように、電動モータ9を含んだ上述の電流制御系の周波数特性に依存するゲイン低下及び位相遅れが極力生じないように補正されている。
上記加算器221及び222は、対応するd軸電流及びq軸電流毎に、トルクリップル補償決定部301からの補償値を基に操舵部材1の操作に応じて決定された目標電流値を補正する補正手段を構成している。
具体的には、上記加算器221では、下記の(48)式に示すように、当該加算器221に設定されたd軸基本電流指令値id0と、磁界歪み補償部218からの磁界歪み用のd軸電流補償値Δid1と、電流高次歪み補償部219からの電流高次成分用のd軸電流補償値Δid2との和を求めることにより、トルクリップル補償決定部301の演算結果を反映した後のd軸電流指令値idが算出されている。そして、加算器221は、算出したd軸電流指令値idをフィードバック制御部400の減算器223に出力する。
また、加算器222では、下記の(49)式に示すように、上記加算器217からのq軸基本電流指令値iq0と、磁界歪み補償部218からの磁界歪み用のq軸電流補償値Δiq1と、電流高次歪み補償部219からの電流高次成分用のq軸電流補償値Δiq2との和を求めることにより、トルクリップル補償決定部301の演算結果を反映した後のq軸電流指令値iqが算出されている。そして、加算器222は、算出したq軸電流指令値iqをフィードバック制御部400の減算器224に出力する。
d = id0+Δid1+Δid2 ――(48)
q = iq0+Δiq1+Δiq2 ――(49)
上記減算器223には、加算器221からのd軸電流指令値idに加えて、電動モータ9に実際に供給されている電流のd軸電流に換算した後のd軸電流検出値idが3相交流/d−q座標変換部229から入力されている。同様に、上記減算器224には、加算器222からのq軸電流指令値iqに加えて、電動モータ9に実際に供給されている電流のq軸電流に換算した後のq軸電流検出値iqが3相交流/d−q座標変換部229から入力されている。
詳細にいえば、3相交流/d−q座標変換部229には、上記V相電流検出器182及びU相電流検出器181によってそれぞれ検出されたV相電流検出値iv及びU相電流検出値iuが検出電流値補正部250(詳細は後述)を介して入力されている。さらに、この変換部229には、上記検出電流が流されているときでの上記電気角θreのsin値が正弦波ROMテーブル230から入力されている。この正弦波ROMテーブル230は、角度θとその角度θのsin値とを互いに関連付けて記憶しており、上記ロータ角度位置検出器235から電気角θreを入力したときにそのsin値を上記d−q/3相交流座標変換部227及び3相交流/d−q座標変換部229に直ちに出力するようになっている。
そして、この3相交流/d−q座標変換部229は、入力したU相電流検出値iu、V相電流検出値iv、及びsin値と、上述の(46)及び(47)式とを用いて、上記d軸電流検出値id(=√2{iv×sinθre−iu×sin(θre−2π/3)})及びq軸電流検出値iq(=√2{iv×cosθre−iu×cos(θre−2π/3)})を算出して対応する減算器223、224に出力する。
また、上記減算器223は、入力したd軸電流指令値idとd軸電流検出値idとを減算することにより、これらの入力値の偏差であるd軸電流偏差ed(=id−id)を求めている。同様に、減算器224は、入力したq軸電流指令値iqとq軸電流検出値iqとを減算することにより、これらの入力値の偏差であるq軸電流偏差eq(=iq−iq)を求めている。そして、これらの減算器223、224は、求めたd軸電流偏差ed及びq軸電流偏差eqをd軸電流PI制御部225及びq軸電流PI制御部226にそれぞれ出力する。
上記d軸電流PI制御部225及びq軸電流PI制御部226は、次の(50)及び(51)式に、対応する減算器223、224からのd軸電流偏差ed及びq軸電流偏差eqをそれぞれ代入することにより、d軸電圧指令値vd及びq軸電圧指令値vqを算出し、それら算出値をd−q/3相交流座標変換部227に出力する。
d = Kp{ed+(1/Ti)∫(ed)dt} ――(50)
q = Kp{eq+(1/Ti)∫(eq)dt} ――(51)
但し、上記Kp及びTiは、それぞれ比例ゲイン及び積分時間であり、モータ特性などに応じてd軸電流PI制御部225及びq軸電流PI制御部226に予め設定された値である。
上記d−q/3相交流座標変換部227には、非干渉化されたd軸電流PI制御部225からのd軸電圧指令値vd、q軸電流PI制御部226からの非干渉化されたq軸電圧指令値vq、及び正弦波ROMテーブル230からのsin値が入力されている。そして、この変換部227は、次に示す(52)及び(53)式を用いて、d−q座標上の印加電圧指令値である上記d軸電圧指令値vd及びq軸電圧指令値vqを、3相交流座標上の同指令値であるU相電圧指令値vuとV相電圧指令値vvとに変換して、上記3相PWM生成回路(3相PWM変調回路)140に出力する。また、この変換部227の出力値は符号反転加算器228に入力されるようになっており、この符号反転加算器228は下記の(54)式を用いて、上記のU相電圧指令値vu及びV相電圧指令値vvからW相電圧指令値vwを求めて、3相PWM生成回路140に出力する。
u = √(2/3){vd×cosθre−vq×sinθre} ――(52)
v = √(2/3){vd×cos(θre−2π/3)−vq×sin(θre−2π/3)} ――(53)
w = −vu−vv ――(54)
上記3相PWM生成回路140は、上記のU相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、及びW相電圧指令値vwにそれぞれ対応したデューティ比のPWM信号Su、Sv、及びSwを生成して、モータ駆動回路150に出力する。
上記モータ駆動回路150は、MOSFETなどの電力用スイッチング素子を用いたブリッジ回路を有するPWM電圧形インバータを含んだものであり、各スイッチング素子を上記PWM信号Su、Sv、及びSwに従ってオン/オフ動作させることにより、電動モータ9のU相、V相、及びW相の各相コイル(図26)にバッテリ180からの電圧が印加される。これにより、電動モータ9では、その各相コイルに電流が流れて、当該モータ9はその電流に応じたトルクTmを生じ操舵補助力として上記操舵機構に付与する。また、このように電動モータ9が駆動されると、フィードバック制御部400では、上記d軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqがそれぞれd軸電流指令値id及びq軸電流指令値iqに等しくなるように当該モータ9をフィードバック制御することで所望の操舵補助力にて操舵補助が行われる。
[5.1.4 電流制御系の構成及びその周波数特性]
また、本実施形態では、図27において、上記フィードバック制御部400と、その制御対象の電動モータ9、及びモータ位置センサ112とにより、フィードバックループを有する上記電流制御系が構成されている。この電流制御系では、上記モータ9内に設置されたコイルのインピーダンスなどに規定される周波数特性を有している。また、電流制御系では、d軸電流指令値id及びd軸電流検出値idをそれぞれ入力及び出力とするd軸電流のフィードバックループと、q軸電流指令値iq及びq軸電流検出値iqをそれぞれ入力及び出力とするq軸電流のフィードバックループとのいずれの閉ループの場合も、その伝達関数に対するボード線図は、例えば図30にて示されるものとなる。すなわち、この電流制御系では、実用的な周波数範囲において、周波数が増大するにつれて、図30の実線に示すように、ゲインが1(dB=0)から低下する。また、位相遅れは、同図に点線にて示すように、周波数が増大するにつれて、大きくなる。このような電流制御系の周波数特性の影響を抑えるために、上記トルクリップル補償決定部301では、磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219の各部において、図30に実線及び点線にて示したデータがテーブル化されて、後述の周波数特性マップとして保持されており、各部の出力補償値は、当該周波数特性に依存するゲイン低下及び位相遅れが極力生じないように補正されている。
[5.1.5 磁界歪み補償部の構成及びその動作]
図28は、図27に示した磁界歪み補償部の具体的な構成例を示すブロック図である。図に示すように、上記磁界歪み補償部218には、周波数算出部236、ゲイン・位相決定部237、減算器238、磁界歪み補償値決定部239、振幅決定部240、修正率算出部241、及び乗算器242、243の機能ブロックが設定されており、マイコンがプログラムを実行することにより、上記ブロックは各々所定の演算処理を行うようになっている。また、上記周波数算出部236、ゲイン・位相決定部237、及び修正率算出部241が、電動モータ9(図27)の回転速度に基づいて、上記電流制御系の周波数特性に依存するゲイン低下を補償するためのゲイン補償値を求めるゲイン補償演算手段を構成している。また、周波数算出部236とゲイン・位相決定部237とは、同モータ9の回転速度に基づいて、上記電流制御系の周波数特性に依存する位相遅れを補償するための位相補償値を求める位相補償演算手段を兼用している。
具体的にいえば、上記周波数算出部236は、ロータ角速度演算部220から電動モータ9の電気角換算の回転角速度である上記ロータ角速度ωreを入力している。そして、この周波数算出部236は、入力したロータ角速度ωreを次の(55)式に代入することにより、モータ出力に表れる磁界歪みに起因するトルクリップルの周波数fを算出する。また、この周波数fは、電流高次成分歪みに起因するトルクリップルの基本周波数である。
f = S×ωre/(2π) ――(55)
但し、Sは、電動モータ5内のスロット数である。
上記ゲイン・位相決定部237には、上記ボード線図(図30)に示した上記電流制御系の周波数特性に対応した周波数特性マップ237a(すなわち、図30に実線及び点線にて示した周波数とゲイン及び位相との関係を示すデータ)が保持されている。そして、このゲイン・位相決定部237は、周波数算出部236から上記周波数fを入力したときに、周波数特性マップ237aを参照して、入力した周波数fに応じた電流制御系のゲインG及び位相差Δθeを求めて、修正率算出部241及び減算器238にそれぞれ出力する。また、上述のように、電流制御系では、周波数が増大するにつれて(つまり、ロータ角速度ωre、ひいては電動モータ9の回転速度が速くなるにつれて)、ゲインが1から低下し位相遅れが大きくなる。
上記減算器238は、上記ロータ角度位置検出器235(図27)から電気角θreを入力するとともに、ゲイン・位相決定部237からの位相補償値としての位相差Δθeを入力しており、電気角θreから位相差Δθeを減算処理している。そして、減算器238は、その減算処理結果である修正電気角θmre(=θre−Δθe)を磁界歪み補償値決定部239に出力する。このように、減算器238が、位相差Δθeを用いて、検出された電気角θreを修正することにより、上記電流制御系の周波数特性に依存する位相遅れを補償することができる。
上記磁界歪み補償値決定部239には、上記電気角と、d軸電流及びq軸電流毎の磁界歪み補償電流成分の値との関係をテーブル化した磁界歪み補償マップ239aが格納されており、この磁界歪み補償マップ239aを参照することで、当該補償値決定部239は入力した修正電気角θmreに対応する磁界歪み用のd軸電流単位補償値Δid10及びq軸電流単位補償値Δiq10を決定している。
以下、上記磁界歪み補償マップ239aの作成方法について、具体的に説明する。
電動モータ9を無負荷運転したときに当該モータ9内に形成される磁界の歪み、つまり無負荷誘導起電力波形がその理想波形に歪みを生じている場合に、各相コイルに正弦波電流である電流iu、iv、iwを供給すると、そのモータ出力には磁界歪みに起因するトルクリップルが生じる。ここで、無負荷誘導起電力の各相コイルでの瞬時値e0u、e0v、e0wが既知であれば、モータ5の出力トルクを一定値(例えば1[Nm])とし上記磁界歪みに起因するトルクリップルを生じさせないような各相コイルの電流i0u、i0v、i0wを決定することができる。例えば、上記出力トルクを一定値Tとしたときに、そのような各相コイルの電流i0u、i0v、i0wは、次の(56)、(57)、及び(58)式にてそれぞれ算出することができる。
i0u ={(e0u−e0v)+(e0u−e0w)}×T
/{(e0u−e0v)2+(e0u−e0w)2+(e0w−e0v)2} ――(56)
i0v = {T−(e0u−e0w)×iu}/(e0v−e0w) ―――(57)
i0w = {T−(e0u−e0v)×iu}/(e0w−e0v) ―――(58)
また、(56)〜(58)式で算出される各相コイルの電流i0u、i0v、i0wを、電気角θを変数とする次の(59)及び(60)式によってd−q座標上の値に変換することにより、上記磁界歪みに起因するトルクリップルを生じさせずに出力トルクを一定値Tとするようなd軸電流値i0d及びq軸電流値i0qを算出することができる。
i0d = √2{i0v×sinθ−i0u×sin(θ−2π/3)} ――(59)
i0q = √2{i0v×cosθ−i0u×cos(θ−2π/3)} ――(60)
上記のように、d軸電流値i0d及びq軸電流値i0qを算出することができるので、磁界歪み補償マップ239aを次のようにして作成することができる。
まず、図31に示すように、電動モータ9の各相コイルでの無負荷誘導起電力(誘起電圧)について、そのモータ9の電気角の値が変化したときでの瞬時値e0u、e0v、e0wの各実測データを取得しておく。そして、これらの各実測データを用いて、モータ9が上記磁界歪みに起因するトルクリップルを生じさせることなく単位トルク(1[Nm])を出力するのに必要なd軸電流値i0d1及びq軸電流値i0q1を上述の(56)〜(60)式により求める。さらに、無負荷誘導起電力波形が歪んでいない場合に当該モータ9が上記単位トルクを出力するのに必要なd軸電流値i0d2及びq軸電流値i0q2を求める(尚、この場合では、出力トルクはq軸電流に比例し、d軸電流は“0”とすればよいので、これらd軸電流値i0d2及びq軸電流値i0q2は上述の各実測データに所定演算を行うことにより容易に求めることができる。)。そして、電気角の値毎に、上記d軸電流値i0d1とd軸電流値i0d2との差を求めて上述のd軸電流単位補償値Δid10(=i0d1−i0d2)とし、かつ上記q軸電流値i0q1とq軸電流値i0q2との差を求めて上述のq軸電流単位補償値Δiq10(=i0q1−i0q2)として、これらの電気角とd軸電流単位補償値Δid10及びq軸電流単位補償値Δiq10とを対応付ければよい。この結果、例えば図32に示すように、電気角と、この電気角に応じたd軸電流及びq軸電流に変換した後の磁界歪みを抑制可能な電流成分である上記磁界歪み補償電流成分の値とを示す電流波形を得ることができ、これらのデータを対応付けたテーブルを磁界歪み補償マップ239aとして作成することができる。
上記磁界歪み補償値決定部239は、上述のように作成された磁界歪み補償マップ239aを参照することにより、減算器238から入力した修正電気角θmreに対応するd軸電流単位補償値Δid10及びq軸電流単位補償値Δiq10を決定し、振幅決定部240に出力する。
上記振幅決定部240には、磁界歪み補償値決定部239からのd軸電流単位補償値Δid10及びq軸電流単位補償値Δiq10に加えて、加算器217(図27)からの所望の操舵補助力に相当するq軸基本電流指令値iq0が入力されている。そして、振幅決定部240は、入力したq軸基本電流指令値iq0を基に単位トルク当たりのd軸電流単位補償値Δid10及びq軸電流単位補償値Δiq10に対する乗算値を決定し、それらの乗算処理を行うことにより、上記所望の操舵補助力に応じたd軸電流補償値Δid11及びq軸電流補償値Δiq11を求めている。振幅決定部240は、求めたd軸電流補償値Δid11及びq軸電流補償値Δiq11を乗算器242及び243にそれぞれ出力する。
また、上記修正率算出部241には、ゲイン・位相決定部237が決定した上記電流制御系のゲインGが入力されており、この修正率算出部241は当該ゲインGの逆数1/Gを算出し上述のゲイン補償値としての修正率Rmを求める。そして、修正率算出部241は、修正率Rmを乗算器242及び243に出力する。
上記乗算器242は、振幅決定部240からのd軸電流補償値Δid11に修正率算出部241からの修正率Rmを乗じることにより、上記磁界歪み補償用のd軸電流補償値Δid1を求めて加算器221(図27)に出力する。同様に、乗算器243は、振幅決定部240からのq軸電流補償値Δiq11に修正率算出部41からの修正率Rmを乗じることにより、上記磁界歪み補償用のq軸電流補償値Δiq1を求めて加算器222(図27)に出力する。このように、乗算器242及び243が、修正率Rmを用いて、d軸電流補償値Δid11及びq軸電流補償値Δiq11を修正することにより、上記電流制御系の周波数特性に依存するゲイン低下を補償することができる。
[5.1.6 電流高次歪み補償部の構成及びその動作]
図29は、図27に示した電流高次歪み補償部の具体的な構成例を示すブロック図である。図に示すように、電流高次歪み補償部219には、周波数算出部236、ゲイン・位相決定部237、減算器238、修正率算出部241、電流高次歪み補償値決定部244、及び乗算器245、246の機能ブロックが設定されており、マイコンがプログラムを実行することにより、上記ブロックは各々所定の演算処理を行うようになっている。また、これらの機能ブロックのうち、周波数算出部236、ゲイン・位相決定部237、減算器238、及び修正率算出部241は、上記磁界歪み補償部218のものと同一演算処理を実施するよう構成されており、上記電流制御系の周波数特性に依存する位相遅れ及びゲイン低下を補償するための位相補償値Δθe及びゲイン補償値Rmを算出するようになっている。
上記電流高次歪み補償値決定部244は、上記q軸基本電流指令値iq0と、所定の高次成分として例えば5次、7次、11次、及び13次成分の各1次成分に対するゲインとの関係をテーブル化した電流高次歪み補償マップ244a、及び上記所定の高次成分とこれらの各高次成分における1次成分に対する位相ずれを補償するための修正値との関係をテーブル化した位相修正マップ244bを保持している。そして、この電流高次歪み補償値決定部244は、減算器238から上記修正電気角θmre及び加算器217(図27)からq軸基本電流指令値iq0を入力したときに、電流高次歪み補償マップ244a及び位相修正マップ244bを参照することにより、電流高次歪み用のd軸電流基本補償値Δid21及びq軸電流基本補償値Δiq21を決定している。
ここで、電流高次歪み補償マップ244a及び位相修正マップ244bの作成方法について、具体的に説明する。電動モータ9では、モータ駆動回路150(図27)がバッテリ180からの直流をチョッパすることで正弦波状の交流を各相コイルに与えていたり、同駆動回路150内の上記ブリッジ回路を構成する各スイッチング素子での短絡を防ぐために微少なデッドタイムを設けて、これらのスイッチング素子を駆動しているなどの要因によって、各相コイルを流れる電流では正弦波(基本波)電流成分に第5、第7、第11、及び第13高調波等の高調波電流成分が重畳している。それ故、各相コイルを流れる電流の実測データを予め取得するとともに、その取得した電流値に重畳する高次成分の各実測値を把握し、それらの各高次成分の実測値に基づいて上記加算器221、222での加算処理で各高次成分の電流が相殺されるようd−q座標に変換した後の高次成分毎の補償値を決定すればよい。すなわち、上記d軸電流基本補償値Δid21及びq軸電流基本補償値Δiq21は、下記の(61)及び(62)式にてそれぞれ示すように、第5次成分の電流を打ち消すための補償値Δid2-5、Δiq2-5と、第7次成分の電流を打ち消すための補償値Δid2-7、Δiq2-7と、第11次成分の電流を打ち消すための補償値Δid2-11、Δiq2-11と、第13次成分の電流を打ち消すための補償値Δid2-13、Δiq2-13とに分けることができる。 Δid21 = Δid2-5+Δid2-7+Δid2-11+Δid2-13 ―――(61)
Δiq21 = Δiq2-5+Δiq2-7+Δiq2-11+Δiq2-13 ―――(62)
また、上記所定の電流高次成分の各重畳割合は、所望の操舵補助力であるモータ負荷(出力トルク)、つまり上記q軸基本電流指令値iq0に応じて変化するものであり、各高次成分の電流位相もまたq軸基本電流指令値iq0に応じて1次成分の電流位相に対しずれを生じる。さらに、第5次及び第7次の電流高次成分は、電動モータ9の出力トルクでは第6次のトルク高次成分として表れることから、上記第5次電流用の補償値Δid2-5、Δiq2-5及び第7次電流用の補償値Δid2-7、Δiq2-7は、次の(63)〜(66)式でそれぞれ示される。
Δid2-5 = i5(iq0)×sin[6{θre+θ5(iq0)}] ―――(63)
Δiq2-5 = i5(iq0)×cos[6{θre+θ5(iq0)}] ―――(64)
Δid2-7 = i7(iq0)×sin[6{θre+θ7(iq0)}] ―――(65)
Δiq2-7 = −i7(iq0)×cos[6{θre+θ7(iq0)}]―――(66)
また、第11次及び第13次の電流高次成分は、電動モータ9の出力トルクでは第12次のトルク高次成分として表れることから、上記第11次電流用の補償値Δid2-11、Δiq2-11及び第13次電流用の補償値Δid2-13、Δiq2-13は、次の(67)〜(70)式で示される。
Δid2-11 = i11(iq0)×sin[12{θre+θ11(iq0)}]――(67)
Δiq2-11 = i11(iq0)×cos[12{θre+θ11(iq0)}]――(68)
Δid2-13 = i13(iq0)×sin[12{θre+θ13(iq0)}]――(69)
Δiq2-13 = −i13(iq0)×cos[12{θre+θ13(iq0)}]―(70)
上記の(63)〜(70)式を用いることにより、第5、第7、第11、及び第13次電流用の各補償値をd軸電流及びq軸電流毎に算出することができるので、電流高次歪み補償マップ244a及び位相修正マップ244bを次のようにして作成することができる。
まず、電動モータ9の出力トルクが変化するようにその供給電流を変化させた場合での各電流高次成分における1次成分(基本波)に対する電流高次成分ゲインについて、その実測データを取得する。これにより、例えば図34に示すように、各電流高次成分毎のq軸基本電流指令値iq0と電流高次ゲインとの関係を示すグラフを得ることができる。尚、この図において、各高次電流成分での4個のプロットは、電動モータ9での出力トルクを示しており、図の左から右側に向かって順に同出力トルクが1.0、2.0、3.0、及び4.0[Nm]の場合を示している。そして、作成したグラフに基づいて、例えば第5次電流成分の振幅に相当する上記(63)及び(64)式でのi5(iq0)の値と、q軸基本電流指令値iq0の値とを対応付けたテーブルを電流高次歪み補償マップ244aとして作成することができる。
また、上記のように、出力トルク(モータ負荷)を変化させた場合でのモータ供給電流の測定波形に基づいて、その電流波形に含まれた基本波に対する各高次成分波の位相ずれの実測データを取得する。そして、その取得データを基に上記位相ずれを解消するための修正値、例えば第5次電流成分での修正値として上記(63)及び(64)式でのθ5(iq0)を決定することができる。そして、この決定した修正値と、q軸基本電流指令値iq0の値とを対応付けたテーブルを位相修正マップ244bとして作成することができる。
そして、電流高次歪み補償値決定部244は、ゲイン・位相決定部237からの位相補償値Δθeにて修正された修正電気角θmreが減算器238から入力され、かつ加算器217(図27)からq軸基本電流指令値iq0が入力されると、上述のように作成された電流高次歪み補償マップ244a及び位相修正マップ244bを参照することにより、入力した修正電気角θmre及びq軸基本電流指令値iq0に対応するd軸電流基本補償値Δid21及びq軸電流基本補償値Δiq21を決定する。そして、電流高次歪み補償値決定部244は、d軸電流基本補償値Δid21及びq軸電流基本補償値Δiq21を乗算器245及び246にそれぞれ出力して、これらの乗算器245及び246にて修正率算出部241からのゲイン補償値Rmが乗算されて、電流高次歪み用のd軸電流補償値Δid2及びq軸電流補償値Δiq2として対応する加算器221、222に出力される。
以上のように構成された本実施形態では、電流高次歪み補償部(トルクリップル補償決定手段)219が上記修正電気角θmre(回転位置情報)とq軸基本電流指令値iq0(目標電流値)とを用いて、上記q軸基本電流指令値iq0にて指令される電流が電動モータ9の各相コイルに供給されたときに、そのモータ9を流れる電流の第5、第7、第11、及び第13次成分によって発生するトルクリップルを予期して、予期したトルクリップルが打ち消されるように当該q軸基本電流指令値iq0を変更するための電流高次歪み用のd軸電流補償値Δid2及びq軸電流補償値Δiq2を決定している。また、磁界歪み補償部(トルクリップル補償決定手段)218が上記修正電気角θmreとq軸基本電流指令値iq0とを用いて、上記q軸基本電流指令値iq0にて指令される電流が電動モータ9の各相コイルに供給されたときに、当該モータ9内の磁界の歪みに起因してモータ出力トルクに表れるトルクリップルを予期して、予期したトルクリップルが抑制されるように当該q軸基本電流指令値iq0を変更するための磁界歪み用のd軸電流補償値Δid1及びq軸電流補償値Δiq1を決定している。そして、加算器221及び222(補正手段)が、上述の(48)及び(49)式に示したように、決定されたd軸電流補償値Δid1とd軸電流補償値Δid2及びq軸電流補償値Δiq1とq軸電流補償値Δiq2とを用いて、対応するd軸電流及びq軸電流の指令値を変更し、フィードバック制御部(フィードバック制御手段)400がこれら変更された指令値に基づき電動モータ9を駆動している。この結果、上記目標電流値に基づく電流がモータ9に流されたときに、電流高次成分に起因するトルクリップル及び磁界歪みに起因するトルクリップルを抑制することができ、これらリップルによる操舵フィーリング低下を防ぐことができる。
また、本実施形態では、磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219の各部において、周波数算出部236、ゲイン・位相決定部237、及び修正率算出部241からなるゲイン補償演算手段が設けられ、この演算手段が算出したゲイン補償値(修正率Rm)により、磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219の各出力値が補正されている。これにより、上記電流制御系の周波数特性に従って、そのモータを流れる電流のゲインがモータ回転速度の増加に応じて低下するのを補償することができ、当該ゲイン低下に伴って操舵フィーリングが低下するのを抑制することができる。
また、本実施形態では、磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219の各部において、周波数算出部236及びゲイン・位相決定部237からなる位相補償演算手段が設けられ、この演算手段が算出した位相補償値(位相差Δθe)により、検出された電気角θreが修正されて、上記電流制御系の周波数特性に依存する位相遅れが補償されている。これにより、電動モータ9の回転速度が変化したときでも、モータ9での供給電流が上記電流制御系の周波数特性に従って、誘起電圧に対する位相遅れが発生するのを補償することができ、当該位相遅れに伴う操舵フィーリング低下を抑制することができる。
ここで、電動モータの具体的な出力トルクを示す図35を参照して、上記トルクリップル補償決定手段の効果について具体的に説明する。
フィードバック制御部400が、磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219の各出力値を用いずに上述の(48)及び(49)式での各第1項で示したd軸基本電流指令値id0及びq軸基本電流指令値iq0を用いて電動モータ9を駆動したときには、図35の一点鎖線にて示すように、そのモータ出力トルクには大きいトルクリップルが表れて大幅に変動した。
また、フィードバック制御部400が、磁界歪み補償部218の出力値を用いたとき、つまり上記(48)及び(49)式での各第1及び第2項の和で指定される目標電流値を用いて電動モータ9を駆動したときには、そのモータ出力トルクのうち磁界歪みに起因するリップル分が排除されて、当該トルクの検出波形は同図の点線に示されるものとなった。
さらに、フィードバック制御部400が、磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219の各出力値を用いたとき、つまり上記(48)及び(49)式での各第1〜第3項の和で指定される目標電流値を用いて電動モータ5を駆動したときには、上記磁界歪みに起因するリップル分に加え、上記第5、第7、第11、及び第13次電流成分に起因するリップル分も取り除かれる。詳細には、モータ出力トルクから上記(63)〜(66)式にて求められる第6次のリップル分及び上記(67)〜(70)式にて求められる第12次のリップル分が排除されて、当該トルクの検出波形は同図の実線に示すように、変動が極めて少ない安定したものとなった。すなわち、本実施形態では、図34に示したように、q軸基本電流指令値iq0(所望の操舵補助力を発生するためのモータ負荷)が大きくなるにつれて、その電動モータ9を流れる電流に電流高次成分が重畳し易く、その重畳した電流高次成分に起因するトルクリップル分も増大して操舵フィーリングの低下を生じ易い装置において、上記トルクリップル分を大きく減衰させることができる。この結果、比較的大きいアシスト力で操舵補助を行う必要があるステアリング操作、例えば停止中の車両において、操向車輪のタイヤ角を変更する据え切り操作などのアシスト操作を安定した状態で行わせることができる。
なお、上記の説明では、所定の電流高次成分として、第5、第7、第11、及び第13次成分に起因するトルクリップルを打ち消すための補償値を決定する構成について説明したが、これに限定されるものではなく、基本波(1次成分)に対し重畳され易い高調波電流成分、例えば図34に示したように第5次及び第7次電流成分を補償(相殺)するための補償値を決定する構成でもよい。
また、上記の説明では、トルクリップル補償決定部301の磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219内に一部の機能ブロックを共用した上記ゲイン補償演算手段と位相補償演算手段とを設けた場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば上記の演算手段をトルクリップル補償決定部301の各補償部218、219内に設けることなく、当該補償決定部301とフィードバック制御部400との間に配置し、各補償部218、219がロータ角度位置検出器235からの電気角θreと、加算器222からのq軸基本電流指令値iq0とを用いて磁界歪み用及び電流高次歪み用の補償値をそれぞれ決定し、これらの決定値を上記ゲイン補償演算手段が求めたゲイン補償値と位相補償演算手段が求めた位相補償値とで補正してフィードバック制御部400に指令値として入力させる構成でもよい。
また、上記の説明では、例えば電流高次歪み補償値決定部244内に電流高次歪み補償マップ244aを格納する構成について説明したが、上記(61)〜(70)式に示した数式をマイコン内に記憶させ、同決定部244がこれらの数式を用いて演算することで補償値を決定する構成でもよい。
また、上記の説明では、電動モータ9に3相ブラシレスモータを使用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3相以外の相数のブラシレスモータやブラシ付きの直流モータなどの他の形式のモータを使用した装置にも適用することができる。
[5.2 不感帯幅]
[5.2.1 不感帯に関する考察]
ここでは、操舵トルクの0を中点とする所定範囲において電動モータを駆動しない領域である不感帯について説明する。
前記特許文献13には、操舵速度等の条件によって、不感帯の幅を変更する電動パワーステアリング装置が提案されている。
上述した従来の電動パワーステアリング装置では、アシスト特性(操舵補助特性;操舵トルクとアシストトルク(モータ電流)との関係)における不感帯の幅、及び不感帯とアシスト(操舵補助)領域との境界部での傾きの設定に関して、知見が不十分であった。
本発明者らは、不感帯の幅が小さ過ぎると、直進走行時にふらつき易くなり、大き過ぎると、各部で発生する摩擦を感じるようになり、操舵フィーリングが著しく悪くなるという問題を見出した。また、不感帯からアシスト領域への境界におけるアシスト特性の傾きが大き過ぎると、アシスト開始時のトルク変動がコツンという感じでハンドルに伝わり易く、小さ過ぎると、上記同様、摩擦による操舵フィーリングの悪化が顕著になるという問題も見出した。これらは、電動モータ軸周りの摩擦トルク(ロストルク)が、アシスト時及び非アシスト時において、どのように操舵フィーリングに影響するかが不明であった為に起きる問題である。
直進走行時にふらつかず、摩擦感が無く、操舵フィーリングを良くするには、次の構成を採用できる。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、操舵部材に接続された上部軸(入力軸22)と、舵取機構(ステアリングギヤ3)に伝動軸(例えばユニバーサルジョイントを介して上端が下部軸に、下端が舵取機構に回動可能に結合された軸)により結合された下部軸(出力軸24)とが連結軸(例えばトーションバ23)により連結され、電動モータが歯車機構(減速機8)により前記下部軸(出力軸24)に連結され、前記操舵部材に加えられた左右の操舵トルクを前記連結軸の捩れに基づき検出し、検出した操舵トルクに応じて前記電動モータを駆動して、操舵補助トルクを前記下部軸に与えると共に、前記操舵トルクの0を中点とする所定範囲を、前記電動モータを駆動しない不感帯とする電動パワーステアリング装置において、前記不感帯の片側幅は、前記舵取機構で生じる摩擦トルクと、前記下部軸及び伝動軸で生じる摩擦トルクとの合計以下に設定してあることを特徴とする。この場合、直進走行時にふらつかず、摩擦感が無く、操舵フィーリングが良い電動パワーステアリング装置を実現することが出来る。
また、アシスト開始時のトルク変動が衝撃とならず、摩擦感が無く、操舵フィーリングを良くするには、次の構成を採用できる。すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、前記操舵トルクが前記片側幅と前記電動モータ及び歯車機構で生じるロストルクとの合計と一致するときの操舵補助トルクは、前記ロストルク以下に設定してあることを特徴とする。この場合、アシスト開始時のトルク変動が衝撃とならず、摩擦感が無く、操舵フィーリングが良い電動パワーステアリングを実現することが出来る。
[5.2.2 不感帯に関する好ましい実施の形態]
トルクセンサ7で検出された操舵トルクTsを受け取った目標電流演算部124は、アシストマップと呼ばれる、操舵トルクと目標電流値とを対応づけるテーブルを参照して、操舵トルクTs等に基づいて、モータ9に流すべき目標電流値Itを決定する。
目標電流演算部124(モータ制御部120)のアシストマップでは、図36で示すように、操舵トルク信号Tsが所定の不感帯を超えると、操舵トルク信号Tsの増加に従って目標電流値Itが比例的に増加し、さらに操舵トルク信号Tが所定値以上になると目標電流値Itが飽和するような関数が、車速検出信号Vs(Vs:V1,V2,V3)に応じて可変的に定められている。但し、Vl<V2<V3…である。前記関数は車速検出信号Vl,V2,V3…が大となるに従って操舵トルク信号Tに対する目標電流値Itの比が小となると共に、目標電流値Itの飽和値が小となるようになっている。目標電流演算部124が定めた目標電流値Itは前記加算器217へ与えられる。
図37は、図1に示す電動パワーステアリング装置を模式的に簡略化して示す模式図である。この電動パワーステアリング装置は、操舵部材1(ハンドル)に接続された上部軸(入力軸)22が、下部軸(出力軸)24とトーションバー23(連結軸)により連結され、出力軸24は、伝動軸29により舵取機構(ステアリングギヤ)3に結合されている。入力軸22、出力軸24及びトーションバー23は、操舵軸33を構成する。入力軸22は、その上部及び下部で軸受22a,22bにより支持され、出力軸24は、その上部及び下部で軸受24a,24bにより支持されている。電動モータ9が、減速機81,82を介して、出力軸に連結されている。減速機の駆動歯車82は、2つの軸受82a,82bにより支持されている。
伝動軸29は、2つのユニバーサルジョイント29a,29bにより、上端が出力軸24に、下端がステアリングギヤ3のピニオン軸31にそれぞれ回動自在に結合されている。ピニオン軸31は、2つの軸受31a,31bにより支持され、ピニオン歯35がラック歯36と噛合している。ラック軸32は、軸受32aにより支持され、両端(図37では一端のみ図示)には、タイロッド4aの一端が回動自在に連結され、タイロッド4aの他端には、ナックルアーム4bの一端が回動自在に連結されている。ナックルアーム4bの他端は、図示しない車輪の軸に回動自在に連結されている。前記舵取機構は、主にステアリングギヤ3によって構成されるが、その他に、タイロッド4a及びナックルアーム4bも含まれる。
前記アシストマップの操舵トルク信号Ts−目標電流値It(アシストトルク)の特性は、上述した他、不感帯の片側幅Tdを、Td≦Tfl+Tf2(操舵軸周り換算)に設定している。
ここで、Tflは、舵取機構(ステアリングギヤ3)34全体の摩擦トルク、Tf2は、出力軸24、伝動軸29及びユニバーサルジョイント29a,29bの摩擦トルクである(図37参照)。
また、アシストマップの操舵トルク信号Ts−目標電流値It(アシストトルク)の特性は、図38の特性図に示すように、操舵トルクThがTh=Td+Tf3であるとき、アシストトルクTaは、Ta≦Tf3(操舵軸周り換算)となるように設定してある。ここで、Tf3は、減速機8周りの摩擦トルクを含む電動モータ9軸周りのロストルクである(図37参照)。
上述したTfl,Tf2,Tf3(操舵軸周り換算)は、例えば、Tfl≦0.6Nm,Tf2≦
0.3Nm,Tf3≦0.5Nmに設定できる。また、従来、Td=1.0〜1.7Nmであった。以上のように設定することにより、この電動パワーステアリング装置は、電動モータ9軸周りのロストルクTf3を引き摺ることなく、また、操舵トルクがタイヤ(車輪)に伝わるトルク値(Tfl+Tf2)に達し始める前(Tf3の範囲内)に、アシストが開始される。その為、この電動パワーステアリング装置では、アシスト開始時のトルク変動が滑らかであり、直進走行時にふらつかず、摩擦感が無く、操舵フィーリングが良い。
[5.3 位相補償部]
[5.3.1 位相補償特性に関する考察]
電動パワーステアリング装置では、典型的には比例積分器により、トルクセンサからのトルク検出信号が示す操舵トルクに基づき設定される目標の電流が電動モータに流れるように電流制御(フィードバック制御)が行われる。
この比例積分器の比例ゲインおよび積分ゲイン(以下、PIゲインという)の値は、システム全体の応答性を上げるためには高い方が望ましい。しかし、電動パワーステアリング装置は、操舵トルクの検出のためにステアリングシャフトに介装されるトーションバーをバネ要素とし電動モータを慣性要素とする機械的な共振系を含んでいるため、上記PIゲインの値を高くしすぎると、その共振系の共振周波数すなわち電動パワーステアリング装置における機械系固有振動周波数の近傍(具体的には10〜25Hz近傍)でシステムが不安定(振動的)となりやすくなる。
このため、PIゲインの値はあまり高く設定することなくシステム全体の応答性を犠牲にしてシステムを安定化し、さらに実用周波数帯域における位相特性を改善するために、位相補償器が設けられている。具体的には、トルクセンサからのトルク検出信号が位相補償器に与えられ、位相補償器によりトルク検出信号の位相が進められることにより実用周波数帯域におけるシステム全体の応答性が向上する。
ここで、位相補償器は、システムが振動系にならないように、共振周波数におけるゲインを低下させるように特性が設定される。したがって、位相補償器の特性を設定する際には、ゲインの高い据え切りアシスト特性に合わせて共振周波数における減衰を高くする必要がある。しかし、位相補償器の特性として、共振周波数における減衰を高くすると、共振周波数を中心として広い周波数域において減衰が高くなり、必然的に低周波域での減衰が高くなり、低周波域での位相遅れが大きくなる。
減衰の高い位相補償器を採用することにより据え切り時の振動の発生は防止できるが、逆に走行中においては、低周波域での位相遅れが大きいためハンドル中立付近の低負荷領域で操舵フィーリングが鈍りフワフワした感じが生じ、特に車速が高くなったときに顕著となる。しかも、この問題は、摩擦を低減した高効率の電動パワーステアリング装置では一層顕著になる。
特許文献14には、ソフトウェアで構成したソフト位相補償手段を備えた電動パワーステアリング装置が記載されている。この位相補償手段は、車速をパラメータにして、高速、中速、低速のときの位相補償手段の特性を異ならせたものである。しかし、特許文献14のものは、単に車速に応じて特性を異ならせているだけで、据え切りと走行中とを区別しておらず、位相補償器の特性を据え切りアシスト特性に合わせたときの上記問題を解消していない。
すなわち、位相補償器によって据え切り時の振動を抑えると、位相遅れによって走行中における操舵フィーリングのフワフワ感が生じる。
操舵フィーリングのフワフワ感を抑えるには、次の構成を採用できる。
すなわち、好ましい、電動パワーステアリング装置は、操舵トルクに応じた操舵補助力を電動モータによって発生させる電動パワーステアリング装置において、操舵トルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサの出力から前記電動モータの制御目標値を生成する際に作用する位相補償手段と、操舵が車両走行中に行われた場合と、据え切りの場合と、における前記位相補償手段の特性を異ならせる手段と、を備えていることを特徴とする。
据え切りと走行中の操舵とを区別して、これらの場合における位相補償手段の特性を異ならせることで、据え切り用の特性として振動が発生しないように走行中の特性よりも低周波域における減衰を比較的高くしても、走行中の操舵用の特性として低周波域における減衰を比較的小さくすることができ、走行中における操舵のフワフワ感を低減できる。
また、前記位相補償手段として、車両走行中用の第1位相補償器と、据え切り用の第2位相補償器と、をそれぞれ備え、車両が走行している場合には前記第1位相補償器を介して制御目標値が生成され、据え切りの場合には前記第2位相補償器を介して制御目標値が生成されるように各位相補償器を切り替える手段を備えているのが好ましい。走行中操舵と据え切りとで位相補償器を切り替えることで、簡単に、適切な操舵フィーリングが得られる。
前記位相補償手段は、下記の式の伝達関数Gc(s)で表されるものであり、当該伝達関数Gc(s)のパラメータζ及びωは、当該電動パワーステアリング装置のトルク開ループ伝達関数のゲイン特性において機械系固有振動と前記モータの逆起電力とに基づき表れるピークを低減又は打ち消すような値に設定されているのが好ましい。
(s)=(s+2ζωs+ω )/(s+2ζωs+ω ) ・・(71)
ここで、ζは、補償後の減衰係数、ζは被補償系の減衰係数、ωは補償後の自然角周波数、ωは被補償系の自然角周波数で、前記G(s)のパラメータである。
上記の場合、トルク開ループ伝達関数のゲイン特性において機械系固有振動とモータの逆起電力とに基づき現れるピークが位相補償手段によって低減または打ち消されることで、安定性を確保しつつ応答性を改善することが可能となる。なお、当該位相補償手段の入出力定常ゲインを1とすべく、下記式のように、G(s)においてゲイン補正係数としてω /ω を乗じた形態をとることもできる。
(s)=ω (s+2ζωs+ω )/{ω (s+2ζωs+ω )}
・・(72)
さらに、位相補償手段の前記伝達関数G(s)のパラメータζ及びζは、下記の式を満たすように設定されているのが好ましい。
−1/2≦ζ≦1 ・・(73)
0<ζ<2−1/2 ・・(74)
この場合、被補償系の減衰係数となるべきパラメータζが0<ζ<2−1/2から選定されるので、十分な位相補償を行うことができ、補償後の減衰係数となるべきパラメータζが2−1/2≦ζ≦1の範囲から選定されるので、位相補償により安定性を確保しつつ応答性を改善することができる。
前記位相補償手段の伝達関数G(s)のパラメータωおよびωは、下記の式を満たし、かつ、前記トルク開ループ伝達関数のゲイン特性における前記ピークの周波数をfとしたときに共に2π×f近傍の値となるように設定されているのが好ましい。
ω=ω ・・(75)
ω=ωとすることで、位相補償の設計パラメータが1つ削減され、かつ補償後の自然角周波数となるべきパラメータωが2π×f近傍の値となることで機械系固有振動による不安定化が防止されるので、位相補償の設計を簡易化しつつ制御系の更なる安定化を図ると共に応答性を改善することができる。
前記位相補償手段の伝達関数G(s)のパラメータωは、下記の式を満たすように設定されているのが好ましい。
ω<ω ・・(76)
ここで、ωは、前記機械系固有振動の角周波数である。
補償後の自然角周波数となるべきパラメータωが機械系固有振動の角周波数ωよりも小さいので、機械系の固有振動による制御系の不安定化が防止され、より確実に安定を保持しつつ応答性を改善することが可能となる。
[5.3.2 位相補償手段の好ましい実施の形態]
まず、位相補償設計のための基礎的検討について説明する。
電動パワーステアリング装置の制御設計における位相補償に関する記述の従来技術は、機械的な共振周波数である機械系固有振動周波数のピーク(以下「機械系ピーク」という)を補償するものとして提案されているが、これにはモータによる逆起電力の影響が考慮されていない。すなわち、電動パワーステアリング装置のシステムとしてのゲイン特性すなわちトルク開ループ伝達関数のゲイン特性におけるピーク(以下「システムピーク」という)が機械系のピークであるとみなされていた。しかし、下記のシミュレーションを行った結果、モータにおける逆起電力がシステムの特性に与えている影響は大きいものであり、機械系ピークとシステム全体のピーク(システムピーク)とは別の周波数であることが判明した。
このことについて図39を参照しつつ説明する。なお、トルク開ループ伝達関数とは、モータ9が発生すべきトルクの目標値を入力とし、舵角を(例えばハンドルを中立位置に)固定した状態でモータが実際に発生するトルク(以下「モータトルク」という)を出力とする伝達関数をいう。そして、モータ9が発生すべきトルクの目標値は電流制御系における電流目標値に対応し、モータトルクはモータに実際に流れる電流に対応するので、トルク開ループ伝達関数は、舵角を固定した状態の電動パワーステアリング装置において電流目標値を入力とし実際にモータに流れる電流を出力とする伝達関数に相当する。
図39は、ブラシレスモータを用いた電動パワーステアリング装置のトルク開ループ伝達関数のボード線図(ゲイン特性図および位相特性図)をシミュレーション(数値実験)により求めたものであって、同モータd軸およびq軸電流制御系において非干渉化をおこなった場合と非干渉化をおこなわなかった場合とについてのボード線図を示している。非干渉化をおこなうことにより、逆起電力による影響を取り除き、機械系の特性を得ることができる。なお、このシミュレーションの際の条件は下記の通りである。
モータ出力側の慣性: Im=7.89×10−5[N・m・s/rad]
モータ出力側の粘性: Cm=1.39×10−3[N・m・s/rad]
減速器の減速比: n=9.7
トーションバーの弾性: K=162.95[N・m/rad]
モータのトルク定数: K=5.12×10−2[N・m/A]
モータのインダクタンス:L=9.2×10−5[H]
モータの抵抗: R=6.1×10−2[Ω]
モータの極対数: P=4
逆起電力定数: φfp=4.93×10−2[V・s/rad]
PI制御部の比例ゲイン:Kp=L×(2π×75)
PI制御部の積分ゲイン:Ki=R×(2π×75)
図39のゲイン特性を示す図に着目する。図39において、曲線aは非干渉化をおこなっていない場合のゲイン特性を示しており、そのピーク周波数すなわちシステムピークの周波数(以下「システムピーク周波数」または単に「ピーク周波数」といい、記号“fp”で表すものとする)は約17Hzである。曲線bは非干渉化をおこなった場合のゲイン特性を示しており、ピーク周波数fpは約22Hzである。また、曲線cは弾性・慣性のみのゲイン特性すなわち機械的要素のみのゲイン特性を示しており、このピーク周波数も約22Hzとなっている。したがって、機械系ピークの周波数(以下「機械系ピーク周波数」といい、記号“fm”で表すものとする)は約22Hzであり、システムピークが機械系ピークとは異なる周波数にあることがわかる。
次に、上記電動パワーステアリング装置において位相補償を行った場合のトルク開ループ伝達関数のゲイン特性を示す図40に着目する。図40において、曲線dは位相補償なしの場合のゲイン特性を示しており、図39における曲線a(非干渉化をおこなっていない場合のゲイン特性を示す曲線)に相当し、曲線dが示すゲイン特性におけるピークPは、前述のとおり、逆起電力の影響を反映したピークである。そして、このピークPは、機械系ピークPm(これは図1における曲線bまたは曲線cのピークに相当する)よりも低い周波数にある。
従来は、逆起電力の影響が考慮されていなかったため、上記ピークPを機械系ピークPmとみなし、このピークPを打ち消すべく位相補償が行われていた。このため、位相補償器の設計によっては、位相補償後も機械系ピークPmの影響によってシステム全体が不安定化する(振動的となる)ことがあった。そこで、本実施形態の電動パワーステアリング装置では、逆起電力の影響によってシステム全体のゲインのピークPが機械系ピークPmと異なる点を考慮して位相補償器が設計される。
前述のように、本ステアリング装置では、主要な摩擦要素であるステアリングギヤ3及び減速機8の摩擦値が低く抑えられている。すなわち、ステアリングギヤの摩擦と前記減速機の摩擦との和が、操舵軸回り換算値において、1Nm以下であり、好ましくは0.9Nm以下である。なお、各摩擦要素の好ましい値については前述の通りである。
図41は、ECU105における位相補償部213を中心とするブロック図である。位相補償部213は、マイクロコンピュータがプログラム処理を実行することにより、機能するものである。
位相補償部213には、トルクセンサ3から出力された操舵トルク検出信号Tが入力される。
位相補償部213は、この操舵トルク検出信号Tに対して位相補償のためのフィルタリング処理を施し、その処理後の信号を目標電流値演算部214に出力するものである。この位相補償部213は、それぞれ特性の異なる第1位相補償器213a及び第2位相補償器213bと、操舵トルク検出信号Tを第1位相補償器213aに与えるか第2位相補償器213bに与えるかを切り替える切替器213cと、を備えている。
切替器(位相補償器の特性を異ならせる手段)213cには、車速センサ104からの車速信号Vsが与えられ、車両が走行中(Vs≠0)か据え切り(Vs=0)かによって、位相補償器(位相補償手段)213a,213bを選択する。切替器213cによって、車両が走行中の場合には走行中用である第1位相補償器213aが選択され、当該第1位相補償器213aに操舵トルク検出信号Tが与えられ、第1位相補償器213aの出力が目標電流値演算部214に与えられる。
一方、据え切りの場合には据え切り用である第2位相補償器213bが選択され、当該第2位相補償器213bに操舵トルク検出信号Tが与えられ、第2位相補償器213bの出力が目標電流値演算部214に与えられる。
目標電流値演算部214は、第1位相補償器213a又は第2位相補償器213bによるフィルタリング処理後の信号と、上記車速信号Vsとに基づき、モータ9に供給すべき電流の目標値を算出し、目標電流値Iとして出力する。
以下、位相補償部213について説明する。
電動パワーステアリング装置のシステム全体としての特性を示すトルク開ループ伝達関数の周波数特性は、実用的な周波数帯域においては2次遅れ系の伝達関数で近似できることが知られている。図40は、位相補償をおこなわない場合と位相補償を行った場合のボード線図である。図40においても、2次遅れ系の伝達関数の特徴が表れている。
まず、位相補償をおこなわない場合について説明する。曲線dは、位相補償をおこなわない場合のゲイン特性を示しており、この曲線dから、システム全体のトルク開ループ伝達関数のゲイン特性のピーク周波数fpは約17Hzであって、そのときのゲインは約9dBとなっており、安定性が低いことがわかる。また、位相補償をおこなわない場合の特性を示す曲線fより、20Hz〜30Hz付近で位相の遅れが大きくなっていることがわかる。2次遅れ系の伝達関数G(s)の一般式を次式に示す。
G(s)=ω /(s+2ζωs+ω
ただし、sはラプラス演算子、ζは減衰係数、ωは自然角周波数である。
位相補償器213a,213bの伝達関数G(s)は、被補償系を示す上記2次遅れ系の伝達関数G(s)のゲイン特性におけるピークであるシステムピークPを打ち消すべく設定されるものであって、本実施形態では次式で与えられる。
(s)=(s+2ζωs+ω )/(s+2ζωs+ω
ただし、sはラプラス演算子、ζは補償後の減衰係数、ζは被補償系の減衰係数、ωは補償後の自然角周波数、ωは被補償系の自然角周波数である。本実施形態は、所望の周波数特性を有する制御系を実現する上で効果的にパラメータが設定される位相補償器を備えた電動パワーステアリング装置を提供するものである。
ここで、被補償系のゲイン特性においてピークが存在する場合、その伝達関数G(s)を表す式におけるパラメータζがζ<2−1/2となることが知られている。したがって、位相補償器の伝達関数G(s)を表す式のパラメータζを式:2−1/2<ζ<1で示される範囲から選定すると、十分な位相補償をすることができず、その結果、電動パワーステアリング装置が制御系として不安定(振動的な系)になりやすい。
したがって、位相補償器の伝達関数におけるパラメータζは式:2−1/2<ζ<1で示される範囲以外から選定すべきである。
また、位相補償器213による補償後の減衰係数ζは、式:0<ζ<2−1/2で表される範囲で選定されると、補償後のゲイン特性においてピークが存在し補償後の制御系が不安定となりやすい。
したがって、位相補償器の伝達関数おけるパラメータζは式:0<ζ<2−1/2で示される範囲以外から選定すべきである。
そこで、本実施形態では、伝達関数G(s)を有する位相補償器15a,15bのパラメータζおよびζを、下記の式が満たされるように設定する。
−1/2≦ζ≦1
0<ζ<2−1/2
このように設定することにより、安定性を確保しつつ応答性を改善することができる。
また、システム全体のピーク周波数fpと機械系ピーク周波数fmとは異なっており、機械系ピーク周波数fmの方がシステムピーク周波数fpよりも高くなっている。そのため、ω近傍の周波数帯域で不安定(振動的な系)とならないようにするためには、機械系固有振動の角周波数ωにおいてゲインが十分に低下している必要がある。ω<ωであれば、ωにおいてゲインが十分に低下せずω近傍の周波数帯域で振動的な系となる。したがって、機械系ピークを効果的に補償するために位相補償器のパラメータωを下記の式が満たされるように設定するのが好ましい。
ω>ω
以上のように、ζ,ζ,ωを設定すると、図40において、電動パワーステアリング装置の特性として、曲線eで示すようなゲイン特性および曲線gで示すような位相特性が得られる。また、図42は、位相補償器の特性を示すボード線図である。これらより、上記設定による位相補償によれば、ゲインのピークの値が大きく低下し、20Hz付近での位相の遅れが改善されることがわかる。
以上の位相補償器によれば、位相補償設計の簡易化を図りつつ、制御系の安定性を確保すると共に応答性を向上させて所望の周波数特性のトルク開ループ伝達関数を得ることができる。
続いて、さらに、好適な補償器設計を実現するために、まず、位相補償器の伝達関数G(s)におけるωとωについて検討する。ωは補償後の自然角周波数、言い換えれば目標の自然角周波数である。ここで、ωとωが異なるということは、被補償系の自然角周波数が目標の自然角周波数になっていないということである。電動パワーステアリング装置の制御系における位相補償では、被補償系の自然角周波数と目標の自然角周波数とが同じであることが望ましいので、ω=ωとする。ここで、ω=ω=ωとおき、以下、これを「補償器自然角周波数」というものとする。そして、システム全体のトルク開ループ伝達関数のゲイン特性におけるピーク周波数fpに対して、補償後の自然角周波数ω=2π・fpと設定すれば、機械系ピークPmの影響によるシステムの不安定化(振動的となること)が回避される。なお、記述のように、機械系ピークPmの影響によって振動的な系とならないようにω>ωとするのが好ましい。
そこで、より好ましくは、位相補償器の伝達関数のパラメータは、下記の式が満たされるように設定する。
ω>ω=ω=ω
ω=2π・fp
−1/2≦ζ≦1
0<ζ<2−1/2
このように、ωとωを同じ値に設定することにより、設計パラメータが1つ削減され、効果的かつ簡単に応答性と安定性を満足させることができる。
また、ω=2π・fpのfp(以下、これをシステムピーク周波数fpと区別するために記号“fn”で表し、「補償器自然周波数」という)については、ピーク周波数fpと同一の値でなくてもピーク周波数fpの近傍の値であれば十分に実用的である。したがって、補償器自然角周波数ωは次式のように設定できる。
2π×(fp−α)≦ω≦2π×(fp+β)
本実施形態では、車両走行中用である第1位相補償器213aも、据え切り用である第2位相補償器213bも、上記式G(s)で表される伝達関数を持つ。第1位相補償器213aと第2位相補償器213bは、G(s)のパラメータの値がお互いに異なるが、その値は、上記範囲で選定されている。
例えば、走行中用の第1位相補償器213aのパラメータとして、ω=2π×21Hz,ζ=1,ζ=0.2を選定した場合、据え切り用の第2位相補償器213bのパラメータとしてω=2π×20Hz,ζ=1,ζ=0.2を選定して、両位相補償器213a,213bの特性を異ならせることができる。
上記の例の場合、据え切り用の第2位相補償器213bのωの値が第1位相補償器213aに比べて小さいので、第2位相補償器213bの減衰のピークは、第1位相補償器213aの減衰ピークに比べて低周波域側となる。この結果、第2位相補償器213bは、低周波域での減衰度が全体的に高くなる。
一方、第1位相補償器213aのωの値が第2位相補償器213bよりも大きいため、走行中においては低周波域での減衰及び位相遅れが比較的小さくなり、操舵フィーリングのフワフワ感が低下する。
第1位相補償器213aでは、さらに車速に応じてパラメータの値を異ならせてもよく、例えば、低速時には、パラメータを、ω=2π×21Hz,ζ=1,ζ=0.2とし、中速以上の時には、パラメータを、ω=2π×23Hz,ζ=1,ζ=0.3とすることができる。ωを大きくすることで、減衰ピークの周波数を高周波域側へずらすことができ、ζを大きくすることで減衰度を低くすることができる。これにより、操舵フィーリングを一層向上させることができる。
本実施形態では、位相補償器として第1位相補償器213aと第2位相補償器213bをそれぞれ別々に設けて両補償器213a,213bを切替器213cで切り替えているが、2つの位相補償器に代えて単一の位相補償器を設けておき、走行中か据え切りかで位相補償器のG(s)のパラメータ(ω,ζ,ζ)として異なる値が与えられるようにしておいてもよい。
なお、位相補償器の伝達関数及びその特性は、上記のものに限定されない。
[5.4 車両左右流れ補償]
[5.4.1 車両左右流れに関する考察]
電動パワーステアリング装置では、ステアリングギヤや、車両側の足回りの機械的効率、摩擦などの回転方向差により、操舵トルクを中立(操舵トルク0位置)に保持しようとしても、車両がわずかに右又は左に流れるという現象が起こる。このため、車両を直進させようとすると、車両が流れる方向とは逆に運転者が操舵トルクを加え続けなくてはならず、そのため操舵フィーリングが悪化する。
ここで、特許文献15では、車両の操舵負荷の左右差を相殺するようにアシスト特性に左右差を設けたものが記載されているが、この特許文献15記載のものでは、操舵トルク中立状態で、車両が流れるのを防止するアシストトルクが加わっていないため、車両が左右に流れることを防止することはできず、車両の流れを防止するには、車両が流れる方向とは逆の操舵トルクが必要で操舵フィーリングが悪い。
車両が左右に流れるのを防止して操舵フィーリングを向上させるには、次の構成を採用できる。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、トルクセンサによって検出した操舵トルクに応じたアシストトルクをモータ9に発生させるためのアシスト制御電流値(モータ目標電流値)を求める手段を備えた電動パワーステアリング装置において、車両が流れるのを抑えるためのトルクを前記モータに発生させるための流れ補償電流値を、(オフセットとして)前記アシスト制御電流値に加算することを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
この構成によれば、アシスト制御電流値には、車両が左又は右に流れるのを抑えるためのトルクに相当する補償電流値が加わっているため、流れを抑えるための操舵トルクを運転者が加えなくとも車両の流れを防止でき、操舵フィーリングが向上する。
また、流れ補償電流は、車速に応じて変化させてもよい。例えば、車速=0の場合のように車速流れが生じない場合には、流れ補償電流を付加せずに、車両走行中のときに流れ補償電流を付加するようにしてもよい。あるいは、車速の増加に応じて徐々に(連続的に)流れ補償電流が増加するように変化させてもよい。
[5.4.2 車両左右流れ抑制のための好ましい形態]
車両流れ抑制のための処理は、ECU105(目標電流値演算部214)においてコンピュータプログラムを実行することにより行われる。
図43に示すように、車速センサ104によって車速Vsが検出される(ステップS1)とともに、トルクセンサ7によって操舵トルクTsが検出される(ステップS2)と、目標電流値演算部14では、モータ目標電流値であるアシスト制御電流の演算を行う(ステップS3)。この演算は、操舵トルクTsとモータ目標電流値Isとの関係を(車速毎に)示すアシストマップ(図36参照)を用いて行われる。図36のアシストマップ32では、操舵トルク中立位置(0トルク位置)付近が不感帯とされ、対応するアシストトルク(目標電流値Is)は0である。
ECU105では、更に流れ補償電流演算を行う(ステップS4)。ここでは、補償電流は、実測又はチューニングにより操舵フィーリング上違和感のない値に設定された一定値である。
流れ補償電流値は、オフセットとしてアシスト電流制御値に加算される(ステップS5)、図36のアシストマップにおける特性が、上下方向(Is軸方向)にシフトした特性が得られる。
補償電流値がアシスト制御電流値に加算されることで、車両の左右流れを抑制するトルクがモータ9によって発生するため、運転者が流れる方向とは逆に操舵トルクを加えなくても、車両流れを抑制でき、操舵フィーリングを抑制できる。
なお、補償電流値が加算されたアシスト制御電流値は、モータ9のフィードバック制御に用いられ、フィードバック制御部400によってモータ電流制御演算が行われ(ステップS6)るとともに、モータ9への制御量出力が行われる(ステップS7)。
図44にも示すように、補償電流値は、車速=0ときには加算されないようにして、走行時にだけ加算されるようにしてもよい。すなわち、図44のステップS14に示すように車速が0であれば、流れ補償電流演算(ステップS15)、流れ補償電流加算(ステップS16)を行わずに、ステップS13(前記ステップS3と同様)で求めたアシスト制御電流値を用いて制御し、車速が0でなければ、図43と同様に流れ補償電流に関する処理(ステップS15,S16)を行うことができる。車両停止時では、摩擦要素などの回転方向差などがなく車両の流れが問題とならないときには、流れ補償電流が加算されないようにすることで、より適切な制御が行われる。
前記補償電流値は、車速の関数であってもよい。すなわち、図45に示すような車速に対応する車速ゲインG(v)を設定しておき、補償電流値=Ic・G(v)(ただし、Icは一定の電流値)とすることができる。図45では、車速0又は0付近では車速ゲインが0とされ、車速の増加に従って連続的に車速ゲインが増加し、所定速度以上では車速ゲインを1としたものである。
[5.5 電流検出器の温度特性補償]
[5.5.1 電流検出器の温度特性に関する考察]
電動パワーステアリング装置には、操舵のための操舵手段であるハンドルに加えられる操舵トルクを検出するトルクセンサが設けられており、トルクセンサで検出される操舵トルクに基づき電動モータに供給すべき電流の目標値(以下「目標電流値」という)が設定される。そして、この目標電流値と電動モータに実際に流れる電流の値との偏差に基づいて比例積分演算により電動モータの駆動手段に与えるべき指令値が生成される。電動モータの駆動手段は、その指令値に応じたデューティ比のパルス幅変調信号(以下「PWM信号」という)を生成するPWM信号生成回路と、そのPWM信号のデューティ比に応じてオン/オフするパワートランジスタを用いて構成されるモータ駆動回路とを備え、そのデューティ比に応じた電圧を電動モータに印加する。この電圧印加によって電動モータに流れる電流は電流検出器によって検出され、目標電流値と検出された検出電流値との差が上記指令値を生成するための偏差として使用される。
3相のブラシレスモータが使用されている電動パワーステアリング装置では、電流検出器はいずれかの2相に備えられているのが一般的である。例えば、U相とV相とに電流検出器が備えられており、モータのU相およびV相に流れる電流が検出される。
上記のような構成において、モータに流すべき電流が零であるにも拘わらず、実際には電流検出器で電流が検出されることがある。このような電流はオフセット電流と呼ばれており、モータの動作中、電流検出器によって検出される検出電流値は、当該モータに流れている電流にオフセット電流が重畳されたものとなる。また、上記のようなオフセット電流の値は、各相の電流検出器ごとに異なっている。オフセット電流の影響を考慮せずにモータ制御が行われた場合、本来モータの各相に流すべき電流と実際にモータの各相に流れる電流との間に誤差が生じる。これにより、トルクリップルが発生し、運転者はハンドル操舵に違和感を感じていた。
従来、上述のようなオフセット電流の影響を解消するため、オフセット電流に相当する補正値(以下「オフセット補正値」という)を保持し、電流検出器で検出された検出電流値からオフセット補正値を減算することにより検出電流値が補正されている。具体的には、イグニッションスイッチがオンされたときに電流検出器で検出される検出電流値をオフセット補正値として保持し、モータの動作中には、電流検出器で検出された検出電流値から当該オフセット補正値を減算することにより検出電流値を補正し、その補正後の電流値によってモータ制御が行われる。
ところが、モータの動作中には、温度変化の影響により、電流検出器で生じるオフセット電流は変動する。また、温度変化の影響により、電流検出器の測定値(入力値)に対する出力値の比率であるゲインも変動する。このゲインは、測定値と出力値との対応関係を示す直線の傾きに相当する。従来の構成では、イグニッションスイッチがオンされたときに検出されるオフセット電流を考慮したモータ制御が行われているが、温度変化によりオフセット電流やゲインの変動が大きくなると、当初のオフセット補正値による補正だけでは十分な効果が得られない。
動作中に温度変化により電流検出器におけるオフセット電流やゲインの変動が生じるときにも、トルクリップルが生じることなく、違和感のない操舵感が得られるようにするには次の構成が採用できる。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、車両操舵のための操作に応じて決定される目標電流値に基づきブラシレスモータを駆動することにより、当該車両のステアリング機構(操舵機構)に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置であって、前記ブラシレスモータに流れる電流を検出し、その検出電流値を出力するモータ電流検出手段と、前記モータ電流検出手段近傍の温度を検出する温度検出手段と、前記検出温度に応じて前記検出電流値を補正する補正手段と、前記目標電流値と前記補正手段により補正された補正後の検出電流値との偏差に基づき前記ブラシレスモータを駆動するための指令値を生成するモータ制御手段と、前記指令値に応じて前記ブラシレスモータを駆動するモータ駆動回路とを備えることを特徴とする。
上記構成によれば、モータ電流検出手段によって検出された電流値を温度に応じて補正することにより、実際にモータに流れる電流値が求められる。このため、温度変化の影響によりモータ電流検出手段によって検出された電流値が変動しても、モータに流れる電流値が正しく求められる。これにより、トルクリップルの発生が防止され、運転者に違和感のない操舵感を与えることができる。
前記補正手段は、前記モータ電流検出手段に生じるオフセット電流を補正するための所定のオフセット補正値を前記検出温度に応じて設定するオフセット補正値設定手段と、前記オフセット補正値に基づき前記検出電流値を補正する電流値補正手段とを含むのが好ましい。
この構成によれば、所定のオフセット補正値を温度に応じて設定し、モータ電流検出手段によって検出された電流値から例えば上記オフセット補正値を減算するなどの所定の補正を行うことにより、実際にモータに流れる電流値が求められる。このため、温度変化の影響によりモータ電流検出手段で生じるオフセット電流が変動しても、モータに流れる電流値が正しく求められる。これにより、オフセット電流の変動によるトルクリップルの発生が防止され、運転者に違和感のない操舵感を与えることができる。
前記補正手段は、前記モータ電流検出手段における入力値に対する出力値の比率であるゲインの変動を補正するためのゲイン補正係数を前記検出温度に応じて設定する係数設定手段をさらに含み、前記電流値補正手段は、前記オフセット補正値および前記ゲイン補正係数に基づき前記検出電流値を補正するのが好ましい。
上記構成によれば、所定のオフセット補正値を温度に応じて設定するとともに温度に応じて所定のゲイン補正係数を設定し、モータ電流検出手段によって検出された電流値から例えば上記オフセット補正値を減算して得られた値に上記ゲイン補正係数を乗算するなどの所定の補正処理を行うことにより、実際にモータに流れる電流値が求められる。
このため、温度変化の影響によりモータ電流検出手段で生じるオフセット電流やモータ電流検出手段のゲインが変動しても、モータに流れる電流値が正しく求められる。これにより、オフセット電流およびゲインの変動によるトルクリップルの発生が防止され、運転者に違和感のない操舵感を与えることができる。
[5.5.2 温度特性補償に関する好ましい実施の形態]
図27に示すように、温度検出器240は、U相電流検出器181およびV相電流検出器182近傍に設けられており、U相電流検出器181およびV相電流検出器182の温度を検出し、当該温度を示す温度値hを出力する。
検出電流値補正部250は、U相検出電流値iu、V相検出電流値iv、温度値hなどに基づいて、所定のオフセット補正値およびゲイン補正係数を更新する。ここで、オフセット補正値とは、モータに流すべき電流が零であるにもかかわらず電流検出器で検出されるオフセット電流の影響を解消するための補正値である。また、ゲイン値とは、電流検出器の測定値(入力値)に対する出力値の比率であって、測定値と出力値との対応関係を示す直線の傾きに相当する値であり、ゲイン補正係数とは、後述するように温度変化によるこのゲイン値の変化を補正するため、温度に応じて設定される係数であって、具体的には補正時の温度における基準となるゲイン値に対するゲイン値の比率の逆数である。
また、検出電流値補正部250は、U相検出電流値iuとV相検出電流値ivとからそれぞれオフセット補正値を減算するとともに、これらの減算により得られた値に対してそれぞれゲイン補正係数を乗算することによりU相検出電流値iuおよびV相検出電流値ivを補正し、補正されたこれらの電流値をU相モータ電流値imuおよびV相モータ電流値imvとして出力する。このように検出電流値からオフセット補正値を減算することにより、温度変化によるオフセット電流値の変化が補正され、上記減算値に対してゲイン補正係数が乗算されることにより、温度変化によるゲイン値の変化が補正される。なお、検出電流値補正部250における上記補正処理動作の詳しい説明は後述する。
3相交流/d−q座標変換部229は、ロータの電気角θreに基づいて、U相モータ電流値imuおよびV相モータ電流値imvを、d−q座標上の値であるd軸モータ電流値idおよびq軸モータ電流値iqに変換する。このd軸モータ電流値idおよびq軸モータ電流値iqは、減算器223および減算器224にそれぞれ入力される。
次に、検出電流値補正部250の補正処理について説明する。図46は検出電流値の補正手順を示すフローチャートである。なお、図27の検出電流値補正部250の機能は、このフローチャートにおける、ステップS120、ステップS130、ステップS140、ステップS150、ステップS170、ステップS180、ステップS190で示すステップにより実現される。
この電動パワーステアリング装置において、イグニッションスイッチがオンされると(ステップSll0)、マイコン(ECU105)にて動作するプログラムで参照するパラメータ(変数)の初期値を設定する(ステップS120)。具体的には、U相オフセット補正値iou、V相オフセット補正値iovに零を設定し、U相ゲイン補正係数guおよびV相ゲイン補正係数gvに1を設定する。これらU相オフセット補正値iou、V相オフセット補正値iov、U相ゲイン補正係数gu、およびV相ゲイン補正係数gv(以下これらの値を「補正値」と総称する)の初期値を設定すると、ステップS130の処理に進む。
ステップS130では、U相電流検出器181によって検出されたU相検出電流値iuとV相電流検出器182によって検出されたV相検出電流値ivとをそれぞれU相オフセット補正値iou、V相オフセット補正値iovに設定する。すなわち、イグニッションスイッチがオンされた直後にU相電流検出器181およびV相電流検出器182で生じているオフセット電流の値が、U相オフセット補正値iouおよびV相オフセット補正値iovにそれぞれ設定される。また、ステップS130では、温度検出器240によって検出された温度hに対応するゲイン補正係数をU相ゲイン補正係数guおよびV相ゲイン補正係数gvに設定する。この温度hに対応するゲイン補正係数は、温度hとゲイン補正係数との対応関係を示すテーブルまたは算出式に基づき算出される。このテーブルまたは算出式は、例えば温度変化によるゲイン値の変化を測定することにより得られる所定値に基づき検出電流値補正部170に予め記憶される。以上のように補正値を設定すると、ステップS140の処理に進む。
ステップS140では、温度検出器240によって検出された温度hに対応する所定のオフセット基準値に対するU相オフセット補正値iouおよびV相オフセット補正値iovの差分値(ずれ量)をそれぞれU相オフセット差分値douおよびV相オフセット差分値dovとして算出する。このオフセット基準値は、基準となる所定の電流検出器のオフセット電流を各種温度で測定することにより得られる値であって、当該電流検出器の温度と一意に対応する。この温度とオフセット基準値との対応関係は、所定のテーブルまたは算出式として検出電流値補正部250に予め記憶される。なお、上記基準となる電流検出器は、U相電流検出器181およびV相電流検出器182とは異なる電流検出器であり、U相電流検出器181によって検出されたU相検出電流値iuおよびV相電流検出器182によって検出されたV相検出電流値ivは、基準となる電流検出器によって検出された電流値から検出器の個体差に応じた所定量のずれを生じている。このずれ量である上記差分値は後述するステップS180の処理において利用される。なお、上記オフセット基準値は、複数の電流検出器のオフセット電流を各種温度で測定することにより得られるそれぞれの値の平均値であってもよい。
ステップS150では、温度検出器240によって検出された温度hを設定時温度として記憶する。その後、リレーが閉じられ(オン状態にされ)る(ステップS160)。
ステップS170では、温度検出器240によって検出された現在の温度hと、ステップS150において記憶された設定時温度とを比較し、その温度差が所定の閾値を超えたか否かを判定する。閾値を超えた場合、ステップS180の処理に進む。閾値を超えていない場合、ステップS180,S190の処理は省略され、ステップS200の処理に進む。
ステップS180では、上述した所定のテーブルまたは算出式に基づき、温度検出器240によって検出された現在の温度hに対応するオフセット基準値を算出する。この算出されたオフセット基準値に対しステップS140において算出されたU相オフセット差分値douおよびV相オフセット差分値dovをそれぞれ加算することにより新たなU相オフセット補正値iouおよびV相オフセット補正値iovを算出する。また、ステップS180では、ステップS130において説明した上記所定のテーブルまたは算出式に基づき、温度検出器240によって検出された温度hに対応するゲイン補正係数をU相ゲイン補正係数guおよびV相ゲイン補正係数gvに再び設定する。以上のように補正値を更新すると、ステップS190の処理に進む。
ステップS190では、記憶されている設定時温度を破棄し、温度検出器240によって検出された現在の温度hを設定時温度として新たに記憶することにより設定時温度を更新し、ステップS200の処理に進む。
ステップS200では、検出電流値補正部250により、U相検出電流値iuからU相オフセット補正値iouを減算し、減算により得られた値に対してU相ゲイン補正係数guを乗算することによりU相検出電流値iuを補正し、この補正後の値をU相モータ電流値imuとして出力する。また、V相検出電流値ivからV相オフセット補正値iovを減算し、減算により得られた値に対してV相ゲイン補正係数gvを乗算することによりV相検出電流値ivを補正し、この補正後の値をV相モータ電流値imvとして出力する。そして、これらの出力電流値に基づいて記述のモータ駆動処理が行われる。
ステップS210では、イグニッションスイッチがオフされたか否かを判定する。オフされた場合、以上の処理は終了し電動パワーステアリング装置の動作が停止する。オフされていない場合、ステップS170の処理に戻り、ステップS170からステップS210までの処理が、この電動パワーステアリング装置の動作中、繰り返される。
以上のように、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置では、イグニッションスイッチがオンされたときに検出されるオフセット補正値をモータの動作中に変化する温度に応じて更新するとともにゲイン補正係数を温度に応じて更新し、電流検出器によって検出された電流値から上記オフセット補正値を減算して得られた値に上記ゲイン補正係数を乗算することにより、実際にモータに流れる電流値が求められる。このため、温度変化の影響により電流検出器で生じるオフセット電流や電流検出器のゲインが変動しても、モータに流れる電流値が正しく求められる。これにより、オフセット電流およびゲインの変動によるトルクリップルの発生が防止され、運転者に違和感のない操舵感を与えることができる。
[5.5.3 変形例]
上記一実施形態では、上記オフセット補正値およびゲイン補正係数を温度に応じて更新し、電流検出器によって検出された電流値から上記オフセット補正値を減算して得られた値に上記ゲイン補正係数を乗算することにより実際にモータに流れる電流値を求めるが、上記ゲインの変動を考慮することなく、上記オフセット補正値のみを温度に応じて更新し、電流検出器によって検出された電流値から上記オフセット補正値を減算することにより実際にモータに流れる電流値を求めてもよい。この構成では、電流検出器のゲインの変動に対する補正が行われないが、ゲイン値の変動量が少ない場合には、オフセット電流の変動によるトルクリップルの発生が防止され、運転者に違和感のない操舵感を与えることができる。
また、上記一実施形態では、U相電流検出器181およぴV相電流検出器182によりU相およびV相の電流が検出されるが、さらにW相電流検出器を新たに設けることによりW相の電流が検出されてもよい。さらに、上記一実施形態におけるモータ9は3相のブラシレスモータであるが、n相(nは4以上の整数)のブラシレスモータであってもよい。この場合、電流検出器は各相に対して(n−1)個以上が設けられる。
[5.6 減速機の位相合わせ]
[5.6.1 減速機の歯の噛み合いとトルク変動に関する考察]
電動パワーステアリング装置においては、運転時における特に中立状態での操舵フィーリングの滑らかさが重要な性能の一つになっている。
一方、電動モータに生じる出力トルクのリプル(脈動)は、モータにおける極数やスロット数等の構造上の要因で発生するコギングトルクと、モータにおける誘導起電力波形が理想波形からずれることに伴う電気リプルとに大別される。そして、これらのリプルのうち、電動モータのコギングトルクは前記中立状態での操舵フィーリングを大きく阻害することから、この種の電動パワーステアリング装置においては、従来より、モータの極数とスロット数の組み合わせを改善したり(特許文献7)、或いはティース形状を改善したりして(特許文献18)、電動モータに生じるコギングトルクそのものを低下させるようにしている。
しかし、従来のように電動モータの内部構造を改善してそのコギングトルクを低下させる手段では、電動モータ自体の構造が複雑になって価格が高騰化するため、電動パワーステアリング装置の製造コストが高くなるという欠点がある。
一方、この種の電動パワーステアリング装置において、トルクリプルが発生するのは電動モータだけではなく、例えば、モータの出力軸の回転を減速して被補助軸(出力軸24)に伝達する減速機においても発生している。すなわち、かかる減速機には、ギヤ同士の噛み合い度合いに応じたトルクの変動が生じており、このトルク変動はギヤ間のバックラッシを防止すべく一方のギヤを他方のギヤに押し付けている場合に特に著しい。
従って、この種の電動パワーステアリング装置において、電動モータ自体のコギングトルクを低下させるだけでは、仮に減速機でトルク変動が生じている場合には当該変動が被補助軸に伝達されてしまうので、操舵フィーリングの悪化をそれほど有効に防止することができない。
したがって、電動モータのコギングトルクそのものを低下させなくても被補助軸のトルク変動を簡単に抑制できるようにして、電動パワーステアリング装置の操舵フィーリングの悪化をより低コストで防止するには、次の構成を採用できる。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、操舵部材に連動連結されている動力補助対象である被補助軸(例えば、出力軸)と、前記操舵部材の相対的な回転変位に基づく操舵トルクを検出するトルクセンサと、このセンサの検出結果に基づいて前記被補助軸を補助的に回転駆動させる電動モータと、このモータの出力軸の回転を減速して前記被補助軸に伝達する減速機とを備えている電動パワーステアリング装置において、前記減速機は、その回転によって生じるトルク変動が前記電動モータのコギングトルクとほぼ同周期でかつ逆の位相となるように設定されていることを特徴としている。
この場合、減速機でのトルク変動が電動モータのコギングトルクとほぼ同周期でかつ逆の位相となっているので、これら双方のリプルが互いに相殺される。このため、電動モータのコギングトルクそのものを低下させなくても、被補助軸のトルク変動を簡単に抑制することができる。
ところで、後の実施形態でも述べる通り、永久磁石のSN各極が周方向に並ぶロータを内部に有するブラシレスモータの場合には、そのロータを極めて低速で回転させると一回転当たりで極数(S極とN極とを合わせた合計数)と同じ数の波数を含むリプルが発生することが知られている。他方、バックラッシがほぼ零の状態で互いに噛み合っている第一及び第二ギヤの場合には、第二ギヤ側から見た第一ギヤのトルク変動は、当該第一ギヤの歯数と同じ波数のリプルとなる。
そこで、前記減速機は、具体的には、電動モータの出力軸に同軸心状に連結されかつ同モータの極数と同じ歯数を有する第一ギヤ(駆動歯車)と、この第一ギヤと噛み合うように被補助軸(出力軸)に設けられた第二ギヤ(従動歯車)とから構成することが好ましい。この場合、電動モータの出力軸に同軸心状に連結された第一ギヤが同モータの極数と同じ歯数を有しているので、電動モータのコギングトルクが最大となる時に第一ギヤの歯底と第二ギヤの歯先が一致する噛み合い状態(この時に第一ギヤのトルク変動が最小となる。)となるように設定しておけば、減速機でのトルク変動と電動モータのコギングトルクを確実に相殺することができる。
[5.6.2 トルク変動を小さくするための好ましい実施形態]
図1に示すように、前記減速機8は、電動モータ9の出力軸91に連結されたインボリュートはすば歯車よりなる駆動歯車である第一ギヤ82と、動力補助の対象となる被補助軸(出力軸24)に一体回転可能に嵌合された従動歯車である第二ギヤ81とを備えている。この第二ギヤ81は、第一ギヤ82と平行な軸心回りに回転する同第一ギヤ82よりも歯数の大きいインボリュートはすば歯車よりなり、第一ギヤ82の軸方向ほぼ中央部に噛み合っている。従って、電動モータ9の出力軸91の回転運動は、第一ギヤ82と第二ギヤ81の噛み合いを介して減速して出力軸24に伝達される。
第1ギヤ82は、2つの軸受82a,82bにより回転自在に支持されている。これらの軸受82a,82bには、弾性リング(Oリング)84が外嵌され、軸受82a,82bは当該弾性リング84を介して減速機ハウジング85に取り付けられている。これらの弾性リング84,84は、第1ギヤ82と第2ギヤ81が互いに近づく方向に弾性的に押し付けるためのものであり、長期間の使用によって第一ギヤ82及び第二ギヤ81の歯面が摩耗した場合でも、この摩耗に追従して両ギヤ81,82間の接触が有効に確保され、これによってバックラッシが生じるのを防止することができる。
前記電動モータ9は、永久磁石のSN各極が周方向に並ぶロータを内部に有するブラシレスモータよりなる。本実施形態では、当該電動モータ9として、SN各極が5対(合計10極)でかつステータが4対(UVW3相で合計12)のものが採用されており、かかる電動モータ9は、そのロータ(出力軸91)を極めて低速で回転させると、図1(a)に示すように、一回転当たりでその極数(本実施形態では10)と同じ数の歯数を含むリプル(コギングトルクT1)が発生する。
他方、本実施形態の減速機8では、弾性リング84の付勢力によって第一ギヤ82と第二ギヤ81をバックラッシがほぼ零の状態で互いに噛み合わせているが、この場合には、第二ギヤ81側から見たトルク変動として、図47(b)に示すように、一回転当たりで第一ギヤ82の歯数と同じ数だけの歯数を含むリプル(トルク変動T2)が発生する。そして、かかる第一ギヤ82によるトルク変動T2は、第一ギヤ82の歯先82Aが第二ギヤ81の歯底81Bと一致する図48(a)の噛み合い状態の時に最大となり、逆に、第一ギヤ82の歯底82Bが第二ギヤ81の歯先81Aと一致する図48(b)の噛み合い状態の時に最小となる。
そこで、本実施形態では、電動モータ9の出力軸91に同軸心状に連結される第一ギヤ82として、当該電動モータ9の極数と同じ10個の歯数を有するギヤを採用することにより、電動モータ9のコギングトルクT1と第一ギヤ82のトルク変動T2の一回転当たりの波数を合わせるとともに、電動モータ9のコギングトルクT1が最大となる時に第一ギヤ82の歯底82Bと第二ギヤ81の歯先81Aが一致する噛み合い状態となるように、第一ギヤ82と出力軸91との回転軸心回りの連結角度を調整することにより、電動モータ9のコギングトルクT1と第一ギヤ82のトルク変動T2とがほぼ同周期でかつ逆の位相となるように設定されている。
このため、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置によれば、図47(c)に示すように、電動モータ9と減速機8において発生する双方のリプル(図1(a)のT1と図1(b)のT2)が互いに相殺され、これによって被補助軸である第二操舵軸24に発生するトルク変動T3をほぼ零にすることができる。従って、電動モータ9のコギングトルクT1が生じていても、第二操舵軸24に発生するトルク変動T3を簡単に抑制することができる。
[6.非干渉化制御]
図27に示すように、ECU105は、モータ9を非干渉制御するための非干渉化演算部450を備えている。
ここで、干渉とは、複数の制御系において、一方の制御系の操作量を変化させた場合に、他の制御系の制御量に変化が生じることをいい、非干渉化制御とは、干渉する制御間の干渉を防止して、干渉のない独立した制御系として取り扱うための制御である。
前述のようにブラシレスモータ9のd軸電流及びq軸電流のそれぞれの目標値に対して、d軸電流及びq軸電流の実測値をフィードバックする制御を行う場合、モータ9の誘起電力によって、d軸の制御系とq軸の制御系には干渉が生じる。つまり、d軸電流の目標値を変化させるとq軸電流の実測値に影響が生じ、q軸電流の目標値を変化させるとd軸電流の実測値に影響が生じる。q軸電流とd軸電流の相互干渉は、電気的な粘性として現れ、モータ効率を低下させる要素となる。
非干渉化演算部(非干渉化制御手段)450は、q軸とd軸の相互干渉を回避するためのものであり、実測値であるdq軸電流(id,iq)と、モータの回転角度をもとに算出したモータ角速度とに基づいて非干渉化演算を行う。
検出したd軸電流idは、q軸に係る制御系の影響を受けており、検出したq軸電流iqは、d軸に係る制御系の影響を受けているが、非干渉化演算によってこのような干渉が打ち消される。
つまり、PI制御部225,226によって生成されたdq軸目標電圧は、非干渉化演算部450によって、非干渉化されたdq軸目標電圧(Vd,Vq)に補正され、d−q/3相交流座標変換部227に与えられる。
ブラシレスモータ9の制御において、q軸とd軸の非干渉化制御を行うことにより、電気的な粘性項を低下させることができ、モータ効率を上昇させることができる。
[7. ラック軸におけるロードノイズ減衰]
[7.1 ロードノイズに関する考察]
ステアリング装置では、操舵フィーリングの低下を防ぐために、走行路面などに応じて操向車輪から操舵機構側に逆入力される外乱(路面ノイズ;ロードノイズ)を抑えることが要求されている。
そこで、従来装置には、電動モータの制御系において、上記路面ノイズのうち、不必要な周波数帯域をカットすることにより、操舵機構に対する外乱の悪影響を抑えようとしたものがある(例えば、特許文献2参照。)。
また、従来装置には、例えば特許文献19に開示されているように、操舵機構側に含まれたラック軸と操向車輪側に連結されたボールジョイントとの間にダンパーとしてのゴム状弾性体からなるブッシュ組立部を設け、このダンパーにて路面ノイズを減衰しようとしたものもある。
しかしながら、上述の外乱には、ドライバーが操舵部材を介して体感すべき路面情報(路面と操向車輪との間のすべり具合等)が含まれており、所望の周波数帯域だけを遮断することは非常に困難なものであり、故に従来装置では、不必要な路面ノイズが操舵機構側に逆入力されて、そのノイズによる振動や操舵フィーリングの低下を発生した。具体的にいえば、特許文献2のように不必要な周波数帯域を制御的にカットする従来装置では、カットオフ周波数の設定などが不適切なものとなり易く路面ノイズの悪影響を確実に抑制することができなかった。また、特許文献19のようにブッシュ組立部(ダンパー)を使用する従来装置では、そのダンパーによって必要な路面情報まで減衰されて操舵フィーリングが低下した。しかも、この特許文献19の従来装置では、そのブッシュ組立部での振動吸収性の低下を防ぐために、ブッシュ組立部とボールジョイントとの間に空気排出が可能な円筒軸部を設け、この円筒軸部に当該組立部を連結しており、装置構成が複雑で大型化するという問題もあった。
そこで、操舵機構に対する路面ノイズの悪影響を簡単な構成で確実に抑制し、操舵フィーリングの低下を抑えるには次の構成を採用できる。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、操舵部材から操向車輪に至る操舵機構に、電動モータの動力を付与して操舵補助を行う電動パワーステアリング装置であって、前記操舵機構が、前記操向車輪が左右の両端側に連結されたラック軸と、所定の粘性及び弾性を有する粘弾性部材とを具備するとともに、前記粘弾性部材の粘性及び弾性が前記ラック軸に対して作用するように当該粘弾性部材を設けたことを特徴とするものである。
上記のように構成された電動パワーステアリング装置では、ラック軸に対し粘性及び弾性が作用するよう上記粘弾性部材を設けることにより、発明者等はラック軸に連結された操向車輪から逆入力される外乱(路面ノイズ)のうち、不必要な周波数帯域をカットすることができることを見出した。すなわち、発明者等は、上記特許文献19の従来例のように弾性や摩擦を作用させた場合と異なり、粘性及び弾性をラック軸に作用させることにより、そのラック軸に操向車輪側から逆入力される路面ノイズに周波数依存性を持たせることができることに着目した。さらに、発明者等は、路面ノイズの周波数帯域のうち、必要な帯域及び不必要な帯域がそれぞれ低周波帯域(例えば10Hz未満)及び高周波帯域(例えば10Hz以上)であることに着目し、かつその高周波帯域の路面ノイズだけを粘弾性部材からの粘性及び弾性によって遮断できることを見出した。
また、上記電動パワーステアリング装置において、前記粘弾性部材の粘性定数Cが、その粘弾性部材の弾性定数をKとし、前記ラック軸の前記操向車輪側の慣性をJとしたときに、下記の不等式(81)
2(KJ)1/2 ≦ C ―――(81)
を満足していることが好ましい。
この場合、上記粘弾性部材の粘性及び弾性によってラック軸と操向車輪との間に形成される2次振動系での振動(共振)を確実に防ぐことができ、この振動に起因する操舵フィーリングの低下をより効果的に防止することができる。
また、上記電動パワーステアリング装置において、前記粘弾性部材は、内筒部と、その内筒部を隙間を有して包囲する外筒部と、前記内筒部と前記外筒部とを連結するとともに前記弾性定数Kを有する弾性体と、前記内筒部及び前記外筒部の間の前記隙間内に入れられるとともに前記粘性定数Cを有する粘性体とを備えていてもよい。
この場合、上記弾性体及び粘性体を備えた一体的な粘弾性部材が使用されることとなり、当該部材の装置への組付作業を容易に行えるとともに、簡単な構成にて操舵機構での振動を抑制して操舵フィーリングの低下を容易に防止することができる。
また、上記電動パワーステアリング装置において、前記ラック軸と前記粘弾性部材との間に、高粘着性の潤滑剤を介在させることが好ましい。
この場合、高粘着性の潤滑剤がラック軸と粘弾性部材との間に存在しているので、上記粘弾性部材の粘性及び弾性による不必要な路面ノイズの遮断性を高めることができ、操舵機構での路面ノイズの悪影響をより効果的に抑えた装置を容易に構成することができる。
[7.2 粘弾性部材に関する好ましい実施の形態]
図1に示すように、ラック軸32を収納するラックハウジング33の内部には、ラック軸32に対して粘性及び弾性が作用するように、所定の粘性及び弾性を有する筒状の粘弾性部材500が設けられている。また、この粘弾性部材500は、ラック軸32上に塗布された高粘着性の潤滑剤を介在させて当該ラック軸32に連結されている。この潤滑剤は、ラック軸32が比較的高速で動こうとするときに当該ラック軸32に対し抵抗となり、ラック軸32が比較的低速で動こうとするときに当該ラック軸32に対し抵抗とならないように、その粘着性が選択されており、粘弾性部材500の粘性及び弾性によるモータ制御に不必要な路面ノイズの遮断性を高めている。
具体的にいえば、上記粘弾性部材500は、図49も参照して、内筒部511aと、その内筒部511aと隙間を有して包囲する外筒部511bとを有する二重筒形状の金属製の容器511により一体的に構成されている。また、この容器511では、内筒部511a及び外筒部511bを一体的に連結する梁511cが例えば容器511の軸方向中央部分で周方向に沿って例えば90°間隔で複数設けられている。また、この梁511cは、例えば板バネ材にて構成されたものであり、粘弾性部材500の弾性体を構成するとともに、上記内筒部511a及び外筒部511bが一体的に連結されて容器511全体が剛体となるのを阻止している。また、容器511内では、粘弾性部材500の粘性体を構成する、例えば合成ゴムからなる粘性材512が内筒部511aと外筒部511bとの間で梁511cに区画された各隙間内に入れられている。そして、粘弾性部材500では、上記潤滑剤を介して内筒部511aの内周面をラック軸32の外周面に密接させ、外筒部511bの外周面をラックハウジング33の内面に固定させることにより、当該部材500がラック軸32上に配置されて、操舵部材1へのステアリング操作や操向車輪5側から逆入力された外乱(路面ノイズ)などに応じて図の左右方向に移動するラック軸32に弾性及び粘性を作用させるようになっている。尚、上記説明以外に、容器511の各部を同一の金属材により構成し、その梁の厚さを薄くすることで当該梁に弾性を付与したものでもよい。
また、この粘弾性部材500では、その粘性及び弾性をラック軸32に作用させているので、操向車輪5側から当該ラック軸32に逆入力される上記路面ノイズに周波数依存性を持たせることができ、この路面ノイズの周波数帯域のうち、例えば10Hz以上の不必要な高周波帯域をカットすることができる。詳細には、操舵部材1に加えられたステアリング操作やドライバーが操舵部材1を介して体感すべき路面情報、例えば路面と操向車輪5との間のすべり具合に応じてラック軸32が動く場合では、当該ラック軸32は比較的低速で、長い周期で移動する。このような比較的遅いラック軸32の動きに対しては、粘弾性部材500からの粘性及び弾性は抵抗としてほとんど作用せずにそのラック軸32の動きを許容する。
これに対して、電動モータ9のアシスト制御に不必要な上記高周波帯域の外乱によってラック軸32が動くときには、当該ラック軸32は比較的高速で、短い周期で移動する。このような比較的速いラック軸32の動きに対しては、粘弾性部材500からの粘性及び弾性は抵抗として働いてラック軸32の動きを抑えることにより、当該ラック軸32から操舵機構A側に上記外乱が伝えられるのを遮断する。
また、上記粘弾性部材500では、その粘性材512の粘性定数Cがその材質(配合)などを適宜変更することにより下記の不等式(81)を満足するよう設定されており、ラック軸32と操向車輪5との間に形成される振動系の振動を容易に抑制可能に構成されている。
2(KJ)1/2 ≦ C ―――(81)
但し、(81)式において、Jはラック軸32の操向車輪4側の慣性であり、Kは粘弾性部材500(梁11c)の弾性定数である。このような粘性定数Cを有する粘弾性部材500を用いることにより、ラック軸32に対して適切な値の粘性及び弾性を付与することができ、上記振動系の振動を抑えることができる。
詳細にいえば、上記振動系は、ラプラス演算子をsとしたときに、上述の慣性Jと、粘弾性部材10の弾性定数K及び粘性定数Cとを用いた次の2次振動系の伝達関数、1/(Js2+Cs+K)で表される。この伝達関数は、次の(82)及び(83)式のように展開することができることから、上記振動系の固有角周波数ωn及び減衰係数ζは、(82)及び(83)式の分母項の等価条件によって下記の(84)及び(85)式でそれぞれ示される。
1/(Js2+Cs+K) = (1/J)/(s2+Cs/J+K/J) ――(82)
= (1/J)/(s2+2ζωns+ωn2) ――(83)
ωn = (K/J)1/2 ――(84)
ζ = C/2Jωn =C/2(KJ)1/2 ――(85)
ここで、上記減衰係数ζにおいて、その値が1以上であれば、その2次振動系での振動(共振)が確実に防がれることから、上記(85)式から上述の不等式(81)を得ることができる。
また、上記減衰係数ζについては、その適正な範囲として次の不等式(86)により規定してもよい。
0.4 ≦ ζ ≦ 2 ――(86)
詳細には、上記(86)式にて規定される減衰係数ζでは、0.4以上の値を選ぶことによって0.8(KJ)1/2以上の上記粘性定数Cが選択されて、粘弾性部材500はその粘性及び弾性を最低限必要な負荷(抵抗)としてラック軸32に与えることができ、例えば操向車輪5側から外乱が入力したときでも、上記高粘着性の潤滑剤を使用した点とも相まって、そのラック軸32での振動とこれに伴う操舵フィーリングの変化がドライバーに認識されない程度に、粘弾性部材500からの抵抗がラック軸32に付与されて当該振動を抑制することができる。
また、上記のような2次振動系において、ステップ応答が定常状態に対してオーバシュートしないための条件は、理論上、減衰係数ζを2-1/2以上とすることである。すなわち、粘性定数Cが、好ましくは上記(85)式より(2(KJ)1/2/21/2)以上に設定されることにより、上記振動系の固有振動数においてゲインがピークをもたずに比較的安定した系を構成することができる点で好ましい。
また、2以下の減衰係数ζを選ぶことにより、粘弾性部材500からラック軸32に与えられる粘性及び弾性を制限して、ラック軸32、ひいては操舵機構Aでの応答性が低下するのを抑えることができる。しかも、粘弾性部材500からラック軸32に加えられる粘性及び弾性(抵抗)を制限しているので、操舵部材1に対するステアリング操作が過剰に重くなるのを防ぐことができる。
尚、0.4未満の減衰係数ζを選択したときには、粘弾性部材500からラック軸32に付与される粘性及び弾性が不足してそのラック軸32を含んだ上記振動系が安定せずに、この振動系での振動に起因する操舵フィーリングの低下などを招き易い。
また、2よりも大きい減衰係数ζを選んだときには、粘弾性部材500からの粘性及び弾性が不必要に大きくなって、ステアリング操作を比較的行い難くなったりして、操舵フィーリングが比較的低下する。
以上のように構成された本実施形態の電動パワーステアリング装置では、ラック軸32に対して粘弾性部材500が粘性及び弾性を作用させることにより、ラック軸32に連結された操向車輪5から逆入力される外乱(路面ノイズ)のうち、不必要な周波数帯域をカットしている。これにより、路面ノイズの不必要な周波数帯域が操舵機構A側に逆入力されるのを防ぐことができ、当該操舵機構Aに対する路面ノイズの悪影響を簡単な構成で確実に抑制して、操舵フィーリングの低下を抑えることができる。また、粘弾性部材500がラック軸32とラックハウジング33との間の空きスペースに配置されているので、装置構成を大型化する必要がない。
また、本実施形態では、ラック軸32と粘弾性部材50との間に高粘着性の潤滑剤を介在させることにより、粘弾性部材50の粘性及び弾性による不必要な路面ノイズの遮断性を高めているので、操舵機構Aでの路面ノイズの悪影響をより効果的に抑えた装置を容易に構成することができる。
尚、上記の説明では、ラック軸32とラックハウジング33との間に粘弾性部材500を設けた場合について説明したが、本発明は所定の粘性及び弾性をラック軸32に作用させるものであればよく、粘弾性部材の構成、形状、設置数あるいは高粘着性の潤滑剤の有無などは上述のものに何等限定されない。但し、図49に示したように、粘性体と弾性体とが一体化された部材500を用いる場合の方が、当該部材500の装置への組付作業を容易に行える点で好ましい。さらに、このような簡単な構成により、装置での振動を抑制して操舵フィーリングの低下を容易に防止することができ、しかも装置部品点数を削減できる点で好ましい。
[8. 操舵機構での振動抑制(収斂性向上)]
[8.1 操舵機構での振動抑制に関する考察]
ステアリング装置では、トーションバー23の弾性(バネ)によって振動し易く、例えば操舵部材1を手放しにしたときでの収斂性が悪くなることがあった。従来装置には、上記入出力軸の間に介在させた巻きブッシュから摩擦(抵抗)を付与して、上記収斂性の悪化を抑えたものがある(例えば、特許文献20参照。)。
また、従来装置には、特許文献21に記載されているように、操舵部材の操舵角速度に応じて定めた粘性補償値を、車速を基に補正することにより、上記振動による操舵フィーリングの低下を制御的に抑制しようとしたものもある。
しかしながら、特許文献20のような摩擦を付与する従来装置では、上記トルクセンサの出力にヒステリシスが生じて操舵部材の中点を判別しにくいなどの不具合が発生し、この不具合に起因して操舵フィーリングが低下することがあった。また、特許文献21の従来装置では、高車速時に粘性が大きくなるよう補正するとともに、低車速時に粘性を打ち消すような補正を行っていたが、つまるところ例えばそれら補正の区切りとなる車速においてアシストトルクのリニアリティが損なわれ、操舵フィーリングが低下した。
そこで、操舵機構での振動を容易に抑制し、操舵フィーリングの低下を抑えるには次の構成を採用できる。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、操舵部材から操向車輪に至る操舵機構に、電動モータの動力を付与して操舵補助を行う電動パワーステアリング装置であって、前記操舵機構は、前記操舵部材側及び前記操向車輪側にそれぞれ連結される入力軸及び出力軸と、これら入出力軸に一端側及び他端側が連結されたトーションバーとを備え、前記入力軸と前記出力軸との間または前記トーションバーと前記入出力軸の一方の軸との間に粘弾性部材を設けるとともに、前記トーションバーの弾性定数をK1とし、前記粘弾性部材の弾性定数をK2とし、前記トーションバーの前記操舵部材側の慣性をJとしたときに、前記粘弾性部材は、その粘性定数Cが下記の不等式(91)
0.8((K1+K2)J)1/2 ≦ C ―――(91)
を満足するように設定されていることを特徴とするものである。
上記のように構成された電動パワーステアリング装置では、不等式(91)を満足した粘性定数Cを有する粘弾性部材を操舵機構内の上記入出力軸間またはトーションバーと入出力軸の一方との間に設けることにより、発明者等は、当該粘弾性部材から適切な粘性を操舵機構に付与させることができる知見を得た。そして、上記粘弾性部材からの粘性により、トーションバーの弾性による操舵機構での振動を容易に抑制できることを見出した。
また、上記電動パワーステアリング装置において、前記粘弾性部材は、その粘性定数Cが下記の不等式(92)
0.8((K1+K2)J)1/2 ≦ C ≦ 4((K1+K2)J)1/2 ――(92)
を満足するように設定されていることが好ましい。
この場合、粘弾性部材から操舵機構に付与される粘性が不等式(92)の右辺項によって制限されることとなり、当該操舵機構での応答性が低下するのを抑制することができる。
また、上記電動パワーステアリング装置において、前記粘弾性部材は、内筒部と、その内筒部を隙間を有して包囲する外筒部と、前記内筒部と前記外筒部とを連結するとともに前記弾性定数K2を有する弾性体と、前記内筒部及び前記外筒部の間の前記隙間内に入れられるとともに前記粘性定数Cを有する粘性体とを備えてもよい。
この場合、上記弾性体及び粘性体を備えた一体的な粘弾性部材が使用されることとなり、当該部材の操舵機構への組付作業を容易に行えるとともに、簡単な構成にて操舵機構での振動を抑制して操舵フィーリングの低下を容易に防止することができる。
[8.2 粘弾性部材に関する好ましい実施の形態]
図1に示すように、入力軸22と出力軸24との間には、筒状の粘弾性部材600が設けられている。この粘弾性部材600は、図50も参照して、内筒部611aと、その内筒部611aを隙間を有して包囲する外筒部611bとを有する二重筒形状の金属製の容器611により一体的に構成されている。また、この容器611では、内筒部611a及び外筒部611bを一体的に連結する梁611cが周方向に沿って例えば120°間隔で複数設けられている。また、この梁611cは、例えば板バネ材にて構成されたものであり、粘弾性部材600の弾性体を構成している。また、容器611内では、粘弾性部材600の粘性体を構成する、例えば合成ゴムからなる粘性材612が内筒部611aと外筒部611bとの間で梁611cに区画された各隙間内に入れられている。そして、粘弾性部材600では、内筒部611aの内周面を入力軸22の外周面に密接させ、外筒部611bの外周面を出力軸24の内周面に密接させることにより、当該部材600は入出力軸22、24間に配置されて、操舵部材1へのステアリング操作などに応じて周方向に回動する入出力軸22、24に弾性及び粘性を作用させるようになっている。尚、上記説明以外に、容器11の各部を同一の金属材により構成し、その梁の厚さを薄くすることで当該梁に弾性を付与したものでもよい。
また、上記粘弾性部材600では、その粘性材612の粘性定数Cがその材質(配合)などを適宜変更することにより、下記の不等式(91)好ましくは不等式(92)を満足するよう設定されており、トーションバー23の弾性(バネ)による操舵機構Aでの振動を容易に抑制可能に構成されている。
0.8((K1+K2)J)1/2 ≦ C ―――(91)
0.8((K1+K2)J)1/2 ≦ C ≦ 4((K1+K2)J)1/2 ――(92)
但し、(91)及び(92)式において、Jはトーションバー23の操舵部材1側(バネ上)の慣性であり、K1はトーションバー23の弾性定数であり、K2は梁611cの弾性定数である。このような粘性定数Cを有する粘弾性部材600を用いることにより、操舵軸2に対して適切な値の粘性を付与することができ、操舵機構Aでの振動を抑えることができる。また、(92)式の右辺項の値により、粘性定数Cの上限を規定することにより、当該操舵機構Aでの応答性が低下するのを抑制することができる。尚、上記バネ上の慣性Jは、主に操舵部材1の慣性である。
詳細にいえば、上記操舵機構Aでの振動系は、ラプラス演算子をsとしたときに、上述のバネ上の慣性J、弾性定数K1とK2との和K0、及び粘性定数Cとを用いた次の2次振動系の伝達関数、1/(Js2+Cs+K0)で表される。この伝達関数は、次の(93)及び(94)式のように展開することができることから、上記振動系の固有角周波数ωn及び減衰係数ζは、(93)及び(94)式の分母項の等価条件によって下記の(95)及び(96)式でそれぞれ示される。
1/(Js2+Cs+K0) = (1/J)/(s2+Cs/J+K0/J)―(93)
= (1/J)/(s2+2ζωns+ωn2) ―(94)
ωn = (K0/J)1/2 ――(95)
ζ = C/2Jωn =C/2(K0J)1/2 ――(96)
ここで、上記減衰係数ζは、その適正な範囲として次の不等式(97)により規定されている。続いて、この不等式(97)に上記(96)式を代入し順次変形すると、上記慣性J及び弾性定数K0(=K1+K2)にて粘性定数Cを規定する上述の(91)及び(92)式を得ることができる。
0.4 ≦ ζ ≦ 2 ――(97)
詳細には、上記(97)式にて規定される減衰係数ζでは、0.4以上の値を選ぶことにより、粘弾性部材600はその粘性を最低限必要な負荷(抵抗)として入出力軸22、24の間、つまり操舵機構Aの操舵軸2に与えることができ、操向車輪5側から外乱などが入力したときでも、その操舵軸2での振動とこれに伴う操舵フィーリングの変化がドライバーに認識されない程度に、粘弾性部材600からの抵抗が操舵軸2に付与されて当該振動を抑制することができる。
また、上記のような2次振動系において、ステップ応答が定常状態に対してオーバシュートしないための条件は、理論上、減衰係数ζを2-1/2以上とすることである。すなわち、粘性定数Cが、好ましくは上記(96)式より(2(K0J)1/2/21/2)以上に設定されることにより、上記振動系の固有振動数においてゲインがピークをもたずに比較的安定した系を構成することができる点で好ましい。つまり、例えば車両旋回状態から直進状態に移行する際に操舵部材1を手放し状態にしたときに、粘弾性部材60は適切な粘性を操舵軸2に与えることができ、操舵部材1が中立位置に戻る際に、行き過ぎ(オーバーシュート)が生じるのを防ぐことができる。この結果、操舵部材1の収斂性が悪化するのを防ぐことができるとともに、上記トルクセンサ7の検出結果にヒステリシスが生じるのを防いで、操舵部材1の中立位置を判別できないなどの不具合を防ぐことができる。さらに、減衰係数ζの値を1以上、つまり粘性定数Cを(2(K0J)1/2)以上と設定することにより、上記振動系での振動(共振)を防げる点で好ましい。
また、2以下の減衰係数ζを選ぶことにより、粘弾性部材600から操舵機構A側に与えられる粘性を制限して、当該操舵機構Aでの応答性が低下するのを抑えることができ、ヒステリシスが上記トルクセンサ7の検出結果に表れるのを確実に防ぐことができる。しかも、粘弾性部材600から操舵軸2に加えられる粘性(抵抗)を制限しているので、操舵部材1に対するステアリング操作が過剰に重くなるのを防ぐことができる。
尚、0.4未満の減衰係数ζを選択したときには、粘弾性部材600から操舵機構A側に付与される粘性が不足してその機構A内の上記振動系が安定せずに、この振動系での振動に起因する操舵フィーリングの低下などを招き易い。
また、2よりも大きい減衰係数ζを選んだときには、粘弾性部材600からの粘性が不必要に大きくなって、ステアリング操作を比較的行い難くなったりして、操舵フィーリングが比較的低下する。
ここで、上記粘性定数Cの具体的な数値例を示すと、トーションバー23の弾性定数K1の設計値は、操舵軸2周りの換算値でK1=29(kgf・cm/deg)=29×9.8×10-2×180/π(Nm/rad)=162.8(Nm/rad)である。また、粘弾性部材600の弾性定数K2の設計値は、操舵軸2周りの換算値でK2<1(kgf・cm/deg)=5.6(Nm/rad)程度である。それ故、これら弾性定数K1、K2の和K0は、163〜169(Nm/rad)となる。また、トーションバー23の操舵部材1側のバネ上慣性Jの実測値例は、J=0.020〜0.025(kg・m2)程度である。
以上の弾性定数K0及び慣性Jの具体値を上記不等式(92)に代入すると、好ましい粘性定数Cの具体的な範囲として、1.44≦C≦8.22が得られる。
以上のように構成された本実施形態の電動パワーステアリング装置では、上記不等式(91)で規定される粘性定数Cを有する粘弾性部材600を入出力軸22、24の間に設けて、操舵機構Aの操舵軸2に適切な粘性を付与しているので、当該操舵機構Aでの振動を容易に抑制することができ、振動に起因する操舵フィーリングの低下を抑えることができる。また、(92)式の右辺項の値により、粘性定数Cを規定することにより、入出力軸22、24間に作用する粘弾性部材600の粘性を制限して、操舵機構Aでの応答性が低下するのを抑制することができ、例えば操舵部材1の戻し操作が過剰に遅くなるのをより確実に抑えて操舵フィーリングの低下も抑えることができる。また、トルクセンサ7の検出結果にヒステリシスが現れるのを防ぐことができるので、操舵部材1の中立位置を判別できないなどの不具合が生じるのを防いで操舵フィーリングの低下も防ぐことができる。さらに、操舵機構Aでの振動を粘弾性部材600により抑制しているので、同振動によるフィーリング低下をアシスト制御にて抑えようとした上記特許文献2の従来例と異なり、電動モータ9の駆動制御を煩雑化する必要がない。また、操舵機構Aでの振動を容易に抑制することができるので、油圧式パワーステアリング装置に比べて、トーションバー周りの摩擦が遙かに低い(例えば、0.05N程度)の電動パワーステアリング装置を搭載した車両の乗り心地や操作性などを簡単に向上させることができる。
以下、発明者等が実施した評価試験での試験結果について、図51を参照して具体的に説明する。
この評価試験では、入出力軸22、24間に上記粘弾性部材600を配置した実施例品と、入出力軸22、24間に摩擦体(巻ブッシュ)を配置した従来相当品と、これらの粘弾性部材600及び摩擦体を全く介在させていない比較品とを用意した。そして、これらの各操舵機構に対し、その操向車輪側からインパルスを加え操舵部材側に設置した振動計により、その応答波形を検出した。この結果、図51(a)に示すように、実施例品では、入力インパルスに対し1回振動しただけで、その振動は直ちに収束した。
これに対して、上記従来相当品では、図51(b)に示すように、2〜3回程度振動してその収束時間が本発明品よりも長くなるとともに、摩擦体の摩擦定数などで定まる定常偏差(操舵部材1での中立位置からずれ)が生じていた。
さらに、上記比較品では、図51(c)に示すように、6〜7回程度振動し、本発明品に比べて、その振動が収まるまでに遙かに長い時間を要した。
尚、上記の説明では、入出力軸22、24の間に粘弾性部材600を介在させた場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく粘性定数Cが不等式(91)を満足するよう設定された粘弾性部材をトーションバー23と入力軸22との間、またはトーションバー23と出力軸24との間に配置するものであればよい。
また、上記の説明では、容器611内に梁(弾性体)611c及び粘性材(粘性体)612を設けた粘弾性部材600について説明したが、本発明は上記粘性定数C及び弾性定数K2を有する粘弾性部材であればよく、その構成、形状、設置数などは上述のものに何等限定されない。但し、図50に示したように、容器611内で粘性体と弾性体とが一体化された粘弾性部材600を用いる場合の方が、当該部材600の操舵機構Aへの組付作業を容易に行える点で好ましい。さらに、このような簡単な構成により、操舵機構Aでの振動を抑制して操舵フィーリングの低下を容易に防止することができる点で好ましい。
電動パワーステアリング装置の主要部の構成を示す模式図である。 位相補償部の特性を示すボード線図である。 電動パワーステアリング装置の特性を示すボード線図である。 位相補償を行わない場合の電動パワーステアリング装置のパワースペクトル解析結果である。 位相補償を行った場合の電動パワーステアリング装置のパワースペクトル解析結果である。 ラック軸とピニオン軸との交叉部分近傍の拡大図である。 ラック歯とピニオン歯との噛合部の横断面図である。 ピニオン歯の歯緒元の選定手順を示すフローチャートである。 トロコイド干渉クリアランスの説明図である。 ラックピニオン式ステアリングギヤの回転トルク測定データである。 ラックピニオン式ステアリングギヤの逆転入力測定データである。 望ましい歯面形状の修正形態を示す説明図である。 歯面形状修正の効果を調べた結果を示す図である。 小歯車の歯数と小歯車のモジュールとの関係を示す図である。 小歯車の圧力角とトロコイド干渉クリアランス、及び歯先の歯厚との関係を示す図である。 小歯車の歯丈に対する歯面応力及び歯先の歯厚の関係を示す図である。 本発明の実施の形態に係る電動パワーステアリング装置に使用する減速機の歯面形状の説明図である。 操舵軸回りの回転トルク測定データである。 減速機効率測定データである。 モータのロストルク測定データである。 電動パワーステアリング装置の制御装置であるECUの構成を示すブロック図である。 駆動回路内の配線抵抗の相間での調整を説明するための回路図(a)ならびに要部形状を示す模式図(b)および(c)である。 電流制御系を伝達関数を用いて表現したブロック線図である。 トルクリップルの低減効果を説明するためのモータトルクの波形図である。 従来の電動パワーステアリング装置におけるモータ・駆動回路系の周波数特性を示すボード線図である。 電動モータでの3相交流座標とd−q座標との関係を示す図である。 ECUのより詳細な構成例を示すブロック図である。 図27に示した磁界歪み補償部の具体的な構成例を示すブロック図である。 図27に示した電流高次歪み補償部の具体的な構成例を示すブロック図である。 図27に示した電流制御系の周波数特性の具体的を示すボード線図である。 電動モータの無付加誘導起電力(誘起電圧)の実測データの具体例を示す波形図である。 上記磁界歪み補償部にて決定される磁界歪み補償電流成分の具体的な波形を示す波形図である。 上記電動モータでの誘起電圧に含まれる高次成分とその1次成分に対する割合の測定例を示すグラフである。 上記電動モータの目標電流値と電流高次成分の1次成分に対するゲイン変化との測定例を示すグラフである。 上記伝動モータの具体的な出力トルクを示す波形図である。 アシストマップを示す図である。 電動パワーステアリング装置の操舵機構を簡略化して示す模式図である。 アシスト特性例を示す図である。 電動パワーステアリング装置におけるトルク開ループ伝達関数の特性をシミュレーションにより求めたものであって、非干渉化を行った場合と行わなかった場合とについてのボード線図である。 電動パワーステアリング装置において位相補償を行わない場合のボード線図、および、位相補償を行った場合のボード線図である。 ECUにおける位相補償部を中心としたブロック図である。 位相補償器の特性を示すボード線図である。 流れ補償電流演算のフローチャートである。 他の流れ補償電流演算のフローチャートである。 流れ補償電流演算における、車速と車速ゲインG(v)との関係を示す図である。 モータ検出電流値の補正手順を示すフローチャートである。 (a)はコギングトルクを示すグラフ、(b)は減速機のトルク変動を示すグラフ、(c)は出力軸のトルク変動を示すグラフである。 第一ギヤと第2ギヤの噛み合い状態を示す図であり、(a)は第一のトルクが最大になる状態、(b)は第一ギヤのトルクが最小になる状態を示す。 粘弾性部材の構成例を示す拡大図であり、(a)及び(b)はそれぞれその平面図及び(a)のA−A線断面図である。 粘弾性部材の構成例を示す拡大図であり、(a)及び(b)はそれぞれその平面図及び(a)のB−B線断面図である。 電動パワーステアリング装置でのインパルス応答の試験結果を示すグラフであり、(a)及び(b)はそれぞれ入出力軸間に粘弾性部材及び摩擦体を介在させたときの試験結果を示すグラフであり、(c)は入出力軸間に粘弾性部材及び摩擦体のいずれも介在させなかったときの試験結果を示すグラフである。
符号の説明
A 操舵機構
1 操舵部材
2 操舵軸
22 入力軸
23 トーションバー
24 出力軸
3 ステアリングギヤ
8 減速機
9 操舵補助用の電動モータ
213 位相補償部(ロードノイズ抑制制御手段)

Claims (1)

  1. トルクセンサによって検出した操舵トルクに応じたアシストトルクをモータに発生させるためのアシスト制御電流値を求める手段と、
    車両が左又は右に流れるのを抑えるためのトルクを前記モータに発生させるための流れ補償電流値を、前記アシスト制御電流値に加算する手段と、
    を備え、
    前記流れ補償電流は、Ic・G(v)の式に従って算出され、
    ここで、Icは一定の電流値であり、G(v)は車速ゲインであり、車速0又は0付近では車速ゲインG(v)が0とされ、車速の増加に従って連続的に車速ゲインG(v)が0から1まで増加し、所定速度以上では車速ゲインG(v)を1としたものである
    ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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