JP4617716B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
しかし、従来の電動パワーステアリング装置は、人工的でリニアリティに欠け、路面の状況を把握しにくく、運転者に不自然さを感じさせるものとなっていた。
トルク伝達要素の摩擦を高い値に設定すると、受動的な入力トルク(直進、保舵、戻され)に対してハンドルの据わりが良くなり、ロードノイズ(不要な周波数帯>5〜10Hz)がハンドル(操舵部材)に伝わり難くなり(耐ロードノイズ性)、さらにハンドルの収斂性が良好となるなどの利点が一応ある。
しかし、トルク伝達要素の摩擦が大きいと、能動的な入力トルクに対する伝達効率が下がる。しかも、摩擦が大きい場合に必要なアシスト力を得るには、大出力モータ又は高減速比の減速機が必要となり、操舵軸回りのロータ慣性が必然的に大きくなっていた。
慣性(イナーシャ)が大きくなることにより、操舵トルク入力(正入力)に対するトルク伝達の応答性が低下する。しかもハンドル戻りも著しく悪化する。
以上のように、摩擦及び慣性が大きいと良好な操舵フィーリングが得られない。
ところが、これらの補償ロジックは、系全体の見通しを悪くするだけでなく、夫々が独立に存在するため、動作条件が様々に変化する実際の運転状況においては、常に複数の補償出力が作用し、相互に干渉することは不可避である。
この結果、現状の電動パワーステアリングの操舵フィーリングは人工的でリニアリティに欠け、路面の状況を把握しにくく、運転者に不自然さを感じさせるものとなっている。
つまり、補償ロジックによる操舵フィーリングの改善は、対処療法的手段であり、却って運転者に不自然さを感じさせるものとなっていた。
また、特許文献4には、モータの界磁を制御する電流指令値を補正する補正手段を有し、操舵速度が速い時に上記モータの界磁を制御するための電流指令値を補正することが記載されている。
さらに、特許文献5には、粘性補償値を検出車速に応じて、高車速時には粘性が大となり、低車速時には粘性を打ち消す極性でかつ絶対値が小さくなるように補正することが記載されている。
特許文献3,4のような制御では、判定の切り替わり点において不連続なトルク変動を伴う。また、特許文献5のような補正でも、車速変化に伴い、不自然なトルク変動を伴う。
ここで、特許文献15では、車両の操舵負荷の左右差を相殺するようにアシスト特性に左右差を設けたものが記載されているが、この特許文献15記載のものでは、操舵トルク中立状態で、車両が流れるのを防止するアシストトルクが加わっていないため、車両が左右に流れることを防止することはできず、車両の流れを防止するには、車両が流れる方向とは逆の操舵トルクが必要で操舵フィーリングが悪い。
そこで、本発明は、車両が左右に流れるのを防止して操舵フィーリングを向上させることを目的とする。
[1.ステアリング装置について] 段落[0019]
[1.1 ステアリング装置の全体構成] 段落[0019]
[1.2 ロードノイズ抑制手段;位相補償部] 段落[0026]
[1.3 システム構成要素に関する考察] 段落[0030]
[1.3.1 弾性(Elasticity)] 段落[0032]
[1.3.2 粘性(Damping, Viscous Friction)] 段落[0033]
[1.3.3 慣性(Inertia)] 段落[0034]
[1.3.4 摩擦(friction)] 段落[0035]
[1.4 操舵機構の固有振動周波数] 段落[0036]
[2.ステアリング装置における機械系の主要な摩擦について] 段落[0041]
[2.1 ステアリングギヤ (Manual Steering Gear)] 段落[0041]
[2.1.1 ステアリングギヤの摩擦に関する考察] 段落[0041]
[2.1.2 ピニオン歯の好ましい形態] 段落[0057]
[2.2 減速機] 段落[0108]
[2.2.1 減速機に関する考察] 段落[0108]
[2.2.2 減速機の好ましい形態] 段落[0121]
[2.3 ステアリングギヤ及び減速機の摩擦に関する考察] 段落[0134]
[3.操舵アシスト用モータについて;ロータ慣性] 段落[0135]
[4.モータドライブ回路(駆動回路)について] 段落[0138]
[4.1 モータドライブ回路に関する考察] 段落[0138]
[4.2 モータドライブ回路の従来技術に関する基礎的検討] 段落[0144]
[4.3 ドライブ回路(駆動回路)を含む制御装置の全体構成] 段落[0148]
[4.4 モータ・駆動回路系の要部構成] 段落[0156]
[4.5 実施形態の駆動回路による作用および効果] 段落[0162]
[4.6 駆動回路の変形例] 段落[0164]
[5. 操舵感のリニアリティ] 段落[0166]
[5.1 トルク脈動補償] 段落[0166]
[5.1.1 トルク脈動補償に関する考察] 段落[0166]
[5.1.2 電動モータの構成呼びその駆動制御の概要] 段落[0174]
[5.1.3 ECUの構成及び動作] 段落[0177]
[5.1.4 電流制御系の構成及びその周波数特性] 段落[0189]
[5.1.5 磁界歪み補勝負の構成及びその動作] 段落[0190]
[5.1.6 電流高次歪み補償部の構成及びその動作] 段落[0199]
[5.2 不感帯] 段落[0212]
[5.2.1 不感帯に関する考察] 段落[0212]
[5.2.2 不感帯に関する好ましい実施の形態] 段落[0216]
[5.3 位相補償特性切替] 段落[0222]
[5.3.1 位相補償特性に関する考察 段落[0222]
[5.3.2 位相補償手段の好ましい実施の形態] 段落[0237]
[5.4 車両左右流れ補償] 段落[0264]
[5.4.1 車両左右流れに関する考察] 段落[0264]
[5.4.2 車両の左右流れ抑制のための好ましい形態] 段落[0267]
[5.5 電流検出器の温度特性補償] 段落[0271]
[5.5.1 電流検出器の温度特性に関する考察] 段落[0271]
[5.5.2 温度特性補償に関する好ましい実施の形態] 段落[0280]
[5.5.3 変形例] 段落[0294]
[5.6 減速機の位相合わせ] 段落[0296]
[5.6.1 減速機の歯の噛み合いとトルク変動に関する考察]段落[0296]
「5.6.2 トルク変動を小さくするための好ましい実施形態」段落[0302]
[6.非干渉化制御] 段落[0307]
[7.ラック軸におけるロードノイズ減衰] 段落[0309]
[7.1 ロードノイズに関する考察] 段落[0309]
[7.2 粘弾性部材に関する好ましい実施の形態] 段落[0316]
[8.操舵機構での振動抑制(収斂性向上)] 段落[0326]
[8.1 操舵機構での振動抑制に関する考察] 段落[0326]
「8.2 粘弾性部材に関する好ましい実施の形態」 段落[0332]
[1.1 ステアリング装置の全体構成]
図1は、本発明の一実施形態による電動パワーステアリング装置の主要部の構成を示す模式図である。図において、当該装置は、例えば自動車に搭載され、操舵部材(ステアリングホイール)1に加わるドライバーの操舵動作に応じて、操向車輪5の向きを変えるための操舵軸2を備えている。この操舵軸2には、上記操舵部材1が上端部に取り付けられる筒状の取付軸21と、この取付軸21に一体回転可能に連結された筒状の入力軸22と、トーションバー23を介在させて入力軸22に同軸的に連結された筒状の出力軸24が設けられている。
ラックハウジング33の長手方向中途部には、軸心を交叉させてピニオンハウジング34が連設されており、このピニオンハウジング34の内部に、前記ピニオン軸31が軸回りに回転自在に支持されている。ピニオン軸31は、自在継手29a,29bなどを介して、操舵軸2の下端に連結されている。
上記入力軸22及び出力軸24は、第1及び第2、第3のハウジングH1及びH2,H3の内部に軸受を介して回転自在に取り付けられている。なお、第1及び第2、第3のハウジングH1及びH2,H3は車体側に固定され、かつ図の上下方向に分離可能なものである。
駆動歯車82及びこれに噛み合う従動歯軸81を有している。駆動歯車82には、モータ9の出力軸91が一体回転可能に取り付けられており、電動モータ9の回転は、駆動歯車82及び従動歯車81を介して出力軸24に伝達される。
電動モータ9は、操舵検出装置(操舵トルク及び/又は舵角の検出装置)7の検出結果に応じて駆動される。すなわち、電動モータ9は、操舵部材1から入力された操舵トルクに応じた操舵補助力を発生する。
これらの減速機8と駆動モータ9とが、操舵部材1から操向車輪5に至る操舵機構Aにモータ動力による操舵補助力を付与する操舵補助部を構成しており、ここでは、操舵軸2に対して操舵補助力を付与する操舵軸アシスト(コラムアシスト)式の操舵機構(C−EPS)Aとなっている。
図27は、電動モータ9を制御するためのECU105の詳細な構成例を示すブロック図である。図に示すように、上記ECU105には、上記トルクセンサ7からのトルク信号Tsを入力する位相補償部(位相補償器)213などの各機能が含まれている
この位相補償部213は、本発明におけるロードノイズ抑制手段を構成している。位相補償部213には、トルクセンサ7からのトルク検出信号が与えられ、位相補償部213によってトルク検出信号の位相が進められることにより実用周波数帯域におけるシステム全体の応答性が向上する。
また、この位相補償部213は、ロードノイズを抑制するためのフィルタ部としても機能している。すなわち、この位相補償部213は、伝達関数として、下記式の特性を持つ。
GC(s)=(s2+2ζ2ω2s+ω2 2)/(s2+2ζ1ω1s+ω1 2)
ただし、sはラプラス演算子、ζ1は補償後の減衰係数、ζ2は被補償系の減衰係数、ω1は補償後の自然角周波数、ω2は被補償系の自然角周波数である。
図3は、位相補償を行わない場合と行った場合のステアリング装置のボード線図を示しており、同図における実線は位相補償がない場合の、点線は位相補償を行った場合を示している。なお、同図において上側の特性がゲインを、下側の特性が位相を示している。
また、図4は、位相補償がない場合のパワースペクトル解析結果を示し、図5は位相補償を行った場合のパワースペクトル解析結果を示している。
次に図1のようなステアリング装置において、主要ダイナミクス要素が操舵フィーリングへ及ぼす影響についての概略を説明する。トルク(操舵トルク)Tを入力、角度(舵角)θを出力とするバネマス系の伝達関数は次の2次系で表される。
但し、J:慣性[kg・m2]=[Nm・s2/rad]、C:粘性定数[Nm・s/rad]、T:トルク[Nm]、θ:角度[rad]
よって、下記式(2)(3)が得られる。
パワーステアリングのトルク伝達系における主な弾性要素Kは、トーションバー23、ユニバーサルジョイント29a,29b(操舵軸2とステアリングギヤ3との間に介在している;図37参照)、ステアリングギヤ3のマウントブッシュ、タイヤ5、操舵軸(コラム)2のマウントブラケットである。特に、コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置では、これらの弾性要素の前後に主要な慣性要素J(ステアリングホイール1、モータ9、ハブ及びホイール)が配置されるため、低周波数域(10〜80Hz)に複数の固有振動をもつ振動系となることが式(2)からも理解される。システムとして、これら複数の固有振動すべてを確実に抑制するには、トルク開ループ周波数特性におけるゲインを広範な周波数域で減衰させる必要がある。
また、式(3)より、この減衰性を実現するには、機構、制御等の如何に関わらず、粘性要素Cが必要であることが理解される。しかし、後述するように、最終的には安定性と操舵フィーリング(すっきり感)とのトレードオフを迫られることになる。従って弾性要素が何らかの機能に関与しないのであれば、背反を十分吟味した上で、極力、剛性(例えば、コラムブラケットや、ユニバーサルジョイントの剛性)を高めて弾性要素を削減する、あるいは固有振動周波数を高周波数域(100Hz以上)へ移行させることが好ましい。
式(3)からわかるように 2次系(トルク入力−角度出力系)において粘性Cは固有振動を抑制する要素である。また、1次系(トルク入力−速度出力系)においては時定数を小さくする一方で、出力(速度)ゲインを低下させる因子として作用する。従って、摩擦が極端に小さい場合に、上記固有振動を機械的に安定させて落ち着いたハンドル挙動を得るには、個々の固有振動に対して適正な粘性要素が不可欠であるが、同時に操舵入力に対しては大きな粘性抵抗(粘っこさ)となり、すっきり感に欠けるフィーリングとなる。
主な機械的粘性要素には、摺動、回転部支持軸受のグリス粘性があり、電気的粘性要素としてはモータの逆起電力による速度項抵抗が挙げられるが、システムの中でこれらの配置、配分には注意を要する。すなわち減速機8〜モータ9間に大きな粘性要素が存在すると、非アシスト状態からアシスト状態へ移行する際に、粘っこさが急激に減少し、運転者に違和感を与える。このことは、操舵中立からの切り始めにおける操舵トルク変化の線形性に関与する重要な因子であり、この部位における粘性を極力小さくすることが望ましい。
また、上記適正粘性をモータトルク制御で実現する場合も、チューニングの際には同様に舵の安定性(落ち着き)と操舵フィーリング(すっきり感)のトレードオフを迫られる。
式(2)からわかるように、2次系(トルク入力―角度出力系)において、慣性要素Jは固有振動周波数を低周波数側へ移行させると同時に、固有周波数以上の高周波数域で出力ゲインを低下させる因子ともなる(式(1a)参照)。また、1次系(トルク入力―速度出力系)においては時定数を大きくするように作用する。従って正入力(操舵トルク)に対するトルク伝達の応答性を低下させる一方で、逆入力(外乱)を遮断する効果もある。
高剛性および低慣性という官能表現は同義であり、弾性要素と、それにより出力側に存在する慣性要素とのバランスに依存する。すなわち、両者の組み合わせによって式(2)に示される固有周波数が、運転者にとって感じることができない高い周波数である場合に高剛性、低慣性と感じ取られる。
従って、正入力(操舵トルク)に対して、高剛性で、且つ逆入力に対して遮蔽効果をもたせるには、弾性要素よりも入力側に存在する慣性要素を相対的に大きくすることが望ましい。
しかし、モータ9が2つの弾性要素(トーションバー23とユニバーサルジョイント(図示せず))の間に配置される場合、弾性定数の高い(ユニバーサルジョイント)側から低い(トーションバー23)側へのトルク伝達に対する遮断周波数が相対的に低くなるが、同時に遮断周波数以下での位相遅れも大きくなり剛性感の乏しいフワフワした操舵フィーリングとなる。このことからも慣性は極力小さくする方が好ましい。
摩擦は入力周波数に依存せず、正逆のいずれの入力に対しても一定の抵抗として作用し、トルク伝達効率低下の主要因子である。操舵フィーリング上は、常に引き摺り感として現れる。一方で、外乱に対してはフィルタ効果を呈するが、必要な路面情報まで遮断してしまうため、両者のトレードオフを認識する必要がある。
上記粘性の場合と同様に、系における摩擦要素の配分は重要で、減速機8〜モータ9間に存在する摩擦は、アシスト時と非アシスト時の引き摺り感に差を生じさせるため、極力小さくするのが望ましい。
また、静止摩擦は動摩擦よりも大きく、その値が不定であるため、再現性のないスティックスリップ動作の原因となり特に好ましくない。いずれにせよ摩擦は非線形要素であるため扱い難く、系全体としても極力小さくするのが好ましい。
後に詳述する本実施形態の電動パワーステアリング装置の固有振動周波数としては、17Hz前後(fn1)、40Hz前後(fn2)、50Hz前後(fn3)が確認された。固有振動周波数は、トーションバー23の弾性定数Kt、ユニバーサルジョイント29a,29bの弾性定数Ki、ロータ慣性Jm、バネ下慣性(トーションバーよりも下流側(車輪5側)の慣性)Jlなどによって式(2)に従い生じる。
本実施形態では、ロータ慣性Jmを小さくしているため、操舵機構Aにおいて発生する固有振動は、すべてロードノイズ周波数領域にある。特に、ロータ慣性Jmを小さくしたため、バネ下慣性Jlとトーションバー弾性定数Ktによる固有振動周波数fn1をロードノイズ領域(例えば10Hz以上)にまで高めることができた。
Kt=29[kgf・cm/deg]
=29×9.8×10−2×180/π[Nm/rad]
モータ9のロータ慣性Jmは、
Jm=0.67×10−4[kg・m2] (モータ出力軸91回り設計値)
=0.67×10−4×9.72[kg・m2] (操舵軸2回り、減速比:9.7)
=0.0063[Nm・s2/rad]
Jl=0.0148[Nm・s2/rad]
また、バネ下慣性Jlのうち、ロータ慣性以外の慣性Jwは、
Jw=0.0085[Nm・s2/rad]
ステアリング装置の機械系における主要な摩擦要素としては、ステアリングギヤ3と減速機8とがある。
[2.1 ステアリングギヤ Manual Steering Gear)
[2.1.1 ステアリングギヤの摩擦に関する考察]
ラックピニオン式ステアリング装置においては、ピニオン軸に設けられたピニオン歯とラック軸に設けられたラック歯との噛合状態を適正に保ち、運転者に快適な操舵感を与えることを目的として、従来から、前記ピニオン歯及びラック歯の歯諸元(圧力角、モジュール、歯数等)に対して種々の提案がなされている(例えば、特許文献11参照)。
以上の如きラックピニオン式ステアリング装置において、ピニオン軸に設けられるピニオン歯の歯諸元は、搭載される車両側から与えられる設計条件を満たすべく、具体的には、ピニオン軸一回転当たりのラック軸の移動量、即ち、ストロークレシオにより拘束される長さの円周上において、要求される負荷条件に耐え得る強度を確保すべく選定される。
モジュールm: 1.8≦m≦2.0
歯数z : 7≦z≦13
歯丈h : 2m≦h≦2.5m
振れ角β : β≦35°
図6は、ラック軸32とピニオン軸31との交叉部近傍の拡大図である。本図に略示するようにピニオン軸31に設けられたピニオン歯35は、該ピニオン軸31の軸心線に対して所定の捩れ角βを有する捩れ歯として形成されている。またラック軸32に設けられたラック歯26は、該ラック軸32の軸長方向と直交する方向に対して前記捩れ角βに対応する角度を有して傾斜する斜歯として形成されており、ピニオン軸31との交叉部においてピニオン歯35と噛合されている。
一方捩れ角βが小さい場合、ピニオン歯35とラック歯36との歯筋方向の噛み合い長さが短くなり、後述する強度条件を満たし難くなることから、実際の設計においては、上限角度に近い30°〜35°なる範囲の捩れ角βが採用されるが、ここでは、モジュールm及び歯数zの適正範囲を定めるために、上限角度(=40°)から下限角度(=0°)までの全範囲に亘って捩れ角βを設定し、以下の手順を実行する。
更に図中のαbsは、噛み合い圧力角であり、ラック歯36とピニオン歯35との噛合部における噛み合い圧力角αbsは、ラック歯36及びピニオン歯35の圧力角αと等しい。
ン歯35において、式(15)式により算出される曲げ応力σB と式(22)式により算出される歯面接触応力σH とが、材料の許容応力を超えないものを強度条件を満たすと判定する。
モジュールm : l.8≦m≦2.0
歯数z : 7≦z≦13
歯丈h : 2m≦h≦2.5m
振れ角β : β≦35°
となる。
歯先近傍での測定値を、右側の1組は、歯形方向の略中央部での測定値を示してある。こ
れらにより、前述した歯面形状修正を行った場合、歯形方向においても、クラウニングに
よる均等効果を維持したまま摩耗量を大幅に低減することが可能となる。
[2.2.1 減速機に関する考察]
従来の電動パワーステアリング装置では、電動モータの回転トルクを、ウォームギヤを介して操舵軸へ伝達しているのが一般的である。
しかし、ウォームギヤは、回転トルクの伝達効率が60〜80%と比較的低いことから、減速比を不変とした場合、所定の回転トルクを伝達するためには出力トルクがより大きい電動モータが必要となる。したがって、結果的に電動モータの外形が大きくなり、ステアリング装置全体のコンパクト化が困難であるという問題点があった。そこで、電動モータの出力軸を操舵軸と略平行になるよう取り付け、回転トルクの伝達効率が比較的高い平歯車またははすば歯車を使用する減速機が考案されている。
図1に示すように、減速機8は、操舵軸2の出力軸24に設けられた大歯車(従動歯車)81と、電動モータ9の出力軸91に設けられた小歯車(駆動歯車)82とを備えた平歯車またははすば歯車によって構成される。平歯車またははすば歯車を用いることにより、電動モータ9を操舵軸2と略平行となるよう配置することができる。しかし、操舵軸2と電動モータ9の出力軸91との軸間距離Lに応じて、電動モータ9の外形寸法にレイアウト上の物理的な制約が生じる。例えば、レイアウト上の制約より、電動モータ9の最大許容外形寸法は、直径73mm、高さ95mmとなる。この場合、操舵軸回りの操舵補助トルクとして35Nm以上の回転トルクを確保するため、定格トルクを4Nm、軸間距離Lを55mmとして、減速比は10前後(9.7)に設定される。減速比は、具体的には、11〜8程度が好ましく、さらには10〜9程度が好ましい。
このようなアシストモータ9用の1段はすば歯車減速機8において、操舵軸2回りのトルクを測定する試験を行った結果、図18に示すように必要な回転トルクは0.26Nm程度であった。
この回転トルクは、小歯車82と大歯車81との間の噛み合い摩擦の操舵軸回りのトルク換算値に相当するものであり、この減速機8によれば、噛み合い摩擦を低く抑えることが可能となる。具体的には、0.6Nm以下の摩擦にすることが可能である。なお、両歯車81,82の噛み合い摩擦の操舵軸回りのトルク換算値の上限としては、0.5Nmが好ましく、さらには0.4Nmが好ましく、さらには0.3Nmが好ましく、さらには0.2Nmが好ましい。同値の下限としては、0.1Nmが好ましい。
減速機8からモータ9の間に存在する摩擦は、アシスト時と非アシスト時の引き摺り感に差を生じさせるため、極力小さいのが望ましく、上記程度の値であれば、好ましい操舵フィーリングを得る観点からは、十分に小さいものとなる。
摩擦は、入力周波数に依存せず、正逆いずれの入力に対しても一定の抵抗として作用し、トルク伝達効率低下の主要因子である。操舵フィーリング上は常に引き摺り感として現れる。一方で、外乱に対してはフィルタ効果を呈することからフィルタ効果の観点からみると摩擦がある程度大きくてもよいが、摩擦が大きいと必要な路面情報までも遮断してしまう。
かかる観点からは、ステアリングギヤ3の摩擦と減速機8の摩擦の和の上限値としては、1Nm以下とするのが好ましく、さらには0.9Nmが好ましく、さらには、0.8Nmが好ましい。また、この和の下限値としては、0.5Nmが好ましく、さらには、0.6Nmが好ましい。
この程度に小さい摩擦であれば、操舵機構A全体としても電子制御システムに適した素直さを有する系が得られる。
操舵アシスト用のモータ9は、3相ブラシレスモータであり、具体的には、永久磁石のSN各極が周方向に並ぶロータを内部に有するブラシレスモータによりなる。
操舵アシスト用モータ9のトルク伝達効率を低下させる要素としては、モータのロストルク、コギングトルク、ロータ慣性が挙げられる。なお、コギングトルクは、モータにおける極数やスロット数などの構造上の原因で生じるトルクムラである。
これらの要素は、モータのトルク伝達効率を向上させるため、小さい値であるのが好ましい。具体的には、ロストルクは、0.35Nm以下(操舵軸回り換算値)、コギングトルクは0.12Nm以下(操舵軸回り換算値)、ロータ慣性は0.012kgm2以下(操舵軸回り換算値)であるのが好ましい。
なお、ロストルクとコギングトルクは、モータ9のトルク伝達効率を低下させる要因ともなるため、これらも小さく抑えるのが好ましい。この観点からは、ステアリングギヤ3の摩擦、減速機8の摩擦、モータ9のロストルク、モータ9のコギングトルクの総和(操舵軸回り換算値)の上限としては、1.35Nmが好ましい。また、当該総和の下限としては0.5Nmが好ましく、さらには0.6Nmが好ましい。また、当該総和は、1.2Nm程度であるのが好ましい。
図20に示すように、10極12スロットのモータ9では、ロストルクが約0.02Nm(モータ出力軸回り)であり、コギングトルクが約0.008Nm(モータ出力軸回り)である。なお、図20の波形のP−P(Peak to Peak)最低値が0.016Nmであり、P−P最高値が0.024Nmである。
これらの、モータ出力軸回りのロストルク及びコギングトルクを操舵軸回りの値に換算すると、ロストルク(操舵軸回り換算値)=0.02Nm×コラム減速比9.7=0.19Nmであり、コギングトルク(操舵軸回り換算値)=0.008Nm×コラム減速比9.7=0.08Nmであり、トルク伝達効率を高くするためのロストルクとコギングトルクの上記上限値より小さくなっていることがわかる。
また、10極12スロットと同様に、ロストルクを0.35Nm以下、コギングトルクを0.12Nm以下にできるものとしては、8極12スロット、14極12スロット、12極18スロット、10極15スロットなどが確認できた。
この程度に小さいロータ慣性であれば、機械系が低慣性の素直なものとなり、慣性感が少ない良好な操舵フィーリングが得られる。
なお、モータ9は、操舵軸2に対して平行かつ鉛直下方に配置されているため、モータ9に作用する操舵軸2回りの慣性力及び左右差が低減されている。
[4.1 モータドライブ回路に関する考察]
ブラシレスモータを用いた電動パワーステアリング装置では、通常、モータドライブ回路(以下、「駆動回路」ということもある)が故障した場合に、必要に応じてモータドライブ回路とモータとを電気的に切り離すための開閉手段(典型的にはリレー)が設けられている。この場合、コストやスペースの制約から、リレー等の開閉手段の個数はできるだけ少ない方が好ましいので、モータドライブ回路からモータに供給される電流を遮断するのに必要な最低限の個数の開閉手段が使用されている。例えば3相のブラシレスモータを使用した電動パワーステアリング装置では、ドライブ回路からモータに供給される3相の電流のうち2相の電流の供給を遮断するために2個の開閉手段としてのリレーが使用される。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、車両操舵のための操作に応じて決定される目標値に基づきブラシレスモータを駆動することにより当該車両のステアリング機構に操舵補助力を与える電動パワーステアリング装置であって、前記目標値に基づき、前記ブラシレスモータに印加すべき電圧の指令値を算出する制御演算手段と、前記指令値に基づいて前記ブラシレスモータを駆動する駆動回路と、前記ブラシレスモータおよび前記駆動回路を含むモータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が所定値以下になるように、当該モータ・駆動回路系における抵抗成分を調整する抵抗調整手段とを備えることを特徴とする。
上記構成によれば、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が所定値以下となるので、各相についてのモータ・駆動回路系のゲインおよび位相が互いにほぼ等しくなり、その結果、ブラシレスモータのいずれの相についても、同一の相電圧が印加された場合にはほぼ同一の相電流が流れる。これにより、ブラシレスモータにおけるトルクリップルを低減し、操舵操作において運転者に違和感を与えないようにすることができ、トルク伝達効率も向上させることができる。
この場合、駆動回路からブラシレスモータに電流を供給するための電流供給経路の抵抗値の各相間での差が所定値以下となるので、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が解消または低減される。これにより各相についてのモータ・駆動回路系のゲインおよび位相を互いにほぼ等しいものとすることで、ブラシレスモータにおけるトルクリップルを低減し、操舵操作において運転者に違和感を与えないようにすることができる。
この場合、Hi側電流経路の抵抗値の各相間での差、および/または、Lo側電流経路の抵抗値の各相間での差が所定値以下となるので、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が低減または解消される。これにより各相についてのモータ・駆動回路系のゲインおよび位相を互いにほぼ等しいものとすることで、ブラシレスモータにおけるトルクリップルを低減することができる。
この場合、配線のためのバスバーの断面積および/または長さが適切に設定されることでモータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が所定値以下となる。このため、相間での抵抗調整のための抵抗器等を別途付加する必要がないので、コスト増を抑えつつモータ・駆動回路系のゲインおよび位相の各相間での差を解消または低減することができる。
図23は、電動パワーステアリング装置における電流制御系の構成を示すブロック線図である。この電流制御系では、モータ9に流すべき電流の目標値を入力としモータ9に流れる電流を出力としており、電流目標値とモータ9に流れる電流の値との偏差に対して比例積分制御演算(以下「PI制御演算」という)が行われ、それにより決定される電圧がモータ9に印加される。ここで、ブラシレスモータが使用される場合、当該モータは、各相につき、1相分のインダクタンスLと抵抗Rとにより決まる1次遅れ要素として扱うことができ、その伝達関数はK/(L・S+R)と表現することができる(Kは定数)。しかし、実際にはモータや駆動回路の配線抵抗などを含む外部抵抗も存在するので、これを考慮して駆動回路とモータとを1つの伝達要素であるモータ・駆動回路系として扱うことにすると、このモータ・駆動回路系の伝達関数Gm(s)は次式のようになる。
Gm(s)=Km/(L・s+R+R’)・・・(41)
ここで、Kmは定数であり、R’は、モータや駆動回路の配線抵抗等を含む外部抵抗であ
る。
すなわち、図25は、ブラシレスモータを使用した電動パワーステアリング装置におけるモータ・駆動回路系の周波数特性についての2つの測定例を示すボード線図であり、図25において実線で示す曲線は、第1の測定例における測定結果としてのゲイン特性および位相特性を示すものであって、モータの線間のインダクタンスLが162[μH]で、線間の内部抵抗Rが53[mΩ]で、線間の外部抵抗R’が6[mΩ]であるときの、モータ・駆動回路系の線間についての周波数特性を示している。この測定例における外部抵抗R’(=6[mΩ])には、上記リレー2個のオン状態の抵抗である接触抵抗(=2×1.5[mΩ])が含まれている。これに対し、図25において点線で示す曲線は、第2の測定例における測定結果としてのゲイン特性および位相特性を示すものであって、モータ線間のインダクタンスLが162[μH]で、線間の内部抵抗Rが53[mΩ]で、線間の外部抵抗R’が4.5[mΩ]であるときの、モータ・駆動回路系の線間についての周波数特性を示している。この測定例は、リレー(開閉手段)を1個含まない線間を対象とするものであって、この測定例における外部抵抗R’(=4.5[mΩ])には、上記リレー1個の接触抵抗は含まれていない(他の測定条件は第1の測定例と同様である)。これら第1および第2の測定例の測定結果を示すボード線図(ゲイン特性および位相特性)より、リレーの挿入される相と挿入されない相との間ではモータ・駆動回路系の応答性(相電流の振幅および位相)に無視できない差が生じることがわかる。
図21は、モータドライブ回路(モータ駆動回路)150を含む制御装置(ECU)105を示している。ステアリング装置は、制御装置105に関連した構成要素として、操舵補助用の電動モータ(ブラシレスモータ)9と、モータ9のロータ回転位置を検出するレゾルバなどの位置センサ112と、トルクセンサ(操舵検出装置)7と、車速センサ104と、を備えている。前記制御装置105は、センサ112,7,104からのセンサ信号に基づきモータ9の駆動を制御する。
トルクセンサ7は、その操作による操舵トルクを検出し、操舵トルクを示す操舵トルク信号Tsを出力する。一方、車速センサ104は、車両の走行速度である車速を検出し、車速を示す車速信号Vsを出力する。制御装置としてのECU105は、それら換舵トルク信号Tsおよび車速信号Vsと、位置センサ112によって検出されるロータの回転位置とに基づいて、モータ9を駆動する。
前記ECU105は、車載バッテリ180からイグニッションスイッチを介して電流の供給を受けるものであり、モータ制御部120とモータ駆動部130とリレー駆動回路170と2個の電流検出器181,182とを備えている。モータ制御部120は、マイクロコンピュータで構成される制御演算手段であって、その内部のメモリに格納された所定のプログラムを実行することにより作動する。モータ駆動部130は、PWM信号生成回路140と駆動回路150とから構成される。
なお、モータ駆動部130は、モータ9の近傍に配置されて、必要最低限の長さの配線によって当該モータ9と結線されており、電気抵抗を小さくしている。また、モータ駆動部130は、トルクセンサ7、車速センサ104、電流検出器181、モータ位置センサ(モータ回転角センサ)112の駆動回路及びインターフェース回路と、モータ制御部(マイクロコンピュータ等)120とともに、同一ケース内に収納されており、当該ケースがモータ9の近傍に配置されている。
本実施形態に係る電動パワーステアリング装置は、駆動回路150、ブラシレスモータ9、および、それらを接続するリード線等からなる構成部分であるモータ・駆動回路系において、抵抗成分についての各相間(u,v,w相の相互の間)での差を解消または低減するために以下のような構成を備えている。なお、本実施形態においても、このモータ・駆動回路系の伝達関数Gm(s)は、各相につき次式のように表現することができる(図23参照)。
Gm(s)=Km/(L・s+R+R’) …(42)
ここで、Kmは定数であり、R’は、モータ9や、駆動回路150、各相用電流供給経路を形成するリード線の配線抵抗等を含む外部抵抗である。
そこで本実施形態では、そのw相用電流供給経路に、図21に示すように、リレー191または192のオン状態における抵抗値である接触抵抗値にほぼ等しい抵抗値を有する抵抗体Raが挿入されている。
、バスバー155H,155Lの幅W1〜W3,W4〜W6を適切に設定することにより配線抵抗を各相間で調整している。しかし、幅と共にまたは幅に代えて、バスバー155H、155Lの厚み(または断面積)および/または長さを調整することにより配線抵抗を各相間で調整し、これにより駆動回路150における抵抗成分の各相間での差を低減または解消するようにしてもよい。
上記のように本実施形態によれば、駆動回路150からモータ9に電流を供給するための電流供給経路の抵抗値および駆動回路150内の配線の抵抗値についての各相間での差が解消または低減され、これによりモータ・駆動回路系における外部抵抗R’の各相間での差が解消または低減される。そして、モータ9の内部抵抗RやインダクタンスLの各相間での相違はほぼ無視できる程度であることから、上記によりモータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差が解消または低減されるだけでなく、各相についてのモータ・駆動回路系のゲインおよび位相が互いにほぼ等しくなる。その結果、u,v,w相のいずれにおいても、同一の相電圧が印加された場合にはモータ9に略同一の相電流が流れるので、モータ9におけるトルクリップルを低減することができる。例えば、従来の電動パワーステアリング装置におけるモータトルクのモータ電気角に対する変化は、図24において曲線C1(細い方の曲線)で示すような波形となるが、本実施形態によれば、モータトルクのモータ電気角に対する変化は、図24において曲線C2(太い方の曲線)で示すような波形となり、トルクリップルが大幅に低減されることがわかる。なお、図24において曲線C2で示す波形で表されるモータトルクを出力する例では、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差は1%以下となっている。このように本実施形態によれば、モータにおけるトルクリップルを低減し、操舵操作において運転者に違和感を与えないようにすることができる。
ことによりモータ・駆動回路系における抵抗成分が調整されることから、相間での抵抗調
整用の抵抗器等を別途付加する必要がない。このため、コストの増大を抑えつつモータ・
駆動回路系のゲインおよび位相の各相間での差を低減または解消することができる。
上記実施形態では、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差を低減または
解消すべく、駆動回路150からモータ9に電流を供給するための電流供給経路のうちリレーが挿入されていない経路に調整用の抵抗体Raを挿入すると共に(図21)、駆動回路150内の配線を形成するバスバーの形状を調整した構成(図22)となっているが、これに代えて、モータ・駆動回路系における抵抗成分の相間調整のためのこれら2つの抵抗調整手段のうちいずれか一方のみを採用した構成としてもよい。例えば、駆動回路150からモータ9へ至る全ての電流供給経路にリレーが挿入されている場合には、駆動回路150内の配線抵抗についての相間での調整(例えばバスバーの幅の適切な設定)を施すだけでもよい。また、モータ・駆動回路系における抵抗成分の各相間での差を低減または解消するための抵抗調整手段であれば、上記2つの抵抗調整手段以外の他の抵抗調整手段を更に備える構成であってもよい。
スモータ9が使用されているが、ブラシレスモータの相数は3に限定されるものではなく
、4相以上のブラシレスモータを使用する電動パワーステアリング装置にも適用可能である。
[5.1 トルク脈動補償]
[5.1.1 モータ9のトルク脈動に関する考察]
電動モータでは、そのロータ磁石の極数やステータ巻線用のスロット数等のモータ構成に起因して生じるコギングトルク(機械的リップル)と、誘導起電力波形が理想波形に対し歪むことによって発生する電気リップルとに大別されるリップル(脈動)が出力トルクに生じる。このようなモータ出力でのトルクリップルは、上記ステアリング装置における操舵フィーリングを低下させる要因の一つであり、ゆえに当該ステアリング装置ではトルクリップルを抑制することが強く望まれている。
そこで、従来装置には、上記スロットのロータ磁石に対向する部分の形状を変更したり、スキュー角度を調整したりすることにより、トルクリップルを低減しようとしたものがある(例えば、下記特許文献8参照。)。
したがって、電流高次成分に起因するトルクリップルを抑え、操舵フィーリングのリニアリティを向上させるには、次の構成が好ましい。
この場合、上記の補償値がモータ負荷に応じて変化されることとなり、モータ負荷が変化したときでも、フィードバック制御手段はより適切な補償値にて補正された目標電流値を用いて電動モータを制御することができ、操舵フィーリング低下をより確実に防ぐことができる。
この場合、上記電流高次歪み補償部が決定する電流高次成分用の補償値に加えて、磁界歪み補償部が決定する磁界歪み用の補償値を用いて、目標電流値が補正されることとなり、上記フィードバック制御手段が当該目標電流値の電流を流させたときに電流高次成分に起因するトルクリップルだけでなく電動モータ内に形成される磁界歪みに起因するトルクリップルを抑制することができ、これらリップルによる操舵フィーリング低下を防ぐことができる。
この場合、上記フィードバック制御手段がトルクリップル補償決定手段からの補償値とゲイン補償演算手段からのゲイン補償値とを用いて補正された目標電流値に基づいて、電動モータをフィードバック制御することとなり、上記電流制御系の周波数特性に従って、そのモータを流れる電流のゲインがモータ回転速度の増加に応じて低下するのを補償することができ、当該ゲイン低下に伴って操舵フィーリングが低下するのを抑制することができる。
この場合、上記フィードバック制御手段がトルクリップル補償決定手段からの補償値とゲイン補償演算手段からのゲイン補償値と位相補償演算手段からの位相補償値とを用いて補正された目標電流値に基づいて、電動モータをフィードバック制御することとなり、上記電流制御系の周波数特性に従って、そのモータを流れる電流が誘起電圧に対してモータ回転速度の増加に応じて位相遅れを生じるのを補償することができ、当該位相遅れに伴う操舵フィーリング低下を抑制することができる。
上記電動モータ9は、図26を参照して、例えば永久磁石を有するロータと、U相、V相、及びW相の各相コイル(ステータ巻線)とを備え、正弦波駆動方式の3相スター結線のブラシレスモータにより構成されている。
ここで、このモータ9において、所望の操舵補助力を発生させるために、各相コイルに供給すべき相電流の目標値、つまり各相コイルに対する電流指令値i*u、i*v、及びi*wは、その供給電流の最大値(振幅)をI*としたときに次の(41)〜(43)式で表される。
i*u = I*×sinθre ――(41)
i*v = I*×sin(θre−2π/3) ――(42)
i*w = I*×sin(θre−4π/3) = −i*u−i*v ――(43)
但し、θreは、同図に示すように、例えばU相コイルを基準として時計方向まわりに正回転する永久磁石(ロータ)の回転角度(電気角)である。この電気角は、ロータの回転位置を示す情報であり、当該ロータの実際の回転角度を示す機械角をθmとし、ロータの磁極数をpとしたときに、θre=(p/2)×θmで表される。尚、以下の説明においては、特に明記するとき以外は、角度は電気角を表すものとする。
i*d = 0 ――(44)
i*q = −√(3/2)×I* ――(45)
id = √2{iv×sinθre−iu×sin(θre−2π/3)} ――(46)
iq = √2{iv×cosθre−iu×cos(θre−2π/3)} ――(47)
図27は、ECU105の詳細な構成例を示すブロック図である。図に示すように、上記ECU105には、上記トルクセンサ7からのトルク信号Tsを入力する位相補償部213などの各機能が含まれている
また、図27において点線で囲む範囲は、電動モータ9をフィードバック制御するフィードバック制御部400を構成している。また、モータ位置センサ112とロータ角度位置検出器235とが、電動モータ9の回転位置情報(電気角)を取得する回転位置情報取得手段を構成している。
また、このモータ制御部120では、上記磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219を有するトルクリップル補償決定部301が設けられており、この補償決定部301の演算結果をモータ駆動部への指示信号に反映させることにより、後に詳述するように、電動モータ9内に形成される磁界の歪みに起因するトルクリップルと当該モータ9を流れる電流の高次成分に起因するトルクリップルとを低減できるようになっている。さらに、ロータ角速度演算部220が、上述の回転位置情報取得手段からの回転位置情報を基に電動モータ9の回転速度を検出する回転速度検出手段を構成している。
また、この目標電流値Itは、上述の(45)式にて示されたq軸電流指令値i*qに相当するものであり、モータ動力によるアシスト方向を示す符号を有している。つまり、目標電流値Itの符号は、モータロータの回転方向を指定しており、例えば正及び負の場合にそれぞれ操舵部材1での右方向操舵及び左方向操舵を補助するように電動モータ9を回動させることを示している。
上記q軸基本電流指令値i*q0は、所望の操舵補助力を発生するためのモータ負荷(つまり、電動モータ9が発生すべきトルク)に対応する供給電流の基本的な指令値(目標電流値)であり、トルクリップル補償決定部301の磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219に同時に与えられるとともに、加算器222にも出力されて上記磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219での演算結果が反映されるよう加算される。
一方、d軸方向の電流はトルクに関与しないことから、そのd軸電流の基本的な指令値であるd軸基本電流指令値i*d0の値は“0”であり、i*d0=0として加算器221に設定入力されている。
また、この磁界歪み補償部218から出力されるd軸電流補償値Δid1及びq軸電流補償値Δiq1は、後に詳述するように、電動モータ9を含んだ後述の電流制御系の周波数特性に依存するゲイン低下及び位相遅れが極力生じないように補正されている。
また、電流高次歪み補償部219から出力されるd軸電流補償値Δid2及びq軸電流補償値Δiq2は、後に詳述するように、電動モータ9を含んだ上述の電流制御系の周波数特性に依存するゲイン低下及び位相遅れが極力生じないように補正されている。
具体的には、上記加算器221では、下記の(48)式に示すように、当該加算器221に設定されたd軸基本電流指令値i*d0と、磁界歪み補償部218からの磁界歪み用のd軸電流補償値Δid1と、電流高次歪み補償部219からの電流高次成分用のd軸電流補償値Δid2との和を求めることにより、トルクリップル補償決定部301の演算結果を反映した後のd軸電流指令値i*dが算出されている。そして、加算器221は、算出したd軸電流指令値i*dをフィードバック制御部400の減算器223に出力する。
また、加算器222では、下記の(49)式に示すように、上記加算器217からのq軸基本電流指令値i*q0と、磁界歪み補償部218からの磁界歪み用のq軸電流補償値Δiq1と、電流高次歪み補償部219からの電流高次成分用のq軸電流補償値Δiq2との和を求めることにより、トルクリップル補償決定部301の演算結果を反映した後のq軸電流指令値i*qが算出されている。そして、加算器222は、算出したq軸電流指令値i*qをフィードバック制御部400の減算器224に出力する。
i*d = i*d0+Δid1+Δid2 ――(48)
i*q = i*q0+Δiq1+Δiq2 ――(49)
詳細にいえば、3相交流/d−q座標変換部229には、上記V相電流検出器182及びU相電流検出器181によってそれぞれ検出されたV相電流検出値iv及びU相電流検出値iuが検出電流値補正部250(詳細は後述)を介して入力されている。さらに、この変換部229には、上記検出電流が流されているときでの上記電気角θreのsin値が正弦波ROMテーブル230から入力されている。この正弦波ROMテーブル230は、角度θとその角度θのsin値とを互いに関連付けて記憶しており、上記ロータ角度位置検出器235から電気角θreを入力したときにそのsin値を上記d−q/3相交流座標変換部227及び3相交流/d−q座標変換部229に直ちに出力するようになっている。
そして、この3相交流/d−q座標変換部229は、入力したU相電流検出値iu、V相電流検出値iv、及びsin値と、上述の(46)及び(47)式とを用いて、上記d軸電流検出値id(=√2{iv×sinθre−iu×sin(θre−2π/3)})及びq軸電流検出値iq(=√2{iv×cosθre−iu×cos(θre−2π/3)})を算出して対応する減算器223、224に出力する。
上記d軸電流PI制御部225及びq軸電流PI制御部226は、次の(50)及び(51)式に、対応する減算器223、224からのd軸電流偏差ed及びq軸電流偏差eqをそれぞれ代入することにより、d軸電圧指令値v*d及びq軸電圧指令値v*qを算出し、それら算出値をd−q/3相交流座標変換部227に出力する。
v*d = Kp{ed+(1/Ti)∫(ed)dt} ――(50)
v*q = Kp{eq+(1/Ti)∫(eq)dt} ――(51)
但し、上記Kp及びTiは、それぞれ比例ゲイン及び積分時間であり、モータ特性などに応じてd軸電流PI制御部225及びq軸電流PI制御部226に予め設定された値である。
v*u = √(2/3){v*d×cosθre−v*q×sinθre} ――(52)
v*v = √(2/3){v*d×cos(θre−2π/3)−v*q×sin(θre−2π/3)} ――(53)
v*w = −v*u−v*v ――(54)
上記モータ駆動回路150は、MOSFETなどの電力用スイッチング素子を用いたブリッジ回路を有するPWM電圧形インバータを含んだものであり、各スイッチング素子を上記PWM信号Su、Sv、及びSwに従ってオン/オフ動作させることにより、電動モータ9のU相、V相、及びW相の各相コイル(図26)にバッテリ180からの電圧が印加される。これにより、電動モータ9では、その各相コイルに電流が流れて、当該モータ9はその電流に応じたトルクTmを生じ操舵補助力として上記操舵機構に付与する。また、このように電動モータ9が駆動されると、フィードバック制御部400では、上記d軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqがそれぞれd軸電流指令値i*d及びq軸電流指令値i*qに等しくなるように当該モータ9をフィードバック制御することで所望の操舵補助力にて操舵補助が行われる。
また、本実施形態では、図27において、上記フィードバック制御部400と、その制御対象の電動モータ9、及びモータ位置センサ112とにより、フィードバックループを有する上記電流制御系が構成されている。この電流制御系では、上記モータ9内に設置されたコイルのインピーダンスなどに規定される周波数特性を有している。また、電流制御系では、d軸電流指令値i*d及びd軸電流検出値idをそれぞれ入力及び出力とするd軸電流のフィードバックループと、q軸電流指令値i*q及びq軸電流検出値iqをそれぞれ入力及び出力とするq軸電流のフィードバックループとのいずれの閉ループの場合も、その伝達関数に対するボード線図は、例えば図30にて示されるものとなる。すなわち、この電流制御系では、実用的な周波数範囲において、周波数が増大するにつれて、図30の実線に示すように、ゲインが1(dB=0)から低下する。また、位相遅れは、同図に点線にて示すように、周波数が増大するにつれて、大きくなる。このような電流制御系の周波数特性の影響を抑えるために、上記トルクリップル補償決定部301では、磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219の各部において、図30に実線及び点線にて示したデータがテーブル化されて、後述の周波数特性マップとして保持されており、各部の出力補償値は、当該周波数特性に依存するゲイン低下及び位相遅れが極力生じないように補正されている。
図28は、図27に示した磁界歪み補償部の具体的な構成例を示すブロック図である。図に示すように、上記磁界歪み補償部218には、周波数算出部236、ゲイン・位相決定部237、減算器238、磁界歪み補償値決定部239、振幅決定部240、修正率算出部241、及び乗算器242、243の機能ブロックが設定されており、マイコンがプログラムを実行することにより、上記ブロックは各々所定の演算処理を行うようになっている。また、上記周波数算出部236、ゲイン・位相決定部237、及び修正率算出部241が、電動モータ9(図27)の回転速度に基づいて、上記電流制御系の周波数特性に依存するゲイン低下を補償するためのゲイン補償値を求めるゲイン補償演算手段を構成している。また、周波数算出部236とゲイン・位相決定部237とは、同モータ9の回転速度に基づいて、上記電流制御系の周波数特性に依存する位相遅れを補償するための位相補償値を求める位相補償演算手段を兼用している。
f = S×ωre/(2π) ――(55)
但し、Sは、電動モータ5内のスロット数である。
電動モータ9を無負荷運転したときに当該モータ9内に形成される磁界の歪み、つまり無負荷誘導起電力波形がその理想波形に歪みを生じている場合に、各相コイルに正弦波電流である電流iu、iv、iwを供給すると、そのモータ出力には磁界歪みに起因するトルクリップルが生じる。ここで、無負荷誘導起電力の各相コイルでの瞬時値e0u、e0v、e0wが既知であれば、モータ5の出力トルクを一定値(例えば1[Nm])とし上記磁界歪みに起因するトルクリップルを生じさせないような各相コイルの電流i0u、i0v、i0wを決定することができる。例えば、上記出力トルクを一定値Tとしたときに、そのような各相コイルの電流i0u、i0v、i0wは、次の(56)、(57)、及び(58)式にてそれぞれ算出することができる。
i0u ={(e0u−e0v)+(e0u−e0w)}×T
/{(e0u−e0v)2+(e0u−e0w)2+(e0w−e0v)2} ――(56)
i0v = {T−(e0u−e0w)×iu}/(e0v−e0w) ―――(57)
i0w = {T−(e0u−e0v)×iu}/(e0w−e0v) ―――(58)
また、(56)〜(58)式で算出される各相コイルの電流i0u、i0v、i0wを、電気角θを変数とする次の(59)及び(60)式によってd−q座標上の値に変換することにより、上記磁界歪みに起因するトルクリップルを生じさせずに出力トルクを一定値Tとするようなd軸電流値i0d及びq軸電流値i0qを算出することができる。
i0d = √2{i0v×sinθ−i0u×sin(θ−2π/3)} ――(59)
i0q = √2{i0v×cosθ−i0u×cos(θ−2π/3)} ――(60)
まず、図31に示すように、電動モータ9の各相コイルでの無負荷誘導起電力(誘起電圧)について、そのモータ9の電気角の値が変化したときでの瞬時値e0u、e0v、e0wの各実測データを取得しておく。そして、これらの各実測データを用いて、モータ9が上記磁界歪みに起因するトルクリップルを生じさせることなく単位トルク(1[Nm])を出力するのに必要なd軸電流値i0d1及びq軸電流値i0q1を上述の(56)〜(60)式により求める。さらに、無負荷誘導起電力波形が歪んでいない場合に当該モータ9が上記単位トルクを出力するのに必要なd軸電流値i0d2及びq軸電流値i0q2を求める(尚、この場合では、出力トルクはq軸電流に比例し、d軸電流は“0”とすればよいので、これらd軸電流値i0d2及びq軸電流値i0q2は上述の各実測データに所定演算を行うことにより容易に求めることができる。)。そして、電気角の値毎に、上記d軸電流値i0d1とd軸電流値i0d2との差を求めて上述のd軸電流単位補償値Δid10(=i0d1−i0d2)とし、かつ上記q軸電流値i0q1とq軸電流値i0q2との差を求めて上述のq軸電流単位補償値Δiq10(=i0q1−i0q2)として、これらの電気角とd軸電流単位補償値Δid10及びq軸電流単位補償値Δiq10とを対応付ければよい。この結果、例えば図32に示すように、電気角と、この電気角に応じたd軸電流及びq軸電流に変換した後の磁界歪みを抑制可能な電流成分である上記磁界歪み補償電流成分の値とを示す電流波形を得ることができ、これらのデータを対応付けたテーブルを磁界歪み補償マップ239aとして作成することができる。
上記振幅決定部240には、磁界歪み補償値決定部239からのd軸電流単位補償値Δid10及びq軸電流単位補償値Δiq10に加えて、加算器217(図27)からの所望の操舵補助力に相当するq軸基本電流指令値i*q0が入力されている。そして、振幅決定部240は、入力したq軸基本電流指令値i*q0を基に単位トルク当たりのd軸電流単位補償値Δid10及びq軸電流単位補償値Δiq10に対する乗算値を決定し、それらの乗算処理を行うことにより、上記所望の操舵補助力に応じたd軸電流補償値Δid11及びq軸電流補償値Δiq11を求めている。振幅決定部240は、求めたd軸電流補償値Δid11及びq軸電流補償値Δiq11を乗算器242及び243にそれぞれ出力する。
上記乗算器242は、振幅決定部240からのd軸電流補償値Δid11に修正率算出部241からの修正率Rmを乗じることにより、上記磁界歪み補償用のd軸電流補償値Δid1を求めて加算器221(図27)に出力する。同様に、乗算器243は、振幅決定部240からのq軸電流補償値Δiq11に修正率算出部41からの修正率Rmを乗じることにより、上記磁界歪み補償用のq軸電流補償値Δiq1を求めて加算器222(図27)に出力する。このように、乗算器242及び243が、修正率Rmを用いて、d軸電流補償値Δid11及びq軸電流補償値Δiq11を修正することにより、上記電流制御系の周波数特性に依存するゲイン低下を補償することができる。
図29は、図27に示した電流高次歪み補償部の具体的な構成例を示すブロック図である。図に示すように、電流高次歪み補償部219には、周波数算出部236、ゲイン・位相決定部237、減算器238、修正率算出部241、電流高次歪み補償値決定部244、及び乗算器245、246の機能ブロックが設定されており、マイコンがプログラムを実行することにより、上記ブロックは各々所定の演算処理を行うようになっている。また、これらの機能ブロックのうち、周波数算出部236、ゲイン・位相決定部237、減算器238、及び修正率算出部241は、上記磁界歪み補償部218のものと同一演算処理を実施するよう構成されており、上記電流制御系の周波数特性に依存する位相遅れ及びゲイン低下を補償するための位相補償値Δθe及びゲイン補償値Rmを算出するようになっている。
Δiq21 = Δiq2-5+Δiq2-7+Δiq2-11+Δiq2-13 ―――(62)
Δid2-5 = i5(i*q0)×sin[6{θre+θ5(i*q0)}] ―――(63)
Δiq2-5 = i5(i*q0)×cos[6{θre+θ5(i*q0)}] ―――(64)
Δid2-7 = i7(i*q0)×sin[6{θre+θ7(i*q0)}] ―――(65)
Δiq2-7 = −i7(i*q0)×cos[6{θre+θ7(i*q0)}]―――(66)
また、第11次及び第13次の電流高次成分は、電動モータ9の出力トルクでは第12次のトルク高次成分として表れることから、上記第11次電流用の補償値Δid2-11、Δiq2-11及び第13次電流用の補償値Δid2-13、Δiq2-13は、次の(67)〜(70)式で示される。
Δid2-11 = i11(i*q0)×sin[12{θre+θ11(i*q0)}]――(67)
Δiq2-11 = i11(i*q0)×cos[12{θre+θ11(i*q0)}]――(68)
Δid2-13 = i13(i*q0)×sin[12{θre+θ13(i*q0)}]――(69)
Δiq2-13 = −i13(i*q0)×cos[12{θre+θ13(i*q0)}]―(70)
まず、電動モータ9の出力トルクが変化するようにその供給電流を変化させた場合での各電流高次成分における1次成分(基本波)に対する電流高次成分ゲインについて、その実測データを取得する。これにより、例えば図34に示すように、各電流高次成分毎のq軸基本電流指令値i*q0と電流高次ゲインとの関係を示すグラフを得ることができる。尚、この図において、各高次電流成分での4個のプロットは、電動モータ9での出力トルクを示しており、図の左から右側に向かって順に同出力トルクが1.0、2.0、3.0、及び4.0[Nm]の場合を示している。そして、作成したグラフに基づいて、例えば第5次電流成分の振幅に相当する上記(63)及び(64)式でのi5(i*q0)の値と、q軸基本電流指令値i*q0の値とを対応付けたテーブルを電流高次歪み補償マップ244aとして作成することができる。
また、上記のように、出力トルク(モータ負荷)を変化させた場合でのモータ供給電流の測定波形に基づいて、その電流波形に含まれた基本波に対する各高次成分波の位相ずれの実測データを取得する。そして、その取得データを基に上記位相ずれを解消するための修正値、例えば第5次電流成分での修正値として上記(63)及び(64)式でのθ5(i*q0)を決定することができる。そして、この決定した修正値と、q軸基本電流指令値i*q0の値とを対応付けたテーブルを位相修正マップ244bとして作成することができる。
フィードバック制御部400が、磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219の各出力値を用いずに上述の(48)及び(49)式での各第1項で示したd軸基本電流指令値i*d0及びq軸基本電流指令値i*q0を用いて電動モータ9を駆動したときには、図35の一点鎖線にて示すように、そのモータ出力トルクには大きいトルクリップルが表れて大幅に変動した。
また、フィードバック制御部400が、磁界歪み補償部218の出力値を用いたとき、つまり上記(48)及び(49)式での各第1及び第2項の和で指定される目標電流値を用いて電動モータ9を駆動したときには、そのモータ出力トルクのうち磁界歪みに起因するリップル分が排除されて、当該トルクの検出波形は同図の点線に示されるものとなった。
また、上記の説明では、トルクリップル補償決定部301の磁界歪み補償部218及び電流高次歪み補償部219内に一部の機能ブロックを共用した上記ゲイン補償演算手段と位相補償演算手段とを設けた場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば上記の演算手段をトルクリップル補償決定部301の各補償部218、219内に設けることなく、当該補償決定部301とフィードバック制御部400との間に配置し、各補償部218、219がロータ角度位置検出器235からの電気角θreと、加算器222からのq軸基本電流指令値i*q0とを用いて磁界歪み用及び電流高次歪み用の補償値をそれぞれ決定し、これらの決定値を上記ゲイン補償演算手段が求めたゲイン補償値と位相補償演算手段が求めた位相補償値とで補正してフィードバック制御部400に指令値として入力させる構成でもよい。
また、上記の説明では、電動モータ9に3相ブラシレスモータを使用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3相以外の相数のブラシレスモータやブラシ付きの直流モータなどの他の形式のモータを使用した装置にも適用することができる。
[5.2.1 不感帯に関する考察]
ここでは、操舵トルクの0を中点とする所定範囲において電動モータを駆動しない領域である不感帯について説明する。
前記特許文献13には、操舵速度等の条件によって、不感帯の幅を変更する電動パワーステアリング装置が提案されている。
上述した従来の電動パワーステアリング装置では、アシスト特性(操舵補助特性;操舵トルクとアシストトルク(モータ電流)との関係)における不感帯の幅、及び不感帯とアシスト(操舵補助)領域との境界部での傾きの設定に関して、知見が不十分であった。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、操舵部材に接続された上部軸(入力軸22)と、舵取機構(ステアリングギヤ3)に伝動軸(例えばユニバーサルジョイントを介して上端が下部軸に、下端が舵取機構に回動可能に結合された軸)により結合された下部軸(出力軸24)とが連結軸(例えばトーションバ23)により連結され、電動モータが歯車機構(減速機8)により前記下部軸(出力軸24)に連結され、前記操舵部材に加えられた左右の操舵トルクを前記連結軸の捩れに基づき検出し、検出した操舵トルクに応じて前記電動モータを駆動して、操舵補助トルクを前記下部軸に与えると共に、前記操舵トルクの0を中点とする所定範囲を、前記電動モータを駆動しない不感帯とする電動パワーステアリング装置において、前記不感帯の片側幅は、前記舵取機構で生じる摩擦トルクと、前記下部軸及び伝動軸で生じる摩擦トルクとの合計以下に設定してあることを特徴とする。この場合、直進走行時にふらつかず、摩擦感が無く、操舵フィーリングが良い電動パワーステアリング装置を実現することが出来る。
トルクセンサ7で検出された操舵トルクTsを受け取った目標電流演算部124は、アシストマップと呼ばれる、操舵トルクと目標電流値とを対応づけるテーブルを参照して、操舵トルクTs等に基づいて、モータ9に流すべき目標電流値Itを決定する。
目標電流演算部124(モータ制御部120)のアシストマップでは、図36で示すように、操舵トルク信号Tsが所定の不感帯を超えると、操舵トルク信号Tsの増加に従って目標電流値Itが比例的に増加し、さらに操舵トルク信号Tが所定値以上になると目標電流値Itが飽和するような関数が、車速検出信号Vs(Vs:V1,V2,V3)に応じて可変的に定められている。但し、Vl<V2<V3…である。前記関数は車速検出信号Vl,V2,V3…が大となるに従って操舵トルク信号Tに対する目標電流値Itの比が小となると共に、目標電流値Itの飽和値が小となるようになっている。目標電流演算部124が定めた目標電流値Itは前記加算器217へ与えられる。
ここで、Tflは、舵取機構(ステアリングギヤ3)34全体の摩擦トルク、Tf2は、出力軸24、伝動軸29及びユニバーサルジョイント29a,29bの摩擦トルクである(図37参照)。
0.3Nm,Tf3≦0.5Nmに設定できる。また、従来、Td=1.0〜1.7Nmであった。以上のように設定することにより、この電動パワーステアリング装置は、電動モータ9軸周りのロストルクTf3を引き摺ることなく、また、操舵トルクがタイヤ(車輪)に伝わるトルク値(Tfl+Tf2)に達し始める前(Tf3の範囲内)に、アシストが開始される。その為、この電動パワーステアリング装置では、アシスト開始時のトルク変動が滑らかであり、直進走行時にふらつかず、摩擦感が無く、操舵フィーリングが良い。
[5.3.1 位相補償特性に関する考察]
電動パワーステアリング装置では、典型的には比例積分器により、トルクセンサからのトルク検出信号が示す操舵トルクに基づき設定される目標の電流が電動モータに流れるように電流制御(フィードバック制御)が行われる。
すなわち、位相補償器によって据え切り時の振動を抑えると、位相遅れによって走行中における操舵フィーリングのフワフワ感が生じる。
すなわち、好ましい、電動パワーステアリング装置は、操舵トルクに応じた操舵補助力を電動モータによって発生させる電動パワーステアリング装置において、操舵トルクを検出するトルクセンサと、トルクセンサの出力から前記電動モータの制御目標値を生成する際に作用する位相補償手段と、操舵が車両走行中に行われた場合と、据え切りの場合と、における前記位相補償手段の特性を異ならせる手段と、を備えていることを特徴とする。
GC(s)=(s2+2ζ2ω2s+ω2 2)/(s2+2ζ1ω1s+ω1 2) ・・(71)
ここで、ζ1は、補償後の減衰係数、ζ2は被補償系の減衰係数、ω1は補償後の自然角周波数、ω2は被補償系の自然角周波数で、前記GC(s)のパラメータである。
GC(s)=ω1 2(s2+2ζ2ω2s+ω2 2)/{ω2 2(s2+2ζ1ω1s+ω1 2)}
・・(72)
2−1/2≦ζ1≦1 ・・(73)
0<ζ2<2−1/2 ・・(74)
この場合、被補償系の減衰係数となるべきパラメータζ2が0<ζ2<2−1/2から選定されるので、十分な位相補償を行うことができ、補償後の減衰係数となるべきパラメータζ1が2−1/2≦ζ1≦1の範囲から選定されるので、位相補償により安定性を確保しつつ応答性を改善することができる。
ω1=ω2 ・・(75)
ω1<ωm ・・(76)
ここで、ωmは、前記機械系固有振動の角周波数である。
補償後の自然角周波数となるべきパラメータω1が機械系固有振動の角周波数ωmよりも小さいので、機械系の固有振動による制御系の不安定化が防止され、より確実に安定を保持しつつ応答性を改善することが可能となる。
まず、位相補償設計のための基礎的検討について説明する。
電動パワーステアリング装置の制御設計における位相補償に関する記述の従来技術は、機械的な共振周波数である機械系固有振動周波数のピーク(以下「機械系ピーク」という)を補償するものとして提案されているが、これにはモータによる逆起電力の影響が考慮されていない。すなわち、電動パワーステアリング装置のシステムとしてのゲイン特性すなわちトルク開ループ伝達関数のゲイン特性におけるピーク(以下「システムピーク」という)が機械系のピークであるとみなされていた。しかし、下記のシミュレーションを行った結果、モータにおける逆起電力がシステムの特性に与えている影響は大きいものであり、機械系ピークとシステム全体のピーク(システムピーク)とは別の周波数であることが判明した。
モータ出力側の粘性: Cm=1.39×10−3[N・m・s/rad]
減速器の減速比: n=9.7
トーションバーの弾性: K=162.95[N・m/rad]
モータのトルク定数: KT=5.12×10−2[N・m/A]
モータのインダクタンス:L=9.2×10−5[H]
モータの抵抗: R=6.1×10−2[Ω]
モータの極対数: P=4
逆起電力定数: φfp=4.93×10−2[V・s/rad]
PI制御部の比例ゲイン:Kp=L×(2π×75)
PI制御部の積分ゲイン:Ki=R×(2π×75)
位相補償部213には、トルクセンサ3から出力された操舵トルク検出信号TSが入力される。
位相補償部213は、この操舵トルク検出信号TSに対して位相補償のためのフィルタリング処理を施し、その処理後の信号を目標電流値演算部214に出力するものである。この位相補償部213は、それぞれ特性の異なる第1位相補償器213a及び第2位相補償器213bと、操舵トルク検出信号TSを第1位相補償器213aに与えるか第2位相補償器213bに与えるかを切り替える切替器213cと、を備えている。
一方、据え切りの場合には据え切り用である第2位相補償器213bが選択され、当該第2位相補償器213bに操舵トルク検出信号TSが与えられ、第2位相補償器213bの出力が目標電流値演算部214に与えられる。
電動パワーステアリング装置のシステム全体としての特性を示すトルク開ループ伝達関数の周波数特性は、実用的な周波数帯域においては2次遅れ系の伝達関数で近似できることが知られている。図40は、位相補償をおこなわない場合と位相補償を行った場合のボード線図である。図40においても、2次遅れ系の伝達関数の特徴が表れている。
G(s)=ωn 2/(s2+2ζ2ωns+ωn 2)
ただし、sはラプラス演算子、ζ2は減衰係数、ωnは自然角周波数である。
GC(s)=(s2+2ζ2ω2s+ω2 2)/(s2+2ζ1ω1s+ω1 2)
ただし、sはラプラス演算子、ζ1は補償後の減衰係数、ζ2は被補償系の減衰係数、ω1は補償後の自然角周波数、ω2は被補償系の自然角周波数である。本実施形態は、所望の周波数特性を有する制御系を実現する上で効果的にパラメータが設定される位相補償器を備えた電動パワーステアリング装置を提供するものである。
したがって、位相補償器の伝達関数におけるパラメータζ2は式:2−1/2<ζ2<1で示される範囲以外から選定すべきである。
したがって、位相補償器の伝達関数おけるパラメータζ1は式:0<ζ1<2−1/2で示される範囲以外から選定すべきである。
2−1/2≦ζ1≦1
0<ζ2<2−1/2
このように設定することにより、安定性を確保しつつ応答性を改善することができる。
ωm>ω1
ωm>ω1=ω2=ωn
ωn=2π・fp
2−1/2≦ζ1≦1
0<ζ2<2−1/2
また、ωn=2π・fpのfp(以下、これをシステムピーク周波数fpと区別するために記号“fn”で表し、「補償器自然周波数」という)については、ピーク周波数fpと同一の値でなくてもピーク周波数fpの近傍の値であれば十分に実用的である。したがって、補償器自然角周波数ωnは次式のように設定できる。
2π×(fp−α)≦ωn≦2π×(fp+β)
例えば、走行中用の第1位相補償器213aのパラメータとして、ωn=2π×21Hz,ζ1=1,ζ2=0.2を選定した場合、据え切り用の第2位相補償器213bのパラメータとしてωn=2π×20Hz,ζ1=1,ζ2=0.2を選定して、両位相補償器213a,213bの特性を異ならせることができる。
一方、第1位相補償器213aのωnの値が第2位相補償器213bよりも大きいため、走行中においては低周波域での減衰及び位相遅れが比較的小さくなり、操舵フィーリングのフワフワ感が低下する。
なお、位相補償器の伝達関数及びその特性は、上記のものに限定されない。
[5.4.1 車両左右流れに関する考察]
電動パワーステアリング装置では、ステアリングギヤや、車両側の足回りの機械的効率、摩擦などの回転方向差により、操舵トルクを中立(操舵トルク0位置)に保持しようとしても、車両がわずかに右又は左に流れるという現象が起こる。このため、車両を直進させようとすると、車両が流れる方向とは逆に運転者が操舵トルクを加え続けなくてはならず、そのため操舵フィーリングが悪化する。
ここで、特許文献15では、車両の操舵負荷の左右差を相殺するようにアシスト特性に左右差を設けたものが記載されているが、この特許文献15記載のものでは、操舵トルク中立状態で、車両が流れるのを防止するアシストトルクが加わっていないため、車両が左右に流れることを防止することはできず、車両の流れを防止するには、車両が流れる方向とは逆の操舵トルクが必要で操舵フィーリングが悪い。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、トルクセンサによって検出した操舵トルクに応じたアシストトルクをモータ9に発生させるためのアシスト制御電流値(モータ目標電流値)を求める手段を備えた電動パワーステアリング装置において、車両が流れるのを抑えるためのトルクを前記モータに発生させるための流れ補償電流値を、(オフセットとして)前記アシスト制御電流値に加算することを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
この構成によれば、アシスト制御電流値には、車両が左又は右に流れるのを抑えるためのトルクに相当する補償電流値が加わっているため、流れを抑えるための操舵トルクを運転者が加えなくとも車両の流れを防止でき、操舵フィーリングが向上する。
車両流れ抑制のための処理は、ECU105(目標電流値演算部214)においてコンピュータプログラムを実行することにより行われる。
図43に示すように、車速センサ104によって車速Vsが検出される(ステップS1)とともに、トルクセンサ7によって操舵トルクTsが検出される(ステップS2)と、目標電流値演算部14では、モータ目標電流値であるアシスト制御電流の演算を行う(ステップS3)。この演算は、操舵トルクTsとモータ目標電流値Isとの関係を(車速毎に)示すアシストマップ(図36参照)を用いて行われる。図36のアシストマップ32では、操舵トルク中立位置(0トルク位置)付近が不感帯とされ、対応するアシストトルク(目標電流値Is)は0である。
流れ補償電流値は、オフセットとしてアシスト電流制御値に加算される(ステップS5)、図36のアシストマップにおける特性が、上下方向(Is軸方向)にシフトした特性が得られる。
補償電流値がアシスト制御電流値に加算されることで、車両の左右流れを抑制するトルクがモータ9によって発生するため、運転者が流れる方向とは逆に操舵トルクを加えなくても、車両流れを抑制でき、操舵フィーリングを抑制できる。
なお、補償電流値が加算されたアシスト制御電流値は、モータ9のフィードバック制御に用いられ、フィードバック制御部400によってモータ電流制御演算が行われ(ステップS6)るとともに、モータ9への制御量出力が行われる(ステップS7)。
[5.5.1 電流検出器の温度特性に関する考察]
電動パワーステアリング装置には、操舵のための操舵手段であるハンドルに加えられる操舵トルクを検出するトルクセンサが設けられており、トルクセンサで検出される操舵トルクに基づき電動モータに供給すべき電流の目標値(以下「目標電流値」という)が設定される。そして、この目標電流値と電動モータに実際に流れる電流の値との偏差に基づいて比例積分演算により電動モータの駆動手段に与えるべき指令値が生成される。電動モータの駆動手段は、その指令値に応じたデューティ比のパルス幅変調信号(以下「PWM信号」という)を生成するPWM信号生成回路と、そのPWM信号のデューティ比に応じてオン/オフするパワートランジスタを用いて構成されるモータ駆動回路とを備え、そのデューティ比に応じた電圧を電動モータに印加する。この電圧印加によって電動モータに流れる電流は電流検出器によって検出され、目標電流値と検出された検出電流値との差が上記指令値を生成するための偏差として使用される。
上記構成によれば、モータ電流検出手段によって検出された電流値を温度に応じて補正することにより、実際にモータに流れる電流値が求められる。このため、温度変化の影響によりモータ電流検出手段によって検出された電流値が変動しても、モータに流れる電流値が正しく求められる。これにより、トルクリップルの発生が防止され、運転者に違和感のない操舵感を与えることができる。
この構成によれば、所定のオフセット補正値を温度に応じて設定し、モータ電流検出手段によって検出された電流値から例えば上記オフセット補正値を減算するなどの所定の補正を行うことにより、実際にモータに流れる電流値が求められる。このため、温度変化の影響によりモータ電流検出手段で生じるオフセット電流が変動しても、モータに流れる電流値が正しく求められる。これにより、オフセット電流の変動によるトルクリップルの発生が防止され、運転者に違和感のない操舵感を与えることができる。
上記構成によれば、所定のオフセット補正値を温度に応じて設定するとともに温度に応じて所定のゲイン補正係数を設定し、モータ電流検出手段によって検出された電流値から例えば上記オフセット補正値を減算して得られた値に上記ゲイン補正係数を乗算するなどの所定の補正処理を行うことにより、実際にモータに流れる電流値が求められる。
このため、温度変化の影響によりモータ電流検出手段で生じるオフセット電流やモータ電流検出手段のゲインが変動しても、モータに流れる電流値が正しく求められる。これにより、オフセット電流およびゲインの変動によるトルクリップルの発生が防止され、運転者に違和感のない操舵感を与えることができる。
図27に示すように、温度検出器240は、U相電流検出器181およびV相電流検出器182近傍に設けられており、U相電流検出器181およびV相電流検出器182の温度を検出し、当該温度を示す温度値hを出力する。
以上のように、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置では、イグニッションスイッチがオンされたときに検出されるオフセット補正値をモータの動作中に変化する温度に応じて更新するとともにゲイン補正係数を温度に応じて更新し、電流検出器によって検出された電流値から上記オフセット補正値を減算して得られた値に上記ゲイン補正係数を乗算することにより、実際にモータに流れる電流値が求められる。このため、温度変化の影響により電流検出器で生じるオフセット電流や電流検出器のゲインが変動しても、モータに流れる電流値が正しく求められる。これにより、オフセット電流およびゲインの変動によるトルクリップルの発生が防止され、運転者に違和感のない操舵感を与えることができる。
上記一実施形態では、上記オフセット補正値およびゲイン補正係数を温度に応じて更新し、電流検出器によって検出された電流値から上記オフセット補正値を減算して得られた値に上記ゲイン補正係数を乗算することにより実際にモータに流れる電流値を求めるが、上記ゲインの変動を考慮することなく、上記オフセット補正値のみを温度に応じて更新し、電流検出器によって検出された電流値から上記オフセット補正値を減算することにより実際にモータに流れる電流値を求めてもよい。この構成では、電流検出器のゲインの変動に対する補正が行われないが、ゲイン値の変動量が少ない場合には、オフセット電流の変動によるトルクリップルの発生が防止され、運転者に違和感のない操舵感を与えることができる。
[5.6.1 減速機の歯の噛み合いとトルク変動に関する考察]
電動パワーステアリング装置においては、運転時における特に中立状態での操舵フィーリングの滑らかさが重要な性能の一つになっている。
一方、電動モータに生じる出力トルクのリプル(脈動)は、モータにおける極数やスロット数等の構造上の要因で発生するコギングトルクと、モータにおける誘導起電力波形が理想波形からずれることに伴う電気リプルとに大別される。そして、これらのリプルのうち、電動モータのコギングトルクは前記中立状態での操舵フィーリングを大きく阻害することから、この種の電動パワーステアリング装置においては、従来より、モータの極数とスロット数の組み合わせを改善したり(特許文献7)、或いはティース形状を改善したりして(特許文献18)、電動モータに生じるコギングトルクそのものを低下させるようにしている。
一方、この種の電動パワーステアリング装置において、トルクリプルが発生するのは電動モータだけではなく、例えば、モータの出力軸の回転を減速して被補助軸(出力軸24)に伝達する減速機においても発生している。すなわち、かかる減速機には、ギヤ同士の噛み合い度合いに応じたトルクの変動が生じており、このトルク変動はギヤ間のバックラッシを防止すべく一方のギヤを他方のギヤに押し付けている場合に特に著しい。
したがって、電動モータのコギングトルクそのものを低下させなくても被補助軸のトルク変動を簡単に抑制できるようにして、電動パワーステアリング装置の操舵フィーリングの悪化をより低コストで防止するには、次の構成を採用できる。
ところで、後の実施形態でも述べる通り、永久磁石のSN各極が周方向に並ぶロータを内部に有するブラシレスモータの場合には、そのロータを極めて低速で回転させると一回転当たりで極数(S極とN極とを合わせた合計数)と同じ数の波数を含むリプルが発生することが知られている。他方、バックラッシがほぼ零の状態で互いに噛み合っている第一及び第二ギヤの場合には、第二ギヤ側から見た第一ギヤのトルク変動は、当該第一ギヤの歯数と同じ波数のリプルとなる。
図1に示すように、前記減速機8は、電動モータ9の出力軸91に連結されたインボリュートはすば歯車よりなる駆動歯車である第一ギヤ82と、動力補助の対象となる被補助軸(出力軸24)に一体回転可能に嵌合された従動歯車である第二ギヤ81とを備えている。この第二ギヤ81は、第一ギヤ82と平行な軸心回りに回転する同第一ギヤ82よりも歯数の大きいインボリュートはすば歯車よりなり、第一ギヤ82の軸方向ほぼ中央部に噛み合っている。従って、電動モータ9の出力軸91の回転運動は、第一ギヤ82と第二ギヤ81の噛み合いを介して減速して出力軸24に伝達される。
第1ギヤ82は、2つの軸受82a,82bにより回転自在に支持されている。これらの軸受82a,82bには、弾性リング(Oリング)84が外嵌され、軸受82a,82bは当該弾性リング84を介して減速機ハウジング85に取り付けられている。これらの弾性リング84,84は、第1ギヤ82と第2ギヤ81が互いに近づく方向に弾性的に押し付けるためのものであり、長期間の使用によって第一ギヤ82及び第二ギヤ81の歯面が摩耗した場合でも、この摩耗に追従して両ギヤ81,82間の接触が有効に確保され、これによってバックラッシが生じるのを防止することができる。
ここで、干渉とは、複数の制御系において、一方の制御系の操作量を変化させた場合に、他の制御系の制御量に変化が生じることをいい、非干渉化制御とは、干渉する制御間の干渉を防止して、干渉のない独立した制御系として取り扱うための制御である。
前述のようにブラシレスモータ9のd軸電流及びq軸電流のそれぞれの目標値に対して、d軸電流及びq軸電流の実測値をフィードバックする制御を行う場合、モータ9の誘起電力によって、d軸の制御系とq軸の制御系には干渉が生じる。つまり、d軸電流の目標値を変化させるとq軸電流の実測値に影響が生じ、q軸電流の目標値を変化させるとd軸電流の実測値に影響が生じる。q軸電流とd軸電流の相互干渉は、電気的な粘性として現れ、モータ効率を低下させる要素となる。
非干渉化演算部(非干渉化制御手段)450は、q軸とd軸の相互干渉を回避するためのものであり、実測値であるdq軸電流(id,iq)と、モータの回転角度をもとに算出したモータ角速度とに基づいて非干渉化演算を行う。
検出したd軸電流idは、q軸に係る制御系の影響を受けており、検出したq軸電流iqは、d軸に係る制御系の影響を受けているが、非干渉化演算によってこのような干渉が打ち消される。
つまり、PI制御部225,226によって生成されたdq軸目標電圧は、非干渉化演算部450によって、非干渉化されたdq軸目標電圧(V*d,V*q)に補正され、d−q/3相交流座標変換部227に与えられる。
ブラシレスモータ9の制御において、q軸とd軸の非干渉化制御を行うことにより、電気的な粘性項を低下させることができ、モータ効率を上昇させることができる。
[7.1 ロードノイズに関する考察]
ステアリング装置では、操舵フィーリングの低下を防ぐために、走行路面などに応じて操向車輪から操舵機構側に逆入力される外乱(路面ノイズ;ロードノイズ)を抑えることが要求されている。
そこで、従来装置には、電動モータの制御系において、上記路面ノイズのうち、不必要な周波数帯域をカットすることにより、操舵機構に対する外乱の悪影響を抑えようとしたものがある(例えば、特許文献2参照。)。
また、従来装置には、例えば特許文献19に開示されているように、操舵機構側に含まれたラック軸と操向車輪側に連結されたボールジョイントとの間にダンパーとしてのゴム状弾性体からなるブッシュ組立部を設け、このダンパーにて路面ノイズを減衰しようとしたものもある。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、操舵部材から操向車輪に至る操舵機構に、電動モータの動力を付与して操舵補助を行う電動パワーステアリング装置であって、前記操舵機構が、前記操向車輪が左右の両端側に連結されたラック軸と、所定の粘性及び弾性を有する粘弾性部材とを具備するとともに、前記粘弾性部材の粘性及び弾性が前記ラック軸に対して作用するように当該粘弾性部材を設けたことを特徴とするものである。
2(KJ)1/2 ≦ C ―――(81)
を満足していることが好ましい。
この場合、上記粘弾性部材の粘性及び弾性によってラック軸と操向車輪との間に形成される2次振動系での振動(共振)を確実に防ぐことができ、この振動に起因する操舵フィーリングの低下をより効果的に防止することができる。
この場合、上記弾性体及び粘性体を備えた一体的な粘弾性部材が使用されることとなり、当該部材の装置への組付作業を容易に行えるとともに、簡単な構成にて操舵機構での振動を抑制して操舵フィーリングの低下を容易に防止することができる。
この場合、高粘着性の潤滑剤がラック軸と粘弾性部材との間に存在しているので、上記粘弾性部材の粘性及び弾性による不必要な路面ノイズの遮断性を高めることができ、操舵機構での路面ノイズの悪影響をより効果的に抑えた装置を容易に構成することができる。
図1に示すように、ラック軸32を収納するラックハウジング33の内部には、ラック軸32に対して粘性及び弾性が作用するように、所定の粘性及び弾性を有する筒状の粘弾性部材500が設けられている。また、この粘弾性部材500は、ラック軸32上に塗布された高粘着性の潤滑剤を介在させて当該ラック軸32に連結されている。この潤滑剤は、ラック軸32が比較的高速で動こうとするときに当該ラック軸32に対し抵抗となり、ラック軸32が比較的低速で動こうとするときに当該ラック軸32に対し抵抗とならないように、その粘着性が選択されており、粘弾性部材500の粘性及び弾性によるモータ制御に不必要な路面ノイズの遮断性を高めている。
これに対して、電動モータ9のアシスト制御に不必要な上記高周波帯域の外乱によってラック軸32が動くときには、当該ラック軸32は比較的高速で、短い周期で移動する。このような比較的速いラック軸32の動きに対しては、粘弾性部材500からの粘性及び弾性は抵抗として働いてラック軸32の動きを抑えることにより、当該ラック軸32から操舵機構A側に上記外乱が伝えられるのを遮断する。
2(KJ)1/2 ≦ C ―――(81)
但し、(81)式において、Jはラック軸32の操向車輪4側の慣性であり、Kは粘弾性部材500(梁11c)の弾性定数である。このような粘性定数Cを有する粘弾性部材500を用いることにより、ラック軸32に対して適切な値の粘性及び弾性を付与することができ、上記振動系の振動を抑えることができる。
1/(Js2+Cs+K) = (1/J)/(s2+Cs/J+K/J) ――(82)
= (1/J)/(s2+2ζωns+ωn2) ――(83)
ωn = (K/J)1/2 ――(84)
ζ = C/2Jωn =C/2(KJ)1/2 ――(85)
ここで、上記減衰係数ζにおいて、その値が1以上であれば、その2次振動系での振動(共振)が確実に防がれることから、上記(85)式から上述の不等式(81)を得ることができる。
0.4 ≦ ζ ≦ 2 ――(86)
詳細には、上記(86)式にて規定される減衰係数ζでは、0.4以上の値を選ぶことによって0.8(KJ)1/2以上の上記粘性定数Cが選択されて、粘弾性部材500はその粘性及び弾性を最低限必要な負荷(抵抗)としてラック軸32に与えることができ、例えば操向車輪5側から外乱が入力したときでも、上記高粘着性の潤滑剤を使用した点とも相まって、そのラック軸32での振動とこれに伴う操舵フィーリングの変化がドライバーに認識されない程度に、粘弾性部材500からの抵抗がラック軸32に付与されて当該振動を抑制することができる。
また、2以下の減衰係数ζを選ぶことにより、粘弾性部材500からラック軸32に与えられる粘性及び弾性を制限して、ラック軸32、ひいては操舵機構Aでの応答性が低下するのを抑えることができる。しかも、粘弾性部材500からラック軸32に加えられる粘性及び弾性(抵抗)を制限しているので、操舵部材1に対するステアリング操作が過剰に重くなるのを防ぐことができる。
また、2よりも大きい減衰係数ζを選んだときには、粘弾性部材500からの粘性及び弾性が不必要に大きくなって、ステアリング操作を比較的行い難くなったりして、操舵フィーリングが比較的低下する。
また、本実施形態では、ラック軸32と粘弾性部材50との間に高粘着性の潤滑剤を介在させることにより、粘弾性部材50の粘性及び弾性による不必要な路面ノイズの遮断性を高めているので、操舵機構Aでの路面ノイズの悪影響をより効果的に抑えた装置を容易に構成することができる。
[8.1 操舵機構での振動抑制に関する考察]
ステアリング装置では、トーションバー23の弾性(バネ)によって振動し易く、例えば操舵部材1を手放しにしたときでの収斂性が悪くなることがあった。従来装置には、上記入出力軸の間に介在させた巻きブッシュから摩擦(抵抗)を付与して、上記収斂性の悪化を抑えたものがある(例えば、特許文献20参照。)。
また、従来装置には、特許文献21に記載されているように、操舵部材の操舵角速度に応じて定めた粘性補償値を、車速を基に補正することにより、上記振動による操舵フィーリングの低下を制御的に抑制しようとしたものもある。
すなわち、好ましい電動パワーステアリング装置は、操舵部材から操向車輪に至る操舵機構に、電動モータの動力を付与して操舵補助を行う電動パワーステアリング装置であって、前記操舵機構は、前記操舵部材側及び前記操向車輪側にそれぞれ連結される入力軸及び出力軸と、これら入出力軸に一端側及び他端側が連結されたトーションバーとを備え、前記入力軸と前記出力軸との間または前記トーションバーと前記入出力軸の一方の軸との間に粘弾性部材を設けるとともに、前記トーションバーの弾性定数をK1とし、前記粘弾性部材の弾性定数をK2とし、前記トーションバーの前記操舵部材側の慣性をJとしたときに、前記粘弾性部材は、その粘性定数Cが下記の不等式(91)
0.8((K1+K2)J)1/2 ≦ C ―――(91)
を満足するように設定されていることを特徴とするものである。
0.8((K1+K2)J)1/2 ≦ C ≦ 4((K1+K2)J)1/2 ――(92)
を満足するように設定されていることが好ましい。
この場合、粘弾性部材から操舵機構に付与される粘性が不等式(92)の右辺項によって制限されることとなり、当該操舵機構での応答性が低下するのを抑制することができる。
この場合、上記弾性体及び粘性体を備えた一体的な粘弾性部材が使用されることとなり、当該部材の操舵機構への組付作業を容易に行えるとともに、簡単な構成にて操舵機構での振動を抑制して操舵フィーリングの低下を容易に防止することができる。
図1に示すように、入力軸22と出力軸24との間には、筒状の粘弾性部材600が設けられている。この粘弾性部材600は、図50も参照して、内筒部611aと、その内筒部611aを隙間を有して包囲する外筒部611bとを有する二重筒形状の金属製の容器611により一体的に構成されている。また、この容器611では、内筒部611a及び外筒部611bを一体的に連結する梁611cが周方向に沿って例えば120°間隔で複数設けられている。また、この梁611cは、例えば板バネ材にて構成されたものであり、粘弾性部材600の弾性体を構成している。また、容器611内では、粘弾性部材600の粘性体を構成する、例えば合成ゴムからなる粘性材612が内筒部611aと外筒部611bとの間で梁611cに区画された各隙間内に入れられている。そして、粘弾性部材600では、内筒部611aの内周面を入力軸22の外周面に密接させ、外筒部611bの外周面を出力軸24の内周面に密接させることにより、当該部材600は入出力軸22、24間に配置されて、操舵部材1へのステアリング操作などに応じて周方向に回動する入出力軸22、24に弾性及び粘性を作用させるようになっている。尚、上記説明以外に、容器11の各部を同一の金属材により構成し、その梁の厚さを薄くすることで当該梁に弾性を付与したものでもよい。
0.8((K1+K2)J)1/2 ≦ C ―――(91)
0.8((K1+K2)J)1/2 ≦ C ≦ 4((K1+K2)J)1/2 ――(92)
但し、(91)及び(92)式において、Jはトーションバー23の操舵部材1側(バネ上)の慣性であり、K1はトーションバー23の弾性定数であり、K2は梁611cの弾性定数である。このような粘性定数Cを有する粘弾性部材600を用いることにより、操舵軸2に対して適切な値の粘性を付与することができ、操舵機構Aでの振動を抑えることができる。また、(92)式の右辺項の値により、粘性定数Cの上限を規定することにより、当該操舵機構Aでの応答性が低下するのを抑制することができる。尚、上記バネ上の慣性Jは、主に操舵部材1の慣性である。
1/(Js2+Cs+K0) = (1/J)/(s2+Cs/J+K0/J)―(93)
= (1/J)/(s2+2ζωns+ωn2) ―(94)
ωn = (K0/J)1/2 ――(95)
ζ = C/2Jωn =C/2(K0J)1/2 ――(96)
0.4 ≦ ζ ≦ 2 ――(97)
詳細には、上記(97)式にて規定される減衰係数ζでは、0.4以上の値を選ぶことにより、粘弾性部材600はその粘性を最低限必要な負荷(抵抗)として入出力軸22、24の間、つまり操舵機構Aの操舵軸2に与えることができ、操向車輪5側から外乱などが入力したときでも、その操舵軸2での振動とこれに伴う操舵フィーリングの変化がドライバーに認識されない程度に、粘弾性部材600からの抵抗が操舵軸2に付与されて当該振動を抑制することができる。
また、2以下の減衰係数ζを選ぶことにより、粘弾性部材600から操舵機構A側に与えられる粘性を制限して、当該操舵機構Aでの応答性が低下するのを抑えることができ、ヒステリシスが上記トルクセンサ7の検出結果に表れるのを確実に防ぐことができる。しかも、粘弾性部材600から操舵軸2に加えられる粘性(抵抗)を制限しているので、操舵部材1に対するステアリング操作が過剰に重くなるのを防ぐことができる。
また、2よりも大きい減衰係数ζを選んだときには、粘弾性部材600からの粘性が不必要に大きくなって、ステアリング操作を比較的行い難くなったりして、操舵フィーリングが比較的低下する。
以上の弾性定数K0及び慣性Jの具体値を上記不等式(92)に代入すると、好ましい粘性定数Cの具体的な範囲として、1.44≦C≦8.22が得られる。
この評価試験では、入出力軸22、24間に上記粘弾性部材600を配置した実施例品と、入出力軸22、24間に摩擦体(巻ブッシュ)を配置した従来相当品と、これらの粘弾性部材600及び摩擦体を全く介在させていない比較品とを用意した。そして、これらの各操舵機構に対し、その操向車輪側からインパルスを加え操舵部材側に設置した振動計により、その応答波形を検出した。この結果、図51(a)に示すように、実施例品では、入力インパルスに対し1回振動しただけで、その振動は直ちに収束した。
これに対して、上記従来相当品では、図51(b)に示すように、2〜3回程度振動してその収束時間が本発明品よりも長くなるとともに、摩擦体の摩擦定数などで定まる定常偏差(操舵部材1での中立位置からずれ)が生じていた。
さらに、上記比較品では、図51(c)に示すように、6〜7回程度振動し、本発明品に比べて、その振動が収まるまでに遙かに長い時間を要した。
また、上記の説明では、容器611内に梁(弾性体)611c及び粘性材(粘性体)612を設けた粘弾性部材600について説明したが、本発明は上記粘性定数C及び弾性定数K2を有する粘弾性部材であればよく、その構成、形状、設置数などは上述のものに何等限定されない。但し、図50に示したように、容器611内で粘性体と弾性体とが一体化された粘弾性部材600を用いる場合の方が、当該部材600の操舵機構Aへの組付作業を容易に行える点で好ましい。さらに、このような簡単な構成により、操舵機構Aでの振動を抑制して操舵フィーリングの低下を容易に防止することができる点で好ましい。
1 操舵部材
2 操舵軸
22 入力軸
23 トーションバー
24 出力軸
3 ステアリングギヤ
8 減速機
9 操舵補助用の電動モータ
213 位相補償部(ロードノイズ抑制制御手段)
Claims (1)
- トルクセンサによって検出した操舵トルクに応じたアシストトルクをモータに発生させるためのアシスト制御電流値を求める手段と、
車両が左又は右に流れるのを抑えるためのトルクを前記モータに発生させるための流れ補償電流値を、前記アシスト制御電流値に加算する手段と、
を備え、
前記流れ補償電流は、Ic・G(v)の式に従って算出され、
ここで、Icは一定の電流値であり、G(v)は車速ゲインであり、車速0又は0付近では車速ゲインG(v)が0とされ、車速の増加に従って連続的に車速ゲインG(v)が0から1まで増加し、所定速度以上では車速ゲインG(v)を1としたものである
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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