JP2002180187A - 日陰耐候性に優れた高強度・高靱性耐候性鋼 - Google Patents
日陰耐候性に優れた高強度・高靱性耐候性鋼Info
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を提供する。 【解決手段】 質量%で、C:0.01〜0.2%、S
i:0.01〜1%、Mn:0.1〜2%、Cu:0.
1〜1.5%、Ni:0.1〜9%、Al:0.001
〜0.1%、P:0.001〜0.05%、N:0.0
01〜0.01%、S:0.015%以下を含有し、残
部が鉄及び不可避不純物からなり、鋼板表裏面のそれぞ
れの面から板厚方向に板厚の10〜50%の範囲に、平
均フェライト粒径が3μm以下で、組織に占めるフェラ
イト以外の第二相の面積率が25%以下の超細粒フェラ
イト組織を有することを特徴とする、日陰耐候性に優れ
た高強度・高靱性耐候性鋼。
Description
性が要求され、かつ、構造物としての安全性の確保の観
点からは、優れた強度、靭性、溶接性が要求される橋
梁、鉄塔などの鋼構造物に使用される鋼材に関するもの
である。特に、本発明は、従来、使用鋼材として、適切
な耐候性を発現する鋼材を見い出すことが困難な海浜地
区や、融雪塩を散布する高飛来塩粒子環境の日陰条件下
においても、優れた耐候性を発現する鋼材に関するもの
である。
保護性を有する“保護性さび”あるいは“安定さび”に
より、大気環境での腐食減量を抑制し、重塗装やめっき
をせずに、裸で、あるいは、“安定さび”の形成を補助
するための表面処理のみで使用できる鋼材として、耐候
性に有効なCu、Ni等を微量含有する耐候性鋼(例え
ば、JISG3114溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材)
が、様々な鋼構造分野で使用されている。
と、保護性を有する緻密なさびの形成が妨げられるた
め、耐候性鋼といえども、高飛来塩分環境において十分
な耐候性を発揮することは困難であり、耐候性鋼の使用
は、飛来塩分量が0.05mg/cm2/day(以下
mddと略称)未満の環境に制限されているのが実状で
ある。
難な高飛来塩分環境下でも、十分な保護性を有する"安
定さび"を形成して、優れた耐候性を発現する、いわゆ
る、海浜あるいは海岸耐候性鋼が開発されつつある。例
えば、特開平11−172370号公報には、鋼に、C
u及びNiを、特にNiを、従来の耐候性鋼の範囲から
は予想できないような範囲で多量に添加すると、海浜地
区においても優れた耐候性を発現することが開示されて
いる。
おいては、Niを多量に含有するので、製造コストの上
昇を招くという問題がある。また、上記海浜耐候性鋼
は、付着塩分が降雨等によって洗い流される可能性が高
く、かつ、鋼材表面が乾燥する期間が長い日照条件下で
は、十分な耐候性を発現するが、一方、一旦付着した塩
分の減少が期待できず、かつ、乾燥期間も十分でない日
陰環境下では、必ずしも良好な耐候性を発現しないとい
う問題を抱えている。
性鋼が抱える課題を解決するため、飛来塩分量が多く、
かつ、日陰環境であるような環境、即ち、耐候性の観点
からは最も過酷な環境においても、十分な保護性を有す
る“安定さび"を形成して耐候性を発現する、日陰高耐
候性に優れた高靱性・高強度鋼を、コスト増加と溶接性
の劣化を招くような極端な合金元素の多量添加に頼るこ
となく提供することを課題とするものである。
候性が要求され、かつ、構造物としての安全性の確保の
観点からは、優れた強度、靭性、溶接性が要求される橋
梁、鉄塔などの鋼構造物に使用される鋼材、特に、従
来、使用鋼材として、適切な耐候性を発現する鋼材を見
い出すことが困難な海浜地区や、融雪塩を散布する高飛
来塩粒子環境の日陰条件下においても、優れた耐候性を
発現する鋼材を提供することが可能となる。
の影響を受け難いので、鋼材表面には、一旦付着した飛
来塩分が長期間留まり、鋼材表面での"安定さび"の形成
が妨げられる。また、日陰環境は、日照環境に比べて湿
潤期間が長いので、更に、"安定さび"の形成には不利に
作用する。そのため、耐候性鋼といえども、飛来塩分量
の多い日陰環境において、優れた耐候性を発現すること
は非常に困難である。
る合金元素、特に、特開平11−172370号公報に
開示されているNi及びCuを中心に検討した。その結
果、Ni及びCuを上記公報記載の含有量の上限を超え
て添加すると、高飛来塩分環境下での日陰耐候性は確か
に向上するが、その効果は、必ずしも十分ではないこと
が判明した。
の割れの増加や溶接性の低下など、他の特性の劣化を招
いてしまうので、単に、従来技術の延長上で合金元素を
多量に添加しただけでは、構造材料として用いることが
可能な日陰耐候性鋼を製造することは困難であるとの結
論に至った。そこで、本発明者は、全く新しい観点から
耐候性の向上に取り組んだ。すなわち、本発明は、"安
定さび"のに有効なNi及びCuの添加を基本とし、そ
の上で、鋼組織を適正化することにより、耐候性の向上
を図るという試みに取り組んだ。具体的には、鋼組織
を、フェライト以外の第二相の面積率を制限した超細粒
フェライト組織とすることによって、従来は達成できな
かった高飛来塩分環境下での日陰耐候性を、飛躍的に向
上できることを知見し、本発明をなすに至った。そし
て、本発明が要旨とするところは、以下のとおりであ
る。
%、Si:0.01〜1%、Mn:0.1〜2%、P:
0.001〜0.05%、S:0.015%以下、N
i:0.1〜9%、Cu:0.1〜1.5%、Al:
0.001〜0.1%、N:0.001〜0.01%、
を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなり、鋼板表
裏面のそれぞれの面から板厚方向に板厚の10〜50%
の範囲に、平均フェライト粒径が3μm以下で、組織に
占めるフェライト以外の第二相の面積率が25%以下の
超細粒フェライト組織を有することを特徴とする日陰耐
候性に優れた高強度・高靱性耐候性鋼。
〜0.5%、Mo:0.01〜3%、Ti:0.003
〜1%、V:0.005〜0.5%、Nb:0.003
〜0.25%、Zr:0.003〜0.1%、Ta:
0.005〜0.2%、W:0.01〜3%、B:0.
0003〜0.002%の1種又は2種以上、を含有す
ることを特徴とする前記(1)に記載の日陰耐候性に優
れた高強度・高靱性耐候性鋼。
05〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%、
REM:0.005〜0.1%の1種又は2種以上、を
含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載
の日陰耐候性に優れた高強度・高靱性耐候性鋼。 (4) 質量%で、更に、Sb:0.01〜0.15
%、Sn:0.01〜0.15%、Pb:0.01〜
0.15%、Co:0.01〜1.5%の1種又は2種
以上、を含有することを特徴とする前記(1)乃至
(3)のいずれかに記載の日陰耐候性に優れた高強度・
高靱性耐候性鋼。 (5) 前記鋼板表裏面の少なくとも一つの面に、有機
樹脂、金属又は無機物の防食被覆を有することを特徴と
する前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の日陰耐候
性に優れた高強度・高靱性耐候性鋼。
いて詳細に述べる。本発明は、化学組成を適正化した上
で、鋼組織を超細粒化することによって、優れた日陰耐
候性と、構造用材料として必要な基本特性を達成するも
のである。そこでまず、化学組成の限定理由とその作用
を説明し、次いで、鋼組織の限定理由を説明する。な
お、以下、「%」はすべて「質量%」のことである。
して含有するが、0.01%未満の含有では、構造用鋼
に必要な強度の確保が困難であり、一方、0.2%を超
える過剰の含有は、母材及び溶接部の靭性や耐溶接割れ
性を低下させるので、その含有量は、0.01〜0.2
%の範囲とする。超微細フェライト組織を安定的に得る
ためには、0.1%を上限とすることが好ましい。ま
た、大入熱溶接の溶接部靱性が求められる場合には、
0.06%を上限とするのが好ましい。
度確保に有効な元素であるが、0.01%未満の含有で
は脱酸が不十分となり、また、強度確保に不利である。
逆に、1%を超える過剰の含有は、粗大な酸化物を形成
せしめ、延性や靭性の劣化を招く。そこで、Siの含有
量範囲は0.01〜1%とする。Mnは、母材の強度、
靭性の確保に必要な元素であり、最低限0.1%含有す
る必要があるが、過剰に含有すると、硬質相の生成や粒
界脆化等により、母材靱性や溶接部の靭性、さらに、溶
接割れ性などが劣化するので、材質上許容できる範囲
で、含有量の上限を2%とする。
出し、さび粒子の粗大化を抑制し、さび層の緻密さを保
つことで耐候性を向上させるために必要な元素である。
さび層を緻密化する効果を発揮するためには、0.1%
以上の添加が必要である。一方、Cu量は多いほど耐候
性の向上に有効であるが、1.5%を超えて添加して
も、その効果は飽和し、また、熱間加工時の割れの問題
が生じることから、Cu量の上限は1.5%とする。
な元素であり、Cuとともに必須の元素である。Ni
は、さび層中に含まれると、鋼中のFeとともに溶出
し、さび層中にほぼ均一に含まれることにより、さび層
の表面に付着した飛来塩分に由来するClイオンのさび
層/地鉄界面への浸透を抑制し、さび層内部を低Clイ
オン環境とする。このように、Niは、高飛来塩分環境
下において、さび粒子の緻密化を促進する。
む水溶液中における乾湿繰り返し腐食環境での腐食速度
を低減する効果を有し、この効果も、耐候性の向上に有
効に寄与する。Niの効果だけによって高飛来塩分環境
下での耐候性を発現するためには、日照環境下でも1%
以上必要であるが、後述するように、鋼組織を超細粒化
した場合には、Ni量の下限を下げることが可能とな
る。そして、本発明者の詳細な実験によれば、0.1%
以上の添加で、上記効果が生じることが判明したので、
Ni量の下限を0.1%とする。
体的な条件にもよるが、塩分環境が過酷なほど、Ni量
を高める必要がある。例えば、飛来塩分量が0.2md
d(mg/cm2/day)以上0.5mdd未満の日
陰環境では、Ni量は1%以上が好ましく、飛来塩分量
が0.5mdd以上の日陰環境の場合は、2.5%を下
限とすることが好ましい。Ni量は高いほど耐候性の向
上に有効であり、Ni量の上限は、耐候性よりも他の特
性からの要求で決定される。すなわち、溶接性、鋼材表
面性状の確保の観点から、Ni量の上限は9%とする。
超微細フェライト組織を安定的に得るには、5%を上限
とすることが好ましく、さらに好ましくは、3.5%を
上限とする。
化等に有効な元素であるが、該効果を得るためには、
0.001%以上含有する必要がある。一方、0.1%
を超えて過剰に含有すると、粗大な酸化物を形成して延
性を極端に劣化させるので、Al含有量は、0.001
〜0.1%の範囲に限定する必要がある。Pは、耐候性
向上に有効な元素であり、その効果を明確に発揮するた
めには、0.001%以上の添加が必要である。ただ
し、多量の添加は、靭性や溶接性を劣化させるので、構
造用鋼においては好ましくない。本発明においては、靭
性、溶接性の劣化が許容できる範囲として、上限を0.
05%に限定する。
イト粒の微細化に有効に作用し、その微量の含有が、機
械的特性の向上に有効に寄与する。また、工業的に鋼中
のNを完全に除去することは不可能であり、必要以上に
低減することは、製造工程に過大な負荷をかけることに
なるので、好ましくない。そのため、工業的に制御が可
能で、製造工程への負荷が許容できる範囲として、N量
の下限を0.001%とする。一方、過剰に含有する
と、固溶Nが増加し、延性や靭性に悪影響を及ぼす可能
性があるので、許容できる範囲として、上限を0.01
%とする。
せる元素であり、極力低減することが好ましいが、材質
劣化が大きくなく、許容できる量として、上限を0.0
15%とする。以上が本発明の鋼材の基本成分の限定理
由であるが、本発明においては、強度・靭性の調整のた
めに、必要に応じて、Cr、Mo、Ti、V、Nb、Z
r、Ta、W、Bの1種または2種以上を含有すること
ができる。
効果を発揮せしめるためには、0.01%以上必要であ
るが、CrはFeよりも卑な金属であり、塩分の多い環
境での耐候性を阻害するので、耐候性に悪影響を及ぼさ
ない範囲として、添加量の上限は0.5%とする。Mo
は、強度向上に関してはCrと同等の効果を有するが、
該効果が明確となるためには、0.01%以上必要であ
る。一方、耐候性に関しては、MoとCrとは正反対の
作用をなすもので、Moは耐候性向上に有効な元素であ
る。
に際してモリブデン酸を生成し、さび粒子表面に吸着し
て凝集したさび粒子間で生じた空隙を負電荷過剰として
Clイオンや硫酸イオンなどの陰イオンの地鉄界面への
浸透を抑制することをとおして、安定さびが形成可能な
限界飛来塩分量をさらに高めることを可能にする作用が
ある。その効果は3%で飽和するとともに、3%を超え
ると、機械的性質、特に、靭性と溶接性を阻害するよう
になるので、本発明においては、Moの含有量を0.0
1〜3%の範囲に限定する。
与するとともに、TiNの形成により加熱オーステナイ
ト粒径微細化にも有効な元素であり、また、靭性向上に
も有効な元素であるが、これらの効果を発揮せしめるた
めには、0.003%以上の含有が必要である。一方、
1%を超えると、粗大な析出物や介在物を形成して、靭
性や延性を劣化させるので、Ti量の上限を1%とす
る。
有効な元素であるが、過剰の含有では、析出脆化により
靭性が劣化する。従って、靭性の大きな劣化を招かず
に、効果を発揮せしめる範囲として、Vの含有量を0.
005〜0.5%の範囲に限定する。Nbは、Nb
(C、N)を形成することで強度・靭性の向上に有効な
元素であるが、過剰の含有では、析出脆化により靭性が
劣化する。従って、靭性の劣化を招かずに、該効果を得
る範囲として、Nbの含有量を0.003〜0.25%
の範囲に限定する。
iと同様の効果を有するが、その効果を発揮せしめるた
めには、0.003%以上の含有が必要である。一方、
0.1%を超えると、Tiと同様に粗大な析出物や介在
物を形成して靭性や延性を劣化させるので、Zrの含有
量を0.003〜0.1%の範囲に限定する。Taも、
強度・靭性の向上に有効な元素であるが、効果を発揮せ
しめるためには、0.005%以上の含有が必要であ
る。一方、0.2%を超えると、析出脆化や粗大な析出
物や介在物による靭性劣化を生じるので、Ta量の上限
を0.2%とする。
とほぼ同等の効果を有する。該効果を発揮せしめるため
には、最低限0.01%含有させる必要があるが、3%
超で他の特性への悪影響が顕在化するので、本発明で
は、Wの含有量を0.01〜3%に限定する。Bは、微
量で確実にNと結びつくので、固溶Nの固定による靭性
向上に有効であり、また、焼入性向上による強度・靭性
の向上に有効な元素である。上記効果を発揮せしめるた
めには、0.0003%以上の添加が必要である。一
方、0.002%を超えて過剰に含有すると、BNが粗
大となり、延性や靭性に悪影響を及ぼし、また、溶接性
も劣化させるので、B量の上限を0.002%とする。
継手靭性の向上のために、必要に応じて、Mg、Ca、
REMの1種または2種以上を含有することができる。
Mg、Ca、REMは、いずれも硫化物の熱間圧延中の
展伸を抑制して、延性特性の向上に有効である。また、
酸化物を微細化させて、継手靭性の向上にも有効であ
る。その効果を発揮せしめるための含有量の下限は、M
g及びCaは0.0005%、REMは0.005%で
ある。一方、過剰に含有すると硫量物や酸化物の粗大化
を生じ、延性や靭性の劣化を招くので、Mg量及びCa
量の上限は0.01%とし、REM量の上限は0.1%
とする。さらに、本発明においては、さらなる耐食性の
向上のために、必要に応じて、Sb、Sn、Pb、Co
の1種または2種以上を含有することができる。Sb、
Sn、Pb、Coは、いずれも母材の溶解そのものを抑
制して、耐食性の向上に有効である。その効果を発揮す
るための含有量の下限は、それぞれ0.01%である。
一方、Sb、Sn、Pb、Coを過剰に含有すると延性
や靭性の劣化を招くので、含有量の上限は、Sb、S
n、Pbについては0.15%、Coについては1.5
%とする。
明する。すなわち、上記化学組成を有する鋼において、
「鋼板表裏面のそれぞれの面から板厚方向に板厚の10
〜50%の範囲に、平均フェライト粒径が3μm以下
で、組織に占めるフェライト以外の第二相の面積率が2
5%以下の超細粒フェライト組織を有する」ことによ
り、飛来塩分量の高い日陰環境下において保護性の優れ
た安定さびを形成して、良好な耐候性を発揮することが
可能となる。
ほとんど効果がないが、平均粒径が3μm以下の超細粒
組織とすることにより、安定さびの形成が均一化され
て、耐候性が飛躍的に向上する。特に、本発明の超細粒
組織から形成される安定さびは、Clイオンの侵入抑制
に効果があるので上記超細粒組織は、Clイオンにより
安定さびの形成が大きく阻害される、飛来塩分量の多い
日陰環境における耐候性を、通常粒径の場合に比べて、
著しく向上させる。
ト以外の第二相の存在も悪影響を及ぼす。安定さびの均
一形成に悪影響を及ぼす第二相としては、パーライト、
ベイナイト、マルテンサイト相があり、該第二相を抑制
する必要がある。本発明者の詳細な実験に基づけば、第
二相の面積率が25%以下であれば悪影響はほとんど無
視できる。それ故、本発明においては、パーライト、ベ
イナイト、マルテンサイト相からなる第二相の面積率を
25%以下に限定する。
メンタイトや炭窒化物などの微細析出物に関しては、そ
のサイズが、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト
相からなる第二相に比べて非常に微細であるので、耐候
性に対してほとんど悪影響を及ぼさない。酸化物や硫化
物などの介在物についてもサイズが小さければ問題ない
が、長さが5μmを超えるような粗大介在物は、極力低
減することが好ましい。
ト粒径が3μm以下で、組織に占めるフェライト以外の
第二相の面積率が25%以下の超細粒フェライト組織を
有すべき範囲は、鋼板表裏面のそれぞれの面から板厚方
向に、板厚の10〜50%の範囲とする。ただし、これ
は安全代も考慮した範囲である。大気腐食による安定さ
びの形成は鋼板表面から進行するから、上記組織の厚さ
は、構造材料として強度を確保できる板厚減少分以上あ
ればよい。
れていれば、その達成手段は問わないが、平均フェライ
ト粒径が3μm以下で、フェライト以外の第二相の面積
率が25%以下とするために好ましい方法として、フェ
ライト単相域〜フェライト/オーステナイト二相域で熱
間加工を行ってフェライトに加工歪を導入し、フェライ
トの再結晶を利用する方法が挙げられる。
単相域での加工であるために第二相を含まないか、もし
くは、二相域加工であってもオーステナイトが大歪加工
されるために、オーステナイトからパーライト、ベイナ
イト、及び/又は、マルテンサイトの相が形成されない
で、フェライト相と微細なセメンタイト相が容易に形成
される。具体的には、例えば、特開平7−126798
号公報や特開平7−126797号公報などに開示され
ているように、表層あるいは全厚超細粒鋼の製造方法を
用いることによって、本発明の組織要件を得ることが可
能である。
開平7−126797号公報に開示されているようなフ
ェライトの加工・再結晶によって超細粒組織を有する鋼
を製造するにあたって、パーライト、ベイナイト、及び
/又は、マルテンサイトの相からなる第二相の抑制を確
実にするためには、熱間加工後の冷却を、冷却速度が放
冷の冷却速度以下である徐冷とするか、加速冷却をする
場合には、加速冷却の停止温度を500℃以上とする
か、600℃以上の焼戻し処理を施すことが好ましい。
このようにすることによって、パーライト、ベイナイ
ト、及び/又は、マルテンサイトの相からなる第二相が
形成され難くなり、また、生成された第二相もフェライ
トと微細炭化物に分解されるので、本発明の組織要件を
満足することが容易となる。
が、本発明においては、必要に応じて、鋼材の表面に、
有機樹脂による塗装や金属または無機物の防食被覆を施
すことも可能である。すなわち、本発明は、鋼材表面に
黒皮が存在したままでの使用、あるいは、ショットブラ
スト等により黒皮を除去しただけの裸使用で、飛来塩分
量の多い日陰環境下で十分優れた耐候性を示すが、さら
に安定した耐候性を保証する場合、あるいは、初期のさ
び汁等の流出による景観の悪化を嫌う場合には、さら
に、表面に有機樹脂による塗装や金属または無機物の防
色被覆を施す。
酸系、ウレタン樹脂系、ビニルブチラール樹脂系及びそ
の他の樹脂系であってよく、いずれも、塗装耐久性・耐
候性が向上する。金属被覆では、Zn、Zn−Al、又
は、Alめっき、あるいは、溶射などにより、耐候性の
向上が期待できる。いずれの場合も、本発明鋼と上記被
覆との組み合わせにより、めっき、あるいは、溶射によ
る被覆相に、微視的あるいは巨視的な欠陥が存在してい
て、該欠陥から地鉄の腐食が進行しても、その際に、N
i、Crなどを含有した緻密な"安定さび"が形成される
ので、本発明鋼と上記被覆の組み合せは、本発明鋼のよ
うに極めて優れた耐候性を有しない鋼に上記被覆を施し
た場合に比べて、鋼材表面に対する保護性を格段に向上
せしめる。
特開昭55−97478号公報等に開示されている耐候
性鋼に係る、初期さび汁流出防止技術としてのさび安定
化処理皮膜を本発明鋼に塗布することも、景観や安定さ
びの均一形成させる上で有効である。
が、さらに、実施例に基づいて本発明の効果を説明す
る。表1及び表2(表1の続き)に示す化学組成を有す
る鋼片を用いて、表3及び表4に示す製造条件a、b、
又はc、及び、表5及び表6に示す製造条件d、e又は
fに従って、超細粒鋼を製造した。なお、表1及び表2
中には、化学組成、鋼組織の一方あるいは両方が本発明
の要件を満足していない比較例も併せて示す。
は、その化学組成が本発明で規定する化学組成を満足し
ている例(発明例)であり、鋼片番号26〜30は、そ
の化学組成が本発明で規定する化学組成を満足していな
い例(比較例)である。表7及び表8(表7の続き)
に、製造された鋼板における超細粒層の割合、超細粒層
のフェライト粒径、第二相の面積率、及び、鋼板の材質
(強度、靭性)を示す。超細粒層の割合は、鋼板の任意
の10カ所における断面方向の光学顕微鏡組織観察によ
り求めた平均値であり、粒径と第二相面積率は、表裏面
の各々について超細粒層のほぼ中央(全厚が超細粒組織
となっている場合は板厚の1/4t部と3/4t部)
を、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡で5〜10視野
観察して、各々、切断法、点算法により求めた値であ
る。
特性は、圧延方向に直角な方向(C方向)の板厚中心部
ついて測定した値である。表7及び表8から、本発明の
化学組成を有し、平均フェライト粒径が3μm以下の超
細粒組織を、鋼板表裏面のそれぞれの面から板厚方向に
板厚の10〜50%まで有する鋼板は、極めて良好な材
質特性を有していることが解る。特に、靭性が優れてい
ることが解る。
れた鋼板の耐候性を評価した結果を示す。いずれも、黒
皮を削除した後の鋼板の表面直下から、6×50×15
0mmのサイズの試験片を採取し、そのまま(裸材)
か、安定化処理皮膜を施した後(表面処理材)に、千葉
県富津市臨海部において、離岸距離によって飛来塩分量
を変化させた3箇所で暴露試験を、日照及び日陰環境で
1、3及び7年実施した。離岸距離は、50m、800
m及び2000mの3種類としたが、各々の位置におけ
る飛来塩分量は、年間平均で、それぞれ、0.8md
d、0.2mdd及び0.1mddである。
向き、水平に対し30°の傾斜で設置して行った。日陰
環境下の大気曝露試験は、図1に模式的に示す日陰大気
曝露試験法で、試験片1を水平に設置し、試験片が雨に
濡れないようアルミニウム板で覆い、水分は結露のみに
より供給され、且つ、海風は試験片の面を通るようにし
て、試験を行った。
腐食減量によって行った。さび層の目視外観評価は、暴
露期間が最も長い7年のものについて実施し、均一に安
定さびが形成されて最も状態が良好と判断される場合を
評点4とし、層状剥離さびや鱗状さび等の不均一な腐食
形態が増加するにともなって評点を下げていき、全面に
層状剥離さびが認められて、さびの安定化と腐食の進展
防止が全く望めない状態を評点1とした。
量を測定し、平均板厚減少量と暴露期間との両対数プロ
ットから外挿して50年後の推定板厚減少量を求めて評
価した。表9及び表10から、本発明である鋼板番号A
1〜A30は、超細粒層を表裏各面で10〜50%有す
るので、構造材料ととして重要な強度・靭性が良好であ
るとともに、同じNi量で比較した場合に、本発明で規
定する範囲を満足していない比較例の鋼板よりも、格段
に耐候性が優れていることが解る。
成が期待できなかった高飛来塩分かつ日陰環境において
も、日照環境と同等の耐候性が達成されている。一方、
比較例である鋼板番号B1〜B10は、本発明の化学組
成、組織要件のいずれか、あるいは、両方とも本発明で
規定するそれら範囲を満足していないために、本発明と
比較して耐候性が劣っており、特に、高飛来塩分環境で
の日陰耐候性については格段に劣っている。
のNiが過小であるため超細粒組織を有しているもの
の、耐候性が日照、日陰とも本発明に比べて劣ってい
る。鋼板番号B2は、耐候性に必須のNi及びCuがと
もに過小であるため超細粒組織を有しているものの、耐
候性が日照、日陰とも本発明に比べて劣っている。鋼板
番号B3は、C量が過大なため靭性が本発明に比べて劣
っているとともに、組織に占める第二相の面積率も多い
ために、日陰耐候性が劣っている。
が本発明に比べて劣っている。鋼板番号B5は、Crが
過剰に添加されているため孔食状の腐食を呈して安定さ
びの均一形成が妨げられており、耐候性が日照、日陰環
境とも劣っている。鋼板番号B6、B8、及び、B9
は、化学組成は本発明を満足しているものの通常の熱間
圧延ままで超細粒組織となっていないため、日陰耐候性
の改善が認められない。
は本発明で規定する範囲を満足しているが、焼きならし
処理により製造されているため超細粒組織となっておら
ず、やはり、日陰耐候性の改善が認められない。以上の
実施例からも、本発明によれば、構造材料として十分な
強度、靭性を有し、かつ、高飛来塩分環境での耐候性
が、日照、日陰ともに極めて優れていることが明らかで
ある。
強度、靭性を有するとともに、飛来塩分量が多く、か
つ、日陰湿潤環境下であるような、耐候性の観点からは
最も過酷な環境においても、十分な保護性を有する安定
さびを形成して耐候性を発現する鋼を、コスト増加と溶
接性の劣化を招くような極端な合金元素の多量添加に頼
ることなく提供することを可能とした。
求され、かつ、構造物としての安全性の確保の観点から
は、優れた強度、靭性、溶接性が要求される橋梁、鉄塔
などの鋼構造物に使用される鋼材、特に、従来、使用鋼
材として、優れた耐候性を発現する鋼材を見い出すこと
が困難な海浜地区や、融雪塩を散布する高飛来塩粒子環
境の日陰湿潤条件下においても、優れた耐候性を有する
鋼材を提供することができる。それ故、本発明の産業上
の効果は極めて顕著である。
模式的に示す図である。
Claims (5)
- 【請求項1】 質量%で、 C :0.01〜0.2%、 Si:0.01〜1%、 Mn:0.1〜2%、 P :0.001〜0.05%、 S :0.015%以下、 Ni:0.1〜9%、 Cu:0.1〜1.5%、 Al:0.001〜0.1%、 N :0.001〜0.01%、 を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなり、 鋼板表裏面のそれぞれの面から板厚方向に板厚の10〜
50%の範囲に、平均フェライト粒径が3μm以下で、
組織に占めるフェライト以外の第二相の面積率が25%
以下の超細粒フェライト組織を有することを特徴とする
日陰耐候性に優れた高強度・高靱性耐候性鋼。 - 【請求項2】 質量%で、更に、 Cr:0.01〜0.5%、 Mo:0.01〜3%、 Ti:0.003〜1%、 V :0.005〜0.5%、 Nb:0.003〜0.25%、 Zr:0.003〜0.1%、 Ta:0.005〜0.2%、 W :0.01〜3%、 B :0.0003〜0.002%の1種又は2種以
上、 を含有することを特徴とする請求項1に記載の日陰耐候
性に優れた高強度・高靱性耐候性鋼。 - 【請求項3】 質量%で、更に、 Mg:0.0005〜0.01%、 Ca:0.0005〜0.01%、 REM:0.005〜0.1%の1種又は2種以上、 を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の日
陰耐候性に優れた高強度・高靱性耐候性鋼。 - 【請求項4】 質量%で、更に、 Sb:0.01〜0.15%、 Sn:0.01〜0.15%、 Pb:0.01〜0.15%、 Co:0.01〜1.5%の1種又は2種以上、 を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか
1項に記載の日陰耐候性に優れた高強度・高靱性耐候性
鋼。 - 【請求項5】 前記鋼板表裏面の少なくとも一つの面
に、有機樹脂、金属又は無機物の防食被覆を有すること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の日
陰耐候性に優れた高強度・高靱性耐候性鋼。
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