JP6415276B2 - テンショナ - Google Patents

Description

本発明は、エンジンのタイミングシステム等において、伝動ベルトや伝動チェーンに適正な張力を付与するために用いられるテンショナに関するものである。

従来、チェーン等の張力を適正に保持するテンショナを用いることが慣用されており、例えば、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンをテンショナレバーによって摺動案内を行うチェーンガイド機構において、張力を適正に保持するためにテンショナによってテンショナレバーを付勢するものが公知である。

このようなチェーンガイド機構に用いられる公知のテンショナ５１０は、例えば図９に模式的に示すように、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴５２１を有するテンショナボディ５２０と、プランジャ収容穴５２１の円筒面５２１ａに摺動自在に挿入される円筒状のプランジャ５３０と、プランジャ５３０をプランジャ突出方向に付勢する付勢手段を備えている。付勢手段は、円筒状のプランジャ５３０の筒状凹部５３４に収容されプランジャ収容穴５２１の底部５２１ｂとの間で圧縮されるコイルばね５４０で構成されている。

テンショナボディ５２０に設けられたオイル供給孔５２５からオイルが供給されることで、プランジャ収容穴５２１とプランジャ５３０との間に形成された圧油室５１１がオイルで満たされ、オイルによりプランジャ５３０をプランジャ突出方向に付勢するとともに、チェックバルブ５５０（模式的にチェックボールのみを図示。）でオイル供給孔５２５からのオイルの流出が阻止されている。このことで、プランジャ５３０の往復動に伴ってプランジャ５３０とプランジャ収容穴５２１の間の僅かな隙間をオイルが流れ、その流路抵抗によってプランジャ５３０の往復動を減衰させるダンピング効果を得ている。

このような、公知のテンショナ５１０においては、オイルの供給が停止された（エンジンの場合、エンジンが停止した）後に長時間放置すると、次の起動直後にはオイルの供給にはタイムラグが発生し、プランジャ５３０が往復動しても圧油室５１１内のオイルは漏出するのみで新たに供給されず圧油室５１１内のオイルがなくなるため、プランジャ５３０のオイルによるダンピング力が作用せず、伝動チェーンが大きく振動して異常音を発生させたり、伝動チェーンに損傷を与える虞れがある。

このため、図１０に示すように、プランジャ６３０の内部に貯留油室６３１を設け、貯留油室６３１から圧油室６１１にオイルを供給する構造とし、貯留油室６３１内に一定量のオイルを漏出することなく残留させ、長時間停止後の起動直後であっても貯留油室６３１内に残留したオイルが圧油室６１１に供給され、プランジャ６３０のオイルによるダンピング力を維持しチェーンの振動を抑制し損傷を防止するテンショナ６１０が公知である（例えば特許文献１を参照）。

この特許文献１に記載のテンショナ６１０では、図１０に示すように、テンショナボディ６２０に、テンショナボディ６２０の外壁側からプランジャ収容穴６２１側に貫通するオイル供給孔６２５を形成し、プランジャ６３０の外周面に、プランジャ収容穴６２１の内周面およびプランジャ６３０外周面の間にオイル通路６３５を設けるための連通調整溝６３６を形成するとともに、プランジャ６３０に、連通調整溝６３６側からプランジャ６３０内の貯留油室６３１側に貫通するプランジャ貫通孔６３２を形成することにより、オイル供給孔６２５とオイル通路６３５とプランジャ貫通孔６３２とを通じて、テンショナボディ６２０外部から貯留油室６３１にオイルを供給する。

特開２００９−００２４９５号公報

ところが、特許文献１に記載のテンショナ６１０では、オイル供給孔６２５とプランジャ貫通孔６３２との間にオイル通路６３５を形成するために、図１０や図１１に示すように、円筒状のプランジャ６３０外周面に平面座加工を施して連通調整溝６３６を形成しているが、このような平面座加工は加工コストが高いという問題に加えて、テンショナボディ６２０に対するプランジャ６３０の突出位置に応じて、オイル供給孔６２５とプランジャ貫通孔６３２との間の距離が変化し、オイル流路の長さが変化するため、オイルの流入抵抗が変化してしまうという問題があり、また、オイル流量を大きく設計しようとした場合でも、連通調整溝６３６の幅Ｗの寸法性設計には限界があるため、確保可能なオイル流量に限界があるという問題がある。

更に、特許文献１に記載のテンショナ６１０のように、ラチェット（図示しない）と係合するためのラック歯６３３がプランジャ６３０の外周面に形成されている場合に、プランジャ６３０の外周面に連通調整溝６３６を形成すると、プランジャ６３０の外周面に図１１に示すＡ部分のような幅狭な部分が生じるため、プランジャ６３０の外周面およびプランジャ収容穴６２１の内周面において局所的な摩耗が進行し、当該摩耗箇所からオイル漏出が生じる等、特にテンショナの使用環境が厳しいエンジンにおいては、テンショナ６１０の機能が損なわれる恐れがある。

そこで、本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡素な構造で、製造コストを低減しつつ、オイルの円滑な流動を確保することが可能なテンショナを提供することを目的とするものである。

本発明に係るテンショナは、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、前記プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャをプランジャ突出方向に付勢する付勢手段とを備えたテンショナであって、前記プランジャには、前記プランジャの外周面から内周面に貫通する単一のプランジャ貫通孔が形成され、前記テンショナボディの取付対象に対向する側面には、取付対象側から流入させたオイルを誘導する油導入凹部と、前記油導入凹部の底部から前記プランジャ収容穴側に貫通し、取付対象に設けられたオイルポンプに接続されるオイル供給孔が形成され、前記オイル供給孔は、プランジャ突出方向に沿って伸びる長孔状に形成され、プランジャ突出方向における前記オイル供給孔の長さは、前記テンショナボディに対して前記プランジャをプランジャ突出方向の最後方まで後退させた状態、および、最前方まで突出させた状態のいずれにおいても、前記単一のプランジャ貫通孔を前記オイル供給孔に対向させることが可能であるように設定されていることにより、前記課題を解決するものである。

本請求項１に係る発明によれば、プランジャには、プランジャの外周面から内周面に貫通するプランジャ貫通孔が形成され、テンショナボディには、テンショナボディの外壁側からプランジャ収容穴側に貫通するオイル供給孔が形成され、オイル供給孔が、プランジャ突出方向に沿って伸びる長孔状に形成されていることにより、テンショナボディに対するプランジャの突出位置に関わらず、オイル流路の長さが変化することを抑制することが可能であるため、オイルの流入抵抗が変化することを防止でき、また、オイル供給孔およびプランジャ貫通孔の大きさを調整することで、充分なオイル流量を容易に確保することができる。
また、平面座加工等の高コストな加工を回避することが可能であるため、製造コストを低減することができ、また、ラチェットと係合するためのラック歯をプランジャ外周面に形成する場合であっても、プランジャ外周面に幅狭な部分が生じることを回避することが可能であるため、プランジャ外周面およびプランジャ収容穴の内周面において局所的な摩耗が進行することを防止できる。

本請求項２に係る発明によれば、オイル供給孔の横幅がプランジャ貫通孔の横幅よりも大きく形成されていることにより、テンショナボディに対してプランジャが周方向に多少移動する場合であっても、プランジャ貫通孔全体をオイル供給孔に対向させた状態を維持することが可能であるため、オイルの流入抵抗およびオイル流量が変化することを回避できる。
本請求項１に係る発明によれば、オイル供給孔のプランジャ突出方向における寸法が、テンショナボディに対するプランジャのストローク量以上に設定されていることにより、プランジャ突出方向の最前方まで突出させた状態およびプランジャ突出方向の最後方まで後退させた状態のいずれにおいても、プランジャ内部に良好にオイルを供給することができる。
本請求項３に係る発明によれば、テンショナボディに揺動可能に支持され、プランジャに係合するラチェット爪部を有するラチェットを更に備えていることにより、ラチェットによってプランジャ突出方向におけるプランジャの動きを規制することができるばかりでなく、ラチェットがテンショナボディに対するプランジャの回転を規制する回転止め手段としても機能するため、簡素な構造で、オイル供給孔とプランジャ貫通孔とが対向した状態を維持することができる。

本発明の一実施形態に係るテンショナの使用態様を示す説明図。 テンショナを示す斜視図。 テンショナボディを示す斜視図。 プランジャを示す斜視図。 テンショナを示す断面図。 プランジャの収容状態およびプランジャの突出状態を示す説明図。 第１変形例のテンショナを示す断面図。 第２変形例のテンショナを示す断面図。 従来のテンショナを示す模式図。 他の従来のテンショナを示す断面図。 図１０に示すテンショナに組み込まれるプランジャを示す斜視図。

本発明の一実施形態に係るテンショナ１０について図面に基づいて説明する。

まず、本実施形態のテンショナ１０は、エンジンのタイミングシステム等に用いられるチェーン伝動装置に組み込まれるものであり、図１に示すように、複数のスプロケットＳ１〜Ｓ３に掛け回された伝動チェーンＣＨの弛み側にテンショナレバーＧを介して適正な張力を付与し、走行時に生じる振動を抑止するものである。

テンショナ１０は、図２〜図５に示すように、プランジャ収容穴２１を有したテンショナボディ２０と、プランジャ収容穴２１に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャ３０と、プランジャ３０をプランジャ突出方向に付勢する付勢手段としてのコイルばね４０と、プランジャ３０内に配置されるチェックバルブ５０と、テンショナボディ２０に揺動可能な状態で取り付けられるラチェット６０と、プランジャ３０の突出を一時的に制止するストッパレバー７０およびストッパピン７１とを備えている。

以下に、テンショナ１０の各構成要素について、図面に基づいて説明する。

まず、プランジャ３０の内部には、図５に示すように、チェックバルブ５０が配置され、その突出側に貯留油室３１が形成されている。また、プランジャ３０には、図４や図５に示すように、プランジャ３０の外周面から内周面の貯留油室３１に達する丸孔状のプランジャ貫通孔３２が形成されている。また、プランジャ３０の外周面には、ラチェット６０に係合するためのラック歯３３が形成されている。

テンショナボディ２０には、図３に示すように、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴２１と、ラチェット６０を配置するラチェット収容溝２２とが設けられている。また、テンショナボディ２０には、取付孔２４を有した取付部２３が形成され、この取付孔２４にボルト等が挿通されることで、テンショナボディ２０は、エンジンブロック（図示しない）等の取付対象に固定される。

テンショナボディ２０のエンジンブロック（図示しない）に対向する側面には、図３に示すように、エンジンブロック（図示しない）側から流入させたオイルを誘導する油導入凹部２６と、テンショナボディ２０の外壁（油導入凹部２６の底部）からプランジャ収容穴２１に貫通するオイル供給孔２５とが形成されている。このオイル供給孔２５は、プランジャ突出方向に沿って延びる長孔状に形成されており、エンジンブロック（図示しない）に対する取付時に、エンジン（図示しない）に設けられたオイルポンプ（図示しない）に接続される。

プランジャ突出方向におけるオイル供給孔２５の長さは、テンショナボディ２０に対するプランジャ３０のストローク量以上に設定されており、図６（ａ）に示すようなテンショナボディ２０に対してプランジャ３０をプランジャ突出方向の最後方まで後退させた状態、および、図６（ｂ）に示すようなテンショナボディ２０に対してプランジャ３０をプランジャ突出方向の最前方まで突出させた状態のいずれにおいても、プランジャ貫通孔３２をオイル供給孔２５に対向させることができる。また、オイル供給孔２５の横幅（周方向の幅）は、プランジャ貫通孔３２の横幅よりも大きく形成されている。

コイルばね４０は、図５に示すように、プランジャ収容穴２１とプランジャ３０の後端側との間に形成される圧油室１１に伸縮自在に収納され、一端がプランジャ収容穴２１の底部に着座し、他端がチェックバルブ５０のリテーナ５３の外周面に着座するように構成されている。

チェックバルブ５０は、貯留油室３１から圧油室１１へのオイルの流入を許容するとともに、圧油室１１から貯留油室３１へのオイルの流入を阻止するものであり、図５に示すように、ボールシート５１と、ボールシート５１のオイル流路に密着可能なチェックボール５２と、チェックボール５２をガイドするリテーナ５３とから構成されている。

ラチェット６０は、図２に示すように、ラック歯３３に係合可能なラチェット爪部（図示しない）を有し、ラチェット爪部（図示しない）がプランジャ３０のラック歯３３に係合するように付勢バネ（図示しない）によって付勢され、プランジャ３０の収容側への動きを規制するように構成されている。ラチェット６０は、プランジャ３０のラック歯３３に対するラチェット爪部（図示しない）の係合によって、テンショナボディ２０に対するプランジャ３０の回転を規制する回転止め手段としても機能する。

次に、テンショナ１０の第１変形例について、図７に基づいて以下に説明する。

まず、図７に示すテンショナ１０では、ラチェット６０が設けられておらず、プランジャ３０は、テンショナボディ２０に対して、プランジャ３０の軸線を中心として回転可能に設けられている。

また、プランジャ３０の外周面には、図７に示すように、プランジャ貫通孔３２に連通するプランジャ周方向溝３７が全周に亘って形成されており、これにより、テンショナボディ２０に対するプランジャ３０の回転方向の位相に関わらず、プランジャ貫通孔３２およびオイル供給孔２５を連通させることができる。

次に、テンショナ１０の第２変形例について、図８に基づいて以下に説明する。

まず、図８に示すテンショナ１０では、図７に示す第２変形例と同様に、ラチェット６０が設けられておらず、プランジャ３０は、テンショナボディ２０に対して、プランジャ３０の軸線を中心として回転可能に設けられている。

また、テンショナボディ２０のプランジャ収容孔２１の内周面には、図８に示すように、オイル供給孔２５に連通するボディ周方向溝２７が全周に亘って形成されており、これにより、テンショナボディ２０に対するプランジャ３０の回転方向の位相に関わらず、プランジャ貫通孔３２およびオイル供給孔２５を連通させることができる。このボディ周方向溝２７のプランジャ突出方向の寸法は、オイル供給孔２５のプランジャ突出方向の寸法以上に設定すればよい。

以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。

例えば、上述した実施形態では、テンショナが自動車エンジン用のタイミングシステムに組み込まれるものとして説明したが、テンショナの具体的用途はこれに限定されない。
また、上述した実施形態では、テンショナがテンショナレバーを介して伝動チェーンに張力を付与するものとして説明したが、プランジャの先端で直接的に伝動チェーンの摺動案内を行い、伝動チェーンに張力を付与するようにしてもよい。
さらに、伝動チェーンによる伝動機構に限らず、ベルト、ロープ等の類似の伝動機構に適用されてもよく、長尺物に張力を付与することが求められる用途であれば、種々の産業分野において利用可能である。
また、上述した実施形態では、テンショナボディに対するプランジャの回転を規制する回転止め手段として、プランジャに係合するラチェットを利用したが、ラチェットとは別にプランジャの回転止め機構を設けてもよく、この場合、ラチェット機構を設けなくてもよい。

１０、５１０、６１０ ・・・ テンショナ
１１、５１１、６１１ ・・・ 圧油室
２０、５２０、６２０ ・・・ テンショナボディ
２１ ５２１ ６２１ ・・・ プランジャ収容穴
５２１ａ ・・・ 円筒面
５２１ｂ ・・・ 底部
２２ ・・・ ラチェット収容溝
２３ ・・・ 取付部
２４ ・・・ 取付孔
２５、５２５、６２５ ・・・ オイル供給孔
２６ ・・・ 油導入凹部
２７ ・・・ ボディ周方向溝
３０、５３０、６３０ ・・・ プランジャ
３１、 ６３１ ・・・ 貯留油室
３２、 ６３２ ・・・ プランジャ貫通孔
３３、 ６３３ ・・・ ラック歯
５３４ ・・・ 筒状凹部
６３５ ・・・ オイル通路
６３６ ・・・ 連通調整溝
３７ ・・・ プランジャ周方向溝
４０、５４０ ・・・ コイルばね（付勢手段）
５０、５５０ ・・・ チェックバルブ
５１ ・・・ ボールシート
５２ ・・・ チェックボール
５３ ・・・ リテーナ
６０ ・・・ ラチェット
７０ ・・・ ストッパレバー
７１ ・・・ ストッパピン
ＣＨ ・・・ 伝動チェーン
Ｇ ・・・ テンショナレバー
Ｓ１〜Ｓ３ ・・・ スプロケット

Claims (3)

1. 一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、前記プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャをプランジャ突出方向に付勢する付勢手段とを備えたテンショナであって、
   前記プランジャには、前記プランジャの外周面から内周面に貫通する単一のプランジャ貫通孔が形成され、
   前記テンショナボディの取付対象に対向する側面には、取付対象側から流入させたオイルを誘導する油導入凹部と、前記油導入凹部の底部から前記プランジャ収容穴側に貫通し、取付対象に設けられたオイルポンプに接続されるオイル供給孔が形成され、
   前記オイル供給孔は、プランジャ突出方向に沿って伸びる長孔状に形成され、
   プランジャ突出方向における前記オイル供給孔の長さは、前記テンショナボディに対して前記プランジャをプランジャ突出方向の最後方まで後退させた状態、および、最前方まで突出させた状態のいずれにおいても、前記単一のプランジャ貫通孔を前記オイル供給孔に対向させることが可能であるように設定されていることを特徴とするテンショナ。
2. 前記オイル供給孔の横幅は、前記プランジャ貫通孔の横幅よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項１に記載のテンショナ。
3. 前記テンショナボディに揺動可能に支持され、前記プランジャに係合するラチェット爪部を有するラチェットを更に備えていることを特徴とする請求項１または請求項２に記載のテンショナ。

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