JP4179523B2 - 農業用多層フィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はハウスやトンネルを被覆する農業用多層フィルムに関する。更に詳しくは、強靱性に優れ、かつ、柔軟性にも優れた農業用多層フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
農業用ハウスやトンネル等の施設園芸の被覆資材として様々のプラスチックフィルムが使用されている。それらの代表的なものとして、ポリ塩化ビニルフィルム(以下農ビと称す。)、ポリエチレンフィルム(以下農ポリと称す。)、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム(以下農酢ビと称す。)等を挙げることができる。なかでも農ビは、保温性、透明性、強靭性、防曇性、ハウス密着性および経済性等に優れているところから、最も多く使用されている。
【0003】
しかし、農ビは、フィルム中に含まれている添加剤が除々にフィルム表面に滲出し、これによりフィルム表面にベタツキが発生し、作業性および防塵性を悪化させるという欠点を有している。また、農ビを焼却廃棄する時に、有害ガスが発生するという問題が取り上げられており、有害ガスの発生しない農ビ代替品が望まれている。
【0004】
一方、農ポリや農酢ビは、作業性、防塵性および廃棄処理のしやすさという点においては農ビより優れているが、保温性、防曇性、強靱性等が農ビより劣ることから改良が望まれてきた。
【0005】
これらの農ポリや農酢ビの保温性を改良するために特開昭60−104141号公報に赤外線吸収性を有する特定のフィラーを添加する技術が開示されている。また、防曇性や強靱性を改良するために特開昭58−90960号公報には、外層(ハウスやトンネルの外側大気に接する層)に線状低密度ポリエチレン、中間層にエチレン−酢酸ビニル共重合体やオレフィン−ビニルアルコール共重合体、内層(ハウスやトンネルの内側大気の接する層)に線状低密度ポリエチレンやエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いた農業用積層フィルムが提案されている。
【0006】
これらの手法により防曇性やフィルム自体の赤外線吸収特性は農ビに近づけることが可能となってきているが、いずれもフィルムの柔軟性が劣り農業用ハウスへの密着性に欠け気密性が保たれないことから十分な保温性が得られていない。また、フィルムを畳んだりした場合に柔軟性がないことから嵩張ってしまい作業性が悪く、その輸送効率や保管効率の大幅な低下をきたしていた。
【0007】
これらの柔軟性を改良するには、多層フィルムの内層(ハウスやトンネルの内側大気に接する層)および外層(ハウスやトンネルの外側大気に接する層)に酢酸ビニルの含有量を多くしたエチレン−酢酸ビニル共重合体を使用したり、密度の低いエチレン−α−オレフィン共重合体を使用することが考えられるが、酢酸ビニル含有量の多いエチレン酢酸ビニル共重合体は融点が低く、これを用いたフィルム同志が融着するといった問題があった。また、従来のチーグラー触媒のようなマルチサイト触媒を用いてエチレンとα−オレフィンを共重合する場合は、密度を下げるために高含有量のα−オレフィンを共重合すると、均一に共重合することができず、得られた共重合体を用いたフィルムはべたつき、フィルム同志が密着や融着し、実用に耐えないものであった。
【0008】
一方、近年、従来のマルチサイト触媒に変えてシングルサイト触媒を用いる重合によるエチレン−α−オレフィン共重合体である線状低密度ポリエチレンの開発が進み、特開平09−052332号公報には密度が0.925〜0.940g/cm3のエチレン−α−オレフィン共重合体からなる外層、密度が0.880〜0.910 g/cm3のエチレン−α−オレフィン共重合体からなる中間層および密度が0.905〜0.930 g/cm3からなるエチレン−αオレフィン共重合体からなる内層が積層された農業用積層フィルムが、また、特開平08−276542号公報にはエチレン−酢酸ビニル共重合体を中間層とし、内層および外層にシングルサイト触媒を用いて得られたエチレン−α−オレフィン共重合体を使用した農業用多層フィルムが提案されている。
【0009】
これらの農業用積層フィルムは、強靱性は向上するものの柔軟性に欠けることから、前記作業性、保管効率および輸送効率の課題は解消されないままであった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、良好な強靱性を有し、柔軟性に優れ、ハウスの気密性、作業性および輸送・保管効率に優れた農業用多層フィルムを提供することにある。
【0011】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を改善するべく鋭意検討した結果、各層が特定の組成を有し、かつ、少なくとも内層A、中間層Bおよび外層Cで構成された農業用多層フィルムが上記課題を改良できることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は下記構成を有する。
(1)少なくとも内層A、中間層Bおよび外層Cで構成された農業用多層フィルムであって、内層Aが、シングルサイト触媒を用いて重合された密度(da)0.88〜0.92g/cm3のエチレン−α−オレフィン共重合体(a)を主成分とした組成物から構成され、中間層Bが、単層フィルムとしたときの引張弾性率がエチレン−α−オレフィン共重合体(a)を単層フィルムとしたときの引張弾性率より大きい熱可塑性樹脂(b)を主成分とし、防曇剤1.0〜10重量%が添加された組成物から構成され、外層Cが、シングルサイト触媒を用いて重合された密度(dc)0.88〜0.92g/cm3のエチレン−α−オレフィン共重合体(c)を主成分とした組成物から構成された農業用多層フィルム。
(2)中間層Bを構成する組成物の主成分である熱可塑性樹脂がシングルサイト触媒を用いて重合された密度(db1)0.90〜0.94g/cm3の範囲のエチレン−α−オレフィン共重合体(b1)であって、かつ、db1>dc≧daである(1)項に記載の農業用多層フィルム。
(3)外層Cを構成する組成物が、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)を主成分とし、エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)が5〜45重量%添加されたものである(1)または(2)項に記載の農業用多層フィルム。
(4)内層A、中間層Bおよび外層Cを構成する組成物に対して、BET比表面積が5〜50m2/gの範囲の無機質フィラーがそれぞれ0.05〜5重量%、1〜10重量%および1〜10重量%添加され、無機質フィラーの外層Cを構成する組成物への添加量が内層Aを構成する組成物への添加量よりも多い請求項(1)〜(3)項の何れか1項記載の農業用多層フィルム。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係わる農業用多層フィルムについて詳細に説明する。
本発明の農業用多層フィルムは、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)と(c)、熱可塑性樹脂(b)、エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)、防曇剤および無機質フィラーの何れか1種または2種以上を成分とする組成物から構成される3層以上の多層フィルムである。なお、本発明に関わる各層を構成する組成物の「主成分」とは、組成物に50重量%以上含まれた成分を指す。
【0014】
[エチレン−α−オレフィン共重合体]本発明で内層A、中間層Bおよび外層Cを構成する組成物に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体(a)、(b1)および(c)はエチレンと炭素原子数が3〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体であり、メタロセン触媒のようなシングルサイト触媒を用いて重合される。
【0015】
炭素原子数が3〜20のα−オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられ、ランダム共重合体中の前記α−オレフィンの含有割合は1〜45重量%、好ましくは2〜35重量%である。
【0016】
シングルサイト触媒としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウムなどの周期律表第IV又はV族遷移金属のメタロセン化合物と、有機アルミニウム化合物及び/又はイオン性化合物の組合せが用いられる。
【0017】
メタロセン化合物としては、少なくとも一個のシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、ヒドロカルビル珪素などによって架橋されたもの、さらにシクロペンタジエニル基が酸素、窒素、燐原子に架橋されたものを配位子とする公知のメタロセン化合物をいずれも使用できる。
【0018】
これらのメタロセン化合物の具体例としては、ジメチルシリル(2、4-ジメチルシクロペンタジエニル)(3'、5'-ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリル(2、4-ジメチルシクロペンタジエニル)(3'、5'-ジメチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロライドなどのケイ素架橋型メタロセン化合物、エチレンビスインデニルジルコニウムジクロライド、エチレンビスインデニルハフニウムジクロライド、エチレンビス(メチルインデニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(メチルインデニル)ハフニウムジクロライドなどのインデニル系架橋型メタロセン化合物を挙げることができる。
【0019】
メタロセン化合物との組合せで用いられる有機アルミニウム化合物としては、一般式−(Al(R)O)n−で示される直鎖状、あるいは環状重合体(Rは炭素数1〜10の炭化水素基であり、一部ハロゲン原子及び/又はRO基で置換されたものも含む。nは重合度であり、5以上、好ましくは10以上である)であり、具体例としてRがそれぞれメチル、エチル、イソブチル基である、メチルアルモキサン、エチルアルモキサン、イソブチルエチルアルモキサンなどが挙げられる。
【0020】
さらに、その他の有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルハロゲノアルミニウム、セスキアルキルハロゲノアルミニウム、アルケニルアルミニウム、ジアルキルハイドロアルミニウム、セスキアルキルハイドロアルミニウムなどが挙げられる。
【0021】
イオン性化合物としては、一般式
[Q]m+ [Y]m- (mは1以上の整数)
で示されるものであり、式中のQはイオン性化合物のカチオン成分であり、カルボニウムイオン、トロピリウムカチオン、アンモニウムカチオン、オキソニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオン等が挙げられる。また、Yはイオン性化合物のアニオン成分であり、メタロセン化合物と反応して安定なアニオンとなる成分であって、有機硼素化合物アニオン、有機アルミニウム化合物アニオン、有機ガリウム化合物アニオン、有機燐化合物アニオン、有機砒素化合物アニオン、有機アンチモン化合物アニオン等が挙げられる。
【0022】
シングルサイト系触媒を用いて行うエチレンとα−オレフィンの共重合方法としては公知の重合方法が用いられ、気相重合法、スラリー重合法、溶液重合法などが挙げられる。
【0023】
このようなシングルサイト触媒を用いて重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体の数平均分子量は1×104〜100×104の範囲にあり、重量平均分子量と数平均分子量の比であるQ値は1.5〜3.5の範囲にあり、従来のチーグラーナッタ触媒のようなマルチサイト触媒を用いて重合した場合と比較して、分子量分布が狭く、α−オレフィンの高含有量のものも均一に重合され、ラメラ間のタイ分子が多い等の特徴があることから、低分子量成分が少なく耐ブロッキング性に優れ、透明性、耐衝撃性、強靱性に優れた特性を有する。
また、前記エチレン−α−オレフィン共重合体の密度は、通常、0.870〜0.960g/cm3の範囲にある。
【0024】
本発明の農業用多層フィルムにおいて、内層A及び外層Cを構成する組成物に用いるエチレン−α−オレフィン共重合体(a)および(c)のそれぞれの密度(da)および(dc)は0.88〜0.92g/cm3のものが好適に用いられる。密度が0.88g/cm3未満の場合には、製膜加工性が劣り、また、融点が低くなるために太陽光線により蓄熱し融着する場合がある。また、0.92g/cm3を越える場合には所期の柔軟性が十分得られないこととなる。
【0025】
内層Aおよび外層Cを構成する組成物の主成分であるエチレン−α−オレフィン共重合体(a)および(c)は同一のものであっても構わないが、防曇剤や防霧剤がハウス内面側に移行しやすくするために内層Aを構成する組成物の主成分であるエチレン−α−オレフィン共重合体(a)の密度(da)は外層Cを構成する組成物の主成分であるエチレン−α−オレフィン共重合体(c)の密度(dc)より小さいことが好ましい。
【0026】
本発明の農業用多層フィルムにおいて、中間層Bを構成する組成物に用いられる熱可塑性樹脂(b)は、単層フィルムとしたときの引張弾性率がエチレン−α−オレフィン共重合体(a)を単層フィルムとしたときの引張弾性率より大きい熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂(b)から得られる単層フィルムの引張弾性率がエチレン−α−オレフィン共重合体(a)から得られる単層フィルムの引張弾性率と比べて同等もしくは小さい場合、得られる農業用多層フィルムの強靭性が低くなるおそれがある。
【0027】
前記の熱可塑性樹脂(b)としては、公知の高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂をはじめとして、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられるが、中間層Bが内層Aおよび外層Cと積層される際の接着性の良さの点から、上述のシングルサイト触媒を用いて重合したエチレン−α−オレフィン共重合体が好適に用いられる。
【0028】
中間層Bを構成する組成物に好適に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体(b1)は、密度(db1)が0.90〜0.94g/cm3であり、かつ、得られる単層フィルムの引張弾性率が、前記エチレン−α−オレフィン共重合体(a)および(c)から得られる単層フィルムの引張弾性率より大きく、それぞれの密度daとdcがdb1より小さいことが必要である。
密度(db1)が0.90g/cm3で未満の場合には、得られる単層フィルムの引張弾性率が所期の値を達成しにくく、0.94g/cm3越える場合には、得られる農業用多層フィルムの柔軟性が不十分である。
また、daとdcがdb1と同等もしくは大きい場合は、得られる多層フィルムの引張弾性率が同等であっても柔軟性が劣ることから農業用ハウスとして気密性が保たれず十分な保温性が得られない。また、フィルムを畳んだりした場合に柔軟性がないことから嵩張ってしまい作業性が悪く、その輸送効率や保管効率の低下を来すこととなる。
【0029】
本発明の農業用多層フィルムにおいて、外層Cを構成する組成物には主成分としてエチレン−α−オレフィン共重合体(c)が用いられるが、その密度(dc)は既に述べたように密度(da)より大きいことが好ましい。
本発明の農業用多層フィルムにおいては、上記のdc>daを達成するため外層Cを構成する組成物として、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)を主成分とし、エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)を5〜45重量%添加したものを用いることができる。添加量が5%未満では防曇剤や防霧剤のハウス内面側への移行が不十分であり、45重量%を越える場合は、外層Cの密度が高くなることにより柔軟性が得られず、上記保温性、作業性、輸送効率及び保管効率に所期の効果が得られにくくなる。
【0030】
また、本発明で用いられるシングルサイト触媒により重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体(a)、(c)および(b1)は、190℃、2.16kgfの荷重条件におけるメルトフローレート(以下MFRという)0.2〜20g/10分の範囲のものがフィルム用として好適に用いられ、示差走査熱量測定法(DSC)による融解ピークは2つ以上であっても構わないが、フィルムの透明性及び強靱性を向上させるためには1つであることが望ましい。
【0031】
[防曇剤]本発明の農業用多層フィルムにおいて、中間層Bを構成する組成物には、防曇剤が1〜10重量%添加される。1重量%未満では防曇性の持続効果が十分ではなく、10重量%を越える場合には、フィルム表面への吹き出しが多くなりフィルムが不透明となったり、製膜加工時に発泡するなどの問題が生じる。なお、前記防曇剤は中間層Bだけでなく必要に応じ内層Aまたは内層Aと外層Cに添加しても構わない。
【0032】
前記の防曇剤としては、非イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤等から、防曇剤のエステル化度、アルキル基の鎖長、アルキレンオキサイドの付加モル数、またはそれらの純度を変化させることによって得られるものが挙げられる。それらの例としてソルビタンモノラウレート、ジグリセリンセスキラウレート、グリセリンモノオレート等の多価アルコールの部分カルボン酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の多価アルコールの部分カルボン酸エステルのポリオキシエチレン誘導体、アミン類および脂肪酸アミド類が挙げられる。その中でも下記式1で表される化合物とそれらの有機酸との中和塩が好適に用いられる。
【0033】
【化1】
【0034】
上記式1で表される化合物としては、ポリオキシエチレン(8モル)ステアリルアミン、ポリオキシエチレン(2モル)ラウリルアミン、ポリオキシエチレン(2モル)牛脂アミン等のアミン化合物、ポリオキシエチレンラウリルアミド、ポリオキシエチレンステアリルアミド等のアミド化合物、およびこれらアミン化合物およびアミド化合物とラウリン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸等の脂肪酸との脂肪酸エステルが挙げられる。また、有機酸としてはカルボン酸、スルホン酸、フェノールカルボン酸等があり、中でもカルボン酸が該化合物との反応性および安定性の点で好ましい。具体的には、ラウリル酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸および安息香酸等を挙げることができる。
これらの防曇剤は、単独もしくは2種以上の組み合わせで用いられる。
【0035】
[無機質フィラー]本発明の農業用多層フィルムにおいては、内層A、中間層Bおよび外層Cを構成する組成物に無機質フィラーを添加することが好ましい。
一般に農業用フィルム分野においては、無機質フィラーは、保温性能を付与する目的とフィルム同志の密着性を改良する目的で使用されるが、防曇性の発現および防曇持続性をコントロールすることができる。
本発明の農業用多層フィルムにおいて外層Cを構成する組成物への無機質フィラーの添加量は、内層Aを構成する組成物への無機質フィラーの添加量よりも多いことが望ましく、これにより防曇剤や防霧剤が外層Cの表面に析出し難くなり、防曇性や防霧性の持続性が伸びることとなる。
【0036】
内層Aを構成する組成物に対する無機質フィラーの添加量は0.05〜5重量%が好ましく、添加量が0.05重量%未満では、防曇剤や防霧剤が速やかに内層Aの表面に移行するため防曇性や防霧性の持続性が十分でなく、5重量%を越えると防曇剤や防霧剤の移行が不十分で防霧性の持続性の発現が十分でなくなる。中間層Bおよび外層Cを構成する組成物に対する無機質フィラーの添加量は1〜10重量%が好ましく、添加量が1重量%未満では、防曇剤や防霧剤を保持しにくいため防曇性や防霧性の持続性が不十分であり、10重量%を越える機械物性の低下や透明性の低下を招くおそれがある。
【0037】
前記の無機質フィラーとしては、JIS Z 8830に準じて測定されるBET比表面積が5〜50m2/g、好ましくは5〜20m2/gのものが好適に用いられる。BET比表面積が50m2/gを越える場合は、防曇剤や防霧剤を吸着してしまい所期の防曇性能や防霧性能が得られないこととなる。また、5m2/g未満の場合にはフィラーへの吸着が低下することからフィルム表面への防曇剤や防霧剤の移行が速やかに進み、フィルムがべたついたり、防曇性や防霧性の持続性が不十分となる。
【0038】
前記の無機質フィラーの具体例としては、酸化珪素、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム等の珪酸化合物、アルミノ珪酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、アルミノ珪酸カリウム等のアルミノ珪酸化合物、アルミナ、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸カルシウム等のアルミン酸化合物、炭酸カルシウム、下記式2や式3で示されるリチウム・アルミニウム複合水酸化物塩や下記式4で示されるハイドロタルサイト類が挙げられ、これらは、単独もしくは2種以上の組み合わせで用いられる。
【0039】
【化2】
[Al2Li(OH)6]2(An-)・mH2O −式2
(式中、mは3以下の数を示す。)
【0040】
【化3】
(式中、M2+は2価の金属、mは0≦m<5の範囲にある数、xは0≦x<1の範囲にある数、yは2≦y≦4の範囲にある数を示す。)
【0041】
【化4】
M2+ 1-xAlx(OH)2(An-)x/2・mH2O −式4
(式中、M2+はMg2+、Ca2+、およびZn2+の中から選ばれた少なくとも1種の2価金属イオンを示し、An-はn価のアニオン、xおよびmは次の条件、0<x<0.5、0≦m≦2を満足する。)
【0042】
[その他成分]本発明の農業用多層フィルムにおいて、内層A、中間層Bおよび外層Cを構成する組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で各種の物質を添加しても構わない。製膜加工性を向上させるために各層を構成する組成物中へ高圧法低密度ポリエチレン等の公知の熱可塑性樹脂を添加することが出来る。また、柔軟性を向上させるためにシングルサイト触媒や公知のマルチサイト触媒で重合されたエチレン−ジエン弾性共重合体、エチレンープロピレン弾性共重合体、スチレン−ブタジエン系弾性共重合体等の弾性共重合体を添加しても構わない。更に、通常農業用フィルムに用いられている公知のヒンダードアミン系耐候剤、紫外線吸収剤、防霧剤(フッ素系界面活性剤)、帯電防止剤、滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、抗菌剤、色素・着色剤などを配合することができる。
【0043】
本発明の農業用多層フィルムの厚みは、使用する場所や耐用年数等により異なるが、一般的に0.05〜0.3mm程度のものが好適に用いられる。内層の厚みTa、中間層の厚みTbおよび外層の厚みTcは特に限定されるものではないが、Ta:Tb:Tcは、1〜5:1〜5:1〜5の範囲が好ましい。
【0044】
本発明の農業用多層フィルムは、インフレーション法もしくはTダイ法等の公知の技術により製造することができ、また、中間層Bの他に、保温性を付与した中間層D、防曇性を向上させるための中間層E、再生原料を入れた中間層Fなどを積層した4層以上の多層フィルムであっても構わない。更に、防塵塗布剤や防曇塗布剤等を塗布・乾燥し、表面に塗布膜を形成させても構わない。
【0045】
本発明の農業用多層フィルムは、透明でも、梨地でも、半梨地であってもいずれでも良く、農業用ハウス(温室)、トンネル等の被覆用以外のマルチング用、袋掛け用等の用途に使用しても良い。
【0046】
【実施例】
以下、実施各例および比較各例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例および比較例における農業用多層フィルムの評価は、下記のように実施した。
【0047】
1)引張弾性率(ヤング率);ASTM D 882に準拠しフィルムサンプルの縦方向と横方向の引張弾性率を測定し、両者の平均値を示した。
2)引張強さ;JIS K 7113に準拠し縦方向と横方向の引張破断強さを測定し、両者の平均値を示した。
3)柔軟性;幅10mm×長さ100mmのサンプルを用い、サンプル長さ方向の端部から中央までの50mmを水平に支持し、残りの50mmを自由状態とし、支持部端部からサンプル先端までの水平方向の距離を測定し、柔軟性の指標とした。該水平方向の距離が短くなるほど柔軟性が向上していることを示す。
4)べたつき;二枚の幅20mm×長さ70mmのサンプルをそれぞれの長さ方向が同方向となるようにして20mm×20mmの面積を重ね合わせ、重ね合わせ面に1kgの荷重をのせて80℃の恒温槽に一昼夜放置したのち、23℃、50%RHの環境下で引張試験を行いべたつき(ブロッキング性)を測定した。数字が大きいほどフィルムがべたついており、フィルムの二次加工時や展張作業時の作業性が低下する。また、80℃で融着するものは、太陽光線等によりフィルム同志が融着する可能性があり実用上問題がある。
5)防曇持続性;傾斜10度、直径7.6cmの天窓を有するウォーターバスを使用し、前記ウォーターバスの天窓に実施例および比較例で得られたフィルムサンプルを固定し、環境温度23℃、水温45℃の条件下で昼夜放置し、防曇性が維持された期間を目視評価した。日数が長い程、防曇持続性が良いことを示す。
【0048】
各層へ用いた熱可塑性樹脂を以下に示す。なお、S-LLDPEはシングルサイト触媒により重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体、M-LLDPEはマルチサイト触媒により重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体を示す。
▲1▼ユメリット(商標) 1520F 宇部興産(株)製
・シングルサイト触媒系エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(S-LLDPE)
・MFR;2.0g/10min.、密度;0.913g/cm3、引張弾性率;1300kgf/cm2
▲2▼ユメリット(商標) 0540F 宇部興産(株)製
・シングルサイト触媒系エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(S-LLDPE)
・MFR;4.0g/10min.、密度;0.904g/cm3、引張弾性率;800kgf/cm2
▲3▼UBEポリエチレン R500 宇部興産(株)製
・高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)
・MFR0.5g/10min.、密度0.922g/cm3、引張弾性率;2500kgf/cm2
▲4▼ナックフレックス(商標) DFDA1138 日本ユニカー(株)製
・マルチサイト触媒系エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(M-LLDPE)
・MFR;0.4g/10min.、密度;0.900g/cm3、引張弾性率;870kgf/cm2
▲5▼NUC3270 日本ユニカー(株)製
・エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(酢酸ビニル含有量7.5%)(EVA)
・MFR;2.3g/10min.、密度;0.925g/cm3、引張弾性率;1300kgf/cm2
▲6▼ウルトラセン(商標) 630 東ソー(株)製
・エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(酢酸ビニル含有量15%)(EVA)
・MFR;1.5g/10min.、密度;0.936g/cm3、引張弾性率;570kgf/cm2
▲7▼ニポロン−L(商標) FR151A 東ソー(株)製
・マルチサイト触媒系エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂(M-LLDPE)
・MFR;0.9g/10min.、密度;0.924g/cm3、引張弾性率;2800kgf/cm2
▲8▼チッソ ポリプロ(商標) FM414 チッソ(株)製
・ポリプロピレン(PP)
・MFR8.0g/10min.、密度0.90g/cm3、引張弾性率5200kgf/cm2
【0049】
なお、上記熱可塑性樹脂のそれぞれの特性は、下記条件にて測定を実施した。1)MFR;JIS K 7210に準じて▲1▼〜▲8▼までのエチレン系共重合体樹脂は190℃、荷重2.16kgfの条件で、また、▲9▼のポリプロピレン系組成物は230℃、荷重2.16kgfの条件で測定した。
2)密度;JIS K 7112に準じて測定した。
3)引張弾性率(ヤング率);40mmφ単層インフレーション製膜装置を用い、押出温度180℃、ブロー比1.5、製膜速度15m/分の条件で成形された厚み50μmのフィルムの縦方向の引張弾性率をASTM D 882に従い測定した。
【0050】
実施例1〜5、比較例1〜5
50mmφ押出機3台を有する3種3層インフレ押出装置を用い、成形温度190℃、ブロー比2.5にて、厚み0.1mmの多層フィルムを成形した。
各多層フィルムの配合例と評価結果を表1〜2に示す。
【0051】
なお、各多層フィルムの配合例は表1〜2の内容以外として、外層Aにヒンダードアミン系耐候剤0.5重量%、紫外線吸収剤0.05重量%、フェノール系安定剤0.1重量%、リン系安定剤0.1重量%、アンチブロッキング剤0.05重量%を、中間層Bにはヒンダードアミン系耐候剤0.5重量%、紫外線吸収剤0.05重量%、フッ素系界面活性剤0.2重量%、フェノール系安定剤0.1重量%、リン系安定剤0.1重量%を、また、内層Cにはヒンダードアミン系耐候剤0.5重量%、紫外線吸収剤0.05重量%、フッ素系界面活性剤0.2重量%、フェノール系安定剤0.1重量%、リン系安定剤0.1重量%、アンチブロッキング剤0.05%を添加した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【発明の効果】
本発明の農業用多層フィルムは、引張弾性率が高いことからハウスへの展張後の強風によるフィルムの変形を防止することができる上、シングルサイト触媒により重合されたエチレン−α−オレフィン共重合体が低分子量部分が少ないことを応用して内層Aおよび外層Cに低密度のエチレン−α−オレフィン共重合体を使用するという新たな発想により、これまで農業用多層フィルム分野で引張弾性率とは両立が困難とされていた柔軟性を付与することができた。そのためハウスへの展張作業も容易となり、使用後に回収しても容積が少なくて済むことから輸送効率や保管効率が大幅に向上することになる。また、ハウスへの密着性が高まり、フィルム同志の隙間も低減することから農業用ハウスに必要な保温性の向上が図れる。
このように、本発明の農業用多層フィルムは強靱性だけでなく展張・回収作業性や輸送・保管効率の向上、更には、保温性向上が図れることからハウスやトンネル等の農業用被覆資材として好適に用いることができる。
Claims (4)
- 少なくとも内層A、中間層Bおよび外層Cで構成された農業用多層フィルムであって、内層Aが、シングルサイト触媒を用いて重合された密度(da)0.88〜0.92g/cm3のエチレン−α−オレフィン共重合体(a)を主成分とした組成物から構成され、中間層Bが、単層フィルムとしたときの引張弾性率がエチレン−α−オレフィン共重合体(a)を単層フィルムとしたときの引張弾性率より大きい熱可塑性樹脂(b)を主成分とし、防曇剤1〜10重量%が添加された組成物から構成され、外層Cが、シングルサイト触媒を用いて重合された密度(dc)0.88〜0.92g/cm3のエチレン−α−オレフィン共重合体(c)を主成分とした組成物から構成された農業用多層フィルム。
- 中間層Bを構成する組成物の主成分である熱可塑性樹脂がシングルサイト触媒を用いて重合された密度(db1)0.90〜0.94g/cm3の範囲のエチレン−α−オレフィン共重合体(b1)であって、かつ、db1>dc≧daである請求項1記載の農業用多層フィルム。
- 外層Cを構成する組成物が、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)を主成分とし、エチレン−α−オレフィン共重合体(b1)が5〜45重量%添加されたものである請求項1または請求項2記載の農業用多層フィルム。
- 内層A、中間層Bおよび外層Cを構成する組成物に対して、BET比表面積が5〜50m2/gの無機質フィラーがそれぞれ0.05〜5重量%、1〜10重量%および1〜10重量%添加され、無機質フィラーの外層Cを構成する組成物への添加量が内層Aを構成する組成物への添加量よりも多い請求項1〜3の何れか1項記載の農業用多層フィルム。
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