以下、本発明の実施の形態について説明する。まず、後述する各実施形態に共通した事項について説明する。図1は、本発明を適用したモータ駆動システムのブロック構成図である。後述する各実施形態のモータ駆動システムは、モータの回転停止時にも回転時にも用いることができる。
1は、永久磁石を回転子(不図示)に設けると共に電機子巻線を固定子(不図示)に設けた三相永久磁石型同期モータ1(以下、単に「モータ1」と記す)である。モータ1は、例えば、突極性を有する突極機であり、モータ1におけるd軸インダクタンスはq軸インダクタンスよりも小さくなっている。
2は、PWM(Pulse Width Modulation)インバータであり、駆動制御装置3による制御に基づいてモータ1にU相、V相及びW相から成る三相交流電圧を供給する。このモータ1に供給される電圧をモータ電圧(電機子電圧)Vaとし、インバータ2からモータ1に供給される電流をモータ電流(電機子電流)Iaとする。
3は、駆動制御装置であり、モータ電流Iaを用いてモータ1の回転子の磁極位置等を推定し、例えば、モータ1を所望の回転速度で回転させるための信号をPWMインバータ2に与える。
図2は、モータ1をベクトル制御する際の解析モデル図である。以下の説明において、電機子巻線とはモータ1に設けられているものを指す。図2には、U相、V相、W相の電機子巻線固定軸が示されている。1aは、モータ1の回転子を構成する永久磁石である。永久磁石1aが作る磁束と同じ速度で回転する回転座標系において、永久磁石1aが作る磁束の向きをd軸にとり、d軸に対応する制御上の推定軸をγ軸とする。また、図示していないが、d軸から電気角で90度進んだ位相にq軸をとり、γ軸から電気角で90度進んだ位相に推定軸であるδ軸をとる。回転座標系はd軸とq軸を座標軸に選んだ座標系であり、その座標軸をd−q軸と呼ぶ。制御上の回転座標系(推定回転座標系)はγ軸とδ軸を座標軸に選んだ座標系であり、その座標軸をγ−δ軸と呼ぶ。
d−q軸は回転しており、その回転速度を実モータ速度ωと呼ぶ。γ−δ軸も回転しており、その回転速度を推定モータ速度ωeと呼ぶ。また、ある瞬間の回転しているd−q軸において、d軸の位相をU相の電機子巻線固定軸を基準としてθ(磁極位置θ)により表す。同様に、ある瞬間の回転しているγ−δ軸において、γ軸の位相をU相の電機子巻線固定軸を基準としてθe(推定磁極位置θe)により表す。そうすると、d軸とγ軸との軸誤差Δθ(d−q軸とγ−δ軸との軸誤差Δθ)は、Δθ=θ―θeで表される。後述する各実施形態では、この軸誤差Δθがゼロに収束するように制御される。
以下の記述において、モータ電流Iaのγ軸成分及びδ軸成分を、それぞれγ軸電流iγ及びδ軸電流iδで表す。また、以下の記述において、Ld、Lqは、夫々d軸インダクタンス(モータ1の電機子巻線のインダクタンスのd軸成分)、q軸インダクタンス(モータ1の電機子巻線のインダクタンスのq軸成分)である。また、電気角を表現する場合に用いる「π」の単位はラジアンである。
<<第1実施形態>>
図3は、本発明の第1実施形態に係るモータ駆動システムの構成ブロック図である。本実施形態おける駆動制御装置は、電流検出器11、座標変換部12、減算器13及び14、電流制御部15、LPF(低域通過フィルタ)16、1倍周波数BPF(バンドパスフィルタ)17、磁極位置推定部18、2倍周波数BPF(バンドパスフィルタ)19、極性判別部20、加算器21、高周波電圧作成部22、加算器23及び24、並びに座標変換部25を有して構成される。各実施形態(本実施形態及び後述する全ての実施形態)の駆動制御装置を構成する各部位は、必要に応じて駆動制御装置内で生成される値の全てを自由に利用可能となっている。
電流検出器11は、例えばホール素子等から成り、PWMインバータ2からモータ1に供給されるモータ電流IaのU相電流iu及びV相電流ivを検出する。座標変換部12は、電流検出器11からのU相電流iu及びV相電流ivの検出結果を受け取り、それらを加算器21からの推定磁極位置θeを用いて、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδに変換する。この変換には、下記式(1)を用いる。
LPF16は、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδから高周波成分(本実施形態において、高周波電圧作成部22が出力する高周波電圧の成分)を除去し、その除去後のγ軸電流iγ及びδ軸電流iδを、夫々減算器13及び14に出力する。
減算器13は、γ軸電流指令値iγ*とLPF16にて高周波成分が除去された後のγ軸電流iγとの電流誤差を算出する。減算器14は、δ軸電流指令値iδ*とLPF16にて高周波成分が除去された後のδ軸電流iδとの電流誤差を算出する。γ軸電流指令値iγ*及びδ軸電流指令値iδ*は、例えば、外部から与えられたモータ速度指令値(モータ1の目標の回転速度)等に基づいて設定される。
電流制御部15は、減算器13及び14にて算出された各電流誤差を受け、各電流誤差がゼロに追従するようにγ軸電圧指令値vγ*とδ軸電圧指令値vδ*を出力する。この際、LPF16が出力する高周波成分除去後のγ軸電流iγ及びδ軸電流iδが参照され得る。
高周波電圧作成部22は、高周波γ軸電圧(高周波γ軸電圧指令値)vhγ*及び高周波δ軸電圧(高周波δ軸電圧指令値)vhδ*を作成し、それらを加算器23及び24に出力する。高周波γ軸電圧vhγ*及び高周波δ軸電圧vhδ*は、それぞれ、回転子の極性を判別すること等を目的として印加される検出用電圧としての高周波電圧のγ軸成分及びδ軸成分である。以下、高周波γ軸電圧vhγ*及び高周波δ軸電圧vhδ*を、夫々、高周波電圧vhγ*及び高周波電圧vhδ*と記すことがある。尚、高周波電圧vhγ*及びvhδ*は、γ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*に重畳される重畳電圧と考えることができる。
加算器23は、電流制御部15からのγ軸電圧指令値vγ*と高周波電圧作成部22からの高周波γ軸電圧vhγ*との和(vγ*+vhγ*)を算出する。加算器24は、電流制御部15からのδ軸電圧指令値vδ*と高周波電圧作成部22からの高周波δ軸電圧vhδ*との和(vδ*+vhδ*)を算出する。
座標変換部25は、加算器21からの推定磁極位置θeに基づきつつ、2相の電圧指令値である(vγ*+vhγ*)及び(vδ*+vhδ*)を、モータ電圧VaのU相成分、V相成分及びW相成分を表すU相電圧指令値vu *、V相電圧指令値vv *及びW相電圧指令値vw *から成る三相の電圧指令値に逆変換し、それらをPWMインバータ2に出力する。この逆変換には、下記の2つの等式から成る式(2)を用いる。
PWMインバータ2は、モータ1に印加されるべき電圧を表す三相の電圧指令値(vu *、vv *及びvw *)に基づいてパルス幅変調された信号を作成し、該三相の電圧指令値に応じたモータ電流Iaをモータ1に供給してモータ1を駆動する。
γ軸電流指令値iγ*及びδ軸電流指令値iδ*にて表される電流は、モータ1を駆動するための駆動電流であり、γ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*にて表される電圧は、モータ1に上記駆動電流を流すためにモータ1へ印加される駆動電圧である。
高周波電圧作成部22によって生成される高周波電圧vhγ*及びvhδ*は、高周波の交番電圧または回転電圧であり、モータ1の回転子の極性(及び磁極位置)を検出するための検出用電圧である。ここで、「高周波」とは、その高周波電圧vhγ*及びvhδ*の周波数が駆動電圧の周波数よりも十分に大きいことを意味している。以下、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の周波数をωhと表記する。
また、「回転電圧」とは、図8及び図21〜図23の電圧ベクトル軌跡70v、77v及び79vに示す如く、電圧ベクトルの軌跡が着目する座標軸上(本実施形態の場合、γ−δ軸上)で円を成すような電圧を意味する。例えば、上記回転電圧は3相で考えた場合における3相平衡電圧であり、3相平衡電圧の場合、その電圧ベクトルの軌跡は、図8及び図21の電圧ベクトル軌跡70vのようにγ−δ軸上で原点を中心とする真円を成すことになる。この回転電圧は、モータ1に同期しない高周波の電圧であるため、この回転電圧の印加によってモータ1が回転することはない(或いは殆ど回転しない)。
高周波電圧vhγ*及びvhδ*の重畳に応じた高周波電流がモータ1に流れることになるが、回転子磁束(永久磁石1aが作る磁束)の向きと固定子磁束(モータ1の固定子に設けられた電機子巻線が作る磁束)の向きとが一致するタイミングにおいて、その高周波電流のγ軸成分によってモータ1に磁気飽和が起こるように、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の振幅と周波数は設定される。
高周波電圧vhγ*及びvhδ*が成す電圧ベクトル軌跡が真円である場合を例にとり、極性判別の手法を説明する。図4の軌跡61は、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδの電流ベクトル軌跡(合成ベクトルの電流ベクトル軌跡)を表している。高周波電圧の電圧ベクトル軌跡が真円であるのに拘らず、γ軸電流iγの正負の振幅に差が生じている。より具体的には、γ軸電流iγの正の振幅と負の振幅との比較において、正の振幅の方が負の振幅よりもやや大きくなっている。これは、回転子磁束の向きと固定子磁束の向きとが一致している時には、それらの向きが反対となっている時よりも、磁気飽和の影響によってγ軸成分の電流が多く流れるためである。尚、本実施形態は、γ軸とd軸の向きが(略)一致している場合を想定している。
座標変換部12から出力されるγ軸電流iγには、直流成分や駆動電流(iγ*及びiδ*に対応)の周波数成分、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の周波数成分(1×ωh)の他、磁気飽和の影響によって高周波電圧vhγ*及びvhδ*の周波数の高次の周波数成分、即ち、(2×ωh)の周波数成分である二次成分、(4×ωh)の周波数成分である四次成分、・・・、が含まれることになる。
2倍周波数BPF19は、座標変換部12から出力されるγ軸電流iγを入力信号として受ける、(2×ωh)の周波数を通過帯域内に含むバンドパスフィルタ(帯域通過フィルタ)である。2倍周波数BPF19によって、γ軸電流iγの高周波二次成分(2×ωhの周波数成分)が抽出され(強調され)、その抽出によって得られた信号は、二次抽出γ軸電流i2hγとして出力される。2倍周波数BPF19において、(2×ωh)の周波数を通過帯域の中心周波数とする必要は必ずしもないが、直流や駆動電流(iγ*及びiδ*に対応)の周波数を含む低周波は通過帯域に含めるべきではない。例えば、2倍周波数BPF19の通過帯域の下限周波数は、モータ1の駆動電流の周波数よりも大きく、且つ、2×ωhよりも小さい周波数範囲から選ばれる。
磁極位置推定部18は、回転子の磁極位置を±π/2の範囲内で推定するが、磁極位置推定部18によって推定された磁極位置の極性が正しいとき、即ち例えばΔθの絶対値が数度以下のとき(より広く言えば、−π/2<Δθ<π/2のとき)における、二次抽出γ軸電流i2hγの波形及び二次抽出γ軸電流i2hγと二次抽出δ軸電流i2hδが成す電流ベクトル軌跡を、それぞれ図5(d)の波形62及び図6の軌跡64iにて示す。図6の横軸は二次抽出γ軸電流i2hγの値を表し、縦軸は二次抽出δ軸電流i2hδの値を表している。二次抽出δ軸電流i2hδは、γ軸電流iγから二次抽出γ軸電流i2hγを抽出したのと同様に、δ軸電流iδから二次成分を抽出したものに相当する(抽出手法は、第2実施形態にて詳説する)。
二次抽出γ軸電流i2hγの抽出手法(2倍周波数BPF19の構成)によって、電流の一次成分(ωhの周波数成分)に対する二次成分(2×ωhの周波数成分)の位相ずれの量は変化し、その位相ずれの量は適宜変更可能であるが、今、2倍周波数BPF19の通過帯域の中心周波数が(2×ωh)であるとし且つ2倍周波数BPF19によってωhの周波数成分の位相が約π/2(或るいはπ/2)だけ進むものとする((2×ωh)の周波数成分の位相は変化しない)。このため、図5(d)の波形62及び図6の軌跡64iに示されるように、二次抽出γ軸電流i2hγにおいて、負の振幅が正の振幅よりも大きくなっている。
この2倍周波数BPF19の動作について更に詳細な説明を加えておく。γ軸とd軸が(略)一致しており、モータ1が停止し且つ駆動電圧が印加されていない場合を例にとる。この場合、図5(a)に示されるように、iγの位相はvhγ*の位相からπ/2だけ遅れ、iγにおいて、正側の振幅がやや大きくなる。このiγを一次成分(1×ωhの周波数成分)と二次成分(2×ωhの周波数成分)に分解すると、図5(b)のようになる。逆に、図5(b)に示すiγの一次成分と二次成分を合成すると、正側の振幅の大きいiγの波形が得られることになる。
このiγの二次成分を強調するために2倍周波数BPF19が存在している。iγの二次成分が強調された二次抽出γ軸電流i2hγを一次成分と二次成分に分解した波形を、図5(c)に示す。2倍周波数BPF19の通過帯域の中心周波数となるi2hγの二次成分は、振幅が増幅され、位相はiγの二次成分の位相と同じである。中心周波数でないi2hγの一次成分の位相はiγの一次成分の位相から約π/2だけ進む。高周波電圧vhγ*及びvhδ*の周波数は1×ωhであるため、二次成分を強調した二次抽出γ軸電流i2hγにおいても、一次成分は強く残っている。
i2hγの一次成分と二次成分を(主として)合成したものが、図5(d)の波形62に示すi2hγに相当する。i2hγの位相は、iγの位相から約π/2だけ進み、i2hγとvhγ*の位相は略一致する。i2hγにおいて、負側の振幅は大きく、また正負の振幅差は強調される。尚、モータ1を回転させた場合における誘起電圧や駆動電圧は、検出用電圧よりも周波数が十分低いため、それらの成分の影響は2倍周波数BPF19を通すことにより、ほぼなくなる。
極性判別部20は、二次抽出γ軸電流i2hγの波形に基づき、モータ1の回転子の磁極の極性(以下、単に「回転子の極性」または「極性」ということがある)を判別する。具体的には、二次抽出γ軸電流i2hγの波形62における正負の振幅の大小を比較し、波形62に示す如く負の振幅が正の振幅よりも大きければ磁極位置推定部18によって推定された磁極位置の極性が正しいと判断して、磁極位置推定部18が推定した磁極位置を加算器21を介してそのまま推定磁極位置θeとして座標変換部12等に出力させる。逆に、負の振幅が正の振幅よりも小さければ磁極位置推定部18によって推定された磁極位置の極性に誤りがある(即ち、πずれている)と判断して、加算器21を用いて磁極位置推定部18が推定した磁極位置に電気角πを加算する補正を施し、補正後の磁極位置を推定磁極位置θeとして座標変換部12等に出力させる。推定磁極位置θeは、0〜2πの範囲内(0≦θe<2π)の位相角をとる。
このように、γ軸電流iγの二次成分を抽出して磁気飽和による電流波形の歪みを抜き出し、その歪みを検出することによって極性判別を行う。直流成分ではなく電流波形の歪みに基づいて(直流成分や低周波成分が除去された電流の二次抽出成分を利用して)極性判別が行われるため、極性判別に対する駆動電流や誘起電圧の影響、電流センサ(電流検出器11)のオフセットの影響が抑制され、停止時に加え、モータ回転時にも安定した極性判別が可能となる。
1倍周波数BPF17は、座標変換部12から出力されるγ軸電流iγ及びδ軸電流iδを入力信号として受ける、(1×ωh)の周波数を通過帯域内に含むバンドパスフィルタ(帯域通過フィルタ)である。1倍周波数BPF17からは、γ軸電流iγの高周波一次成分(1×ωhの周波数成分)を抽出した(強調した)一次抽出γ軸電流ihγと、δ軸電流iδの高周波一次成分を抽出した(強調した)一次抽出δ軸電流ihδが出力される。1倍周波数BPF17においては、(2×ωh)の周波数及びそれ以上の周波数は通過帯域外とされ、例えば(1×ωh)の周波数が通過帯域の中心周波数とされる。
γ−δ軸上での一次抽出γ軸電流ihγ及び一次抽出δ軸電流ihδの電流ベクトル軌跡を、図7の軌跡65により示す。高周波の二次成分が除去されているため、一次抽出γ軸電流ihγにおいて、正負の振幅差は殆ど見られない。
磁極位置推定部18は、一次抽出γ軸電流ihγ及び一次抽出δ軸電流ihδに基づいて、回転子の磁極位置を±π/2の範囲内で推定する。一次抽出γ軸電流ihγ及び一次抽出δ軸電流ihδに基づいて回転子の磁極位置を±π/2の範囲で推定する手法として様々な手法が提案されており、各実施形態は、それらの手法の何れをも採用可能である。以下に、磁極位置推定部18の構成例として、出願人が提案する構成を挙げる。まず、図8〜図11を用いて原理の説明を行う。
モータ1が埋込磁石形同期モータ等であってLd<Lqが成立するとき、真円の電圧ベクトル軌跡70v(図8)を成す高周波電圧によってモータ1に流れる高周波電流の電流ベクトル軌跡は、図9の電流ベクトル軌跡71に示す如く、γ−δ軸(γ−δ座標)上で原点を中心とし、γ軸方向を長軸方向且つδ軸方向を短軸方向とする楕円となる。但し、電流ベクトル軌跡71は、軸誤差Δθがゼロの場合の電流ベクトル軌跡である。軸誤差Δθがゼロでない場合は、電流ベクトル軌跡72にて表される楕円のようになり、その長軸方向(又は短軸方向)はγ軸方向(又はδ軸方向)と一致しない。即ち、軸誤差Δθがゼロでない場合は、γ−δ軸(γ−δ座標)上で原点を中心として電流ベクトル軌跡71が傾き、電流ベクトル軌跡72を描くようになる。
積(ihγ×ihδ)には、電流ベクトル軌跡72にて表される楕円の傾きに依存した直流成分が存在する。積(ihγ×ihδ)は、電流ベクトル軌跡の第1及び第3象限で正の値をとる一方で第2及び第4象限で負の値をとるため、楕円が傾いていない時は(電流ベクトル軌跡71の場合は)直流成分を含まないが、楕円が傾くと(電流ベクトル軌跡72の場合は)直流成分を含むようになる。尚、図9におけるI、II、III及びIVは、γ−
δ軸(γ−δ座標)上での第1、第2、第3及び第4象限を表している。
図10に、時間を横軸にとり、軸誤差Δθがゼロの場合における積(ihγ×ihδ)とその積の直流成分を夫々曲線66及び67にて表す。図11に、時間を横軸にとり、軸誤差Δθがゼロではない場合における積(ihγ×ihδ)とその積の直流成分を夫々曲線68及び69にて表す。図10及び図11からも分かるように、積(ihγ×ihδ)の直流成分は、Δθ=0°の場合にゼロとなり、Δθ≠0°の場合にゼロとならない。また、この直流成分は、軸誤差Δθの大きさが増大するにつれて大きくなる(軸誤差Δθに概ね比例する)。従って、この直流成分がゼロに収束するように制御すれば、軸誤差Δθはゼロに収束するようになる。
磁極位置推定部18は、この点に着目し、積(ihγ×ihδ)の直流成分がゼロに収束するようにγ−δ軸に修正を加えて、回転子の磁極位置を±π/2の範囲で推定する。図3の構成において、推定された磁極位置は、極性判別部20及び加算器21によって補正されうる。そのため、磁極位置推定部18によって推定された磁極位置は、暫定的に推定された磁極位置ということができる。
図12は、磁極位置推定部18の内部構成の一例を表すブロック図である。図12の磁極位置推定部18は、掛算器40と、直流成分抽出部41と、比例積分演算器42と、積分器43と、を有して構成される。
掛算器40は、1倍周波数BPF17によって抽出された一次抽出γ軸電流ihγと一次抽出δ軸電流ihδの積(ihγ×ihδ)を算出する。直流成分抽出部41は、この積(ihγ×ihδ)から高周波成分を除去して、積(ihγ×ihδ)の直流成分ihDを抽出する。直流成分抽出部41は、ローパスフィルタ、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の整数倍周期分の積(ihγ×ihδ)を積分する積分器、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の整数倍周期分の積(ihγ×ihδ)の移動平均から直流成分ihDを算出する移動平均器、または、それらの組み合わせなどから成る。
比例積分演算器42は、PLL(Phase Locked Loop)から成り、図3の駆動制御装置を構成する各部位と協働しつつ比例積分制御を行って、直流成分抽出部41から出力される直流成分ihDがゼロに収束するように(即ち、軸誤差Δθがゼロに収束するように)推定モータ速度ωeを算出する。積分器43は、比例積分演算器42から出力される推定モータ速度ωeを積分して、暫定的な推定磁極位置を算出する。
積分器43が算出した暫定的な推定磁極位置は、加算器21によって補正され、最終的な推定磁極位置θeが算出される。比例積分演算器42が出力する推定モータ速度ωeと加算器21が出力する推定磁極位置θeは、その値を必要とする駆動制御装置の各部位に与えられる。
図3及び図12のように構成すれば、軸誤差Δθがゼロに収束するようになる。また、磁極位置を推定するための処理(演算量)が簡単であり、磁極位置推定部18は、容易に実現できるため実用性が高い。特にモータ1の停止状態や低速運転状態において、良好に磁極位置を推定できる。
また、図3では、磁極位置推定部18による暫定的な磁極位置の推定後に、加算器21によって、それを補正するという構成を例示しているが、磁極位置の推定前または推定中に極性判別を行い、その判別結果を利用して0〜2πの範囲内の磁極位置を推定することも可能である。何れの場合も、磁極位置推定部と極性判別部とが協働することによって、回転子の磁極位置が0〜2πの範囲内で検出されることになる。
磁極位置の推定前に極性判別を行う場合は、例えば図13に示すように、d軸の向きであると判別した向きを中心として、±π/2の範囲内で磁極位置を設定する(推定する)。即ち、二次抽出γ軸電流i2hγの絶対値(大きさ)が最大となる位相角にπを加えた(または、πを差し引いた)位相角を中心とした±π/2の範囲内で磁極位置を設定する(推定する)。但し、図13にて示す手法は、後述する第2、第4、第6及び第8実施形態にて採用可能である。この場合における磁極位置推定部からは、0〜2πの範囲内で極性の正しい磁極位置が推定されるため、加算器21は不要となる。
また、磁極位置の推定前に極性判別を行う場合、二次抽出γ軸電流i2hγにおける正負の振幅差(振幅の大小関係)だけでなく、必要に応じて、上述の二次抽出δ軸電流i2hδにおける正負の振幅差(振幅の大小関係)をも参照するようにして、推定する磁極位置の範囲を絞り込んでもよい。例えば、推定する磁極位置の範囲を、図14のように1つの象限に絞り込んでも良いし、図15のようにγ軸成分にて2つの象限に絞り込んでも良いし、図16のようにδ軸成分にて2つの象限に絞り込んでも良い。
また、磁極位置の推定中に極性判別を行って磁極位置を補正する場合は、磁極位置の推定前もしくは推定後における手法のどちらか、またはそれらの組み合わせを採用すればよい。
また、二次抽出γ軸電流i2hγの最小値及び最大値(正負の各ピーク値)における絶対値を1周期以上に亘って比較することにより極性判別を行っても良いし、極性判別部20を図17のように構成して極性判別するようにしてもよい。図17は、cos2ωht(但し、tは時間)で表される高周波電圧vhγ*を印加した場合における極性判別部20の内部構成例である。
図17の極性判別部20は、掛算器45、直流成分抽出部46及び符号判別部47から成る。掛算器45は、図18の波形73のように表される二次抽出γ軸電流i2hγと、波形74のように表されるcos2ωhtとを乗算する。
直流成分抽出部46は、図19の波形75のように表される掛算器45の乗算結果(i2hγ×cos2ωht)の直流成分を抽出する。該直流成分の波形は、図19の波形76のようになり、二次抽出γ軸電流i2hγの負の振幅が正の振幅よりも大きければ負の値を持ち、二次抽出γ軸電流i2hγの正の振幅が負の振幅よりも大きければ正の値を持つ。このように、二次成分による波形の歪みを直流として取り出す。尚、波形76の縦軸のスケールは拡大されている。
符号判別部47は、直流成分抽出部46によって抽出された直流成分が負の値を持つ場合に、推定された磁極位置の極性が正しいと判断して、磁極位置推定部18が推定した磁極位置を加算器21を介してそのまま推定磁極位置θeとして座標変換部12等に出力させる。逆に、直流成分抽出部46によって抽出された直流成分が正の値を持つ場合は、加算器21を用いて磁極位置推定部18が推定した磁極位置に電気角πを加算する補正を施し、補正後の磁極位置を推定磁極位置θeとして座標変換部12等に出力させる。
上記の如く、図17の極性判別部20は、二次抽出γ軸電流i2hγにおける正負の振幅差(振幅の違い)を直流にして取り出す。尚、直流成分抽出部46は、ローパスフィルタ、2倍周波数(2×ωh)の整数倍周期分の積(i2hγ×cos2ωht)を積分する積分器、2倍周波数(2×ωh)の整数倍周期分の積(i2hγ×cos2ωht)の移動平均を算出する移動平均器、または、それらの組み合わせなどから成る。尚、cos2ωhtの代わりにcos(2ωht+π)をかければ符号が反転した直流が取り出される。また、sin2ωhtで表される高周波電圧vhγ*を印加した場合は、2倍周波数のsin2ωhtまたはsin(2ωht+π)を二次抽出γ軸電流i2hγにかけることによって直流が取り出される。
また、γ軸電流iγから極性判別に用いる信号を抽出するためのものとして、バンドパスフィルタ(図3では、2倍周波数BPF19を例示)ではなく、ハイパスフィルタ(HPF)を採用しても良い(図20参照)。該ハイパスフィルタは、γ軸電流iγから直流成分及び駆動電流の周波数成分を含む比較的低い周波数成分を減衰させた抽出電流ihhγを抽出し、その抽出電流ihhγを極性判別に用いる信号として極性判別部に与える。この場合における極性判別部は、抽出電流ihhγを二次抽出γ軸電流i2hγと同様に取り扱って極性判別を行う。勿論、(2×ωh)の周波数は、上記ハイパスフィルタの通過帯域内に含まれる。
また、γ−δ軸上において高周波電圧vhγ*及びvhδ*が成す電圧ベクトル軌跡が、図21の軌跡70vに示すような真円である場合を例にとって極性判別の手法を例示したが、極性を判別するための検出用電圧(高周波電圧vhγ*及びvhδ*)として回転電圧を印加する場合、その回転電圧における高周波電圧vhγ*の振幅と高周波電圧vhδ*の振幅は異なっていても構わない。
図22に、高周波γ軸電圧vhγ*の振幅を高周波δ軸電圧vhδ*の振幅に対して相対的に大きくした場合における、回転電圧の電圧ベクトル軌跡を軌跡77vにて示し、軌跡77vに対応する二次抽出γ軸電流i2hγ及び二次抽出δ軸電流i2hδの電流ベクトル軌跡を軌跡78iにて示す。電圧ベクトル軌跡77vは、γ−δ軸(γ−δ座標)上で原点を中心とし、γ軸方向を長軸方向且つδ軸方向を短軸方向とする楕円を成す。
図23に、高周波γ軸電圧vhγ*の振幅を高周波δ軸電圧vhδ*の振幅に対して相対的に小さくした場合における、回転電圧の電圧ベクトル軌跡を軌跡79vにて示し、軌跡79vに対応する二次抽出γ軸電流i2hγ及び二次抽出δ軸電流i2hδの電流ベクトル軌跡を軌跡80iにて示す。電圧ベクトル軌跡79vは、γ−δ軸(γ−δ座標)上で原点を中心とし、γ軸方向を短軸方向且つδ軸方向を長軸方向とする楕円を成す。
また更に、図24に示す如く、極性を判別するための検出用電圧としてγ軸成分のみ有する交番電圧を印加するようにしてもよい(即ち、vhδ*=0、としても良い)。図21〜図24に示す何れの高周波電圧(回転電圧及び交番電圧)を印加した場合でも、二次抽出γ軸電流i2hγにおいて、正負の振幅に差が生じる。尚、図8及び図21における電圧ベクトルの軌跡70vは同じものであり、図6及び図21における電流ベクトルの軌跡64iは同じものである。
また、回転電圧が楕円である場合の例として図22及び図23に示したが、回転電圧の楕円の電圧ベクトル軌跡において、γ軸方向を楕円の短軸方向または長軸方向に一致させることは必須ではなく、楕円の長軸または短軸はγ軸からずれていても構わない。また、交番電圧の例として図24を示したが、交番電圧がδ軸上の交番電圧でなければ(即ち、vhγ*≠0、ならば)、どのような交番電圧を検出用電圧として印加しても構わない。
また、極性判別と磁極位置推定は、1パターンの高周波電圧印加による電流にて同時に行うことが可能である。即ち、同一の高周波電圧vhγ*及びvhδ*の印加によって表れる二次抽出γ軸電流i2hγ(及び二次抽出δ軸電流i2hδ)と一次抽出γ軸電流ihγ及び一次抽出δ軸電流ihδとに基づいて、極性判別部20による極性判別及び磁極位置推定部18による磁極位置推定(換言すれば、極性判別と、その判別結果を利用した回転子の磁極位置の0〜2πの範囲内における推定)を同時に行うことが可能である。
但し、極性判別を常に行う必要は必ずしもないため、磁極位置推定とは別(前後、または合間)に極性判別を行うようにしても構わない。この場合、「磁極位置推定を行うために印加する高周波電圧vhγ*及びvhδ*」と「極性判別を行うために印加する高周波電圧vhγ*及びvhδ*」の振幅や周波数を互いに異ならせても構わない。極性判別を行うためにはモータ1を一時的に磁気飽和させるべく比較的大きな電流注入が必要となる一方で、磁極位置推定を行うためにそのような大きな電流注入は必要ないことを考慮し、たとえば、前者(磁極位置推定用)の高周波電圧の振幅を、後者(極性判別用)の高周波電圧の振幅よりも小さくしてもよい。
また、モータ1の駆動制御に影響を与えない周波数及び振幅を有する高周波電圧vhγ*及びvhδ*を、vγ*及びvδ*にて特定される駆動電圧に重畳することによって、モータ1の駆動制御と極性判別を同時に行うことを前提として上記の説明を行ったが、それらを同時に行う必要は必ずしもない。つまり、検出用電圧としての高周波電圧vhγ*及びvhδ*の印加と上記駆動電圧の印加を異なるタイミングで行うようにしても構わない。
また更に、上記駆動電圧の印加による駆動制御と、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の印加による極性判別と、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の印加による磁極位置推定とを、全て同時に行っても良いし、同時に行わなくてもよい。
<<第2実施形態>>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図25は、第2実施形態に係るモータ駆動システムの構成ブロック図である。本実施形態おける駆動制御装置は、図3の2倍周波数BPF19及び極性判別部20が2倍周波数BPF19a及び極性判別部20aに置換されている点で図3の駆動制御装置と相違しており、その他の点において、図3の駆動制御装置(第1実施形態)と一致している。図25において、図3と同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分の重複する説明を原則として省略する。
図25における2倍周波数BPF19aは、二次抽出γ軸電流i2hγを抽出するという図3の2倍周波数BPF19の機能に加えて、第1実施形態でも述べた二次抽出δ軸電流i2hδを抽出する機能を実現するものとなっている。
即ち、2倍周波数BPF19aは、座標変換部12から出力されるγ軸電流iγ及びδ軸電流iδを入力信号として受ける、(2×ωh)の周波数を通過帯域内に含むバンドパスフィルタ(帯域通過フィルタ)である。2倍周波数BPF19aによって、2倍周波数BPF19と同様、二次抽出γ軸電流i2hγが抽出される。更に、2倍周波数BPF19aによって、δ軸電流iδの高周波二次成分(2×ωhの周波数成分)が抽出され(強調され)、その抽出によって得られた信号は、二次抽出δ軸電流i2hδとして出力される。
2倍周波数BPF19aにおいて、γ軸電流iγから二次抽出γ軸電流i2hγを抽出する際のフィルタ特性と、δ軸電流iδから二次抽出δ軸電流i2hδを抽出する際のフィルタ特性は、例えば同じとされる。また、2倍周波数BPF19aのγ軸電流iγから二次抽出γ軸電流i2hγを抽出する際のフィルタ特性と、図3における2倍周波数BPF19のフィルタ特性は同じであるものとする。2倍周波数BPF19aにおいて、(2×ωh)の周波数を通過帯域の中心周波数とする必要は必ずしもないが、直流や駆動電流(iγ*及びiδ*に対応)の周波数を含む低周波は通過帯域に含めるべきではない。例えば、2倍周波数BPF19aの通過帯域の下限周波数は、モータ1の駆動電流の周波数よりも大きく、且つ、2×ωhよりも小さい周波数範囲から選ばれる。
ところで、γ軸とd軸が比較的大きくずれている場合、第1実施形態で示したような二次抽出γ軸電流i2hγの正負の振幅差に基づく極性判別を、正しく行うことができない場合がある。γ軸とd軸が比較的大きくずれている場合において、γ−δ軸上で真円の電圧ベクトル軌跡70vを成す高周波電圧vhγ*及びvhδ*を印加したときの、二次抽出γ軸電流i2hγ及び二次抽出δ軸電流i2hδの電流ベクトル(合成ベクトル)の軌跡を、図26の軌跡81iにより表す。軌跡81iからも分かるように、γ軸とd軸が比較的大きくずれている場合は、二次抽出γ軸電流i2hγの正負の振幅の差が無くなってしまう、あるいは差の符号が反転してしまうといったことが生じ、正しい極性判別が困難となる。
そこで、本実施形態においては、γ軸とd軸が比較的大きくずれている場合でも正しく極性判別が行えるように、極性判別部20aが、2倍周波数BPF19aによって抽出された二次抽出γ軸電流i2hγ及び二次抽出δ軸電流i2hδの双方に基づいて極性判別を行うようにしている。γ−δ軸上で真円の電圧ベクトル軌跡70vを成す高周波電圧vhγ*及びvhδ*を印加した場合を例に挙げて、極性判別部20aの説明を行う。
図26に示す如く、電流ベクトルの軌跡81iはγ―δ軸上で概ね楕円を成すことになるが、その楕円の長軸方向はd軸方向と一致する(このことは、モータ1が非突極機であっても共通する)。そして、その楕円の長軸方向に沿った、軌跡81iを構成する2つのベクトルvc1及びvc2の大きさには、磁気飽和に起因して差が生じる。
ベクトルvc1及びvc2は、原点を始点とし、軌跡81iの楕円の長軸方向に沿って伸びる二次抽出γ軸電流i2hγと二次抽出δ軸電流i2hδの合成ベクトルである。図26において、ベクトルvc1はγ−δ座標上の原点から第4象限の方向に向かって伸びており、ベクトルvc2はγ−δ座標上の原点から第2象限の方向に向かって伸びている。今、図26に示す如く、d軸の向きが原点から第4象限に向かう向きの場合、磁気飽和に起因してベクトルvc1の大きさはベクトルvc2の大きさよりも小さくなる。
極性判別部20aは、これに着目して極性判別を行い、0又はπの補正用位相角を加算器21に供給する。図27に、時間を横軸にとり、i2hγとi2hδの合成ベクトルi2h(軌跡81iを成すベクトル)の大きさの時間変化を表す。極性判別部20aは、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の一周期中における、合成ベクトルi2hの大きさ(合成電流の大きさ)に基づいて極性判別を行う。より具体的には、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の一周期中において合成ベクトルi2hの大きさに最大値を与える位相角にπを加算した位相角の向き(図26においては、ベクトルvc1の向き)を、d軸の向きと判断する(モータ1が非突極機である場合も共通)。図26の例では、合成ベクトルi2hがベクトルvc2と一致する際に、合成ベクトルi2hの大きさが最大となる。
本実施形態のように構成しても、電流の二次抽出成分を利用して極性判別を行われるため、第1実施形態と同様の効果が得られ、安定した極性判別が可能となる。
尚、γ−δ軸上において高周波電圧vhγ*及びvhδ*が成す電圧ベクトル軌跡が真円である場合を例にとって極性判別の手法を例示したが、合成ベクトルi2hのd軸方向の振幅がq軸方向の振幅以下とならない範囲で印加する回転電圧の円形の軌跡を歪ませても構わない。即ち、d軸方向と電流ベクトルの軌跡81iの長軸方向との一致が損なわれない範囲で、回転電圧における高周波γ軸電圧vhγ*の振幅と高周波δ軸電圧vhδ*の振幅を異ならせても構わない。例えば、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の電圧ベクトル軌跡は、γ−δ軸(γ−δ座標)上で原点を中心とし、γ軸方向を長軸方向または短軸方向とする楕円とされる。
高周波電圧vhγ*及びvhδ*の値を作成する際に必要となる高周波電圧vhγ*及びvhδ*の位相θhは、γ軸を基準として設定され、ある時刻tにおいて、回転電圧である高周波電圧vhγ*及びvhδ*の合成ベクトルvh *の位相はωh・tで表される(図45参照)。従って、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の一周期中において、i2hγとi2hδの合成ベクトルi2hの大きさが最大となるタイミング(i2hが図26のvc2と一致するタイミングであり、以下、「タイミングT1」という)における位相ωh・tは、(Δθ+π)となる。
つまり、タイミングT1における位相ωh・tの値に基づけば、0〜2πの範囲内における磁極位置を算出可能である(即ち、軸誤差Δθを算出可能である)。尚、その場合は、図25の磁極位置推定部18を省略することが可能である。
図45は、γ軸及びδ軸との関係における、上記合成ベクトルvh *及びi2hと、一次抽出γ軸電流ihγと一次抽出δ軸電流ihδの合成ベクトルihを示している。合成ベクトルi2hの向きが(Δθ+π)を示すタイミングT1では、ωh・t及びvh *の向きも(Δθ+π)を示し、ihの向きはi2hからπ/2だけ遅れた(Δθ+π/2)を示す。
このため、タイミングT1におけるarctan(i2hδ/i2hγ)またはarctan(vhδ*/vhγ*)を算出することによっても、0〜2πの範囲内における磁極位置を算出することは可能である。それらの算出値は、(Δθ+π)を表すからである。また、タイミングT1におけるarctan(ihδ/ihγ)を算出することによっても、0〜2πの範囲内における磁極位置を算出することは可能である。その算出値は、(Δθ+π/2)を表すからである。
タイミングT1における位相ωh・tやarctan(i2hδ/i2hγ)等は、i2hγとi2hδとによる電流ベクトル軌跡81iの楕円の長軸の傾きを表す情報であり、また、極性を表す情報である。それらの双方の情報を利用すれば0〜2πの範囲内における磁極位置が推定可能であり、長軸の傾きを表す情報のみを利用すれば±π/2の範囲内における磁極位置が推定可能である。「タイミングT1における位相ωh・tやarctan(i2hδ/i2hγ)等に基づいて±π/2の範囲内における磁極位置を検出する」ということは、「電流ベクトル軌跡81iの楕円の長軸の傾き(或るいは、該傾きを表す情報)に基づいて±π/2の範囲内における磁極位置を検出する」ということに含まれる概念である。
また、位相ωh・tやarctan(i2hδ/i2hγ)等に基づく該磁極位置の算出は、モータ1の回転停止時または低速回転時(特に、回転停止時)に、特に正確に行われる。
ここで、低速回転時とは、モータ1の回転速度が高周波電圧作成部22が印加する高周波電圧(vhγ*及びvhδ*)の周波数に比べて十分に低い時を言う。尚、低速回転時は、「実モータ速度ω或いは推定モータ速度ωe、または、それらが追従すべき外部からのモータ速度指令値が、予め定められた速度以下である時」と、考えることもできる。
このように、直流成分や低周波成分が除去された電流の二次抽出成分を利用して磁極位置を推定するようにすれば、磁極位置推定に対する駆動電流や誘起電圧の影響、電流センサ(電流検出器11等)のオフセットの影響が抑制され、停止時に加え、モータ回転時にも安定した磁極位置推定が可能となる。
また、モータ1の回転が停止している時には、d軸、q軸、γ軸及びδ軸等の回転軸は、モータ1の固定子に対して固定された固定軸と等価である。更に、モータ1が回転していても、その回転速度が高周波電圧作成部22が印加する高周波電圧(vhγ*及びvhδ*)の周波数に比べて十分に低い時(低速回転時)には、極性判別等を行うに際してモータ1は停止していると考えても差し支えない(影響は少ない)。
このため、モータ1の回転停止時または低速回転時にあっては、本実施形態において説明した手法は、γ軸及びδ軸に限らず、モータ1の固定子に対して固定された任意の直交するα軸及びβ軸についても適用可能である。つまり、上述の説明文や図25及び図26中の「γ」を「α」に、「δ」を「β」に置換して考えることができる。
具体的には例えば、高周波電圧vhα*及びvhβ*を検出用電圧としてモータ1に印加する。高周波電圧vhα*及びvhβ*は、それぞれ、検出用電圧としての高周波電圧のα軸成分及びβ軸成分であり、α―β軸上での高周波電圧vhα*及びvhβ*の電圧ベクトル軌跡は、例えば、原点を中心とする真円、または、原点を中心としα軸を短軸もしくは長軸とする楕円を成す。そして、モータ1に流れる三相電流を、α軸成分のα軸電流iαとβ軸成分のβ軸電流iβとから成る二相電流に変換し、2倍周波数BPF19aがγ軸電流iγから二次抽出γ軸電流i2hγを抽出する際のフィルタ特性と同じフィルタ特性にて、α軸電流iα及びβ軸電流iβの高周波二次成分(2×ωhの周波数成分)を抽出して(強調して)、二次抽出α軸電流i2hα及び二次抽出β軸電流i2hβを得る。
そうすると、α―β軸上で二次抽出α軸電流i2hαと二次抽出β軸電流i2hβの合成ベクトルが成す電流ベクトル軌跡は楕円を成し、その楕円の長軸方向に沿った2つの電流ベクトル(図26におけるvc1及びvc2に対応)の大きさの大小関係に基づいて、極性判別が可能である。また、i2hαとi2hβの合成ベクトルの大きさが最大となるタイミングにおける位相ωh・tやarctan(i2hβ/i2hα)等に基づいて、磁極位置を推定することも可能である。この磁極位置の算出は、モータ1の回転停止時または低速回転時(特に、回転停止時)に、特に正確に行われる。
<<第3実施形態>>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図28は、第3実施形態に係るモータ駆動システムの構成ブロック図である。本実施形態おける駆動制御装置は、図3の極性判別部20及び高周波電圧作成部22が極性判別部20b及び高周波電圧作成部22bに置換されている点で図3の駆動制御装置と相違しており、その他の点において、図3の駆動制御装置(第1実施形態)と一致している。図28において、他の図(図3等)と同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分の重複する説明を原則として省略する。
高周波電圧作成部22bは、図3の高周波電圧作成部22と同様、検出用電圧としての高周波電圧vhγ*及びvhδ*を作成して、それらを加算器23及び24に出力するものであるが、その高周波電圧vhγ*及びvhδ*(特に、vhγ*の振幅)は、2倍周波数BPF19が抽出した二次抽出γ軸電流i2hγの正負の振幅差がなくなるように制御される。
図29に、高周波電圧作成部22bが出力する高周波電圧vhγ*及びvhδ*の電圧ベクトル軌跡を軌跡82vにて表し、二次抽出γ軸電流i2hγ及び二次抽出δ軸電流i2hδの電流ベクトル軌跡を軌跡83iにて表す。図30に、高周波電圧作成部22bから出力される高周波電圧vhγ*の波形を示す。尚、図29にも表されているが、本実施形態は、γ軸とd軸の方向が略一致している場合を想定している。
図29の軌跡83iに示す如く、二次抽出γ軸電流i2hγの正負の振幅差は(略)ゼロとなっている。その振幅差をゼロとする制御と、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の印加による磁気飽和とによって、高周波γ軸電圧vhγ*の正負の振幅に差が生じる。図29及び図30に示す例では、γ軸とd軸の向きは一致しており、高周波γ軸電圧vhγ*の正の振幅と負の振幅との比較において、正の振幅の方が小さくなっている。
極性判別部20bは、高周波電圧vhγ*の正の振幅と負の振幅との比較において、正の振幅の方が小さくなっている場合は、補正用位相角として電気角0を加算器21に出力し、負の振幅の方が小さくなっている場合は、補正用位相角として電気角πを加算器21に出力する。
本実施形態のように構成しても、電流の二次抽出成分を利用して極性判別を行われるため、第1実施形態と同様の効果が得られ、安定した極性判別が可能となる。
また、極性判別部20bを、図17の極性判別部20のように構成してもよい。即ち、高周波γ軸電圧vhγ*にcos2ωht等を乗じて得られた値の直流成分に基づいて極性判別を行うようにしても良い。
また、検出用電圧としての高周波電圧vhγ*及びvhδ*がγ−δ軸上の回転電圧である場合の例を図29及び図30に示したが、高周波電圧vhγ*及びvhδ*は交番電圧であってもよい。高周波電圧を交番電圧としても、vhγ*の正負の振幅に極性に応じた差が表れるからである。該交番電圧は、例えばγ軸上の交番電圧(即ち、vhδ*=0)とされるが、δ軸上の交番電圧でなければ(即ち、vhγ*≠0、ならば)、どのような交番電圧にしてもよい。
<<第4実施形態>>
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図31は、第4実施形態に係るモータ駆動システムの構成ブロック図である。第1実施形態を第2実施形態に変形したのと同様に、第3実施形態を変形したものが本実施形態であり、本実施形態は、d軸とγ軸が比較的大きくずれている場合などにおいても適用可能となっている。
本実施形態における駆動制御装置は、図3の2倍周波数BPF19、極性判別部20及び高周波電圧作成部22が2倍周波数BPF19a、極性判別部20c及び高周波電圧作成部22cに置換されている点で図3の駆動制御装置と相違しており、その他の点において、図3の駆動制御装置(第1実施形態)と一致している。図31において、他の図(図3及び図25等)と同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分の重複する説明を原則として省略する。
高周波電圧作成部22cは、図3の高周波電圧作成部22と同様、検出用電圧として回転電圧の高周波電圧vhγ*及びvhδ*を作成して、それらを加算器23及び24に出力するものであるが、その高周波電圧vhγ*及びvhδ*は、2倍周波数BPF19aが抽出した二次抽出γ軸電流i2hγ及び二次抽出δ軸電流i2hδの双方における正負の振幅差がなくなるように、且つ二次抽出γ軸電流i2hγと二次抽出δ軸電流i2hδの振幅が等しくなるように、制御される。但し、後にも述べるが、二次抽出γ軸電流i2hγと二次抽出δ軸電流i2hδの振幅を等しくすることは、必須ではない。
図32及び図33に、γ―δ軸上における、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の電圧ベクトル軌跡85vと二次抽出γ軸電流i2hγ及び二次抽出δ軸電流i2hδの電流ベクトル軌跡86iを示す。γ−δ軸上で、電流ベクトル軌跡86iは略楕円を成し、図33に示す如く、二次抽出γ軸電流i2hγの正負の振幅差と二次抽出δ軸電流i2hδの正負の振幅差は、共に(略)ゼロとなっている。
この場合、電圧ベクトル軌跡85vはγ―δ軸上で(略)楕円を成すことになるが、その楕円の短軸方向はd軸方向と一致する(このことは、モータ1が非突極機であっても共通する)。そして、その楕円の短軸方向に沿った、軌跡85vを構成する2つのベクトルvc3及びvc4の大きさには、磁気飽和に起因して差が生じる。
ベクトルvc3及びvc4は、原点を始点とし、軌跡85vの楕円の短軸方向に沿って伸びる高周波電圧vhγ*とvhδ*の合成ベクトルvh *であり、図32において、ベクトルvc3はγ−δ座標上の原点から第4象限の方向に向かって伸びており、ベクトルvc4はγ−δ座標上の原点から第2象限の方向に向かって伸びている。今、図32に示す如く、d軸の向きが原点から第2象限に向かう向きの場合、ベクトルvc3の大きさはベクトルvc4の大きさよりも大きくなる。
極性判別部20cは、これに着目して極性判別を行い、0又はπの補正用位相角を加算器21に供給する。つまり、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の一周期中における、合成ベクトルvh *の大きさ(合成電圧の大きさ、即ち、回転電圧の大きさ)に基づいて極性判別を行う。より具体的には、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の一周期中において合成ベクトルvh *の大きさに最小値を与える位相角の向き(図32においては、ベクトルvc4の向き)を、d軸の向きと判断する(モータ1が非突極機である場合も共通)。図32の例では、合成ベクトルvh *がベクトルvc4と一致する際に、合成ベクトルvh *の大きさが最小となる。
本実施形態のように構成しても、電流の二次抽出成分を利用して極性判別を行われるため、第1実施形態と同様の効果が得られ、安定した極性判別が可能となる。
尚、vhγ*とvhδ*の合成ベクトルvh *のd軸方向の振幅がq軸方向の振幅以上とならない範囲であれば、適宜電流ベクトル軌跡86iを歪ませても構わない。即ち、d軸方向と電圧ベクトル軌跡85vの短軸方向との一致が損なわれない範囲であれば、二次抽出γ軸電流i2hγと二次抽出δ軸電流i2hδの振幅を異ならせても構わない。
また、第2実施形態にて説明したのと同様、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の値を作成する際に必要となる高周波電圧vhγ*及びvhδ*の位相θhは、γ軸を基準として設定され、ある時刻tにおいて、回転電圧である高周波電圧vhγ*及びvhδ*の合成ベクトルvh *の位相はωh・tで表される(図45参照)。従って、高周波電圧vhγ*及びvhδ*の一周期中において、vhγ*とvhδ*の合成ベクトルvh *の大きさが最小となるタイミング(vh *が図32のvc4と一致するタイミングであり、以下「タイミングT2」という)における位相ωh・tは、Δθとなる。
つまり、タイミングT2における位相ωh・tの値に基づけば、0〜2πの範囲内における磁極位置を算出可能である(即ち、軸誤差Δθを算出可能である)。尚、その場合は、図31の磁極位置推定部18を省略することが可能である。
合成ベクトルvh *の向きがΔθを示すタイミングT2では、ωh・t及びi2h(i2hγとi2hδの合成ベクトル)の向きもΔθを示し、ih(ihγとihδの合成ベクトル)の向きはi2hからπ/2だけ遅れた(Δθ−π/2)を示す。
このため、図45からも理解できるように、タイミングT2におけるarctan(i2hδ/i2hγ)またはarctan(vhδ*/vhγ*)を算出することによっても、0〜2πの範囲内における磁極位置を算出することは可能である。それらの算出値は、Δθを表すからである。また、タイミングT2におけるarctan(ihδ/ihγ)を算出することによっても、0〜2πの範囲内における磁極位置を算出することは可能である。それらの算出値は、(Δθ−π/2)を表すからである。
タイミングT2における位相ωh・tやarctan(i2hδ/i2hγ)等は、高周波電圧vhγ*及びvhδ*(回転電圧)が成す電圧ベクトル軌跡85vの楕円の短軸の傾きを表す情報であり、また、極性を表す情報である。それらの双方の情報を利用すれば0〜2πの範囲内における磁極位置が推定可能であり、短軸の傾きを表す情報のみを利用すれば±π/2の範囲内における磁極位置が推定可能である。「タイミングT2における位相ωh・tやarctan(i2hδ/i2hγ)等に基づいて±π/2の範囲内における磁極位置を検出する」ということは、「電圧ベクトル軌跡85vの楕円の短軸の傾き(或るいは、該傾きを表す情報)に基づいて±π/2の範囲内における磁極位置を検出する」ということに含まれる概念である。
また、位相ωh・tやarctan(i2hδ/i2hγ)等に基づく該磁極位置の算出は、モータ1の回転停止時または低速回転時(特に、回転停止時)に、特に正確に行われる。
電圧ベクトル軌跡85vの楕円の短軸の傾きに基づいて磁極位置推定を行っても、電流の二次抽出成分を利用して磁極位置推定が行われることになるため、第2実施形態と同様の効果が得られ、安定した磁極位置推定が可能となる。
また、第2実施形態と同様、モータ1の回転停止時または低速回転時にあっては、本実施形態において説明した手法は、γ軸及びδ軸に限らず、モータ1の固定子に対して固定された任意の直交するα軸及びβ軸についても適用可能である。つまり、上述の説明文や図31〜図33中の「γ」を「α」に、「δ」を「β」に置換して考えることができる。
具体的には例えば、二次抽出α軸電流i2hα及び二次抽出β軸電流i2hβに基づきつつ、回転電圧である高周波電圧vhα*及びvhβ*を検出用電圧としてモータ1に印加する。高周波電圧vhα*及びvhβ*は、それぞれ、検出用電圧としての高周波電圧のα軸成分及びβ軸成分である。そして、モータ1に流れる三相電流を、α軸成分のα軸電流iαとβ軸成分のβ軸電流iβとから成る二相電流に変換し、2倍周波数BPF19aがγ軸電流iγから二次抽出γ軸電流i2hγを抽出する際のフィルタ特性と同じフィルタ特性にて、α軸電流iα及びβ軸電流iβの高周波二次成分(2×ωhの周波数成分)を抽出して(強調して)、二次抽出α軸電流i2hα及び二次抽出β軸電流i2hβを得る。
高周波電圧vhα*及びvhβ*は、二次抽出α軸電流i2hα及び二次抽出β軸電流i2hβの双方における正負の振幅差がなくなるように、且つ二次抽出α軸電流i2hαと二次抽出β軸電流i2hβの振幅が等しくなるように、制御される。但し、二次抽出α軸電流i2hαと二次抽出β軸電流i2hβの振幅を等しくすることは、必須ではない。
そうすると、α―β軸上で高周波電圧vhα*とvhβ*の合成ベクトルが成す電圧ベクトル軌跡は(略)楕円を成し、その楕円の短軸方向に沿った2つの電圧ベクトル(図32におけるvc3及びvc4に対応)の大きさの大小関係に基づいて、極性判別が可能である。
また、高周波電圧vhα*とvhβ*の合成ベクトルの大きさが最小となるタイミングにおける位相ωh・tやarctan(i2hβ/i2hα)等に基づいて、磁極位置を推定することも可能である。この磁極位置の算出は、モータ1の回転停止時または低速回転時(特に、回転停止時)に、特に正確に行われる。
<<第5実施形態>>
次に、本発明の第5実施形態について説明する。図34は、第5実施形態に係るモータ駆動システムの構成ブロック図である。図34において、他の図(図3等)と同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分の重複する説明を原則として省略する。
本実施形態おける駆動制御装置は、電流検出器11、座標変換部12、減算器13及び14、電流制御部15、1倍周波数BPF(バンドパスフィルタ)17d、磁極位置推定部18d、2倍周波数BPF(バンドパスフィルタ)19d、極性判別部20d、加算器21、座標変換部25、高周波電流作成部26、並びに加算器27及び28を有して構成される。
高周波電流作成部26は、高周波γ軸電流(高周波γ軸電流指令値)ihγ*及び高周波δ軸電流(高周波δ軸電流指令値)ihδ*を作成し、それらを加算器27及び28に出力する。高周波γ軸電流ihγ*及び高周波δ軸電流ihδ*は、それぞれ、回転子の極性を判別すること等を目的としてモータ1に供給される検出用電流としての高周波電流のγ軸成分及びδ軸成分である。以下、高周波γ軸電流ihγ*及び高周波δ軸電流ihδ*を、夫々、高周波電流ihγ*及び高周波電流ihδ*と記すことがある。尚、高周波電流ihγ*及びihδ*は、γ軸電流指令値iγ*及びδ軸電流指令値iδ*に重畳される重畳電流と考えることができる。
加算器27は、γ軸電流指令値iγ*と高周波γ軸電流ihγ*とを加算する。加算器28は、δ軸電流指令値iδ*と高周波δ軸電流ihδ*とを加算する。減算器13は、加算器27の加算結果(iγ*+ihγ*)と座標変換部12からのγ軸電流iγとの電流誤差を算出する。減算器14は、加算器28の加算結果(iδ*+ihδ*)と座標変換部12からのδ軸電流iδとの電流誤差を算出する。
電流制御部15は、減算器13及び14にて算出された各電流誤差を受け、各電流誤差がゼロに追従するようにγ軸電圧指令値vγ*とδ軸電圧指令値vδ*を出力する。この際、座標変換部12からのγ軸電流iγ及びδ軸電流iδが参照され得る。
座標変換部25は、加算器21からの推定磁極位置θeに基づきつつ、2相の電圧指令値であるγ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*を、モータ電圧VaのU相成分、V相成分及びW相成分を表すU相電圧指令値vu *、V相電圧指令値vv *及びW相電圧指令値vw *から成る三相の電圧指令値に逆変換し、それらをPWMインバータ2に出力する。この逆変換には、下記の2つの等式から成る式(3)を用いる。
γ軸電流指令値iγ*及びδ軸電流指令値iδ*にて表される電流は、モータ1を駆動するための駆動電流であり、高周波電流ihγ*及びihδ*にて表される電流は、モータ1の回転子の極性(及び磁極位置)を検出するための検出用電流である。高周波電流ihγ*及びihδ*は、高周波の交番電流または回転電流である。ここで、「高周波」とは、その高周波電流ihγ*及びihδ*の周波数が駆動電流の周波数よりも十分に大きいことを意味している。以下、高周波電流ihγ*及びihδ*の周波数を、第1〜第4実施形態における高周波電圧vhγ*及びvhδ*の周波数と同じく、ωhと表記する。尚、上記の交番電流及び回転電流は、モータ1に同期しない高周波の電流であるため、この電流の供給によってモータ1が回転することはない(或いは殆ど回転しない)。
γ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*にて表される電圧には、モータ1に上記駆動電流を流すためにモータ1へ印加される駆動電圧と、モータ1に上記検出用電流を流すためにモータ1へ印加される検出用電圧とが含まれている。
高周波電流ihγ*及びihδ*の重畳に応じた高周波の電流がモータ1に流れることになるが、回転子磁束(永久磁石1aが作る磁束)の向きと固定子磁束(モータ1の固定子に設けられた電機子巻線が作る磁束)の向きとが一致するタイミングにおいて、その高周波電流のγ軸成分によってモータ1に磁気飽和が起こるように、高周波電流ihγ*及びihδ*の値は設定される。
2倍周波数BPF19dは、γ軸電圧指令値vγ*を入力信号として受ける、(2×ωh)の周波数を通過帯域内に含むバンドパスフィルタ(帯域通過フィルタ)である。2倍周波数BPF19dによって、γ軸電圧指令値vγ*の高周波二次成分(2×ωhの周波数成分)が抽出され(強調され)、その抽出によって得られた信号は、二次抽出γ軸電圧(二次抽出γ軸電圧指令値)v2hγ*として出力される。2倍周波数BPF19dにおいて、(2×ωh)の周波数を通過帯域の中心周波数とする必要は必ずしもないが、直流や駆動電流(iγ*及びiδ*に対応)の周波数を含む低周波は通過帯域に含めるべきではない。例えば、2倍周波数BPF19dの通過帯域の下限周波数は、モータ1の駆動電流の周波数よりも大きく、且つ、2×ωhよりも小さい周波数範囲から選ばれる。
図35の軌跡87iは、γ軸を横軸、δ軸を縦軸にとった、高周波電流ihγ*及びihδ*の電流ベクトル軌跡(合成ベクトルの電流ベクトル軌跡)を表しており、軌跡88vは、二次抽出γ軸電圧v2hγ*及び二次抽出δ軸電圧v2hδ*の電圧ベクトル軌跡(合成ベクトルの電圧ベクトル軌跡)を表している。二次抽出δ軸電圧(二次抽出δ軸電圧指令値)v2hδ*は、γ軸電圧指令値vγ*から二次抽出γ軸電圧v2hγ*を抽出したのと同様に、δ軸電圧指令値vδ*から二次成分を抽出したものに相当する(抽出手法は、第6実施形態で詳説する)。図36(d)の波形89は、電圧ベクトル軌跡88vに対応する二次抽出γ軸電圧v2hγ*の時間変化を表す波形である。
図35及び図36は、検出用電流としての高周波電流ihγ*及びihδ*が回転電流であり、d軸とγ軸の向きが略一致している場合を例示している。電流制御部15は、(ihγ*+iγ*−iγ)がゼロに追従するようなγ軸電圧指令値vγ*(及びδ軸電圧指令値vδ*)を作成する。この結果、図35に示す如く、高周波γ軸電流ihγ*の正負の振幅差がゼロ(あるいは略ゼロ)になるような電圧がモータ1に印加される。
高周波γ軸電流ihγ*の正負の振幅差がゼロであっても、磁気飽和の影響によって、二次抽出γ軸電圧v2hγ*の正負の振幅に差が生じている。本実施形態の構成例では、d軸とγ軸の向きが(略)一致している場合に、二次抽出γ軸電圧v2hγ*の正の振幅が負の振幅より大きくなる。
2倍周波数BPF19dの動作について詳細な説明を加えておく。γ軸とd軸が(略)一致しており、モータ1が停止し且つ駆動電圧が印加されていない場合を例にとる。この場合、図36(a)に示されるように、vγ*の位相はihγ*の位相からπ/2だけ進み、vγ*において、正側の振幅がやや小さくなる。このvγ*を一次成分(1×ωhの周波数成分)と二次成分(2×ωhの周波数成分)に分解すると、図36(b)のようになる。逆に、図36(b)に示すvγ*の一次成分と二次成分を合成すると、正側の振幅の小さいvγ*の波形が得られることになる。
このvγ*の二次成分を強調するために2倍周波数BPF19dが存在している。vγ*の二次成分が強調された二次抽出γ軸電圧v2hγ*を一次成分と二次成分に分解した波形を、図36(c)に示す。2倍周波数BPF19dの通過帯域の中心周波数となるv2hγ*の二次成分は、振幅が増幅され、位相はvγ*の二次成分の位相と同じである。中心周波数でないv2hγ*の一次成分の位相はvγ*の一次成分の位相から約π/2だけ進む。高周波電流ihγ*及びihδ*の周波数は1×ωhであるため、二次成分を強調した二次抽出γ軸電圧v2hγ*においても、一次成分は強く残っている。
v2hγ*の一次成分と二次成分を(主として)合成したものが、図36(d)の波形89に示すv2hγ*に相当する。v2hγ*の位相はvγ*の位相から約π/2だけ進み、v2hγ*とihγ*の位相は約πだけずれる。v2hγ*において、正側の振幅は大きく、また正負の振幅差は強調される。尚、モータ1を回転させた場合における誘起電圧や駆動電流は、検出用電流よりも周波数が十分低いため、それらの成分の影響は2倍周波数BPF19dを通すことにより、ほぼなくなる。
極性判別部20dは、二次抽出γ軸電圧v2hγ*の正負の振幅の大小を比較し、正の振幅が負の振幅よりも大きければ磁極位置推定部18dによって推定された磁極位置の極性が正しいと判断して、磁極位置推定部18dが推定した磁極位置を加算器21を介してそのまま推定磁極位置θeとして座標変換部12等に出力させる。逆に、正の振幅が負の振幅よりも小さければ磁極位置推定部18dによって推定された磁極位置の極性に誤りがある(即ち、πずれている)と判断して、加算器21を用いて磁極位置推定部18dが推定した磁極位置に電気角πを加算する補正を施し、補正後の磁極位置を推定磁極位置θeとして座標変換部12等に出力させる。推定磁極位置θeは、0〜2πの範囲内(0≦θe<2π)の位相角をとる。
このように、直流成分ではなく電圧波形の歪みに基づいて(直流成分や低周波成分が除去された電圧の二次抽出成分を利用して)極性判別を行われるため、極性判別に対する駆動電流や誘起電圧の影響、電流センサ(電流検出器11)のオフセットの影響が抑制され、停止時に加え、モータ回転時にも安定した極性判別が可能となる。
1倍周波数BPF17dは、γ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*を入力信号として受ける、(1×ωh)の周波数を通過帯域内に含むバンドパスフィルタ(帯域通過フィルタ)である。1倍周波数BPF17dからは、γ軸電圧指令値vγ*の高周波一次成分(1×ωhの周波数成分)を抽出した(強調した)一次抽出γ軸電圧vhγ*と、δ軸電圧指令値vδ*の高周波一次成分(1×ωhの周波数成分)を抽出した(強調した)一次抽出δ軸電圧vhδ*が出力される。1倍周波数BPF17dにおいては、(2×ωh)の周波数及びそれ以上の周波数は通過帯域外とされ、例えば(1×ωh)の周波数が通過帯域の中心周波数とされる。
磁極位置推定部18dは、一次抽出γ軸電圧vhγ*及び一次抽出δ軸電圧vhδ*に基づいて、回転子の磁極位置を±π/2の範囲内で推定する。磁極位置推定部18dは、図3の磁極位置推定部18と同様に構成できる。つまり、例えば、積(vhγ*×vhδ*)の直流成分がゼロに収束するように比例積分制御することによって、回転子の磁極位置を±π/2の範囲内で推定するとよい。磁極位置推定部18dによって算出された±π/2の範囲内の磁極位置は加算器21を用いて補正され、0〜2πの範囲内における磁極位置が推定される。
また、極性判別部20dを、図17の極性判別部20のように構成してもよい。即ち、二次抽出γ軸電圧v2hγ*にcos2ωht等を乗じて得られた値の直流成分に基づいて極性判別を行うようにしても良い。
また、検出用電流として回転電流の高周波電流ihγ*及びihδ*を供給する場合、その回転電流のγ―δ軸上での電流ベクトル軌跡は、例えば、原点を中心とする真円、または、原点を中心としγ軸方向を短軸方向または長軸方向とする楕円を成す。また、回転電流の楕円の電流ベクトル軌跡において、γ軸方向を楕円の短軸方向または長軸方向に一致させることは必須ではなく、楕円の長軸または短軸はγ軸からずれていても構わない。
また、高周波電流ihγ*及びihδ*は交番電流であってもよい。高周波電流を交番電流としても、v2hγ*の正負の振幅に極性に応じた差が表れるからである。該交番電流は、例えばγ軸上の交番電流(即ち、ihδ*=0)とされるが、δ軸上の交番電流でなければ(即ち、ihγ*≠0、ならば)、どのような交番電流にしてもよい。
<<第6実施形態>>
次に、本発明の第6実施形態について説明する。図37は、第6実施形態に係るモータ駆動システムの構成ブロック図である。本実施形態おける駆動制御装置は、図34の2倍周波数BPF19d及び極性判別部20dが2倍周波数BPF19e及び極性判別部20eに置換されている点で図34の駆動制御装置と相違しており、その他の点において、図34の駆動制御装置(第5実施形態)と一致している。図37において、他の図(図3及び図34等)と同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分の重複する説明を原則として省略する。
本実施形態(図37)は、第1実施形態(図3)を第2実施形態(図25)に変更したしたのと同様の主旨にて、第5実施形態(図34)を変形した実施形態に相当している。
図37における2倍周波数BPF19eは、二次抽出γ軸電圧v2hγ*を抽出するという図34の2倍周波数BPF19dの機能に加えて、第5実施形態でも述べた二次抽出δ軸電圧v2hδ*を抽出する機能を実現するものとなっている。
即ち、2倍周波数BPF19eは、γ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*を入力信号として受ける、(2×ωh)の周波数を通過帯域内に含むバンドパスフィルタ(帯域通過フィルタ)である。2倍周波数BPF19eによって、2倍周波数BPF19dと同様、二次抽出γ軸電圧v2hγ*が抽出される。更に、2倍周波数BPF19eによって、δ軸電圧指令値vδ*の高周波二次成分(2×ωhの周波数成分)が抽出され(強調され)、その抽出によって得られた信号は、二次抽出δ軸電圧v2hδ*として出力される。
2倍周波数BPF19eにおいて、γ軸電圧指令値vγ*から二次抽出γ軸電圧v2hγ*を抽出する際のフィルタ特性と、δ軸電圧指令値vδ*から二次抽出δ軸電圧v2hδ*を抽出する際のフィルタ特性は、例えば同じとされる。また、2倍周波数BPF19eのγ軸電圧指令値vγ*から二次抽出γ軸電圧v2hγ*を抽出する際のフィルタ特性と、図34における2倍周波数BPF19dのフィルタ特性は同じであるものとする。2倍周波数BPF19eにおいて、(2×ωh)の周波数を通過帯域の中心周波数とする必要は必ずしもないが、直流や駆動電流(iγ*及びiδ*に対応)の周波数を含む低周波は通過帯域に含めるべきではない。例えば、2倍周波数BPF19eの通過帯域の下限周波数は、モータ1の駆動電流の周波数よりも大きく、且つ、2×ωhよりも小さい周波数範囲から選ばれる。
極性判別部20eは、γ軸とd軸が比較的大きくずれている場合でも正しく極性判別が行えるように、2倍周波数BPF19eによって抽出された二次抽出γ軸電圧v2hγ*及び二次抽出δ軸電圧v2hδ*の双方に基づいて極性判別を行うようにしている。
図38に、γ−δ軸上において、高周波電流ihγ*及びihδ*が成す電流ベクトル軌跡を軌跡90iにより表し、二次抽出γ軸電圧v2hγ*及び二次抽出δ軸電圧v2hδ*が成す電圧ベクトル軌跡を軌跡91vにより表す。図38は、γ軸とd軸が比較的大きくずれている場合を想定している。
電流制御部15は、(ihγ*+iγ*−iγ)及び(ihδ*+iδ*−iδ)の双方がゼロに追従するようなγ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*を作成する。この結果、図38の電流ベクトル軌跡90iにも表されているように、高周波電流ihγ*及びihδ*の双方における正負の振幅差がゼロ(あるいは略ゼロ)になるように、且つihγ*とihδ*の振幅が等しくなるように、γ軸電圧指令値vγ*及びδ軸電圧指令値vδ*は作成される。但し、後にも述べるが、ihγ*とihδ*の振幅を等しくすることは必須ではない。
上記のような高周波電流ihγ*及びihδ*を供給すると、二次成分の電圧ベクトル軌跡91vは略楕円形状を成すが、磁気飽和に起因して、その楕円の短軸方向に沿った、軌跡91vを構成する2つのベクトルvc5とvc6の大きさには差が生じる。
ベクトルvc5及びvc6は、原点を始点とし、軌跡91vの楕円の短軸方向に沿って伸びる二次抽出γ軸電圧v2hγ*と二次抽出δ軸電圧v2hδ*の合成ベクトルである。図38において、ベクトルvc5はγ−δ座標上の原点から第4象限の方向に向かって伸びており、ベクトルvc6はγ−δ座標上の原点から第2象限の方向に向かって伸びている。今、図38に示す如く、d軸の向きが原点から第4象限に向かう向きの場合、ベクトルvc5の大きさはベクトルvc6の大きさよりも大きくなる。
極性判別部20eは、これに着目して極性判別を行い、0又はπの補正用位相角を加算器21に供給する。つまり、高周波電流ihγ*及びihδ*の一周期中における、v2hγ*とv2hδ*の合成ベクトルv2h *の大きさ(合成電圧の大きさ)に基づいて極性判別を行う。より具体的には、高周波電流ihγ*及びihδ*の一周期中において合成ベクトルv2h *の大きさに最小値を与える位相角にπを加算した位相角の向き(図38においては、ベクトルvc5の向き)を、d軸の向きと判断する(モータ1が非突極機である場合も共通)。図38の例では、合成ベクトルv2h *がベクトルvc6と一致する際に、合成ベクトルv2h *の大きさが最小となる。
本実施形態のように構成しても、電圧の二次抽出成分を利用して極性判別を行われるため、第5実施形態と同様の効果が得られ、安定した極性判別が可能となる。
尚、v2hγ*とv2hδ*の合成ベクトルv2h *のd軸方向の振幅がq軸方向の振幅以上とならない範囲で供給する回転電流の円形の軌跡を歪ませても構わない。即ち、d軸方向と電圧ベクトル軌跡91vの短軸方向との一致が損なわれない範囲で、回転電流における高周波γ軸電流ihγ*の振幅と高周波δ軸電流ihδ*の振幅を異ならせても構わない。γ―δ軸上で高周波電流ihγ*及びihδ*が成す電流ベクトル軌跡は、例えば、原点を中心とする真円、または、原点を中心としγ軸方向を短軸方向または長軸方向とする楕円を成す。
高周波電流ihγ*及びihδ*の値を作成する際に必要となる高周波電流ihγ*及びihδ*の位相θhは、γ軸を基準として設定され、ある時刻tにおいて、回転電流である高周波電流ihγ*及びihδ*の合成ベクトルih *の位相はωh・tで表される(図46参照)。従って、高周波電流ihγ*及びihδ*の一周期中において、v2hγ*とv2hδ*の合成ベクトルv2h *の大きさが最小となるタイミング(v2h *が図38のvc6と一致するタイミングであり、以下、「タイミングT3」という)における位相ωh・tは、Δθとなる。
つまり、タイミングT3における位相ωh・tの値に基づけば、0〜2πの範囲内における磁極位置を算出可能である(即ち、軸誤差Δθを算出可能である)。尚、その場合は、図37の磁極位置推定部18dを省略することが可能である。
図46は、γ軸及びδ軸との関係における、上記合成ベクトルih *及びv2h *と、一次抽出γ軸電圧vhγ*と一次抽出δ軸電圧vhδ*の合成ベクトルvh *を示している。合成ベクトルv2h *の向きが(Δθ+π)を示すタイミングT3では、ωh・t及びih *の向きはΔθを示し、vh *の向きはv2h *からπ/2だけ遅れた(Δθ+π/2)を示す。
このため、タイミングT3におけるarctan(ihδ*/ihγ*)を算出することによっても、0〜2πの範囲内における磁極位置を算出することは可能である。その算出値は、Δθを表すからである。また、タイミングT3におけるarctan(v2hδ*/v2hγ*)を算出することによっても、0〜2πの範囲内における磁極位置を算出することは可能である。その算出値は、(Δθ+π)を表すからである。また、また、タイミングT3におけるarctan(vhδ*/vhγ*)を算出することによっても、0〜2πの範囲内における磁極位置を算出することは可能である。その算出値は、(Δθ+π/2)を表すからである。
タイミングT3における位相ωh・tやarctan(v2hδ*/v2hγ*)等は、v2hγ*とv2hδ*とによる電圧ベクトル軌跡91vの楕円の短軸の傾きを表す情報であり、また、極性を表す情報である。それらの双方の情報を利用すれば0〜2πの範囲内における磁極位置が推定可能であり、短軸の傾きを表す情報のみを利用すれば±π/2の範囲内における磁極位置が推定可能である。「タイミングT3における位相ωh・tやarctan(v2hδ*/v2hγ*)等に基づいて±π/2の範囲内における磁極位置を検出する」ということは、「電圧ベクトル軌跡91vの楕円の短軸の傾き(或るいは、該傾きを表す情報)に基づいて±π/2の範囲内における磁極位置を検出する」ということに含まれる概念である。
また、位相ωh・tやarctan(v2hδ*/v2hγ*)等に基づく該磁極位置の算出は、モータ1の回転停止時または低速回転時(特に、回転停止時)に、特に正確に行われる。
ここで、低速回転時とは、モータ1の回転速度が高周波電流作成部26が供給する高周波電流(ihγ*及びihδ*)の周波数に比べて十分に低い時を言う。尚、低速回転時は、「実モータ速度ω或いは推定モータ速度ωe、または、それらが追従すべき外部からのモータ速度指令値が、予め定められた速度以下である時」と、考えることもできる。
このように、直流成分や低周波成分が除去された電圧の二次抽出成分を利用して磁極位置を推定するようにすれば、磁極位置推定に対する駆動電流や誘起電圧の影響、電流センサ(電流検出器11等)のオフセットの影響が抑制され、停止時に加え、モータ回転時にも安定した磁極位置推定が可能となる。
また、第2及び第4実施形態と同様、モータ1の回転停止時または低速回転時にあっては、本実施形態において説明した手法は、γ軸及びδ軸に限らず、モータ1の固定子に対して固定された任意の直交するα軸及びβ軸についても適用可能である。つまり、上述の説明文や図37及び図38中の「γ」を「α」に、「δ」を「β」に置換して考えることができる。
具体的には例えば、回転電流である高周波電流ihα*及びihα*の双方における正負の振幅差がゼロ(あるいは略ゼロ)になるように、α軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*を作成する。高周波電流ihα*及びihα*は、それぞれ検出用電流としての高周波電流のα軸成分及びβ軸成分である。α軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*は、それぞれ電圧指令値のα軸成分及びβ軸成分であり、それらは座標変換部25によって3相の電圧指令値に変換される。2倍周波数BPFeがγ軸電圧指令値vγ*から二次抽出γ軸電圧v2hγ*を抽出する際のフィルタ特性と同じフィルタ特性にて、α軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧指令値vβ*の高周波二次成分(2×ωhの周波数成分)を抽出して(強調して)、二次抽出α軸電圧v2hα*及び二次抽出β軸電圧v2hβ*を得る。
そうすると、α―β軸上で二次抽出α軸電圧v2hα*及び二次抽出β軸電圧v2hβ*の合成ベクトルが成す電圧ベクトル軌跡は(略)楕円を成し、その楕円の短軸方向に沿った2つの電圧ベクトル(図38におけるvc5及びvc6に対応)の大きさの大小関係に基づいて、極性判別が可能である。
また、v2hα*とv2hβ*の合成ベクトルの大きさが最小となるタイミングにおける位相ωh・tやarctan(v2hβ*/v2hα*)等に基づいて、磁極位置を推定することも可能である。この磁極位置の算出は、モータ1の回転停止時または低速回転時(特に、回転停止時)に、特に正確に行われる。
<<第7実施形態>>
次に、本発明の第7実施形態について説明する。図39は、第7実施形態に係るモータ駆動システムの構成ブロック図である。本実施形態おける駆動制御装置は、図34の極性判別部20d及び高周波電流作成部26が極性判別部20f及び高周波電流作成部26fに置換されている点で図34の駆動制御装置と相違しており、その他の点において、図34の駆動制御装置(第5実施形態)と一致している。図39において、他の図(図3及び図34等)と同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分の重複する説明を原則として省略する。
本実施形態(図39)は、第1実施形態(図3)を第3実施形態(図28)に変更したしたのと同様の主旨にて、第5実施形態(図34)を変形した実施形態に相当している。尚、本実施形態は、γ軸とd軸の方向が略一致している場合を想定している。
つまり、高周波電流作成部26fは、図34の高周波電流作成部26と同様、高周波電流ihγ*及びihδ*を作成し、それらを加算器27及び28に出力するものであるが、その高周波電流ihγ*及びihδ*(特に、ihγ*の振幅)は、2倍周波数BPF19dによって抽出された二次抽出γ軸電圧v2hγ*の正負の振幅差がなくなるように制御される。
図35の、二次抽出γ軸電圧v2hγ*と二次抽出δ軸電圧v2hδ*とが成す電圧ベクトル軌跡88vを参照して考えると、その電圧ベクトル軌跡88vの正の振幅側が減少する方向に制御を行うのである。そうすると、磁気飽和に起因して、検出用電流としての高周波電流ihγ*の正負の振幅に差が生じるため、その振幅の大小関係に基づいて極性判別が可能である。
本実施形態のように構成しても、電圧の二次抽出成分を利用して極性判別を行われるため、第5実施形態と同様の効果が得られ、安定した極性判別が可能となる。
また、極性判別部20fを、図17の極性判別部20のように構成してもよい。即ち、高周波γ軸電流ihγ*にcos2ωht等を乗じて得られた値の直流成分に基づいて極性判別を行うようにしても良い。
また、高周波電流ihγ*及びihδ*は、回転電流であっても良いし、交番電流であってもよい。高周波電流を交番電流としても、ihγ*の正負の振幅に極性に応じた差が表れるからである。該交番電流は、例えばγ軸上の交番電流(即ち、ihδ*=0)とされるが、δ軸上の交番電流でなければ(即ち、ihγ*≠0、ならば)、どのような交番電流にしてもよい。
<<第8実施形態>>
次に、本発明の第8実施形態について説明する。図40は、第8実施形態に係るモータ駆動システムの構成ブロック図である。本実施形態おける駆動制御装置は、図34の2倍周波数BPF19d、極性判別部20d及び高周波電流作成部26が2倍周波数BPF19e、極性判別部20g及び高周波電流作成部26gに置換されている点で図34の駆動制御装置と相違しており、その他の点において、図34の駆動制御装置(第5実施形態)と一致している。図40において、他の図(図3、図34及び図37等)と同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分の重複する説明を原則として省略する。尚、本実施形態は、d軸とγ軸が比較的大きくずれている場合などにおいても適用可能となっている。
本実施形態(図40)は、第1実施形態(図3)を第4実施形態(図31)に変更したしたのと同様の主旨にて、第5実施形態(図34)を変形した実施形態に相当している。
つまり、高周波電流作成部26gは、図34の高周波電流作成部26と同様、検出用電流として回転電流の高周波電流ihγ*及びihδ*を作成し、それらを加算器27及び28に出力するものであるが、その高周波電流ihγ*及びihδ*は、2倍周波数BPF19eが抽出した二次抽出γ軸電圧v2hγ*及び二次抽出δ軸電圧v2hδ*の双方における正負の振幅差がなくなるように、且つ二次抽出γ軸電圧v2hγ*と二次抽出δ軸電圧v2hδ*の振幅が等しくなるように、制御される。但し、二次抽出γ軸電圧v2hγ*と二次抽出δ軸電圧v2hδ*の振幅を等しくすることは必須ではない。
図38を参照して考えると、上記制御によって高周波電流ihγ*とihδ*とが成す電流ベクトル軌跡は、図38の電流ベクトル軌跡90iを概ねγ軸方向につぶしたような楕円形状を成すことになる。そして、その楕円の長軸方向に沿った、高周波電流ihγ*とihδ*との2つの合成ベクトル(図38のベクトルvc5とvc6に対応)の大きさには、磁気飽和に起因して差が生じる。
極性判別部20gは、これに着目して極性判別を行う。つまり、高周波電流ihγ*及びihδ*の一周期中における、ihγ*とihδ*の合成ベクトルih *の大きさ(合成電流の大きさ、即ち、回転電流の大きさ)に基づいて極性判別を行う。より具体的には、高周波電流ihγ*及びihδ*の一周期中において合成ベクトルih *の大きさに最大値を与える位相角の向きを、d軸の向きと判断する(モータ1が非突極機である場合も共通)。
本実施形態のように構成しても、電圧の二次抽出成分を利用して極性判別を行われるため、第5実施形態と同様の効果が得られ、安定した極性判別が可能となる。
また上記のように制御した場合、上述の他の実施形態の説明から自明なように、ihγ*とihδ*の合成ベクトルih *の大きさが最大となるタイミングにおける位相ωh・tやarctan(v2hδ*/v2hγ*)等に基づいて(高周波電流ihγ*とihδ*が成す電流ベクトル軌跡の楕円の長軸の傾き等に基づいて)、0〜2πの範囲内における磁極位置を推定することも可能である(勿論、±π/2の範囲内における磁極位置を推定することも可能である)。磁極位置の算出は、モータ1の回転停止時または低速回転時(特に、回転停止時)に、特に正確に行われる。
高周波電流ihγ*とihδ*の一周期中において、ihγ*とihδ*の合成ベクトルih *の大きさが最大となるタイミング(以下「タイミングT4」という)における位相ωh・tは、Δθとなる。そして、図46からも分かるように、ih *の向きがΔθを示すタイミングT4では、ωh・tの向きもΔθを示し、v2h *の向きは(Δθ+π)を示し、vh *の向きはv2h *からπ/2だけ遅れた(Δθ+π/2)を示す。
上記のように、電圧の二次抽出成分を利用して磁極位置推定を行えば、第6実施形態と同様の効果が得られ、安定した磁極位置推定が可能となる。
また、第6実施形態と同様、モータ1の回転停止時または低速回転時にあっては、本実施形態において説明した手法は、γ軸及びδ軸に限らず、モータ1の固定子に対して固定された任意の直交するα軸及びβ軸についても適用可能である。つまり、上述の説明文や図40中の「γ」を「α」に、「δ」を「β」に置換して考えることができる。
<<変形等>>
各実施形態に記載した内容は、矛盾しない限り、全ての実施形態に適用可能である。例えば、第1実施形態に記載した内容は、矛盾しない限り、第2〜第8実施形態に適用可能である。
また、第2〜8実施形態においても、第1実施形態と同様、磁極位置の推定後、推定前または推定中に極性判別を行うことが可能である。また、第2〜8実施形態においても、第1実施形態と同様、極性判別等を行うための値(二次抽出γ軸電流i2hγ、二次抽出α軸電流i2hα、二次抽出γ軸電圧v2hγ*等)を、バンドパスフィルタでなくハイパスフィルタで抽出するようにしてもよい。そのハイパスフィルタは、直流成分及び駆動電流の周波数成分を含む比較的低い周波数成分を減衰させ、(2×ωh)の周波数成分を通過させる。
また、第2〜8実施形態においても、第1実施形態と同様、駆動電圧の印加による駆動制御と、高周波電圧の印加による極性判別と、高周波電圧の印加による磁極位置推定とを、全て同時に行うか、一部を同時に行うか、或いは互いに異なるタイミングで行うかは任意である。
また、全ての実施形態において、モータ1として非突極機(非突極性を有するモータ)を採用することも可能である。
また、各実施形態の駆動制御装置は、例えば汎用マイクロコンピュータ等に組み込まれたソフトウェア(プログラム)を用いて実現される。勿論、ソフトウェア(プログラム)でなはく、ハードウェアのみによって駆動制御装置を構成しても構わない。
また、各実施形態における電流検出器11は、図3等に示す如く、直接モータ電流を検出する構成にしてもいいし、それに代えて、電源側のDC電流の瞬時電流からモータ電流を再現し、それによってモータ電流を検出する構成にしてもよい。
また、「回転子の磁極位置を±π/2の範囲内で推定する」という表現は、例えば「回転子の磁極位置を0〜πまたはπ〜2πの範囲内での電気角にて推定する」という表現に換言することも可能であり、「回転子の磁極の極性を判別する」という表現は、例えば「回転子の磁極位置が電気角で0〜π及びπ〜2πのいずれの範囲内に属するかを検出する」という表現に換言することも可能である。
また、各実施形態において、モータ1に電圧(検出用電圧など)を印加する電圧印加手段は、電流制御部(15)を主として含んで構成される。また、各実施形態における2倍周波数BPF(19等)は抽出手段を構成する。また、各実施形態において、回転子の極性の検出、及び/又は、±π/2の範囲内における磁極位置の検出を行う検出手段は、極性判別部(20等)を主として含んで構成される。
また、本明細書及び図面を参照する際において、α、β、γ及びδの下付き文字と標準文字との相違は無視されるべきである。