JPWO2017025996A1 - 分子検出装置および分子検出方法 - Google Patents
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Abstract
実施形態の分子検出装置1は、被検出物2を含む対象物3をイオン化し、イオン化物質に電圧を印加して質量に比例する速度で飛行させ、速度に基づく飛行時間により被検出物を取り出す分配器20と、分配器20から投下された被検出物を検出する検出器30と、検出信号により被検出物を識別する識別器40とを具備する。検出器30は、グラフェン層を用いた電界効果トランジスタをそれぞれ含む複数の検出部と、複数の検出部のグラフェン層にそれぞれ設けられ、少なくとも一部が被検出物との結合強度が異なる複数の有機物プローブとを備える。複数の有機物プローブと被検出物との結合強度の差により生じる複数の検出信号の強度差に基づく信号パターンにより被検出物を識別する。
Description
本発明の実施形態は、分子検出装置および分子検出方法に関する。
家庭用の温水器等には、不完全燃焼を起こした際に発生する一酸化炭素を検出する装置が取り付けてあり、早い段階で危険性を知らせてくれる。このようなガス成分は人体に重大な影響を与える。LPガス安全委員会の指針によれば、一酸化炭素の濃度がおおよそ200ppm(百万分の1)程度になると頭痛を引き起こすとされている。比較的濃度が高いガス成分を検出する方法としては種々の方法が知られているが、極低濃度に相当するppb(十億分の1)からppt(一兆分の1)の濃度では検出方法が限られている。
災害現場やテロ行為が行われた現場等においては、極めて微量のガス成分を検出することで、事前に危険性を察知することが望まれている。極低濃度のガス成分は、研究施設内の大型機器を利用して検出する場合が多い。このような場合、ガスクロマトグラフィーや質量分析計のような高価で重量と容積の大きな設置型装置が必要となる。出先で直接測定したい場合、生物的な反応機構を利用して検出する簡易測定法に頼ることになるが、保存期限や温度管理、ガス成分の有無の判定に限られる等、多くの問題点がある。このような点から、極低濃度のガス成分をリアルタイムに検出することが可能な装置、すなわち重量や容積が小さくて携帯性に優れると共に、pptからppbオーダーの極低濃度のガス成分を選択的にかつ高感度に検出することが可能な装置が求められている。
低濃度のガス成分の検出素子としては、例えばカーボンナノ構造体の表面を特定物質と選択的に反応または吸着する物質で表面修飾した導電層を有し、カーボンナノ構造体の表面に付着したガス成分により変化する電位差等を測定する素子が知られている。このような検出素子では、例えば空気中から取得したガス中に検出対象のガス成分と類似の成分等が不純物として混入している場合に、検出対象のガス成分を正確に検出できないおそれがある。また、検出物質は分子構造が単純で複雑性に乏しいアルコールや酸化窒素等に限れている。溶液中の物質種を検出する素子として、グラフェン膜を用いた電界効果トランジスタとグラフェン膜に設けられた官能基とを有する検出素子が知られている。この検出素子はDNAの二重らせん構造を形成する片方鎖、抗原、酵素等を用いており、溶液中にてDNA等の生物学種を特定することを目指している。
本発明が解決しようとする課題は、極低濃度のガス成分を選択的にかつ高感度に検出することを可能にした分子検出装置および分子検出方法を提供することにある。
実施形態の分子検出装置は、被検出物を含む対象物をイオン化し、被検出物のイオン化物質を含むイオン化物質群を得るイオン化部と、イオン化物質群に電圧を印加して飛行させる電圧印加部と、イオン化物質群を質量に比例する速度で飛行させ、速度に基づく飛行時間によりイオン化物質群から被検出物を取り出す分離部とを備える分配器と、グラフェン層と、グラフェン層に接続されたソース電極およびドレイン電極とを有する電界効果トランジスタをそれぞれ含む複数の検出部と、複数の検出部におけるグラフェン層にそれぞれ設けられ、少なくとも一部が被検出物との結合強度が異なる複数の有機物プローブとを備え、分離部から投下された被検出物を有機物プローブにより捕捉する検出器と、複数の検出部の電界効果トランジスタから被検出物が有機物プローブに捕捉されることにより生じる検出信号が送られ、複数の有機物プローブと被検出物との結合強度の差により生じる複数の検出信号の強度差に基づく信号パターンにより被検出物を識別する識別器とを具備している。
以下、実施形態の分子検出装置および分子検出方法について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
図1は実施形態の分子検出装置を示すブロック図、図2は実施形態の分子検出装置を示す構成図、図3は実施形態の分子検出工程を示す図である。図1および図2に示す分子検出装置1は、ガス発生元から発生した被検出物2を含む対象物(対象ガス)3から被検出物2を検出する装置である。例えば、空気中に漂う被検出物2は、空気中の酸素や窒素等に加えて、におい成分や微粒子等の様々な夾雑物を不純物4(4a、4b)として含んでいる。また、対象物(対象ガス)3は、被検出物2に類似する分子量や分子構造等を有する物質を不純物として含んでいる場合もある。実施形態の分子検出装置1は、このような空気中から取得した対象物3から例えばppbからpptオーダーの極低濃度の被検出物2を選択的にかつ高感度に検出することを可能にした簡便な装置である。
実施形態の分子検出装置1の構成およびそれを用いた分子検出工程について、図1ないし図9を参照して以下に詳述する。実施形態の分子検出装置1は、フィルタ部10、分配器20、検出器30、および識別器40を具備している。例えば、空気中から取得された被検出物2を含む対象物(対象ガス)3は、まずフィルタ部10に送られる。フィルタ部10には、一般的な中高性能フィルタが用いられる。フィルタ部10においては、対象物3中に含まれる微粒子等の粒子状物質が除去される(図3(101))。フィルタ部10で粒子状物質が除去された対象物3は、分配器20に送られる。
分配器20は、イオン化部20A、電圧印加部20B、および分離部20Cを備えている。分配器20に送られた対象物3は、まずイオン化部20Aでイオン化される(図3(102))。イオン化部20Aは、真空状態まで減圧された真空容器21内に設置されたイオン源22を備えている。イオン源22は、真空下でリチウムイオンやナトリウムイオン等のイオンを発生する。イオン源22には、例えば酸化物が用いられる。リチウムイオンを発生させる場合、イオン源22にはリチウム酸化物とアルミニウム酸化物とシリコン酸化物の混合物(モル比=1:1:1)等が用いられる。このようなイオン源22を例えば100Pa程度の真空下で250℃程度に加熱することによって、リチウムイオンが放出される。リチウムイオンに代えてナトリウムイオンを用いる場合も同様である。
上述したイオン化部20Aにおいて、イオン源22から発生させたリチウムイオンやナトリウムイオン等のイオンは、対象物3中のいくつかの分子、すなわち被検出物2や不純物4を構成する分子に付着する。この作用はイオンアタッチメントと呼ばれる。イオンアタッチメント法を適用したイオン化部20Aにおいては、対象分子の開裂(フラグメント)を生じさせることなく、被検出物2の構成分子を非破壊で安定的にイオン化することができる。以下では、イオンが付着してイオン化された物質(被検出物2や不純物4)をイオン化物質、イオン化された物質群をイオン化物質群とも言う。
イオン化部20Aでイオン化されたイオン化物質群は、電圧印加部20Bに送られる。電圧印加部20Bは、フライトチューブ23内に設置された第1のイオンレンズ24と電圧印加電極25とを備えている。イオン化部20Aでイオン化されて電荷を得た物質群(イオン化物質群)は、第1のイオンレンズ24を通過することでイオン径が整えられ、さらに電圧印加電極25で電圧が印加される。第1のイオンレンズ24が電圧印加電極25を兼ねていてもよい。電圧印加部20Bにおいて、例えば数kV程度の電圧が印加され、この加速電圧によるエネルギーを受けたイオン化物質群は、フライトチューブ23内を飛行する(図3(103))。低分子量の水や窒素等の不純物は、イオンアタッチメントが有効に行われないため、フライトチューブ23内を飛行せずに減圧下で除去される。
電圧印加部20Bで電圧が印加されたイオン化物質群は、フライトチューブ23の分離部20C内を飛行する。分離部20Cは、フライトチューブ23内に設定された飛行空間26、第2のイオンレンズ27、四重極28、および第3のイオンレンズ29を備えている。分離部20Cにおいて、イオン化物質群は質量に比例する速度で飛行し、質量の軽い物質は素早く飛んでゆく。この質量差による飛行速度およびそれに基づく飛行時間を利用することによって、イオン化物質群から被検出物2のイオン化物質が分離(飛行時間分離)される(図3(104))。すなわち、イオン化物質群から不純物4のイオン化物質を除去し、被検出物2のイオン化物質を選択的に検出器30に到達させる。後述するように、若干の不純物4が混ざった状態で被検出物2を検出器30に到達させてもよい。
イオン化物質の質量をm、飛行時間をtとすると、真空中における質量mと飛行時間tとの間には下記の式(1)の関係が成り立つ。
イオン化物質群が真空の飛行空間26内を飛行する過程において、式(1)にしたがって分子量毎に飛行距離に差が生まれる。四重極28においては、マチウ(Mathieu)方程式にしたがって任意の電圧条件に適合する物質以外が極外に排出される。
上述した分離システムにおいては、ドリフトイオンモビリティー法にみられるように分離部20C内に不活性ガスをフローする方法もある。この方法では不活性ガス中を被検出物2のイオン化物質がドリフトしながら進むため、分離部20Cの長さを短く設定することができる。時間飛行は不活性ガス中のドリフトによる時間飛行となるが、基本的にドリフト時間(t)は分離部20Cの長さ(L)に依存する関係にあり、ドリフト電圧(E)を加えて記述すると下記の式(2)に示す関係となる。
イオン化された被検出物2の衝突断面積が大きいほど不活性ガスとの衝突が増え、飛行時間が長くなる。物質毎の衝突断面積の差を利用して被検出物2と不純物4とを分離する。分子検出装置1の携帯性を重視する場合には、不活性ガスフローを行うドリフトイオンモビリティー法が好適である。真空中を飛行する分離に比べて分離能は低下するが、分離部20Cを通過した後に選択的に被検出物2を捕捉する方法が確保されている場合には、携帯性を重視して不活性ガスフローを選択することが好ましい。
飛行時間分離能はイオン化物質群を飛行させる距離に比例するため、フライトチューブ23の長さが長いほどその分離能は高まる。一方で、フライトチューブ23を長くすると重量と体積が大きくなり、分子検出装置1の携帯性が損なわれる。実施形態の分子検出装置1において、その携帯性を高めるためには、フライトチューブ23の長さを短く設定することが好ましい。この場合、分離部20Cによる分離能が若干低下するため、イオン化物質群から不純物4をある程度まで分離することができるものの、完全には分離できないおそれがある。被検出物2は若干の不純物4が混ざった状態で検出器30に到達させてもよい。そのような若干の不純物4が混ざった被検出物2であっても、後に詳述する検出器30および識別器40で選択的にかつ高感度に検出することができる。
分離部20Cの終端付近(フライトチューブ23の終端部23a近傍)には、第3のイオンレンズ29としてアインツェルレンズを設けることが好ましい。アインツェルレンズ29は、イオンビームをレンズの外で収束させる機構を備えている。このため、フライトチューブ23の終端部23a近傍にアインツェルレンズ29を設けることによって、分離部20Cで分離された被検出物2のイオン化物質を検出器30の検出面に収束させた状態で到達させることができる。アインツェルレンズ29は、イオン化物質群の分配器20からイオン化物質の検出器30へのインターフェイスとして好適である。
分配器20で分離された被検出物2のイオン化物質は、検出器30に送られて検出される(図3(105)。さらに、検出器30による検出結果(検出信号)に基づいて、識別器40で被検出物2の識別が行われる(図3(106)。検出器30は、図4に示すように、グラフェン電界効果トランジスタ(GFET)31を用いた検出素子32を備えている。GFET31は、ゲート電極として機能する半導体基板33と、半導体基板33上にゲート絶縁層として設けられた絶縁膜34と、絶縁膜34上にチャネルとして設けられたグラフェン層35と、グラフェン層35の一端に設けられたソース電極36と、グラフェン層35の他端に設けられたドレイン電極37とを備えている。
検出素子32は、さらにGFET31のグラフェン層35上に設けられた有機物プローブ38を備えている。図4では有機物プローブ38をグラフェン層35上に設けた例を示しているが、例えばグラフェン層35を中空配置する場合、グラフェン層35の両面に有機物プローブ38を設けてもよい。有機物プローブ38には、被検出物2と選択的に結合する有機物が用いられる。検出素子32を備える検出器30に到達した被検出物2は、グラフェン層35上に設けられた有機物プローブ38に捕捉される。若干の不純物4は有機物プローブ38との間で相互作用を得られず、検出素子32には捕捉されない。有機物プローブ38に捕捉された物質(被検出物2)からGFET31に電子が移動することで電気的な検出が行われる。このようにして、目的とする被検出物2を選択的に検出する。
有機物プローブ38を構成する有機物は溶剤に溶ける性質を有するため、溶剤に溶かした溶液として塗布することでグラフェン層35に有機物プローブ38を設置することができる。有機物プローブ38はグラフェンと相互作用を得られやすくするために、ピレン環のような構造を有した部位を有することが好ましい。ピレン環のような構造を持つ分子はグラフェンの炭素が構成する六角形状のπ電子系と相互作用を持ち、いわゆるπ―πスタッキングと呼ばれる相互作用状態を形成する。低濃度のプローブ分子を溶媒に溶かしてグラフェンに塗布すると、ピレン環とグラフェンとの間でπ―πスタッキングが形成され、グラフェン上にプローブ分子が整列して固定化される。このような自己配列作用を利用してグラフェン層35上に有機物プローブ38を設置することができる。
グラフェン層35上に設けられた有機物プローブ38に被検出物2が捕捉されると、GFET31の出力が変化する。グラフェンが1層の場合にはゼロギャップとなっているため、通常はソース電極36とドレイン電極37との間に電気が流れ続けている。グラフェンの層数が2層、3層と増えるとバンドギャップが生じるが、厳密な理論値から考えられるよりも実際の系ではバンドギャップが比較的小さい。ゲート絶縁層34がシリコン酸化膜程度の誘電率の場合には、ソース電極36とドレイン電極37との間に電気が流れ続けることが多い。従って、グラフェン層35はグラフェンの単層構造に限らず、5層以下程度のグラフェンの積層体で構成してもよい。
有機物プローブ38による被検出物2の捕捉は、ソース電極36とドレイン電極37との間の電気の流れを乱すため、GFET31がセンサーとして機能する。グラフェン層35をチャネルとして用いたGFET31によれば、極僅かな電気変化であっても顕著に出力として現れる。従って、高感度な検出素子32を構成することができる。GFET31を用いたセンサーは、グラフェンがゼロギャップ半導体としての性質を有することから、ゲート電極33に電圧を加えなくともソース電極36とドレイン電極37との間に電流が流れる傾向もみられる。このままでもセンサーとして機能するが、通常はゲート電極33に電圧を加えた状態でソース電極36とドレイン電極37との間に電流を流し、有機物プローブ38で被検出物2を捕捉した際のゲート電極33の電気的変化を観測する。
上記した検出素子32による被検出物2の検出において、有機物プローブ38に捕捉された物質(被検出物2)からGFET31への電子移動が高いほどセンサーとしての機能が高くなる。GFET31を用いたセンサーは、最も高感度なFETセンサーとされており、カーボンナノチューブを用いたセンサーと比べて3倍ほど感度を向上させることができる。従って、GFET31と有機物プローブ38とを組み合わせた検出素子32を用いることによって、被検出物2の高感度な検出が可能になる。
GFET31を用いた検出素子32を備える検出器30は、検出面を飛行時間分離部20Cの出口に面上に設けておくことで、効率的に被検出物2を捕捉して検出信号を得ることができる。検出器30を構成するグラフェン層35は、分離部20Cの終端形状に合わせて、相似形の円形または楕円形に加工されていることが好ましい。カーボンナノチューブをセンサーとして使うと、被検出物と衝突する有効部位は限られる。一方で、グラフェンは平面性を有しているため、従来の半導体加工手法により容易にパターニングすることができる。従って、検出素子32を高感度化することができる。
上述したように、フライトチューブ23(飛行時間分離部20C)の長さを短くして携帯性を高めた上で、GFET31と有機物プローブ38とを組み合わせた検出素子32を用いることで検出感度を向上させた分子検出装置1を提供することができる。さらに、実施形態の分子検出装置1は、被検出物2の検出精度を高めるために、検出器30の検出面を複数の検出部(検出セル)に区画し、これら複数の検出部(検出セル)による検出結果(検出信号)に基づいて被検出物2を検出および識別するように構成されている。
実施形態の分子検出装置1における検出器30は、図5に示すように、複数の検出部(検出セル)301に区画された検出面を有している。複数の検出部(検出セル)301は、それぞれGFET31と有機物プローブ38とを組み合わせた検出素子32を有している。図5は複数の検出部(検出セル)301を格子状(アレイ状)に配列した検出面を示しているが、必ずしもこれに限定されるものではない。複数の検出部(検出セル)301は直線状に配列されていてもよい。複数の検出部301のグラフェン層35にそれぞれ設けられた有機物プローブ38のうち、少なくとも一部は被検出物2との結合強度が異なっている。すなわち、複数の検出部301は被検出物2との結合強度が異なる複数の有機物プローブ38を備えている。全ての有機物プローブ38が被検出物2との結合強度が異なっていてもよいし、一部が被検出物2との結合強度が異なっていてもよい。
図6Aは検出器30の検出面を4つの検出部301、すなわち検出セルA、検出セルB、検出セルC、および検出セルDに分割した格子状センサーを示している。これら検出セルA〜Dのうち、少なくとも一部には種類が異なる有機物プローブ38、すなわち被検出物2との結合強度が異なる複数の有機物プローブ38が設けられている。複数の有機物プローブ38は、それぞれ被検出物2と相互作用を有するが、被検出物2との作用強度(結合強度)が異なるため、検出信号の強度が異なる。図6Bは検出セルA〜Dの検出信号を示している。検出セルA〜Dからの検出信号は、それぞれ有機物プローブ38の被検出物2との結合強度により強度が異なっている。
検出セルA〜Dからの強度が異なる検出信号は、識別部40に送られて信号処理される。識別部40は、検出セルA〜Dからの検出信号を強度に変換し、これら検出信号の強度差に基づく信号パターン(例えば図6Bに示す4つの検出信号のパターン)が解析される。識別部40には検出する物質に応じた信号パターンが入力されており、これら信号パターンと検出セルA〜Dで検出された信号パターンとを比較することによって、検出器30で検出された被検出物2の識別が行われる。このような信号処理を、ここではパターン認識法と呼ぶ。パターン認識法によれば、例えば指紋検査のように被検出物特有の信号パターンにより被検出物2を検出および識別することができる。従って、pptからppbオーダーの極低濃度のガス成分(被検出物2)を選択的にかつ高感度に検出することが可能になる。さらに、検出セルの数を増やしたり、1つの検出セル内に複数の有機物プローブ38を設置して特有の信号強度を得ることによって、パターン認識による被検出物2の検出精度をより向上させることかできる。
上述したパターン認識法を適用することによって、フライトチューブ23(飛行時間分離部20C)の長さを短くして携帯性を高めた反面、検出器30に到達する不純物4の混入割合が増えるような場合においても、被検出物2を選択的にかつ高感度に検出および識別することができる。例えば、被検出物2が有毒な有機リン化合物の代表的な材料であるメチルホスホン酸ジメチル(DMMP、分子量:124)の場合、化学的な構造が近いジクロルボスのようなリン酸を持つ農薬、さらにマラチオン、クロルピリホス、ダイアジノンのような使用例が多い有機リン系農薬が存在する。これらの物質の誤検知を防ぐためには、図6Bに示すような信号パターンにより識別するのが有効である。
検出器30の複数の検出部(検出セル)301で被検出物2を検出するにあたって、フライトチューブ23(飛行時間分離部20C)の先端を検出器30に向けて凸状とすると共に、複数の検出部301が凸状の先端と相対するように配置することが好ましい。被検出物2は複数の検出部301に有効に投下され、これにより複数の検出部301で被検出物2を効率的に検出することができる。さらに、複数の検出部301で被検出物2を検出するにあたって、前述したフライトチューブ23の末端23aに設けられたアインツェルレンズ29で被検出物2を検出器30に収束させることが有効である。
検出器30は、図7に示すように、被検出物2の投下方向(飛行方向)に沿って設けられた貫通孔39を有することが好ましい。分離部20Aから投下されて被検出部2のイオンのうち、検出面に衝突しても捕捉されなかった被検出物2のイオンや不純物4のイオン、さらに検出面の辺縁部に衝突して捕捉されなかったイオン等は、被検出物2の検出の妨げとなる。検出の妨げとなるイオン群は、検出面から貫通孔39を通過させて排出される。従って、被検出物2の検出精度を高めることができる。貫通孔39が設けられていない場合、検出面に沿ってイオンが拡散して動くため、誤検知を誘発するおそれがある。
図8に示すように、検出器30(検出素子32)を構成する基板33がシリコンである場合、レジストパターニングにより貫通孔39を容易に形成することができる。例えば、厚さが3〜5μmのフォトレジストや酸化膜をパターンとして、フッ素系ガスであるCF4やCHF3を100Wrf、100sccm、5.3Pa程度の条件でエッチングを行う。あるいは、SF6で800Wrf、130sccm、4Paの条件でエッチングを行い、C4F8ガスで後に保護する。このような反応性イオンエッチング手法を適用すると、数10μm程度の溝を形成するのに厚みによって数分から数時間かかるので、予めセンサー設置面の逆面から粗く溝を形成しておき、センサー設置面側から指向性の高い反応性イオンエッチングを行うとよい。その結果、溝39の形状は図8に示すような台形となる。特に微細化を行う必要が低い場合や被検出物2の流れをより効率的に行いたい場合は、ミリメータ径の超硬ドリルで貫通孔39を形成してもよい。
分子検出装置1で得られた被検出物2の検出および識別結果は、情報ネットワークを介して送信して活用するようにしてもよい。図9は被検出物2の検出情報を情報ネットワークを介して送信する機能、および検出情報と情報ネットワークから取得する参照情報とを照合する機能から備える情報処理部50が付属または内設された分子検出装置1を示している。情報処理部50は、被検出物2の検出情報を送信する情報送信部51と、参照情報を受信する情報受信部52と、検出情報を参照情報と照合する情報照合部53とを具備している。情報処理部50は情報送信機能および情報照合機能の一方を有していてもよい。
被検出物2の検出情報は、情報送信部51からネットワークを介して情報利用者に伝達される。被検出物2の検出情報を既存の参照情報と照合するために、ネットワークを介して情報受信部52により参照情報を取得する。取得した参照情報は情報照合部53により検出情報と照合される。情報を外部のネットワークから取得して参照することで、多くの情報を持ち歩いて解析する機能を外部に代替できるため、分子検出装置1をより一層小型化して携帯性を高めることができる。さらに、ネットワーク伝達手段を用いることで、パターン認識法における新たな信号パターンを即時に取得することもできる。情報を受信した側では、この情報を基に次の行動を起こすことができる。携帯性のある分子検出装置1を各所に配置しておき、得られるデータを各所から集めて分析し、異常事態の避難誘導等に役立てるといった使い方ができる。ネットワークと分子検出装置1とを結合することによって、従来では達し得なかった多くの使い方が生み出され、産業的な価値が向上する。
実施形態の分子検出装置1によれば、pptからppbオーダーの極低濃度のガス成分を選択的にかつ高感度に検出することができる。さらに、検出器30および識別器40により検出感度および検出精度を高めることで、分子検出装置1を小型化することができる。従って、携帯性と検出精度とを両立させた分子検出装置1を提供することが可能になる。このような実施形態の分子検出装置1は、災害現場やテロ行為が行われた現場等、各種の現場でその機能を有効に発揮し得るものである。
例えば、90年代に発生した地下鉄サリン事件で使用された毒ガスでは、人体に及ぼす作用がppt濃度であった。こうした事実を我々は認識しているにもかかわらず、未だそれをリアルタイムに検出し、待避する時間を確保することが難しい状況に晒されている。また別の事例としては、大規模な土砂災害や地震等で生き埋めになった被災者を探すケースが挙げられる。生き埋めになった被災者を探すのは困難なため、日ごろからホイッスルを携帯することが推奨されているが、実際は意識を失っている等、助けを呼ぶことができない場合が多い。訓練された災害救助犬を用いることもあるが、迅速に十分な数の救助犬を確保することは容易ではない。僅かな匂い成分を頼りに被災者を探し出す技術は、多くの被災現場において福音となる。さらに、世界がグローバル化し多くの人が行き交うようになるにつれ、不法薬物の密輸が深刻な問題となっている。検査官の感に頼った対策では限界があり、年間何トンもの不法薬物が持ち込まれている。こうした不法薬物を検出する手段としても極低濃度のガス成分の検出や分析には多くの期待が寄せられている。
また、食品製造の現場等に有機リン系の農薬が持ち込まれ、食品への混入が意図的に行われるケースを防止することが望まれている。同様に地下鉄サリン事件のように人体への影響が極めて強い有毒ガスを迅速に察知することも必要とされている。ガスの種別を検索し特定する際の二次被害を防ぐことも重要である。これらに共通して求められているのは、極微量の低濃度ガス成分をリアルタイムに検出することである。食品加工現場に持ち込まれる農薬はその蓋を開けた際に放出される成分を検出できることが望ましいし、有毒ガスがばらまかれた際には検出後に十分な待避時間が確保できることが望ましい。いずれのケースでもpptからppbオーダーの極低濃度で検出する必要があり、かつ検出装置を現場に持ち込むハンドキャリーサイズが望ましい。重量が軽く、容積が小さい、ハンドキャリーが可能な検出装置という要求と、pptからppbオーダーの極低濃度を検出することが可能な検出装置という要求を同時に満たすことが求められる。実施形態の分子検出装置1は、これらの要求を同時に満たすものである。
さらに、近年では無人機や人工知能と共にロボット技術の発達が著しく、倫理や哲学の面では「環世界」への視点が注目されている。環世界とは哲学者ユクスキュルが提唱した概念で、それぞれの動物が持つ時間や空間の感じ方を指しており、例えばノミやミツバチの例が紹介されている。人は環世界を移動する能力に優れているとされるが、視覚や嗅覚のような感覚器を変化させることはできないため、その環世界には一定の制限が加えられている。これまでは視覚にまつわる環世界の拡張が重視され、薄型ディスプレイ、2K・4Kディスプレイ、CMOSデジタルカメラ、監視カメラ等、さまざまな映像機器が開発されてきた。このように、人は様々な機器を発明し、日常的に用いることで環世界を広げてきた。特に近年では嗅覚に関してその環世界を広げることが試みられ始めている。
人の嗅覚は、例えば尿のような代謝物から生まれるアンモニアでは5ppm程度で臭気を感じ取り、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部が公開するAGEL30分基準では30ppm程度になると不快になるとされる。一方で、火山ガスに含まれる硫化水素ではAGEL30分基準において0.6ppm程度で不快になるとされる。このように、物質によって人が感じ取る不快感には大きな差があり、人の感じる臭いから生じる環世界は制限を受けている。物質による臭いの感じ取り方の制限を取り払い、人の環世界を広げる、超嗅覚とも言える世界を実現することは、人の生活をより豊かにする可能性があると共に、被災地における人命救助や介護用ロボット技術の発展にも大きく貢献するものである。このような観点からも、携帯性と極低濃度のガス成分の検出とを両立させることが求められている。実施形態の分子検出装置1は、このような要求を満たすものである。
本実施例では、被検出物として有毒な有機リン系材料であるメチルホスホン酸ジメチル(DMMP、分子量124)を用いる。被検出物であるDMMPは、常温において液体であり、引火点が69℃、沸点が181℃である。蒸気圧は79Pa(20℃)である。常温では液体として安定な性質を持っている。このような液体を気化させるためには、温度を上げて気化を促すのが一般的であるが、より簡便な方法としては液体の表面積を上げるために液体中に不活性な気体を通気する、いわゆるバブリングを行ったり、液体表面に気体を吹き付けて気化を促す方法等が採られる。
このようにして得られる気体の濃度はppm(百万分の1)からppb(十億分の1)程度であり、これを不活性気体と混ぜて濃度を低下させる。本実施例でバブリングを採用し、通気した窒素(N2)ガスに含まれるDMMPの濃度を10ppmとする。この気体に第2の窒素ガスを混合してDMMP濃度を低下させる。濃度は100ppt(一兆分の1)以上に任意で調整できるように、ガス濃度調整系統を設定する。濃度が調整されたDMMPガスは粒子除去を目的としたフィルタを通過させて分子検出装置に導入される。この際に夾雑物として幾つかの分子を混入しておく。
一方、GFETと有機物プローブとを組み合わせた検出素子を、以下のようにして用意する。グラフェン層は、グラファイトからの剥離法による基板へ転写して形成したり、化学気相成長法(CVD)を利用して金属の表面に成長させることにより形成する。金属の表面に成長した単層や複数層のグラフェンをポリマー膜に転写して、所望の電界効果トランジスタ(FET)作製用の半導体基板に再度転写する。例えば、銅箔表面に1000℃程度の条件でメタンガスをフローしたCVDによってグラフェンを形成する。
次に、ポリメチルメタクリレート膜をスピンコート法を用いて4000rpmで塗布し、逆面の銅箔膜を0.1Mの過硫酸アンモニウム溶液でエッチングして、ポリメチルメタクリレート膜側への転写を行う。十分に表面を洗浄した後に、これをシリコン基板上に再度転写する。余分なポリメチルメタクリレート膜はアセトンにより溶解させて除去する。シリコン基板に転写されたグラフェンにはレジストを塗布してパターニングし、酸素プラズマによって電極間隔10μmのパターンを形成する。電極を蒸着してソース電極とドレイン電極を設けたFET構造を形成する。シリコン基板表面に形成されている酸化膜上にグラフェンが配置され、ソース電極とドレイン電極で挟まれてシリコン基板側をゲート電極とするFET型のセンサー構造が形成される。
グラフェンセンサーは、グラフェンがゼロギャップ半導体としての性質を持つことから、ゲート電極に電圧を加えなくともソースとドレインの間に電流が流れる傾向もみられる。このままでもセンサーとして機能するため、グラフェンに物質が衝突することで検出信号を得ることができるが、一般的にはゲート電圧を加えた状態でソースとドレイン間に通電し、物質が接触した場合のゲート電極の電気的変化を観測する。
さらに、グラフェンの表面に有機物プローブを設ける。有機物プローブはメタノール溶液に10nMの濃度で溶解させて、この中にグラフェンセンサー面を数分間浸漬して設置する。有機物プローブを設置することで、選択的に被検出物を捕捉することができる。分離部で粗く分離されて不純物が混入していても、有機物プローブによって所望の被検出物を選択的に検出することができる。有機物プローブはピレン環が設けられていることが望ましい。グラフェンとの間に相互作用が生じ、安定的に有機物プローブをグラフェン面に設置する。また、金属フタロシアニンもグラフェンとの相互作用に有効である。
有機物プローブのもう1つの特徴としてフッ素化と水酸基の存在が挙げられる。図10は有機物プローブを構成する化合物例を示している。図10に示すように、有機物プローブはフッ素化プロパノール構造(ヘキサフルオロプロパノール構造)やフッ素化エタノール構造(トリフルオロエタノール構造)が先端に存在する。これらの構造は電気陰性度の高いフッ素により水酸基の活性が高まる効果がある。水酸基は被検出物である有機リン系材料に対して作用を及ぼし、選択的に有機リン系材料を捕捉する。図10の化合物1からなる有機物プローブを用いて400ppt濃度のDMMPを検出する例では、図11に示すように横軸の時間経過にしたがって縦軸のゲート電極の変化を読み取ることができる。
有機物プローブに捕捉された有機リン系材料は、その多くが時間経過の後に解放される(リリース)が、一部は固定化される。何回かセンシングを行った後には、固定化された被検出物である有機リン系材料をリリースする必要が生じる。アルゴンに3パーセントの爆発限界以下の水素を混合した気体を焼成炉内に充填して加熱し、センサーの有機物プローブ面に固定化された被検出物をリリースする。この作業を再活性化(リフレッシュ)と呼ぶ。リフレッシュのためには、200〜400℃程度の温度を20〜30分程度加えることが望ましい。有機物プローブの種類や配置状況を考慮しながら適宜設定する。
上述したDMMPを含む試料ガスと検出素子とを用いて、以下のようにしてDMMPガスの検出を行う。分子検出装置内は約100Pa程度の低真空状態になっており、内部にイオン源が設置されている。イオン源は酸化物からなっており、250℃程度の加熱によってリチウムイオンまたはナトリウムイオンが放出される。これらのイオンは非破壊で物質に付着(イオンアタッチメント)する。イオンアタッチメントは水等の低分子には起こらない。およそヘキサン分子量86以下では相対的にイオンアタッチメントの確率が低い。イオンアタッチメント法では、対象分子の開裂(フラグメント)が生じないため、検出したい分子をそのまま分離部に送り込むことができる。
イオン化された被検出物(DMMP)と夾雑物を含むガスは、電圧が印加されてフライトチューブ内を飛行し、さらに分離部で夾雑物が除去される。イオン化された被検出物(DMMP)は、検出器に投下されて検出される。検出器による被検出物(DMMP)の検出は、前述したパターン認識法により行われる。パターン認識法を適用するために、複数の検出部には、それぞれ被検出物(DMMP)との結合強度が異なる有機物プローブが設置されている。パターン認識法な手法が有効であるのは、有機物プローブが被検出物と化学的な構造等が極めて似た物質を捕捉してしまう場合があることによる。例えば、DMMPの検出では、DMMPの分子量が124であるのに対して、メタミドホスのようなリン酸を持つ農薬の一部には分子量が141と非常に近い物質が存在し、分離部での分離が不十分な場合には不純物として混入する場合がある。
前述したように、携帯性を持たせるために分離部を小さくすると、不純物が混入する恐れが高まる。化学的な構造が近いジクロルボスのようなリン酸を持つ農薬、さらにマラチオン、クロルピリホス、ダイアジノンのような使用例が多い有機リン系農薬も存在する。これらの物質の誤検知を防ぐためには、図12Aないし図12Cに示すパターン認識により判別するのが有効である。図12Aに示すように、検出面に4つのセルを設け、各々に異なる有機物プローブを設置する。有機物プローブの構造例は図10に示した通りである。各々のセルで分離部から導出された被検出物を検出する。有機物プローブにより被検出物との結合強度が異なるため、ゲート電極に検出される信号もそれぞれ異なる。
各々のセルで検出した結果は、信号処理をする識別器に送られて強度に変換される。強度への変換は種々の方法が考えられるが、ここでは図11におけるP1とP2、およびピークの先端であるP3との面積から算出した値を強度として設定する。必ずしもこの方法に限られるものではない。図12Bおよび図12Cに示す認識結果のように、相対的な強度表示となって出力される。図12BはDMMPを被検出物として測定を行った結果を、図12Cはクロロリン酸ジフェニル(dPCP)を検出物として測定を行った結果を示している。このようにパターン認識ではセル毎に異なる強度をまとめて解析して、被検出物毎に特有の信号強度パターンを得る。このような信号パターンに基づいて被検出物を識別することによって、pptからppbオーダーの極低濃度の被検出物(ガス成分)を選択的にかつ高感度に検出することができる。被検出物の信号強度パターンは予め記憶されていてもよいし、情報ネットワークを介して受信してもよい。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
Claims (10)
- 被検出物を含む対象物をイオン化し、前記被検出物のイオン化物質を含むイオン化物質群を得るイオン化部と、前記イオン化物質群に電圧を印加して飛行させる電圧印加部と、前記イオン化物質群を質量に比例する速度で飛行させ、前記速度に基づく飛行時間により前記イオン化物質群から前記被検出物を取り出す分離部とを備える分配器と、
グラフェン層と、前記グラフェン層に接続されたソース電極およびドレイン電極とを有する電界効果トランジスタをそれぞれ含む複数の検出部と、前記複数の検出部における前記グラフェン層にそれぞれ設けられ、少なくとも一部が前記被検出物との結合強度が異なる複数の有機物プローブとを備え、前記分離部から投下された前記被検出物を前記有機物プローブにより捕捉する検出器と、
前記複数の検出部の前記電界効果トランジスタから前記被検出物が前記有機物プローブに捕捉されることにより生じる検出信号が送られ、前記複数の有機物プローブと前記被検出物との結合強度の差により生じる前記複数の検出信号の強度差に基づく信号パターンにより前記被検出物を識別する識別器と
を具備する分子検出装置。 - 前記複数の検出部は格子状に配置されている、請求項1に記載の分子検出装置。
- 前記検出器は前記被検出物の投下方向に沿って設けられた貫通孔を有する、請求項1に記載の分子検出装置。
- 前記分配器は前記検出器に向けて凸状の先端を有し、前記検出器は前記複数の検出部がそれぞれ前記凸状の先端と相対するように配置される、請求項1に記載の分子検出装置。
- 前記イオン化部は、前記被検出物を含む対象物にリチウムイオンおよびナトリウムイオンから選ばれる少なくとも1つ付着させることによって、前記対象物をイオン化する、請求項1に記載の分子検出装置。
- 前記被検出物はリンを含有する化合物である、請求項1に記載の分子検出装置。
- さらに、情報ネットワークを介して前記被検出物の検出情報を送信する機能、および前記検出情報と情報ネットワークから取得する参照情報とを照合する機能から選ばれる少なくとも1つを備える情報処理部を具備する、請求項1に記載の分子検出装置。
- 被検出物を含む対象物をイオン化し、前記被検出物のイオン化物質を含むイオン化物質群を得る工程と、
前記イオン化物質群に電圧を印加し、前記イオン化物質群を質量に比例する速度で飛行させる工程と、
前記イオン化物質群の前記速度に基づく飛行時間によって、前記イオン化物質群から前記被検出物を取り出す工程と、
前記イオン化物質群から取り出された前記被検出物を、グラフェン層を用いた電界効果トランジスタの前記グラフェン層にそれぞれ設けられ、少なくとも一部が前記被検出物との結合強度が異なる複数の有機物プローブで捕捉する工程と、
前記被検出物が前記複数の有機物プローブに捕捉されることにより生じる前記電界効果トランジスタの検出信号を、前記複数の有機物プローブと前記被検出物との結合強度の差により生じる強度差に基づいてパターン化し、前記検出信号の強度パターンにより前記被検出物を識別する工程と
を具備する分子検出方法。 - 前記被検出物を含む対象物にリチウムイオンおよびナトリウムイオンから選ばれる少なくとも1つ付着させることによって、前記対象物をイオン化する、請求項8に記載の分子検出方法。
- 前記被検出物はリンを含有する化合物である、請求項8に記載の分子検出方法。
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