JPWO2003095499A1 - スチレン系重合体樹脂とその組成物 - Google Patents
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Abstract
二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することを含み、重合条件を下記(a)及び(b)項に示す範囲に制御する、スチレン系重合体の製造方法:(a)供給する単量体の構成をスチレン系単量体60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体3〜40重量%とし、(b)重合槽のいかなる部位でも(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が、常に全単量体に対して1重量%を超える。
Description
技術分野
本発明は、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーを特定量範囲で含有するスチレン系重合体の製造方法、該方法により得られ得るスチレン系重合体を主体とするスチレン系重合体樹脂及び該樹脂を含むスチレン系重合体樹脂組成物に関する。
該スチレン系重合体樹脂及び該スチレン系重合体樹脂組成物は、熱安定性及び加工安定性に優れ、リワーク(再加工)に対する耐性が顕著に優れており、この優れたリワーク耐性及びスチレン系樹脂の本来の特長である透明性やその他の物理的性能を生かし、包装フィルム、熱収縮フィルム、包装容器、更に各種成形用途に好ましく使用できる。
背景技術
従来、スチレン系重合体樹脂は、その優れた成形加工性と樹脂性能のバランスにより、電気製品等の各種工業材料、雑貨、緩衝材、断熱材及び食品容器等に広く用いられている。近年はシート若しくはフィルム状に加工して、又は更に二次加工して、食品包装及び食品容器のラベル等に用いられるようになった。
この種の用途においてシート及びフィルムは、一般に表面が平滑、透明で厚み斑が少なく、強度特性に優れたものが望まれる。スチレン系重合体樹脂は、一般に未延伸のシート及びフィルムでは強度的に実用的とは言えないが、延伸によって優れた透明性、表面光沢を有する、強靱で腰が強いシート及びフィルムにすることができる。これを達成するために、低温でシーティングや延伸、必要により更には低温で二次加工する方策が採られる。
しかし、スチレン系重合体樹脂の代表であるポリスチレン樹脂は、軟化温度がやや高く、また硬くて脆い性質のため、シート又はフィルムへの加工性に劣る。具体的にはシーティングや延伸加工、更には低温での二次加工において、ポリスチレン樹脂は流動性不足から厚み斑を来たし、シートが破断し易い等、加工性が劣る。それ故、強度特性に優れた高延伸倍率のシート及びフィルムを得ることは極めて難しい。
この種の用途において、ポリスチレン樹脂の欠点を改善したスチレン系単量体と、アクリル酸エステル単量体又はメタアクリル酸エステル単量体(以後、(メタ)アクリル酸エステル単量体と略す)から成る共重合体樹脂が既に知られている。
スチレンに(メタ)アクリル酸エステルを共重合することにより、軟化温度を調整でき、且つポリスチレン樹脂の硬くて脆い欠点を改善できる。更にスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂を成形、加工して得られるシート又はフィルムは強度特性にも優れる。
具体的には、ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体等((メタ)アクリル酸エステル単量体を含む)の共重合体と、スチレン−共役ジエンのブロック共重合体(以後、スチレン系ブロック共重合体と略す)との樹脂組成物において、フィルムの冷間延伸加工性、延伸特性及び耐クラック性等に優れるものが開示されている(特許文献1参照)。
また、ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体等の共重合体と、スチレン系ブロック共重合体との樹脂組成物を一軸に延伸した低温収縮性フィルムが、低温収縮性能、低温収縮応力、腰硬さ、透明性、耐クラック特性、寸法安定性等に優れることが開示されている(特許文献2参照)。
更には、スチレンとアクリル酸n−ブチルエステルの共重合体と、限定された構造又は特性を有するスチレン系ブロック共重合体との樹脂組成物のシート及びフィルムが、物性バランスに優れることが開示されている(特許文献3参照)。
しかし、これらの重合体組成物に用いたスチレン系重合体樹脂は、シート及びフィルムの物性バランスに優れるものの、使用条件によっては熱的安定性及び加工安定性に問題を有するものであった。熱的安定性及び加工安定性の関係する具体例として樹脂リワーク問題がある。
近年のコスト削減及び環境問題に対する意識の高まりによって、産業廃棄物削減の要求は強く、成形加工工程で発生する成形クズ等のリワークが必須になっている。このため、リワークに耐える加工安定性を有する樹脂が強く求められている。ここで言うリワークとは、成形不良品やシート成形時にトリミングされるミミや破断片樹脂等のリサイクルをいう。この点で、従来のスチレン系重合体樹脂の加工安定性は必ずしも十分でなかった。特に、本発明が一つの目標とする透明シート及び透明フィルム用途においては、樹脂劣化により発生する着色、異物又は流れムラは、極めて目立つもので、樹脂リワークの致命的欠点となる。それ故、バージン樹脂に選定された少量のリワーク樹脂を混合する等の対応が現状技術であった。
スチレン系重合体樹脂の熱的安定性及び加工安定性問題が、樹脂中に存在する環状スチレンオリゴマーに大きく起因するとの考え方は従来からあった。具体的には、スチレン系重合体樹脂中に存在する環状オリゴマーが、加工時に熱的に分解してラジカルが発生する。(例えば特許文献4参照)。発生したラジカルが重合体鎖の切断や架橋を引き起こすことが大きな劣化の原因となる。
この解決の方策として、アニオン重合法により得られるポリスチレン樹脂を用いる技術が提案されている。アニオン重合法により得られるポリスチレン樹脂は環状スチレンオリゴマーを含まず、極めて優れた安定性を有するとされている。(同じく特許文献4参照)。しかし、コスト問題もあってか、工業的な実施には至っていない。
オリゴマーの少ない点では、縣濁ラジカル重合法のスチレン系重合体樹脂も公知である。
例えば、単量体、ダイマー、トリマー及び溶媒の総量が0.8重量%以下で、その構成単位がスチレン系単量体80〜99.5モル%、(メタ)アクリル酸エステル単量体0.5〜20モル%、且つ限定された溶液粘度を有するスチレン系重合体樹脂が、成形条件の幅が広く、成形性と強度のバランスに優れるとしている。該スチレン系重合体樹脂の製造方法は塊状重合法、溶液重合法、縣濁重合法及び乳化重合のいずれの方法も用いることができるとしている(特許文献5参照)。しかし、これらの従来技術には、スチレン系トリマー構造を限定することにより達成される作用効果も、そのための方法も開示されていない。
また、縣濁重合法において低い温度で重合して得られたスチレンダイマー及びスチレントリマーの含有量が400ppm以下のスチレン系樹脂が開示されている。更に、50重量%未満の(メタ)アクリル酸エステル類の共重合、及び得られるスチレン系重合体樹脂の溶出オリゴマーが少ない点を生かし、食品包材用途への利用が開示又は提案されている(特許文献6参照)。
更には、未反応単量体1,000ppm以下で、スチレン系単量体50〜80重量%と(メタ)アクリル酸エステル単量体20〜50重量%から成る共重合体で、且つスチレンダイマーとスチレントリマーの合計量が1,000ppm以下のスチレン系重合体樹脂が、加工時の生産性及び成形品の外観に優れ、臭気が少なく、食品包装容器等の用途に好適とされている。その実施例で開示された製造方法は縣濁ラジカル重合法に限定されている。(特許文献7参照。)
しかし、縣濁重合法は通常バッチプロセスに限定され、且つ重合時に分散剤の使用を避けられない。このためか、懸濁重合法で得られるスチレン系樹脂は、リワーク等の加工履歴による樹脂の着色又は吸湿による白化のし易さ、更にコスト的不利等の問題があった。
特許文献1: 特開昭59−221348号公報
特許文献2: 特開昭61−025819号公報
特許文献3: 特開2001−002870号公報
特許文献4: 特開平09−111073号公報
特許文献5: 特開平04−239511号公報
特許文献6: 特開2000−159920号公報
特許文献7: 特開2001−026619号公報
発明の開示
本発明は、熱安定性及び加工安定性を改良することによって優れたリワーク特性を達成すると共に、スチレン系樹脂本来の性能である優れた透明性やその他の物理的性能を維持したスチレン系重合体樹脂及びその効率的な製造方法の提供を課題とする。
本発明者等は、上記の課題解決について鋭意検討の結果、限定された重合条件下に、限定された構造及び特性を有するスチレン系重合体を重合し、この重合体を用いることによって、従来技術の課題を改善できることを見出し、本発明を達成した。
本発明は、主として次の1)項〜3)項に関するものである。即ち、
1) 二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することを含み、重合条件を下記(a)及び(b)項に示す範囲に制御する、スチレン系重合体の製造方法:
(a)供給する単量体の構成をスチレン系単量体60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体3〜40重量%とし、
(b)重合槽の各部位における(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が、常に全単量体に対して1重量%を超える。
2) 二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することにより得られる、下記(a’)〜(d’)項の特徴を有するスチレン系重合体を主体として含むスチレン系重合体樹脂:
(a’)スチレン系重合体を構成する単量体単位が、スチレン系単量体単位60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位3〜40重量%の範囲であり、
(b’)スチレン系重合体の重量平均分子量が15万〜55万の範囲であり、
(c’)スチレン系重合体が、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーを1,000〜10,000ppmの範囲で含有し、
(d’)スチレン系重合体樹脂としてのビカット軟化温度が50〜99℃の範囲にある。
3) (A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂 5〜95重量%、
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体 95〜5重量%、及び
(C)前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体 0〜30重量%
を含むスチレン系重合体樹脂組成物であって、
(A)成分のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂が、上記2)に記載のスチレン系重合体樹脂であり、(B)成分のスチレン−共役ジエンブロック共重合体が下記(e’)〜(g’)項の特徴を有し、更にスチレン系重合体樹脂組成物として下記(h’)及び(i’)項の特徴を有するスチレン系重合体樹脂組成物:
(e’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体が、少なくとも2つのスチレン系重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン系重合体ブロックから構成され、
(f’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成するスチレン系単量体単位が40〜95重量%であり、
(g’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成する共役ジエン単量体単位が60〜5重量%であり、
(h’)スチレン系重合体樹脂組成物としてのビカット軟化温度が50〜99℃の範囲にあり、
(i’)スチレン系重合体樹脂組成物を1mm厚平板にしての全光線透過率が75%以上である。
発明を実施するための最良の形態
本発明の第1の目的は、新規なスチレン系重合体の製造方法の提供にある。
スチレン系重合体の重合方法は、ラジカル重合法、アニオン重合法、配位アニオン重合法及びカチオン重合法が、当業界で公知である。この中で、本発明のスチレン系重合体の製造方法はラジカル重合法である。
スチレン系重合体のラジカル重合法をその重合プロセスで分類すると、塊状重合法、溶液重合法、縣濁重合法及び乳化重合法が公知であり、それぞれに特徴があり、工業的に実施されている。また、開始剤で分類すると熱ラジカル重合法、開始剤ラジカル重合法が公知である。この中で、本発明のスチレン系重合体の製造方法は塊状及び溶液の開始剤ラジカル重合法に限定されるものとする。
縣濁重合法は水中に単量体を分散させ、且つ開始剤を用いて重合する方法である。縣濁重合法は重合時の混合性や除熱性に優れるが、分散剤の添加が必要であり、分散剤が製品に混入する。また、縣濁重合法は通常バッチプロセスで実施される。それ故、コスト的に不利なこと等から、利用は限定されている。これに対して、スチレン系重合体の塊状重合法と溶液重合法とは、それぞれ目的に応じて広く利用されている。
熱ラジカル重合法は、スチレン系単量体液を加熱して熱ラジカルを発生させ、重合を開始させる方法で、低コスト及び不純物が入り難いことに特長を有する。これに対して、開始剤ラジカル重合法はラジカル開始剤を使用する。使用されるラジカル開始剤は、通常は熱的に分解してラジカルを発生する化合物で、有機過酸化物やアゾ化合物等が知られる。この方法ではラジカル開始剤の分解温度、ひいては重合温度をある程度自由に設定できるとの特徴を有するが、開始剤のコストの点でやや不利となる。それ故、現在は不純物の混入が少ないこと、コスト的に有利なこと等により、塊状の熱重合法が工業的に広く利用されている。
先に挙げた特開2000−159920号公報及び特開2001−026619号公報の具体的開示は、縣濁重合技術に限定されている。特開昭59−221348号公報及び特開昭61−025819号公報におけるスチレン系重合体重合法の具体的開示は、熱ラジカル重合法に限定される。また、特開2001−002870号公報は開始剤ラジカル重合を具体的に開示しているが、バッチプロセスに関するものである。
特開平04−239511号公報は、その記載によれば、良好な透明性のスチレン系樹脂を得るには、開始剤を用いた完全混合型反応基での重合が好ましい、としている。その実施例の記載は一基の完全混合型重合槽を用いた重合に限定されている。完全混合型重合槽は、槽内の原料を十分に混合することができ原料組成が均一であるため、得られるスチレン系樹脂には組成分布がない。組成が均一な樹脂は屈折率の偏りがないため、光散乱が少なく透明性に優れることになる。
完全混合型重合槽による重合は、得られるスチレン系樹脂に組成分布がない点に特長があるが、工業的には課題を有する。一つはショートパスする供給原料が常にあることから、滞留時間に比して十分に転化率が上がらない点である。このことは、該公報の実施例が滞留時間6〜7時間の条件で、重合体濃度が51〜52重量%(転化率52.6〜55.9重量%相当)であることからも判断できる。今一つの課題は、重合反応を加速するために開始剤濃度を増大することが、開始剤コストの点で不利なだけでなく、得られる重合体の分子量低下を来す点にある。またショートパスした開始剤が脱揮工程に到達し、熱分解して重合体鎖の架橋、切断又は分解を引き起こすとの問題も生じ得る。
これらの従来技術に比して、本発明のスチレン系重合体の製造方法は次の特徴を有する。即ち、二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することを含み、重合条件を下記(a)及び(b)項に示す範囲に制御する、スチレン系重合体の製造方法である。
(a)供給する単量体の構成をスチレン系単量体60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体3〜40重量%の範囲とし、
(b)重合槽のいかなる部位でも(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が、常に全単量体に対して1重量%を超える。
本発明のスチレン系重合体の製造方法によって達成される一つの作用効果は、重合体に含まれるスチレン単量体単位のみから構成される環状スチレントリマー(以降は単に「環状スチレントリマー」と略す)の生成を抑制し、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマー(以降は「共反応環状トリマー」と略す)を特定量含有するスチレン重合体を製造できることにある。
ここで言うトリマーとは、スチレン単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計3単量体単位から構成されるものであり、環状とは分子中にテトラリン骨格を有することを意味する。何れの環状トリマーも幾つかの構造式のものが存在し、且つそれぞれが立体異性体を有し、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等での分析時には幾つかの異性体が分離、検出される。
本発明で達成される特定量の共反応環状トリマーを含有するスチレン系重合体は、熱安定性及び加工安定性が顕著に向上している。このような構造のトリマー含有量を制御及び達成する作用効果は、従来は全く知られていなかった。また、現段階ではトリマー構造制御の反応機構及びトリマー構造制御による作用効果発現の反応機構は、必ずしも明確に解明できていないが、次のように考えられる。
スチレン系重合体の重合時、スチレン分子(ジエン構造)と他のスチレン分子(オレフィン構造)とはディールスアルダー型反応により環状ダイマー、例えば1−フェニル−2,3−ジヒドロナフタレンを生成する。この種の環状ダイマーは更にスチレン1分子と反応して、スチレントリマーとなる。それ故、従来のポリスチレン樹脂及び耐衝撃ポリスチレン樹脂には、その製造方法により差はあるが、5,000〜20,000ppmの環状スチレントリマー(主体は1−フェニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリン)が含まれる。この環状スチレントリマーは、熱分解によってラジカルを生成し易く、スチレン重合体の安定性低下の大きな原因となっている。
本発明のスチレン系重合体の製造方法では、重合時に常時少量の(メタ)アクリル酸エステルを共存させる。これが環状ダイマー生成時あるいは環状トリマー生成時にスチレンよりも高い反応速度で付加して、スチレン2分子と(メタ)アクリル酸エステル1分子あるいはスチレン1分子と(メタ)アクリル酸エステル2分子が付加した安定なトリマーを形成する。それ故、スチレン系重合体中にはスチレン3分子から成るトリマーは、仕込み単量体組成に比して極めて少なくなる。この結果、本発明の製造方法で得られるスチレン系重合体は、従来のスチレン重合体に比して驚くべき熱安定性及び加工安定性を発現する。
次に、テトラリン骨格を有する環状トリマーの具体的構造例を挙げる。ここではスチレン系単量体の具体例としてスチレン、(メタ)アクリル酸エステルの例としてアクリル酸のアルキルアルコールエステルから成るトリマーを例示するが、これらは例であって本発明はこれらの構造例により何ら限定されるものではない。他のスチレン系単量体、メタアクリル酸エステル単量体を用いた場合、それぞれに対応するオリゴマーが生成することは当然である。
スチレンの3単量体単位から成る環状トリマー化合物の主な例として、1−フェニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリン、及び1−フェニル−4−(2−フェニルエチル)テトラリンが挙げられる。
スチレン系単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する共反応環状トリマーを次に挙げる。
スチレンの2単量体単位とアクリル酸エステルの1単量体単位から成る環状トリマー化合物の主な例として、1−フェニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(アルコキシカルボニル)テトラリン、及び1−(2−フェニルエチル)−4−(アルコキシカルボニル)テトラリンが挙げられる。
スチレンの1単量体単位とアクリル酸エステルの2単量体単位から成る環状トリマー化合物の主な例として、1−アルコキシカルボニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、及び1−アルコキシカルボニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリンが挙げられる。
アクリル酸エステル3単量体単位から成るトリマーの存在は確認できなかった。
ここで言うアルコキシ基はアクリル酸エステルを構成するアルコールの構成残基である。
これらの環状トリマー類は、前述の如く重合体製造時に単量体の副反応により生成する。これに対して、重合後の重合体の酸化劣化や熱分解、機械的分解等によってもオリゴマー類は生成する。生成するオリゴマーは、主に上述の環状構造(テトラリン骨格)を有さない鎖状オリゴマーである。
この種の鎖状トリマーの内、スチレン単量体単位とアクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する鎖状トリマーの主な例として、2,4−ジフェニル−6−アルコキシカルボニル−1−ヘキセン、2,6−ジフェニル−4−アルコキシカルボニル−1−ヘキセン、4,6−ジフェニル−2−アルコキシカルボニル−1−ヘキセン、2−フェニル−4,6−ビス(アルコキシカルボニル)−1−ヘキセン、4−フェニル−2,6−ビス(アルコキシカルボニル)−1−ヘキセン、及び6−フェニル−2,4−ビス(アルコキシカルボニル)−1−ヘキセンが挙げられる。
更に、スチレン系重合体には、その単量体構成単位の整数倍に一致しない鎖状トリマー近似化合物が少量含まれる。ここでは具体的化合物名を示さないが、例えば二重結合が飽和(水素が付加)した鎖状トリマー類や炭素原子の1つ足りない鎖状トリマー類等が存在する場合がある。
これらの鎖状トリマー及び鎖状トリマー近似化合物は主に重合後、重合体の分解により生成するオリゴマー関連化合物である。スチレン系重合体樹脂の熱安定性や加工安定性に与える影響は少なく、且つ重合条件には基本的に依存しない。
本発明のスチレン系重合体の製造方法は、スチレン系単量体を常時(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することに、大きな特徴がある。
スチレン系単量体は、スチレンの他に、少量の公知のビニル芳香族単量体を含んでいても構わない、この例としてα−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tertブチルスチレン、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体とは、アクリル酸エステル単量体及びメタアクリル酸エステル単量体から選ばれる単量体を意味する。具体的にはC1〜C8の範囲のアルコールとアクリル酸及びメタアクリル酸のエステル化合物から選ばれる。より具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸n−ペンチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル等を挙げることができる。
また、これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体の2種以上を組み合わせて用いても構わない。特にメタクリル酸メチルを用いる場合、低温加工が要求される用途では、得られるスチレン系重合体の軟化温度を調整するため、他の(メタ)アクリル酸エステルと組み合わせて用いることが好ましい。
低温加工性、耐候性、強度等のバランスの面で、(メタ)アクリル酸エステル単量体はアクリル酸エステル単量体であることが好ましい。アクリル酸エステルはメタアクリル酸エステルに比較して、少量の使用でスチレントリマーの生成を抑制して、共反応環状トリマー生成量を増大できる。
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチルが更に好ましく、アクリル酸n−ブチルが最も好ましい。延伸シート及び延伸フィル等の低温加工が要求される用途では、アクリル酸n−ブチルを用いることによって、スチレン系重合体樹脂の物性や加工性をバランス良く改良できる。
また、本発明のスチレン系重合体製造方法における単量体は、本発明の目的を阻害しない範囲で、共重合可能な他のビニル系単量体を含んでいても構わない。この好ましい具体例としては、アクリル酸、メタアクリル酸及びその塩、更には広くα、β−不飽和カルボン酸エステル類が挙げられる。
本発明のスチレン系重合体の製造方法における単量体組成は、スチレン系単量体60〜97重量%の範囲である。好ましくはスチレン系単量体65〜95重量%、更に好ましくは70〜93重量%、特に好ましくは75〜90重量%の範囲であり、残余の成分は(メタ)アクリル酸エステル単量体である。
スチレン単量体が60重量%未満では、得られるスチレン系重合体の耐熱性が過度に低下して好ましくない。具体的には成型品の熱的変形、延伸フィルムの自然収縮が起こり易く、好ましくない。また、スチレン系単量体が97重量%を超えると、得られるスチレン系重合体のシート又はフィルムを冷延伸加工する場合の適正温度幅が著しく狭まり、またシート又はフィルムの耐折れ性等の強度性能が低下して好ましくない。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体の導入量の低下に伴い、環状スチレントリマーが増大する。このため、熱安定性や加工安定性が低下を来して好ましくない。
用いる(メタ)アクリル酸エステル単量体は、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上がアクリル酸エステルである。また、アクリル酸エステルとしてはアクリル酸n−ブチルが特に好ましい。これにより、環状トリマー中の共反応環状トリマー含有率を更に高くでき、得られるスチレン系重合体樹脂の熱安定性や加工安定性を一層改善できる。
本発明のスチレン系重合体の製造方法によって達成される今一つの作用効果は、特定範囲の共反応環状トリマーを含有するスチレン系重合体を高効率に製造できることにある。
本発明のスチレン系重合体の製造方法は、二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法で、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することを含むスチレン系重合体の製造方法である。
更には、二基以上の重合槽を直列に連結し、最終重合槽の混合状態がプラグフロー流れとなる重合プロセスであることが好ましい。最も好ましくは、前段に完全混合重合槽、後段にプラグフロー重合槽を含む重合プロセスである。これにより、得られるスチレン系重合体の熱安定性及び加工安定性を保持したまま、高い重合転化率を効率的に達成できる。また、プロセスの一部に重合槽を並列に連結することは、重合体の分子量分布や組成分布を拡大又は調整する上で好ましい場合がある。
各重合槽の具体的形状は、その混合状態を達成する限り、特に限定するものではない。例えば、完全混合重合槽とは攪拌機を備え、上下混合の利いたタンクリアクターである。例えば、プラグフロー重合槽は上下攪拌の少ない塔状重合槽、スタティックミキサー、又は温度制御された単なる配管でも構わない。
バッチ重合プロセスにより得られるスチレン系重合体は、スチレン単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合性の差異に基づき、重合中に単量体組成が変化する。結果として重合体組成分布も大きくなる。また、共重合反応性の違いにより残存(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が低下すると、環状スチレントリマーの生成量が増大する。この結果、得られるスチレン系重合体樹脂の熱的安定性及び加工安定性の改善効果が低減し、且つ特定の樹脂性能、例えば低温シーティング時の伸び等の低温加工性が低下して、好ましくない。
二基以上の連結する各重合槽の容量は特に限定するものではない。全重合槽容量の和は、重合温度条件や原材料仕込み速度に依存するが、仕込み単量体の好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上の重合に要する滞留時間を達成する容量である。
各重合槽の容量比は、その混合状態にも依存するが、極端な容量差がないことが好ましい。他の反応槽容量に対して、極端に小さい重合槽を連結しても、重合槽直列連結の意味は少ない。
特に最終重合槽の混合状態がプラグフロー流れである場合、その重合槽の全重合槽容量に占める割合は、好ましくは5〜80%、更に好ましくは10〜60%の範囲である。
また、直列に連結した重合槽を用い、2つ以上の部位に単量体を分割して供給することは、重合槽の各部位の全単量体に対する(メタ)アクリル酸エステル濃度を制御する上で好ましい。それぞれ原料組成を調整し、原料供給を一箇所若しくは数カ所に分割して供給することができる。
本発明のスチレン系重合体の製造方法においては、重合槽各部位における(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度を、常に全単量体に対して1重量%を超える濃度に制御する必要がある。好ましくは2%を超え、更に好ましくは3%、特に好ましくは5%を超える濃度に制御する。共存する(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が著しく低減すると、環状スチレントリマーの生成量が増大し、本発明の目的を達成できない。(メタ)アクリル酸エステル濃度の均一化を達成する方策は、(メタ)アクリル酸濃度の低下する箇所に該単量体を分割的に仕込むことで達成できるし、重合液流れと逆の混合流れを一部作ることによっても達成できる。
本発明のスチレン系重合体の製造方法においては、有機ラジカル発生剤を開始剤に用いる。有機ラジカル発生剤としては、有機過酸化物及びアゾ化合物等が挙げられる。特に好ましい有機ラジカル発生剤は有機過酸化物である。
有機過酸化物の種類は、実施する重合温度での半減期が好ましくは10分から10時間の化合物から選ばれる。重合温度条件にもよるが、更に好ましくは10時間の半減期を得る温度が50〜130℃の範囲、特に好ましくは80〜120℃の範囲の有機過酸化物から選ばれる。
具体的な好ましい有機過酸化物の例としては、オクタノイルペルオキシド、ラウリルペルオキシド、ステアリルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシル2−エチルヘイサノエート、サクシニックペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、m−トルオルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)2−メチルシクロヘキサノエート、1,2−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルペルオキシマレイン酸、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキシルモノカルボネート、t−ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5−ジ−メチル−2、5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、t−ブチルペルオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルペルオキシイソフタレート、α、α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゾエート、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、p−メンタンハイドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。
最も好ましい有機過酸化物は1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、及び1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである。
有機ラジカル発生剤の使用量は、全単量体あたり、好ましくは5〜5,000ppmの範囲である。より好ましくは50〜2,000ppmの範囲、特に好ましくは100〜1,000ppmの範囲である。有機ラジカル発生剤の使用量が5ppm未満では、開始剤ラジカル重合と平行して、熱ラジカル重合が進行するためか、共反応環状トリマー生成量が著しく増大する。このため、得られるスチレン系重合体樹脂の耐候性、熱安定性、加工安定性及び強度性能が低下して好ましくない。また、有機ラジカル発生剤が5,000ppmを超えるとコスト的に不利なだけでなく、重合反応が不安定となり、好ましくない。
重合時に連鎖移動剤や分子量調整剤を添加することもできる。これらの連鎖移動剤や分子量調整剤は、スチレン重合体製造において公知の連鎖移動剤や分子量調整剤から選ぶことができる。これらの具体的化合物として、四塩化炭素等の有機ハロゲン化合物、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン化合物、α−メチルスチレンダイマー等のベンゼン環に対するα位炭素に活性水素を有する炭化水素化合物が挙げられる。最も好ましい化合物はα−メチルスチレンダイマーである。
本発明のスチレン系重合体の製造方法は、無溶媒又は少量の有機溶媒を使用して実施される。好ましい有機溶媒は、得られるスチレン系重合体を溶解可能で、重合反応時のラジカルに対する反応性が低く、且つ重合後に溶媒の加熱除去が容易な有機化合物から選ばれる。この好ましい例としてC6〜C10の芳香族炭化水素化合物及び環状の脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。具体的にはトルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。また、一部に鎖状の脂肪族炭化水素を含んでいても構わない。
重合溶媒の使用量は、スチレン系重合体100重量部当たり、好ましくは200重量部以下、更に好ましくは100重量部以下、特に好ましくは50重量部以下である。
本発明のスチレン系重合体の製造においては、主たる重合温度を70〜150℃の範囲とすることが好ましい。主たる重合温度とは、得られる重合体の少なくとも50重量%、好ましくは70重量%、特に好ましくは90重量%の重合が進行する温度を意味する。更に好ましくは80〜140℃、特に好ましくは90〜130℃の温度範囲である。
主たる重合温度をこの範囲に制御する限り、重合体の一部を重合する温度がこの範囲を外れても構わない。例えば、数基の重合槽を直列連結したシステムでは、重合の初期段階又は後期段階の一部の重合に、上述の温度範囲を外れて実施することはできる。また、数基の重合槽を並列連結したシステムでは、一部の重合槽の温度をこの範囲を越えて制御して実施することが好ましい場合もある。
具体的には、重合後期に重合を完結させるために、該温度範囲を越えることは目的によっては好ましい。また、重合槽の冷却を補助するために冷却した原材料を連続的に供給する場合、一部の重合ゾーンの温度が該温度範囲を下回る場合がある。
主たる重合温度が過度に高いと環状スチレントリマーの生成量が増大し、得られるスチレン系重合体の熱的安定性及び加工安定性が低減して好ましくない。過度に低い温度は重合液の粘度が著しく増大して、重合槽の混合が困難となり、また重合速度が低下する等、実用的でない。
本発明のスチレン系重合体の製造方法では、重合転化率は好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上に制御する。高い転化率は、当然生産効率の点で好ましい。重合転化率が60重量%を下回ると、生産効率低下、脱揮工程の設備的及びエネルギー的負荷が過大となり、好ましくない。また、脱揮工程で溶媒や残存単量体を取りきれず、得られる重合体の性能や臭気が問題になり易い。
本発明のスチレン系重合体の製造方法では、含有する未反応単量体や重合溶媒を脱揮、除去することにより、重合体が回収される。未反応単量体や重合溶媒の脱揮、除去の方法は、特に限定するものではない。ベント付押出機、フラッシュタンク等の既存スチレンの重合体の製造で公知の方法が利用できる。
脱揮時の平均重合体温度は、好ましくは180〜250℃の範囲、更に好ましくは190〜240℃の範囲、特に好ましくは200〜230℃の範囲である。極度に低い脱揮温度では、重合体中に残る単量体含有量が多くなり、好ましくない。また極度に高い温度では、重合体の熱分解が起こり、好ましくない。但し、脱揮の最終段階で短時間この範囲を超える温度で脱揮することは、得られスチレン系重合体の熱的分解を抑え、且つ残存する単量体量を効果的に減らす上で好ましい場合がある。
脱揮時の真空度は常圧でもよいが、好ましくは50torr以下、より好ましくは20torr以下である。真空度を上げる(絶対圧を低くする)ことにより、低い重合体温度で脱揮効率を高めることができ、好ましい。しかし、真空度を極度に上げることには、真空ポンプの能力や凝縮設備の能力の点で自ずと限界があり、通常5torr以上の圧が用いられる。
また、一連の脱揮プロセス内で一度脱揮処理した重合体に、水、アルコール、炭酸ガス等のスチレン系重合体に非溶解性の揮発性物質を圧入、これに同伴する形で揮発成分を脱揮する方法が好ましく利用できる。
本発明の第2の目的は、新規なスチレン系重合体樹脂の提供にある。即ち、二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することにより得られる、下記(a’)〜(d’)項の特徴を有するスチレン系重合体を主体として含むスチレン系重合体樹脂の提供にある。
(a’)スチレン系重合体を構成する単量体単位が、スチレン系単量体単位60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位3〜40重量%の範囲であり、
(b’)スチレン系重合体の重量平均分子量が15万〜55万の範囲であり、
(c’)スチレン系重合体が、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーを1,000〜10,000ppmの範囲で含有し、
(d’)スチレン系重合体樹脂としてのビカット軟化温度が50〜99℃の範囲にある。
本発明のスチレン系重合体樹脂におけるスチレン系重合体を構成する単量体単位は、スチレン系単量体単位が60〜97重量%、好ましくは65〜95重量%、更に好ましくは70〜93重量%、特に好ましくは75〜90重量%の範囲であり、残余の成分は(メタ)アクリル酸エステル単量体である。スチレン系単量体単位が60重量%未満では、得られるスチレン系重合体樹脂の耐熱性が過度に低下して好ましくない。具体的には成型品した場合に熱的変形、延伸フィルムの自然収縮が起こり易く、好ましくない。また、スチレン系単量体単位が97重量%を超えると、得られるスチレン系重合体樹脂のシート又はフィルムの冷延伸加工する場合の適正温度幅が著しく狭まり、シート又はフィルムの耐折れ性等の強度性能が低下して好ましくない。
本発明のスチレン系重合体樹脂におけるスチレン系重合体の重量平均分子量は、15万〜55万の範囲である。好ましくは18万〜50万の範囲、特に好ましくは20万〜45万の範囲である。
スチレン系重合体の重量平均分子量が15万未満では、得られるスチレン系重合体樹脂の強度性能、特に引き裂き強度、引張強度が著しく低下して、好ましくない。また、スチレン系重合体の重量平均分子量が55万を超えると、得られるスチレン系重合体樹脂の成型加工性が著しく低下して、やはり好ましくない。
重量平均分子量/数平均分子量の比は好ましくは1.5〜3.9範囲、特に好ましくは1.8〜3.2範囲である。分子量分布が余りに狭いと、スチレン系重合体樹脂の加工性、特にフィルム及びシートの高倍率の延伸加工が困難となり好ましくない。分子量分布が余りに広いと、スチレン系重合体樹脂の強度性能、例えば引張り破断強度や表面硬度が低下して好ましくない。
また、MFR(ISO R1133に準拠して測定(条件:200℃、荷重5kgf))は1〜20g/10分の範囲が好ましく、2〜15g/10分の範囲が特に好ましい。この範囲内に設定することにより、スチレン系重合体を成形して得られるシート及びフィルム、更に二次加工して得られる成形品の厚み斑が少なくなる。また、低温での高延伸倍率の加工が容易となり、強度性能にも優れていて好ましい。
本発明のスチレン系重合体樹脂におけるスチレン系重合体に含まれる共反応環状トリマーとは、スチレン系単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各1単位有し、テトラリン骨格を有するトリマーである。この主な化合物として、1−フェニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(アルコキシカルボニル)テトラリン、1−アルコキシカルボニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、及び1−アルコキシカルボニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリンが挙げられる。
特に、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位がアクリル酸ブチル単量体単位である場合の、共反応環状トリマーの主な具体例として、1−フェニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(n−ブトキシカルボニル)テトラリン、1−n−ブトキシカルボニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、及び1−n−ブトキシカルボニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリンが挙げられる。
共反応環状トリマーの含有量は1,000〜10,000ppmの範囲、好ましくは1,000〜6,500ppmの範囲である。共反応環状トリマー量を1,000ppm以上にすることによって、スチレン系重合体樹脂の熱安定性及び加工安定性が顕著に改善し、スチレン系重合体樹脂のリワークを容易にし、且つ成形の加工条件幅を大きく拡大できる等、実用的効果は極めて大きい。しかし、共反応環状トリマーの含有量が極度に多いと、スチレン系重合体樹脂のシート及びフィルム等の自然収縮や強度性能の低下、更には成形時の金型やダイの汚染を来して好ましくない。
また、スチレン系重合体に含まれるスチレン系単量体単位のみから成る環状スチレントリマーは、好ましくは3,000ppm以下、更に好ましくは2,000ppm以下、特に好ましくは1,000ppm以下である。環状スチレントリマーが多いと耐熱安定性や加工安定性が低下傾向にあり好ましくない。
本発明のスチレン系重合体樹脂におけるスチレン系重合体に含まれるスチレン系単量体量は、好ましくは500ppm未満である。更に好ましくは300ppm未満、特に好ましくは200ppm未満、最も好ましくは100ppm未満である。スチレン系単量体の含有量が500ppm以上では、成型加工時の金型やノズル等の汚染が起こり易く、また成型体表面に対する印刷性の低下が起こり、好ましくない。
スチレン系重合体に含まれる(メタ)アクリル酸エステル単量体量は、好ましくは500ppm未満である。更に好ましくは300ppm未満、特に好ましくは200ppm未満、最も好ましくは100ppm未満である。(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量が500ppm以上では、成型加工時の金型やノズル等の汚染が起こり易くなる。また得られる樹脂の耐候性が低下し、また臭気を来す場合があり好ましくない。
本発明のスチレン系重合体樹脂のビカット軟化温度で定義する軟化温度は50〜99℃の範囲、好ましくは55〜95℃の範囲、特に好ましくは60〜90℃の範囲である。軟化温度が余りに低いと、延伸シート及びフィルムの自然収縮率が大きくなり、また強度が低下して好ましくない。一方、軟化温度が余りに高いと、重合体の柔軟性が低下して脆くなり、また低温加工性が著しく低下する。加工温度を高くすれば、シーティングや延伸及びこれらの二次成形加工は可能となるが、加熱時の適正温度幅が狭くなり、加工操作が難しくなり好ましくない。
本発明のスチレン系重合体樹脂は、該スチレン系重合体の他に、ポリスチレン樹脂に使用するものとして公知の各種添加剤、例えば安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、染料、顔料、各種充填剤等を、同様な作用効果を達成するために含むことができる。
本発明の第3の目的は該スチレン系重合体樹脂を含む下記の新規な樹脂組成物の提供にある。即ち、
(A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂 5〜95重量%
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体 95〜5重量%
(C)前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体 0〜30重量%
を含むスチレン系重合体樹脂組成物であって、
(A)成分は前述のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂であり、(B)成分のスチレン−共役ジエンブロック共重合体が下記(e’)〜(g’)項の特徴を有し、更にスチレン系重合体樹脂組成物として下記(h’)及び(i’)項の特徴を有するスチレン系重合体樹脂組成物。
(e’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体が、少なくとも2つのスチレン系重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン系重合体ブロックから構成され、
(f’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成するスチレン系単量体単位が40〜95重量%であり、
(g’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成する共役ジエン単量体単位が60〜5重量%であり、
(h’)スチレン系重合体樹脂組成物としてのビカット軟化温度が50〜99℃の範囲にあり、
(i’)スチレン系重合体樹脂組成物を1mm厚平板にしての全光線透過率が75%以上である。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物を構成する(B)成分はスチレン−共役ジエンブロック共重合体であり、スチレン単量体単位を主成分とする2つ以上のブロックと、共役ジエン単量体単位を主成分とする1つ以上のブロックを有する。
具体的なスチレン−共役ジエンブロック共重合体のブロック構造は、例えば一般式(1)〜(3)で表される直鎖ブロック共重合体及び一般式(4)〜(7)で表されるラジアル状ブロック共重合体である。
(A−B)nA (1)
(A−B)m (2)
(B−A)mB (3)
[(A−B)n]m−X (4)
[(B−A)n+1]m−X (5)
[(A−B)n−A]m−X (6)
[(B−A)n−B]m−X (7)
(式中、Aはスチレン単量体単位を主成分とし、数平均分子量5,000〜200,000の範囲のブロックであり、各Aは同一構造でも、異なった構造であっても構わない。Bは共役ジエン単量体単位を主成分とし、数平均分子量10,000〜500,000の範囲のブロックであり、各Bは同一構造でも、異なった構造であっても構わない。Xは多官能のカップリング剤、nは1〜3、mは2〜4の整数を表す。また、本発明の趣旨からして、B−X−B及びA−X−Aのブロック連鎖構造は、たとえ多官能カップリング剤Xが介在していたとしても、他のブロックで分割されていると考えるのではなく、本ブロック分子量規定においては1つのブロックに対応すると考える。)
また、該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、上記のブロック構造規定に該当しない不完全なブロック重合体、例えばAの単独重合体、Bの単独重合体、あるいはA−Bジブロック共重合体等を、本発明の効果を阻害しない範囲で、一部含んでいても構わない。またAブロックとBブロックとの間に、共重合組成の順次変化する傾斜部分を含んでいても構わない。
Aブロックはスチレン単量体単位を主成分とするブロックであるが、少量の共重合可能な他の単量体、例えばスチレン以外のビニル芳香族化合物又は共役ジエン類から成る単量体単位を含んでいても構わない。
Bブロックは共役ジエン単量体単位を主成分とするブロックであるが、少量の共重合可能な他の単量体、例えばビニル芳香族炭化水素から成る単量体単位を少量含んでいても構わない。最も好ましい共役ジエンはブタジエン及び/又はイソプレンである。
該スチレン−共役ジエンブロック共重合体におけるスチレン系単量体単位の含有率は40〜95重量%の範囲であり、共役ジエン単量体単位の含有率は60〜5重量%の範囲である。更に好ましいスチレン系単量体単位の含有率は50〜90重量%、特に好ましくは60〜85重量%の範囲であり、残余の成分は共役ジエン単量体単位である。ここに、スチレン単量体単位とはスチレン及びその他のビニル芳香族化合物から成る単量体単位の和である。
該スチレン−共役ジエンブロック共重合体の重量平均分子量は4万〜40万、好ましくは5万〜30万、更に好ましくは6万〜20万の範囲である。
分子量が低過ぎると、得られるスチレン系重合体樹脂組成物の機械的強度が低下して好ましくない。また分子量が高過ぎると加工性や、重合体成分の混合分散性が低下して、均一なスチレン系重合体樹脂組成物が得られず、好ましくない。
該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は公知の方法により製造できる。例えば、炭化水素溶媒中で、有機リチウム開始剤を用い、バッチプロセス又は連続重合プロセスで、スチレン系単量体及び共役ジエン単量体を順次ブロック共重合することにより得られる。又は共重合後、リチウム活性末端をカップリング反応することによりラジアル構造にブロック共重合体を形成することもできる。スチレン−共役ジエンブロック共重合体の具体的製造法としては、例えば、特公昭45−19388号公報、特公昭47−43618号公報の技術を挙げることができる。
重合時に利用できる溶媒は、基本的に有機リチウム開始剤に対して不活性で、単量体及び生成重合体を溶解できる炭化水素溶媒であって、重合時に液状を保ち、重合後の脱溶媒工程で脱揮除去が容易な溶媒が挙げられる。例えばC5〜C9の脂環式炭化水素溶媒、C5〜C9の脂肪族炭化水素及びC6〜C9の芳香族系溶媒が挙げられる。特にC5〜C9の脂環式炭化水素溶媒が好ましく利用できる。具体的にはシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、シクロヘキセン及びこれらの混合物等が挙げられる。また、エーテル化合物や第3アミン化合物を混合すると、有機リチウムの単量体に対する重合活性を改善できる。重合溶媒の使用量は、好ましくは単量体1Kg当たり1〜20Kg、より好ましくは2〜10Kg、特に好ましくは3〜5Kgの範囲である。
重合温度は好ましくは0〜130℃、より好ましくは10〜120℃、特に好ましくは20〜110℃の範囲で制御する。バッチプロセスの重合温度は、一般に各ブロックの重合が断熱的に昇温しながら重合することになるが、この温度範囲に制御することが好ましい。重合温度が極度に低いと反応速度が低下して実用性がない。また、重合温度が極度に高いと、リビング活性末端が失活してスチレン−共役ジエンブロック共重合体のブロック構造が不完全となり、得られるスチレン系重合体樹脂組成物の各種強度性能が低下して好ましくない。
重合終了後、該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、含有する未反応単量体や重合溶媒を脱揮、除去することにより、重合体が回収される。未反応単量体や重合溶媒の脱揮、除去の方法は、特に限定するものではない。ダブルドラムドライヤー、水に分散させてのスチームストリッピング、ベント付押出機、フラッシュタンク等の既存スチレン系重合体樹脂やゴムの製造で公知の方法が利用できる。
残存する単量体や溶媒の量や揮発性にもよるが、一般には温度を100〜250℃、好ましくは120〜200℃、真空度は好ましくは0〜常圧、更に好ましくは100Pa〜50KPaにて揮発性成分を脱揮除去する。複数の脱揮除去装置を直列に接続する方法は高度な脱揮に効果的である。また、例えば1段目と2段目の間に水を添加して2段目の脱揮能力を高める方法も、好ましく利用できる。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物を構成する(C)成分は前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体である。具体的にはスチレン、又はスチレンと共重合可能な単量体との共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、各種石油系樹脂等が挙げられる。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物は、
(A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体 5〜95重量%、
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体5〜95重量%及び
(C)前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体0〜30重量%から成る。
(A)成分の組成は5〜95重量%、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜85重量%、特に好ましくは50〜80重量%の範囲である。用途にもよるが5重量%未満では混合効果が発現せず、得られるスチレン系重合体樹脂組成物の剛性が不足し、熱収縮フィルム等の用途により好ましくない。また、95重量%を超えるとフィルムが硬くて脆くなり、やはり好ましくない。
(B)成分の組成は5〜95、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは10〜70重量%、特に好ましくは20〜50重量%の範囲であり、上述の(A)成分単独の欠点である脆さ、柔軟性、伸び等の性能を顕著に改善できる。
(C)成分の組成は0〜30重量%、好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0〜10重量%の範囲である。(C)成分の混合により、軟化温度、剛性及び流動性のバランスを改善でき、目的に応じてスチレン系重合体樹脂組成物の性能を調整できる。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物は、(A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体、更に必要により、(C)前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体から構成されるが、必ずしもこれに限定するものではない。例えばスチレン系樹脂において使用が一般的な各種添加剤を、公知の作用効果を達成するために添加することもできる。例えば安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、染料、顔料、各種充填剤等を、ポリスチレン樹脂で発現されるのと同様な効果を達成するために添加することができる。
また例えばフィルムに使用する場合、フィルム用途で一般的な添加剤である帯電防止剤、防曇剤、無機微粉体等を混合してもよい。
酸化防止剤として、フェノール系又はフェノールアクリレート系(例えば:2−tert−ブチル−6(3′−tert−ブチル−5′−メチル−2′−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート及びこれ等の誘導体がある)が好ましい。上記化合物に加え、リン系の酸化防止剤(例えば:トリ(2,4−ジ−tert−ブチル)−フェニルフォスファイト,トリ(4−ノニル)−フェニルフォスファイト等)を使用するのがより好ましい。更に上記2種のタイプに加え、イオウ含有系の酸化防止剤を加えるのが良い場合がある。またこれ等はそれぞれ単独に使用してもよいし、組み合わせてもよい。
各酸化防止剤の添加量は、混合樹脂100重量部に対して、それぞれ0.01〜5.0重量部、好ましくは0.05〜3.0重量部、より好ましくは0.1〜2.0重量部、更に好ましくは0.2〜1.0重量部である。0.01重量部未満では樹脂の熱劣化(例えば、架橋や分子量低下等)の防止効果が発現せず、また5.0重量部を超えると分散不良、強度低下、透明性の低下、コスト高等の問題が起こり、好ましくない。
帯電防止剤としてはアミン系、アミド系のものが好ましい。例えばアミン系としてヒドロキシエチルアルキルアミン及びその誘導体、アミド系としてはヒドロキシエチル脂肪酸アミド及びその誘導体等が好ましく利用できる。
帯電防止剤の添加量は、樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部、好ましくは0.2〜3.0重量部、より好ましくは0.4〜2.0重量部である。0.1重量部未満では帯電防止効果が現れ難いし、5重量部を超えると成型体表面の光沢が失われ、印刷適性が低下を来す等の問題がある。
また、可塑剤としてはDOP、DOA、ATBC、DBS等の酸エステル類、ミネラルオイルのような流動パラフィン類を0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%加えてもよい。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物において、各重合体成分の混合方法は特に規定しない。各種の樹脂加工機器、例えばニーダー、バンバリーミキサー、押出し機を用いた機械的混合、溶媒に溶かして、あるいは重合体製造時に重合体溶液での溶液混合が利用できる。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物のビカット軟化温度は50〜99℃の範囲である。ビカット軟化温度は、ASTM−D1525法に準じて荷重1kg、昇温スピード20℃/分で測定される。ビカット軟化温度は、好ましくは55〜95℃の範囲、特に好ましくは60〜90℃の範囲である。
例えば熱収縮フィルム用途では、低温での収縮性を重視する場合は、ビカット軟化温度は70℃程度が良好であり、また比較的高温での収縮性を必要とする場合は90℃程度が良好である。実際には使用条件に合わせて、最適なビカット軟化温度の重合体樹脂を選ぶのが好ましい。
軟化温度が余りに低いと、延伸シート及びフィルムを常温保管中に寸法変化、収縮力低下現象等を発生するため実用的でなくなり、また強度が低下して好ましくない。一方、軟化温度が余りに高いと、重合体の柔軟性が低下して脆くなり、また低温加工性が著しく低下する。この場合加工温度を高くすれば、シーティングや延伸及びこれらの二次成形加工は可能となるが、加熱時の適正温度幅が狭く、加工操作が難しくなり好ましくない。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物の1mm厚平板にしての全光線透過率は75%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。本発明のスチレン系重合体樹脂組成物の大きな特長の一つは透明性にある。全光線透過率が75%未満では、透明樹脂用途に使用できない。
優れた透明性を発現するには、(A)〜(C)の各重合体成分が微分散していること、及び重合体各成分の屈折率が近いことが望まれる。特に重合体の(A)成分及び(B)成分の分散粒子系は、重量平均の長径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm、特に好ましくは1μm以下である。また、両成分の屈折率の差異は、好ましくは0.01以下、更に好ましくは0.005以下、特に好ましくは0.002以下である。屈折率の差は重合体の(A)成分及び(B)成分を構成する単量体種及び組成により調整できる。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物の、一つの好ましい用途例として熱収縮フィルムが挙げられる。熱収縮フィルムは樹脂組成物をシート又はフィルムに成形後、冷延伸して得られる。本発明ではその特性及びフィルム製法を限定するものではないが、一般的な熱収縮フィルムの延伸倍率は主延伸方向に2.0〜10.0倍、好ましくは2.5〜8.0倍で、同様に対直角方向には1.1〜2.5倍、好ましくは1.2〜2.0倍の範囲である。また好ましい延伸倍率比は前者/後者比で1.8〜9.1、より好ましくは2.0〜6.7の範囲である。該スチレン系重合体樹脂組成物の軟化温度にも依存するが、延伸温度は一般に60〜150℃、好ましくは70〜120℃の範囲である。
本発明の熱収縮フィルムは落錘衝撃強度が少なくとも5kg・cmであることが、実用上必要であり、好ましくは10kg・cm以上、より好ましくは20kg・cm以上、更により好ましくは30kg・cm以上である。5kg・cm未満では、包装機械で繰り出した(引張り)時にフィルム切れが発生し好ましくない。
熱収縮フィルムの層構造も特に限定するものではない。本発明のスチレン系重合体樹脂組成物は多層フィルムの少なくとも1層として利用することができる。その場合、同種(本発明のスチレン系重合体樹脂組成物)を組み合わせた多層フィルム、又は異種(本発明のスチレン系重合体樹脂組成物以外のもの)との組み合わせによる多層フィルムの少なくとも1層(表層又は内部層)として利用してもよい。フィルムの厚みは、その用途により異なるが通常5〜800μで、好ましくは10〜500μ、より好ましくは20〜300μの範囲である。
熱収縮フィルムへの成形加工方法は特に限定するものではない。同時2軸や逐次2軸など一般的に使用されている設備、例えばテンター延伸法、バブル延伸法、ローラー延伸法等で代表される延伸成膜設備等での延伸加工が利用できる。
本発明のスチレン系重合体樹脂又はスチレン系重合体樹脂組成物は、シート及びフィルム又はこれらを、更に二次加工して、各種包装、容器材料、熱収縮ラベル材料に特に好ましく使用できる。しかし、本発明のスチレン系重合体樹脂又はスチレン系重合体樹脂組成物の利用はこれらに限定するものではない。本発明のスチレン系重合体樹脂又はスチレン系重合体樹脂組成物の特長を発揮できる各種用途に使用することもできる。例えば、射出成形やインジェクションブロー成形等から成る食品容器、日用品、雑貨、OA機器部品、弱電部品等に使用することもできる。
本発明の態様を実施例により具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に、限定されるものではない。
1.スチレン系重合体製造方法の実施例
1−1)測定及び解析方法
重合の解析、測定は次に示す方法で実施した。
(1)重合転化率の測定
重合終了後の重合液中の残存単量体濃度をガスクロマトグラフィーで測定した。
(2)重合液中の(メタ)アクリル酸エステルの下限割合の測定
連続重合プロセスにおいては重合反応が安定した段階で、各重合槽の各部位から重合液をサンプリングした。その残存単量体中の(メタ)アクリル酸エステル割合をガスクロマトグラフィーで測定した。表は、その最小値を記載する。
また、バッチ重合プロセスにおいては重合終了後の重合液中の(メタ)アクリル酸エステル割合を測定した。
(3)重合体の構成単量体単位の測定
13C−NMRで測定し、それぞれの単量体の単量体単位に起因するスペクトルピークの面積比より共重合組成を算出した。
(4)重合体中の低分子量成分の測定
スチレン系重合体中の低分子量成分であるスチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体含有量を次の方法で測定した。
手法:
ガスクロマトグラフィーで測定した。
測定条件:
試料調製:重合体1gをジメチルホルムアミド25mlに溶解。
測定機器:島津製製作所 GC14B
カラム:CHROMAPACK CP WAX 52CB、100m、膜厚2μm、0.52mmφ
カラム温度:110℃−10分→15℃/分で昇温→130℃−2分
注入口温度:150℃、検出方法:FID
検出器温度:150℃キャリアガス:ヘリウム
(5)スチレン系重合体中の共反応環状トリマー含有量の測定
溶媒抽出した低分子量成分を、液クロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィーによって各成分を分取、解析することで、オリゴマー構造を同定した。また、共反応環状トリマー量はガスクロマトグラフィーを用い、FIDで検出される対応するトリマー類の面積から計算した。
測定手法:
スチレン系重合体樹脂の溶液サンプルを、昇温ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。スチレントリマー(分子量312)のリテンションタイム付近にスチレントリマー以外に、スチレンと(メタ)アクリル酸エステル単量体の単量体に起因するオリゴマー類のピークが多数検出された。
共反応環状トリマーの含有量は、各共反応環状トリマー類の面積を合計し、標準物質として1−フェニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリンを用い、換算して求めた。
測定条件:
試料調製:樹脂1gをメチルエチルケトン/メタノール混合液(9/1容積比)20mlに溶解した。
測定機器:AGILENT製 6890
カラム固定相:5%ジフェニルジメチルポリシロキサン30m 内径0.25mm 膜厚0.25μm
オーブン温度:40℃−1分→20℃/分で昇温→320℃
注入口温度:200℃
キャリアガス:He 80ml/min
検出方法:FID
検出器温度:200℃
(6)分子量の測定
手法: ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)で測定し、単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成し、ポリスチレン換算して分子量を求めた。
測定条件:
試料調製:テトラヒドロフランに重合体約1,000ppmを溶解した。
測定機器:昭和電工(株)製 Shodex21
サンプルカラム:KF−806L2本
リファレンスカラム:KF−800RL2本
カラム温度:40℃
キャリア液及び流量:THF、1ml/min
検出器:RI、UV(波長254nm)
検量線:東ソー(株)製の単分散PS使用
データ処理:Sic−480
(7)MFRの測定
ISO R1133に準拠して測定した(条件:200℃、荷重5kgf)。
1−2)製造方法実施例
実施例1
第1重合槽として攪拌機を備えた完全混合型重合槽(容量4リットル)、第2重合槽として攪拌機を備えたプラグフロー型重合槽(容量2リットル)を2基直列に連結した重合装置を準備した。第1重合槽と第2重合槽との間には攪拌機を備えたラインミキサーを挿入した。
第1重合槽に、スチレン73.6重量%、アクリル酸n−ブチル18.4重量%、エチルベンゼン8重量%、有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を0.9リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部から抜き出した。
次いで、前記に同組成の原料溶液0.1リットル/hrを追加供給し、ラインミキサーにて混合した後、第2重合槽を上部から下部に通過させた。第1重合槽の内温を105℃、第2重合槽の内温を120〜140℃に制御した。
得られた重合溶液は二段ベント付き脱揮押出機に連続的に供給し、未反応単量体及び溶媒を脱揮して、重合体を得た。脱揮押出機は重合体温度を200〜240℃、真空度を20torrに制御した。
得られたスチレン系重合体から抽出したオリゴマー類を、前述の方法で測定した。得られたガスクロマトグラフィーの出力チャートを図1に示す。トリマー類の主な検出ピークとしてT01〜T17の17ピークが認められた。また、液体クロマトグラフィーの1段又は2段と組み合わせることによって、いくつかのピークが分離し、全24成分の存在が検出された。主な成分を分取し、構造解析することによって、各成分の構造を同定した。図1に各ピークの成分番号のガスクロマトグラフィーにおける関係を示す。また表1におけるa、b又はcなる副番号は、図1における単一ガスクロピークが、液体クロマトグラフィー等との組合せで、幾つかのピークに分離したことを意味する。
表1及び表2に各ピークのトリマー構造及びその存在量の関係を示す。
本実施例のスチレン系重合体が含有する共反応環状トリマー量は、4400ppmであった。
実施例2〜6、比較例1及び2
実施例1と同じ装置を用いて、同様の方式で重合を行なった。重合体組成が表2に示す通りとなるようにスチレン、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルの原料溶液の比率を変えた。
また、必要に応じて原料溶液のエチルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンの濃度を調整あるいは連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)を添加した。更に重合温度も目的に応じて制御した。
実施例7
実施例1と同一の重合装置を用いた。第1重合槽に、スチレン73.6重量%、アクリル酸n−ブチル18.4重量%、エチルベンゼン8重量%及び有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を1.0リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部から抜き出した。次いで、そのままの重合溶液を第2重合槽の上部から、下部に通過させた。各重合槽の内温は実施例1と同様に制御した。得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、スチレン系重合体を得た。
比較例3
実施例1と同一の重合装置を用い、開始剤なしで熱ラジカル的に重合した。第1重合槽の内温を120℃、第2重合槽の内温を150〜170℃に制御した。その他の条件は実施例7と同様にした。
比較例4
第1重合槽に、スチレン77.6重量%、アクリル酸n−ブチル19.4重量%、エチルベンゼン3重量%及び1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を1リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部から抜き出した。次いで、単に第2重合槽を上部から、下部に通過させた。第1重合槽の内温を120℃、第2重合槽の内温を150〜170℃に制御した。得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、スチレン系重合体を得た。
比較例5
実施例1と全く同一条件にて重合した。得られた重合体の脱揮時に減圧度をやや下げた(100〜400toor)ことにより、スチレン系重合体中の単量体量を制御した。
比較例6
攪拌機を備えた10リットル重合槽にてバッチ重合した。スチレン78.2重量%、アクリル酸n−ブチル13.8重量%、エチルベンゼン8重量%、有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を7リットル供給、重合温度90℃で2時間、130℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間重合した。得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、スチレン系重合体を得た。
比較例7
攪拌機を備えた130リットル重合槽に純水50kg、ポリビニルアルコール50gを供給、攪拌混合した。次に、スチレン35kg、メチルメタアクリレート15kg、アルファーメチルスチレンダイマー25gを供給、95℃に昇温して6時間重合を行った。更に130℃で6時間重合を継続した。重合して得られたビーズは水で洗浄、脱水、乾燥した後、220℃のベント付き押出機を通した。
比較例8
攪拌機を備えた完全混合型重合槽(容量4リットル)単独による連続重合を実施した。全反応槽滞留時間及びその他の条件は実施例1と同等にした。
具体的には、スチレン73.6重量%、アクリル酸n−ブチル18.4重量%、エチルベンゼン8重量%、有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を0.6リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部より抜き出した。重合槽の内温は120℃に制御した。得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、スチレン系重合体を得た。
2.スチレン系重合体樹脂の実施例
2−1)測定及び解析方法
樹脂性能評価の手法又は判断基準を次に示す。
(1)ビカット軟化温度の測定
ASTM−D1525法に準じて荷重1kg、昇温スピード20℃/分で測定。
(2)低温加工性の評価
厚さ0.25mmのシートを用いてビカット軟化温度+30℃、あるいはビカット軟化温度+30℃が125℃を超えるものは125℃を上限に加熱して、延伸機で二軸方向にそれぞれ2倍に延伸し、厚さ約60μmの延伸フィルムを10枚作成、評価した。延伸時に6枚以上フィルムが破れる場合を×、1〜3枚破れる場合を○、全く破れない場合を◎として判定した。
(3)成形品の厚み斑の評価
(2)項で得られた延伸フィルムを用いて、同じ位置に等間隔に印を付けた16点について、厚みの平均値を測定し、平均値より±5μmを超える測定点の割合が3割以上ある場合を厚み斑不良とした。これをフィルム10枚について行い、厚み斑不良が6枚以上の場を×、1〜3枚の場合を○、0枚の場合を◎として、成形品の厚み斑の判定を行った。なお、(1)でフィルム10枚作成時に、延伸で破れたフィルムは厚み斑不良として数えた。
(4)落錘衝撃強度の測定
(2)項と同じ方法で得た厚さ約60μmのフィルムを、東洋精機社製のデュポン式ダート試験機(B−50)を用いて、ミサイルの重錘形状を半径1/8インチとし、荷重100gを用いて、高さを変え、50%破壊値を求めた。
(5)引張破断伸びの測定
厚さ0.25mmのシートを用いて、ASTMD882−67に準拠して測定した。
(6)自然収縮性の評価
(1)と同じ方法で得た延伸フィルムを用いて、37℃の恒温槽に21日間放置し、次式により算出した。
自然収縮率(%)=(L1−L2)/L1×100、
L1:放置前の長さ、L2:放置後の長さ。
(7)耐候性の評価
ダイプラ・メタルウェザー試験機(型式:KU−R5CI−A)、ダイプラ・ウィンテス社製を使用した。光源はメタルハライドランプ(KF−1フィルター使用)を用い、30℃、湿度98RH%と55℃、湿度50RH%の各4時間のサイクルで400時間まで照射し、色の変化(ΔE)を測定した。なお測定には、射出成形機で成形した50×50×2mmの平板を用いた。
(8)リワーク樹脂性能の評価
各樹脂をビカット軟化温度+100℃、比較例2のみは150℃、で押し出し、ペレタイジング処理を三度繰り返した。その後、前記の低温加工性及び成形品の厚み斑と同様に成形・評価した。
2−2)樹脂性能評価の実施例
実施例1〜7及び比較例1〜8で得られたスチレン系重合体を、40mmシート押出機を用いてシートに加工した。押出温度は、対応樹脂のビカット軟化温度+100℃とし、比較例2のみ170℃とした。厚さ0.25mmのシートを作成し、低温加工性、シートから二次加工成形で得られた成形品の厚み斑、落錘衝撃強度、引張破断伸び、自然収縮率を下記の方法で測定した。耐候性は50×50×2mmの平板を射出成形機で成形し、下記の方法で評価した。得られた測定、評価結果を表3及び表4に示す。
表3及び表4より、実施例1〜7の樹脂が、低温加工性、成形品の厚み斑、落錘衝撃強度、引張破断伸び、自然収縮率、耐候性及びリワーク性のバランス面で優れることが分る。また(メタ)アクリル酸エステルが同一含有量の樹脂で耐候性を比較した場合、アクリル酸n−ブチルの耐候性が、ビカット軟化温度の低減効果が最も大きいことが分かる。
比較例1は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が、極端に少ない例である。実施例に比較して耐候性、リワーク樹脂性能及び強度性能が劣る。また、ビカット軟化温度が105℃と高く、低温加工性が非常に劣る。
比較例2は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が、極端に多い例である。ビカット軟化温度が40℃未満と低く、自然収縮が極めて大きく、低温加工性も劣る。
実施例7と比較例3は開始剤ラジカル重合と熱ラジカル重合法の比較になる。熱ラジカル重合法で得られるスチレン系重合体は、含まれる共反応環状トリマー成分が増大するため、開始剤ラジカル重合法の重合体に比較してリワーク樹脂性能に劣る。また、耐候性の低下がある。
比較例4は重合温度が高いため、分子量分布の拡大や共反応環状トリマー含量の増大を来しており、リワーク樹脂性能や強度性能、耐候性の低下がある。
比較例5は単量体含有量が多い例で、耐候性、低温加工性、リワーク樹脂性能に劣る。
比較例6はバッチプロセスでスチレン系重合体を得た例であり、成形品の厚み斑、リワーク樹脂性能に劣る。
比較例7は縣濁重合プロセスで重合体を得た例であり、低温加工性、リワーク樹脂性能、耐候性、強度に劣るものであった。
比較例8完全混合槽重合槽のみによりスチレン系重合体を得た例である。重合転化率が著しく低く、重合体に残る単量体が多くなった。重合体性能としては強度、バージン樹脂及びリワーク樹脂の成形品の厚み斑に劣るものであった。
3.スチレン系重合体樹脂組成物の実施例
3−1)測定及び解析方法
樹脂組成物性能の測定、評価は次に示す方法、基準で実施した。
(1)ビカット軟化温度の測定
ASTM−D1525法に準じて荷重1kg、昇温スピード20℃/分で測定。
(2)熱収縮フィルム仕上性
1.5リットルのPETボトル(30℃の水が充填された、最大径91mm、高さ310mmの円筒こけし状容器)に、筒状にした熱収縮フィルム(折り幅148mm、高さ90mm)をセットしたものを、熱風式加熱装置で内温度135℃、滞留時間10秒で熱収縮させ、熱収縮したフィルムがボトルにフィット状態を評価した。
熱収縮させてボトルにセットされたフィルムを指先で円周方向に軽く回転させてその動きの程度をみる。(10個ずつ評価して1つでも下記のものがあればそのランクとする)。
○:ボトルとの間の隙間がない、又は僅かに隙間のあるのもあるが、回転しない。
△:僅かに回転(1mm以内)する。
×:緩くてクルクル回転する。
(3)引張破断強度
ASTM−D882に準拠して主延伸方向の対直角方向の値を測定した。(n=5の平均値)
フィルムの機械的強度を判定するもので、引張破断強度の高いものが優れる。
○:3.0kg/mm2以上。
△:2.5〜3.0kg/mm2未満。
×:2.5kg/mm2未満。
(4)引張破断伸びの測定
フィルムの伸び易さを成膜1日後に測定した。ASTM−D882に準拠して主延伸方向の対直角方向の値を測定した。(n=5の平均値)。成膜1日後のフィルムで測定した。
伸度が高くて経時低下しないものが、包装機械でのフィルム切れが少なく、また印刷工程での溶剤や加熱等による品質低下がなく優れている。引張破断伸度は高いのが良い。
○:150%以上
△:120〜150%未満
×:120%未満
(5)耐折強度の評価
ASTM−D2176に準拠して荷重2kgで主延伸方向の対直角方向の値(2枚折りで重ねた状態)を測定した(n=5の平均値で小数点以下は四捨五入した)。
フィルムは折り曲げて筒状にして使用するので、折り曲げた時の折り目に傷が付いて切れ難いかどうか判定する。切れるまでの折り曲げ回数の多いものが優れる。
○:31回以上。
△:11〜30回。
×:10回未満。
(6)自然収縮率の測定
主延伸方向のフィルム長さL0に対する30℃で30日間オーブン中に保管後の寸法L1を用いて次式で計算し、寸法収縮率Lを求めた。
例えば流通時の保管状態(雰囲気温度、保管時間)における、フィルムの寸法変化(収縮)はサイズが小さくなって容器にはまり難くなるなどのトラブルの原因になるので、寸法変化率は少ないことがフィルムの品質上重要である。
L(%)=(L0−L1)×100/L0
◎:1.0%未満
○:1.0〜2.0%未満
△:2.0〜5.0%未満
×:5.0%以上
(7)全光線透過率の評価
透明性はフィルムの商品価値を大きく左右する。透明で、光沢の良いものが優れている。HAZEは小さい値、GLOSSは大きい値ほど良い。
1mm厚のシートを射出成形し、その全光線透過率を求めた。
○:全光線透過率85%以上
△:同75〜85%
×:75%未満
(8)光沢の評価
光沢は、フィルムの商品価値を大きく左右する。透明で、光沢の良いものが優れている。
ASTM−D2457(角度45°)に準拠して熱収縮フィルムのGLOSS値(%)測定した(n=5の平均値)。
○:125%以上
△:100〜125%未満
×:100%未満
(9)リワーク樹脂性能の評価
各樹脂をビッカット軟化温度+100℃にて押出し、ペレタイジング処理を3度繰返した。その後熱収縮フィルムを作成して、前記の熱収縮フィルム仕上性、耐折強度及び次に示す流れムラを観察した。
a.熱収縮フィルム仕上性:バージン樹脂評価方法に同じ。
b.耐折強度:バージン樹脂評価方法に同じ。
c.流れムラ:
二軸延伸フィルムを目測観察し、表面の流れムラ(フィルム延伸に伴う、ライン状の凹凸)を評価した。フィルムは平滑で目立たないものが優れる。
◎:合格レベル(目視判断できる流れムラの発生が全くない。)
○:合格レベル(微妙な流れムラはあるが、明確に判断できる流れムラの発生はない。)
△:不合格レベル(時折、明確な流れムラが認められる。)
×:不合格レベル(常時、明確な流れムラが認められる。)
(10)樹脂性能の総合評価
測定評価の10項目の結果をもとに熱収縮性硬質フィルムとしての総合判定を実施した。判定基準は次の通りである。
○最も良いレベル:各評価項目で◎又は○。
△比較的良いレベル:△が2以下で、×がない。
×不合格レベル:△が3以上又は×がある。
総合判定が○及び△のランクにあるものは実用上合格のレベルであり、○は特に品質が優れる。
3−2)樹脂組成物性能評価の実施例
重合体製造例1(スチレン−共役ジエンブロック共重合体製造例)
攪拌器を備えた容量100リッターの反応器に、溶媒としてシクロヘキサン50Kgを入れ、ブタジエン単量体0.36Kg、スチレン単量体3.6Kg及びノルマルブチルリチウム9.4ミリモルを仕込み、徐々に昇温しながら2時間かけて重合を行った。その後一度30℃まで冷却し、次いでブタジエン単量体2.44Kgを仕込み、徐々に昇温しながら1時間かけて重合を行った。再度30℃に冷却し、更にスチレン単量体3.6Kgを仕込み、昇温しながら2時間かけて重合を行った。
得られた重合体溶液はリチウム量の10倍当量のメタノールを添加することによりアニオン活性末端を失活させた。その後、重合体をメタノールにて沈殿分離した後、重合体100g当たり、0.05gの酸化防止剤を加えた後、ベント付き脱揮押し出し機を用い、160℃で揮発成分を除去した。
得られた重合体は、B−A−B−Aタイプのスチレン分布が一部傾斜のテトラブロック構造を有している。得られた重合体の構造は表5及び6に示す。
重合体製造例2(スチレン−共役ジエンブロック共重合体製造例)
攪拌器を備えた容量100リッターの反応器に、溶媒としてシクロヘキサン50Kgを仕込み、その後50℃に保ちながら、重合開始剤であるセカンダリーブチルリチウム9.8ミリモル、スチレン単量体3.6Kg、次いでブタジエン単量体1.68Kgとイソプレン単量体1.12Kgの共役ジエン単量体混合液、更にスチレン単量体3.6Kgを順次仕込み、各ブロックを50℃〜80℃の温度範囲で、各1時間、2時間及び1時間かけて重合を行った。
他の条件は製造例15と同様にして重合、脱揮処理を行った。このようにして得られた重合体は、A−B−Aタイプのトリブロック構造を有し、共役ジエン単量体単位におけるイソプレン単量体単位の割合は40重量%であった。得られた重合体のその他の構造は表5に記載されている。
重合体製造例3(スチレン−共役ジエンブロック共重合体製造例)
攪拌器を備えた容量100リッターの反応器に、溶媒としてシクロヘキサン50Kg、重合開始剤であるセカンダリーブチルリチウム28ミリモル、スチレン単量体7.2Kgを仕込み、その後50℃に保ちながら1時間かけて重合を行った。次いでブタジエン単量体2.8Kgを仕込み、徐々に昇温しながら2時間かけて重合を行った。重合完結後、8ミリモルのトリクロルメチルシラン8ミリモルを添加、混合し、アニオン末端をカップリングした。
得られた重合体は、微量の未反応A−Bジブロック構造体を含む、
(A−B)3−Siタイプのラジアルブロックポリマー構造であった。他の条件は製造例1と同様にして重合、脱揮処理を行った。得られた重合体の構造は表5に示す。
次に樹脂組成物性能の評価結果を示す。
実施例14、比較例9及び10は、各表5及び表6に記載の重合体組成で、他の樹脂組成物は(A)成分70重量部及び(B)成分30重量部の重合体組成で、添加剤混合物(フェノールアクリレート系の酸化防止剤(2−tert−ブチル−6(3′−tert−ブチル−5′−メチル−2′−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート)を0.5重量部、燐系の酸化防止剤(トリ(2,4−ジ−tert−ブチル)−フェニルフォスファイト)を0.2重量部、更に他の燐系の酸化防止剤(トリ(4−ノニル)−フェニルフォスファイト)を0.3重量部、アミン系の帯電防止剤(ヒドロキシエチルアルキルアミン)0.7重量部を含む)を添加して、ブレンダーにて混合した。
この混合物を押出機中で190℃の温度で混合溶融した後、Tダイより押出し均一なシートに成形した。更に、該シートをロール延伸機を用い、90℃でMD方向(シート引出し方向)に1.6倍延伸した後、テンター延伸設備を用い、オーブン温度85℃でTD方向(ロール平行方向)に6.0倍に延伸して50μの逐次二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルム特性及び樹脂特性について評価した。その結果を各表5及び表6に示す。
実施例8、比較例13〜15
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる共反応環状トリマー含有量の影響を判断できる。共反応環状トリマーが10,000ppmを超えると、リワーク樹脂の顕著な性能低下が認められた。また、共反応環状トリマーが1,000ppm未満ではバージン樹脂の加工性能、特に熱収縮フィルム仕上性の低下が認められた。
実施例8〜13
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するアクリル酸エステル種及び含有量を様々に変更した実施例である。これらの実施例は、各種の(メタ)アクリル酸エステルを用いても、得られるスチレン系重合体樹脂組成物のビカット軟化温度等を調整することによって、優れた樹脂性能を発現できることを示すものである。
実施例14
(C)成分として、石油系炭化水素樹脂であるテルペン系水素付加樹脂を5重量%添加した例である。テルペン系水素付加樹脂の添加によりスチレン系重合体樹脂組成物のビカット軟化温度の調整効果が認められた。
実施例15及び16
(B)成分のブロック構造を振った実施例である。これらの実施例は、得られるスチレン系重合体樹脂組成物がシート及びフィルム用途に優れた性能を発現できることを示すものである。
比較例9及び10
(A)成分又は(B)成分単味の性能評価結果を示す。各成分単独では樹脂性能はバランスに欠けるものであった。
比較例11及び12
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体における(メタ)アクリル酸エステル含有量が、本発明の範囲を外れた例である。(メタ)アクリル酸エステル含有量が少ないとシート及びフィルムの加工性能が低下する。また、多すぎると軟化温度が低くなって、樹脂としての実用性能が失われて好ましくない。
比較例16
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を懸濁重合法で得た例である。共反応トリマーの低減によるリワーク樹脂性能の低下が認められた。
産業上の利用分野
本発明の製造方法によるシート及びフィルム用スチレン系重合体樹脂は優れたリワーク性能を有すると共に、低温での加工性、耐候性、各種の強度特性、延伸加工時の均一性に優れ、延伸フィルムの自然収縮が少ないとの特長を有する。得られたシート及びフィルムは包装容器、蓋材等の各種包装材料や容器のラベル材料として好適に用いることができる。
2,4,6−トリフェニル−1−ヘキセン
1−フェニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリン
1−フェニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン
1−フェニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル)テトラリン
1−ブトキシカルボニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリン
1−n−ブトキシカルボニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン
1−n−ブトキシカルボニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1で得た重合体のオリゴマー類のガスクロマトグラフィー検出ピークを示す図である。
本発明は、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーを特定量範囲で含有するスチレン系重合体の製造方法、該方法により得られ得るスチレン系重合体を主体とするスチレン系重合体樹脂及び該樹脂を含むスチレン系重合体樹脂組成物に関する。
該スチレン系重合体樹脂及び該スチレン系重合体樹脂組成物は、熱安定性及び加工安定性に優れ、リワーク(再加工)に対する耐性が顕著に優れており、この優れたリワーク耐性及びスチレン系樹脂の本来の特長である透明性やその他の物理的性能を生かし、包装フィルム、熱収縮フィルム、包装容器、更に各種成形用途に好ましく使用できる。
背景技術
従来、スチレン系重合体樹脂は、その優れた成形加工性と樹脂性能のバランスにより、電気製品等の各種工業材料、雑貨、緩衝材、断熱材及び食品容器等に広く用いられている。近年はシート若しくはフィルム状に加工して、又は更に二次加工して、食品包装及び食品容器のラベル等に用いられるようになった。
この種の用途においてシート及びフィルムは、一般に表面が平滑、透明で厚み斑が少なく、強度特性に優れたものが望まれる。スチレン系重合体樹脂は、一般に未延伸のシート及びフィルムでは強度的に実用的とは言えないが、延伸によって優れた透明性、表面光沢を有する、強靱で腰が強いシート及びフィルムにすることができる。これを達成するために、低温でシーティングや延伸、必要により更には低温で二次加工する方策が採られる。
しかし、スチレン系重合体樹脂の代表であるポリスチレン樹脂は、軟化温度がやや高く、また硬くて脆い性質のため、シート又はフィルムへの加工性に劣る。具体的にはシーティングや延伸加工、更には低温での二次加工において、ポリスチレン樹脂は流動性不足から厚み斑を来たし、シートが破断し易い等、加工性が劣る。それ故、強度特性に優れた高延伸倍率のシート及びフィルムを得ることは極めて難しい。
この種の用途において、ポリスチレン樹脂の欠点を改善したスチレン系単量体と、アクリル酸エステル単量体又はメタアクリル酸エステル単量体(以後、(メタ)アクリル酸エステル単量体と略す)から成る共重合体樹脂が既に知られている。
スチレンに(メタ)アクリル酸エステルを共重合することにより、軟化温度を調整でき、且つポリスチレン樹脂の硬くて脆い欠点を改善できる。更にスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂を成形、加工して得られるシート又はフィルムは強度特性にも優れる。
具体的には、ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体等((メタ)アクリル酸エステル単量体を含む)の共重合体と、スチレン−共役ジエンのブロック共重合体(以後、スチレン系ブロック共重合体と略す)との樹脂組成物において、フィルムの冷間延伸加工性、延伸特性及び耐クラック性等に優れるものが開示されている(特許文献1参照)。
また、ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体等の共重合体と、スチレン系ブロック共重合体との樹脂組成物を一軸に延伸した低温収縮性フィルムが、低温収縮性能、低温収縮応力、腰硬さ、透明性、耐クラック特性、寸法安定性等に優れることが開示されている(特許文献2参照)。
更には、スチレンとアクリル酸n−ブチルエステルの共重合体と、限定された構造又は特性を有するスチレン系ブロック共重合体との樹脂組成物のシート及びフィルムが、物性バランスに優れることが開示されている(特許文献3参照)。
しかし、これらの重合体組成物に用いたスチレン系重合体樹脂は、シート及びフィルムの物性バランスに優れるものの、使用条件によっては熱的安定性及び加工安定性に問題を有するものであった。熱的安定性及び加工安定性の関係する具体例として樹脂リワーク問題がある。
近年のコスト削減及び環境問題に対する意識の高まりによって、産業廃棄物削減の要求は強く、成形加工工程で発生する成形クズ等のリワークが必須になっている。このため、リワークに耐える加工安定性を有する樹脂が強く求められている。ここで言うリワークとは、成形不良品やシート成形時にトリミングされるミミや破断片樹脂等のリサイクルをいう。この点で、従来のスチレン系重合体樹脂の加工安定性は必ずしも十分でなかった。特に、本発明が一つの目標とする透明シート及び透明フィルム用途においては、樹脂劣化により発生する着色、異物又は流れムラは、極めて目立つもので、樹脂リワークの致命的欠点となる。それ故、バージン樹脂に選定された少量のリワーク樹脂を混合する等の対応が現状技術であった。
スチレン系重合体樹脂の熱的安定性及び加工安定性問題が、樹脂中に存在する環状スチレンオリゴマーに大きく起因するとの考え方は従来からあった。具体的には、スチレン系重合体樹脂中に存在する環状オリゴマーが、加工時に熱的に分解してラジカルが発生する。(例えば特許文献4参照)。発生したラジカルが重合体鎖の切断や架橋を引き起こすことが大きな劣化の原因となる。
この解決の方策として、アニオン重合法により得られるポリスチレン樹脂を用いる技術が提案されている。アニオン重合法により得られるポリスチレン樹脂は環状スチレンオリゴマーを含まず、極めて優れた安定性を有するとされている。(同じく特許文献4参照)。しかし、コスト問題もあってか、工業的な実施には至っていない。
オリゴマーの少ない点では、縣濁ラジカル重合法のスチレン系重合体樹脂も公知である。
例えば、単量体、ダイマー、トリマー及び溶媒の総量が0.8重量%以下で、その構成単位がスチレン系単量体80〜99.5モル%、(メタ)アクリル酸エステル単量体0.5〜20モル%、且つ限定された溶液粘度を有するスチレン系重合体樹脂が、成形条件の幅が広く、成形性と強度のバランスに優れるとしている。該スチレン系重合体樹脂の製造方法は塊状重合法、溶液重合法、縣濁重合法及び乳化重合のいずれの方法も用いることができるとしている(特許文献5参照)。しかし、これらの従来技術には、スチレン系トリマー構造を限定することにより達成される作用効果も、そのための方法も開示されていない。
また、縣濁重合法において低い温度で重合して得られたスチレンダイマー及びスチレントリマーの含有量が400ppm以下のスチレン系樹脂が開示されている。更に、50重量%未満の(メタ)アクリル酸エステル類の共重合、及び得られるスチレン系重合体樹脂の溶出オリゴマーが少ない点を生かし、食品包材用途への利用が開示又は提案されている(特許文献6参照)。
更には、未反応単量体1,000ppm以下で、スチレン系単量体50〜80重量%と(メタ)アクリル酸エステル単量体20〜50重量%から成る共重合体で、且つスチレンダイマーとスチレントリマーの合計量が1,000ppm以下のスチレン系重合体樹脂が、加工時の生産性及び成形品の外観に優れ、臭気が少なく、食品包装容器等の用途に好適とされている。その実施例で開示された製造方法は縣濁ラジカル重合法に限定されている。(特許文献7参照。)
しかし、縣濁重合法は通常バッチプロセスに限定され、且つ重合時に分散剤の使用を避けられない。このためか、懸濁重合法で得られるスチレン系樹脂は、リワーク等の加工履歴による樹脂の着色又は吸湿による白化のし易さ、更にコスト的不利等の問題があった。
特許文献1: 特開昭59−221348号公報
特許文献2: 特開昭61−025819号公報
特許文献3: 特開2001−002870号公報
特許文献4: 特開平09−111073号公報
特許文献5: 特開平04−239511号公報
特許文献6: 特開2000−159920号公報
特許文献7: 特開2001−026619号公報
発明の開示
本発明は、熱安定性及び加工安定性を改良することによって優れたリワーク特性を達成すると共に、スチレン系樹脂本来の性能である優れた透明性やその他の物理的性能を維持したスチレン系重合体樹脂及びその効率的な製造方法の提供を課題とする。
本発明者等は、上記の課題解決について鋭意検討の結果、限定された重合条件下に、限定された構造及び特性を有するスチレン系重合体を重合し、この重合体を用いることによって、従来技術の課題を改善できることを見出し、本発明を達成した。
本発明は、主として次の1)項〜3)項に関するものである。即ち、
1) 二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することを含み、重合条件を下記(a)及び(b)項に示す範囲に制御する、スチレン系重合体の製造方法:
(a)供給する単量体の構成をスチレン系単量体60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体3〜40重量%とし、
(b)重合槽の各部位における(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が、常に全単量体に対して1重量%を超える。
2) 二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することにより得られる、下記(a’)〜(d’)項の特徴を有するスチレン系重合体を主体として含むスチレン系重合体樹脂:
(a’)スチレン系重合体を構成する単量体単位が、スチレン系単量体単位60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位3〜40重量%の範囲であり、
(b’)スチレン系重合体の重量平均分子量が15万〜55万の範囲であり、
(c’)スチレン系重合体が、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーを1,000〜10,000ppmの範囲で含有し、
(d’)スチレン系重合体樹脂としてのビカット軟化温度が50〜99℃の範囲にある。
3) (A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂 5〜95重量%、
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体 95〜5重量%、及び
(C)前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体 0〜30重量%
を含むスチレン系重合体樹脂組成物であって、
(A)成分のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂が、上記2)に記載のスチレン系重合体樹脂であり、(B)成分のスチレン−共役ジエンブロック共重合体が下記(e’)〜(g’)項の特徴を有し、更にスチレン系重合体樹脂組成物として下記(h’)及び(i’)項の特徴を有するスチレン系重合体樹脂組成物:
(e’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体が、少なくとも2つのスチレン系重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン系重合体ブロックから構成され、
(f’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成するスチレン系単量体単位が40〜95重量%であり、
(g’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成する共役ジエン単量体単位が60〜5重量%であり、
(h’)スチレン系重合体樹脂組成物としてのビカット軟化温度が50〜99℃の範囲にあり、
(i’)スチレン系重合体樹脂組成物を1mm厚平板にしての全光線透過率が75%以上である。
発明を実施するための最良の形態
本発明の第1の目的は、新規なスチレン系重合体の製造方法の提供にある。
スチレン系重合体の重合方法は、ラジカル重合法、アニオン重合法、配位アニオン重合法及びカチオン重合法が、当業界で公知である。この中で、本発明のスチレン系重合体の製造方法はラジカル重合法である。
スチレン系重合体のラジカル重合法をその重合プロセスで分類すると、塊状重合法、溶液重合法、縣濁重合法及び乳化重合法が公知であり、それぞれに特徴があり、工業的に実施されている。また、開始剤で分類すると熱ラジカル重合法、開始剤ラジカル重合法が公知である。この中で、本発明のスチレン系重合体の製造方法は塊状及び溶液の開始剤ラジカル重合法に限定されるものとする。
縣濁重合法は水中に単量体を分散させ、且つ開始剤を用いて重合する方法である。縣濁重合法は重合時の混合性や除熱性に優れるが、分散剤の添加が必要であり、分散剤が製品に混入する。また、縣濁重合法は通常バッチプロセスで実施される。それ故、コスト的に不利なこと等から、利用は限定されている。これに対して、スチレン系重合体の塊状重合法と溶液重合法とは、それぞれ目的に応じて広く利用されている。
熱ラジカル重合法は、スチレン系単量体液を加熱して熱ラジカルを発生させ、重合を開始させる方法で、低コスト及び不純物が入り難いことに特長を有する。これに対して、開始剤ラジカル重合法はラジカル開始剤を使用する。使用されるラジカル開始剤は、通常は熱的に分解してラジカルを発生する化合物で、有機過酸化物やアゾ化合物等が知られる。この方法ではラジカル開始剤の分解温度、ひいては重合温度をある程度自由に設定できるとの特徴を有するが、開始剤のコストの点でやや不利となる。それ故、現在は不純物の混入が少ないこと、コスト的に有利なこと等により、塊状の熱重合法が工業的に広く利用されている。
先に挙げた特開2000−159920号公報及び特開2001−026619号公報の具体的開示は、縣濁重合技術に限定されている。特開昭59−221348号公報及び特開昭61−025819号公報におけるスチレン系重合体重合法の具体的開示は、熱ラジカル重合法に限定される。また、特開2001−002870号公報は開始剤ラジカル重合を具体的に開示しているが、バッチプロセスに関するものである。
特開平04−239511号公報は、その記載によれば、良好な透明性のスチレン系樹脂を得るには、開始剤を用いた完全混合型反応基での重合が好ましい、としている。その実施例の記載は一基の完全混合型重合槽を用いた重合に限定されている。完全混合型重合槽は、槽内の原料を十分に混合することができ原料組成が均一であるため、得られるスチレン系樹脂には組成分布がない。組成が均一な樹脂は屈折率の偏りがないため、光散乱が少なく透明性に優れることになる。
完全混合型重合槽による重合は、得られるスチレン系樹脂に組成分布がない点に特長があるが、工業的には課題を有する。一つはショートパスする供給原料が常にあることから、滞留時間に比して十分に転化率が上がらない点である。このことは、該公報の実施例が滞留時間6〜7時間の条件で、重合体濃度が51〜52重量%(転化率52.6〜55.9重量%相当)であることからも判断できる。今一つの課題は、重合反応を加速するために開始剤濃度を増大することが、開始剤コストの点で不利なだけでなく、得られる重合体の分子量低下を来す点にある。またショートパスした開始剤が脱揮工程に到達し、熱分解して重合体鎖の架橋、切断又は分解を引き起こすとの問題も生じ得る。
これらの従来技術に比して、本発明のスチレン系重合体の製造方法は次の特徴を有する。即ち、二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することを含み、重合条件を下記(a)及び(b)項に示す範囲に制御する、スチレン系重合体の製造方法である。
(a)供給する単量体の構成をスチレン系単量体60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体3〜40重量%の範囲とし、
(b)重合槽のいかなる部位でも(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が、常に全単量体に対して1重量%を超える。
本発明のスチレン系重合体の製造方法によって達成される一つの作用効果は、重合体に含まれるスチレン単量体単位のみから構成される環状スチレントリマー(以降は単に「環状スチレントリマー」と略す)の生成を抑制し、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマー(以降は「共反応環状トリマー」と略す)を特定量含有するスチレン重合体を製造できることにある。
ここで言うトリマーとは、スチレン単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の合計3単量体単位から構成されるものであり、環状とは分子中にテトラリン骨格を有することを意味する。何れの環状トリマーも幾つかの構造式のものが存在し、且つそれぞれが立体異性体を有し、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等での分析時には幾つかの異性体が分離、検出される。
本発明で達成される特定量の共反応環状トリマーを含有するスチレン系重合体は、熱安定性及び加工安定性が顕著に向上している。このような構造のトリマー含有量を制御及び達成する作用効果は、従来は全く知られていなかった。また、現段階ではトリマー構造制御の反応機構及びトリマー構造制御による作用効果発現の反応機構は、必ずしも明確に解明できていないが、次のように考えられる。
スチレン系重合体の重合時、スチレン分子(ジエン構造)と他のスチレン分子(オレフィン構造)とはディールスアルダー型反応により環状ダイマー、例えば1−フェニル−2,3−ジヒドロナフタレンを生成する。この種の環状ダイマーは更にスチレン1分子と反応して、スチレントリマーとなる。それ故、従来のポリスチレン樹脂及び耐衝撃ポリスチレン樹脂には、その製造方法により差はあるが、5,000〜20,000ppmの環状スチレントリマー(主体は1−フェニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリン)が含まれる。この環状スチレントリマーは、熱分解によってラジカルを生成し易く、スチレン重合体の安定性低下の大きな原因となっている。
本発明のスチレン系重合体の製造方法では、重合時に常時少量の(メタ)アクリル酸エステルを共存させる。これが環状ダイマー生成時あるいは環状トリマー生成時にスチレンよりも高い反応速度で付加して、スチレン2分子と(メタ)アクリル酸エステル1分子あるいはスチレン1分子と(メタ)アクリル酸エステル2分子が付加した安定なトリマーを形成する。それ故、スチレン系重合体中にはスチレン3分子から成るトリマーは、仕込み単量体組成に比して極めて少なくなる。この結果、本発明の製造方法で得られるスチレン系重合体は、従来のスチレン重合体に比して驚くべき熱安定性及び加工安定性を発現する。
次に、テトラリン骨格を有する環状トリマーの具体的構造例を挙げる。ここではスチレン系単量体の具体例としてスチレン、(メタ)アクリル酸エステルの例としてアクリル酸のアルキルアルコールエステルから成るトリマーを例示するが、これらは例であって本発明はこれらの構造例により何ら限定されるものではない。他のスチレン系単量体、メタアクリル酸エステル単量体を用いた場合、それぞれに対応するオリゴマーが生成することは当然である。
スチレンの3単量体単位から成る環状トリマー化合物の主な例として、1−フェニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリン、及び1−フェニル−4−(2−フェニルエチル)テトラリンが挙げられる。
スチレン系単量体単位及びアクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する共反応環状トリマーを次に挙げる。
スチレンの2単量体単位とアクリル酸エステルの1単量体単位から成る環状トリマー化合物の主な例として、1−フェニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(アルコキシカルボニル)テトラリン、及び1−(2−フェニルエチル)−4−(アルコキシカルボニル)テトラリンが挙げられる。
スチレンの1単量体単位とアクリル酸エステルの2単量体単位から成る環状トリマー化合物の主な例として、1−アルコキシカルボニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、及び1−アルコキシカルボニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリンが挙げられる。
アクリル酸エステル3単量体単位から成るトリマーの存在は確認できなかった。
ここで言うアルコキシ基はアクリル酸エステルを構成するアルコールの構成残基である。
これらの環状トリマー類は、前述の如く重合体製造時に単量体の副反応により生成する。これに対して、重合後の重合体の酸化劣化や熱分解、機械的分解等によってもオリゴマー類は生成する。生成するオリゴマーは、主に上述の環状構造(テトラリン骨格)を有さない鎖状オリゴマーである。
この種の鎖状トリマーの内、スチレン単量体単位とアクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する鎖状トリマーの主な例として、2,4−ジフェニル−6−アルコキシカルボニル−1−ヘキセン、2,6−ジフェニル−4−アルコキシカルボニル−1−ヘキセン、4,6−ジフェニル−2−アルコキシカルボニル−1−ヘキセン、2−フェニル−4,6−ビス(アルコキシカルボニル)−1−ヘキセン、4−フェニル−2,6−ビス(アルコキシカルボニル)−1−ヘキセン、及び6−フェニル−2,4−ビス(アルコキシカルボニル)−1−ヘキセンが挙げられる。
更に、スチレン系重合体には、その単量体構成単位の整数倍に一致しない鎖状トリマー近似化合物が少量含まれる。ここでは具体的化合物名を示さないが、例えば二重結合が飽和(水素が付加)した鎖状トリマー類や炭素原子の1つ足りない鎖状トリマー類等が存在する場合がある。
これらの鎖状トリマー及び鎖状トリマー近似化合物は主に重合後、重合体の分解により生成するオリゴマー関連化合物である。スチレン系重合体樹脂の熱安定性や加工安定性に与える影響は少なく、且つ重合条件には基本的に依存しない。
本発明のスチレン系重合体の製造方法は、スチレン系単量体を常時(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することに、大きな特徴がある。
スチレン系単量体は、スチレンの他に、少量の公知のビニル芳香族単量体を含んでいても構わない、この例としてα−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tertブチルスチレン、及びこれらの混合物等を挙げることができる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体とは、アクリル酸エステル単量体及びメタアクリル酸エステル単量体から選ばれる単量体を意味する。具体的にはC1〜C8の範囲のアルコールとアクリル酸及びメタアクリル酸のエステル化合物から選ばれる。より具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸n−ペンチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル等を挙げることができる。
また、これらの(メタ)アクリル酸エステル単量体の2種以上を組み合わせて用いても構わない。特にメタクリル酸メチルを用いる場合、低温加工が要求される用途では、得られるスチレン系重合体の軟化温度を調整するため、他の(メタ)アクリル酸エステルと組み合わせて用いることが好ましい。
低温加工性、耐候性、強度等のバランスの面で、(メタ)アクリル酸エステル単量体はアクリル酸エステル単量体であることが好ましい。アクリル酸エステルはメタアクリル酸エステルに比較して、少量の使用でスチレントリマーの生成を抑制して、共反応環状トリマー生成量を増大できる。
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチルが更に好ましく、アクリル酸n−ブチルが最も好ましい。延伸シート及び延伸フィル等の低温加工が要求される用途では、アクリル酸n−ブチルを用いることによって、スチレン系重合体樹脂の物性や加工性をバランス良く改良できる。
また、本発明のスチレン系重合体製造方法における単量体は、本発明の目的を阻害しない範囲で、共重合可能な他のビニル系単量体を含んでいても構わない。この好ましい具体例としては、アクリル酸、メタアクリル酸及びその塩、更には広くα、β−不飽和カルボン酸エステル類が挙げられる。
本発明のスチレン系重合体の製造方法における単量体組成は、スチレン系単量体60〜97重量%の範囲である。好ましくはスチレン系単量体65〜95重量%、更に好ましくは70〜93重量%、特に好ましくは75〜90重量%の範囲であり、残余の成分は(メタ)アクリル酸エステル単量体である。
スチレン単量体が60重量%未満では、得られるスチレン系重合体の耐熱性が過度に低下して好ましくない。具体的には成型品の熱的変形、延伸フィルムの自然収縮が起こり易く、好ましくない。また、スチレン系単量体が97重量%を超えると、得られるスチレン系重合体のシート又はフィルムを冷延伸加工する場合の適正温度幅が著しく狭まり、またシート又はフィルムの耐折れ性等の強度性能が低下して好ましくない。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体の導入量の低下に伴い、環状スチレントリマーが増大する。このため、熱安定性や加工安定性が低下を来して好ましくない。
用いる(メタ)アクリル酸エステル単量体は、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上がアクリル酸エステルである。また、アクリル酸エステルとしてはアクリル酸n−ブチルが特に好ましい。これにより、環状トリマー中の共反応環状トリマー含有率を更に高くでき、得られるスチレン系重合体樹脂の熱安定性や加工安定性を一層改善できる。
本発明のスチレン系重合体の製造方法によって達成される今一つの作用効果は、特定範囲の共反応環状トリマーを含有するスチレン系重合体を高効率に製造できることにある。
本発明のスチレン系重合体の製造方法は、二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法で、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することを含むスチレン系重合体の製造方法である。
更には、二基以上の重合槽を直列に連結し、最終重合槽の混合状態がプラグフロー流れとなる重合プロセスであることが好ましい。最も好ましくは、前段に完全混合重合槽、後段にプラグフロー重合槽を含む重合プロセスである。これにより、得られるスチレン系重合体の熱安定性及び加工安定性を保持したまま、高い重合転化率を効率的に達成できる。また、プロセスの一部に重合槽を並列に連結することは、重合体の分子量分布や組成分布を拡大又は調整する上で好ましい場合がある。
各重合槽の具体的形状は、その混合状態を達成する限り、特に限定するものではない。例えば、完全混合重合槽とは攪拌機を備え、上下混合の利いたタンクリアクターである。例えば、プラグフロー重合槽は上下攪拌の少ない塔状重合槽、スタティックミキサー、又は温度制御された単なる配管でも構わない。
バッチ重合プロセスにより得られるスチレン系重合体は、スチレン単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合性の差異に基づき、重合中に単量体組成が変化する。結果として重合体組成分布も大きくなる。また、共重合反応性の違いにより残存(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が低下すると、環状スチレントリマーの生成量が増大する。この結果、得られるスチレン系重合体樹脂の熱的安定性及び加工安定性の改善効果が低減し、且つ特定の樹脂性能、例えば低温シーティング時の伸び等の低温加工性が低下して、好ましくない。
二基以上の連結する各重合槽の容量は特に限定するものではない。全重合槽容量の和は、重合温度条件や原材料仕込み速度に依存するが、仕込み単量体の好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上の重合に要する滞留時間を達成する容量である。
各重合槽の容量比は、その混合状態にも依存するが、極端な容量差がないことが好ましい。他の反応槽容量に対して、極端に小さい重合槽を連結しても、重合槽直列連結の意味は少ない。
特に最終重合槽の混合状態がプラグフロー流れである場合、その重合槽の全重合槽容量に占める割合は、好ましくは5〜80%、更に好ましくは10〜60%の範囲である。
また、直列に連結した重合槽を用い、2つ以上の部位に単量体を分割して供給することは、重合槽の各部位の全単量体に対する(メタ)アクリル酸エステル濃度を制御する上で好ましい。それぞれ原料組成を調整し、原料供給を一箇所若しくは数カ所に分割して供給することができる。
本発明のスチレン系重合体の製造方法においては、重合槽各部位における(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度を、常に全単量体に対して1重量%を超える濃度に制御する必要がある。好ましくは2%を超え、更に好ましくは3%、特に好ましくは5%を超える濃度に制御する。共存する(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が著しく低減すると、環状スチレントリマーの生成量が増大し、本発明の目的を達成できない。(メタ)アクリル酸エステル濃度の均一化を達成する方策は、(メタ)アクリル酸濃度の低下する箇所に該単量体を分割的に仕込むことで達成できるし、重合液流れと逆の混合流れを一部作ることによっても達成できる。
本発明のスチレン系重合体の製造方法においては、有機ラジカル発生剤を開始剤に用いる。有機ラジカル発生剤としては、有機過酸化物及びアゾ化合物等が挙げられる。特に好ましい有機ラジカル発生剤は有機過酸化物である。
有機過酸化物の種類は、実施する重合温度での半減期が好ましくは10分から10時間の化合物から選ばれる。重合温度条件にもよるが、更に好ましくは10時間の半減期を得る温度が50〜130℃の範囲、特に好ましくは80〜120℃の範囲の有機過酸化物から選ばれる。
具体的な好ましい有機過酸化物の例としては、オクタノイルペルオキシド、ラウリルペルオキシド、ステアリルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシル2−エチルヘイサノエート、サクシニックペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、m−トルオルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)2−メチルシクロヘキサノエート、1,2−ビス(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルペルオキシマレイン酸、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキシルモノカルボネート、t−ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5−ジ−メチル−2、5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、t−ブチルペルオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルペルオキシイソフタレート、α、α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゾエート、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、p−メンタンハイドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。
最も好ましい有機過酸化物は1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、及び1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである。
有機ラジカル発生剤の使用量は、全単量体あたり、好ましくは5〜5,000ppmの範囲である。より好ましくは50〜2,000ppmの範囲、特に好ましくは100〜1,000ppmの範囲である。有機ラジカル発生剤の使用量が5ppm未満では、開始剤ラジカル重合と平行して、熱ラジカル重合が進行するためか、共反応環状トリマー生成量が著しく増大する。このため、得られるスチレン系重合体樹脂の耐候性、熱安定性、加工安定性及び強度性能が低下して好ましくない。また、有機ラジカル発生剤が5,000ppmを超えるとコスト的に不利なだけでなく、重合反応が不安定となり、好ましくない。
重合時に連鎖移動剤や分子量調整剤を添加することもできる。これらの連鎖移動剤や分子量調整剤は、スチレン重合体製造において公知の連鎖移動剤や分子量調整剤から選ぶことができる。これらの具体的化合物として、四塩化炭素等の有機ハロゲン化合物、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン化合物、α−メチルスチレンダイマー等のベンゼン環に対するα位炭素に活性水素を有する炭化水素化合物が挙げられる。最も好ましい化合物はα−メチルスチレンダイマーである。
本発明のスチレン系重合体の製造方法は、無溶媒又は少量の有機溶媒を使用して実施される。好ましい有機溶媒は、得られるスチレン系重合体を溶解可能で、重合反応時のラジカルに対する反応性が低く、且つ重合後に溶媒の加熱除去が容易な有機化合物から選ばれる。この好ましい例としてC6〜C10の芳香族炭化水素化合物及び環状の脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。具体的にはトルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。また、一部に鎖状の脂肪族炭化水素を含んでいても構わない。
重合溶媒の使用量は、スチレン系重合体100重量部当たり、好ましくは200重量部以下、更に好ましくは100重量部以下、特に好ましくは50重量部以下である。
本発明のスチレン系重合体の製造においては、主たる重合温度を70〜150℃の範囲とすることが好ましい。主たる重合温度とは、得られる重合体の少なくとも50重量%、好ましくは70重量%、特に好ましくは90重量%の重合が進行する温度を意味する。更に好ましくは80〜140℃、特に好ましくは90〜130℃の温度範囲である。
主たる重合温度をこの範囲に制御する限り、重合体の一部を重合する温度がこの範囲を外れても構わない。例えば、数基の重合槽を直列連結したシステムでは、重合の初期段階又は後期段階の一部の重合に、上述の温度範囲を外れて実施することはできる。また、数基の重合槽を並列連結したシステムでは、一部の重合槽の温度をこの範囲を越えて制御して実施することが好ましい場合もある。
具体的には、重合後期に重合を完結させるために、該温度範囲を越えることは目的によっては好ましい。また、重合槽の冷却を補助するために冷却した原材料を連続的に供給する場合、一部の重合ゾーンの温度が該温度範囲を下回る場合がある。
主たる重合温度が過度に高いと環状スチレントリマーの生成量が増大し、得られるスチレン系重合体の熱的安定性及び加工安定性が低減して好ましくない。過度に低い温度は重合液の粘度が著しく増大して、重合槽の混合が困難となり、また重合速度が低下する等、実用的でない。
本発明のスチレン系重合体の製造方法では、重合転化率は好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上に制御する。高い転化率は、当然生産効率の点で好ましい。重合転化率が60重量%を下回ると、生産効率低下、脱揮工程の設備的及びエネルギー的負荷が過大となり、好ましくない。また、脱揮工程で溶媒や残存単量体を取りきれず、得られる重合体の性能や臭気が問題になり易い。
本発明のスチレン系重合体の製造方法では、含有する未反応単量体や重合溶媒を脱揮、除去することにより、重合体が回収される。未反応単量体や重合溶媒の脱揮、除去の方法は、特に限定するものではない。ベント付押出機、フラッシュタンク等の既存スチレンの重合体の製造で公知の方法が利用できる。
脱揮時の平均重合体温度は、好ましくは180〜250℃の範囲、更に好ましくは190〜240℃の範囲、特に好ましくは200〜230℃の範囲である。極度に低い脱揮温度では、重合体中に残る単量体含有量が多くなり、好ましくない。また極度に高い温度では、重合体の熱分解が起こり、好ましくない。但し、脱揮の最終段階で短時間この範囲を超える温度で脱揮することは、得られスチレン系重合体の熱的分解を抑え、且つ残存する単量体量を効果的に減らす上で好ましい場合がある。
脱揮時の真空度は常圧でもよいが、好ましくは50torr以下、より好ましくは20torr以下である。真空度を上げる(絶対圧を低くする)ことにより、低い重合体温度で脱揮効率を高めることができ、好ましい。しかし、真空度を極度に上げることには、真空ポンプの能力や凝縮設備の能力の点で自ずと限界があり、通常5torr以上の圧が用いられる。
また、一連の脱揮プロセス内で一度脱揮処理した重合体に、水、アルコール、炭酸ガス等のスチレン系重合体に非溶解性の揮発性物質を圧入、これに同伴する形で揮発成分を脱揮する方法が好ましく利用できる。
本発明の第2の目的は、新規なスチレン系重合体樹脂の提供にある。即ち、二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することにより得られる、下記(a’)〜(d’)項の特徴を有するスチレン系重合体を主体として含むスチレン系重合体樹脂の提供にある。
(a’)スチレン系重合体を構成する単量体単位が、スチレン系単量体単位60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位3〜40重量%の範囲であり、
(b’)スチレン系重合体の重量平均分子量が15万〜55万の範囲であり、
(c’)スチレン系重合体が、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーを1,000〜10,000ppmの範囲で含有し、
(d’)スチレン系重合体樹脂としてのビカット軟化温度が50〜99℃の範囲にある。
本発明のスチレン系重合体樹脂におけるスチレン系重合体を構成する単量体単位は、スチレン系単量体単位が60〜97重量%、好ましくは65〜95重量%、更に好ましくは70〜93重量%、特に好ましくは75〜90重量%の範囲であり、残余の成分は(メタ)アクリル酸エステル単量体である。スチレン系単量体単位が60重量%未満では、得られるスチレン系重合体樹脂の耐熱性が過度に低下して好ましくない。具体的には成型品した場合に熱的変形、延伸フィルムの自然収縮が起こり易く、好ましくない。また、スチレン系単量体単位が97重量%を超えると、得られるスチレン系重合体樹脂のシート又はフィルムの冷延伸加工する場合の適正温度幅が著しく狭まり、シート又はフィルムの耐折れ性等の強度性能が低下して好ましくない。
本発明のスチレン系重合体樹脂におけるスチレン系重合体の重量平均分子量は、15万〜55万の範囲である。好ましくは18万〜50万の範囲、特に好ましくは20万〜45万の範囲である。
スチレン系重合体の重量平均分子量が15万未満では、得られるスチレン系重合体樹脂の強度性能、特に引き裂き強度、引張強度が著しく低下して、好ましくない。また、スチレン系重合体の重量平均分子量が55万を超えると、得られるスチレン系重合体樹脂の成型加工性が著しく低下して、やはり好ましくない。
重量平均分子量/数平均分子量の比は好ましくは1.5〜3.9範囲、特に好ましくは1.8〜3.2範囲である。分子量分布が余りに狭いと、スチレン系重合体樹脂の加工性、特にフィルム及びシートの高倍率の延伸加工が困難となり好ましくない。分子量分布が余りに広いと、スチレン系重合体樹脂の強度性能、例えば引張り破断強度や表面硬度が低下して好ましくない。
また、MFR(ISO R1133に準拠して測定(条件:200℃、荷重5kgf))は1〜20g/10分の範囲が好ましく、2〜15g/10分の範囲が特に好ましい。この範囲内に設定することにより、スチレン系重合体を成形して得られるシート及びフィルム、更に二次加工して得られる成形品の厚み斑が少なくなる。また、低温での高延伸倍率の加工が容易となり、強度性能にも優れていて好ましい。
本発明のスチレン系重合体樹脂におけるスチレン系重合体に含まれる共反応環状トリマーとは、スチレン系単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各1単位有し、テトラリン骨格を有するトリマーである。この主な化合物として、1−フェニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(アルコキシカルボニル)テトラリン、1−アルコキシカルボニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、及び1−アルコキシカルボニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリンが挙げられる。
特に、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位がアクリル酸ブチル単量体単位である場合の、共反応環状トリマーの主な具体例として、1−フェニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(n−ブトキシカルボニル)テトラリン、1−n−ブトキシカルボニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、及び1−n−ブトキシカルボニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリンが挙げられる。
共反応環状トリマーの含有量は1,000〜10,000ppmの範囲、好ましくは1,000〜6,500ppmの範囲である。共反応環状トリマー量を1,000ppm以上にすることによって、スチレン系重合体樹脂の熱安定性及び加工安定性が顕著に改善し、スチレン系重合体樹脂のリワークを容易にし、且つ成形の加工条件幅を大きく拡大できる等、実用的効果は極めて大きい。しかし、共反応環状トリマーの含有量が極度に多いと、スチレン系重合体樹脂のシート及びフィルム等の自然収縮や強度性能の低下、更には成形時の金型やダイの汚染を来して好ましくない。
また、スチレン系重合体に含まれるスチレン系単量体単位のみから成る環状スチレントリマーは、好ましくは3,000ppm以下、更に好ましくは2,000ppm以下、特に好ましくは1,000ppm以下である。環状スチレントリマーが多いと耐熱安定性や加工安定性が低下傾向にあり好ましくない。
本発明のスチレン系重合体樹脂におけるスチレン系重合体に含まれるスチレン系単量体量は、好ましくは500ppm未満である。更に好ましくは300ppm未満、特に好ましくは200ppm未満、最も好ましくは100ppm未満である。スチレン系単量体の含有量が500ppm以上では、成型加工時の金型やノズル等の汚染が起こり易く、また成型体表面に対する印刷性の低下が起こり、好ましくない。
スチレン系重合体に含まれる(メタ)アクリル酸エステル単量体量は、好ましくは500ppm未満である。更に好ましくは300ppm未満、特に好ましくは200ppm未満、最も好ましくは100ppm未満である。(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量が500ppm以上では、成型加工時の金型やノズル等の汚染が起こり易くなる。また得られる樹脂の耐候性が低下し、また臭気を来す場合があり好ましくない。
本発明のスチレン系重合体樹脂のビカット軟化温度で定義する軟化温度は50〜99℃の範囲、好ましくは55〜95℃の範囲、特に好ましくは60〜90℃の範囲である。軟化温度が余りに低いと、延伸シート及びフィルムの自然収縮率が大きくなり、また強度が低下して好ましくない。一方、軟化温度が余りに高いと、重合体の柔軟性が低下して脆くなり、また低温加工性が著しく低下する。加工温度を高くすれば、シーティングや延伸及びこれらの二次成形加工は可能となるが、加熱時の適正温度幅が狭くなり、加工操作が難しくなり好ましくない。
本発明のスチレン系重合体樹脂は、該スチレン系重合体の他に、ポリスチレン樹脂に使用するものとして公知の各種添加剤、例えば安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、染料、顔料、各種充填剤等を、同様な作用効果を達成するために含むことができる。
本発明の第3の目的は該スチレン系重合体樹脂を含む下記の新規な樹脂組成物の提供にある。即ち、
(A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂 5〜95重量%
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体 95〜5重量%
(C)前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体 0〜30重量%
を含むスチレン系重合体樹脂組成物であって、
(A)成分は前述のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂であり、(B)成分のスチレン−共役ジエンブロック共重合体が下記(e’)〜(g’)項の特徴を有し、更にスチレン系重合体樹脂組成物として下記(h’)及び(i’)項の特徴を有するスチレン系重合体樹脂組成物。
(e’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体が、少なくとも2つのスチレン系重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン系重合体ブロックから構成され、
(f’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成するスチレン系単量体単位が40〜95重量%であり、
(g’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成する共役ジエン単量体単位が60〜5重量%であり、
(h’)スチレン系重合体樹脂組成物としてのビカット軟化温度が50〜99℃の範囲にあり、
(i’)スチレン系重合体樹脂組成物を1mm厚平板にしての全光線透過率が75%以上である。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物を構成する(B)成分はスチレン−共役ジエンブロック共重合体であり、スチレン単量体単位を主成分とする2つ以上のブロックと、共役ジエン単量体単位を主成分とする1つ以上のブロックを有する。
具体的なスチレン−共役ジエンブロック共重合体のブロック構造は、例えば一般式(1)〜(3)で表される直鎖ブロック共重合体及び一般式(4)〜(7)で表されるラジアル状ブロック共重合体である。
(A−B)nA (1)
(A−B)m (2)
(B−A)mB (3)
[(A−B)n]m−X (4)
[(B−A)n+1]m−X (5)
[(A−B)n−A]m−X (6)
[(B−A)n−B]m−X (7)
(式中、Aはスチレン単量体単位を主成分とし、数平均分子量5,000〜200,000の範囲のブロックであり、各Aは同一構造でも、異なった構造であっても構わない。Bは共役ジエン単量体単位を主成分とし、数平均分子量10,000〜500,000の範囲のブロックであり、各Bは同一構造でも、異なった構造であっても構わない。Xは多官能のカップリング剤、nは1〜3、mは2〜4の整数を表す。また、本発明の趣旨からして、B−X−B及びA−X−Aのブロック連鎖構造は、たとえ多官能カップリング剤Xが介在していたとしても、他のブロックで分割されていると考えるのではなく、本ブロック分子量規定においては1つのブロックに対応すると考える。)
また、該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、上記のブロック構造規定に該当しない不完全なブロック重合体、例えばAの単独重合体、Bの単独重合体、あるいはA−Bジブロック共重合体等を、本発明の効果を阻害しない範囲で、一部含んでいても構わない。またAブロックとBブロックとの間に、共重合組成の順次変化する傾斜部分を含んでいても構わない。
Aブロックはスチレン単量体単位を主成分とするブロックであるが、少量の共重合可能な他の単量体、例えばスチレン以外のビニル芳香族化合物又は共役ジエン類から成る単量体単位を含んでいても構わない。
Bブロックは共役ジエン単量体単位を主成分とするブロックであるが、少量の共重合可能な他の単量体、例えばビニル芳香族炭化水素から成る単量体単位を少量含んでいても構わない。最も好ましい共役ジエンはブタジエン及び/又はイソプレンである。
該スチレン−共役ジエンブロック共重合体におけるスチレン系単量体単位の含有率は40〜95重量%の範囲であり、共役ジエン単量体単位の含有率は60〜5重量%の範囲である。更に好ましいスチレン系単量体単位の含有率は50〜90重量%、特に好ましくは60〜85重量%の範囲であり、残余の成分は共役ジエン単量体単位である。ここに、スチレン単量体単位とはスチレン及びその他のビニル芳香族化合物から成る単量体単位の和である。
該スチレン−共役ジエンブロック共重合体の重量平均分子量は4万〜40万、好ましくは5万〜30万、更に好ましくは6万〜20万の範囲である。
分子量が低過ぎると、得られるスチレン系重合体樹脂組成物の機械的強度が低下して好ましくない。また分子量が高過ぎると加工性や、重合体成分の混合分散性が低下して、均一なスチレン系重合体樹脂組成物が得られず、好ましくない。
該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は公知の方法により製造できる。例えば、炭化水素溶媒中で、有機リチウム開始剤を用い、バッチプロセス又は連続重合プロセスで、スチレン系単量体及び共役ジエン単量体を順次ブロック共重合することにより得られる。又は共重合後、リチウム活性末端をカップリング反応することによりラジアル構造にブロック共重合体を形成することもできる。スチレン−共役ジエンブロック共重合体の具体的製造法としては、例えば、特公昭45−19388号公報、特公昭47−43618号公報の技術を挙げることができる。
重合時に利用できる溶媒は、基本的に有機リチウム開始剤に対して不活性で、単量体及び生成重合体を溶解できる炭化水素溶媒であって、重合時に液状を保ち、重合後の脱溶媒工程で脱揮除去が容易な溶媒が挙げられる。例えばC5〜C9の脂環式炭化水素溶媒、C5〜C9の脂肪族炭化水素及びC6〜C9の芳香族系溶媒が挙げられる。特にC5〜C9の脂環式炭化水素溶媒が好ましく利用できる。具体的にはシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、シクロヘキセン及びこれらの混合物等が挙げられる。また、エーテル化合物や第3アミン化合物を混合すると、有機リチウムの単量体に対する重合活性を改善できる。重合溶媒の使用量は、好ましくは単量体1Kg当たり1〜20Kg、より好ましくは2〜10Kg、特に好ましくは3〜5Kgの範囲である。
重合温度は好ましくは0〜130℃、より好ましくは10〜120℃、特に好ましくは20〜110℃の範囲で制御する。バッチプロセスの重合温度は、一般に各ブロックの重合が断熱的に昇温しながら重合することになるが、この温度範囲に制御することが好ましい。重合温度が極度に低いと反応速度が低下して実用性がない。また、重合温度が極度に高いと、リビング活性末端が失活してスチレン−共役ジエンブロック共重合体のブロック構造が不完全となり、得られるスチレン系重合体樹脂組成物の各種強度性能が低下して好ましくない。
重合終了後、該スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、含有する未反応単量体や重合溶媒を脱揮、除去することにより、重合体が回収される。未反応単量体や重合溶媒の脱揮、除去の方法は、特に限定するものではない。ダブルドラムドライヤー、水に分散させてのスチームストリッピング、ベント付押出機、フラッシュタンク等の既存スチレン系重合体樹脂やゴムの製造で公知の方法が利用できる。
残存する単量体や溶媒の量や揮発性にもよるが、一般には温度を100〜250℃、好ましくは120〜200℃、真空度は好ましくは0〜常圧、更に好ましくは100Pa〜50KPaにて揮発性成分を脱揮除去する。複数の脱揮除去装置を直列に接続する方法は高度な脱揮に効果的である。また、例えば1段目と2段目の間に水を添加して2段目の脱揮能力を高める方法も、好ましく利用できる。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物を構成する(C)成分は前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体である。具体的にはスチレン、又はスチレンと共重合可能な単量体との共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、各種石油系樹脂等が挙げられる。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物は、
(A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体 5〜95重量%、
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体5〜95重量%及び
(C)前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体0〜30重量%から成る。
(A)成分の組成は5〜95重量%、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜85重量%、特に好ましくは50〜80重量%の範囲である。用途にもよるが5重量%未満では混合効果が発現せず、得られるスチレン系重合体樹脂組成物の剛性が不足し、熱収縮フィルム等の用途により好ましくない。また、95重量%を超えるとフィルムが硬くて脆くなり、やはり好ましくない。
(B)成分の組成は5〜95、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは10〜70重量%、特に好ましくは20〜50重量%の範囲であり、上述の(A)成分単独の欠点である脆さ、柔軟性、伸び等の性能を顕著に改善できる。
(C)成分の組成は0〜30重量%、好ましくは0〜20重量%、更に好ましくは0〜10重量%の範囲である。(C)成分の混合により、軟化温度、剛性及び流動性のバランスを改善でき、目的に応じてスチレン系重合体樹脂組成物の性能を調整できる。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物は、(A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体、更に必要により、(C)前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体から構成されるが、必ずしもこれに限定するものではない。例えばスチレン系樹脂において使用が一般的な各種添加剤を、公知の作用効果を達成するために添加することもできる。例えば安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、染料、顔料、各種充填剤等を、ポリスチレン樹脂で発現されるのと同様な効果を達成するために添加することができる。
また例えばフィルムに使用する場合、フィルム用途で一般的な添加剤である帯電防止剤、防曇剤、無機微粉体等を混合してもよい。
酸化防止剤として、フェノール系又はフェノールアクリレート系(例えば:2−tert−ブチル−6(3′−tert−ブチル−5′−メチル−2′−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート及びこれ等の誘導体がある)が好ましい。上記化合物に加え、リン系の酸化防止剤(例えば:トリ(2,4−ジ−tert−ブチル)−フェニルフォスファイト,トリ(4−ノニル)−フェニルフォスファイト等)を使用するのがより好ましい。更に上記2種のタイプに加え、イオウ含有系の酸化防止剤を加えるのが良い場合がある。またこれ等はそれぞれ単独に使用してもよいし、組み合わせてもよい。
各酸化防止剤の添加量は、混合樹脂100重量部に対して、それぞれ0.01〜5.0重量部、好ましくは0.05〜3.0重量部、より好ましくは0.1〜2.0重量部、更に好ましくは0.2〜1.0重量部である。0.01重量部未満では樹脂の熱劣化(例えば、架橋や分子量低下等)の防止効果が発現せず、また5.0重量部を超えると分散不良、強度低下、透明性の低下、コスト高等の問題が起こり、好ましくない。
帯電防止剤としてはアミン系、アミド系のものが好ましい。例えばアミン系としてヒドロキシエチルアルキルアミン及びその誘導体、アミド系としてはヒドロキシエチル脂肪酸アミド及びその誘導体等が好ましく利用できる。
帯電防止剤の添加量は、樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部、好ましくは0.2〜3.0重量部、より好ましくは0.4〜2.0重量部である。0.1重量部未満では帯電防止効果が現れ難いし、5重量部を超えると成型体表面の光沢が失われ、印刷適性が低下を来す等の問題がある。
また、可塑剤としてはDOP、DOA、ATBC、DBS等の酸エステル類、ミネラルオイルのような流動パラフィン類を0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%加えてもよい。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物において、各重合体成分の混合方法は特に規定しない。各種の樹脂加工機器、例えばニーダー、バンバリーミキサー、押出し機を用いた機械的混合、溶媒に溶かして、あるいは重合体製造時に重合体溶液での溶液混合が利用できる。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物のビカット軟化温度は50〜99℃の範囲である。ビカット軟化温度は、ASTM−D1525法に準じて荷重1kg、昇温スピード20℃/分で測定される。ビカット軟化温度は、好ましくは55〜95℃の範囲、特に好ましくは60〜90℃の範囲である。
例えば熱収縮フィルム用途では、低温での収縮性を重視する場合は、ビカット軟化温度は70℃程度が良好であり、また比較的高温での収縮性を必要とする場合は90℃程度が良好である。実際には使用条件に合わせて、最適なビカット軟化温度の重合体樹脂を選ぶのが好ましい。
軟化温度が余りに低いと、延伸シート及びフィルムを常温保管中に寸法変化、収縮力低下現象等を発生するため実用的でなくなり、また強度が低下して好ましくない。一方、軟化温度が余りに高いと、重合体の柔軟性が低下して脆くなり、また低温加工性が著しく低下する。この場合加工温度を高くすれば、シーティングや延伸及びこれらの二次成形加工は可能となるが、加熱時の適正温度幅が狭く、加工操作が難しくなり好ましくない。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物の1mm厚平板にしての全光線透過率は75%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。本発明のスチレン系重合体樹脂組成物の大きな特長の一つは透明性にある。全光線透過率が75%未満では、透明樹脂用途に使用できない。
優れた透明性を発現するには、(A)〜(C)の各重合体成分が微分散していること、及び重合体各成分の屈折率が近いことが望まれる。特に重合体の(A)成分及び(B)成分の分散粒子系は、重量平均の長径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm、特に好ましくは1μm以下である。また、両成分の屈折率の差異は、好ましくは0.01以下、更に好ましくは0.005以下、特に好ましくは0.002以下である。屈折率の差は重合体の(A)成分及び(B)成分を構成する単量体種及び組成により調整できる。
本発明のスチレン系重合体樹脂組成物の、一つの好ましい用途例として熱収縮フィルムが挙げられる。熱収縮フィルムは樹脂組成物をシート又はフィルムに成形後、冷延伸して得られる。本発明ではその特性及びフィルム製法を限定するものではないが、一般的な熱収縮フィルムの延伸倍率は主延伸方向に2.0〜10.0倍、好ましくは2.5〜8.0倍で、同様に対直角方向には1.1〜2.5倍、好ましくは1.2〜2.0倍の範囲である。また好ましい延伸倍率比は前者/後者比で1.8〜9.1、より好ましくは2.0〜6.7の範囲である。該スチレン系重合体樹脂組成物の軟化温度にも依存するが、延伸温度は一般に60〜150℃、好ましくは70〜120℃の範囲である。
本発明の熱収縮フィルムは落錘衝撃強度が少なくとも5kg・cmであることが、実用上必要であり、好ましくは10kg・cm以上、より好ましくは20kg・cm以上、更により好ましくは30kg・cm以上である。5kg・cm未満では、包装機械で繰り出した(引張り)時にフィルム切れが発生し好ましくない。
熱収縮フィルムの層構造も特に限定するものではない。本発明のスチレン系重合体樹脂組成物は多層フィルムの少なくとも1層として利用することができる。その場合、同種(本発明のスチレン系重合体樹脂組成物)を組み合わせた多層フィルム、又は異種(本発明のスチレン系重合体樹脂組成物以外のもの)との組み合わせによる多層フィルムの少なくとも1層(表層又は内部層)として利用してもよい。フィルムの厚みは、その用途により異なるが通常5〜800μで、好ましくは10〜500μ、より好ましくは20〜300μの範囲である。
熱収縮フィルムへの成形加工方法は特に限定するものではない。同時2軸や逐次2軸など一般的に使用されている設備、例えばテンター延伸法、バブル延伸法、ローラー延伸法等で代表される延伸成膜設備等での延伸加工が利用できる。
本発明のスチレン系重合体樹脂又はスチレン系重合体樹脂組成物は、シート及びフィルム又はこれらを、更に二次加工して、各種包装、容器材料、熱収縮ラベル材料に特に好ましく使用できる。しかし、本発明のスチレン系重合体樹脂又はスチレン系重合体樹脂組成物の利用はこれらに限定するものではない。本発明のスチレン系重合体樹脂又はスチレン系重合体樹脂組成物の特長を発揮できる各種用途に使用することもできる。例えば、射出成形やインジェクションブロー成形等から成る食品容器、日用品、雑貨、OA機器部品、弱電部品等に使用することもできる。
本発明の態様を実施例により具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に、限定されるものではない。
1.スチレン系重合体製造方法の実施例
1−1)測定及び解析方法
重合の解析、測定は次に示す方法で実施した。
(1)重合転化率の測定
重合終了後の重合液中の残存単量体濃度をガスクロマトグラフィーで測定した。
(2)重合液中の(メタ)アクリル酸エステルの下限割合の測定
連続重合プロセスにおいては重合反応が安定した段階で、各重合槽の各部位から重合液をサンプリングした。その残存単量体中の(メタ)アクリル酸エステル割合をガスクロマトグラフィーで測定した。表は、その最小値を記載する。
また、バッチ重合プロセスにおいては重合終了後の重合液中の(メタ)アクリル酸エステル割合を測定した。
(3)重合体の構成単量体単位の測定
13C−NMRで測定し、それぞれの単量体の単量体単位に起因するスペクトルピークの面積比より共重合組成を算出した。
(4)重合体中の低分子量成分の測定
スチレン系重合体中の低分子量成分であるスチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体含有量を次の方法で測定した。
手法:
ガスクロマトグラフィーで測定した。
測定条件:
試料調製:重合体1gをジメチルホルムアミド25mlに溶解。
測定機器:島津製製作所 GC14B
カラム:CHROMAPACK CP WAX 52CB、100m、膜厚2μm、0.52mmφ
カラム温度:110℃−10分→15℃/分で昇温→130℃−2分
注入口温度:150℃、検出方法:FID
検出器温度:150℃キャリアガス:ヘリウム
(5)スチレン系重合体中の共反応環状トリマー含有量の測定
溶媒抽出した低分子量成分を、液クロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィーによって各成分を分取、解析することで、オリゴマー構造を同定した。また、共反応環状トリマー量はガスクロマトグラフィーを用い、FIDで検出される対応するトリマー類の面積から計算した。
測定手法:
スチレン系重合体樹脂の溶液サンプルを、昇温ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。スチレントリマー(分子量312)のリテンションタイム付近にスチレントリマー以外に、スチレンと(メタ)アクリル酸エステル単量体の単量体に起因するオリゴマー類のピークが多数検出された。
共反応環状トリマーの含有量は、各共反応環状トリマー類の面積を合計し、標準物質として1−フェニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリンを用い、換算して求めた。
測定条件:
試料調製:樹脂1gをメチルエチルケトン/メタノール混合液(9/1容積比)20mlに溶解した。
測定機器:AGILENT製 6890
カラム固定相:5%ジフェニルジメチルポリシロキサン30m 内径0.25mm 膜厚0.25μm
オーブン温度:40℃−1分→20℃/分で昇温→320℃
注入口温度:200℃
キャリアガス:He 80ml/min
検出方法:FID
検出器温度:200℃
(6)分子量の測定
手法: ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)で測定し、単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成し、ポリスチレン換算して分子量を求めた。
測定条件:
試料調製:テトラヒドロフランに重合体約1,000ppmを溶解した。
測定機器:昭和電工(株)製 Shodex21
サンプルカラム:KF−806L2本
リファレンスカラム:KF−800RL2本
カラム温度:40℃
キャリア液及び流量:THF、1ml/min
検出器:RI、UV(波長254nm)
検量線:東ソー(株)製の単分散PS使用
データ処理:Sic−480
(7)MFRの測定
ISO R1133に準拠して測定した(条件:200℃、荷重5kgf)。
1−2)製造方法実施例
実施例1
第1重合槽として攪拌機を備えた完全混合型重合槽(容量4リットル)、第2重合槽として攪拌機を備えたプラグフロー型重合槽(容量2リットル)を2基直列に連結した重合装置を準備した。第1重合槽と第2重合槽との間には攪拌機を備えたラインミキサーを挿入した。
第1重合槽に、スチレン73.6重量%、アクリル酸n−ブチル18.4重量%、エチルベンゼン8重量%、有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を0.9リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部から抜き出した。
次いで、前記に同組成の原料溶液0.1リットル/hrを追加供給し、ラインミキサーにて混合した後、第2重合槽を上部から下部に通過させた。第1重合槽の内温を105℃、第2重合槽の内温を120〜140℃に制御した。
得られた重合溶液は二段ベント付き脱揮押出機に連続的に供給し、未反応単量体及び溶媒を脱揮して、重合体を得た。脱揮押出機は重合体温度を200〜240℃、真空度を20torrに制御した。
得られたスチレン系重合体から抽出したオリゴマー類を、前述の方法で測定した。得られたガスクロマトグラフィーの出力チャートを図1に示す。トリマー類の主な検出ピークとしてT01〜T17の17ピークが認められた。また、液体クロマトグラフィーの1段又は2段と組み合わせることによって、いくつかのピークが分離し、全24成分の存在が検出された。主な成分を分取し、構造解析することによって、各成分の構造を同定した。図1に各ピークの成分番号のガスクロマトグラフィーにおける関係を示す。また表1におけるa、b又はcなる副番号は、図1における単一ガスクロピークが、液体クロマトグラフィー等との組合せで、幾つかのピークに分離したことを意味する。
表1及び表2に各ピークのトリマー構造及びその存在量の関係を示す。
本実施例のスチレン系重合体が含有する共反応環状トリマー量は、4400ppmであった。
実施例2〜6、比較例1及び2
実施例1と同じ装置を用いて、同様の方式で重合を行なった。重合体組成が表2に示す通りとなるようにスチレン、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルの原料溶液の比率を変えた。
また、必要に応じて原料溶液のエチルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンの濃度を調整あるいは連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)を添加した。更に重合温度も目的に応じて制御した。
実施例7
実施例1と同一の重合装置を用いた。第1重合槽に、スチレン73.6重量%、アクリル酸n−ブチル18.4重量%、エチルベンゼン8重量%及び有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を1.0リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部から抜き出した。次いで、そのままの重合溶液を第2重合槽の上部から、下部に通過させた。各重合槽の内温は実施例1と同様に制御した。得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、スチレン系重合体を得た。
比較例3
実施例1と同一の重合装置を用い、開始剤なしで熱ラジカル的に重合した。第1重合槽の内温を120℃、第2重合槽の内温を150〜170℃に制御した。その他の条件は実施例7と同様にした。
比較例4
第1重合槽に、スチレン77.6重量%、アクリル酸n−ブチル19.4重量%、エチルベンゼン3重量%及び1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を1リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部から抜き出した。次いで、単に第2重合槽を上部から、下部に通過させた。第1重合槽の内温を120℃、第2重合槽の内温を150〜170℃に制御した。得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、スチレン系重合体を得た。
比較例5
実施例1と全く同一条件にて重合した。得られた重合体の脱揮時に減圧度をやや下げた(100〜400toor)ことにより、スチレン系重合体中の単量体量を制御した。
比較例6
攪拌機を備えた10リットル重合槽にてバッチ重合した。スチレン78.2重量%、アクリル酸n−ブチル13.8重量%、エチルベンゼン8重量%、有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を7リットル供給、重合温度90℃で2時間、130℃で2時間、150℃で2時間、180℃で2時間重合した。得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、スチレン系重合体を得た。
比較例7
攪拌機を備えた130リットル重合槽に純水50kg、ポリビニルアルコール50gを供給、攪拌混合した。次に、スチレン35kg、メチルメタアクリレート15kg、アルファーメチルスチレンダイマー25gを供給、95℃に昇温して6時間重合を行った。更に130℃で6時間重合を継続した。重合して得られたビーズは水で洗浄、脱水、乾燥した後、220℃のベント付き押出機を通した。
比較例8
攪拌機を備えた完全混合型重合槽(容量4リットル)単独による連続重合を実施した。全反応槽滞留時間及びその他の条件は実施例1と同等にした。
具体的には、スチレン73.6重量%、アクリル酸n−ブチル18.4重量%、エチルベンゼン8重量%、有機過酸化物として1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン300ppmを含む原料溶液を0.6リットル/hrの速度で、重合槽上部に供給し、下部より抜き出した。重合槽の内温は120℃に制御した。得られた重合溶液を実施例1と同様に処理し、スチレン系重合体を得た。
2.スチレン系重合体樹脂の実施例
2−1)測定及び解析方法
樹脂性能評価の手法又は判断基準を次に示す。
(1)ビカット軟化温度の測定
ASTM−D1525法に準じて荷重1kg、昇温スピード20℃/分で測定。
(2)低温加工性の評価
厚さ0.25mmのシートを用いてビカット軟化温度+30℃、あるいはビカット軟化温度+30℃が125℃を超えるものは125℃を上限に加熱して、延伸機で二軸方向にそれぞれ2倍に延伸し、厚さ約60μmの延伸フィルムを10枚作成、評価した。延伸時に6枚以上フィルムが破れる場合を×、1〜3枚破れる場合を○、全く破れない場合を◎として判定した。
(3)成形品の厚み斑の評価
(2)項で得られた延伸フィルムを用いて、同じ位置に等間隔に印を付けた16点について、厚みの平均値を測定し、平均値より±5μmを超える測定点の割合が3割以上ある場合を厚み斑不良とした。これをフィルム10枚について行い、厚み斑不良が6枚以上の場を×、1〜3枚の場合を○、0枚の場合を◎として、成形品の厚み斑の判定を行った。なお、(1)でフィルム10枚作成時に、延伸で破れたフィルムは厚み斑不良として数えた。
(4)落錘衝撃強度の測定
(2)項と同じ方法で得た厚さ約60μmのフィルムを、東洋精機社製のデュポン式ダート試験機(B−50)を用いて、ミサイルの重錘形状を半径1/8インチとし、荷重100gを用いて、高さを変え、50%破壊値を求めた。
(5)引張破断伸びの測定
厚さ0.25mmのシートを用いて、ASTMD882−67に準拠して測定した。
(6)自然収縮性の評価
(1)と同じ方法で得た延伸フィルムを用いて、37℃の恒温槽に21日間放置し、次式により算出した。
自然収縮率(%)=(L1−L2)/L1×100、
L1:放置前の長さ、L2:放置後の長さ。
(7)耐候性の評価
ダイプラ・メタルウェザー試験機(型式:KU−R5CI−A)、ダイプラ・ウィンテス社製を使用した。光源はメタルハライドランプ(KF−1フィルター使用)を用い、30℃、湿度98RH%と55℃、湿度50RH%の各4時間のサイクルで400時間まで照射し、色の変化(ΔE)を測定した。なお測定には、射出成形機で成形した50×50×2mmの平板を用いた。
(8)リワーク樹脂性能の評価
各樹脂をビカット軟化温度+100℃、比較例2のみは150℃、で押し出し、ペレタイジング処理を三度繰り返した。その後、前記の低温加工性及び成形品の厚み斑と同様に成形・評価した。
2−2)樹脂性能評価の実施例
実施例1〜7及び比較例1〜8で得られたスチレン系重合体を、40mmシート押出機を用いてシートに加工した。押出温度は、対応樹脂のビカット軟化温度+100℃とし、比較例2のみ170℃とした。厚さ0.25mmのシートを作成し、低温加工性、シートから二次加工成形で得られた成形品の厚み斑、落錘衝撃強度、引張破断伸び、自然収縮率を下記の方法で測定した。耐候性は50×50×2mmの平板を射出成形機で成形し、下記の方法で評価した。得られた測定、評価結果を表3及び表4に示す。
表3及び表4より、実施例1〜7の樹脂が、低温加工性、成形品の厚み斑、落錘衝撃強度、引張破断伸び、自然収縮率、耐候性及びリワーク性のバランス面で優れることが分る。また(メタ)アクリル酸エステルが同一含有量の樹脂で耐候性を比較した場合、アクリル酸n−ブチルの耐候性が、ビカット軟化温度の低減効果が最も大きいことが分かる。
比較例1は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が、極端に少ない例である。実施例に比較して耐候性、リワーク樹脂性能及び強度性能が劣る。また、ビカット軟化温度が105℃と高く、低温加工性が非常に劣る。
比較例2は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が、極端に多い例である。ビカット軟化温度が40℃未満と低く、自然収縮が極めて大きく、低温加工性も劣る。
実施例7と比較例3は開始剤ラジカル重合と熱ラジカル重合法の比較になる。熱ラジカル重合法で得られるスチレン系重合体は、含まれる共反応環状トリマー成分が増大するため、開始剤ラジカル重合法の重合体に比較してリワーク樹脂性能に劣る。また、耐候性の低下がある。
比較例4は重合温度が高いため、分子量分布の拡大や共反応環状トリマー含量の増大を来しており、リワーク樹脂性能や強度性能、耐候性の低下がある。
比較例5は単量体含有量が多い例で、耐候性、低温加工性、リワーク樹脂性能に劣る。
比較例6はバッチプロセスでスチレン系重合体を得た例であり、成形品の厚み斑、リワーク樹脂性能に劣る。
比較例7は縣濁重合プロセスで重合体を得た例であり、低温加工性、リワーク樹脂性能、耐候性、強度に劣るものであった。
比較例8完全混合槽重合槽のみによりスチレン系重合体を得た例である。重合転化率が著しく低く、重合体に残る単量体が多くなった。重合体性能としては強度、バージン樹脂及びリワーク樹脂の成形品の厚み斑に劣るものであった。
3.スチレン系重合体樹脂組成物の実施例
3−1)測定及び解析方法
樹脂組成物性能の測定、評価は次に示す方法、基準で実施した。
(1)ビカット軟化温度の測定
ASTM−D1525法に準じて荷重1kg、昇温スピード20℃/分で測定。
(2)熱収縮フィルム仕上性
1.5リットルのPETボトル(30℃の水が充填された、最大径91mm、高さ310mmの円筒こけし状容器)に、筒状にした熱収縮フィルム(折り幅148mm、高さ90mm)をセットしたものを、熱風式加熱装置で内温度135℃、滞留時間10秒で熱収縮させ、熱収縮したフィルムがボトルにフィット状態を評価した。
熱収縮させてボトルにセットされたフィルムを指先で円周方向に軽く回転させてその動きの程度をみる。(10個ずつ評価して1つでも下記のものがあればそのランクとする)。
○:ボトルとの間の隙間がない、又は僅かに隙間のあるのもあるが、回転しない。
△:僅かに回転(1mm以内)する。
×:緩くてクルクル回転する。
(3)引張破断強度
ASTM−D882に準拠して主延伸方向の対直角方向の値を測定した。(n=5の平均値)
フィルムの機械的強度を判定するもので、引張破断強度の高いものが優れる。
○:3.0kg/mm2以上。
△:2.5〜3.0kg/mm2未満。
×:2.5kg/mm2未満。
(4)引張破断伸びの測定
フィルムの伸び易さを成膜1日後に測定した。ASTM−D882に準拠して主延伸方向の対直角方向の値を測定した。(n=5の平均値)。成膜1日後のフィルムで測定した。
伸度が高くて経時低下しないものが、包装機械でのフィルム切れが少なく、また印刷工程での溶剤や加熱等による品質低下がなく優れている。引張破断伸度は高いのが良い。
○:150%以上
△:120〜150%未満
×:120%未満
(5)耐折強度の評価
ASTM−D2176に準拠して荷重2kgで主延伸方向の対直角方向の値(2枚折りで重ねた状態)を測定した(n=5の平均値で小数点以下は四捨五入した)。
フィルムは折り曲げて筒状にして使用するので、折り曲げた時の折り目に傷が付いて切れ難いかどうか判定する。切れるまでの折り曲げ回数の多いものが優れる。
○:31回以上。
△:11〜30回。
×:10回未満。
(6)自然収縮率の測定
主延伸方向のフィルム長さL0に対する30℃で30日間オーブン中に保管後の寸法L1を用いて次式で計算し、寸法収縮率Lを求めた。
例えば流通時の保管状態(雰囲気温度、保管時間)における、フィルムの寸法変化(収縮)はサイズが小さくなって容器にはまり難くなるなどのトラブルの原因になるので、寸法変化率は少ないことがフィルムの品質上重要である。
L(%)=(L0−L1)×100/L0
◎:1.0%未満
○:1.0〜2.0%未満
△:2.0〜5.0%未満
×:5.0%以上
(7)全光線透過率の評価
透明性はフィルムの商品価値を大きく左右する。透明で、光沢の良いものが優れている。HAZEは小さい値、GLOSSは大きい値ほど良い。
1mm厚のシートを射出成形し、その全光線透過率を求めた。
○:全光線透過率85%以上
△:同75〜85%
×:75%未満
(8)光沢の評価
光沢は、フィルムの商品価値を大きく左右する。透明で、光沢の良いものが優れている。
ASTM−D2457(角度45°)に準拠して熱収縮フィルムのGLOSS値(%)測定した(n=5の平均値)。
○:125%以上
△:100〜125%未満
×:100%未満
(9)リワーク樹脂性能の評価
各樹脂をビッカット軟化温度+100℃にて押出し、ペレタイジング処理を3度繰返した。その後熱収縮フィルムを作成して、前記の熱収縮フィルム仕上性、耐折強度及び次に示す流れムラを観察した。
a.熱収縮フィルム仕上性:バージン樹脂評価方法に同じ。
b.耐折強度:バージン樹脂評価方法に同じ。
c.流れムラ:
二軸延伸フィルムを目測観察し、表面の流れムラ(フィルム延伸に伴う、ライン状の凹凸)を評価した。フィルムは平滑で目立たないものが優れる。
◎:合格レベル(目視判断できる流れムラの発生が全くない。)
○:合格レベル(微妙な流れムラはあるが、明確に判断できる流れムラの発生はない。)
△:不合格レベル(時折、明確な流れムラが認められる。)
×:不合格レベル(常時、明確な流れムラが認められる。)
(10)樹脂性能の総合評価
測定評価の10項目の結果をもとに熱収縮性硬質フィルムとしての総合判定を実施した。判定基準は次の通りである。
○最も良いレベル:各評価項目で◎又は○。
△比較的良いレベル:△が2以下で、×がない。
×不合格レベル:△が3以上又は×がある。
総合判定が○及び△のランクにあるものは実用上合格のレベルであり、○は特に品質が優れる。
3−2)樹脂組成物性能評価の実施例
重合体製造例1(スチレン−共役ジエンブロック共重合体製造例)
攪拌器を備えた容量100リッターの反応器に、溶媒としてシクロヘキサン50Kgを入れ、ブタジエン単量体0.36Kg、スチレン単量体3.6Kg及びノルマルブチルリチウム9.4ミリモルを仕込み、徐々に昇温しながら2時間かけて重合を行った。その後一度30℃まで冷却し、次いでブタジエン単量体2.44Kgを仕込み、徐々に昇温しながら1時間かけて重合を行った。再度30℃に冷却し、更にスチレン単量体3.6Kgを仕込み、昇温しながら2時間かけて重合を行った。
得られた重合体溶液はリチウム量の10倍当量のメタノールを添加することによりアニオン活性末端を失活させた。その後、重合体をメタノールにて沈殿分離した後、重合体100g当たり、0.05gの酸化防止剤を加えた後、ベント付き脱揮押し出し機を用い、160℃で揮発成分を除去した。
得られた重合体は、B−A−B−Aタイプのスチレン分布が一部傾斜のテトラブロック構造を有している。得られた重合体の構造は表5及び6に示す。
重合体製造例2(スチレン−共役ジエンブロック共重合体製造例)
攪拌器を備えた容量100リッターの反応器に、溶媒としてシクロヘキサン50Kgを仕込み、その後50℃に保ちながら、重合開始剤であるセカンダリーブチルリチウム9.8ミリモル、スチレン単量体3.6Kg、次いでブタジエン単量体1.68Kgとイソプレン単量体1.12Kgの共役ジエン単量体混合液、更にスチレン単量体3.6Kgを順次仕込み、各ブロックを50℃〜80℃の温度範囲で、各1時間、2時間及び1時間かけて重合を行った。
他の条件は製造例15と同様にして重合、脱揮処理を行った。このようにして得られた重合体は、A−B−Aタイプのトリブロック構造を有し、共役ジエン単量体単位におけるイソプレン単量体単位の割合は40重量%であった。得られた重合体のその他の構造は表5に記載されている。
重合体製造例3(スチレン−共役ジエンブロック共重合体製造例)
攪拌器を備えた容量100リッターの反応器に、溶媒としてシクロヘキサン50Kg、重合開始剤であるセカンダリーブチルリチウム28ミリモル、スチレン単量体7.2Kgを仕込み、その後50℃に保ちながら1時間かけて重合を行った。次いでブタジエン単量体2.8Kgを仕込み、徐々に昇温しながら2時間かけて重合を行った。重合完結後、8ミリモルのトリクロルメチルシラン8ミリモルを添加、混合し、アニオン末端をカップリングした。
得られた重合体は、微量の未反応A−Bジブロック構造体を含む、
(A−B)3−Siタイプのラジアルブロックポリマー構造であった。他の条件は製造例1と同様にして重合、脱揮処理を行った。得られた重合体の構造は表5に示す。
次に樹脂組成物性能の評価結果を示す。
実施例14、比較例9及び10は、各表5及び表6に記載の重合体組成で、他の樹脂組成物は(A)成分70重量部及び(B)成分30重量部の重合体組成で、添加剤混合物(フェノールアクリレート系の酸化防止剤(2−tert−ブチル−6(3′−tert−ブチル−5′−メチル−2′−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート)を0.5重量部、燐系の酸化防止剤(トリ(2,4−ジ−tert−ブチル)−フェニルフォスファイト)を0.2重量部、更に他の燐系の酸化防止剤(トリ(4−ノニル)−フェニルフォスファイト)を0.3重量部、アミン系の帯電防止剤(ヒドロキシエチルアルキルアミン)0.7重量部を含む)を添加して、ブレンダーにて混合した。
この混合物を押出機中で190℃の温度で混合溶融した後、Tダイより押出し均一なシートに成形した。更に、該シートをロール延伸機を用い、90℃でMD方向(シート引出し方向)に1.6倍延伸した後、テンター延伸設備を用い、オーブン温度85℃でTD方向(ロール平行方向)に6.0倍に延伸して50μの逐次二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルム特性及び樹脂特性について評価した。その結果を各表5及び表6に示す。
実施例8、比較例13〜15
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる共反応環状トリマー含有量の影響を判断できる。共反応環状トリマーが10,000ppmを超えると、リワーク樹脂の顕著な性能低下が認められた。また、共反応環状トリマーが1,000ppm未満ではバージン樹脂の加工性能、特に熱収縮フィルム仕上性の低下が認められた。
実施例8〜13
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するアクリル酸エステル種及び含有量を様々に変更した実施例である。これらの実施例は、各種の(メタ)アクリル酸エステルを用いても、得られるスチレン系重合体樹脂組成物のビカット軟化温度等を調整することによって、優れた樹脂性能を発現できることを示すものである。
実施例14
(C)成分として、石油系炭化水素樹脂であるテルペン系水素付加樹脂を5重量%添加した例である。テルペン系水素付加樹脂の添加によりスチレン系重合体樹脂組成物のビカット軟化温度の調整効果が認められた。
実施例15及び16
(B)成分のブロック構造を振った実施例である。これらの実施例は、得られるスチレン系重合体樹脂組成物がシート及びフィルム用途に優れた性能を発現できることを示すものである。
比較例9及び10
(A)成分又は(B)成分単味の性能評価結果を示す。各成分単独では樹脂性能はバランスに欠けるものであった。
比較例11及び12
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体における(メタ)アクリル酸エステル含有量が、本発明の範囲を外れた例である。(メタ)アクリル酸エステル含有量が少ないとシート及びフィルムの加工性能が低下する。また、多すぎると軟化温度が低くなって、樹脂としての実用性能が失われて好ましくない。
比較例16
(A)成分であるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体を懸濁重合法で得た例である。共反応トリマーの低減によるリワーク樹脂性能の低下が認められた。
産業上の利用分野
本発明の製造方法によるシート及びフィルム用スチレン系重合体樹脂は優れたリワーク性能を有すると共に、低温での加工性、耐候性、各種の強度特性、延伸加工時の均一性に優れ、延伸フィルムの自然収縮が少ないとの特長を有する。得られたシート及びフィルムは包装容器、蓋材等の各種包装材料や容器のラベル材料として好適に用いることができる。
2,4,6−トリフェニル−1−ヘキセン
1−フェニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリン
1−フェニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン
1−フェニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル)テトラリン
1−ブトキシカルボニル−4−(1−フェニルエチル)テトラリン
1−n−ブトキシカルボニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン
1−n−ブトキシカルボニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1で得た重合体のオリゴマー類のガスクロマトグラフィー検出ピークを示す図である。
Claims (16)
- 二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することを含み、重合条件を下記(a)及び(b)項に示す範囲に制御する、スチレン系重合体の製造方法:
(a)供給する単量体の構成をスチレン系単量体60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体3〜40重量%とし、
(b)重合槽のいかなる部位でも(メタ)アクリル酸エステル単量体濃度が、常に全単量体に対して1重量%を超える。 - 重合槽が、少なくとも最終重合槽の混合状態がプラグフロー流れとなるように構成されている請求項1記載の方法。
- 得られるスチレン系重合体を下記(c)〜(d)項に示す範囲に制御する、請求項1又は2に記載の方法:
(c)スチレン系重合体の重量平均分子量が15万〜55万の範囲であり、
(d)スチレン系重合体が、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーを1,000〜10,000ppmの範囲で含有する。 - スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーが、1−フェニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(アルコキシカルボニル)テトラリン、1−アルコキシカルボニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、及び1−アルコキシカルボニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリンからなる群から選ばれるものである、請求項3記載の方法。
- スチレン系重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の少なくとも20重量%が、アクリル酸エステル単量体単位である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- スチレン系重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の少なくとも20重量%が、アクリル酸n−ブチル単量体単位である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- スチレン系重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が、アクリル酸n−ブチル単量体単位であり、メチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーとして、1−フェニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(n−ブトキシカルボニル)テトラリン、1−n−ブトキシカルボニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン及び1−n−ブトキシカルボニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリンからなる群から選ばれるものを1,000〜10,000ppmの範囲で含有する、請求項1〜3記載の方法。
- 得られる重合体の少なくとも50重量%の重合を70〜150℃の温度範囲で実施する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- 二基以上の重合槽を直列に連結し、重合槽の一端から原料を連続的に供給し、他端から生成物を連続的に抜き出す連続プロセスの塊状又は溶液重合法により、有機ラジカル発生剤を開始剤に用い、スチレン系単量体を(メタ)アクリル酸エステル単量体の共存下に重合することにより得られる、下記(a’)〜(d’)項の特徴を有するスチレン系重合体を主体として含むスチレン系重合体樹脂:
(a’)スチレン系重合体を構成する単量体単位が、スチレン系単量体単位60〜97重量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位3〜40重量%の範囲であり、
(b’)スチレン系重合体の重量平均分子量が15万〜55万の範囲であり、
(c’)スチレン系重合体が、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーを1,000〜10,000ppmの範囲で含有し、
(d’)スチレン系重合体樹脂としてのビカット軟化温度が50〜99℃の範囲にある。 - スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーとして、1−フェニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(アルコキシカルボニル)テトラリン、1−アルコキシカルボニル−4−[1−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリン、及び1−アルコキシカルボニル−4−[2−(アルコキシカルボニル)エチル]テトラリンからなる群から選ばれるものを1,000〜10,000ppmの範囲で含有する、請求項9記載のスチレン系重合体樹脂。
- スチレン系重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の少なくとも20重量%がアクリル酸エステル単量体単位である、請求項9又は10に記載のスチレン系重合体樹脂。
- スチレン系重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の少なくとも20重量%がアクリル酸n−ブチル単量体単位である、請求項9又は10に記載のスチレン系重合体樹脂。
- スチレン系重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が、アクリル酸n−ブチル単量体単位であり、スチレン系単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を分子中に少なくとも各一単位含有する環状構造トリマーとして、1−フェニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−フェニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、1−(1−フェニルエチル)−4−(n−ブトキシカルボニル)テトラリン、1−n−ブトキシカルボニル−4−[1−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリン、及び1−n−ブトキシカルボニル−4−[2−(n−ブトキシカルボニル)エチル]テトラリンからなる群から選ばれるものを1,000〜10,000ppmの範囲で含有する、請求項9項に記載のスチレン系重合体樹脂。
- (A)スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂 5〜95重量%、
(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体 95〜5重量%、及び
(C)前記(A)若しくは(B)のスチレン系重合体又はスチレン系重合体樹脂に相溶な重合体 0〜30重量%
を含むスチレン系重合体樹脂組成物であって、
(A)成分のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂が、請求項9〜13のいずれか1項に記載のスチレン系重合体樹脂であり、(B)成分のスチレン−共役ジエンブロック共重合体が下記(e’)〜(g’)項の特徴を有し、更にスチレン系重合体樹脂組成物として下記(h’)及び(i’)項の特徴を有するスチレン系重合体樹脂組成物:
(e’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体が、少なくとも2つのスチレン系重合体ブロックと、少なくとも1つの共役ジエン系重合体ブロックから構成され、
(f’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成するスチレン系単量体単位が40〜95重量%であり、
(g’)スチレン−共役ジエンブロック共重合体を構成する共役ジエン単量体単位が60〜5重量%であり、
(h’)スチレン系重合体樹脂組成物としてのビカット軟化温度が50〜99℃の範囲にあり、
(i’)スチレン系重合体樹脂組成物を1mm厚平板にしての全光線透過率が75%以上である。 - 請求項14に記載のスチレン系重合体樹脂組成物からなるシート又はフィルム。
- 請求項14に記載のスチレン系重合体樹脂組成物をシート又はフィルムに成形後、冷延伸して成る熱収縮フィルム。
Applications Claiming Priority (3)
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