JP6989909B2 - 木造建築物の耐力構造 - Google Patents
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Description
木造建築物は、一対の柱1a,1bと一対の横架材2a,2bからなる矩形の構造部材3を、建物のけた行方向(建物の平面から見て横方向)および張り間方向(建物の平面から見て奥行方向又は縦方向)に、それぞれの方向に複数組み合わせて構造材としている。
そして、木造建築物は、柱1a,1bと横架材2a,2bからなる矩形の構造部材3の空間部4に必要十分な壁又は筋かい等の耐力壁がないと、平常時では水平力(又は水平荷重)が加わらないので問題ないが、地震や台風の発生により一定値以上の水平力が加わると、建物が倒壊してしまう危険性がある。
わが国の木造建築物の耐震設計は、関東大地震を契機にして、震度5程度の中規模の地震に対しては建物が損傷しないものとし、震度6~7の稀に起こる大地震の場合においても、ある程度の損傷があっても倒壊又は崩壊せず、人命を守るという考え方に基づく。
また、台風や積雪においても、この考え方に基づいて材料や壁量が定められている。
従来の木造建築物の耐力構造は、剛性だけで評価するものであったが、1995年の阪神大地震を契機として、粘りである靭性も考慮されるようになった。
これらの耐力構造は、柱と梁又は土台(以下、梁・土台を総称して「横架材」という)に対して次の何れかの構造が採用される。すなわち、筋かいは両端を釘付け等で固定(又は緊結)され、合板は1対の柱と1対の横架材の四辺に所定間隔で釘付け等により固定され、貫は1対の柱に固定される。
そこで、木造建築物が変形後も倒壊することなく、粘りのある耐力を有することが求められる。換言すると、粘り強い耐力構造を有する木造建築物は、建物が一気に倒壊を起こし難いものであって、災害時における居住者の生存率を高めることに貢献できる。そのため、木造建築物は、粘り強い耐力構造であることが求められる。
従来、押出法ポリスチレンフォーム保温材(XPS)は、保温材又は断熱材としてのみ用いられ、木造建築物の構造材として用いられることが殆んど無かった。
特許文献1は、筋かいの代わりに、帯部4と固定金物5と長さ調整手段6とからなる補強構造1を2つの構造材(柱及び梁)8,9に固定するとともに、補強部材3を取付けた木造建築物の補強構造を開示している。補強部材3は、柱及び梁等の構造材8,9の角に固定的に取り付けられるもので、小さな三角形の合成樹脂発泡体14を含む。この合成樹脂発泡体14の素材として、押出法ポリスチレンフォーム保温材を用いている。
すなわち、特許文献1は、主たる耐力構造材として補強構造1を設けるとともに、圧縮力の減衰のために従たる構造材として補強部材3を設けた技術である。
例えば、合板を用いた耐力壁構造は、柱に対して合板を所定間隔で釘打ちしたものであり、釘によって止められているだけなので、釘耐力が壁耐力となる。そのため、大地震のような一定強度を超える水平力を受けると、4隅付近の釘が抜けて破損し、その周辺部分の釘抜けが徐々に拡大し、やがて合板の耐力が大きく低下してしまう。
また、筋かいも、大地震のような一定強度を超える水平力を受けた場合に、柱と梁の留め金具にネジ止めしている部分のネジが柱や梁から抜けて、筋かいの耐力が大きく低下してしまう。
合板や筋かいの耐力が大きく低下すると、木造建築物が一気に倒壊し、居住者の生命に重大な危害を及ぼすこともある。
そのため、木造建築物は粘り強い耐力構造であることが求められる。
本願発明者は、XPS等の発泡樹脂板状部材が幅方向(すなわち平面)に平行な方向に対して大きな耐力を有することに着目し、発泡樹脂板状部材を耐力構造材として用いることを着想し、発泡樹脂板状部材を構造材として実用化するための研究を重ね、種々の実験をしたところ、次のような問題点が分かった。
図13はこの発明の背景技術を説明するための立面図であり、特に木造建築物の構造部材で囲まれる空間部に発泡樹脂板状部材を嵌め込んだ状態を示す。なお、図13に示す木造建築物は、発泡樹脂板状部材5を断熱材として用いた内断熱(充填断熱)の構造でもある。
図12において、一対の柱1a,1bと一対の横架材2a,2bからなる構造材3は、空間部4を有する。この空間部4には、断熱材としても用いられる材質と同じ発泡樹脂板状部材5が嵌め込まれる。空間部4に嵌め込まれる発泡樹脂板状部材5は、当該空間部4の平面形状(又は立面形状)と略同等か若干(例えば数mm)小さな平面形状を有するものであって、断熱材としても用いられる材質と同じ材質であり、最適な圧縮強度に選定される。
ここで、発泡樹脂板状部材5を断熱材としてのみ用いる場合は、断熱性能をできる限り高めるため、発泡樹脂板状部材5の平面形状を空間部4の平面形状と全く同一寸法とするのが好ましい。しかし、実際には、同一寸法だと、嵌め込み作業が容易でないので、嵌め込み作業を効率よく行うことができず、若干(例えば数mm)小さな平面形状に選ばれることもある。発泡樹脂板状部材5の平面形状を空間部4の平面形状より若干小さくすれば、高さ方向と幅方向のそれぞれに僅かの隙間が生じる。この隙間は、高い断熱性能を確保する上ではない方が好ましいが、発泡樹脂板状部材5の嵌め込み作業を容易にするために施工上やむを得ず設けることになる。
このとき、一対の柱1a,1bが長さδだけ水平変位するので、上側の横架材2bは水平力を加える前の状態に比べて長さt1だけ下へ移動し、発泡樹脂板状部材5の上辺の一方側(左から右に水平力を加えたときは図示の左上角)が長さt2だけ見かけ上押し上げられた(実質的には圧縮された)状態となる。同時に、発泡樹脂板状部材5の下辺の他方側(左から右に水平力を加えたときは、図示の右下角)は、長さt2だけ見かけ上押し下げられた(実質的には圧縮された)状態となる。そのため、高さ方向の上下から強い力が発泡樹脂板状部材5に加わるが、その高さHが幅Wに比べて何倍も大きいので、発泡樹脂板状部材5を湾曲させる強い力が上下方向(または発泡樹脂板状部材5の対角線の方向)に加わる。
なお、左向きの水平力を加えた場合は、発泡樹脂板状部材5の角に加わる力が上辺と下辺で左右逆となる。
また、一対の柱1a,1bの間の幅は、水平力を加えたとき、水平力を加えない状態に比べて、狭まってw1(狭まる長さをxとすれば、w1=W-x)になることも分かった。
すなわち、強い水平力が加えられたとき、発泡樹脂板状部材5は、両側面が一対の柱1a,1bの内側に接した状態で斜めに傾く(回動する)ため、水平力の加わる上辺の一方側(図示の左上角)の斜線部分が横架材2bによって強い力で押し下げられる(圧縮される)とともに、下辺の他方側(図示の右下角)が横架材2aによって強い力で押し上げられる。その結果として、発泡樹脂板状部材5は、上下に強い圧縮力を受けて、高さ方向の中央部分で座屈を起こし湾曲してしまう。座屈が生じると、発泡樹脂板状部材5は、一対の柱1a,1bに接している両側面が柱1a,1bに対して十分な接触面積を確保できず、必要とする耐力を発揮する前に空間部4から外れてしまう。
このような現象のため、発泡樹脂板状部材を木造建築物の構造材として用いる場合は座屈による耐力の減少を防止する必要性が判明した。発泡樹脂板状部材の座屈による耐力の減少(換言すれば、発泡樹脂板状部材の離脱)を防止又は回避できれば、発泡樹脂板状部材が耐力構造材として十分に使用できることが分かった。
複数の発泡樹脂板状部材は、各構造部材に固定されることなく、当該構造部材に対応する空間部にそれぞれ嵌め込まれる。
この発泡樹脂板状部材は、幅方向の側面による圧縮力が5ニュートン/平方センチメートル以上の発泡プラスチック系フォームであって、その立面形状の幅が空間部の幅よりも第1の長さである0.5mm~3.5mmだけ小さく選ばれることにより、空間部に嵌め込まれて水平力を加えられない状態のときに、当該第1の長さの部分が側面クリアランスとなる。
また、発泡樹脂板状部材は、水平力を加えられたときに、層間変形角が既存の耐力壁では対応しない1/15ラジアンから木造建築物が倒壊し始めるとされる1/8ラジアンの範囲において耐力を発揮し、それによって、一対の柱が傾いてその幅が狭まった際に、その両側面が構造部材に含まれる一対の柱に密接することによって、その両側面で水平力を受けて、耐力壁として作用する。
また、発泡樹脂板状部材は、層間変形角が1/15ラジアンから1/8ラジアンの範囲において耐力を発揮する際に、その上辺と下辺が一対の横架材によって圧縮されて生じる座屈を回避するために、その立面形状の高さが空間部の高さよりも第2の長さである25mm~50mmだけ小さくなるような切欠部を形成することにより、当該切欠部が水平力を加えられない状態において上部クリアランスとなる。
複数の発泡樹脂板状部材は、各構造部材に固定されることなく、当該構造部材に対応する空間部にそれぞれ嵌め込まれる。
この発泡樹脂板状部材は、幅方向の側面による圧縮力が5ニュートン/平方センチメートル以上の発泡プラスチック系フォームであって、その立面形状の幅が空間部の幅よりも側面クリアランスだけ小さく選ばれ、かつその立面形状の高さが空間部の高さよりも上部クリアランスだけ小さく選ばれることによって、空間部に嵌め込まれたときに一対の柱に対して幅方向に側面クリアランスを有するとともに、一対の柱が水平力を受けて傾いたときに、その上辺および下辺が横架材に接触しないようにするための切欠部を形成している。
また、発泡樹脂板状部材は、層間変形角が既存の耐力壁では対応しない1/15ラジアンから木造建築物が倒壊し始めるとされる1/8ラジアンの範囲において耐力を発揮するように、側面クリアランスが0.5mm~3.5mmに選ばれ、かつ前記切欠部が25mm~50mmに選ばれる。
それによって、発泡樹脂板状部材は、水平力が加わることにより、一対の柱が傾いてその幅が狭まったときに、その両側面が構造部材に含まれる一対の柱に密接することによって、その両側面で水平力を受けて、耐力壁として作用することを特徴とする。
第5の発明によれば、上部クリアランスの部分による断熱性能の低下を防止できる。
筋交いや合板等の耐力壁要素は1/15ラジアンまでの範囲で耐力を発揮し、発泡樹脂板状部材は1/15ラジアン~1/8ラジアンの範囲で耐力を発揮することにより、広範囲で耐力を発揮することを特徴とする。
第6の発明によれば、筋交いや合板等の耐力壁要素と発泡樹脂板状部材を併用しているので、耐力壁要素が耐力を発揮できない範囲又は耐力を減少して木造建築物の倒壊に近づきつつある範囲を発泡樹脂板状部材の側面の圧縮力で補うことにより、木造建築物の倒壊をさらに遅らせることができる。
また、取付け作業に多大な時間と労力を要することなく、安価にして必要な耐力と断熱性を発揮できる、木造建築物の耐力構造が得られる。
図1はこの発明の木造建築物の耐力構造の原理を説明するための立面図であり、特に図1(a)は水平力を加えない状態の耐力構造を示し、図1(b)は強い水平力を加えた状態を示す。
この発明の木造建築物10(詳細は後述の図7,図8参照)は、1対の柱11a,11bと1対の横架材12a,12bからなる矩形又は枠状の構造部材13を、建物のけた行方向(建物の平面から見て横方向又は「X方向」)および張り間方向(平面から見て奥行方向又は「Y方向」)に、それぞれ複数組み合わせて構成される。
構造部材13で囲まれる空間部14には、発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれる。この発泡樹脂板状部材21は、材質的には、幅方向に大きな圧縮強度を有し、幅方向(又は水平方向)から大きな力が加わっても一気に破断又は破損しない弾性力を有する材料、例えば押出法ポリスチレンフォーム等が用いられる。
ここで、発泡樹脂板状部材21の幅Dは、発泡樹脂板状部材21を空間部14へ嵌め込む際に嵌め込み作業が容易となるように、空間部14の幅Wよりも若干小さく、水平力が構造部材13に加えられたときに一対の柱11a,11bの間隔がw1に縮小しても、直ちに圧縮力として加わらない程度の隙間t3を有するように選ばれる(D=W-t3)。この隙間t3は、一対の柱11a,11bの傾きが1/15ラジアン(以下、略記号「rad」で示す)を超えたときから1/8radまでの範囲において、幅方向に圧縮力を発揮できるような第1の長さ、例えば0.5mm~3.5mm程度に選ばれる。この隙間t3が側面クリアランスとなる。
ここで、隙間t4は、一対の柱11a,11bの傾きが1/15radを超えたときから1/8radの範囲において、発泡樹脂板状部材21の上辺が見かけ上押し上げられる(実際には圧縮される)長さであり、上部クリアランスとなる。
言い換えると、発泡樹脂板状部材21は、幅D×高さLの平面形状を有するが、その幅Dが一対の柱11a,11bの幅Wよりも第1の長さt3(側面クリアランス)だけ小さくなり、その高さLが一対の横架材12a,12bの高さHから第2の長さt4だけ差し引いた長さ(L=H-t4)となる。そのため、一対の横架材12a,12b(高さH)と一対の柱11a,11b(幅W)で囲まれる空間部14の面積(W×H)に対して、長さt4×幅Dからなる形状の切欠部21aを形成したことと略同等の面積(平面形状)の上部クリアランスを確保することになる。
この切欠部21aは、地震等による大きな水平力を受けたとき、上側の横架材12bが発泡樹脂板状部材21を押し下げて座屈を生じさせるのを回避する際に重要な、上部クリアランスとなる。
側面クリアランスの第1の長さt3と、上部クリアランスの第2の長さt4は、大きな水平力を受けて一対の柱11a,11bが傾いたときの層間変形角(δ/H)の1/15radから1/8radにおける変形寸法(狭まる寸法)となるように選定される。その第1の長さ(側面クリアランス)t3及び第2の長さ(上部クリアランス)t4の最適値の選定の仕方は、本願発明者による実験結果および計算結果に基づいて、次の図2~図4を参照して詳細に説明する方法で決められる。
図2ないし図4は、この発明の一実施例の木造建築物の耐力構造として、一対の柱の間に間柱17を入れた場合における層間変形角別の側面クリアランスと上部クリアランスの関係を説明するための立面図である。特に、図2は層間変形角(δ/H)が1/15radの場合、図3は層間変形角が1/10radの場合、図4は層間変形角(δ/H)が1/8radの場合を示し、図2~図4のそれぞれの左図が水平力を加えられる前の状態、右図が水平力を加えられた後の状態を示す。
図2~図4の実施例では、一般的な木造建築物に準じて、外装材および/または内装材(図示せず)を取り付けるために、一対の柱11a,11bの間に間柱17が追加されて、柱11aと柱11bの間(W)が805mm、間柱17が30mm幅の例を説明する。この場合、柱11aと間柱17の間隔、および柱11bと間柱17の間隔は387.5mmとなる。発泡樹脂板状部材21の幅は、387.5mm-t3となる。このような条件に選ばれた発泡樹脂板状部材21が2枚準備されて、柱11aと間柱17の間、および柱11bと間柱17の間にそれぞれ嵌め込まれる。
ところで、実際の木造建築物では、設計段階で上部クリアランスを選定しておく必要があるので、上部クリアランスについては柱の傾きの一番大きな1/8radの場合の値(48mm)以上に選定しておけば、柱の傾きがそれよりも小さな1/10radや1/15radの場合でも座屈を起こさない範囲としてカバーされることになる。
但し、上部クリアランスを必要以上に大きな値に選定すると、後述の第式(1)~第式(4)を参照して説明する理由により、発泡樹脂板状部材21の側面の面積が小さくなり、柱の変形に抵抗できる力Pが小さくなるので、適度の値を選定することが望ましい。
また、実際には、座屈が生じたとしても、発泡樹脂板状部材21が空間部(柱11a又は柱11bと間柱17のそれぞれの面)からはみ出すまでに十分な余裕があるので、上部クリアランスの最小値を25mmに選んでも問題ない。
そして、柱11a(又は柱11b)と間柱17がさらに傾き、水平変位がδ=182mmになる程の水平力(1/15rad)が加わったとき、柱11a(又は柱11b)と間柱17の間の幅が1.0mm縮まり、柱11a(又は柱11b)と間柱17による圧縮力を発泡樹脂板状部材21のそれぞれの側面の全面で受け止めて、壁耐力を発揮する。
しかし、発泡樹脂板状部材21は、弾性力を有するとともに、側面で受ける幅方向の圧縮強度が一対の柱11a(又は柱11b)と間柱17から受ける圧縮力に比べて大きいので、破損することもなく、壁耐力を維持する。このとき、上部クリアランスを有しているので、発泡樹脂板状部材21の高さ方向の圧縮力が座屈を起こす程度にまで増大せず、座屈を起こさない。
水平力がさらに増大して、柱11a(又は柱11b)と間柱17の傾きが1/10radを超えて、水平変位がδ=341.3mmに達する1/8radになり、上部クリアランスがt4=48mmとなっても、発泡樹脂板状部材21の両側面が柱11a(又は柱11b)と間柱17に密接した状態で、柱11a(又は柱11b)と間柱17から強い圧縮力を受けている。そのため、一対の横架材12a,12bから上下に圧縮力を受けても、上部クリアランスがあるため、座屈を起こすことなく、壁耐力を発揮し続ける。
なお、柱11a(又は柱11b)と間柱17の傾きが1/8radを超える強い水平力が加わると、一対の横架材12a,12bによる上下方向の圧縮力に加えて、横架材12bの上部の荷重が下向きの大きな力として加わることになる。そのため、構造部材13が耐えきれなくなり、木造建築物が倒壊し始める。
横架材12aと横架材12bの間(高さH)を273cmとし、柱11aと間柱17(又は柱11bと間柱17)との間隔Wを38.75cmとする。
そして、発泡樹脂板状部材21は、その厚さを6.5cm、側面の圧縮強度を11N/cm2とし、短期許容応力度を2/3、低減係数を0.75と仮定すると、その短期許容せん断耐力Paは第(1)式で表すことができる。
Pa=11N/cm2×2/3×0.75=5.49N/cm2 ・・・(1)
ここで、圧縮強度が11N/cm2以上の発泡樹脂板状部材21の発泡プラスチック系フォームとしては、押出法ポリスチレンフォームがある。この押出法ポリスチレンフォームでは、その製造方法から、側面の圧縮強度が平面圧縮強度よりも低減されるので、上記(1)式では11N/cm2としている。
発泡樹脂板状部材21が柱の変形に抵抗できる力Pは、第(2)式で表される。
P=269cm×6.5cm×5.49N/cm2
=9599N≒9.59kN ・・・(2)
9.59kN/1.96kN=4.89
これは、壁倍率の基準となる水平力が1.96kNの約5倍の強さとなる。
そして、発泡樹脂板状部材21は、具体的には圧縮強度が11N/cm2(約1kgf/cm2)以上の発泡プラスチック系フォームとして、押出法ポリスチレンフォームが知られている。
なお、同等の圧縮強度を有する押出法ポリスチレンフォーム(A種押出法ポリスチレンフォーム3種)を用いてもよいことは勿論である。
また、発泡樹脂板状部材21は、断熱材として使用される押出法ポリスチレンフォームを用いているので、充填断熱(又は内断熱)を兼ねることができ、断熱性能が高く、省エネルギー化を図れる。
ところで、上述の段落番号[0041]の例では、発泡樹脂板状部材21の具体的な材料の一例として、押出法ポリスチレンフォームの場合を説明したが、この発明の技術思想は側面の圧縮強度が5N/cm2以上のその他の材質からなる発泡プラスチック系フォームを用いることもできる。
例えば、その他の発泡プラスチック系フォームとしては、ビーズ法ポリスチレンフォーム,硬質ウレタンフォーム,フェノールフォーム等を使用することができる。
以下に、発泡樹脂板状部材21の他の材料例として、ビーズ法ポリスチレンフォームを用いた場合に、どの程度の耐力を有するかを考察する。
Pa=5N/cm2×2/3×0.75=2.49N/cm2 ・・・(3)
発泡樹脂板状部材21が柱の変形に抵抗できる力Pは、第(4)式で表される。
P=269cm×6.5cm×2.49N/cm2
=4353N≒4.35kN ・・・(4)
4.35kN/1.96kN=2.21
これは、壁倍率の基準となる水平力が1.96kNの約2倍の強さとなる。
図5は第1図に示す発明原理を応用した他の実施例の木造建築物の耐力構造を説明するための立面斜視図であり、図6は図5に示す実施例の木造建築物の平面図である。
図5および図6の例では、一対の柱11a,11bの間に、間柱17を入れない場合を示している。
次に、図5および図6を参照して、実施例2の木造建築物の耐力構造を説明する。
より具体的には、1つの構造部材13aは、1対の柱11a,11bと1対の横架材12a,12bによって構成されて、これらの1対の柱11a,11bと1対の横架材12a,12bの4辺によって囲まれる空間部14aを有する。また、構造部材13bは、1対の柱11b,11cと1対の横架材12a,12bによって構成されて、これらの1対の柱11b,11cと1対の横架材12a,12bの4辺によって囲まれる空間部14bを有する。
この場合、隣接する構造部材13aおよび構造部材13bでは、柱11bと横架材12a,12bが共通となる。
また、構造部材13aに直交する方向(Y方向)には、構造部材13nが柱11aに隣接して設けられる。構造部材13nは、1対の柱11a,11nと1対の横架材12n,12mによって構成され、これらの1対の柱11a,11nと1対の横架材12n,12mの4辺によって囲まれる空間部14nを有する。
そして、この実施例では、所定の圧縮強度を有する発泡樹脂板状部材21が準備される。
なお、1対の柱11a,11bの間に間柱17を入れることもあるが、間柱17を入れた場合の実施例は前述の図2~図4に示す通りである。その場合でも発泡樹脂板状部材21の左右側面の耐力となる部分は1対の柱11aと間柱17、間柱17と柱11bで受けるものである。
発泡樹脂板状部材21は、サイズ的に、短辺方向の幅dが1対の柱11a,11bの間隔Wよりもt3(0.5~3.5mm)だけ短く、長辺方向の長さ(高さ)Hが1対の横架材12a,12bの間隔よりもt4(25~50mm)だけ短く選ばれる。
発泡樹脂板状部材21の圧縮強度は、短辺方向の側面の圧縮力が5ニュートン/平方センチメートル以上のものに選ばれる。
これによって、発泡樹脂板状部材21を1対の柱11a,11bと1対の横架材12a,12bによって囲まれる構造部材13aに嵌め込むとき、空間部14aの幅よりも若干小さくかつ高さ方向には大きな隙間(上部クリアランス)を確保しているので、発泡樹脂板状部材21の嵌め込み作業が同一寸法の場合よりも容易かつ迅速に行えることに加えて、発泡樹脂板状部材21が座屈を起こすことを回避できる利点がある。
図7はこの発明の他の実施例の木造建築物の耐力構造において、耐力となる発泡樹脂板状部材21と耐力にならない開口部(窓又はドア等)を配置した一例を示す平面図であり、図8は図7の例における木造建築物の外観斜視図である。
図7及び図8の例では、横方向(X方向)と奥行方向(Y方向)にそれぞれ複数の構造部材13があり、X方向の両外側(左右外側)に複数の構造部材13が配置されるとともに、Y方向の両外側(上下外側)に複数の構造部材13が配置され、それ以外の部分には窓16又は入口が形成されるか、耐力を必要としない部材(耐力のない断熱材の一例のグラスウール)が配置される。
なお、耐力を必要としない部分には、窓16又は出入り口等の開口部とされる。
図9はこの発明の他の実施例の木造建築物の耐力構造を説明するための図であり、発泡樹脂板状部材21と筋かいを併用した場合を示す。
この実施例では、図9(a)の平面図及び図9(b)の立面図に示すように、1対の柱11a,11bが筋かい18によって緊結され、筋かい18を除く空間部14aに発泡樹脂板状部材21が嵌め込まれる。例えば、1対の柱11a,11bが10.5cm角の角材を用いた場合、厚みが3cmの筋かいであれば、発泡樹脂板状部材21(6.5cm以下)と併用しても、柱11a,11bの厚みの範囲であり、発泡樹脂板状部材21が柱11a,11bの面より突出することもない。
この実施例によれば、筋かい18や合板等の既存の耐力壁要素が1/15radまでの範囲で耐力を発揮し、発泡樹脂板状部材21が1/15rad~1/8radの範囲で耐力を発揮することにより、広範囲で耐力を発揮できる利点がある。
すなわち、筋かいや合板等の既存の耐力壁要素と発泡樹脂板状部材21を併用しているので、耐力壁要素が耐力を発揮できない範囲又は耐力を減少して木造建築物の倒壊に近づきつつある範囲(1/15rad~1/8radまでの範囲)を発泡樹脂板状部材の側面の圧縮力で補うことにより、既存の耐力壁要素である筋かい18単独よりも広範囲で耐力を有し、木造建築物の倒壊を大幅に遅らせることができる。これは、既存の耐力壁要素である筋かい18入りの木造建築物に、従来の充填断熱を組み合わせた場合に比べて、発泡樹脂板状部材が座屈による耐力の減少を招くことなく、1/15rad~1/8radまでの範囲で広範囲に耐力を発揮でき、従来の充填断熱にない効果を発揮することができる。
また、発泡樹脂板状部材21の上部クリアランス(t4)の部分には、断熱性を高めるために、耐力を有しない断熱材、例えばグラスウール19を充填してもよい。
図10は、この発明のその他の実施例の木造建築物の耐力構造の立面図であり、特に発泡樹脂板状部材の上辺を山形にした例を示す。
この実施例が図1の原理図と異なる点は、発泡樹脂板状部材22の上辺を山形にしたことである。具体的には、この実施例の発泡樹脂板状部材22は、その上辺が幅方向の中央部から両側面に向かって下向きの傾斜部を有する山形に形成される。すなわち、上辺に左傾斜部22aと右傾斜部22bを形成して、第2の左右両端部で最大値となるような上部クリアランス(t4)を確保したものである。幅方向中央部の山形の頂点は、上部クリアランスの値が最も小さな値となるが、少なくとも長さt1だけ確保すれば足りる。
このように、発泡樹脂板状部材22の上辺を山形にすれば、グラスウール19を充填する部分の面積が図1の例よりも少なくなり、図1~図4の発泡樹脂板状部材21よりも断熱欠損部分を少なくできる利点がある。これは、発泡樹脂板状部材21の断熱性能がグラスウール19よりも高い場合、建物全体の断熱性能を一層高めることができる。
図11はこの発明のさらにその他の実施例の木造建築物の耐力構造の立面図であり、特に発泡樹脂板状部材の上辺を台形状にした例を示す。
この実施例が図1の原理図と異なる点は、発泡樹脂板状部材23の上辺を台形にしたことである。具体的には、この実施例の発泡樹脂板状部材23は、その上辺が幅方向の中央部分23aで横架材12bと平行となり、平行な上辺の中央部分23aの両端部から両側面に向かって下向きの傾斜部23b,23cを有するような台形状に形成される。中央部の平行部分の頂点は、上部クリアランスとして少なくとも長さt1だけ確保すれば足りる。
このように、発泡樹脂板状部材23の上辺を台形にすれば、グラスウール19を充填する部分の面積が図1の例よりも少なくて済み、断熱欠損部分を少なくできる利点がある。
11,11a,11b:柱
12,12a,12b:横架材
13:構造部材
14:空間部
15:布基礎
16:窓
17;間柱
18;筋かい
19;グラスウール
21,22,23:発泡樹脂板状部材
21a;切欠部
Claims (6)
- 一対の柱と一対の横架材によって囲まれた空間部を有する構造部材を組み合わせて構成される木造建築物において、
前記各構造部材に固定されることなく、当該構造部材に対応する空間部にそれぞれ嵌め込まれる、複数の発泡樹脂板状部材を備え、
前記発泡樹脂板状部材は、
幅方向の側面による圧縮力が5ニュートン/平方センチメートル以上の発泡プラスチック系フォームであって、
その立面形状の幅が前記空間部の幅よりも第1の長さである0.5mm~3.5mmだけ小さく選ばれることにより、前記空間部に嵌め込まれて水平力を加えられない状態のときに、当該第1の長さの部分が側面クリアランスとなり、
水平力を加えられたときに、層間変形角が既存の耐力壁では対応しない1/15ラジアンから木造建築物が倒壊し始めるとされる1/8ラジアンの範囲において耐力を発揮し、それによって、一対の柱が傾いてその幅が狭まった際に、その両側面が前記構造部材に含まれる一対の柱に密接することによって、その両側面で水平力を受けて、耐力壁として作用し、
層間変形角が前記1/15ラジアンから1/8ラジアンの範囲において耐力を発揮する際に、発泡樹脂板状部材の上辺と下辺が一対の横架材によって圧縮されて生じる座屈を回避するために、その立面形状の高さが前記空間部の高さよりも第2の長さである25mm~50mmだけ小さくなるような切欠部を形成することにより、当該切欠部が水平力を加えられない状態において上部クリアランスとなることを特徴とする、木造建築物の耐力構造。 - 一対の柱と一対の横架材によって囲まれた空間部を有する構造部材を組み合わせて構成される木造建築物において、
前記各構造部材に固定されることなく、当該構造部材に対応する空間部にそれぞれ嵌め込まれる、複数の発泡樹脂板状部材を備え、
前記発泡樹脂板状部材は、
幅方向の側面による圧縮力が5ニュートン/平方センチメートル以上の発泡プラスチック系フォームであって、
その立面形状の幅が前記空間部の幅よりも側面クリアランスだけ小さく選ばれ、かつその立面形状の高さが空間部の高さよりも上部クリアランスだけ小さく選ばれることによって、前記空間部に嵌め込まれたときに前記一対の柱に対して幅方向に側面クリアランスを有するとともに、前記一対の柱が水平力を受けて傾いたときに、その上辺および下辺が横架材に接触しないようにするための切欠部を形成し、
さらに、層間変形角が既存の耐力壁では対応しない1/15ラジアンから木造建築物が倒壊し始めるとされる1/8ラジアンの範囲において耐力を発揮するように、前記側面クリアランスが0.5mm~3.5mmに選ばれ、かつ前記切欠部が25mm~50mmに選ばれ、
それによって、前記発泡樹脂板状部材は、水平力が加わることにより、一対の柱が傾いてその幅が狭まったときに、その両側面が前記構造部材に含まれる一対の柱に密接することによって、その両側面で水平力を受けて、耐力壁として作用することを特徴とする、木造建築物の耐力構造。 - 前記発泡樹脂板状部材は、前記切欠部の形状が矩形であって、その上辺が横架材に対して平行に形成されることによって、水平力が加えられない状態において、幅方向に均等な上部クリアランスを確保することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の木造建築物の耐力構造。
- 前記発泡樹脂板状部材は、その上辺が幅方向の中央部から両側面に向かって傾斜を有する山形に形成されることによって、左右両端部で最大値となる上部クリアランスを確保することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の木造建築物の耐力構造。
- 前記発泡樹脂板状部材の上辺より上の上部クリアランスには、前記発泡樹脂板状部材とは異なる材質であって、耐力を有しない断熱材を充填することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の木造建築物の耐力構造。
- 前記木造建築物は、前記空間部を有する複数の構造部材に筋かいや合板等の耐力壁要素が形成されて、前記発泡樹脂板状部材と併用され、
前記筋かいや合板等の耐力壁要素は層間変形角が少なくとも1/15ラジアンまでの範囲で耐力を発揮し、前記発泡樹脂板状部材は層間変形角が1/15ラジアン~1/8ラジアンの範囲で耐力を発揮することにより、広範囲で耐力を発揮することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の木造建築物の耐力構造。
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