以下、本発明の発光素子モジュール、原子発振器、電子機器および移動体を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.原子発振器
まず、本発明の原子発振器(本発明の発光素子モジュールを備える原子発振器)について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る原子発振器を示す概略図である。
図1に示す原子発振器10は、アルカリ金属原子に対して特定の異なる波長の2つの共鳴光を同時に照射したときに当該2つの共鳴光がアルカリ金属原子に吸収されずに透過する現象が生じる量子干渉効果(CPT:Coherent Population Trapping)を利用した原子発振器である。なお、この量子干渉効果による現象は、電磁誘起透明化(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)現象とも言う。
この原子発振器10は、図1に示すように、発光素子モジュール1と、原子セルユニット20と、発光素子モジュール1と原子セルユニット20との間に設けられている光学系ユニット30と、発光素子モジュール1および原子セルユニット20の作動を制御する制御ユニット50と、を備える。以下、まず、原子発振器10の概略について説明する。
発光素子モジュール1は、ペルチェ素子2と、発光素子3と、温度センサー4と、を備える。発光素子3は、周波数の異なる2種の光を含んでいる直線偏光の光LLを出射する。発光素子3が出射する光LL(光束)は、所定の放射角をもって拡がって出射され、出射された光LLの断面強度分布は、ガウス分布をなす。ここで、「放射角」とは、光LLの光軸aを中心軸とした拡がり角度を示す。具体的には、「放射角」とは、光LLのピーク強度の1/e2での角度のことを言う。なお、光LLの断面強度分布がガウス分布をなさない場合、「放射角」とは、光LLのピーク強度の半分での角度のことを言う。光LLの放射角より内側の部分を光束という。また、温度センサー4は、発光素子3の温度を検出する。また、ペルチェ素子2は、発光素子3の温度を調節(発光素子3を加温または冷却)する。
光学系ユニット30は、減光フィルター301(光学素子)と、レンズ302(光学素子)と、1/4波長板303(光学素子)と、を備える。減光フィルター301は、前述した発光素子3からの光LLの強度を減少させる。また、レンズ302は、光LLの放射角度を調整する(例えば光LLを平行光とする)。また、1/4波長板303は、光LLに含まれる周波数の異なる2種の光を直線偏光から円偏光(右円偏光または左円偏光)に変換する。
原子セルユニット20は、原子セル201と、受光素子202と、ヒーター203と、温度センサー204と、コイル205と、を備える。
原子セル201は、光透過性を有し、原子セル201内には、アルカリ金属が封入されている。アルカリ金属原子は、互いに異なる2つの基底準位と励起準位とからなる3準位系のエネルギー準位を有する。原子セル201には、発光素子3からの光LLが減光フィルター301、レンズ302および1/4波長板303を介して入射する。そして、受光素子202は、原子セル201を通過した光LLを受光し、検出する。
ヒーター203は、原子セル201内のアルカリ金属を加熱し、そのアルカリ金属の少なくとも一部をガス状態とする。また、温度センサー204は、原子セル201の温度を検出する。コイル205は、原子セル201内のアルカリ金属に所定方向の磁場を印加し、そのアルカリ金属原子のエネルギー準位をゼーマン***させる。このようにアルカリ金属原子がゼーマン***した状態において、前述したような円偏光の共鳴光対がアルカリ金属原子に照射されると、アルカリ金属原子がゼーマン***した複数の準位のうち、所望のエネルギー準位のアルカリ金属原子の数を他のエネルギー準位のアルカリ金属原子の数に対して相対的に多くすることができる。そのため、所望のEIT現象を発現する原子数が増大し、所望のEIT信号が大きくなり、その結果、原子発振器10の発振特性を向上させることができる。
制御ユニット50は、温度制御部501と、光源制御部502と、磁場制御部503と、温度制御部504と、を備える。温度制御部501は、温度センサー204の検出結果に基づいて、原子セル201内が所望の温度となるように、ヒーター203への通電を制御する。また、磁場制御部503は、コイル205が発生する磁場が一定となるように、コイル205への通電を制御する。また、温度制御部504は、温度センサー4の検出結果に基づいて、発光素子3の温度が所望の温度(温度領域内)となるように、ペルチェ素子2への通電を制御する。
光源制御部502は、受光素子202の検出結果に基づいて、EIT現象が生じるように、発光素子3からの光LLに含まれる2種の光の周波数を制御する。ここで、これら2種の光が原子セル201内のアルカリ金属原子の2つの基底準位間のエネルギー差に相当する周波数差の共鳴光対となったとき、EIT現象が生じる。また、光源制御部502は、前述した2種の光の周波数の制御に同期して安定化するように発振周波数が制御される電圧制御型水晶発振器(図示せず)を備えており、この電圧制御型水晶発振器(VCXO)の出力信号を原子発振器10の出力信号(クロック信号)として出力する。
以上、原子発振器10の概略について説明した。以下、図2および図3に基づいて、原子発振器10のより具体的な構成について説明する。
図2は、図1に示す原子発振器の断面側面図である。図3は、図2に示す原子発振器の平面図である。なお、以下では、説明の便宜上、図2中の上側を「上」、下側を「下」ともいう。
図2に示すように、原子発振器10は、発光素子モジュール1と、原子セルユニット20と、発光素子モジュール1を保持している光学系ユニット30と、原子セルユニット20および光学系ユニット30を一括して支持している支持部材40と、発光素子モジュール1および原子セルユニット20に電気的に接続されている制御ユニット50と、これらを収納しているパッケージ60と、を備えている。
発光素子モジュール1は、ペルチェ素子2と、発光素子3と、温度センサー4と、これらを収納しているパッケージ5と、を有している。なお、発光素子モジュール1については、後に詳述する。
光学系ユニット30は、減光フィルター301と、レンズ302と、1/4波長板303と、これらを保持しているホルダー304と、を有している。ここで、ホルダー304は、両端が開口した柱状の貫通孔305を有する。この貫通孔305は、光LLの通過領域であり、貫通孔305内には、減光フィルター301、レンズ302および1/4波長板303がこの順で配置されている。図3に示すように、減光フィルター301は、光軸aを法線とする面に対して傾斜した姿勢で、図示しない接着剤等によりホルダー304に対して固定されている。レンズ302および1/4波長板303は、それぞれ、光軸aを法線とする面に沿った姿勢で、図示しない接着剤等によりホルダー304に対して固定されている。また、貫通孔305の減光フィルター301側(図2中の左側)の端部には、図示しない取付部材により発光素子モジュール1が取り付けられている。このようなホルダー304は、例えば、アルミニウム等の金属材料で構成されており、放熱性を有する。これにより、発光素子モジュール1の放熱を効率的に行うことができる。
なお、光学系ユニット30は、発光素子3からの光LLの強度、放射角等によっては、減光フィルター301およびレンズ302のうちの少なくとも一方を省略することができる。また、光学系ユニット30は、減光フィルター301、レンズ302および1/4波長板303以外の光学素子を有していてもよい。また、減光フィルター301、レンズ302および1/4波長板303の配置順は、図示の順に限定されず、任意である。
原子セルユニット20は、原子セル201と、受光素子202と、ヒーター203と、温度センサー204と、コイル205と、これらを収納しているパッケージ206と、を備える。
原子セル201内には、ガス状のルビジウム、セシウム、ナトリウム等のアルカリ金属が封入されている。また、原子セル201内には、必要に応じて、アルゴン、ネオン等の希ガス、窒素等の不活性ガスが緩衝ガスとしてアルカリ金属ガスとともに封入されていてもよい。
図示しないが、原子セル201は、例えば、柱状の貫通孔を有する胴体部と、その胴体部の貫通孔の両開口を封鎖して気密封止された内部空間を形成している1対の窓部(窓部56、56A、56Bとは異なる)と、を有する。ここで、1対の窓部のうち、一方の窓部には、原子セル201内へ入射する光LLが透過し、他方の窓部には、原子セル201内から出射した光LLが透過する。したがって、各窓部の構成材料としては、光LLに対する透過性を有していればよく、特に限定されないが、例えば、ガラス材料、水晶等が挙げられる。一方、胴体部の構成材料としては、特に限定されず、金属材料、樹脂材料、ガラス材料、シリコン材料、水晶等が挙げられるが、加工性や各窓部との接合の観点から、ガラス材料、シリコン材料を用いるのが好ましい。また、胴体部と各窓部との接合方法としては、これらの構成材料に応じて決められるものであり、特に限定されないが、例えば、直接接合法、陽極接合法等を用いることができる。
受光素子202は、原子セル201に対して発光素子モジュール1とは反対側に配置されている。この受光素子202としては、原子セル201内を透過した光LL(共鳴光対)の強度を検出し得るものであれば、特に限定されないが、例えば、太陽電池、フォトダイオード等の光検出器(受光素子)が挙げられる。
ヒーター203は、図示しないが、例えば、前述した原子セル201上に配置されているか、または、金属等の熱伝導性部材を介して原子セル201に接続されている。このヒーター203としては、原子セル201(より具体的には原子セル201内のアルカリ金属)を加熱することができれば、特に限定されないが、例えば、発熱抵抗体を有する各種ヒーター、ペルチェ素子等が挙げられる。
温度センサー204は、図示しないが、例えば、原子セル201またはヒーター203の近傍に配置されている。この温度センサー204としては、原子セル201またはヒーター203の温度を検出することができれば、特に限定されないが、例えば、サーミスタ、熱電対等の公知の各種温度センサーが挙げられる。
コイル205は、図示しないが、例えば、原子セル201の外周に沿って巻回して設けられているソレノイド型のコイル、または、原子セル201を介して対向するヘルムホルツ型の1対のコイルである。このコイル205は、原子セル201内に光LLの光軸aに沿った方向(平行な方向)の磁場を発生させる。これにより、原子セル201内のアルカリ金属原子の縮退している異なるエネルギー準位間のギャップをゼーマン***により拡げて、分解能を向上させ、EIT信号の線幅を小さくすることができる。なお、コイル205が発生する磁場は、直流磁場または交流磁場のいずれかの磁場であってもよいし、直流磁場と交流磁場とを重畳させた磁場であってもよい。
パッケージ206は、図示しないが、例えば、板状の基体と、この基体に接合されている蓋体と、を備え、これらの間に、前述した原子セル201、受光素子202、ヒーター203、温度センサー204およびコイル205を収納している気密空間を形成している。ここで、基体は、原子セル201、受光素子202、ヒーター203、温度センサー204およびコイル205を直接的または間接的に支持している。また、基体の外表面には、受光素子202、ヒーター203、温度センサー204およびコイル205に電気的に接続されている複数の端子が設けられている。一方、蓋体は、一端部が開口した有底筒状をなし、その開口が基体により塞がれている。また、蓋体の他端部(底部)には、光LLに対する透過性を有する窓部207が設けられている。
このようなパッケージ206の基体および蓋体の窓部以外の部分の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、セラミックス、金属等が挙げられる。また、窓部207の構成材料としては、例えば、ガラス材料等が挙げられる。また、基体と蓋体との接合方法としては、特に限定されないが、例えば、ろう接、シーム溶接、エネルギー線溶接(レーザー溶接、電子線溶接等)等が挙げられる。また、パッケージ206内は、大気圧よりも減圧されていることが好ましい。これにより、簡単かつ高精度に、原子セル201の温度を制御することができる。その結果、原子発振器10の特性を向上させることができる。
支持部材40は、板状をなし、その一方の面上には、前述した原子セルユニット20および光学系ユニット30が載置されている。この支持部材40は、光学系ユニット30のホルダー304の下面の形状に沿った設置面401を有する。この設置面401には、段差部402が形成されている。この段差部402は、ホルダー304の下面の段差部と係合して、ホルダー304が原子セルユニット20側(図2中右側)へ移動するのを規制する。同様に、支持部材40は、原子セルユニット20のパッケージ206の下面の形状に沿った設置面403を有する。この設置面403には、段差部404が形成されている。この段差部404は、パッケージ206の端面(図2中左側の端面)と係合して、パッケージ206が光学系ユニット30側(図2中左側)へ移動するのを規制する。
このように、支持部材40により原子セルユニット20および光学系ユニット30の相対的な位置関係を規定することができる。ここで、発光素子モジュール1がホルダー304に対して固定されているため、原子セルユニット20および光学系ユニット30に対する発光素子モジュール1の相対的な位置関係も規定されることとなる。ここで、パッケージ206およびホルダー304は、それぞれ、図示しないネジ等の固定部材により、支持部材40に対して固定されている。また、支持部材40は、図示しないネジ等の固定部材により、パッケージ60に対して固定されている。また、支持部材40は、例えば、アルミニウム等の金属材料で構成されており、放熱性を有する。これにより、発光素子モジュール1の放熱を効率的に行うことができる。
図3に示すように、制御ユニット50は、回路基板505と、回路基板505上に設けられている2つのコネクター506a、506bと、発光素子モジュール1に接続されているリジット配線基板507aと、原子セルユニット20に接続されているリジット配線基板507bと、コネクター506aとリジット配線基板507aとを接続しているフレキシブル配線基板508aと、コネクター506bとリジット配線基板507bとを接続しているフレキシブル配線基板508bと、回路基板505を貫通している複数のリードピン509と、を有する。
ここで、回路基板505には、IC(Integrated Circuit)チップ(図示せず)が設けられ、このICチップが前述した温度制御部501、光源制御部502、磁場制御部503および温度制御部504として機能する。また、回路基板505は、前述した支持部材40が挿通されている貫通孔5051を有する。また、回路基板505は、複数のリードピン509を介してパッケージ60に対して支持されている。複数のリードピン509は、回路基板505に電気的に接続されている。
なお、回路基板505と発光素子モジュール1とを電気的に接続する構成、および、回路基板505と原子セルユニット20とを電気的に接続する構成は、図示のコネクター506a、506b、リジット配線基板507a、507bおよびフレキシブル配線基板508a、508bに限定されず、それぞれ、他の公知のコネクターおよび配線であってもよい。
パッケージ60は、例えば、コバール等の金属材料で構成されており、磁気シールド性を有する。これにより、外部磁場が原子発振器10の特性に悪影響を与えるのを低減することができる。なお、パッケージ60内は、減圧されていてもよいし、大気圧であってもよい。
(発光素子モジュールの詳細な説明)
図4は、図2および図3に示す原子発振器が備える発光素子モジュールの断面図である。図5は、図4に示す発光素子モジュールの平面図である。図6は、図4に示す発光素子モジュールが備えるリッドの平面図である。なお、以下では、説明の便宜上、図4中の上側を「上」、下側を「下」ともいう。
発光素子モジュール1は、図4に示すように、ペルチェ素子2、発光素子3および温度センサー4と、これらを収納しているパッケージ5と、を有している。
パッケージ5は、上面に開放する凹部511を有するベース51と、凹部511の開口(上部開口)を塞ぐリッド52とを有し、ベース51とリッド52との間に、ペルチェ素子2、発光素子3および温度センサー4を収納している気密空間である内部空間Sを形成している。このようなパッケージ5内は、減圧(真空)状態であることが好ましい。これにより、パッケージ5の外部の温度変化がパッケージ5内の発光素子3や温度センサー4等に与える影響を低減し、パッケージ5内の発光素子3や温度センサー4等の温度変動を低減することができる。なお、パッケージ5内は、減圧状態でなくともよく、また、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが封入されていてもよい。
ベース51の構成材料としては、特に限定されないが、絶縁性を有し、かつ、内部空間Sを気密空間とするのに適した材料、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア等の酸化物系セラミックス、窒化珪素、窒化アルミ、窒化チタン等の窒化物系セラミックス、炭化珪素等の炭化物系セラミックス等の各種セラミックスなどを用いることができる。
また、ベース51は、凹部511の底面よりも上側であって、凹部511の底面の外周を囲むように形成されている段差部512を有している。この段差部512の上面には、図5に示すように、接続電極62a、62b、62c、62d、62e、62fが設けられている。これらの接続電極62a、62b、62c、62d、62e、62f(以下、「接続電極62a〜62f」ともいう)は、それぞれ、ベース51を貫通する図示しない貫通電極を介して、ベース51の下面に設けられた外部実装電極61a、61b、61c、61d、61e、61f(以下、「外部実装電極61a〜61f」ともいう)に電気的に接続されている。
接続電極62a〜62fおよび外部実装電極61a〜61f等の構成材料としては、特に限定されず、例えば、金(Au)、金合金、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銀(Ag)、銀合金、クロム(Cr)、クロム合金、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)等の金属材料が挙げられる。
また、ベース51の上端面には、枠状(環状)のシールリング53が設けられている。このシールリング53は、例えば、コバール等の金属材料で構成され、ろう付け等によりベース51に対して接合されている。このようなシールリング53を介してベース51にシーム溶接等によりリッド52が接合されている。
図4および図6に示すように、リッド52は、板状をなす本体部54と、本体部54上に設けられている筒状の突出部55と、突出部55の内側に形成された孔551(開口)を塞いでいる窓部56と、を有している。
本体部54は、突出部55を支持している第1部分54aと、ベース51(より具体的にはシールリング53を介してベース51)に接合されている第2部分54bと、第1、第2部分54a、54b間を繋いでいる第3部分54cと、を有している。この本体部54の板面540(上面)は、発光素子3から出射された光LLの光軸aを法線とする面と平行である。ここで、第2、第3部分54b、54cの厚さt2、t3は、それぞれ、第1部分54aの厚さt1よりも薄くなっている。また、第2部分54bの厚さt2および第3部分54cの厚さt3は、互いに等しい。本実施形態では、本体部54の厚さt2の外周部を平面視でシールリング53の内周縁531を境界として2つの部分に分けて捉えたとき、その2つの部分のうち、外側の部分が第2部分54bであり、内側の部分が第3部分54cであるとも言える。また、第1部分54aの外周部は、第3部分54cに向けて厚さが連続的に薄くなっており、これにより、第1部分54aの上面および下面が第3部分54cの上面および下面と連続的に繋がっている。また、第1部分54aには、その厚さ方向に貫通している孔541が形成されている。この孔541は、発光素子3からの光LLの少なくとも一部を通過させる。このような本体部54の構成材料としては、特に限定されないが、金属材料が好適に用いられ、その中でも、ベース51の構成材料と線膨張係数が近似する金属材料を用いることが好ましい。したがって、例えば、ベース51をセラミックス基板とした場合には、本体部54の構成材料としてはコバール等の合金を用いることが好ましい。
突出部55は、平面視で、第1部分54aの中央部に設けられていて、第1部分54a内に包含されている。この突出部55は、その内側に、前述した本体部54の孔541に連通している孔551と、孔551に対して孔541とは反対側で孔551に連通している孔552と、を有している。これら孔551、552は、それぞれ、発光素子3からの光LLの少なくとも一部を通過させる。ここで、孔552の幅(径)は、孔551の幅(径)よりも大きくなっており、これにより、孔551と孔552との間には、段差部553が形成されている。この段差部553は、前述した本体部54の板面540に対して傾斜角度θで傾斜している。本実施形態では、段差部553は、リッド52の長手方向での一方側(図4および図6中の右側)を向くように傾斜している。また、図6に示すように、突出部55の外周面には、円筒面に沿った1対の曲面部555と、この1対の曲面部555間に設けられている平坦な1対の平坦部554と、を有する。1対の平坦部554は、平面視で本体部54の第1部分54aの外形に沿っている。
このような突出部55の構成材料としては、本体部54の構成材料と異なっていてもよいが、本体部54の構成材料と線膨張係数が近似する金属材料を用いることが好ましく、本体部54の構成材料と同じであることがより好ましい。また、突出部55は、本体部54とは別体で形成され、公知の接合方法により接合してもよいし、金型等を用いて本体部54と一体で(一括して)形成してもよい。
孔552の内部には、光LLを透過する板状の部材で構成された窓部56が設置されている。窓部56は、前述した段差部553上に公知の接合法により接合され、前述した突出部55の孔551の孔552側の開口を塞いでいる。ここで、前述したように段差部553が本体部54の板面540に対して傾斜角度θで傾斜しているため、窓部56も、本体部54の板面540に対して傾斜角度θで傾斜している。したがって、本実施形態では、窓部56の発光素子3側の面560(下面)および発光素子3とは反対側の面(上面)も、リッド52の長手方向での一方側(図4および図6中の右側)を向くように傾斜している。この窓部56は、発光素子3からの光LLに対する透過性を有する。このような窓部56の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス材料等が挙げられる。なお、窓部56は、レンズ、減光フィルター等の光学部品であってもよい。
また、窓部56の平面視形状は、特に限定されないが、本実施形態は6角形である。窓部56の平面視形状が6角形であることにより、窓部56の平面視形状が4角形である場合に比べ、窓部56の面積が小さくても、孔551の円形をなす開口を的確に塞ぐことができる。また、窓部56の平面視形状が円形である場合に比べ、例えば、1つの基板(母板)から複数の窓部56を切り出して形成する場合、無駄になる部分が少なく、より多くの窓部56を形成することができる。
このようなリッド52は、図4に示すように、本体部54および突出部55が前述した光学系ユニット30のホルダー304に係合して位置決めされる。より具体的には、突出部55がホルダー304の貫通孔305内に挿入されて、本体部54の板面540がホルダー304の位置決め面306に当接することで、発光素子3の光軸a方向でのリッド52および発光素子モジュール1の位置決めがなされる。また、突出部55がホルダー304の貫通孔305内に挿入された状態で突出部55の側面(より具体的には、前述した1対の曲面部555)が貫通孔305の内壁面に当接することで、発光素子3の光軸aに対して垂直な方向でのリッド52および発光素子モジュール1の位置決めがなされる。
このようなパッケージ5のベース51の凹部511の底面には、ペルチェ素子2が配置されている。ペルチェ素子2は、ベース51に対して例えば接着剤により固定されている。ペルチェ素子2は、図4に示すように、1対の基板21、22と、これらの基板21、22間に設けられている接合体23と、を有する。基板21、22は、それぞれ、金属材料、セラミックス材料等の熱伝導性に優れる材料で構成されている。また、基板21、22の表面には、それぞれ、必要に応じて、絶縁膜が設けられている。このような基板21の下面は、パッケージ5のベース51に固定され、一方、基板21の上面には、図5に示すように、1対の端子24、25が設けられている。また、基板22は、1対の端子24、25を露出するように設けられている。そして、1対の端子24、25は、ワイヤー配線(ボンディングワイヤー)である配線81a、81bを介して、パッケージ5に設けられた接続電極62a、62bに電気的に接続されている。接合体23は、1対の端子24、25からの通電によりペルチェ効果を生じる互いに異なる2種の金属または半導体の接合体を複数含んで構成されている。
このようなペルチェ素子2は、接合体23で生じるペルチェ効果により、基板21、22のうち、一方の基板が発熱側、他方が吸熱側となる。ここで、ペルチェ素子2は、供給される電流の向きにより、基板21が発熱側となるとともに基板22が吸熱側となる状態と、基板21が吸熱側となるとともに基板22が発熱側となる状態と、を切り換えることができる。そのため、環境温度の範囲が広くても、発光素子3等を所望の温度(目標温度)に温度調節することができる。これにより、温度変化による悪影響(例えば、光LLの波長変動)をより低減することができる。ここで、発光素子3の目標温度は、発光素子3の特性に応じて決められるものであり、特に限定されないが、例えば、30℃以上40℃以下程度である。発光素子3の温度をこの目標温度に保つべく、温度センサー4からの情報に基づいて、ペルチェ素子2を適時作動させ、発光素子3を加温したり、冷却したりする。
また、ペルチェ素子2は、基板22の上面に設けられている金属層26を有する。この金属層26は、例えば、アルミニウム、金、銀等の熱伝導性に優れる金属で構成されており、この金属層26の上面には、発光素子3、温度センサー4および中継部材71、72が配置されている。
発光素子3は、例えば、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)等の半導体レーザーである。半導体レーザーは、直流バイアス電流に高周波信号を重畳して(変調を掛けて)用いることにより、波長の異なる2種の光を出射させることができる。この発光素子3は、図示しない1対の端子を有しており、この1対の端子は、一方の端子が駆動信号用の端子であり、他方の端子が接地用の端子である。駆動信号用の端子は、配線82a、中継部材71および配線82bを介して、パッケージ5に設けられた接続電極62cに電気的に接続されている。一方、接地用の端子は、配線82c、金属層26および配線82dを介して、パッケージ5に設けられた接続電極62dに電気的に接続されている。
温度センサー4は、例えば、サーミスタ、熱電対等の温度検出素子である。この温度センサー4は、図示しない1対の端子を有しており、この1対の端子は、一方の端子が検出信号用の端子であり、他方の端子が接地用の端子である。検出信号用の端子は、配線83a、中継部材72および配線83bを介して、パッケージ5に設けられた接続電極62eに電気的に接続されている。一方、接地用の端子は、金属層26および配線83cを介して、パッケージ5に設けられた接続電極62fに電気的に接続されている。
配線82a、82b、82c、82d、83a、83b、83cは、それぞれ、ワイヤー配線(ボンディングワイヤー)である。ここで、配線82bが複数のワイヤー配線で構成されている。これにより、配線82bの電気抵抗を小さくし、発光素子3に供給する駆動信号の損失を低減することができる。同様の観点から、配線82c、82dもそれぞれ複数のワイヤー配線で構成されている。
中継部材71は、絶縁性を有する基部711と、基部711の上面に設けられている導電性の配線層712と、を有している。基部711は、例えば、セラミックス材料で構成されている。この基部711の下面には、図示しない金属層が接合されているとともに、この金属層がろう材等の接合材(図示せず)を介して金属層26に接合されている。また、配線層712は、前述した接続電極62a〜62f等と同様の材料で構成されている。また、配線層712は、長手形状をなし、基部711の上面の一部に形成されている。これにより、配線層712と金属層26との間の静電容量を小さくし、発光素子3に供給する駆動信号として高周波信号を用いても、駆動信号の損失を低減することができる。また、基部711の大きさをある程度確保し、その結果、中継部材71を実装しやすくすることができる。
このような中継部材71等を経由して、発光素子3と接続電極62c、62dとの電気的な接続を行うことにより、配線82a、82b、82c、82dもペルチェ素子2により温度調節される。そのため、かかる配線82a、82b、82c、82dの温度変動が低減され、それに伴って、発光素子3の温度変動も低減することができる。
中継部材72は、前述した中継部材71と同様に構成することができる。ただし、温度センサー4には高周波信号を用いないため、中継部材72が有する配線層は、基部の上面の全域にわたって設けられていてもよい。
このような中継部材72等を経由して、温度センサー4と接続電極62e、62fの電気的接続を行うことにより、配線83a、83b、83cもペルチェ素子2により温度調節される。そのため、かかる配線83a、83b、83cの温度変動が低減され、それに伴って、温度センサー4の温度変動も低減することができる。すなわち、温度センサー4が接続電極62e、62fからの熱の影響を受け難くすることができる。そのため、温度センサー4の検出精度を高めることができ、その結果、発光素子3の温度を高精度に制御することができる。
以上説明したような発光素子モジュール1は、図4に示すように、光LLを出射する発光素子3と、発光素子3が収納されている凹部511を有するベース51と、凹部511の開口を覆ってベース51に接合されているリッド52と、を備えている。また、リッド52は、ベース51とは反対側に突出して設けられ、光LLを通過させる孔551を有する突出部55と、突出部55の孔551を塞いで設けられ、光LLを透過させる窓部56と、を有している。そして、窓部56の発光素子3側の面560(下面)は、光LLの光軸aを法線とする面、すなわち本体部54の板面540に対して傾斜している。
このような本発明の発光素子モジュール1によれば、窓部56の発光素子3側の面560が光LLの光軸aを法線とする面(板面540)に対して傾斜しているため、発光素子3からの光LLが窓部56で反射して発光素子3に戻る戻り光を少なくすることができる。さらに、窓部56が突出部55に設けられているため、窓部56と発光素子3との離間距離を大きくすることができる。そのため、発光素子3からの光LLが進行するに伴って光量密度が低くなることと相まって、戻り光を効果的に少なくすることができる。また、発光素子モジュール1は、窓部56を突出部55に設けることで、例えばリッド52が突出部55を有さずに、ベース51の凹部511を大きく(深く)して窓部56と発光素子3との離間距離を大きくする場合に比べ、発光素子モジュール1全体を小型にすることができる。このようなことから、発光素子モジュール1によれば、大型化を低減しつつ、戻り光が発光素子3に与える影響を低減することができる。
また、光LLの光軸aを法線とする面に対する窓部56の発光素子3側の面560の傾斜角度θは、5°以上45°以下の範囲内であることが好ましく、7°以上40°以下の範囲内であることがより好ましく、10°以上30°以下の範囲内であることがさらに好ましい。特に、本実施形態では、傾斜角度θは、15°である。傾斜角度θが前述の範囲内であることにより、窓部56の必要な光学特性(例えば、光LLの十分な透過度)を発揮させつつ、戻り光が発光素子3に与える影響(例えば、温度上昇による光LLの波長変動)を低減することができる。
なお、窓部56の発光素子3側の面560の傾斜方向は、図示に限定されず、例えば、図6において、窓部56を時計まわりに30°、60°、90°、180°、210°回転した状態に配置したものでもよい。
また、前述したように、突出部55の孔551の内壁面には、光LLの光軸aを法線とする面に対して傾斜し、窓部56を支持している段差部553を有している。これにより、突出部55に対して窓部56を適正な位置および前述の傾斜角度θで設けることが容易となる。
ここで、前述したように、発光素子3が出射する光LLは、所定の放射角(光LLの光軸aを中心軸とした拡がり角度)をもって拡がって出射される。そして、孔551のベース51側の開口に沿った面における光LLのピーク強度の1/e2(eは自然対数の底)の強度での幅(径)をW[mm]としたとき、孔551のベース51側の開口の幅L(径)[mm]は、W<L<20×Wの範囲内を満足することが好ましく、2×W<L<18×Wの範囲内を満足することがより好ましく、5×W<L<15×Wの範囲内を満足することがさらに好ましい。特に、本実施形態では、幅Lは、5.4×Wである。幅Lが前述の範囲内であることにより、突出部55の過度な大型化を低減しつつ、発光素子3から出射された光LLのうちエネルギー密度の変化が大きい外周部を除く中央部を孔551内に効率よく入射させることができる。
また、前述したように、リッド52は、突出部55を支持している第1部分54aと、ベース51に接合され、第1部分54aよりも厚さが薄い第2部分54bとを有する。このように、ベース51に接合される第2部分54bが第1部分54aよりも薄いことで、リッド52とベース51との接合をシーム溶接等により容易に行うことができる。また、第1部分54aが第2部分54bよりも厚いことで、リッド52の必要な機械的強度を確保することができる。また、第1部分54aが第2部分54bよりも厚いことで、リッド52とベース51とを接合する際に第1部分54aに生じる応力を低減して、突出部55から窓部56が離脱することを低減することができる。
また、前述したように、突出部55の外周面は、光LLの光軸aに沿った方向から見て、第1部分54aの外形に沿っている平坦な平坦部554を有する。特に、本実施形態では、突出部55の外周面が、1対の平坦部554を有している。これにより、リッド52の第2部分54bとベース51とを接合する際、突出部55が邪魔になることを低減することができるので、リッド52とベース51との接合をより容易に行うことができる。また、本実施形態では、1対の平坦部554に間に1対の曲面部555が設けられている。このような曲面部555を有することにより、突出部55の必要な機械的強度を確保することができる。
以上、原子発振器10について説明した。このような原子発振器10は、前述したような発光素子モジュール1を備える。これにより大型化を低減しつつ、戻り光が発光素子3に与える影響を低減することができる。このため、発光素子3からの光LLの波長変動を低減し、光LLを利用して優れた発振特性を有する原子発振器10を実現することができる。
また、前述したように、原子発振器10は、発光素子3からの光LLを通過させる「光学素子」である減光フィルター301、レンズ302および1/4波長板303と、これらを保持しているホルダー304とを備える。そして、ホルダー304は、発光素子モジュール1が備える突出部55を挿通可能な貫通孔305を有する。これにより、ホルダー304の貫通孔305に突出部55を挿通することで、発光素子モジュール1とホルダー304との相対的な位置決めを簡単かつ高精度に行うことができる。そのため、発光素子モジュール1から出射された光LLを減光フィルター301に適正に入射させることができる。また、このように本体部54および突出部55がホルダー304に接触することで、金属材料で構成されている放熱性に優れたホルダー304からの放熱によりリッド52の温度上昇を低減することもできる。
<第2実施形態>
図7は、本発明の第2実施形態に係る原子発振器が備える発光素子モジュールの発光素子および窓部を示す概略図である。図8は、窓部の中心と光の光軸とが一致している状態を示す図である。図9は、図7に示す窓部の配置の変形例を示す概略図である。
なお、以下の説明では、第2実施形態に関し、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図7、図8および図9において、前述した実施形態と同様の構成は、同一符号を付している。
図7に示す発光素子モジュール1Aでは、窓部56Aの幾何学的な中心O56が、光LLの光軸aと一致しておらず、光軸aに対してずれている。なお、窓部56Aは、第1実施形態における窓部56と同様に、平面視形状が6角形である平板状の部材であり、面560が光軸aを法線とする面に対して傾いている。また、窓部56Aの側面563(外周面)の一部は、光LLの光束L1の外側に位置している。具体的には、窓部56Aの面560(入射側の面)の縁5601(外周)が、その全周に亘って、光LLの光束L1の外側に位置している。なお、光束L1は、放射角θ1で引いた線の内側である。「放射角」とは、上述したように、光LLのピーク強度の1/e2での角度のことを言う。ただし、光LLの断面強度分布がガウス分布をなさない場合には、「放射角」とは、光LLのピーク強度の半分での角度のことを言う。
ここで、窓部56Aを図8の2点鎖線で示す状態から図8中の実線で示す状態にすると、すなわち、中心O56を光軸a上に位置させたまま中心O56の位置を変更せずに窓部56Aを傾斜させると、光LLに窓部56Aを通過しない部分が生じる。図8では、窓部56Aの発光素子3に対して遠位の部分(図8中の実線で示す窓部56Aの左側の部分)において、光LLが窓部56Aを通過しない。光LLの窓部56Aを通過しない部分は、リッド52の窓部56A以外の部分に吸収または反射されることがある(図4参照)。これにより、窓部56Aから出射する光LLの量(光量)が減ったり、光LLの窓部56Aを通過しない部分が乱反射して発光素子3や原子セル201に届いて想定しない影響を与えたりすることがある(図2および図3参照)。
このような光LLの窓部56Aを通過しない部分による影響等を低減するため、本実施形態では、上述したように、窓部56Aを図7に示すように配置している。図7に示す窓部56Aの位置は、図8に実線で示す窓部56Aの位置から、窓部56Aを矢印A1方向に移動させることで実現できる。
具体的には、上述したように、窓部56Aの中心O56は、光LLの光軸aに対してずれている。これにより、窓部56Aの大きさ(面560の平面積)を図8中の2点鎖線で示す窓部56Aおよび図8中の実線で示す窓部56Aの大きさから変更せずとも、窓部56Aの面560の縁5601を、光LLの光束L1の外側に位置させることができる。すなわち、最小の窓部56Aの大きさで、光LLの光束L1の外側に面560の縁5601を位置させることができる。これにより、窓部56Aの大型化を低減しつつ、窓部56Aを通過しない光LLが生じることを低減することができる。そのため、光LL(具体的には、光LLの最大光量強度の1/e2または1/2以上となる部分)を適切に窓部56Aに通過させることができる。その結果、窓部56Aから出る光LLの光量の減少や、窓部56Aから外れた光LLが乱反射して発光素子3等に悪影響を及ぼすことを低減することができる。また、窓部56Aの大きさを小さくすることができるため、1つの基板(例えばシート状のガラス基板)から多数の窓部56Aを製造することができる。そのため、低コスト化や生産性の向上を図ることができる。
なお、窓部56Aの中心O56を光軸a上に位置させたまま、窓部56Aの大きさ(面560の平面積)を大きくすることにより、縁5601を光束L1の外側に位置させてもよい。
図9に、本実施形態の窓部56Aの変形例を示す。図9では、窓部56Aの側面563(側面563の全域)は、光LLの光束L1よりも外側に位置している。別の言い方をすると、面560の縁5601と、面561(出射側の面)の縁5611とは、それぞれ、光LLの光束L1よりも外側に位置している。これにより、窓部56Aの両主面(面560、561)内に光LLを通過させることができるので、窓部56Aの側面563での光LLの乱反射を低減することができる。
ここで、窓部の側面563とは、両主面(面560、561)を除く面であり、かつ、両主面(面560、561)を繋ぐ面のことを言う。面560は、窓部56Aの発光素子3側に位置し、光LLが入射する主面である。一方、面561は、窓部56Aの発光素子3とは反対側に位置し、光LLが出射する主面である。
また、側面563が光束L1の外側に位置していることは、側面563の一部が光束L1の外側に位置している場合を含む。
以上説明したような、図7および図9に示す窓部56Aによっても、発光素子3からの光LLが窓部56Aで反射して発光素子3に戻る戻り光を少なくすることができる。
<第3実施形態>
図10は、本発明の第3実施形態に係る原子発振器が備える発光素子モジュールの発光素子および窓部を示す概略図である。図11は、図10に示す窓部の変形例を示す概略図である。
なお、以下の説明では、第3実施形態に関し、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図10および図11において、前述した実施形態と同様の構成は、同一符号を付している。
図10に示す発光素子モジュール1Bでは、窓部56Bの両主面(面560、561)にコーティング膜565、566が設けられている。なお、窓部56Bは、図9に示す窓部56Aと同様の構成である。コーティング膜565、566は、例えば、反射防止膜(ARコート)で構成されている。これにより、発光素子3からの光LLが窓部56Bで反射することを低減することができる。そのため、窓部56Bを通過する光LLの光量の低下を低減することができるので、原子セル201へ届く光LLの光量を増大させることができる(図2および図3参照)。なお、コーティング膜565、566は、反射防止膜に限らず、他の機能を備える膜で構成されていてもよい。
コーティング膜565は、窓部56Bの面560(入射側の面)のほぼ全域(縁5601を除く部分)に設けられている。同様に、コーティング膜566は、面561(出射側の面)のほぼ全域(縁5611を除く部分)に設けられている。また、コーティング膜565の中心O565およびコーティング膜566の中心O566は、窓部56Bの中心軸A56上に位置している。また、中心O565、O566は、それぞれ、光軸a上に位置しておらず、光軸aに対してずれている。中心軸A56は、窓部56Bの中心O56を通り、窓部56Bの厚さ方向に沿った軸である。
また、コーティング膜565の縁5651は、その全周に亘って、光LLの光束L1の外側に位置している。同様に、コーティング膜566の縁5661は、その全周に亘って、光LLの光束L1の外側に位置している。これにより、コーティング膜565、566に対して光LLをより適切に通過させることができるので、窓部56Bからの発光素子3への反射光等を少なくすることができる。そのため、原子セル201へ届く光LLの光量を増大させることができる。また、反射光が発光素子3や原子セル201に届いて悪影響を及ぼすことを低減することができる。
図11に、本実施形態のコーティング膜565、566を備える窓部56Bの変形例を示す。図11では、コーティング膜565、566は、それぞれ光LLが通過する領域に応じて配置されている。具体的には、コーティング膜565の中心O565は、窓部56Bの中心軸A56に対して図11中右側に位置している。一方、コーティング膜566の中心O566は、窓部56Bの中心軸A56に対して図11中左側に位置している。すなわち、コーティング膜565の中心O565とコーティング膜566の中心O566とは、中心軸A56を挟んで中心軸A56に対して互いに反対方向にずれていている。
以上説明したような、図10および図11に示すコーティング膜565、566が設けられた窓部56Bによっても、発光素子3からの光LLが窓部56Bで反射して発光素子3に戻る戻り光を少なくすることができる。
なお、コーティング膜565、566のいずれか一方は、適宜省略してもよい。ただし、コーティング膜565、566の双方を設けることで、反射光による悪影響を低減する効果をより高めることができる。
<第4実施形態>
図12は、本発明の第4実施形態に係る原子発振器が備える発光素子モジュールの窓部と光学系ユニットとを示す概略図である。
なお、以下の説明では、第4実施形態に関し、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項に関してはその説明を省略する。また、図12において、前述した実施形態と同様の構成は、同一符号を付している。
図12に示すように、原子発振器10Cでは、光学系ユニット30が有する減光フィルター301Cの幾何学的な中心O301は、光軸aと一致しておらず、光軸aに対してずれている。なお、減光フィルター301Cは、第1実施形態における減光フィルター301と同様に、平板状の部材であり、光軸aを法線とする面に対して傾斜している。また、減光フィルター301Cの側面3015(外周面)は、光LLの光束L1の外側に位置している。別の言い方をすると、減光フィルター301Cの窓部56A側の面3011の縁3012と、減光フィルター301Cの窓部56Aとは反対側の面3013の縁3014とは、それぞれ、光LLの光束L1よりも外側に位置している。
ここで、図12に示すように、発光素子3と「光学素子」としての減光フィルター301Cとの間に窓部56Aが設けられている。そして、減光フィルター301Cの窓部56A側の面3011は、光LLの光軸aを法線とする面に対して傾斜しており、減光フィルター301Cの中心O301は、光LLの光軸aに対してずれている。これにより、窓部56Aと同様に、減光フィルター301Cの大きさ(面3011の平面積)を過剰に大きくしなくても、減光フィルター301Cの側面3015を、光LLの光束L1の外側に位置させることができる。そのため、減光フィルター301Cの大型化を低減しつつ、減光フィルター301Cから出る光LLの光量の低下をより効果的に低減することができる。その結果、原子発振器10Cの大型化を低減しつつ、原子セル201に届く光LLの光量を増加させることで光LLを利用した優れた発振特性を発揮することができる。
このように、光LLが放射角を有する範囲内に配置される「光学素子」が光軸aに対して傾斜している場合には、光軸aに対して「光学素子」の幾何学的な中心をずらすことが有効である。そのため、このような範囲内に窓部56Aや減光フィルター301C以外の「光学素子」が光軸aに対して傾斜して配置されている場合にも、その「光学素子」の幾何学的な中心を光軸aに対してずれた位置に配置することが有効である。
また、光LLがレンズ302を通過した後の領域であっても再度光LLが放射角を持った場合(例えば平行光がレンズを通過して放射角を持った場合)には、その放射角を持った光LLを通過させる「光学素子」の幾何学的な中心についても光軸aに対してずれた位置に配置することが好ましい。
以上説明したような、図12に示す減光フィルター301Cを備える原子発振器10Cによっても、大型化を低減しつつ、戻り光が発光素子3に与える影響を低減することができるため、質の高い光LLを利用した特性の高い原子発振器10Cを実現することができる。
2.電子機器
以上説明したような発光素子モジュール1、1A、1Bおよび原子発振器10、10Cは、各種電子機器に組み込むことができる。以下、本発明の電子機器について説明する。
図13は、GPS衛星を利用した測位システムに本発明の原子発振器を用いた場合の概略構成を示す図である。
図13に示す測位システム1100は、GPS衛星1200と、基地局装置1300と、GPS受信装置1400とで構成されている。
GPS衛星1200は、測位情報(GPS信号)を送信する。
基地局装置1300は、例えば電子基準点(GPS連続観測局)に設置されたアンテナ1301を介してGPS衛星1200からの測位情報を高精度に受信する受信装置1302と、この受信装置1302で受信した測位情報をアンテナ1303を介して送信する送信装置1304とを備える。
ここで、受信装置1302は、その基準周波数発振源として前述した本発明の原子発振器10(発光素子モジュール1)を備える電子機器である。また、受信装置1302で受信された測位情報は、リアルタイムで送信装置1304により送信される。
GPS受信装置1400は、GPS衛星1200からの測位情報をアンテナ1401を介して受信する衛星受信部1402と、基地局装置1300からの測位情報をアンテナ1403を介して受信する基地局受信部1404とを備える。
以上のような測位システム1100が備える「電子機器」である受信装置1302は、前述した発光素子モジュール1(または発光素子モジュール1A、1B)を備える。これにより、大型化を低減しつつ、戻り光が発光素子3に与える影響を低減することができる。このため、発光素子3からの光LLを利用した特性の高い受信装置1302を実現することができる。
なお、本発明の発光素子モジュールを備える電子機器は、前述したものに限定されず、例えば、スマートフォン、タブレット端末、時計、携帯電話機、ディジタルスチルカメラ、インクジェット式吐出装置(例えばインクジェットプリンター)、パーソナルコンピューター(モバイル型パーソナルコンピューター、ラップトップ型パーソナルコンピューター)、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシミュレーター、地上デジタル放送、携帯電話基地局等に適用することができる。
3.移動体
図14は、本発明の移動体の一例を示す図である。
この図において、移動体1500は、車体1501と、4つの車輪1502とを有しており、車体1501に設けられた図示しない動力源(エンジン)によって車輪1502を回転させるように構成されている。このような移動体1500には、原子発振器10(発光素子モジュール1)が内蔵されている。
以上のような移動体1500は、前述した発光素子モジュール1(または発光素子モジュール1A、1B)を備える。これにより、大型化を低減しつつ、戻り光が発光素子3に与える影響を低減することができる。このため、発光素子3からの光LLを利用した特性の高い移動体1500を実現することができる。
以上、本発明の発光素子モジュール、原子発振器、電子機器および移動体について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
また、本発明の各部の構成は、前述した実施形態の同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
また、前述した実施形態では、波長の異なる2種類の光による量子干渉効果を利用してセシウム等を共鳴遷移させる原子発振器に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、これに限定されず、光およびマイクロ波による二重共鳴現象を利用してルビジウム等を共鳴遷移させる原子発振器にも適用可能である。
また、前述した実施形態では、本発明の発光素子モジュールを原子発振器に用いた場合を例に説明したが、これに限定されず、発光素子を用いるあらゆるデバイスに用いることができる。例えば、本発明の発光素子モジュールは、磁気センサー、量子メモリー等にも適用可能である。