(車両のドア開閉装置の構成)
図1は、本発明のモータ制御装置で駆動される電動モータを備えるドア開閉装置14の概略を示す平面図である。図1に示すように、車両11の側部には、被駆動体としてのスライドドア12(開閉体)が装着されている。このスライドドア12は、車両11に固定されるガイドレール13に案内され、図中実線で示す全開位置と鎖線で示す全閉位置との間で車両前後方向に移動自在つまり開閉自在となっている。
車両11にはドア開閉装置14が設けられている。ドア開閉装置14は、スライドドア12を自動的に開閉する。このドア開閉装置14は、車両11に固定される駆動ユニット15を有する。駆動ユニット15には、駆動用のケーブル16が設けられている。ケーブル16は、ガイドレール13の両端に配置された反転プーリ17、および反転ブーリ18に掛け渡されて、車両11の前方側と後方側とからスライドドア12に接続されている。スライドドア12は、駆動ユニット15によりケーブル16のいずれか一方側が引かれると、ケーブル16に引かれながら開方向または閉方向に移動する。
図2は、図1に示すドア開閉装置14の制御体系を示す説明図である。図2に示すように、駆動ユニット15には電動モータ21が設けられている。この電動モータ21として、本実施形態においては、3相(U相、V相、およびW相)のブラシレスモータが用いられる。ただし、電動モータ21は、3相のブラシレスモータに限らず、例えば直流モータ等であってもよい。電動モータ21は、モータ制御装置41から、所定の通電パターンに従って、3相の各相へ、それぞれ印加電圧Vu、印加電圧Vv、および印加電圧Vwが供給されると作動する。電動モータ21は、供給される印加電圧の正負に応じて、その回転方向が正転または逆転に切り替えられる。
また、電動モータ21の回転軸21aには、回転子47(永久磁石)が固定される。この回転子47の回転軌道近傍には、回転子47の回転位置を検出する位置センサとしての3つのホールIC(集積回路)48u、ホールIC48v、およびホールIC48wが、回転軸21aを中心として互いに120度の位相差を有する位置に設けられている。これらの3つのホールIC48u、ホールIC48v、およびホールIC48wは、電動モータ21の回転軸21aが回転すると、それぞれ互いに120度位相のずれたパルス信号Su、パルス信号Sv、およびパルス信号Swをモータ制御装置41に対して出力する。
また、電動モータ21の回転軸21aには、駆動ギヤ24が固定される。駆動ギヤ24には大径スパーギヤ25が噛み合わされている。大径スパーギヤ25と一体に回転する小径スパーギヤ26には、出力軸27に固定される従動ギヤ28が噛み合わされている。これにより、電動モータ21の回転は所定の減速比で減速されて出力軸27に伝達される。
出力軸27には外周面に図示しない螺旋状の案内溝が形成された円筒形状のドラム31が固定されている。駆動ユニット15に案内されたケーブル16は、案内溝に沿ってドラム31に複数回巻き付けられている。電動モータ21が作動すると、ドラム31は電動モータ21に駆動されて回転し、これによりケーブル16が作動してスライドドア12は開閉動作する。つまり、電動モータ21により、図2中で反時計回り方向にドラム31を回転させることにより、車両後方側のケーブル16がドラム31に巻き取られて、スライドドア12はケーブル16に引かれながら開方向に移動する。反対に、電動モータ21により、図2中で時計回り方向にドラム31を回転させることにより、車両前方側のケーブル16がドラム31に巻き取られてスライドドア12はケーブル16に引かれながら閉方向に移動する。このように、スライドドア12は、ケーブル16、ドラム31、出力軸27等を介して電動モータ21に接続され、電動モータ21により開閉駆動される。
ドラム31と2つの反転プーリ17、および反転ブーリ18との間には、それぞれテンショナ32が設けられている。テンショナ32は、ドラム31とスライドドア12との間におけるケーブル16の弛みを取ってケーブル張力を一定範囲に維持する。テンショナ32は、それぞれ固定プーリ32aと可動プーリ32bとを有し、可動プーリ32bは固定プーリ32aを軸心としてばね部材32cにより回転方向に付勢されており、ケーブル16は各プーリ32a、32bの間に掛け渡されている。したがって、ケーブル16に緩みが生じると、可動プーリ32bにより付勢されてケーブル16の移動経路が増加し、これによりケーブル16の張力が維持される。
なお、駆動ユニット15は電動モータ21と出力軸27との間にクラッチ機構が設けられないクラッチレス式となっている。つまり、電動モータ21から出力軸27、つまりスライドドア12へは、常に動力伝達可能な状態とされている。このため、後述するように電動モータ21により回生ブレーキ力を発生させる際に、電動モータ21の固定子(ステータ)と、ドラム31に接続された回転子47(マグネットロータ)との間にはエアギャップがあり機械的には直接接していないため、電動モータ21に回生ブレーキ力を発生させる際に生じる振動は、クラッチ機構の断続制御により生じる振動(衝撃)よりも少ない。
上記駆動ユニット15内の電動モータ21は、モータ制御装置41により駆動される。このモータ制御装置41は、スライドドア12を予め設定された目標速度で開閉移動させるように電動モータ21の作動を制御する。また、モータ制御装置41は、電動モータ21の入力端子22u、22v、および22wを短絡させ、回生制御によって回生ブレーキ力を発生させたり、1相通電制御によって回生ブレーキ力より制動力が強い制動力を発生させたりする。回生制御と1相通電制御については後述する。
(モータ制御装置の構成)
図3は、図2に示すモータ制御装置41、および電動モータ21の詳細を示す回路図である。電動モータ21は、3相DC(直流)ブラシレスモータである。電動モータ21は、インナーロータ型で、一対のN極およびS極を含む永久磁石(マグネット)を埋め込んで構成された回転子47(マグネットロータ)を含む。また、電動モータ21は、スター結線されたU相、V相およびW相の固定子巻線21u、21v、および21wを含む。また、回転子47あるいは回転子47の回転軸21aに設けられた位置センサ用の多極着磁磁石に近接して、120度毎に、回転位置検出素子(ホールIC48u、ホールIC48v、およびホールIC48w)が配置される。これらホールICは、回転子47の回転位置を検出する。
電動モータ21を制御するためのモータ制御装置41は、駆動回路部42、直流電源44、および制御系回路部50を含んで構成される。
駆動回路部42は、3相ブリッジ形式に接続された6個のスイッチング素子としてのnチャネルMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)42a〜42f(以下、トランジスタ42a〜42fという)を含む。このトランジスタ42a〜42fは、各ドレイン−ソース間に逆並列に接続された寄生ダイオード43a〜43fとを含んでいる。ブリッジ接続された6個のトランジスタ42a〜42fの各ゲートは制御系回路部50に接続される。
また、6個のトランジスタ42a〜42fのドレインまたはソースは、電動モータ21の入力端子22u、22v、および22wを介して、スター結線された固定子巻線21u、21v、および21wに接続される。6個のトランジスタ42a〜42fのうち3個の上段トランジスタ42a〜42cは各ドレインが直流電源44の正極端子に接続されるとともに、各ソースが電動モータ21の入力端子22u、22v、および22wに接続されている。また、3個の下段トランジスタ42d〜42fは各ドレインが電動モータ21の入力端子22u、22v、および22wに接続されるとともに、各ソースが直流電源44の接地電位に接続されている。これによって、6個のトランジスタ42a〜42fは、制御系回路部50から入力される駆動信号(ゲート信号)G1〜G6によってスイッチング動作を行い、駆動回路部42に印加される直流電源44の電源電圧を、3相(U相、V相、W相)の印加電圧Vu、Vv、Vwとして、固定子巻線U、V、Wへ供給する。なお、駆動信号(ゲート信号)G1は、ハイ信号(H信号)の場合に、対応するトランジスタ42aがオン(ON)になり、ロー信号(L信号)の場合に、対応するトランジスタ42aがオフ(OFF)になる。駆動信号(ゲート信号)G2〜G6についても同様である。
制御系回路部50は、電動モータ21への印加電圧Vu、Vv、Vw(より正確には電圧と周波数)を可変制御するために、駆動回路部42のトランジスタ42a〜42fの各ゲートを駆動する駆動信号G1〜G6をパルス幅変調信号(PWM信号)として形成する。制御系回路部50は、トランジスタ42a〜42fを高速スイッチングすることにより、直流電源44から各固定子巻線21u、21v、および21wへ供給する印加電圧を制御する。
制御系回路部50は、ドライバ回路51、ドア開閉情報生成部52、および制御部53を含んで構成される。
制御部53は、回転制御部54と、制動制御部55とを有している。制御部53は、例えばマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)であり、CPU(中央処理装置)、記憶装置、周辺装置等を含み、記憶装置に記憶されているプログラムを実行することで動作する。
回転制御部54は、ドア開閉情報生成部52から入力されるパルス信号Su、パルス信号Sv、およびパルス信号Sw、速度信号V、位置信号P、および方向信号Dに基づいて、ドライバ回路51に対して、電動モータ21を正転駆動または逆転駆動するためのPWM指令信号(正転回転指令または逆転回転指令)を出力する。ドライバ回路51は、入力されるPWM指令信号に基づいて、トランジスタ42a〜42fを所定の通電パターンでスイッチングするための駆動信号G1〜G6を生成し、駆動回路部42へ出力する。これによって、駆動回路部42(駆動回路)は、固定子巻線21u、21v、および21wを所定の通電パターンで通電する供給電圧Vu、Vv、Vwを各固定子巻線に印加し、回転子47を、回転制御部54が指示する回転方向に回転させる。
制動制御部55は、ドア開閉情報生成部52から入力されるパルス信号Su、パルス信号Sv、およびパルス信号Sw、速度信号V、位置信号P、方向信号D等に基づいて、ドライバ回路51に対して、電動モータ21に制動力を発生させるためのPWM指令信号を生成して出力する。
より具体的には、制御部53には、開閉スイッチ45が接続される。操作者が開閉スイッチ45を操作し、制御部53にドアの開閉開始を指令する信号が入力されると、回転制御部54は、ドア開閉情報生成部52から入力される速度信号V、位置信号P、および方向信号Dに応じてPWM指令信号を生成し、ドライバ回路51に対して出力する。ここで、PWM指令信号は、所定の制御周期にて各駆動信号G1〜G6のオンもしくはオフ、または所定のデューティ比でオンおよびオフする信号である。ここで、デューティ比は、PWM制御の1周期に対するオン時間の比率であり、オン時間を(オン時間+オフ時間)で除した値である。
一方、スライドドア12の自動開閉中に操作者が開閉スイッチ45を操作してスライドドア12の停止を指示すると、開閉スイッチ45は途中停止信号を出力する。なお、途中停止信号は、開閉スイッチ45の操作に応じて発生されるものに限らず、例えば、所定のセンサの検出結果に基づき自動的に発生されるものであってもよい。制御部53は、開閉スイッチ45から途中停止信号が入力された場合、制動制御部55の制動制御によって電動モータ21に制動力を発生させることでスライドドア12を途中停止させ、また停止状態を保持する。制動制御部55は、電動モータ21に制動力を発生させるためのPWM指令信号を生成し、ドライバ回路51に対して出力する。制動制御部55がPWM指令信号を生成してドライバ回路51に対して出力する期間、回転制御部54はPWM指令信号をドライバ回路51に対して出力しない。
なお、ドア開閉情報生成部52は、制御部53がPWM指令信号の生成に用いる速度信号V、位置信号P、および方向信号Dを、ホールIC48u、48v、48wがそれぞれ出力するパルス信号Su、Sv、およびSwから生成する。ドア開閉情報生成部52は、ホールIC48u、48v、48wがそれぞれ出力するパルス信号Su、Sv、およびSwが入力されると、パルス信号の発生間隔に基づいて電動モータ21の回転速度、つまりスライドドア12の移動速度Vを算出する。また、ドア開閉情報生成部52は、パルス信号Su、Sv、およびSwの出現タイミング(出現する順番)に基づいて電動モータ21の回転方向、つまりスライドドア12の移動方向を検出し、方向信号Dを出力する。
また、ドア開閉情報生成部52は、スライドドア12が基準位置(例えば全閉位置)となったときを起点としてパルス信号の切替りをカウント(積算)することによりスライドドア12の位置を検出し、位置信号Pを出力する。なお、スライドドア12の基準位置は、例えば、全閉検出スイッチ46により検出される。この全閉検出スイッチ46は、スライドドア12のドア位置が「全閉位置」にあることを検出するためのスイッチであり、例えば、ドア位置が「全閉位置」でオンになるリミットスイッチである。
回転制御部54は、スライドドア12を開閉する電動モータ21を駆動制御する際に、スライドドア12の開閉中にスライドドア12の移動速度が予め設定された目標速度に追従するように、デューティ比の指令値を決定し、決定した指令値に基づいて電動モータ21の通電制御を実行することで、スライドドア12の移動速度を制御する。回転制御部54によるデューティ比の指令値の算出は次のように実行される。すなわち、回転制御部54は、スライドドア12の移動速度(速度信号Vの速度)と、予め実験或いは設計において設定されて所定の記憶部に格納された目標速度Vcとに基づいた比例制御と積分制御とによりデューティ比の指令値を算出する。回転制御部54は、駆動信号G1〜G6のデューティ比の指令値xを、スライドドア12の移動速度Vと目標速度Vcとに基づいたPI(比例積分)演算、x=kp(V−Vc)+kiΣ(V−Vc)で算出する。ここで、kpは比例ゲイン、kiは積分ゲインを示す。このPI制御によれば、スライドドア12の移動速度Vと目標速度Vcの偏差の累積により、移動速度Vと目標速度Vcの差が0となっても指令値xは0とならないので、安定した速度制御が可能となる。また、特に制限を設けない場合、デューティ比の指令値xは、0%以下(すなわち負の値)となったり、100%以上となったりする。ただし、以下では、デューティ比の指令値xが上限100%で制限されているとして説明を行う。なお、デューティ比の指令値xが0%以下となるのは、例えば、スライドドア12の移動速度が目標速度を上回った状態で一定時間経過したような場合である。回転制御部54は、方向信号Dが示す回転方向に基づき、同方向に対応したPWM指令信号をドライバ回路51に対して出力する。なお、所定の記憶部は、目標速度Vcを、位置信号Pが示すスライドドア12の位置、および方向信号Dが示すスライドドア12の移動方向に関連付けて記憶している。
次に、図4〜図8を参照して、制動制御部55の動作例について説明する。図4は、制御部53の動作例を示すフローチャートである。図5は、本実施形態における出力デューティと制動制御との対応関係を示すタイミングチャートである。図6〜図8は、本実施形態の動作例を示す図である。本実施形態の制動制御部55は、開閉スイッチ45から途中停止信号が入力された場合、図5に示すように、制動力が異なるショートブレーキ制御(回生制動制御)と1相通電制御を用いてスライドドア12の停止および停止後のドア位置の保持を行う。また、制動制御部55は、1相通電制御においてデューティ比を2段階に切り替えてPWM制御を行う。本実施形態において制動制御部55は、スライドドア12の作動停止時の制御を次の3段階で実施する。すなわち、(1)制動力の弱いショートブレーキ制御(PWM制御)(第3制動制御)を実施し、ドアを規定量駄走(無駄走行)させた後、(2)制動力の強い(制動力の一番大きい)1相通電制御(第1制動制御)にてスライドドア12を確実に停止させ、(3)その後、やや強い制動の1相通電制御(第2制動制御)を実施して停止状態を保持する。
なお、各段階の制動力は、(2)の制動力(=第1制動制御の制動力)>(3)の制動力(=第2制動制御の制動力)>(1)の制動力(=第3制動制御の制動力)となるように設定する。また、(1)の期間は図5に示す期間Aに対応し、(2)の期間は図5に示す期間Bに対応し、(3)の期間は図5に示す期間Cに対応する。
次に、図6〜図8を参照して、図5に示す出力デューティと制動制御との対応関係について詳細に説明する。
まず、図5に示す「オート作動」では、回転制御部54によって例えば図6に示す通電パターンでPWM制御による駆動出力(電動モータ21を作動させる出力)が行われる。オート作動は、自動でスライドドアが開閉される動作である。図6は、パルス信号Su、Sv、およびSwと駆動信号G1〜G6の電動モータ21の回転子47の回転位置(電気角)に対する変化の一例を示す図である。図5に示す「オート作動」時は、図6に示すように、パルス信号Su、Sv、およびSwが変化するタイミングに応じて、上段トランジスタ42a〜42c(駆動信号G1〜G3)がオン(H)またはオフ(L)に制御されるとともに、下段トランジスタ42d〜42f(駆動信号G4〜G6)がPWM制御によってオン(H)またはオフ(L)される。図6は、パルス信号Su、Sv、およびSwと駆動信号G1〜G6の変化を示す図である。横軸は回転子47の回転位置を電気角で表す。この例では、電気角60°毎に通電パターンが変化している。この場合、デューティ比Du0は、駆動信号G4〜G6がHの時間をTon、Lの時間をToffとすると、Ton/(Ton+Toff)で表される。オート作動では、デューティ比Du0が大きいほど強い駆動出力となる。回転制御部54は、スライドドア12の開閉速度が所定の値となるようにデューティ比Du0を制御する。
次に、図5に示す「ショートブレーキ制御」では、制動制御部55によって図7に示す通電パターンでデューティ比Du1でPWM制御(あるいはDu1=100%の常時オンの制御)が行われる。「ショートブレーキ制御」では、電動モータ21の入力端子22u、22vおよび22wを短絡させることで回生ブレーキ力が発生する。制動制御部55は、下段(または上段)のトランジスタをすべて同時にオンさせ、かつデューティ比Du1でPWM制御することで電動モータ21に制動力を発生させる。この制動制御では、例えば図7に示すように、常時、上段トランジスタ42a〜42c(駆動信号G1〜G3)がすべてオフ(L)されるとともに、下段トランジスタ42d〜42f(駆動信号G4〜G6)がPWM制御によってオン(H)またはオフ(L)される。この場合、下段トランジスタ42d〜42fのPWM制御によるオン(H)またはオフ(L)は、連続的に同相で実行される。図7は、図6と同様、パルス信号Su、Sv、およびSwと駆動信号G1〜G6の変化を示す図である。横軸は回転子47の回転位置を電気角で表す。ショートブレーキ制御では、電気角60°毎に通電パターンは同一であるが、異なっていてもよい。この場合、電動モータ21は直流電源44と接続されていないため、電動モータ21に対して直流電源44から電流は流れない。この場合、デューティ比Du1は、駆動信号G4〜G6がHの時間をTon、Lの時間をToffとすると、Ton/(Ton+Toff)で表される。このショートブレーキ制御では、図7に示すPWM制御のデューティ比Du1が大きいほど強い制動力となる。
次に、図5に示す「1相通電制御」では、制動制御部55によって図8に示すような通電パターンでデューティ比Du2またはDu3でPWM制御(あるいはDu2=100%の常時オンの制御)が行われる。ただし、図8は、「ショートブレーキ制御」から「1相通電制御」への制動制御の切り替え時の通電パターンの変化を示している。図8に示すように、「1相通電制御」では、制動制御部55が、「ショートブレーキ制御」から「1相通電制御」へ制動制御を切り替えたときのパルス信号Su、Sv、およびSwのパターンに対応する駆動出力(図6)の通電パターンを、パルス信号Su、Sv、およびSwのパターンの切り替わりに関わらず維持することにより行われる。1相通電制御では、例えば、制動制御部55が、上段の1つのトランジスタをオンさせるとともに下段の1つのトランジスタをデューティ比Du2(あるいはDu3)でPWM制御することで電動モータ21に制動力を発生させる。図8に示す例では、上段トランジスタ42a(駆動信号G1)がオン(H)されるとともに上段トランジスタ42bおよび42c(駆動信号G2およびG3)がオフ(L)されている。一方、下段トランジスタ42f(駆動信号G6)がPWM制御によってオン(H)またはオフ(L)されるとともに下段トランジスタ42dおよび42e(駆動信号G4およびG5)がオフ(L)されている。なお、図8は、図6および図7と同様、パルス信号Su、Sv、およびSwと駆動信号G1〜G6の変化を示す図である。横軸は回転子47の回転位置を電気角で表す。この場合、電気角60°毎に通電パターンは同一であるが、異なっていてもよい。1相通電制御では、電動モータ21は直流電源44および接地点と接続されているため、電動モータ21に対して直流電源44からの電流が流れる。なお、デューティ比Du2(あるいはDu3)は、駆動信号G4〜G6がHの時間をTon、Lの時間をToffとすると、Ton/(Ton+Toff)で表される。1相通電制御では、図5に示すPWM制御のデューティ比Du2やDu3が大きいほど強い制動力となる。また、デューティ比Du2およびDu3が大きいほど直流電源44からの消費電力が大きくなる。図5に示す例では、Du2>Du3なので、デューティ比Du2の期間Bの消費電力の方が、デューティ比Du3の期間Cの消費電力より大きい。期間B経過後、デューティ比をDu2からDu3へ低下させることで、停止させたスライドドア12を停止状態で保持する電力を省電力化することができる。
次に、図4と図5を参照して、制動制御部55の動作例について説明する。なお、図5に示す例では、「1相通電制御」による制動力が「ショートブレーキ制御」における制動力より大きくなるように設定されているものとする。この場合において、例えば、Du1>Du2であってもよい。ただし、1相通電制御内では常にDu2>Du3である。また、図5においてデューティ比Du2は、スライドドア12を停止させるのに十分な制動力を有するように設定されているものとする。
図4は、スライドドア12の開閉中に途中停止信号が入力された場合に、制御部53が実行する処理を示すフローチャートである。操作者が開閉スイッチ45を操作し、スライドドア12の開閉中に途中停止信号が開閉スイッチ45から制御部53へ入力されると、制御部53は、図5に示すように、回転制御部54によるオート作動を停止し(ステップS1)、制動制御部55によるショートブレーキ制御を開始する(ステップS2)。
次に、制動制御部55は、スライドドア12の途中停止信号発生後からの駄走が規定距離以上であるか否かを判定する(ステップS3)。駄走が規定距離以上でない場合(ステップS3でNOの場合)、制動制御部55は、ショートブレーキ制御が規定時間経過したか否かを判定する(ステップS4)。ショートブレーキ制御が規定時間経過していない場合(ステップS4でNOの場合)、制動制御部55は、再度、スライドドア12の途中停止信号発生後からの駄走が規定距離以上であるか否かを判定する(ステップS3)。なお、駄走が規定距離以上であるか否かの判定(ステップS3)とショートブレーキ制御が規定時間経過したか否かの判定(ステップS4)は、途中停止信号の入力時からスライドドア12が停止するまでの時間(期間Aの長さ;第3制動制御の継続時間)と駄走距離を、所定の範囲内に制限するために設けた処理である。このように本実施形態では途中停止の際にスライドドアを駄走させることで停止時のフィーリングを良くすることができる。ただし、その際、本実施形態では、駄走し過ぎない様、駄走量を監視して制御している。
一方、駄走が規定距離以上である場合(ステップS3でYESの場合)、またはショートブレーキ制御が規定時間経過した場合(ステップS4でYESの場合)、制動制御部55は、1回目の1相通電制御(デューティ比Du2)を開始する(ステップS5)。次に、制動制御部55は、スライドドア12が停止しているか否を判定する(ステップS6)。ステップS6において制動制御部55は、規定時間スライドドア12の移動が無いことを確認することで、スライドドア12が停止しているか否かを判定することができる。スライドドア12が停止していない場合(ステップS6でNOの場合)、制動制御部55は、1回目の1相通電制御を開始してから規定時間経過したか否かを判定する(ステップS7)。この規定時間は、図5に示す期間Bとして予め設定された時間である。規定時間が経過していない場合(ステップS7でNOの場合)、制動制御部55は、ステップS6の判定を行う。制動制御部55は、スライドドア12が停止するかまたは規定時間が経過するまでステップS6とステップS7の判定処理を繰り返し実行し、スライドドア12が停止するか(ステップS6でYESの場合)または1回目の1相通電制御を開始してから規定時間が経過した場合(ステップS7でYESの場合)、2回目の1相通電制御(デューティ比Du3)を開始する(ステップS8)。制動制御部55は、ステップS8で開始した2回目の1相通電制御を、例えば開閉スイッチ45が開または閉を示す信号を出力するよう操作された場合、所定の時間経過した場合等に終了する。以上の動作例では、1回目の1相通電制御によってスライドドア12が停止した場合に直ちに2回目の1相通電制御を開始することができる。したがって、1回目の1相通電制御の継続時間を短縮し、消費電量を抑えることができる。また、スライドドア12が停止していないにも関わらず、制動力の低い2回目の1相通電制御に移行してしまうことを防止することができる。ただし、直流電源44からの消費電量を一定程度に制限するため、ステップS7の判定処理による時間制限を設けている。
以上のように、本実施形態によれば、スライドドア12の開閉中に途中停止(全開または全閉に至る前に停止させること)が指示された場合、ショートブレーキ制御にてスライドドア12を減速させ、その後1相通電制御に切り替えてスライドドア12を途中停止させるので、スライドドア12の途中停止時のフィーリングを向上させることができる。
すなわち、例えば、ショートブレーキ制御を経ること無く制動力の強い1相通電制御により急激に作動停止させた場合、モータ制御装置に搭載されているテンショナの反動などによりスライドドアが大きくリバウンドし、停止フィーリングが悪いというケースが生じるおそれがあった。また、ドア作動停止時のフィーリング改善のため1相通電制御に比べ制動力の弱いショートブレーキ制御を規定時間実施するということも考えられるが、制動力が弱く、作動停止時のスライドドアの制動力が弱く作動停止時のドアの駄走量が多くなってしまうというおそれもあった。これに対し、本実施形態によれば、(1)制動力の弱いショートブレーキ制御を実施し、ドアを規定量駄走させた後、(2)制動力の強い1相通電制御にてスライドドア12を確実に停止させ、(3)その後、やや強い制動の1相通電制御を実施するので、スライドドア12の途中停止時のフィーリングを向上させることができる。すなわち、本実施形態によれば、オート作動停止制御時、ショートブレーキ制御によりスライドドアを駄走させることでケーブルテンショナによる反動を抑えることが可能になり、スライドドアのリバウンド量が減少し、ドア停止時のフィーリングが向上する。また、ショートブレーキ制御時にドアの駄走量を監視しているので、駄走量をフィーリングの良い適正量に規制することで、無駄な駄走をなくすことができる。また、1相通電時にもドアの駄走量を監視しているため、ドアが停止しているかを確認することが可能になり、ドア停止後にすぐに2回目の1相通電制御に切り替えることが可能になる。よって電力の消費を限りなく抑えることが可能になる。
以上、本発明の実施形態およびその変形例について説明したが、本発明のモータ制御装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。