本発明の一実施形態においては、運転者が要求する制動力を複数種類の入力に基づいて演算するブレーキ制御装置が提供される。入力の種類や測定方法、あるいは装置の動作中の動的な状況などに応じて、ある入力のほうが他の入力よりも信頼性が高いと見込まれることがある。よって、ブレーキ制御装置は、相対的に信頼性が高いと見込まれる入力値に基づいて、他の入力値、または当該他の入力値に基づいて演算された値に対してガードをかける処理を行う。ガード処理として例えば、上限または下限を設定する処理をする。
このガード処理により、ブレーキ制御装置が最終的に出力する指令値に対し、信頼性が相対的に低いと見込まれる入力値が与える影響を緩和することができる。例えばある入力値が、運転者のブレーキ操作状況とは無関係に突発的に増加したとしても、別の入力値を参照して制限を課すことにより、目標減速度の急増を抑制することができる。
一実施形態においては、ブレーキ制御装置は、複数種類の入力をそれぞれ個別のセンサにより測定してもよい。ブレーキ制御装置は、運転者のブレーキ操作量に応じて変動する第1の測定対象を測定する第1センサと、第1の測定対象とは異なる第2の測定対象を測定する第2センサとを備えてもよい。
ブレーキ制御装置は、第1センサ及び第2センサの出力に基づいて目標制動力を演算する制御部を備えてもよい。制御部は、第1センサの出力に基づいて第1目標減速度を演算し、第2センサの出力に基づいて第2目標減速度を演算し、第1目標減速度及び第2目標減速度に基づいて最終的に出力する目標減速度を演算してもよい。
制御部は、第1及び第2センサのうち信頼性が高いと見込まれるほうのセンサ出力を用いて、ガード処理として、他方のセンサの出力、他方のセンサの出力に基づき演算された値、または最終的に出力する目標減速度を制限する処理をしてもよい。制御部は、他方のセンサに基づく目標減速度にガード処理をしてもよい。この場合、制御部は、複数の入力値に対して相互にガード処理をしてもよい。つまり例えば、制御部は、第1及び第2センサのうちいずれが信頼性が高いかを判定し、信頼性が高いと判定されたほうのセンサ出力を用いてガード処理をしてもよい。
また、制御部は、状況に応じてガードの強さを強化してもよいし、緩和してもよい。例えば、ガード処理の基準となる入力の信頼性が保証されていない場合、またはその入力の信頼性が低いと見込まれる場合には、制御部はガード処理を緩和または中止してもよい。制御部は例えば、第1及び第2センサのうち通常は信頼性が高いと想定されるセンサに異常が発生した場合、あるいはゼロ点調整がなされていない場合には、ガード処理を中止してもよい。
あるいは、制御部は、運転者の加速操作が検出されているときはガードを強化してもよい。このために、制御部は、アクセルペダルのオンオフ信号を受信可能に構成されていてもよい。加速操作は通常ブレーキ操作と同時には行われないから、ブレーキ操作を示す入力が加速操作中に得られた場合にはその入力は不正である可能性が高い。よって、加速操作中はガードを強化することにより、不正な入力の影響を十分に抑制することができる。また制御部は、運転者の加速操作が検出されていないとき、または運転者のブレーキ操作が予想されるときはガードを緩和してもよい。
一実施形態においては、第1センサは、車両電源に共通電源線で接続されている複数の第1センサであり、第2センサは、共通電源線から独立した電源線に接続されている第2センサであってもよい。共通電源線は車両電源から制御部を介して第1センサに接続されていてもよい。車両電源または制御部において電源電圧がモニタされていてもよい。第1センサは非接触式のセンサであってもよく、例えば磁場変化を電気信号に変換して出力する非接触式のセンサであってもよい。共通電源線で接続されているとは、給電経路上で生じた電圧降下により第1センサの複数出力系統のそれぞれへの入力電圧に影響が生じるよう電源と第1センサとが接続されているということである。例えば、コネクタ部における接触不良に起因する電圧降下によって複数の第1センサそれぞれへの入力電圧が低下し得る。この場合、電源のモニタ電圧の変動はほとんどないか、センサへの入力電圧の変動よりも小さい。
制御部は、第2センサの出力に基づいて、第1センサの出力、または第1センサの出力に基づき演算された値を制限する補正をしてもよい。第1センサは、共通の給電経路上に複数設けられているため、入力電圧の変動の影響を共通に受けうる。そうすると、これら複数の入力値に基づいて得られる最終的な出力値への影響も比較的大きくなりうる。これに対して、第2センサは第1センサとは独立した給電経路に設けられている。このため、第2センサは、第1センサと同時に同様の入力電圧変動を受けている可能性は低く、その時点においては第1センサよりも信頼性が高いと考えられる。よって、第2センサの出力に基づいてガード処理をすることにより、相対的に不正確な第1センサ出力のブレーキフィーリングへの影響を抑制することができる。また、すべてのセンサにそれぞれ独立した給電経路を設けるのに比べて、低コストでブレーキフィーリングへの影響を抑制することができる。
また、一実施形態においては、制御部は、相対的に信頼性が高いと見込まれる入力値が所定値以下の場合にガード処理をするようにしてもよい。例えば第2センサの出力が所定値以下の場合に補正をしてもよい。例えば、制御部は、運転者のブレーキ操作の初期段階において、相対的に信頼性が低い入力値またはその入力値に基づいて演算した値に上限値を設定してもよい。この上限値は、ブレーキ操作初期段階において相対的に遅れて立ち上がる入力値に基づいて設定されてもよい。
制御部は、予め設定されている突発ブレーキ抑制範囲においては第2センサの出力が小さいほど第1目標減速度の上限値を小さく設定するようにしてもよい。このようにすれば、より正確である第2センサ出力が小さいほどきつく、そして大きいほど緩く第1目標減速度にガードをかけることができるので、より自然なブレーキフィーリングを生むことができる。制御部は、突発ブレーキ抑制範囲においてはガード処理を行い、範囲外ではガード処理をしないようにしてもよい。
また、突発ブレーキ抑制範囲は、第2センサの出力が実質的にゼロとなる運転者のブレーキ操作範囲を含むよう設定されてもよい。突発ブレーキ抑制範囲は、運転者のブレーキ操作量の増加につれて第2センサ出力が実質的に立ち上がり始めるブレーキ操作量より小さいブレーキ操作範囲に設定されてもよい。このようにすれば、運転者のブレーキ踏込当初における突発ブレーキの発生を効果的に抑えることができる。
一実施形態においては、第1センサはブレーキペダルのストロークを測定するストロークセンサであってもよい。第2センサは、運転者のブレーキ操作に連動するブレーキペダルのストローク以外の測定対象を測定するセンサであってもよい。第2センサは例えば、マスタシリンダの作動液圧を測定するためのマスタシリンダ圧センサであってもよいし、ブレーキペダル踏力センサまたはストップランプスイッチであってもよい。なお、「センサ」という用語はいわゆるセンサだけではなくブレーキ操作に応じて変化する信号を制御部に与える手段を含んでもよい。
ストロークセンサは、第1ストロークセンサと第2ストロークセンサとを含む複数のストロークセンサであってもよい。ストロークセンサは、通常時にはブレーキペダルストロークに応じて電圧値を出力する通常モードをとり、入力電圧が所定値よりも低い場合には通常モードとは異なる出力をする低電圧モードをとるようにしてもよい。このようにすれば、ストロークセンサが低電圧状態にあることを検出することができる。通常モードでは例えば、第1ストロークセンサ及び第2ストロークセンサの出力電圧は合計電圧を一定とするよう相補的に変動してもよい。一方、低電圧モードでは、第1ストロークセンサ及び第2ストロークセンサの出力電圧はともに入力電圧に連動して増減してもよい。例えば、低電圧モードでは第1及び第2ストロークセンサはともに入力電圧をそのまま出力してもよい。
制動中または非制動時において突発的に入力電圧が低下して低電圧モードに切り替わる場合がありうる。そうして突発的に生じたストロークセンサの出力電圧は、制御部において見かけ上突発的に生じたストローク信号となりうる。特に、第1及び第2のストロークセンサの出力値の組合せが通常時に取り得る範囲と、低電圧時に取り得る範囲とが重複部分を有する場合には、その見かけ上のストローク入力信号が制御部において正常な信号として処理されうる。そうすると、運転者の要求を超える減速度が生じブレーキフィーリングに影響を与えるおそれがある。あるいは運転者が制動操作をしていないのに制動力が発生するおそれもある。
ところが、本発明の一実施形態においては、低電圧モードをとるストロークセンサの出力に対してガード処理がなされる。よって、第1及び第2のストロークセンサの出力値の組合せが通常時に取り得る範囲と、低電圧時に取り得る範囲とが重複部分を有することを許容することができる。通常モードの合計電圧に、低電圧モードにおける第1及び第2ストロークセンサの出力電圧の合計が一致する出力電圧の組合せが存在してもよい。センサの種類や特性及び電気的接続などのハードウェア上の要因によるブレーキフィーリングへの影響を、制御処理によって緩和することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置10を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステムを構成しており、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12への操作に応じて車両の4輪のブレーキを独立かつ最適に設定するものである。また、本実施形態に係るブレーキ制御装置10が搭載された車両は、4つの車輪のうちの操舵輪を操舵する図示されない操舵装置や、これら4つの車輪のうちの駆動輪を駆動する図示されない内燃機関やモータ等の走行駆動源等を備えるものである。
本実施形態に係るブレーキ制御装置10は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置10による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
制動力付与機構としてのディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ20FR〜20RLを含む。そして、各ホイールシリンダ20FR〜20RLは、それぞれ異なる流体通路を介してブレーキアクチュエータ80に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」という。
ブレーキ制御装置10においては後述の右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等を含んでブレーキアクチュエータ80が構成されている。ホイールシリンダ20にブレーキアクチュエータ80からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。
なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ20を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。あるいは、流体力により摩擦部材の押圧力を制御するのではなく、例えば電動モータ等の電動の駆動機構を用いて摩擦部材の車輪への押圧力を制御する制動力付与機構を用いることもできる。
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動液としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。ストロークセンサ46は2系統のセンサすなわち出力系統が並列に設けられている。ストロークセンサ46のこれら2つの出力系統は、踏み込みストロークをそれぞれ独立かつ並列的に計測して出力する。複数の出力系統を備えることにより、いずれかの出力系統が故障したとしても踏み込みストロークを測定することができるのでフェイルセーフ性を高める上で有効である。また複数の出力系統からの出力を加味して(例えば平均して)ストロークセンサ46の出力とすることにより、一般に信頼性の高い出力を得ることができる。
ストロークセンサ46としては例えば、踏み込みストロークの変動による磁場変化を電気信号に変換して検出するホール素子を搭載する非接触形式のセンサを用いてもよい。この種のセンサは非接触センサとしてはコスト及び信頼性に比較的優れているという点で好ましい。各出力系統においては検出素子の検出値を増幅器で増幅して計測値として出力する。ホール素子を検出素子とする場合には、検出された電圧値が増幅器により増幅され計測値として出力される。各出力系統から並列的に出力された計測値は、例えばECU200にそれぞれ入力され、ECU200は入力された計測値を利用してストローク量を演算する。演算されたストローク量は例えば目標減速度の演算に用いられる。なおストロークセンサ46は、3つ以上の出力系統を並列に備えていてもよい。
マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、運転者によるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、非通電時に閉状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に開状態に切り換えられる常閉型の電磁開閉弁である。なお、シミュレータカット弁23を設置することは必須ではなく、ストロークシミュレータ24がシミュレータカット弁23を介することなくマスタシリンダ14に直接接続されていてもよい。
マスタシリンダ14の一方の出力ポートにはさらに右前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されており、ブレーキ油圧制御管16は、図示されない右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、左前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、図示されない左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。
右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右マスタカット弁27FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、左マスタカット弁27FLが設けられている。なお、以下では適宜、右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FLを総称して、マスタカット弁27という。
マスタカット弁27は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁27は、マスタシリンダ14と前輪側のホイールシリンダ20FR及び20FLとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁27が閉弁されるとブレーキフルードの流通は遮断される。
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では適宜、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLを総称して、マスタシリンダ圧センサ48という。
また、マスタシリンダ14には、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、ブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。なお、モータ32、オイルポンプ34、及びアキュムレータ50は、ブレーキアクチュエータ80とは別体のパワーサプライユニットとして構成されてブレーキアクチュエータ80の外部に設けられていてもよい。
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧されたブレーキフルードを蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキフルードは油圧給排管28へと戻される。更に、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、リニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。増圧弁40は、上流側のアキュムレータ圧と下流側のホイールシリンダ圧との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。増圧弁40は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。増圧弁40を通じて上流圧すなわちアキュムレータ圧が供給されホイールシリンダ20は増圧される。
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ前輪側の減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。減圧弁42FRおよび42FLは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされ、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。減圧弁42FRおよび42FLは、上流側のホイールシリンダ圧と下流側のリザーバ圧(大気圧)との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。
一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。後輪側の減圧弁42RRまたは42RLは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされ、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。また、電流の大きさがホイールシリンダ圧に応じて定まる所定の電流値を超えた場合には閉弁される。減圧弁42RRおよび42RLは、上流側のホイールシリンダ圧と下流側のリザーバ圧(大気圧)との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
また、右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
ブレーキアクチュエータ80は、本実施形態における制御部としての電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。ブレーキECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備えるものである。
図2は、本発明の一実施形態におけるガード処理に係る制御システムの構成を模式的に示す図である。この制御システムは、制御部としてのブレーキECU200と、車両に設けられている各種センサを含む検出系と、を含んで構成される。ブレーキECU200は、検出系の検出結果に基づいてブレーキアクチュエータ80を制御する。
検出系は例えば、運転者のブレーキ操作に応じて変化する信号をブレーキECU200に与える制動操作検出手段と、運転者の加速操作の有無を検出する加速操作検出手段と、を含む。具体的には、図2に示されるように、ストロークセンサ46の2つの出力系統である第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46B、ブレーキペダル踏力センサ47、ストップランプスイッチ55、及びアクセルペダルストロークセンサ56が検出結果をブレーキECU200に送信可能に接続されている。各センサは周期的に(例えばブレーキECU200の演算周期で)検出結果をブレーキECU200に送信する。
ストロークセンサ46及びブレーキペダル踏力センサ47はそれぞれ、運転者によるブレーキペダル12のストローク及び踏力を検出する。ストップランプスイッチ55は、ストップランプのオン信号またはオフ信号をブレーキECU200に送信する。アクセルペダルストロークセンサ56は、アクセルペダルのストロークを検出する。なお、アクセルペダルストロークセンサ56は、ブレーキECU200に直接接続されるのではなく、別のECUを介してブレーキECU200に信号を送信するように接続されていてもよい。
上述のように構成されたブレーキ制御装置10は、例えばブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置10は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル12を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてECU200はブレーキペダル12の踏み込みストロークとマスタシリンダ圧とから目標減速度すなわち要求制動力を演算する。ECU200は、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置10により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、上位のハイブリッドECU(図示せず)からブレーキ制御装置10に供給される。そして、ECU200は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ20FR〜20RLの目標液圧を算出する。ECU200は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御により増圧弁40や減圧弁42に供給する制御電流の値を決定する。ECU200は、目標減速度及び目標液圧の演算と各制御弁の制御とを制動中に所定周期で繰り返し実行する。
図3は、本発明の一実施例に係る目標減速度の演算処理を説明するためのフローチャートである。まずブレーキECU200は、ストロークセンサ46により測定されたペダルストロークST及びマスタシリンダ圧センサ48により測定されたマスタシリンダ圧PMCを読み込む(S10)。なお、測定値として2つのマスタシリンダ圧センサ48のいずれかの測定値を用いてもよいし、2つの測定値の平均値を用いてもよい。また、ブレーキECU200はこれらの入力信号にローパスフィルタを適宜かけて滑らかな信号としてもよい(S12)。
ブレーキECU200は、ペダルストロークSTの測定値からストロークに基づく目標減速度GSTを求める(S14)。例えば、ブレーキECU200には、ペダルストロークSTとストロークに基づく目標減速度GSTとの関係が予めマップ化されて記憶されている。更にブレーキECU200は、マスタシリンダ圧PMCの測定値からマスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCを求める(S14)。ブレーキECU200には、同様にマスタシリンダ圧PMCとマスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCとの関係が予めマップ化されて記憶されている。
このようにして求められた目標減速度GSTに対して、ブレーキECU200は後述のガード処理を行って目標減速度GSTが上限値を超えないように補正する(S16)。そして、ブレーキECU200は、上述の目標減速度GST及びGPMCの重み付け平均値として、次式により目標減速度G0を算出する(S18)。目標減速度G0が、ブレーキECU200から最終的に得られる目標減速度である。
G0=A・GST+(1−A)・GPMC
ここで、係数Aは、ストロークに基づく目標減速度GSTに対する重みであり、零以上1以下のいずれかの値である。係数Aは例えば、マスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCが小さいほど大きく、マスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCが増えるにつれて小さくなる(例えばゼロに近づく)ように設定されていてもよい。ストロークセンサ46の出力は運転者のブレーキ操作に応じて速やかに立ち上がるが、マスタシリンダ圧センサ48の出力には多少の遅れが生じる。このように係数Aを調整することにより、ブレーキ操作開始当初のマスタシリンダ圧の立ち上がりの遅れの影響を抑えることができる。
ブレーキECU200は更に、算出された目標減速度G0に基づいて各ホイールシリンダ20における目標液圧を演算し、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように増圧弁40及び減圧弁42を制御する。
その結果、ブレーキ制御装置10においては、ブレーキフルードがアキュムレータ50から増圧弁40を介して各ホイールシリンダ20に供給され、車輪に所望の制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ20からブレーキフルードが減圧弁42を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。このようにしていわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。
一方、このとき右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FLは通常は閉状態とされる。ブレーキ回生協調制御中は、マスタカット弁27の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。運転者によるブレーキペダル12の踏み込みによりマスタシリンダ14から送出されたブレーキフルードは、ストロークシミュレータ24に流入する。これにより適切なペダル反力が生成される。
ところで、図4は、ストロークセンサ46の出力電圧特性の一例を示す図である。図4の縦軸はストロークセンサ46の出力電圧を示し、横軸はブレーキペダル12のストロークを示す。図4には、ストロークセンサ46の2つの出力系統である第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bの正常時の出力電圧と、両者の合計出力電圧とが示されている。なお図4では、第1ストロークセンサ46Aの出力特性を実線で示し、第2ストロークセンサ46Bの出力特性を破線で示し、それらの合計を一点鎖線で示している。
図4に示されるように、第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bの出力電圧は合計電圧を一定とするように相補的に変動する。すなわち、第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bは、一方の出力電圧が増加するとその増加分だけ他方の出力電圧が減少し、合計は一定に保たれる。このようにストロークセンサ46の複数の出力系統の合計出力電圧が一定に保たれるようにしているので、合計出力電圧が許容範囲を超えて変化した場合には供給電圧の低下または何らかの異常発生と判定することができる。
第1ストロークセンサ46Aの出力電圧は、ストロークがゼロであるときの初期値がV1であり、増加開始ストローク値を超えるとストロークに応じて直線的に増加し、出力電圧が値V2に達するとそれ以上ストロークが増えても出力電圧は最大値V2に留まる。逆に、第2ストロークセンサ46Bの出力電圧は、ストロークがゼロであるときの初期値がV2であり、減少開始ストローク値を超えるとストロークに応じて直線的に減少し、出力電圧が値V1に達するとそれ以上ストロークが増えても出力電圧は最小値V1に留まる。
第1ストロークセンサ46Aの増加開始ストローク値と第2ストロークセンサ46Bの減少開始ストローク値とは等しい。第1ストロークセンサ46Aの出力電圧の増加勾配と第2ストロークセンサ46Bの出力電圧の減少勾配とは大きさが等しい。さらに第1ストロークセンサ46Aの出力電圧が最大値V2に達するストロークと、第2ストロークセンサ46Bの出力電圧が最小値V1に達するストロークとは等しい。このようにして、第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bの出力電圧の合計は、ストロークが変化しても一定値V1+V2に保たれる。
図4に示される全範囲がブレーキ制御に使用されてもよいが、一実施形態においては、図4に示されるように通常使用範囲が設定されている。この通常使用範囲は、出力電圧がストロークに応じて増減する範囲内に設定される。なお、図4においては通常使用範囲に、第1ストロークセンサ46Aの出力特性と第2ストロークセンサ46Bの出力特性とが交差して両者の大小関係が変わる点が含まれているが、この点が通常使用範囲に含まれていなくてもよい。
図5は、ブレーキECU200とストロークセンサ46との電気的接続の一例を模式的に示す図である。車両の主電源としてのバッテリ60とブレーキECU200とは電線62により接続されており、ブレーキECU200はバッテリ60から電線62を通じて電力の供給を受ける。ストロークセンサ46は、ブレーキECU200から電力の供給を受ける。ブレーキECU200のコネクタから延びる電線64は、ストロークセンサ46のコネクタ58に接続される。このようにしてストロークセンサ46とブレーキECU200とは電気的に接続される。また、マスタシリンダ圧センサ48は、ストロークセンサ46へ延びる電線64とは別の電線66によりブレーキECU200に接続されている。なお同様に、ストロークセンサ46の各出力系統に共通の電源線64から独立した電源線にその他のセンサも接続されている。
ストロークセンサ46には、第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bが内蔵されており、それぞれ共通の電源線である電線64を通じて給電される。一実施形態においてはストロークセンサ46はホール素子を用いた非接触式のストロークセンサであり、第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bのそれぞれにホール素子とホール素子を制御するための制御回路とが内蔵されている。よって、給電経路上で生じた電圧降下により第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bへの入力電圧がともに低下する。例えば、コネクタ58における接触不良に起因する電圧降下によって第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bへの入力電圧がともに低下する。ブレーキECU200または共通電源線64において電源電圧はモニタされている。しかしこの場合、ブレーキECU200においてモニタされている電源電圧は通常時の値を保つので、ストロークセンサ46が低電圧状態にあることをこのモニタ電圧から検知することは難しい。
図6は、ストロークセンサ46の出力の経時的変化の一例を示す図である。図6の縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。図6には、ストロークセンサ46の2つの出力系統である第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bの出力電圧と、電源電圧とが示されている。図6に示されるストロークセンサ46は接触式のストロークセンサであり、ストロークに応じて抵抗値が変化して出力電圧が変化する。図6には簡単のためストロークがゼロの場合を示しており、第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bの出力電圧はそれぞれ初期値V1、V2をとる。
図6に示されるように、ストロークセンサ46に給電する電源の電圧は通常値V0をとる。時間が経過すると電源電圧は通常値V0から徐々に低下する。電源電圧が低下すると、それに応じて第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bの出力電圧も初期値V1、V2から低下していく。
一方、図7は、ストロークセンサ46の出力の経時的変化の他の例を示す図である。図7においても図6と同様に、ストロークセンサ46の2つの出力系統である第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bの出力電圧と、電源電圧とが示されている。図7に示されるストロークセンサ46は非接触式のストロークセンサであり、例えばホール素子を使用する形式のストロークセンサである。
この場合、ストロークに応じた磁場変化を検出すること、及び、信号をデジタル処理すること等により、電源電圧が低下するとストロークセンサの出力が不定となりやすい。そこで、図7に示されるように、電源電圧が許容範囲を超えて低下したときにはストロークとは無関係に出力電圧を電源電圧に切り替える。図7においては、電源電圧がしきい値V’を下回った場合に出力電圧を電源電圧に切り替える。この切替は、ストロークセンサ内部のホール素子制御回路により行う。このようにして、ストロークセンサ46は、正常時は複数系統の出力が合計を一定とするよう相補的に変動する一方(図4参照)、入力電圧が低下したときには電源電圧をそのまま出力する。図7において入力電圧低下時の出力は破線で示している。入力電圧に応じて出力を通常モードと低電圧モードとで切り替えることにより、ストロークセンサ46が低電圧状態にあることをブレーキECU200において認識することが可能となる。
図8は、通常モード及び低電圧モードにおけるストロークセンサ46の出力特性を示す図である。図8の横軸は第1ストロークセンサ46Aの出力電圧を示し、縦軸は第2ストロークセンサ46Bの出力電圧を示す。通常モードにおける出力電圧を実線で示し、低電圧モードにおける出力電圧を一点鎖線で示す。実線の特性は理想的な特性を示している。実線の特性を囲む斜線領域は、正常な状態であると判定される出力範囲である。この範囲は、若干低下しても十分な精度の出力が得られるであろう入力電圧の許容範囲や、測定誤差などを考慮して設定される。
通常時の特性において点Aはブレーキ操作がない場合つまりストロークがゼロであるときの第1ストロークセンサ46A及び第2ストロークセンサ46Bの出力電圧を示す。ブレーキペダル12が踏み込まれてストロークが増えるにつれて、図において点Aから点Bに向けて右下方向に出力が遷移する。すなわち、図4を参照して説明したように、第1ストロークセンサ46Aの出力は増加する一方、その増加分だけ第2ストロークセンサ46Bの出力は減少する。
破線で示しているのは、参考として、図6に示されるように電源電圧の低下とともに徐々に出力電圧が低下する場合の特性である。この場合、電圧低下とともに徐々に図の原点に向けて出力が遷移するので、通常時の特性とは交差しない。また、図において破線の特性は点A近傍で斜線の正常範囲に一部分が含まれているが、この領域では入力電圧が十分であり正常であるとしてよい。よって、第1及び第2のストロークセンサの出力値の組合せが通常時に取り得る範囲と、低電圧時に取り得る範囲とは、実質的に重複しない。
これに対して、一実施形態においては、入力電圧が低下すると低電圧モードに切り替わる。一点鎖線で示される低電圧時の特性は、図において点Cで通常時の特性と交差する。第1及び第2のストロークセンサの出力値の組合せが通常時に取り得る範囲と、低電圧時に取り得る範囲とが重複する。よって、点Cの近傍の正常範囲においては、ストロークセンサ46の出力電圧はブレーキECU200にとって見かけ上有効なストローク信号となる。例えば非制動時またはブレーキ操作開始当初に入力電圧低下によって点C近傍のストロークセンサ出力が生じると、突発的に制動力が生じたようなブレーキフィーリングを運転者に与えるおそれがある。特に、上述のように、目標減速度を求めるための係数Aがブレーキ操作開始当初のマスタシリンダ圧の立ち上がりの遅れの影響を抑えるために、小ストローク範囲で大きくなるよう調整されている場合には影響が大きくなる。
そこで、本発明の一実施形態においては、ブレーキECU200は、マスタシリンダ圧センサ48の測定値に基づいて、ストロークに基づく目標減速度GSTに上限値(以下、ガード値ともいう)を設定するガード処理を行う(図3のS16)。図9は、一実施形態に係るガード処理を説明するためのフローチャートである。
ブレーキECU200は、測定されたマスタシリンダ圧PMCに基づいてガード値f(PMC)を設定する(S20)。ガード値f(PMC)は、例えば図10に示すように、マスタシリンダ圧PMCの関数として予め設定されてブレーキECU200に記憶されている。これについては図10を参照して後述する。図10に示されるガード値は必要に応じて補正されるため、いわば標準的なガード値として設定されている。
次に、ブレーキECU200は、マスタシリンダ圧PMCに基づいて求められたガード値f(PMC)を補正する(S22)。ブレーキECU200は、ガード値f(PMC)の補正の要否を判定し、補正が必要である場合には補正し、不要である場合には求めたガード値f(PMC)をそのまま用いる。補正をする場合には、ストロークに基づく目標減速度GSTへの制限を強化する場合と、制限を緩和する場合とがある。制限強化つまりガードをきつくする場合には、予め設定されている標準値よりもガード値f(PMC)を小さくする。また、制限緩和つまりガードを緩くする場合には、標準値よりもガード値f(PMC)を大きくする。また、制限を緩和する場合の一例として、制限を中止してもよい。
ガードをきつくする場合としては例えば、アクセルペダルが踏み込まれている場合がある。アクセルペダルが踏み込まれている場合にはブレーキ操作がされている可能性は低いので、ガードをきつくすることにより適正なブレーキフィーリングを期待できる。ブレーキECU200は、アクセルペダルが踏み込まれているか否かをアクセルペダルストロークセンサ56からの入力に基づいて判定する。ブレーキECU200はアクセルペダルの踏込が開始されたときにガード値を標準値f(PMC)よりも小さい強化ガード値g(PMC)に変更し、アクセルペダルの踏込が終了したときに標準値f(PMC)に戻す。強化ガード値g(PMC)は、予め設定されてブレーキECU200に記憶されている。
一方、ガードを緩くする場合としては例えば、マスタシリンダ圧PMCのゼロ点補正がなされていない場合がある。この場合、ゼロ点補正がなされていないことによるオフセット量を考慮してガードを緩くしてもよい。またはガード処理を中止してもよい。ブレーキECU200はマスタシリンダ圧センサ48のゼロ点補正が完了するまでガード値を標準値f(PMC)よりも大きい緩和ガード値h(PMC)に変更する。緩和ガード値h(PMC)も予め設定されてブレーキECU200に記憶されている。また、ブレーキECU200は、マスタシリンダ圧センサ48に異常が検出された場合には、ガード処理を中止する。
ブレーキECU200は、ストロークに基づく目標減速度GSTと、補正済のガード値f(PMC)とのうち小さいほうの値をストロークに基づく目標減速度GSTとして更新する(S24)。これにより、当初演算された目標減速度GSTがガード値よりも小さい場合にはその目標減速度GSTがそのまま最終目標減速度G0の演算に使用される一方、当初演算された目標減速度GSTがガード値を超える場合には、ガード値が目標減速度GSTとされ最終目標減速度G0の演算に使用される。また、ガード処理が中止されている場合には、当初演算された目標減速度GSTがそのまま最終目標減速度G0の演算に使用される。
図10は、ガード値の一例を示す図である。図10の横軸はマスタシリンダ圧PMCを示し、縦軸はガード値f(PMC)を示す。図10に示されるように、マスタシリンダ圧PMCがゼロのときにガード値は最小値f1をとる。ガード値の最小値f1は例えば、許容できる突発ブレーキの最大値に設定すればよい。マスタシリンダ圧PMCが値P1へと増加するにつれてガード値も直線的に増加し、マスタシリンダ圧PMCが値P1のときにガード値は最大値f2をとる。マスタシリンダ圧PMCがさらに増加してもガード値は値f2に固定される。このように一実施例ではガード値f(PMC)は例えば折れ線状に設定されるが、より滑らかに曲線的に変化させてもよい。あるいはガード値f(PMC)を階段状に変化させてもよく、例えばマスタシリンダ圧PMCがゼロから値P1に変化するときのガード値f(PMC)を一定値としてもよい。
ガード値f(PMC)は例えば、折れ点P1よりもマスタシリンダ圧PMCが小さい範囲では、正常時におけるストロークに基づく目標減速度GSTよりもガード値f(PMC)が大きくなるように設定される。このようにすれば、正常時においてはストロークに基づく目標減速度GSTは制限されない。よって、設定されたブレーキフィーリングに正常時にガード処理が影響を与えないようにすることができる。なお、ストロークシミュレータ24の特性のばらつきを考慮し、ガードを緩めに設定してもよい。例えば、想定されるばらつき範囲においてマスタシリンダ圧PMCが最も出にくい場合であってもガードが作用しないようにガード値f(PMC)を大きくしてもよい。
ガード値f(PMC)の折れ点を定めるマスタシリンダ圧P1は、突発ブレーキの発生を抑制すべき最大のマスタシリンダ圧に設定されてもよい。この突発ブレーキ抑制範囲の上限値P1は、ブレーキ操作開始時にペダルストロークに対してマスタシリンダ圧PMCが実質的に立ち上がり始める液圧値に設定してもよい。立ち上がり始める液圧値というのは例えば、マスタシリンダ圧PMCとストロークとの関係が直線的であるとみなすことができる最小の液圧値である。このようにすれば、ブレーキペダル踏込初期段階において実際のストロークよりも大きい不正なストロークセンサ出力が生じた場合に、初期段階に通常生じるマスタシリンダ圧の立ち上がりの遅れを活用してガードをかけることができる。
あるいは、突発ブレーキ抑制範囲の上限値P1は、上述の最終目標減速度G0の演算においてマスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCが支配的となるマスタシリンダ圧に設定してもよい。例えば、マスタシリンダ圧に基づく目標減速度GPMCの最終目標減速度G0に占める寄与度が所定値を超えるときのマスタシリンダ圧を突発ブレーキ抑制範囲の上限値P1としてもよい。マスタシリンダ圧が増えるにつれて係数Aが増える場合には、係数Aが所定値を超えるときのマスタシリンダ圧を突発ブレーキ抑制範囲の上限値P1としてもよい。
なお、突発ブレーキ抑制範囲を超えるマスタシリンダ圧PMCにおいては、ガードをかけないようにしてもよい。この場合、マスタシリンダ圧PMCが十分に大きくそれに基づく目標減速度GPMCも十分大きく、ガードをかけていなくても、ストロークに基づく目標減速度GSTが最終目標減速度G0に与える影響は小さいといえるからである。
また、一変形例として、マスタシリンダ圧センサ48の出力に基づいてガード処理をする代わりに、例えばストップランプスイッチ55の出力に基づいてガード処理をしてもよい。この場合、ブレーキECU200は、ストップランプスイッチ55がオフ信号を出力している場合にガード処理を行い、ストップランプスイッチ55がオン信号を出力している場合にはガード処理を中止してもよい。あるいは、急激な切り替わりを避けるために、ストップランプスイッチ55の出力がオフ信号からオン信号に変わったときに、徐々にガードを緩めるようにしてもよい。そのために、ブレーキECU200は例えば、オン信号への切替時点からの経過時間に応じてガード値を連続的または段階的に大きくするようにしてもよい。