まず、以下に説明する本発明の一実施形態の概要を説明する。本実施形態においては制御部が電源対応制動力配分制御を実行する。この制御は要するに、ブレーキ制御装置の電源状態に基づいて最適に車輪間の制動力配分を調整するものである。例えば、バッテリからブレーキ制御装置への供給可能電圧に応じて目標制動力または最大制動力を発生させるように前後輪の制動力配分が設定される。このような制御を以下では適宜、単に最適配分制御と呼ぶこともある。
この最適配分制御において制御部は、少なくとも1つのホイールシリンダにおける上限圧設定を行う。そして、制動中はこのホイールシリンダの目標圧が上限圧を超えないように制御する。具体的には、液圧保持のために電流供給を必要とするホイールシリンダに対してバッテリ電圧に応じた上限圧を設定する。液圧保持のために通電が必要となるのは例えばホイールシリンダに常開型の電磁制御弁が接続されている場合である。上限圧は例えば、バッテリ状態に応じて制御弁に付与される電流の大きさに対応するホイールシリンダに保持可能な最大圧に等しい値に設定される。例えばバッテリ充電状態が低レベルである場合には、従来のようにバッテリ状態に独立に目標圧を設定すると、ホイールシリンダに保持可能な最大圧を超える値に目標圧が設定されることがあり得る。この場合、実液圧が目標圧に達し得ない結果となり要求制動力が満たされない。これに対して本実施形態ではバッテリ状態に応じて実現可能な範囲内に目標圧が設定され、実現可能な制御範囲内でホイールシリンダ圧が制御されることになる。よって、バッテリ状態にかかわらず目標圧に実液圧を追従させることが可能となり、制御性能を維持することができる。
また最適配分制御において制御部は、上限圧が設定されていない他のホイールシリンダにおける必要液圧の設定を行ってもよい。これは、必要制動性能を達成するために他のホイールシリンダで補完的に発生させるべき液圧を設定するというものである。必要制動性能とは例えば法規上必要とされる制動性能である。本実施形態により、電源状態に対応した最適な制動力配分で必要制動性能を発揮させることが可能となる。
本実施形態は、各ホイールシリンダに保持可能となる液圧の大きさに電源電圧の低下が与える影響がホイールシリンダによって異なる場合に好適である。ホイールシリンダに接続されている例えば減圧用の制御弁の電流−液圧特性がそれぞれ異なる場合に好適である。例えば少なくとも1つのホイールシリンダに常開型の制御弁が接続される一方、他のホイールシリンダには常閉型の制御弁が接続されている場合に好適である。電源電圧の低下が与える影響がホイールシリンダによって異なる場合には電源状態に応じた制動力配分に調整することにより、必要制動性能を発揮させるための最適制動力配分を実現することが可能となる。
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置10を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステムを構成しており、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12への操作に応じて車両の4輪のブレーキを独立かつ最適に設定するものである。また、本実施形態に係るブレーキ制御装置10が搭載された車両は、4つの車輪のうちの操舵輪を操舵する図示されない操舵装置や、これら4つの車輪のうちの駆動輪を駆動する図示されない内燃機関やモータ等の走行駆動源等を備えるものである。
本実施形態に係るブレーキ制御装置10は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置10による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
制動力付与機構としてのディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ20FR〜20RLを含む。そして、各ホイールシリンダ20FR〜20RLは、それぞれ異なる流体通路を介してブレーキアクチュエータ80に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」という。
ブレーキ制御装置10においては後述の右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等を含んでブレーキアクチュエータ80が構成されている。ホイールシリンダ20にブレーキアクチュエータ80からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。
なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ20を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。あるいは、流体力により摩擦部材の押圧力を制御するのではなく、例えば電動モータ等の電動の駆動機構を用いて摩擦部材の車輪への押圧力を制御する制動力付与機構を用いることもできる。
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動液としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。ストロークセンサ46は2系統のセンサが並列に設けられていてもよい。マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、運転者によるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、非通電時に閉状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に開状態に切り換えられる常閉型の電磁開閉弁である。なお、シミュレータカット弁23を設置することは必須ではなく、ストロークシミュレータ24がシミュレータカット弁23を介することなくマスタシリンダ14に直接接続されていてもよい。
マスタシリンダ14の一方の出力ポートにはさらに右前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されており、ブレーキ油圧制御管16は、図示されない右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、左前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、図示されない左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。
右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右マスタカット弁27FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、左マスタカット弁27FLが設けられている。なお、以下では適宜、右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FLを総称して、マスタカット弁27という。
マスタカット弁27は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁27は、マスタシリンダ14と前輪側のホイールシリンダ20FR及び20FLとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁27が閉弁されるとブレーキフルードの流通は遮断される。
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では適宜、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLを総称して、マスタシリンダ圧センサ48という。
また、マスタシリンダ14には、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、ブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。なお、モータ32、オイルポンプ34、及びアキュムレータ50は、ブレーキアクチュエータ80とは別体のパワーサプライユニットとして構成されてブレーキアクチュエータ80の外部に設けられていてもよい。
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧されたブレーキフルードを蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキフルードは油圧給排管28へと戻される。更に、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、リニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。増圧弁40は、上流側のアキュムレータ圧と下流側のホイールシリンダ圧との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。増圧弁40は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。増圧弁40を通じて上流圧すなわちアキュムレータ圧が供給されホイールシリンダ20は増圧される。
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ前輪側の減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。減圧弁42FRおよび42FLは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされ、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。減圧弁42FRおよび42FLは、上流側のホイールシリンダ圧と下流側のリザーバ圧(大気圧)との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。
一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。後輪側の減圧弁42RRまたは42RLは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされ、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。また、電流の大きさがホイールシリンダ圧に応じて定まる所定の電流値を超えた場合には閉弁される。減圧弁42RRおよび42RLは、上流側のホイールシリンダ圧と下流側のリザーバ圧(大気圧)との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
また、右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
ブレーキアクチュエータ80は、図2に示されるように、本実施形態における制御部としての電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備えるものである。
上述のように構成されたブレーキ制御装置10は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置10は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル12を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてECU200はブレーキペダル12の踏み込みストロークとマスタシリンダ圧とから目標減速度すなわち要求制動力を演算する。ECU200は、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置10により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、上位のハイブリッドECU(図示せず)からブレーキ制御装置10に供給される。そして、ECU200は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ20FR〜20RLの目標液圧を算出する。ECU200は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧弁40や減圧弁42に供給する制御電流の値を決定する。前後輪の制動力配分は、例えば本実施形態に係る最適配分制御により設定される。ECU200は、目標減速度及び目標液圧の演算と制御弁の制御とを制動中に所定周期で繰り返し実行する。
その結果、ブレーキ制御装置10においては、ブレーキフルードがアキュムレータ50から増圧弁40を介して各ホイールシリンダ20に供給され、車輪に所望の制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ20からブレーキフルードが減圧弁42を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。このようにしていわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。
一方、このとき右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FLは通常は閉状態とされる。ブレーキ回生協調制御中は、マスタカット弁27の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。運転者によるブレーキペダル12の踏み込みによりマスタシリンダ14から送出されたブレーキフルードは、ストロークシミュレータ24に流入する。これにより適切なペダル反力が生成される。
図2は、本実施形態に係るブレーキ制御装置10への電流供給系統を模式的に示す図である。図2に示されるように、ブレーキ制御装置10の電源としてバッテリ90及びパワーキャパシタ92が並列に接続されている。上述のようにブレーキ制御装置10はECU200及びブレーキアクチュエータ80を含んで構成されており、ECU200及びブレーキアクチュエータ80のそれぞれにバッテリ90またはパワーキャパシタ92から電力が供給されるように電気的に接続されている。本実施形態ではブレーキ制御装置10は、バッテリ90及びパワーキャパシタ92のうち高い電圧を出力できるほうを選択して電力の供給を受ける。典型的には、パワーキャパシタ92からブレーキ制御装置10に電力が供給され、パワーキャパシタ92からの供給可能電圧がバッテリ90からの供給可能電圧よりも低い場合に限りバッテリ90から電力が供給される。バッテリ90及びパワーキャパシタ92はオルタネータ(図示せず)によりエンジン動作中に充電される。
例えば、パワーキャパシタ92はブレーキ制御装置10の専用の電源として設けられ、バッテリ90はブレーキ制御装置10とともに他の電装品にも電力を供給するように設けられている。この場合、パワーキャパシタ92は専用電源であるから、充分な充電状態において所望のブレーキ制御を実現する電圧をブレーキ制御装置10に供給するよう構成されている。ところが、パワーキャパシタ92の耐久性確保等の観点から例えばイグニッションオフ後にパワーキャパシタ92を放電する場合がある。そうすると、その後のイグニッションオンの際にはパワーキャパシタ92が充電されるまでブレーキ制御装置10はバッテリ90から電力の供給を受けることになる。また、車種によってはそもそもパワーキャパシタ92が搭載されていない場合もあり、この場合にもブレーキ制御装置10はバッテリ90から電力の供給を受けることになる。
特に近年のように車両に多数の電装品が搭載される場合には、バッテリ90の能力における余裕が少なくなる傾向にある。このため、低い作動電圧でも必要な制動力を発生させることができるブレーキ制御装置の開発が望まれる。ブレーキ制御装置の作動電圧は例えばブレーキアクチュエータ内の電磁制御弁とその駆動回路に依存して決定される。作動電圧を低減するために大型のソレノイドコイルを用いるという案もあり得るが、重量増大や応答性低下とのトレードオフを考慮しなければならなくなる。
そこで、本実施形態ではECU200は電源状態に基づく前後制動力の最適配分制御を実行する。これにより、電源状態に変動が生じても目標制動力または必要制動性能を発揮させることが可能となる。本実施形態においては前輪側ホイールシリンダが第2ホイールシリンダに相当し、後輪側ホイールシリンダが第1ホイールシリンダに相当する。
本実施形態に係る制動力配分制御を前後輪間としている1つの理由は、前輪側のホイールシリンダ20FR及び20FLに常閉型の減圧弁42FR及び42FLが接続され、後輪側のホイールシリンダ20RR及び20RLに常開型の減圧弁42RR及び42RLが接続されているからである。前輪側は常閉型であるから通電がない状態でホイールシリンダに液圧を保持することが可能であるが、後輪側は常開型であるから液圧保持のために通電により閉弁することを要する。後輪側ホイールシリンダ20RR及び20RLに保持可能な最大圧は減圧弁42RR及び42RLのソレノイドコイルにより発生可能な電磁力により制限を受ける。この電磁力は電源電圧に応じてソレノイドコイルに通電される電流の大きさにより定まる。
そこで本実施形態では具体的には、電源電圧に基づいて後輪側での液圧上限値を設定したうえで制動時には後輪側液圧を上限値以下に制御して目標液圧の一部分を発生させるとともに残りの部分を前輪側で補完するように制動力配分を制御する。言い換えれば、常開型制御弁が接続されているホイールシリンダに液圧上限値を設定したうえで制動時には液圧を上限値以下に制御して目標液圧の一部分を発生させるとともに、常閉型制御弁が接続されているホイールシリンダで目標液圧の残りの部分を補完するように制動力配分を制御する。このようにすれば、電源状態変動、特にバッテリ電圧低下による発生制動力への影響を補償することができる。
本実施形態に係る最適配分制御は、ブレーキ制御装置10の電源の種類を問わず実行することができる。例えば、ECU200は、車両搭載のバッテリ90からブレーキ制御装置10に電力が供給されているときに最適配分制御を実行してもよいし、パワーキャパシタ92からに電力が供給されているときに実行してもよい。この場合、ECU200は、ブレーキ制御装置10に並列に接続されている複数の電源のうちいずれから電力が供給されているのかを検出し、供給元の電源が最適配分制御の実行対象であると判定された場合に最適配分制御を実行してもよい。
また、ECU200は、電源状態が所定の場合に限り最適配分制御を実行してもよいし、あるいは常に最適配分制御を実行するようにしてもよい。ECU200は、例えば電源の充電状態が低レベル状態である場合に最適配分制御を実行する。この場合、ECU200は、電源の充電状態を検出し、検出された充電状態に基づいて最適配分制御の実行要否を判定し、要の場合に最適配分制御を実行する。ECU200は、電源からブレーキ制御装置10に供給可能な電圧が所定の閾値以下である場合に最適配分制御を実行してもよい。または、ECU200は、ブレーキ制御装置10内部の特定の制御弁例えばリヤ側の減圧弁42RR及び42RLに供給可能な電圧が所定の閾値以下である場合に最適配分制御を実行してもよい。ここで所定の閾値は、例えば制御弁の電流特性や必要制動性能、車両の運動特性等に基づいて車種ごとにまたは走行状態ごとに適宜設定すればよい。なお電源の充電状態は例えば、電源及びブレーキ制御装置を含む電気回路内に設けられている電圧センサ等の測定値を利用して検出してもよい。
またECU200は、電源充電状態が所定の閾値以上の高レベル状態である場合に電源状態以外の他の観点による制動力配分制御、例えば車両の走行状態等に基づく制動力配分制御を実行し、電源充電状態が所定の閾値以下の低レベル状態である場合に他の制動力配分制御に優先して本最適配分制御を実行するようにしてもよい。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る制御処理を説明するためのフローチャートである。図3に示される処理は、上述のように最適配分制御が実行されるべきときにECU200により周期的に繰り返し実行される。ECU200は、本処理を例えば目標液圧の演算に同期させて目標液圧演算に先立ち毎回実行するようにしてもよいし、それよりも低減された頻度で実行してもよい。また、ECU200は、イグニッションオンの際またはイグニッションオンに先立ち運転者が車両のドアを開けたときに本処理の初回を実行してもよい。
まずECU200は、電源例えばバッテリ90の電圧の入力を受ける(S10)。バッテリ90の電圧は例えば、バッテリ90に付随して設けられている電圧センサにより測定されECU200へと送信される。次いでECU200は、入力された電源電圧に基づいてリヤ側での上限圧PRLIMを設定する(S12)。さらにECU200は、リヤ側上限圧PRLIMと法規上必要とされる制動性能とに基づいてフロント側で発生させるべき最大液圧PFMAXを求める(S14)。ECU200は、リヤ側上限圧PRLIM及びフロント側必要最大液圧PFMAXに基づいて、当該電源状態における前後制動力の最適配分マップを設定し(S16)、処理を終了する。
上述の各ステップについてより詳細に説明する。リヤ側上限圧設定(S12)においては、具体的にはECU200は、電源電圧の入力値からリヤ側の減圧弁42RR及び42RLのコイルに供給される電流値を演算し、予め記憶されている当該制御弁の電流−液圧特性を用いてリヤ側ホイールシリンダ20RR及び20RLに保持可能な最大液圧を求める。ECU200は、この最大液圧に等しい値または最大液圧より小さい値にリヤ側上限圧を設定する。
図4は、リヤ側の減圧弁42RR及び42RLの電流−液圧特性の一例を示す図である。図4の横軸は減圧弁42RR及び42RLに作用する差圧すなわちリヤ側のホイールシリンダ圧を示し、縦軸はホイールシリンダ圧を保持するために必要とされる電流値(以下適宜「液圧保持電流」という)を示す。図4に示されるように、ホイールシリンダ圧が高くなるほど大きな液圧保持電流値が必要となる。つまり、制御弁への供給電流値に保持可能なホイールシリンダ圧の大きさが連動する。また、電源の供給電圧が充分なレベルにある場合には所望のリヤ側最大圧PR0を保持可能とする電流I0が減圧弁42RR及び42RLに供給されるように駆動回路が構成されている。
これに対して供給電圧が低レベルである場合には、リヤ側ホイールシリンダに保持可能な液圧がリヤ側最大圧PR0からPRLIMに低下する。これは、電圧低下により減圧弁42RR及び42RLのコイルに供給される電流が規定値I0からILIMに低下するためである。そこで、ECU200は、例えばリヤ側上限圧を保持可能な最大圧PRLIMに等しい値に設定する。このようにして、入力された電源電圧に基づいてリヤ側での上限圧PRLIMが設定される。
なお、リヤ側上限圧を保持可能圧よりも小さい値に設定してもよい。上述のように上限圧を電源電圧に対応する値に設定した場合には、電源電圧の時間的変動とともに上限圧も変動する。このような上限圧の変動を避けるために例えば、実際の電源電圧から所定のマージンを差し引いた固定的な値に対応する保持可能圧にリヤ側上限圧を設定してもよい。このように上限圧を低めに設定することは、減圧弁42RR及び42RLへの供給電圧をより低減することができるという点でも好ましい。なお、本明細書で説明するいずれの設定値も、ブレーキアクチュエータ80またはその内部の制御弁への供給電圧を低減する方向にマージンを取って設定するようにしてもよい。
次に、フロント側必要最大液圧PFMAXの設定(S14)においては、ECU200は、リヤ側で上限圧PRLIMを発生させたときにフロント側必要最大液圧PFMAXとの合計が必要制動性能を満足するように必要最大液圧PFMAXを設定する。ここで必要制動性能とは所望の状況において実現すべき最大制動力であり、例えば法規上必要とされる制動性能を含む。
図5は、フロント側必要最大液圧PFMAXの設定の一例を説明するための図である。図5の横軸はフロント側ホイールシリンダ圧であり縦軸はリヤ側ホイールシリンダ圧である。図5には基準となる場合例えばバッテリ充電状態が高レベルである場合の制動力配分が実線により示されている。また、必要制動性能を満足する制動力配分が一点鎖線により示されている。
図5に示されるように、ECU200は、必要制動性能を示す線とリヤ側上限圧PRLIMを示す線との交点Aにおけるフロント圧をフロント側必要最大液圧PFMAXとして設定する。このようにすれば、電源電圧により制限されるリヤ側ホイールシリンダ圧をフロント側で補完して必要制動性能を満足させることができる。
ECU200は、リヤ側上限圧PRLIM及びフロント側必要最大液圧PFMAXから前後制動力配分マップを設定する(S16)。ECU200は、例えばリヤ圧が上限値に達するまでは高レベル充電状態すなわち通常状態の制動力配分を採用し(図5中の線分OB)、それ以上の減速度を要する場合にはリヤ圧は上限値PRLIMのまま一定としフロント圧のみを増加させるようにする(図5中の線分BA)。なお、制動力配分を示す線がA点を通るように設定することを条件として、図示される制動力配分とは異なるものを採用することも可能である。例えば線分OAを制動力配分に設定してもよい。
ところで、上述のリヤ側上限圧設定においては上限圧が電源電圧に連動しているから、電源電圧が高ければリヤ側上限圧も高めに設定される。そうすると、制動中にリヤ圧がフロント圧を超えてしまう可能性がある。一般に前後間の好ましい制動力バランスはリヤ圧よりもフロント圧を高圧にすることにより実現される。よって、本実施形態に係る最適配分制御においては、フロント側のホイールシリンダ圧のほうがリヤ側のホイールシリンダ圧よりも高圧となるように制動力配分を設定することが望ましい。つまり、「フロント圧がリヤ圧以上である」というガード条件のもとで制動力配分マップを設定することが望ましい。図5においては、設定された制動力配分線がフロント圧とリヤ圧とが等しいことを示す線よりも下側領域に含まれるようにすることが望ましい。そのようにすれば、電源が充分な充電状態にある場合にリヤ圧がフロント圧を超えないようにすることができるので、前後間の好ましい制動力バランスを実現することが可能となる。
図6は、本実施形態に係る最適配分制御による制動力配分の一例を説明するための図である。図6の横軸はフロント側ホイールシリンダ圧であり縦軸はリヤ側ホイールシリンダ圧である。図5を参照して説明した制動力配分マップが実線により示されている(折れ線OBA)。一例として、運転者のブレーキ操作等に応じて設定される目標減速度が比較的小さい場合と、目標減速度が比較的大きい場合(目標減速度が必要制動性能に等しい場合)とが示されている。図6においては、目標減速度が比較的小さい場合の制動力配分が2点鎖線により示されている。
まず、目標減速度が比較的小さい場合には、目標減速度を示す線と本実施形態に係る制動力配分線との交点(図中の点C)に対応する前後制動力配分に設定される。つまり、ECU200は、フロント側ホイールシリンダ20FR及び20FLの目標圧をPF1に設定し、リヤ側ホイールシリンダ20RR及び20RLの目標圧をPR1に設定する。これらのフロント側目標圧PF1及びリヤ側目標圧PR1は、電源の充電状態が高レベルである場合の制動力配分により設定される目標圧に等しい。ECU200により増圧弁40及び減圧弁42を制御することにより実際のホイールシリンダ圧をこれらの目標圧へと追従させる。
ところが、必要制動性能を発生させる場合(目標減速度が大きい場合)においては、通常の制動力配分を仮定すると、必要制動性能を示す線と通常時の制動力配分との交点(図中の点D)に対応する前後制動力配分に設定されることになる。つまり、ECU200は、フロント側ホイールシリンダ20FR及び20FLの目標圧をPF2に設定し、リヤ側ホイールシリンダ20RR及び20RLの目標圧をPR2に設定することになる。しかし、リヤ側のホイールシリンダ圧は実際には電源の充電状態に対応して、目標圧PR2に満たない保持可能最大圧PRLIMまでしか発生させることができない。その結果、必要制動性能を発生させることができない。
これに対して本実施形態に係る最適配分制御によれば、上述のようにA点に対応する制動力配分により制動力を発生させる。通常状態に比して、電源電圧に応じた上限圧PRLIMにリヤ側のホイールシリンダ圧を制限するとともにフロント側のホイールシリンダ圧を補完的に必要液圧PFMAXへと増加させる。これにより必要制動性能を発生させることができる。
以上のように本発明の第1の実施形態によれば、常閉型減圧弁が設けられているリヤ側のホイールシリンダの液圧が電源の充電状態に連動する実現可能制御範囲内で制御されるようになる。このようにすれば、充電状態が低レベルであってもフロント側との協働のもとで要求制動力を発生させることが可能となる。
次に本発明の第2の実施形態を説明する。第2の実施形態は前輪側ホイールシリンダ20FR及び20FLに必要液圧PFMAXを発生可能であるか否かを電源の充電状態に基づいて判定する処理が追加されている点で第1の実施形態とは異なる。また、判定結果が否である場合には少なくとも必要液圧PFMAXを発生可能とするように増圧弁40の上流圧すなわちアキュムレータ圧を増圧するよう制御する処理も追加されている。なお、第2の実施形態に関する以下の説明において、第1の実施形態と同一の内容については説明を適宜省略する。
図7は、本発明の第2の実施形態に係る制御処理を説明するためのフローチャートである。図7に示されるように、第2の実施形態においては必要アキュムレータ圧演算処理(S18)が制動力配分マップ設定処理(S16)の後に追加されている。この必要アキュムレータ圧演算処理は、フロント側の必要液圧PFMAXを発生可能であるか否かを判定し、必要液圧PFMAXが発生可能でないと判定された場合にはアキュムレータ圧を増圧して必要液圧PFMAXを発生可能とする処理である。なお必要アキュムレータ圧演算処理は、フロント側必要液圧PFMAX設定処理(S14)の後に追加されてもよい。その他の処理(S10〜S16)については第1の実施形態と同様とすることができるので説明を省略する。
図8は、第2の実施形態に係る必要アキュムレータ圧演算処理を説明するためのフローチャートである。図8に示されるように、ECU200は、まず必要アキュムレータ圧Paを演算する(S20)。必要アキュムレータ圧Paは、増圧弁40を通じてホイールシリンダ20を必要液圧PFMAXにまで増圧させるために必要となるアキュムレータ圧であり、増圧弁40への供給電流に応じて定まる値である。
ここで、図9を参照して必要アキュムレータ圧の演算について説明する。図9は、増圧弁40の電流−液圧特性の一例を示す図である。図9の横軸は増圧弁40に作用する差圧すなわちアキュムレータ圧とホイールシリンダ圧との差圧を示し、縦軸は当該差圧のもとで増圧弁40を開弁させるために必要となる電流値(以下適宜「開弁電流」という)を示す。電源が充分に充電されている場合には例えば増圧弁40に作用する差圧がゼロであるときの開弁電流I1よりも大きい規定の最大電流を通電可能であるように増圧弁40の駆動回路が構成されている。よって、高レベルの充電状態においては増圧弁40に作用する差圧の大きさにかかわらず増圧弁40を開弁してホイールシリンダ圧を増圧することができる。
ところが、電源からの電圧が低下すると増圧弁40への電流も低下する。増圧弁40に作用する差圧がゼロであるときの開弁電流I1よりも供給電流が低下すれば、差圧の大きさによっては通電しても増圧弁40が閉弁状態に維持されてしまうことがある。
図9に示されるように、増圧弁40に作用する差圧が小さくなるほど開弁電流を大きくする必要がある。つまり、増圧弁40により所定のホイールシリンダ圧を実現するためには、増圧弁40への供給電流が小さい場合にはアキュムレータ圧を大きくしなければならない。具体的には図9に示されるように、電源の充電状態に応じて増圧弁40に供給される電流Iaに対応して増圧弁40の上下流間の差圧Pが定まる。ここで下流側の液圧が必要液圧PFMAXであるものと想定することにより、必要アキュムレータ圧Paが求められる。すなわち、電流Iaに対応する差圧Pと必要液圧PFMAXとの和が必要アキュムレータ圧Paとなる。
なおECU200は、必要アキュムレータ圧Paの演算とともに、ポンプ34をオンまたはオフとするときのアキュムレータ圧を併せて演算してもよい。ポンプ34をオンまたはオフとするアキュムレータ圧を必要アキュムレータ圧Paに関連させて設定することにより、アキュムレータ圧を必要アキュムレータ圧Pa近傍に適切に維持することができる。ポンプ34をオンにするアキュムレータ圧は、例えば必要アキュムレータ圧Paに等しい値または必要アキュムレータ圧Paより若干大きい値に設定してもよい。そうすればアキュムレータ圧が必要アキュムレータ圧Paへと低下するときにポンプ34の駆動を開始してアキュムレータ圧を必要アキュムレータ圧Pa以上に回復させることができる。また、ポンプ34をオフにするアキュムレータ圧は、ポンプ34をオンにするアキュムレータ圧よりも所定量大きい値に適宜設定することができる。
再び図8を参照して説明する。必要アキュムレータ圧Paを求めた後で、ECU200は、実際のアキュムレータ圧が必要アキュムレータ圧Paに達しているか否かを判定する(S22)。実際のアキュムレータ圧は、アキュムレータ圧センサ51の測定値から得られる。アキュムレータ圧が必要アキュムレータ圧Paに達していると判定された場合には(S22のYes)、ホイールシリンダに必要液圧PFMAXを発生可能であるから本処理を終了する。なおこのときECU200は、次に述べるポンプ34の駆動を許可するフラグを取り消すようにしてもよい。
一方、アキュムレータ圧が必要アキュムレータ圧Paに達していないと判定された場合には(S22のNo)、ECU200は、ポンプ34の駆動を許可した上で(S24)、本処理を終了する。ECU200は、具体的には例えばポンプ34の駆動を許可するフラグを立てる。
この場合、ECU200は、測定されるアキュムレータ圧に基づいてポンプ34及びモータ32を別途制御する。ECU200は、上述のポンプ34をオンにすべきアキュムレータ圧よりも実際のアキュムレータ圧が低圧であることを検出した場合にポンプ34を駆動してアキュムレータ圧を増圧する。そして、アキュムレータ圧が上述のポンプ34をオフにすべきアキュムレータ圧に達した場合にポンプ34を停止してアキュムレータ圧の増圧を終了する。
ここで、ECU200は、ポンプ34への通電を増圧弁40及び減圧弁42への非通電時にのみ行うようにしてもよい。ECU200は、例えば運転者のブレーキペダル操作の解除中にポンプ34への通電及びアキュムレータ圧の増圧を実行してもよい。あるいはECU200は、イグニッションオンの際またはイグニッションオンに先立ち運転者が車両のドアを開けたときに必要アキュムレータ圧Paを演算して必要に応じてアキュムレータ圧を増圧するようにしてもよい。このようにポンプ34の駆動を制御弁への通電と時間的に重複しないようにすることにより、ブレーキアクチュエータ80の作動電圧を相対的に低減することができる。
なお、ECU200は、実際のアキュムレータ圧が必要アキュムレータ圧Paよりも所定量だけ大きい値に達しているか否かを判定してもよい。そして、ECU200は、アキュムレータ圧を必要アキュムレータ圧Paよりも所定量大きい値にまで増圧するようにポンプ34を制御してもよい。このようにアキュムレータ圧を必要アキュムレータ圧Paよりも高く設定することは、増圧弁40の作動に必要とされる電流の大きさを低減することができるという点で好ましい。
また、アキュムレータ圧が必要アキュムレータ圧Paに達していないと判定された場合に、ECU200は、アキュムレータ圧が必要アキュムレータ圧Paに満たないために必要制動性能を発揮することができない旨を警告表示するようにしてもよい。ECU200は警告灯の点灯などにより視覚的に警告してもよいし、ブザー等の警告音により警告してもよい。
以上のように第2の実施形態によれば、必要制動性能を達成するために前輪側ホイールシリンダ20FR及び20FLに発生させるべき必要液圧PFMAXを発生可能とするように増圧弁40の上流圧が増圧される。その結果、必要液圧PFMAXの発生ひいては必要制動性能の実現を保証することができる。
続いて本発明の第3の実施形態を説明する。第3の実施形態においては、前輪側のホイールシリンダ圧の減圧に常閉型である前輪側減圧弁42FR及び42FLに加えて常開型の制御弁を併用する。以下では具体例として常開型制御弁であるマスタカット弁27を併用して前輪側ホイールシリンダ圧を減圧する場合を説明する。
この第3の実施形態は、上述の第1の実施形態または第2の実施形態に組み合わせて実施することも可能であるし、第1及び第2の実施形態とは独立に単独で実施することも可能である。なお、第3の実施形態に関する以下の説明において、第1の実施形態と同一の内容については説明を適宜省略する。
図10は、前輪側減圧弁42FR及び42FLの電流−液圧特性の一例を示す図である。図10の横軸は前輪側減圧弁42FR及び42FLに作用する差圧すなわち前輪側ホイールシリンダ圧を示し、縦軸は当該ホイールシリンダ圧のもとで前輪側減圧弁42FR及び42FLを開弁させるために必要となる電流値(以下適宜「開弁電流」という)を示す。図10に示されるように、ホイールシリンダ圧が小さくなるほど開弁電流を大きくする必要がある。よって、供給電流が低下した場合には前輪側減圧弁42FR及び42FLの開弁状態を維持することができなくなり、前輪側減圧弁42FR及び42FLを通じたホイールシリンダ圧の減圧ができなくなる場合がある。例えば、図10に示されるように、前輪側減圧弁42FR及び42FLへの供給電流が低下して電流I2になった場合には、対応するホイールシリンダ圧Pwcまでしか前輪側ホイールシリンダ圧を減圧することができなくなる。
このような場合にECU200は、マスタカット弁27を併用して前輪側ホイールシリンダ圧を減圧する。そのために、ECU200は、ブレーキ操作中におけるマスタカット弁27の開弁を許可するか否かを電源状態に応じて設定する。そして、ECU200は、ブレーキ操作中におけるマスタカット弁27の開弁が許可されている場合において前輪側ホイールシリンダ圧の減圧中に目標液圧からの実液圧の偏差が所定範囲を超えたときにマスタカット弁27を開弁する。
図11は、第3の実施形態に係るマスタカット弁開弁許可処理を説明するためのフローチャートである。ECU200は、電源からの供給電圧が所定の閾値以下である場合にブレーキ操作中におけるマスタカット弁27の開弁を許可し、当該所定の閾値より大きい場合にブレーキ操作中におけるマスタカット弁27の開弁を許可しないようにすることにより、マスタカット弁開弁許可処理を行う。この処理は、ECU200において例えば所定の周期で繰り返し実行される。
図11に示されるように、ECU200は、まず電源から前輪側減圧弁42FR及び42FLへの供給可能電圧が所定の閾値V以下であるか否かを判定する(S30)。ここで所定の閾値Vは、前輪側減圧弁42FR及び42FLの電流−液圧特性や達成すべきホイールシリンダ圧の減圧特性等を考慮して適宜設定すればよい。
供給可能電圧が所定の閾値V以下であると判定された場合には(S30のYes)、ECU200は、マスタカット弁27の開弁を許可する(S32)。ECU200は、例えばマスタカット弁27の開弁を許可するフラグを立てる。逆に、供給可能電圧が所定の閾値Vよりも大きいと判定された場合には(S30のNo)、ECU200は、マスタカット弁27の開弁を許可しない(S34)。ECU200は、例えばマスタカット弁27の開弁を不許可とするフラグを立てる。
このように、電源状態に応じてマスタカット弁27の開弁許可を行うことにより、真に必要な場合にのみマスタカット弁27を開弁させることが可能となる。つまり、ブレーキ操作中は通常閉弁されるべきマスタカット弁27を電源が不十分な場合に限り開弁可能に設定することができる。
図12は、第3の実施形態に係る前輪側ホイールシリンダ圧の減圧処理を説明するためのフローチャートである。この処理は、ECU200により制動中に例えば所定の周期で繰り返し実行される。
まずECU200は、前輪側ホイールシリンダ圧の減圧処理中であるか否かを判定する(S40)。つまり、前輪側減圧弁42FR及び42FLを開弁すべき状態であるか否かを判定する。ECU200は、例えば前輪側ホイールシリンダ圧が目標圧よりも所定値以上高い場合に前輪側ホイールシリンダ圧を目標圧へと減圧すべく前輪側減圧弁42FR及び42FLに通電する。
減圧処理中であると判定された場合には(S40のYes)、前輪側ホイールシリンダ圧の目標圧からの偏差が所定の基準範囲内にあるか否かを判定する(S42)。ECU200は、例えば偏差が所定値を超える状態が所定時間以上継続した場合に基準範囲を超えたものと判定する。偏差が基準範囲内にある場合には前輪側減圧弁42FR及び42FLによる減圧が有効に機能しており、偏差が基準範囲を超えた場合には前輪側減圧弁42FR及び42FLによる減圧が有効に機能していないものと考えられる。ここで基準範囲は、例えば実現すべき減圧特性等に基づいて適宜設定すればよい。
偏差が基準範囲を超えていると判定された場合には(S42のNo)、ECU200は、マスタカット弁27が開弁許可状態にあるか否かを判定する(S44)。上述のマスタカット弁開弁許可処理(図11)において供給可能電圧が所定の閾値V以下であると判定された場合にマスタカット弁27の開弁が許可されている。
マスタカット弁27が開弁許可状態にあると判定された場合には(S44のYes)、ECU200は、マスタカット弁27を開弁する(S46)。ECU200は、常開型の電磁開閉弁であるマスタカット弁27への通電を停止する。その結果、マスタカット弁27は開弁される。これにより、マスタカット弁27を通じてマスタシリンダ14へと前輪側ホイールシリンダ圧を逃がすことができるので、前輪側ホイールシリンダ圧が減圧される。通電を停止するだけで減圧経路を確保することができるので、電源電圧が充分ではない場合においても確実に減圧をすることが可能となる。
一方、減圧処理中ではないと判定された場合(S40のNo)、偏差が基準範囲内にある場合(S42のYes)、マスタカット弁が開弁不許可状態にある場合(S44のNo)には、ECU200はマスタカット弁を開弁することなく処理を終了する。
本実施形態によれば、常開型制御弁であるマスタカット弁27を併用することにより前輪側ホイールシリンダ圧をより確実に減圧することができる。またマスタカット弁27を利用しているから新たな常開型制御弁を設ける必要がなく、不要なコストアップを招かないという点でも好ましい。
また、ブレーキ操作解除時にはマスタシリンダ圧は大気圧となるから、前輪側ホイールシリンダ圧を確実に大気圧まで減圧することができるという点で好ましい。このため、偏差が基準範囲内にあるか否かを判定することに代えて、ECU200は、ブレーキ操作が解除されているか否か、または前輪側ホイールシリンダ圧を大気圧まで減圧すべきか否かを判定するようにしてもよい。
本実施形態においては、ECU200は、マスタカット弁27の開閉をデューティ制御により行うことが好ましい。マスタカット弁27に対しデューティ制御を実施すればマスタカット弁27の開閉が周期的に繰り返されることになる。このため、マスタカット弁27を一度に開放する場合に比べて、マスタカット弁27を通じたマスタシリンダ14への作動液流出を緩やかにすることができる。その結果、マスタシリンダ圧の急増ひいては運転者へのペダル反力の急変を回避することが可能となるという点で好ましい。また、通常マスタシリンダ圧は目標減速度の演算に利用されるため、マスタシリンダ圧変動の緩和は運転者のブレーキフィーリングの安定化に寄与するという点でも好ましい。
なお本実施形態においてデューティ制御の採用は必須ではない。例えば、ECU200は、マスタシリンダ圧変動が所定範囲内に抑制されるようにマスタカット弁27の開弁時間を設定してもよい。ここでの所定範囲は、例えばブレーキフィーリングの安定化という観点から適宜定めればよい。
また、ECU200は、マスタシリンダ圧の測定値に対して上述のデューティ制御に起因する変動を緩和する補正処理を施してもよい。例えば、ECU200は、デューティ制御実行中に測定されたマスタシリンダ圧にローパスフィルタを適用してもよい。または、例えばノイズ低減のためにもともと設定されているローパスフィルタの周波数を低減してもよい。ECU200は、マスタシリンダ圧の測定値に基づいて演算された目標減速度に対してデューティ制御に起因する変動を緩和する補正処理を施してもよい。あるいは、ECU200は、マスタシリンダ圧を鈍くする処理を施してもよく、例えばマスタシリンダ圧に変化速度制限を設定するようにしてもよい。
このようにすれば、マスタシリンダ圧測定値におけるマスタカット弁27のデューティ開閉制御に起因する変動の影響を低減することができる。あるいは最終的に得られる目標減速度におけるデューティ制御の影響を低減することができる。その結果、ブレーキフィーリングの安定化を図ることができる。
また、ECU200は、電源の充電状態が前輪側減圧弁42FR及び42Fのみでは前輪側ホイールシリンダ圧を充分に例えば大気圧まで減圧することができない充電状態である場合に、制動時の前輪側ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧以上となるように制御してもよい。つまり、ECU200はマスタカット弁27の下流側のほうが上流側よりも高圧となるように下流側液圧を制御する。そうすれば、マスタカット弁27を開弁したときに前輪側ホイールシリンダ圧をマスタカット弁27を通じて確実に減圧することができる。
この場合、例えばECU200は、マスタカット弁開弁許可状態において回生協調制御を禁止するようにしてもよい。回生協調制御中は通常マスタシリンダ圧が前輪側ホイールシリンダ圧よりも高圧となるからである。あるいは、回生協調制御を継続するとしても、ECU200は、前輪側ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧以上に制御するようにしてもよい。そのためにECU200は例えば、前輪側ホイールシリンダ圧を比較的高くするとともに後輪側ホイールシリンダ圧を比較的低くして要求制動力を発生させるようにするようにしてもよい。