JP5130534B2 - 磁気特性を改善したε酸化鉄粉末 - Google Patents

磁気特性を改善したε酸化鉄粉末 Download PDF

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本発明はε−Fe23系の磁性粉末に関する。
磁気記録の分野では低ノイズ化を図りながら記録密度を高めることが要求されている。そのために、磁気記録媒体の側では、媒体の保磁力Hcをできるだけ大きくすること、そして媒体を構成する磁性粒子の微細化を図りながら磁気的分離化を促進することが肝要となる。さらには、磁性粒子が微細化しても記録状態が安定に保持されることも重要視される。
例えば、記録ビットを構成する磁気的に結合した磁気集合体の最小単位の磁気的エネルギー(KU×V)が、記録を乱そうとする熱エネルギー(kB×T)を大きく上回ることが挙げられる。ここで、KUは磁気異方性エネルギー定数、Vは磁気クラスター体積、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度である。記録状態が安定に保持される指標として(KU×V)/(kB×T)を用い、この比がほぼ60以上(〜10年耐用)になることが一般的な目標とされている。このことは、一層の高記録密度化を図るためには、磁気クラスター体積Vを下げ、磁気異方性定数KUを上げざるを得ない状況にあると言える。KUについては、KU∝Hc(Hcは保磁力)の関係にあるため、言い換えると、高記録密度の磁気記録媒体を目指すほど、高いHcを有する磁性材料が必要になる。
また、(KU×V)/(kB×T)の値が100以下の場合でも記録磁化が時間の経過につれて減少する事例も報告されており、このことは、低ノイズ化のためには磁気クラスター体積Vを下げる要求が強くなるほど、高い磁気異方性定数KUを持たねばならないことを意味する。したがって、低ノイズ化の観点からも、高記録密度の磁気記録媒体を目指すほど、高いHcを有する磁性材料が必要になる。
非特許文献1〜3に示されるように、最近、ナノオーダーの粒子サイズで室温において20kOeという巨大なHcを示すε−Fe23の存在が確認されている。Fe23の組成を有しながら結晶構造が異なる多形には最も普遍的なものとしてα−Fe23およびγ−Fe23があるが、ε−Fe23もその一つである。しかし、ε−Fe23の結晶構造と磁気的性質が明らかにされたのは、非特許文献1〜3に見られるように、ε−Fe23結晶をほぼ単相の状態で合成できるようになったごく最近のことである。このε−Fe23は巨大なHcを示すことから、前記のような高記録密度の磁気記録媒体への適用が期待される。
Jian Jin,Shinichi Ohkoshi and Kazuhito Hashimoto,ADVANCED MATERIALS 2004,16,No.1、January 5,p.48-51 Jian Jin,Kazuhito Hashimoto and Shinichi Ohkoshi,JOURNAL OF MATERIALS CHIMISTRY 2005,15,p.1067-1071 Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto and Shinichi Ohkoshi,JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN,Vol.74,No.7,July,2005、p.1946-1949
非常に高いHcをもった磁性材料を記録媒体として実用化するためには、その記録媒体に実際に情報を書き込める記録磁場を発生する磁気ヘッドが必要である。磁気ヘッドの発生磁場は、一般的には、そこに使用される軟磁性膜の飽和磁束密度に比例するともいわれる。現在、1.5〜4.5kOe(1.19×105〜3.58×105A/m)程度のHcをもつハードディスクが報告されているが、このようなハードディスクに情報を記録するための磁気ヘッドには、2.4Tといった高い飽和磁束密度をもつ材料が使用されている。
非特許文献1〜3に見られるように、20kOe(1.59×106A/m)レベルの巨大なHcを持つε−Fe23の場合は、これを磁気記録媒体の磁気記録材料に用いても、現状よりもさらに高い飽和磁束密度をもつ材料が存在しないと、情報を記録することができない。すなわち、現状レベルの磁気ヘッド材料では磁気記録ができない。
発明者らは詳細な検討の結果、ε−Fe23結晶のFeサイトの一部を、3価の金属元素Mで置換したとき、その置換量に応じて保磁力Hcを低下させることができる場合があることを見出した。金属元素Mは例えばAl、Ga、Inなどである。このような置換手法を用いて保磁力Hcをコントロールすることにより、磁気ヘッド等で磁気記録が可能な範囲内で非常に高いHcを呈する磁性粉末が構築でき、種々の用途で実用化が期待される。
しかしながら、磁性粉末を実際に磁気記録媒体や電波吸収体などの磁性材料として利用するためには、[1]角形比SQが高く、かつSFD(switching field distribution)が小さいなど、総合的に優れた磁気特性を有することが要求され、また[2]高分子基材中への充填性が良好であることが要求される。さらに[3]液中や高分子基材中への粉末粒子の分散性が良好であることも重要である。磁場配向等の操作によって磁気記録媒体や電波吸収体の性能向上を図る際には、分散性と充填性の両方が良好であることが必須要件となる。
非特許文献1〜3に示されるように、ε−Fe23結晶は、逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせたプロセスにより合成することができる。しかし、そのようにして合成されたε−Fe23結晶の粉末は、必ずしも安定して総合的に優れた磁気特性を有するとは限らず、また、高分子基材中への充填性や、液中あるいは高分子基材中への分散性についても更なる改善が望まれる。そこで本発明は、上記の合成プロセスを利用して製造できる粉末であって、総合的な磁気特性が改善され、あるいはさらに高分子基材中への充填性や、液中や高分子基材中への分散性が改善されたε−Fe23結晶の粉末を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明では、ε−Fe23結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とする鉄酸化物の粒子からなり、TEM写真により測定される粒子径において、平均粒子径が10〜200nm、かつ、粒子径10nm未満の粒子の個数割合が25%以下好ましくは8%以下である磁性粉末が提供される。なかでも充填性の良好な粉末として、さらに[粒子径の標準偏差]/[平均粒子径]×100で表される変動係数が50%以下好ましくは40%以下であるように粒度調整されているものが提供される。前記のMは、例えばAl、Ga、Inの1種以上からなる。
ただし、上記鉄酸化物におけるMとFeのモル比をM:Fe=x:(2−x)と表すとき、0≦x<1である。
上記の「鉄酸化物」は、この磁性粉末の粒子において、(i)α−Fe23と空間群が同じである結晶、(ii)γ−Fe23と空間群が同じである結晶、(iii)ε−Fe23と空間群が同じである結晶、(iv)Fe34と空間群が同じである結晶、および(v)FeOと空間群が同じである結晶のうち、1種以上で構成される部分である。「主相」とは、上記(i)〜(v)の各結晶のうち、鉄酸化物全体に占めるモル比が50モル%以上である結晶を意味する。これら各結晶のモル比は、X線回折に基づくリードベルト法による解析で見積もることができる。
本発明の磁性粉末では、この主相はε−Fe23結晶である。ただし、本明細書でいう「ε−Fe23結晶」には、特に断らない限り、Feサイトが他の元素で置換されていない純粋なε−Fe23結晶の他、Feサイトの一部が3価の金属元素Mで置換されており、前記純粋なε−Fe23結晶と空間群が同じである(すなわち空間群がPna21である)結晶が含まれる。
また本発明では特に、分散性の良好な粉末として、前記鉄酸化物の粒子の表面にSi酸化物が存在している、鉄酸化物とSi酸化物の複合粒子からなり、Si/(Fe+M)×100で表されるSi含有量が0.1〜30モル%に調整されている粉末が提供される。このSi酸化物は、SiO2を主体とするシリカ成分であると考えられるが、その形態は必ずしも結晶質とは限らず、ブロードなX線回折ピークを呈するアモルファス状のものであって構わない。存在量が少ないときはブロードなX線回折ピークも検出されない場合もある。またこの磁性粉末として、単磁区構造の磁性粒子で構成されるものが提供される。
本発明の磁性粉末の磁気特性として、保磁力Hcが1000〜15000 Oe(7.96×104〜1.19×106A/m)であり、かつSFD(switching field distribution)が0.80以下好ましくは0.55以下であるものが好適な対象となる。
TEM(透過型電子顕微鏡)写真からの平均粒子径の計測は、60万倍に拡大したTEM写真画像から各粒子の最も大きな径(ロッド状のものでは長軸径)を測定することにより求めることができる。独立した粒子300個について求めた粒子径の平均値を、その粉末の平均粒子径とする。以下、これを「TEM平均粒子径」ということがある。粒子径の標準偏差は、測定した各粒子の粒子径をマイクロソフト社の表計算ソフト「エクセル」に組み込まれているSTDEV関数を使って算出することができる。
(1)この磁性粉末は常温付近で非常に高い保磁力Hcが得られるので、磁気記録媒体の信頼性向上に寄与できる。また、その保磁力は添加元素Mの含有量によってコントロールできるので、保磁力が高すぎるためにε−Fe23が使えなかった磁性用途においても、使用可能な範囲において、できるだけ高い保磁力を有する磁性材料の提供が可能となる。
(2)この磁性粉末は、鉄が3価まで酸化された鉄酸化物の粒子からなるので、従来のメタル系磁性粉末と比べ、大気環境での耐食性が極めて良好である。
(3)この磁性粉末は、粒子径が極めて小さい「超常磁性」の粒子の存在割合が少なくなるように粒度調整されているので、角形比SQが改善された良好な磁気特性が得られる。また、特に粒子径が狭い範囲に揃ったシャープな粒度分布の磁性粉末が提供され、高分子基材中などへの充填性が向上することにより、ε−Fe23結晶に特有の高保磁力特性や電波吸収特性の顕著な発揮が期待される。
(4)粒子表面に適量のSi酸化物を有するものでは、液中や高分子基材中における粉末粒子の分散性が改善され、特に高分子基材中での磁場配向による顕著な特性向上効果が期待される。
非特許文献1〜3に記載されるように、逆ミセル法とゾル−ゲル法を組み合わせた工程と、熱処理(焼成)工程により、ε−Fe23ナノ微粒子を合成することができ、本発明でもこの合成プロセスを利用することができる。逆ミセル法は、界面活性剤を含んだ2種類のミセル溶液、すなわちミセル溶液I(原料ミセル)とミセル溶液II(中和剤ミセル)を混合することによって、ミセル内で水酸化鉄の沈殿反応を進行させることを要旨とする。ゾル−ゲル法は、ミセル内で生成した水酸化鉄微粒子の表面にシリカコーティングを施すことを要旨とする。表面がシリカで覆われた水酸化鉄微粒子は、液から分離されたあと、所定の温度(700〜1300℃の範囲内)で大気雰囲気下での熱処理に供される。この熱処理によりε−Fe23結晶が合成される。この結晶を主相とする鉄酸化物の粉末に対して、例えば分級操作を施す手法を利用して粒度分布を調整することによって、本発明の磁性粉末を得ることができる。
より具体的には、例えば以下のようにする。
n−オクタンを油相とするミセル溶液Iの水相には、鉄源としての硝酸鉄(III)、鉄の一部を金属元素Mで置換させる場合はM源としてのM硝酸塩(例えばAlの場合、硝酸アルミニウム(III)9水和物、Gaの場合、硝酸ガリウム(III)n水和物、Inの場合、硝酸インジウム(III)3水和物)、および界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム)を溶かし、同じくn−オクタンを油相とするミセル溶液IIの水相にはアンモニア水溶液を用いる。その際、ミセル溶液Iの水相に適量のアルカリ土類金属(Ba、Sr、Caなど)の硝酸塩を溶解させておくことができる。これらアルカリ土類金属の硝酸塩は形状制御剤として機能する。すなわち、アルカリ土類金属が液中に存在すると最終的にロッド形状のε−Fe23結晶を得ることができる。形状制御剤がない場合は、粒状のε−Fe23結晶を得ることができる。
両ミセル溶液IとIIを合体させたあと、ゾル−ゲル法を併用する。すなわち、シラン(例えばテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン)を合体液に滴下しながら攪拌を続け、ミセル内で水酸化鉄の生成反応を進行させる。これにより、ミセル内で生成する微細な水酸化鉄沈殿の粒子表面にはシランの加水分解によって生成したシリカがコーティングされる。次いで、シリカコーティングされた水酸化鉄粒子を液から分離・洗浄・乾燥して得た粒子粉体を炉内に装入し、空気中で700〜1300℃、好ましくは900〜1200℃、さらに好ましくは950〜1150℃の温度範囲で熱処理(焼成)する。この熱処理によりシリカコート内で酸化反応が進行して、微細な水酸化鉄粒子は微細なε−Fe23粒子に変化する。この酸化反応の際に、シリカコートの存在がα−Fe23やγ−Fe23の結晶ではなく、ε−Fe23結晶の生成に寄与すると共に、粒子同士の焼結を防止する作用を果たす。
熱処理(焼成)前の段階で、シリカコートの量は、原料中に含まれるSi含有量がSi/(Fe+M)×100で表されるモル比で50〜1000モル%の範囲とすることができる。平均粒子径を小さくする場合ほどシリカコートの量を多くすることが望ましい。シリカコートの量が上記のモル比で50モル%未満の量だと、粒子の焼結による粗大化が顕著になり、またα−Fe23結晶が生成しやすくなるので好ましくない。例えば、磁気記録に適した粒子径が100nm以下の焼結の少ない磁性粉末を得るためには上記Si含有量が100モル%以上のシリカコートを施すことが好ましい。一方、1000モル%を超えて過剰にシリカコートを施しても、粒子径は顕著には変化しないため、経済的に好ましくない。
熱処理(焼成)によって合成されるε−Fe23結晶を主相とする鉄酸化物粒子の粒子径は、熱処理(焼成)前の段階におけるシリカコートの量、焼成温度、焼成時間を調整することによりコントロール可能である。一般にシリカコートの量を多くすると平均粒子径は小さくなる。また、焼成温度を低くすると比較的小径側に狭い粒度分布を持つ粉末が得られやすい。しかしこの場合、結晶化が不十分となったり、超常磁性を示す極微細粒子の存在割合が多くなったりして磁気特性の低下を招きやすい。一方、焼成温度を高くすると粒子径のバラツキが大きいブロードな粒度分布の粉末が得られやすい。この場合、粒子の充填度が高い磁気記録媒体や電波吸収体を構築することが難しくなる。また、効果的な磁場配向を行うことが難しくなる。
このように、焼成時の粒子径コントロールだけでは、所望の粒度分布にコントロールすることは極めて困難である。そこで、上記のプロセスを利用してε−Fe23結晶を合成する場合、粒度分布をコントロールするには「分級」の操作を行うことが有効となる。ただし、分級を効率的に行うためには、粉末粒子が液中に十分に分散していることが重要である。したがって、分級に先立って、分散性を改善する処理を行うことが望ましい。
分散性を改善する処理としては、上記のようにゾル−ゲル工程でシリカコーティングを施す場合には、熱処理(焼成)後に、そのシリカコートの大部分を除去し、適量のSi酸化物が鉄酸化物粒子の表面に存在するようにコントロールすることが有効である。シリカコートの除去は、NaOHやKOHなどの強アルカリを溶解させた水溶液中に、熱処理後の磁性粉末を入れて、撹拌することにより実施できる。溶解速度を上げる場合は、アルカリ溶液を加温するとよい。代表的には、NaOHなどのアルカリをシリカ分に対して、3モル倍以上添加し、水溶液温度が60〜70℃の状態で、磁性粉末を入れ撹拌すると、シリカを良好に溶解することができる。ただし、粒子表面に存在するSi酸化物の量をSi/(Fe+M)×100で表されるSi含有量が0.1〜30モル%になるように調整するためには、後述実施例に示す〔手順6−2〕のようにして、再溶解処理を実施することが極めて有効である。アルカリとしては、NaOHに限らず、NH3や、場合によってはN(CH34OHのような有機アルカリの水溶液を用いても構わない。
このようなシリカコートの除去手法を用いて、Si/(Fe+M)×100で表されるSi含有量が0.1〜30モル%になるように磁性粒子表面のSi酸化物の量をコントロールすることにより、分級に適した分散性の良い粉末が得られる。磁性粒子表面のSi酸化物はSiO2として存在していると考えられるが、前述のようにX線回折ピークがブロードなアモルファス状の状態として存在していて構わない。SiO2は、水中では等電点がpH2前後にあり、そのため、pH3以上の広いpH範囲において水中での高い分散性を示す。シリカコートの除去試験を進めるうちに、Si/(Fe+M)×100によるSi含有量が0.1モル%を下回ると、液中での分散性の低下が観測された。この場合、Si酸化物は鉄酸化物粒子の表面に島状に存在しているものと考えられる。このため、シリカコートを完全に除去してしまうのではなく、上式によるSi含有量が0.1モル%以上になるようにSi酸化物を残す。
Si/(Fe+M)×100によるSi含有量が0.1モル%未満の場合、Si酸化物は鉄酸化物粒子の表面に島状に存在しているものと考えられる。ところが、0.1モル%以上の範囲では、鉄酸化物の粒子表面がほぼ完全にSi酸化物で覆われた状態になると推測され、液中での分散性が顕著に改善される。Si/(Fe+M)×100によるSi含有量が0.5モル%以上となるようにSi酸化物を存在させることがより好ましく、1モル%以上とすることが一層好ましい。
一方、鉄酸化物粒子の表面に存在するSi酸化物の量が過剰に多いと、Si酸化物同士が、磁性粒子同士を架橋するようになり、激しい場合は、Si酸化物中に磁性粒子が、分散しているような構造体となる。こうなると、分級は極めて困難となる。種々検討の結果、Si/(Fe+M)×100によるSi含有量が30モル%以下の範囲になるようにSi酸化物の付着量をコントロールする必要がある。20モル%以下の範囲とすることがより好ましく、10モル%以下が一層好ましく、5モル%以下がさらに一層好ましい。
磁性粒子の表面コーティング物質は、シリカに限らず、化学的に安定で、融点の高い物質であり、かつ磁性粒子を溶解させずに除去可能な物質であれば、ゾル−ゲル工程を利用して種々のものが使用できると考えられる。例えば、低温で合成されるアルミナは、シリカと同様にアルカリにより容易に除去できるため、好ましい。また、カルシアやマグネシアも、弱酸で容易に溶解できるため、磁性粒子の溶解を最小限にとどめ溶解させることが可能であり、使用できると考えられる。
分級の操作は、粒子径による液中での沈降速度の違いを利用した一般的な手法を利用して実施できる。具体的には、例えば上記のように液中での分散性を改善する処理を施すなどして、分散性の良好な磁性粉末を用意する。ただし、液中のイオン強度が高い場合は粒子同士の静電的反発力が損なわれるため分散状態が作りにくい。この場合は、適切な方法で上記磁性粉末を洗浄し、それを純水に分散したときに、水溶液の導電率が1mS/m(ミリジーメンス)以下になるようにすると、磁性粉末が水中に良好に分散した混濁液を得ることができる。磁性粉末が分散した混濁液を遠心分離器にかけ、所定の回転数で遠心分離を実施すると、その遠心力で沈降する大きさの粒子のみが沈降し、その他の粒子は、分散したまま液中にとどまる。これにより、粒子を分級することができる。
ただし、このように方法で分級を成功させるためには、磁性粉末が1粒子ずつ極めて良好に、液中に分散することが重要である。粒子が凝集している場合は、その凝集体の大きさで沈降してしまため、一次粒子のレベルでの分級は望めない。シリカコーティングの溶解除去に、N(CH34OH水溶液を用いた場合は、N(CH34OHが分散剤としても作用するため、より良好な分散状態を保つことができる。
磁気特性を改善させる観点からは、超常磁性を示す極微細粒子をできるだけ除去するように分級を行うことが極めて効果的である。具体的には、粒子径が5nmより小さい粒子は、超常磁性であり、硬磁性体的振る舞いは示さず、軟磁性体的に振る舞うため、5nmより小さい粒子が多く含まれると、その超常磁性の影響により粉体の磁気特性が著しく低下する。また、5〜10nmの範囲の粒子径も、すでに単磁区構造をとる臨界半径より小さいことが予想され、磁気特性の低下が観察される。したがって、粒子径5nm未満の粒子、好ましくは10nm未満の粒子はできるだけ除去されていることが好ましい。種々検討の結果、TEM写真により測定される粒子径において、粒子径10nm未満の粒子の個数割合が25%以下、好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下であるように粒度調整することが、超常磁性の悪影響を回避する上で極めて有効である。
このような磁気特性を改善した磁性粉末のTEM平均粒子径は10〜200nmの範囲であることが望ましく、10〜100nmの範囲であることがより好ましい。現在市販されているデータバックアップ用磁気記録テープにおいては、その磁性粒子の平均粒子径が200nm以下のものが殆どであり、これより微細な磁性粒子のものが求められている。
磁気記録媒体や電波吸収体における磁性粒子の充填性を改善する観点からは、個々の粒子の粒子径ができるだけ狭い粒径範囲に揃っていることが望ましい。ただし、平均粒子径の変動に応じて、許容される粒子径のバラツキ(標準偏差)も変動する。発明者らの検討によれば、TEM写真により測定される粒子径において、[粒子径の標準偏差]/[平均粒子径]×100で表される変動係数が50%以下であるような粒度分布をとることが、充填性向上に効果的である。変動係数が40%以下であることがより好ましい。粒子径10nm未満の粒子の割合を上記のように低減したε−Fe23結晶の粉体において、変動係数を安定的に30%以下にコントロールする手法は現時点で確立されていないが、将来的にはそのような粉体を得ることも可能になると考えられる。
変動係数のコントロールは、[1]シリカコートの量、焼成温度および焼成時間、[2]シリカコートの除去(分散性の確保)、[3]分級操作、という3者の条件を組み合わせることによって可能となる。
ところで、上記のようなε−Fe23結晶の合成においては、ε−Fe23結晶と空間群を異にする鉄酸化物結晶(不純物結晶)が混在する場合がある。そのような不純物結晶として、α−Fe23、γ−Fe23、FeO、Fe34が挙げられる。金属元素Mが添加されている場合は、これらの不純物結晶のFeの一部もMで置換されている可能性がある。不純物結晶の混在は、ε−Fe23結晶の特性をできるだけ多く引き出す上で好ましいとは言えないが、本発明の効果を阻害しない範囲で許容される。
例えば、鉄酸化物中に占めるε−Fe23結晶の割合が75モル%以上である場合は、従来の磁性材料では実現が難しかった優れた磁気特性を呈し、種々の磁性用途で有用である。鉄酸化物中に占めるε−Fe23結晶の割合が50〜75モル%未満であっても、飽和磁化σsが2emu/g(2A・m2/kg)以上を満たすような磁性材料であれば、高感度の読み取り磁気ヘッドであるGMR(巨大磁気抵抗効果)ヘッドやさらに高感度であるトンネル効果を利用したTMRヘッドを利用すると、書き込んだ信号を高い強度で読み取ることが可能であり、用途をなす。
置換元素Mについては、発明者らの詳細な検討によれば、置換量に応じて、ε−Fe23結晶の保磁力Hcをコントロールしやすい元素Mとして、AlおよびGaを挙げることができる。実例を挙げると、置換後の結晶をε−MxFe2-x3と表記するとき、MがAlの場合、x=0(Al無添加の粒状粒子粉体)のときHc=17.6kOe(1.40×106A/m)、x=0.4のときHc=11.8kOe(0.94×106A/m)、x=0.5のときHc=11.1kOe(0.88×106A/m)、x=0.6のときHc=9.7kOe(0.77×106A/m)、x=0.7のときHc=7.6kOe(0.61×106A/m)といった保磁力Hcの変化挙動が見られた。またMがGaの場合、x=0(Ga無添加、形状制御剤Ba添加有りのロッド状粒子粉体)のときHc=19.0kOe(1.512×106A/m)、x=0.22のときHc=15.3kOe(1.22×106A/m)、x=0.43のときHc=10.7kOe(0.851×106A/m)、x=0.62のときHc=6.5kOe(0.52×106A/m)、x=0.80のときHc=1.3kOe(0.10×106A/m)といった挙動が見られた。
また、ロッド形状のε−Fe23結晶を得る場合に添加されるアルカリ土類金属(Ba、Sr、Caなど)は、通常、生成する結晶の表層部などに存在する。これらのアルカリ土類金属元素をAと表示するとき、その存在量(含有量)は、多くてもA/(Fe+M)×100で表される配合比が20質量%以下の範囲であり、20質量%を超えるアルカリ土類金属の含有は、形状制御剤としての機能を果たす上では一般に不必要である。10質量%以下であることがより好ましい。
なお、前述のとおり本発明のε−Fe23結晶の合成については、その前駆体となる水酸化鉄と水酸化アルミニウムの超微粒子を逆ミセル法で作製する例を挙げたが、数百nm以下の同様の前駆体が作製できれば、その前駆体作製は特に逆ミセル法に限られるものではない。
ε−Fe23結晶を以下の手順に従って合成した。置換元素MとしてGaを使用した。
《ε−Fe23結晶の合成》
〔手順1〕
ミセル溶液Iとミセル溶液IIの2種類のミセル溶液を調整する。
・ミセル溶液Iの作製
テフロン(登録商標)製のフラスコに、純水6mL、n−オクタン18.3mLおよび1−ブタノール3.7mLを入れる。そこに、硝酸鉄(III)9水和物を0.00240モル、硝酸ガリウム(III)n水和物(和光純薬工業株式会社製の純度99.9%でn=7〜9のものを使用し、使用に当たっては事前に定量分析を行ってnを特定してから仕込み量を計算した)を0.00060モル添加し、室温で良く撹拌しながら溶解させる。さらに、界面活性剤としての臭化セチルトリメチルアンモニウムを、純水/界面活性剤のモル比が30となるような量で添加し、撹拌により溶解させ、ミセル溶液Iを得る。
このときの仕込み組成は、GaとFeのモル比をGa:Fe=x:(2−x)と表すときx=0.40である。
・ミセル溶液IIの作製
25%アンモニア水2mLを純水4mLに混ぜて撹拌し、その液に、さらにn―オクタン18.3mLと1−ブタノール3.7mLを加えてよく撹拌する。その溶液に、界面活性剤として臭化セチルトリメチルアンモニウムを、(純水+アンモニア中の水分)/界面活性剤のモル比が30となるような量で添加し、溶解させ、ミセル溶液IIを得る。
〔手順2〕
ミセル溶液Iをよく撹拌しながら、ミセルI溶液に対してミセル溶液IIを滴下する。滴下終了後、混合液を30分間撹拌し続ける。
〔手順3〕
手順2で得られた混合液を撹拌しながら、当該混合液にテトラエトキシシラン6.1mLを加える。約1日そのまま、撹拌し続ける。
〔手順4〕
手順3で得られた溶液を遠心分離機にセットして遠心分離処理する。この処理で得られた沈殿物を回収する。回収された沈殿物をクロロホルムとメタノールの混合溶液を用いて複数回洗浄する。
〔手順5〕
手順4で得られた沈殿物を乾燥した後、大気雰囲気の炉内で1100℃で4時間の熱処理を施す。
〔手順6−1〕
手順5で得られた熱処理粉を、メノウ製乳鉢により丁寧に解粒を実施したのち、10モル/LのNaOH水溶液1L(リットル)中に入れ、液温70℃で24時間撹拌し、粒子表面に存在するであろうシリカの除去処理を行う。次いで、ろ過し、十分に水洗する。
〔手順6−2〕
水洗された粉末を純水1L中に入れて分散させ、室温で撹拌しながらpHをモニターして希硝酸を少量ずつ添加していき、pH2.5〜3.0に調整する。撹拌を続けているとpHは変動するので、常にpH2.5〜3.0に調整する。pH調整しながら、撹拌を1時間実施する。アルカリで熱処理粉を処理するとシリカ分は溶解するが、同時にFeもわずかながら溶解し、アルカリ溶液中で溶解し難い無定形なFeケイ酸塩が液中で合成することが確認されている。このFeケイ酸塩は、酸に対する溶解度が高いため、上記操作により除去を行う(再溶解処理)。
また、金属元素Mについても手順6−1で溶解が生じ、シリカ分と反応してM元素のケイ酸塩を合成する場合があることが確認されている。また、手順3や手順4のときにSiと金属元素Mが化合物を形成する場合があることも確認されている。特に、MがAlの場合、Siと化合物を形成しやすい傾向にある。このようにシリカがM元素とのケイ酸塩を形成するときは、手順6−1のアルカリ処理だけでは、目的とするSi含有量までSiを除去できないことが起こりうる。このような場合にも、手順6−2は有効である。すなわち、後述の分級工程を実施するために必要となる分散性を備えた粉末を得るためには、目的とするSi含有量になるまで、手順6−1と手順6−2を繰り返すことが、極めて効果的である。
次に、手順6−2を終えて得られた粉末を以下の分級工程に供した。
《分級工程》
〔手順7−1〕
[1]超純水1L当たりに、乾燥重量5gに相当するウエット状態の粉末入れる。
[2]強撹拌を1時間実施し、粉末粒子を十分に分散させる。
[3]この分散液を遠心分離器(日立工機製CR21GII)を用いて20000rpmで遠心分離する。
[4]固液分離したのちに、上澄み液の導電率を測定する。測定後、上澄み液を廃棄する。
〔手順7−2〕
上記[4]で、上澄み液の導電率が1mS/m(ミリジーメンス)より高い場合は、上記[1]〜[4]を繰り返す。
〔手順7−3〕
上澄み液の導電率が下がるにつれて、粒子が分散系になってくることが観察でき、上澄み液の導電率が1mS/m以下になったものは、純水を入れ、強撹拌を行い、強力な超音波洗浄機にて1時間かける。さらに、少量のNaOHを添加してpH11付近に調整することにより、極めて良好な分散状態を得ることができる。
Si酸化物の等電点が、pH2前後であるから、基本的にはpHが高いほど静電的反発力が大きくなり、より良好な分散性を示すと考えられる。ただし、実際は、pHを上昇させるためにNaOHなどのアルカリを添加すると、イオン強度が高くなることにより、分散性を阻害する作用も生じる。したがって、Si酸化物が表層に存在する粒子の場合は、静電的反発力による分散性向上作用と、イオン強度上昇に伴う凝集性増大作用とのバランスにより、最も分散性が良好となるpHが決定される。発明者らの詳細な検討によれば、pH11±1.5、好ましくはpH11±0.5の範囲に調整することが望ましい。
〔手順7−4〕
手順7−3で得られた分散液を構成する粉末(まだ分級されていない段階の粉末)を、ここでは「元粉」と呼ぶ。観察用および特性調査用の元粉試料を採取した後、元粉の分散液を遠心分離器にかけ、18000rpmで遠心分離を行う。これによって、沈殿物と、上澄み液が得られる。上澄みは濁っており、粒子が存在していることが目視で確認できる。すなわちこの遠心分離操作により、元粉が、粒度分布の異なる2種類の粉体に分級される。なお、この遠心分離を行う際には、分離の分解能を上げるために、途中に撹拌+超音波による分散工程を入れて、複数回の遠心分離操作を行うことが望ましい。このようにして得られた沈殿物を構成する粉末を「沈殿粉」と呼び、上澄み中に存在する粉末を「上澄み粉」と呼ぶ。上澄み粉については、上澄み液に硝酸を少量ずつ添加し、等電点付近のpH7に調整後、遠心分離器で18000rpmで遠心分離を行って固液分離することにより回収することができる。
元粉のTEM写真を図1(a)に、沈殿粉のTEM写真を図1(b)に、上澄み粉のTEM写真を図1(c)に示す。各粉末について、TEMにより個々の粒子の粒子径を測定することにより粒度分布を調べた。表1中に、TEM平均粒子径、粒子径の標準偏差、[粒子径の標準偏差]/[TEM平均粒子径]×100により算出される変動係数、粒子径10nm未満の粒子の個数%、Dx粒径を示してある。ここでDx粒径は後述のX線回折により求められた粒子径(結晶子径)である。元粉から、粒径10nm未満の粒子の多くを上澄み粉として除去して得られた沈殿粉が、本発明の対象粉末である。
得られた各試料粉末(元粉、沈殿粉、上澄み粉)を粉末X線回折(XRD:リガク製RINT2000、線源CoKα線、電圧40kV、電流30mA)に供したところ、図2に示した回折パターンが得られた。これら3種類の粉体の回折パターンは、いずれもε−Fe23の結晶構造(斜方晶、空間群Pna21)に対応する回折ピークを有している。したがって、その結晶がこれらの粉末における主相であることが明らかである。また、2θが30°より低角側には、アモルファス状のSiO2に起因するブロードなピークが、わずかながら観察された。これは、手順6−1、6−2でシリカコートの大部分を除去したことに伴い、粒子表面に少量のSi酸化物が存在していることを示すものである。(実施例2〜4においても同様であった)。
得られた各試料粉末を蛍光X線分析(日本電子製JSX―3220)に供したところ、GaとFeのモル比をGa:Fe=x:(2−x)と表すときのxの値は、仕込み組成;x=0.40であったのに対し、元粉;x=0.38、沈殿粉;x=0.39、上澄み粉;x=0.38であった。元粉、沈殿粉、上澄み粉の違いによる組成の顕著なずれは観測されなかった(実施例2〜4でも同様)。また、各試料粉末の、Si/(Fe+Ga)×100によるSi含有量(モル%)を表1に記載した。手順6−1、6−2で、粒子表面に存在するSi酸化物の量を適正範囲にコントロールしたことにより液中分散性が向上し、上記のような分級操作が可能になったと言える。
また、得られた各試料粉末について、常温(300K)における磁気ヒステリシスループを測定した。元粉の磁気ヒステリシスループを図3(a)に、沈殿粉のそれを図3(b)に、上澄み粉のそれを図3(c)に示す。また、図3(a)〜(c)の磁気ヒステリシスループを重ねて表示したものが図3(d)である。磁気ヒステリシスループの測定は、Digtal Measurement Systems社の振動試料型磁力計(VSM)のMODEL880を用いて、印加磁場13kOe(1.035×106A/m)の条件で行った。各粉体の保磁力Hc、飽和磁化σs、残留磁化σr、角形比SQ(=σr/σs)、SFDの値を表1に記載した。
図3(a)より、元粉では印加磁場=0 Oe(以下「ゼロ磁場」という)付近で、曲線にわずかに歪みが生じていることがわかる。これは、磁性粉末中に超常磁性の粒子が含まれるときに観察される現象である。図3(b)の沈殿粉では、この歪みがほとんど観察されずゼロ磁場付近でも滑らかな曲線を示す。一方、図3(c)の上澄み粉では、ゼロ磁場付近での曲線の歪みが大きく、また、保磁力Hcが大幅に低減している。これは超常磁性を呈する極微細粒子の存在割合が多いことに起因すると考えられる。図3(d)からわかるように、元粉から、極微細粒子を多く含む上澄み粉を除去することによって分級された沈殿粉(本発明対象の粉末)では、元粉に対して、磁気特性の大幅な改善が認められる。(磁気特性に関し後述実施例2〜4でも概ね以上と同様ことが確認された)。また、表1に見られるように、沈殿粉は、元粉よりもSFDが大幅に低下し、総合的な磁気特性の改善が認められた(後述実施例2〜4の表2〜4においても同じ)。
GaによるFeの置換量を変更した以外、実施例1と同様の実験を行った。すなわちここでは、GaとFeのモル比をGa:Fe=x:(2−x)と表すとき、仕込み組成においてx=0.33とした。
元粉のTEM写真を図4(a)に、沈殿粉のTEM写真を図4(b)に、上澄み粉のTEM写真を図4(c)に示す。
元粉、沈殿粉、上澄み粉のX線回折パターンを図5に示す。測定条件は実施例1と同様である(実施例3、4において同じ)。
元粉、沈殿粉、上澄み粉についての磁気ヒステリシスループを図6に重ねて表示する。測定条件は実施例1と同様である(実施例3、4において同じ)。
前記表1と同様の項目について、実施例2の結果を表2に示す。
GaによるFeの置換量を変更した以外、実施例1と同様の実験を行った。すなわちここでは、GaとFeのモル比をGa:Fe=x:(2−x)と表すとき、仕込み組成においてx=0.47とした。
元粉のTEM写真を図7(a)に、沈殿粉のTEM写真を図7(b)に、上澄み粉のTEM写真を図7(c)に示す。
元粉、沈殿粉、上澄み粉のX線回折パターンを図8に示す。
元粉、沈殿粉、上澄み粉についての磁気ヒステリシスループを図9に重ねて表示する。
前記表1と同様の項目について、実施例3の結果を表3に示す。
GaによるFeの置換量を変更した以外、実施例1と同様の実験を行った。すなわちここでは、GaとFeのモル比をGa:Fe=x:(2−x)と表すとき、仕込み組成においてx=0.52とした。
元粉のTEM写真を図10(a)に、沈殿粉のTEM写真を図10(b)に、上澄み粉のTEM写真を図10(c)に示す。
元粉、沈殿粉、上澄み粉のX線回折パターンを図11に示す。
元粉、沈殿粉、上澄み粉についての磁気ヒステリシスループを図12に重ねて表示する。
前記表1と同様の項目について、実施例4の結果を表4に示す。
実施例1で得られた本発明の対象である「沈殿粉」を用いて、以下のように、磁性塗料を作り、これをテープに塗布し、磁場配向された磁気テープを作成した。
〔磁性塗料の調製〕
磁性粉末(上記の沈殿粉)0.500gを秤量し、これをポット(内径45mm、深さ13mm)に入れる。蓋を開けた状態で10分間放置する。次にビヒクル〔塩ビ系樹脂MR−110(22質量%)、シクロヘキサノン(38.7質量%)、アセチルアセトン(0.3質量%)、ステアリン酸nブチル(0.3質量%)、メチルエチルケトン(MEK;38.7質量%)の混合液〕をマイクロピペットで0.700mL採取し、これを前記のポットに添加する。その後直ちにスチールボール(2mm径)30g、ナイロンボール(8mm径)10個をポットに加え、蓋を閉じ10分間静置する。その後、このポットを遠心式ボールミル(FRITSCH P−6)にセットし、ゆっくりと回転数を上げ、600rpmに合わせ、60分間分散処理を行う。遠心式ボールミルが停止した後、ポットを取り出し、マイクロピペットを使用し、あらかじめ、MEKとトルエンを1:1で混合しておいた調整液を1.800mL添加する。再度遠心式ボールミルにこのポットをセットし、600rpmで5分間分散処理することにより、塗料を調製する。
〔磁気テープの作成〕
前記の分散を終了した後に、ポットの蓋を開け、ナイロンボールを取り除き、調製された塗料をスチールボールごとアプリケーター(隙間55μm)に入れ、支持フィルム(東レ株式会社製ポリエチレンフィルム:商品名15C−B500:膜厚15μm)対して塗布を行う。塗布後素早く、5.5kGの配向器のコイルの中心に置き、磁場配向させ、その後乾燥させる。
以上のようにして作成した磁気テープについて、実施例1の粉末の場合と同様に磁気ヒステリシスループを測定した。その結果を図4に示す。原料粉についての図3(b)と比較すると、ループが大きくなり、磁化の配向が起きたことによる効果が確認できる。すなわち、磁場による配向が実現できた結果、テープの磁気特性は、原料粉(沈殿粉)の特性と比較すると、保磁力Hcが7644Oe(6.08×105A/m)から8613Oe(6.85×105A/m)に、角形比SQ(=σr/σs)が0.60から0.82に、SFDが0.401から0.388にそれぞれ改善され、磁気特性の大幅な改善がもたらされた。
磁場をかけることにより粉末粒子の配向できたのは、沈殿粉が高分子基材に対して良好な分散性を有していることによる。
実施例1で得られた元粉のTEM写真。 実施例1で得られた沈殿粉(本発明対象)のTEM写真。 実施例1で得られた上澄み粉のTEM写真。 実施例1で得られた各試料粉末のX線回折パターン。 実施例1で得られた元粉の磁気ヒステリシスループ。 実施例1で得られた沈殿粉(本発明対象)の磁気ヒステリシスループ。 実施例1で得られた上澄み粉の磁気ヒステリシスループ。 図3(a)〜(c)の磁気ヒステリシスループを重ねて表示した図。 実施例2で得られた元粉のTEM写真。 実施例2で得られた沈殿粉(本発明対象)のTEM写真。 実施例2で得られた上澄み粉のTEM写真。 実施例2で得られた各試料粉末のX線回折パターン。 実施例2で得られた各試料粉末の磁気ヒステリシスループを重ねて表示した図。 実施例3で得られた元粉のTEM写真。 実施例3で得られた沈殿粉(本発明対象)のTEM写真。 実施例3で得られた上澄み粉のTEM写真。 実施例3で得られた各試料粉末のX線回折パターン。 実施例3で得られた各試料粉末の磁気ヒステリシスループを重ねて表示した図。 実施例4で得られた元粉のTEM写真。 実施例4で得られた沈殿粉(本発明対象)のTEM写真。 実施例4で得られた上澄み粉のTEM写真。 実施例4で得られた各試料粉末のX線回折パターン。 実施例4で得られた各試料粉末の磁気ヒステリシスループを重ねて表示した図。 実施例5で作成した磁気テープの磁気ヒステリシスループ。

Claims (7)

  1. ε−Fe23結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とする鉄酸化物の粒子からなり、TEM写真により測定される粒子径において、平均粒子径が10〜200nm、かつ、粒子径10nm未満の粒子の個数割合が25%以下である磁性粉末。
    ただし、上記鉄酸化物におけるMとFeのモル比をM:Fe=x:(2−x)と表すとき、0≦x<1である。
  2. ε−Fe23結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とする鉄酸化物の粒子からなり、TEM写真により測定される粒子径において、平均粒子径が10〜200nm、かつ、粒子径10nm未満の粒子の個数割合が8%以下である磁性粉末。
    ただし、上記鉄酸化物におけるMとFeのモル比をM:Fe=x:(2−x)と表すとき、0≦x<1である。
  3. [粒子径の標準偏差]/[平均粒子径]×100で表される変動係数が50%以下である請求項1または2に記載の磁性粉末。
  4. 前記鉄酸化物の粒子は、表面にSi酸化物を有する複合粒子であり、Si/(Fe+M)×100で表されるSi含有量が0.1〜30モル%に調整されている請求項1〜3のいずれかに記載の磁性粉末。
  5. 前記のMは、Al、Ga、Inの1種以上からなる請求項1〜4のいずれかに記載の磁性粉末。
  6. 単磁区構造の微細粒子からなる請求項1〜5のいずれかに記載の磁性粉末。
  7. 保磁力Hcが1000〜15000 Oe(7.96×104〜1.19×106A/m)、かつSFD(switching field distribution)が0.80以下である請求項1〜6のいずれかに記載の磁性材料。
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