以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、本発明の実施の形態を、実施例に基づいて以下の順序で説明する。
1.ハイブリッド車両の全体構成
2.ハイブリッド車両の基本的動作
3.制御システムの構成
4.異常検出時の制御
5.異常時の動作
5−1.アクセルセンサ異常時
5−2.シフトポジションセンサ異常時
5−3.モータの電流センサ異常時
5−4.バッテリ電圧信号異常時
5−5.エンジン系の異常時
(1)ハイブリッド車両の全体構成:
はじめに、本発明の実施例としてのハイブリッド車両の構成について説明する。図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド車両の全体構成を示す説明図である。このハイブリッド車両は、エンジン150と、2つのモータ/ジェネレータMG1,MG2との3つの原動機を備えている。ここで、「モータ/ジェネレータ」とは、モータ(原動機)としても機能し、また、ジェネレータ(発電機)としても機能する原動機を意味している。なお、以下では簡単のため、これらを単に「モータ」と呼ぶ。車両の制御は、制御システム200によって行われる。
制御システム200は、メインECU210と、ブレーキECU220と、バッテリECU230と、エンジンECU240とを有している。各ECUは、内部にCPU、ROM、RAMなどを有するマイクロコンピュータや、入力インタフェース、出力インタフェースなどの複数の回路要素が1つの回路基板上に配置された1ユニットとして構成されたものであり、CPUがROMに記録されたプログラムに従い種々の制御を実行する。メインECU210は、モータ制御部260とマスタ制御部270とを有している。マスタ制御部270は、エンジン150およびモータMG1,MG2の出力の配分などの制御量を決定する機能を有している。
エンジン150は、通常のガソリンエンジンであり、クランクシャフト156を回転させる。エンジン150の運転はエンジンECU240により制御されている。エンジンECU240は、マスタ制御部270からの指令に従って、エンジン150の燃料噴射量その他の制御を実行する。
モータMG1,MG2は、同期電動機として構成されており、外周面に複数個の永久磁石を有するロータ132,142と、回転磁界を形成する三相コイル131,141が巻回されたステータ133,143とを備える。ステータ133,143はケース119に固定されている。モータMG1,MG2のステータ133,143に巻回された三相コイル131,141は、それぞれ駆動回路191,192を介して2次バッテリ194に接続されている。駆動回路191,192は、各相ごとにスイッチング素子としてのトランジスタを1対ずつ備えたトランジスタインバータである。駆動回路191,192はモータ制御部260によって制御される。モータ制御部260からの制御信号によって駆動回路191,192のトランジスタがスイッチングされると、バッテリ194とモータMG1,MG2との間に電流が流れる。モータMG1,MG2はバッテリ194からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この動作状態を力行と呼ぶ)、ロータ132,142が外力により回転している場合には三相コイル131,141の両端に起電力を生じさせる発電機として機能してバッテリ194を充電することもできる(以下、この動作状態を回生と呼ぶ)。
エンジン150とモータMG1,MG2の回転軸は、プラネタリギヤ120を介して機械的に結合されている。プラネタリギヤ120は、サンギヤ121と、リングギヤ122と、プラネタリピニオンギヤ123を有するプラネタリキャリア124と、から構成されている。本実施例のハイブリッド車両では、エンジン150のクランクシャフト156はダンパ130を介してプラネタリキャリア軸127に結合されている。ダンパ130はクランクシャフト156に生じる捻り振動を吸収するために設けられている。モータMG1のロータ132は、サンギヤ軸125に結合されている。モータMG2のロータ142は、リングギヤ軸126に結合されている。リングギヤ122の回転は、チェーンベルト129とデファレンシャルギア114とを介して車軸112および車輪116R,116Lに伝達される。
制御システム200は、車両全体の制御を実現するために種々のセンサを用いており、例えば、運転者によるアクセルの踏み込み量を検出するためのアクセルセンサ165、シフトレバーの位置を検出するシフトポジションセンサ167、ブレーキの踏み込み圧力を検出するためのブレーキセンサ163、バッテリ194の充電状態を検出するためのバッテリセンサ196、およびモータMG2の回転数を測定するための回転数センサ144などを利用している。リングギヤ軸126と車軸112はチェーンベルト129によって機械的に結合されているため、リングギヤ軸126と車軸112の回転数の比は一定である。従って、リングギヤ軸126に設けられた回転数センサ144によって、モータMG2の回転数のみでなく、車軸112の回転数も検出することができる。
(2)ハイブリッド車両の基本的動作:
次に、本実施例のハイブリッド車両の動作について説明する。ハイブリッド車両の基本的な動作を説明するために、以下ではまず、プラネタリギヤ120の動作について説明する。プラネタリギヤ120は、上述した3つの回転軸のうちの2つの回転軸の回転数が決定されると残りの回転軸の回転数が決まるという性質を有している。各回転軸の回転数の関係は次式(1)の通りである。
Nc=Ns×ρ/(1+ρ)+Nr×1/(1+ρ) …(1)
ここで、Ncはプラネタリキャリア軸127の回転数、Nsはサンギヤ軸125の回転数、Nrはリングギヤ軸126の回転数である。また、ρは次式で表される通り、サンギヤ121とリングギヤ122のギヤ比である。
ρ=[サンギヤ121の歯数]/[リングギヤ122の歯数]
また、3つの回転軸のトルクは、回転数に関わらず、次式(2),(3)で与えられる一定の関係を有する。
Ts=Tc×ρ/(1+ρ) …(2)
Tr=Tc×1/(1+ρ)=Ts/ρ …(3)
ここで、Tcはプラネタリキャリア軸127のトルク、Tsはサンギヤ軸125のトルク、Trはリングギヤ軸126のトルクである。
本実施例のハイブリッド車両は、このようなプラネタリギヤ120の機能により、種々の状態で走行することができる。例えば、ハイブリッド車両が走行を始めた比較的低速な状態では、エンジン150を停止したまま、モータMG2を力行することにより車軸112に動力を伝達して走行する。同様にエンジン150をアイドル運転したまま走行することもある。
走行開始後にハイブリッド車両が所定の速度に達すると、制御システム200はモータMG1を力行して出力されるトルクによってエンジン150をモータリングして始動する。このとき、モータMG1の反力トルクがプラネタリギヤ120を介してリングギヤ122にも出力される。
エンジン150を運転してプラネタリキャリア軸127を回転させると、上式(1)〜(3)を満足する条件下で、サンギヤ軸125およびリングギヤ軸126が回転する。リングギヤ軸126の回転による動力はそのまま車輪116R,116Lに伝達される。サンギヤ軸125の回転による動力は第1のモータMG1で電力として回生することができる。一方、第2のモータMG2を力行すれば、リングギヤ軸126を介して車輪116R,116Lに動力を出力することができる。
定常運転時には、エンジン150の出力が、車軸112の要求動力(すなわち車軸112の回転数×トルク)とほぼ等しい値に設定される。このとき、エンジン150の出力の一部はリングギヤ軸126を介して直接車軸112に伝えられ、残りの出力は第1のモータMG1によって電力として回生される。回生された電力は、第2のモータMG2がリングギヤ軸126を回転させるトルクを発生するために使用される。この結果、車軸112を所望の回転数で所望のトルクで駆動することが可能である。
車軸112に伝達されるトルクが不足する場合には、第2のモータMG2によってトルクをアシストする。このアシストのための電力には、第1のモータMG1で回生した電力およびバッテリ149に蓄えられた電力が用いられる。このように、制御システム200は、車軸112から出力すべき要求動力に応じて2つのモータMG1,MG2の運転を制御する。
本実施例のハイブリッド車両は、エンジン150を運転したまま後進することも可能である。エンジン150を運転すると、プラネタリキャリア軸127は前進時と同方向に回転する。このとき、第1のモータMG1を制御してプラネタリキャリア軸127の回転数よりも高い回転数でサンギヤ軸125を回転させると、上式(1)から明らかな通り、リングギヤ軸126は後進方向に反転する。制御システム200は、第2のモータMG2を後進方向に回転させつつ、その出力トルクを制御して、ハイブリッド車両を後進させることができる。
プラネタリギヤ120は、リングギヤ122が停止した状態で、プラネタリキャリア124およびサンギヤ121を回転させることが可能である。従って、車両が停止した状態でもエンジン150を運転することができる。例えば、バッテリ194の残容量が少なくなれば、エンジン150を運転し、第1のモータMG1を回生運転することにより、バッテリ194を充電することができる。車両が停止しているときに第1のモータMG1を力行すれば、そのトルクによってエンジン150をモータリングし、始動することができる。
(3)制御システムの構成:
図2は、実施例における制御システム200のより詳細な構成を示すブロック図である。マスタ制御部270は、マスタ制御CPU272と、電源制御回路274とを含んでいる。また、モータ制御部260は、モータ主制御CPU262と、2つのモータMG1,MG2をそれぞれ制御するための2つのモータ制御CPU264,266とを有している。各CPUは、それぞれ図示しないCPUとROMとRAMと入力ポートと出力ポートを備えており、これらとともに1チップマイクロコンピュータを構成している。
マスタ制御CPU272は、エンジン150およびモータMG1,MG2の回転数やトルクの配分等の制御量を決定し、他のCPUやECUに各種の要求値を供給して、各原動機の駆動を制御する機能を有している。この制御のために、マスタ制御CPU272には、アクセル開度を示すアクセルポジション信号AP1,AP2や、シフト位置を示すシフトポジション信号SP1,SP2や、バッテリ194の出力電圧値VBや、バッテリ194の出力電流値IBや車速等が供給されている。なお、アクセルセンサ165とシフトポジションセンサ167は、それぞれ2系統のセンサからなり、2つのアクセルポジション信号AP1,AP2と、2つのシフトポジション信号SP1,SP2とをそれぞれマスタ制御CPU272に供給している。
電源制御回路274は、バッテリ194の高圧直流電圧をメインECU210内の各回路用の低圧直流電圧に変換するための回路である。この電源制御回路274は、マスタ制御CPU272の異常を監視する監視回路としての機能も有している。
エンジンECU240は、マスタ制御CPU272から与えられたエンジン出力要求値PEreq に応じてエンジン150を制御する。エンジンECU240からは、エンジン150の回転数REVenがマスタ制御CPU272にフィードバックされる。
モータ主制御CPU262は、マスタ制御CPU272から与えられたモータMG1,MG2に関するトルク要求値T1req,T2reqに応じて、2つのモータ制御CPU264,266にそれぞれ電流要求値I1req,I2reqを供給する。モータ制御CPU264,266は、電流要求値I1req,I2reqに従って駆動回路191,192をそれぞれ制御して、モータMG1,MG2を駆動する。モータMG1,MG2の回転数センサからは、モータMG1,MG2の回転数REV1,REV2がモータ主制御CPU262にフィードバックされている。なお、モータ主制御CPU262からマスタ制御CPU272には、モータMG1,MG2の回転数REV1,REV2や、バッテリ194から駆動回路191,192へ供給された電流の値である実測電流値I1det ,I2det (図2では合わせてIdet と表わす)などがフィードバックされている。また、モータ主制御CPU262には、バッテリ194からの出力電圧値VBも入力されている。
バッテリECU230は、バッテリ194の充電状態SOCを監視するとともに、必要に応じてバッテリ194の充電要求値CHreq をマスタ制御CPU272に供給する。マスタ制御CPU272は、この要求値CHreq を考慮して各原動機の出力を決定する。すなわち、充電が必要な場合には、走行に必要な出力よりも大きい動力をエンジン150に出力させて、その一部を第1のモータMG1による充電動作に配分する。
ブレーキECU220は、図示しない油圧ブレーキと、モータMG2による回生ブレーキとのバランスを取る制御を行う。この理由は、本実施例のハイブリッド車両では、ブレーキ時にモータMG2による回生動作が行われて、バッテリ194が充電されるからである。具体的には、ブレーキECU220は、ブレーキセンサ163からのブレーキ圧力BPに基づいて、マスタ制御CPU272に回生要求値REGreq を入力する。マスタ制御CPU272は、この要求値REGreq に基づいてモータMG1,MG2の動作を決定して、ブレーキECU220に回生実行値REGpracをフィードバックする。ブレーキECU220は、この回生実行値REGpracと回生要求値REGreq の差分と、ブレーキ圧力BPとに基づいて、油圧ブレーキによるブレーキ量を適切な値に制御する。
以上のように、マスタ制御CPU272は、エンジン150およびモータMG1,MG2の出力を決定して、それぞれの制御を担当するエンジンECU240や第1モータ制御CPU264や第2モータ制御CPU266に対して、要求値を供給する。エンジンECU240や第1モータ制御CPU264や第2モータ制御CPU266は、この要求値応じて各原動機を制御する。この結果、ハイブリッド車両は、走行状態に応じて適切な動力を車軸112から出力して走行することができる。また、ブレーキ時には、ブレーキECU220とマスタ制御CPU272とが協調して、各原動機や油圧ブレーキの動作を制御する。この結果、電力を回生しつつ、運転者に違和感をあまり感じさせないブレーキングを実現することができる。
4つのCPU272,262,264,266は、いわゆるウォッチドッグパルスWDPを用いて互いの異常を監視し、CPUに異常が発生してウォッチドッグパルスが停止した場合には、そのCPUにリセット信号RESを供給してリセットさせる機能を有している。なお、マスタ制御CPU272の異常は、電源制御回路274によっても監視されている。
異常履歴登録回路280は、異常発生の履歴を登録するためのEEPROM282を有している。このEEPROM282には、アクセルセンサ165やシフトポジションセンサ167など各部における異常発生の履歴が登録される。また、異常履歴登録回路280の入力ポートには、マスタ制御CPU272とモータ主制御CPU262との間で送受信されるリセット信号RES1,RES2が入力されている。異常履歴登録回路280は、これらのリセット信号RES1,RES2が発生すると、これを内部のEEPROM282に格納する。
なお、マスタ制御CPU272と異常履歴登録回路280とは、双方向通信配線214を介して互いに各種の要求や通知を行うことができる。また、マスタ制御CPU272とモータ主制御CPU262の間にも双方向通信配線212が設けられている。
(4)異常検出時の制御:
次に、本実施例のハイブリッド車両において異常が検出された際の動作について説明する。本実施例のハイブリッド車両において駆動力の発生に関わる異常としては、エンジン150やモータMG2やバッテリ194など駆動力の発生に関わる各部の異常や、運転者が車両の走行状態を制御するために行なう入力を検知するための各種センサの異常や、各部の運転状態を制御するそれぞれのECUの異常や、ECU間の通信異常などを挙げることができる。
本実施例のハイブリッド車両において上記異常が発生したときに実行される制御は、異常発生時に危険を回避するための退避行動をとることができるように、発生した異常の種類に応じてより充分な走行性能を確保していることと、出力を制限することによって異常発生後の長期的な走行を抑止していることとを特徴としている。退避行動をとるための走行性能を確保するために、本実施例のハイブリッド車両では、想定されるそれぞれの異常に対して、異常が検出された部位を用いない制御方法が設定されている。すなわち、センサの異常に対しては、異常が検出されたセンサからの検出信号を用いない制御方法が設定されており、ECU間の通信異常に対しては、異常が検出されたECU間の通信によりやり取りされる情報を用いない制御方法が設定されており、これらの制御方法によって異常発生時にも所定の走行性能が確保される。
このように本実施例のハイブリッド車両では、想定されるそれぞれの異常に対して、異常検出時に実行する制御方法が設定されているが、エンジンECU240やバッテリECU230などの各ECUには、それぞれが制御するエンジン150やバッテリ194などに異常が検出されたときに実行すべき制御が記憶されている。また、マスタ制御CPU272には、種々の異常が検出されたときに実行すべき制御が記憶されている。したがって、異常を検出すると、各ECUは、異常の種類に応じて制御状態を変更し、上記予め記憶しておいた制御を実行する。それぞれの異常時における具体的な動作については後述する。
ここで、本実施例のハイブリッド車両において、想定される各異常に対して予め設定されている異常時の制御状態、特にその際に出力可能となる動力の大きさは、検出される異常から予想される危険性や、その異常がさらなる異常を引き起こすおそれがあるかどうかなどに応じたものとなっている。図3は、種々の異常に対して設定されている各制御が実行される際の、車両の出力特性の様子を概念的に表わす説明図である。図3において、横軸はアクセル開度を表わし、縦軸は最高車速を表わす。ハイブリッド車両において異常が検出されていないときには、ハイブリッド車両は、図3中の(A)で表わした出力特性を示す。異常が検出されたときには、検出された異常の種類に応じた制御が実行され、図3中の(B)ないし(D)のいずれかの出力特性を示すようになる(後述するように、異常の種類によっては(A)の出力特性とすることも可能である)。なお、実際の出力制限は、異常の種類(異常時に選択される駆動制御の方法)によって、最高車速によって制限を行なったり、運転者からのトルク要求に対する反応性を抑えることによって行なうものであり、結果的に、図3(B)ないし(D)に示すように種々の程度に出力が制限されて、アクセルを踏んでも(トルク要求を大きくしても)正常時ほどには車速が上がらない状態となる。
図3に示すように、異常が検出されたときに実行される制御における出力特性は、全体として、正常時に比べて出力が制限された状態となる。ただし、図3は、各異常発生時に実行される制御における走行性能の程度を表わす概念図であって、異常が検出されたときに、図3に示すような出力制限が強制的に実行されることを示すものではない。すなわち、異常の種類によっては、強制的に出力制限を設けて走行性能を低下させる制御を行なうものもあるが、その異常時に実行される制御方法によれば必然的に正常時に比べて走行性能(出力)が低下するため出力制限を設けていないものもある。なお、図3では、各異常時の出力特性を概念的に表わすために、アクセル開度に対する最高車速の関係を示しているが、このような各異常時における出力特性は、図3において縦軸の最高車速の代わりに、車軸から出力可能な駆動力(トルク)やトルク変化量としても、同様の性質を示す。また、各異常時に実際に行なわれる制御では、図3に示したように、運転者による駆動力増加の要求(アクセル開度)に対する実際に出力される動力(最高車速やトルクなど)の関係は必ずしも直線的である必要はないが、異常発生時に出力を抑える場合にもこのような直線的な相関関係を維持することで、運転者の要求に応じた加速性能を、正常時に類似する反応性を維持しつつある程度確保することとが可能となり望ましい。すなわち、異常発生時にも、アクセル操作に対応して運転者が感知可能な程度の加速が得られ、異常発生時に使用者が不必要に危険を感じるのを抑え、退避行動の際の操作性を確保することができる。
例えば、検出された所定の異常が、車両が備える複数の動力発生に関わる装置(エンジン150、モータMG1,MG2、バッテリ194)のうちのいずれかの駆動を妨ることのない異常であって、正常時と同様の駆動力を出力する制御を行なうことが可能な場合に、車両走行を続行し続けることがさらなる異常を引き起こすおそれがあると予測されるときには(例えば、2系統あるアクセルセンサのうちの1系統における異常などの場合には)、予想されるさらなる異常に応じて、出力を制限する制御を行ない、図3の(B)ないし(D)に示したような出力特性を実現する。なお、出力を制限する制御は、車両の最高車速を設定することによって行なっても良いし、上記動力発生装置の性能を、正常時に比べて所定の割合以下に抑えることとしてもよい。
また、後述するように、所定の異常時に実行される制御が、上記動力発生に関わる装置のうちのいずれかの使用の停止あるいは制限を伴う制御であって、正常時に比べて必然的に出力動力の低下を伴う制御である場合(例えば、バッテリ194やバッテリECU230の異常などによって、バッテリ194を用いない制御を行なわなくてはならない場合など)に、このときの制御が図3の(B)ないし(D)に示したように、発生した異常がさらなる異常を引き起こすおそれがあるかどうかに応じて充分に出力が制限された状態となるならば、さらに出力制限を設ける必要はない。このような場合には、使用可能な動力発生装置を用いてその性能の範囲内で、駆動力の増減に関わる運転者の意図をできるだけ正常時に近い状態で反映する走行性能を確保することによって、結果的に正常時に比べて充分に出力を制限した制御が行なわれることになる。
図3の(B)ないし(D)に示したように、異常発生時に実行する制御における出力特性は、発生した異常に伴ってさらなる異常が引き起こされるおそれがあるかどうかなどに応じて、正常時に比べて種々の程度に出力特性を抑えて(異常の種類によっては、必然的に充分に出力が抑えられる制御を行なうことによって)、許容できる範囲で走行性能を確保することが望ましい。本実施例のハイブリッド車両においては、図3(B)に示したように正常時に比べて若干出力を制限することが望ましい異常としては、例えばモータMG2の電流センサの異常を挙げることができる。また、図3(C)に示したように、さらに出力制限をすべき異常としては、例えば、バッテリ194の電圧信号異常時、アクセルセンサ(2系統設けられているうちの1系統)の異常時、バッテリECU230の異常時、マスタ制御部270とエンジンECU240との間の通信異常時、マスタ制御部270とバッテリECU230との間の通信異常時などを挙げることができる。また、上記した異常よりも、発生した異常に伴ってさらなる異常が引き起こされるおそれが大きく、図3(D)に示したようにさらに出力を制限すべき異常としては、例えば、モータ走行が選択される異常時(エンジン150あるいはエンジンECU240の異常時)などを挙げることができる。なお、図3(A)の出力特性は、正常時に対応するものであるが、異常の種類によっては、正常時と同様の出力特性を許可する制御を行なうこととしても良い。本実施例では、シフトポジションセンサ167で異常が発生して認識されないシフトポジションが生じたときには、正常に検出されるポジションに限定してシフトポジションの位置確認を許可しており、正常に検出されるシフトポジションにおいては、図3(A)のように正常時と同様の駆動力を出力可能とする制御を行なうこととした。
このように本実施例のハイブリッド車両では、異常が発生したときには、異常の種類に応じて出力を抑えた状態で、車両の走行性能を確保している。発生した異常の種類によっては、さらなる異常を引き起こすおそれがあり、走行を続けることが所定の危険性を伴うおそれがあるものもあるが、異常の種類によっては、ある程度の走行性能を許容しても充分な安全性を確保可能なものもあり、むしろ走行中に異常が検出されたときに急激に走行性能を低下させる(出力を制限する)ことの方が危険が大きい場合も考えられる。異常の発生が検出されたときに異常の種類や程度によらず直ちに車両の走行を禁止してしまうのではなく、本実施例のように、異常の種類に応じてある程度の走行性能を確保することによって、異常によって引き起こされるおそれがある危険を充分に避けつつ、異常が発生したときに、より安全に退避行動をとることが可能となる。特に、本実施例のハイブリッド車両は、車両を駆動するための動力を発生する装置として、エンジン150の他に、モータMG1,MG2およびこれらを駆動するバッテリ194を搭載しているため、いずれかの箇所に異常が生じても、正常な機能を利用してある程度の走行性能を確保することが可能となっている。
さらに、本実施例のハイブリッド車両では、所定の異常を検出したときに実行する制御が、より大きな駆動力を出力可能であるにもかかわらず出力を制限する制御である場合には、車両の車速が所定値以上であれば、異常を検出しても直ちには車両の走行性能を低下させず、例えば異常検出後所定の時間、あるいは、異常検出後所定の距離を走行するまでは、充分な車速での走行(あるいはある程度の加速性能)を確保している。これによって、高速走行時に異常が検出されたときにおける安全性をより高めることができる。すなわち、高速走行時に異常が発生したときに直ちに出力制限を行なうと、この車両の車速が急激に低下することによって、周囲を走行している車両の運転者に対して不必要な不安感を持たせるおそれがあると共に、運転者が必要以上に危機感を感じるおそれがあるが、車速が所定値以上の時には、異常が検出されてもしばらくの間は充分な車速や加速性能を確保することで、高速で走行している状態から安全に退避行動をとることができる。もとより、異常が検出されたときの車速が充分に遅い場合には(停車中も含む)、直ちに出力を充分に制限することによって異常発生時の安全性を確保することが望ましい。このような構成は、後述するアクセルセンサの異常時に実行する最高車速の制限に関わる制御において詳しく説明する。
また、本実施例のハイブリッド車両では、上記したように正常時に比べて異常の種類に応じて出力が制限された状態で走行可能とするほかに、次第に出力の制限を大きくし、車両の出力を抑える構成を有している。すなわち、異常が検出されたときには、異常の種類に応じて図3に示したような所定の出力制限がかかった状態で運転制御が行なわれるが、異常の種類によっては、異常が検出されてからの時間や、異常が検出された後の走行距離などに応じて段階的に、出力制限の程度を大きくする制御をさらに行なう。あるいは、異常が検出されたときには、そのときの車速などの走行状態に応じた出力での走行を許可しながら、異常が検出されてからの時間や、異常が検出された後の走行距離などに応じて段階的に、出力制限の程度を大きくする制御をさらに行ない、異常の種類に応じて図3に示したような所定の出力制限がかかった状態で運転制御を行なうこととする。出力制限の程度を大きくする制御は、最高車速をより小さく設定したり、運転者からのトルク要求に対する反応性の程度がより小さくなるように動力発生装置を制御することなどによって行なうことができる。
このような構成とすれば、異常発生直後には、異常の種類に応じてある程度の出力が確保されるので、安全に退避行動をとることができるという既述した効果が得られることに加えて、さらに、以下のような効果を奏することができる。すなわち、次第に出力の制限が大きくなることによって、異常が発生したときに車両の走行を必要以上に継続させるのを抑え、異常箇所の修理のための行動を運転者に促すことができる。したがって、異常発生後に長期にわたって走行を続けるのを抑制し、異常発生後の安全性を高めることができる。特に、検出された異常の種類が、車両走行を続行するときによってさらなる異常を引き起こすおそれがある種類の異常である場合には、このように段階的に出力制限を強める制御を行なって、異常発生後に長期間走行を続行するのを抑える構成とすることが望ましい。
また、異常発生時に実行する出力制限の方法としては、車両の駆動軸から出力する動力の大きさを、充分に小さい所定の一定値(の範囲)とする制御も可能である。例えば、運転者からのトルク要求を入力して動力発生装置を駆動し、車軸からトルク要求に応じた所定の駆動力を出力するという制御を行なうことができない異常が発生したときには、運転者の意図を反映した駆動力を出力することができなくなるが、このような異常が検出されたときに、充分に小さい所定の駆動力を常に駆動軸から出力する制御を行なえば、ブレーキを併せて操作することにより、車両をより安全な場所に移動させることが可能となる。ここで、車軸から出力させる充分に小さい所定の駆動力としては、例えば、AT車におけるクリープ現象に相当する程度の力を設定することができる。本実施例のハイブリッド車両は、AT車とは異なるが、例えばバッテリ194の電力を用いてモータMG2を駆動することにより上記した所定の動力を車軸から出力することができる。あるいは、エンジン150を駆動すると共にモータMG1を回生させる(エンジンから伝えられるトルクに対抗する反力トルクを出力する)ことによって、エンジン150からモータMG2に伝えられる直行トルクを車軸から出力させて、上記クリープ現象に相当する程度の充分に小さい駆動力を車軸から出力し続けることとしてもよい。このような制御が行なわれる異常としては、例えば、後述するアクセルセンサの異常時(2系統あるセンサの両方が故障したとき)を挙げることができる。
なお、本実施例のハイブリッド車両においては、異常の検出時には出力が制限される制御が行なわれるため、運転者は加速性能の低下などを体感することによって異常の発生を検知可能であるが、異常の発生をより早く明確に運転者に認識させるために、本実施例のハイブリッド車両では、異常が検出されたときには、運転者から容易に視認可能な所定の表示部に、異常の発生を警告するための表示を行なう。
また、このような表示を行なっても、車両を運転中である運転者が直ちには気づかないおそれもあるため、異常の発生をいち早く運転者に認識させて所定の退避行動を促して安全性を確保するために、本実施例のハイブリッド車両では、異常の検出時にはさらに、異常を知らせる警告音を発したり、人工的に振動を発生させて異常の発生を運転者に体感させる構成を備えている。本実施例のハイブリッド車両では、モータMG2における発電量を制御することによって、無段変速を実現している。したがって、駆動回路191におけるスイッチング制御によって(例えばMG2において設定される目標トルクにノイズを加える制御を行なうことによって)、なめらかな無段変速の制御を意図的に中止し、走行中の車両に容易に所望の振動を生じさせることができる。なお、このように発生させる振動は、運転者に危険を感じさせない程度であって、異常な状態として充分に体感可能な程度に設定することが望ましい。
(5)異常時の動作:
以下に、上記した異常時に実行される出力制限について、個々の代表的な異常が発生したときに実行される具体的な動作に基づいて説明する。
(5−1)アクセルセンサ異常時:
アクセル開度を検出するためにアクセルペダルに設けられたアクセルセンサ165は、既述したように2系統のセンサからなり、2つのアクセルポジション信号AP1,AP2をマスタ制御CPU272に供給している。図4は、アクセルセンサの出力信号の処理に関係する回路構成を示すブロック図である。アクセルセンサ165は、特性の異なる2つのセンサ165a,165bで構成されている。これらのセンサ165a,165bとしては、例えばポテンショメータが利用可能である。2つのセンサ165a,165bの出力信号AP1,AP2は、マスタ制御CPU272に入力される。
マスタ制御CPU272は、異常検出部272aとしての機能と、制御入力決定部272bとしての機能とを有している。異常検出部272aは、アクセルセンサ165に異常が発生しているか否かを検出する。制御入力決定部272bは、通常はセンサの正常な出力から制御入力(アクセル開度)を決定するものであるが、一方のセンサに異常が発生したときには、異常でない方のセンサ出力を用いて制御入力を決定するよう動作を変更する。これらの各部272a,272bの機能は、図示しないROMに格納されたプログラムをマスタ制御CPU272が実行することによって実現される。
図5(A)は、アクセルセンサ165の入出力特性を示すグラフである。横軸はアクセルペダルの踏み込み量であり、縦軸はアクセルポジション信号のレベルである。本実施例では、2つのセンサ165a,165bから出力される出力信号AP1,AP2は、両者の傾きは等しいが、互いに異なるオフセットを有している。もとより、2つの出力信号AP1,AP2の傾きを異なる値に設定することも可能である。2つのセンサの正常出力範囲R1,R2は、2つのセンサの出力AP1,AP2とアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)との関係が、いずれも一義的に決定される範囲に設定される。図5の例では、正常出力範囲R1,R2は、センサ出力AP1,AP2とアクセル開度との関係がいずれも直線で表される範囲に設定されている。
図5(B)は、2つのセンサが両方とも正常に動作している場合のアクセルポジション信号の変化の一例を示している。本実施例では、両方とも正常に動作している場合には、制御入力決定部272b(図4)は、第1の出力信号AP1から制御入力(アクセル開度)を決定する。もとより、第2の出力信号AP2からアクセル開度を決定することとしてもよい。
異常検出部272a(図2)は、2つのアクセルセンサ165a,165bに異常が発生しているか否かを検出する。本実施例では、異常検出部272aは、センサの出力信号AP1,AP2の経時的な変化パターンが、予め設定された複数の異常パターンのうちのいずれかに該当するか否かによってセンサの異常を検出している。この予め設定された複数の異常事象のパターンは、マスタ制御CPU272のための図示しないROMに格納されている。センサ異常を検出するために予め設定される検出信号パターンの例を、図6ないし図10に示す。
図6は、第1のアクセルセンサ165aに異常事象#1(センサの接地線の断線)が発生しているときの出力信号の変化を示している。第1のアクセルセンサ165aの接地線が断線すると、その出力信号AP1が急落して、所定の断線レベルLB以下となり、正常出力範囲R1から外れてしまう。検出信号がこのようなパターンを示すときには、そのセンサに異常事象#1が発生したと判断する。
図7は、第1のアクセルセンサ165aに異常事象#2(ホールド)が発生しているときの出力信号の変化を示している。ここで、「ホールド」とは、出力信号が一定値に維持されることを意味する。アクセルセンサが正常に動作している場合には、その出力信号が一定値で維持されるように運転者がアクセルペダルを一定位置に保持しておくのは極めて困難である。そこで、アクセルセンサの出力信号が一定値で維持されている場合には、そのセンサに異常が発生しているものと判断する。
図8は、第1のアクセルセンサ165aに異常事象#3(矩形波状振動)が発生しているときの出力信号の変化を示している。アクセルセンサが正常に動作している場合には、その出力信号が矩形波状に変化するように運転者がアクセルペダルを踏むのは極めて困難である。そこで、アクセルセンサの出力信号が矩形波状に変化している場合には、そのセンサに異常が発生しているものと判断する。
図9は、第1のアクセルセンサ165aに異常事象#4(不規則振動)が発生しているときの出力信号の変化を示している。アクセルセンサが正常に動作している場合には、その出力信号が不規則的に急変するように運転者がアクセルペダルを踏むのは極めて困難である。そこで、アクセルセンサの出力信号が不規則的に急変している場合には、そのセンサに異常が発生しているものと判断する。
図10は、2つのアクセルセンサ165a,165bに異常事象#5(差分異常)が発生しているときの出力信号の変化を示している。アクセルセンサが正常に動作している場合には、2つの出力信号AP1,AP2の差分は、ほぼ一定の適切な範囲内に維持されるはずである。例えば、図5(A)に示した2つの入出力特性の傾きが同一であれば、2つの出力信号AP1,AP2の差分はほぼ一定である。そこで、2つのアクセルセンサの出力信号の差分が一定の適切な範囲から外れた場合には、いずれかのセンサに異常が発生しているものと判断する。この異常事象#5が発生したときには、一方の出力信号AP1が変化して2つの差分が所定のしきい値になると、異常検出部272aは、いずれかのセンサ165a,165bに異常が発生したものと判断する。このとき、例えば、差分に異常が発生した時刻t0において、出力の変化がより大きなセンサ(図10の例では165a)を異常と判断することができる。
図11は、本実施例のハイブリッド車両において実行されるアクセルセンサ異常処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、マスタ制御CPU272において、所定の時間ごとに実行されている。なお、アクセルセンサ165においては、2つのセンサ165a,165bのいずれの異常も検出可能であるが、本実施例のハイブリッド車両では、通常は第1の出力信号AP1から制御入力(アクセル開度)を決定するため、以下の説明では、センサ165aにおける異常を検出して、センサ165bを用いるように制御を変更する動作について説明する。
本ルーチンが実行されると、マスタ制御CPU272は、まず、異常履歴登録回路280内のEEPROM282(図4)を参照して、ここにアクセルセンサの異常発生に関わる履歴が登録されているかどうかを判断する(ステップS100)。後述するように、アクセルセンサにおける異常が検出されたときには、いずれのセンサにどのような異常が発生したかに関わる情報を、異常履歴登録回路280内のEEPROM282(図4)に登録する。したがって、この異常履歴登録回路280内のEEPROM282を参照することによって、すでにアクセルセンサの異常が発生しているかどうかを知ることができる。あるいは、異常履歴登録回路280内のEEPROM282とは別に、マスタ制御CPU272のための図示しないROMに異常の発生を記憶し、これを参照することとしても良い。
異常履歴登録回路280内のEEPROM282に異常の発生が記憶されていないときには、センサ165aから出力される信号パターンを入力して(ステップS110)、既述したように予め記憶しておいた異常のパターンに該当するかどうかによって、センサ165aに異常が発生しているかどうかを判断する(ステップS120)。
ステップS120においてセンサ165aの異常が検出されると、マスタ制御CPU272は、既述した制御入力決定部272bでアクセル開度を決定する際に用いる信号を、センサ165aが出力するAP1から、センサ165bが出力するAP2に切り替える。また、異常が検出されたときの車速Spを読み込むと共に、センサ165aでの異常の発生を、発生した異常の種類と共に異常履歴登録回路280内のEEPROM282に記憶する。さらに、異常の発生時からの経過時間tに値0を代入すると共に、経過時間のカウントを開始し、また、異常の発生を運転者に通知するために、既述した表示や音声あるいは人工的に発生させた振動などによる警告を行なう(以上、ステップS130)。
ここで、車速Spは、既述したモータMG2の回転数REV2に基づいて知ることができる。また、異常の登録は、既述した異常検出部272aが、いずれのセンサ(ここではセンサ165a)にどのような異常が発生したかに関わる情報を、異常履歴登録回路280内のEEPROM282(図4)に登録する。このように異常履歴をEEPROM282に登録することによって、車両の走行後には、サービスコンピュータを制御システム200に接続し、EEPROM282から異常履歴を読み出して調べることによって、走行中にどのような異常が発生したかを知ることが可能となる。
次に、マスタ制御CPU272は、読み込んだ車速Spが所定の値(本実施例では時速60km)を越えているかどうかを判断する(ステップS140)。車速Spが上記所定の値を超えているときには、車両が出すことのできる最高車速を(Sp+10)km/hに設定し、アクセルペダルが踏み続けられてさらなるトルクが要求された場合には、車速が上記最高車速に達するまでは通常通りの加速を許容する制御を行なう。すなわち、車速が上記最高車速に達した後は、加速を禁止する制御を行なう(ステップS150)。
上記した異常発生時からの経過時間tが予め設定された所定の時間t1 に達するまでは、このような最高車速を設定した制御を続行し(ステップS160)、経過時間tが上記所定の時間t1 に達すると、最高車速の設定値を(Sp+10)km/hからSpに変更する(ステップS170)。すなわち、異常発生時から所定の時間t1 が経過すると、車両に対して許容する最高速度を、より抑えた設定に変更する。
上記した異常発生時からの経過時間tが予め設定された所定の時間t2(ただしt2 >t1 )に達するまでは、このようにより抑えた最高車速を設定する制御を続行し(ステップS180)、経過時間tが上記所定の時間t2 に達すると、Spに設定した最高車速を60km/hに変更し(ステップS190)、本ルーチンを終了する。すなわち、異常発生時から所定の時間t2 が経過すると、車両に対して許容する最高速度をさらに抑えるように設定を変更する。
なお、ステップS140において、車速Spが時速60kmを越えていないと判断されたときには、そのままステップS190に移行し、最高車速を60km/hに設定して車速を制限する制御を行なう。また、ステップS100において、異常履歴登録回路280内のEEPROM282に異常発生の履歴が登録されている場合には、すでに最高車速を60km/hに制限する制御が行なわれていることになるため、最高車速を60km/hに設定する制御を続行して(ステップS195)本ルーチンを終了する。ステップS120において、センサ165aの異常が検出されなかったときには、そのまま本ルーチンを終了する。
このような構成とすれば、一方のアクセルセンサに異常が発生したときに、最高車速を所定の値(本実施例では時速60km)に制限する制御を行なうため、車両の走行性能をある程度確保しつつ、必要以上に車両の走行を続行してしまうのを抑え、車両を走行させる際の安全性を高めることができる。さらに、本実施例のハイブリッド車両では、このように最高車速を設定する際に、異常が発生したときの車速が所定の値を超えているときには、車速がこの所定の値よりも遅い場合に設定すべき最高車速の制限を越える車速での走行を許容し、段階的に車速制限を強める構成となっている。したがって、高速走行時における安全性を高めることができる。すなわち、高速運転時に、異常の検出と共に急激に車速を制限して強制的に減速させると、不必要に運転者に不安感を抱かせるおそれがあると共に、周囲を走行する車両の運転者に対しても不必要な不安感を持たせるおそれがある。本実施例では、高速走行時に異常が発生したときには、正常な残りのアクセルセンサからの出力信号を用いて動力発生装置を駆動しつつ、制限のある時間内において充分な走行性能(ある程度の加速性能)を確保することで、高速走行時においてより安全に退避行動に移ることを可能にしている。
既述したように、本実施例のハイブリッド車両では、発生した異常の種類に応じて図3に示したように出力制限を行ないつつ、ある程度の走行性能を確保している。ここで、上記したアクセルセンサの異常は、動力発生装置が動力を出力する動作を直接損なうものではないため、一方のアクセルセンサの異常時には、最高車速を設定することで、強制的に出力を制限している。
なお、このようなアクセルセンサの一方で発生する異常は、図3(C)の概念図に示したように、車両で発生しうる異常の中ではある程度危険度が高いもの(さらなる異常を引き起こすおそれが強いもの)として出力制限の程度を設定している。これは、残りのセンサを用いて走行を続けた場合にこの残りのセンサで発生しうる異常のうち、検出できない異常が考えられるからである。すなわち、検出されるアクセルセンサの異常のパターンとしては、図6〜図10に示したように、種々のものが考えられるが、図10に示した異常事象#5(差分異常)のように、2つのセンサからの出力信号の相対的な差によって検出する異常などの場合には、一方のセンサが異常となった後は、もう一方のセンサについて同様の異常が発生しても、これを検出することができない。したがって、2系統のセンサからなるアクセルセンサの一方に異常が発生したときには、このように検出できない異常が発生する可能性を考慮して、充分な出力制限を行なうことで、車両の安全性を確保している。出力制限のために設定する最高車速は、上記実施例の値(60km/h)に限るものではなく、このような趣旨を満たすの範囲で適宜設定可能である。
さらに、本実施例では、異常検出時に最高車速を設定して出力制限する際に、異常検出時の車速が所定の値以上であれば、異常発生後所定の時間内に限って、より高速での走行を許容しているが、この基準となる車速も、上記実施例の値に限るものではなく適宜設定可能である。また、最高車速をより高速に設定することを許容する時間も、高速走行時の安全性を充分に確保できる(充分な退避行動をとることができる)ように適宜設定すればよい。また、上記実施例では、異常発生時の車速が所定値以上で最高車速をより高速に設定したときには、時間の経過と共に最高車速を段階的に次第に低く設定しているが、このときに設定する最高車速(上記実施例では検出した車速Sp+10km/h)や、設定する最高車速を低下させる程度は、予想される車両の走行条件などに応じて、高速走行時の安全性を確保する趣旨を満たす範囲で適宜選定すればよい。
上記実施例では、異常検出時の車速が所定の値(60km/h)を越えない場合には、異常発生時には直ちに最高車速を所定の値(60km/h)に制限しており、また、異常発生時の車速が上記所定の値を越えており最高車速をより高い値に設定したときにも、段階的に最高車速をより低く設定し直し、最終的に最高車速を上記所定の値(60km/h)としている(図11参照)。ここで、異常発生後に必要以上に車両の走行を続行してしまうのをさらに抑えるために、最高車速を上記所定の値(60km/h)に設定した後も、最高車速をさらに段階的に低く設定することとしても良い。これによって、残りのセンサで生じた異常が検出できない状況となったとしても、そのままの状態で走行を続けてしまうのを抑止することができる。また、上記実施例では、異常発生時の車速に関わらず、最終的には最高車速を同じ所定の値(60km/h)に設定しているが、車両の走行状態に応じて最高車速の設定値を異ならせることとしても良く、例えば異常発生時に車両が停車中であれば、最高車速を最初からより低く設定することとしても良い。
また、上記実施例では、最高車速の設定を次第に低くする際に、異常発生時からの経過時間に基づくこととしたが、異常発生時からの走行距離などの異なる基準に基づいて出力制限を強めることとしても良い。異常発生時に、ある程度の退避行動をとることができる走行性能が確保されており、異常発生後に必要以上に走行を続行してしまうのを抑止するように段階的に出力制限が行なわれれば、同様の効果を得ることができる。
なお、上記した説明では、2系統あるアクセルセンサのうちの1系統に異常が発生したときに実行される制御について説明したが、両方のアクセルセンサに異常が発生する場合も考えられる。両方のアクセルセンサに異常が発生した場合に実行される制御について以下に説明する。
アクセルセンサにおける異常の発生は、上記実施例でセンサ165aについて説明したように、各センサからの出力信号のパターンに基づいて判断される(図6〜図10参照)。2系統設けたアクセルセンサの両方に異常が発生した場合には、運転者からの駆動力要求に関わる指示を入力することができなくなる。したがって、アクセル開度に応じて加速するという制御を行なうことができない。そこで本実施例のハイブリッド車両では、このように2系統設けたアクセルセンサの両方で異常が発生したときには、充分に小さい所定の駆動力を車軸から出力することによって、車両の移動を可能にしている。
具体的には、両方のアクセルセンサに異常が検出されたときには、AT車におけるクリープ状態と同程度の一定の駆動力を車軸から出力する。このような構成とすれば、運転者は、ブレーキを適宜使用することによって、車両をできるだけ安全なところまで移動させることが可能となり、アクセルセンサが全く使用できない異常が発生した場合にも、車両においてある程度の安全性を確保することができる。このように、本実施例のハイブリッド車両では、両方のアクセルセンサが異常となって、駆動力に関する要求を入力できない場合にも、可能な限りの走行性能を確保して、異常時の安全性を向上させている。
本実施例のハイブリッド車両において、上記したクリープ状態に相当する所定の駆動力を出力するには、既述したように、バッテリ194の電力を用いてモータMG2を駆動することによって実現可能である。あるいは、エンジン150を駆動すると共にモータMG1を回生させる(エンジンから伝えられるトルクに対抗する反力トルクを出力する)ことによって、エンジン150からモータMG2に伝えられる直行トルクを車軸から出力させることとしてもよい。
(5−2)シフトポジションセンサ異常時:
シフトレバーの位置を検出するためにシフトレバーに設けられたシフトポジションセンサ167は、既述したように2系統のセンサからなり、2つのシフトポジション信号SP1,SP2をマスタ制御CPU272に供給している。すなわち、図4に示したアクセルセンサの出力信号の処理に関係する回路構成と同様に、シフトポジションセンサ167は特性の異なる2つのセンサ167a,167bで構成されており、これらのセンサ167a,167bの出力信号SP1,SP2は、マスタ制御CPU272に入力される。マスタ制御CPU272では、異常検出部272aが、既述したアクセルセンサ165の異常と共に、シフトポジションセンサ167における異常の発生を検出し、その結果を既述した制御入力決定部272bに供給する。
図12は、シフトポジションセンサ167から出力される信号の様子を表わす説明図である。2系統のセンサからなるシフトポジションセンサ167のうち、一方のセンサ167aは、シフトレバーの位置(シフトポジション)に応じた電圧信号(アナログ信号)を出力するセンサである。本実施例のハイブリッド車両では、シフトレバーの位置に応じて決定されるシフトポジションとして、パーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)、ドライブポジション(D)、Bポジション(B)の順に備えている。なお、Bポジションは、ドライブポジションと同様に前進モードであるが、ドライブポジションよりもエンジンブレーキの利きが良いモードである。
もう一方のセンサ167bは、シフトレバーがいずれかのポジションにあるのかを確定するためのオン・オフ信号を出力するセンサである。このセンサ167bは、シフトレバーがいずれかのポジションに対応する位置にあるときには、それぞれのポジションに対応したオン信号を出力し、シフトレバーが各ポジション間の中間位置にあるときにはオフとなる。センサ167bから出力されるいずれかのオン信号が所定の期間(例えば100m秒)継続し、その間このオン信号に対応する電圧信号がセンサ167aから出力されると、オン信号および電圧信号に応じたシフトポジションが決定される。図12において、横軸はシフトレバーのストロークを表わし、縦軸はセンサ167aからの出力信号の電圧値を表わす。センサ167bからのオン信号(SW信号)は、横軸の下側であって、この信号が出力されるストロークに対応する位置に示した。
このように、シフトポジションセンサ167では、2系統のセンサ167a,167bからの出力信号を基にしてシフトポジションが決定されるが、本実施例のハイブリッド車両では、一方のセンサに異常が生じていずれかのシフトポジションを決定することができない異常が発生したときには、異常が生じていないポジションに関してはポジションの決定を行なう構成となっている。例えば、センサ167bにおける故障として一部断線が生じ、Pポジションにおけるオン信号が出力されなくなると、ハイブリッド車両はPポジションを確定することはできなくなるが、他のポジションにおけるオン信号が正しく出力され、センサからの出力信号を基にマスタ制御CPU272で実行される所定の演算処理に矛盾が生じない場合には、他のシフトポジションは通常通り確定する。
センサ167aからの出力信号の電圧が所定のポジションに対応する値でありながら、センサ167bからこの電圧信号に対応するオン信号が出力されない場合には、異常検出部272aはセンサ167bに異常が生じたと判断し、図3に示したように、生じた異常に応じて出力特性を変更する。また、このとき車両においては、既述したように、運転者に対して、シフトポジションセンサに異常が生じており所定のポジションが認識できないことを、既述した表示や音声や振動の発生などで警告する。
なお、本実施例のハイブリッド車両では、既述したように、シフトポジションセンサの異常時には正常時と同じ出力特性(図3の(A))を採用しているため、実質的には出力特性の変更は行なわれない。すなわち、シフトポジションセンサの異常は、動力発生装置を直接損なうものではなく、また、センサ167bが出力するいずれかのオン信号が異常となっても、この異常は直接さらなる異常につながる性質のものではないため、本実施例では、正常に検出されるシフトポジションにおける走行性能は低下させないよう制御している。
このように、本実施例のハイブリッド車両では、シフトポジションセンサにおいて異常が生じ、いずれかのポジションを確定することができなくなった場合にも、他のシフトポジションは通常通り確定すると共に、発生した異常の種類に応じた充分な走行性能を確保しているため、車両の安全性を確保しつつ退避行動をとることを可能にしている。もとより、シフトポジションセンサに異常が生じていずれかのポジションが確定できなくなったときには、正常に確定できるポジションに対応した走行モードで走行するときにも、既述したアクセルセンサ異常時のように最高車速を設けることなどによって走行性能を低下させる制御を行なって、運転者が異常の発生をより認識しやすくすると共に、異常が発生した状態で走行を続行するのを抑制する構成としても良い。
また、上記したようにシフトポジションセンサの一方に異常が検出され、正常に検出されるシフトポジションにおいてはシフトポジションの決定を許可して走行を続ける場合にも、異常の検出後、次第に出力の制限を強めて、シフトポジションセンサに異常が生じた状態で長期間走行を続けてしまうのを抑える構成とすることも好ましい。例えば、シフトポジションセンサの異常が検出されてから所定時間経過後、あるいは、所定の距離を走行後に最高車速の制限を設けることとし、さらに、異常発生時からの時間が経過するに従って、あるいは異常発生時からの走行距離が長くなるに従って、最高車速の制限をより厳しく設定する構成とすることができる。
なお、本実施例のハイブリッド車両のように、シフトポジションセンサを、アナログ信号を出力するセンサ167aと、オン・オフ信号を出力するセンサ167bとから構成する場合には、アナログ信号を出力するセンサに異常が生じると、もう一方のオン・オフ信号を出力するセンサからの出力がオフのときに、シフトレバーが中間位置にあるのかセンサの故障でオン信号が出力されないのかを判断することができない。したがって、本実施例のハイブリッド車両では、アナログ信号を出力するセンサ167aに異常が生じたときには、オン・オフ信号を出力するセンサ167bのみによる位置決定は行なっていない。このように、シフトポジションの決定を行なえない異常が発生した場合にも、既述した両方のアクセルセンサに異常が発生した場合のように、発生した異常に伴ってさらなる異常が発生するおそれがあることを考慮しつつ、できるだけの走行性能を確保して、退避行動を可能にすることが望ましい。もとより、シフトポジションセンサを、既述したアクセルセンサのように、それぞれ単独で位置を検出できる2つのセンサによって構成する場合には、一方のセンサに異常が生じたときには、正常なもう一方のセンサを用いて位置決定を行ない、出力制限して走行を継続することとしても良い。
(5−3)モータの電流センサ異常時:
モータMG2は、既述したように機械的に車軸に接続しており、車軸に対して直接駆動力を付与することができる。このモータMG2は、三相の同期モータであり、各ステータに設けられた三相コイルに所定の電流を流すことによって所定の磁界を形成し、ロータが備える永久磁石による磁界との相互作用により回転駆動する。既述したように、モータ主制御CPU262は、マスタ制御CPU272から与えられたモータMG2に関するトルク要求値T2req に応じて、第2モータ制御CPU266に電流要求値I2reqを供給する。第2モータ制御CPU266は、電流要求値I2reqに従って駆動回路192を制御して、モータMG2の三相コイルに所定の電流を流して、モータMG2を駆動する。ここで、駆動回路192には、各三相コイルに流れた電流値を測定する電流センサが設けられており、この測定された実測電流値I2det は、第2モータ制御CPU266に供給される(図2参照)。第2モータ制御CPU266では、このように実際に三相コイルに流た電流値の実測値をフィードバックして、流すべき電流値と実際に流れた電流値との間のズレ量を修正する制御を行なう。
ここで、駆動回路192に設けた上記電流センサにおいて異常が検出されると、本実施例のハイブリッド車両では、電流センサが測定した電流値を用いて三相コイルに流す電流値の補正を行なう制御を停止すると共に、運転者に対して既述した所定の警告を行なう。なお、電流センサにおける異常の検出は、例えば、既述したアクセルセンサにおける異常の検出と同様に、センサが正常であれば通常は現われない信号パターンを、第2モータ制御CPU266のために設けた図示しないROMに予め記憶しておき、電流センサからの出力信号が、記憶しておいた異常のパターンに合致したときに、異常が発生したと判断することができる。
このように電流センサに異常が検出されたときには、モータMG2の三相コイルに流れた電流の実測値を上記したようにフィードバックする制御を行なうことができなくなる。したがって、電流センサに異常が発生した後は、上記電流要求値I2req に従って駆動回路192が一方的に制御されるだけとなり、要求された電流値と実際に流れた電流値との間にズレが生じていても、そのまま走行を続行する。
上記電流センサの異常は、動力発生装置からの動力の出力を直接損なうものではない。したがって、上記した実際に流れた電流値をフィードバックしない制御を行なう際にも、正常時と同様に算出された電流要求値I2req に従って駆動回路192を制御することが可能であるが、本実施例では、モータMG2を駆動するためにバッテリ194から持ち出す電力を正常時よりも低く抑える(例えば正常時の80%に抑える)制御を行なうことで、正常時よりも出力を制限している。電流センサの異常時においても、既述したアクセルセンサの異常時と同様に、最高車速を設定して出力を制限することとしても良いが、電流センサの異常はさらなる他の異常を引き起こすおそれの小さい異常であるため(MG2の制御の正確さが損なわれるため、エネルギ効率の若干の低下や、車両走行に関わる操作に対する反応性の若干の悪化などのおそれはあるものの、直ちにさらなる異常を引き起こすおそれが小さい故障であると考えられるため)、本実施例のハイブリッド車両では、このような最高車速の制限は設けず、バッテリ194からモータMG2への出力電力量を抑えるという出力制限を行なうことで、加速性能を若干低下させている。また、このようにモータMG2を駆動するためにバッテリ194から持ち出す電力を正常時よりも低く抑えることで、MG2の制御の正確さが損なわれてしまう異常の発生時に、非所望の量の電流がMG2に供給されてしまうのを抑えている。
したがって、本実施例のハイブリッド車両によれば、電流センサに異常が検出されたときにも、発生した異常の種類に応じて充分な走行性能を確保して退避行動をとることができる。さらに、バッテリ194からモータMG2への出力電力量を抑えて加速性能を若干低下させることで、モータMG2への駆動信号の精度が低下している際の安全性を充分に確保している。
なお、上記したように電流センサの異常は、この異常によってさらなる異常が引き起こされるおそれの小さい異常であるため、最高車速による制限は行なわず、加速性能を低下させる制限を行なうこととしたが、異常が発生した状態で必要以上に走行を継続するのを抑えるために、段階的にさらに出力制限を行なうこととしても良い。例えば、既述した実施例と同様に、電流センサの異常が検出されてから所定時間経過後、あるいは、所定の距離を走行後、段階的に最高車速の制限を設定することとしても良い。
(5−4)バッテリ電圧信号異常時:
バッテリ194から駆動回路191,192に電力を供給する回路には、バッテリ194の出力電圧値VBを検出する電圧センサが設けられており、検出された電圧値VBは、既述したように、マスタ制御CPU272およびモータ主制御CPU262に供給される。マスタ制御CPU272では、エンジン150,モータMG1,MG2の回転数やトルク配分などの制御量を決定する際に、この出力電圧値VBを利用する。また、モータ主制御CPU262では、マスタ制御CPU272から与えられたモータMG1,MG2に関するトルク要求値T1req,T2req に応じて、2つのモータ制御CPU264,266にそれぞれ供給する電流要求値I1req ,I2req を決定する際に、この出力電圧値VBを利用する。このように、マスタ制御CPU272およびモータ主制御CPU262に供給される出力電圧値VBは、モータMG1,MG2を駆動する制御のために用いられる。
ここで、バッテリ194の出力電圧値VBの信号に異常が検出されると、本実施例のハイブリッド車両では、上記電圧センサが検出した電圧値を用いる制御を停止すると共に、運転者に対して既述した所定の警告を行なう。なお、出力電圧値VBの信号異常の検出は、例えば、既述したアクセルセンサにおける異常の検出と同様に、センサが正常であれば通常は現われない信号パターンを、マスタ制御CPU272のために設けた図示しないROMに予め記憶しておき、出力電圧値VBに関する信号が、記憶しておいた異常のパターンに合致したときに、異常が発生したと判断することができる。
出力電圧値VBの信号異常が検出されると、マスタ制御CPU272およびモータ主制御CPU262は、上記したようにエンジン150およびモータMG1,MG2の制御量を決定する際に、バッテリ194の出力電圧に関する実測値を利用することができなくなる。そこで、出力電圧値VBの信号異常が検出されたときには、マスタ制御CPU272は、バッテリ194の出力電圧値の推定値を算出して、この推定値を実測値の代わりに用いて制御量を決定すると共に、この推定値をモータ主制御CPU262に供給して電流要求値I1req ,I2req の決定に供し、車両の走行を続行可能にする。
バッテリ194の出力電圧値の推定値は、ハイブリッド車両における電気エネルギ収支の式に基づいて求める。バッテリ194から出力された電力量と、ハイブリッド車両においてバッテリ194から電力の供給を受ける各部での電力消費量とは等しいため、以下に示す(4)式が成り立つ。
出力電流(IB)×出力電圧(VB)
=MG1消費電力+MG2消費電力+電源制御回路消費電力…(4)
バッテリ194から電力の供給を受けるのは、MG1,MG2および、電源制御回路274を介して降圧された電力を供給されるメインECU210内の各回路である。モータMG1,MG2における消費電力量は、モータMG1,MG2から出力されたトルクと、モータMG1,MG2の回転数とをそれぞれ乗じることによって求めることができる。実際にマスタ制御CPU272が上記消費電力量を算出するときには、マスタ制御CPU272からモータ主制御CPU262に与えられたモータMG1,MG2に関するトルク要求値T1req,T2reqと、モータMG1,MG2の回転数センサからモータ主制御CPU262を介してフィードバックされる回転数REV1,REV2との積として求めることができる。また、電源制御回路274を介した電力消費量は、電源制御回路274によって降圧される電圧値として予め定められた電圧値(本実施例のハイブリッド車両では12V)と、降圧されて各回路に供給される電流値を測定するために電源制御回路274内に設けた所定の電流センサ(図示せず)が検出した電流値との積として算出することができる。
バッテリ194からの出力電流値IBは、既述したようにマスタ制御CPU272に入力されている。なお、図2では、バッテリ194から電源制御回路274への出力の記載は省略されているが、所定の電流センサによって検出される出力電流値IBは、駆動回路191,192だけでなく電源制御回路274に供給される電力を含めた、バッテリ194からの総出力電流値である。マスタ制御CPU272は、以上の値と上記(4)式より出力電圧値の推定値を算出し、この推定電圧値を用いてモータMG1,MG2などの制御量を決定する。
このような電圧センサの異常は、動力発生装置からの動力出力の動作を直接損なうものではない。したがって、上記した出力電圧値の推定値を用いて制御を行なう際にも、出力制限を行なわずに正常時と同様の制御を行なうことが可能であるが、本実施例では、既述した電流センサ異常時と同様に、モータMG2を駆動するためにバッテリ194から持ち出す電力を正常時よりも低く抑える制御を行なうことで、正常時よりも出力を制限している。また、電圧センサの異常時においても、既述したアクセルセンサの異常時と同様に、最高車速を設定して出力を制限することとしても良いが、電圧センサの異常は、さらなる他の異常に直接結びつくものではないため(上記推定値は実測値に比べて精度が劣り、モータMG1,MG2の制御の正確さが損なわれるため、エネルギ効率の若干の低下や、車両走行に関わる操作に対する反応性の若干の悪化などのおそれはあるものの、直ちにさらなる異常を引き起こすおそれはあまり大きくないと考えられるため)、本実施例のハイブリッド車両では、このような最高車速の制限は設けず、バッテリ194からモータMG2への出力電力量を抑えるという出力制限を行なうことで、加速性能を若干低下させている。
したがって、本実施例のハイブリッド車両によれば、電圧センサに異常が検出されたときにも、発生した異常の種類に応じて充分な走行性能を確保して退避行動をとることを可能にしている。さらに、バッテリ194からモータMG2への出力電力量を抑えて加速性能を低下させることで、モータMG1,MG2への駆動信号の精度が低下している際の安全性を充分に確保している。
なお、上記したように電圧センサの異常は、この異常によってさらなる異常が引き起こされるおそれの小さい異常であるため、最高車速による制限は行なわず、加速性能を低下させる制限を行なうこととしたが、異常が発生した状態で必要以上に走行を継続するのを抑えるために、段階的にさらに出力制限を行なうこととしても良い。例えば、既述した実施例と同様に、電圧センサの異常が検出されてから所定時間経過後、あるいは、所定の距離を走行後、段階的に最高車速の制限を設定することとしても良い。
(5−5)エンジン系の異常時:
本実施例のハイブリッド車両では、エンジン150あるいはエンジンECU240に異常が発生してエンジン150から動力を出力することができなくなった場合にも、バッテリ194に蓄えられた電力を利用してモータMG2を駆動することにより、車両の走行を続行することができる。このようにエンジン150から動力が出力されない状態では、走行性能は正常時に比べて所定の制限を受ける。また、エンジン150に異常が生じたときには、異常が発生した時点でバッテリ194に蓄えられているエネルギを消費してしまうと車両の走行はできなくなる。従って本実施例のハイブリッド車両では、エンジン150に異常が発生してバッテリ194だけをエネルギ源として走行を続行する場合には、バッテリ194の残存容量(SOC)が高い間は、運転者からの加速要求に応じたある程度の走行性能を確保して必要な退避行動を可能としており、残存容量が所定量以下に低下した後は、できる限り航続距離を伸ばすために出力の制限(車速の制限)を行なう。
エンジン150における異常の発生は、エンジン150に設けられた各種センサなどから入力される検出信号のパターンなどによって、エンジンECU240が検出する。異常が発生したときには、エンジンECU240は、マスタ制御CPU272に異常検出信号を出力して異常の発生を通知すると共に、エンジン150の運転を停止する。
図13は、エンジン異常処理ルーチンを表わすフローチャートである。本ルーチンは、マスタ制御CPU272において、所定の時間ごとに実行されている。本ルーチンが実行されると、マスタ制御CPU272は、まず、異常履歴登録回路280内のEEPROM282(図4)を参照して、ここに異常発生に関わる履歴が登録されているかどうかを判断する(ステップS200)。後述するように、エンジン150における異常が検出されたときにも、その異常発生に関わる情報が、異常履歴登録回路280内のEEPROM282(図4)に登録される。したがって、この異常履歴登録回路280内のEEPROM282を参照することによって、すでにエンジン150に異常が発生しているかどうかを知ることができる。あるいは、異常履歴登録回路280内のEEPROM282とは別に、マスタ制御CPU272のための図示しないROMに異常の発生を記憶し、これを参照することとしても良い。
異常履歴登録回路280内のEEPROM282に異常の発生が記憶されていないときには、エンジンECU240からの異常検出信号の入力の有無によって、エンジン150に異常が発生しているかどうかを判断する(ステップS210)。ステップS210においてエンジン150の異常が検出されると、マスタ制御CPU272は、エンジン150を用いずモータMG2から出力される動力だけを車両の駆動力とするよう制御を切り替えると共に、最高車速を100km/hに設定する。また、エンジン150に異常が発生したことを異常履歴登録回路280内のEEPROM282に記憶すると共に、異常の発生を運転者に通知するために、既述した表示や音声あるいは人工的に発生させた振動などによる警告を行なう(以上、ステップS220)。
エンジン150を停止してモータMG2からの動力だけで走行する際にも、正常時と同様に、そのときの車速とアクセル開度とに基づいて車軸から出力すべきトルク要求値を決定する。しかしながらエンジン150を停止する制御を行なうときには、エンジン150,モータMG1,MG2の回転数やトルクの配分等の制御量を決定し、各CPUやECUに各種の要求値を供給する代わりに、決定したトルク要求値をすべてモータMG2によって出力する制御が行なわれる。このようにモータMG2を用いて所望の駆動力を発生するときには、モータMG2の能力の範囲内で駆動力を出力可能となるが、本実施例のハイブリッド車両では、既述したプラネタリギヤが備えるサンギヤ121の機械的な限界によって、エンジン150の停止時には最高車速を100km/hに制限している。このサンギヤ121の機械的な限界による車速制限については、後に詳しく説明する。このように最高車速を設定すると、車速がこの最高車速に達した後は車両の加速を禁止する。すなわち、車速が最高車速に達した後は、アクセル開度に関わらずMG2からのトルクの出力を禁止する。
次に、マスタ制御CPU272は、バッテリ194の残存容量(SOC)の読み込みを行なう(ステップS230)。バッテリ194のSOCは、バッテリECU230が、バッテリ194において出入力される電力量を経時的に積算することによって算出しており、マスタ制御CPU272は、バッテリECU230からこのように積算して求めたSOC値を入力する。
バッテリ194の残存容量を読み込むと、次に、この残存容量が80%以上であるかどうかを判断する(ステップS240)。残存容量が80%以上の場合には、残存容量が80%未満となるまでステップS230およびステップS240の処理を繰り返して、最高車速を100km/hに設定した制御を継続する。ステップS240において、残存容量が80%未満であると判断されると、最高車速の設定を60km/hに変更する(ステップS250)。
次に、再びバッテリ194の残存容量の読み込みを行ない(ステップS260)、残存容量が70%以上であるかどうかを判断する(ステップS270)。残存容量が70%以上の場合には、残存容量が70%未満となるまでステップS260およびステップS270の処理を繰り返して、最高車速を60km/hに設定した制御を継続する。ステップS270において、残存容量が70%未満であると判断されると、最高車速の設定を45km/hに変更する(ステップS280)。
次に、再びバッテリ194の残存容量の読み込みを行ない(ステップS290)、残存容量が50%以上であるかどうかを判断する(ステップS300)。残存容量が50%以上の場合には、残存容量が50%未満となるまでステップS290およびステップS300の処理を繰り返して、最高車速を45km/hに設定した制御を継続する。ステップS300において、残存容量が50%未満であると判断されると、最高車速の設定を20km/hに変更して(ステップS280)、本ルーチンを終了する。
なお、本ルーチンにおいて、ステップS210でバッテリ194における異常が検出されなかったときには、そのまま本ルーチンを終了する。また、ステップS200において、バッテリ194の異常が記憶されていると判断されたときには、エンジンを停止してMG2により駆動力を得る制御を続行すると共に、最高車速を20km/hに設定する制御を続行し(ステップS320)、本ルーチンを終了する。
ここで、既述したサンギヤ121の機械的な限界による車速制限について説明する。プラネタリギヤ120では、これが備える3つの回転軸であるプラネタリキャリア軸127,サンギヤ軸125,リングギヤ軸126のうち、2つの回転軸の回転数および一つの回転軸のトルク(以下、所定の回転軸における回転数とトルクとを合わせて回転状態と呼ぶ)が決定されると、すべての回転軸の回転状態が決まるという性質を有している。これら3つの回転軸の回転数の間に成り立つ関係はすでに式(1)に示しており、これら3つの回転軸におけるトルクの関係はすでに式(2)および(3)に示している。このように、各回転軸の回転状態の関係は、機構学上周知の計算式によって求めることができるが、共線図と呼ばれる図により幾何学的に求めることもできる。
図14に共線図の一例を示す。縦軸は、各回転軸の回転数を示している。横軸は、各ギヤのギヤ比を距離的な関係で示している。サンギヤ軸125(図14中のS)とリングギヤ軸126(図14中のR)とを両端にとり、位置Sと位置Rとの間を1:ρに内分する位置Cを、プラネタリキャリア軸127の位置とする。既述したように、ρは、リングギヤ122の歯数に対するサンギヤ121の歯数の比である。こうして横軸上に定義された位置S,C,Rに対して、それぞれのギヤの回転軸の回転数Ns,Nc,Nrをプロットする。プラネタリギヤ120は、このようにプロットされた3点が、必ず一直線上に並ぶという性質を有している。この直線を動作共線と呼ぶ。直線は、2点が決まれば一義的に決定されるものであるため、この動作共線を用いることにより、3つの回転軸のうちの2つの回転軸の回転数から、残る1つの回転軸の回転数を求めることができる。なお、既述したように、エンジン150のクランクシャフト156はプラネタリキャリア軸127に結合されており、モータMG1のロータ132は、サンギヤ軸125に結合されており、モータMG2のロータ142は、車軸に機械的に結合されたリングギヤ軸126に結合されており、各回転軸の回転数は、それぞれ、エンジン150,モータMG1,MG2の回転数に対応している。
図14の共線図は、エンジン150を停止させてモータMG2を駆動することによって走行している状態に対応している。エンジン150を停止させるとプラネタリキャリア軸127の回転数(Nc)は値0となり、所定の駆動量を出力するモータMG2に結合するリングギヤ軸126は、車速に対応する回転数(Nr)で回転し、トルクを出力しないモータMG1に結合するサンギヤ軸125は、上記2つの回転軸の回転数によって定まる回転数(Ns)で回転する。このように、エンジン150が停止してプラネタリキャリア軸127の回転数が値0である時には、車速が上昇してモータMG2の回転数(すなわちリングギヤ軸126の回転数Nr)が上昇するほど、サンギヤ軸125の回転数Nsも上昇する。プラネタリギヤ120を構成する各ギヤには、機械的強度の問題から回転数の上限がある。本実施例のハイブリッド車両では、このようにエンジン150を停止させてモータMG2を駆動することによって走行する状態では、車両を駆動するモータMG2の回転数がモータMG2の能力の限界に達する前に、サンギヤ軸125の回転数Nsがサンギヤ軸125の機械的な限界に達してしまう。エンジン150が停止しているときに、サンギヤ軸125の回転数Nsが限界を超えないように設定されるリングギヤ軸126の回転数Nrの限界値に対応する車速が、本実施例のハイブリッド車両では100km/hであり、図13のエンジン異常処理ルーチンのステップS220では、エンジン150を停止するよう制御を変更する際に、最高車速を100km/hに設定している。
以上のように構成した本実施例のハイブリッド車両によれば、エンジン150で異常が発生した時には、上記ギヤの機械的強度による限界に応じた最高車速を設定しつつモータMG2を用いて走行を続行するため、エンジン150に異常が検出されたときにも、発生した異常の種類に応じて充分な走行性能を確保して退避行動をとることが可能となっている。すなわち、異常発生時に高速で走行中であっても充分な退避行動をとることを可能にすると共に、上記最高車速の設定によって車両の安全性を向上させている。
また、既述したように、エンジン150の異常時には、バッテリ194に蓄積されたエネルギ量の範囲内でのみ車両の走行が可能となるため、本実施例のハイブリッド車両では、残存容量の低下に応じて出力制限を行ない(最高車速の設定を厳しくし)、退避行動の際の走行距離を確保している。異常発生時には、ある程度の走行性能を確保することで高速走行時において退避行動に移る際の安全性を確保しているが、その後は、走行性能を徐々に抑えることで、運転者に対して発生した異常に対する早急な対処を促すと共に、安全な場所へ移動するための走行距離を確保することができる。最終的には最高車速を20km/hに設定することによって、バッテリ194にエネルギが残っている限り車両を移動させる性能は確保される。このように、エンジン150における異常は、最終的には(バッテリ194の残存容量がなくなると)車両の移動ができなくなる異常であるため、異常発生直後は充分な走行性能を確保するものの、その後は段階的に走行性能を低下させ、図3(D)に示したように充分に走行性能を抑えると共に、安全な場所へ移動するための走行可能な距離をできる限り確保することとしている。
なお、図13に示したエンジン異常処理ルーチンでは、バッテリ194の残存容量(SOC)が所定の値(80%、70%、50%など)になったかどうかを判断して、それぞれ所定の最高車速(60km/h、45km/h、20km/hなど)を設定している。これら基準となるSOCの値や設定する最高車速の値は、図13に示した値に限るものではなく、車両に許容する走行性能などに応じて種々の段階に分けて種々の値を適宜設定することができる。残存容量の低下に伴って最高車速の制限を次第に厳しくすることによって、既述した所定の効果を得ることができる。
また、上記実施例では、エンジン150の異常が検出されたときには、サンギヤ121の機械的な強度による制限によって最高車速を設定したが、機械的な強度による制限により定まる車速よりも低い車速を、異常発生時に最高車速として設定することとしても良い。もとより、ギヤの能力やモータの能力が充分であってより高速で走行可能な場合には、アクセルセンサ異常時と同様に、異常発生時の車速に応じて最高車速を設定することとしても良い。これによって、異常発生時に退避行動をとるための走行性能を確保すると共に、非所望のエネルギ消費を抑えることができる。
あるいは、上記実施例では、バッテリ194の残存容量に従って、出力制限(最高車速の制限)を段階的により厳しく設定することとしたが、出力制限を段階的に強めていく際には、既述したアクセルセンサ異常時などと同様に、異常発生後の経過時間や走行距離を考慮することとしても良い。
また、上記実施例では、異常が検出されたときには、異常検出時の車速に関わらず最高車速を100km/hに設定することとしたが、異常発生時の車速に応じて最高車速を設定することとしても良い。このような構成としても、異常発生時に充分な走行性能が確保されることで、より安全な退避行動を可能にすることができる。
以上、種々の異常発生時における動作について説明したが、本実施例のハイブリッド車両では、これらの他にも種々の異常が発生することが考えられる。例えば、既述したセンサ以外のセンサに異常が生じたり、ハイブリッド車両が備える各ECUに異常が生じたり、ECUやCPU間の通信に異常が生じたり、バッテリ194やモータに異常が生じる可能性もあるが、本発明を適用することによって、それぞれの異常の種類に応じて、退避行動を可能にする出力を確保することができる。発生した異常が、動力発生装置の動作を直接損なわない異常であれば、発生した異常の種類に応じて最高車速の設定などによって出力を制限することで、走行の安全性を確保することができる。また、発生した異常が、動力発生装置の動作に直接影響する異常である場合には、異常を起こした部位を用いない制御に変更し、このような制御の変更が正常時に比べて出力の低下を伴うものである場合には、このような制御の変更によって結果的に出力が抑えられることで走行の安全性を確保しつつ、残っている正常な機能を用いて、退避行動のためのできる限りの走行性能を確保する。また、このように異常発生時に制御を切り替えて、異常の種類に応じて走行性能を低下させた後も、段階的にさらに走行性能を低下させることで、異常が発生した状態で必要以上に走行を続行してしまうのを抑え、安全性を高めることができる。さらに、異常発生時に出力を制限する場合にも、車両の走行状態に応じて対応を変えることが望ましい。例えば、異常発生直後には、設定すべき出力制限を越えた走行性能を確保することで、高速走行時に退避行動をとる際の安全性を高めることができる。
以上本発明の実施例について説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる様態で実施し得ることは勿論である。