JP3910038B2 - 前配向糸パッケージとその製造方法 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成されたパッケージおよびその製造方法に関する。更に詳しくは、長期間にわたって高温に暴露されても仮撚条件を変更することなく仮撚加工が可能で、しかも仮撚加工糸の染着性が安定な、衣料用に適したポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成されたパッケージおよびその製造方法に関する。
【０００２】
【従来の技術】
ポリトリメチレンテレフタレート（以下、ＰＴＴ、という）繊維は、ヤング率が低く、編織物等の衣料用途に用いた場合にソフトな風合いを有することから、近年その需要が大きく拡大しつつある。なかでも、ＰＴＴ繊維を仮撚加工すると、ソフトな風合いと高いストレッチバック性が得られることから、スポーツ衣料分野への利用が見込まれている。仮撚加工には、ＰＴＴを高速で紡糸して得られる前配向糸を延伸仮撚するのが一般的である。
【０００３】
ＰＴＴ前配向糸の先行技術として、（Ａ）特表平９−５０９２２５号公報、（Ｂ）特開昭５８−１０４２１６号公報、（Ｃ）「ＣｈｅｍｉｃａｌＦｉｂｅｒｓＩｎｔｅｒｎａｔｉｏｎａｌ」４７巻、１９９７年２月発行、ｐ．７２〜７４、（Ｄ）特開２０００−２３９９２１号公報、（Ｅ）特開２００１−２０１３６号公報、（Ｆ）特開２００１−６４８２４号公報等が知られている。先行技術（Ａ）には、紡糸速度２０００〜５０００ｍ／分で巻き取られた糸が、（Ｂ）には、紡糸速度２０００ｍ／分以上で得られる、複屈折率が０．０３５以上の延伸のための前配向糸が示されている。先行技術（Ｃ）には、ゴデットロールを用いず、または冷たいゴデットロールを介した後、３０００〜６０００ｍ／分で巻取った仮撚加工のための部分配向糸が示されている。
【０００４】
ＰＴＴの前配向糸は、従来のポリエチレンテレフタレートの前配向糸と大きく異なり、巻取り過程や巻取り後に繊維の収縮が生じるという特性がある。このために、巻取り過程の問題として、例えば、数ｋｇの前配向糸を巻いたパッケージが巻取り機から抜けなくなるというトラブルが生じる。更に、パッケージを長期間保管すると、巻形状の変形やパッケージ端部に起因する糸質の変化が生じる。
【０００５】
先行技術（Ｄ）には、巻取り時のパッケージ抜き取りトラブルを解消する目的で、前配向糸の放縮率を０．２〜１．５％となるように、巻取り過程で前配向糸を加熱処理する方法が提案されている。先行技術（Ｅ）及び（Ｆ）には、パッケージの経時的な変形を解消する目的で、前配向糸の沸水収縮率が３〜１５％となるように前配向糸を巻き取る過程で熱処理を施すことが提案されている。更に、パッケージの端面に起因する染着率の周期的斑の解消に関しては、本発明者らが既に、特願２０００−１３９４５６号において提案を行っている。しかしながら、これらの課題とは別に、ＰＴＴ前配向糸パッケージは、予測されない程の高温下に晒されたり、赤道を越えた輸送等を行うと、糸質の変化が生じる問題があることが明らかになった。すなわち、ＰＴＴ前配向糸パッケージを高温に曝露すると、前配向糸を仮撚加工する際に仮撚ヒーター上を走行する糸の張力（以下、仮撚張力、という）が、曝露されていない前配向糸の仮撚張力よりも低くなり、仮撚加工に際し糸切れが増加することが明らかになった。しかも、得られた仮撚加工糸を布帛にして染色すると、曝露条件の相違によって染着率に差が生じることが明らかになった。
【０００６】
前配向糸が曝露条件の相違によって染着率に差が生じると、製造日が異なる前配向糸を混合して仮撚加工に供することができなくなり、製造ロットごとに区分して加工および布帛への投入を行うことが必要となり、煩雑な作業を要し、工業的には極めて重要な問題が生じる。先行技術（Ｄ）、（Ｅ）および（Ｆ）に開示されるた方法で熱処理することによっても、予測されない程の高温暴露による染着率差を解決することは不可能であった。先行技術に開示されている熱処理を更に強化して解決しようとすると、ゴデットロール上での前配向糸の走行が不安定となり、連続した巻取りが困難になる。
【０００７】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ＰＴＴ前配向糸を高速で巻き取って得られるＰＴＴ前配向糸パッケージであって、長期間の高温暴露によっても仮撚加工中の糸切れや仮撚加工糸の染着差を発生させない、ＰＴＴ前配向糸から構成されたパッケージの製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、衣料用に適したＰＴＴ前配向糸パッケージであって、長期間の高温暴露によっても一定の仮撚加工条件下で加工が可能であり、加工糸の染着性が安定したＰＴＴ前配向糸から構成されたパッケージの製造方法を提供することである。
【０００８】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ＰＴＴを紡糸し、延伸することなく巻取るに際し、前配向糸の巻取条件とパッケージの熱処理を特定の条件で行うことにより、上記課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
１）ポリメチレンテレフタレートを溶融紡糸し、延伸することなく巻き取ってポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成されたパッケージを製造するに際して、９５モル％以上のトリメチレンテレフタレート繰り返し単位と５モル％以下のその他のエステル繰り返し単位を有する、極限粘度が０．７〜１．３ｄｌ／ｇのポリトリメチレンテレフタレートを、下記（イ）および（ロ）を満足する条件で紡糸して巻き取り、得られたパッケージを（ハ）の条件で熱処理し、前配向糸の沸水収縮率を（ニ）とすることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成されたパッケージの製造方法。
（イ）紡糸速度：２５００〜３５００ｍ／分
（ロ）第１加熱ロールまたは第２加熱ロールとして、ロール温度が９０〜１８０℃、かつ、ロールの直径が糸導入部の直径よりも糸出口部の直径が２〜７％大きいテーパーロールを用いる
（ハ）パッケージの熱処理温度：３５〜６５℃
（ニ）前配向糸の沸水収縮率が３％未満
【０００９】
２）９５モル％以上のトリメチレンテレフタレート繰り返し単位と５モル％以下のその他のエステル繰り返し単位を有するポリトリメチレンテレフタレートからなり、以下の条件（１）〜（３）を満足するポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成され、上記１）記載の製造方法で得られたパッケージ。
（１）前配向糸の極限粘度：０．７〜１．３ｄｌ／ｇ
（２）前配向糸の破断伸度：６０〜１２０％
（３）パッケージから解舒した際の前配向糸の放縮率：＜０．２％
【００１０】
本発明を詳細に説明する。
本発明における第１の発明は、ＰＴＴ前配向糸から構成されたパッケージの製造方法である。
本発明を構成するＰＴＴは、９５〜１００モル％がトリメチレンテレフタレート繰り返し単位からなり、５〜０モル％がその他のエステル繰り返し単位からなる。すなわち、本発明におけるＰＴＴ前配向糸は、ＰＴＴのホモポリマー、及び５モル％以下のその他のエステル繰り返し単位を含む共重合ポリトリメチレンテレフタレートを含む。
【００１１】
共重合成分の代表例として、以下のものがあげられる。酸性分としては、イソフタール酸や５−ナトリウムスルホイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸、アジピン酸やイタコン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸等である。グリコール成分としては、エチレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等である。ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸もその例である。これらの複数が共重合されていてもよい。
本発明のＰＴＴ前配向糸には、本発明の効果を妨げない範囲で、酸化チタン等の艶消し剤、熱安定剤、酸化防止剤、制電剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、種々の顔料等の添加剤を含有又は共重合として含んでいてもよい。
【００１２】
次に、本発明の第１の発明であるＰＴＴ前配向糸パッケージの製造方法を、図１を用いて説明する。
図１において、乾燥機１で３０ｐｐｍ以下の水分率までに乾燥されたＰＴＴペレットを２５５〜２６５℃の温度に設定された押出機２に供給し溶融する。溶融ＰＴＴは、その後、ベンド３を経て２５０〜２６５℃に設定されたスピンヘッド４に送液され、ギヤポンプで計量される。その後、スピンパック５に装着された複数の孔を有する紡糸口金６を経て、マルチフィラメント７として紡糸チャンバー内に押し出される。押出機及びスピンヘッドの温度は、ＰＴＴペレットの極限粘度や形状によって上記範囲から最適なものを選ぶ。
【００１３】
紡糸チャンバー内に押し出されたＰＴＴマルチフィラメントは、冷却風８によって室温まで冷却固化され、仕上げ剤を付与された後、所定の速度で回転する引取ゴデットロール兼加熱ゴデットロール（以下、加熱ロール、という）１０、１１によって引き取られると共に熱処理されて、所定の繊度の前配向糸パッケージ１２として巻き取られる。この時、前配向糸は、加熱ロールに２〜１０回周回して加熱され、熱処理が行われるので、加熱ロールの表面温度が前配向糸の熱処理温度とほぼ等しくなる。
前配向糸１２は、第１加熱ロール１０に接する前に、仕上げ剤付与装置９によって仕上げ剤が付与される。前配向糸に付与する仕上げ剤は、通常、水系エマルジョンタイプが使用される。仕上げ剤の水系エマルジョンの濃度は、通常、５質量％以上、好ましくは１０〜３０質量％である。前配向糸には、必要に応じて、仕上げ剤付与装置９と第１加熱ロール１０との間及び／または第２加熱ロール１１と巻取の間で交絡付与装置により、交絡を付与してもよい。
【００１４】
上記方法により製造されたパッケージは、３５〜６５℃で長期間保管しても、一定の仮撚条件下で加工が可能であり、このパッケージから染着性が安定した仮撚加工糸を製造することができる。
本発明の前配向糸パッケージの製造方法において、下記の要件が重要である。
ＰＴＴの極限粘度は、０．７〜１．３ｄｌ／ｇであることが必要であり、好ましくは０．８〜１．１ｄｌ／ｇである。極限粘度が０．７ｄｌ／ｇ未満では、前配向糸を仮撚加工して得られる仮撚加工糸の強度が低く、この仮撚加工糸を用いた布帛の機械的強度が低下し、強度を要求されるスポーツ用途等への使用が制約される。極限粘度が１．３ｄｌ／ｇを越えると、前配向糸を仮撚加工に使用した際に、仮撚張力が高くなりすぎることによる糸切れが多発し、仮撚加工糸を安定して製造することが困難となる。本発明におけるＰＴＴポリマーの製造方法は、公知の方法でよく、その代表例は、一定の極限粘度までは溶融重合で重合度を上げ、続いて固相重合で所定の極限粘度に相当する重合度まで上げる２段階法である。
【００１５】
（イ）紡糸速度
本発明のＰＴＴ前配向糸パッケージの製造方法において、紡糸速度を２５００〜３５００ｍ／分とすることが必要であり、好ましくは２５００〜３２００ｍ／分、より好ましくは２７００〜３２００ｍ／分である。
紡糸速度とは、第１加熱ロール１０の周速度である。紡糸速度が２５００ｍ／分未満では、前配向糸の配向度が低いために、加熱ロール１０または１１による熱処理中に糸切れが生じ易くなり、本発明の前配向糸を工業的に安定して製造することは困難である。紡糸速度が３５００ｍ／分を越えると、前配向糸の配向度が高いために、仮撚加工速度が７００ｍ／分以上の高速仮撚に対応できない。
【００１６】
（ロ）加熱ロール
本発明のＰＴＴ前配向糸パッケージの製造方法においては、第１加熱ロールまたは第２加熱ロールとして、ロール温度が９０〜１８０℃、かつ、ロールの直径が糸導入部の直径よりも糸出口部の直径が２〜７％大きいテーパーロールを用いることが必要である。
ＰＴＴ前配向糸を加熱ロールで熱処理する場合、前配向糸の繊維構造変化およびそれに伴う前配向糸の伸張による加熱ロール上での糸揺れが発生する。糸揺れが大きくなると加熱ロール上での糸切れが増えるため、前配向糸を工業的に製造する際の安定性が低下する。糸揺れを抑制するために、根元から先端にかけて直径が増加する、すなわち、周速度が速くなるテーパーロールが必要である。加熱ロールの先端部の直径と根元部の直径の比率（以下、テーパー率、という）が２％未満であると、根元部から先端部にかけての周速度勾配が小さいために、テーパーロールを使用する最大の目的であるロール上でのＰＴＴ前配向糸の糸揺れを抑制する効果が不足する。加熱ロールのテーパー率が７％を越えると、加熱ロール上での前配向糸の延伸が顕著となり、その結果、糸長方向での繊度変動が顕著となる。その上、テーパー率が７％を越えることは、根元部から先端部にかけての周速度勾配が大きいことを意味し、１つのロールに複数本同時に前配向糸を熱処理する場合には、それぞれの前配向糸の糸道違いによる物性差が顕著となる。
【００１７】
加熱ロールとしてテーパーロールを用いてロール上での糸揺れを抑制する効果は、加熱ロール温度が高いほど、またロール表面の粗度が小さいほど大きい傾向がある。そのため、第１および第２加熱ロールそれぞれの温度およびロール粗度に応じて、テーパーロールを用いる加熱ロール位置を選択することができる。
加熱ロールとして、テーパーロールを用いた加熱ロール温度が９０℃未満では、熱処理温度としては不十分であり、本発明の請求項１に記載の沸水収縮率を３％未満にできない。加熱ロール温度が１８０℃を越えると、第２加熱ロール温度が高すぎることによる糸切れを生じるため、本発明の前配向糸を工業的に安定して製造することはできない。
【００１８】
（ハ）パッケージの熱処理温度
本発明において、パッケージの熱処理温度を３５〜６５℃とする必要があり、その技術的意義は前述の通りである。
本発明のＰＴＴ前配向糸パッケージは、原糸を延伸することなくそのまま編織物に用いてもよいし、撚糸や仮撚加工およびタスラン加工を施して使用してもよい。編織物には、全て本発明の前配向糸パッケージからの糸を使用してもよく、他の繊維と混合して使用してもよい。混繊複合する他の繊維としては、ポリエステル系繊維、セルロース系繊維、ナイロン６繊維、ナイロン６６繊維、アセテート繊維、アクリル系繊維、ポリウレタン弾性繊維、ウール、絹等の、長繊維及び短繊維等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【００１９】
（ニ）前配向糸の沸水収縮率
本発明のＰＴＴ前配向糸パッケージの製造方法は、沸水収縮率を３％未満とすることが必要である。沸水収縮率が３％以上であると、高温に暴露した時の繊維構造変化が大きくなり、仮撚張力低下に伴う仮撚切れが生じる。また、高温に暴露した時の繊維構造変化が大きいために前配向糸のパッケージフォームが悪化し、そのため仮撚加工中の解舒不良が発生する。
【００２０】
２）破断伸度
本発明を構成するＰＴＴ前配向糸は、破断伸度が６０〜１２０％であることが好ましく、より好ましくは７５〜１００％である。破断伸度が６０％未満では、高速仮撚加工、例えば、７００ｍ／分以上に対応することが困難である可能性がある。破断伸度が１２０％を越えると、仮撚時に糸切れや毛羽が発生したり、前配向糸を高温に暴露した時に繊維構造が変化するため、仮撚加工糸の染着性の安定性が損なわれる可能性がある。
【００２１】
３）パッケージから解舒した際の前配向糸の放縮率
さらに、本発明を構成するＰＴＴ前配向糸は、パッケージから解除した際の放縮率は０．２％未満であることが好ましい。放縮率が０．２％以上であると、長期間保管中に繊維構造の変化が生じ、加工糸の染着率差が顕著になる可能性がある。放縮率は、後述の方法により測定される。
【００２２】
本発明を構成するＰＴＴ前配向糸の繊度や単糸繊度は限定されない。通常、繊度は２０〜３００ｄｔｅｘ、単糸繊度は０．５〜２０ｄｔｅｘのものを使用するが、この範囲に限定されるものではない。前配向糸には、平滑性、収束性，制電性等を付与する目的で、仕上げ剤を前配向糸に対して０．２〜２質量％付与されていることが好ましい。解舒性や仮撚加工時の集束性を向上させる目的で、前配向糸は、５０ヶ／ｍ以下の単糸交絡が付与されていてもよい。
本発明を構成するＰＴＴ前配向糸パッケージと他の繊維との混繊複合糸は、他の繊維をインターレース混繊、インターレース混繊後延伸仮撚、どちらか一方のみ仮撚し、その後インターレース混繊、両方別々に仮撚後インターレース混繊、どちらか一方をタスラン加工後インターレース混繊、インターレース混繊後タスラン加工、タスラン混繊、等の種々の混繊方法によって製造することができる。かかる方法によって得た混繊複合糸には、交絡を１０個／ｍ以上付与することが好ましい。
【００２３】
本発明を構成する前配向糸パッケージの仮撚加工としては、一般に用いられているピンタイプ、フリクションタイプ、ニップベルトタイプ、エアー仮撚タイプ等の加工方法が採用される。仮撚ヒーターは、１ヒーター仮撚、２ヒーター仮撚のいずれであってもよいが、高いストレッチ性を得るためには１ヒーター仮撚の方が好ましい。仮撚加工は、延伸仮撚および非延伸仮撚のいずれであってもよい。仮撚ヒーター温度は、第１ヒーターの出口直後の糸温度が、好ましくは１３０〜２００℃、より好ましくは１５０〜１８０℃、最も好ましくは１６０〜１８０℃になるようにヒーター温度を設定する。
１ヒーター仮撚によって得られる仮撚加工糸の伸縮伸長率は１００〜３００％、伸縮弾性率は８０％以上であることが好ましい。必要に応じて第２ヒーターで熱セットして、２ヒーター仮撚加工糸としてもよい。第２ヒーターの温度は、１００〜２１０℃、好ましくは第１ヒーター出口直後の糸温度に対して−３０℃〜＋５０℃の範囲とするのが好ましい。第２ヒーター内のオーバーフィード率（第２オーバーフィード率）は＋３％〜＋３０％とするのが好ましい。
【００２４】
【発明の実施の形態】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
本発明で用いられる物性の測定方法及び測定条件は以下の通りである。
（１）極限粘度
極限粘度［η］は、次式の定義に基づいて求められる値である。
［η］＝Ｌｉｍηsp/C
Ｃ→０
定義中のηsp/Cは、純度９８％以上のｏ−クロロフェノールで溶解したＰＴＴの稀釈溶液の３５℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶液の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Ｃはｇ／１００ｍｌで表わされるポリマー濃度である。
【００２５】
（２）破断伸度、沸水収縮率
ＪＩＳ−Ｌ−１０１３に基づいて測定する。
（３）放縮率
巻取及び熱処理直後の前配向糸パッケージから、糸長１０００ｍｍの前配向糸を採取する。採取した前配向糸に、２０℃±２℃の室温下で０．０２４６ｃＮ／ｄｔｅｘの荷重をつけて上から吊し、その加重下で測定される糸長をＬ１とする。荷重をかけたままの状態で２４時間放置し、放置後の糸長をＬ２とする。Ｌ１およびＬ２より放縮率を次式にて算出する。
放縮率（％）＝［（Ｌ１−Ｌ２）］／［Ｌ１］×１００
【００２６】
（４）繊度変動
以下の方法で繊度変動値チャート（ＤｉａｇｒａｍＭａｓｓ）を求めると同時にＵ％を測定する。
測定器：イブネステスター（ツエルベガーウースター社製 ウースターテスターＵＴ−
３）
測定条件
糸速度 １００ｍ／分
デイスクテンション強さ １２．５％
テンション設定 １．０
入力圧力 ２．５ｈｐ
撚り Ｚ１．５
測定糸長 ２５０ｍ／分
スケール 糸の繊度変動に応じて設定
繊度変動値Ｕ％ 変動チャート及び表示される変動値を直読する。
【００２７】
（５）紡糸安定性
１錘当たり８エンドの紡口を装着した溶融紡糸−連続延伸機を用いて、２日間の溶融紡糸を行う。この期間中の糸切れの発生回数と、得られた延伸糸パッケージに存在する毛羽の発生頻度（毛羽発生パッケージの数の比率）から、以下のように判定する。
◎； 糸切れ０回、毛羽発生パッケージ比率 ５％以下
○； 糸切れ２回以内、毛羽発生パッケージ比率 １０％未満
×； 糸切れ３回以上、毛羽発生パッケージ比率 １０％以上
【００２８】
（６）仮撚加工性
下記条件で、前配向糸を１２パッケージ、各実施例毎に１日間、仮撚加工を行なう。
仮撚加工機 村田機械製作所（株）製３３Ｈ仮撚機
仮撚条件 糸速度 ７００ｍ／分
仮撚数 ３２３０Ｔ／ｍ
延伸比 加工糸の伸度が約４０％となるように設定する。
第１フィード率−１％
第１ヒーター温度１７０℃
この期間中の糸切れの発生回数から、以下のように判定する。
◎； 糸切れ０回
○； 糸切れ２回以内
×； 糸切れ３回以上
【００２９】
（７）加工糸染着差
紡糸及び熱処理終了直後の前配向糸から得られる加工糸と、紡糸及び熱処理終了後３５℃で３０日間保管した前配向糸から得られる加工糸との染着差で評価する。
仮撚加工糸を一口編みした後、精練・染色して品位を判定する。加工糸の染着率差の判定は、熟練したモニターが行う。
◎；染着差なし
○；染着差微少、許容範囲内
×；染着差有り
【００３０】
【実施例１〜３、比較例１〜２】
本実施例では、前配向糸の紡糸速度が前配向糸パッケージの物性、紡糸性及び加工性に及ぼす影響について説明する。
酸化チタンを０．４質量％含む、極限粘度０．９１ｄｌ／ｇのＰＴＴペレットを図１のような紡糸機及び巻取機を用いて、９８ｄｔｅｘ／３６フィラメントＰＴＴ前配向糸パッケージを製造した。
【００３１】
本実施例における紡糸条件は、以下の通りである。
（紡糸条件）
ペレット乾燥温度及び到達水分率 １１０℃、２５ｐｐｍ
押出機温度 ２５０℃
スピンヘッド温度 ２６５℃
紡糸口金孔径 ０．４５ｍｍ
ポリマー吐出量 前配向糸が９８デシテックスとなるように各紡 糸速度ごとに設定
冷却風条件温度 ２２℃、相対湿度９０％
速度０．５ｍ／ｓｅｃ
仕上げ剤 ポリエーテルエステルを主成分とする水系エマ ルジョン（濃度；１０質量％）
紡糸口金から仕上げ剤付与ノズルまでの距離 ７５ｃｍ
紡糸張力 ０．１１ｃＮ／ｄｔｅｘ
【００３２】
（巻取条件）
巻取機 帝人製機（株）製ＡＷ−９０９ボビン軸とコン
タクトロールの両軸が自己駆動
巻取にあたり、図１に示す２対の引取ゴデットロール兼加熱ゴデットロールを使用して、第１加熱ロールの周速度を調整して設定した。第１加熱ロールには鏡面ロールを、第２加熱ロールには梨地ロール（粗度３Ｓ）を用いた。
【００３３】
（前配向糸パッケージ）
繊度 ９８デシテックス
水分含有率 ０．６質量％
巻径 ３１ｃｍ
巻幅 １０ｃｍ
巻質量 ６．０ｋｇ／１ボビン
【００３４】
（仮撚加工糸物性）
繊度 ８４．５デシテックス
破断強度 ３．３ｃＮ／ｄｔｅｘ
破断伸度 ４２％
伸縮伸長率 １９２％
伸縮弾性率 ８８％
得られたＰＴＴ前配向糸パッケージからの加工糸を織物の緯糸として使用して、織物の品位を評価した。
その結果を表１に示す。表１から明らかなように、紡糸速度が本発明の範囲であれば、紡糸性も良好で、かつ、仮撚加工に使用しても工業的に問題のない前配向糸を得ることができた。
【００３５】
【実施例４〜７、比較例３〜７】
本実施例では、ＰＴＴ前配向糸を製造するに際し、熱処理条件（加熱ロール温度）が、前配向糸の伸度、紡糸性及び加工性にもたらす影響について説明する。
熱処理条件以外の紡糸条件および仮撚条件は、実施例２と同様に行い、実施例２と同様の巻形状のＰＴＴ前配向糸パッケージおよび加工糸を得た。
その結果を表２に示す。表２から明らかなように、熱処理温度が本発明の範囲であれば、紡糸性が良好で、かつ、仮撚加工に使用しても工業的に問題のない前配向糸を得ることができた。
【００３６】
【実施例８〜９、比較例８〜１０】
本実施例では、前配向糸巻取後の後処理温度の効果について説明する。
紡糸条件は、実施例２または比較例５と同様にして前配向糸パッケージを巻取後、前配向糸パッケージの後熱処理温度を異ならせて、表３に示す前配向糸を得た。
得られたＰＴＴ前配向糸パッケージをすぐに延伸仮撚を行い、得られた加工糸と、３５℃で３０日間保管した後に延伸仮撚を行い、得られた加工糸との染着差を評価した。
その結果を表３に示す。表３から明らかなように、後熱処理温度が本発明の範囲であれば、仮撚加工に使用しても工業的に問題がなく、しかも保管前後で染着差のない前配向糸を得ることができた。
【００３７】
【実施例１０〜１２、比較例１１】
本実施例では、加熱ロールにテーパーロールを使用する効果について説明する。
紡糸条件を、実施例２と同様にして前配向糸パッケージを巻取する際、第１加熱ロールのテーパー率を０〜１０％と変更した際の紡糸性を確認した。
その結果を表４に示す。表４から明らかなように、加熱ロール温度範囲及びテーパー率が本発明の範囲であれば良好な紡糸性が得られた。
【００３８】
【表１】
【００３９】
【表２】
【００４０】
【表３】
【００４１】
【表４】
【００４２】
【発明の効果】
本発明のＰＴＴ前配向糸パッケージの製造方法を実施することにより、長期間、高温で暴露された状態で保管された場合にも、一定の仮撚条件で加工が可能な前配向糸を供給することができる。
仮撚加工された糸は染着性が安定し、衣料用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の前配向糸パッケージ製造プロセスの概略図。
【符号の説明】
１：ポリマーチップ乾燥機
２：押出機
３：ベンド
４：スピンヘッド
５：スピンパック
６：紡糸口金
７：マルチフィラメント
８：冷却風
９：仕上げ剤付与装置
１０：第１加熱ロール
１１：第２加熱ロール
１２：前配向糸パッケージ
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成されたパッケージおよびその製造方法に関する。更に詳しくは、長期間にわたって高温に暴露されても仮撚条件を変更することなく仮撚加工が可能で、しかも仮撚加工糸の染着性が安定な、衣料用に適したポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成されたパッケージおよびその製造方法に関する。
【０００２】
【従来の技術】
ポリトリメチレンテレフタレート（以下、ＰＴＴ、という）繊維は、ヤング率が低く、編織物等の衣料用途に用いた場合にソフトな風合いを有することから、近年その需要が大きく拡大しつつある。なかでも、ＰＴＴ繊維を仮撚加工すると、ソフトな風合いと高いストレッチバック性が得られることから、スポーツ衣料分野への利用が見込まれている。仮撚加工には、ＰＴＴを高速で紡糸して得られる前配向糸を延伸仮撚するのが一般的である。
【０００３】
ＰＴＴ前配向糸の先行技術として、（Ａ）特表平９−５０９２２５号公報、（Ｂ）特開昭５８−１０４２１６号公報、（Ｃ）「ＣｈｅｍｉｃａｌＦｉｂｅｒｓＩｎｔｅｒｎａｔｉｏｎａｌ」４７巻、１９９７年２月発行、ｐ．７２〜７４、（Ｄ）特開２０００−２３９９２１号公報、（Ｅ）特開２００１−２０１３６号公報、（Ｆ）特開２００１−６４８２４号公報等が知られている。先行技術（Ａ）には、紡糸速度２０００〜５０００ｍ／分で巻き取られた糸が、（Ｂ）には、紡糸速度２０００ｍ／分以上で得られる、複屈折率が０．０３５以上の延伸のための前配向糸が示されている。先行技術（Ｃ）には、ゴデットロールを用いず、または冷たいゴデットロールを介した後、３０００〜６０００ｍ／分で巻取った仮撚加工のための部分配向糸が示されている。
【０００４】
ＰＴＴの前配向糸は、従来のポリエチレンテレフタレートの前配向糸と大きく異なり、巻取り過程や巻取り後に繊維の収縮が生じるという特性がある。このために、巻取り過程の問題として、例えば、数ｋｇの前配向糸を巻いたパッケージが巻取り機から抜けなくなるというトラブルが生じる。更に、パッケージを長期間保管すると、巻形状の変形やパッケージ端部に起因する糸質の変化が生じる。
【０００５】
先行技術（Ｄ）には、巻取り時のパッケージ抜き取りトラブルを解消する目的で、前配向糸の放縮率を０．２〜１．５％となるように、巻取り過程で前配向糸を加熱処理する方法が提案されている。先行技術（Ｅ）及び（Ｆ）には、パッケージの経時的な変形を解消する目的で、前配向糸の沸水収縮率が３〜１５％となるように前配向糸を巻き取る過程で熱処理を施すことが提案されている。更に、パッケージの端面に起因する染着率の周期的斑の解消に関しては、本発明者らが既に、特願２０００−１３９４５６号において提案を行っている。しかしながら、これらの課題とは別に、ＰＴＴ前配向糸パッケージは、予測されない程の高温下に晒されたり、赤道を越えた輸送等を行うと、糸質の変化が生じる問題があることが明らかになった。すなわち、ＰＴＴ前配向糸パッケージを高温に曝露すると、前配向糸を仮撚加工する際に仮撚ヒーター上を走行する糸の張力（以下、仮撚張力、という）が、曝露されていない前配向糸の仮撚張力よりも低くなり、仮撚加工に際し糸切れが増加することが明らかになった。しかも、得られた仮撚加工糸を布帛にして染色すると、曝露条件の相違によって染着率に差が生じることが明らかになった。
【０００６】
前配向糸が曝露条件の相違によって染着率に差が生じると、製造日が異なる前配向糸を混合して仮撚加工に供することができなくなり、製造ロットごとに区分して加工および布帛への投入を行うことが必要となり、煩雑な作業を要し、工業的には極めて重要な問題が生じる。先行技術（Ｄ）、（Ｅ）および（Ｆ）に開示されるた方法で熱処理することによっても、予測されない程の高温暴露による染着率差を解決することは不可能であった。先行技術に開示されている熱処理を更に強化して解決しようとすると、ゴデットロール上での前配向糸の走行が不安定となり、連続した巻取りが困難になる。
【０００７】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ＰＴＴ前配向糸を高速で巻き取って得られるＰＴＴ前配向糸パッケージであって、長期間の高温暴露によっても仮撚加工中の糸切れや仮撚加工糸の染着差を発生させない、ＰＴＴ前配向糸から構成されたパッケージの製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、衣料用に適したＰＴＴ前配向糸パッケージであって、長期間の高温暴露によっても一定の仮撚加工条件下で加工が可能であり、加工糸の染着性が安定したＰＴＴ前配向糸から構成されたパッケージの製造方法を提供することである。
【０００８】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ＰＴＴを紡糸し、延伸することなく巻取るに際し、前配向糸の巻取条件とパッケージの熱処理を特定の条件で行うことにより、上記課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
１）ポリメチレンテレフタレートを溶融紡糸し、延伸することなく巻き取ってポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成されたパッケージを製造するに際して、９５モル％以上のトリメチレンテレフタレート繰り返し単位と５モル％以下のその他のエステル繰り返し単位を有する、極限粘度が０．７〜１．３ｄｌ／ｇのポリトリメチレンテレフタレートを、下記（イ）および（ロ）を満足する条件で紡糸して巻き取り、得られたパッケージを（ハ）の条件で熱処理し、前配向糸の沸水収縮率を（ニ）とすることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成されたパッケージの製造方法。
（イ）紡糸速度：２５００〜３５００ｍ／分
（ロ）第１加熱ロールまたは第２加熱ロールとして、ロール温度が９０〜１８０℃、かつ、ロールの直径が糸導入部の直径よりも糸出口部の直径が２〜７％大きいテーパーロールを用いる
（ハ）パッケージの熱処理温度：３５〜６５℃
（ニ）前配向糸の沸水収縮率が３％未満
【０００９】
２）９５モル％以上のトリメチレンテレフタレート繰り返し単位と５モル％以下のその他のエステル繰り返し単位を有するポリトリメチレンテレフタレートからなり、以下の条件（１）〜（３）を満足するポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成され、上記１）記載の製造方法で得られたパッケージ。
（１）前配向糸の極限粘度：０．７〜１．３ｄｌ／ｇ
（２）前配向糸の破断伸度：６０〜１２０％
（３）パッケージから解舒した際の前配向糸の放縮率：＜０．２％
【００１０】
本発明を詳細に説明する。
本発明における第１の発明は、ＰＴＴ前配向糸から構成されたパッケージの製造方法である。
本発明を構成するＰＴＴは、９５〜１００モル％がトリメチレンテレフタレート繰り返し単位からなり、５〜０モル％がその他のエステル繰り返し単位からなる。すなわち、本発明におけるＰＴＴ前配向糸は、ＰＴＴのホモポリマー、及び５モル％以下のその他のエステル繰り返し単位を含む共重合ポリトリメチレンテレフタレートを含む。
【００１１】
共重合成分の代表例として、以下のものがあげられる。酸性分としては、イソフタール酸や５−ナトリウムスルホイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸、アジピン酸やイタコン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸等である。グリコール成分としては、エチレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等である。ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸もその例である。これらの複数が共重合されていてもよい。
本発明のＰＴＴ前配向糸には、本発明の効果を妨げない範囲で、酸化チタン等の艶消し剤、熱安定剤、酸化防止剤、制電剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、種々の顔料等の添加剤を含有又は共重合として含んでいてもよい。
【００１２】
次に、本発明の第１の発明であるＰＴＴ前配向糸パッケージの製造方法を、図１を用いて説明する。
図１において、乾燥機１で３０ｐｐｍ以下の水分率までに乾燥されたＰＴＴペレットを２５５〜２６５℃の温度に設定された押出機２に供給し溶融する。溶融ＰＴＴは、その後、ベンド３を経て２５０〜２６５℃に設定されたスピンヘッド４に送液され、ギヤポンプで計量される。その後、スピンパック５に装着された複数の孔を有する紡糸口金６を経て、マルチフィラメント７として紡糸チャンバー内に押し出される。押出機及びスピンヘッドの温度は、ＰＴＴペレットの極限粘度や形状によって上記範囲から最適なものを選ぶ。
【００１３】
紡糸チャンバー内に押し出されたＰＴＴマルチフィラメントは、冷却風８によって室温まで冷却固化され、仕上げ剤を付与された後、所定の速度で回転する引取ゴデットロール兼加熱ゴデットロール（以下、加熱ロール、という）１０、１１によって引き取られると共に熱処理されて、所定の繊度の前配向糸パッケージ１２として巻き取られる。この時、前配向糸は、加熱ロールに２〜１０回周回して加熱され、熱処理が行われるので、加熱ロールの表面温度が前配向糸の熱処理温度とほぼ等しくなる。
前配向糸１２は、第１加熱ロール１０に接する前に、仕上げ剤付与装置９によって仕上げ剤が付与される。前配向糸に付与する仕上げ剤は、通常、水系エマルジョンタイプが使用される。仕上げ剤の水系エマルジョンの濃度は、通常、５質量％以上、好ましくは１０〜３０質量％である。前配向糸には、必要に応じて、仕上げ剤付与装置９と第１加熱ロール１０との間及び／または第２加熱ロール１１と巻取の間で交絡付与装置により、交絡を付与してもよい。
【００１４】
上記方法により製造されたパッケージは、３５〜６５℃で長期間保管しても、一定の仮撚条件下で加工が可能であり、このパッケージから染着性が安定した仮撚加工糸を製造することができる。
本発明の前配向糸パッケージの製造方法において、下記の要件が重要である。
ＰＴＴの極限粘度は、０．７〜１．３ｄｌ／ｇであることが必要であり、好ましくは０．８〜１．１ｄｌ／ｇである。極限粘度が０．７ｄｌ／ｇ未満では、前配向糸を仮撚加工して得られる仮撚加工糸の強度が低く、この仮撚加工糸を用いた布帛の機械的強度が低下し、強度を要求されるスポーツ用途等への使用が制約される。極限粘度が１．３ｄｌ／ｇを越えると、前配向糸を仮撚加工に使用した際に、仮撚張力が高くなりすぎることによる糸切れが多発し、仮撚加工糸を安定して製造することが困難となる。本発明におけるＰＴＴポリマーの製造方法は、公知の方法でよく、その代表例は、一定の極限粘度までは溶融重合で重合度を上げ、続いて固相重合で所定の極限粘度に相当する重合度まで上げる２段階法である。
【００１５】
（イ）紡糸速度
本発明のＰＴＴ前配向糸パッケージの製造方法において、紡糸速度を２５００〜３５００ｍ／分とすることが必要であり、好ましくは２５００〜３２００ｍ／分、より好ましくは２７００〜３２００ｍ／分である。
紡糸速度とは、第１加熱ロール１０の周速度である。紡糸速度が２５００ｍ／分未満では、前配向糸の配向度が低いために、加熱ロール１０または１１による熱処理中に糸切れが生じ易くなり、本発明の前配向糸を工業的に安定して製造することは困難である。紡糸速度が３５００ｍ／分を越えると、前配向糸の配向度が高いために、仮撚加工速度が７００ｍ／分以上の高速仮撚に対応できない。
【００１６】
（ロ）加熱ロール
本発明のＰＴＴ前配向糸パッケージの製造方法においては、第１加熱ロールまたは第２加熱ロールとして、ロール温度が９０〜１８０℃、かつ、ロールの直径が糸導入部の直径よりも糸出口部の直径が２〜７％大きいテーパーロールを用いることが必要である。
ＰＴＴ前配向糸を加熱ロールで熱処理する場合、前配向糸の繊維構造変化およびそれに伴う前配向糸の伸張による加熱ロール上での糸揺れが発生する。糸揺れが大きくなると加熱ロール上での糸切れが増えるため、前配向糸を工業的に製造する際の安定性が低下する。糸揺れを抑制するために、根元から先端にかけて直径が増加する、すなわち、周速度が速くなるテーパーロールが必要である。加熱ロールの先端部の直径と根元部の直径の比率（以下、テーパー率、という）が２％未満であると、根元部から先端部にかけての周速度勾配が小さいために、テーパーロールを使用する最大の目的であるロール上でのＰＴＴ前配向糸の糸揺れを抑制する効果が不足する。加熱ロールのテーパー率が７％を越えると、加熱ロール上での前配向糸の延伸が顕著となり、その結果、糸長方向での繊度変動が顕著となる。その上、テーパー率が７％を越えることは、根元部から先端部にかけての周速度勾配が大きいことを意味し、１つのロールに複数本同時に前配向糸を熱処理する場合には、それぞれの前配向糸の糸道違いによる物性差が顕著となる。
【００１７】
加熱ロールとしてテーパーロールを用いてロール上での糸揺れを抑制する効果は、加熱ロール温度が高いほど、またロール表面の粗度が小さいほど大きい傾向がある。そのため、第１および第２加熱ロールそれぞれの温度およびロール粗度に応じて、テーパーロールを用いる加熱ロール位置を選択することができる。
加熱ロールとして、テーパーロールを用いた加熱ロール温度が９０℃未満では、熱処理温度としては不十分であり、本発明の請求項１に記載の沸水収縮率を３％未満にできない。加熱ロール温度が１８０℃を越えると、第２加熱ロール温度が高すぎることによる糸切れを生じるため、本発明の前配向糸を工業的に安定して製造することはできない。
【００１８】
（ハ）パッケージの熱処理温度
本発明において、パッケージの熱処理温度を３５〜６５℃とする必要があり、その技術的意義は前述の通りである。
本発明のＰＴＴ前配向糸パッケージは、原糸を延伸することなくそのまま編織物に用いてもよいし、撚糸や仮撚加工およびタスラン加工を施して使用してもよい。編織物には、全て本発明の前配向糸パッケージからの糸を使用してもよく、他の繊維と混合して使用してもよい。混繊複合する他の繊維としては、ポリエステル系繊維、セルロース系繊維、ナイロン６繊維、ナイロン６６繊維、アセテート繊維、アクリル系繊維、ポリウレタン弾性繊維、ウール、絹等の、長繊維及び短繊維等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【００１９】
（ニ）前配向糸の沸水収縮率
本発明のＰＴＴ前配向糸パッケージの製造方法は、沸水収縮率を３％未満とすることが必要である。沸水収縮率が３％以上であると、高温に暴露した時の繊維構造変化が大きくなり、仮撚張力低下に伴う仮撚切れが生じる。また、高温に暴露した時の繊維構造変化が大きいために前配向糸のパッケージフォームが悪化し、そのため仮撚加工中の解舒不良が発生する。
【００２０】
２）破断伸度
本発明を構成するＰＴＴ前配向糸は、破断伸度が６０〜１２０％であることが好ましく、より好ましくは７５〜１００％である。破断伸度が６０％未満では、高速仮撚加工、例えば、７００ｍ／分以上に対応することが困難である可能性がある。破断伸度が１２０％を越えると、仮撚時に糸切れや毛羽が発生したり、前配向糸を高温に暴露した時に繊維構造が変化するため、仮撚加工糸の染着性の安定性が損なわれる可能性がある。
【００２１】
３）パッケージから解舒した際の前配向糸の放縮率
さらに、本発明を構成するＰＴＴ前配向糸は、パッケージから解除した際の放縮率は０．２％未満であることが好ましい。放縮率が０．２％以上であると、長期間保管中に繊維構造の変化が生じ、加工糸の染着率差が顕著になる可能性がある。放縮率は、後述の方法により測定される。
【００２２】
本発明を構成するＰＴＴ前配向糸の繊度や単糸繊度は限定されない。通常、繊度は２０〜３００ｄｔｅｘ、単糸繊度は０．５〜２０ｄｔｅｘのものを使用するが、この範囲に限定されるものではない。前配向糸には、平滑性、収束性，制電性等を付与する目的で、仕上げ剤を前配向糸に対して０．２〜２質量％付与されていることが好ましい。解舒性や仮撚加工時の集束性を向上させる目的で、前配向糸は、５０ヶ／ｍ以下の単糸交絡が付与されていてもよい。
本発明を構成するＰＴＴ前配向糸パッケージと他の繊維との混繊複合糸は、他の繊維をインターレース混繊、インターレース混繊後延伸仮撚、どちらか一方のみ仮撚し、その後インターレース混繊、両方別々に仮撚後インターレース混繊、どちらか一方をタスラン加工後インターレース混繊、インターレース混繊後タスラン加工、タスラン混繊、等の種々の混繊方法によって製造することができる。かかる方法によって得た混繊複合糸には、交絡を１０個／ｍ以上付与することが好ましい。
【００２３】
本発明を構成する前配向糸パッケージの仮撚加工としては、一般に用いられているピンタイプ、フリクションタイプ、ニップベルトタイプ、エアー仮撚タイプ等の加工方法が採用される。仮撚ヒーターは、１ヒーター仮撚、２ヒーター仮撚のいずれであってもよいが、高いストレッチ性を得るためには１ヒーター仮撚の方が好ましい。仮撚加工は、延伸仮撚および非延伸仮撚のいずれであってもよい。仮撚ヒーター温度は、第１ヒーターの出口直後の糸温度が、好ましくは１３０〜２００℃、より好ましくは１５０〜１８０℃、最も好ましくは１６０〜１８０℃になるようにヒーター温度を設定する。
１ヒーター仮撚によって得られる仮撚加工糸の伸縮伸長率は１００〜３００％、伸縮弾性率は８０％以上であることが好ましい。必要に応じて第２ヒーターで熱セットして、２ヒーター仮撚加工糸としてもよい。第２ヒーターの温度は、１００〜２１０℃、好ましくは第１ヒーター出口直後の糸温度に対して−３０℃〜＋５０℃の範囲とするのが好ましい。第２ヒーター内のオーバーフィード率（第２オーバーフィード率）は＋３％〜＋３０％とするのが好ましい。
【００２４】
【発明の実施の形態】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
本発明で用いられる物性の測定方法及び測定条件は以下の通りである。
（１）極限粘度
極限粘度［η］は、次式の定義に基づいて求められる値である。
［η］＝Ｌｉｍηsp/C
Ｃ→０
定義中のηsp/Cは、純度９８％以上のｏ−クロロフェノールで溶解したＰＴＴの稀釈溶液の３５℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶液の粘度で除した値であり、相対粘度と定義されているものである。Ｃはｇ／１００ｍｌで表わされるポリマー濃度である。
【００２５】
（２）破断伸度、沸水収縮率
ＪＩＳ−Ｌ−１０１３に基づいて測定する。
（３）放縮率
巻取及び熱処理直後の前配向糸パッケージから、糸長１０００ｍｍの前配向糸を採取する。採取した前配向糸に、２０℃±２℃の室温下で０．０２４６ｃＮ／ｄｔｅｘの荷重をつけて上から吊し、その加重下で測定される糸長をＬ１とする。荷重をかけたままの状態で２４時間放置し、放置後の糸長をＬ２とする。Ｌ１およびＬ２より放縮率を次式にて算出する。
放縮率（％）＝［（Ｌ１−Ｌ２）］／［Ｌ１］×１００
【００２６】
（４）繊度変動
以下の方法で繊度変動値チャート（ＤｉａｇｒａｍＭａｓｓ）を求めると同時にＵ％を測定する。
測定器：イブネステスター（ツエルベガーウースター社製 ウースターテスターＵＴ−
３）
測定条件
糸速度 １００ｍ／分
デイスクテンション強さ １２．５％
テンション設定 １．０
入力圧力 ２．５ｈｐ
撚り Ｚ１．５
測定糸長 ２５０ｍ／分
スケール 糸の繊度変動に応じて設定
繊度変動値Ｕ％ 変動チャート及び表示される変動値を直読する。
【００２７】
（５）紡糸安定性
１錘当たり８エンドの紡口を装着した溶融紡糸−連続延伸機を用いて、２日間の溶融紡糸を行う。この期間中の糸切れの発生回数と、得られた延伸糸パッケージに存在する毛羽の発生頻度（毛羽発生パッケージの数の比率）から、以下のように判定する。
◎； 糸切れ０回、毛羽発生パッケージ比率 ５％以下
○； 糸切れ２回以内、毛羽発生パッケージ比率 １０％未満
×； 糸切れ３回以上、毛羽発生パッケージ比率 １０％以上
【００２８】
（６）仮撚加工性
下記条件で、前配向糸を１２パッケージ、各実施例毎に１日間、仮撚加工を行なう。
仮撚加工機 村田機械製作所（株）製３３Ｈ仮撚機
仮撚条件 糸速度 ７００ｍ／分
仮撚数 ３２３０Ｔ／ｍ
延伸比 加工糸の伸度が約４０％となるように設定する。
第１フィード率−１％
第１ヒーター温度１７０℃
この期間中の糸切れの発生回数から、以下のように判定する。
◎； 糸切れ０回
○； 糸切れ２回以内
×； 糸切れ３回以上
【００２９】
（７）加工糸染着差
紡糸及び熱処理終了直後の前配向糸から得られる加工糸と、紡糸及び熱処理終了後３５℃で３０日間保管した前配向糸から得られる加工糸との染着差で評価する。
仮撚加工糸を一口編みした後、精練・染色して品位を判定する。加工糸の染着率差の判定は、熟練したモニターが行う。
◎；染着差なし
○；染着差微少、許容範囲内
×；染着差有り
【００３０】
【実施例１〜３、比較例１〜２】
本実施例では、前配向糸の紡糸速度が前配向糸パッケージの物性、紡糸性及び加工性に及ぼす影響について説明する。
酸化チタンを０．４質量％含む、極限粘度０．９１ｄｌ／ｇのＰＴＴペレットを図１のような紡糸機及び巻取機を用いて、９８ｄｔｅｘ／３６フィラメントＰＴＴ前配向糸パッケージを製造した。
【００３１】
本実施例における紡糸条件は、以下の通りである。
（紡糸条件）
ペレット乾燥温度及び到達水分率 １１０℃、２５ｐｐｍ
押出機温度 ２５０℃
スピンヘッド温度 ２６５℃
紡糸口金孔径 ０．４５ｍｍ
ポリマー吐出量 前配向糸が９８デシテックスとなるように各紡 糸速度ごとに設定
冷却風条件温度 ２２℃、相対湿度９０％
速度０．５ｍ／ｓｅｃ
仕上げ剤 ポリエーテルエステルを主成分とする水系エマ ルジョン（濃度；１０質量％）
紡糸口金から仕上げ剤付与ノズルまでの距離 ７５ｃｍ
紡糸張力 ０．１１ｃＮ／ｄｔｅｘ
【００３２】
（巻取条件）
巻取機 帝人製機（株）製ＡＷ−９０９ボビン軸とコン
タクトロールの両軸が自己駆動
巻取にあたり、図１に示す２対の引取ゴデットロール兼加熱ゴデットロールを使用して、第１加熱ロールの周速度を調整して設定した。第１加熱ロールには鏡面ロールを、第２加熱ロールには梨地ロール（粗度３Ｓ）を用いた。
【００３３】
（前配向糸パッケージ）
繊度 ９８デシテックス
水分含有率 ０．６質量％
巻径 ３１ｃｍ
巻幅 １０ｃｍ
巻質量 ６．０ｋｇ／１ボビン
【００３４】
（仮撚加工糸物性）
繊度 ８４．５デシテックス
破断強度 ３．３ｃＮ／ｄｔｅｘ
破断伸度 ４２％
伸縮伸長率 １９２％
伸縮弾性率 ８８％
得られたＰＴＴ前配向糸パッケージからの加工糸を織物の緯糸として使用して、織物の品位を評価した。
その結果を表１に示す。表１から明らかなように、紡糸速度が本発明の範囲であれば、紡糸性も良好で、かつ、仮撚加工に使用しても工業的に問題のない前配向糸を得ることができた。
【００３５】
【実施例４〜７、比較例３〜７】
本実施例では、ＰＴＴ前配向糸を製造するに際し、熱処理条件（加熱ロール温度）が、前配向糸の伸度、紡糸性及び加工性にもたらす影響について説明する。
熱処理条件以外の紡糸条件および仮撚条件は、実施例２と同様に行い、実施例２と同様の巻形状のＰＴＴ前配向糸パッケージおよび加工糸を得た。
その結果を表２に示す。表２から明らかなように、熱処理温度が本発明の範囲であれば、紡糸性が良好で、かつ、仮撚加工に使用しても工業的に問題のない前配向糸を得ることができた。
【００３６】
【実施例８〜９、比較例８〜１０】
本実施例では、前配向糸巻取後の後処理温度の効果について説明する。
紡糸条件は、実施例２または比較例５と同様にして前配向糸パッケージを巻取後、前配向糸パッケージの後熱処理温度を異ならせて、表３に示す前配向糸を得た。
得られたＰＴＴ前配向糸パッケージをすぐに延伸仮撚を行い、得られた加工糸と、３５℃で３０日間保管した後に延伸仮撚を行い、得られた加工糸との染着差を評価した。
その結果を表３に示す。表３から明らかなように、後熱処理温度が本発明の範囲であれば、仮撚加工に使用しても工業的に問題がなく、しかも保管前後で染着差のない前配向糸を得ることができた。
【００３７】
【実施例１０〜１２、比較例１１】
本実施例では、加熱ロールにテーパーロールを使用する効果について説明する。
紡糸条件を、実施例２と同様にして前配向糸パッケージを巻取する際、第１加熱ロールのテーパー率を０〜１０％と変更した際の紡糸性を確認した。
その結果を表４に示す。表４から明らかなように、加熱ロール温度範囲及びテーパー率が本発明の範囲であれば良好な紡糸性が得られた。
【００３８】
【表１】
【表２】
【表３】
【表４】
【発明の効果】
本発明のＰＴＴ前配向糸パッケージの製造方法を実施することにより、長期間、高温で暴露された状態で保管された場合にも、一定の仮撚条件で加工が可能な前配向糸を供給することができる。
仮撚加工された糸は染着性が安定し、衣料用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の前配向糸パッケージ製造プロセスの概略図。
【符号の説明】
１：ポリマーチップ乾燥機
２：押出機
３：ベンド
４：スピンヘッド
５：スピンパック
６：紡糸口金
７：マルチフィラメント
８：冷却風
９：仕上げ剤付与装置
１０：第１加熱ロール
１１：第２加熱ロール
１２：前配向糸パッケージ
Claims (2)
- ポリメチレンテレフタレートを溶融紡糸し、延伸することなく巻き取ってポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成されたパッケージを製造するに際して、９５モル％以上のトリメチレンテレフタレート繰り返し単位と５モル％以下のその他のエステル繰り返し単位を有する、極限粘度が０．７〜１．３ｄｌ／ｇのポリトリメチレンテレフタレートを、下記（イ）および（ロ）を満足する条件で紡糸して巻き取り、得られたパッケージを（ハ）の条件で熱処理し、前配向糸の沸水収縮率を（ニ）とすることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成されたパッケージの製造方法。
（イ）紡糸速度：２５００〜３５００ｍ／分
（ロ）第１加熱ロールまたは第２加熱ロールとして、ロール温度が９０〜１８０℃、かつ、ロールの直径が糸導入部の直径よりも糸出口部の直径が２〜７％大きいテーパーロールを用いる
（ハ）パッケージの熱処理温度：３５〜６５℃
（ニ）前配向糸の沸水収縮率が３％未満 - ９５モル％以上のトリメチレンテレフタレート繰り返し単位と５モル％以下のその他のエステル繰り返し単位を有するポリトリメチレンテレフタレートからなり、以下の条件（１）〜（３）を満足するポリトリメチレンテレフタレート前配向糸から構成され、請求項１記載の製造方法で得られたパッケージ。
（１）前配向糸の極限粘度：０．７〜１．３ｄｌ／ｇ
（２）前配向糸の破断伸度：６０〜１２０％
（３）パッケージから解舒した際の前配向糸の放縮率：＜０．２％
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| JP2001320961A JP3910038B2 (ja) | 2001-10-18 | 2001-10-18 | 前配向糸パッケージとその製造方法 |
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| JP2001320961A JP3910038B2 (ja) | 2001-10-18 | 2001-10-18 | 前配向糸パッケージとその製造方法 |
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