JP3861899B2 - 炭素繊維 - Google Patents

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本発明は、ピッチ系炭素繊維に関わるものである。本発明によるピッチ系炭素繊維は、それ自体著しく高い熱伝導率を示す炭素繊維であり、かかる高熱伝導率の炭素繊維は高い寸法安定性、耐熱衝撃性の要求される宇宙用構造材料や、高エネルギー密度エレクトロニックデバイスの放熱材料等に好適に使用される。
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、ピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に大別され、それぞれ高比強度、高比弾性率という特徴を生かして、航空機用材料、スポーツ用品用材料、建築用材料等として広く用いられている。
また、大きな温度分布の下での寸法安定性や、耐熱衝撃性の要求される宇宙用材料や、高エネルギー密度化の進み続けるエレクトロニックデバイスの放熱用材料等の用途では、上述の機械的性質の他に高い熱伝導率が要求され、これまでも炭素繊維の熱伝導率を向上させるために多くの検討がなされてきた。
しかし、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/m・Kよりも小さく、電気比抵抗は6μΩmよりも大きい。
一方、ピッチ系炭素繊維は一般にPAN系炭素繊維に比べて高熱伝導率、低電気比抵抗を達成しやすいと認識されているが、市販されているピッチ系炭素繊維の熱伝導率は通常700W/m・Kよりも小さく、電気比抵抗は2μΩmよりも大きい。
最近のこの分野の改善技術として、例えば特許文献1においてはピッチの軟化点、紡糸温度、不融化方法、焼成温度を特定することにより、低電気比抵抗の炭素繊維を製造する方法が提案されている。しかし、高軟化点のピッチを、高い温度で紡糸をしていること、硝酸を用いるという特殊な不融化方法を採用していること、また実質的に3200℃を超える非常に高い温度で黒鉛化していることから、工業的に生産するには不十分な技術であった。また、高温で紡糸を行う為に分解ガスに起因する欠陥を繊維中に含みやすく強度的には低いものであった。
特許文献2においては、非常に複雑な多段の延伸処理を行いながらの不融化、炭化、黒鉛化処理を行うことにより、高い熱伝導率を示す炭素繊維が得られている。しかし熱伝導率を1000W/m・K以上としたときの圧縮強度は26kg/mm2 と低いものであった。
また、特許文献3においては、ピッチのガラス転移温度幅、光学異方性割合、キノリン不溶分量を特定することにより、高い熱伝導率を有する炭素繊維を得ることが提案されているが、その熱伝導率は860W/m・Kと充分に高いものではなかった。
特開平2−242919号公報 特開平4−163319号公報 特開平6−257020号公報
上記のように、超高熱伝導率の炭素繊維は、工業的な生産性を半ば犠牲にした形の技術を確立することにより開発されつつある。しかし、従来のものは機械的物性、特に圧縮強度が低いために、応用分野での強度不足が指摘され、使用が制限されていると共に改良が要求されていた。
そこで、非常に高い熱伝導率、低い電気比抵抗、高い引張弾性率を有していながら、かつ高い圧縮強度を有する炭素繊維、具体的には熱伝導率1000W/m・K以上、電気抵抗1.2μΩm以下であり、かつ引張弾性率が95ton/mm2 以上、圧縮強度が30kg/mm2 以上の炭素繊維及びその工業的な製造方法の開発が望まれていた。
本発明者らは、高い熱伝導率、低い電気比抵抗を得るためには炭素繊維の結晶構造を出来るだけ大きくして、黒鉛単結晶に近付ける必要があり、また、高強度を得るためには炭素繊維の欠陥を可能な限り減らす必要があると考えて、鋭意検討を行った。
その結果、炭素繊維の断面構造において、クラックを有しない繊維とクラックを有する繊維の割合を一定範囲にすることにより、高熱伝導率と高強度を両立させうること、また、そのような炭素繊維は、光学的異方性ピッチを紡糸ノズル直前で、特定粘度の下、特定の時間、静置し、ピッチ液晶のドメインサイズ(液晶組織の大きさ)を大きく成長させ、その状態のまま、再び分断するような剪断力を与えることなく直接ノズル孔より吐出させ、炭素繊維の前駆体であるピッチ繊維を得、このピッチ繊維を不融化後、炭化、黒鉛化することにより得られることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、室温で測定された熱伝導率が1000〜1150W/m・K、電気比抵抗が1.06〜1.2μΩm、引張弾性率が95ton/mm2 以上、圧縮強度が30kg/mm2 以上であり、繊維断面にクラックを有しない繊維(クラック無し)とクラックを有する繊維(クラック有り)の割合が、クラック無し/クラック有り=5/95〜30/70であることを特徴とするピッチ系炭素繊維に関するものである。
本発明によれば、従来無かった超高熱電導率、かつ高強度の炭素繊維を提供することができる。
このような高性能の炭素繊維は、スポーツ・レジャー分野のみならず、特に航空・宇宙分野で用いられる繊維強化プラスチックの強化繊維として好適に使用することができ、工業上非常に有用である。
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明で用いられる紡糸ピッチの出発原料としては、石炭系のコールタール、コールタールピッチ、石炭液化物、石油系の重質油、タール、ピッチ等が挙げられる。これらの出発原料のうち、石炭系のコールタール、コールタールピッチが、それらを構成する分子の芳香族性が高く、黒鉛結晶の発達しやすい紡糸ピッチを得られるという点から好適に用いられる。
これらの炭素質原料中にはフリーカーボン、未溶解石炭、灰分、触媒等の不純物が含まれているが、これらの不純物は濾過、遠心分離、あるいは溶剤を使用する静置沈降分離等の周知の方法で予め除去しておくことが望ましい。また、前記炭素質材料を、例えば加熱処理後に特定溶剤で可溶分を抽出する方法、あるいは水素供与性溶媒、水素ガスの存在下に水添処理する方法等により予備処理を行っておいてもよい。
本発明における紡糸ピッチである、光学的異方性ピッチの光学的異方性割合は、70%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは100%である。光学的異方性割合が70%より低いと、黒鉛化した後の炭素繊維の黒鉛結晶性が低く、高い熱伝導率が得られない。
また、メトラー法により求めた軟化点は260℃以上340℃以下、好ましくは280℃以上320℃以下、更に好ましくは290℃以上310℃以下である。軟化点が260℃より低いと、紡糸後の不融化の際に繊維同士の融着が生じやすく、開繊性の悪い炭素繊維束となりやすい。また、340℃より高いと紡糸の際にピッチの熱分解が生じ、分解ガスによる紡糸ノズル内での気泡発生により紡糸性が著しく低下する。
所望の光学的異方性割合、メトラー軟化点の光学的異方性ピッチを得るために、前述の炭素質原料、あるいは予備処理を行った炭素質原料を必要に応じて、通常350〜500℃、好ましくは380〜450℃で、2分〜50時間、好ましくは5分〜5時間、窒素、アルゴン、水蒸気等の不活性ガス雰囲気下、あるいは吹き込み下に加熱処理を行ってもよい。
本発明においては、溶融した前記光学的異方性ピッチを50〜1000poise、好ましくは100〜500poiseの粘度において、20〜300分間、好ましくは40〜150分間静置した後に、ピッチドメインを分断するような剪断力を与えることなく直接ノズル孔に導入し紡糸を行うことが重要である。
ここでいう“静置”とは、ピッチの熱による自然対流以上の流速を与えないことであり、その線速は2cm/分以下である。連続的に紡糸を行うためには、紡糸装置内にピッチを連続的に供給する必要があるが、そのときの流速は線速として2cm/分以下であることが必要となる。
更に具体的に述べると、通常、ピッチ繊維を紡糸する際には、紡糸ピッチ中に含まれる不純物やゲル状の重質化物を処理、除去、または均質化をするために、ノズル孔の上流部にメッシュ状フィルター、ガラスビーズ、金属パウダー、焼結金属フィルター等を設置している。しかしながら、このような充填物がピッチ液晶の流路にあると、そこを通過する際にピッチ液晶が充填物の空隙の単位で分断され、ドメインサイズが小さくなる。このような状態のピッチをノズル孔に導入し紡糸を行うと、微細な結晶単位を有するピッチ繊維が得られ、このピッチ繊維から得られる炭素繊維の熱伝導率は低いものとなる。
本発明によると、一度分断され、微細化したピッチ液晶を前述の特定条件下で静置することにより、再びピッチドメインを成長させ、その後、再びピッチドメインが分断されるような剪断力を与えることなく、即ち、ピッチ液晶を前述したような充填物を通過させずに直接ノズル孔に導入し、紡糸することにより、大きなドメインサイズを有するピッチ繊維が得られる。このピッチ繊維の断面構造は、一般的に知られている“ラジアル型”と異なっている。“ラジアル型”は、「高温処理によって半径方向に亀裂が入り、扇形の断面を示す」(大谷杉郎等著、炭素繊維 近代編集(1983)p197〜198)が、本発明により得られたピッチ繊維は、組織構造が大きいために焼成した後、一定の割合でクラックの発生を生じない炭素繊維が得られる。
なお、ピッチドメインとはピッチ液晶の配向状態の繰り返しの一つの単位を指し、これは、偏光顕微鏡下で、青、紫、黄色の色調の変化で観察することが出来る。連続した色調の部分を一つのドメインとみなす。またドメインサイズとはある断面について、ピッチ液晶の配向方向に対して垂直方向に測定した、一つのドメインの幅を示す。充填物を通過した後の光学的異方性ピッチの偏光顕微鏡写真ではピッチドメインが分断されてドメインサイズが小さくなった様子が観察できる(図6参照)。充填物通過後、100poiseの粘度で60分間静置した後の光学的異方性ピッチの偏光顕微鏡写真では、ピッチドメインが成長してドメインサイズが大きくなった様子が観察できる(図7参照)。
静置時の粘度が1000poiseよりも高いと、ドメインを大きく成長させるためには長時間を要し効率が落ちること、また、50poiseよりも低いと、粘度を維持するために必要な温度が高くなる為に、静置中のピッチの熱分解により分解ガスが発生し、安定した紡糸が行えなくなることから好ましくない。
また、静置時間を20分より短くするとピッチドメインの成長が充分でないため、また、300分より長くすると、保持中のピッチの熱分解により分解ガスが発生し、安定した紡糸が行えなくなることから好ましくない。
本発明においては、ノズルの形状については特に制約はないが、図3に示すようなノズル孔導入角αが70°よりも大きく、ノズル孔の長さLと孔径Dの比L/Dが3よりも小さいものが好ましく用いられ、更に好ましくはαが100°よりも大きく、L/Dは1.5よりも小さいものが用いられる。
紡糸時のノズルの温度についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、紡糸ピッチの粘度が20〜800poise、好ましくは50〜300poiseになる温度であればよい。
このようにして得られたピッチ繊維は一般的な方法により不融化し、所望の温度で炭化及び/または黒鉛化、表面処理を行うことにより、本発明の炭素繊維を得ることが出来る。この際、炭化及び黒鉛化の温度が高いほど、また炭化及び黒鉛化の時間が長いほど黒鉛結晶子が大きく成長し、熱伝導率の高い炭素繊維が得られる。
不融化処理は通常空気、オゾン、二酸化窒素等の酸化性雰囲気下、または極希に硝酸等を用いての酸化性液中で行われるが、最も簡便な方法である空気中で行うことができる。
不融化繊維は、所望の物性の炭素繊維を得るために必要な温度で炭化及び/または黒鉛化された後、表面処理を行う。この際に張力を付加しても良く、また、付加しなくともよい。
具体的にはピッチ繊維を酸化性ガス雰囲気中で、300〜380℃で加熱処理することにより、不融化繊維トウを得る。更にこの不融化繊維トウを窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中通常、800〜3500℃で炭化、黒鉛化される。この際の炭化、黒鉛化処理は得られた炭化又は黒鉛化繊維の炭素含有率が97%以上になる温度、好ましくは99%以上になる温度で処理されると好ましい。この様な温度で処理しておくと、炭素繊維の炭素化収縮による寸法変化を極力小さく抑制し、糸傷みによる炭素繊維強度の低下を未然に防止することが出来る。
次に通常の方法で表面処理したのちサイジング剤を繊維に対し0.2〜10重量%、好ましくは0.5〜7重量%添着し炭素繊維を得る。
サイジング剤としては通常用いられる任意のものが使用でき、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和又は不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、水又はアルコール、グリコール単独又はこれらの混合物があげられる。
更に本発明では炭化若しくは黒鉛化された炭素繊維、又はその炭素繊維を用いた織物を、予め黒鉛化処理されたパッキングコークスとともに黒鉛製のルツボの中に入れ高黒鉛化処理すると好ましい。
黒鉛製のルツボは上記の炭素繊維又は炭素繊維織物を所望の量入れることが出来るものであるならば大きさ形状に特に制約はないが、黒鉛化処理中又は冷却中に焼成炉内の酸化性のガス又は炭素蒸気との反応による炭素繊維又は炭素繊維織物の損傷を防ぐために、フタ付きの、気密性の高いものが好まれる。
炭素繊維又は炭素繊維織物は黒鉛製のボビン又は芯材に巻きつけて黒鉛ルツボに充填される。黒鉛ルツボに一緒に充填されるパッキングコークスは予め黒鉛化処理しておいたものを用い、該黒鉛化温度はパッキングコークスの脱揮発分が達成される温度以上であることが必要であり、1400℃以上3500℃以下、好ましくは2500℃以上3500℃以下で黒鉛化処理されたものである。
パッキングコークスの粒径は平均粒径で0.1mm以上100mm以下、好ましくは5mm以上30mm以下のものを用いる。高黒鉛化処理は2500℃以上3500℃以下、好ましくは2800℃以上3300℃以下、より好ましくは2900℃以上3100℃以下の温度で行なわれる。
又高黒鉛化処理する設備としては生産効率の面からアチソン抵抗加熱炉を用いるのが特に好ましいが、2500℃以上の温度で処理することが出来るもので、上述の黒鉛ルツボを加熱炉内部に設置出来るものであるならば特に制約はない。高黒鉛化処理時間は2500℃以上の温度で存する時間が30分以上300日以下、好ましくは1時間以上30日以内である。
炭素繊維の強度を支配する一つの要因として、繊維束の開繊性が挙げられる。開繊性が良い状態、すなわち束の中で炭素繊維が一本一本独立に存在しうることが、特に複合材としての強度、例えば圧縮強度等を発揮するためには重要である。
開繊性を良くするためには、不融化時の繊維同士の融着を防止することが必要であり、その為には不融化時の昇温速度を遅くする方法、ピッチ繊維を収束する際に無機微粒子等のスペーサーを入れ物理的に接触を避ける方法、二酸化窒素等の酸化性ガスを用いて低温で不融化する方法等が採られる。また、不融化時に融着した繊維を、炭化時に水蒸気、二酸化炭素等の酸化性ガスを混合した雰囲気中で焼成することにより、化学的に除去する方法も採られる。
このようにして得られた炭素繊維は、(1) 室温で測定された熱伝導率が1000W/m・K以上、好ましくは1050W/m・K以上、(2) 電気抵抗が1.2μΩm以下、好ましくは1.15μΩm以下、(3) 引張弾性率が95ton/mm2 以上、(4) 圧縮強度が30kg/mm2 以上、という物性を合わせ持つ、超高熱伝導率かつ高圧縮強度の炭素繊維となる。また、この炭素繊維の断面形状は繊維断面にクラックを有しない繊維(クラック無し)とクラックを有する繊維(クラック有り)の割合が、クラック無し/クラック有り=5/95〜30/70であることを特徴としている。
クラック無し/クラック有りの比が5/95より小さいと圧縮強度が充分でなく、また30/70を超えると充分に高い熱伝導率が得られない。
ここで、クラックとは前述の大谷らの著書に示されている、高温処理によって生ずる亀裂のことを示す。
本発明による製造方法により得られた炭素繊維は、配向性の高い光学的異方性ピッチを、ピッチドメインを充分に成長させた状態で、その後剪断を与えることなく紡糸されるために、特に繊維断面の中心部において大きな組織構造をとっている。その組織構造の大きさは、繊維断面の走査型電子顕微鏡(SEM)による4000〜10000倍での観察により確かめることが出来る。それによると、この組織構造は長さ0.1μ〜1μm以上積層した結晶子から構成されていることがわかった。
図1にSEMにより8000倍の倍率で観察した、本発明の炭素繊維の中の、クラックを有しない炭素繊維の断面写真を示す。この断面は引張破断後の面であるが、繊維中央部から、外周部にかけて長さ1μ以上に発達した結晶子が観察される。
図2にSEMにより8000倍の倍率で観察した、本発明の炭素繊維の中の、クラックを有する炭素繊維の断面写真を示す。この断面は鋭利なナイフによる切断面であるが、いわゆる“ラジアル型”と異なり、大きな組織構造を採っていることが観察される。
一般に「切り欠きをもつラジアル組織のファイバーが黒鉛化度P1も高く、結晶子も大きく成長している。しかし、切り欠きをもたないラジアル組織のファイバーの黒鉛化度は低く、結晶子の成長も顕著でない。」(稲垣道夫等著、ニューカーボン材料(技報堂出版)、52頁)とされている。ここでいう切り欠きとはクラックと同意である。この現象はクラックを生じることにより、黒鉛化時における黒鉛結晶の積層方向への収縮により生じる応力が緩和され、自由な状態で黒鉛結晶の成長が行われることによるものである。本発明の炭素繊維はラジアル配向とは基本的に異なる構造を採っているものの、95〜70%の繊維がクラックを有しており、黒鉛結晶性の発達した組織構造を有している。
また、本発明の炭素繊維には従来黒鉛化度が低く結晶子の成長も顕著でないとされていたクラックを有しない炭素繊維が5〜30%含まれているが、ドメインを充分に成長させたピッチを紡糸しているため(図7参照)に、焼成時に結晶子が発達しやすく、黒鉛結晶性の発達した、大きな組織構造を採ることが出来る。このために本発明の炭素繊維は非常に高い熱伝導率、低い電気比抵抗を示す。
また、クラックを有する繊維は黒鉛化度が高く、高い熱伝導率を得るためには好適であるが、反面、強度の低下を生じさせていた。
しかし本発明の炭素繊維は、前述の通り特に中心部において大きな結晶構造をとっており、繊維中央を中心とするラジアル構造とは異なった構造を採っているために、クラックの発生が抑制されており、断面形状が実質的に円形の繊維が5〜30%含まれているため、従来の超高熱伝導率の炭素繊維に比べて圧縮強度が高いものとなる。
すなわち、クラック無し/クラック有りの繊維の割合を特定すること、また、クラック無しの繊維においても、組織構造を大きなものとし、黒鉛結晶子を発達しやすくさせることにより超高熱伝導率と、高圧縮強度を両立させうることが出来るのである。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の諸例において各測定は次の方法により行った。
(1)光学的異方性割合
ピッチ試料を数mm角に粉砕したものを、常法に従って2cm直径の樹脂のほぼ全面に埋め込み、表面を研磨後、表面全体をくまなく偏光顕微鏡(100〜600倍)下で観察し試料の全面積に占める光学的異方性部分の面積の割合を測定することによって求めた。
(2)軟化点
メトラー軟化点測定装置を用いて測定した。スタート温度を(予測軟化点−20℃)とし、1℃/分の昇温速度で昇温した。
(3)圧縮強度
ASTM D3410法により測定した。なお測定値は炭素繊維の体積分率(Vf)60%に換算した値である。
(4)層間剪断強度
ASTM D2344法に準拠して行った。ショートビーム3点曲げ試験であり、試験体の寸法は幅10mm、厚さ2mm、長さ12mmとした。
(5)繊維断面形状観察
約4000本の炭素繊維を樹脂に埋め込み、表面を研磨後、顕微鏡(500倍)下にて繊維の断面形状を観察し、断面形状が実質的に円形である繊維の本数の全体の中での割合を「クラック無し」の割合として、その他を「クラック有り」の割合として求めた。
(6)電気比抵抗
4端子法により測定した。抵抗の測定距離は500mmとした。
(7)熱伝導率
炭素繊維を直径10mm、厚さ3〜6mmの円板状一方向炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とし、真空理工(株)製レーザーフラッシュ法熱定数測定装置TC−3000によって、該CFRPの比熱と熱拡散率を測定し、次式によって算出した。
K=Cp・α・ρ/Vf
ここで、Kは炭素繊維の熱伝導率、CpはCFRPの比熱、αはCFRPの熱拡散率、ρはCFRPの密度、VfはCFRP中に含まれる炭素繊維の体積分率を表す。
CFRPの厚さは、炭素繊維の熱伝導率に応じて変え、熱伝導率の大きい試料は厚く、小さい試料は薄くした。具体的には、レーザー照射後、試料背面の温度が上昇し、最高温度に到達するには数10msecを要するが、その際の温度上昇巾ΔTmの1/2だけ温度が上昇するまでの時間t1/2が10msec以上(最高15msec)となるようにCFRPの厚さを調節した(図4参照)。
比熱は、試料前面に受光板としてグラッシーカーボンを貼付け、レーザー照射後の温度上昇を試料背面中央に接着したR熱電対によって測定することにより求めた。また、測定値は、サファイアを標準試料として校正した。
熱拡散率は、試料の両面にカーボンスプレーによってちょうど表面が見えなくなるまで皮膜を付け、赤外線検出器によって、レーザ照射後の試料背面の温度変化を測定し求めた。
なお、炭素繊維の熱伝導率は、炭素繊維の熱伝導率と電気比抵抗の間の非常に良い相関関係を利用して、電気比抵抗の値から次式によって推算することもできる。
K=1272.4/ER−49.4
ここでKは炭素繊維の熱伝導率〔W/m・K〕、ERは炭素繊維の電気比抵抗〔μΩm〕を表す。
実施例1
コールタールピッチを出発原料とした光学的異方性割合が100%、軟化点が300℃の紡糸ピッチを連続的に目開き325meshのフィルターを通して、不純物及び未溶解物を除去した後に、孔数525の紡糸ノズル(導入角α=150°、ノズル孔の長さLと径Dの比L/D=1)を有するスピンパック(図5の1)にフィードした。該ピッチはスピンパック内上部に設置された空間部(図5の2)において、0.1cm/分の線速のもとに、55分間静置した後、直径3mmの流路を有する整流板(図5の3)、ノズル導入部(図5の4)を通して、ノズル孔(図5の5)にフィードした。紡糸は安定しており、15000m以上の連続紡糸が可能であった。スピンパック内でのピッチの粘度は250poiseであった。
得られたピッチ繊維を、空気中、段階的に380℃まで昇温し不融化処理を行った後、最終的にアルゴンガス中2500℃まで連続的に黒鉛化を行った。次に得られた繊維を黒鉛性のボビンに巻きとり、これをあらかじめ黒鉛化処理をされたパッキングコークス中に埋め込むようにして黒鉛るつぼ中にいれアチソン抵抗加熱炉で3000℃で黒鉛化処理した。3000℃での滞留時間は1時間であった。冷却後、得られた炭素繊維を黒鉛ボビンから連続的に繰り出しながら、電解酸化を行って表面処理し、エポキシ系のサイジング剤を2%添着した。
得られた炭素繊維の電気比抵抗は1.13μΩmであり、電気比抵抗値より求めた熱伝導率は1080W/m・Kであった。またこのもののストランド引張強度は350kg/mm2 、引張弾性率は95ton/mm2 、圧縮強度は31kg/mm2 、層間剪断強度は3.5kg/mm2 であった。
繊維断面構造を観察した結果、クラック無し/クラック有りの割合は15/85であった。
実施例2
スピンパック内でのピッチの粘度を150poise、滞留時間を45分としたこと以外は実施例1と同様にして、炭素繊維を調製した。
得られた炭素繊維の電気比抵抗は1.06μΩmであり、電気比抵抗値より求めた熱伝導率は1150W/m・Kであった。またこのもののストランド引張強度は350kg/mm2 、引張弾性率は96ton/mm2 、圧縮強度は31kg/mm2 であった。
繊維断面構造を観察した結果、クラック無し/クラック有りの割合は10/90であった。
実施例3
スピンパック内でのピッチの粘度を300poise、滞留時間を80分としたこと以外は実施例1と同様にして、炭素繊維を調製した。
得られた炭素繊維の電気比抵抗は1.10μΩmであり、電気比抵抗値より求めた熱伝導率は1110W/m・Kであった。またこのもののストランド引張強度は380kg/mm2 、引張弾性率は95ton/mm2 、圧縮強度は32kg/mm2 であった。
繊維断面構造を観察した結果、クラック無し/クラック有りの割合は25/75であった。
比較例1
光学的異方性ピッチを目開き325meshのフィルターを通して、不純物及び未溶解物を除去した後、スピンパック内での静置時間を5分とした以外は実施例1と全く同様にして炭素繊維を調製した。
得られた炭素繊維の電気比抵抗は1.17μΩmであり、電気比抵抗値より求めた熱伝導率は1040W/m・Kであった。しかし、このもののストランド引張強度は300kg/mm2 、引張弾性率は90ton/mm2 、圧縮強度は27kg/mm2 と低いものであった。
繊維断面構造を観察した結果、クラック無し/クラック有りの割合は0/100であった。
比較例2
ノズル孔直前に500meshのフィルターを設置した以外は実施例1と全く同様にして炭素繊維を調製した。500meshのフィルターからノズル孔までの時間は2秒であった。即ち、一度静置した光学的異方性ピッチを、ノズル孔直前で、再びドメインを分断するような剪断力を与えてその状態で紡糸を行った。得られた炭素繊維の電気比抵抗は1.90μΩmであり、電気比抵抗値より求めた熱伝導率は620W/m・Kと低いものであった。
繊維断面構造を観察した結果、クラック無し/クラック有りの割合は97/3であった。
比較例3
スピンパック内でのピッチの粘度を20poise、静置時間を50分とした以外は実施例1と同様にして紡糸を試みた。しかし、ノズル孔吐出直後のピッチ繊維の延伸過程で分解ガスに起因する気泡切れが発生し連続した紡糸が行えなかった。
比較例4
スピンパック内でのピッチの粘度を150poise、静置時間を360分とした以外は実施例1と同様にして紡糸を試みた。しかし、比較例3と同様、ノズル孔吐出直後のピッチ繊維の延伸過程で分解ガスに起因する気泡切れが発生し連続した紡糸が行えなかった。
比較例5
市販のピッチ系炭素繊維のうち最も高熱伝導率のアモコ(Amoco)社製「THORNEL K1100X」の物性を本実施例の測定方法に従い測定したところ、電気比抵抗1.16μΩmM、熱伝導率1050W/mK、引張強度300kg/mm2 、引張弾性率98ton/mm2 であったが、圧縮強度が27kg/mm2 と低かった。又、繊維断面形状を観察すると、クラック無し/クラック有りの比が0/100であった。
SEMにより8000倍の倍率で観察した、本発明の炭素繊維の中の、クラックを有しない炭素繊維の断面形状を示す走査型電子顕微鏡写真である。 SEMにより8000倍の倍率で観察した、本発明の炭素繊維の中の、クラックを有する炭素繊維の断面形状を示す走査型電子顕微鏡写真である。 本発明の炭素繊維の製造方法に用いる紡糸ノズルの断面説明図である。 熱伝導率の求め方の説明図である。 本発明の炭素繊維の製造方法に用いるスピンパックの断面説明図である。 ドメインサイズが小さくなった様子を示す光学的異方性ピッチの液晶構造の偏光顕微鏡写真 ドメインサイズが大きくなった様子を示す光学的異方性ピッチの液晶構造の偏光顕微鏡写真
符号の説明
1 スピンパック全体図
2 スピンパック空間部
3 整流板(直径3mmの複数の流路を有している。)
4 ノズル導入部
5 ノズル孔

Claims (2)

  1. 室温で測定された熱伝導率が1000〜1150W/m・K以上、電気比抵抗が1.06〜1.2μΩm以下、引張弾性率が95ton/mm2 以上、圧縮強度が30kg/mm2 以上であり、繊維断面にクラックを有しない繊維(クラック無し)とクラックを有する繊維(クラック有り)の割合が、クラック無し/クラック有り=5/95〜30/70であることを特徴とするピッチ系炭素繊維。
  2. 圧縮強度が30〜32kg/mm2 であることを特徴とする請求項1のピッチ系炭素繊維。
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