JP2016033279A - ピッチ系炭素繊維及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】単位重量換算で、従来の等方性ピッチ系炭素繊維よりも断熱性能、吸音性能、摺動性等の点で優れているとされる平均繊維径のより小さい等方性ピッチ系炭素繊維を提供することを目的とする。前記平均繊維径の小さい等方性ピッチ系炭素繊維の製造方法を提供することも目的とする。
【解決手段】等方性ピッチを炭素前駆体とするピッチ系炭素繊維であって、平均繊維径が10μm以下である、ことを特徴とする、ピッチ系炭素繊維。当該ピッチ系炭素繊維は、等方性ピッチを原料として得られる炭素繊維の前駆体繊維を、2800〜3000℃で熱処理する熱処理工程を有する製造方法により得られる。当該熱処理工程は、ホウ素を含まない雰囲気で行われることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、ピッチ系炭素繊維及びその製造方法に関する。
炭素繊維とは、一般的には、有機物質の熱分解により作られ、実質的に炭素だけで構成された繊維状のものを指す。この炭素繊維は、(1)構成元素である炭素材料としての構造、組織及び特性と、(2)繊維形態であることによる特性と、をあわせ持つ。そのため、耐熱性、化学的安定性、電気・熱伝導性、低熱膨張性、低密度、摩擦・摩耗特性、X線透過性、電磁波遮蔽性、生体親和性、柔軟性等が良い等の特徴を有し、吸着性能を付加することもできる。炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維(ポリアクリロニトリル系炭素繊維)等が知られている。ピッチ系炭素繊維とは、石油又は石炭由来の重質油の蒸留残渣等のピッチを原料として製造された炭素繊維であり、大きく分けて、(a)等方性ピッチ系炭素繊維、及び(b)異方性ピッチ系炭素繊維(メソフェーズピッチ系炭素繊維)が挙げられる。
等方性ピッチ系炭素繊維とは、光学的に等方性である(言い換えれば、分子や分子の集団が無秩序に配向している)等方性ピッチを紡糸したピッチ繊維を焼成して得られる炭素繊維である。この等方性ピッチ系炭素繊維は、一般的に汎用炭素繊維とも呼ばれており、比較的安価に製造することができる。また、等方性ピッチ系炭素繊維は、異方性ピッチ系炭素繊維やPAN系炭素繊維と比較して、機械的強度や弾性率が高くはない。しかしながら、等方性ピッチ系炭素繊維は、摺動性、ほどよい導電性、耐熱性等を有することから、前記特性を生かして、(a)断熱材、(b)合成樹脂への添加剤、等広く使用されている(例えば、非特許文献1等)。等方性ピッチ系炭素繊維を製造する方法は、例えば以下の特許文献1に記載されている。特許文献1には、(i)渦流法によって溶融ピッチを紡糸する工程、(ii)不溶化(不融化)する工程、及び(iii)炭化する工程からなり、前記(i)工程において、予め溶融ピッチに旋回流を付与した後に溶融ピッチを流出ノズルより流出させる方法が開示されている。
特開平6−235123号公報
カーボン用語辞典(2000年10月5日第1版第1刷発行、アグネ承風社)p.261〜262
ところで、平均繊維径(炭素繊維の直径である繊維径の平均値)の小さなピッチ系炭素繊維を用いる場合、非常に有用な効果を発現することができる。
例えば、平均繊維径の小さいピッチ系炭素繊維(又は当該炭素繊維を含む製品)を断熱材として使用する場合、前記炭素繊維(又は当該炭素繊維を含む製品)と単位重量が同じである平均繊維径の大きいピッチ系炭素繊維(又は当該炭素繊維を含む製品)を断熱材として使用する場合よりも、空間をより細分化することができ、輻射損失を大きくすることができる。そのため、平均繊維径の小さいピッチ系炭素繊維を使用する方が、断熱性能を向上させることができる。
また、ピッチ系炭素繊維(又は当該炭素繊維を含む製品)を吸音材として使用する場合についても、前記断熱材の場合と同様、ピッチ系炭素繊維の平均繊維径はより小さい方が空間をより細分化することができ、結果として吸音性能を向上させることができる。
また、合成樹脂を主成分とする摺動材に対して、ピッチ系炭素繊維を潤滑剤として添加する場合、充填率を上げる等の目的から、平均繊維径のより小さいピッチ系炭素繊維が望まれている。
以上の観点から、平均繊維径のより小さい等方性ピッチ系炭素繊維の開発が望まれている。
しかしながら、等方性ピッチ系炭素繊維は、平均繊維径が12〜18μm程度であり、平均繊維径が10μm以下である等方性ピッチ系炭素繊維は未だ得られていないのが現状である。
例えば、まず、遠心法による紡糸を行うことにより繊維径の小さい(細径の)ピッチ繊維を作製し、その後に前記細径のピッチ繊維を不融化及び炭素化する方法が考えられる。しかしながら、遠心法による紡糸で細径のピッチ繊維を得ることは、紡糸のエネルギーの観点等から困難性が極めて高い。仮に、平均繊維径が10μm以下である等方性ピッチ系炭素繊維が得られる程度の繊維径の小さいピッチ繊維を作製できたとしても、次工程で不融化する際に、前記ピッチ繊維が互いにくっついて固まってしまうか、又は燃えてしまう虞がある。また、特許文献1に記載された、渦流法による紡糸を行うことにより細径のピッチ繊維を作製する方法を採用しても、上記不融化の問題は依然として解消されない。
一方、平均繊維径が10μmよりも大きい等方性ピッチ系炭素繊維を一旦得て、次工程で前記炭素繊維に対して平均繊維径を小さくする処理を行うことも考えられる。しかしながら、非特許文献1には、等方性ピッチ系炭素繊維に関して、「等方性の組織を持ち、高温まで熱処理しても組織、材料力学的特性に顕著な変化はない。」と記載されており、等方性ピッチ系炭素繊維に対する高温での熱処理では、前記炭素繊維の平均繊維径を設計・制御することができないと考えられてきた。
本発明は、このような上記従来技術及び課題の下、単位重量換算で、従来の等方性ピッチ系炭素繊維よりも断熱性能、吸音性能、摺動性等の点で優れているとされる平均繊維径のより小さい等方性ピッチ系炭素繊維を提供することを目的とする。また、本発明は、前記平均繊維径の小さい等方性ピッチ系炭素繊維の製造方法を提供することも目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、等方性ピッチを原料として得られる炭素繊維の前駆体繊維に対して、特定の工程を行う場合には、上記目的を達成し、平均繊維径が10μm以下である等方性ピッチ系炭素繊維が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、下記のピッチ系炭素繊維、及びその製造方法を包含する。
項1.等方性ピッチを炭素前駆体とするピッチ系炭素繊維であって、
平均繊維径が10μm以下である、
ことを特徴とする、ピッチ系炭素繊維。
項2.ホウ素含有量が6massppm未満である、項1に記載のピッチ系炭素繊維。
項3.前記等方性ピッチが、石炭を原料として得られる、項1又は2に記載のピッチ系炭素繊維。
項4.等方性ピッチを炭素前駆体とし、且つ、平均繊維径が10μm以下であるピッチ系炭素繊維の製造方法であって、
前記等方性ピッチを原料として得られる前記炭素繊維の前駆体繊維を、2800〜3000℃で熱処理する熱処理工程を有する、
ことを特徴とする、ピッチ系炭素繊維の製造方法。
項5.前記熱処理工程が、ホウ素を含まない雰囲気で行われる、項4に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
項6.前記等方性ピッチが、石炭を原料として得られる、項4又は5に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
本発明の等方性ピッチ系炭素繊維は、従来の等方性ピッチ系炭素繊維よりも繊維径が小さいため、優れた断熱性能、吸音性能、及び摺動性を発現させることができる。そのため、本発明の等方性ピッチ系炭素繊維は、断熱材、吸音材、摺動材における潤滑剤、電極材料等の各種用途に好適に使用することができる。
実施例1のピッチ系炭素繊維の拡大鏡写真である。 比較例2のピッチ系炭素繊維の拡大鏡写真である。 本願実施例1及び比較例1で使用した抵抗率測定試験用台の模式図を示す。 本願実施例で使用したアチソン炉の模式図を示す。
≪1.ピッチ系炭素繊維≫
本発明のピッチ系炭素繊維は、等方性ピッチを炭素前駆体とするピッチ系炭素繊維であって、平均繊維径が10μm以下であることを特徴とする。当該特徴を有する本発明のピッチ系炭素繊維は、従来の等方性ピッチ系炭素繊維よりも繊維径が小さいため、優れた断熱性能、吸音性能、摺動性等を発現させることができる。
本発明のピッチ系炭素繊維は、等方性ピッチ系炭素繊維である。ピッチ系炭素繊維とは、後述するピッチを原料として製造された炭素繊維である。等方性ピッチ系炭素繊維とは、前記ピッチが等方性である場合の炭素繊維である。等方性とは、光学的に等方性であって、分子や分子の集団が無秩序に配向していることを示す。炭素前駆体とは、目的とする最終炭素製品の前の段階にある一連の炭素化中間体を指す。本発明における炭素前駆体は等方性ピッチであり、前記最終炭素製品は等方性ピッチ系炭素繊維である。
炭素前駆体であるピッチとは、木材、石炭等の乾留の際に得られる液状タール、オイルサンドから得られるビチューメン、オイルシェールの乾留によって得られる油分、原油の蒸留による残渣油、石油留分のクラッキングによって生成するタール等を熱処理、重合して得られる常温で固体状の材料である。具体的には、(a)石炭系ピッチ、(b)石油系ピッチ、(c)ナフタレン等の芳香族化合物を重合した合成ピッチ等が挙げられる。ピッチは、化学的には無数の縮合多環芳香族化合物の混合物である。石炭を原料として得られる石炭系ピッチとしては、コークス炉から生じるコールタールを熱処理して得られるピッチが挙げられる。
本発明における等方性ピッチは、特に限定されないが、石炭系等方性ピッチ(石炭を原料として得られる等方性ピッチ)が好ましい。
等方性ピッチの軟化点は、特に限定されず、後述するピッチ系炭素繊維の製造方法における紡糸方法によって適宜設定することができる。
本発明では、炭素前駆体(原料)である等方性ピッチから前駆体繊維を得て、次いで前記前駆体繊維から本発明のピッチ系炭素繊維を得る。本発明のピッチ系炭素繊維の製造方法については、以下の項目で後述する。
本発明におけるピッチ系炭素繊維の平均繊維径は、以下の(i)〜(iii):
(i)ピッチ系炭素繊維を拡大鏡及び画像解析装置を用いて、1000倍に拡大し、
(ii)次いで、ピッチ系炭素繊維を任意に10点選び出し、上記10点の繊維径を測定し、
(iii)最後に、上記(ii)で得られた10点の繊維径の平均値を算出する、
を行うことにより、決定したものである。
本発明のピッチ系炭素繊維は、平均繊維径が10μm以下であり、10μm未満が好ましく、9μm以下がより好ましい。ピッチ系炭素繊維の平均繊維径が10μmをこえると、断熱性能、吸音性能、摺動性等の特性が不十分である。一方、平均繊維径の下限値は、5μmが好ましい。本発明のピッチ系炭素繊維の平均繊維径が5μm以上であることにより、より砕けにくく、摺動材の潤滑剤等の各種用途により好適に使用することができる。
本発明におけるピッチ系炭素繊維の平均繊維長は、特に限定されない。例えば、本発明のピッチ系炭素繊維がミルド繊維である場合、前記平均繊維長は0.04〜3mm程度が好ましく、本発明のピッチ系炭素繊維がチョップ繊維である場合、前記平均繊維長は3〜10mm程度が好ましい。なお、本発明のピッチ系炭素繊維がマット繊維である場合、前記マット繊維は数cm〜数十cmの長さを有し、且つ、一定の幅のある短繊維の集合体であり、平均繊維長の概念は特に必要とされない。ここで、前記平均繊維長とは、前記繊維径とは直角方向における長さの平均値を意味する。前記平均繊維長の測定方法は、繊維径に代えて繊維長とする以外は上記平均繊維径の測定方法と同様である。
本発明におけるピッチ系炭素繊維の平均アスペクト比は、特に限定されない。例えば、本発明のピッチ系炭素繊維がミルド繊維である場合、前記平均アスペクト比は4〜500が好ましく、本発明のピッチ系炭素繊維がチョップ繊維である場合、前記平均アスペクト比は300〜1700が好ましい。ここで、前記平均アスペクト比とは、前記繊維径Rと前記繊維長Lとの比(=L/R)の平均値を意味する。前記平均アスペクト比の測定方法は、繊維径Rに代えて上記比L/Rとする以外は上記平均繊維径の測定方法と同様である。
本発明のピッチ系炭素繊維は、より炭素繊維の形状を維持するために、ホウ素含有量が少ないことが好ましい。ホウ素は、黒鉛六角網面に置換型の固溶体を作る形でドープされ、非常に強い黒鉛化触媒として知られているものの、炭素繊維を多量のホウ素存在下(11.7mass%)、2600℃程度で熱処理すると炭素繊維を構成する結晶子間の界面が消失し、炭素繊維の形状が保てないことが報告されている(T. Sogabe et al., J. Mater. Sci. Vol. 31, p.6469-6476)。上記の場合には、固溶体中に存在するホウ素濃度はB−C状態図から1mass%前後と推察される。このような観点から、本発明のピッチ系炭素繊維中のホウ素濃度は、0.0006mass%未満(6massppm未満)が好ましく、0.0001〜0.0005mass%(1〜5massppm)がより好ましい。本発明のピッチ系炭素繊維中のホウ素量は、50〜100g程度のサンプルを灰化後、灰分を酸溶解し、ICP−AES(発光法)により測定するものとする。なお、石油や石炭由来の炭素前駆体から製造される人造黒鉛や炭素繊維等の炭素材料には、通常もともと不純物としてのホウ素が1〜4massppm程度含まれている。
本発明のピッチ系炭素繊維は、平均繊維径が10μm以下であることを維持するという条件の下、使用用途に応じて粉砕処理、切断処理等を行ってもよい。この操作により、本発明のピッチ系炭素繊維の形状を適宜変更することができる。
粉砕方法としては、特に限定されない。例えば、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル等を用いて、前記炭素繊維を粉砕することができる。
切断方法としては、特に限定されない。例えば、ロービングカッター、ギロチン式カッター、クロスカッター、低速せん断型スクリーン式粉砕機等を用いて、前記炭素繊維を切断することができる。
<ピッチ系炭素繊維の適用>
本発明のピッチ系炭素繊維は、主に、断熱材、吸音材、摺動材における潤滑剤、電極材料等の各種用途に好適に使用することができる。ここで、上記各種用途について、本発明のピッチ系炭素繊維を応用した各種製品と併せて詳しく述べる。
本発明のピッチ系炭素繊維を応用した製品としては、特に限定されないが、例えば、(A)フェルト、(B)成形断熱材、(C)軽量断熱材、(D)チョップ、(E)ミルド、(F)ペーパー、(G)カーボンシート等が挙げられる。なお、本発明のピッチ系炭素繊維がマット繊維である場合、前述の通り、前記マット繊維は数cm〜数十cmの長さを有し、且つ、一定の幅のある短繊維の集合体である。前記マット繊維は、前記各製品の出発原料として使用することができ、また、本発明のピッチ系炭素繊維として単独で使用することもできる。
フェルトは、前記マット繊維にニードルパンチを加え、からみ合わせた不織布である。フェルトの用途としては、(a)断熱材、(b)成形断熱材の基材、(c)耐火材、(d)高温用フィルター、(e)耐腐食性フィルター、(f)摺動性や耐熱性を向上させるための樹脂との複合用等が挙げられる。
成形断熱材は、前記フェルトを基材に、炭素化率の高い樹脂を含浸させ、目的に応じた形状に成形、硬化、及び炭素化処理(必要に応じて、さらに黒鉛化処理)を施して得られる。成形断熱材の用途としては、(a)シリコン、サファイア、炭化ケイ素等の結晶成長炉、(b)カーボン・セラミック・超硬金属等の焼結炉、(c)銀・銅・SUS・ニッケル等のろう付炉、(d)アルミ等の各種真空蒸着炉等が挙げられる。
軽量断熱材は、前記マット繊維を融着繊維を用いて熱融着させることにより得られる。軽量断熱材の用途としては、(a)車輌用吸音断熱材、(b)不燃性クッション材、(c)アルミ付遮音断熱材等が挙げられる。また、船舶、航空機、建築用、道路防音壁、排煙ダクト、プラント、空調エアフィルター、家庭用電気機器、ガス機器等に対しても、軽量断熱材として使用することができる。
チョップは、前記マット繊維をカット(切断)することにより製造される。本発明のピッチ系炭素繊維が前記チョップ(チョップ繊維)である場合、前記チョップは前記マット繊維を3mm〜10mmにカットしたものであり、表面処理はされていない。前記チョップは、粉体、粒体、液体、樹脂又はゴム等と複合でき、前記複合により得られる複合体の力学特性、導電性、耐熱性、耐腐食性又は耐摩耗性を向上させることができる。チョップの用途としては、(a)熱硬化性樹脂に対する補強用、摺動特性の改良用、導電性の改良用、耐熱性の改良用又は耐腐食性の改良用、(b)耐熱材、又は摩擦材としてのアスベスト代替用、(c)C/Cコンポジット(Carbon Fiber Reinforced Carbon Composite:炭素繊維強化炭素複合材料)用途、(d)静電防止用途、(e)摺動材における潤滑剤、(f)電極材料、(g)電極の導電補助剤等が挙げられる。
ミルドは、前記マット繊維を粉砕することにより製造される。本発明のピッチ系炭素繊維が前記ミルド(ミルド繊維)である場合、前記ミルドは、前記マット繊維を2mm以下に細かく粉砕した流動性の良い粉状体である。前記ミルドは、マトリックスと容易に混合でき、複合体の力学特性、導電性、耐熱性、耐腐食性又は耐摩耗性を向上させることができる。ミルドの用途としては、(a)樹脂に対する補強用、摺動特性の改良用、導電性の改良用、耐熱性の改良用、静電防止の改良用又は耐腐食性の改良用、(b)耐熱材、又は摩擦材としてのアスベスト代替用、(c)フッ素樹脂に対する摺動特性用、又は熱寸法安定性の改良用、(d)クラッチ、又はブレーキ用途、(e)摺動材における潤滑剤、(f)電極材料、(g)電極の導電補助剤等が挙げられる。
ペーパーは、本発明のピッチ系炭素繊維を、樹脂バインダーを用いて抄いた製品である。ペーパーの用途としては、(a)帯電防止シート、(b)タイル、(c)マット、(d)電気集塵装置電極、(e)FRPライニング、(f)フィルター等の用途が挙げられる。
カーボンシートは、前記ペーパーに炭素化収率の高い合成樹脂を含浸させて成形、硬化、黒鉛化処理を施して製造される製品である。カーボンシートの用途としては、(a)耐熱材、(b)燃料電池用電極等の用途が挙げられる。
≪2.ピッチ系炭素繊維の製造方法≫
本発明のピッチ系炭素繊維の製造方法は、等方性ピッチを炭素前駆体とし、且つ、平均繊維径が10μm以下であるピッチ系炭素繊維の製造方法であって、前記等方性ピッチを原料として得られる前記炭素繊維の前駆体繊維を、2800〜3000℃で熱処理する熱処理工程を有する、ことを特徴とする。この際、熱処理工程は、ホウ素を含まない雰囲気で行うことが好ましい。当該特徴を有する本発明の製造方法によれば、平均繊維径が10μm以下であるピッチ系炭素繊維を得ることができる。当該ピッチ系炭素繊維は、従来の等方性ピッチ系炭素繊維よりも、優れた断熱性能、吸音性能、摺動性等を発現させることができる。
ピッチ系炭素繊維の前駆体繊維
本発明のピッチ系炭素繊維の製造方法では、原料として本発明のピッチ系炭素繊維の前駆体を使用する(以下、上記本発明のピッチ系炭素繊維の前駆体を、単に「前駆体繊維」ともいう)。
前駆体繊維は、等方性ピッチを原料として得られる炭素繊維である。即ち、前駆体繊維は、本発明のピッチ系炭素繊維と同様、等方性ピッチ系炭素繊維である。
前駆体繊維の平均繊維径は、10μmよりも大きい。なお、前記平均繊維径の測定方法は、上述の本発明におけるピッチ系炭素繊維の平均繊維径の測定方法と同様である。前駆体繊維の平均繊維径は、11〜14μmが好ましい。前駆体繊維の好ましい平均繊維径が上記範囲であることによって、後述する熱処理工程において、効率良く平均繊維径が10μm以下であるピッチ系炭素繊維を製造することができる。
前駆体繊維の平均繊維長は、特に限定されず、マット繊維、ミルド繊維、チョップ繊維等のいずれも使用することができる。例えば、前駆体繊維がミルド繊維である場合、前記平均繊維長は0.04〜3mm程度が好ましく、前駆体繊維がチョップ繊維である場合、前記平均繊維長は3〜10mm程度が好ましい。なお、前駆体繊維がマット繊維である場合、前記マット繊維は数cm〜数十cmの長さを有し、且つ、一定の幅のある短繊維の集合体であり、平均繊維長さの概念は特に必要とされない。ここで、前記平均繊維長は、前駆体繊維の繊維径とは直角方向における長さの平均値を意味する。前記平均繊維長の測定方法は、上述の本発明におけるピッチ系炭素繊維の平均繊維長の測定方法と同様である。
前駆体繊維の平均アスペクト比は、特に限定されない。例えば、前駆体繊維がミルド繊維である場合、前記平均アスペクト比は3〜270が好ましく、前駆体繊維がチョップ繊維である場合、前記平均アスペクト比は210〜910が好ましい。前記アスペクト比の測定方法は、前駆体繊維径R’に代えて前駆体繊維径R’と前駆体繊維長L’との比(=L’/R’)とする以外は上記前駆体繊維の平均繊維径の測定方法と同様である。
前駆体繊維は、市販品を使用することができる。市販品の具体例としては、
・大阪ガスケミカル(株)製ドナカーボ・チョップ(品番:S−231,S−232)
・大阪ガスケミカル(株)製ドナカーボ・ミルド(品番:S−2404N,S−249K,S−241,S−242,S−243,S−244,S−246,S−247,SC−244,SG−249,SG−241)
・大阪ガスケミカル(株)製炭素繊維マット(品番:S−210)
等が挙げられる。
前駆体繊維の製造方法
本発明における前駆体繊維の製造方法は、特に限定されないが、以下の各工程:
(i)等方性ピッチ(炭素前駆体)を紡糸する工程1、
(ii)前記工程1で得られた紡糸(ピッチ繊維)を不融化処理する工程2、
(iii)前記工程2で得られた不融化繊維(不融化ピッチ繊維)を炭素化処理する工程3、
を含む製造方法で前駆体繊維を製造することが好ましい。以下、各工程について説明する。
<工程1(紡糸)>
工程1では、等方性ピッチ(炭素前駆体)を紡糸する。この工程1により、紡糸(ピッチ繊維)が得られる。
等方性ピッチは、1.ピッチ系炭素繊維の項目で上述した等方性ピッチの説明と同様である。好ましい等方性ピッチもまた、上述した等方性ピッチの説明と同様であり、石炭系等方性ピッチが好ましい。等方性ピッチの軟化点は、特に限定されず、紡糸方法によって適宜設定することができる。
紡糸方法は、特に限定されず、例えば溶融紡糸が挙げられる。具体的な溶融紡糸方法としては、渦流法紡糸、スパンボンド紡糸、遠心法紡糸等が挙げられる。また、溶融紡糸する際の温度は、等方性ピッチが溶融する限り、特に限定されない。また、ノズルの形状、紡糸速度等のその他の紡糸条件についても、特に限定されず、使用用途等に応じて適宜設定することができる。なお、渦流法紡糸とは、ノズルから吐出される溶融ピッチ糸に熱ガスのジェット流を吹き当て、効率よく延伸する方法である。この紡糸方法では、不規則な曲状の紡糸(ピッチ繊維)が得られる。
工程1において、溶融紡糸によりピッチ繊維を得る場合、前記ピッチ繊維は連続繊維ではなく、例えば、数cm〜数十cmの長さで、且つ一定の幅のある短繊維が得られる。
<工程2(不融化処理)>
工程2では、紡糸(ピッチ繊維)を不融化処理する。この工程2により、不融化繊維が得られる。不融化処理とは、一般的には、炭素前駆体に繊維形状を与えた後、後続する炭素化(炭化)で繊維形状を維持できるように、酸化的な脱水素環化や縮合により熱硬化性とする処理をいう。本工程では、前記不融化処理をすることにより、ピッチ繊維に酸素を導入して酸素との架橋結合によって安定化させることができる。
不融化処理の方法としては、特に限定されない。例えば、ピッチ繊維に対して熱風を当てることが挙げられる。
不融化処理の際の雰囲気は、酸素含有雰囲気が好ましい。酸素の導入としては、空気を用いてもよいし、酸素ガスの他、酸化窒素や酸化硫黄等のガス状酸化剤を用いてもよい。
不融化処理の際の温度は、特に限定されない。例えば、紡糸温度前後まで加熱することができる。
その他の不融化処理の条件(例えば、昇温速度、不融化処理の保持時間等)については特に限定されず、使用用途等に応じて適宜設定することができる。
<工程3(炭素化処理)>
工程3では、不融化繊維を炭素化処理する。この工程3により、本発明における前駆体繊維が得られる。炭素化処理(炭化処理)とは、炭素以外の元素を放出して炭素含有率の高い固体を生成させる処理をいう。
炭素化処理の際の温度は、特に限定されない。例えば、700〜1000℃程度で熱処理することが好ましい。
炭素化処理の際の雰囲気は、非酸化性ガス雰囲気が好ましく、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気がより好ましい。
その他の炭素化処理の条件(例えば、昇温速度、炭素化処理の保持時間等)については特に限定されず、使用用途等に応じて適宜設定することができる。
<その他の工程>
炭素化処理を行った後、本発明における前駆体繊維が得られる。一般的には、前記前駆体繊維の形態は、マット状であることが多い。前駆体繊維が得られた後、必要に応じて、前記前駆体繊維に対して、予備的な黒鉛化処理、切断処理、粉砕処理等を行ってもよい。前記切断処理及び粉砕処理は、前駆体繊維の形状を適宜変更することができる。
黒鉛化処理とは、一般的には、非黒鉛質炭素が1500℃程度以上の熱処理によって主として物理的変化によってその積層構造を発達させ、黒鉛の三次元規則構造をもつ黒鉛質炭素に変換することをいう。ここで、前記予備的な黒鉛化処理を行う際の温度は、特に制限されないが、黒鉛の積層構造をより高度に発達させるために1500〜2400℃が好ましい。
粉砕方法としては、特に限定されない。例えば、ジェットミル、ハンマーミル、ピンミル等を用いて、前駆体繊維を粉砕することができる。
切断方法としては、特に限定されない。例えば、ロービングカッター、ギロチン式カッター、クロスカッター、低速せん断型スクリーン式粉砕機等を用いて、前駆体繊維を切断することができる。
熱処理工程
本発明のピッチ系炭素繊維の製造方法では、前駆体繊維を2800〜3000℃で熱処理する熱処理工程を有することを特徴とする。前駆体繊維を2800〜3000℃で熱処理することにより、原料である前駆体繊維の平均繊維径は小さくなり、結果として平均繊維径が10μm以下であるピッチ系炭素繊維が得られる。この際、ホウ素を含まない雰囲気で熱処理工程を行うことにより、ホウ素含有量を少なく(6massppm)することができる。なお、平均繊維径が小さくなる理由は、前駆体繊維に黒鉛構造の発達化が生じることにより、炭素繊維全体が熱収縮するためと考えられる。
熱処理工程における加熱方法は、特に限定されない。例えば、通電抵抗加熱、誘導加熱等が挙げられる。通電抵抗加熱としては、例えば、アチソン炉(アチソン型黒鉛化炉)、LWG炉(直接通電黒鉛化炉、Lengthwise graphitization furnace)、管状抵抗炉等の各加熱炉を使用する方法が挙げられる。誘導加熱としては、例えば、高周波誘導電流による黒鉛ケースのサセプター加熱、被加熱体の直接発熱等の方法が挙げられる。通電抵抗加熱により熱処理を行う際に使用する炉は、特に限定されず、炭素材料を熱処理できる仕様の炉を使用することができる。本発明における熱処理は、アチソン炉又はLWG炉による熱処理が好ましい。
アチソン炉は、パッキングコークスの抵抗発熱を利用した間接通電方式で、最終的に被加熱物自体も抵抗発熱する炉である。具体的には、耐火レンガ製の長方形の炉に、被熱処理品(例えば、前駆体繊維、前駆体繊維を含む容器等)をパッキングコークスで充たし、さらにその外周を熱遮蔽ライニングで断熱する。被熱処理品の周囲に詰められたパッキングコークスに対して炉長方向に通電して昇温する。一方、LWG炉は、被熱処理品そのものに直接通電し、その抵抗発熱で熱処理する直接通電方式の炉である。被熱処理品の周りのパッキングコークスは酸化防止と断熱材の役割を果たす。
熱処理工程を行う際の前駆体繊維の載置方法としては、特に限定されない。例えば、加熱炉を使用して熱処理する場合、(a)加熱炉内に直接前駆体繊維(マット、チョップ、ミルド等の繊維)を載置してもよく、また、(b)前駆体繊維を容器内に入れ(収納し)、次いで前記容器に蓋をして密閉し、その後前記容器を加熱炉内に載置してもよい。中でも、加熱炉内に詰める物(例えば、パッキングコークス等の粉体)が前記前駆体繊維と混ざることを防ぐために、前記(b)の態様、即ち、密閉された容器であって、前記容器内に前駆体繊維が存在する前記容器を加熱炉内に載置することが好ましい。この場合、前記容器は黒鉛製であることが好ましい。
この際、本発明のピッチ系炭素繊維のホウ素含有量を6massppm未満とする場合は、黒鉛容器等の容器の回りを、ホウ素を含まない雰囲気とすることが好ましい。具体的には、黒鉛容器等の容器の回りを、ホウ素を含む材料(ホウ素でドープされた黒鉛粉末等)で覆わないことが好ましい。つまり、黒鉛容器等の容器の回りを何も覆わないことが好ましい。これにより、本発明のピッチ系炭素繊維中のホウ素含有量(ホウ素ドープ量)を6massppm未満とすることができる。
熱処理工程における前駆体繊維の雰囲気は、加熱炉内の雰囲気は炭素繊維が消耗するような酸化性でなければ特に限定されないが、自己発生ガス雰囲気又は炭化水素ガス雰囲気であることが好ましく、自己発生ガス雰囲気であることがより好ましい。ここで、自己発生ガス雰囲気とは、例えば前記(b)の態様で熱処理する(即ち、前駆体繊維を容器内に入れて密閉し、前記容器を熱処理する)ことにより、前記容器の中が前駆体繊維から発生するガスで満たされた雰囲気をいい、炭化水素ガス成分を多く含み、微量の酸素も含まれる。自己発生ガス雰囲気又は炭化水素ガス雰囲気は、いずれも炭化水素ガス成分が多く存在するため、前駆体繊維の収縮が生じやすく、黒鉛の結晶性が高くなりやすいと考えられる。特に、自己発生ガス雰囲気は、前駆体繊維中の非結晶性部を前記微量の酸素で取り除きながら前駆体繊維の収縮を生じさせるとともに、黒鉛の結晶性を高めるため、好ましい態様である。なお、前記(b)の態様で熱処理する場合、加熱炉内の雰囲気は特に限定されないが、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを前記炉内に流さない方が好ましい。
熱処理工程の際の圧力は、特に限定されない。また、熱処理工程の時間は、特に限定されない。熱処理工程の時間は、例えば、1時間以上保持することが好ましく、5時間以上保持することがより好ましい。
≪3.ピッチ系炭素繊維の平均繊維径を減少させる方法≫
ピッチ系炭素繊維の平均繊維径を減少させる本発明の方法は、前記等方性ピッチを原料として得られる前記炭素繊維の前駆体繊維を、2800〜3000℃で熱処理する熱処理工程を有する、ことを特徴とする。この際、ホウ素を含まない雰囲気で熱処理することが好ましい。当該特徴を有する本発明の方法によれば、等方性ピッチ系炭素繊維の平均繊維径を10μm以下にすることができる。つまり、従来のピッチ系炭素繊維よりも平均繊維径を減少させることができる。当該得られた等方性ピッチ系炭素繊維は、従来の等方性ピッチ系炭素繊維よりも、優れた断熱性能、吸音性能、摺動性等を発現させることができる。各工程の説明は、上記2.の項目と同様である。
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例の態様に限定されない。
製造例
以下に、実施例1及び比較例1〜2で使用される等方性ピッチ系炭素繊維マット(マット繊維)の製造例を記載する。まず、石炭系の等方性ピッチ(炭素前駆体)を出発原料とし、渦流法によって前記等方性ピッチに対して紡糸(紡糸処理)を行った。次いで、前記処理で得られたピッチ繊維に対して、空気(大気)雰囲気下で不融化処理を行った。次に、前記処理で得られた不融化繊維(不融化ピッチ繊維)に対して、不活性ガス雰囲気下で900〜1000℃の熱処理を行い、炭素化処理を行った。なお、前記紡糸処理、不融化処理、及び炭素化処理は、連続的に行った。以上により、実施例1及び比較例1〜2で使用される等方性ピッチ系炭素繊維マットが得られた。この手法は、強化プラスチックス(1998年)Vol. 34, No. 3, p. 89-93でも示されている。
実施例1(マット繊維)
等方性ピッチ系炭素繊維マット(前駆体繊維、商品名:S-210(DONACARBO(登録商標)カタログに記載)、大阪ガスケミカル(株)製、平均繊維径13μm)を黒鉛製の容器5個(内径150mm、内側の高さ160mmの円筒)に入れ、上記容器に対して黒鉛製の蓋をした。なお、黒鉛製の容器1個当たりに入れた等方性ピッチ系炭素繊維マットの重量は82gであった。それら5個の黒鉛容器を抵抗加熱炉に入れ、温度及び時間を2000℃且つ2時間として熱処理を行った。また、前記抵抗炉内にはアルゴンガスを流した。2000℃で熱処理後のマットのうち306gを黒鉛製の容器(内径240mm、内側の高さ310mmの円筒)に入れ、上記容器に対して黒鉛製の蓋をした。次に、上記炭素繊維マットが入った上記容器をアチソン炉に入れて、約2900℃(2800〜3000℃)に熱した(熱処理)。この際、雰囲気はホウ素を含まない雰囲気とした。この熱処理により、実施例1のピッチ系炭素繊維(等方性ピッチ系炭素繊維)を得た。
なお、上記熱処理は、少なくとも5時間以上は2800〜3000℃の温度雰囲気となっている。上記熱処理中、黒鉛製の容器中は上記炭素繊維マットから発生するガス(自己発生ガス)雰囲気となった。つまり、上記熱処理は、自己発生ガス雰囲気下で行った。
比較例1(マット繊維)
等方性ピッチ系炭素繊維マット(前駆体繊維、商品名:S-210(DONACARBO(登録商標)カタログに記載)、大阪ガスケミカル(株)製、平均繊維径13μm)82gを黒鉛製の容器(内径150mm、内側の高さ160mmの円筒)に入れ、上記容器に対して黒鉛製の蓋をした。その黒鉛容器を抵抗加熱炉に入れ、温度及び時間を2400℃且つ2時間として熱処理を行った。また、前記抵抗炉内にはアルゴンガスを流した。これにより、比較例1のピッチ系炭素繊維を得た。
比較例2(ミルド繊維)
等方性ピッチ系炭素繊維マット(商品名:S-210(DONACARBO(登録商標)カタログに記載)、大阪ガスケミカル(株)製、平均繊維径13μm)を用意した。次に、上記炭素繊維マットを粉砕機で粉砕することにより、ミルド炭素繊維(前駆体繊維、平均繊維長:約0.11mm(約110μm))を得た(以下、ミルド繊維ともいう)。上記ミルド繊維302gを黒鉛製の容器(内径50mm、内側の高さ90mmの円筒)に入れ、上記容器に対して黒鉛製の蓋をした。その黒鉛容器を抵抗加熱炉に入れ、温度及び時間を2400℃且つ2時間として熱処理を行った。また、前記抵抗炉内にはアルゴンガスを流した。これにより、比較例2のピッチ系炭素繊維を得た。
<分析1:平均繊維径の測定>
実施例及び比較例で得られた各ピッチ系炭素繊維の平均繊維径を測定した。具体的には、以下の(i)〜(iii)の工程を行うことにより測定した。
(i)実施例及び比較例で得られた各ピッチ系炭素繊維を、Hirox製拡大鏡及び画像解析装置を用いて、1000倍に拡大した。
(ii)次いで、各ピッチ系炭素繊維をそれぞれ任意に10点選び出し、上記10点の繊維径を測定した。
(iii)最後に、上記(ii)で得られた10点の繊維径の平均値を算出することにより、各ピッチ系炭素繊維の平均繊維径として決定した。
測定された各ピッチ系炭素繊維の平均繊維径は、以下の通り:
・実施例1のピッチ系炭素繊維の平均繊維径:5.9μm
・比較例1のピッチ系炭素繊維の平均繊維径:13.4μm
・比較例2のピッチ系炭素繊維の平均繊維径:13.2μm
・実施例1のピッチ系炭素繊維の拡大鏡写真:図1
・比較例2のピッチ系炭素繊維の拡大鏡写真:図2
であった。
<分析2:X線回折測定>
実施例1及び比較例2の各ピッチ系炭素繊維に対してX線回折測定を行うことにより、上記各ピッチ系炭素繊維のX線回折図形を得た。上記X線回折図形は、Siを標準物質とし、学振法(日本学術振興会第117委員会によってラウンドロビンテストを経て制定された、X線回折装置を用いて炭素材料の格子定数と結晶サイズの測定を行う場合の一般的事項について規定した手法)に準拠して得た。実施例1及び比較例2のピッチ系炭素繊維の格子定数、及び結晶サイズ(結晶子サイズ又は結晶子の大きさともいう)等を、Carbon Analyzer Version 4. 10Dを用いて解析した。なお、この手法は、例えば、藤本宏之 炭素No. 206 (2003) p.1-6でも示されている。実施例1及び比較例2のピッチ系炭素繊維の解析結果を以下に示す。
実施例1のピッチ系炭素繊維における004回折線((004)回折線)から得られるd002(002面の面間隔)は、0.3386nm(=3.386Å)であった。002回折線((002)回折線)から得られるc軸方向の結晶子サイズLcは14nmであり、004回折線から得られるc軸方向の結晶子サイズLcは、10nm以下であった。a軸方向の結晶子サイズLaは10nm以下であった。
比較例2のピッチ系炭素繊維における004回折線から得られるd002は、0.3424nm(=3.424Å)であった。002回折線及び004回折線から得られるc軸方向の結晶子サイズLcは、いずれも10nm以下と見積もられた。また、a軸方向の結晶子サイズLaも10nm以下と見積もられた。
実施例1のピッチ系炭素繊維は、2800〜3000℃の高温で熱処理されているので面間隔は小さくなり黒鉛結晶性の発達が認められるが、結晶子はあまり発達していないことが認められた。
<分析3:吸脱着等温線の測定>
実施例1及び比較例2の各ピッチ系炭素繊維に対して、以下の(i)〜(v)の工程を行った。
(i)上記各ピッチ系炭素繊維の吸脱着等温線を求めた。具体的には、マイクロトラック・ベル(株)製BELSORP-maxを用いて、N(77K)吸着による上記吸脱着等温線を求めた。
(ii)次に、得られた吸脱着等温線に基づいて、BET法にて上記各ピッチ系炭素繊維の比表面積及び全細孔容積を求めた。
測定結果を以下:
・実施例1のピッチ系炭素繊維の比表面積:1.2m/g
・実施例1のピッチ系炭素繊維の全細孔容積:0.00705cm/g
・比較例2のピッチ系炭素繊維の比表面積 :0.47m/g
・比較例2のピッチ系炭素繊維の全細孔容積:0.00190cm/g
に示す。
実施例1のピッチ系炭素繊維は、比較例2のピッチ系炭素繊維と比較して比表面積、全細孔容積ともに上記のように大きな値を示した。
<分析4:抵抗率測定>
実施例1及び比較例1の各ピッチ系炭素繊維に対して、抵抗率測定を行った。具体的には、以下の工程によって抵抗率測定を行った。
(i)図3に示す穴あき台紙(25±0.5mm)を15枚用意した。
(ii)実施例1及び比較例1の各ピッチ系炭素繊維から、それぞれ5本の単繊維を取り出した。
(iii)前記台紙の中央線に沿って前記単繊維を載置し、前記単繊維をセロテープで固定した。
(iv)所定のゲージ長となるように、図3に示す箇所(2箇所)に導電塗料を塗布した後、十分に乾燥させる。当該乾燥後の単繊維を試験片とした。
(v)前記試験片の抵抗を、抵抗測定器にて、0.1Ωまで測定する。前記抵抗測定器は、0.5%以上の精度が保証されているものを使用した。また、前記抵抗測定器では、直流を用いた。
(vi)前記試験片の抵抗率を、次式により求めた。
Figure 2016033279
式中、
ρ:繊維の抵抗率(単位:μΩ・m)
R:試験片の抵抗(単位:Ω)
L:試験片の長さ(単位:μm)
D:試験片の繊維径(単位:μm)
である。なお、Dについては、万能投影機にて試験片(実施例1及び比較例1の各ピッチ系炭素繊維)の直径を50点測定し、その50点の平均値を試験片の繊維径とした。前記万能投影機は、倍率400倍で測定した。
(vii)(i)〜(vi)の工程を各5本の単繊維に対して行い、各々得られたρ値の平均値を算出した。前記算出されたρ値の平均値を、ピッチ系炭素繊維の抵抗率とした。
結果を以下:
・実施例1のピッチ系炭素繊維の抵抗率:24μΩ・m
・比較例1のピッチ系炭素繊維の抵抗率:32μΩ・m
に示す。
実施例1のピッチ系炭素繊維の抵抗率は、比較例1のピッチ系炭素繊維と比較して上記のように小さな値を示した。
<分析5:見かけ密度測定>
実施例1及び比較例1の各ピッチ系炭素繊維に対して、見かけ密度測定を行った。具体的には、気体置換法によって上記各ピッチ系炭素繊維の見かけ密度を測定した。測定装置は、マイクロメリティックス社製の乾式自動密度計アキュピック1330−03を使用した。測定に使用したガスはヘリウムガスとし、温度は25℃であった。
見かけ密度は、試料の質量を、試料の外形容積から開気孔(細孔)を除いた容積で割った値である。この場合、開気孔(細孔)は、ヘリウムガスが浸透する気孔(細孔)と考えられる。測定結果を以下:
・実施例1のピッチ系炭素繊維の見かけ密度:1.55g/cm
・比較例1のピッチ系炭素繊維の見かけ密度:1.62g/cm
に示す。
1.抵抗率測定試験用台
2.中央線
3.単繊維試験片
4.導電塗料
5.アチソン炉
6.パッキングコークス
7.処理物
8.断熱層(粉体)
9.レンガ
10.水冷ジャケット
11.ブスバー(銅)
12.黒鉛電極

Claims (6)

  1. 等方性ピッチを炭素前駆体とするピッチ系炭素繊維であって、
    平均繊維径が10μm以下である、
    ことを特徴とする、ピッチ系炭素繊維。
  2. ホウ素含有量が6massppm未満である、請求項1に記載のピッチ系炭素繊維。
  3. 前記等方性ピッチが、石炭を原料として得られる、請求項1又は2に記載のピッチ系炭素繊維。
  4. 等方性ピッチを炭素前駆体とし、且つ、平均繊維径が10μm以下であるピッチ系炭素繊維の製造方法であって、
    前記等方性ピッチを原料として得られる前記炭素繊維の前駆体繊維を、2800〜3000℃で熱処理する熱処理工程を有する、
    ことを特徴とする、ピッチ系炭素繊維の製造方法。
  5. 前記熱処理工程が、ホウ素を含まない雰囲気で行われる、請求項4に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
  6. 前記等方性ピッチが、石炭を原料として得られる、請求項4又は5に記載のピッチ系炭素繊維の製造方法。
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