JP3680575B2 - ゴムブッシュおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、径方向に離間して配された軸部材と外筒部材を筒状ゴム弾性体で連結した構造を有し、例えば自動車用のサスペンションブッシュ等として好適に用いられ得るゴムブッシュと、その製造方法に関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振装置の一種として、軸部材と該軸部材の外周側に離間して外挿配置された外筒部材を、それらの間に介装された筒状ゴム弾性体にて連結した構造のゴムブッシュが知られている。また、かくの如きゴムブッシュにおいては、ばね特性の調節等を目的として、例えば異なる径方向でのばね特性を異ならせたり、こじり方向のばね特性を調節したりするため等に、筒状ゴム弾性体に対して、軸方向に貫通するスリットを形成したものが多い。また、かかるスリットは、一般に、筒状ゴム弾性体の周方向に所定長さで形成され、且つその周方向両端部が、径方向断面において、半円形等の円弧形状とされる。
【0003】
ところが、このようなスリットを備えた従来のゴムブッシュにあっては、軸部材と外筒部材の間に荷重が入力された際、スリットの周方向端部において筒状ゴム弾性体の引張歪みが集中し易いという問題があった。特に、軸部材の中心軸に対して外筒部材の中心軸を傾斜させるこじり方向の荷重が入力されて筒状ゴム弾性体がこじり変形した場合には、スリットの周方向端部に対して、大きな引張歪みが集中的に惹起され易く、そのために、十分な耐久性を確保することが難しいという問題があったのである。
【0004】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、スリットの周方向端部における筒状ゴム弾性体の変形歪みが軽減されて、優れた耐久性が発揮される、新規な構造のゴムブッシュと、新規なゴムブッシュの製造方法を提供することにある。
【0005】
【解決手段】
そして、このような課題を解決するために、ゴムブッシュに関する本発明の特徴とするところは、軸部材と該軸部材の外周側に離間して外挿配置された外筒部材を、それらの間に介装された筒状ゴム弾性体にて連結すると共に、該筒状ゴム弾性体に対して、軸方向に貫通するスリットを形成したゴムブッシュにおいて、前記スリットにおける周方向の両端面を、それぞれ、径方向に直線的に延びる略平坦面としたことにある。
【0006】
このような本発明に従う構造とされたゴムブッシュにおいては、軸部材と外筒部材の間に径方向の荷重やこじり方向の荷重が入力されることにより、スリットの周方向端部付近において筒状ゴム弾性体に径方向の引張変形が生ぜしめられた際にも、該スリットの周方向端面が径方向に直線的に延びる略平坦面とされていることから、該スリットの周方向端面の略全面に対して略均等に引張応力が分布することとなり、筒状ゴム弾性体における引張応力の局部的な集中が軽減乃至は回避される。その結果、スリットの周方向端面における亀裂等の発生が防止されて、耐久性の向上効果が発揮されるのである。
【0007】
また、本発明は、前述の如き課題を解決するために、軸部材と該軸部材の外周側に離間して外挿配置された外筒部材を、それらの間に介装された筒状ゴム弾性体にて連結すると共に、該筒状ゴム弾性体に対して、軸方向に貫通するスリットを形成してなり、装着に際して該筒状ゴム弾性体に径方向の圧縮力が及ぼされるゴムブッシュにおいて、装着に際して及ぼされる前記径方向の圧縮力による弾性変形によって、前記筒状ゴム弾性体における前記スリットの周方向の両端面が、それぞれ、径方向に直線的に延びる略平坦面となるように、それらの両端面を、前記径方向の圧縮力が及ぼされていない装着前の状態で、軸直角方向断面において円弧状に凹んだ湾曲凹面としてなるゴムブッシュも、特徴とする。
【0008】
このような本発明に従う構造とされたゴムブッシュにおいては、例えば外筒部材の装着孔への圧入組付け等によって装着時に外筒部材が縮径されるような場合等においても、装着状態下で、スリットの周方向の両端面が略平坦面となることから、前述の如き、筒状ゴム弾性体における引張応力の局部的な集中の軽減乃至は回避による耐久性の向上効果が、安定して発揮されるのである。
【0009】
なお、本発明において採用されるスリットは、ゴムブッシュに要求されるばね特性等に応じて、その形成位置や周方向の大きさ等が適宜に設定されることとなる。具体的には、例えば、一対のスリットを、軸部材を挟んで径方向で対向する位置に形成することにより、それらスリットが対向位置する径方向と、それに直交する径方向で、大きなばね比を設定することが可能となる。
【0010】
さらに、本発明に従う各構造とされたゴムブッシュにおいては、例えば、前記スリットにおける周方向の両端面を、それぞれ、前記筒状ゴム弾性体の径方向厚さの60%以上の径方向幅寸法とすることが望ましく、より好ましくは該筒状ゴム弾性体の径方向厚さの70%以上、更に好ましくは該筒状ゴム弾性体の径方向厚さの80%以上の径方向幅寸法に設定される。これによって、筒状ゴム弾性体において引張応力が集中し易いスリットの周方向端部付近のゴム自由長、即ちスリットにおける周方向端面の表面積が、有利に確保されることとなり、発生応力が一層軽減されて、耐久性の更なる向上が図られ得る。なお、車両等への装着状態下で外筒部材が縮径されること等によって筒状ゴム弾性体が径方向に圧縮変形する場合には、筒状ゴム弾性体の圧縮変形状態下で、上述の如き径方向寸法が実現されるように、スリットの径方向寸法を設定することが望ましい。また、本発明においては、こじりばね特性の調節や、軸直角方向とこじり方向におけるばね比のチューニング等に際して、例えば軸部材の軸方向中央部分に対して、球状凸面や円筒状面等をもって外周面上に突出する大径凸部を形成することも可能であり、その場合には、筒状ゴム弾性体の径方向厚さが、軸方向で変化することとなるが、筒状ゴム弾性体が最も薄肉とされた部分において、上述の如き径方向寸法が実現されるように、スリットの径方向寸法を設定することにより、耐久性の向上効果等が有効に発揮され得る。
【0011】
また、本発明に従う各構造とされたゴムブッシュにおいては、例えば、前記筒状ゴム弾性体における前記スリットが形成されていない部分の軸方向厚さを、該スリットの近くにおいて、周方向で該スリットに近づくに従って次第に小さくし、該筒状ゴム弾性体の軸方向両端面に対して、周方向で該スリットに近づくに従って次第に軸方向内方に向かう傾斜面を形成した構成が、好適に採用される。このような構成を採用すれば、こじり方向の入力荷重によって軸部材と外筒部材がこじり変位せしめられた際に、スリットの周方向端部付近において筒状ゴム弾性体に惹起される最大歪みが一層軽減されることから、筒状ゴム弾性体の発生応力が抑えられて亀裂等の発生がより効果的に防止されるのであり、こじり方向に大きな入力がある場合等においても、優れた耐久性が発揮され得る。
【0012】
なお、かくの如く、スリットの周方向両端部付近において、筒状ゴム弾性体の軸方向両端面を傾斜面とする場合には、例えば、かかる傾斜面の軸直角方向に広がる面を基準面とし、該基準面に対する傾斜角度を、20〜60度、より好ましくは30〜50度に設定することが望ましい。かかる傾斜角度が余り小さくても、また大きくても、筒状ゴム弾性体のボリュームの確保と、こじり方向の入力荷重時における筒状ゴム弾性体の最大歪みの軽減効果とを、両立して十分に確保することが難しいからである。また、かかる傾斜面は、筒状ゴム弾性体の周方向において15〜40度の周方向長さ、より好ましくは20〜30度の周方向長さ範囲に亘って形成することが望ましく、それによって、こじり入力時における筒状ゴム弾性体の引張歪み量の軽減が、より効果的に達成される。
【0013】
また、本発明に従う各構造とされたゴムブッシュにおいては、例えば、前記スリットを挟んで径方向に対向位置する前記軸部材および前記外筒部材の少なくとも一方の側に、該スリット内に向かって径方向に突出するストッパゴムを突設すると共に、該ストッパゴムの周方向両端面を、それぞれ、該スリットの周方向端面に対して、それぞれ、円弧状の接続凹面で周方向に連続的に接続した構成が、好適に採用される。このようなストッパゴムを設けることによって、スリットの周方向端面の表面積(スリットの周方向端部付近のゴム自由長)を十分に確保しつつ、軸部材と外筒部材の径方向の相対的変位量を緩衝的に制限するストッパ機構が有利に実現され得るのであり、かかるストッパ機構にて筒状ゴム弾性体の最大歪みが抑えられる結果、より優れた耐久性の実現も可能となる。
【0014】
さらに、本発明に従う各構造とされたゴムブッシュにおいては、例えば、前記スリットを挟んで径方向に対向位置する前記軸部材および前記外筒部材の少なくとも一方の側に、該スリット内に向かって径方向に突出するストッパゴムを突設すると共に、該ストッパゴムの突出先端面を軸方向に傾斜させて、該スリットにおける径方向の内法寸法が、軸方向中央部分から軸方向両側外方に行くに従って次第に大きくなるようにした構成が、好適に採用される。このようなストッパゴムを採用すれば、径方向の荷重入力時に非線形的なストッパ特性を得ることが出来るのであり、また、こじり方向の荷重と径方向の荷重が併せて入力される場合にも、安定したストッパ機能を得ることが可能となる。
【0015】
また、本発明に従う各構造とされたゴムブッシュにおいては、例えば、前記外筒部材の軸方向長さを前記軸部材よりも小さくすると共に、前記筒状ゴム弾性体の軸方向両端面を、全体として該外筒部材側から該軸部材側に行くに従って次第に軸方向外方に突出する略テーパ状面とした構成が、好適に採用される。このような構成を採用することにより、内周部分と外周部分で円周方向のゴムボリュームの均一化を図ることが出来るのであり、また、径方向のばね剛性を確保しつつ、こじり方向のばね剛性を小さく設定することが可能となって、ばね特性のチューニング自由度が大きく確保され得ると共に、軸部材と外筒部材のこじり方向の変位に伴う筒状ゴム弾性体の変形歪みを全体的に小さく抑えることも可能となる。
【0016】
また一方、前述の如き課題を解決するために、ゴムブッシュの製造方法に関する本発明の特徴とするところは、前記軸部材と前記外筒部材の間で前記筒状ゴム弾性体を加硫成形することによって、上述の如き本発明に従う構造とされた各種のゴムブッシュを製造するに際して、前記筒状ゴム弾性体の加硫成形の後からゴムブッシュの装着までの間に該筒状ゴム弾性体に及ぼされる径方向の圧縮力を考慮し、該径方向の圧縮力が及ぼされることによって、該筒状ゴム弾性体の前記スリットにおける周方向の両端面がそれぞれ径方向に直線的に延びる略平坦面となるように、該スリットにおける周方向の両端面を、径方向断面において円弧状に凹んだ湾曲凹面形状をもって加硫成形するゴムブッシュの製造方法にある。
【0017】
このような本発明方法に従えば、車両等への装着状態下において、スリットの周方向の両端面がそれぞれ径方向に直線的に延びる略平坦面とされるゴムブッシュを、有利に製造することが出来るのであり、そして、このような本発明方法に従って得られたゴムブッシュにおいては、筒状ゴム弾性体におけるスリットの周方向端部での引張応力の集中が軽減乃至は回避されて、優れた耐久性が安定して発揮され得るのである。
【0018】
【発明の実施の形態・実施例】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0019】
先ず、図1及び図2には、本発明の一実施形態としての自動車用サスペンションブッシュ10の製品図が示されている。かかるブッシュ10は、軸部材としての内筒金具12と外筒部材として外筒金具14が、筒状ゴム弾性体としてのゴム弾性体16によって弾性的に連結されており、全体として略円筒形状を呈している。そして、このブッシュ10は、内筒金具12が自動車の車体フレーム側に取り付けられる一方、外筒金具14がサスペンションアーム側に取り付けられることにより、サスペンションアームの車体フレームに対する取付部位に装着されて、サスペンションアームを車体フレームに弾性連結するようになっている。
【0020】
より詳細には、内筒金具12は、鉄鋼の如き金属材等の剛性材で形成されており、厚肉のストレートな直管状の円筒形状を有している。なお、内筒金具12の軸方向両側の開口端部における隅部内周面18は、それぞれ、軸方向外方に向かって拡開するテーパ状面とされている。
【0021】
また、内筒金具12の外周面上には、径方向外方に離間して、外筒金具14が配設されている。この外筒金具14は、内筒金具12と同様、鉄鋼の如き金属材等の剛性材で形成されており、ストレートな直管状の円筒形状を有している。そして、これら内筒金具12と外筒金具14は、互いに略同一軸上で、且つ軸方向中心点が互いに一致する状態で配設されている。なお、外筒金具14は、内筒金具12に比して、薄肉とされていると共に、軸方向長さが小さく、例えば内筒金具12の1/3〜2/3程度の軸方向長さとされ、本実施形態では略1/2程度の軸方向長さとされている。また、外筒金具14の軸方向両側の開口端部における隅部外周面20は、それぞれ、軸方向外方に向かって小径化するテーパ状面とされている。
【0022】
そして、外筒金具14は、内筒金具12に対して外挿配置されており、互いに同じ中心軸:L上に位置せしめられている。また、外筒金具14は、内筒金具12の軸方向中央部分の外周面を覆うようにして、内筒金具12の軸方向中央に配設されている。これにより、内外筒金具12,14の径方向対向面間において、周方向に連続して略一定の大きさで延びる円環状領域が形成されている。特に、本実施形態では、外筒金具14の内径寸法が、内筒金具12の外径寸法の略2倍程度に設定されており、かかる円環状領域が、径方向で十分な幅寸法(径方向対向面間距離)をもって形成されるようになっている。
【0023】
そして、この内外筒金具12,14の径方向対向面間に形成された円環状領域に、ゴム弾性体16が介装されており、内外筒金具12,14が、ゴム弾性体16によって弾性的に連結されている。かかるゴム弾性体16は、全体として略厚肉の円筒形状を有しており、その内周面が内筒金具12の外周面に接着されている一方、外周面が外筒金具14の内周面に接着されている。このようなゴム弾性体16は、例えば、図3〜6に示されているように、ゴム弾性体16の加硫成形型に、必要に応じて接着処理等を施した内筒金具12と外筒金具14をセットし、それら内外筒金具12,14間にゴム材料を充填し、加硫成形することによって、内外筒金具12,14に対してゴム弾性体16が加硫接着された一体加硫成形品22として、有利に形成され得る。
【0024】
また、このようにして得られた一体加硫成形品22には、必要に応じて、外筒金具14に対し、八方絞り等の縮径加工が施される。これにより、図1〜2に示されている如き、目的とするブッシュ10とされる。かかる縮径加工により、加硫時の収縮等によってゴム弾性体16に発生する内部応力を軽減乃至は解消し、また予圧縮を加えてばね特性や耐久性を含むゴム特性を調節することが出来るのである。
【0025】
ここにおいて、上述の如き一体加硫成形品22として形成されたゴム弾性体16は、内周側から外周側に行くに従って次第に軸方向寸法が小さくされており、その内周面が内筒金具12の外周面の略全面に接着されていると共に、外周面が外筒金具14の内周面の略全面に接着されている。即ち、ゴム弾性体16の軸方向両端面24,24は、外筒金具14から内筒金具12に向かって軸方向外方に突出した略テーパ筒状面とされている。なお、これらの軸方向両端面24,24は、図5に示されているように、曲率半径:Raの円弧状断面を有する内周側部分と、それより小さな曲率半径:Rbの円弧状断面を有する外周側部分を、連続的に接続した湾曲面とされており、ゴム弾性体16の軸方向寸法が最も小さくなる点が、外筒金具14の近くに位置せしめられている。
【0026】
また、ゴム弾性体16には、軸方向に貫通して延びる一対のスリット26,26が形成されている。各スリット26は、ゴム弾性体16の径方向略中央部分を、周方向に略1/4周の長さで延びる形状とされており、内筒金具12を挟んで、径方向一方向(図3中、上下方向)に対向位置せしめられている。特に、本実施形態では、かかるスリット26が、周方向両端部分では、ゴム弾性体16の径方向厚さの略全体に亘る径方向幅寸法:Bを有している。また、スリット26の周方向中央部分には、内筒金具12に接着されて該内筒金具12側から径方向外方に向かって突出する内周側ストッパゴム28と、外筒金具14に接着されて該外筒金具14側から径方向内方に向かって突出する外周側ストッパゴム30が、形成されている。そして、これら内周側ストッパゴム28と外周側ストッパゴム30の各突出先端面が、スリット26を挟んで、径方向に所定距離を隔てて対向位置せしめられている。
【0027】
そして、これらのストッパゴム28,30がスリット26内に突設されることにより、スリット26が、全体として、図3に示されているように、軸直角方向断面で略H形の断面形状とされている。換言すれば、各スリット26における径方向の幅寸法が、周方向において変化されており、周方向中央部分で小さく、周方向両端部分で大きく設定されているのである。また、スリット26の周方向両端部が、内外筒金具12,14の径方向対向面間の略全体に亘る径方向幅寸法で形成されていることにより、ゴム弾性体16は、実質的に、一対のスリット26,26によって周方向に分割されており、かかる一対のスリット26,26が形成されていない部分、即ちスリット26,26の対向方向に直交する径方向で対向位置する一対の弾性連結部分38,38だけにおいて、内外筒金具12,14を相互に連結する状態で存在せしめられている。なお、ストッパゴム28,30は、スリット26の周方向両端部分において、内外筒金具12,14の表面上に僅かな肉厚:T(例えば、ゴム弾性体16の成形型構造等の技術的理由で許容される最小肉厚)で形成されたゴムまわし部32,32を介して、周方向に隣接位置する弾性連結部分38に対して接続、一体化されている。
【0028】
また、内周側ストッパゴム28は、その突出先端面が軸方向中央から軸方向両側に行くに従って低くなる傾斜面とされており、全体として、図4に示されている如き軸方向断面で、突出高さが軸方向中央部分で最も大きくなる略山形の断面形状とされている。換言すれば、スリット26における径方向の内法寸法が、軸方向中央部分から軸方向両側外方に行くに従って次第に大きくなる形状とされている。更にまた、内周側ストッパゴム28は、周方向においても、中央部分が最も高い突出高さとされている。また一方、外周側ストッパゴム30は、全体に亘って突出高さが略一定とされており、且つ突出先端面の略全面に小さなシボ状乃至は波状の凹凸が付されている。
【0029】
更にまた、一体加硫成形品22において、スリット26の周方向両端面(即ち、周方向両端部の内周面)34,34は、何れも、図3に示されている如き径方向断面で、略一定の曲率半径:rbをもって円弧状に凹んだ湾曲凹面とされている。ここにおいて、この曲率半径:rbは、ゴム弾性体16の加硫成形後から車両への装着状態に至るまでの過程での弾性変形を考慮して設定されている。即ち、前述の如き、加硫成形後に外筒金具14に加えられる縮径加工によってゴム弾性体16に径方向の圧縮力が及ぼされた際、ゴム弾性体16の弾性変形に伴って、該ゴム弾性体16がスリット26内に膨出せしめられるが、この膨出変形により、図1に示されているように、かかる周方向両端面34,34が、径方向に直線的に延びる略平坦面となるように、ゴム弾性体16の圧縮変形量を考慮して、スリット26の周方向両端面34,34における曲率半径:rbが設計されているのである。
【0030】
特に、本実施形態では、図3に示された一体加硫成形品22の径方向断面において、曲率半径:rbで形成されたスリット26の周方向端面34が、その両端部において、rbよりも十分に小さな曲率半径:raを有する円弧状の接続凹面36,36を介して、内周側ストッパゴム28および外周側ストッパゴム30の周方向端面に対して連続面をもって滑らかに接続されている。また、本実施形態では、上述の如き加硫成形後の外筒金具14の縮径加工によって、内周側ストッパゴム28と外周側ストッパゴム30の径方向対向面間距離が小さくなるが、図1〜2に示されているように、縮径加工後に、それら両ストッパゴム28,30の対向面が、最も接近する中央部分において、僅かに接触するか極めて小さな間隙を隔てて対向位置せしめられるように、ストッパゴム28,30の突出高さが設定されている。
【0031】
さらに、ゴム弾性体16によって形成された弾性連結部分38,38は、それぞれ、周方向に略1/4周の長さを有していると共に、各弾性連結部分38の周方向両側部分は、周方向に所定長さに亘って、スリット26に近づくに従って次第に軸方向厚さが小さくなる肉厚変化部とされている。即ち、弾性連結部分38の周方向両側部分は、その軸方向両端面が、周方向において、スリット26に向かって次第に軸方向内方に傾斜した傾斜面40,40とされているのである。なお、本実施形態では、傾斜面40が、各弾性連結部分38において、周方向両端部の略1/4〜1/3周の長さ部分に亘って形成されている。また、図5に示されているように、かかる傾斜面40による、中心軸:L回りの単位中心角あたりでの肉厚変化量は、内周側よりも周長の大きい外周側の方が大きくされている。
【0032】
特に、本実施形態では、図6に示されているように、かかる傾斜面40に対して、中心軸:Lに直交して広がる平面(軸直面):Aに対する周方向の傾斜角度:θが、30〜50度となるように設定されている。また、各傾斜面40には、僅かに外方に凸となる円弧状の湾曲面が付されている。
【0033】
要するに、各弾性連結部分38は、スリット26の周方向両側の壁部を構成する周方向の両側部分において、傾斜面40,40により、軸方向両側の角部を切り欠かれた形状とされている。そして、これにより、スリット26の周方向両端面34,34は、それぞれ、軸方向長さが小さくされているのである。
【0034】
上述の如き構造とされたブッシュ10は、図面上に明示はされていないが、例えば、内筒金具12の内孔42に対して、自動車の車体フレーム側に固定されるロッドが挿通固定される一方、外筒金具14が、自動車のL形アームやA形アーム等のサスペンションアームに形成されたアームアイに圧入固定されることによって、中心軸:Lが略鉛直方向に延びる状態で、サスペンションアームの車体フレームに対する取付部位に介装されることとなる。そして、かかる装着状態下、ブッシュ10には、路面の凹凸等や加速/制動、或いはコーナリング等の走行状態に応じて、軸直角方向の入力荷重が及ぼされると共に、サスペンションアームの揺動等に応じて、内筒金具12の中心軸と外筒金具14の中心軸を相互に傾斜させるこじり方向の入力荷重が及ぼされることとなる。
【0035】
ここにおいて、かかるブッシュ10においては、一対のスリット26,26により、径方向のばね比が大きく設定されており、スリット26,26が対向位置する径方向で柔らかく、それに直交する径方向で硬いばね特性が発現されることから、例えば、車両前後方向で柔らかく、車両左右方向で硬いばね特性を付与して、乗り心地と操縦安定性を高度に両立して達成すること等が容易に出来るのである。
【0036】
しかも、かかるゴムブッシュ10においては、縮径加工によってスリット26の周方向両端面34,34が、径方向に直線的に延びる略平坦面とされていることから、スリット26の両側に位置するゴム弾性体16に径方向の引張力が作用した際にも、引張応力がスリット26の周方向端面34の略全体に略均一に発生することとなり、局部的な引張応力の集中が、効果的に回避される。それ故、スリット26の周方向端面34において、応力集中に起因する亀裂の発生等が軽減乃至は防止されるのであり、以て、優れた耐久性が発揮されるのである。特に、本実施形態では、スリット26の周方向端面34が、ゴム弾性体16の径方向厚さの略全体に亘る径方向幅寸法で形成されて、大きな面積が設定されていることから、引張応力がより有利に分散され、耐久性の向上が一層有利に達成され得る。
【0037】
また、かかるブッシュ10においては、各スリット26内に突設されたストッパゴム28,30により、内外筒金具12,14の径方向の相対的変位量が緩衝的に制限されるようになっていることから、大きな荷重入力時にも、ゴム弾性体16の過大な変形が防止されて、発生する引張応力が制限されるのであり、それによっても、スリット26の周方向端面34における亀裂の発生が抑えられて、耐久性の更なる向上が図られ得る。
【0038】
さらに、かかるブッシュ10においては、ゴム弾性体16(弾性連結部分38)の軸方向厚さが、スリット26の周方向端部付近において、傾斜面40,40によって小さく設定されていることから、例えば、内外筒金具12,14間にこじり方向の荷重が入力された際にも、スリット26の周方向端部付近に発生する径方向の引張歪みが有利に軽減されるのであり、こじり荷重の入力に伴うゴム弾性体16の引張応力が、効果的に抑えられ得る。それ故、たとえこじり方向(こじり荷重による内外筒金具12,14の中心軸の傾斜方向)が、スリット26の周方向端面34の近くに位置するような場合でも、こじり荷重によるゴム弾性体16の引張歪みが軽減され、スリット26の周方向端面34における亀裂の発生が防止されて、良好なる耐久性が発揮されるのである。
【0039】
そして、このように径方向とこじり方向の何れの荷重に対しても、スリット26の周方向端部に発生し易い応力の集中が有利に軽減乃至は防止され得る、上述の如き構造のゴムブッシュ10においては、特に、径方向の荷重とこじり方向の荷重が同時に入力されることの多い、上述の如きL形アーム等に用いられる自動車用サスペンションブッシュにおいても、スリット26の周方向端部における発生応力が有利に軽減されるのであり、その結果、スリット26,26による径方向ばね比のチューニング効果を十分に確保しつつ、優れた耐久性を得ることが出来るのである。
【0040】
因みに、上述の如き構造とされたブッシュ10について、こじり方向および径方向の荷重を及ぼした場合のゴム弾性体16における最大主歪み(径方向歪み)を、有限要素法で解析した結果を、図7に示す。なお、かかる解析に際しては、実車での荷重入力を考慮し、内筒金具12と外筒金具14を、スリット26,26の対向方向に、軸方向中心点をこじり中心として、それら内外筒金具12,14の相対的傾斜角度が12.4度になるまでこじり変位させ、その後、かかるこじり角度(12.4度)を維持したままの状態で、内外筒金具12,14を、スリット26,26の対向方向で径方向に、最大3mmまで相対変位させるという条件を採用した。
【0041】
また、比較例として、図8及び図9に示されているように、各スリット26の周方向両端面34,34が、何れも、外筒金具14に縮径加工を施した後の製品状態で、略半円形状の湾曲面とされたゴムブッシュ44,46を採用し、それらのゴムブッシュ44,46についても、同一条件下で、ゴム弾性体16に発生する最大主歪みを求めた。なお、図8に示された比較例1のゴムブッシュ44は、図9に示された比較例2のゴムブッシュ46に比して、スリット26の径方向幅を小さくしたものである。また、これら比較例としてのゴムブッシュ44,46では、スリット26の断面形状以外の各部材および部位の形状や材質等の諸条件を、本実施例のゴムブッシュ10と同じに設定した。
【0042】
さらに、上述の如き本実施例のブッシュ10と、比較例1,2のゴムブッシュ44,46を実際に試作し、それぞれについて、内外筒金具12,14のこじり方向における相対的傾斜角度を12.4度に保持した状態で、内外筒金具12,14を、スリット26,26の対向方向で径方向に±3mmの振幅で、5×105 回だけ繰り返し相対変位させる耐久試験を行った。その結果を、上述の最大主歪みの解析結果(12.4度のこじり変位だけを入力した場合の歪み)と共に、下記表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
図7及び表1に示された解析および試験の結果から明らかなように、本実施例構造のブッシュ10にあっては、比較例1,2の何れのゴムブッシュ44,46に比しても、こじり方向および径方向の荷重入力時における最大主歪みが軽減され、優れた耐久性を発揮し得ることが、明らかである。なお、比較例1,2における亀裂の発生箇所は、何れも、スリット26の円弧形状とされた周方向端面34における周方向略中央部分であり、有限要素法による最大主歪みの発生部位と略一致していた。また、特に比較例1のゴムブッシュ44にあっては、12.4度のこじり変位を及ぼした状態下で、内外筒金具12,14を径方向に1.0mm以上相対変位させると、要素破壊を生ずることが、解析結果から明らかとなった。
【0045】
以上、本発明の実施形態および実施例について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、上述の具体的な記載によって、何等限定されるものでない。
【0046】
例えば、ゴム弾性体16を加硫成形し、必要に応じて外筒金具14を縮径した後、ブッシュ10の装着に際して、サスペンションアームのアームアイ等の装着孔に外筒金具14を圧入することによって、外筒金具14が縮径され、それによって、ゴム弾性体16に径方向の弾性変形が生ぜしめられる場合には、かかる装着に際してのゴム弾性体16の弾性変形をも考慮して、ブッシュ10の装着状態下で、スリット26の周方向端面34が径方向に直線的に延びる略平坦面となるように、ゴム弾性体16の加硫成形時における形状を設計することが、望ましい。
【0047】
また、スリット26におけるストッパゴム28,30は、必ずしも必要でなく、径方向のストッパ機構が必要とされる場合でも、それら内周側ストッパゴム28と外周側ストッパゴム30の何れか一方だけによって、ストッパ機構を構成することも可能である。
【0048】
更にまた、前記実施形態では、内周側ストッパゴム28が、周方向および軸方向の中央部分で最も突出した形状とされることにより、非線形的な緩衝的ストッパ機能が付与されると共に、外周側ストッパゴム30の突出先端面に凹凸が付されることによって、打音発生の軽減等が図られていたが、それらストッパゴム28,30の具体的形状乃至は構造は、特に限定されるものでない。
【0049】
また、スリット26の周方向長さ等は、ブッシュ10に要求される防振性能等に応じて適宜に決定されるものであって、何等、限定されるものでない。更に、スリット26は、径方向に対向位置して一対だけ形成するものに限定されるものでなく、ブッシュ10に要求される特性等に応じて、例えば、周上で一つだけ形成したり、周方向に三つ以上独立して形成したりすることも可能である。
【0050】
更にまた、弾性連結部分38における傾斜面40,40は、必ずしも形成する必要がなく、ゴム弾性体16を、周方向で略一定の肉厚をもって形成しても良い。
【0051】
さらに、ブッシュ10の配設方向等も、限定されるものでなく、主たる径方向荷重やこじり方向荷重の入力方向に対して、要求されるばね特性や防振性能等が有利に達成されるように、スリット26の相対位置等を考慮して、適当に設定され得る。
【0052】
また、内筒金具12の外周面や外筒金具14の内周面を、軸直角方向断面で楕円形状等としたり、ゴム弾性体16に対して、変形を制限する拘束部材を接着すること等によって、ブッシュのばね特性を調節することも可能である。
【0053】
加えて、本発明は、例示の如き自動車用サスペンションブッシュに限定されることなく、各種のゴムブッシュに適用可能であり、径方向或いはこじり方向の荷重が入力されないようなゴムブッシュにも、本発明は、有利に適用され得る。
【0054】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【0055】
【発明の効果】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされたゴムブッシュにおいては、スリットの周方向端面が径方向に直線的に延びる略平坦面とされていることから、軸部材と外筒部材の間に径方向やこじり方向の荷重が及ぼされた際に筒状ゴム弾性体におけるスリットの周方向端部付近に生ぜしめられる引張歪みの局部的な集中が軽減乃至は防止され、有利に分散されることから、筒状ゴム弾性体の最大発生歪みが軽減されて、耐久性の向上効果が発揮されるのである。
【0056】
また、本発明方法に従えば、ゴムブッシュの装着に至るまでの過程を考慮して、筒状ゴム弾性体の形状が設計されることから、ゴムブッシュの装着状態下で、スリットの周方向端面を径方向に直線的に延びる略平坦面形状が安定して付与されるのであり、以て、かかるゴムブッシュにおいて、筒状ゴム弾性体の引張歪みの軽減に基づく耐久性の向上効果が、安定して且つ有利に享受され得るのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態としてのブッシュを示す軸方向端面図である。
【図2】図1におけるII−II断面図である。
【図3】図1に示されたブッシュの製造工程で得られる一体加硫成形品を示す軸方向端面図である。
【図4】図3におけるIV−IV断面図である。
【図5】図3におけるV−V断面説明図である。
【図6】図3におけるVI−VI断面図である。
【図7】図1に示されたブッシュについて、荷重入力時における最大主歪みを有限要素法によって解析した結果を、比較例結果と併せて示すグラフである。
【図8】図7に結果が示された解析に際して、比較例1として採用したゴムブッシュを示す軸方向端面図である。
【図9】図7に結果が示された解析に際して、比較例2として採用したゴムブッシュを示す軸方向端面図である。
【符号の説明】
10 ブッシュ
12 内筒金具
14 外筒金具
16 ゴム弾性体
22 一体加硫成形品
26 スリット
34 周方向端面
40 傾斜面
Claims (8)
- 軸部材と該軸部材の外周側に離間して外挿配置された外筒部材を、それらの間に介装された筒状ゴム弾性体にて連結すると共に、該筒状ゴム弾性体に対して、軸方向に貫通するスリットを形成してなり、装着に際して該筒状ゴム弾性体に径方向の圧縮力が及ぼされるゴムブッシュにおいて、
装着に際して及ぼされる前記径方向の圧縮力による弾性変形によって、前記筒状ゴム弾性体における前記スリットの周方向の両端面が、それぞれ、径方向に直線的に延びる略平坦面となるように、それらの両端面を、前記径方向の圧縮力が及ぼされていない装着前の状態で、軸直角方向断面において円弧状に凹んだ湾曲凹面としたことを特徴とするゴムブッシュ。 - 前記スリットにおける周方向の両端面の径方向幅寸法を、それぞれ、前記筒状ゴム弾性体の径方向厚さの60%以上とした請求項1に記載のゴムブッシュ。
- 前記筒状ゴム弾性体における前記スリットが形成されていない部分の軸方向厚さを、該スリットの近くにおいて、周方向で該スリットに近づくに従って次第に小さくし、該筒状ゴム弾性体の軸方向両端面に対して、周方向で該スリットに近づくに従って次第に軸方向内方に向かう傾斜面を形成した請求項1又は2に記載のゴムブッシュ。
- 前記傾斜面が、軸直角方向に広がる面に対して20〜60度傾斜している請求項3に記載のゴムブッシュ。
- 前記スリットを挟んで径方向に対向位置する前記軸部材および前記外筒部材の少なくとも一方の側に、該スリット内に向かって径方向に突出するストッパゴムを突設すると共に、該ストッパゴムの周方向両端面を、それぞれ、該スリットの周方向端面に対して、円弧状の接続凹面で周方向に連続的に接続した請求項1乃至4の何れかに記載のゴムブッシュ。
- 前記スリットを挟んで径方向に対向位置する前記軸部材および前記外筒部材の少なくとも一方の側に、該スリット内に向かって径方向に突出するストッパゴムを突設すると共に、該ストッパゴムの突出先端面を軸方向に傾斜させて、該スリットにおける径方向の内法寸法が、軸方向中央部分から軸方向両側外方に行くに従って次第に大きくなるようにした請求項1乃至5の何れかに記載のゴムブッシュ。
- 前記外筒部材の軸方向長さを前記軸部材よりも小さくすると共に、前記筒状ゴム弾性体の軸方向両端面を、全体として該外筒部材側から該軸部材側に行くに従って次第に軸方向外方に突出する略テーパ状面とした請求項1乃至6の何れかに記載のゴムブッシュ。
- 前記軸部材と前記外筒部材の間で前記筒状ゴム弾性体を加硫成形することによって、請求項1乃至7の何れかに記載のゴムブッシュを製造するに際して、
前記筒状ゴム弾性体の加硫成形の後からゴムブッシュの装着までの間に該筒状ゴム弾性体に及ぼされる径方向の圧縮力を考慮し、該径方向の圧縮力が及ぼされることによって、該筒状ゴム弾性体の前記スリットにおける周方向の両端面がそれぞれ径方向に直線的に延びる略平坦面となるように、該スリットにおける周方向の両端面を、径方向断面において円弧状に凹んだ湾曲凹面形状をもって加硫成形することを特徴とするゴムブッシュの製造方法。
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