JP3655531B2 - タイヤ性能予測方法、流体シミュレーション方法、タイヤ設計方法、タイヤ用加硫金型設計方法、タイヤ用加硫金型製造方法、空気入りタイヤの製造方法、タイヤ性能予測プログラムを記録した記録媒体 - Google Patents
タイヤ性能予測方法、流体シミュレーション方法、タイヤ設計方法、タイヤ用加硫金型設計方法、タイヤ用加硫金型製造方法、空気入りタイヤの製造方法、タイヤ性能予測プログラムを記録した記録媒体 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、タイヤ性能予測方法、流体シミュレーション方法、タイヤ設計方法、タイヤ用加硫金型設計方法、タイヤ用加硫金型製造方法、空気入りタイヤの製造方法、タイヤ性能予測プログラムを記録した記録媒体にかかり、自動車等に使用される空気入りタイヤの性能、特に、排水性、雪上性能、騒音性能等の流体を介するタイヤ性能を予測するタイヤ性能予測方法、タイヤ周囲の流体の流れを模擬する流体シミュレーション方法、タイヤ設計方法、タイヤを製造するための加硫金型を設計するタイヤ用加硫金型設計方法、タイヤ用加硫金型製造方法、空気入りタイヤの製造方法、タイヤ性能予測プログラムを記録した記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、空気入りタイヤ開発において、タイヤ性能は実際にタイヤを設計・製造し、自動車に装着して性能試験を行うことにより得られるものであり、性能試験の結果に満足できなければ設計・製造からやり直す、という手順を踏んできた。最近では、有限要素法等の数値解析手法や計算機環境の発達により、タイヤ内圧充填状態やタイヤ非転動時の荷重負荷状態等が計算機で予測できるようになり、この予測から幾つかの性能予測が行えるようになってきたが、排水性や雪上性能、及び騒音性能等のように、流体の挙動からタイヤ性能が定まるものについては、これまで計算を行うことができなかった。このため、タイヤ性能予測が行えず、タイヤ開発を効率的に行うことができないのが現状である。
【0003】
計算機を用いて、タイヤの排水性、特にハイドロプレーニングに関して、スムースタイヤ(溝無しタイヤ)と周方向溝のみを配置したタイヤについて解析を試みた技術文献がある("Tire Science and Technology, TSTCA, Vol.25, No.4, October-December, 1997, pp.265-287")。
【0004】
上記技術文献の他に、A.L. Brown and D. Whicker "An Interactive Tire-Fluid Model for Dynamic Hydroplaning" ASTM Spec Tech Publ. No.793(1983) p.130-150 の技術文献がある。この技術では、1回の構造解析からタイヤ接地面の線形ばねに当たるcompliance matrixを計算しており、しかも、これをドライタイヤ、ウェットタイヤの解析で共用している。この方法では、タイヤモデル解析の部分を繰り返し計算しないため、計算時間を短縮できるが、ドライタイヤと、ウェットタイヤで変形が異なることによるタイヤ特性(ばね)の違い、すなわちタイヤ変形特性の非線形性を考慮していないのみならず、ハイドロプレーニング計算で重要となる刻々と移り変わるタイヤ接地面での接地形状、接地圧等についても検討されていない。
【0005】
また、流体計算では、水圧による力がタイヤに加わり、力が平衡するまで水膜厚さの収束計算をし、収束後の接地圧の合力がタイヤ負荷荷重と異なる場合は、タイヤに与える変形量を変化させ、タイヤ負荷荷重と接地圧の合力が等しくなるまで更に収束計算を行っており、従って、タイヤモデルの変形及び流体の流れは定常状態のみの解析であった。さらに、p132 Model Overview 3行目からの記載やp137 下から8行目からの記載に、周方向に変化するトレッドパターンの場合はロック状態の解析に限定される旨の記載がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、従来の技術文献は、スムースタイヤと周方向溝のみを配置したタイヤを主として解析を試みたものであり、実際のタイヤにおいて排水性に大きく関与しているタイヤ周方向と交差する傾斜溝を有するパターン付きタイヤについて、また、タイヤ接地時及び回転時の流体をどのように流動状態に近づけ、過渡的解析を可能にするかについては言及されていない。すなわち、実際のタイヤ に対して実際の環境を想定した解析への考慮がなされていない。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮して、排水性、雪上性能、騒音性能等のように、流体を介する実際に使用するタイヤ性能の予測を容易にすることができるタイヤ性能予測方法、流体シミュレーション方法、タイヤ開発を効率化し、良好な性能のタイヤを得ることができるタイヤ設計方法、タイヤ用加硫金型設計方法、タイヤ用加硫金型製造方法、空気入りタイヤの製造方法、タイヤ性能予測プログラムを記録した記録媒体を得ることが目的である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、排水性、雪上性能、騒音性能など流体を介する実際に使用するタイヤ性能を予測し、特にタイヤ接地時及び回転時の流体をどのように流動状態に近づけ、過渡的解析を可能し、また、タイヤ開発を効率化し、良好な性能のタイヤの提供を容易にしたものである。
【0009】
具体的には、請求項1に記載のタイヤ性能予測方法は、(a)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ、(b)前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ、(c)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ、(d)前記ステップ(b)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(c)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(b)及び前記ステップ(c)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ、(e)前記ステップ(c)またはステップ(d)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求めるステップ、(f)前記物理量によりタイヤ性能を予測するステップ、を含んでいる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記ステップ(a)は、流体モデルと接する路面モデルをさらに定めたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記ステップ(b)は所定時間だけ繰返し計算することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記所定時間は、10msec以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記ステップ(c)は、一定時間だけ繰返し計算することを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記一定時間は、10msec以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記予め定めた時間は、10msec以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記タイヤモデルを転動させる場合には前記ステップ(a)において、内圧充填時及び荷重計算時の計算を施すと共に、回転変位または速度或いは直進変位を付与したタイヤモデルを定めることを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記タイヤモデルを転動させる場合には、前記ステップ(a)において、前記流体モデルの上面では流体が自由に流出しかつ、前記流体モデルの上面以外の他面では流体が流入及び流出しないことを表す流入流出条件を前記流体モデルに付与することを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記タイヤモデルを転動させない場合には、前記ステップ(a)において、内圧充填時の計算を施すと共に、該計算後に荷重計算を施したタイヤモデルを定めることを特徴とする。
【0020】
請求項11に記載の発明は、請求項1乃至請求項7の何れか1項または請求項10に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記タイヤモデルを転動させない場合には、前記ステップ(a)において、前記流体モデルの前面では流体が進行速度で流入し、前記流体モデルの後面及び上面では流体が自由に流出し、前記流体モデルの側面及び下面では流体が流入及び流出しないことを表す流入流出条件を前記流体モデルに付与することを特徴とする。
【0021】
請求項12に記載の発明は、請求項1乃至請求項11の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記タイヤモデルは、部分的にパターンを有することを特徴とする。
【0022】
請求項13に記載の発明は、請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記路面モデルは、ドライ、ウェット、氷上、雪上、及び非舗装の少なくとも1つの路面状態を表す摩擦係数μを選択することによって路面状態を定めることを特徴とする。
【0023】
請求項14に記載の発明は、請求項1乃至請求項13の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記粒子間条件は、複数の粒子間の粒子間定数で定まる複数の粒子間の力学的な干渉で定められることを特徴とする。
【0024】
請求項15に記載の発明は、請求項1乃至請求項14の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記流体モデルは、少なくとも水を含み、前記物理量としてタイヤモデルの接地面積、接地圧及び接地反力の少なくとも1つを用い、前記タイヤ性能としてタイヤウェット性能を予測することを特徴とする。
【0025】
請求項16に記載の発明は、請求項1乃至請求項15の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記流体モデルは、少なくとも水を含み、前記物理量として流体モデルの圧力、流量、及び流速の少なくとも1つを用い、前記タイヤ性能としてタイヤウェット性能を予測することを特徴とする。
【0026】
請求項17に記載の発明は、請求項1乃至請求項15の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記流体モデルは、水及び雪の少なくとも1つを含み、前記物理量としてタイヤモデルの氷路面及び雪路面の少なくとも一方の路面での接地面積、接地圧、及び剪断力の少なくとも1つを用い、前記タイヤ性能としてタイヤ氷雪上性能を予測することを特徴とする。
【0027】
請求項18に記載の発明は、請求項1乃至請求項15の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記流体モデルは、水及び雪の少なくとも1つを含み、前記物理量として流体モデルの氷路面及び雪路面の少なくとも一方での流体モデルの圧力、流量、及び流速の少なくとも1つを用い、前記タイヤ性能としてタイヤ氷雪上性能を予測することを特徴とする。
【0028】
請求項19に記載の発明は、請求項1乃至請求項15の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法であって、前記流体モデルは、少なくとも空気を含み、前記物理量として流体モデルの圧力、流量、流れ速度、エネルギー、及びエネルギー密度の少なくとも1つを用い、前記タイヤ性能としてタイヤ騒音性能を予測することを特徴とする。
【0029】
請求項20に記載の発明の流体シミュレーション方法は、
(イ)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ、
(ロ)前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ、
(ハ)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ、
(ニ)前記ステップ(ロ)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(ハ)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(ロ)及び前記ステップ(ハ)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ、
を含んでいる。
【0030】
請求項21に記載の発明のタイヤ設計方法は、
(1)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ、
(2)前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ、
(3)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ、
(4)前記ステップ(2)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(3)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(2)及び前記ステップ(3)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ、
(5)前記ステップ(3)またはステップ(4)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求めるステップ、
(6)前記物理量によりタイヤ性能を予測するステップ、
(7)前記複数のタイヤ性能から選択したタイヤ性能のタイヤモデルに基づいてタイヤ設計するステップ、
を含んでいる。
【0031】
請求項22に記載の発明のタイヤ用加硫金型設計方法は、
(α)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ、
(β)前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ、
(γ)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ、
(δ)前記ステップ(β)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(γ)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(β)及び前記ステップ(γ)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ、
(ε)前記ステップ(γ)またはステップ(δ)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求めるステップ、
(ζ)前記物理量によりタイヤ性能を予測すると共に、前記ステップ(α)乃至ステップ(ε)を複数行い複数のタイヤモデルのタイヤ性能を予測するステップ、
(η)前記ステップ(ζ)で予測した複数のタイヤ性能から選択したタイヤ性能のタイヤモデルに基づいてタイヤ用加硫金型を設計するステップ、
を含んでいる。
【0032】
請求項23に記載の発明のタイヤ用加硫金型製造方法は、請求項22に記載のタイヤ用加硫金型設計方法により設計した空気入りタイヤの加硫金型を製造することを特徴とする。
【0033】
請求項24に記載の発明の空気入りタイヤの製造方法は、請求項22に記載のタイヤ用加硫金型設計方法により設計した空気入りタイヤの加硫金型を製作し、該加硫金型を用いて空気入りタイヤを製造することを特徴とする。
【0034】
請求項25に記載の発明の空気入りタイヤの製造方法は、
(I)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ、
(II)前記各タイヤモデルの変形計算を実行するステップ、
(III)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ、(IV)前記ステップ(II)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(III)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ( II )及び前記ステップ( III )の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ、
(V)前記ステップ(III)またはステップ(IV)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求めるステップ、
(VI)前記物理量により各タイヤモデルのタイヤ性能を予測するステップ、
(VII)前記複数のタイヤ性能から選択したタイヤ性能のタイヤモデルに基づいてタイヤを製造するステップ、
を含んでいる。
【0035】
請求項26に記載の発明は、コンピュータによってタイヤ性能を予測するためのタイヤ性能予測プログラムを記録した記録媒体であって、
(A)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ、
(B)前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ、
(C)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ、
(D)前記ステップ(B)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(C)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(B)及び前記ステップ(C)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ、
の各ステップを含むことを特徴とする。
【0036】
本発明では、まず、これから評価するタイヤの設計案(タイヤ形状・構造・材料・パターンの変更など)の性能を予測するため、タイヤ設計案を数値解析上のモデルに落とし込む。すなわち、数値解析が可能なタイヤモデル(数値解析モデル)を作成する。更に、目標性能に関わる流体及び路面のモデル化を行い、流体モデル及び路面モデル(数値解析モデル)を作成し、タイヤ、流体、路面の3者を同時に考慮した数値解析を行い、目標性能について数値予測する。この予測結果からタイヤ設計案の可否を判定し、結果良好なら設計案を採用、もしくは更にこの設計案のタイヤを製造し、性能評価を行い、この結果まで良好なら設計案を採用する。設計案による予測性能(またはは実測性能)が不十分であれば、設計案の一部または全部を修正し、数値解析モデルの作成から再度実行する。これらの手順であれば、タイヤを製造して性能評価をする回数が極めて少なくなるため、タイヤ開発を効率化できる。
【0037】
従って、性能予測に基づくタイヤ開発を行うためには、効率良く、精度の良いタイヤ性能予測のための数値解析モデルが不可欠である。そこで、本発明では、タイヤ性能を予測するため、ステップ(a)において、接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定める。なお、路面モデルをさらに定めることもできる。ステップ(b)では、タイヤモデルの変形計算を実行し、ステップ(c)では、流体モデルの流動計算を実行する。このステップ(c)では、複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行する。次のステップ(d)では、ステップ(b)に、ステップ(c)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(b)及び前記ステップ(c)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とする。ステップ(e)では、ステップ(c)またはステップ(d)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求め、ステップ(f)では、物理量によりタイヤ性能を予測する。
【0038】
流体モデルは、タイヤモデルと接触する離散した粒子モデルから構成されており、タイヤ表面を境界面とする境界よりタイヤ外側に流体が存在する。この流体モデルは、流体が流動できる流れ場を表現しうる複数の粒子からなり、粒子が近接する他の1つ以上の粒子と力学的な干渉作用を適切な粒子間定数に基づいて計算することで流体全体の挙動を解析するためのものである。本発明では、流体は、自由に動き回る離散的な要素(粒子)の集合体であると想定する。これらの個々の粒子の運動はニュートン(Newton)の運動の法則に従い、微小時間ごとの要素の位置を求め、タイヤ面への要素からの反力を刻々と計算する。
【0039】
すなわち、前記流体モデルとして、流体を自由に動き回る離散的な要素(粒子)の集合体と想定する手法は一般に個別要素法(DEM)と呼ばれ、扱う粒子(要素)の大きさは計算時間の制約から粒子の大きさは水分子など分子レベルの粒子サイズよりもはるかに大きい。例えば、本発明の場合、直径5mm程度の粒子でも十分解析可能である。個々の粒子の運動はニュートンの運動の法則に従い、微小時間ごとの粒子(要素)の位置を求めると共に、タイヤモデルの表面への要素からの反力を刻々と計算する。力学的な干渉とは、粒子間にばね、ダッシュポット、スライダー(摩擦)を必要に応じて考慮するもので、ばね定数、粘性定数、摩擦係数を粒子間定数として用いる。
【0040】
粒子の配置数は実際には、タイヤのハイドロプレーニング解析では数万〜数十万個に及ぶ。また、粒子同士の力学的相互作用は接線方向と法線方向に分けられる。接線方向にはばね(ばね定数Kn)による弾性力、ダッシュポット(粘性定数Cn)による粘性力、スライダーによる摩擦力(摩擦係数μ)が現われる。接線方向には摩擦力以上の力は作用しない。法線方向にはばね(ばね定数Kt)による弾性力、ダッシュポット(粘性定数Ct)による粘性力が現われ、引張力は現われない。もしくは引張方向のばね、ダッシュポットを考慮した改良モデルが採用される。個別要素法(DEM)及びこれらの力学的相互作用については文献(オフロードタイヤ工学 −設計と性能予測の基礎−、タイヤ設計指針作成委員会編、テラメカニックス研究会、1999)にも記載がある。
【0041】
なお、流体領域として流体(例えば水)のある部分に加え、流体の移動しうる領域(空気の領域)のメッシュを形成することが不要であるため、流体(例えば水)のある部分に粒子を配置すれば良く、空気等の気体を流体に含めずに、流体の移動しうる領域で要素(粒子)を考慮する必要が無いため、同じ要素(粒子)数ならば計算効率、精度が向上する。
【0042】
前記ステップ(b)のタイヤモデルの変形計算は、接地及び転動の少なくとも一方により変形が与えられたときの変形計算を実行することができる。この場合、入力として、接地及び転動の少なくとも一方を定めれば良い。
【0043】
なお、前記タイヤモデルの変形計算及び流動計算の少なくとも一方では繰返し計算を行うことができる。タイヤモデルの変形計算では、繰返し計算を行う所定時間の経過時間を、10msec以下を採用することができ、好ましくは1msec以下、更に好ましくは1μ・sec以下を採用することができる。また、流動計算では、繰返し計算を行う一定時間の経過時間を、10msec以下を採用することができ、好ましくは1msec以下、更に好ましくは1μ・sec以下を採用することができる。この経過時間が長すぎると、流体モデル中の流体がタイヤの挙動に合った擬似流動状態とならず、数値モデルとしての精度が悪化する。このため、経過時間は適正な値を採用する必要がある。
【0044】
また、流体モデルが擬似流動状態になるまでの計算でも、繰返し計算を行うことができる。この計算では、繰返し計算を行う所定時間の経過時間を、10msec以下を採用することができ、好ましくは1msec以下、更に好ましくは1μ・sec以下を採用することができる。
【0045】
前記タイヤモデルは、部分的にパターンを有するものであっても良い。また、前記路面モデルは、路面状態によりドライ、ウェット、氷上、雪上、非舗装などにより摩擦係数μを適正な値に選択することで、実際の路面状態を再現させることができる。
【0046】
前記粒子間条件は、複数の粒子間の粒子間定数で定まる複数の粒子間の力学的な干渉で定めることができる。すなわち、前記でも述べたが、力学的な干渉とは、粒子間にばね、ダッシュポット、スライダー(摩擦)を必要に応じて考慮するもので、ばね定数、粘性定数、摩擦係数を粒子間定数に用いれば、粒子間条件を定めることができる。
【0047】
なお、前記流体モデルが少なくとも水を含み、タイヤモデル接地面積、接地圧、及び接地反力の少なくとも1つを物理量とすればタイヤウェット性能を予測することができる。また、前記流体モデルが少なくとも水を含み、流体モデルの圧力、流量、流れ速度、を物理量としてもタイヤウェット性能を予測することができる。
【0048】
すなわち、流体モデルとして少なくとも水を含み、ステップ(e)におけるタイヤモデル接地面積、接地圧を物理量としてタイヤウェット性能を予測することができる。また、タイヤの接地圧または接地反力が流体との干渉で0になったり著しく減少したりすることによって、タイヤのグリップダウン(ハイドロプレーニング)を予測することができる。
【0049】
なお、ハイドロプレーニングは、タイヤモデル、または、流体モデルの速度を増加させて行き、下記状態になった時点の速度を、発生速度とすることができる。
▲1▼ タイヤの荷重が実質的にゼロまたは減少しなくなったとき
▲2▼ タイヤの接地面積が実質的にゼロまたは減少しなくなったとき
また、計算の収束性が悪い場合には、タイヤと流体の相対速度が0の場合の10%以下(好ましくは5%以下)、または、流体を考慮しない場合の10%以下(好ましくは5%以下)となる荷重または接地圧の時点をハイドロプレーニング発生速度とすることもできる。なお、相対速度を用いたのは、ハイドロプレーニングは、非転動状態(ロック状態)でも発生するためである。
【0050】
また、前記流体モデルが水及び雪の少なくとも一方を含み、タイヤモデルの氷路面及び雪路面の少なくとも一方の路面での接地面積、接地圧、及び剪断力の少なくとも1つを物理量として用いれば、タイヤ氷雪上性能を予測することができる。また、前記流体モデルが水及び雪の少なくとも一方を含み、流体モデルの氷路面及び雪路面の少なくとも一方の路面での流体モデルの圧力、流量、及び流速の少なくとも1つを物理量として用いても、タイヤ氷雪上性能を予測することができる。
【0051】
このように、流体モデルとして雪を含めて表現する場合は、前記粒子間条件としての力学的な干渉に、粒子間にばね、ダッシュポット、スライダー(摩擦)を必要に応じて考慮する。すなわち、ばね定数、粘性定数、摩擦係数を粒子間定数に用い、粒子間条件として、ばね、ダッシュポットによる弾性変形だけでなく摩擦による塑性変形も考慮することで、永久変形を考慮することができる。
【0052】
さらに、前記流体モデルが少なくとも空気を含み、流体モデルの圧力、流量、流れ速度、エネルギー、及びエネルギー密度の少なくとも1つを物理量として用いれば、タイヤ騒音性能を予測することができる。
【0053】
なお、タイヤ周辺の流体の挙動をシミュレーションする場合、ステップ(イ)において、接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定め、ステップ(ロ)において前記タイヤモデルの変形計算を実行し、ステップ(ハ)において前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行し、ステップ(ニ)において前記ステップ(ロ)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(ハ)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(ロ)及び前記ステップ(ハ)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするようにすれば、タイヤまわりの流体の流れを評価し、流れのスムーズさ、乱れの発生を予測し、タイヤ性能予測に役立てることができる。
【0054】
また、タイヤを設計する場合、ステップ(1)で接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能かつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定め、ステップ(2)で前記タイヤモデルの変形計算を実行し、ステップ(3)で前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行し、ステップ(4)で前記ステップ(2)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(3)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(2)及び前記ステップ(3)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とし、ステップ(5)で前記ステップ(3)またはステップ(4)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求め、ステップ(6)で前記物理量によりタイヤ性能を予測し、ステップ(7)で前記複数のタイヤ性能から選択したタイヤ性能のタイヤモデルに基づいてタイヤ設計するようにすることで、タイヤまわりの流体の流れを評価し、流れのスムーズさ、乱れの発生を予測し、タイヤ性能を予測しつつ設計に役立てることができる。
【0055】
また、タイヤを製造するためのタイヤ用加硫金型を設計する場合、ステップ(α)で接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定め、ステップ(β)で前記タイヤモデルの変形計算を実行し、ステップ(γ)で前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行し、ステップ(δ)で前記ステップ(β)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(3)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(β)及び前記ステップ(γ)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とし、ステップ(ε)で前記ステップ(γ)またはステップ(δ)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求め、ステップ(ζ)で前記物理量によりタイヤ性能を予測すると共に、前記ステップ(α)乃至ステップ(ε)を複数行い複数のタイヤモデルのタイヤ性能を予測し、ステップ(η)で前記ステップ(ζ)で予測した複数のタイヤ性能から選択したタイヤ性能のタイヤモデルに基づいてタイヤ用加硫金型を設計するようにすることで、製造されるべきタイヤまわりの流体の流れを評価し、流れのスムーズさ、乱れの発生を予測し、タイヤ性能を予測しつつタイヤ製造のための金型設計に役立てることができる。
【0056】
このようにして設計されたタイヤ用加硫金型を製造すれば、予測したタイヤ性能となるべきタイヤの製造が容易となる。また、このタイヤ用加硫金型を製造し、それを用いてタイヤを製造すれば、そのタイヤ性能が予測したものと略一致し、流体の流れに対する評価や、流れのスムーズさ、乱れの発生等を考慮したタイヤを得ることができる。
【0057】
また、タイヤを製造する場合、ステップ(I)で接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定め、ステップ(II)で前記各タイヤモデルの変形計算を実行し、ステップ(III)で前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行し、ステップ(IV)で前記ステップ(II)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(III)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ( II )及び前記ステップ( III )の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とし、ステップ(V)で前記ステップ(III)またはステップ(IV)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求め、ステップ(VI)で前記物理量により各タイヤモデルのタイヤ性能を予測し、ステップ(VII )で前記複数のタイヤ性能から選択したタイヤ性能のタイヤモデルに基づいてタイヤを製造するようにすれば、タイヤ性能は予測したものと略一致し、流体の流れに対する評価や、流れのスムーズさ、乱れの発生等を考慮したタイヤを得ることができる。
【0058】
さらに、コンピュータによってタイヤ性能を予測する場合、ステップ(A)で接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めさせ、ステップ(B)で前記タイヤモデルの変形計算を実行させ、ステップ(C)で前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行させ、ステップ(D)で前記ステップ(B)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(C)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(B)及び前記ステップ(C)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とする、各ステップを含むタイヤ性能予測プログラムを記憶媒体に記憶するようにし実行させ、データ収集するようにすれば、過去の性能評価との比較や今後のデータ蓄積に役立てることができる。
【0059】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0060】
第1実施の形態は空気入りタイヤの性能予測に本発明を適用したものである。
【0061】
図1には本発明の空気入りタイヤの性能予測を実施するためのパーソナルコンピュータの概略が示されている。このパーソナルコンピュータは、データ等を入力するためのキーボード10、予め記憶された処理プログラムに従ってタイヤの性能を予測するコンピュータ本体12、及びコンピュータ本体12の演算結果等を表示するCRT14から構成されている。
【0062】
なお、コンピュータ本体12には、記録媒体としてのフロッピーディスク(FD)が挿抜可能なフロッピーディスクユニット(FDU)を備えている。なお、後述する処理ルーチン等は、FDUを用いてフロッピーディスクFDに対して読み書き可能である。従って、後述する処理ルーチンは、予めFDに記録しておき、FDUを介してFDに記録された処理プログラムを実行してもよい。また、コンピュータ本体12にハードディスク装置等の大容量記憶装置(図示省略)を接続し、FDに記録された処理プログラムを大容量記憶装置(図示省略)へ格納(インストール)して実行するようにしてもよい。また、記録媒体としては、CD−ROM等の光ディスクや、MD,MO等の光磁気ディスクがあり、これらを用いるときには、上記FDUに代えてまたはさらにCD−ROM装置、MD装置、MO装置等を用いればよい。
【0063】
図2は、本実施の形態の性能予測評価プログラムの処理ルーチンを示すものである。ステップ100では、評価するタイヤの設計案(タイヤ形状、構造、材料、パターンの変更など)を定める。次のステップ102では、タイヤ設計案を数値解析上のモデルに落とし込むため、タイヤモデルを作成する。このタイヤモデルの作成は、用いる数値解析手法により若干異なる。本実施の形態では数値解析手法として有限要素法(FEM)を用いるものとする。従って、上記ステップ102で作成するタイヤモデルは、有限要素法(FEM)に対応した要素分割、例えば、メッシュ分割によって複数の要素に分割され、タイヤを数値的・解析的手法に基づいて作成されたコンピュータプログラムヘのインプットデータ形式に数値化したものをいう。この要素分割とはタイヤ、流体、及び路面等の対象物を小さな幾つかの(有限の)小部分に分割することをいう。この小部分ごとに計算を行い全ての小部分について計算した後、全部の小部分を足し合わせることにより全体の応答を得ることができる。なお、数値解析手法には差分法や有限体積法、個別要素法(DEM)を用いても良い。
【0064】
上記ステップ102のタイヤモデルの作成では、タイヤ断面のモデルを作成した後に、パターンをモデル化する。具体的には、図3に示すタイヤモデル作成ルーチンが実行される。まず、ステップ200において、タイヤ径方向断面のモデルを作成する。すなわちタイヤ断面データを作成する。このタイヤ断面データは、タイヤ外形をレーザー形状測定器等で計測し値を採取する。また、タイヤ内部の構造は設計図面および実際のタイヤ断面データ等から正確なものを採取する。タイヤ断面内のゴム、補教材(ベルト、プライ等、鉄・有機繊維等でできた補強コードをシート状に束ねたもの)をそれぞれ有限要素法のモデル化手法に応じてモデル化する。このようにモデル化したタイヤ径方向断面のモデルを図4に示した。次のステップ202では、2次元データであるタイヤ断面データ(タイヤ径方向断面のモデル)を周方向に一周分展開し、タイヤの3次元(3D)モデルを作成する。この場合、ゴム部は8節点ソリッド要素、補教材は角度を表現できる異方性シェル要素でモデル化することが望ましい。
【0065】
例えば、ゴム部分は、図7(A)に示すように、8節点ソリッド要素で扱うことができ、補強材(ベルト、プライ)の扱いは、図7(B)に示すように、シェル要素として2次元的に補強材の角度θを考慮することができる。このようにして3次元的にモデル化した3Dモデルを図5に示した。次のステップ204では、パターンをモデル化する。このパターンのモデル化は次の手順▲1▼、▲2▼の何れかで行う。この手順▲1▼または手順▲2▼によって、パターンをモデル化したものを図6に示した。
手順▲1▼:パターンの一部または全部を別個にモデル化し、上記タイヤモデルにトレッド部分として貼りつける。
手順▲2▼:タイヤ断面データを周方向に展開する際にリブ・ラグ成分を考慮してパターンを作成する。
【0066】
上記のようにしてタイヤモデルを作成した後には、図2のステップ104へ進み、流体モデルを作成する。このステップ104では、図8の処理ルーチンが実行される。図8のステップ300では、タイヤの一部(または全部)および接地面、タイヤが移動・変形する領域を含む流体の移動可能領域を決定し、地祇のステップ302では、粒子を流体領域(流体が存在する部分)に配置してモデル化する。すなわち、流体が存在する部分を流体領域とし、流体が移動可能な領域と区別している。
【0067】
また、タイヤモデルと流体モデルは一部重なって定義されている。タイヤモデルはパターン部分が複雑な表面形状をしており、この表面形状にあわせて流体メッシュを定義しないで済むことは、流体モデルのモデル化の手間を大幅に削減でき、性能予測を効率的に行う上で重要である。
【0068】
この流体要素となる粒子は5mm程度の大きさにすることが望ましい。またタイヤモデルと流体モデルの境界は粒子が移動しタイヤモデル表面に衝突することにより認識されるので、タイヤモデルはパターン部分が複雑な表面形状をしているが、この表面形状にあわせて流体メッシュを定義する必要がない(粒子の自由な移動に任せることができる)ことは、流体モデルのモデル化の手間を大幅に削減でき、性能予測を効率的に行なう上で重要である。
【0069】
なお、流体の移動可能領域はタイヤが移動する領域を含むため、タイヤモデルを転動させない(以下、タイヤ非転動という)状態のモデル化では進行方向に接地長の5倍以上、幅方向は接地幅の3倍以上、深さ方向は例えば30mm以上の領域をモデル化する。タイヤモデルを転動させる(以下、タイヤ転動という)状態のモデル化では進行方向に例えば2m以上(タイヤ一回転分以上)の流体領域をモデル化する。このようにしてモデル化した流体モデル及び粒子間の力学的相互作用の概念図を図9に示す。図9(A)は流体モデルの斜視図であり、図9(B)は流体モデルにおける接線方向について粒子同士の力学的相互作用を示す概念図であり、図9(C)は流体モデルにおける法線方向について粒子同士の力学的相互作用を示す概念図である。図9(A)では、接線方向に、ばね(ばね定数Kn)による弾性力、ダッシュポット(粘性定数Cn)による粘性力、スライダーによる摩擦力(摩擦係数μ)が現われる。なお、接線方向には摩擦力以上の力は作用しない。法線方向にはばね(ばね定数Kt)による弾性力、ダッシュポット(粘性定数Ct)による粘性力が現われ、引張力は現われない。
【0070】
上記のようにして、流体モデルの作成が終了すると、図2のステップ106へ進み、路面モデルの作成と共に路面状態の入力がなされる。このステップ106は、路面をモデル化し、そのモデル化した路面を実際の路面状態に設定するために入力するものである。路面のモデル化は、路面形状を要素分割してモデル化し、路面の摩擦係数μを選択設定することで路面状態を入力する。すなわち、路面状態により乾燥(DRY)、濡れ(WET)、氷上、雪上、非舗装等に対応する路面の摩擦係数μが存在するので、摩擦係数μについて適正な値を選択することで、実際の路面状態を再現させることができる。また、路面モデルは,前記流体モデルの少なくとも一部と接していれば良く,流体モデル内部に配置することも可能である。
【0071】
このようにして、路面状態の入力がなされると、次のステップ108において、境界条件の設定がなされる。境界条件の設定は、タイヤモデルに内圧、荷重、回転速度またはトルクを負荷させることや直進速度または路面速度を負荷させることである。また、流体(粒子)の移動領域に境界条件(壁の情報)や初速度(0でもよい)を負荷することでもある。すなわち、タイヤモデルの一部は流体モデルの一部に介在することになるので、流体モデルおよびタイヤモデルに解析上の境界条件を与えてタイヤおよび流体の挙動をシミュレートする必要がある。この手順は、タイヤ転動時とタイヤ非転動時の場合で異なることになる。このタイヤ転動時とタイヤ非転動時の選択は、予め入力するようにしてもよく、また本処理の実行当初に選択しても良く、さらに双方を実行し、各々について求めた後に選択するようにしても良い。
【0072】
ステップ108における、タイヤ転動時における境界条件の設定では、図10の処理ルーチンが実行される。まず、ステップ400へ進み、流体モデル(流体領域)20に流入・流出に関する境界条件を与える。この流入・流出に関する境界条件は図12に示すように、流体モデル(流体領域)20の上面20Aは自由に流体が流出し、その他の前面20B、後面20C、側面20D、下面20Eは壁(流入・流出なし)として扱う。次のステップ402ではタイヤモデルには内圧を与え、次のステップ404ではタイヤモデルに回転変位及び直進変位(変位は力、速度でも良い)の少なくとも一方と、予め定めた負荷荷重とを与える。なお、路面との摩擦を考慮する場合は、回転変位(または力、速度でもよい)もしくは直進変位(または力、速度でもよい)のどちらか一方のみでよい。
【0073】
また、ステップ108における、タイヤ非転動時における境界条件の設定では、図11の処理ルーチンが実行される。まず、ステップ410において、流体モデルに流入・流出に関する境界条件を与える。ここでは、解析を定常状態で行うため、タイヤモデルは進行方向に静止し、流体が進行速度でタイヤモデルに向かって流れる流体モデルを考える。すなわち、ステップ412において流体モデル(流体領域)内の流体に流速を与える。流入・流出に関する境界条件は図13に示すように、流体モデル(流体領域)20の前面は進行速度で流入、後面は流出とし、上面、側面、下面は転動時と同様である。そして、ステップ414においてタイヤモデルには内圧を与え、次のステップ416においてタイヤモデルに負荷荷重を与える。
【0074】
次に、ステップ108までに作成されたり設定されたりした数値モデルをもとに、以下に詳述する解析Aとしてのタイヤモデルの変形計算及び解析Bとしての流体計算(流動計算)を行う。過渡的な状態を得るために、タイヤモデルの変形計算及び流体モデルの流体計算をそれぞれ1msec以内で単独計算を行い、1msec毎に両者の境界条件を更新する。
【0075】
すなわち、上記ステップ108で境界条件の設定が終了すると、ステップ110へ進み、タイヤモデルの変形計算を行い、次のステップ112で経過時間が1msec以内か否かを判断する。ステップ112で肯定されるとステップ110へ戻り、再度タイヤモデルの変形計算を行い、ステップ112で否定されると、ステップ114へ進み流体計算を行う。次のステップ116では経過時間が1msec以内か否かを判断し、肯定されるとステップ114へ戻り、再度流体計算を行い、ステップ116で否定されると、ステップ118へ進む。
【0076】
(解析A)タイヤモデルの変形計算
タイヤモデルおよび与えた境界条件より、有限要素法に基づいてタイヤモデルの変形計算を行う。過渡的な状態を得るために、経過時間(単独経過時間)が1msec以下の間はタイヤモデルの変形計算を繰り返し、1msec経過したら次の計算(流体)に移る。
【0077】
(解析B)流体計算
流体モデルおよび与えた境界条件より、個別要素法(DEM)に基づいて流体の計算を行なう。この流体計算では粒子間の力学的な相互作用を適切な粒子間定数(ばね定数、粘性定数、摩擦係数など)をもとに計算する。ここでは、過渡的な状態を得るために、経過時間(単独計算時間)が1msec以下の間は流体計算を繰り返し、1msec経過したら次の計算(タイヤモデルの変形)に移る。
【0078】
なお、(解析A)と(解析B)はどちらを先に計算しても良いし、また並行して計算しても良い。すなわち、ステップ110、112と、ステップ114、116とは交換した順序であってもよい。
【0079】
また、上記の計算(解析Aと解析B)では、経過時間(単独経過時間)が1msec以下の間の好ましい経過時間の間で繰返し計算を行う場合を説明したが、本発明で経過時間を1msecに限定するものではなく、10msec以下の経過時間を採用することができ、好ましくは1msec以下であり、更に好ましくは1μ・sec以下の経過時間を採用することができる。また、この経過時間は、解析Aと解析Bとで異なる時間を定めても良い。
【0080】
このようにして、タイヤモデルの変形および流体計算それぞれ単独の計算を1msec行った後、これらを連成させるため、タイヤモデルに流体計算で計算した圧力をタイヤの境界条件(表面力)として負荷し、流体力によるタイヤ変形を次のタイヤモデルの変形計算(解析A)で計算させるようにする。すなわち、流体側は変形後のタイヤ表面形状を新たな壁として境界条件に取り入れ、タイヤ側は流体の圧力をタイヤにかかる表面力として境界条件に取り入れる。これを1msecごとに繰り返すことにより、タイヤ性能予測に関わる過渡的な流れを擬似的に作り出すことができる。ここで1msecとは接地面内のパターンがタイヤ転動により変形していく過程を十分に表現できる時間である。
【0081】
なお、上記では境界条件に取り入れる繰り返しの時間(単独経過時間)を1msecに定めたが、本発明は1msecに限定するものではなく、10msec以下の時間を採用することができ、好ましくは1msec以下であり、更に好ましくは1μ・sec以下の時間を採用することができる。
【0082】
次のステップ120では、計算終了か否かを判断し、ステップ120で肯定されるとステップ122へ進み、ステップ120で否定されると、ステップ110へ戻り、再度タイヤモデルの変形計算および流体計算それぞれ単独の計算を1msecづつ行う。なお、具体的な判断方法としては、次の例がある。
【0083】
▲1▼タイヤモデルが、非転動モデル、全周パターン付転動モデルの場合には、対象とする物理量(流体反力、圧力、流速等)が定常状態とみなせる(以前に計算した物理量と同じとみなせる状態)まで繰り返し計算し、計算が終了した場合には肯定判断とする。または、タイヤモデルの変形が定常状態とみなせるようになるまで繰り返す。さらに、所定時間になったら終了させることも可能である。この場合の所定時間は好ましくは100msec以上、さらに好ましくは300msec以上である。
【0084】
▲2▼タイヤモデルが、転動モデル、パターンを一部のみモデル化した場合には、解析対象となるパターン部分の変形が終了するまで繰り返し計算し、計算終了とした場合には肯定判断とする。パターン部分の変形とは、転動によりパターン部分が路面モデルに接触後に路面モデルから離れるまでの間、もしくは転動によりパターン部分が流体モデルに接触後に路面モデルに接触するまでの間の変形を指す。このパターン部分の変形は、タイヤが1回転以上転動した後に前記各モデルに接触するときからを対象としてもよい。さらに、所定時間になったら終了させることも可能である。この場合の所定時間は好ましくは100msec以上、さらに好ましくは300msec以上である。
【0085】
このようにして、解析A、解析B、および両者の連成のための境界条件変更を行った後、解析Aに戻り、変更した境界条件で計算を行う。これを計算終了まで繰り返し、計算が終了した場合には、ステップ120で肯定され、ステップ122へ進み、計算結果を予測結果として出力し、予測結果の評価を行う。
【0086】
なお、上記では、解析A、解析B、及び境界条件変更を繰り返し、計算が終了すると、計算結果を出力し、予測結果を評価する場合を説明したが,繰り返し計算中に、その時点における計算結果を出力し、その出力について評価したり、逐次評価したりしてもよい。すなわち、計算中に出力・評価してもよい。
【0087】
予測結果の出力は流体力、流れ速度、流量、圧力、エネルギー等の値もしくは分布を採用することができる。予測結果の出力の具体的な一例として、流体反力の出力、流体の流れの出力と可視化、及び水圧分布の出力と可視化がある。流体反力は、流体(例えば,水)がタイヤを上方へ押し上げる力である。流体の流れは、流体の速度ベクトルから計算することができ、その流れとタイヤモデル周辺やパターン周辺とを共に線図等で表せば、可視化することができる。流体の水圧分布の可視化は、タイヤモデル周辺やパターン周辺を線図として作成し、その図形上に水圧値を色や模様に対応させて表示させればよい。
【0088】
また、評価は、主観評価(全体的に、スムーズに流れているか、流れの方向による乱れの判断等)、圧力・エネルギーが局所的に上昇していないか、必要な流量が得られているか、流体力が上昇していないか、流れが停滞していないか等を採用することができる。また、パターンの場合、溝内を流れているかを採用することもできる。また、タイヤモデルの場合、タイヤが回転することにより、接地面及び接地面近傍でタイヤが水等の流体を挟み込み、前方に押し出す前方スプレーの量が多いか、路面内では横に流れているか、を採用することができる。
【0089】
なお、予測結果の評価は、予測結果の出力値や出力値の分布を用いて、予め定めた許容値や許容特性を各出力値や出力値の分布にどの程度適合するかを数値的に表現することによって、評価値を定めることができる。
【0090】
なお、上記では、解析A、及び解析Bの繰り返し計算により予測結果を得て評価しているが、このときに、ハイドロプレーニングを考慮することは容易である。すなわち、ハイドロプレーニングについて、タイヤモデルまたは流体モデルの速度を増加させて行き、下記状態になった時点の速度を、発生速度とすることができる。従って、その発生速度を求めることでハイドロプレーニングをシミュレートすることもできる。
▲1▼ タイヤの荷重が実質的にゼロまたは減少しなくなったとき
▲2▼ タイヤの接地面積が実質的にゼロまたは減少しなくなったとき
また、計算の収束性が悪い場合には、タイヤと流体の相対速度が0の場合の10%以下(好ましくは5%以下)、または、流体を考慮しない場合の10%以下(好ましくは5%以下)となる荷重または接地圧をの時点をハイドロプレーニング発生速度とすることもできる。なお、相対速度を用いたのは、ハイドロプレーニングは、非転動状態(ロック状態)でも発生するためである。
【0091】
次に、ステップ124では、上記予測結果の評価から、予測性能が良好であるか否かを判断する。このステップ124の判断は、キーボードによる入力によってなされてもよくまた、上記評価値に、許容範囲を予め定めておき、予測結果の評価値が許容範囲内に存在するときに、予測性能が良好であると判断するようにしてもよい。
【0092】
予測性能の評価の結果、目標性能に対して不十分であるときは、ステップ124で否定され、次のステップ134において設計案を変更(修正)してステップ102へ戻りこれまでの処理をやり直す。一方、性能が十分であるときは、ステップ124で肯定され、次のステップ126において、上記ステップ100で設定した設計案のタイヤを製造し、その製造したタイヤについて次のステップ128において性能評価を行う。ステップ128の性能評価の結果が満足のいく性能(良好な性能)であるときは、ステップ130で肯定され、次のステップ132において、上記ステップ100またはステップ134で修正した設計案を良好な性能のものとして採用し、本ルーチンを終了する。ステップ132の設計案の採用は、その設計案が良好な性能であることを出力(表示したり、印刷したり)すると共に、その設計案のデータを記憶する。
【0093】
なお、上記の実施の形態では、1つの設計案についてタイヤ性能予測及び評価を設計案を修正しながら繰り返し、採用する設計案を求めた場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数の設計案から採用する設計案を求めても良い。例えば、複数の設計案について、各々タイヤ性能予測及び評価して、各々の評価結果のうち最良の設計案を選択すればよい。また、選択した最良の設計案について、上記実施の形態を実行することによって、さらに最良の設計案を求めることができる。
【0094】
本発明者は、本実施の形態を検証するために、上述の解析を含む粒子を要素とする流体モデルを用いて、タイヤモデルと流体モデルとの挙動に関してシミュレーションを行った。このシミュレーションは、図14に示す、粒子を要素とする流体モデルとタイヤモデルの各々の初期配置から開始した。図14から理解されるように、粒子はタイヤモデルの進行方向に対して細かな間隔で並べられている。そして、タイヤモデルが進行(回転)して、タイヤモデルのトレッドパターンで粒子が押しのけられて(排除されて)いくことにより、流体の排出が表現される。
【0095】
図15〜図19には、タイヤモデルが進行(回転)していく過程で、トレッドパターンが粒子を押し出していく様子の一例を示した。上記解析では、粒子のみを計算しているが、図中には粒子の流れを表すために、流線も併せて表示している(図20)。この流線は、粒子が一定時間内に流れた軌跡を表示するもので、流線の方向により流れの方向が分かり、さらに流線の長さが一定時間内に粒子が進んだ距離を表している。この流線の長さから速度に相当する物理量が把握できる。
【0096】
図15は、タイヤモデルの進行(回転)当初で、トレッドパターンにより粒子が押しのけられる当初の状態(第1段階)を示している。図16は、タイヤモデルの進行(回転)中で、トレッドパターンにより粒子が押しのけられる次の状態(第2段階)を示している。図17は、タイヤモデルの進行(回転)中で、トレッドパターンにより粒子が押しのけられる次の状態(第3段階)を示している。図18は、タイヤモデルの進行(回転)中で、トレッドパターンにより粒子が押しのけられる次の状態(第4段階)を示している。図19は、タイヤモデルの進行(回転)中で、トレッドパターンにより粒子が押しのけられる次の状態(第5段階)を示している。図から理解されるように、タイヤモデルの進行当初は、粒子の飛翔は望めないが、トレッドパターンにより粒子が押しのけられる状態(段階)を経るに従って流体を構成する粒子が、タイヤモデルの溝に沿ってタイヤモデルの転動方向に散布されたように離散している。粒子はトレッドパターンの溝部を流れて排出されており、溝部が有効に活用されているかどうかが予想できるので、トレッドパターンの排水性能解析などの本解析による予測手法が有効であることが理解される。
【0097】
次に、第2実施の形態を説明する。なお、本実施の形態は、上記実施の形態と同様の構成のため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。また、本実施の形態では、流体として水を採用している。
【0098】
タイヤモデルの全周にパターンを有させて解析を行うと、計算量が膨大となり、結果を簡単に得ることができない。そこで、本実施の形態は、タイヤの排水性を考慮しつつもタイヤの性能予測結果を容易に得るため、タイヤモデルの一部にのみパターンを有させてタイヤの性能予測をするものである。
【0099】
本発明者は、タイヤの性能予測をするにあたって、タイヤの挙動について、踏込み部のパターン排水に着目した。踏込み部とは、タイヤが転動するときに、タイヤが路面に近づくまたは接触する付近を示している。
【0100】
図31に示すように、タイヤの排水性、特にハイドロプレーニング(以下、ハイプレという)に関して、タイヤの周辺部は、接地面近傍で次のA領域からC領域の3つの領域に分類できる。
【0101】
A領域:厚い水膜上(水の慣性効果、動水圧主体、ダイナミックハイプレ)
B領域:薄い水膜上 (粘性効果が主体、ビスカスハイプレ)
C領域:完全にドライ接地
なお、水深が厚い(10mm程度の)場合や、路面に凹凸があって粘性効果が無視できる場合はA領域のダイナミックハイプレが重要である。
【0102】
上記ダイナミックハイプレ(A領域)が生じる理由としては、次の2つの理由が考えられる。
【0103】
1:タイヤと流体(本実施の形態では、水)が高速で衝突し、その速度の2乗に比例する動水圧が作用すること。
2:踏込み部の動水圧が接地圧を超えると浮き上がる。なお、踏込み部の水をパターンで排水させると動水圧が下がり、ハイプレを抑制することができる。
【0104】
図32(A)に示すように、路面18上をタイヤ(タイヤモデル30)が転動方向(図32(A)の矢印M方向)に転動する場合には、踏込み部付近50において、タイヤモデル30と路面18との間でタイヤ転動側に流体20が主に貯留する。この場合の圧力関係を考えると、図32(B)に示すようになる。タイヤモデル30と流体(水)が衝突し、その速度の2乗に比例して踏込み部に圧力52(図32(B)に一点鎖線で示す)が発生する。タイヤモデル30と路面18とが接触している付近は略行っての圧力54(図32(B)に点線で示す)が発生している。このように、ダイナミックハイプレ(A領域)における圧力が支配的になる。
【0105】
そこで、本実施の形態では、タイヤの排水性を考慮しつつもタイヤの性能予測結果を容易に得るため、タイヤモデル30として、全周が平坦なスムースタイヤモデルを基本とし、踏込み部の解析が容易となるに必要な一部のパターンをスムースタイヤモデルに有させて解析を行う。なお、以下の説明では、本解析を、GL (Global−Local)解析と呼ぶ。
【0106】
次に、本実施の形態におけるGL解析を説明する。このGL解析の概略は、次の手順1〜手順4により実施できる。
<GL解析の手順>
手順1:スムースタイヤモデル、パターンモデル(一部)とパターンに貼りつける部分のベルトモデルを準備(図33参照)
手順2:スムースタイヤモデルの転動及びハイプレ解析
(global analysys:G解析、図34参照)
手順3:スムースタイヤモデルの結果から、パターン部(一部)に貼り付けるベルトモデル(パターンモデルの一部と同じ)の転動軌跡を計算する。具体的には、ベルトモデル(シェル)の全節点の転動中の変位を出力し(これを速度に変換して出力してもよい。なお、FEMソフト上の制約や、変位のまま求めることができればそれでも良い)、パターンモデル( 一部)をベルトモデルに貼りつけ、ベルトモデルの節点に強制速度(変位でも可)を付与
手順4:手順3までによってパターン部(一部)のみを転動させることが可能であるので、パターン部に対応する流体メッシュを準備し、パターン部のみを排水性解析
(local analysys:L解析、図35参照)
なお、評価は流体反力・水圧分布・流れ解析で行なう。
【0107】
詳細には、上記実施の形態と略同様であり、まず、タイヤモデル、流体モデルを作成し、路面モデルの作成と共に摩擦係数μの選択により路面状態を入力する(図2のステップ100〜106)。この場合、タイヤモデルは、スムースタイヤモデルである。また、パターンモデル(一部)とパターンに貼りつける部分のベルトモデルを作成する。
【0108】
次に、タイヤ転動時またはタイヤ非転動時の境界条件を設定し(図2のステップ108)、タイヤモデルの変形計算及び流体計算等を行う(図2のステップ110〜120)。これは、スムースタイヤモデルの転動及びハイプレ解析(global analysys:G解析、図34参照)である。
【0109】
そして、スムースタイヤモデルの結果から、パターン部(一部)に貼り付けるベルトモデル(パターンモデルの一部と同じ)の転動軌跡を計算する。これによってパターン部(一部)のみが転動されるので(図35)、パターン部に対応する流体メッシュを準備し、パターン部のみを排水性解析する。これは、パターンモデルの一部であるパターン部のみの解析(local analysys:L解析)である。ここで、図35に示すように、パターン部(一部)の転動により、パターン部は、位置状態L1〜位置状態L13に推移することになる。
【0110】
このように、本実施の形態では、スムースタイヤモデルを基本とし、パターンの一部を用いて解析するGL (Global−Local)解析を行っているので、次の3つの利点を得ることができる。
1:計算時間の短縮。本発明者は、細かいメッシュで全周のパターンモデルで解析した場合、約1ヶ月を必要とした計算時間を、約2日に短縮することができることを確認した。
2:各種モデル作成が簡単になる。特に、タイヤモデルにおいてパターンを全周用意する必要がない。
3:(ダイナミック)ハイプレで重要な、踏込み部パターンの入水時の排水性だけを簡単に解析できる。
【0111】
図36、図37、図38には、パターン部(一部)を転動させたときの、排水性解析結果の一例を示したものである。図36乃至図38は、パターン部の時系列的な状態を示しており、図36はパターン部が転動して路面に接触する時点の状態を示している。図37はパターン部が路面に接触を開始して僅かに踏み込んだ時点の状態を示している。図38はパターン部の中腹部が路面に接触している時点の状態を示している。図から理解されるように、パターン部の路面接触の当初は、流体(水)がタイヤモデルの転動方向に散布されたように離散しており(図36)、僅かに踏み込むとタイヤモデルの溝に導かれる流体(水)が増加して散布されたような流体(水)が減少し(図37)、パターン部の中腹部が接触すなわちパターン部の略全てが路面に接地しているときはタイヤモデルの溝に導かれる流体(水)が殆どになっている(図38)。
【0112】
【実施例】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。本実施例はラジアルタイヤの性能予測に本発明を適用したものである。
【0113】
図21は、空気入りラジアルタイヤの回転軸心を含む平面による断面のうち左半断面を簡略図解した供試タイヤを表す線図である。右半断面も非対称を含め左半断面と同様である。
【0114】
ここでの荷重は標準荷重であり、標準荷重とは、下記規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)のことである。このときの内圧は下記規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)に対応する空気圧のことである。また、リムは下記規格に記載されている適用サイズにおける標準リム(または、"Approved Rim"、"Recommended Rim" )のことである。そして、規格とは、タイヤが生産又は使用される地域に有効な産業規格によって決められている。例えば、アメリカ合衆国では "The Tire and Rim Association Inc. の Year Book" で、欧州では"The European Tire and Rim Technical Organization の Standards Manual"で、日本では“JATMA Year Book"(2000,日本自動車タイヤ協会規格)にて規定されている。
【0115】
このタイヤをもとに性能予測のためのモデル化を行い、特にパターンA、パターンBの2種のタイヤモデルの性能予測を行い、予測結果、実測結果を合わせて示した。
【0116】
本実施例としてモデル化・試作したタイヤは、タイヤサイズは205/55R16であり、目標性能はハイドロプレーニング性能とした。タイヤの外面形状をレーザー形状測定器で測定し、設計図面・実際のタイヤからの断面データよりタイヤ断面モデルを作成し、周方向に展開してタイヤ3Dモデル(数値モデル)を作成した。パターンは設計図面に基づき3Dモデルを作成し、タイヤ3Dモデルにトレッド部として貼りつけた。流体モデルは水深10mm、深さ方向30mm、進行方向2000mm、幅方向300mmの領域をモデル化し、タイヤには時速80kmに相当する回転速度を与え、路面モデルには摩擦係数としてμ=0.3を与えている。
【0117】
試作したタイヤのハイドロプレーニング性能評価試験では、上記のタイヤを7J−16のリムに内圧2.2kg/cm2で組み付け、乗用車に装着して水深10mmのプールに速度を変えて進入し、テストドライバーによるハイドロプレーニング発生速度の評価を行った。結果はハイドロプレーニング発生速度の指数で表現し、指数小が良である。
【0118】
図23には、本発明の実施の形態のタイヤ性能予測評価によるタイヤのトレッドパターン付近の流体の流れ(速度、方向)を示し、図24には水圧分布を示した。図23(A)ではトレッドパターン付近の、流体の流れ(速度)を4段階に分類し各々の範囲内の流速を同一模様(線分の種類)で示しており、最も遅い流速(例えば0、図23(B)の右側参照)を点線で描画しかつ、流速が速くなるに従って点線の隙間が短くなるように描画し、最も速い流速(例えば5、図23(B)の右側参照)を実線で描画している。すなわち、同一の流れを表す流線は、遅い流速から流速が速くなるに従って点線が実線に近づき、速い流速から流速が遅くなるに従って実線から点線へと変化する。図23(B)の左側は、図23(A)の印Q付近の拡大図を示しており、流体の流れはリブ方向流れで特に強く、このリブ溝の排水効果を上げるとハイドロプレーニング性能が向上することが理解される。
【0119】
図24(A)ではトレッドパターン付近の、水圧を4段階に分類し各々の範囲内の水圧となる領域を分布として同一模様で示しており、最も低い水圧(例えば0、図24(B)の右側参照)の領域を点線により描画しかつ、水圧が高くなるに従って点線の隙間が短くなるように描画し、最も高い水圧(例えば2、図24(B)の右側参照)の領域を実線により描画している。図24(B)の左側は、図24(A)の印R付近の拡大図を示しており、上記流体の流れが強い領域で水圧も上昇している。従って、水圧が上昇する領域の排水性を向上させて水圧の上昇を抑えれば、パターン全体にかかる水圧が減少することになり、タイヤを上方向に押し上げる上向き流体力(図22参照)が減少してハイドロプレーニング性能が向上することが理解される。
【0120】
上記の点を考慮して、リブ溝部分の寸法を変更したトレッドパターンを2種類(パターンA、パターンB)準備し、特に着目するリブ溝部分の水圧、流量、流れ速度を比較した。図25にはパターンAを示し、図26にはパターンBを示した。これらパターンAとパターンBは、センターリブ溝幅以外は同一形状をしており、具体的にはパターンAのセンターリブ溝幅W1は10mm、パターンBのセンターリブ溝幅W2は15mmである。図25に示すように、パターンAでは、印P1付近において、水圧、流量、流れ速度を測定し、図26に示すように、パターンBでは,印P2付近において、水圧、流量、流れ速度を測定した。また、タイヤ全体にかかる上向き流体力も比較し、実際に製造して評価したハイドロプレーニング性能と比較した。これらの測定について、パターンAのタイヤに関する値を100として、パターンBのタイヤに関する値を求めた結果を以下の表1に示した。
【0121】
【表1】
【0122】
表1から理解されるように、パターンAのタイヤよりパターンBのタイヤが水圧が低く、流量・流速が大となっており、上向き流体力も低減されている。図27にはパターンAのタイヤにおける水圧分布S1(図27の斜線範囲)を示し、図28には上記パターンAの水圧分布と同一の水圧となるパターンBのタイヤにおける水圧分布S2(図28の斜線範囲)を示した。図29にはパターンAのタイヤにおける流体の流れT1(図29の矢印)を示し、図30にはパターンBのタイヤにおける流体の流れT2(図30の矢印)を示した。図27乃至図30からも理解されるように、パターンBのタイヤのほうが排水性に優れている。また、実測性能のハイドロプレーニング性能もパターンBのタイヤの方が優れていることが理解される。
【0123】
このように、パターンAのタイヤとパターンBのタイヤで予測性能に差が生じており、パターン間の予測性能の優劣が実測のハイドロプレーニング性能の優劣と一致していることが理解される。従って,本発明の実施の形態のタイヤ性能予測は、タイヤの設計案の性能予測に有効であり、これを活用することによってタイヤ開発を効率を向上させることができる。
【0124】
上記タイヤモデルを設計するときの計算時間についての比較結果を以下の表2に示した。先行技術としては、本出願人が既に提案済みの発明(特願平11−118830号)を用いている。この表2から理解されるように、本発明では計算時間が短縮されており、タイヤ設計がより効率的に行えることが想到される。
【0125】
【表2】
【0126】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、排水性、雪上性能、騒音性能等のように流体を介して実際に使用する環境下におけるタイヤの性能を予測することができ、タイヤ接地時及び回転時の流体を考慮した解析を可能にし、タイヤ開発の効率を向上できると共に、良好な性能のタイヤを得ることができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態にかかる、タイヤ性能予測方法を実施するためのパーソナルコンピュータの概略図である。
【図2】本実施の形態にかかり、空気入りタイヤの性能予測評価プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】タイヤモデル作成処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】タイヤ径方向断面モデルを示す斜視図である。
【図5】タイヤの3次元モデルを示す斜視図である。
【図6】パターンをモデル化したイメージを示す斜視図である。
【図7】モデル化するときの要素を説明するためのイメージ図であり、(A)はゴム部の扱いを説明するためのイメージ図、(B)補強材の扱いを説明するためのイメージ図である。
【図8】流体モデル作成処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】(A)は流体モデルの斜視図、(B)は流体モデルにおける接線方向での粒子同士の力学的相互作用を示す概念図、(C)は流体モデルにおける法線方向での粒子同士の力学的相互作用を示す概念図である。
【図10】転動時の境界条件設定処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】非転動時の境界条件設定処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】転動時の境界条件の設定を説明するための説明図である。
【図13】非転動時の境界条件の設定を説明するための説明図である。
【図14】粒子による流体モデルを用いてタイヤモデルと流体モデルとの挙動を模擬するシミュレーションにおいて、流体モデルとタイヤモデルの各々の初期配置示す線図である。
【図15】図14のモデルによるシミュレーションでの過程を示し、トレッドパターンが粒子を押し出していく当初の状態(第1段階)を示す線図である。
【図16】図14のモデルによるシミュレーションでの過程を示し、トレッドパターンが粒子を押し出していく第2段階の状態を示す線図である。
【図17】図14のモデルによるシミュレーションでの過程を示し、トレッドパターンが粒子を押し出していく第3段階の状態を示す線図である。
【図18】図14のモデルによるシミュレーションでの過程を示し、トレッドパターンが粒子を押し出していく第4段階の状態を示す線図である。
【図19】図14のモデルによるシミュレーションでの過程を示し、トレッドパターンが粒子を押し出していく第5段階の状態を示す線図である。
【図20】解析上における粒子の流れの説明図であり、(A)は粒子に流線を併せて表示したイメージ図であり、(B)は粒子のみのイメージ図である。
【図21】空気入りラジアルタイヤの回転軸心を含む平面による断面のうち右半断面を簡略図解した線図である。
【図22】タイヤを上方向に押し上げる上向き流体力を説明するための説明図である。
【図23】タイヤのトレッドパターン付近の流れを示す線図であり、(A)はトレッドパターンの略全体を示し、(B)は(A)における丸印Q付近の拡大図である。
【図24】タイヤのトレッドパターン付近の水圧分布をし、(A)はトレッドパターンの略全体を示し、(B)は(A)における丸印R付近の拡大図である。
【図25】リブ溝部分の寸法を変更したパターンAのトレッドパターンを示す線図である。
【図26】リブ溝部分の寸法を変更したパターンBのトレッドパターンを示す線図である。
【図27】パターンAのトレッドパターンの水圧分布を示す線図である。
【図28】パターンBのトレッドパターンの水圧分布を示す線図である。
【図29】パターンAのトレッドパターンにおける流体の流れを示す線図である。
【図30】パターンBのトレッドパターンにおける流体の流れを示す線図である。
【図31】接地面近傍のタイヤモデルの周辺部を説明するための説明図である。
【図32】接地面近傍の圧力関係を説明するための説明図であり、(A)は路面とタイヤモデルと流体との間の位置関係を示し、(B)は位置に対応する圧力関係を示している。
【図33】スムースタイヤモデル、パターンモデル(一部)、及びパターンに貼りつける部分のベルトモデルを示す斜視図である。
【図34】スムースタイヤモデルの転動を示すイメージ図である。
【図35】スムースタイヤモデルに貼り付けたパターンモデルの一部がタイヤモデルの転動により推移することを示すイメージ図である。
【図36】タイヤモデルの転動によりパターン部が路面に接触する時点の排水状態を示すイメージ図である。
【図37】パターン部が路面に接触を開始して僅かに踏み込んだ時点の排水状態を示すイメージ図である。
【図38】パターン部の中腹部が路面に接触している時点の排水状態を示すイメージ図である。
【符号の説明】
10 キーボード
12 コンピュータ本体
14 CRT
20 流体モデル
30 タイヤモデル
FD フロッピーディスク(記録媒体)
Claims (26)
- 次の各ステップを含むタイヤ性能予測方法。
(a)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ。
(b)前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ。
(c)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ。
(d)前記ステップ(b)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(c)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(b)及び前記ステップ(c)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ。
(e)前記ステップ(c)またはステップ(d)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求めるステップ。
(f)前記物理量によりタイヤ性能を予測するステップ。 - 前記ステップ(a)は、流体モデルと接する路面モデルをさらに定めたことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記ステップ(b)は、所定時間だけ繰返し計算することを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記所定時間は、10msec以下であることを特徴とする請求項3に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記ステップ(c)は、一定時間だけ繰返し計算することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記一定時間は、10msec以下であることを特徴とする請求項5に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記予め定めた時間は、10msec以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記タイヤモデルを転動させる場合には、前記ステップ(a)において、内圧充填時及び荷重計算時の計算を施すと共に、回転変位または速度或いは直進変位を付与したタイヤモデルを定めることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記タイヤモデルを転動させる場合には、前記ステップ(a)において、前記流体モデルの上面では流体が自由に流出しかつ、前記流体モデルの上面以外の他面では流体が流入及び流出しないことを表す流入流出条件を前記流体モデルに付与することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記タイヤモデルを転動させない場合には、前記ステップ(a)において、内圧充填時の計算を施すと共に、該計算後に荷重計算を施したタイヤモデルを定めることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記タイヤモデルを転動させない場合には、前記ステップ(a)において、前記流体モデルの前面では流体が進行速度で流入し、前記流体モデルの後面及び上面では流体が自由に流出し、前記流体モデルの側面及び下面では流体が流入及び流出しないことを表す流入流出条件を前記流体モデルに付与することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項または請求項10に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記タイヤモデルは、部分的にパターンを有することを特徴とする請求項1乃至請求項11の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記路面モデルは、ドライ、ウェット、氷上、雪上、及び非舗装の少なくとも1つの路面状態を表す摩擦係数μを選択することによって路面状態を定めることを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記粒子間条件は、複数の粒子間の粒子間定数で定まる複数の粒子間の力学的な干渉で定められることを特徴とする請求項1乃至請求項13の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記流体モデルは、少なくとも水を含み、前記物理量としてタイヤモデルの接地面積、接地圧及び接地反力の少なくとも1つを用い、前記タイヤ性能としてタイヤウェット性能を予測することを特徴とする請求項1乃至請求項14の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記流体モデルは、少なくとも水を含み、前記物理量として流体モデルの圧力、流量、及び流速の少なくとも1つを用い、前記タイヤ性能としてタイヤウェット性能を予測することを特徴とする請求項1乃至請求項15の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記流体モデルは、水及び雪の少なくとも1つを含み、前記物理量としてタイヤモデルの氷路面及び雪路面の少なくとも一方の路面での接地面積、接地圧、及び剪断力の少なくとも1つを用い、前記タイヤ性能としてタイヤ氷雪上性能を予測することを特徴とする請求項1乃至請求項15の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記流体モデルは、水及び雪の少なくとも1つを含み、前記物理量として流体モデルの氷路面及び雪路面の少なくとも一方での流体モデルの圧力、流量、及び流速の少なくとも1つを用い、前記タイヤ性能としてタイヤ氷雪上性能を予測することを特徴とする請求項1乃至請求項15の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 前記流体モデルは、少なくとも空気を含み、前記物理量として流体モデルの圧力、流量、流れ速度、エネルギー、及びエネルギー密度の少なくとも1つを用い、前記タイヤ性能としてタイヤ騒音性能を予測することを特徴とする請求項1乃至請求項15の何れか1項に記載のタイヤ性能予測方法。
- 次の各ステップを含む流体シミュレーション方法。
(イ)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ。
(ロ)前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ。
(ハ)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ。
(ニ)前記ステップ(ロ)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(ハ)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(ロ)及び前記ステップ(ハ)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ。 - 次の各ステップを含むタイヤ設計方法。
(1)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ。
(2)前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ。
(3)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ。
(4)前記ステップ(2)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(3)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(2)及び前記ステップ(3)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ。
(5)前記ステップ(3)またはステップ(4)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求めるステップ。
(6)前記物理量によりタイヤ性能を予測するステップ。
(7)前記複数のタイヤ性能から選択したタイヤ性能のタイヤモデルに基づいてタイヤ設計するステップ。 - 次の各ステップを含むタイヤ用加硫金型設計方法。
(α)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ。
(β)前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ。
(γ)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ。
(δ)前記ステップ(β)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(3)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(β)及び前記ステップ(γ)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ。
(ε)前記ステップ(γ)またはステップ(δ)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求めるステップ。
(ζ)前記物理量によりタイヤ性能を予測すると共に、前記ステップ(α)乃至ステップ(ε)を複数行い複数のタイヤモデルのタイヤ性能を予測するステップ。
(η)前記ステップ(ζ)で予測した複数のタイヤ性能から選択したタイヤ性能のタイヤモデルに基づいてタイヤ用加硫金型を設計するステップ。 - 請求項22に記載のタイヤ用加硫金型設計方法により設計した空気入りタイヤの加硫金型を製造するタイヤ用加硫金型製造方法。
- 請求項22に記載のタイヤ用加硫金型設計方法により設計した空気入りタイヤの加硫金型を製作し、該加硫金型を用いて空気入りタイヤを製造する空気入りタイヤの製造方法。
- 次の各ステップを含む空気入りタイヤの製造方法。
(I)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ。
(II)前記各タイヤモデルの変形計算を実行するステップ。
(III)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ。(IV)前記ステップ(II)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(III)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ( II )及び前記ステップ( III )の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ。
(V)前記ステップ(III)またはステップ(IV)におけるタイヤモデル及び流体モデルの少なくとも一方のモデルに生じる物理量を求めるステップ。
(VI)前記物理量により各タイヤモデルのタイヤ性能を予測するステップ。
(VII)前記複数のタイヤ性能から選択したタイヤ性能のタイヤモデルに基づいてタイヤを製造するステップ。 - コンピュータによってタイヤ性能を予測するためのタイヤ性能予測プログラムを記録した記録媒体であって、次の各ステップを含むことを特徴とするタイヤ性能予測プログラムを記録した記録媒体。
(A)接地及び転動の少なくとも一方により変形を与えることが可能でかつ周方向と交差する傾斜溝を含むパターン形状を有するタイヤモデルと、流体による流れ場を表現するために複数の粒子から構成しかつ前記タイヤモデルの少なくとも一部と接触する流体モデルと、を定めるステップ。
(B)前記タイヤモデルの変形計算を実行するステップ。
(C)前記複数の粒子間の物理的性質を表す粒子間条件に基づいて粒子の位置及び反力を求めることにより、前記流体モデルの流動計算を実行するステップ。
(D)前記ステップ(B)での変形計算後のタイヤモデルに、前記ステップ(C)で求めた粒子の位置及び反力に基づく表面力を付与しかつ、粒子の位置及び表面力を付与した後のタイヤモデル及び流体モデルについて前記ステップ(B)及び前記ステップ(C)の計算を予め定めた時間繰り返して計算させ、前記流体モデルを擬似流動状態とするステップ。
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