JP3519747B2 - 鎮静効果を与える香料改質剤 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は鎮静効果を与える香料改
質剤に関する。１，３−ジメトキシ−５−メチルベンゼ
ンは鎮静効果を有する化合物であり、これを香料に配合
することにより鎮静効果を与えることができる。したが
って、この化合物を含有する香料組成物を香水，コロ
ン，シャンプー・リンス類，スキンケァ，ボディシャン
プー，ボディリンス，ボディパウダー類，芳香剤，消臭
剤，浴剤などに用いて鎮静効果を発現させることができ
る。

【０００２】

【従来の技術、発明が解決しようとする課題】現代病の
一つとしてストレスや不眠症が、現代人の日常生活を蝕
んでいることは避けられない現実である。ストレス緩和
や安眠に対する関心が強い現代において、香料の持つ機
能の一つとして、人間の意識水準を高揚させたり、鎮静
させる効果に対して関心が高まってきている。

【０００３】香りの持つ機能に関して古来より伝承的に
関心も高く、人間は日々の生活の中でこの機能を種々と
利用してきた。例えばラベンダーやカモミルは花そのも
の、あるいは精油として鎮静効果のある飲み物や入浴剤
として用い、また寝室に置いて安眠を誘うハーブとして
利用してきた。最近、現代の科学の力で伝承として機能
があると言われるものを確認、解明しようという機運が
高まり、今日までに幾つかの知見も得られ、実用化もさ
れて来ている。例えばサンダルウッド油，ラベンダー
油，カモミル油などが鎮静効果を、ジャスミン油，イラ
ンイラン油，バジル油などが覚醒効果を発揮するものと
して、これらを含有する香料組成物が既に提案されてい
る（特開昭６３−１９９２９２号、同６３−１９９２９
３号) 。

【０００４】これら既知のものは、一般香料として用い
られる天然精油であり、これら天然精油の中には鎮静効
果を有しない化合物も含まれている。また、天然精油の
形で使用するため、その天然精油の持つ固有の香りとし
ての使用に限られる上に、鎮静効果を有していても、人
によっては混在する他の成分に対して嫌悪感等を示す場
合もあり、現代人の嗜好性や多様性に対応するには限界
があった。しかも、今日では従来の主観的な評価以上に
科学的手法による客観的な評価が要求される状況にあ
り、一定の生理・心理効果を期待できる香料組成物の開
発には極めて困難が伴う。

【０００５】したがって、何時も安定で広範囲の香りタ
イプの嗜好性のある香料組成物の開発には多岐にわたる
タイプに使用できる調合素材の効果の確認が必要とな
る。

【０００６】

【課題を解決するための手段】本発明は合成単品香料の
持つ鎮静作用の効果を確認し、さらにこれを香料改質剤
として用いることにより、タイプの多様化と嗜好性のあ
る香料組成物の開発を計り、かつ十分なる鎮静効果の機
能を付与することを目的とするものである。

【０００７】すなわち、本発明は鎮静効果を与える香料
改質剤として１，３−ジメトキシ−５−メチルベンゼン
を0.０１〜３０重量部含有する香料組成物とその用途に
関するものである。

【０００８】本発明が目的とする鎮静効果のある化合物
の検索にあたり、随伴性陰性変動（Contigent negative
variation、以下ＣＮＶと略記することがある。）と呼
ばれる陰性のゆっくりした電位の変化を測定に用いた。
ＣＮＶは注意，期待，予期などの心的過程、また意識レ
ベルの変動と関連する脳の緩徐な電位変動である。

【０００９】目的とする化合物を検索するための実験の
方法では、警告刺激音から２秒後に運動の開始を意味す
る光信号が続き、光を認識すると同時にボタン押しの運
動反応が要求される。この一連の繰り返しの中で、香り
の試料は鼻先約１０cm先に設置されており、呼吸に伴い
常に香りを認知することが出来る。ＣＮＶの測定のため
の電極は前頭部に装着され、耳朶との間の電位記録が測
定される。覚醒効果を示すカフェインを投与した場合、
ＣＮＶの振幅が増大し、鎮静効果を示すニトラゼパムを
投与した場合には、ＣＮＶの振幅は減少することが既に
報告されている。

【００１０】これらの変動は音刺激後４００〜１０００
msecの初期成分に顕著に現れる。この区間の変動面積を
ブランク（無臭刺激）を１００％として比較した百分率
（％）で表す。なお、匂いはラテン方格に従って呈示し
ている。１００％以上の場合は覚醒効果が、１００％以
下の場合は鎮静効果があることを表している。多くの天
然精油を随伴性陰性変動を用いて精査した結果、精油に
鎮静効果と覚醒効果を有すものがあることがわかってい
る（緒方茂樹ら、「第２０回味と匂いのシンポジウム論
文集」，149(1986)）。

【００１１】本発明で使用する１，３−ジメトキシ−５
−メチルベンゼンはハイブリット・ティ種を代表とする
現代バラの花の開花時に多く含有され、しっとりした新
鮮なグリーンノートを持ち、落ち着いた感じの匂いがす
る。この化合物は香料原料として使用されるローザ・ダ
マセナ種やローザ・センチフォリア種のバラには含まれ
ないが、現代種のバラの香気成分として数％から７０％
前後含まれていることは知られている（Shoji Nakamur
a; Perfumer & Flavorist; 12, JUNE/JULY, 43-45 (198
7) ）。しかし、この化合物に関して覚醒または鎮静効
果が確認されたことは未だない。

【００１２】前記したように、本発明は鎮静効果を与え
る香料改質剤として１，３−ジメトキシ−５−メチルベ
ンゼンを配合した香料組成物に関し、この香料組成物は
必要に応じて補助成分と組合わせて香水，コロン，シャ
ンプー・リンス類，スキンケァ，ボディシャンプー，ボ
ディリンス，ボディパウダー類，芳香剤，消臭剤，浴剤
などに用いられる。なお、香料組成物中における１，３
−ジメトキシ−５−メチルベンゼンの配合量は使用目的
などを考慮して適宜決定すればよいが、通常は0.０１〜
３０重量％、好ましくは0.１〜１０重量％が適当であ
る。香料改質剤の含有量が0.０１重量％以上において、
有効な鎮静効果を発現することができ、また３０重量％
を超える量を含有させても鎮静効果としては特に顕著な
効果が認められず、他の香料とのバランスを考慮する
と、これ以上加えることは好ましくない。なお、１，３
−ジメトキシ−５−メチルベンゼンは、前記したよう
に、穏やかでしっとりした匂いであり、他の香料と混合
しても、その香質，香調に特に影響を与えることがな
い。

【００１３】

【実施例】以下に実施例および試験例により本発明を詳
細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるもの
ではない。 試験例１ 香料原料として栽培されるローザ・ダマセナ種やローザ
・センチフォリア種と現代種のバラとの香りの特徴の大
きな違いは、その成分中に１，３−ジメトキシ−５−メ
チルベンゼンを含有するか否かということにある。本発
明では１，３−ジメトキシ−５−メチルベンゼン（以
下、ＤＭＢと略記することがある。）という化合物に注
目して、この化合物を１％と１０％の２段階の濃度（い
ずれもフタル酸ジエチル溶液）で用い、ＣＮＶに対する
影響を測定した。すなわち、健康な成人女性３名を被験
者として前記した方法により実験を行った。その結果、
被験者全員が１％および１０％濃度共に１００％以下を
示し、鎮静効果を有することを確認した。この測定結果
（相対値）を図１に示す。

【００１４】試験例２ 次に、単一化合物として鎮静効果が確認できたＤＭＢを
覚醒効果の確認されている調合香料に添加して、該香料
に於ける効果を調べてみた。すなわち、覚醒効果の認め
られているジャスミン調香料およびフローラル系調香料
（Ｉ）,(II）のＣＮＶに与える影響について、試験例１
と同様に健康な成人女性３名を被験者として測定したと
ころ、被験者全員がＤＭＢの添加により全ての香料が覚
醒から鎮静傾向へ変わったことを示した。各香料組成物
の処方を以下に示し、測定結果を図２〜７に示す。

【００１５】 ジャスミン調調合香料の処方 対照区 試験区 ビーワックス アブソリュート 1 1 ベンジルアセテート 20 20 ベンジルアルコール 4 4 シス−３ヘキセニルベンゾエート 1 1 シス−ジャスモン 2 2 オイゲノール 1 1 ゲラニールリナロール 5 5 インドール 1.5 1.5 イソフィトール 10 10 リナノール 8 8 ベンジルベンゾエート 10 10 フィトール 35 35 エチルアルコール 1.5 1.5 ＤＭＢ − 2 100 102

【００１６】 フローラル系調調合香料（Ｉ）の処方 対照区 試験区 ｎ−ノナナール 10% 0.1 0.1 ベンジルベンゾエート 1 1 シトロネロール 10 10 シトロネリールアセテート 0.2 0.2 シトロネリールフォメート 0.1 0.1 オイゲノール 0.5 0.5 ゲラニオール 12.5 12.5 ゲラニールアセテート 0.3 0.3 シス−３−ヘキセノール 0.2 0.2 ネロール 2.5 2.5 フェニルエチルアルコール 70 70 フェニルエチルアセテート 1.5 1.5 ローズオキサイド 0.1 0.1 ＤＭＢ − 2 100 102

【００１７】 フローラル系調調合香料（II）の処方 対照区 試験区 アルデヒドベース 4 4 アミルサリシレート 2.5 2.5 ベンジルアセテート 1.5 1.5 ベンジルサリシレート 10 10 ベルガモットオイル 6 6 カーネーションベース 3 3 クマリン 0.2 0.2 １，３，４，６，７，８− 4 4 ヘキサヒドロ−４，６，６， ７，８，８−ヘキサメチル シクロペンタ−ガンマ−２− ベンゾピラン グリーンベース 6 6 ジャスミンベース 10 10 メチルイオノン 5.5 5.5 ミューゲベース 10 10 ムスクケトン 4.5 4.5 フェニルエチルアルコール 4 4 ローズベース 4 4 サンタレックスＴ（高砂香料 2.5 2.5 工業株式会社製） イランイランオイル 2.5 2.5 ジプロピレングリコール 20.3 20.3 ＤＭＢ − 2 100 102

【００１８】以上のように、覚醒効果を有する香料組成
物に対してＤＭＢを適量添加することにより、該香料が
持つ本来の香調を損なわず、嗜好性のある鎮静効果を与
える香料組成物を得ることができる。

【００１９】実施例１ 浴剤の調製 炭酸水素ナトリウム ７０ 重量部 無水硫酸ナトリウム ２8.８ 香料（試験例２のフローラル系調調合香料(I)) １ 色素Ｙ−２０２−１ 0.２ １００重量部

【００２０】香料を除いた成分をＶ型ミキサーにて均一
になるまで攪拌した後、ＤＭＢを２％含有する試験例２
のフローラル系調調合香料(I）を加え、さらに均一にな
るまで十分に攪拌して浴剤を得た。

【００２１】実施例２

【００２２】カラギーナン，プロピレングリコール（保
留剤）およびプロピルパラベン（防腐剤）を混合して攪
拌しながら水を加え、これを緩やかに攪拌しながら約８
０℃になるまで加熱した。その後、約６５℃とし、これ
をホモミキサー（特殊機化工業株式会社製）を用いて３
０００回転（ｒｐｍ）で攪拌しながらＤＭＢを２％含有
する試験例２のジャスミン調調合香料を加えて均一な相
にしたのち、所定の容器に流し込み、自然冷却して芳香
剤（ゲルタイプ）を得た。

【００２３】実施例３ 芳香剤（リキッドタイプ）の調製 ９５％エタノール ２５ 重量部 界面活性剤 ５ 香料（試験例２のフローラル系調調合香料(II)) ３ 水 ６７ １００重量部

【００２４】水を除く各成分を混合し、緩やかに攪拌し
ながら水を加え、均一にして芳香剤（リキッドタイプ）
を得た。なお、界面活性剤としてポリオキシエチレンノ
ニルフェニルエーテルＥＯ−１３を用いた。

【００２５】実施例４

【００２６】水以外の各成分を混合し、緩やかに攪拌し
ながら水を加えて消臭剤（リキッドタイプ）を得た。な
お、界面活性剤としてポリオキシエチレンノニルフェニ
ルエーテルＥＯ−１０を用いた。

【００２７】実施例５

【００２８】液化石油ガス以外の各成分を混合、攪拌し
て均一とし、所定の量をエアゾール容器に入れてバルブ
を取付けた後、液化石油ガスを注入して消臭剤（エアゾ
ールタイプ）を得た。

【００２９】

【発明の効果】本発明に用いる１，３−ジメトキシ−５
−メチルベンゼンは単独では勿論のこと、覚醒効果を有
するジャスミンやフローラル系の各種調合香料と混合し
て鎮静効果を発現することができる。また、本発明では
有効成分として単一化合物を用いるため、鎮静という観
点からは天然精油による鎮静作用よりも効果的である。
さらに、１，３−ジメトキシ−５−メチルベンゼン自体
が穏やかな匂いであるため、主体としたい香りをそのま
ま生かして鎮静効果を発現できる。

【図面の簡単な説明】

【図１】 測定により得られたＣＮＶ記録において、音
刺激後400 〜1000ｍｓｅｃの面積につき対照（無臭刺
激）の面積を１００％としたときの相対値であり、１０
０％より大きい値のときは覚醒傾向にあり、１００％よ
り小さい値のときは鎮静傾向にあることを示す。

【図２】 試験例２のジャスミン調調合香料に関して図
１と同様に相対値を示したものである。

【図３】 試験例２のジャスミン調調合香料についての
ＣＮＶ測定記録である。

【図４】 試験例２のフローラル系調調合香料（Ｉ）に
関して図１と同様に相対値を示したものである。

【図５】 試験例２のフローラル系調調合香料（Ｉ）に
ついてのＣＮＶ測定記録である。

【図６】 試験例２のフローラル系調調合香料（II）に
関して図１と同様に相対値を示したものである。

【図７】 試験例２のフローラル系調調合香料（II）に
ついてのＣＮＶ測定記録である。

【符号の説明】

ＡＡ，ＢＢ，ＣＣは３名の被験者を示す。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.⁷ 識別記号 ＦＩ Ｃ１１Ｂ 9/00 Ｃ１１Ｂ 9/00 Ｇ (72)発明者 高島 靖弘 東京都大田区蒲田５丁目36番31号 高砂 香料工業株式会社 総合研究所内 (72)発明者 中村 祥二 神奈川県横浜市港北区新羽町1050番地 株式会社資生堂 第一リサーチセンター 内 (72)発明者 蓬田 勝之 神奈川県横浜市港北区新羽町1050番地 株式会社資生堂 第一リサーチセンター 内 (72)発明者 谷田 正弘 神奈川県横浜市港北区新羽町1050番地 株式会社資生堂 第一リサーチセンター 内 (56)参考文献 米国特許4426332（ＵＳ，Ａ) Ｐｅｒｆｕｍｅｒ ＆ Ｆｌａｖｏｒ ｉｓｔ Ｖｏｌ．12，Ｊｕｎｅ／Ｊｕｌ ｙ 1987 Ｐ．43−45 第24回 味と匂のシンポジウム論文集 （1990年11月）三重大学生物資源学部水 族生理学研究室発行，Ｐ．31−34. Ｔｈｅ Ａｒｔ ｏｆ Ａｒｏｍａｔ ｈｅｒａｐｙ ｂｙ Ｒｏｂｅｒｔ Ｔ ｉｓｓｅｒａｎｄ，ｐｕｂｕｌｉｓｈｅ ｄ ｂｙ Ｔｈｅ Ｃ．Ｗ．Ｄａｎｉｅ ｌ Ｃｏｍｐａｎｙ Ｌｔｄ．，２ｎｄ Ｉｍｐｒｅｓｓｉｏｎ Ｆｅｂｒｕａ ｒｙ 1979，Ｐ．274−279 (58)調査した分野(Int.Cl.⁷，ＤＢ名) C11B 9/00 A61K 7/46 A61K 7/50

Claims (3)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 鎮静効果を与える香料改質剤として１，
   ３−ジメトキシ−５−メチルベンゼンを0.０１〜３０重
   量％含有する香料組成物。
2. 【請求項２】 請求項１記載の香料改質剤を含有する浴
   剤。
3. 【請求項３】 請求項１記載の香料改質剤を含有する芳
   香・消臭剤。