本発明は、増加したインビボ半減期を有する、抗体、Fc融合体、及びイムノアドヘシンに見出されるものを含むFcドメインの新規変異体に関する。これらの変異体は、その修飾がFcRnに対するIgG Fc領域又はその断片の親和性を増加させる、野生型ヒトIgG Fc領域に対する一又は複数のアミノ酸修飾を含むヒトIgG Fc領域、又はFcRnに結合するその断片を含む。
ここに記載され又は参照される技術及び手順は、一般によく理解され、例えばSambrook 等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3版(2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F. M. Ausubel 等編集 (2003));シリーズMETHODS IN ENZYMOLOGY (Academic Press, Inc.): PCR 2: A PRACTICAL APPROACH (M. J. MacPherson, B. D. Hames 及び G. R. Taylor 編集 (1995))、Harlow及びLane編 (1988) ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL, 及びANIMAL CELL CULTURE (R. I. Freshney編 (1987));Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait編 1984);Methods in Molecular Biology, Humana Press;Cell Biology: A Laboratory Notebook (J. E. Cellis編, 1998) Academic Press;Animal Cell Culture (R. I. Freshney)編, 1987);Introduction to Cell 及びTissue Culture (J. P. Mather 及びP. E. Roberts, 1998) Plenum Press;Cell 及びTissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J. B. Griffiths, 及び D. G. Newell編, 1993-8) J. Wiley 及びSons;Handbook of Experimental Immunology (D. M. Weir 及び C. C. Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J. M. Miller 及び M. P. Calos編, 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis 等編, 1994);Current Protocols in Immunology (J. E. Coligan 等編, 1991);Short Protocols in Molecular Biology (Wiley & Sons, 1999);Immunobiology (C. A. Janeway 及び P. Travers, 1997);Antibodies (P. Finch, 1997);Antibodies: a practical approach (D. Catty.編, IRL Press, 1988-1989);Monoclonal antibodies: a practical approach (P. Shepherd 及び C. Dean編, Oxford University Press, 2000);Using antibodies: a laboratory manual (E. Harlow 及び D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999);The Antibodies (M. Zanetti 及び J. D. Capra編, Harwood Academic Publishers, 1995);及び Cancer: Principles 及びPractice of Oncology (V. T. DeVita 等編, J.B. Lippincott Company, 1993)に記載されている広く利用されている方法のような、当業者によって常套的な方法を使用して一般的に用いられる。
特に別に定義しない限り、ここで使用する技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。Singleton等, Dictionary of Microbiology 及びMolecular Biology 2版, J. Wiley & Sons (New York, NY 1994)、及びMarch, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms 及びStructure 4版, John Wiley & Sons (New York, N.Y. 1992)は、本出願において使用される用語の多くに対する一般的なガイドを当業者に提供する。特許出願及び刊行物を含むここで引用される全ての文献は出典明示によりその全体が援用される。
定義
この明細書を解釈する目的には、次の定義が適用され、適切な場合には、単数で使用される用語は複数をまた含み、その逆もある。ここで使用される用語法は特定の実施態様を説明する目的だけのものであって、限定することを意図するものではない。以下に記載される何れかの定義が、出典明示によりここに援用される何れかの文献と矛盾している場合には、以下に記載の定義が優先するものである。
本明細書と特許請求の範囲を通して、免疫グロブリン重鎖中の残基の番号付けは、ここに出典を明示して明示的に援用されるKabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)のEUインデックスのものである。「KabatのEUインデックス」とはヒトIgG1EU抗体の残基番号付けを意味する。
ここで使用される「インビボ半減期」又は「インビボでの抗体の半減期」なる用語は、所定の動物の循環における特定のタイプのIgG分子又はFcRn結合部位を含むその断片の生物学的半減期を意味し、所定の分子の循環濃度が50%減少するのに必要とされる時間によって表される。ある実施態様では、所定のIgGの濃度を時間の関数としてプロットすると、曲線は、 通常は、血管内及び血管外空間の間の注入されたIgG分子の平衡を表す迅速なα相と、血管内空間からのIgG分子の排除を表す長いβ相を持つ二相性である。ある実施態様では、「インビボ半減期」なる用語は、β相におけるIgG分子の半減期に対応する。ある実施態様では、所定のIgGの濃度対時間曲線は、三相性であり、α相及びβ相中に対応して分布しγ相によって表される終末消失を含む。従って、ある実施態様では、インビボ半減期は終末消失相、又はγ相に対応する。ある実施態様では、所定のIgGの濃度対時間曲線は、単相性であり、単一の消失相を有する。従って、ある実施態様では、インビボ半減期は単一消失相の半減期に対応する。
ここで使用される「親ポリペプチド」又は「野生型ポリペプチド」は、未修飾ポリペプチド、天然に生じるポリペプチド、又はここに開示された一又は複数のFc領域アミノ酸修飾を欠き、ここに開示された変異体IgGと比較してエフェクター機能が異なる天然に生じるポリペプチドの遺伝子操作修飾型を意味する。親ポリペプチドは天然配列Fc領域又は(例えば付加、欠失及び/又は置換のような)既存のアミノ酸配列修飾を持つFc領域を含みうる。親ポリペプチドはまた以下に記載される非天然アミノ酸を含みうる。親ポリペプチドは、ポリペプチド自体、親ポリペプチドを含む組成物、又はそれをコードするアミノ酸配列を意味しうる。親ポリペプチドは、限定しないが、親免疫グロブリン、野生型免疫グロブリン、親抗体及び野生型抗体を含む。
従って、ここで使用される「親免疫グロブリン」、「親IgG」、「野生型免疫グロブリン」又は「野生型IgG」は、未修飾免疫グロブリン、天然に生じる免疫グロブリン、又はここに開示された一又は複数のFc領域アミノ酸修飾を欠き、ここに開示された変異体IgGと比較してエフェクター機能が異なる天然に生じる免疫グロブリンの遺伝子操作修飾型を意味する。親免疫グロブリンは天然配列Fc領域又は(例えば付加、欠失及び/又は置換のような)既存のアミノ酸配列修飾を持つFc領域を含みうる。親免疫グロブリンはまた以下に記載される非天然アミノ酸を含みうる。親免疫グロブリンは、免疫グロブリン自体、親免疫グロブリンを含む組成物、又はそれをコードするアミノ酸配列を意味しうる。
ここで使用される「親抗体」又は「野生型抗体」は、未修飾抗体、天然に生じる抗体、又はここに開示された一又は複数のFc領域アミノ酸修飾を欠き、ここに開示された変異体IgGと比較してエフェクター機能が異なる天然に生じる抗体の遺伝子操作修飾型を意味する。親抗体は、天然配列Fc領域又は既存のアミノ酸配列修飾(例えば挿入、欠失及び/又は置換)を有するFc領域を含みうる。親免疫グロブリンはまた以下に記載される非天然アミノ酸を含みうる。親抗体は、抗体自体、親抗体を含む組成物、又はそれをコードするアミノ酸配列を意味しうる。
ある実施態様では、「親IgG」、「親抗体」、「野生型IgG」、又は「野生型抗体」は、限定しないが、ここに記載された既知の市販の組換え的に製造された抗体を含む。ある実施態様では、野生型IgGは、野生型ヒトIgG Fc領域を有するIgGである。ある実施態様では、野生型ヒトIgG Fc領域は、ここに開示されたFc領域アミノ酸修飾の一又は複数を欠くFc領域を意味する。ある実施態様では、野生型ヒトIgG Fc領域は、ここに開示されたFc領域アミノ酸修飾の一又は複数を有するFc領域を意味する。ある実施態様では、野生型IgGはベバシズマブである。ある実施態様では、野生型抗体は、Fc領域を含まない抗体断片である。ある実施態様では、そのような野生型抗体の変異体IgGは、野生型抗体のFabドメイン断片、又は非抗体タンパク質のドメイン又はドメイン群、及びここに開示されたFc領域の一又は複数を含むFcドメイン断片を含むFc融合タンパク質である。ある実施態様では、野生型ヒトIgG Fc領域は、Fc変異L251D又はL251D/434Hを有するが、ここに開示された他のFc領域アミノ酸修飾を有していないIgGFc領域を意味する。
ここで使用される「変異体」、「変異体タンパク質」又は「タンパク質変異体」は、少なくとも一のアミノ酸修飾によって親タンパク質のものとは異なるタンパク質を意味する。タンパク質変異体は、タンパク質自体、タンパク質を含む組成物、又はそれをコードするアミノ酸配列を意味しうる。ある実施態様では、タンパク質変異体は、親ポリペプチドと比較して少なくとも一つのアミノ酸修飾、例えば約1から約10のアミノ酸修飾を有する。ある実施態様では、タンパク質変異体はIgG Fc領域に少なくとも二つのアミノ酸修飾を有する。ある実施態様では、タンパク質変異体はIgG Fc領域に少なくとも3つのアミノ酸修飾を有する。ここでのタンパク質変異体配列は、好ましくは親タンパク質配列と少なくとも約80%の相同性、最も好ましくは少なくとも90%の相同性、より好ましくは少なくとも約95%の相同性を有するであろう。タンパク質変異体はまた以下に記載の非天然アミノ酸を含みうる。「タンパク質変異体」なる用語は、ここに記載の免疫グロブリン変異体及び抗体変異体を含む。
ここで使用される「免疫グロブリン変異体」、「変異体免疫グロブリン」、「変異体IgG」又は「IgG変異体」は、少なくとも一のアミノ酸修飾によって親又は野生型免疫グロブリンのものとは異なる免疫グロブリン配列を意味する。ある実施態様では、変異体IgGは、野生型IgGに対して少なくとも二つのアミノ酸修飾を有する。ある実施態様では、変異体IgGは、野生型IgGに対して少なくとも三つのアミノ酸修飾を有する。ある実施態様では、変異体IgGは変異体抗体である。ある実施態様では、変異体IgGは抗VEGF抗体である。一実施態様では、変異体IgGは、抗体のFc領域に一又は複数のアミノ酸修飾を含むベバシズマブの変異体である。
ここで使用される「抗体変異体」又は「変異体抗体」は、少なくとも一のアミノ酸修飾によって親抗体とは異なる抗体を意味する。ある実施態様では、変異体抗体は、野生型抗体に対してFc領域に一又は複数のアミノ酸修飾を有する。
ここで使用される「位置」はタンパク質の配列中の位置を意味する。位置は、順次、又は例えばカバットにおけるEUインデックスのような確立された形式に従って、番号が付与されうる。
「Fc領域含有ポリペプチド」又は「Fcポリペプチド」なる用語は、Fc領域の全て又は一部を含むポリペプチドを意味する。例えば、Fcポリペプチドは、抗体、Fc融合体、単離されたFcs、及びFc断片を意味する。
「Fc領域含有抗体」なる用語は、Fc領域を含む抗体を意味する。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムによる残基447)は、例えば抗体の精製中に、又は抗体をコードする核酸の組換え操作によって、除去されうる。従って、Fc領域を有する抗体を含む組成物は、K447を有する抗体、全てのK447が除去されたもの、又はK447残基を伴う抗体と伴わない抗体の混合物を含みうる。
「アミノ酸修飾」は、予め決められたアミノ酸配列のアミノ酸配列における変化を意味する。例示的な修飾には、アミノ酸の置換、挿入及び/又は欠失が含まれる。ある実施態様では、アミノ酸修飾は置換である。
例えばFc領域の特定位置「におけるアミノ酸修飾」は、特定された残基の置換もしくは欠失、又は特定された残基に隣接する少なくとも一のアミノ酸の挿入を意味する。特定された残基に「隣接する」挿入とは、その一又は二の残基内の挿入を意味する。挿入は、特定された残基のN末端又はC末端でありうる。
「アミノ酸置換」は、予め決められたアミノ酸配列中の少なくとも一の既存のアミノ酸残基を他の異なる「置換」アミノ酸残基で置き換えることを意味する。置換残基もしくは残基群は「天然に生じるアミノ酸残基」(つまり、遺伝コードによってコードされるもの)であり得、アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile);ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);スレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);及びバリン(Val)からなる群から選択されうる。ある実施態様では、置換残基はシステインではない。一又は複数の非天然発生アミノ酸残基との置換もまたここでのアミノ酸置換の定義に包含される。
「非天然のアミノ酸残基」は、上に列挙した天然に生じるアミノ酸残基以外の残基で、ポリペプチド鎖においてアミノ酸残基(群)に隣接して共有結合し得るものを意味する。非天然発生アミノ酸の例には、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン、及びEllman 等 Meth, Enzym. 202: 301-336 (1991);米国特許第6586207号;国際公開第98/48032号;国際公開第03/073238号;米国特許出願公開第2004−0214988A1号;国際公開第05135727A2号;国際公開第05/74524A2号;J. W. Chin等, (2002), Journal of the American Chemical Society 124:9026-9027;J. W. Chin,及びP. G. Schultz, (2002), ChemBioChem 11:1135-1137;及びJ. W. Chin等, (2002), PICAS United States of America 99:11020-11024(全て全体を出典明示により援用する)に記載されているもののような他のアミノ酸残基アナログが含まれる。
「アミノ酸挿入」は、予め決められたアミノ酸配列中への少なくとも一のアミノ酸の導入を意味する。挿入は通常は一又は二のアミノ酸残基の挿入からなるが、本出願においては、より長い「ペプチド挿入」、例えば約3から約5又は更には約10のアミノ酸残基の挿入を考慮する。挿入された残基(群)は、上に開示した天然に生じるかもしくは非天然のアミノ酸でありうる。
「アミノ酸欠失」は、予め決められたアミノ酸配列からの少なくとも一のアミノ酸残基の除去を意味する。
ある実施態様では、「増加」、「増加した半減期」又は「増加したインビボ半減期」なる用語は、野生型IgG又は野生型ヒトIgG Fc領域を有するIgGと比較して、ここに記載されたもののような標準的な既知の方法によって検出したときの本発明の変異体IgGのインビボ半減期の少なくとも約25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、150%、200%、300%又はそれ以上の全体的増加を意味する。ある実施態様では、該用語は、変異体IgGの増加した半減期を意味し、ここで、該増加は、野生型IgG又は野生型ヒトIgGFc領域を有するIgGと比較して少なくとも約1.25X、1.5X、1.75X、2X、3X、4X、5X、又は10X又はそれ以上である。ある実施態様では、野生型IgG又は野生型ヒトIgGFc領域を有するIgGはベバシズマブである。ある実施態様では、ベバシズマブの平均半減期は、カニクイザルにおいて測定して約10から12日、又はヒトにおいて測定して約20日である。
「ヒンジ領域」は、一般に、ヒトIgG1のGlu216からPro230まで延びていると定義される(Burton, Molec. Immunol.22:161-206(1985))。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、同じ位置に内部重鎖S−S結合を形成する最初と最後のシステイン残基を配置することによりIgG1と整列させることができる。
Fc領域の「低ヒンジ領域」は、通常、C末端からヒンジ領域、すなわち、Fc領域の残基233から239までの伸展として定義される。本発明に先立ち、FcγRの結合には、一般に、IgG Fc領域の低ヒンジ領域内のアミノ酸残基が寄与しているとされていた。
「C1q」は免疫グロブリンのFc領域に対する結合部位を含むポリペプチドである。C1qは二つのセリンプロテアーゼC1r及びC1sと共に、補体依存性細胞毒性(CDC)経路の最初の成分である複合体C1を形成する。ヒトC1qは例えばQuidel, San Diego, CAから購入することができる。
「結合ドメイン」なる用語は、他の分子に結合するポリペプチドの領域を意味する。FcRの場合には、結合ドメインはFc領域の結合の原因であるそのポリペプチド鎖の一部(例えばそのα鎖)を含みうる。一つの有用な結合ドメインはFcRα鎖の細胞外ドメインである。
ここでの「抗体」なる用語は、最も広い意味で使用され、特にモノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の生物学的活性を示す限り、抗体断片を包含する。
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分とは、その抗体の研究、診断又は治療への使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質を含みうる。ある実施態様では、抗体は、(1)例えばローリー法で決定して95重量%を越える抗体まで、ある実施態様では99重量%を越えるまで、(2)例えばスピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端又は内部アミノ酸配列を得るのに充分なほど、あるいは、(3)クーマシーブルー又は銀染色を用いた非還元又は還元条件下でのSDS-PAGEにより均一になるまで、精製される。単離された抗体には、抗体の自然環境の少なくとも一の成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイツの抗体が含まれる。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも一つの精製工程により調製される。
「天然抗体」は、通常は、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変化する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した鎖内ジスルフィド結合を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(VH)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)を、他端に定常ドメインを有する;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられている。
「定常ドメイン」なる用語は、免疫グロブリンの他の部分、つまり抗原結合部位を含む可変ドメインに対してより保存されたアミノ酸配列を有する免疫グロブリン分子の一部を意味する。定常ドメインは重鎖のCH1、CH2及びCH3ドメインと軽鎖のCHLドメインを含む。
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを意味する。重鎖の可変ドメインは「VH」と呼ぶことができる。軽鎖の可変ドメインは「VL」と呼ぶことができる。これらのドメインは一般に抗体の最も可変の部分であり、抗原結合部位を含む。
「可変」という用語は、可変ドメインのある部位が、抗体の中で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性及び特異性に使用されているという事実を意味する。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。軽鎖及び重鎖の可変ドメインの両方の高頻度可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保持された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、βシート構造を結合し、ある場合にはその一部を形成するループ結合を形成する、3つの高頻度可変領域により連結されたβシート配置を主にとる4つのFR領域をそれぞれ含んでいる。各鎖のHVRは、FR領域に近接して結合され、他の鎖のHVRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat等, Sequence of Proteins ofImmunological Interest, 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, BEthesda, MD(1991)を参照)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関連しているものではないが、様々なエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞性傷害性への抗体の関与を示す。
任意の脊椎動物種からの抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる二つの明らかに区別されるタイプの一方に分類できる。
ここで使用されるIgG「アイソタイプ」又は「サブクラス」なる用語は、その定常領域の化学的及び抗原性特徴によって定まる免疫グロブリンのサブクラスの何れかを意味する。
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体(免疫グロブリン)は異なるクラスに分類できる。免疫グロブリンの五つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、それらの幾つかは更にサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2に分類される。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配位はよく知られており、一般に例えばAbbas等, Cellular 及びMol. Immunology, 4版 (W.B. Saunders, Co., 2000)に記載されている。抗体は、一又は複数の他のタンパク質又はペプチドとの抗体の共有又は非共有結合によって形成されるより大きな融合分子の一部であってもよい。
ここで使用される「IgGサブクラス修飾」なる用語は、あるIgGアイソタイプの一つのアミノ酸を異なったアラインされたIgGアイソタイプにおける対応するアミノ酸に転換するアミノ酸修飾を意味する。例えば、IgG1はチロシンを、IgG2はフェニルアラニンをEU位置296に含むので、IgG2におけるF296Y置換はlgGサブクラス修飾であると考えられる。
ここで使用される「天然に生じる修飾」は、アイソタイプではないアミノ酸修飾を意味する。例えば、IgGsの何れもグルタミン酸を332位に含まないので、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4におけるグルタミン酸での332位の置換(332E)は、非天然発生修飾と考えられる。
「完全長抗体」、「インタクト抗体」及び「全抗体」という用語は、ここでは交換可能に使用され、その実質的にインタクトな形態の抗体を指す。この用語は、特にFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
ここでの目的にとって、「ネイキッド抗体」とは、細胞傷害性部分又は放射標識にコンジュゲートされていない抗体である。
「抗体断片」は、好ましくはその抗原結合を含む、インタクトな抗体の一部を含んでなる。ある実施態様では、抗体断片はFc領域又はここに開示された一又は複数のFc領域を含むFc領域の一部を含む。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;ダイアボディ(diabodies);直鎖状抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体を含む。
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗体結合断片を生成し、その各々は単一の抗原結合部位と、残りは名前がその容易に結晶化する能力を反映する残りの「Fc」断片とを有する。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を持ち、抗原に尚も架橋可能であるF(ab')2断片を生じる。
「Fv」は、完全な抗原結合部位を含む最小の抗体断片である。一実施態様では、二本鎖Fv種は強固な非共有結合の一つの重鎖可変ドメインと一つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種では、一つの重鎖可変ドメインと一つの軽鎖可変ドメインが、軽鎖及び重鎖が二本鎖Fv種におけるものに類似した「二量体」構造で会合しうるように、可動性ペプチドリンカーによって共有的に連結されうる。各可変ドメインの3つのHVRが相互作用してVH−VL二量体の表面に抗原結合部位を形成するのはこの構造においてである。集合的には、6つのHVRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのHVRだけを含んでなるFvの半分)でさえ、結合部位全体よりは低い親和性でではあるが、抗原を認識しそれに結合する能力を有している。
Fab断片は重鎖及び軽鎖可変ドメインを含み、また軽鎖の定常ドメインと重鎖の第一定常ドメイン(CH1)を含んでいる。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に数個の残基が付加される点でFab断片とは異なる。Fab’−SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を担持しているFab’についてのここでの標記である。F(ab’)2抗体断片は、その間にヒンジシステインを有するFab’断片対として元々は生産された。抗体断片の他の化学的カップリングもまた知られている。
「一本鎖Fv」又は「sFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。一般には、sFvポリペプチドは、scFVが抗原結合に望まれる構造を形成するのを可能にするポリペプチドリンカーをVH及びVLドメイン間に更に含む。scFvの概説については、例えばPluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, (Springer-Verlag, New York, 1994), pp. 269-315を参照のこと。
「ダイアボディ」なる用語は、二つの抗原結合部位を持ち、その断片が同一のポリペプチド鎖(VH−VL)内で軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含む抗体断片を指す。非常に短いために同一鎖上で二つのドメイン間での対形成を可能にするリンカーを使用して、ドメインを他の鎖の相補ドメインと強制的に対形成させ、二つの抗原結合部位を創製する。ダイアボディは二価又は二重特異的でありうる。ダイアボディは、例えば欧州特許出願公開第404097号;国際公開第1993/01161号;及びHudson等, Nat. Med. 9:129-134 (2003);及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)に更に十分に記載されている。トリアボディ及びダイアボディはまたHudson等, Nat. Med. 9:129-134 (2003)に記載されている。
ここで使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する、すなわち、例えば少量で存在しうる天然に生じる突然変異などの、可能な突然変異体を除いて、集団を含む個々の抗体が同一である。よって、「モノクローナル」との形容は、個別の抗体の混合物ではないという抗体の性質を示す。ある実施態様では、このようなモノクローナル抗体は、典型的には、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、標的に結合するポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列から単一の標的結合ポリペプチド配列を選択することを含む方法により得られる。例えば、該選択プロセスは、ハイブリドーマクローン、ファージクローン又は組換えDNAクローンのプールのような複数のクローンからの唯一のクローンの選択でありうる。選択された標的結合配列を更に改変させることにより、例えば標的への親和性の改善、標的結合配列のヒト化、細胞培養液中におけるその産生の向上、インビボでの免疫原性の低減、多重特異性抗体の生成等が可能になり、また改変された標的結合配列を含む抗体も、本発明のモノクローナル抗体であることが理解されなければならない。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体の調製物とは異なり、モノクローナル抗体の調製物の各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体の調製物は、それらが他の免疫グロブリンで典型的には汚染されていないという点で有利である。
「モノクローナル」との修飾詞は、抗体の実質的に均一な集団から得られるという抗体の性質を示すものであり、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明において用いられるモノクローナル抗体は、例えばハイブリドーマ法(例えばKohler及びMilstein, Nature, 256:495 (1975);Hongo等, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995);Harlow等, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2版 1988);Hammerling等, Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681, (Elsevier, N.Y., 1981))、組換えDNA法(例えば米国特許第4816567号を参照)、ファージディスプレイ法(例えばClackson等, Nature, 352:624-628 (1991);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1992);Sidhu等, J. Mol. Biol. 338(2):299-310 (2004);Lee等, J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);及びLee等 J. Immunol. Methods 284(1-2):119-132 (2004)を参照)、及びヒト免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子座又は遺伝子の一部又は全てを有する動物においてヒト又はヒト様抗体を産生する技術(例えば国際公開第1998/24893号;同第1996/34096号;同第1996/33735号;同第1991/10741号;Jakobovits等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993);Jakobovits等, Nature, 362:255-258 (1993);Bruggemann等, Year in Immuno., 7:33 (1993);米国特許第5545807号;同第5545806号;同第5569825号;同第5625126号;同第5633425号;及び同第5661016号;Marks等, Bio/Technology, 10: 779-783 (1992);Lonberg等, Nature, 368: 856-859 (1994);Morrison, Nature, 368: 812-813 (1994);Fishwild等, Nature Biotechnology, 14: 845-851 (1996);Neuberger, Nature Biotechnology, 14: 826 (1996);及びLonberg及びHuszar, Intern. Rev. Immunol., 13: 65-93 (1995)を参照)を含む様々な技術によって作製することができる。
ここでのモノクローナル抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種由来の抗体、あるいは特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか又は相同であるが、鎖の残りが他の種由来の抗体、あるいは他の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一であるか又は相同である「キメラ」抗体、並びにそれらが所望の生物的活性を有する限りこのような抗体の断片を特に含む(米国特許第4816567号;Morrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855(1984))。キメラ抗体は、抗体の抗原結合領域が、例えば対象の抗原でマカクザルを免役化することによって、生産された抗体から誘導されるプリマタイズ(PRIMATIZED(登録商標))抗体を含む。
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。一実施態様では、ヒト化抗体はレシピエントのHVRからの残基が、マウス、ラット、ウサギ又は所望の特異性、親和性及び/又は能力を有する非ヒト霊長類などの非ヒト(ドナー抗体)のHVRからの残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFR残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、もしくはドナー抗体にも見出されない残基を含んでもよい。これらの修飾は抗体の特性を更に洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいはほとんど全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいはほとんど全てのFR領域がヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的に全てを含むであろう。ヒト化抗体は、場合によっては、免疫グロブリン定常領域又はドメイン(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部を含んでなる。更なる詳細については、Jones等, Nature 321:522-525 (1986); Riechmann等, Nature 332:323-329 (1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照されたい。また例えば、Vaswani及びHamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998); Harris, Biochem. Soc. Transactions 23:1035-1038 (1995); Hurle及びGross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433 (1994);及び米国特許第6982321号及び同第7087409号を参照のこと。
「ヒト抗体」は、ヒトによって生産される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するもの、及び/又はここで開示されたヒト抗体を作製する何れかの技術を使用して作製されたものである。ヒト抗体のこの定義は、特に非ヒト抗原結合残基を含んでなるヒト化抗体を除く。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーを含むこの分野で知られた様々な方法を用いて産生せしめることができる。Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol., 227:381 (1992);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581 (1991)。ヒトモノクローナル抗体の調製にまた利用できるものは、Cole等, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);Boerner等, J. Immunol., 147(1):86-95 (1991)に記載された方法である。また van Dijk 及びvan de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol., 5: 368-74 (2001)を参照のこと。ヒト抗体は、抗原暴露に応答してかかる抗体を産生せしめるように改変されているが、その内因性遺伝子座が無能にされているトランスジェニック動物、例えば免疫化ゼノマウスに抗原を投与することによって調製されうる(XENOMOUSETM 技術に関しては例えば米国特許第6075181号及び同第6150584号を参照)。またヒトB細胞ハイブリドーマ法によって生産されるヒト抗体に関しては、Li等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006) を参照のこと。
「種依存性抗体」は、二番目の哺乳動物種からの抗原の相同体に対して有している結合親和性よりも、一番目の哺乳動物種からの抗原に対してより強力な結合親和性を有するものである。通常、種依存性抗体は、ヒト抗原(すなわち、約1×10−7M以下、好ましくは約1×10−8以下、最も好ましくは約1×10−9M以下の結合親和性(Kd)値を有する)と「特異的に結合」するが、そのヒト抗原に対する結合親和性よりも、少なくとも約50倍、又は少なくとも約500倍、又は少なくとも約1000倍弱い、二番目の非ヒト哺乳動物種からの抗原の相同体に対する結合親和性を有する。種依存性抗体は、上で定義した様々な型の抗体の何れでもありうるが、好ましくはヒト化又はヒト抗体である。
ここで使用される「高頻度可変領域」、「HVR」又は「HV」なる用語は、配列において高頻度可変であり、及び/又は構造的に定まったループを形成する抗体可変ドメインの領域を意味する。一般に、抗体は6つのHVRsを含む;VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)である。天然抗体では、H3及びL3は6つの高頻度可変領域のうちで最も高い多様性を示し、特にH3は抗体に良好な特異性を与える際に特有の役割を果たすと信じられている。例えば、Xu等, Immunity 13:37-45 (2000);Johnson 及びWu, Methods in Molecular Biology 248:1-25 (Lo編, Human Press, Totowa, NJ, 2003)を参照のこと。実際、重鎖のみからなる天然に生じるラクダ科の抗体は機能的であり、軽鎖が無い状態で安定である。例えば、Hamers-Casterman等, Nature 363:446-448 (1993);Sheriff等, Nature Struct. Biol. 3:733-736 (1996)を参照のこと。
多数のHVRの描写が使用され、ここに包含される。カバット相補性決定領域(CDR)は配列多様性に基づいており、最も一般的に使用されている(Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))。Chothiaは、代わりに構造的ループの位置に言及している(Chothia 及びLesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。AbM HVRは、カバットHVRとChothia構造的ループの間の妥協を表し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアにより使用される。「接触」HVRは、利用できる複合体結晶構造の解析に基づく。これらのHVRsのそれぞれからの残基を以下に示す。
ループ カバット AbM Chothia 接触
---- ----- --- ------- -------
L1 L24-L34 L24-L34 L26-L32 L30-L36
L2 L50-L56 L50-L56 L50-L52 L46-L55
L3 L89-L97 L89-L97 L91-L96 L89-L96
H1 H31-H35B H26-H35B H26-H32 H30-H35B
(Kabat番号付け)
H1 H31-H35 H26-H35 H26-H32 H30-H35
(Chothia番号付け)
H2 H50-H65 H50-H58 H53-H55 H47-H58
H3 H95-H102 H95-H102 H96-H101 H93-H101
HVRは、次のような「拡大HVR」を含みうる:VLの24−36又は24−34(L1)、46−56又は50−56(L2)及び89−97又は89−96(L3)、及びVHの26−35又は26−35A(H1)、50−65又は49−65(H2)及び93−102、94−102、又は95−102(H3)。可変ドメイン残基は、これらの定義の各々について、上掲のKabat等に従って番号が付されている。
「フレームワーク」又は「FR」残基は、ここに定義されるHVR残基以外の可変ドメイン残基である。
「カバット(Kabat)による可変ドメイン残基番号付け」又は「カバットに記載のアミノ酸位番号付け」なる用語及びその異なる言い回しは、上掲のKabat 等の抗体の編集の軽鎖可変ドメイン又は重鎖可変ドメインに用いられる番号付けシステムを指す。この番号付けシステムを用いると、実際の直鎖状アミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はHVR内の短縮又は挿入に相当する2、3のアミノ酸又は付加的なアミノ酸を含みうる。例えば、重鎖可変ドメインには、重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えばカバットによる残基82a、82b及び82cなど)と、H2の残基52の後に単一アミノ酸の挿入(Kabatによる残基52a)を含んでもよい。残基のKabat番号は、「標準の」カバット番号付け配列と抗体配列の相同領域でアライメントすることによって、与えられた抗体について決定されうる。
可変ドメイン(およそ軽鎖の残基1−107及び重鎖の残基1−113)中の残基に言及するとき、カバットの番号付けシステムが一般に使用される(例えばKabat等, Sequences of Immunological Interest. 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。免疫グロブリン重鎖定常領域中の残基に言及するとき、「EU番号付けシステム」又は「EUインデックス」が一般に使用される(例えば上掲のKabat等に報告されているEUインデックス)。「カバットにおけるようなEUインデックス」はヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを意味する。ここで別の定義を述べない限り、抗体の可変ドメイン内の残基番号の参照は、カバット番号付けシステムによる残基番号付けを意味する。ここで別の定義を述べない限り、抗体の定常ドメイン内の残基番号の参照は、EU番号付けシステムによって番号付けした残基を意味する(例えば、PCT公開第2006073941号を参照)。
「親和成熟」抗体とは、その改変を有していない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性に改良を生じせしめる一又は複数の改変をその一又は複数のHVRに持つものである。一実施態様では、親和成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル又はピコモルの親和性を有する。親和成熟抗体は、当該分野において知られている手順によって生産されうる。Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和成熟について記載している。HVR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘導は、例えばBarbas等, Proc Nat Acad. Sci, USA 91:3809-3813(1994);Schier等, Gene, 169:147-155(1995);Yelton等, J. Immunol.155:1994-2004(1995);Jackson等, J. Immunol.154(7):3310-9(1995);及びHawkins等, J. Mol. Biol.226:889-896(1992)に記載されている。
「阻止(ブロック)」抗体又は「アンタゴニスト」抗体とは、結合する抗原の生物学的活性を阻害するか又は低下させる抗体である。特定の阻止抗体又はアンタゴニスト抗体は、抗原の生物学的活性を、実質的に又は完全に阻害する。
ここで使用される「アゴニスト」抗体は、対象とするポリペプチドの機能的活性の少なくとも一つを部分的に又は完全に模倣する抗体である。
「増殖阻害」抗体は、抗体が結合する抗原を発現している細胞の増殖を阻害又は低減するものである。
抗体の「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に帰する生物学的活性を意味し、抗体のアイソタイプにより変わる。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞傷害活性(CDC);Fcレセプター結合性;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害活性(ADCC);貪食作用;細胞表面レセプター(例えば、B細胞レセプター)のダウンレギュレーション;及びB細胞活性化が含まれる。
ここでの「Fc領域」なる用語は、天然配列Fc領域及び変異体Fc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化するかも知れないが、通常、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226の位置又はPro230からの位置のアミノ酸残基からそのカルボキシル末端まで伸長すると定義される。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムによれば残基447)は、例えば、抗体の産生又は精製中に、又は抗体の重鎖をコードする核酸を組換え的に操作することによって取り除かれてもよい。従って、インタクト抗体の組成物は、全てのK447残基が除去された抗体群、K447残基が除去されていない抗体群、及びK447残基を有する抗体と有さない抗体の混合を含む抗体群を含みうる。ある実施態様では、免疫グロブリンのFc領域は二つの定常ドメインCH2及びCH3を含む。
ヒトIgGFc領域の「CH2ドメイン」(「Cγ2」ドメインとも呼ばれる)は通常アミノ酸残基で約231位のアミノ酸から約340位のアミノ酸まで伸展する。CH2ドメインは、他のドメインと密接には対をなさないという点で独特である。むしろ、2つのN結合分岐糖鎖が未変性のインタクトな天然IgG分子の2つのCH2ドメインの間に介在されている。糖鎖はドメイン−ドメイン対形成に対する代替物を提供し得、CH2ドメインを安定化させるのに役立つと推測されてきた。Burton, Molec. Immunol. 22:161-206 (1985)。
「CH3ドメイン」は、C末端からFc領域のCH2ドメインへの残基の伸展を含む(すなわち、IgGの約341位のアミノ酸残基から約447位のアミノ酸残基)。
「機能的Fc領域」は、天然配列Fc領域の「エフェクター機能」を有する。例示的な「エフェクター機能」には、C1q結合;CDC;ADCC;ファゴサイトーシス;細胞表面レセプター(例えば、B細胞レセプター;BCR)のダウンレギュレーション等が含まれる。このようなエフェクター機能は、一般に、Fc領域を結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組合せることが必要であり、様々なアッセイを使用して評価することができる。
「天然配列Fc領域」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。天然配列のヒトFc領域には、天然配列のヒトIgG1Fc領域(非A−及びAアロタイプ);天然配列のヒトIgG2 Fc領域;天然配列のヒトIgG3 Fc領域;及び天然配列のヒトIgG4 Fc領域;並びにその天然に生じる変異体が含まれる(例えば、配列番号:11から配列番号:17を参照)。
「変異体Fc領域」は、少なくとも一のアミノ酸修飾により、天然配列のFc領域とは異なるアミノ酸配列を含む。ある実施態様では、変異体Fc領域は、天然配列のFc領域のものとは一又は複数のアミノ酸置換が異なるアミノ酸配列を含む。ある実施態様では、変異体Fc領域は、野生型IgG又は野生型抗体のFc領域と比較して少なくとも一つのアミノ酸置換を有する。ある実施態様では、変異体Fc領域は、野生型抗体のFc領域に二以上のアミノ酸置換を有する。ある実施態様では、変異体Fc領域は、野生型抗体のFc領域に三以上のアミノ酸置換を有する。ある実施態様では、変異体Fc領域は少なくとも一つ、二つ又は三つ以上のここに記載のFc領域アミノ酸置換を有する。ある実施態様では、ここでの変異体Fc領域は、天然配列のFc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性を有するであろう。ある実施態様では、ここでの変異体Fc領域は、天然配列のFc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約90%の相同性を有するであろう。ある実施態様では、ここでの変異体Fc領域は、天然配列のFc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約95%の相同性を有するであろう。
「Fcレセプター」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合するレセプターを記載する。幾つかの実施態様では、FcRは天然ヒトFcRである。幾つかの実施態様では、FcRは、IgG抗体(ガンマレセプター)に結合し、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIサブクラスのレセプターを含むものであり、これらのレセプターの対立遺伝子変異体及び選択的スプライシング型を含む。FcγRIIレセプターは、FcγRIIA(「活性化レセプター」)及びFcγRIIB(「阻害レセプター」)を含み、それらは、主としてその細胞質ドメインが異なる類似のアミノ酸配列を有する。活性化レセプターFcγRIIAは、その細胞質ドメインに、免疫レセプターチロシン−ベース活性化モチーフ(ITAM)を有する。阻害レセプターFcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫レセプターチロシン−ベース阻害モチーフ(ITIM)を有する(例えばDaeron, Annu. Rev. Immunol., 15:203-234(1997)を参照)。FcRはRavetch及びKinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel等, Immunomethods 4:25-34 (1994);及びde Haas等, J. Lab. Clin. Med. 126:330-41(1995)に概説されている。将来同定されるものも含む他のFcRが、ここにおける用語「FcR」に包含される。
「Fcレセプター」又は「FcR」なる用語はまた胎児への母のIgGの移動(Guyer等, J. Immunol. 117:587(1976)及びKim等, J. Immunol. 24:249(1994))、及び免疫グロブリンの恒常性維持の調節の原因となる、新生児レセプターFcRnを含む。FcRnへの結合性を測定する方法は知られている(例えば、Ghetie 及びWard, Immunology Today,18(12):592-8(1997);Ghetie等, Nature Biotechnology, 15(7):637-40(1997);Hinton等, J. Biol. Chem.,279(8):6213-6(2004);国際公開第2004/92219号(Hinton等)を参照)。
ヒトFcRn高親和性結合ポリペプチドのインビボ又は血清半減期は、例えば変異Fc領域を有するポリペプチドが投与されたトランスジェニックマウス、ヒト、又は非ヒト霊長類においてアッセイすることができる。例えばPetkova等 International Immunology 18(12):1759-1769 (2006)をまた参照。
「ヒトエフェクター細胞」は、一又は複数のFcRsを発現し、エフェクター機能を実施する白血球である。ある実施態様では、細胞は少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を実施する。ADCCを媒介するヒト白血球の例は、末梢血液単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞、及び好中球を含む。エフェクター細胞は、天然源、例えば血液から単離することができる。
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性」又は「ADCC」は、ある種の細胞傷害性細胞(例えば、NK細胞、好中球、及びマクロファージ)に存在するFcレセプター(FcRs)上に結合した分泌Igが、これらの細胞傷害性エフェクター細胞を、抗原担持標的細胞に特異的に結合せしめ、ついで細胞毒で標的細胞を殺すという細胞傷害性の形態を意味する。ADCCを媒介する一次細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現する一方、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血性細胞でのFcRの発現は、Ravetch及びKinet, Annu.Rev.Immunol., 9:457-92(1991)の464頁の表3に要約されている。関心ある分子のADCC活性を評価するためには、米国特許第5500362号又は同5821337号、又は米国特許第6737056号(Presta)に記載されているもののようなインビトロADCCアッセイが実施されうる。そのようなアッセイのための有用なエフェクター細胞は、PBMC及びNK細胞を含む。あるいは、又は付加的に、関心ある分子のADCC活性は、例えばClynes等, Proc. Natl. Acad. Sci.(USA), 95:652-656(1998)に開示されたもののような動物モデルにおいてインビボで評価されうる。
「補体依存性細胞傷害性」もしくは「CDC」は、補体の存在下での標的細胞の溶解を意味する。古典的な補体経路の活性化は、補体系(Clq)の第1成分が、その同族抗原と結合した抗体(適切なサブクラスのもの)に結合することにより開始される。補体の活性化を評価するために、CDCアッセイを、例えばGazzano-Santoro等, J. Immunol. Methods 202:163(1996)に記載されているように実施することができる。Fc領域アミノ酸配列(変異Fc領域を有するポリペプチド)が改変され、C1q結合能力が増加又は低下させられたポリペプチド変異体は、例えば米国特許第6194551号及び国際公開第1999/51642号に記載されている。また、例えばIdusogie等, J. Immunol. 164:4178-4184(2000)を参照。
「改変された」FcR結合親和性又はADCC活性を有するポリペプチド変異体は、親ポリペプチドもしくは天然配列Fc領域を有するポリペプチドと比較して亢進又は減弱化されたFcR結合活性及び/又はADCC活性を持つものである。FcRに対して「増加した結合性を示す」ポリペプチド変異体は、少なくとも一つのFcRに親ポリペプチドよ良好な親和性で結合する。FcRに対して「減弱した結合性を示す」ポリペプチド変異体は、少なくとも一つのFcRに親ポリペプチドよりは弱い親和性で結合する。そのようなFcRに対して減弱化した結合性を示す変異体は、ほとんどあるいは全く認識できない弱いFcRへの結合性、例えば、天然配列のIgG Fc領域と比較しておよそ0−20%のFcRへの結合性しか有していない場合がある。
親抗体よりも「ヒトエフェクター細胞の存在下において、より効果的に抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を媒介する」ポリペプチド変異体は、アッセイに使用されるポリペプチド変異体及び親抗体の量を本質的に同じにした場合、インビトロもしくはインビボにおいて実質的により効果的にADCCを媒介するものである。一般に、そのような変異体は、ここに開示されるインビトロADCCアッセイを用いて同定されるであろうが、例えば動物モデル等において、ADCC活性を決定するその他のアッセイもしくは方法も考慮される。
「結合親和性」は、一般に、分子(例えば抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有相互作用の合計の強度を意味する。特に示さない限り、ここで使用される場合、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を意味する。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、会合定数(Ka)の逆数である解離定数(Kd)により表すことができる。親和性は、ここに開示されたものを含む、当該分野で知られている一般的な方法により測定することができる。低親和性抗体は、一般に抗原にゆっくりと結合し、及び/又は容易に解離する傾向にあるが、高親和性抗体は、一般により素早く抗原に結合し、及び/又は長時間、結合したまま残る傾向にある。結合親和性を測定する様々な方法が当該分野で知られており、その何れかを本発明の目的に使用することができる。結合親和性を測定するための、特定の例証及び例示的実施態様を以下に記載する。
ある実施態様では、本発明に係る「KD」、「Kd」、「Kd」又は「Kd値」は、〜10反応単位(RU)で、固定化抗原CM5チップを用い、25℃にて、BIACORE(登録商標)−2000又はBIACORE(登録商標)−3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)を使用する表面プラズモン共鳴法により測定される。簡単に述べると、カルボキシメチル化されたデキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIACORE Inc.)は、供給者の使用説明書に従い、N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化される。抗原は、10mMの酢酸ナトリウム、pH4.8を用いて、カップリングしたタンパク質の反応単位(RU)が約10になるように、5μl/分の流量で注入する前に、5μg/ml(〜0.2μM)に希釈される。抗原を注射した後、1Mのエタノールアミンを注入し、未反応基をブロックする。動力学測定のために、ポリペプチド、例えば完全長抗体の連続希釈物を、約25μl/分の流量で、25℃にて、PBSに0.05%のトゥイーン20TM界面活性剤が入ったもの(PBST)に注入する。会合速度(kon)と解離速度(koff)を、会合と解離のセンサーグラムを同時に適合させることにより、単一の1対1のラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェア・バージョン3.2)を使用して算出する。平衡解離定数(Kd)をkoff/konの比率として算出する。例えば、Chen等,J. Mol. Biol., 293:865-881(1999)を参照。オン速度(on-rate)が、上述した表面プラズモン共鳴アッセイにより、106M−1s−1を超過しているならば、オン速度は、分光計、例えばストップフローが具備された分光光度計(Aviv Instruments)、又は8000シリーズのSLM−AMINCOTM分光光度計(ThermoSpectronic)で攪拌キュベットを具備するもので測定される場合、増加濃度の抗原下、PBSに20nMの抗抗原抗体(Fab形)が入ったものを25℃で、蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、16nmの帯域通過)における増加又は減少を測定する蛍光クエンチング技術を使用して測定可能である。
この発明の「オン速度」、「解離の速度」、「解離速度」又は「kon」は、BIACORE(登録商標)−2000又はBIACORE(登録商標)−3000システム(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)を使用し、上述にて記載したように測定することができる。
ここで使用される場合、「実質的に類似」又は「実質的に同様」なる用語は、2つの数値の間の十分高度な類似性を示し、当業者であれば、該値(例えばKd値)により測定される生物学的特徴の範囲内で、2つの値の間に、ほとんど又は全く生物学的及び/又は統計的に有意な差がないとみなすであろう。ある実施態様では、前記2つの値の間の差異は、例えば、参照/比較器値の関数として、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、及び/又は約10%未満である。
ここで使用される語句「実質的に低減」又は「実質的に異なる」は、2つの数値の間の十分高度な差異を示し、当業者であれば、該値(例えばKd値)により測定される生物学的特徴の範囲内で、2つの値の間に、統計的に有意な差異があるとみなすであろう。ある実施態様では、前記2つの値の間の差異は、例えば、参照/比較器分子に対する値の関数として、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、及び/又は約50%以上である。
ここでの目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークから得られるVL又はVHフレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「から得られる」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含むか、又は既存のアミノ酸配列変化を含んでいてもよい。幾つかの実施態様では、既存のアミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下又は2以下である。既存のアミノ酸変化がVH中に存在する場合、好ましくは、それらの変化は位置71H、73H及び78Hの内の3つ、2つ又は1つのみである;例えば、それらの位置のアミノ酸残基は、71A、73T及び/又は78Aでありうる。一実施態様では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選別において最も一般的に生じるアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列は、可変ドメイン配列のサブグループから選別する。一般に、配列のサブグループは上掲のKabat等におけるようなサブグループである。一実施態様では、VLについて、サブグループはKabat等におけるようなサブグループκIである。一実施態様では、VHについて、サブグループは上掲のKabat等におけるようなサブグループIIIである。
「VHサブグループIIIコンセンサスフレームワーク」は、Kabat等の可変重鎖サブグループIIIのアミノ酸配列から得られるコンセンサス配列を含む。
「VLサブグループIコンセンサスフレームワーク」は、Kabat等の可変軽鎖カッパサブグループIのアミノ酸配列から得られるコンセンサス配列を含む。
「精製された」は、分子が試料中に少なくとも95重量%の濃度で、又はそれが含まれる試料の少なくとも98重量%で存在することを意味する。
「単離された」核酸分子は、例えばその天然の環境において通常は付随している少なくとも一の他の核酸分子から分離されている核酸分子である。単離された核酸分子は、該核酸分子を通常は発現する細胞に含まれる核酸分子を更に含むが、該核酸分子はその天然の染色***置とは異なった染色***置に又は染色体外に存在する。
ここで使用される「ベクター」という用語は、それが連結しているその他の核酸を輸送することのできる核酸分子を指す。一つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは、付加的なDNAセグメントがライゲーションされうる環状二本鎖DNAを指す。他のタイプのベクターはファージベクターである。その他の型のベクターはウイルスベクターであり、付加的なDNAセグメントがウイルスゲノム中にライゲーションされうる。ある種のベクターは、それらが導入される宿主内において自己複製することができる(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入の際に宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、宿主ゲノムと共に複製される。更に、ある種のベクターは、それらが作用可能に連結している遺伝子の発現を方向づけ得る。このようなベクターは、ここでは、「組換え発現ベクター」、あるいは単に「組換えベクター」と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術で利用される発現ベクターは、しばしばプラスミドの形をとる。本明細書では、プラスミドが最も広く使用されているベクターの形態であるので、「プラスミド」及び「ベクター」は相互交換可能に使用されうる。
ここで使用される「ポリヌクレオチド」又は「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを意味し、DNA及びRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド又は塩基、及び/又はそれらのアナログ、又はDNAもしくはRNAポリメラーゼにより、もしくは合成反応によりポリマー中に取り込まれうる任意の基質でありうる。ポリヌクレオチドは、修飾されたヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチド及びそれらのアナログを含み得る。存在するならば、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーの組み立ての前又は後になされ得る。ヌクレオチドの配列は非ヌクレオチド成分により中断されてもよい。ポリヌクレオチドは合成後に、例えば標識への結合により、なされる修飾を含みうる。他のタイプの修飾には、例えば「キャップ(caps)」、アナログとの自然に生じたヌクレオチドの一又は複数の置換、ヌクレオチド間修飾、例えば非荷電連結(例えばホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメート等)及び荷電連結(ホスホロチオアート、ホスホロジチオアート等)を有するもの、ペンダント部分、例えばタンパク質(例えばヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ply−L−リジン等)を含むもの、インターカレータ(intercalators)を有するもの(例えばアクリジン、ソラレン等)、キレート剤(例えば金属、放射性金属、ホウ素、酸化的金属等)を含むもの、アルキル化剤を含むもの、修飾された連結を含むもの(例えばアルファアノマー核酸等)、並びにポリヌクレオチドの未修飾形態が含まれる。更に、糖類中に通常存在する任意のヒドロキシル基は、例えばホスホナート基、ホスファート基で置き換えられてもよく、標準的な保護基で保護されてもよく、又は付加的なヌクレオチドへの更なる連結を調製するように活性化されてもよく、もしくは固体又は半固体担体に結合されてもよい。5'及び3'末端のOHはホスホリル化可能であり、又は1〜20の炭素原子を有する有機キャップ基部分又はアミンで置換することもできる。また他のヒドロキシルは標準的な保護基に誘導体化されうる。またポリヌクレオチドは当該分野で一般的に知られているリボース又はデオキシリボース糖類の類似形態のものを更に含み得、これらには例えば2'-O-メチル-、2'-O-アリル、2'-フルオロ又は2'-アジド-リボース、炭素環式糖のアナログ、α-アノマー糖、エピマー糖、例えばアラビノース、キシロース類又はリキソース類、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式アナログ、及び非塩基性ヌクレオシドログ、例えばメチルリボシドが含まれる。一又は複数のホスホジエステル連結は代替の連結基で置き換えてもよい。これらの代替の連結基には、限定されるものではないが、ホスファートがP(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、「(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR'、CO又はCH2(「ホルムアセタール」)と置き換えられた実施態様のものが含まれ、ここでそれぞれのR及びR'は独立して、H又は、エーテル(-O-)結合を含んでいてもよい置換もしくは未置換のアルキル(1-20C)、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル又はアラルジル(araldyl)である。ポリヌクレオチド中の全ての結合が同一である必要はない。先の記述は、RNA及びDNAを含むここで言及される全てのポリヌクレオチドに当てはまる。
ここで使用される「オリゴヌクレオチド」は、短く、一般的に単鎖であり、また必ずしもそうではないが、一般的に約200未満のヌクレオチド長さの、一般的に合成のポリヌクレオチドを意味する。「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」なる用語は、相互に排他的なものではない。ポリヌクレオチドについての上述の記載はオリゴヌクレオチドに対して等しく完全に当てはまる。
「コントロール配列」という表現は、特定の宿主生物において作用可能に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。例えば原核生物に好適なコントロール配列は、プロモーター、場合によってはオペレータ配列、及びリボソーム結合部位を含む。真核生物の細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係に置かれているときに「作用可能に結合し」ている。例えば、プレ配列あるいは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に参画するプレタンパク質として発現されているなら、そのポリペプチドのDNAに作用可能に結合している;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作用可能に結合している;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるなら、コード配列と作用可能に結合している。一般的に、「作用可能に結合している」とは、結合しているDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読み取り枠にあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも近接している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、一般的な手法に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプターあるいはリンカーが使用される。
ここで使用される場合、「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養」という表現は相互に交換可能に用いられ、その全ての用語は子孫を含む。従って、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という語句は、初代対象細胞及び何度培養が継代されたかに関わらず初代のものから誘導された培養を含む。また、全ての子孫が、意図的な変異あるいは意図しない変異の影響で、正確に同一のDNAを有するわけではないことも理解される。元々の形質転換細胞についてスクリーニングしたものと同じ機能又は生物活性を有する変異体子孫が含まれる。命名を区別することが意図される場合は、文脈から明らかであろう。
ここで使用される場合、「コドンセット」は所望の変異体アミノ酸をコードするのに用いられる一組の異なるヌクレオチドトリプレット配列を指す。一組のオリゴヌクレオチドは、コドンセットによって提供されるヌクレオチドトリプレットの可能な組合せの全てを表し、所望のアミノ酸群をコードする配列を含み、例えば固相法によって合成することができる。標準的なコドン命名形式はIUBコードのものであり、当該分野で知られておりここに記載されている。コドンセットは、典型的には3つのイタリック大文字、例えばNNK、NNS、XYZ、DVKなどで表される。よって、ここで用いられる「非ランダムコドンセット」とは、ここに記載のアミノ酸選別の基準を部分的に、好ましくは完全に満たす選択アミノ酸をコードするコドンセットを意味する。ある位置の選択されたヌクレオチド「縮重」を有するオリゴヌクレオチドの合成は当該分野でよく知られており、例えば、TRIM手法が知られている(Knappek等, J.Mol.Biol.(1999), 296:57-86);Garrard及びHenner, Gene(1993), 128:103)。そのようなある種のコドンセットを有しているオリゴヌクレオチドのセットは、市販の核酸シンセサイザー(Applied Biosystems, Foster City, CAなどから入手可能)を使って合成することができ、又は市販品を入手することができる(例えば、Life Technologies, Rockville, MDから)。従って、特定のコドンセットを有する合成オリゴヌクレオチドセットは、典型的には、異なる配列の複数のオリゴヌクレオチドを含み、この相違は配列全体の中のコドンセットによるものである。本発明で使用される、オリゴヌクレオチドは、可変ドメイン核酸鋳型へのハイブリダイゼーションを可能にする配列を有し、また、そうであるとは限らないが、例えばクローニング目的に有用である制限酵素部位を含むこともできる。
「線状抗体」との表現は、Zapata等(1995 Protein Eng, 8(10):1057-1062)に記載の抗体を意味する。簡単に言えば、これらの抗体は、相補的な軽鎖ポリペプチドと共に一対の抗原結合領域を形成する一対の直列のFdセグメント(VH−CH1−VH−CH1)を含む。線状抗体は二重特異性又は単一特異性でありうる。
ここで用いられる場合、「ライブラリー」は、複数の抗体もしくは抗体断片配列(例えば、本発明の変異体IgGs)、又はこれらの配列をコードする核酸を意味し、該配列は本発明の方法によってこれら配列内に導入される変異型アミノ酸の組合せにおいて異なっている。
「ファージディスプレイ」は、ポリペプチドをファージ、例えば繊維状ファージの粒子の表面でコートタンパク質の少なくとも一部と融合したタンパク質として提示する手法である。ファージディスプレイの有用性は、ランダム化タンパク質変異体の大きなライブラリーから対象抗原と高親和性で結合する配列を迅速かつ効率的に選別できることにある。ファージ上のペプチド及びタンパク質ライブラリーの提示は、何百万ものポリペプチドから特異的結合特性を持つものをスクリーニングするために利用されてきた。多価ファージディスプレイ法は、繊維状ファージの遺伝子III又は遺伝子VIIIとの融合体を通して小さなランダムペプチド及び小タンパク質を提示するために利用されてきた。Wells及びLowman (1992) Curr. Opin. Struct. Biol., 3: 355-362とその中の引用文献。一価のファージディスプレイでは、タンパク質又はペプチドのライブラリーが遺伝子III又はその一部に融合され、ファージ粒子が融合タンパク質の1個又は0個のコピーを提示するように野生型遺伝子IIIタンパク質の存在下で低レベルで発現される。アビディティー効果は多価のファージと比較して低下しているので、選別は内在性のリガンド親和性に基づいており、ファージミドベクターが使われるが、このベクターはDNA操作を単純化する。Lowman及びWells (1991) Methods: A companion to Methods in Enzymology 3:205-0216。
「ファージミド」は、細菌の複製起点、例えばCo1E1及びバクテリオファージの遺伝子間領域のコピーを有するプラスミドベクターである。ファージミドは任意の既知のバクテリオファージ、例えば繊維状バクテリオファージ及びラムドイドバクテリオファージに使用できる。プラスミドは、一般に、抗生物質耐性の選択マーカーも含む。これらのベクターにクローニングされたDNAセグメントは、プラスミドとして増殖することができる。これらのベクターを備える細胞がファージ粒子の生産のために必要なすべての遺伝子を備えているとき、プラスミドの複製様式はローリングサークル複製に変化し、プラスミドDNAの一つの鎖のコピーとパッケージファージ粒子を生成する。ファージミドは感染性又は非感染性ファージ粒子を形成しうる。この用語は、異種ポリペプチドがファージ粒子の表面で提示されるように遺伝子融合体として異種ポリペプチド遺伝子と結合したファージコートタンパク質遺伝子又はその断片を含むファージミドを含む。
「ファージベクター」なる用語は、異種遺伝子を含んでいて複製ができるバクテリオファージの二本鎖複製型を意味する。ファージベクターは、ファージ複製及びファージ粒子形成を可能にするファージ複製起点を有する。ファージは好ましくは繊維状バクテリオファージ、例えばM13、f1、fd、Pf3ファージもしくはその誘導体、又はラムドイドファージ、例えばラムダ、21、ファイ80、ファイ81、82、424、434、その他もしくはその誘導体である。
ここで使用される場合、「溶媒露出位置」は、溶媒露出に潜在的に利用可能であり及び/又は抗体特異性抗原などの分子との接触可能である、抗体又は抗原結合断片の構造、構造アンサンブル及び/又はモデル化された構造に基づき決定される、ソース抗体又は抗原結合断片の重鎖及び軽鎖の可変領域中のアミノ酸残基の位置を指す。これらの位置は典型的にはCDR中で、タンパク質の外側に見出される。ここで定義される、抗体又は抗原結合断片の溶媒露出位置は、当該分野で知られている多くのアルゴリズムの何れかを使って決定できる。一実施態様では、溶媒露出位置は抗体の三次元モデルからの座標を使い、好ましくはInsightIIプログラム(Accelrys, San Diego, CA)のようなコンピュータプログラムを使って決定される。溶媒露出位置は、当該分野で知られているアルゴリズム(例えば、Lee及びRichards (1971) J. Mol. Biol. 55, 379 及びConnolly (1983) J. Appl. Cryst. 16, 548)を使用して決定することもできる。溶媒露出位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェア及び抗体から得られる三次元構造情報を使って行うことができる。これらの目的のために利用できるソフトウェアには、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が含まれる。一般に、アルゴリズム(プログラム)がユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。また、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した溶媒露出領域及び面積の決定法が、Pacios (1994) Comput. Chem. 18(4): 377-386に記載されている。
参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」とは、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を達成するために必要ならば間隙を導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした後の、参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントのための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用することによって得られる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって著作され、そのソースコードは米国著作権庁(ワシントン D.C.,20559)に使用者用書類と共に提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている。ALIGN-2プログラムはジェネンテック社(サウスサンフランシスコ, カリフォルニア)から公的に入手可能であり、又はソースコードからコンパイルされうる。ALIGN-2プログラムは、UNIX(登録商標)オペレーティングシステム、好ましくはデジタルUNIX(登録商標)V4.0Dでの使用のためにコンパイルされなければならない。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bへの、それとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bへの、それとの、又はそれに対するある程度の%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2のA及びBのプログラムアラインメントによって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることが理解されるであろう。特に断らない限りは、ここで使用される全ての%アミノ酸配列同一性値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを用いて直ぐ上の段落に記載されるようにして得られる。
ここで使用される「VEGF」又は「VEGF-A」なる用語は、Leung等 (1989) Science, 246:1306 、及びHouck等 (1991) Mol. Endocrin., 5:1806 によって記載されているように、165アミノ酸のヒト血管内皮増殖因子と、関連した121-、189-、及び206-アミノ酸のヒト血管内皮増殖因子、並びにそれらの天然に生じる対立遺伝子型及びプロセシング型を意味する。また、「VEGF」なる用語は、非ヒト種、マウス、ラット又は霊長類由来のVEGFも意味する。特定の種由来のVEGFは、ヒトVEGFはhVEGF、マウスVEGFはmVEGFなどの用語で表されることが多い。また、「VEGF」なる用語は、165アミノ酸のヒト血管内皮増殖因子のアミノ酸8〜109、又は1〜109を含む切断型ポリペプチドを意味する。そのようなVEGF型を指すときは、本明細書では、例えば、「VEGF(8−109)」、「VEGF(1−109)」又は「VEGF165」と表す。「切断型の」天然のVEGFのアミノ酸位置は、天然のVEGF配列に示される数で示す。例えば、切断型の天然VEGFのアミノ酸位置17(メチオニン)は、天然のVEGF中の位置17(メチオニン)でもある。切断型の天然VEGFは天然のVEGFに匹敵するKDR及びFlt−1レセプター結合親和性を有する。
「VEGFアンタゴニスト」は、限定しないが、一又は複数のVEGFレセプターへの結合を含むVEGF活性を中和、遮断、阻害、抑止、低減又は干渉することができる分子を指す。VEGFアンタゴニストには、限定しないが、抗VEGF抗体及びその抗原結合性断片、レセプター分子及び一又は複数のレセプターへの結合を隔離することによってVEGFに特異的に結合する誘導体、抗VEGFレセプター抗体、VEGFレセプターアンタゴニスト、例えばVEGFRチロシンキナーゼの小分子インヒビター及びVEGFトラップのようなVEGFに結合するイムノアドヘシンが含まれる。ここで使用される「VEGFアンタゴニスト」なる用語は、VEGFに結合し、VEGF活性を中和、遮断、阻害、抑止、低減又は干渉することができる、抗体、抗体断片、他の結合ポリペプチド、ペプチド、及び非ペプチド小分子を含む分子を特に含む。よって、「VEGF活性」なる用語は特にVEGFのVEGF媒介生物学的活性を含む。
VEGFポリペプチドに関する「生物学的活性」及び「生物学的に活性な」又は「VEGF活性」なる用語は、完全長及び/又は切断型VEGFに伴う物理的/化学的性質及び生物学的機能を意味する。ある実施態様では、VEGF活性は、血管新生(angiogenesis)を誘導し、及び/又は刺激し、及び/又は促進する。ある実施態様では、VEGF活性は、血管新生(neovascularization)を誘導し、及び/又は刺激し、及び/又は促進する。ある実施態様では、VEGF活性は、血管透過性を誘導し、及び/又は調節する。ある実施態様では、VEGF活性は、内皮細胞遊走及び/又は内皮細胞増殖を誘導し、及び/又は刺激し、及び/又は促進する。
抗VEGF中和抗体は、ヌードマウスにおいて、様々なヒト腫瘍細胞株の増殖を抑制し(Kim等, Nature, 362:841-844(1993);Warren等, J. Clin. Invest., 95:1789-1797(1995);Borgstrom等, Cancer Res., 56:4032-4039(1996);Melnyk等, Cancer Res., 56:921-924(1996))、また虚血性網膜疾患における眼内血管形成を阻害する。Adamis等, Arch. Ophthalmol., 114:66-71(1996)。
「抗VEGF抗体」又は「VEGFに結合する抗体」なる用語は、抗体がVEGFを標的とした診断上の薬剤及び/又は治療上の薬剤として有用であるために十分な親和性と特異性をもってVEGFに結合することができる抗体を意味する。例えば、本発明の抗VEGF抗体は、VEGF活性が関与する疾患又は症状を標的とし、妨害する際の治療剤として使用されうる。例えば、米国特許第6582959号、同第6703020号;国際公開第98/45332号;国際公開第96/30046号;国際公開第94/10202号、国際公開第2005/044853号;;欧州特許第0666868号B1;米国特許公開第20030206899号、同第20030190317号、同第20030203409号、同第20050112126号、同第20050186208号及び同第20050112126号;Popkov等, Journal of Immunological Methods 288:149-164 (2004);及び国際公開第2005012359号を参照のこと。選択した抗体は通常、VEGFに対して十分に強い結合親和性を有する。例えば、抗体は、100nM−1pMの間のKd値でhVEGFに結合しうる。抗体親和性は、例えば、表面プラズモン共鳴ベースアッセイ(PCT出願公開番号WO2005/012359に記載のあるBIAcoreアッセイなど);酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA);及び競合アッセイ(例えばRIAのもの)によって決定されうる。例えば治療剤としての有効性を評価するために、抗体に他の生物学的な活性アッセイを施してもよい。このようなアッセイは当該分野で知られており、標的抗原と抗体の使用目的に依存する。例として、HUVEC阻害アッセイ;腫瘍細胞増殖阻害アッセイ(例えば国際公開第89/06692号に記載のもの);抗体依存性細胞傷害性(ADCC)及び補体媒介性細胞傷害性(CDC)アッセイ(米国特許第5500362号);及びアゴニスト活性又は造血アッセイ(国際公開第95/27062号を参照)などがある。抗VEGF抗体は、通常は、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D又はVEGF-Eなどの他のVEGFホモログにも、PlGF、PDGF又はbFGFなどの他の増殖因子にも結合しないであろう。一実施態様では、抗VEGF抗体には、ハイブリドーマATCC HB 10709によって産生されるモノクローナル抗VEGF抗体A4.6.1と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体;Presta等 (1997) Cancer Res. 57: 4593-4599に従って産生される組換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体であり、限定するものではないが「ベバシズマブ(BV)」とも「rhuMAb VEGF」又は「AVASTIN(アバスチン)(登録商標)」としても知られる抗体が含まれる。AVASTIN(アバスチン)(登録商標)は、ヒトVEGFのそのレセプターへの結合をブロックするマウス抗体A.4.6.1から、変異したヒトのIgG1フレームワーク領域と抗原結合性相補性決定領域を含む。フレームワーク領域の殆どを含む、ベバシズマブのアミノ酸配列のおよそ93%は、ヒトのIgG1に由来し、配列の約7%はA4.6.1に由来する。ベバシズマブは、約149000ダルトンの分子量を有し、グリコシル化されている。ベバシズマブ及び他のヒト化抗VEGF抗体は、2005年2月26日に発行の米国特許第6884879号に更に記載されている。PCT出願公開番号WO2005/012359に記載されているように、更なる抗VEGF抗体には、G6又はB20系列抗体(例えば、G6-23、G6-31、B20-4.1)が含まれる。更に好ましい抗体については、米国特許第7060269号、同第6582959号、同第6703020号;同第6054297号;国際公開第98/45332号;国際公開第96/30046号;国際公開第94/10202号;欧州特許第0666868号B1;米国特許公開第2006009360号、同第20050186208号、同第20030206899号、同第20030190317号、同第20030203409号、及び同第20050112126号;及び、Popkov等, Journal of Immunological Methods 288:149-164 (2004)を参照のこと。
ここで使用される「B20系列ポリペプチド」なる用語は、VEGFに結合する抗体を含むポリペプチドを意味する。B20系列ポリペプチドには、限定するものではないが、米国特許出願公開第20060280747号、米国特許出願公開第20070141065号及び/又は米国特許出願公開第20070020267号に記載されたB20抗体又はB20誘導抗体の配列から誘導された抗体が含まれ、これらの特許出願の内容は出典明示により明示的にここに援用される。一実施態様では、B20系列ポリペプチドは、米国特許出願公開第20060280747号、米国特許出願公開第20070141065号及び/又は米国特許出願公開第20070020267号に記載されたB20−4.1である。他の実施態様では、B20系列ポリペプチドは、その全開示を出典明示により明示的にここに援用するPCT公開番号WO2009/073160号に記載されたB20−4.1.1である。
ここで使用される「G6系列ポリペプチド」なる用語は、VEGFに結合する抗体を含むポリペプチドを意味する。G6系列ポリペプチドは、限定しないが、米国特許出願公開第20060280747号、米国特許出願公開第20070141065号及び/又は米国特許出願公開第20070020267号に記載されたG6抗体又はG6誘導抗体の配列から誘導された抗体を含む。G6系列ポリペプチドは、米国特許出願公開第20060280747号、米国特許出願公開第20070141065号及び/又は米国特許出願公開第20070020267号に記載されたように、限定しないが、G6−8、G6−23及びG6−31を含む。
「血管新生因子又は作用剤」は、血管の発生を刺激する、例えば、血管新生、血管内皮細胞増殖、血管の安定化及び/又は脈管形成などを促進する増殖因子である。例えば、血管形成因子には、限定するものではないが、例としてVEGF及びVEGFファミリーのメンバー(VEGF−B、VEGF−C及びVEGF−D)、P1GF、PDGFファミリー、線維芽細胞増殖因子ファミリー(FGF)、TIEリガンド(アンジオポイエチン)、エフリン、デルタ様リガンド4(DLL4)、Del-1、線維芽細胞増殖因子:酸性(aFGF)及び塩基性(bFGF)、フォリスタチン、顆粒性コロニー刺激因子(G-CSF)、肝細胞増殖因子(HGF)/散乱係数(SF)、インターロイキン-8(IL-8)、レプチン、ミドカイン、ニューロピリン、胎盤増殖因子、血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF)、血小板由来増殖因子、特にPDGF-BB又はPDGFR-β、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)(PTN)、プログラヌリン(progranulin)、プロリフェリン(proliferin)、トランスフォーミング増殖因子-α(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などが含まれる。また、創傷治癒を促進する因子、例として成長ホルモン、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、VIGF、上皮細胞増殖因子(EGF)、CTGF及びそのファミリーメンバー、及びTGF-α及びTGF-βが含まれる。例えば、Klagsbrun及びD'Amore (1991) Annu. Rev. Physiol. 53:217-39;Streit及びDetmar (2003) Oncogene 22:3172-3179;Ferrara 及びAlitalo (1999) Nature Medicine 5(12):1359-1364;Tonini等 (2003) Oncogene 22:6549-6556 (例えば、既知の血管形成因子を列挙している表1);及びSato (2003) Int. J. Clin. Oncol. 8:200-206を参照のこと。
「抗血管新生剤」又は「血管新生(血管形成)インヒビター」は、直接的か間接的にの何れかで、血管新生、脈管形成又は望ましくない血管透過を阻害する小分子量の物質、ポリヌクレオチド、ポリペプチド(例えば、阻害性RNA(RNAi又はsiRNA)を含む)、単離したタンパク質、組換えタンパク質、抗体、又はそれらのコンジュゲート又は融合タンパク質を意味する。抗血管形成剤には、結合して血管形成因子又はそのレセプターの血管形成活性をブロックする作用剤が含まれることが理解されなければならない。例えば、抗血管形成剤は、上に定義したように血管形成剤に対する抗体又は他のアンタゴニスト、例えば、VEGF-Aに対するか又はVEGF-Aレセプター(例えばKDRレセプター又はFlt-1レセプター)に対する抗体、Gleevec(登録商標)(イマチニブメシレート)などの抗PDGFRインヒビター、VEGFレセプターシグナル伝達を阻止する小分子(例えばPTK787/ZK2284、SU6668、SUTENT(登録商標)/SU11248(スミチニブマレート)、AMG706、又は例えば国際特許出願WO2004/113304に記載されたもの)である。また、抗血管新生剤には、天然の血管新生インヒビター、例えばアンジオスタチン、エンドスタチンなどが含まれる。Klagsbrun及びD'Amore (1991) Annu. Rev. Physiol. 53:217-39;Streit及びDetmar (2003) Oncogene 22:3172-3179(例えば、悪性メラノーマの抗血管形成治療を列挙している表3);Ferrara 及びAlitalo (1999) Nature Medicine 5(12):1359-1364;Tonini等 (2003) Oncogene 22:6549-6556 (例えば、既知の抗血管新生因子を列挙している表2);及びSato (2003) Int. J. Clin. Oncol. 8:200-206(例えば、臨床試験で用いられる抗血管形成剤を列挙している表1)を参照。
「疾患」は本発明の組成物又は方法での治療から恩恵を受ける任意の症状又は疾患である。これは、哺乳動物を当該疾患にさせる病理的症状を含む慢性及び急性疾患又は疾病を含む。本発明の抗体及び抗体断片を使用して治療できる疾患の非限定的な例は、「定義」の下でここに提供される様々な病気及び疾患を含む。
「細胞増殖性疾患」及び「増殖性疾患」なる用語は、ある程度の異常な細胞増殖を伴う疾患を意味する。一実施態様では、細胞増殖性疾患は癌である。
ここで用いられる「腫瘍」は、悪性又は良性にかかわらず、全ての腫瘍形成細胞成長及び増殖、並びに全ての前癌性及び癌性細胞及び組織を意味する。「癌」、「癌性」、「癌の」、「細胞増殖性疾患」、「増殖性疾患」及び「腫瘍」はここで言及される場合、相互に排他的ではない。
腫瘍は、固形腫瘍又は非固形又は軟部組織腫瘍でありうる。軟部組織腫瘍の例は、白血病(例えば、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、成人急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、成熟B細胞急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、前リンパ球性白血病、又はヘアリーセル白血病)、又はリンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞性リンパ腫、又はホジキン病)を含む。固形腫瘍は、血液、骨髄、又はリンパ系以外の体組織の任意の癌を含む。固形腫瘍は、上皮細胞由来のものと非上皮細胞のものに更に分けることができる。固形腫瘍の例は、結腸、***、前立腺、肺、腎臓、肝臓、膵臓、卵巣、頭頸部、口腔、胃、十二指腸、小腸、大腸、胃腸管、肛門、胆嚢、***、上咽頭、皮膚、子宮、***、尿器、膀胱、及び皮膚の腫瘍を含む。非上皮由来の固形腫瘍は、肉腫、脳腫瘍、及び骨腫瘍を含む。
「癌」及び「癌性」という用語は、典型的には調節されない細胞増殖を特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指すか記述する。癌の例には、限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれる。このような癌のより特定の例には、限定しないが、扁平細胞癌(例えば上皮扁平細胞癌)、肺癌で、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、及び肺の扁平癌腫(squamous carcinoma)を含むもの、腹膜の癌、肝細胞癌、胃(gastric)又は腹部(stomach)癌で胃腸癌を含むもの、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸管癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿管の癌、肝癌、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓(kidney)又は腎(renal)癌、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝臓癌、陰茎癌、メラノーマ、表在拡大型メラノーマ、悪性黒子由来メラノーマ、末端黒子型メラノーマ、結節性メラノーマ、多発性骨髄腫及びB細胞リンパ腫(低級/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球(SL)NHL;中級/濾胞性NHL;中級びまん性NHL;高級免疫芽細胞性NHL;高級リンパ芽球性NHL;高級小非分割細胞NHL;バルキー疾患NHL;外套細胞リンパ腫;エイズ関連リンパ腫;及びワルデンストロームのマクログロブリン病を含む);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、並びに母斑症に関連した異常な血管増殖、浮腫(例えば脳腫瘍に関連したもの)、メイグス症候群、脳、並びに頭頸部癌及び関連した転移が含まれる。ある実施態様では、本発明の変異体IgGによる治療に受け入れられる癌には、乳癌、結腸直腸癌、直腸癌、非小細胞肺癌、神経膠芽腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎細胞癌、前立腺癌、肝臓癌、膵癌、軟部組織肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド癌腫、頭頸部癌、卵巣癌、中皮腫、及び多発性骨髄腫が含まれる。ある実施態様では、癌は小細胞肺癌、神経膠芽腫、神経芽細胞腫、メラノーマ、乳癌、胃癌、結腸直腸癌(CRC)、及び肝細胞癌からなる群から選択される。また、ある実施態様では、癌は、非小細胞肺癌、結腸直腸癌、神経膠芽腫及び乳癌で、これら癌の転移型を含むものからなる群から選択される。
癌という用語は、限定しないが、前癌性増殖、良性腫瘍、悪性腫瘍及び休止状態の腫瘍を含む増殖性疾患の群を包含する。良性腫瘍は由来の部位に局在化して残り、離れた部位に浸潤、侵入、又は転移しない。悪性腫瘍はそれらの回りの他の組織に浸潤し損傷させる。それらはまた血流を通して又はリンパ節が位置しているリンパ系を通してそれらが始まったところから離れ、体の他の部分に広がる能力を獲得しうる。休止状態の腫瘍は、腫瘍細胞が存在するが、腫瘍進行が臨床的に明らかではない無活動の腫瘍である。原発性腫瘍はそれらが生じる組織のタイプによって分類される;転移性腫瘍は癌細胞が誘導される組織タイプによって分類される。時間の経過によって、悪性腫瘍の細胞はより異常になり、正常細胞に余り似ていないものに見える。癌細胞の外観のこの変化は腫瘍悪性度と呼ばれ、癌細胞は高分化型、中分化型、低分化型、又は未分化型であるとして記載されている。高分化型細胞は、かなり正常な外観であり、それらが由来する正常細胞に似ている。未分化型細胞は、非常に異常であるので細胞の由来を決定することがもはやできない細胞である。
上皮細胞癌は一般的に良性腫瘍から、基底膜に貫通し上皮下間質に侵入した前浸潤段階(例えば上皮内癌)に進化する。
「異形成」は、組織、器官、又は細胞のあらゆる異常な増殖又は発生を意味する。ある実施態様では、異形成は高悪性度又は前癌性である。
「転移」は、その原発部位から体の他の場所への癌の広がりを意味する。癌細胞は血流を通して原発性腫瘍から離れ、リンパ及び血管中に浸透し、血流を通して循環し、体の他の場所の正常組織における遠位の病巣で増殖(転移)しうる。転移は局所的又は遠位でありうる。転移は、原発性腫瘍から別れ、血流を移動し、遠位の部位で止まる腫瘍細胞に随伴性の連続的な過程である。新しい部位で、細胞は血液供給を樹立し、成長して命を脅かす塊を形成しうる。腫瘍細胞内の刺激性経路と阻害性分離経路の双方がこの挙動を調節し、遠位部位での腫瘍細胞と宿主細胞の間の相互作用がまた顕著である。
「微小転移巣」は、原発腫瘍から体の他の部分へ広がった少数の細胞を意味する。微小転移巣はスクリーニング又は診断試験で検出され得、又はされ得ない。
「非転移性」は、良性であるか、又は原発性部位に残り、リンパ又は血管系にあるいは原発部位以外の組織に侵入しなかった癌を意味する。一般に、非転移性癌は、ステージ0、I、又はII癌、時折、ステージIIIの癌である任意の癌である。
「ステージ0」、「ステージI」、「ステージII」、「ステージIII」、又は「ステージIV」との腫瘍又は癌の言及は、当該分野で知られている総合段階分類法(Overall Stage Grouping)又はローマ数字段階付け法(Roman Numeral Staging methods)を用いた腫瘍又は癌の分類を示す。当分野で公知の総合段階分類法(Overall Stage Grouping)又はローマ数字段階付け法(Roman Numeral Staging methods)を用いた腫瘍又は癌の分類を表す。癌の実際のステージは癌の種類に依存するが、一般には、ステージ0の癌はインサイツの病巣にあり、ステージIの癌は小さく限局した腫瘍であり、ステージIIおよびIIIの癌は局所のリンパ節の併発を示す局所的に進行した腫瘍であり、ステージIVの癌は転移性癌を表す。各種類の腫瘍に特異的なステージは臨床医に知られている。
「原発性腫瘍」又は「原発性癌」は元の癌を意味し、被検体の身体の他の組織、臓器又は部位に位置する転移性病巣を意味しない。
「良性腫瘍」又は「良性癌」は、元の部位に限局したままである腫瘍を意味し、遠位の部位への浸潤、侵入又は転移の能力を有さない。
ここでの「癌再発」は、治療の後に癌が回復することを指し、原発性臓器での癌の回復だけでなく、癌が原発性臓器以外で回復する遠位性再発も包含する。
「腫瘍休止」は、腫瘍細胞が存在するが、腫瘍進行は臨床上見られない、持続性の不活発状態を意味する。休止腫瘍はスクリーニング又は診断用試験において検出されるかもしれないし、されないかもしれない。
「腫瘍量」は、体内の癌細胞の数、腫瘍のサイズ、又は癌の量を意味する。また、腫瘍量(tumor burden)は腫瘍負荷(tumor load)とも称される。
「腫瘍数」は腫瘍の数を意味する。
本発明の抗体及び抗体断片での治療が受け入れられる非腫瘍性症状は、限定するものではないが、望ましくない又は異常な肥大、良性前立腺肥大、関節炎、慢性関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎、神経変性疾患(例えばアルツハイマー病、エイズ関連認知症、パーキンソン病、 筋萎縮性側索硬化症、網膜色素変性症、脊髄性筋萎縮症及び小脳変性症)、自己免疫疾患、乾癬、乾癬の斑、サルコイドーシス、アテローム性動脈硬化、アテローム動脈硬化性斑、橋本甲状腺炎、血管新生疾患、眼疾患、例えば推定眼ヒストプラスマ症候群、網膜血管新生、未熟児の網膜症を含む糖尿病性及び他の増殖性の網膜症、糖尿病性腎症、水晶体後繊維増殖、血管新生緑内障、加齢黄斑変性、糖尿病性黄斑浮腫、角膜血管新生、角膜移植片血管新生、角膜移植片拒絶、網膜/脈絡叢血管新生、虹彩(angle)の血管新生(ルベオーシス)、眼性新生血管疾患、血管疾患、血管内皮細胞の異常増殖を含む症状、血管再狭窄、ギラン・バレー症候群、ポリープ、例えば結腸ポリープ、家族性大腸ポリポーシス、鼻茸又は消化管ポリープ、消化管潰瘍、乳児肥厚性幽門狭窄症、尿路閉塞性症候群、メネトリエ病、分泌腺腫又は蛋白漏出性症候群、線維腺腫、呼吸器疾患、胆嚢炎、神経線維腫症、動静脈奇形(AVM)、髄膜腫、血管腫、血管線維腫、甲状腺の過形成(グレーブズ病を含む)、角膜及び他の組織移植、炎症性疾患、慢性炎症、肺炎症、急性肺損傷/ARDS、敗血症、慢性閉塞性肺疾患、原発性肺高血圧症、悪性の肺滲出、アテローム、火傷、外傷、放射、卒中、低酸素又は虚血語の浮腫、心筋梗塞からの浮腫、虚血傷害、大脳虚血事象後の損傷、脳浮腫(例えば、急性脳卒中/非開放性頭部損傷/外傷と関連している)、血小板凝集によって引き起こされる血栓、線維性又は眼窩(edemia)疾患、例えば肝硬変、肺線維症、サルコイドーシス(carcoidosis)、甲状腺炎、過粘稠度症候群全身性、滑液炎症、RAのパンヌス形成、筋炎骨化、高親和性骨形成、骨関節炎、クル病及び骨粗鬆症のような骨関連病状、抵抗性腹水、骨又は関節炎症、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、腎臓又は肝臓;T細胞媒介性過敏症疾患、パジェット病、多発性嚢胞腎疾患、液体性疾患の第3の間隔(3rd spacing)(膵炎、コンパートメント症候群、熱傷、腸疾患)、慢性炎症、例えばIBD(クローン病及び潰瘍性大腸炎)、腎疾患、腎臓同種移植拒絶、移植片対宿主病又は移植拒絶反応、炎症性腸疾患、急性及び慢性腎症(増殖性糸球体腎炎及び糖尿病誘発性腎疾患を含む)、ネフローゼ症候群、望ましくない又は異常な組織塊増殖(癌以外)、血友病関節、肥大した瘢痕、体毛成長の抑制、 オスラー・ウェーバー・ランデュ症候群、化膿性肉芽腫、後水晶体線維増殖症、強皮症、トラコーマ、脈管粘着力、関節滑膜炎、皮膚の過敏症反応、乾癬及び皮膚炎を含む皮膚疾患、湿疹、光加齢(例えばヒトの皮膚のUV照射により引き起こされる)、肥大瘢痕形成、生殖性症状、例えば子宮内膜症、卵巣過剰刺激症候群、多嚢胞性卵巣疾患、子癇前症、機能性子宮出血、又は機能性子宮出血、子宮筋腫、早期分娩、腹水、心嚢貯留液(例えば心外膜炎と関連しているもの)、胸水貯留、内毒素ショック及び真菌症、アデノウイルス、ハンタウイルス、ライム病ボレリア、エルニシアspp.、百日咳菌から選択される微生物病原を含むある種の微生物感染及び精神疾患(例えば統合失調症、双極性うつ病、自閉症、及び注意欠陥障害)を含む。
「呼吸器疾患」は呼吸器系に関与し、慢性気管支炎、急性喘息及びアレルギー性喘息を含む喘息、嚢胞性線維症、気管支拡張症、アレルギー性又は他の鼻炎又は副鼻腔炎、α1-抗トリプシン欠乏症、咳、肺気腫、肺線維症又は過敏気道、慢性閉塞性肺疾患(pulmonary disease)、及び慢性閉塞性肺障害(lung disorder)を含む。
ここで「自己免疫疾患」とは、個体の自身の組織から生じ、また該組織に対する非悪性疾患又は障害のことである。自己免疫疾患又は障害の例には、これらに限るものではないが、炎症反応、例えば乾癬及び皮膚炎(例えばアトピー性皮膚炎及び接触性皮膚炎)を含む炎症性皮膚病;全身性強皮症及び硬化症;炎症性腸疾患(例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎)に関連した反応;呼吸困難症候群(成人性呼吸困難症候群;ARDSを含む);皮膚炎;髄膜炎;脳炎;ブドウ膜炎;大腸炎;糸球体腎炎;アレルギーによる病状、例えば湿疹及び喘息及びT細胞の浸潤に関連した他の病状及び慢性炎症反応;アテローム性動脈硬化症;白血球付着欠損症;リウマチ様関節炎;全身性エリテマトーデス(SLE);真性糖尿病(例えば、I型真性糖尿病又はインシュリン依存性真性糖尿病);多発性硬化症;レノー症候群;自己免疫甲状腺炎;アレルギー性脳脊髄炎;ショルゲン(Sjorgen)症候群;若年発症糖尿病;及び結核に典型的に見出されるTリンパ球及びサイトカインにより媒介される急性及び遅延高血圧に関連した免疫反応、サルコイドーシス、多発性筋炎、肉芽種症及び血管炎;悪性貧血(アジソン病);白血球血管外遊出に関連した疾患;中枢神経系(CNS)炎症疾病;多臓器傷害症候群;溶血性貧血(限定するものではないが、クリオグロブリン血症又はクームズ陽性貧血を含む);重症筋無力症;抗原-抗体複合体媒介性疾患;抗糸球体基底膜疾患;抗リン脂質症候群;アレルギー性神経炎;グレーブス病;ランベルト-イートン筋無力症症候群;類天疱瘡;天疱瘡;自己免疫多腺性内分泌障害;ライター病;全身硬直症候群;ベーチット疾患;巨細胞動脈炎;免疫複合体腎炎;IgA腎症;IgM多発性神経障害;免疫血小板減少性紫斑病(ITP)又は自己免疫血小板減少病等が含まれる。
ここでの「血管疾患又は障害」という用語は、心臓血管系を含む血管系に影響を与える様々な疾患又は障害を意味する。そのような疾患の例には、動脈硬化症、血管再閉塞、アテローム性動脈硬化症、術後血管狭窄、再狭窄、血管閉塞又は頸動脈閉塞性疾患、冠状動脈疾患、狭心症、小血管疾患、高コレステロール血症、高血圧症、及び血管内皮細胞の異常増殖又は機能を含む症状が含まれる。
ここで使用される場合、「治療」(及び「治療する」又は「治療している」のような変形語)とは、治療される個体又は細胞の自然の経過を変化させる試みにおける臨床的介入を意味し、予防のため、又は臨床病理経過中に実施することができる。治療の所望する効果には、疾患の発症又は再発の予防、症状の緩和、疾病の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減少、転移の防止、疾病の進行速度の低減、病状の回復又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。ある実施態様では、本発明の変異体IgGは、疾病又は疾患の発症を遅延させるため、又は疾病又は疾患の進行を遅延化させるために使用される。
「個体」、「被検者」又は「患者」は脊椎動物である。ある実施態様では、脊椎動物は哺乳動物である。哺乳動物には、限定しないが、家畜(例えばウシ)、スポーツ用動物、ペット(例えばネコ、イヌ及びウマ)、霊長類、マウス及びラットが含まれる。ある実施態様では、哺乳動物はヒトである。
「薬学的製剤」又は「薬学的組成物」なる用語は、活性成分の生物学的活性が効果的であることを可能にするような形態であり、製剤が投与される患者に毒性が許容されない更なる成分を含まない調製物を意味する。かかる製剤は無菌でありうる。用量、製剤、及び期間と題したセクションも参照のこと。
「無菌」製剤は無菌的又はあらゆる生きている微生物やその芽胞を含まない。
「有効量」又は「治療的有効量」という用語は、患者の疾病や疾患の治療のために有効な薬剤の量を意味する。ある実施態様では、有効量は、所望の治療的又は予防的結果を達成するために必要な用量及び期間のでの効果的な量を意味する。本発明の物質/分子の治療的有効量は、個体の疾病状態、年齢、性別、及び体重、並びに個体に所望の応答を誘発する物質/分子の能力などの因子に従って変わりうる。治療的有効量は物質/分子の任意の毒性又は有害な効果よりも治療的に恩恵のある効果が上回るものである。癌の場合は、有効量の薬剤により、癌細胞の数を減少させ;腫瘍サイズを小さくし;癌細胞の周辺器官への浸潤を阻害(すなわち、ある程度に遅く、典型的には止める)し;腫瘍の転移を阻害(すなわち、ある程度に遅く、典型的には止める)し;腫瘍の成長をある程度阻害し;腫瘍の治療を可能にする;及び/又は疾患に関連する一又は複数の症状をある程度和らげることが可能である。薬剤が、増殖を妨げ及び/又は現存の癌細胞を殺す程度で、それは細胞***停止性及び/又は細胞傷害性でありうる。
「予防的有効量」とは所望の予防結果を達成するために必要な用量及び時間での効果的な量を意味する。典型的には、必ずではないが、予防的用量は疾患の初期の状態又はその前の患者に用いるので、予防的有効量は治療的有効量よりも少ないであろう。
前癌性、良性の、初期又は後期段階の腫瘍の場合、血管新生阻害剤の治療的有効量は、癌細胞の数を低減し;原発性腫瘍のサイズを低減し;癌細胞の周辺器官への浸潤を阻害(すなわち、ある程度に遅く、好ましくは止める)し;腫瘍の転移を阻害(すなわち、ある程度に遅く、典型的には止める)し;腫瘍の成長又は腫瘍の進行をある程度阻害又は遅延化し;及び/又は疾患に関連する一又は複数の症状をある程度和らげうる。薬剤は、増殖を妨げ及び/又は現存の癌細胞を殺すことが可能な程度で、細胞***停止性及び/又は細胞傷害性でありうる。
「効果」なる用語は、ここでは最も広義で使用され、所望の効果を生じせしめるための免疫グロブリン、抗体又はFc融合体タンパク質の能力を意味する。ある実施態様では、効果は、飽和レベルでの免疫グロブリン、抗体又はFc融合タンパク質の最大の観察された効果を意味する。ある実施態様では、効果は免疫グロブリン、抗体又はFc融合タンパク質のEC50を意味する。ある実施態様では、効果は免疫グロブリン、抗体又はFc融合タンパク質の作用強度を意味する。ある実施態様では、効果は、ここに定義される臨床効果を含む疾患の過程又は期間に対して有益な効果を生じせしめる免疫グロブリン、,抗体又はFc融合タンパク質の能力を意味する。
「EC50」なる用語は、ベースラインと最大値の間の半分の応答を誘導する免疫グロブリン、抗体又はFc融合タンパク質の濃度を意味する。ある実施態様では、EC50は、その最大効果の50%が観察される免疫グロブリン、抗体又はFc融合タンパク質の濃度を表す。ある実施態様では、EC50は、最大のインビボ効果の50%を得るのに必要とされる血漿又は血清中濃度を表す。
癌の治療における効果は、癌細胞の増殖又は転移を阻害又は低減させ、あるいは癌に付随する一又は複数の症状を寛解又は軽減する本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、又は組成物の能力を検出することによって証明されうる。治療は、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、又は組成物の投与後に癌細胞の増殖又は転移の低減、癌に付随する一又は複数の症状の寛解があれば、又は死亡率及び/又は罹患率に減少があれば、治療的と考えられる。本発明の抗体、融合タンパク質又は組成物を、インビトロ、エキソビボ及びインビボアッセイにおいて腫瘍形成を低減させるその能力について試験することができる。癌治療に対しては、インビボにおける効力は、また例えば生存期間、無増悪期間(TTP)、奏効率(RR)、応答期間、及び/又は生活の質の測定により測定される。また以下の治療効果と題したセクションを参照のこと。
炎症性疾患の治療における効果は、動物における炎症を低減又は阻害し、あるいは炎症性疾患に付随する一又は複数の症状を寛解又は軽減する本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、又は組成物の能力を検出することによって証明されうる。治療は、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、又は組成物の投与後に例えば炎症の減少又は一又は複数の症状の寛解があれば、治療的と考えられる。
ウイルス感染の治療又は予防における効果は、ウイルスの複製を阻害し、伝染を阻止し又はその宿主においてウイルスが自身を樹立することを防止し、又はウイルス感染に付随する一又は複数の症状を予防、寛解又は軽減する本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、又は組成物の能力を検出することによって証明されうる。治療は、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、又は組成物の投与後に例えばウイルス量の低減、一又は複数の症状の寛解、又は死亡率及び/又は罹患率に減少があれば、治療的と考えられる。本発明の抗体、融合タンパク質又は組成物を、またインビトロ、エキソビボ及びインビボアッセイにおいてウイルス複製を阻害し又はウイルス量を低減させるその能力について試験することができる。
細菌感染の治療又は予防における効果は、細菌の複製を阻害し、又は細菌感染に付随する一又は複数の症状を予防、寛解又は軽減する本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、又は組成物の能力を検出することによって証明されうる。治療は、本発明の抗体、融合タンパク質、コンジュゲート分子、又は組成物の投与後に例えば細菌数の低減、一又は複数の症状の寛解、又は死亡率及び/又は罹患率に減少があれば、治療的と考えられる。
臨床的利益は、様々なエンドポイント、例えば、緩徐化及び完全な停止を含む、ある程度の疾患進行の阻害;疾患発症及び/又は症状の数の減少;病巣サイズの減少;隣接する末梢器官及び/又は組織への疾患細胞浸潤の阻害(すなわち減少、緩徐化又は完全な停止);疾患の拡がりの阻害(すなわち減少、緩徐化又は完全な停止);必ずではないが病変の退行又は消失が生じうる自己免疫応答の低減;疾患と関係する一又は複数の症状の、ある程度の軽減;治療後に呈する疾患がない期間の増加;及び/又は治療後の所定の時点での死亡率の減少を評価することによって、測定できる。
「低減又は阻害する」とは、参照と比較して活性、機能、及び/又は量を減少又は低減させることである。ある実施態様では、「低減又は阻害する」とは、20%又はそれ以上の全体的な減少を生じる能力を意味する。他の実施態様では、「低減又は阻害する」とは、50%又はそれ以上の全体的な減少を生じる能力を意味する。更に他の実施態様では、「低減又は阻害する」とは、75%、85%、90%、95%、はそれ以上の全体的な減少を生じる能力を意味する。低減又は阻害は、治療されている疾患の症状、転移の存在又はサイズ、原発性腫瘍のサイズ、又は血管新生疾患における血管のサイズ又は数を意味しうる。
「手術可能」な癌は、原発性器官に限局され、外科手術に適している癌である。
「生存」は、生存している患者を指し、無病生存率(DFS)、無進行生存率(PFS)及び全生存率(OS)を含む。生存率はカプラン・マイヤー法によって推定され得、生存率の違いは層別ログランク試験を用いて計算される。
「無病生存率(DFS)」は、治療の開始から又は初期診断から一定期間、例えば約1年、約2年、約3年、約4年、約5年、約10年などの間癌を再発せずに生存している患者を指す。本発明の一態様では、DFSは包括解析(intent-to-treat)の原則に従って分析される。つまり、患者は割り当てられた治療を基礎として評価される。DFSの分析に用いる事象には、癌の限局性、領域及び遠位的な再発、二次的な癌の発症、及び既往(例えば乳癌の再発又は二番目の原発性癌)のない患者における任意の死因の死亡が含まれうる。
「全生存率」は、治療の開始から又は初期診断から一定期間、例えば約1年、約2年、約3年、約4年、約5年、約10年などの間生存している患者を指す。
「延長生存率」は、未処置の患者と比較して、又はコントロール処置プロトコル、例えば化学療法剤のみによる処置と比較して、処置した患者においてDFS及び/又はOSが増加していることを意味する。生存率は、処置開始後又は最初に診断された後、少なくとも約6か月、又は少なくとも約1年、又は少なくとも約2年、又は少なくとも約3年、又は少なくとも約4年、又は少なくとも約5年、又は少なくとも約10年などの間モニターされる。
「同時に」なる用語は、投与の時間の少なくとも一部がオーバーラップしている、2以上の治療薬の投与を指すためにここで用いられる。従って、同時投与には、一又は複数の薬剤の投与が一又は複数の他の薬剤の投与をやめた後に続く場合の投薬計画が包含される。
「単独療法」は、治療期間の経過中に癌又は腫瘍の治療のために単剤しか含まない治療的投薬計画を意味する。ある実施態様では、変異体IgGを用いた単独療法は、変異体IgGがその治療期間の間に更なる抗癌療法がない状態で投与されることを意味する。
「維持療法」とは、疾患再発又は進行の可能性を低減するために施される治療的投薬計画を意味する。維持療法は、患者の寿命まで延長された時間を含む任意の長さの時間に提供されうる。維持療法は、最初の療法の後又は、最初ないしは更なる療法と共に提供されうる。維持療法のために使用される用量は変化してもよく、他の種の療法に使用する用量と比較して、減少した用量を含みうる。
ここでの「ネオアジュバント(術前補助)療法」又は「術前療法」は、手術の前に施す療法を指す。ネオアジュバント療法の目標は、即時性の全身性処置を提供することであり、標準的な一連の手術の後に全身性治療を行う場合にさもなければ増殖しうる微小転移性癌を潜在的に除去する。また、ネオアジュバント療法は、腫瘍のサイズを低減することによって、当初切除不可能であった腫瘍を完全に切除する又は一部の臓器およびその機能を保存することが可能となるための助けとなりうる。更に、ネオアジュバント療法は薬剤有効性のインビボ評価を可能とし、その評価によりその後の治療の選択が導かれる。
ここでの「アジュバント(補助)療法」は、手術後に施される治療を指し、疾患の再発のリスクを低減するために、残存する疾患の所見が検出されないものとする。アジュバント療法の目的は、癌の再発を予防することによって、癌関連の死亡の機会を低減することである。
ここでは、「標準的な治療の」化学療法は、特定の癌を治療するために通常使用する化学療法剤を指す。
「根治手術」は、医学界で用いられる用語として用いる。根治手術には、例えば、肉眼で認められる腫瘍の全てが除去又は切除されるものを含む、腫瘍が除去又は切除される手順、手術その他のものが包含される。根治手術には、例えば、腫瘍の完全ないしは治療上の切除又は完全な全体の切除が含まれる。根治手術には、一又は複数の段階で生じる手順が含まれ、例えば一又は複数の手術又は他の手順が腫瘍の切除前に行われる複数の段階の手術手順が含まれる。根治手術には、関連する臓器、一部の臓器および組織、並びに周辺臓器、例としてリンパ節、臓器の一部又は組織を含む腫瘍を除去ないしは切除するための手術が含まれる。
一又は複数の更なる治療剤と「の併用での」投与は同時(同時発生)及び任意の順序での連続敵投与を含む。
「慢性」投与とは、初期の治療効果(活性)を長期間にわたって維持するようにするために、急性態様とは異なり連続的な態様での薬剤の投与を意味する。「間欠」投与とは、中断無く連続的になされるのではなく、むしろ本質的に周期的になされる治療である。
ここで用いられる「担体」は、用いられる服用量及び濃度でそれらに曝露される細胞又は哺乳動物に対して非毒性である薬学的に許容可能な担体、賦形剤、又は安定剤を含む。生理学的に許容可能な担体は、水性pH緩衝溶液であることが多い。生理学的に許容可能な担体の例は、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸のバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;疎水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン;グルコース、マンノース又はデキストランを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又は非イオン性界面活性剤、例えば、TWEENTM、ポリエチレングリコール(PEG)、及びPLURONICSTMを含む。
「リポソーム」は、哺乳動物への薬剤(例えば変異体IgG)のデリバリーに有用な様々なタイプの脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤からなる小胞である。リポソームの成分は、一般に、生体膜の脂質配置と同様に二層構造で配されている。
「抗腫瘍性組成物」なる用語は、少なくとも一つの活性治療剤、例えば「抗癌剤」を含む、癌を治療する際に有効な組成物を指す。治療剤(抗癌剤)の例には、限定するものではないが、例えば、化学療法剤、増殖阻害剤、細胞傷害性薬剤、放射線療法に用いられる作用剤、抗血管新生剤、アポトーシス剤、抗チューブリン剤及び癌を治療するための他の薬剤、例えば、抗HER-2抗体、抗CD20抗体、表皮増殖因子レセプター(EGFR)アンタゴニスト(例えばチロシンキナーゼインヒビター)、HER1/EGFRインヒビター(例えばエルロチニブ(Tarceva(登録商標))、血小板由来成長因子インヒビター(例えばGleevec(登録商標)(メシル酸イマチニブ))、COX-2インヒビター(例えばセレコキシブ)、インターフェロン、サイトカイン、以下の標的ErbB2、ErbB3、ErbB4、PDGFR−β、BlyS、APRIL、BCMA又はVEGFレセプタの一つ以上と結合するアンタゴニスト(例えば中和抗体)、TRAIL/Apo2及び他の生理活性的で有機化学的作用剤などが含まれる。また、その組合せが本発明に含まれる。
ここで用いられる「細胞傷害剤」なる用語は、細胞の機能を阻害又は抑制し、及び/又は細胞死又は破壊を生じせしめる物質を意味する。該用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体)、化学療法剤(例えばメトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド類(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤、酵素及びその断片、例えば核溶解性酵素、抗生物質、及び毒素、例えばその断片及び/又は変異体を含む小分子毒素又は細菌、糸状菌、植物又は動物起源の酵素的に活性な毒素、並びに下記に開示する種々の抗腫瘍又は抗癌剤を含むことが意図される。他の細胞傷害剤は下記に記載される。殺腫瘍性剤は、腫瘍細胞の破壊を引き起こす。ある実施態様では、変異体IgGは細胞傷害剤とコンジュゲートされうる。
「毒素」は、細胞の成長又は増殖に対して有害な作用を有することができる任意の物質である。
「化学療法剤」は、癌の治療に有用な化学化合物である。化学療法剤の例には、アルキル化剤、例えばチオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標));スルホン酸アルキル、例えばブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン(piposulfan);アジリジン類、例えばベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa);アルトレトアミン(altretamine)、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethylenethiophosphaoramide)及びトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン類及びメチラメラミン類;アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン);デルタ−9−テトラヒドロカナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標);βラパチョーネ;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトセシン(合成アナログトポテカン(HYCAMTIN(登録商標)、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標)を含む)、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン(scopolectin)及び9−アミノカンプトテシン;ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);テニポシド;クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;ドゥオカルマイシン(合成アナログ、KW-2189及びCB1-TM1を含む);エロイテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチン;スポンギスタチン;クロランブシル、クロロナファジン(chlornaphazine)、チョロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イフォスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロスレアス(nitrosureas);抗生物質、例えばエネジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン(calicheamicin)、特にカリケアマイシンγ1I及びカリケアマイシンωI1(例えばAgnew Chem Intl. Ed. Engl. 33:183-186(1994)参照);CDP323、経口α−4インテグリン阻害剤;ダイネマイシン(dynemicin)Aを含むダイネマイシン;エスペラマイシン;並びにネオカルチノスタチン発色団及び関連する色素タンパクエネジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン類(aclacinomysins)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン類、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorbicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(登録商標)、モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、ドキソルビシンHClリポソーム注射剤(DOXIL(登録商標)、リポソームドキソルビシンTLCD−99(MYOCET(登録商標))、ペグ化リポソームドキソルビシン(CAELYX(登録商標)、及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マーセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシンCのようなマイトマイシン、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin);代謝拮抗剤、例えばメトトレキセート、ゲムシタビン(gemcitabine) (GEMZAR(登録商標))、テガフル(tegafur) (UFTORAL(登録商標))、カペシタビン(capecitabine) (XELODA(登録商標))、エポチロン(epothilone)、及び5-フルオロウラシル(5-FU);コムブレタスタチン;葉酸アナログ、例えばデノプテリン(denopterin)、メトトレキセート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキセート(trimetrexate);プリンアナログ、例えばフルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジンアナログ、例えばアンシタビン、アザシチジン(azacitidine)、6-アザウリジン(azauridine)、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン(enocitabine)、フロキシウリジン(floxuridine);アンドロゲン類、例えばカルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン(testolactone);抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸リプレニッシャー(replenisher)、例えばフロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium);エポチロン;エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);メイタンシン(maytansine)及びアンサマイトシン類(ansamitocins)のようなメイタンシノイド類(maytansinoids);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantron);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン(razoxane);リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン;スピロゲルマニウム(spirogermanium);テニュアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(trichothecenes)(特に、T-2トキシン、ベラキュリンA(verracurin A)、ロリジンA(roridin A)及びアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標));ダカルバジン;マンノムスチン(mannomustine);ミトブロニトール;ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標))、パクリタキセルのクレモフォー無添加アルブミン操作ナノ粒子製剤(ABRAXANETM)、及びドキセタキセル(TAXOTERE(登録商標));クロランブシル;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;プラチナ剤、例えばシスプラチン、オキサリプラチン(例えばELOXATIN(登録商標))及びカルボプラチン;ビンカ類でチューブリン重合の微小管形成を阻害するもの、例えばビンブラスチン(VELBAN(登録商標)、ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標))、ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標))、及びビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトキサントロン;ロイコボビン(leucovovin);ノバントロン(novantrone);エダトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロナート(ibandronate);トポイソメラーゼ阻害薬RFS2000;ジフルオロメチロールニチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド、例えば、ベキサロテン(TARGRETIN(登録商標));ビスホスホネート、例えばクロドロネート(例えばBONEFOS(登録商標)又はOSTAC(登録商標))、エチドロン酸(DIDROCAL(登録商標))、NE-58095、ゾレドロン酸/ゾレドロネート(ZOMETA(登録商標))、アレンドロネート(FOSAMAX(登録商標))、パミドロン酸(AREDIA(登録商標))、チルドロン酸(SKELID(登録商標))、又はリセドロン酸(ACTONEL(登録商標));トロキサシタビン(troxacitabine)(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に異常な細胞増殖に結びつくシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えばPKC-α、Raf、及びH-Ras、及び上皮増殖因子レセプター(EGF-R)(例えばエルロチニブ(Tarceva<SUP>TM</SUP>));細胞増殖を減少させるVEGF−A;THERATOPE(登録商標)ワクチン及び遺伝子治療ワクチン等のワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチン;トポイソメラーゼ1阻害薬(例えばLURTOTECAN(登録商標));rmRH(例えばABARELIX(登録商標));BAY439006(ソラフェニブ;Bayer);SU-11248(スニチニブ、SUTENT(登録商標)、Pfizer);ペリフォシン(perifosine)、COX-2阻害剤(例えばセレコキシブ又はエトリコキシブ)、プロテオゾーム阻害剤(例えばPS341);ボルテゾミブ(VELCADE(登録商標));CCI-779;チピファルニブ(tipifarnib)(R11577);オラフィニブ(orafenib)、ABT510;BCL-2阻害剤、例えばオブリメルセンナトリウム(oblimersen sodium)(GENASENSE(登録商標));ピクサントロン;EGFR阻害剤;チロシンキナーゼ阻害剤;セリン−スレオニンキナーゼ阻害剤、例えばラパマイシン(シロリムス、RAPAMUNE(登録商標));ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、例えばロナファーニブ(SCH6636,SARASARTM); 及び上述したものの何れかの薬学的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体:並びに上記のうち2以上の組み合わせ、例えば、シクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニソロンの併用療法の略称であるCHOP;及び5−FU及びロイコボリンとオキサリプラチン(ELOXATINTM)を組み合わせた治療法の略称であるFOLFOX、及び上述したものの何れかの薬学的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体;並びに上記のうち2以上の組み合わせが含まれる。
ここで定義された化学療法剤には、癌の増殖を促進しうるホルモンの効果を調節、低減、ブロック、又は阻害するように働く「抗ホルモン剤」又は「内分泌治療剤」が含まれる。それらはそれ自体がホルモンであってもよく、限定するものではないが、抗エストロゲン及び選択的エストロゲン受容体調節物質(SERM)を含み、例えば、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標)タモキシフェンを含む)、ラロキシフェン(raloxifene)、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストーン(onapristone)、及びFARESTON(登録商標)トレミフェン;副腎のエストロゲン産生を調節する酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤、例えば4(5)-イミダゾール、アミノグルテチミド、MEGASE(登録商標)酢酸メゲストロール、AROMASIN(登録商標)エキセメスタン、フォルメスタニー(formestanie)、ファドロゾール、RIVISOR(登録商標)ボロゾール、FEMARA(登録商標)レトロゾール、及びARIMIDEX(登録商標)アナストロゾール;及び抗アンドロゲン、例えばフルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリン;並びにトロキサシタビン(troxacitabine)(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシンアナログ);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に接着細胞の増殖に結びつくシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えばPKC-α、Raf、及びH-Ras;リボザイム、例えばVEGF発現阻害剤(例えばANGIOZYME(登録商標)リボザイム)及びHER2発現阻害剤;遺伝子治療ワクチン等のワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチン;PROLEUKIN(登録商標)rIL−2;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1阻害剤;ABARELIX(登録商標)rmRH;ビノレルビン及びエスペラミシン(米国特許第4675187号を参照)、及び上記のものの何れかの薬学的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体;並びに上記のものの二以上の組合せを含む。
ここで用いられる際の「増殖阻害剤」は、細胞(例えばVEGFを発現する細胞)の増殖をインビトロ又はインビボの何れかで阻害する化合物又は組成物を意味する。よって、増殖阻害剤は、S期で細胞(例えばVEGFを発現する細胞)の割合を有意に減少させるものである。増殖阻害剤の例は、細胞周期の進行を(S期以外の位置で)阻害する薬剤、例えばG1停止又はM期停止を誘発する薬剤を含む。古典的なM期ブロッカーは、ビンカス(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキサン類、及びトポイソメラーゼII阻害剤、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンを含む。またG1停止させるこれらの薬剤は、S期停止にも波及し、例えば、DNAアルキル化剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、及びアラ-Cである。更なる情報は、The Molecular Basis of Cancer, Mendelsohn及びIsrael, 編, Chapter 1, 表題「Cell cycle regulation, oncogene, 及びantineoplastic drugs」, Murakami等, (WB Saunders: Philadelphia, 1995)、特に13頁に見出すことができる。タキサン類(パクリタキセル及びドセタキセル)は、共にイチイに由来する抗癌剤である。ヨーロッパイチイに由来するドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、ローン・プーラン ローラー)は、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、ブリストル-マイヤー スクウィブ)の半合成類似体である。パクリタキセル及びドセタキセルは、チューブリン二量体から微小管の集合を促進し、細胞の有糸***を阻害する結果となる脱重合を防ぐことによって微小管を安定にする。
「放射線療法」とは、正常に機能する能力を制限するように又は細胞を一緒に破壊するように細胞に十分な損傷を誘導する有向性のγ線又はβ線の使用を意味する。治療の用量及び治継続期間を決定するためには当該分野で知られている多くの方法があることは明らかであろう。典型的な治療は、1回の投与として、1日当たり10から200単位(グレイ)の典型的な用量として施される。
疾患の「病理状態」には、患者の健康を損なうあらゆる現象が含まれる。癌の場合には、これに限定されるものではないが、異常又は制御不能な細胞増殖、転移、隣接細胞の正常機能の阻害、サイトカイン又は他の分泌産物の異常なレベルでの放出、炎症又は免疫反応の抑制又は悪化等々が含まれる。
「小分子」とは、ここで、約500ダルトン以下の分子量を持つと定義される。
「静脈内注入」なる用語は、およそ5分以上、好ましくはおよそ30〜90分の時間をかけて動物又はヒト患者の静脈への薬剤の導入を意味するものであり、本発明では静脈内注入があるいは10時間未満かけて投与されることもある。
「静脈内ボーラス」又は「静脈内圧力(intravenous push)」なる用語は、動物又はヒトに静脈に薬剤を投与して、およそ15分未満、好ましくは5分未満で身体が薬剤を受け取ることを意味する。
「皮下投与」という用語は、比較的ゆっくりと、薬剤容器からの送達が維持されることによって、動物又はヒト患者の皮膚の下に、好ましくは皮膚及び皮下組織の間のポケット内に薬剤を投入することを意味する。ポケットは、皮膚を上につまむか引き上げ皮下組織から離すことによりつくり出される。
「皮下注入」なる用語は、動物又はヒト患者の皮下、好ましくは皮膚と皮下組織の間の嚢内に、限定するものではないが30分以下ないし90分以下の時間をかけて、薬剤貯蔵物から相対的にゆっくりと、持続的に運搬されることによる薬剤の導入を意味する。場合によって、動物又はヒト患者の皮下にインプラントされる薬剤運搬ポンプを刺し入れることによって注入されてもよく、この場合のポンプは決まった量の薬剤を30分、90分又は治療期間などの決まった期間の間運搬するものである。
「皮下ボーラス」なる用語は、動物又はヒト患者の皮下への薬剤の投与であって、ボーラス薬剤運搬(ドラッグデリバリー)は好ましくはおよそ15分未満、より好ましくは5分未満、最も好ましくは60秒未満である。好ましくは、投与は皮膚と皮下組織の間の嚢内であり、その嚢は例えば皮膚をつまんだり引き上げたりして皮下組織を除去することによって作ったものである。
ここで用いられる「標識」という語は、ポリペプチドに直接的又は間接的に結合する検出可能な化合物又は組成物を意味する。標識はそれ自身が検出可能でもよく(例えば、放射性同位体標識又は蛍光標識)、あるいは、酵素標識の場合には、検出可能な基質化合物又は組成物の化学的変換を触媒しうる。
抗体
抗体は特定の抗原に結合特異性を示すタンパク質である。天然抗体は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の中で変化する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した鎖間ジスルフィド結合を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(VH)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)を、他端に定常ドメインを有する;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられている。
その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体又は免疫グロブリンは異なるクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンの5つの主たるクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらの幾つかは更にサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4;IgA1及びIgA2に分けられる。様々なヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4アロタイプが記載されている(M.-P. LeFranc 及びG. LeFranc: "The Human IgG Subclasses," F. Shakib (編), pp. 43-78, Pergamon Press, Oxford (1990)に概説)。lgG1、lgG2s、lgG3、及びlgG4を含むIgGクラスの異なったアイソタイプは、独特の物理的、生物学的、及び臨床的性質を有する。ヒトIgG1は、治療目的に対して最も一般的に使用されている抗体であり、遺伝子操作研究の大部分はこの文脈で構成されている。
本発明は、IgGの生物学的性質を改変するアミノ酸修飾を含む変異体IgG免疫グロブリンに関する。本出願の変異体免疫グロブリンは、野生型抗体とひかくして長いインビボでの半減期を示す修飾されたFc領域を含む抗体を含む。
ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、野生型ヒトIgG Fc領域を有するIgGの半減期と比較して少なくとも50%増加している。ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、 野生型ヒトIgG Fc領域を有するIgGの半減期と比較して少なくとも75%増加している。ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、野生型ヒトIgG Fc領域を有するIgGの半減期と比較して少なくとも100%増加している。
ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、少なくとも約15日である。ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、少なくとも約20日である。ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、少なくとも約25日である。ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、少なくとも約30日である。ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、少なくとも約35日である。ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、少なくとも約40日である。ある実施態様では、変異体IgGは変異体IgG1である。
ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、ヒトにおいて測定される半減期である。 ある実施態様では、本発明の変異体IgGの半減期は、カニクイザルにおいて測定される半減期である。
抗体断片
本発明は抗体断片を包含する。特に興味深いものは、Fc領域を含む抗体、Fc融合体及び重鎖の定常領域である。ある実施態様では、抗体断片は、Fc領域を含む変異体免疫グロブリン(IgGs)の断片である。抗体断片は伝統的な手段、例えば酵素的消化、又は組換え技術によって産生されうる。
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、インタクトな抗体のタンパク分解性消化を介して誘導されていた(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical 及びBiophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照されたい)。しかし、これらの断片は現在は組換え宿主細胞により直接生産することができる。 Fab, Fv 及びScFv抗体断片は全て大腸菌で発現され、分泌され得、よって多量のこれら断片の生産が容易である。抗体断片は抗体ファージライブラリーから分離することができる。ある実施態様では、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合してF(ab')2断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')2断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片の生産のための他の方法は当業者には明らかであろう。抗体断片は、また例えば米国特許第5641870号に記載されているような「直鎖状抗体」であってもよい。このような直鎖状抗体断片は単一特異性ないしは二重特異性でもよい。
ヒト化抗体
本発明は、ヒト化抗体を含む。ある実施態様では、ヒト化抗体は野生型IgGに対してFc領域中に一又は複数のアミノ酸修飾を含むヒト化変異体IgGである。非ヒト抗体をヒト化するための様々な方法が当該分野で知られている。例えば、ヒト化抗体は、非ヒトのソースからそれに導入された一又は複数のアミノ酸残基を有することができる。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば「移入」残基と呼ばれ、これは典型的には「移入」可変ドメインに由来する。ヒト化は、本質的にヒト抗体の該当する配列を高頻度可変領域配列で置換することにより、Winter及び共同研究者(Jones等(1986)Nature 321:522-525;Riechmann等(1988)Nature, 332:323-327;Verhoeyen等(1988)Science 239:1534-1536)の方法に従って実施される。従って、このような「ヒト化」抗体は、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は典型的には幾つかの高頻度可変領域残基が、及び場合によっては幾つかのFR残基が齧歯類抗体の類似する部位由来の残基によって置換されたヒト抗体である。
ヒト化抗体の作製に使用されるヒト可変ドメインの選択は、軽鎖及び重鎖何れも、抗原性を減らすために重要である。いわゆる「ベストフィット」方法によれば、齧歯類抗体の可変ドメインの配列を、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。ついで、齧歯類の配列に最も近いヒト配列を、ヒト化抗体のヒトフレームワークとして受け入れる。例えばSims等(1993)J. Immunol. 151:2296;Chothia等(1987)J. Mol. Biol. 196:901を参照。別の方法では、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループの全ヒト抗体のコンセンサス配列から得られた特定のフレームワークを使用する。同じフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に使用することができる。例えばCarter等(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285;Presta等(1993)J. Immunol., 151:2623を参照。
更には、抗体は、抗原に対する高い親和性及びその他の望ましい生物学的特性を保持してヒト化されることが一般に好ましい。この目的を達成するために、一方法では、親の配列及びヒト化配列の三次元モデルを用いて、親配列及び様々な概念上のヒト化産物を分析するプロセスにより、ヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般に利用可能であり、当業者に周知である。選択された候補免疫グロブリン配列の、ありそうな三次元立体配置的構造を図解し表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらの表示を検査することにより、候補免疫グロブリン配列が機能する際に残基が果たすと思われる役割を分析することができ、つまり候補免疫グロブリンの、その抗原に対する結合能に影響する残基を分析することができる。このように、レシピエント及び重要な配列からFR残基を選択して組み合わせることにより、所望の抗体特性、例えば標的とする抗原に対する親和性の増大を達成することができる。一般に、高頻度可変領域残基は、抗原の結合に対する影響に、直接的にかつ最も実質的に関わっている。
ヒト抗体
ある実施態様では、本発明のヒト抗体は、野生型IgGに対してFc領域に一又は複数のアミノ酸修飾を含むヒト変異体IgGである。ヒト抗体は、上記のように、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択したFvクローン可変ドメイン配列を既知のヒト定常ドメイン配列と組合わせることによって構築することができる。あるいは、ヒトモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法によって作製することができる。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのヒトミエローマ及びマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株は、例えば、Kozbor, J. Immunol. 133, 3001(1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);及びBoerner 等, J. Immunol., 147: 86 (1991)に記載されている。
免疫化することで、内因性免疫グロブリンの生産なしに、ヒト抗体の完全なレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を生産することが現在は可能である。例えば、キメラ及び生殖細胞系変異体マウスでの抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合体欠失は、内因性抗体の生産の完全な阻害をもたらすことが記載されている。そのような生殖細胞系変異体マウスでのヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子配列の転移は、抗原の投与によってヒト抗体の生産を引き起こす。例えば、Jakobovits等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 2551-255(1993);Jakobovits等, Nature 362, 255-258(1993);Bruggermann等, Year in Immunol., 7: 33 (1993)を参照のこと。
また、遺伝子シャフリングは、ヒト抗体が最初の非ヒト抗体と類似した親和性及び特性を有している場合、非ヒト、例えば齧歯類の抗体からヒト抗体を得るために使用することもできる。「エピトープインプリンティング」とも呼ばれるこの方法により、上記のファージディスプレイ技術により得られた非ヒト抗体断片の重鎖又は軽鎖可変領域の何れかをヒトVドメイン遺伝子のレパートリーで置換し、非ヒト鎖/ヒト鎖scFv又はFabキメラの集団を作成する。抗原で選択することにより、ヒト鎖が初めのファージディスプレイクローンにおいて一致した非ヒト鎖の除去により破壊された抗原結合部位を回復する、非ヒト鎖/ヒト鎖キメラscFvないしFabが単離される、つまり、エピトープがヒト鎖パートナーの選択をつかさどる(インプリントする)。残りの非ヒト鎖を置換するためにこの工程を繰り返すと、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日公開のPCT特許出願WO93/06213号を参照)。伝統的なCDR移植による非ヒト抗体のヒト化と異なり、この技術により、非ヒト起源のFR又はCDR残基を全く持たない完全なヒト抗体が得られる。
二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある実施態様では、二重特異性抗体は、野生型抗体に対してFc領域に一又は複数のアミノ酸修飾を持つ二重特異性抗体である。ある実施態様では、二重特異性抗体はヒト抗体又はヒト化抗体である。ある実施態様では、結合特異性の一つはVEGFに対するものであり、他方は任意の他の抗原に対するものである。ある実施態様では、二重特異性抗体は、VEGFの2つの異なるエピトープに結合しうる。二重特異性抗体はVEGFを発現する細胞に細胞傷害剤を局在化するためにも使用されうる。これらの抗体はVEGF結合アーム及び細胞傷害剤、例えば、サポリン、抗インターフェロン-α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキセート又は放射性同位体ハプテンと結合するアームを有する。二重特異性抗体は完全長抗体又はFc領域を含む抗体断片として調製することができる。
二重特異性抗体を作製する方法は当該分野において知られている。伝統的には、二重特異性抗体の組換え産生は二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づき、ここで二つの重鎖は異なる特異性を持っている(Millstein及びCuello, Nature, 305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の可能性ある混合物を産生し、そのうちただ一つが正しい二重特異性構造を有する。通常、アフィニティークロマトグラフィー工程により行われる正しい分子の精製は、かなり煩わしく、生成物収率は低い。同様の方法が1993年5月13日に公開の国際公開第93/08829号及びTraunecker等, EMBO J. 10:3655-3659(1991)に開示されている。
異なったアプローチ法では、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原−抗体結合部位)を免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は例えば、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。ある実施態様では、軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させる。免疫グロブリン重鎖の融合体と、望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時形質移入する。これにより、構築に使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適な収率をもたらす態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又はその比率が特に重要性を持たないときは、2又は3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
このアプローチ法の一実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を産生する更なる詳細については、例えばSuresh等, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照のこと。
他のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体のパーセントを最大にすることができる。界面は抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロ二量体の収量を増大させるメカニズムが提供される。
二重特異性抗体は架橋又は「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの一方の抗体がアビジンと結合し、他方はビオチンと結合しうる。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に対してターゲティングさせること(米国特許第4676980号)及びHIV感染の治療(国際公開第91/00360号、国際公開第92/00373号及び欧州特許出願公開第03089号)への用途が提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は任意の簡便な架橋方法によって作製できる。適切な架橋剤は当該分野において周知であり、多くの架橋法と共に米国特許第4676980号に記されている。
Hollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記載される「ダイアボディ」技術は、二重特異性抗体断片を作製するための代替メカニズムを提供した。断片は、非常に短いために同一鎖上で2つのドメインの対形成が可能であるリンカーによって、軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)が結合されてなる。従って、一つの断片のVH及びVLドメインが他の断片の相補的VK及びVHドメインと強制的に対形成させられ、2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)二量体の使用によって二重特異性抗体断片を作製するための他の方策もまた報告されている。Gruber等, J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照のこと。
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt等 J.Immunol. 147:60(1991)。
多価抗体
多価抗体は、抗体が結合する抗原を発現する細胞により、二価抗体よりも早く内部移行(及び/又は異化)されうる。本発明の抗体は、3又はそれ以上の結合部位を有する多価抗体(IgMクラス以外のもの)であり得(例えば四価抗体)、抗体のポリペプチド鎖をコードする核酸の組換え発現により容易に産生せしめることができる。多価抗体は二量体化ドメインと3又はそれ以上の抗原結合部位を有しうる。ある実施態様では、二量体化ドメインはFc領域又はヒンジ領域を有する(又はそれらからなる)。このシナリオにおいて、抗体はFc領域と、Fc領域のアミノ末端に3又はそれ以上の抗原結合部位を有しているであろう。ある実施態様では、多価抗体は3ないし約8の抗原結合部位を有する(又はそれらからなる)。そのような一実施態様では、多価抗体は4つの抗原結合部位を含む(又はそれらからなる)。多価抗体は少なくとも一つのポリペプチド鎖(例えば2つのポリペプチド鎖)を有し、ポリペプチド鎖は2又はそれ以上の可変ドメインを含む。例えば、ポリペプチド鎖は、VD1-(X1)n-VD2-(X2)n-Fcを有し得、ここでVD1は第1の可変ドメインであり、VD2は第2の可変ドメインであり、FcはFc領域の一つのポリペプチド鎖であり、X1及びX2はアミノ酸又はポリペプチドを表し、nは0又は1である。例えば、ポリペプチド鎖は、VH-CH1-柔軟なリンカー-VH-CH1-Fc領域鎖;又はVH-CH1-VH-CH1-Fc領域鎖を含みうる。ここでの多価抗体は、少なくとも2つ(例えば4つ)の軽鎖可変ドメインポリペプチドを更に有しうる。ここでの多価抗体は、例えば約2から約8の軽鎖可変ドメインポリペプチドを有しうる。ここで考察される軽鎖可変ドメインポリペプチドは軽鎖可変ドメインを有し、場合によってはCLドメインを更に有する。
単一ドメイン抗体
ある実施態様では、本発明の抗体はFc領域を含む単一ドメイン抗体である。ある実施態様では、単一ドメイン抗体は野生型IgGに対してFc領域に一又は複数のアミノ酸修飾を有する。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部又は軽鎖可変ドメインの全て又は一部を含む単一ポリペプチド鎖である。
抗体修飾
ある実施態様では、ここに記載された免疫グロブリンのアミノ酸配列修飾が考慮される。ある実施態様では、修飾は本発明の変異体IgGに対して一又は複数のアミノ酸修飾を含む。ある実施態様では、本発明の変異体IgGの結合親和性、インビボ半減期及び/又は他の生物学的特性を改変させることができれば望ましい場合がある。ある実施態様では、アミノ酸修飾は、ここでは記載されていないFc領域一又は複数のアミノ酸修飾を含む。変異体IgGの修飾されたアミノ酸配列は、抗体をコードする核酸中に適切な変化を導入して、又はペプチド合成により、調製されうる。そのような修飾は、抗体のアミノ酸配列内の残基の、例えば、欠失、及び/又は挿入及び/又は置換を含む。最終コンストラクトが所望される特徴を有しているならば、最終コンストラクトに達するために、欠失、挿入及び置換をどのように組合せることもできる。アミノ酸変化は、配列が作製されるときに主題の抗体アミノ酸配列中に導入されうる。
突然変異誘発に好ましい位置である抗体の所定の残基又は領域の同定に有益な方法は、Cunningham及びWells (1989) Science, 244:1081-1085に開示されているように「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。ここで、標的となる残基又は残基の組が同定され(例えば、arg、asp、his、lys、及びgluなどの荷電した残基)、中性の、又は負に荷電したアミノ酸(例えばアラニン又はポリアラニン)で置換され、アミノ酸の抗原との相互作用に影響を与える。ついで、置換に対する機能的感受性を示しているそのアミノ酸位置を、置換の部位において又は置換の部位に対して、更なる又は他の変異体を導入することにより精密にする。よって、アミノ酸配列修飾を導入する部位は予め決定されるが、変異自体の性質は予め決定される必要はない。例えば、与えられた部位における変異の性能を解析するために、標的コドン又は領域においてalaスキャンニング又はランダム突然変異誘発を実施し、発現した免疫グロブリンを所望の活性についてスクリーニングする。
アミノ酸配列挿入は、1残基から100以上の残基を有するポリペプチドまでの長さにわたるアミノ末端融合及び/又はカルボキシ末端融合、並びに単一又は複数アミノ酸残基の配列内挿入を含む。端末挿入の例は、N末端メチオニル残基を持つ抗体を含む。抗体分子の他の挿入性修飾は、抗体の血清半減期を増加させるポリペプチド又は(例えばADEPTの場合)酵素への抗体のN末端又はC末端の融合を含む。
ある実施態様では、本発明の変異体IgGは、抗体がグリコシル化される度合いを増加又は減少させるように改変される。ポリペプチドのグリコシル化は、典型的には、N結合又はO結合の何れかである。N結合とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を意味する。アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニン(ここでXはプロリンを除く任意のアミノ酸)のトリペプチド配列は、アスパラギン側鎖への糖鎖部分の酵素的結合のための認識配列である。従って、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列の何れかが存在すると、潜在的なグリコシル化部位が作出される。O結合グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はスレオニンに、糖類N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースの一つが結合することを意味するが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンもまた用いることができる。
抗体へのグリコシル化部位の付加又は欠失は、アミノ酸配列を、上述のトリペプチド配列(N結合グリコシル化部位のもの)の一又は複数が作製され又は取り除かれるように変化させることによって簡便に達成される。該変化はまた元の抗体の配列への一又は複数のセリン又はスレオニン残基の付加、欠失、又は置換によってなされうる(O-結合グリコシル化部位の場合)。
変異体IgGのFc領域に結合した炭水化物(糖鎖)を変更してもよい。哺乳動物細胞によって産生される天然の抗体は典型的にはFc領域のCH2ドメインのAsn297へのN結合によって一般に結合させられる分岐した二分岐オリゴ糖を含む。例えばWright等 (1997) TIBTECH 15:26-32を参照。オリゴ糖は様々な炭水化物、例えばマンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、及びシアル酸、並びに二分岐オリゴ糖構造の「ステム部」としてGlcNAcに結合したフコースを含みうる。ある実施態様では、本発明の変異体IgGにおけるオリゴ糖の修飾を、ある種の更に改善された性質を有する変異体IgGを作り出すためになしてもよい。ある実施態様では、変異体IgGは297位のアラニンへのアミノ置換を更に含む。
例えば、Fc領域に(直接的に又は間接的に)結合したフコースを欠く糖鎖構造を有する抗体変異体が提供される。かかる修飾は改善されたADCC機能を有しうる。例えば米国特許出願公開第2003/0157108号 (Presta, L.);米国特許出願公開第2004/0093621号(協和発酵工業)を参照のこと。「脱フコース化」又は「フコース欠失」修飾に関する文献の例には以下のものが含まれる:米国特許出願公開第2003/0157108号;国際公開第2000/61739号;国際公開第2001/29246号;米国特許出願公開第2003/0115614号;米国特許出願公開第2002/0164328号;米国特許出願公開第2004/0093621号;米国特許出願公開第2004/0132140号;米国特許出願公開第2004/0110704号;米国特許出願公開第2004/0110282号;米国特許出願公開第2004/0109865号;国際公開第2003/085119;国際公開第2003/084570号;国際公開第2005/035586号;国際公開第2005/035778号;国際公開第2005/053742号;国際公開第2002/031140号;Okazaki 等 J. Mol. Biol. 336:1239-1249 (2004);Yamane-Ohnuki 等 Biotech. Bioeng.87: 614 (2004)。脱フコース化抗体を産生する細胞株の例として、タンパク質フコシル化欠損Lec13 CHO細胞 (Ripka 等 Arch. Biochem. Biophys. 249:533-545 (1986);米国特許出願公開2003/0157108号, Presta, L;及び国際公開第2004/056312号, Adams 等, 特に実施例11)、及びノックアウト細胞株、例としてα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8,ノックアウトCHO細胞 (例えば、Yamane-Ohnuki 等 Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004);Kanda, Y. 等, Biotechnol. Bioeng., 94(4):680-688 (2006);及び国際公開第2003/085107号を参照)などがある。
例えば抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分された二分オリゴ糖を有する抗体変異体が更に提供される。かかる抗体変異体は低減したフコシル化及び/又は改善されたADCC機能を有しうる。かかる抗体修飾の例は、例えば、国際公開第2003/011878号(Jean-Mairet等);米国特許第6602684号(Umana等);及び米国特許出願公開第2005/0123546号(Umana等)に記載されている。Fc領域に結合したオリゴ糖内の少なくとも一のガラクトース残基を有する抗体修飾もまた提供される。かかる抗体修飾は、例えば国際公開第97/30087号(Patel等);国際公開第98/58964号(Raju, S.);及び国際公開第99/22764号(Raju, S.)に記載されている。
ある実施態様では、本発明は、これをインビボでの抗体の半減期が重要であるがある種のエフェクター機能(例えば補体及びADCC)が不必要であるか有害である多くの用途のための望ましい候補にする、エフェクター機能の全てではないが幾らかを有する抗体修飾を考慮する。ある実施態様では、所望の性質のみが維持されるようにする抗体のFc活性が測定される。インビトロ及び/又はインビボ細胞傷害性アッセイを実施して、CDC及び/又はADCC活性の減少/枯渇を確認できる。例えば、Fcレセプター(FcR)結合アッセイを実施して、抗体がFcγR結合を欠く(よってADCC活性を欠く可能性がある)が、FcRn結合能を保持していることを確認できる。ADCCを媒介する初代細胞のNK細胞はFcγRIIIのみを発現する一方、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現がRavetch及びKinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-92 (1991)の464頁の表3にまとめられている。興味ある分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5500362号(例えばHellstrom, I.等 Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 83:7059-7063 (1986)を参照)及び Hellstrom, I 等, Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 82:1499-1502 (1985);第5821337号(Bruggemann, M. 等, J. Exp. Med. 166:1351-1361 (1987)を参照)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ法を用いることができる(例えばフローサイトメトリーのためのACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA;及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ (Promega, Madison, WI)。このようなアッセイのために有用なエフェクター細胞は末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む。あるいは、又は加えて、興味ある分子のADCC活性はインビボで、例えばClynes等 Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 95:652-656 (1998)に開示されているもののような動物モデルにおいて評価することができる。C1q結合アッセイをまた実施して、抗体がC1qに結合できず、よってCDC活性を欠くことを確認することができる。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを実施してもよい(例えばGazzano-Santoro等, J. Immunol. Methods 202:163 (1996);Cragg, M.S. 等, Blood 101:1045-1052 (2003);及びCragg, M.S.及びM.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照のこと)。FcRn結合及びインビボクリアランス/半減期決定はまた当該分野で知られている方法を使用して実施することもできる(例えばPetkova, S.B. 等, Int’l. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006)を参照)。
一又は複数のアミノ酸置換を有する他の抗体修飾が提供される。置換突然変異誘発に対して興味深い部位は高頻度可変領域を含むが、FR変化もまた考えられる。保存的置換は、「好ましい置換」と題して表1に示す。「例示的置換」と名前を付けた更に実質的な変化が表1に提供され、又はアミノ酸クラスに関連して以下に更に記載する。アミノ酸置換は、興味ある抗体に導入され得、生成物は、改善された抗原結合性、減少した免疫原生、改善されたADCC又はCDC等のような所望の活性についてスクリーニングされうる。
抗体の生物学的性質における修飾は、(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又は螺旋配置、(b)標的部位における分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の嵩に影響を及ぼす置換を選択することにより達成されうる。アミノ酸はその側鎖の特性の類似性に基づいてグループ分けすることができる(A. L. Lehninger, Biochemistry, 2版, pp. 73-75, Worth Publishers, New York (1975)):
(1)非極性:Ala(A)、Val(V)、Leu(L)、Ile(I)、Pro(P)、Phe(F)、Trp(W)、Met(M)
(2)無荷電極性:Gly(G)、Ser(S)、Thr(T)、Cys(C)、Tyr(Y)、Asn(N)、Gln(Q)
(3)酸性:Asp(D)、Glu(E)
(4)塩基性:Lys(K)、Arg(R)、His(H)
あるいは、天然に生じる残基は共通の側鎖特性に基づいてグループに分けることができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
非保存的置換は、これらの分類の一つのメンバーを他の分類に交換することを必要とするであろう。そのような置換された残基はまた保存的置換部位又は残りの(非保存)部位に導入されうる。置換変異体の一タイプは、親抗体(例えば、ヒト化又はヒト抗体)の一又は複数の高頻度可変領域残基を置換することを含む。ある実施態様では、親抗体は野生型対応物変異体IgG(例えば、そのアミノ酸配列に更なる改変を伴わない本発明の変異体IgG)である。一般的に、更なる発展のために選択されて得られた抗体は、それらが産生される親抗体に対して改変された(改善された)生物学的特性を有するであろう。例示的な弛緩修飾は、ファージディスプレイベースのアフィニティ成熟技術を使用して簡便に産生されうるアフィニティ成熟抗体である。簡潔に言えば、幾つかのアミノ酸位置(例えば6−7部位)を変異させて各部位における全ての可能なアミノ酸置換を生じさせる。このようにして生成された抗体が、糸状ファージ粒子から、各粒子内にパッケージされたファージコートタンパク質の少なくとも一部(例えばM13の遺伝子III産物)への融合物としてディスプレイされる。ファージディスプレイ抗体は、ついで、その生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。修飾のための候補高頻度可変領域部位を同定するために、スキャニング変異誘発(例えばアラニンスキャニング)を実施し、抗原結合性に有意に寄与する高頻度可変領域残基を同定することができる。別法として、又はそれに加えて、抗原-抗体複合体の結晶構造を分析して、抗体と抗原の間の接点を特定するのが有利である場合もある。このような接触残基及び隣接残基は、ここに入念に述べたものを含む当該分野で知られた技術に従う置換の候補である。そのような変異体がひとたび生成されると、抗体のパネルに、ここに記載されたものを含む当該分野で知られた技術を使用してスクリーニングを施し、一又は複数の関連アッセイにおいて優れた特性を持つ抗体を更なる開発のために選択する。
修飾された抗体(例えば修飾された変異体IgG)のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当該分野で知られた様々な方法によって調製される。これらの方法には、限定するものではないが、天然源からの単離(天然に生じるアミノ酸配列修飾の場合)又は先に調製された修飾された抗体又は抗体の非修飾型のオリゴヌクレオチド媒介(又は部位特異的)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、及びカセット突然変異誘発による調製が含まれる。
本明細書及び従来技術の教示によれば、ある実施態様では、本発明の抗体修飾は、対応する野生型の変異体IgG(例えばそのアミノ酸配列に更なる改変を持たない発明の変異体IgG)と比較した場合、一又は複数の変更を有すると考えられる。それでも、これらの抗体修飾は、野生型の同等物の変異体IgGと比較した場合、治療的有効性に必要な実質的に同一の特性を保持している。ある実施態様では、野生型対応物の変異体IgGはベバシズマブの変異体である。
他の態様では、本発明は、Fc領域を含むFcポリペプチドの界面に修飾を含み、該修飾がヘテロ二量体化を容易にし及び/又は促進する抗体を提供する。これらの修飾は、第一のFcポリペプチド内に突部を、第二のFcポリペプチド内にキャビティを導入することを含み、ここで、第一及び第二Fcポリペプチドの複合体化を促進するように突部をキャビティに位置させ得る。これらの修飾を有する抗体の産生方法は当該分野で知られており、例えば米国特許第5731168号に記載されている。
更に他の態様では、抗体の一又は複数の残基がシステイン残基で置換されているシステイン操作抗体、例えば「チオMabs」を創製することが望ましい場合がある。ある実施態様では、置換される残基は抗体の到達可能部位に生じる。その残基をシステインで置換することによって、反応性チオール基を抗体の到達可能部位に位置せしめ、ここで更に記載されるように、抗体を他の部分、例えば薬剤部分又はリンカー−薬剤部分にコンジュゲートさせうる。ある実施態様では、次の残基の一又は複数をシステインと置換することができる:軽鎖のV205(Kabat番号付け);重鎖のA118(EU番号付け);及び重鎖Fc領域のS400(EU番号付け)。
抗体誘導体
ある実施態様では、本発明の変異体IgGは当該分野において知られ直ぐに利用できる更なる非タンパク質性部分を含むように更に修飾することができる。ある実施態様では、変異体IgGは細胞傷害剤とコンジュゲートされうる。ある実施態様では、細胞傷害剤が結合した変異体IgGは細胞によって内部移行せしめられ、それが結合する癌細胞の死滅化におけるコンジュゲートの治療的効能を増加させる。一実施態様では、細胞傷害剤は癌細胞中の核酸を標的とし又はそれを妨害する。
ある実施態様では、抗体の誘導体化に適した部分は水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの非限定的な例には、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーかランダムコポリマー)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、プロリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチレン化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物が含まれる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは水中におけるその安定性のために製造の際に有利であろう。ポリマーは任意の分子量であってよく、分枝状でも非分枝状でもよい。抗体に結合するポリマーの数は変化してもよく、一を超えるポリマーが結合する場合、それらは同じでも異なった分子でもよい。一般に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/又はタイプは、限定されるものではないが、その抗体誘導体が定まった条件下での治療に使用されるかどうか、改善される抗体の特定の性質又は機能を含む考慮事項に基づいて決定することができる。
他の実施態様では、放射線への暴露によって選択的に加熱されうる非タンパク質様部分及び抗体のコンジュゲートが提供される。一実施態様では、非タンパク質様部分はカーボンナノチューブである(Kam等 , Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。放射線は任意の波長のものであってよく、限定するものではないが、通常の細胞に害を与えないが、抗体-非タンパク質様部分に近位の細胞が死滅させられる温度まで非タンパク質様部分を加熱する波長が含まれる。
変異体IgGの作製
変異体IgGは当該分野で知られている任意の方法によって作成されうる。ある実施態様では、変異体IgG配列を使用して、メンバー配列をコードし、また宿主細胞にクローニングされ、発現され、所望されるならばアッセイされる核酸を作製する。これらの操作は、よく知られた手順を使用して実施され、使用されうる様々な方法が、双方ともその全体を出典明示により援用するMolecular Cloning--A Laboratory Manual, 3版(Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 2001)及びCurrent Protocols in Molecular Biology (John Wiley & Sons)に記載されている。変異体IgGをコードする核酸は、タンパク質を発現せしめるために発現ベクター中に導入されうる。発現ベクターは典型的にはコントロール又は調節配列と作用可能に連結された、つまり機能的関係に置かれたタンパク質、選択可能マーカー、任意の融合パートナー、及び/又は更なるエレメントを含む。変異体IgGは、変異体IgGをコードする核酸を含む核酸、好ましくは発現ベクターで形質転換された宿主細胞を、タンパク質の発現を誘発又は引き起こす適切な条件下で培養することによって、産生されうる。限定するものではないが、哺乳動物細胞、細菌、昆虫細胞、及び酵母を含む広範囲の適切な宿主細胞を使用することができる。例えば、使用が見出されうる様々な細胞株は、その全体が出典明示によりここに援用されるアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手できるATCC細胞株カタログに記載されている。宿主細胞中に外因性核酸を導入する方法は当該分野でよく知られており、使用される宿主細胞と共に変化する。
ある実施態様では、変異体IgGは発現後に精製又は単離される。抗体は当業者によく知られている様々な方法で単離され又は精製されうる。標準的な精製法は、クロマトグラフィー技術、電気泳動、免疫学的、沈殿、透析、濾過、濃縮、及びクロマトフォーカシング技術を含む。当該分野でよく知られているように、例えば細菌タンパク質A、G、及びKのような様々な天然タンパク質が抗体に結合し、これらのタンパク質が精製に用途を見出しうる。しばしば、精製は特定に融合パートナーによってなされうる。例えば、タンパク質は、GST融合体が用いられる場合はグルタチオン樹脂を使用して、His-タグが用いられるならばNi+2 アフィニティクロマトグラフィーを使用して精製されうる。適切な精製技術における一般的なガイドについては、その全体が出典明示によりここに援用されるAntibody Purification: Principles 及びPractice, 3版, Scopes, Springer-Verlag, NY, 1994, を参照のこと。
変異体IgGのスクリーニング
本発明の変異体IgGは、限定しないが、インビトロアッセイ、インビボ及び細胞ベースアッセイ、及び選択技術に使用するものを含む様々な方法を使用してスクリーニングされうる。自動化及びハイスループットスクリーニング技術がスクリーニング手順において利用されうる。スクリーニングは、融合パートナー又は標識、例えば免疫標識、同位体標識、又は蛍光もしくは熱量測定染料のような小分子標識の使用を利用する場合がある。
ある実施態様では、変異体IgGの機能的及び/又は生物学的性質がインビトロアッセイにおいてスクリーニングされる。ある実施態様では、タンパク質は、機能性について、例えば反応を触媒するその能力又はその標的に対するその結合親和性についてスクリーニングされる。
スクリーニング方法のサブセットは、ライブラリーの好ましいメンバーを選択するものである。該方法はここでは「選択法」と称し、これらの方法は変異体IgGのスクリーニングに使用される。タンパク質ライブラリーが選択方法を使用してスクリーニングされる場合、ライブラリーの好ましいメンバー、つまり幾つかの選択基準を満たすメンバーのみが増殖され、単離され、及び/又は観察される。タンパク質ライブラリーのスクリーニングのために本発明で使用されうる様々な選択方法が当該分野で知られている。本発明で使用されうる他の選択方法は、インビボ方法のようなディスプレイに依存しない方法を含む。「定向進化」法と称される選択方法のサブセットは、しばしば新規な変異の導入と共に、選択中に好ましい配列の接合又はブレッディング(breading)を含むものである。
ある実施態様では、変異体IgGは、一又は複数の細胞ベース又はインビボアッセイを使用してスクリーニングされる。そのようなアッセイでは、精製又は未精製タンパク質は典型的には細胞がライブラリーに属する個々の変異体又は変異体のプールに暴露されるように、外因的に添加される。これらのアッセイは、典型的には、必ずしもではないが変異体IgGの機能;つまり、その標的に結合し、幾つかの生化学的事象、例えばエフェクター機能、リガンド/レセプター結合阻害、アポトーシス等を媒介する変異体IgGの能力に基づく。そのようなアッセイは、IgGに対する細胞の応答、例えば細胞増殖、細胞遊走、血管新生、細胞生存、細胞死、細胞形態における変化、又は転写活性化、例えば天然遺伝子又はレポーター遺伝子の細胞性発現をモニターすることをしばしば含む。例えば、そのようなアッセイは、ADCC、ADCP、又はCDCを誘発するIgG変異体の能力を測定しうる。幾つかのアッセイでは、標的細胞に加えて、更なる細胞又は成分、例えば血清補体、又はエフェクター細胞、例えば末梢血単球(PBMCs)、NK細胞、マクロファージ等が添加される必要がある場合がある。そのような更なる細胞は、任意の生物、好ましくはヒト、マウス、ラット、ウサギ、及びサル由来であり得る。ある実施態様では、抗体は血管新生を阻害し得、そのような活性をモニターする方法は当該分野でよく知られている。更に他の実施態様では、抗体は、標的を発現するある種の細胞株のアポトーシスを引き起こし得、又はそれらはアッセイに添加されている免疫細胞への攻撃を媒介しうる。細胞死又は生存率をモニターする方法は当該分野で知られており、染料、免疫化学、細胞化学、及び放射性試薬の使用を含む。転写活性化は、また細胞ベースアッセイにおける機能をアッセイするための方法となりうる。あるいは、細胞ベーススクリーニングは、変異体をコードする核酸で形質転換又は形質移入された細胞を使用して実施される。つまり、変異体IgGは細胞に外因的には添加されない。
変異体IgGの生物学的性質は、細胞、組織、及び全生物実験において特徴づけることができる。薬剤は、疾患又は疾患モデルに対する治療についての薬剤の効果を測定するため、又は薬剤の薬物動態、毒性、及び他の性質を測定するために、しばしば、限定しないが、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、及びサルを含む動物において試験される。動物は疾患モデルと称されうる。治療剤は、しばしば、限定しないが、ヌードマウス、SCIDマウス、異種移植マウス、及びトランスジェニックマウス(ノックイン及びノックアウトを含む)を含むマウスで試験される。そのような実験は、治療剤として使用されるタンパク質の潜在性を決定するための意味のあるデータを提供しうる。任意の生物、好ましくは哺乳動物を試験に使用することができる。例えば、ヒトに対するその遺伝的類似性のため、サルが適切な治療モデルであり得、よって変異体IgGの効果、毒性、薬物動態、又は他の性質を試験するために使用できる。ヒトでの試験が薬剤としての承認には最終的に必要とされ、よってこれらの実験ももちろん考慮される。よって、変異体IgGは、その治療効果、毒性、免疫原性、薬物動態、及び/又は他の臨床的性質を決定するためにヒトにおいて試験されうる。
変異体IgGの治療的使用
変異体IgGは広い範囲の製品における使用が見出されうる。ある実施態様では、IgG変異体は治療、診断、又は研究試薬である。変異体IgGは、モノクローナル又はポリクローナルである抗体組成物における使用が見出されうる。ある実施態様では、変異体IgGは、VEGFのような標的抗原をブロックし、アンタゴナイズし又はアゴナイズするために使用される。ある実施態様では、変異体IgGは、VEGF活性をブロックし又は中和するために使用される。一実施態様では、VEGF活性は血管新生である。
変異体IgGは、限定しないが、「定義」の下にここで定義された腫瘍性及び/又は非腫瘍性疾患を持つ患者を治療することを含む様々な治療目的に使用されうる。ある実施態様では、腫瘍性疾患は癌である。ある実施態様では、患者は最初に野生型IgGで治療され、後に変異体IgGで治療される。一実施態様では、患者は最初にベバシズマブで治療され、ついで後で変異体IgG、例えば、ベバシズマブの変異体で治療される。ある実施態様では、患者はベバシズマブで約6ヶ月間治療され、ついで後で変異体IgG、例えば、ベバシズマブの変異体で治療される。
使用が承認され、臨床治験中で、又は開発中である多くの抗体及びFc融合体はここでは「臨床品及び候補」と称される。ある実施態様では、本発明の変異体IgGは、臨床品及び候補の範囲において使用が見出されうる。修飾されうる抗体の例は、限定しないが、VEGF、EGFR(ErbB−1)、Her2/neu(ErbB−2)、Her3(ErbB−3)、Her4(ErbB−4)、CD20、IgE、CD11、低密度リポタンパク質(LDL)、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン13(IL−13)、C型肝炎のエピトープ、A−β、IL−17A、IL−17F、DR6、DR5、ヒトサイトメガロウイルスのエピトープ、staph aureus(黄色ブドウ球菌)のエピトープ、組織因子、α4β7インテグリン、α5β1インテグリン、CTLA4、CD3、RSVのエピトープ、NFα、CD147、IL8、MUC18、MUC1、α4β1(VLA−4)インテグリン、リンホトキシンαレセプター、リンホトキシンβレセプター(LTBR)、TGF−β2、IL−12、TGFβ1、エオタキシン1、BAFF、TRAIL−R1、IL15、ヘパラナーゼI;CD40、CD154、CD80、CD23、マクロファージ遊走因子(MIF)、KDR、flk−1、VEカドヘリン、癌胎児抗原(CEA)、CD22、CTLA4、CD30、細胞接着分子−1、抗線維芽細胞増殖因子レセプター3(FGFR−3)、γインターフェロン、IL−12、Ep−CAM抗体及びβ2インテグリンのような標的抗原に結合することができる抗体を含む。
修飾されうる臨床品及び候補の例は、限定しないが、抗VEGF抗体アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ, Genentech) (例えば、その全体が出典明示により援用される米国特許第7169901号を参照);ヒト化抗HER2モノクローナル抗体 ハーセプチン(登録商標)(トラスツズマブ, Genentech) (例えば、その全体が出典明示により援用される米国特許第6489447号を参照);キメラ抗CD20抗体リツキサン(登録商標)(リツキシマブ, IDEC/Genentech/Roche);抗IgE抗体 ゾレア(登録商標)(オマリズマブ,Genentech);他の抗CD20抗体;抗CD11a抗体ラプティバ(登録商標)(エファリズマブ, Genentech/Xoma);抗Her2抗体オムニターグ(登録商標)(パーツズマブ,Genentech);抗oxLDL抗体 (例えば、その全体が共に出典明示により援用される米国特許出願公開第20040202653号及び国際公開第2004030607号を参照);抗CD4抗体MTRX1011A (例えば、その全体が出典明示により援用される国際公開第02/102853号を参照);標的抗原がIL−4及びIL−13である二重特異性抗体;抗HCV抗体;抗IL−17A/F抗体;抗A−β抗体;抗DR6抗体;抗ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)抗体;抗HERレセプターファミリー抗体;抗組織因子抗体;α4β7インテグリンに対するヒト化IgG1モノクローナル抗体であるMLN−02抗体(以前はLDP−02, Genentech/Millennium Pharmaceuticals);ヒト化抗CD18 F(ab’)2抗体;及びヒト化抗IgE IgG1抗体rhuMab−E25 (Genentech/Norvartis/Tanox Biosystems)を含む。
そのように修飾されうる更なる臨床品及び候補の例は、限定しないが、非ホジキンリンパ腫の治療に承認されているキメラ抗CD20抗体;抗CD20抗体HuMax−CD20(Genmab);抗CD20抗体AME−133(例えば、その全体が出典明示により援用される米国特許第5500362号,Applied Molecular Evolution);hA20(Immunomedics, Inc.)、HumaLYM(Intracel)、及びPRO70769(その全体が出典明示により援用されるPCT/US2003/040426)を含む。EGFR(ErbB−1)、Her2/neu(ErbB−2)、Her3(ErbB−3)、Her4(ErbB−4)を含む上皮増殖因子レセプターのファミリーのメンバーを標的とする多くの抗体はまた本発明に記載されたFc領域への修飾から恩恵を受けうる。例えば、IgG変異体は、アービタックス(登録商標)(セツキシマブ,Imclone) (双方ともその全体が出典明示により援用される米国特許第4943533号;国際公開第96/40210号);様々な癌の臨床実験におけるキメラ抗EGFR抗体;ABX−EGF(その全体が出典明示により援用される米国特許第6235883号,Abgenix/Immunex/Amgen);HuMax−EGFr(その全体が出典明示により援用される米国特許出願第10/172317号,Genmab);425、EMD55900、EMD62000、及びEMD72000(Merck KGaA) (その全体が全て出典明示により援用される米国特許第5558864号;Murthy等 1987, Arch Biochem Biophys. 252(2):549-60;Rodeck等, 1987, J Cell Biochem. 35(4):315-20;Kettleborough等, 1991, Protein Eng. 4(7):773-83);ICR62 (Institute of Cancer Research)(その全体が全て出典明示により援用される国際公開第95/20045号;Modjtahedi等, 1993, J. Cell Biophys. 1993, 22(1-3):129-46;Modjtahedi等, 1993, Br J Cancer. 1993, 67(2):247-53;Modjtahedi等, 1996, Br J Cancer, 73(2):228-35;Modjtahedi等, 2003, Int J Cancer, 105(2):273-80);TheraCIM hR3(YM Biosciences, Canada 及びCentro de Immunologia Molecular, Cuba (その全体が全て出典明示により援用される米国特許第5891996号;同第6506883号;Mateo等, 1997, Immunotechnology, 3(1):71-81);mAb−806(Ludwig Institute for Cancer Research, Memorial Sloan-Kettering) (Jungbluth等 2003, Proc Natl Acad Sci U S A. 100(2):639-44);KSB−102(KS Biomedix,その全体を出典明示により援用);MR1−1(IVAX, National Cancer Institute)(その全体が出典明示により援用される国際公開第0162931A2号);及びSC100(Scancell)(その全体が出典明示により援用される国際公開第01/88138号)と実質的に同様な抗体に用途が見出されうる。ある実施態様では、本発明のIgG変異体は、B細胞慢性リンパ性白血病の治療に対して現在承認されているヒト化モノクローナル抗体のキャンパス(登録商標)(アレムツズマブ,Genzyme Corporation)に用途が見出されうる。本発明のIgG変異体は、限定するものではないが、VEGF−Trap(Regeneron);ムロモナブ−CD3(オルソクローンOKT3(登録商標))、抗CD3抗体(Ortho Biotech/Johnson & Johnson);抗CD20抗体ゼバリン(登録商標)(イブリツモマブチウキセタン,IDEC/Schering AG);抗CD33抗体マイロターグ(登録商標)、(p67タンパク質)抗体 ゲムツズマブ・オゾガマイシン(Celltech/Wyeth);抗LFA−3 Fc融合体抗体アメビブ(登録商標)(アレファセプト,Biogen);レオプロ(登録商標)(アブシキシマブ, Centocor/Lilly);シムレクト(登録商標)(バシリキシマブ,Novartis);シナジス(登録商標)(パリビズマブ,MedImmune);抗TNFalpha抗体レミケード(登録商標)(インフリキシマブ,Centocor);抗TNFα抗体ヒュミラ(登録商標)(アダリムマブ,Abbott);ヒト化IgG4抗TNF抗体HUMICADE(登録商標)(Celltech);抗TNFαFc融合体エンブレル(登録商標)(エタネルセプト,Immunex/Amgen);抗CD147抗体ABX−CBL(Abgenix);抗IL8抗体ABX−IL8(Abgenix);抗MUC18抗体ABX−MA1(Abgenix);抗MUC1抗体 ペムツモマブ(pemtumomab)(R1549,90Y−muHMFG1)(Antisoma);抗MUC1抗体therex(R1550)(Antisoma);AngioMab(AS1405)(Antisoma);HuBC−1(Antisoma);チオプラチン(AS1407)(Antisoma);タイサブリ(登録商標)(先のアンテグレン(登録商標),マタリズマブ)、抗α−4−β−1(VLA−4)及びα−4−β−7抗体(Biogen)抗VLA−1インテグリン抗体VLA−1mAb(Biogen);抗リンホトキシンβレセプター(LTBR)抗体LTBRmAb(Biogen);抗TGF−β2抗体CAT−152(Cambridge Antibody Technology);J695,抗IL−12抗体 (Cambridge Antibody Technology/Abbott);CAT−192,抗TGFβ1抗体(Cambridge Antibody Technology/Genzyme);CAT−213,抗エオタキシン1抗体 (Cambridge Antibody Technology);LYMPHOSTAT−B(登録商標),抗Blys抗体 (Cambridge Antibody Technology/ Human Genome Sciences Inc.;TRAIL−R1mAb,抗TRAIL−R1抗体 (Cambridge Antibody Technology/Human Genome Sciences, Inc.);HUMAX−CD4,抗CD4抗体 (Genmab);HuMax−IL15,抗IL15抗体(Genmab/Amgen);HuMax−Inflam(Genmab/ Medarex);HuMax−癌,抗ヘパラナーゼI抗体(Genmab/Medarex/Oxford GlycoSciences);HuMax−リンパ腫(Genmab/Amgen);HuMax−TAC(Genmab);IDEC−131,抗CD40L抗体(IDEC Pharmaceuticals); (clenoliximab), 抗CD4抗体 (IDEC Pharmaceuticals);IDEC−114,抗CD80抗体(IDEC Pharmaceuticals);IDEC−152,抗CD23抗体(IDEC Pharmaceuticals);抗マクロファージ遊走因子(MIF)抗体(IDEC Pharmaceuticals);BEC2,抗イディオタイプ抗体(Imclone);IMC−1C11,抗KDR抗体(Imclone);DC101,抗flk−1抗体(Imclone);抗VEカドヘリン抗体(Imclone);CEA−CIDER(ラベツズマブ),抗癌胎児抗原(CEA)抗体 (Immunomedics);LYMPHOCIDE(登録商標)(エピラツズマブ),抗CD22抗体 (Immunomedics);AFP−Cide(Immunomedics);MyelomaCide(Immunomedics);LkoCide(Immunomedics);ProstaCide(Immunomedics);MDX−010,抗CTLA4抗体 (Medarex);MDX−060,抗CD30抗体(Medarex);MDX−070(Medarex);MDX−018(Medarex);OSIDEMR(IDM−1),抗Her2抗体 (Medarex /Immuno-Designed Molecules);CNTO148,抗TNFα抗体 (Medarex/Centocor/J&J);CNTO1275,抗サイトカイン抗体 (Centocor/J&J);MOR101及びMOR102,抗細胞接着分子−1(ICAM−1,CD54としても知られる)抗体(MorphoSys);MOR201,抗線維芽細胞増殖因子レセプター3(FGFR−3)抗体(MorphoSys);NUVION(登録商標)(ビジリズマブ),抗CD3抗体 (Protein Design Labs);HuZAFR,抗γインターフェロン抗体(Protein Design Labs);α5β1インテグリンに対する抗体(Protein Design Labs);抗IL−12(Protein Design Labs);ING−1,抗Ep−CAM抗体 (Xoma);及びMLN01,抗β2インテグリン抗体 (Xoma)を含む他の臨床品及び候補に実質的に同様な様々な抗体又はFc融合体に用途が見出され得、この段落中の上に引用した文献の全てを出典明示によりここに明示的に援用する。
本発明のIgG Fc領域に修飾を有する変異体IgGは、上述の臨床候補及び製品中に、又はそれらと実質的に同様の抗体及びFc融合体中に導入されうる。本発明の変異体IgGは、また、ヒト化され、親和性成熟され、遺伝子操作され、又は何らかの他の方法で修飾されている上述の臨床候補及び製品のバージョン中に導入されうる。
ある実施態様では、本発明の変異体IgGは、癌を発症するリスクのある患者において、良性、前癌性、又は非転移性癌の治療において;休止中の腫瘍又は微小転移性癌の治療に対して;腫瘍再発又は再増殖の予防に対して;又は癌の治療又は予防に対して、用途が見出されうる。例えば、ここに記載のFc修飾を含む変異体IgGは、根治手術後の、非転移性癌の患者の治療においてアジュバント療法のために、又は手術可能な癌を持つ患者の治療のためのネオアジュバント療法であって、患者において手術可能な癌の外科的除去前に提供される治療法のために使用することができる。治療的応用は以下に予防、ネオアジュバント療法、及びアジュバント療法に分離されるところ、これらのカテゴリーは必ずしも相互に排他的ではないことは当業者によって理解されるであろう。
腫瘍の分類
癌段階付けシステムは、癌が解剖学的に如何に遠くに拡がるかを記述しており、同じステージの集団において類似の予後及び治療に患者を置くことを試みるものである。生検及び所定の画像法、例えば胸部X線、マンモグラム、骨スキャン、CTスキャン、及びMRIスキャンを含む幾つかの試験を癌の段階付けの補助として実施されうる。また、血液検査及び臨床評価を使用して、患者の全体的な健康状態を評価し、癌が所定の器官まで拡がったかどうか検出する。
癌を段階付けするために、対癌米国合同委員会は先ずTNM分類システムを使用して、癌、特に固形腫瘍に文字分類を付す。癌は、文字T(腫瘍サイズ)、N(触診可能な節)、及び/又はM(転移)で示される。T1、T2、T3、及びT4は、原発性病巣のサイズの増加を表し、N0、N1、N2、N3は、次第に進行する節の併発を示し;M0及びM1は、遠位転移の有無を反映する。
総合段階分類法(Overall Stage Grouping)又はローマ数字段階付け法(Roman Numeral Staging methods)としても知られる第二の段階付け法では、原発性病巣のサイズと節拡散及び遠位転移の存在を取り入れて、癌はステージ0からIVに分けられる。このシステムでは、症例はローマ数字によって表されるIからIVの4つのステージに分類されるか、又は「再発」と分類される。幾つかの癌では、ステージ0は非浸潤性乳管癌又は上皮内小葉癌などを「インサイツ」又は「Tis」と称されている。高グレードの腺腫もまたステージ0と分類されうる。一般に、ステージIの癌は、通常治療可能である小さな限局した癌であるのに対して、ステージIVは通常手術の不可能な癌又は転移性の癌を表す。ステージII及びIIIの癌は、通常局所的に進行しており、及び/又は局所のリンパ節の併発を表す。一般に、より高いステージの番号は、腫瘍サイズの拡大、及び/又は近辺リンパ節及び/又は原発性腫瘍に近接する臓器への癌の拡散を含む、より広域の疾患を表す。これらの段階付けは正確に定められるが、定義は各々の種類の癌について異なっており、当業者に知られている。
NCIのサーベイランス、疫学及び最終結果プログラム(End Results Program)(SEEG)などの多くの癌レジストリーは略式の段階付けを用いる。このシステムは全種類の癌に用いられる。癌の症例を5の主なカテゴリーに分類する。
インサイツ(In situ)は、発生した細胞の層にだけ存在する初期癌である。
限局(Localized)は、発生した臓器に限局しており、拡散の所見が見られない癌である。
局所(Regional)は、近くのリンパ節又は器官及び組織に起源の(原発性)部位を越えて蔓延した癌である。
遠位(Distant)は、原発性部位から遠位器官又は遠位リンパ節まで蔓延した癌である。
未知(Unknown)は、段階を表すために十分な情報がない症例を表すために用いる。
また、原発性腫瘍が取り除かれた後、癌が数か月又は数年戻ることは、一般的である。全ての目に見える腫瘍が根絶された後に繰り返される癌は、再発性疾患と呼ばれている。原発性腫瘍の領域で繰り返される疾患は局所的に再発性であり、転移として繰り返される疾患は遠位性再発と称される。休止中の腫瘍は、腫瘍細胞が存在している静止状態で存在する腫瘍であるが、腫瘍発達は臨床的に見られない。微小転移性癌(micrometastases)は、原発性腫瘍から身体の他の部分に広がった僅かな転移又は多くの細胞である。微小転移性癌は、スクリーニング又は診断検査において検出されるかもしれないし、検出されないかもしれない。本発明の方法は、例えば、休止中の腫瘍又は微小転移性癌が存在するが臨床的には検出される、もしくは検出されない環境で、休止腫瘍ないしは微小転移性癌の発症又は腫瘍の再発を予防するために有用である。
本発明の方法は、良性、前癌性又は非転移性の腫瘍を含むがこれらに限定されない初期癌の治療にも有用である。これには、任意のステージ0、I又はIIの腫瘍、任意の非転移性ステージII腫瘍、形成異常を含むがこれに限定されない、典型的に癌に先立つ又は癌に発達する任意の状態、及び、起源の部位に局所化されたままで、遠位の部位に浸潤、侵入ないしは転移しない任意の腫瘍が含まれる。良性、前癌性又は非転移性の腫瘍の例には、ポリープ、腺腫、線維腫、脂肪腫、ガストリン産生腫瘍、インスリノーマ、軟骨腫、骨腫、血管腫、リンパ管腫、髄膜腫、平滑筋腫、横紋筋腫、扁平細胞パピローマ、聴覚の神経腫、神経線維腫、胆管嚢胞腺腫(cystanoma)、平滑筋腫、中皮腫、テラトーマ、粘液腫、トラコーマ、肉芽腫、過誤腫、移行細胞パピローマ、唾液腺の多形性腺腫、類腱腫、類皮嚢胞乳頭種、嚢腺腫、局所性結節過形成、結節性の再生性過形成が含まれる。
血管新生は原発性腫瘍増殖と転移の双方に関与しているので、本発明によって提供される抗血管新生治療は、原発性部位での腫瘍の新生物増殖を阻害し、並びに続発性部位での腫瘍の転移を防止し、よって他の治療剤による腫瘍の攻撃を可能にする。
アジュバント及びネオアジュバント療法及び初期のステージの腫瘍の治療に関する更なる情報は、米国特許出願第12/002605号及びPCT出願PCT/US2007/088000に開示されており、これらの特許出願の内容は出典明示によりここに明示的に援用される。
予防
ある実施態様では、変異体IgGは、良性、前癌性又は早い段階の癌の治療のために、又は、腫瘍再発の治療又は防止のために使われうる。ある実施態様では、変異体IgGは抗VEGF抗体である。一実施態様では、変異体IgGはベバシズマブの変異体である。一実施態様では、変異体IgGは、ベバシズマブの相補性決定領域を含む。他の実施態様では、変異体IgGは重鎖可変ドメイン(配列番号:1)及び軽鎖可変ドメイン(配列番号:2)を含む。更に他の実施態様では、変異体IgGは重鎖可変ドメイン(配列番号:7)及び軽鎖可変ドメイン(配列番号:8)を含む。
該方法を用いて癌その物を治療するか、又は転移性ないしは浸潤性の段階又はより高いグレードないしはステージへの癌の進行を予防することができる。例えば、本発明の方法は、ステージI又はより高い段階の腫瘍への進行を予防するために、ステージ0の癌又はポリープを有する患者を治療するために用いられうる。同様に、ステージIIの癌を有する患者では、該方法は、ステージIII又はステージIVの癌への癌の進行を予防するために使用できる。
また、変異体IgGは、腫瘍の再発を予防するために用いることもできる。例えば、腫瘍が同定され、治療された場合(例えば、化学療法により又は外科的に取り除かれる)、変異体IgGは、局所的な結腸直腸腫瘍の再発又は結腸直腸腫瘍の転移を予防するために用いてもよい。腫瘍の再発の予防のために、変異体IgGは、例えば、休止中の腫瘍又は微小転移性癌を治療するため、又は休止中の腫瘍又は微小転移性癌の成長又は再成長を予防するために用いてもよく、これは臨床的に検出可能であっても又はそうでなくともよい。
ある実施態様では、変異体IgGは、癌に罹ったことがない被験者又は癌を発症するリスクがある被験者において癌の予防に使用できる。癌と関係していることが知られている様々な危険因子があり、それらの多くをここに記載している。また、遺伝性癌症候群を有することが知られている被験者は、癌を発症する危険があると考えられる。
ネオアジュバント療法
本発明は、被検体、例えばヒト患者の手術可能な癌の外科的除去の前のネオアジュバント療法であって、患者(例えば、ここで患者は、腫瘍及び/又は癌と診断されている)に変異体IgGの有効量を投与することを含む方法を提供する。ある実施態様では、変異体IgGは抗VEGF抗体である。一実施態様では、変異体IgGはベバシズマブの変異体である。一実施態様では、変異体IgGは、ベバシズマブの相補性決定領域を含む。他の実施態様では、変異体IgGは重鎖可変ドメイン(配列番号:1)及び軽鎖可変ドメイン(配列番号:2)を含む。更に他の実施態様では、変異体IgGは重鎖可変ドメイン(配列番号:7)及び軽鎖可変ドメイン(配列番号:8)を含む。
ある実施態様では、変異体IgGは、少なくとも一の化学療法剤と組み合わせて投与される。また、癌の再発を予防するために手術後に被検体に変異体IgGの有効量を投与する更なる工程は、ここに記載のネオアジュバント療法によって使用されてもよい。手術後に被検体に変異体IgGの有効量を投与する更なる工程を含む方法では、ここに記載のアジュバント法の何れかが用いられうる。
例えば、一方法は、以下の工程を含む被検体の癌を治療することを含む:a) 各治療周期が、所定の間隔で、変異体IgGの有効量と、場合によって少なくとも一つの化学療法剤を被検体に投与することを含む、複数の治療周期を含む第一段階;b) 癌が取り除かれる根治手術;及び、場合によって、c) 各維持周期が、所定の間隔で、何れの化学療法剤も伴わずに、又は何れかの化学療法剤と共に、変異体IgGの有効量を被検体に投与することを含む、複数の維持周期を含む第二段階。
投与スケジュールの一実施態様では、ネオアジュバント療法は、変異体IgG及び一又は複数の化学療法剤が複数のネオアジュバント周期で患者に投与される第一工程を含み、ついで外科手術により腫瘍が根治的に除去される。ある実施態様では、ネオアジュバント療法は1年未満続き、一実施態様では、外科手術前の6ヶ月未満続く。
アジュバント療法
本発明は、根治手術の後に、変異体IgGを非転移性の癌を有する被検体に投与することを含むアジュバント療法の方法を提供する。ある実施態様では、変異体IgGは抗VEGF抗体である。一実施態様では、変異体IgGはベバシズマブの変異体である。一実施態様では、変異体IgGは、ベバシズマブの相補性決定領域を含む。他の実施態様では、変異体IgGは重鎖可変ドメイン(配列番号:1)及び軽鎖可変ドメイン(配列番号:2)を含む。更に他の実施態様では、変異体IgGは重鎖可変ドメイン(配列番号:7)及び軽鎖可変ドメイン(配列番号:8)を含む。
例えば、方法は、次の工程:a) 各治療周期が、所定の間隔で、変異体IgGの有効量と、場合によって少なくとも一つの化学療法剤を被検体に投与することを含む、複数の治療周期を含む第一段階;及びb) 各維持周期が、所定の間隔で、何れの化学療法剤も伴わずに、変異体IgGの有効量を被検体に投与することを含む、複数の維持周期を含む第二段階を含み得、ここで、組み合わせた第一及び第二の段階は最初の術後治療後少なくとも1年間継続する。一実施態様では、第一段階は、変異体IgGと第一化学療法投薬計画が投与される第一の複数の治療周期の後に、変異体IgGと第二化学療法投薬計画が投与される第二の複数の治療周期を含む。
変異体IgGは、一般に、被検体が手術から回復した期間の後に投与される。この期間には、外科的な切開の創傷治癒又は治癒に必要な期間、創傷裂開のリスクが低くなるために必要な期間、又は手術前の健康レベルと本質的に同等か又はそれより良好な健康レベルに回復するために被検体に必要とされる期間が含まれうる。また、根治手術の完了と変異体IgGの第一投与との間の期間には、被検体が治療的投薬の間に一定の時間を必要とするか又は患者が求める休薬期間に必要な期間が含まれうる。一般に、根治手術の完了と変異体IgG療法の開始との間の期間には、1週間未満、1週間、2週間、3週間、4週間(28日)、5週間、6週間、7週間、8週間、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月、1年、2年、3年、又はそれ以上が含まれうる。一実施態様では、根治手術と変異体IgGの投与との間の期間は、4週(28日)を超え、1年未満である。
一実施態様では、アジュバント療法は、変異体IgG及び一又は複数の化学療法剤が複数の治療サイクルで患者に投与される第一ステージと;変異体IgGが複数の維持サイクルにおいて単一の薬剤として使用される第二ステージとを含む。ある実施態様では、変異体IgGはベバシズマブの変異体であり、治療サイクルは8週間とでき、これは、患者が化学療法一用量と変異体ベバシズマブ一用量を8週間毎に受けることを意味する。ある実施態様では、治療サイクルはまた12週間とでき、これは、患者が化学療法一用量と変異体ベバシズマブ一用量を12週間毎に受けることを意味する。ある実施態様では、アジュバント療法は、治療の開始から少なくとも1年間続き、患者の進行がその後、追跡される。治療の進行は一般的な技術及びアッセイによって容易にモニターされる。
投薬量、製剤、及び持続期間
変異体IgG組成物は、良好な医療実務に一致した形で製剤化され、用量決定され、投与される。この文脈で考慮する要因は、治療される特定の疾患、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、疾患の原因、薬剤のデリバリー部位、投与の方法、投与のスケジューリング、及び医師が知る他の因子を含む。疾患の予防又は治療では、(単独で又は一又は複数の他の更なる治療剤と組み合わせて使用される場合)本発明の変異体IgG、例えば抗体の適切な投薬量は、治療される疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重篤度及び過程、抗体が予防目的か又は治療目的で投与されるかどうか、過去の療法、患者の臨床履歴及び抗体に対する応答、及び主治医の裁量に依存する。変異体IgGは一度に又は一連の治療にわたって患者に適切に投与される。
ここでの薬学的製剤は、治療される特定の適応症に対して必要な一を越える活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を持つものをまた含みうる。そのような分子は、好適には、意図される目的に効果的である量で組み合わせて存在する。
投与される変異体IgG、例えば抗体の「治療的に有効な量」は、ここで検討された考慮に支配され、疾病又は疾患を予防し、寛解させ、又は治療するのに必要な最小量である。ある実施態様では、投与される変異体IgGの「治療的に有効な量」は、良性、前癌性又は初期段階の癌を予防、寛解、又は治療、又は安定化させるために;又は例えば、ネオアジュバント又はアジュバント設定において、腫瘍、休止中の腫瘍、又は微小転移性癌の発生又は再発治療又は予防するために必要な最少量である。変異体IgGは必要ではないが場合によって、当該疾患を予防又は治療するために現在用いられている一又は複数の薬剤と共に製剤化される。そのような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する変異体IgGの量、疾患又は治療の種類、及び上で検討された他の因子に依存する。これらは、一般に、これまでに使用されるものと同じ用量及び投与経路で、又はこれまでに用いられた用量の約1から99%で、用いられる。一般に、疾病又は疾患の寛解又は治療は、疾病又は疾患に伴う一又は複数の症状又は医療的問題を減少させることを含む。癌の場合は、治療的に有効な量の薬剤により、次のものの一つ又は組合せを成し遂げることができる:癌細胞の数の減少;腫瘍サイズの減少;癌細胞の周辺器官への浸潤の阻害(すなわち、ある程度に遅く、典型的には止める);腫瘍の転移の阻害;腫瘍の増殖のある程度の阻害;及び/又は疾患に関連する一又は複数の症状のある程度の緩和。薬剤が増殖を妨げ及び/又は現存の癌細胞を殺すことが可能な程度で、それは細胞***停止性及び/又は細胞傷害性である。幾つかの実施態様では、この発明の組成物は、患者又は哺乳動物における疾病又は疾患の発症又は再発を予防するために使用できる。
ある実施態様では、治療の持続期間は、医学的に示される限り、又は所望の治療効果(例えばここに記載のもの)が達成されるまで、継続するであろう。ある実施態様では、変異体IgG療法は、2か月、4か月、6か月、8か月、10か月、1年、2年、3年、4年、5年間、10年又は患者の寿命までの年数の間続けられる。
一般に、良性、前癌性又は初期の癌の緩和ないしは治療又は癌(良性又は悪性)のアジュバントないしはネオアジュバント療法は、癌に関係する一又は複数の症状又は医学的な問題を少なくすることを伴う。薬剤の治療的に有効な量により、腫瘍中の癌細胞数を(例えば、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%又はそれ以上)低減すること、腫瘍のサイズを低減すること、腫瘍量を低減すること、末梢器官への癌細胞浸潤を阻害する(すなわち、ある程度低減するか及び/又は停止する)こと、腫瘍の脈管密度を低減すること、腫瘍転移を阻害すること、腫瘍成長又は腫瘍細胞増殖を低減するか又は阻害すること、休止中の腫瘍の成長を低減するか又は予防すること、微小転移性癌の成長又は増殖を低減するか又は予防すること、(例えばアジュバント療法において)治療ないしは除去後の腫瘍の再増殖を低減するか又は予防すること、良性、前癌性又は非転移性腫瘍ないしは悪性腫瘍に罹りやすいか、又はそのように診断された被検体のDFS又はOSを増やすか又は延ばすこと、(例えばネオアジュバント療法において)手術が可能になるまで腫瘍のサイズを低減すること、及び/又は癌関連の症状の一又は複数をある程度軽減すること、の一又は組み合わせを達成することができる。幾つかの更なる実施態様では、変異体IgGは、被検体の癌の発生又は再発を予防するために用いられうる。
疾患の予防又は治療に対して、本発明の変異体IgGの適切な投薬量(単独で又は一又は複数の他の更なる治療剤と組み合わせて使用される場合)は、治療される疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重篤度及び過程、変異体IgGが予防目的か又は治療目的で投与されるかどうか、過去の療法、患者の臨床履歴及び変異体IgGに対する応答、及び主治医の裁量に依存する。ある実施態様では、変異体IgGは一度に又は一連の治療にわたって患者に適切に投与される。疾患のタイプ及び重篤度に応じて、変異体IgGの約1μg/kgから20mg/kg(例えば、0.1mg/kg−15mg/kg)が、例えば一又は複数の別個の投与であれ、又は連続的注入によるものであれ、患者への投与に対する最初の候補投薬量でありうる。一つの典型的な毎日の投薬量は、上述の因子に応じて、約1μg/kgから100mg/kg又はそれ以上の範囲であるかも知れない。数日又はそれ以上にわたる繰り返し投与の場合、症状に応じて、治療は、疾患症状の所望の抑制が生じるまで一般に維持されるであろう。一実施態様では、症状に応じて、治療は、ここに記載され又は当該分野で知られている方法によって測定して、癌が治療されるまで、維持される。変異体IgGの一つの例示的な投薬量は、約0.05mg/kgから約20mg/kgの範囲でありうる。よって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、7.5mg/kg、10mg/kg又は15mg/kg(又はその任意の組合せ)の一又は複数の用量が患者に投与されうる。そのような用量は、間欠的に、例えば3週毎、8週毎又は12週毎(例えば患者が約2から約20、又は例えば約6用量の抗体を受けるように)に投与されうる。ある実施態様では、最初の高い負荷用量と続く一又は複数の低用量を投与することができる。ある実施態様では、投薬計画は、約4mg/kgの初期負荷用量と、続く約2mg/kgの抗体の毎週の維持用量を投与することを含む。しかしながら、他の投薬計画も有用な場合がある。この治療法の進行は一般的な技術及びアッセイによって容易に投与される。
ある実施態様では、変異体IgGは抗VEGF抗体である。ある実施態様では、変異体IgGはベバシズマブの変異体である。
ある実施態様では、変異体IgGの投与の頻度は、変異体IgGの増加した半減期のため、野生型IgGの投与の頻度と比較して低減される。ある実施態様では、変異体IgGは、野生型IgGの推奨され又は処方された投薬頻度よりも少ない頻度で投与される。
変異体IgGがバシズマブの変異体である所定の実施態様では、変異体IgGは、4週間毎又はより長い間隔で投与されうる。他の実施態様では、変異体IgGは、6週間毎又はより長い間隔で投与されうる。他の実施態様では、変異体IgGは、8週間毎又はより長い間隔で投与されうる。他の実施態様では、変異体IgGは、10週間毎又はより長い間隔で投与されうる。他の実施態様では、変異体IgGは、12週間毎又はより長い間隔で投与されうる。
ある実施態様では、変異体IgGは最初は2週間毎に、続いて4週間毎又はより長い間隔で投与されうる。他の実施態様では、変異体IgGは最初は2−3週間毎に、続いて6週間毎又はより長い間隔で投与されうる。他の実施態様では、変異体IgGは最初は2−4週間毎に、続いて8週間毎又はより長い間隔で投与されうる。他の実施態様では、変異体IgGは最初は2−5週間毎に、続いて10週間毎又はより長い間隔で投与されうる。他の実施態様では、変異体IgGは最初は2−6週間毎に、続いて12週間毎又はより長い間隔で投与されうる。ある実施態様では、変異体IgG、例えば、ベバシズマブの変異体が、最初は処方された投薬頻度のベバシズマブが投与され、その後に、ベバシズマブの処方された投薬頻度よりも少ない頻度で投与される。ある実施態様では、ベバシズマブが、最初は処方された投薬頻度のベバシズマブが投与され、その後に、ベバシズマブの変異体がベバシズマブの処方された投薬頻度よりも少ない頻度で投与される。
ある実施態様では、変異体IgGは、14日毎又はより長い間隔で投与される。ある実施態様では、変異体IgGは、21日毎又はより長い間隔で投与される。ある実施態様では、変異体IgGは、28日毎又はより長い間隔で投与される。ある実施態様では、変異体IgGは、60日毎又はより長い間隔で投与される。ある実施態様では、変異体IgGは、毎月又はより長い間隔で投与される。ある実施態様では、変異体IgGは、2ヶ月毎又はより長い間隔で投与される。ある実施態様では、変異体IgGは、3ヶ月毎又はより長い間隔で投与される。
ある実施態様では、患者は変異体IgG及び一又は複数の他の治療剤の組合せで治療される。併用投与には、別個の製剤又は単一の薬学的製剤を用いた同時投与又は併用投与、及び何れかの順序での連続投与が含まれ、ここで、場合によっては両方(又は全て)の活性薬剤が同時にそれらの生物学的活性を示す期間がある。変異体IgGと併用して投与される治療剤の有効量は医師又は獣医の裁量による。投薬量投与及び調節が、治療される症状の最大の管理を達成するためになされる。用量は、使用される治療剤のタイプ及び治療される特定の患者のような因子にまた依存する。ある実施態様では、変異体IgGの適切な投薬量はその野生型IgGに対して現在使用されているものであり、変異体IgGの増加した半減期及び/又は組合せ作用(相乗作用)及び使用される更なる治療剤のために低下されうる。ある実施態様では、阻害剤の組合せは単一の阻害剤の効果を増強する。「増強する」なる用語は、治療剤のその一般的な又は承認された用量での効果の改善を意味する。
ある実施態様では、ここで検討された投薬計画は、化学療法計画との組合せで使用される。ある実施態様では、化学療法計画は、伝統的な高用量間欠投与を伴う。ある実施態様では、化学療法剤は、定期的に中断することなく、より少なくより頻繁な用量を用いて投与される(「メトロノーム的化学療法」)。
ある実施態様では、患者は、変異体IgG及び一又は複数の化学療法剤の組合せで治療される。ある実施態様では、化学療法剤は、変異体IgGの投与の前又は後に投与されうる。一実施態様では、化学療法剤の少なくとも一回の投与と変異体IgGの少なくとも一回の投与の間の時間は、およそ1ヶ月又はそれ以下である。一実施態様では、化学療法剤の少なくとも一回の投与と変異体IgGの少なくとも一回の投与の間の時間は、およそ2ヶ月又はそれ以下である。あるいは、化学療法剤及び変異体IgGは、単一製剤又は別個の製剤で、患者に同時に投与される。化学療法剤及び変異体IgGの組合せでの治療は、患者に対して相乗的又は相加以上の治療的恩恵を生じうる。
投与される場合、化学療法剤は、通常はそれに対して知られている投薬量、又は抗代謝性化学療法剤の投与に起因するネガティブな副作用ないし薬剤の組合せ作用のために場合によっては低い投薬量で投与される。このような化学療法剤の調製及び投薬計画は、製造業者の指示に従って使用されうるか、又は熟練の医師によって経験的に決定されうる。
組み合わされうる様々な化学療法剤は、例えば定義のところで、ここに開示されている。変異体IgGと組み合わされる化学療法剤の例は、限定しないが、例えば、タキソイド(ドセタキセル及びパクリタキセルを含む)、ビンカ(例えばビノレルビン又はビンブラスチン)、白金化合物(例えばカルボプラチン又はシスプラチン)、アロマターゼインヒビター(例えばレトロゾール、アナストラゾール又はエキセメスタン)、抗エストロゲン(例えばフルベストラント又はタモキシフェン)、エトポシド、チオテパ、シクロホスファミド、メトトレキセート、リポソームドキソルビシン、ペグ化リポソームドキソルビシン、カペシタビン、ゲムシタビン、COX-2インヒビター(例えばセレコキシブ)、又はプロテオゾームインヒビター(例えばPS342)を含む。異なった化学療法剤の「カクテル」が投与されうる。
本発明の治療の進行は、一般的な技術及びアッセイによって簡単にモニターされる。
ある実施態様では、腫瘍、休止中の腫瘍又は微小転移性癌の発症は再発の治療又は予防は、一般に腫瘍の最初の治療ないしは除去(例えば、手術、化学療法又は放射線療法などの抗癌療法を使用)後の腫瘍ないしは転移の形成の予防を伴う。手術は、腫瘍細胞又は休止中の微小転移性小結節を残し得、それらは「血管形成プログラム」を再活性化して、より指数関数的な腫瘍増殖を促しうる。休止中の腫瘍又は微小転移性癌の存在が臨床測定値又は選別を使用して必ずしも検出可能であるというわけではないが、治療上有効量は、臨床医に知られている技術を使用して、休止中の腫瘍、微小転移性癌、転移又は腫瘍再発の検出を予防するか又は低減するために十分であるものである。一例では、外科的に腫瘍を除去することによって腫瘍について治療される患者は、その後変異体IgGで治療され、休止中の腫瘍、微小転移性癌又は腫瘍再発の検出のために経時的にモニターされる。変異体IgG、例えば抗VEGF抗体は、(例えば、変異体IgGの前、それと共に、又はその後の)他の抗癌療法と組み合わせて投与され得、一方又は両方の療法は維持療法として継続されうる。
癌の治療における治療効果の更なる測定は米国特許出願公開第20050186208号に記載されている。
本発明の変異体IgG(及び任意の更なる治療剤)は、非経口、皮下、腹腔内、脳脊髄内、肺内、及び鼻腔内、及び局所治療が望まれるならば、病巣内投与を含む任意の適切な手段によって投与されうる。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与を含む。ある実施態様では、変異体IgG、例えば、抗体は、パルス注入によって、特に減少用量の変異体IgGで適切に投与される。投薬は、任意の適切な経路、例えば投与が短期か慢性であるかどうかに部分的に依存して、静脈内又は皮下注射のような注射によるものとできる。ある実施態様では、変異体IgGは、例えば、ボーラスとして又は所定期間にわたる連続注入によって、静脈内に患者に投与される。
本発明の変異体IgG、例えば抗体の結合標的の位置は、変異体IgGの調製及び投与において考慮されうる。変異体IgGの結合標的が脳内に位置している場合、本発明の所定の実施態様は、血液脳関門を横切る変異体IgGを提供する。限定するものではないが、物理的方法、脂質ベースの方法、幹細胞ベースの方法、及びレセプター及びチャンネルベースの方法を含む幾つかの従来から知られている、分子を血液脳関門を横切って輸送するためのアプローチ法が存在する。
血液脳関門を横切って変異体IgG、例えば抗体を輸送する物理的方法は、限定するものではないが、完全に又は血液脳関門において開口を形成することにより血液脳関門を回避することを含む。回避方法は、限定されないが、脳内への直接の注入(例えばPapanastassiou等, Gene Therapy 9: 398-406 (2002)を参照)、間質注入/対流亢進デリバリー(例えば、Bobo等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 2076-2080 (1994)を参照)、及び脳へのデリバリー装置の移植(例えばGill等, Nature Med. 9: 589-595 (2003);及びGliadel WafersTM, Guildford Pharmaceuticalを参照)を含む。関門に開口を形成する方法は、限定されないが、超音波(例えば、米国特許出願公開第2002/0038086号参照)、浸透圧(例えば、高浸透圧マンニトールの投与による(Neuwelt, E. A., Implication of the Blood-Brain Barrier and its Manipulation, Vols 1 & 2, Plenum Press, N.Y. (1989))、例えばブラジキニン又は透過剤A−7による透過(例えば米国特許第5112596号、同第5268164号、同第5506206号、及び同第5686416号)、及び変異体IgGをコードする遺伝子を含むベクターでの血液脳関門にまたがるニューロンの形質移入( 例えば、米国特許出願公開第2003/0083299号を参照)。
血液脳関門を横切って変異体IgG、例えば抗体を輸送する脂質ベースの方法は、限定するものではないが、血液脳関門の血管内皮上のレセプターに結合する抗体結合断片にカップリングされるリポソームへの変異体IgGのカプセル化(例えば、米国特許出願公開第20020025313号を参照)、及び低密度リポタンパク質粒子での変異体IgGの被覆(例えば、米国特許出願公開第20040204354号を参照)又はアポリポタンパク質(例えば、米国特許出願公開第20040131692号を参照)を含む。
血液脳関門を横切って変異体IgG、例えば抗体を輸送する幹細胞ベースの方法は、興味ある抗体を発現する神経前駆細胞(NPCs)を遺伝的に操作し、ついで治療される個体の脳中に幹細胞を移植することを伴う。Behrstock等 (2005) Gene Ther. 15 Dec. 2005 アドバンストオンライン刊行物(神経栄養因子GDNFを発現するように遺伝子操作されたNPCsが齧歯類及び霊長類モデルの脳内に移植されたときにパーキンソン病の症状を減少させたことを報告している)を参照。
血液脳関門を横切って変異体IgG、例えば抗体を輸送するレセプター及びチャンネルベースの方法は、限定するものではないが、血液脳関門の透過性を増加させるためのグルココルチコイドブロッカーの使用(例えば、米国特許出願公開第2002/0065259号、第2003/0162695号、及び第2005/0124533号);カリウムチャンネルの活性化(例えば、米国特許出願公開第2005/0089473号を参照)、ABC薬剤トランスポーターの阻害(例えば、米国特許出願公開第2003/0073713号を参照);抗体をトランスフェリンで被覆し、一又は複数のトランスフェリンレセプターの活性を調節すること(例えば、米国特許出願公開第2003/0129186号)、及び抗体のカチオン化(例えば、米国特許第5004697号を参照)を含む。
本発明の変異体IgG、例えば抗体を含んでなる薬学的製剤は、所望の純度を持つ変異体IgGを、任意成分の生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤と混合することにより(Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20版(2000))、水溶液、凍結乾燥又は他の乾燥製剤の形態に調製されて保存される。許容される担体、賦形剤又は安定化剤は、用いられる用量と濃度でレシピエントに非毒性であり、ホスフェート、シトレート、ヒスチジン及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;保存料(例えば塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
また活性成分は、例えばコアセルベーション技術あるいは界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メタクリル酸メチル)マイクロカプセルに、コロイド状ドラッグデリバリー系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ-粒子及びナノカプセル)に、あるいはマクロエマルションに捕捉させてもよい。このような技術は、Remington: The Science 及びPractice of Pharmacy 20版(2000)に開示されている。
インビボ投与に使用される製剤は無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通して濾過することにより容易に達成される。
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の適切な例は、本発明の免疫グロブリンを含む疎水性固体ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリクスは成形物、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリクスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3773919号)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシブチル酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸等のポリマーは、分子を100日以上かけて放出することを可能にするが、ある種のヒドロゲルはタンパク質をより短い時間で放出する。カプセル化された免疫グロブリンが体内に長時間残ると、37℃の水分に暴露された結果として変性又は凝集し、生物活性を喪失させ免疫原性を変化させるおそれがある。合理的な戦略を、関与するメカニズムに応じて安定化のために案出することができる。例えば、凝集機構がチオ-ジスルフィド交換による分子間S-S結合の形成であることが見いだされた場合、安定化はスルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分含有量を制御し、適当な添加剤を使用し、また特定のポリマーマトリクス組成物を開発することによって達成されうる。
治療の効果
変異体IgGの効果は、限定しないが、「定義」の下にここに記載された方法を含む様々な方法で測定されうる。例えば、腫瘍の治療における効果は、腫瘍の増殖又は転移を阻害又は低減させる変異体IgGの能力を検出することによって測定することができる。ある実施態様では、変異体IgGは、変異体IgGが野生型IgGを使用しての治療で達成される腫瘍増殖と比較して腫瘍増殖の速度を減少させることができるならば、より高い効果を有している。ある実施態様では、変異体IgGは、変異体IgGが腫瘍増殖の同じ最大阻害を達成するのに野生型IgGに必要な用量よりも低いIgG用量でっしゅようぞうしょくの最大阻害を達成することができるならば、より高い効果を有している。ある実施態様では、変異体IgGは、変異体IgGが野生型IgGに必要な用量よりも低いIgG用量で癌細胞の増殖又は転移を阻害又は低減させる能力を有しているならば、野生型IgGと比較して高い効果を有している。ある実施態様では、本発明の変異体IgGは野生型IgGと比較して等価な又はより高い効果を有している。ある実施態様では、本発明の変異体IgGは野生型IgGと比較して低い効果は有していない。
本発明の治療の効果はまた腫瘍性又は非腫瘍性疾患を評価するのに一般的に使用される様々なエンドポイントによって測定することができる。例えば、癌治療は、例えば、限定しないが、腫瘍退縮、腫瘍重さ又はサイズ縮小、腫瘍増殖停止時間、生存期間、無増悪生存期間、奏効率、奏効期間、生活の質、タンパク質発現及び/又は活性によって、評価することができる。抗血管新生剤のようなここに記載されたある種の薬剤は、必ずしも腫瘍性細胞自体ではなく、腫瘍脈管構造を標的とするので、それらは独特のクラスの抗癌薬を表し、よって薬剤に対する臨床応答の独特の基準及び定義を必要としうる。 例えば、2次元解析における50%を越える腫瘍縮小は、応答を断言するための標準的なカットオフである。しかしながら、本発明の阻害剤は、原発性腫瘍の縮みを伴わないで転移性広がりの阻害を生じ得、又は単に静腫瘍性効果を生じうる。従って、例えば血管新生の血漿又は尿マーカーの測定及び放射線造影法を通しての応答の測定を含む治療の効果を決定するためのアプローチを用いることができる。
併用療法
ここに記載された治療剤は、他の治療剤と共に同時に投与されうる。つまり、ここに記載された治療剤は、例えば小分子、他の生物剤、放射線療法、外科手術等を含む他の治療法又は治療剤と同時に投与されうる。
ある実施態様では、IgG変異体は、患者に投与される唯一の治療的に活性な薬剤である。ある実施態様では、IgG変異体は、限定しないが、抗血管新生剤、化学療法剤、サイトカイン、増殖阻害剤、抗ホルモン剤、キナーゼインヒビター、細胞傷害性薬剤、心保護剤、又は他の治療剤を含む一又は複数の他の治療剤との併用で投与される。IgG変異体は一又は複数の他の治療計画と同時に投与されうる。ある実施態様では、IgG変異体は、IgG変異体であっても又はなくてもよい一又は複数の抗体との併用で投与されうる。ある実施態様では、IgG変異体は外科手術のような更に他の治療技術との併用で用いることができる。
ある実施態様では、更なる薬剤、例えば、抗癌剤又は治療剤、又は抗血管新生剤を、また様々な腫瘍性又は非腫瘍性症状を治療するために変異体IgGと併用して投与することができる。一実施態様では、腫瘍又は非腫瘍性症状は、異常な又は望まれない血管新生を伴う病理疾患によって特徴付けられる。本発明の変異体IgGは、同じ組成物において又は同じ又は異なる投与経路を使用して別個の組成物として、その目的に対して効果的である他の薬剤と併用して又は連続的に投与されうる。
癌との関連の抗血管新生療法は、腫瘍増殖を支える栄養分の供給に必要な腫瘍血管の発達を阻害することを目的とした癌治療方策である。ある実施態様では、血管新生が原発性腫瘍増殖と転移の双方に関与するので、本発明によって提供される抗血管新生療法は、原発部位での腫瘍の腫瘍増殖を阻害することができ、二次部位での腫瘍の転移を予防することができ、よって他の療法による腫瘍の攻撃が可能になる。本発明の一実施態様では、抗癌剤又は治療剤は抗血管新生剤である。他の実施態様では、抗癌剤は化学療法剤である。
ここに列挙され、例えば定義の下に列挙され、また例えばCarmeliet及びJain, Nature 407:249-257 (2000);Ferrara等, Nature Reviews:Drug Discovery, 3:391-400 (2004);及びSato Int. J. Clin. Oncol., 8:200-206 (2003)によって列挙されたものを含む多くの抗血管新生剤が同定され、当該分野で知られている。また米国特許出願公開第20030055006号を参照のこと。ある実施態様では、二以上の血管新生阻害剤は、場合によっては、本発明の変異体IgGに加えて、患者に同時投与されうる。
ある実施態様では、変異体IgGと併用されうる他の治療剤はVEGFアンタゴニスト又はVEGFレセプターアンタゴニストである。ある実施態様では、変異体IgGとの併用腫瘍治療に有用な他の治療剤は、EGFR、ErbB2(Her2としてもまた知られている)ErbB3、ErbB4、又はTNFのような腫瘍増殖に関与する他の因子のアンタゴニストを含む。ある実施態様では、変異体IgGは、例えばVEGFレセプター、FGFレセプター、EGFレセプター及びPDGFレセプターのような一又は複数のチロシンキナーゼレセプターを標的とする小分子レセプターチロシンキナーゼインヒビター(RTKIs)との併用で使用することができる。限定しないが、バタラニブ(PTK787)、エルロチニブ(タルセバ(登録商標))、OSI−7904、ZD6474(ZACTIMA(登録商標))、ZD6126(ANG453)、ZD1839、スニチニブ(スーテント(登録商標))、セマキシニブ(SU5416)、AMG706、AG013736、イマチニブ(グリベック(登録商標))、MLN−518、CEP−701、PKC−412、ラパチニブ(GSK572016)、ベルケイド(登録商標)、AZD2171、ソラフェニブ(ネクサバール(登録商標))、XL880、及びCHIR−265を含む多くの治療用小分子RTKIsが知られている。
本発明はまた本発明の二以上の変異体IgGの組合せ又は一又は複数の更なる抗癌治療との少なくとも一つの変異体IgGの組合せの使用を特徴とする。抗癌治療法の例は、限定しないが、外科手術、放射線療法(照射療法)、バイオセラピー、免疫療法、化学療法、又はこれらの治療法の組合せを含む。一実施態様では、前立腺癌、卵巣癌及び乳癌に対する抗癌療法はホルモン療法でありうる。加えて、細胞傷害剤、抗血管新生剤及び抗増殖剤を変異体IgGと組み合わせて使用することができる。ある実施態様では、IgG変異体は、化学療法、放射線療法、又は化学療法及び放射線療法の双方と共に患者に投与される。
ある実施態様では、変異体IgGは、根治手術後の非転移性癌の治療のためのアジュバント療法として使用される。この例では、変異体IgGは少なくとも一つの更なる化学療法剤と共に又はこれを伴わないで提供されうる。
ある実施態様では、変異体IgGは、外科手術前の手術可能な癌の治療に対するネオアジュバント療法として使用される。この例では、変異体IgGは少なくとも一つの更なる化学療法剤と共に又はこれを伴わないで外科手術の前に提供されうる。
ある実施態様では、変異体IgGと一又は複数の他の治療剤は、腫瘍、休止中の腫瘍、又は微小転移性癌の発症又は再発を低減させ又は排除するのに十分な量及び時間、同時に又は順次投与されうる。変異体IgGと一又は複数の他の治療剤は、腫瘍の再発の可能性を防止又は減少させるために維持療法として投与することができる。
ある実施態様では、本発明は一又は複数の化学療法剤との変異体IgG(例えばカクテル)の使用を特徴とする。化学療法剤の非限定的な例は定義の下でここに記載されている。このような化学療法剤の調製及び投薬スケジュールは、製造者の指示書に従って、又は熟練の医師によって経験的に決定されて使用されうる。また用量、製剤、及び期間と題したセクションを参照のこと。
製造品
本発明の他の態様では、上記の疾患の治療、予防及び/又は診断に有用な物質を含む製造品が提供される。該製造品は容器と該容器の又は該容器に付随するラベル又はパッケージ挿入物を具備する。好適な容器には、例えば、ビン、バイアル、シリンジ等々が含まれる。容器は、様々な材料、例えばガラス又はプラスチックから形成されうる。容器は、それのみによって又は他の組成物と組み合わせて症状を治療、予防及び/又は診断するのに有効な組成物を収容し、滅菌アクセスポートを有しうる(例えば、容器は皮下注射針が貫通可能なストッパーを有するバイアル又は静脈内投与溶液バッグでありうる)。ラベル又はパッケージ挿入物は、組成物が選択した症状の治療に使用されることを示す。ある実施態様では、製造品は、(a)組成物を中に収容し、その組成物が本発明の抗体を含む第一の容器と;(b)組成物を中に収容し、その組成物が更なる細胞傷害性薬物を含む第二の容器とを含みうる。該製造品は、組成物を特定の症状の治療に使用することができることを示しているパッケージ挿入物を更に含みうる。あるいは、もしくは付加的に、製造品は、薬学的に許容されるバッファー、例えば注射用の静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液及びデキストロース溶液を含む第二の(又は第三の)容器を更に具備してもよい。更に、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジを含む、商業上及び使用者の見地から望ましい他の材料を含んでもよい。
ある実施態様では、変異体IgGは単独で又はキットとして他の治療用化合物との組み合わせで包装されうる。一実施態様では、治療用化合物は抗癌剤である。キットは、患者への単位用量の投与を補助する任意成分、例えば粉剤形態を再構成するためのバイアル、注射用のシリンジ、カスタマイズされたIVデリバリーシステム、インヘラー等を含みうる。また、単位用量キットは、組成物の調製及び投与のための指示書を含みうる。キットは、一人の患者のための頓用単位用量として、特定の患者の複数使用(一定の用量又は治療の進行に応じて個々の化合物の効能が変化しうる)として製造することができ;あるいはキットは複数患者への投与に適した複数用量を含みうる(「バルクパッケージング」)。キットコンポーネントは、大型容器、ブリスターパック、ビン、チューブ等に組み込むことができる。
次は本発明の方法及び組成物の実施例である。上に提供された一般的説明があれば、様々な他の実施態様を実施することができるものと理解される。
実施例1:抗VEGF (ベバシズマブ)変異体の製造
野生型抗VEGF(ベバシツマブ)IgG
1重鎖及び軽鎖のFv領域を、ヒトIgG
1定常ドメインを含む2つのpRKベースの一過性形質移入プラスミド中に別個にクローニングした。ついで、Kunkelベースの部位特異的突然変異誘発を使用して、CH
2及びCH
3ドメイン中の残基が変異せしめられた全ての抗VEGF IgG
1変異体を産生させた。この研究で産生された抗VEGF変異体を以下の表2にまとめる。各変異体はCH
2及びCH
3ドメインに単一、二重及び三重の変異を何れか含んでいる。変異体はKabatにおけるようなEUインデックスに従って番号付けする。
変異体の重鎖及び野生型軽鎖を含むプラスミドを、製造プロトコルに従って、FUGENE(登録商標)(Roche, Basel, Switzerland)によるアデノウイルス形質転換ヒト胚性腎臓細胞株293中に同時形質移入した。形質移入複合体と共に24時間インキュベートした後、形質移入細胞を、ついで、10mg/Lのインスリン及び微量元素を補填した無血清培地PSO4を用いて5日間又は5mMのグルタミンを含む1.3XのGEMN培地を用いて培養した。上清を集め、1MのTRIS(pH8.0)及び5Mの塩化ナトリウム(NaCl)で条件化し、最終濃度の30mMのTRIS及び50mMのNaClを得た。ついで、条件化された上清を、ついでプロテインAクロマトグラフィーを使用して精製した。結合したIgG1を、0.1Mのグリシンバッファー(pH3.0)を用いてプロテインAカラムから溶離させた。ついで、精製したIgG1を濃縮し、Superdex−200サイズ排除クロマトグラフィーに注入して、あらゆる凝集物を除去した。単量体性IgG1画分を一緒にプール化し、後で結合実験に使用した。抗VEGF野生型及び抗VEGF変異体IgG1濃度を、280nMでの吸光度の読み取り値を使用して計算し、1.5の吸光度が1mg/mlのIgG1であると推定した。
実施例2:ヒト及びカニクイザルFcRnの生産
ヒトFcRnは、α鎖とβ2−ミクログロブリンサブユニットのヘテロ二量体である。これれらの二つのサブユニットを二つのpRKベースの一過性形質移入プラスミド中に別個にクローニングした。α鎖とβ2-ミクログロブリンの双方を含むプラスミドを、製造プロトコルに従って、FUGENE(登録商標)(Roche, Basel, Switzerland)を使用して293細胞中に同時形質移入した。形質移入複合体と共に24時間インキュベートした後、形質移入細胞を、ついで、10mg/Lのインスリン及び微量元素を補填した無血清培地PSO4に5日間切替えた。集めた上清を濾過し、1Mの塩酸及び5MのNaClで条件化し、最終pH6.0及び濃度の50mMのNaClを得た。条件化された上清をIgG−セファロースクロマトグラフィーを使用して精製した。結合したFcRnを、30mMのTRIS及び150nMのNaClを含むpH8.0のバッファーを使用してカラムから溶離させた。溶離されたFcRnをSuperdex−75サイズ排除クロマトグラフィーカラムを使用して更に精製して、あらゆる凝集物を除去した。FcRn濃度を、280nMでの吸光度の読み取り値を使用して計算し、1.9の吸光度が1mg/mlのFcRnに対応した。カニクイザルFcRnは、cynoα鎖及びcynoβ2−ミクログロブリンを含むプラスミドが形質移入に使用されたことを除いて、ヒトFcRnと同様にして生産され、精製される。
実施例3:FcRn結合研究:FcRnに対するIgG1変異体の注入
ヒトFcRnに対する抗VEGF変異体の結合性を、BIAcore3000機器(GE healthcare, Piscataway, NJ)を使用して表面プラズモン共鳴によって研究した。ヒトFcRnを、アミンカップリングキットを使用してセンサーチップにカップリングさせた。すなわち、CM5センサーチップを、5μl/分で7分間、EDC/NHSで活性化させた。100μg/mlのヒトFcRnを活性化されたチップに対して10μl/分の流量で30秒から2分の間注入して、50から200の最大結合応答単位(RU)を得た。コンジュゲーション後、FcRn結合チップを、5μl/分での35μlの1Mエタノールアミン塩酸塩の注入によりブロックした。
pH6.0又はpH7.4でのヒトFcRnへの抗VEGF野生型(WT)及び抗VEGF変異体の結合性を決定した。結合実験の流通バッファーは、0.01%のP20及び0.02%のアジド化ナトリウムを含むpH6.0又はpH7.4のPBSである。抗VEGF(ベバシズマブ)WT及び抗VEGF変異体を、pH6.0又はpH7.4の流通バッファーにバッファー交換した。全ての実験は25℃で実施した。pH6.0の実験では、15μMから0.7nMの範囲の濃度を持つ変異体を、定常状態を達成するために様々な時間の間、30μl/分でFcRn被覆チップに対して流通させ、ついで、5分間、チップから解離させた。pH7.4の実験では、30μMから30nMの範囲の濃度を持つ変異体を、定常状態を達成するために様々な時間の間、20μl/分でFcRn被覆チップに対して注入し、ついで、2分間、チップから切り離した。変異体をまたセンサーチップ上の未結合スポットに対して流通させ、FcRn結合チップへの結合からバックグラウンドの非特異的結合のサブトラクションを可能にした。チップを、注入間で0.1MのTRIS(pH8.3)の30秒パルスで再生させた。各注入のための定常状態RUを各注入相の終わりに記録し、見かけの解離定数(見かけのKD)を、最大RUの50%を達成したIgG濃度として後で推定した。
2回の異なった実験から得られた図1A及び1Bの結果は、全ての変異体がpH6.0で野生型に対して改善されたFcRn親和性を有していることを示している。見かけの解離定数(K
D)の推定値を図2に示す。FcRnカップリング密度は2回の実験で異なっているので、アビディティーレベルは異なっており、同じ変異体に対して僅かに異なった見かけK
D値を生じた。しかしながら、これらの変異体の親和性ランクは異なった実験に対して同じままであった。図3は、試験した抗VEGF変異体の全てが野生型と比較してヒトFcRnに対するより高い中性pHでの結合性を示すことを示している。pH7.4結合に基づく変異体の親和性ランキングは、pH6結合を使用して決定された親和性ランキングに対応していた。
表3に示された抗VEGF野生型(WT)及び抗VEGF変異体のヒト及びcyno FcRnの結合性をこのアッセイ形式を使用して更に評価した。ヒト又はcyno FcRnをセンサーチップに被覆した。抗VEGF野生型及び抗VEGF変異体を、pH6.0又はpH7.4の何れかのバッファーで25℃でFcRn被覆チップに注入した。定常状態の応答単位を記録し、注入濃度の関数としてプロットした。全ての抗VEGF変異体は、pH6.0及びpH7.4の双方において抗VEGF野生型に対してヒト及びcyno FcRnへの改善された結合性を示した(図4A−4Dを参照)。このアッセイで決定された抗VEGF変異体の親和性ランキングは、一価KDを使用して決定されたランキングと同じであった。
図26に示された抗HER2野生型(WT)及び抗HER2変異体のヒトFcRn結合性を、このアッセイ形式を使用してまた評価した。図26において研究された変異体は、L251A、L314A、L314D、L314K、E430A、E430K、L251D/N434H及びL314D/N434Hである。ヒトFcRnをセンサーチップに被覆した。抗HER2野生型及び抗HER2変異体を、6.0から7.2の範囲のpHのバッファー中で25℃にてFcRn被覆チップに対して注射した。定常状態の応答単位を記録し、各pHに対して注入濃度の関数としてプロットした。ついで、野生型及び各変異体の親和性を各注入pHに対して推定し、野生型に対する変異体の親和性比を図26にpHの関数としてプロットした。変異体E430A、E430K及びL251D/N434Hに対する親和性比はpHの増加と共に減少する一方、他の変異体の全ての親和性比はpHの増加と共に増加する。
pH6.0(図27A)、pH7.1(図27B)、及びpH7.4(図27C)におけるヒトFcRnに対する抗HER2(トラスツズマブ)IgG1野生型、変異体T307Q/N434A、変異体L251D/T307Q/N434H及び変異体L251D/T307Q/M428L/N434H/Y436Iの結合性を、類似のアッセイ形式を使用してまた評価した。抗HER2野生型及び抗HER2変異体を、pH6.0、pH7.1又はpH7.4のバッファー中で25℃でFcRn被覆チップに注入した。定常状態の応答単位を記録し、各変異体に対して注入濃度の関数としてプロットした。結果は、pH6.0(図27A)では、変異体L251D/T307Q/N434Hは野生型と同様のFcRn親和性を有し、変異体L251D/T307Q/M428L/N434H/Y436Iは変異体T307Q/N434Aと同様のFcRn親和性を有していることを示している。pH7.1(図27B)では、変異体L251D/T307Q/N434Hは野生型より更に低いFcRn親和性を有しており;変異体L251D/T307Q/M428L/N434H/Y436Iは野生型と同様のFcRn親和性を有し、変異体T307Q/N434Aより低いFcRn親和性を有している。pH7.4(図27C)では、変異体L251D/T307Q/M428L/N434H/Y436Iは、野生型及び変異体T307Q/N434Aより低いFcRn親和性を有している。
実施例4:FcRn結合研究:IgG1変異体に対するヒト又はcyno FcRnの注入
BIAcore3000機器(GE healthcare, Piscataway, NJ)を使用する結合形式では、抗VEGF野生型(ベバシズマブ)及び抗VEGF変異体を、アミンカップリングキットを使用してセンサーチップの異なったフローセルにコンジュゲートした。すなわち、CM5センサーチップを5μl/分で7分間、EDC/NHSで活性化させた。10から50μg/mlの抗体を、活性化されたチップに対して10μl/分の流量で30秒から2分注入して、50から200の最大結合応答単位(RU)を生じた。コンジュゲーション後、FcRn結合チップを、5μl/分で35μlの1Mのエタノールアミン塩酸塩の注射によってブロックした。
結合実験に対する流通バッファーはPBS pH6.0/0.01%のP20/0.02%のアジ化ナトリウム(NaN3)であった。20μMから0.15nMの可溶性ヒト又はcyno FcRn希釈物を25℃で抗体被覆センサーチップに対して10分間、30μl/分の流量で注入した。定常状態のRUを、注入の終わりに記録した。チップを0.1MのTRIS(pH8.5)/0.15MのNaClの30秒パルスで再生した。FcRnをバックグラウンドサブトラクションのために未コンジュゲート表面にまた注入した。動態パラメータ及び一価平衡結合定数(KD)を、BIAevaluationソフトウェア(GE healthcare, Piscataway, NJ)を使用して計算した。
図5及び図6の結果は、抗VEGF変異体の全てがpH6.0でのヒト及びcyno FcRnの双方に対して野生型より改善されたFcRn親和性を有していることを示している。親和性の改善は、会合速度定数の増加と解離速度定数の減少の双方によっていた。総括して、異なった結合アッセイを使用する野生型に対する抗VEGF変異体の親和性改善を図8にまとめる。図8は、V308P/N434A変異体が表3に列挙された変異体の中で最も高いFcRn親和性を有しており、T307Q/E380A/N434S、T307Q/N434S、及びT307Q/N434Aが続くことを示している。N434H変異体は野生型に対するFcRn親和性改善量が最も少ない。
実施例5:異なったpHでの抗VEGF及び抗HER2変異体の解離速度
様々なpHでの解離速度を測定するために、200nMから2μMのヒト又はcyno FcRnを、定常状態を達成するために5分間、PBS(pH6.0)/0.01%のP20/0.02%のNaN3中で30μl/分で抗体コンジュゲートフローセルに最初に注入した。ついで、6から7.4の範囲のpHのPBSバッファーを、8分間、フローセルに30μl/分で注入して、複合体が解離するようにした。FcRnをまたバックグラウンドのサブトラクションのために未コンジュゲート表面に注入した。解離速度定数は、BIAevaluationソフトウェア(GE healthcare, Piscataway, NJ)を使用してセンサーグラムの解離相をフィットさせて決定した。図7の結果は、ヒトFcRn(図7A)及びcyno FcRn(図7B)の双方に対する変異体のkoffがpHの増加と共に増加し、各変異体に対してkoff増加の速度が同様であったことを示している。
異なったpHでのヒトFcRnに対する抗HER2変異体L251D/T307Q/M428L/N434H/Y436Iの解離速度(koff)を同様に測定した。ヒトFcRnに対する抗HER2変異体L251D/T307Q/M428L/N434H/Y436Iのkoffを図28にpHの関数としてプロットした。図7からのヒトFcRnに対する抗VEGF変異体T307Q/N434A、T307Q/N434S、T307Q/E380A/N434S及びV308P/N434Aのkoffを比較のために図28にまたプロットした。異なったpHでのkoff値を各変異体についてpHに対してフィットさせ、ベストフィット線の傾きを得た(式:log(koff)=傾き×pH+y−切片)。抗VEGF変異体の傾きは0.75から0.84の範囲である一方、抗HER2変異体L251D/T307Q/M428L/N434H/Y436Iの傾きは約1.2である。
実施例6:ヒトVEGFに対する結合
VEGF-A109の組換え型を、アミンカップリングキットを使用してCM5チップにコンジュゲートさせた。すなわち、CM5センサーチップを5μl/分で7分間、EDC/NHSで活性化させた。1から2μg/mlのVEGF-A109 を10μl/分の流量で30秒間、活性化チップに注入して、100から400の最大結合応答単位(RU)を得た。コンジュゲーション後、FcRn結合チップを、5μl/分での35μlの1Mエタノールアミン塩酸塩の注入によりブロックした。100nMから6nMの抗体の2倍希釈物を、37℃で PBS/0.05% Tween/0.02% NaN3 中、4分間、VEGFコンジュゲートチップに注入した。複合体を18分間解離させた。チップを20mMの塩酸の30秒パルスで再生させた。抗体をまたバックグラウンドのサブトラクションのために未コンジュゲート表面に注入した。図9の結果は、Fc変異がVEGF結合を改変せず、変異体の全ては野生型と同じ結合応答を有していることを示している。
実施例7:細胞増殖のインビトロ阻害
様々な濃度の抗VEGF野生型(ベバシズマブ)及び抗VEGF変異体を室温で1時間、組換えヒトVEGFと共にプレインキュベートした。抗VEGF野生型(ベバシズマブ)及び抗VEGF変異体の濃度は33nMから0.05nMの範囲であった。組換えヒトVEGFの濃度は0.26nMであった。ついで、複合体を、37℃及び5%CO2で培養中のヒト臍血管内皮細胞(HUVEC)に提示した。培養の4日後にHUVECの生存率を、37℃及び5%CO2で6時間、細胞を20%のアラマーブルー染料(Trek Diagnostic Systems, Cleveland, OH)と共に細胞をインキュベートすることによって評価した。ついで、アラマーブルーの蛍光をMolecular Devices(Sunnyvale, CA)マイクロプレートリーダーで検出した。図10に示されるように、変異体の全てが野生型及びアバスチン(登録商標)と同じ増殖阻害レベルを有しており、Fc変異が変異体のVEGFを中和する能力に影響しないことが再び確認される。
実施例8:カニクイザルにおける薬物動態研究
2−5kgの体重の試験前の理学的検査時に2から7歳であった36匹の雄及び36匹の雌のナイーブなカニクイザルを、それぞれが6匹の雄と6匹の雌からなる6つの処置群に割り当てた。処置群に対して体重のバランスを達成するように設計されたコンピュータ化ブロッキング手順を使用して動物を処置群に割り当てた。健康であるように見え、明らかな異常がなかった動物のみを研究に使用した。全ての動物には、伏在静脈を介して単一の静脈内ボーラス用量と、ついで0.9%の生理食塩水流を1日目に投与した。全ての群に対する用量レベルは5mg/kgであった。大腿静脈からの血液試料(およそ1.0mL)を投薬前及び投薬後の0.5、2、4、8時間、1、2、4、7、10、14、21、28、35、42、49、56及び70日に採血した。全ての群に対する血清中濃度−時間曲線を、一群当たりn=11から12匹の動物の平均血清中濃度を使用して構築した。この実験で採血した血清試料を、実施例9に記載されたELISAプロトコルを使用して分析した。
実施例9:ELISAによるカニクイザル血清中の抗体濃度の検出
Maxisorp ELISAプレート(Thermo Fisher Scientific, Rochester, NY)を、50mMの炭酸塩バッファー(pH9.6)中の0.5μg/mlの組換えヒトVEGFで4℃で一晩、被覆した。プレートを、PBS、0.5%のBSA、10ppmのProclin,pH7.2を用いて室温で1時間ブロックし、ついで、洗浄バッファー(PBS/0.05%のTween20/pH7.2)で洗浄した。0.5%のウシ血清アルブミン、0.05%のTween20、5mMのEDTA(pH8.0)、0.25%のCHAPS、0.2%のウシγグロブリン、10ppmのProclin及び0.35MのNaClを含むPBSバッファー中で2倍に連続希釈した標準物質(抗VEGF IgG1野生型(ベバシズマブ))並びに3倍に連続希釈したcyno血清試料(1:10で出発)を、ブロックしたプレートに加え、振とうしながら室温で2時間インキュベートした。プレートを6回洗浄し、結合した薬剤を、振とうしながら室温で1時間、アッセイバッファー(PBS、pH7.4,0.5%のBSA、0.05%のTween20、10ppmのProclin)中で1:10Kで希釈したヒツジ抗ヒトIgG(Fc特異的)−HRP(Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)で検出した。ついで、プレートを再び6回洗浄した後、発色のためにテトラメチルベンジジン基質(Moss, Pasadena, MD)を加えた。1Mのリン酸(H3PO4)の添加によっって20分後に反応を停止させた。プレートを、450−620nmの波長にてMolecular Devicesマイクロプレートリーダーで読み取った。5mg/kgの単一IV用量の後のカニクイザル中の野生型及び5種の抗VEGF変異体の血清プロファイルを図11に示す。5種全ての変異体は野生型と比較して減少したクリアランスと延長した半減期を示した。
実施例10:薬物動態データ解析
PKパラメータを、WinNonLin−Enterprise,バージョン5.1.1(Pharsight Corporation;Mountain View, CA)を使用して推定した。IV−ボーラス投与量、一次排除、及びマイクロ速度定数を持つ2コンパートメントモデル(モデル7)を使用して観察データを記述した。濃度は、繰り返しの再秤量(n=−1乗と予想)及びLevenberg及びHartley修正を伴うガウス・ニュートン最小化アルゴリズムを使用して計量した。次のPKパラメータが、WinNonLinモデル7を使用して報告された:AUC∞=無限大まで外挿された濃度−時間曲線下の面積として定義される全薬剤暴露;t1/2,α=α相の半減期(α半減期);t1/2,β=β相の半減期(β半減期);Cmax=最大の観察された濃度;CL=クリアランス;V1=中央コンパートメントの体積;Vss=定常状態での分布体積。
全用量群に対して、モデルの選択は、各動物に対する観察対予想の血清中濃度−時間プロファイルの視覚検査、重み付き残差二乗和の検査、及び標準誤差及び変動係数の検査による一致の良好性に基づいた。PKパラメーターは各群の平均±標準偏差(SD)として表した。
図12は、カニクイザルへ5mg/kgの単一IV用量後の、抗VEGF野生型及び5種の変異体N434H、T307Q/N434A、T307Q/N434S、T307Q/E380A/N434S及びV308P/N434Aに対する表にした薬物動態パラメータ−を示す。変異体のβ(終末)半減期は、野生型の半減期より約1.6倍から2.2倍長く、T307Q/N434A変異体は24.9日の最も長い半減期を有している。我々の知る限りでは、変異体T307Q/434Aの半減期の約25日は、これまで報告されたカニクイザルにおけるヒトIgGの最も長い半減期である。
半減期とFcRn親和性の間の関係を図13に示す。pH6.0のFcRn親和性における穏やかな増加は、N434H及びT307Q/N434A変異体によって裏付けられるように、長い終末半減期を生じる。しかしながら、中性pHにおけるより遅い解離速度及び増加した親和性が酸性pH親和性増加からもたらされる恩恵を相殺するので、pH6.0のFcRn親和性(T307Q/N434S、T307Q/E380A/N434A及びV308P/N434A)における更なる増加は、半減期を更に改善することはない。その代わり、pH6.0ではFcRn親和性が高くなると半減期が減少する傾向がある。
実施例11:トランスジェニックマウスにおける薬物動態研究
この研究に使用されるマウスの系統はMu.VEGFhuX.KI.R1.B6.129である。MuVEGFhuMUTX(+/+)ノックイン、RAG2(−/−)ノックアウトマウスは、VEGFのヒト化型の二つの対立遺伝子を含み、これが野生型抗VEGF抗体(ベバシズマブ)によって中和されうる。RAG2(−/−)マウスは免疫不全性であり、機能的T及びB細胞を産生しない。ヒト腫瘍は、腫瘍細胞に対する明白な免疫応答の不存在下でVEGFのヒト化型を発現するこれらのマウスにおいて増殖させることができる。よって、ヒト腫瘍及びマウス間質細胞VEGFから由来するVEGFは、マウスVEGFを中和しない野生型抗VEGF抗体(ベバシズマブ)によって中和されるであろう。抗VEGF野生型及び抗VEGF変異体T307Q/N434AのPKを、これらの腫瘍を持たないトランスジェニックマウスにおいて評価した。
二つの異なったPK研究を実施した。最初の研究は単一用量PK研究である。群当たり8−9匹の動物の4群があり、それぞれが0.3又は5mg/kgのPBS中の野生型及び変異体T307Q/N434Aの単一静脈内投薬を受ける。投与される投薬体積は、投薬溶液の濃度及び各動物の体重に応じて5から15ml/kgと変動した。IV投薬は尾静脈を経由して行った。3匹のマウスからの試料を各時点で採血し、PK解析のために約125uLの血液試料を、投与後15分、8時間、24時間、2、4、7、10、14、21及び28日で集めた。血液試料は眼窩周囲洞を介して痲酔下で集めた。屠殺時点で、イソフルラン痲酔下で心穿刺によってマウスを出血させた。
第二の研究は複数用量PK研究である。群当たり9匹の動物が存在する。各動物は0, 3, 6, 及び9日目にPBS中、0.3 又は5 mg/kgの変異体T307Q/N434Aを投与された。注射及び試料収集の方法は単一用量PK研究と同様であった。しかしながら、血液試料は、最初の投薬後15分、3日目(前用量)、6日目(前用量)、9日目(前用量)、9日目投与後15分、11日目、14日目、21日目、28日目及び35日目に採取した。
PK研究から集めた血清試料は、実施例13に記載されるELISAを使用して分析した。図14A及び14Bは、それぞれVEGFキャプチャー(図14A)か又はヒトFcキャプチャー(図14B)ELISAの何れかを使用して決定した野生型及び変異体T307Q/N434Aの薬物動態プロファイルを示す。変異体T307Q/N434Aは、0.3又は5mg/kgの単一のIV用量後、野生型と類似したPKプロファイルを有している。図15は、野生型及びトランスジェニックマウスノT307Q/N434A変異体の半減期が匹敵することを確認している。しかしながら、0.3mg/kgで投薬された抗体は、おそらくは抗原依存性クリアランスのために5mg/kgで投薬されたものよりも短い半減期を有しており、非線形PK応答が観察された。図16は、0.3又は5mg/kgの複数用量後のヒト化VEGFトランスジェニックマウスにおける変異体T307Q/N434Aの薬物動態プロファイルを示しており、PKパラメーターを図17にまとめる。結果は、実験的に測定された血清中濃度が、単一用量PKパラメーターを使用するシミュレーションにより予想される濃度と良く対応していたことを示している。
実施例12:インビボ効果研究
ヒトHT−55、Colo−205(結腸直腸癌)及びCalu−6(肺癌)細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Manassas, VA)から得た。ヒト結腸直腸癌HM−7細胞株は、LS174Tの誘導体である。Calu−6及びHM−7をハムのF12、低グルコースDMEM1:1で増殖させた。Colo−205及びHT−55をRPMI1640培地で増殖させた。双方の培地に10%v/vのFBS、1%v/vのペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen, Carlsbad, CA)、2mMのL−グルタミン(Invitrogen, Carlsbad, CA)及び1mg/mlのFUNGIZONE(登録商標)(Invitrogen, Carlsbad, CA)を補填した。集密になるまで細胞を5%CO2中で37℃で増殖させ、収集し、1ml当たり50×106細胞で滅菌メトリゲル中に再懸濁させた。異種移植片は6週から8週齢のRAG2 KO;hum−X VEGF KI二重ホモ接合マウス(Genentech, South San Francisco, CA)中において1マウス当たり5×106細胞の背側腹部皮下注射によって樹立し、増殖させた。毎週2回の5、0.5及び0.05mg/kgの用量での抗体の腹腔内治療を、腫瘍細胞接種後24時間で開始した。移植した腫瘍を、記載されたように長軸及び直交軸に沿って毎週2回測定した。腫瘍を測定したそれぞれの日に、各マウスノ腫瘍体積を計算し、コントロール抗体群(抗ブタクサ)及び各抗VEGF群からの平均腫瘍体積をP<0.05のレベルでスチューデント検定によって比較した。腫瘍体積が2000mm3に達したときにマウスを殺した。
最初のHM−7異種移植片研究からの結果を図18に示す。図18A及び18Bは、変異体T307Q/N434Aが0.5mg/kg並びに5mg/kg治療群の双方で腫瘍増殖の最大阻害を達成することができたことを示している。野生型は双方の用量で腫瘍増殖を阻害したが、0.5mg/kgでは腫瘍増殖の最大阻害を達成しなかった。これらの結果は、T307Q/N434A変異体が、同様のレベルの血清中IgG濃度にもかかわらず、HM−7異種移植片の治療において0.5mg/kgで野生型より効果的であることを示唆している(図18C)。図19に示されたHM−7異種移植片の繰り返し効果研究は、0.5及び0.05mg/kg治療群においてT307Q/N434A変異体が野生型よりも効果的であることを確認している。確かに、T307Q/N434A変異体は、野生型と比較して全ての治療群において大なる腫瘍増殖阻害を示した(図19A及び19B)。効果の増加は、野生型と比較してT307Q/N434A治療群に対して高い血中正規化抗体濃度のためであろう(図19E)。図20に示したHM−7異種移植片の第三の効果研究は、0.5及び0.05mg/kg治療群において野生型に対してT307Q/N434Aの優れた効果を更に検証している。
HT−55異種移植片研究では、T307Q/N434A変異体は、0.05mg/kg治療群における野生型と比較してより大きい腫瘍増殖阻害を示しており(図21)、T307Q/N434Aが0.05mg/kg治療群における野生型よりも効果的であることを示唆している。Colo−205研究では、図22Bは、0.5mg/kg野生型と0.5mg/kgT307Q/N434A変異体との間の増殖曲線における有意差を示している。図22A及び22Bはまた0.5及び0.05mg/kg治療群におけるT307Q/N434Aによる腫瘍増殖の阻害の増加を示しており、0.5及び0.05mg/kg群におけるT307Q/N434Aに対する僅かに高い効果を示唆している。図23に示す繰り返しColo−205研究は、Colo−205異種移植片の治療においてT307Q/N434Aが野生型よりも僅かにより効果的であることを示している。最後に、Calu−6異種移植片におけるT307Q/N434A変異体及び野生型の効果は同様であった。
Fc変異体の効果の増加には幾つかの可能な理由が存在しうる。例えば、変異体の増加した作用強度は、ある種の腫瘍(例えば、HM−7)で発現されるヒトFcRnによって媒介される変異体抗体のリサイクリング及び/又は増加した保持のためでありうる。これは、局所的に産生されたVEGFをブロックする質量作用効果の増加を生じ得、又は腫瘍におけるVEGFの亢進された分解のメカニズムを提供しうる。しかしながら、我々は、HT−55及びCalu−6腫瘍に対してHM−7腫瘍において検出された変異体の濃度の増加が、HM−7細胞はHT−55又はCalu−6細胞の何れよりも低い量のFcRnを発現するので、細胞性FcRn発現レベルに直接的には相関していないことを見出した(図25)。腫瘍微小環境における他の因子、例えば腫瘍pH、増殖速度、及び他の腫瘍構成成分がなたIgGの分布の決定においてFcRnと協同的な役割を果たしうる。例えば、腫瘍微小環境は殆どは酸性であり、pHは6.0から7.6の範囲(中央値=7.1)であるが、正常な組織のそれは7.3から7.8の範囲(中央値=7.55)である。Song, C.W.等, "Influence of Tumor pH on Therapeutic Response " in Cancer Drug Resistance, 21-42 (2007)を参照。更に、異なったタイプの腫瘍は、異種性の血管供給及び血液灌流のため広い範囲のpHを有しうる。Song, C.W.等, Cancer Drug Resistance, 21-42 (2007), 上掲;Gillies, R.J.等, J Magn Reson Imaging 16, 430-450 (2002)を参照。複数のインビトロ研究は、細胞随伴Fc/IgGの量が、細胞が酸性pHでインキュベートされると増加することを示している。Praetor, A.等, Journal of cell science 112 (Pt 14), 2291-2299 (1999);McCarthy, K.M., Yoong, Y.及びSimister, N.E. Bidirectional transcytosis of IgG by the rat neonatal Fc receptor expressed in a rat kidney cell line: a system to study protein transport across epithelia. Journal of cell science 113 ( Pt 7), 1277-1285 (2000);Tesar, D.B.等, Traffic 7, 1127-1142 (2006)を参照。従って、試験した腫瘍株間のpH差が各腫瘍内の抗体の蓄積レベルに影響を及ぼす場合があると考えられる。加えて、酸性腫瘍微小環境がまたVEGF発現を活性化し(上掲のSong, C.W.等, Cancer Drug Resistance, 21-42 (2007)を参照)、これがこれら抗VEGF抗体の保持を特異的に媒介しうる。更に、マウス中のHM−7腫瘍は希薄な間質を有していることが過去に示される一方(Liang, W. C.等, J Biol Chem 281, 951-961 (2006)を参照)、Calu−6腫瘍は強い宿主間質応答を誘導し、比較的に間質に富んでいた(Tejada, M. L.等, Clin Cancer Res 12, 2676-2688 (2006)を参照)。マウスFcRnを発現するマウス間質細胞の存在は、ヒト腫瘍細胞によるIgG変異体の改善されたリサイクリングをマスクしうる。これは、例えばCalu−6のような、マウス間質の大きな成分を有するヒト異種移植片において低濃度効果を生じせしめうる。
実施例13:ELISAによるトランスジェニックマウスの血清中及び腫瘍中抗体濃度の検出
プレートに被覆した2種の異なった抗体捕捉試薬(VEGF又は抗ヒトIgG1Fc)の何れかを伴う二つの異なったELISAアッセイ形式を使用して、トランスジェニックマウス中の抗体濃度を検出した。Maxisorp ELISAプレート(Thermo Fisher Scientific, Rochester, NY)に、4℃で一晩、50mMの炭酸塩バッファー中の0.5μmg/mlの組換えヒトVEGF又は0.25μg/ml(Fab’2)ウサギ抗ヒトIgG1 Fc(Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)の何れかを被覆した。プレートをPBS、0.5%のBSA、10ppmのProclin(pH7.2)で室温にて1時間ブロックし、ついで、洗浄バッファー(PBS/0.05%のTween20/pH7.2)で洗浄した。0.5%のウシ血清アルブミン、0.05%のTween20、5mMのEDTA(pH8.0)、0.25%のCHAPS、0.2%のウシγグロブリン、10ppmのProclin及び0.35MのNaClを含むPBSバッファー中の12.5ng/mlまで2倍の連続希釈した標準物質(VEGF形式ではベバシズマブ又はFc形式ではヒトIgG1)並びに3倍の連続希釈したcyno血清試料(1:10で出発)をブロックしたプレートに加え、振とうしながら室温で2時間インキュベートした。プレートを6回洗浄し、結合した薬剤を、振とうしながら室温で1時間、アッセイバッファー(PBS、pH7.4、0.5%のBSA、0.05%のTween20、10ppmのProclin)で1:20Kから1:60Kに希釈されたヤギ(Fab’2)抗ヒトIgG(Fc特異的)−HRPコンジュゲート(Jackson)で検出した。ついで、プレートを6回再び洗浄した後、発色のためにテトラメチルベンジジン基質(Moss, Pasadena, MD)を加えた。反応を、1Mのリン酸(H3PO4)の添加によって20分後に停止させた。プレートを450−620nmの波長にてMolecular Devicesマイクロプレートリーダーで読み取った。
実施例14:野生型に対して様々な親和性が改善されたIgG1 Fc変異体とそのインビボ薬物動態挙動
図24に示されたFc変異の更なる組合せを、ヒト抗HER2(トラツズマブ)に導入してIgG変異体を構築した。IgG1変異体を、実施例1に記載された方法を使用して発現させた。野生型抗HER2 IgG1及び抗HER2 IgG1変異体の解離定数を図4に記載されたようにして測定し、結果を図24に示す。結果は、異なった変異を組み合わせることにより、我々は一桁のナノモル親和性をもってヒトFcRnに結合でき、野生型IgG1に対して約450倍の改善を示すM252Y/V308P/N434YのようなIgG変異体を構築できることを示している。
しかしながら、高親和性変異体は必ずしも改善されたインビボでの薬物動態挙動を有していない。例えば、二つのFc変異N434A及びN434Wを、異なったヒト抗体に導入して二つのIgG1変異体を構築した。二つのIgG1変異体N434A変異体及びN434W変異体は、図24に示されるように、それぞれ野生型抗体と比較してpH6.0でおよそ3倍及び40倍高いFcRn親和性を生じた。その薬物動態挙動を、実施例8及び9に記載されているように、カニクイザルで評価し、野生型のものと(およそ6から9日)比較した。N434Wの半減期(約9.7+/−2.4日)は、僅かに親和性が改善された変異体N434Aのもの(約14.5+/−2.2日)よりあまり改善されていなかった。これらの結果は、FcRn親和性の余りに大きな増加はFc変異体の半減期に有害な効果を有する場合があり、改善されたFcRn親和性を持つFc変異体が改善された半減期を有するか否かを先験的に予測することは困難であることを示唆している。
実施例15:高親和性IgG1変異体を有するFcRn免疫沈降
5百万の細胞/何れかHM−7、HT−55、Calu−6又はRaji(B細胞リンパ腫)株の各々を、1%のNonidet P−40、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1%のSDS、2mMのEDTA、150mMのNaCl及び1×のプロテアーゼインヒビター(Pierce, Rockland, IL)を含む25mMのリン酸バッファーpH6.0中で4℃で1時間、インキュベートすることによって可溶化した。可溶化した細胞を4℃で12000gで30分、遠心分離し、ついで、50nMのトラスツズマブFc変異体M252Y/V308P/N434Y(Yeung等, 提出済み)を上清に加えてFcRnを捕捉した。4℃での一晩のインキュベーション後、プロテイン−L(Pierce)樹脂を加え、4℃で4時間複合体に結合させた。ついで、樹脂を溶解バッファーで5回洗浄し、結合したタンパク質を2×の負荷バッファー(Invitrogen, Carlsbad, CA)で溶離させた。タンパク質を4−12%のBIS−TRISゲル(Invitrogen)で分離し、ニトロセルロース膜(Invitrogen)上にブロットした。膜をPBS中の3%脱脂乳ブロックし、1ng/mlのウサギ抗ヒトFcRn抗体(Santa Cruz, Santa Cruz, CA)で室温で1時間、ついで1:104希釈(Pierce)のヤギ抗ウサギIgG−ペルオキシダーゼコンジュゲートで室温で1時間、プローブした。膜は、ブロッキング工程と抗体インキュベーション工程の間において、PBS/0.05%のTweenで洗浄した。FcRnタンパク質をECL検出キット(GE Healthcare, Piscataway, NJ)によって可視化した。図25を参照。
結果と検討
異なった抗VEGF変異体を用いた二つの別個の結合実験を各pH、pH6.0及びpH7.4で実施した。pH6.0及びpH7.4に対する濃度の関数として定常状態結合応答単位(RU)を、それぞれ図1及び図2にプロットした。pH6.0での解離定数(KD)を図1から推定し、図2にまとめた。二つの異なった実験から計算した同じ変異体の解離定数は僅かに異なっていた。例えば、変異体N434Aは最初の実験では550nMのKDを有していたが、第二の実験からのそのKDは250nMであった。該差は、FcRn結合チップ上に二価抗体を流すことを含むアッセイ形式でのアビディティー効果によるものであった。入り定数へのアビディティー寄与のレベルはチップ上に結合したFcRnのレベルに依存しており、より高いレベルのFcRn結合がより高いアビディティーを生じた。これは、第一の実験よりも約2倍高いRUであった第二の実験で観察されたより高い親和性を説明するかも知れない。アッセイの設定においてアビディティー効果があったが、この形式は細胞内の自然の結合プロセスに最も類似しており、そこでは、飲作用した二価抗体の膜結合FcRnへの結合が許容される。絶対KDは実験毎に異なっているかもしれないが、これらの変異体の親和性ランキングは、結合したFcRnの異なったレベルとさえ一致していた。図1及び図2は双方ともV308P/N434Aが試験した変異体間で最も高い親和性を一貫して有しており、試験した変異体の全てがpH6.0においてFcRnに対しての結合性を改善したことを示している。
pH7.4でのFcRnに対する抗VEGF変異体の親和性は、pH6.0でのその親和性よりも更に低い。pH7.4での結合親和性は非常に低いので、pH7.4での変異体の解離定数は決定されなかった。しかしながら、図3は、pH7.4でのこれら変異体の親和性ランキングが、pH6.0でのランキングと同じであり、pH6.0及びpH7.4でのFcRnへの変異体の結合がカップリングしていることを示している。変異体のpH6.0結合が改善されているので、pH7.4での結合もそうである。pH6.0及び7.4のFcRnへの結合が如何に変異体の半減期に影響するかには繊細なバランスがある。pH6.0での改善された結合は、より高い親和性の変異体がFcRnに良好に結合市、よってFcRnによってよりリサイクルされうるので、変異体のインビボ半減期において有益な役割を有していることが示唆される。他方、pH7.4での実質的に高い結合性は、FcRn結合抗体は、それらが余りに強固に結合していると容易には循環中に放出されて戻されることがないので、変異体の半減期には好ましくないことが提案される。
高いpHでの親和性の増加は、低pHでの増加した親和性の好ましい効果を否定できる。例えば、Dall’Acqua等, J Immunol 169(9), 5171-5180, 2002は、ヒトIgG1変異体、例えばM252Y/S254T/T256E及びG385D/Q386P/N389Sは、明らかにマウスFcRnに対するその高pH結合親和性のために、マウスにおいて半減期を改善しなかったことを示している。従って、高pH結合における如何に多くの改善が、その薬物動態半減期を尚も改善しながら、IgG1変異体において許容されうるのか不明であった。
上記の発明は理解の明確化を目的として例示と実施例によってある程度詳細に記載したが、説明と実施例は本発明の範囲を限定するものとみなしてはならない。ここで引用される全ての特許及び科学文献の開示は出典明示によりその全体を明示的に援用する。
図5及び図6の結果は、抗VEGF変異体の全てがpH6.0でのヒト及びcyno FcRnの双方に対して野生型より改善されたFcRn親和性を有していることを示している。親和性の改善は、会合速度定数の増加と解離速度定数の減少の双方によっていた。総括して、異なった結合アッセイを使用する野生型に対する抗VEGF変異体の親和性改善を図8にまとめる。図8は、V308P/N434A変異体が表3に列挙された変異体の中で最も高いFcRn親和性を有しており、T307Q/E380A/N434A、T307Q/N434S、及びT307Q/N434Aが続くことを示している。N434H変異体は野生型に対するFcRn親和性改善量が最も少ない。