ところで、上記特許文献1に示された従来の車両用舵角比制御装置においては、切戻し操作時に、下に凸となる二次曲線の舵角比特性を採用し、この舵角比特性に基づいて操舵角度(操舵角)に対する実舵角度(転舵角)の比を表す舵角比が計算される。この場合、例えば、操舵角度が大きい状態からステアリングホイール(操舵ハンドル)が切戻し操作されたときには、同操作の開始直後において舵角比が大きく計算されるため、実舵角度が比較的大きな変化量で変化することになる。このように実舵角度の変化量が大きい場合には、前輪(転舵輪)の転舵動作が急激に起こるため、車両の挙動がステアリングホイールの操作に対して敏感に変化するすなわち操作性が悪化する。したがって、操舵角度が大きい状態においては、運転者は慎重にステアリングホイールを操作する必要があり、その結果、車両の運転が難しくなる可能性がある。
また、上記特許文献2に示された従来の車両用操舵装置においては、操舵角に対する転舵角の比を表すステアリングギア比が線形変化し、この線形変化するステアリングギア比を用いて操舵角に対する転舵角が計算される。そして、この場合においても、操舵角が大きい状態からステアリングホイール(操舵ハンドル)が切戻し操作されたときには、同操作の開始直後において比較的大きなステアリングギア比に基づいて転舵角が計算されるため、転舵角が比較的大きな変化量で変化する。したがって、この従来の車両用操舵装置においても、操向輪(転舵輪)の転舵動作が急激に起こって操作性が悪化する可能性があり、その結果、車両の運転が難しくなる可能性がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、運転者による操舵ハンドル操作に対する転舵輪の転舵状態を適切に制御して、車両の運転を易しくした車両の操舵装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車両を操舵するために運転者によって操作される操舵ハンドルと、転舵輪を転舵するための転舵アクチュエータと、前記操舵ハンドルの操作に応じて前記転舵アクチュエータを駆動して前記転舵輪を非線形的に転舵制御する転舵制御装置とを備えたステアリングバイワイヤ方式の車両の操舵装置において、前記転舵制御装置を、前記操舵ハンドルに対する運転者の操作入力値を検出する操作入力値検出手段と、前記検出された操作入力値を用いて、前記操舵ハンドルの運転者による操作状態を判定する操作状態判定手段と、前記判定された前記操舵ハンドルの操作状態に基づき、同操作状態が切り替わったときの操作入力値の絶対値と前記転舵輪の転舵角の絶対値とによって決定される操作点を基準点として設定する基準点設定手段と、前記設定された基準点を用いて、前記操舵ハンドルの操作入力値の絶対値が増加する切込み操作状態における前記転舵輪の転舵角の変化特性であって、前記操舵ハンドルの操作可能範囲の上限値を定める最大操作入力値の絶対値と同最大操作入力値に対応する前記転舵輪の最大転舵角の絶対値とによって決定される最大操作点まで非線形変化する切込み操作変化特性と、前記操舵ハンドルの操作入力値の絶対値が減少する切戻し操作状態における前記転舵輪の転舵角の変化特性であって、前記操舵ハンドルの中立位置を表す0点と前記転舵輪の中立位置を表す0点とによって決定される中立操作点まで非線形変化する切戻し操作変化特性とを決定する転舵角変化特性決定手段と、前記決定された前記転舵輪の転舵角の変化特性に基づいて、前記検出された操作入力値に対する前記転舵輪の目標転舵角を計算する目標転舵角計算手段と、前記計算された目標転舵角に応じて前記転舵アクチュエータを制御して前記転舵輪を同計算された目標転舵角に転舵する転舵制御手段とで構成したことにある。そして、車両の操舵装置には、さらに、前記操舵ハンドルの操作に対して反力を付与する反力装置を設けられるとよい。
この場合、前記基準点設定手段は、前記操作状態判定手段によって、前記切込み操作状態または前記切戻し操作状態から前記検出された操作入力値の時間微分値によって表される前記操舵ハンドルの操作速度が予め設定された基準操作速度よりも小さい状態が所定時間以上継続する保舵操作状態に切り替わったと判定されたときの操作点、切込み操作状態から直接的に切戻し操作状態に切り替わったと判定されたときの操作点、および、切戻し操作状態から直接的に切込み操作状態に切り替わったと判定されたときの操作点を前記基準点として設定するとよい。
また、前記転舵制御装置は、さらに、車両の車速を検出する車速検出手段を備えており、前記操作状態判定手段は、前記検出された車速が所定の車速以上であり、かつ、前記時間微分値が前記所定値未満であれば前記操舵ハンドルの操作状態が保舵操作状態であると判定するとよい。また、前記操作状態判定手段は、前記操舵ハンドルの通常操作状態における前記伝達比が所定の伝達比よりも大きくなるときに、前記操舵ハンドルの操作状態を判定するとよい。
また、前記転舵角変化特性決定手段は、前記操作状態判定手段による判定に基づき、前記操舵ハンドルが切込み操作状態にあるときは、前記設定された基準点から前記最大操作点までの前記検出された操作入力値に対する前記転舵輪の転舵角の線形変化に比して、前記設定された基準点から前記最大操作点まで前記検出された操作入力値に対する前記転舵輪の転舵角が下に凸の非線形変化となる切込み操作変化特性を決定し、前記操舵ハンドルが切戻し操作状態にあるときは、前記設定された基準点から前記中立操作点までの前記検出された操作入力値に対する前記転舵輪の転舵角の線形変化に比して、前記設定された基準点から前記中立操作点までのうちの少なくとも前記設定された基準点の近傍における前記検出された操作入力値に対する前記転舵輪の転舵角が上に凸の非線形変化となる切戻し操作変化特性を決定するとよい。
この場合、前記転舵角変化特性決定手段は、前記操作状態判定手段による判定に基づき、前記操舵ハンドルが切戻し操作状態にあるときは、前記設定された基準点から前記中立操作点までの前記検出された操作入力値に対する前記転舵輪の転舵角の線形変化に比して、前記設定された基準点の近傍における前記検出された操作入力値に対する前記転舵輪の転舵角が上に凸となるように非線形変化するとともに、前記中立操作点近傍における前記検出された操作入力値に対する前記転舵輪の転舵角が下に凸となるように非線形変化する切戻し変化特性を決定するとよい。この場合、前記転舵角変化特性決定手段は、前記検出された操作入力値の大きさに応じて、前記設定された基準点と前記中立操作点との間における前記上に凸となる非線形変化の割合と前記下に凸となる非線形変化の割合とを変更するとよい。
また、前記転舵制御装置は、車両の車速を検出する車速検出手段と、前記検出された車速の大きさを判定する車速判定手段とを備えており、前記目標転舵角計算手段は、前記車速判定手段によって、前記検出された車速が予め設定された基準車速よりも大きいときは、前記操舵ハンドルに対する操作入力値と予め定めたべき乗関係または指数関係にある目標転舵角を、前記検出された操作入力値を用いて計算するとよい。
これらによれば、操作状態判定手段によって運転者による操舵ハンドルの操作状態が判定され、この判定に基づき、基準点設定手段は、操舵ハンドルの操作状態が切り替わったときの操作点、例えば、保舵操作状態に切り替わったときの操作点、切込み操作状態から切戻し操作状態に切り替わったときの操作点、および、切戻し操作状態から切込み操作状態に切り替わったときの操作点を基準点として設定することができる。そして、転舵角変化特性決定手段は、設定された基準点を用いて、最大操作点まで非線形的に変化する切込み操作変化特性と中立操作点まで非線形的に変化する切戻し操作変化特性を決定することができる。また、目標転舵角計算手段は、このように決定された切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性に基づいて、転舵輪の目標転舵角を計算することができる。また、目標転舵角計算手段は、車速判定手段によって車速が基準車速よりも大きいときは、操作入力値とべき乗関係または指数関係にある目標転舵角を計算することができる。
ここで、切込み操作変化特性は、基準点から最大操作点までの線形変化に対して下に凸となるような非線形変化特性とすることができる。また、切戻し操作変化特性は、基準点から中立操作点までの線形変化に対して上に凸となるような非線形特性とすることができる。また、特に、切戻し操作変化特性に関しては、基準点近傍において上に凸となるように非線形変化し、中立操作点近傍において下に凸となるように非線形変化する非線形特性を採用することができる。また、この非線形特性における上に凸となる非線形変化の割合と下に凸となる非線形変化の割合を操作入力値の大きさに応じて変更することができる。
このように、操舵ハンドルの操作状態すなわち切込み操作状態または切戻し操作状態に応じて、基準点から最大操作点までの切込み操作変化特性または基準点から中立操作点までの切戻し操作変化特性を決定することにより、基準点が変化した場合であっても、常に、同様の変化特性に基づき、操作入力値に対して転舵輪の目標転舵角を計算することができる。これにより、切込み操作状態または切戻し操作状態において、基準点が変化した場合であっても、運転者による操舵ハンドルの操作に応じて転舵される転舵輪の転舵動作状態を常に同様とする、すなわち、常に同様の操作性を得ることができる。このため、運転者は、切込み操作状態または切戻し操作状態においては、常に、同様の挙動変化を知覚しながら車両を旋回させることができる。したがって、運転者は、車両を簡単に運転することができる。
また、切込み操作変化特性を下に凸となるような非線形変化特性とすることにより、切込み操作開始直後における車両の挙動変化を緩やかにすることができるとともに、操作入力値の増加に伴って転舵角を大きく転舵させることができて運転者による操舵ハンドルの操作量を低減することができる。一方、切戻し操作変化特性を上に凸となるような非線形変化特性とすることにより、切戻し操作開始直後における車両の挙動変化を緩やかにすることができる。また、中立操作点近傍にて下に凸となるような非線形変化特性とすることによって、操舵ハンドルを中立位置近傍で保持しやすくなるとともに、中立位置を跨いで切戻し操作と切込み操作とが切り替わる場合における変化特性の変化を極めて小さくすることができる。そして、下に凸となる非線形変化特性と上に凸となる非線形変化特性のそれぞれの割合を操作入力値の大きさに応じて変更することにより、これら非線形変化特性間の変更に伴う違和感を大幅に低減することができる。したがって、運転者は、良好な操作フィーリングを得ることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記基準点設定手段が、前記操作状態判定手段によって、前記切込み操作状態または前記切戻し操作状態から前記検出された操作入力値の時間微分値によって表される前記操舵ハンドルの操作速度が予め設定された第1の基準操作速度と同第1の基準操作速度よりも大きく設定された第2の基準操作速度との間で所定時間以上継続する準保舵操作状態に切り替わったと判定されたときの操作点を仮想基準点として設定し、前記転舵角変化特性決定手段が、前記仮想基準点が設定される直前に設定された基準点を用いて決定した前記切込み操作変化特性または前記切り戻し操作変化特性と、前記設定された仮想基準点を用いて決定した前記切込み操作変化特性または前記切戻し操作変化特性とに基づいて、前記直前に設定された基準点から前記仮想基準点への移行に伴う前記切込み操作変化特性または前記切戻し操作変化特性を決定することにもある。
この場合、前記転舵角変化特性決定手段は、前記操舵ハンドルの操作速度の大きさに応じて、前記仮想基準点が設定される直前に設定された基準点を用いて決定された前記切込み操作変化特性または前記切戻し操作変化特性の割合と、前記仮想基準点を用いて決定された前記切込み操作変化特性または前記切戻し操作変化特性にの割合とを変更して、前記直前に設定された基準点から前記仮想基準点への移行に伴う前記切込み操作変化特性または前記切戻し操作変化特性を決定する
また、前記基準点設定手段は、前記操作状態判定手段によって、前記操舵ハンドルの操作速度が予め設定された第1の基準操作速度よりも小さい状態が所定時間以上継続する保舵操作状態に切り替わったと判定されると、同判定されたときの操作点を基準点として前記仮想基準点から変更して設定し、前記転舵角変化特性決定手段は、前記仮想基準点から前記設定された基準点に変更して、前記切込み操作変化特性または前記切戻し操作変化特性を決定するとよい。
これらによれば、操作状態判定手段によって準保舵操作状態に切り替わったと判定されると、基準点設定手段は、準保舵操作状態に切り替わる直前の切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性上にて仮想基準点を設定することができる。また、操作状態判定手段によって準保舵操作状態から保舵操作状態に切り替わったと判定されると、基準点設定手段は、仮想基準点を用いて決定された切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性上に保舵操作状態に切り替わったときの操作点を正式な基準点として設定し、仮想基準点から正式な基準点に変更することができる。そして、転舵角変化特性決定手段は、仮想基準点の設定前に設定された元の基準点、仮想基準点および正式な基準点を用いて、切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性を決定することができる。
これにより、操舵ハンドルの操作状態の切り替わりに応じて、仮想基準点を介することにより、元の基準点から正式な基準点へ時間的に緩やかに変更(移行)することができる。この結果、元の基準点を用いて決定される切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性から正式な基準点を用いて決定される切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性への変更(移行)も時間的に緩やかに行われる。したがって、元の基準点から正式な基準点への移行に伴う違和感を効果的に低減することができる。
また、転舵角変化特性決定手段は、元の基準点を用いて決定した切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性の割合と、仮想基準点を用いて決定した切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性の割合とを、操舵ハンドルの操作速度に応じて変更して、元の基準点から仮想基準点への移行に伴う切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性を決定することができる。このように、元の基準点を用いた変化特性と仮想基準点を用いた変化特性との割合を変化させて、仮想基準点への移行に伴う変化特性を決定することによって、極めて滑らかに変化特性を変更することができる。したがって、最終的に仮想基準点から正式な基準点に変更(移行)する場合であっても、同変更(移行)に伴う違和感を効果的に低減することができる。
a.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態に係る車両の操舵装置について図面を用いて説明する。図1は、第1実施形態ないし第3実施形態に係る共通の車両の操舵装置を概略的に示している。
この操舵装置は、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を転舵するために、運転者によって回動操作される操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は操舵入力軸12の上端に固定され、操舵入力軸12の下端は電動モータおよび減速機構からなる反力アクチュエータ13に接続されている。反力アクチュエータ13は、運転者の操舵ハンドル11の回動操作に対して反力を付与する。
また、この操舵装置は、電動モータおよび減速機構からなる転舵アクチュエータ21を備えている。この転舵アクチュエータ21による転舵力は、転舵出力軸22、ピニオンギア23およびラックバー24を介して左右前輪FW1,FW2に伝達される。この構成により、転舵アクチュエータ21からの回転力は転舵出力軸22を介してピニオンギア23に伝達され、ピニオンギア23の回転によりラックバー24が軸線方向に変位して、このラックバー24の軸線方向の変位により、左右前輪FW1,FW2は左右に転舵される。
次に、これらの反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ21の回転を制御する電気制御装置について説明する。電気制御装置は、操舵角センサ31、転舵角センサ32、車速センサ33および横加速度センサ34を備えている。
操舵角センサ31は、操舵入力軸12に組み付けられていて、操舵ハンドル11の検出基準点としての中立位置からの回転角を検出して操舵角θとして出力する。転舵角センサ32は、転舵出力軸22に組み付けられていて、転舵出力軸22の中立位置からの回転角を検出して実転舵角δ(左右前輪FW1,FW2の転舵角に対応)として出力する。ここで、本明細書において、中立位置とは、車両が直進状態を維持するための操舵ハンドル11、操舵入力軸12、転舵出力軸22および左右前輪FW1,FW2の位置をいう。そして、操舵角θおよび実転舵角δは、中立位置を「0」とし、左方向の回転角を正の値で表すとともに、右方向の回転角を負の値でそれぞれ表す。車速センサ33は、車速Vを検出して出力する。横加速度センサ34は、車両の実横加速度Gを検出して出力する。なお、実横加速度Gも、左方向の加速度を正の値で表し、右方向の加速度を負の値で表す。
これらのセンサ31〜34は、電子制御ユニット35に接続されている。電子制御ユニット35は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするもので、プログラムの実行により反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ21の作動をそれぞれ制御する。電子制御ユニット35の出力側には、反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ21を駆動するための駆動回路36,37がそれぞれ接続されている。駆動回路36,37内には、反力アクチュエータ13および転舵アクチュエータ21内の電動モータに流れる駆動電流を検出するための電流検出器36a,37aが設けられている。電流検出器36a,37aによって検出された駆動電流は、両電動モータの駆動を制御するために、電子制御ユニット35にフィードバックされている。
次に、上記のように構成した第1実施形態の動作について、電子制御ユニット35内にてコンピュータプログラム処理により実現される機能を表す図2の機能ブロック図を用いて説明する。電子制御ユニット35は、操舵ハンドル11の回動操作に基づいて左右前輪FW1,FW2の目標転舵角δf,δr,δkを計算するとともに同計算した目標転舵角δf,δr,δkに基づいて左右前輪FW1,FW2を転舵制御するための転舵制御部40と、操舵ハンドル11への反力付与を制御するための反力制御部50とからなる。
運転者によって操舵ハンドル11が回動操作されると、操舵角センサ31は操舵ハンドル11の回転角である操舵角θを検出し、同検出した操舵角θを転舵制御部40および反力制御部50にそれぞれ出力する。また、車両が走行を開始すると、車速センサ33は車速Vを検出し、同検出した車速Vを転舵制御部40に出力する。
転舵制御部40においては、車速判定部41が車速センサ33から入力した検出車速Vに基づいて、現在、車両が所定の基準車速Voよりも大きな車速Vで走行しているか否かを判定する。具体的に説明すると、車速判定部41は、検出車速Vが所定の基準車速Voよりも大きければ、現在、車両が中、高速で走行していると判定する。そして、車速判定部41は、車両が所定の基準車速Voよりも大きな車速Vで走行していることを表す走行情報を、後述する転舵角計算部45に出力する。一方、車速判定部41は、検出車速Vが所定の基準車速Vo以下であれば、現在、車両が低速で走行していると判定する。そして、車速判定部41は、車両が所定の基準車速Vo以下の車速Vで走行していることを表す走行情報を操作状態判定部42に出力する。
操作状態判定部42は、操舵角センサ31から入力した検出操舵角θに基づいて、運転者による操舵ハンドル11の回動操作状態を判定する。すなわち、運転者は車両を意図した態様で旋回させるために、操舵ハンドル11を回動させたり、任意の回動位置で保持したりする。このように、運転者は、操舵ハンドル11を種々の操作状態によって回動操作するため、操作状態判定部42は、これら運転者による操舵ハンドル11の操作状態を適切に判定する。
具体的に説明すると、操作状態判定部42は、検出操舵角θの絶対値が増加しており、かつ、検出操舵角θの時間微分値dθ/dt(以下、この微分値を操舵角速度dθ/dtという)の絶対値が予め設定された所定の絶対値dθ0/dtよりも大きい状態が継続しているときには、操舵ハンドル11の操作状態を検出操舵角θの絶対値が増加する「切込み操作の継続状態」として判定する。また、操作状態判定部42は、検出操舵角θの絶対値が減少しており、かつ、操舵角速度dθ/dtの絶対値が所定の絶対値dθ0/dtよりも大きい状態が継続しているときには、操舵ハンドル11の操作状態を検出操舵角θの絶対値が減少する「切戻し操作の継続状態」として判定する。さらに、操作状態判定部42は、検出操舵角θの絶対値が僅かに増減している状況において、操舵角速度dθ/dtの絶対値が所定の絶対値dθ0/dt以下である状態が所定時間thだけ継続しているときには、操舵ハンドル11の操作状態を検出操舵角θの絶対値が一定値で維持される「保舵操作状態」として判定する。
また、操作状態判定部42は、切込み操作、切戻し操作および保舵操作が組み合わされた操作状態も判定する。具体的に説明すると、操作状態判定部42は、上述した「保舵操作状態」の判定条件が成立し、その後、上述した「切込み操作の継続状態」の判定条件が成立するとき、すなわち、「切込み操作の継続状態」または「切戻し操作の継続状態」から一旦「保舵操作状態」とされ、その後、操舵ハンドル11が切込み操作されたときには、「保舵操作からの切込み操作状態」として判定する。一方、操作状態判定部42は、上述した「保舵操作状態」の判定条件が成立し、その後、上述した「切戻し操作の継続状態」の判定条件が成立するとき、すなわち、「切込み操作の継続状態」または「切戻し操作の継続状態」から一旦「保舵操作状態」とされ、その後、操舵ハンドル11が切戻し操作されたときには、「保舵操作からの切戻し操作状態」として判定する。
さらに、操作状態判定部42は、切込み操作から切戻し操作、または、切戻し操作から切込み操作に切返される操作状態も判定する。具体的に説明すると、操作状態判定部42は、上述した「切込み操作の継続状態」の判定条件が成立している状況から、急激に検出操舵角θの絶対値が減少し、かつ、操舵角速度dθ/dtの絶対値が所定の絶対値dθ0/dtよりも大きい状況となったときには、操舵ハンドル11の操作状態を「切込み操作からの切戻し操作状態」として判定する。一方、操作状態判定部42は、上述した「切戻し操作の継続状態」の判定条件が成立している状況から、急激に検出操舵角θの絶対値が増加し、かつ、操舵角速度dθ/dtの絶対値が所定の絶対値dθ0/dtよりも大きい状況となったときには、操舵ハンドル11の操作状態を「切戻し操作からの切込み操作状態」として判定する。なお、以下の説明においては、「切込み操作からの切戻し操作状態」および「切戻し操作からの切込み操作状態」をまとめて「切返し操作状態」ともいう。
このような操作状態判定部42による操舵ハンドル11の操作状態の判定に基づき、基準点設定部43は、後述する転舵角変化特性決定部44が検出操舵角θに対する転舵角δの変化特性を決定するための基準点を設定する。具体的に説明すると、基準点設定部43は、操作状態判定部42によって操舵ハンドル11が現在「保舵操作状態」に切り替わったと判定されると、保舵されている操舵ハンドル11の検出操舵角θと、この操舵角θに対応して転舵されている左右前輪FW1,FW2の転舵角であって転舵角センサ32によって検出された実転舵角δとによって決定される点(以下、この点を保舵操作点という)を基準点として設定する。
また、基準点設定部43は、操作状態判定部42によって操舵ハンドル11が「切返し操作状態」であると判定されたときにも基準点を設定する。具体的に説明すると、基準点設定部43は、操作状態判定部42によって操舵ハンドル11が「切込み操作からの切戻し操作状態」であると判定されると、切込み操作から切戻し操作に直接的に切り替わったときの検出操舵角θとこの検出操舵角θに対応する左右前輪FW1,FW2の実転舵角δとによって決定される点(以下、この点を切戻し操作点という)を基準点として設定する。また、基準点設定部43は、操作状態判定部42によって操舵ハンドル11が「切戻し操作からの切込み操作状態」であると判定されると、切戻し操作から切込み操作に直接的に切り替わったときの検出操舵角θとこの検出操舵角θに対応する左右前輪FW1,FW2の実転舵角δとによって決定される点(以下、この点を切込み操作点という)を基準点として設定する。
このように基準点を設定すると、基準点設定部43は設定した基準点すなわち保舵操作点、切戻し操作点または切込み操作点を転舵角変化特性決定部44に供給する。転舵角変化特性決定部44においては、基準点設定部43から供給された基準点を取得するとともに、操作状態判定部42から操舵ハンドル11の操作状態を表す操作状態情報を取得し、操舵ハンドル11の操作状態に応じた左右前輪FW1,FW2の転舵角δの変化特性を決定する。以下、具体的に説明する。
転舵角変化特性決定部44は、大別して、操舵ハンドル11が切込み操作されているときと切戻し操作されているときとで、それぞれ、異なる転舵角δの変化特性を決定する。すなわち、転舵角変化特性決定部44は、操舵ハンドル11が切込み操作されているときには、図3に示すように、基準点設定部43によって設定された基準点と、操舵ハンドル11の回動操作可能範囲の上限値としての最大操舵角θeおよびこの最大値に対応する左右前輪FW1,FW2の最大転舵角δeによって決定される点(以下、この点を最大操作点という)とを結ぶ直線に対して下に凸となる非線形変化特性(以下、この変化特性を切込み操作変化特性という)を決定する。
一方、転舵角変化特性決定部44は、操舵ハンドル11が切戻し操作されているときには、図4に示すように、基準点設定部43によって設定された基準点と、操舵ハンドル11の中立位置を表す0点(操舵角θが「0」)と左右前輪FW1,FW2の中立位置を表す0点(実転舵角δが「0」)とによって決定される点(以下、この点を中立操作点という)を結ぶ直線に対して上に凸となる非線形変化特性(以下、この変化特性を切戻し操作変化特性という)を決定する。以下、切込み操作変化特性と切戻し操作変化特性の決定を具体的に例示して説明するが、理解を容易とするために各点を操舵角θと転舵角δとの座標形式で表すものとし、中立操作点を(0,0)、最大操作点を(θe,δe)、基準点を(θp,δp)として説明する。
まず、操舵ハンドル11が中立位置にて「保舵操作状態」にある場合から説明する。この場合においては、操舵ハンドル11が左右いずれの方向に回動操作される場合であっても、ある程度大きな操舵角速度dθ/dtによって常に検出操舵角θの絶対値が増加する。このため、転舵角変化特性決定部44は、切込み操作変化特性を決定する。すなわち、転舵角変化特性決定部44は、下記式1に従って、図3に示すように、基準点(θp,δp)と最大操作点(θe,δe)とを結ぶ直線の傾き(以下、この傾きを基準傾きTb1という)を計算する。
Tb1=(δe−δp)/(θe−θp) …式1
ただし、中立位置にて「保舵操作状態」にある場合には、保舵操作点としての基準点(θp,δp)は中立操作点(0,0)と一致するため、この場合の基準傾きTb1は特に下記式2によって示される。
Tb1=δe/θe …式2
そして、転舵角変化特性決定部44は、下記式3に従って、検出操舵角θに対する左右前輪FW1,FW2の転舵角δの切込み操作変化特性を決定する。
δ=δp+Ka・Tb1・θ …式3
ただし、前記式3中のδpは基準点における左右前輪FW1,FW2の転舵角δpを表し、Tb1は前記式1によって計算された基準傾きTb1を表す。なお、中立位置にて「保舵操作状態」にある場合には、基準点(θp,δp)が中立操作点(0,0)と一致するため、基準傾きTb1は前記式2に従って計算される。また、前記式3中のθは操舵角センサ31によって検出される操舵ハンドル11の操舵角θを表す。
さらに、前記式3中のKaは操舵角θの変化に対して転舵角δを非線形に(下に凸に)変化させるための係数であり、図5のように表すことができる。すなわち、係数Kaは、操舵角θの変化、より詳しくは、(θ−θp)/(θe−θp)の変化に応じて変化するものであって、操舵角θの増大に伴って線形的に増大し、操舵角θが最大操作点における操舵角θeと一致するときに「1」に設定される変数である。
このように、切込み操作変化特性が決定されることにより、中立操作点(0,0)での「保舵操作状態」から操舵ハンドル11が切込み操作された場合には、中立操作点(0,0)から最大操作点(θe,δe)まで一様に下に凸の非線形特性を有するように、転舵角δを変化させることができる。これにより、運転者は、操舵ハンドル11の回動操作に対する良好な左右前輪FW1,FW2の変化特性を知覚することができる。
次に、「保舵操作からの切込み操作状態」の場合を説明する。この場合においても、操舵ハンドル11が切込み操作されるため、転舵角変化特性決定部44は、切込み操作変化特性を決定する。この「保舵操作からの切込み操作状態」においては、図7に示すように、基準点設定部43によって、保舵操作点が基準点(θp,δp)として設定される。このため、転舵角変化特性決定部44は、前記式1に従って、基準点(θp,δp)から最大操作点(θe,δe)までの基準傾きTb1を計算する。そして、前記式3に従って、検出操舵角θに対する左右前輪FW1,FW2の転舵角δの切込み操作変化特性を決定する。
これにより、保舵操作点すなわち基準点(θp,δp)が異なる場合であっても、基準点(θp,δp)から最大操作点(θe,δe)まで一様に下に凸の非線形特性を有するように、転舵角δを変化させることができる。これにより、例えば、操舵ハンドル11が大きな操舵角θに回動操作されており、左右前輪FW1,FW2が大きな転舵角δまで転舵されている状況から、さらに操舵ハンドル11を切込み操作する場合において、左右前輪FW1,FW2の急峻な転舵動作を低減することができ、運転者はより簡単に車両を運転することができる。
次に、「切戻し操作からの切込み操作状態」の場合を説明する。この場合においても、操舵ハンドル11が切込み操作されるため、転舵角変化特性決定部44は、切込み操作変化特性を決定する。この「切戻し操作からの切込み操作状態」においては、図7に示すように、基準点設定部43によって、切込み操作点が基準点(θp,δp)として設定される。このため、この場合においても、転舵角変化特性決定部44は、前記式1に従って、基準点(θp,δp)から最大操作点(θe,δe)までの基準傾きTb1を計算する。そして、前記式3に従って、検出操舵角θに対する左右前輪FW1,FW2の転舵角δの切込み操作変化特性を決定する。
これにより、切戻し操作時における切込み操作点すなわち基準点(θp,δp)が異なる場合であっても、常に、基準点(θp,δp)から最大操作点(θe,δe)まで一様に下に凸の非線形特性を有するように、転舵角δが変化する。これにより、例えば、操舵ハンドル11を切戻し操作から急激に切込み操作する状況であっても、左右前輪FW1,FW2の急峻な転舵動作を低減することができ、運転者はより簡単に車両を運転することができる。
次に、「保舵操作からの切戻し操作状態」の場合を説明する。この場合においては、操舵ハンドル11が切戻し操作されるため、転舵角変化特性決定部44は、切戻し操作変化特性を決定する。この「保舵操作からの切戻し操作状態」においては、基準点設定部43によって、保舵操作点が基準点(θp,δp)として設定される。そして、転舵角変化特性決定部44は、下記式4に従って、図4に示すように、基準点(θp,δp)と中立操作点(0,0)とを結ぶ直線の傾き(以下、この傾きを基準傾きTb2という)を計算する。
Tb2=δp/θp …式4
そして、転舵角変化特性決定部44は、下記式5に従って、検出操舵角θに対する左右前輪FW1,FW2の転舵角δの切戻し操作変化特性を決定する。
δ=Kb・Tb2・θ …式5
ただし、前記式5中のTb2は前記式4によって計算された基準傾きTb2を表し、θは操舵角センサ31によって検出される操舵ハンドル11の操舵角θを表す。また、前記式5中のKbは操舵角θの変化に対して転舵角δを非線形に(上に凸に)変化させるための係数であり、図6のように表すことができる。すなわち、係数Kbは、操舵角θの変化、より詳しくは、θ/θpの変化に応じて変化するものであって、操舵角θが「0」または基準点における操舵角θpと一致するときには「1」に設定され、操舵角θの増減に伴って「1」以上に非線形的に変化する変数である。なお、θpは基準点における操舵角θpを表す。
このように、切戻し操作変化特性が決定されることにより、基準点(θp,δp)での「保舵操作状態」から操舵ハンドル11が切戻し操作された場合には、基準点(θp,δp)から中立操作点(0,0)まで一様に上に凸の非線形特性を有するように、転舵角δを変化させることができる。これにより、例えば、操舵ハンドル11が大きな操舵角θに回動操作されており、左右前輪FW1,FW2が大きな転舵角δまで転舵されている状況から、操舵ハンドル11を切戻し操作する場合において、左右前輪FW1,FW2の急峻な転舵動作を低減することができ、運転者はより簡単に車両を運転することができる。
次に、「切込み操作からの切戻し操作状態」の場合を説明する。この場合においても、操舵ハンドル11が切戻し操作されるため、転舵角変化特性決定部44は、切戻し操作変化特性を決定する。この「切込み操作からの切戻し操作状態」においては、図7に示すように、基準点設定部43によって、切戻し操作点が基準点(θp,δp)として設定される。このため、この場合においても、転舵角変化特性決定部44は、前記式4に従って、基準点(θp,δp)から中立操作点(0,0)までの基準傾きTb2を計算する。そして、前記式5に従って、検出操舵角θに対する左右前輪FW1,FW2の転舵角δの切戻し操作変化特性を決定する。
これにより、切込み操作時における切戻し操作点すなわち基準点(θp,δp)が異なる場合であっても、常に、基準点(θp,δp)から中立操作点(0,0)まで一様に上に凸の非線形特性を有するように、転舵角δを変化させることができる。これにより、例えば、操舵ハンドル11を切込み操作から急激に切戻し操作する状況であっても、左右前輪FW1,FW2の急峻な転舵動作を低減することができ、運転者はより簡単に車両を運転することができる。
ここで、操作状態判定部42によって、「切込み操作の継続状態」または「切戻し操作の継続状態」が判定されている状況においては、転舵角変化特性決定部44は、これらの状態に切り替わったときに設定した切込み操作変化特性または切込み操作変化特性を維持することはいうまでもない。これにより、「切込み操作の継続状態」または「切戻し操作の継続状態」においては、操舵角θに対する転舵角δの変化特性を一定とすることができるため、運転者が違和感を覚えることがない。
このように、転舵角変化特性決定部44は、切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性が決定すると、これら決定した変化特性を表す変化特性決定情報を転舵角計算部45に出力する。転舵角計算部45は、出力された変化特性決定情報を取得し、同変化特性決定情報によって表される変化特性に基づいて検出操舵角θに対する目標転舵角δf,δrを計算する。また、転舵角計算部45は、取得した走行情報に基づいて、車両が所定の基準車速Voよりも大きな車速Vで走行している場合には、検出操舵角θに対して予め設定されたべき乗関係にある目標転舵角δkを計算する。以下、転舵角計算部45による目標転舵角δf,δr,δkの計算について説明する。
転舵角計算部45は、操舵角センサ31からの検出操舵角θおよび車速センサ33からの検出車速Vを入力するとともに、車速判定部41から走行情報と転舵角変化特性決定部44から変化特性決定情報を取得する。そして、転舵角計算部45は、車両が所定の基準車速Vo以下で走行している場合には、取得した変化特性決定情報によって表わされる変化特性に従って目標転舵角δf,δrを計算する。すなわち、転舵角変化特性決定部44から切込み操作変化特性を取得していれば、前記式3と同様に構成される下記式6に従って、切込み操作時における目標転舵角δfを計算する。
δf=δp+Ka・Tb1・θ …式6
また、転舵角計算部45は、転舵角変化特性決定部44から切戻し操作変化特性を取得していれば、前記式5と同様に構成される下記式7に従って、切戻し操作時における目標転舵角δrを計算する。
δr=Kb・Tb2・θ …式7
一方、転舵角計算部45は、車両が所定の基準車速Voよりも大きな車速Vで中、高速走行している場合には、入力した操舵角θに対してべき乗関数的に変化する目標転舵角δkを下記式8に従って計算する。
δk=a・θI …式8
ただし、前記式8中の係数aは、検出車速Vに依存して変化する車速係数であり、図8に示すように、検出車速Vが比較的小さな範囲内(すなわち、中速域)で「1」よりも大きく、検出車速Vが大きい範囲内(すなわち、高速域)で「1」よりも小さく、検出車速Vの増加に伴って「1」を挟んで非線形に減少する特性を有している。また、前記式8中のθは、検出操舵角θの絶対値を表しており、検出操舵角θが正の値であれば係数aを正の値とするとともに検出操舵角θが負の値であれば係数aの値を前記正の値と同じ絶対値を有する負の値とする。さらに、前記式8中のIは、べき指数を表す定数であり、「1」よりも大きな値に設定されるものである。
したがって、前記式8に従って計算される目標転舵角δkは、検出車速Vが大きくなるに伴って、検出操舵角θに対して小さくなる。その結果、中高速域における車両の挙動安定性が良好に確保されるため、運転者は良好な操舵感覚を得ることができる。
ここで、目標転舵角δkの計算においては、上述したべき乗関数によって計算されることに限定されるものではない。すなわち、車両が中高速域で走行している状況において、操舵角θがある程度小さい範囲で変化するとき、言い換えれば、操舵ハンドル11が中立位置近傍で回動されるときには計算される目標転舵角δkの変化量が小さくなり、操舵角θがある程度大きい範囲で変化するとき、言い換えれば、操舵ハンドル11が中立位置近傍外で回動されるときには計算される目標転舵角δkの変化量が大きくなる関数(例えば、指数関数など)を採用することができる。なお、前記式8の演算に代えて操舵角θに対する目標転舵角δkを記憶した図9に示すような特性の変換テーブルを用いて、目標転舵角δkを計算するようにしてもよい。
このように計算された目標転舵角δf,δrまたは目標転舵角δkは、転舵角補正部46に供給される。転舵角補正部46は、車速センサ33によって検出された車速Vおよび横加速度センサ34によって検出された実横加速度Gを入力しており、検出車速Vと実横加速度Gとを用いた下記式9〜式11に従って、目標転舵角δf,δrまたは目標転舵角δkを補正して補正目標転舵角δfa,δraまたは補正目標転舵角δkaを計算する。
δfa=δf+J・(Gd−G) …式9
δra=δr+J・(Gd−G) …式10
δka=δk+J・(Gd−G) …式11
ただし、前記式9〜式11中の係数Jは予め決められた定数である。また、Gdは車両旋回時において車両の発生する目標横加速度を表すものであって、車速Vを変化させながら車両を走行させて、左右前輪FW1,FW2の転舵角δを変化させたときに発生する横加速度を実測したものである。また、係数Jおよび目標横加速度Gdは計算された目標転舵角δdが正であればそれぞれ正の値とされるとともに、計算された目標転舵角δdが負であればそれぞれ前記正の係数Jおよび目標横加速度Gdと同じ絶対値を有する負の値とされる。
このように計算された補正目標転舵角δfa,δraまたは補正目標転舵角δkaは、駆動制御部47に供給される。駆動制御部47は、転舵角センサ32によって検出された実転舵角δを入力し、左右前輪FW1,FW2が計算された補正目標転舵角δfa,δraまたは補正目標転舵角δkaに転舵されるように転舵アクチュエータ21内の電動モータの回転をフィードバック制御する。また、駆動制御部52は、駆動回路37から同電動モータに流れる駆動電流も入力し、転舵トルクに対応した大きさの駆動電流が同電動モータに適切に流れるように駆動回路37をフィードバック制御する。この転舵アクチュエータ21内の電動モータの駆動制御により、同電動モータの回転は、転舵出力軸22を介してピニオンギア23に伝達され、ピニオンギア23によりラックバー24を軸線方向に変位させる。そして、このラックバー24の軸線方向の変位により、左右前輪FW1,FW2は計算された補正目標転舵角δfa,δraまたは補正目標転舵角δkaに転舵される。
次に、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して反力を付与する反力制御部50を説明する。反力制御部50においては、反力トルク計算部51が検出操舵角θを用いた下記式12に従って、反力トルクTzを計算する。
Tz=b・θK …式12
ただし、前記式12中の係数bは、予め決められた定数である。また、前記式12中のθは、検出操舵角θの絶対値を表しており、検出操舵角θが正の値であれば係数bを負の値とするとともに検出操舵角θが負の値であれば係数bの値を前記負の値と同じ絶対値を有する正の値とする。さらに、前記式12中のKは、べき指数を表す定数であり、「1」よりも小さな値に設定されるものである。
このように計算された反力トルクTzは、駆動制御部52に供給される。駆動制御部52は、駆動回路36から反力アクチュエータ13内の電動モータに流れる駆動電流を入力し、同電動モータに反力トルクTzに対応した駆動電流が流れるように駆動回路36をフィードバック制御する。この反力アクチュエータ13内の電動モータの駆動制御により、同電動モータは、操舵入力軸12を介して操舵ハンドル11に反力トルクTzを付与する。これにより、運転者は、操舵ハンドル11の回動操作状態に応じた適切な反力を知覚することができる。
以上の説明からも理解できるように、この第1実施形態によれば、操作状態判定部42によって運転者による操舵ハンドル11の操作状態が判定される。そして、この判定に基づき、基準点設定部43は、操舵ハンドル11の操作状態が切り替わったときの操作点、すなわち、「保舵操作状態」における保舵操作点、「切込み操作からの切戻し操作状態」における切戻し操作点、および、「切戻し操作からの切込み操作状態」における切込み操作点を基準点(θp,δp)として設定することができる。
これにより、転舵角変化特性決定部44は、設定された基準点(θp,δp)を用いて、最大操作点(θe,δe)まで非線形的に変化する切込み操作変化特性と、中立操作点(0,0)まで非線形的に変化する切戻し操作変化特性を決定することができる。ここで、切込み操作変化特性は、基準点(θp,δp)から最大操作点(θe,δe)までの線形変化に対して下に凸となるような非線形変化特性とすることができる。また、切戻し操作変化特性は、基準点(θp,δp)から中立操作点(0,0)までの線形変化に対して上に凸となるような非線形特性とすることができる。
また、転舵角計算部45は、このように決定された切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性に基づいて、左右前輪FW1,FW2の目標転舵角δf,δrを計算することができる。また、転舵角計算部45は、車速判定部41によって車速Vが基準車速Voよりも大きいときは、操舵角θとべき乗関係(または指数関係)にある目標転舵角δkを計算することができる。
このように、操舵ハンドル11の操作すなわち切込み操作または切戻し操作に応じて、基準点(θp,δp)から最大操作点(θe,δe)までの切込み操作変化特性または基準点(θp,δp)から中立操作点(0,0)までの切戻し操作変化特性を決定することにより、基準点(θp,δp)がどの位置に設定された場合であっても、常に、同様の変化特性に基づき、操舵角θに対して左右前輪FW1,FW2の目標転舵角δf,δrを計算することができる。このため、切込み操作状態または切戻し操作状態において、基準点(θp,δp)が変化した場合であっても、運転者による操舵ハンドル11の操作に応じて転舵される左右前輪FW1,FW2の転舵動作状態を常に同様とする、すなわち、常に同様の操舵フィーリングを得ることができる。これにより、運転者は、切込み操作状態または切戻し操作状態においては、常に、同様の挙動変化を知覚しながら車両を旋回させることができる。したがって、運転者は、車両を簡単に運転することができる。
また、切込み操作変化特性を下に凸となるような非線形変化特性とすることにより、切込み操作開始直後における車両の挙動変化を緩やかにすることができるとともに、操舵角θの増加に伴って左右前輪FW1,FW2を大きく転舵させることができて運転者による操舵ハンドル11の操作量を低減することができる。一方、切戻し操作変化特性を上に凸となるような非線形変化特性とすることにより、切戻し操作開始直後における車両の挙動変化を緩やかにすることができる。したがって、運転者は、良好な操作フィーリングを得ることができる。
b.第2実施形態
上記第1実施形態においては、転舵角変化特性決定部44が決定する切戻し操作変化特性として、操舵角θに対する転舵角δが基準点(θp,δp)から中立操作点(0,0)まで上に凸の非線形特性を有して変化するように実施した。これにより、例えば、運転者が切込み操作から切戻し操作するように切返し操作した場合には、左右前輪FW1,FW2の転舵動作を緩やかにすることができ、その結果、車両の運転を簡単にすることができる。
しかし、この場合、運転者による操舵ハンドル11の操作状態の切り替わりに応じて、基準点(θp,δp)が逐次設定されることに起因して、特に、中立操作点(0,0)近傍において、操舵角θに対する転舵角δの変化特性が異なる。より具体的には、中立操作点(0,0)近傍における転舵角δの変化量が異なり、中立操作点(0,0)で操舵ハンドル11を保舵することが難しくなる場合がある。また、運転者が操舵ハンドル11を回動操作することによって、中立操作点(0,0)を通過すると、切戻し操作状態から切込み操作状態に切り替わる。このように、中立操作点(0,0)を跨いで切戻し操作状態から切込み操作状態に切り替わる状況においては、切戻し操作変化特性が瞬時に切込み操作変化特性に切り替わるため、転舵角δの変化特性が大きく変化する。これにより、運転者が違和感を覚える可能性がある。
そこで、この第2実施形態においては、中立操作点(0,0)近傍における転舵角δの変化特性が下に凸の非線形特性となるように、切戻し操作変化特性を決定する。以下、この第2実施形態を詳細に説明するが、上記第1実施形態と同一部分に関しては、同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
この第2実施形態においては、電子制御ユニット35内にてコンピュータプログラム処理により実現される機能を表す図9の機能ブロック図に示すように、上記第1実施形態の転舵角変化特性決定部44に代えて、上述した切戻し操作変化特性を決定する転舵角変化特性決定部61が設けられている。
転舵角変化特性決定部61は、上記第1実施形態と同様に機能する基準点設定部43によって供給された基準点(θp,δp)を取得するとともに、上記第1実施形態と同様に機能する操作状態判定部42によって供給された操作状態情報を取得する。そして、転舵角変化特性決定部61は、上記第1実施形態の転舵角変化特性決定部44と同様に、操舵ハンドル11の操作状態に応じた左右前輪FW1,FW2の転舵角δの切込み操作変化特性を決定する。
一方、転舵角変化特性決定部61は、操舵ハンドル11が切戻し操作されているときには、図10に示すように、基準点(θp,δp)と中立操作点(0,0)とを結ぶ直線に対して、基準点(θp,δp)の近傍にて上に凸となる非線形変化特性を有し、かつ、中立操作点(0,0)近傍にて下に凸となる非線形変化特性を有する切込み操作変化特性を決定する。以下、この切込み操作変化特性を具体的に例示して詳細に説明する。
まず、「保舵操作からの切戻し操作状態」の場合を説明する。この「保舵操作からの切戻し操作状態」においては、基準点設定部43によって、保舵操作点が基準点(θp,δp)として設定される。このため、転舵角変化特性決定部61は、上記第1実施形態と同様に、前記式4に従って基準傾きTb2を計算する。そして、転舵角変化特性決定部61は、検出操舵角θに対する左右前輪FW1,FW2の転舵角δの変化特性として、下記式13に従って、基準点(θp,δp)と中立操作点(0,0)とを間の線形変化特性を計算する。
δs=Tb2・θ …式13
ただし、前記式13中のδsは切戻し操作にて検出操舵角θに対して線形変化特性を有する転舵角δsを表す。また、前記式13中のTb2は前記式4に従って計算される基準傾きTb2を表し、θは操舵角センサ31によって検出される操舵ハンドル11の操舵角θを表す。
また、転舵角変化特性決定部61は、検出操舵角θに対する左右前輪FW1,FW2の転舵角δの変化特性として、下記式14に従って、中立操作点(0,0)近傍にて下に凸となる非線形変化特性を計算する。
δg=Kc・Tb2・θ …式14
ただし、前記式14中のTb2は前記式4によって計算された基準傾きTb2を表し、θは操舵角センサ31によって検出される操舵ハンドル11の操舵角θを表す。また、前記式14中のKcは操舵角θの変化に対して転舵角δを非線形に(下に凸に)変化させるための係数であり、図12のように表すことができる。すなわち、係数Kcは、操舵角θの変化、より詳しくは、θ/θpの変化に応じて変化するものであって、検出操舵角θが基準点のθpと一致するときには「1」に設定され、θ/θpが小さくなるに伴ってすなわち操舵ハンドル11の中立位置までの回動操作に伴って線形的に減少する変数である。なお、θpは基準点における操舵角θpを表す。
そして、転舵角変化特性決定部61は、線形変化特性に基づいて変化する転舵角δsと下に凸となる非線形変化特性に基づいて変化する転舵角δgとを用いた下記式15に従って、検出操舵角θに対する左右前輪FW1,FW2の転舵角δの切戻し操作変化特性を決定する。
δ=(1−Kw)・δg+Kw・δs …式15
ここで、前記式15中のKwは操舵角θの変化に対して転舵角δが線形変化する比率(割合)を決定する係数であり、図13のように表すことができる。すなわち、係数Kwは、操舵角θの変化、より詳しくは、θ/θpの変化に応じて変化するものであり、検出操舵角θが基準点のθpと一致するときには「1」よりも大きな値に設定され、θ/θpが小さくなるに伴ってすなわち操舵ハンドル11の中立位置までの回動操作に伴って「0」まで変化するものである。
このように、切戻し操作変化特性が決定されることにより、基準点(θp,δp)近傍においては、係数Kwの値が「1」以上に設定されるため、前記式15に従って計算される転舵角δは、前記式13に従って計算される線形変化特性を有する転舵角δsよりも大きくなる。この結果、基準点(θp,δp)近傍においては、上記第1実施形態と同様に、上に凸の非線形変化特性に基づいて、検出操舵角θに対する転舵角δは変化する。したがって、図14に示すように、操舵ハンドル11が大きな操舵角θに回動操作されており、左右前輪FW1,FW2が大きな転舵角δまで転舵されている状況から、操舵ハンドル11を切戻し操作する場合において、左右前輪FW1,FW2の急峻な転舵動作を低減することができる。
また、中立操作点(0,0)近傍においては、係数Kwの値が「0」に設定されるため、前記式15に従って計算される転舵角δは、前記式14に従って計算される非線形変化特性を有する転舵角δgと一致する。この結果、中立操作点(0,0)近傍においては、切込み操作変化特性と同様に、下に凸の非線形変化特性に基づいて、検出操舵角θに対する転舵角δは変化する。これにより、例えば、中立操作点(0,0)を跨いで操舵ハンドル11が回動操作される場合において、切戻し操作から切込み操作に瞬時に切り替わったときであっても、切戻し操作変化特性と切込み操作変化特性とを同様の下に凸の非線形変化特性とすることができる。
また、「切込み操作からの切戻し操作状態」の場合においても、転舵角変化特性決定部61は、前記式13〜式15を計算することにより、切戻し操作変化特性を決定する。すなわち、転舵角変化特性決定部61は、前記式13に従って、切戻し操作点としての基準点(θp,δp)から中立操作点(0,0)まで線形変化特性に基づく転舵角δsを計算する。また、転舵角変化特性決定部61は、前記式14に従って、下に凸となる非線形変化特性に基づく転舵角δgを計算する。そして、転舵角変化特性決定部61は、前記式15に従って、検出操舵角θに対する左右前輪FW1,FW2の転舵角δの切戻し操作変化特性を決定する。
これにより、切込み操作から切戻し操作された場合であっても、図14に示すように、基準点(θp,δp)近傍においては上に凸の非線形変化特性を有し、中立操作点(0,0)近傍においては下に凸の非線形変化特性を有する切戻し操作変化特性を決定することができる。これにより、基準点(θp,δp)近傍における左右前輪FW1,FW2の急峻な転舵動作を低減することができる。また、中立操作点(0,0)を跨いで操舵ハンドル11が回動操作される場合において、切戻し操作変化特性と切込み操作変化特性とを同様の下に凸の非線形変化特性とすることができる。
また、電子制御ユニット35にて実行される他のプログラム処理については上記第1実施形態の場合と同じである。そして、図10の機能ブロック図において、上記第1実施形態の図2と同一の符号を付しその説明を省略する。
以上の説明からも理解できるように、この第2実施形態においては、転舵角変化特性決定部61は、基準点近傍において上に凸となるように非線形変化し、中立操作点近傍において下に凸となるように非線形変化する切戻し操作変化特性を決定することができる。また、転舵角変化特性決定部61は、この非線形特性における上に凸となる非線形変化の割合と下に凸となる非線形変化の割合を操作入力値の大きさに応じて変更することができる。
このように、中立操作点近傍にて下に凸となるような非線形変化特性とすることによって、操舵ハンドル11を中立位置近傍で保持しやすくなるとともに、中立位置を跨いで切戻し操作と切込み操作とが切り替わる場合における変化特性の変化を極めて小さくすることができる。そして、下に凸となる非線形変化特性と上に凸となる非線形変化特性のそれぞれの割合を操舵角θの大きさに応じて変更することにより、これら非線形変化特性間の変更に伴う違和感を大幅に低減することができる。したがって、運転者は、良好な操作フィーリングを得ることができる。その他の効果については、上記第1実施形態と同様の効果が期待できる。
c.第3実施形態
上記第1実施形態および第2実施形態においては、操作状態判定部42によって「保舵操作状態」と判定されると、基準点設定部43が保舵操作点を基準点(θp,δp)として設定するように実施した。そして、転舵角変化特性決定部44,48が、設定された基準点(θp,δp)を用いて、操舵ハンドル11の操作状態に応じた切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性を決定するように実施した。これにより、基準点設定部43による基準点(θp,δp)の設定が行われた後においては、適切な切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性が決定されることにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対する左右前輪FW1,FW2の転舵動作が緩やかになって車両の運転が簡単になる。
ところで、上記第1実施形態および第2実施形態においては、操作状態判定部42によって「保舵操作状態」と判定されると、基準点設定部43が直ちに保舵操作点を基準点(θp,δp)に設定し、これに伴って転舵角変化特性決定部44,61が切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性を決定する。このため、基準点設定部43による基準点(θp,δp)の変更(移行)タイミングによっては、転舵角変化特性決定部44,48による転舵角δの変化特性の切り替えが不自然となり、運転者が違和感を覚える可能性がある。
そこで、この第3実施形態においては、基準点(θp,δp)の変更(移行)タイミングが時間的に緩やかとなるように、基準点(θp,δp)を設定する。以下、この第3実施形態を詳細に説明するが、上記第1実施形態および第2実施形態と同一部分に関しては、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
この第3実施形態においては、電子制御ユニット35内にてコンピュータプログラム処理により実現される機能を表す図15の機能ブロック図に示すように、上記第1実施形態および第2実施形態における操作状態判定部42に代えて、操作状態判定部71が設けられている。また、上記第1実施形態および第2実施形態の基準点設定部43に代えて、上述したように基準点(θp,δp)を時間的に緩やかに変更(移行)して設定する基準点設定部72が設けられている。また、上記第1実施形態の転舵角変化特性決定部44および上記第2実施形態の転舵角変化特性決定部61に代えて、基準点設定部72によって設定された基準点に応じた切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性を決定する転舵角変化特性決定部73が設けられている。
この第3実施形態においては、操作状態判定部71は、上記第1実施形態および第2実施形態における操舵ハンドル11の操作状態の判定に加えて、「準保舵操作状態」を判定する。以下、操作状態判定部71による「準保舵操作状態」の判定について説明する。
操作状態判定部71は、検出操舵角θの絶対値がわずかに増減している状況において、操舵角速度dθ/dtの絶対値が、第1の基準操作速度としての所定の絶対値dθ0/dtと、この所定の絶対値dθ0/dtよりも大きく設定された第2の基準操作速度としての所定の絶対値dθ1/dtとの間にある状態が所定時間thだけ継続しているときには、操舵ハンドル11の操作状態を検出操舵角θの絶対値がほぼ一定値で維持される「準保舵操作状態」として判定する。
そして、基準点設定部72は、操作状態判定部71による「準保舵操作状態」の判定に基づき、仮想基準点(θpv,δpv)を設定する。すなわち、基準点設定部72は、操作状態判定部71によって操舵ハンドル11が現在「準保舵操作状態」に切り替わったと判定されると、同判定時点における検出操舵角θと検出実転舵角δを仮想基準点(θpv,δpv)として設定する。このように、仮想基準点(θpv,δpv)を設定すると、基準点設定部72は設定した仮想基準点(θpv,δpv)を転舵角変化特性決定部73に供給する。
転舵角変化特性決定部73においては、供給された仮想基準点(θpv,δpv)を取得するとともに、操作状態判定部71から操舵ハンドル11の操作状態として「準保舵操作状態」を表す操作状態情報を取得する。そして、転舵角変化特性決定部73は、操舵ハンドル11の「準保舵操作状態」および「保舵操作状態」に応じた左右前輪FW1,FW2の転舵角δの変化特性を決定する。
すなわち、転舵角変化特性決定部73は、図16にて破線で示すように、仮想基準点(θpv,δpv)が存在する元の変化特性(図15においては、切戻し操作変化特性を例示)と、図16にて一点鎖線で示すように、仮想基準点(θpv,δpv)を設定することにより決定される変化特性(図15においては、切戻し操作変化特性を例示)とを用い、これら2つの変化特性によって表される転舵角δの変化特性を下記式16に従って決定する。
δ=(1−Kv)・δt+Kv・δvt …式16
ここで、前記式16中のδtは仮想基準点(θpv,δpv)が存在する元の変化特性に基づいて変化する転舵角を表し、δvtは仮想基準点(θpv,δpv)を設定することにより決定される変化特性に基づいて変化する転舵角を表す。
また、前記式16中のKvは、転舵角δtと転舵角δvtとの比率(割合)を決定する係数であり、図17に示すように、操舵ハンドル11の操舵角速度dθ/dtの変化に応じて変化するものである。すなわち、係数Kvは、操舵角速度dθ/dtの絶対値が、所定の絶対値dθ1/dt以上であれば「0」に設定され、所定の絶対値dθ1/dt未満かつ所定の絶対値dθ0/dtよりも大きければ「0」から「1」の間の値に設定され、所定の絶対値dθ0/dt以下であれば「1」に設定される。
このように前記式16に従って転舵角δの変化特性が決定されることにより、操舵角速度dθ/dtが所定の絶対値dθ1/dt以上に大きいときには、係数Kvの値が「0」に設定されるため、前記式16に従って計算される転舵角δは、転舵角δtと一致する、すなわち、仮想基準点(θpv,δpv)が存在する元の変化特性に従って変化する。また、操舵角速度dθ/dtが所定の絶対値dθ1/dt未満かつ所定の絶対値dθ0/dtよりも大きいときには、係数Kvの値が「0」から「1」の間で変化する。このため、前記式16に従って決定される転舵角δの変化特性は、図16にて太線で示すように、転舵角δtの変化特性と転舵角δvtの変化特性とが操舵角速度dθ/dtに応じて連続的に、すなわち、時間的に緩やかに変更される。これにより、元の変化特性を決定するために用いられる基準点(元の基準点)から仮想基準点(θpv,δpv)への移行、言い換えれば、元の変化特性から仮想基準点(θpv,δpv)を用いた変化特性への移行を極めて滑らかに行うことができる。
さらに、操舵角速度dθ/dtが所定の絶対値dθ0/dt以下のときには、係数Kvの値が「1」に設定されるため、前記式16に従って決定される転舵角δの変化特性は、仮想基準点(θpv,δpv)を用いた変化特性と一致する。ところで、操舵角速度dθ/dtが所定の絶対値dθ0/dt以下となったときには、上記第1実施形態および第2実施形態の操作状態判定部42と同様に、、操作状態判定部71は操舵ハンドル11が「保舵操作状態」にあると判定する。このため、基準点設定部72は、操作状態判定部71の判定に基づき、仮想基準点(θpv,δpv)に変えて、保舵操作点を正式な基準点(θp,δp)として設定する。
ここで、基準点設定部72によって設定される正式な基準点(θp,δp)は、図16に示すように、仮想基準点(θpv,δpv)を設定することにより決定される変化特性上に存在する。また、仮想基準点(θpv,δpv)から正式な基準点(θp,δp)への移行は、操舵角速度dθ/dtが徐々に小さくなって最終的に所定の絶対値dθ0/dt以下となったときに完了する。したがって、操作状態判定部71による「保舵操作状態」との判定に基づいて、基準点設定部72が転舵角δの変化特性を決定するための基準点を仮想基準点(θpv,δpv)から正式な基準点(θp,δp)に変更(移行)するときには、同変更(移行)が時間的に緩やかとなる。
ここで、基準点設定部72が正式な基準点(θp,δp)を設定するときに、操作状態判定部71が「準保舵操作状態」を判定した場合には、ふたたび、基準点設定部72は仮想基準点(θpv,δpv)を設定する。そして、基準点設定部72は、「保舵操作状態」との判定に基づいて、転舵角δの変化特性を決定するための基準点を仮想基準点(θpv,δpv)から正式な基準点(θp,δp)に変更する。
そして、転舵角変化特性決定部73は、正式な基準点(θp,δp)を用いて、操舵角θに対する転舵角δの変化特性、すなわち、切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性を決定する。したがって、仮想基準点(θpv,δpv)から正式な基準点(θp,δp)への移行に伴う変化特性の変更は時間的に緩やかとなり、運転者は違和感を覚えにくくなる。
以上の説明からも理解できるように、この第3実施形態においては、操作状態判定部71によって「準保舵操作状態」に切り替わったことが判定されると、基準点設定部72は、仮想基準点(θpv,δpv)を設定することができる。また、操作状態判定部71によって「準保舵操作状態」から「保舵操作状態」に切り替わったことが判定されると、基準点設定部72は、「保舵操作状態」に切り替わったときの保舵操作点を正式な基準点(θp,δp)として仮想基準点(θpv,δpv)から変更して設定することができる。そして、転舵角変化特性決定部73は、仮想基準点の設定前に設定された元の基準点、仮想基準点(θpv,δpv)および正式な基準点(θp,δp)を用いて、切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性を決定することができる。
これにより、操舵ハンドル11の操作状態の切り替わりに応じて、仮想基準点(θpv,δpv)を介して、元の基準点から正式な基準点(θp,δp)へ時間的に緩やかに変更(移行)することができる。この結果、元の基準点(または、仮想基準点(θpv,δpv))を用いて決定される切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性から正式な基準点(θp,δp)を用いて決定される切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性の変更(移行)も時間的に緩やかに行われる。したがって、元の基準点(または、仮想基準点(θpv,δpv))から正式な基準点(θp,δp)への移行に伴う違和感を効果的に低減することができる。
また、転舵角変化特性決定部73は、元の基準点を用いて決定した切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性(すなわち転舵角δt)の割合と、仮想基準点(θpv,δpv)を用いて決定した切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性(すなわち転舵角δvt)の割合とを、操舵ハンドル11の操舵角速度dθ/dtに応じて変更し、元の基準点から仮想基準点(θpv,δpv)への移行に伴う切込み操作変化特性または切戻し操作変化特性(すなわち、転舵角δ)を決定することができる。このように、元の基準点を用いた変化特性と仮想基準点(θpv,δpv)を用いた変化特性との割合を変化させて、仮想基準点(θpv,δpv)への移行に伴う変化特性を決定することによって、極めて滑らかに変化特性を変更することができる。したがって、最終的に仮想基準点(θpv,δpv)から正式な基準点(θp,δp)に変更(移行)する場合であっても、同変更(移行)に伴う違和感を効果的に低減することができる。したがって、仮想基準点(θpv,δpv)から正式な基準点(θp,δp)への移行に伴う違和感を効果的に低減することができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第1ないし第3実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記第1ないし第3実施形態においては、車両を操舵するために回動操作される操舵ハンドル11を用いるようにした。しかし、これに代えて、例えば、直線的に変位するジョイスティックタイプの操舵ハンドルを用いてもよいし、その他、運転者によって操作されるとともに車両に対する操舵を指示できるものであれば、いかなるものを用いてもよい。
また、上記第1ないし第3実施形態においては、転舵アクチュエータ21を用いて転舵出力軸22を回転させることにより、左右前輪FW1,FW2を転舵するようにした。しかし、これに代えて、転舵アクチュエータ13を用いてラックバー24をリニアに変位させることにより、左右前輪FW1,FW2を転舵するようにしてもよい。
FW1,FW2…前輪、11…操舵ハンドル、12…操舵入力軸、13…反力アクチュエータ、21…転舵アクチュエータ、22…転舵出力軸、31…操舵角センサ、32…転舵角センサ、33…車速センサ、34…横加速度センサ、35…電子制御ユニット、40…転舵制御部、41…車速判定部、42,71…操作状態判定部、43,72…基準点設定部、44,61,72…転舵角変化特性決定部、45…転舵角計算部、50…反力制御部、61…反力トルク計算部