本明細書において「実施形態」とは本発明の実施形態を意味する。以下、本発明のステアリング制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。このステアリング制御装置は、ステアバイワイヤシステムにおいて反力装置及び転舵装置を制御する装置である。複数の実施形態で実質的に同一の構成、又は、フローチャートにおける実質的に同一のステップには同一の符号又はステップ番号を付して説明を省略する。以下の第1〜第4実施形態を包括して「本実施形態」という。
図1に、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離されたステアバイワイヤシステム90の全体構成を示す。図1において、車輪99は片側のみを図示し、反対側の車輪の図示を省略する。ステアバイワイヤシステム90は、反力装置70、転舵装置80、及び、トルクセンサ94を備える。
反力装置70は、反力用回転電機78と、反力用回転電機78を駆動する反力用電力変換器77と、反力用回転電機78の出力を減速する反力用減速機79とを含み、ステアリングシャフト92を介してステアリングホイール91と接続される。ステアバイワイヤシステム90では、ドライバは操舵に対する反力を直接感知することができない。そこで、反力回転電機78は、操舵に対する反力を付与するようにステアリングホイール91を回転させ、ドライバに適切な操舵フィーリングを与える。
転舵装置80は、転舵用回転電機88と、転舵用回転電機88を駆動する転舵用電力変換器87と、転舵用回転電機88の出力を減速する転舵用減速機89とを含む。転舵用回転電機88の回転は、転舵用減速機89からピニオンギア96、ラック軸97、タイロッド98、ナックルアーム985を介して車輪99に伝達される。詳しくは、ピニオンギア96の回転運動はラック軸97の直線運動に変換され、ラック軸97の両端に設けられたタイロッド98がナックルアーム99を往復移動させることで、車輪99が転舵される。
トルクセンサ94は、トーションバーの捩れ変位に基づき、ステアリングシャフト92に加わるドライバの操舵入力を検出する。トルクセンサ94の検出値T_snsはステアリング制御装置200に入力される。
ステアリングホイール91の操舵角は、ステアリングホイール91の中立位置に対する回転方向に応じて、例えば図1のCW方向が正、CCW方向が負と定義される。これに対応して車輪99の転舵角の正負が定義される。角速度は、角度と同じ符号で定義される。また、ドライバがステアリングホイール91をCW方向に回すときのトルクセンサ94の検出値T_snsは正である。
さらに、反力装置70でステアリングホイール91をCW方向に回すときの反力装置70の出力トルクも正である。反力装置70の出力トルクがCW方向に作用しているとき、ドライバがステアリングホイール91を保舵すると、ドライバはCCW方向にトルクを加えるため、トルクセンサ94の検出値T_snsは負となる。
ステアリング制御装置200は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。ステアリング制御装置200の各処理は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
図1に示すように、本実施形態では、反力装置制御部270と転舵装置制御部280とが物理的に離れた状態で設けられている。二つの制御部270、280は、CAN通信等の車両ネットワークや専用の通信ラインを経由して互いに情報を通信することで、協働してステアリング制御装置200として機能する。
例えば二点鎖線で示すように、反力装置70は、反力装置制御部270と反力用電力変換器77と反力用回転電機78とが一体に構成される。同様に転舵装置80は、転舵装置制御部280と転舵用電力変換器87と転舵用回転電機88とが一体に構成される。このような、いわゆる「機電一体式」のモータ構造は、電動パワーステアリング装置の分野において周知である。
次に図2を参照し、反力装置70及び転舵装置80における電力変換器77、87及び回転電機78、88の具体的な構成形態について説明する。反力装置70と転舵装置80とは同様の構成であるため、図中の符号を併記する。以下の説明では、「反力用」、「転舵用」の記載を省略しつつ、代表として反力装置70の構成要素の符号を用いて説明する。転舵装置80については、符号を読み替えて解釈するものとする。
本実施形態の回転電機78は二系統の三相ブラシレスモータであり、電力変換器77は二系統の三相インバータである。回転電機78は、二系統の巻線として第1系統巻線781及び第2系統巻線782を有する。二系統の巻線781、782は、例えば位相を電気角30[deg]ずらして配置されている。回転電機78が出力するトルクTmは、第1系統巻線781への通電により生成される第1系統トルクTm1と、第2系統巻線782への通電により生成される第2系統トルクTm2との合算値となる。
電力変換器77は、第1系統巻線781に通電する第1系統電力変換器771、及び、第2系統巻線782に通電する第2系統電力変換器772を含む。図2の例では、二系統の電力変換器771、772は、共通のバッテリ11から供給された直流電力をそれぞれ三相交流電力に変換する。他の例では、各電力変換器771、772は、個別のバッテリに接続されてもよい。
次に図3、図4を参照し、反力装置制御部270及び転舵装置制御部280の概略構成を説明する。この部分では、各実施形態の詳細な制御構成の説明に先立ち、各実施形態に共通する反力装置70及び転舵装置80の基本構成や特有の構成について説明する。反力装置70の出力に関するパラメータの記号には「r」、転舵装置80の出力に関するパラメータの記号には「t」を付す。以下、反力装置70及び転舵装置80の符号「70」、「80」の記載を適宜省略する。
図3、図4において、反力装置の角度θr及び角速度ωr、転舵装置の角度θt等の値は、回転電機78、88の回転角度に減速機79、89の減速比を乗除した換算後の値とする。まず図3に転舵装置制御部280の基本構成を示す。反力装置の角度θrはバンドパスフィルタ(図中「BPF」)31を介して角度比制御部320に入力される。角度比制御部320では、角度θrや車速Vに応じた反力装置70と転舵装置80との角度比が演算される。
角度制御部360の偏差算出部361は、反力装置の角度θrに角度比を乗じた値と転舵装置の角度θtとの角度偏差Δθr-tを算出する。PID制御器362は、角度偏差Δθr-tを0に近づけるように、転舵トルク指令値T*t、又は、転舵トルク指令値T*tに対応する転舵用回転電機88の電流指令値I*tを演算する。転舵装置電流制御部380は偏差算出器381とPI制御器382とを含み、転舵トルクTt又は電流Itのフィードバック制御により、転舵用回転電機88に流す電流を制御する。
ところで、偏差算出部361で算出される角度偏差Δθは、正確には「反力装置の角度θrに角度比を乗じた値」と転舵装置の角度θtとの差分である。ただし本明細書では、「反力装置の角度θrに角度比を乗じた値」を「反力装置の角度θr」とみなし、「反力装置の角度θrと転舵装置の角度θtとの偏差」を「角度偏差Δθr-t」と記す。要するに、適宜、換算係数を乗除した値を用いて反力装置の角度θrと転舵装置の角度θtとを対比することは通常になし得る事項である。そのような前提で、「ステアリング制御装置200は、転舵装置の角度θtが反力装置の角度θrに一致するように反力装置70及び転舵装置80を制御する」ものと解釈する。
図4に反力装置制御部270の基本構成を示す。反力制御部510は、「転舵装置の出力トルクに相当する物理量」及び車速Vに基づきステアリングトルク指令値T*stを算出する。「転舵装置の出力トルクに相当する物理量」には、転舵トルクTt、転舵トルク指令値T*t、転舵用回転電機88に流れる電流It又は電流指令値I*tが該当する。以下、「転舵装置の出力トルクに相当する物理量」を略して「転舵トルク相当量」とも記す。
加算器556では、ステアリングトルク指令値T*stの符号反転値(−T*st)に手応えトルク指令Trespが加算される。なお、一般にステアバイワイヤシステム90の反力装置70では、それ以外に粘性指令値、慣性指令値、戻し指令値、エンド指令値等がステアリングトルク指令値T*stの符号反転値(−T*st)に加算されてもよい。本明細書では、他の指令値に関する説明は省略する。
加算器556による加算後の値は、ステアリングトルク指令値T*stに基づく目標値T**stとしてステアリングホイールトルク制御部620に入力される。ステアリングホイールトルク制御部620は、目標値T**stに基づき、すなわち、ステアリングトルク指令値T*st及び手応えトルク指令Trespに基づき、反力装置のトルク指令値(以下「反力トルク指令値」)T*rを算出する。
ステアリングホイールトルク制御部620の偏差算出部621は、目標値T**stとトルクセンサ94の検出値T_snsとのトルク偏差ΔTを算出する。PID制御器622は、トルク偏差ΔTを0に近づけるようにPID制御する。こうしてステアリングホイールトルク制御部620は、トルクセンサ94の検出値T_snsが目標値T**stに追従するよう、サーボ制御により反力トルク指令値T*rを算出する。反力装置電流制御部680は偏差算出器681とPI制御器682とを含む。反力装置電流制御部680は、反力トルクTr又は電流Irのフィードバック制御により、反力トルク指令値T*rに基づき、反力用回転電機78に流す電流を制御する。
さらに、本実施形態のステアリング制御装置200の反力装置制御部270は、特有の構成として、切り込み切り戻し判定部410、基準角度演算部561及び手応えトルク指令演算部570を有する。その構成の説明の前に、「ステアリングホイール角度相当値」及び「ステアリングホイール角速度相当値」の用語について説明する。
本明細書では、ステアリングホイール91の操舵角と相関する「反力装置の角度θr」や「転舵装置の角度θt」を含めて「ステアリングホイール角度相当値」と記す。上述のように、反力装置の角度θrや転舵装置の角度θtは、基本的に減速機79、89の減速比を乗除した換算後の値であるが、特にステアリングホイール91の角度を基準として換算された角度が「ステアリングホイール角度相当値」として扱われる。以下の文中では、ステアリングホイール角度相当値の記号の代表として「θr」を用い、「ステアリングホイール角度相当値θr」のように記す。図中では、「θr(orθt)」のように記す。
また、本明細書では、ステアリングホイール91の操舵角速度と相関する「反力装置の角速度ωr」や「転舵装置の角速度ωt」を含めて、ステアリングホイール角度相当値の時間微分値である「ステアリングホイール角速度相当値」と記す。以下の文中では、ステアリングホイール角速度相当値の記号の代表として「ωr」を用い、「ステアリングホイール角速度相当値ωr」のように記す。図中では、「ωr(orωt)」のように記す。
なお、ステアリングホイール角速度相当値」は、角速度[deg/s]の単位で表されてもよく、回転数[rpm]の単位で表されてもよい。
図4の構成の説明に戻る。基準角度演算部561は、「ステアリングホイール角度相当値」の変化に応じて基準角度θrefを演算する。本実施形態では、ステアバイワイヤシステム90において、タイヤが捩れてから路面を擦れながら動く場合や、ゴムブッシュ、サスペンション等が弾性的に作用する場合等の非線形挙動を反映した反力をドライバに提示するために「基準角度θref」の概念が用いられる。基準角度演算部561による基準角度演算の詳細については後述する。
手応えトルク指令演算部570は、基準角度θref及びステアリングホイール角度相当値θrを取得する。以下、基準角度θrefからのステアリングホイール角度相当値θrの変位量を「変位量Δθ(=θr−θref)」と定義する。手応えトルク指令演算部570は、変位量Δθに基づいて、切り込み状態に対応する「切り込み用反力指令値Trf(F)」、及び、切り戻し状態に対応する「切り戻し用反力指令値Trf(R)」を算出する。
また、手応えトルク指令演算部570は、少なくとも切り込み用反力指令値Trf(F)又は切り戻し用反力指令値Trf(R)に基づいて、「手応えトルク指令Tresp」を算出する。本実施形態では、反力指令値の算出に用いられる基準角度が固定されておらず、ステアリングホイール角度相当値θrの変化に応じて演算された基準角度θrefが用いられることで、現実の車両挙動を反映した反力提示の実現が図られる。
切り込み切り戻し判定部410は、ステアリングホイール91が基準角度θrefから離れる方向に切り込まれている「切り込み状態」と、ステアリングホイール91が基準角度θrefに向かって切り戻されている「切り戻し状態」とを判別する。例えば図11に示す構成では、切り込み切り戻し判定部410は、基準角度θrefからのステアリングホイール角度相当値θrの変位量Δθ、及びステアリングホイール角速度相当値ωrに基づいて切り込み切り戻し判定演算を行う。
これに従い、図4には、ステアリングホイール角度相当値θr、基準角度θref、及び、ステアリングホイール角速度相当値ωrが切り込み切り戻し判定部410に取得される構成を示す。ただし、この構成に限らず、操舵角、操舵角速度、操舵トルクの符号の組み合わせ等により、切り込み状態と切り戻し状態とが判別されてもよい。
手応えトルク指令演算部570は、切り込み切り戻し判定部410による判定結果に基づき、変位量Δθに対する反力指令値の特性を、切り込み状態と切り戻し状態とで異なるものにする。これにより、ステアバイワイヤシステム90において、切り込み時と切り戻し時とのヒステリシスによる反力の違いをドライバに提示することが図られる。なお、反力指令値の特性を「異なるものにする」には「二値を切り替える」制御に加え、「二値の中間の値を含めて連続的又は段階的に変化させる」制御が含まれる。その詳細に関しては後述する。
続いて各実施形態の説明に移る。第1〜第4実施形態のステアリング制御装置の符号を、それぞれ「201」〜「204」とする。各実施形態のブロック図では、反力装置制御部270のうち、手応えトルク指令Trespが加算器556に入力され、ステアリングトルク指令値の目標値T**stが算出されるところまでを図示する。ステアリングホイールトルク制御部620から先の制御構成は図4に準ずるものとする。
(第1実施形態)
まず図5〜図10を参照し、第1実施形態のステアリング制御装置201について説明する。図5に示すように、第1実施形態のステアリング制御装置201は、反力装置制御部270の構成として、基準角度演算部561、手応えトルク指令演算部570、及び切り込み切り戻し判定部410を有する。第2実施形態では二つの基準角度θref1、θref2を用いるのに対し、第1実施形態では一つの基準角度θrefを用いる。
基準角度演算部561による基準角度演算について、図6のフローチャート及び図7のタイムチャートを参照して説明する。以下のフローチャートの説明で記号「S」はステップを意味する。なお、図6は、第2実施形態の「第1基準角度演算」のフローチャートとして共通に参照され、その場合、各ステップにおける「θref」、「Δθth」の記号が「θref1」、「Δθth1」に置き換わる。第1実施形態の「基準角度演算」の場合を括弧外に記し、第2実施形態の「第1基準角度演算」の場合を括弧内に記す。
基準角度θrefの初期値は0、もしくは起動時のステアリングホイール角度相当値θrである。以下、基準角度θrefからのステアリングホイール角度相当値θrの変位量Δθについて、変位量の絶対値|Δθ|の上限となる閾値を変位量閾値Δθthとする。図6のS11では、ステアリングホイール角度相当値θrが基準角度θrefに変位量閾値Δθthを加えた値より大きいか、すなわち式(1.1)が成立するか判断される。
θr>θref+Δθth ・・・(1・1)
S11でYESの場合、S13で基準角度演算部561は、基準角度θrefを、ステアリングホイール角度相当値θrから変位量閾値Δθthを減じた値、すなわち「θr−Δθth」に更新する。S11でNOの場合、S12に移行する。S12では、ステアリングホイール角度相当値θrが基準角度θrefから変位量閾値Δθthを減じた値より大きいか、すなわち式(1.2)が成立するか判断される。
θr<θref−Δθth ・・・(1・2)
S12でYESの場合、S14で基準角度演算部561は、基準角度θrefを、ステアリングホイール角度相当値θrに変位量閾値Δθthを加えた値、すなわち「θr+Δθth」に更新する。S12でNOの場合、S15で基準角度θrefは前回値に維持される。
式(1.1)、(1.2)をまとめると式(1.3)のように表される。つまり、基準角度演算部561は、変位量の絶対値|Δθ|が変位量閾値Δθthより大きいとき、変位量の絶対値|Δθ|が変位量閾値Δθth以下となるように、ステアリングホイール角度相当値θrに応じて基準角度θrefを更新する。
|Δθ|=|θr−θref|>Δθth
S13又はS14で基準角度θrefが更新された後、破線で示すようにそのまま終了してもよく、或いはS16、S17のステップがさらに実施されてもよい。S16では、切り込み状態から切り戻し状態に移行したか判断される。S16でYESの場合、S17では、変位量閾値Δθthが切り込み状態での値から小さく変更され、その変位量閾値Δθthに基づいて基準角度θrefが更新される。
続いて図7のタイムチャートを参照する。太実線はステアリングホイール角度相当値θrを示し、太破線は基準角度θrefを示す。太い一点鎖線は、変位量閾値Δθthの参照用のマップ値θMAPを示す。説明中のステップ番号S11〜S14は図6に対応する。なお、図6のS16、S17は図7には反映されておらず、第2実施形態の図15に反映されている。
ステアリングホイール角度相当値θrは、上限位置と下限位置との間、すなわち正負のエンド間を略一定の速度で三角波状に往復する。マップ値θMAPは、上限値及び下限値で所定期間一定値を保ちつつ、台形波状に変化する。マップ値θMAPが0から上限値又は下限値に向かう期間、及び、上限値又は下限値で維持される期間が切り込み期間であり、マップ値θMAPが上限値又は下限値から0に戻る期間が切り戻し期間である。
初期t0では、ステアリングホイール角度相当値θrは0(すなわち中立位置)であり、基準角度θrefも0に設定される。初期t0から、マップ値θMAPが上限到達する時刻taまで基準角度θrefは0に維持される。時刻taから、ステアリングホイール角度相当値θrが上限エンドに到達する時刻tbまでの切り込み期間にはマップ値θMAPは上限値で一定となる。この期間、S11のYES判断によるS13の処理により、基準角度θrefはステアリングホイール角度相当値θrに連れて漸増する。時刻tbからマップ値θMAPは減少し始め、時刻tcにゼロクロスし、時刻tdに下限到達する。この期間、S11、S12のNO判断によるS15の処理により、基準角度θrefは一定値に維持される。
時刻tdから、ステアリングホイール角度相当値θrが下限エンドに到達する時刻teまでマップ値θMAPは下限値で一定となる。この期間、S12のYES判断によるS14の処理により、基準角度θrefはステアリングホイール角度相当値θrに連れて漸減する。時刻teからマップ値θMAPは増加し始め、時刻tfにゼロクロスし、時刻tgに上限到達する。この期間、S11、S12のNO判断によるS15の処理により、基準角度θrefは一定値に維持される。
時刻tgから、ステアリングホイール角度相当値θrが上限エンドに到達する時刻thまでマップ値θMAPは上限値で一定となる。この期間、S11のYES判断によるS13の処理により、基準角度θrefはステアリングホイール角度相当値θrに連れて漸増する。
図5に戻り、第1実施形態の手応えトルク指令演算部570における反力演算部571の構成について説明する。反力演算部571は、切り込み用反力演算器573F、切り戻し用反力演算器573R、及び、切り替え器576を有し、切り込み用反力指令値Trf(F)及び切り戻し用反力指令値Trf(R)の二値を切り替える。ただし、切り込み状態と切り戻し状態との中間状態では、マップの平均値や、変形例として後述する「状態量σ」に応じた加算値をトルク指令とするとなお良い。この点は、以下の実施形態でも同様である。
切り込み用反力演算器573Fは、変位量Δθに対する切り込み用反力指令値Trf(F)の関係を規定する切り込み用反力指令値マップを予め記憶している。切り戻し用反力演算器573Rは、変位量Δθに対する切り戻し用反力指令値Trf(R)の関係を規定する切り戻し用反力指令値マップを予め記憶している。各反力演算器573F、573Rは、これらのマップを用いて、反力指令値Trf(F)、Trf(R)を算出する。
図8(a)に示す切り込み用反力指令値マップにおいて、変位量Δθに対する切り込み用反力指令値Trf(F)の変化率は、基準角度θrefから離れるに従って絶対値が小さくなるように設定されている。したがって、切り込み時には基準角度θrefからの切り始めの反力トルクの立ち上がりが大きくなり、基準角度θrefから離れた位置では変化が小さくなる。
図8(b)に示す切り戻し用反力指令値マップにおいて、変位量Δθに対する切り戻し用反力指令値Trf(R)の変化率は、基準角度θrefから離れるに従って絶対値が大きくなるように設定されている。したがって、切り戻し時には基準角度θrefへの戻し始めの反力トルクの立ち下がりが大きくなり、基準角度θrefから離れた位置では変化が小さくなる。なお、図8(a)、(b)は、第2実施形態の第1反力指令部571の構成としても共通に参照される。その場合、図6と同様に、括弧内の記号が対応する。
切り替え器576は、切り込み切り戻し判定部410からの信号に基づき、切り込み用反力指令値Trf(F)と切り戻し用反力指令値Trf(R)とを切り替えて出力する。反力演算部571の切り替え器576の出力は、そのまま加算器556に入力され、ステアリングトルク指令値の目標値T**stが算出されてもよい。ただし図5に示す構成では、反力演算部571の出力に、さらに路面負荷ゲインKrs及び車速ゲインKvが乗算されて最終的な手応えトルク指令Trespが算出される。そのため、反力演算部571の出力を「一次手応えトルク指令Tresp_p」と記して区別する。
図5に示す手応えトルク指令演算部570は、反力演算部571に加え、推定路面負荷演算部591、路面負荷ゲイン演算部592、車速感応ゲイン演算部593、第1乗算器594及び第2乗算器595を有する。推定路面負荷演算部591は、転舵トルク相当量に基づき、推定路面負荷を演算する。図9のフローチャートに路面負荷ゲイン演算部592による推定路面負荷演算を示す。ここでは、推定路面負荷を反映する物理量として平均電流Iaveが用いられる。平均電流Iaveの初期値は0、もしくは転舵装置80の起動時の電流Itであり、「a」は0〜1の無次元数である。
S31では、基準角度の絶対値|θref|が所定値Aより大きいか判断される。S31でYESの場合、S32では、平均電流Iaveの前回値、及び転舵装置の電流Itに基づき、式(2)により、平均電流Iaveの今回値が更新される。S31でNOの場合、平均電流Iaveは前回値に維持される。
Iave=a×Iave+(1−a)×It ・・・(2)
路面負荷ゲイン演算部592は、平均電流Iaveに応じて路面負荷ゲインKrsを算出する。図10(a)の路面負荷ゲインマップに示すように、路面負荷ゲインKrsは、平均電流Iaveに対する変化率の絶対値が平均電流Iaveの絶対値の増加に従って小さくなるように設定されている。
車速感応ゲイン演算部593は、車速Vに応じて車速ゲインKvを算出する。図10(b)の車速ゲインマップに示すように、車速ゲインKvは、低速域では1で一定であり、中速域では車速Vの増加に伴い低下し、高速域では0になる。第1乗算器594及び第2乗算器595は、一次手応えトルク指令Tresp_pに路面負荷ゲインKrs及び車速ゲインKvを順次乗算し、手応えトルク指令Trespを算出する。
このように、図5の構成の手応えトルク指令演算部570は、反力演算部571で反力指令値Trfに基づいて算出された一次手応えトルク指令Tresp_pを路面負荷及び車速に応じて変更する。これにより、路面負荷や車速に応じた車両らしい反力提示が可能となる。第2〜第4実施形態の図13、図17、図19には記載を省略するが、図5と同様に、路面負荷ゲインKrs及び車速ゲインKvにより手応えトルク指令Trespを変更する構成を適宜組み合わせてもよい。
(第1実施形態の変形例)
次に図11、図12を参照し、第1実施形態の変形例による切り込み切り戻し判定演算について説明する。図5に示す切り替え器576は切り込み状態及び切り戻し状態の二状態を切り替えるため、操舵状態の切り替え時に特性が不連続に変化する。それに対し変形例では、切り込み状態から切り戻し状態までの操舵状態を連続的又は段階的に示す「状態量σ」を用いることで、中間状態又は保舵状態を経由して特性を切り替える。
例えば状態量σを−1〜1の範囲で設定した場合、全範囲を演算装置の分解能レベルに区分するのが「連続的」を意味し、例えば0.1毎の20段階に区分するのが「段階的」を意味する。厳密に言えば、分解能レベルであっても有限の数である以上、「段階的」とも言えるが、実用上の「段階的」に含まれる最大段階数は、当該技術分野の技術常識に照らして解釈されればよい。
図11に示すように、変形例の切り込み切り戻し判定部410は、変位量感応量マップ411、角速度感応量マップ412及び乗算器413を含む。変位量感応量マップ411は、変位量Δθ(=θr−θref)を引数とし、−1〜1の無次元数である変位量感応量σΔθを算出する。変位量Δθが負の領域では、変位量Δθが0に近づくに従って変位量感応量σΔθは−1から0まで漸増する。変位量Δθが正の領域では変位量Δθが0から増加するに従って変位量感応量σΔθは0から1まで漸増する。
角速度感応量マップ412は、「ステアリングホイール角速度相当値」である反力装置の角速度ωr、もしくは転舵装置の角速度ωtを引数とし、−1〜1の無次元数である角速度感応量σωを算出する。以下の文中では角速度の符号として「ωr」のみを記す。角速度ωrが負の領域では、角速度ωrが0に近づくに従って角速度感応量σωは−1から0まで漸増する。角速度ωrが正の領域では角速度ωrが0から増加するに従って角速度感応量σωは0から1まで漸増する。乗算器413は、変位量感応量σΔθと角速度感応量σωとを乗算し、状態量σを算出する。状態量σは、σ=1のとき切り込み状態であり、σ=−1のとき切り戻し状態であることを示す。また、−1<σ<1のとき中間状態又は保舵状態であることを示す。
図12に示すように、反力演算部571は、状態量σに基づく配分比演算により一次手応えトルク指令Tresp_pを算出する。図12の反力演算部571は、図5に示す構成に対し、切り替え器576に代えて、状態量換算器574S、配分比乗算器574F、574R、及び、配分値加算器575を有する。それ以外の切り込み用反力演算器573F及び切り戻し用反力演算器573Rの構成は図5と同様であるため説明を省略する。
状態量換算器574Sは、切り込み配分値「(1+σ)/2」、及び、切り戻し配分値「(1−σ)/2」を算出する。切り込み状態でσ=1のとき、切り込み配分値は1、切り戻し配分値は0となる。切り戻し状態でσ=−1のとき、切り込み配分値は0、切り戻し配分値は1となる。切り込み側の配分比乗算器574Fは、切り込み用反力指令値Trf(F)に切り込み配分値を乗じる。切り戻し側の配分比乗算器574Rは、切り戻し用反力指令値Trf(R)に切り戻し配分値を乗じる。配分値加算器575は、切り込み側の配分比乗算器574Fの出力と切り戻し側の配分比乗算器574Rの出力とを加算し、一次手応えトルク指令Tresp_pを算出する。
このように、変形例の手応えトルク指令演算部570は、状態量σに応じて、切り込み用反力指令値Trf(F)と切り戻し用反力指令値Trf(R)との配分比を変更する。状態量σが「σ=1又はσ=−1」の場合、図12の構成は図5の構成と実質的に同一である。しかし、「−1<σ<1」の場合、中間状態又は保舵状態の配分比に応じて、一次手応えトルク指令Tresp_pが連続的又は段階的に変化する。したがって、操舵状態の切り替え時に手応えトルク指令演算の特性が不連続に変化することが回避される。
(第2実施形態)
次に図13〜図16を参照し、第2実施形態のステアリング制御装置202について説明する。図13に示すように、第2実施形態のステアリング制御装置202は、ステアリングホイール角度相当値θrの変化に応じて第1基準角度θref1を演算する第1基準角度演算部561、及び、ステアリングホイール角度相当値θrの変化に応じて第1基準角度θref1とは異なる第2基準角度θref2を演算する第2基準角度演算部562を有する。第1基準角度演算部561は、第1実施形態の基準角度演算部561と実質的に同一である。
第1、第2基準角度演算部561、562による基準角度演算について、図14のフローチャート及び図15のタイムチャートを参照して説明する。第1基準角度θref1及び第2基準角度θref2の初期値はいずれも0、もしくは起動時のステアリングホイール角度相当値θrである。ここで、第1基準角度演算に関しては、第1実施形態の基準角度θref、変位量閾値Δθth等の用語及び記号を「第1基準角度θref1」、「第1変位量閾値Δθth1」等に置き換えるのみである。
図6のフローチャートにおいて、各ステップの括弧内の式が第1基準角度演算の式に対応する。第1基準角度演算部561は、第1変位量の絶対値|Δθ1|が所定の第1変位量閾値Δθth1より大きいとき、第1変位量の絶対値|Δθ1|が第1変位量閾値Δθth1以下となるように、ステアリングホイール角度相当値θrに応じて第1基準角度θref1を更新する。
図14のフローチャートに第2基準角度演算の処理を示す。S21〜S25は、第1基準角度演算のS11〜S15と同様である。ただし、第2変位量閾値Δθth2は第1変位量閾Δθth1よりも大きく設定されている。第2基準角度演算部562は、第2変位量の絶対値|Δθ2|が第2変位量閾値Δθth2より大きいとき、第2変位量の絶対値|Δθ2|が第2変位量閾値Δθth2以下となるように、ステアリングホイール角度相当値θrに応じて第2基準角度θref2を更新する。S23又はS24で第2基準角度θref2が更新された後、S26では切り戻し中であるか判断される。S26でYESの場合、S27では、第2基準角度θref2が第1基準角度θref1と同じ値に更新される。
続いて図15のタイムチャートを参照する。図15の上側に図7と同様の第1基準角度演算を表し、図15の下側に第2基準角度演算を表す。上下の図に共通の太実線はステアリングホイール角度相当値θrを示す。上の図の太い長破線は第1基準角度θref1を示し、太い一点鎖線は、第1変位量閾値Δθth1の参照用のマップ値θMAP1を示す。下の図の太い短破線は第2基準角度θref2を示す。また、上の図における細い二点鎖線、及び、下の図における太い二点鎖線は、第2変位量閾値Δθth2の参照用のマップ値θMAP2を示す。二点鎖線は、図6のS16、S17を反映する。
時刻の記号のうち、上下の図に共通するt0、tb、tc、te、tf、thは、図7に準ずる。また、第1基準角度演算のマップ値θMAP1が上限又は下限に到達する時刻ta1、td1、tg1は、図7の時刻ta、td、tgと実質的に同一である。したがって、第1基準角度θref1は第1実施形態の基準角度θrefと同様に演算される。
第2基準角度演算では、第2変位量Δθ2の絶対値の上限である第2変位量閾値Δθth2が第1変位量Δθ1の絶対値の上限である第1変位量閾値Δθth1よりも大きく設定されている。そのため、第2基準角度演算のマップ値θMAP2が上限又は下限に到達する時刻ta2、td2、tg2は、それぞれ、第1基準角度演算の時刻ta1、td1、tg1よりも少し後ろにずれる。
また、時刻tb、teに切り込み状態から切り戻し状態に移行したとき、第2基準角度演算部562は、マップ値θMAP2による第2変位量閾値Δθth2を小さく変更して第2基準角度θref2を更新する。これにより第2基準角度演算部562は、切り込み状態と切り戻し状態とで、同じステアリングホイール角度相当値θrに対応する第2変位量Δθ2の値を異なるものにする。第2基準角度θref2が下降し始める時刻は、マップ値θMAP2の下限到達時刻td2と同時である。一方、第2基準角度θref2が上昇し始める時刻tg*2は、マップ値θMAP2の上限到達時刻tg2とは異なる。
図13に戻り、第2実施形態の手応えトルク指令演算部570は、二つの基準角度θref1、θref2に対応する二つの反力演算部571、572を含む。第1反力演算部571は、図5に示す第1実施形態の反力演算部571と実質的に同一であるが、第1実施形態の構成に対し、構成要素の符号の数字末尾及び反力指令値の記号に「1」を加えて記す。
第1反力演算部571は、切り込み用第1反力演算器5731F、切り戻し用第1反力演算器5731R、及び、第1切り替え器5761を含む。切り込み用第1反力演算器5731Fは、図8(a)に示す切り込み用第1反力指令値マップを用いて切り込み用反力指令値Trf1(F)を算出する。切り戻し用第1反力演算器5731Rは、図8(b)に示す切り戻し用第1反力指令値マップを用いて切り戻し用反力指令値Trf1(R)を算出する。第1切り替え器5761は、切り込み切り戻し判定部410からの信号に基づき、切り込み用第1反力指令値Trf1(F)及び切り戻し用第1反力指令値Trf1(R)を切り替える。なお、第1切り替え器5761に代えて、第1実施形態の変形例に準じ、状態量σに基づく配分比演算の構成を採用してもよい。
同様に第2反力演算部572は、切り込み用第2反力演算器5732F、切り戻し用第2反力演算器5732R、及び、第2切り替え器5762を含む。切り込み用第2反力演算器5732Fは、第2変位量Δθ2に対する切り込み用第2反力指令値Trf2(F)の関係を規定するマップを予め記憶している。切り戻し用第2反力演算器5732Rは、第2変位量Δθ2に対する切り戻し用第2反力指令値Trf2(R)の関係を規定するマップを予め記憶している。
各第2反力演算器5732F、5732Rは、マップを用いて、切り込み用第2反力指令値Trf2(F)及び切り戻し用第2反力指令値Trf2(R)を算出する。第2切り替え器5762は、切り込み切り戻し判定部410からの信号に基づき、切り込み用第2反力指令値Trf2(F)及び切り戻し用第2反力指令値Trf2(R)を切り替える。なお、第2切り替え器5762に代えて、第1実施形態の変形例に準じ、状態量σに基づく配分比演算の構成を採用してもよい。
図16(a)に示す切り込み用第2反力指令値マップにおいて、第2変位量Δθ2に対する切り込み用第2反力指令値Trf2(F)の変化率は、第2変位量の絶対値|Δθ2|が第1変位量の絶対値|Δθ1|以上の領域で略一定に設定されている。なお、第2変位量の絶対値|Δθ2|が第1変位量の絶対値|Δθ1|未満の領域では、切り込み用第2反力指令値Trf2(F)は略0に設定されている。したがって、切り込み時には、第2変位量Δθ2に応じた反力トルクがさらに加算される。
図16(b)に示す切り戻し用第2反力指令値マップにおいて、切り戻し用反力指令値Trf2(R)は、第2変位量Δθ2の全領域において略0に設定されている。したがって、切り戻し時には、第2変位量Δθ2に応じた反力トルクは加算されない。
(第3実施形態)
次に図17、図18を参照し、第3実施形態のステアリング制御装置203について説明する。図17に示すように、第3実施形態のステアリング制御装置203は、第2実施形態と同様に二つの基準角度θref1、θref2を用いる構成において、粘性付加演算部597、電流制限演算部610及び制限部613をさらに有する。概念上、粘性付加演算部597は手応えトルク指令演算部570の内部に設けられ、電流制限演算部610及び制限部613は手応えトルク指令演算部570の外部に設けられるように図示されるが、厳密に区分されなくてもよい。
粘性付加演算部597は、ステアリングホイール角速度相当値ωrに比例する粘性付加トルクTvaを「付加量」として演算する。また、第1反力指令部571の出力と第2反力指令部571の出力との加算器578による加算値を、「手応えトルク指令の基本値」の意味で基本手応えトルク指令Tresp_bと記す。基本手応えトルク指令Tresp_bは、切り込み用反力指令値Trf(F)又は切り戻し用反力指令値Trf(R)に基づいて算出された指令である。加算器598は、基本手応えトルク指令Tresp_bに粘性付加トルクTvaを加算して手応えトルク指令Trespを算出する。
電流制限演算部610は、変位量Δθに対し切り込み状態と切り戻し状態とで異なる特性を持つ電流制限値Ilimを演算する。詳しくは、電流制限演算部610は、切り込み用電流制限演算部611F、切り戻し用電流制限演算部611R及び切り替え器612を含む。
切り込み用電流制限演算部611F及び切り戻し用電流制限演算部611Rには、ステアリングホイール角度相当値θr、及び、より角度範囲が広い第2基準角度θref2が入力される。なお、図16(b)に示すように、切り戻し用第2反力指令値は略0であるため、切り戻し用電流制限演算部611Rには第1基準角度θref1が入力されてもよい。
切り込み用電流制限演算部611F及び切り戻し用電流制限演算部611Rは、第2変位量Δθ2に基づき、切り込み用電流制限値Ilim(F)及び切り戻し用電流制限値Ilim(R)を演算する。図18(a)、(b)に示すように、切り込み用電流制限値マップ及び切り戻し用電流制限値マップは、それぞれ、図8(a)に示す切り込み用反力指令値マップ、図8(b)に示す切り戻し用反力指令値マップと同様の特性を有する。
切り替え器612は、切り込み切り戻し判定部410からの信号に基づき、切り込み用電流制限値Ilim(F)と切り戻し用電流制限値Ilim(R)とを切り替え、電流制限値Ilimを出力する。なお、切り替え器612に代えて、第1実施形態の変形例に準じ、状態量σに基づく配分比演算の構成を採用してもよい。
制限部613は、電流制限値Ilimにより手応えトルク指令Trespを制限する。制限部613による制限後の手応えトルク指令Tresp_limが加算器556に入力され、ステアリングトルク指令値の目標値T**stが算出される。なお、制限部613は、電流制限に代えてトルク制限を行うことにより手応えトルク指令Trespを制限してもよい。電流制限することで粘性付加演算によるトルクが大きい時には基本手応えトルク指令Tresp_bを相対的に減らして手応えトルク指令Trespを大きくしすぎない効果がある。
(第4実施形態)
次に図19、図20を参照し、第4実施形態のステアリング制御装置204について説明する。図19に示すように、第4実施形態のステアリング制御装置204は、一つの基準角度θrefを用いる構成において、粘性付加トルクTvaが加算された後の手応えトルク指令Trespが基準角度演算部561にフィードバックされる。また、第3実施形態と同様に、手応えトルク指令Trespは、電流制限演算部610が演算した電流制限値Ilimにより、制限部613で制限される。制限後の手応えトルク指令Tresp_limが加算器556に入力され、ステアリングトルク指令値の目標値T**stが算出される。
図20のフローチャートに、第4実施形態の基準角度演算を示す。S11〜S14は図6と実質的に同一である。「(θref−Δθth)≦θr≦(θref+Δθth)」であり、S11、S12でNOと判定されたとき、S41に移行する。
S41では、変位量Δθが正、すなわち「θr>θref」であり、且つ、手応えトルク指令Trespが0より小さいか判断される。S41でYESの場合、S43で基準角度演算部561は、基準角度θref1をステアリングホイール角度相当値θrに更新する。S41でNOの場合、S42に移行する。
S42では、変位量Δθが負、すなわち「θr<θref」であり、且つ、手応えトルク指令Trespが0より大きいか判断される。S42でYESの場合、S44で基準角度演算部561は、基準角度θref1をステアリングホイール角度相当値θrに更新する。S42でNOの場合、S45で基準角度θrefは前回値に維持される。
第4実施形態では、例えば粘性付加トルクTvaが加算された影響によって手応えトルク指令Trespがゼロクロスした場合、その位置を基準角度θrefとする。つまり、基準角度演算部561は、手応えトルク指令Trespに基づいて切り込みと切り戻しを判定することになり、粘性付加演算によるトルクが大きい時でも連続的な反力を発生することができる。
[本実施形態の作用効果]
(1)本実施形態のステアリング制御装置200(201〜204)は、操舵中の各位置でそれまでの角度変化に応じた基準角度θrefを算出し、基準角度θrefからの変位量Δθに基づき反力指令値Trfを算出する。また、切り込み時と切り戻し時とで、変位量Δθに対する反力指令値Trf(F)、Trf(R)の特性を異なるものにする。これにより、ステアバイワイヤシステム90の反力装置70において、タイヤの擦れ等の非線形挙動や、切り込み切り戻しのヒステリシス等を反映した車両らしい反力提示が可能となる。
ここで図21を参照し、本実施形態による作用効果を説明する。図21の横軸は操舵角度であり、縦軸は反力トルクである。図21(a)は一つの基準角度θrefを用いる第1実施形態等に対応し、図21(b)は二つの基準角度θref1、θref2を用いる第2実施形態等に対応する。切り込み、切り戻しの矢印で示すように、各位置における角度及びトルクはヒステリシスを伴って遷移する。図21(a)、(b)において、[1]部は中立位置から切り込みを開始する時の特性を示し、[2]部は切り込み状態から切り戻し状態に切り替わる時の特性を示す。
本実施形態では、変位量Δθに対する切り込み用反力指令値Trf(F)の変化率は、基準角度θrefから離れるに従って絶対値が小さくなるように設定されており、変位量Δθに対する切り戻し用反力指令値Trf(F)の変化率は、基準角度θrefから離れるに従って絶対値が大きくなるように設定されている。したがって、切り込み時には基準角度θrefからの切り始めの反力トルクの立ち上がりを大きくし、切り戻し時には基準角度θrefへの戻し始めの反力トルクの立ち下がりを大きくするような作用効果が得られる。
(2)第4実施形態では、基準角度演算部561は、変位量Δθが正であり、手応えトルク指令Trespが0より小さいとき、又は、変位量Δθが負であり、手応えトルク指令Trespが0より大きいとき、基準角度θrefをステアリングホイール角度相当値θrに更新する。これにより粘性付加演算の影響で手応えトルク指令Trespがゼロクロスした場合、ハンチングすることなく連続的な反力を提示できる。
(3)第3、第4実施形態の手応えトルク指令演算部570は、反力指令値Trfに基づいて算出された基本手応えトルク指令Tresp_bに、ステアリングホイール角速度相当値ωrに比例する粘性付加トルクTvaを加算して手応えトルク指令値Trespを算出する。これにより、粘性を反映した車両らしい反力提示が可能となる。
(4)第3、第4実施形態の制限部613は、変位量Δθに対し切り込み状態と切り戻し状態とで異なる特性を持つ電流制限値Ilimにより手応えトルク指令Trespを制限する。これにより、切り込み時と切り戻し時とのヒステリシスを反映しつつ、ヒステリシス分以外の反力があった場合でも連続的な反力を提示することができる。
(5)本実施形態の手応えトルク指令演算部570は、反力演算部571、572において切り込み用反力指令値マップ及び切り戻し用反力指令値マップを予め記憶している。これにより、数式により反力指令値Trf(F)、Trf(R)を算出する構成に比べ、演算負荷を低減することができる。
(6)第1実施形態の変形例による切り込み切り戻し判定部410は、少なくともステアリングホイール角速度相当値ωrに基づいて、切り込み状態から切り戻し状態までの操舵状態を連続的又は段階的に示す状態量σを算出する。手応えトルク指令演算部570は、状態量σに応じて、手応えトルク指令Trespにおける切り込み用反力指令値Trf(F)及び切り戻し用反力指令値Trf(R)の配分比を変更する。これにより、操舵状態の切り替え時に特性が連続的又は段階的に変化するため、滑らかな操舵フィーリングが得られる。
(7)図6のS16、S17、及び図15に示される制御では、切り込み状態から切り戻し状態に移行したとき、基準角度演算部561は、変位量閾値Δθthを切り込み状態での値から小さくして基準角度θrefを更新する。そして、基準角度演算部561は、切り込み状態と切り戻し状態とで、同じステアリングホイール角度相当値θrに対応する変位量Δθの値を異なるものにする。これにより、切り込み時と切り戻し時とのヒステリシスを反映した車両らしい反力提示が可能となる。
(8)第2、第3実施形態では、二つの基準角度θref1、θref2を用いて手応えトルク指令Trespを算出する。第1変位量の絶対値|Δθ1|は、所定の第1変位量閾値Δθth1以下となるように更新され、第2変位量の絶対値|Δθ2|は、第1変位量閾値Δθth1よりも大きく設定された第2変位量閾値Δθth2以下となるように更新される。切り込み用第2反力指令値マップ及び切り戻し用第2反力指令値マップは、図16(a)、(b)に示すような特性を有している。これにより、タイヤに加え、サスペンション等の要素による多重の非線形挙動を反映した車両らしい反力提示が可能となる。
(その他の実施形態)
(a)ステアバイワイヤシステム90において、反力装置70又は転舵装置80は、図1に示す反力用減速機79又は転舵用減速機89を含まなくてもよい。また、ステアバイワイヤシステム90はトルクセンサ94を備えなくてもよい。
(b)ステアリング制御装置200は、図1に示すような機電一体式の構成に限らず、制御部270、280及び電力変換器77、87が回転電機78、88と分離して配置されてもよい。その場合、二つの制御部270、280が物理的に分離せず、一体のステアリング制御装置200として構成されてもよい。或いは、反力装置70又は転舵装置80の一方が、統括的な制御部を含む機電一体式で構成され、他方の装置に対して信号を送受信する構成としてもよい。
(c)切り込み/切り戻し用反力指令値等は、マップでなく数式により算出されてもよい。図示した各マップは、いずれも数式による演算値のグラフとして解釈されてもよい。また、マップや数式による反力指令値等の具体的な特性は、図示したものに限らない。結果的に上記実施形態と同様の作用効果が得られるものであれば、どのような特性のマップや数式が用いられてもよい。
(d)反力装置70の駆動構成は、ステアリングトルク指令値T*stと手応えトルク指令Trespとの加算値を目標値T**stとしてステアリングホイールトルク制御部620によるサーボ制御を行う構成に限らない。例えば、ステアリングトルク指令値T*stと手応えトルク指令Trespとの加算値をそのまま電流制御の指令値とする構成やトルク定数分の変換をして電流制御の指令値とする構成としてもよい。
(e)第1実施形態では推定路面負荷を反映する物理量として平均電流Iaveを用いたが、加速度に比例する慣性成分で補正してもよい。また、基準角度の絶対値|θref|が所定値Aより大きい場合に平均電流Iaveを更新するとしたが、基準角度の絶対値|θref|に加えて、切り込み時のみ、又は所定回転数範囲の時に平均電流Iaveを更新することとしてもよい。
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
本開示に記載の制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。