特許文献1に記載の終端反力制御は、終端反力制御部にて演算される操舵反力が車輪の転舵角(またはラックバーの移動位置)にのみ依存し、その他の要因は考慮されていないので、車両のあらゆる状況においても一律に転舵角(またはラックバーの移動位置)のみにて操舵反力が決定される。このため、特許文献1に記載の終端反力制御では、本来不必要な反力を余分に発生している可能性があり、効率的な反力制御とはいえない。加えて、特許文献1に記載の終端反力制御は、余分な反力を発生することによる消費電力の不必要な増加を招くとともに、発熱による悪影響を反力モータに与えるという問題がある。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、操舵ハンドルに操舵反力を付与する反力モータなどの反力アクチュエータを効率的に使用するとともに、状況に応じた適度な終端反力を操舵ハンドルに付与することのできる車両の操舵装置を提供することを技術的課題とする。
上記課題を達成するために、本発明の特徴は、操舵ハンドルに操舵反力を付与する反力アクチュエータを有する操舵機構と、前記操舵ハンドルの操舵状態を取得する操舵状態取得手段と、前記操舵ハンドルの操舵角に応じて転舵輪を転舵する転舵機構と、車両の走行状態を取得する走行状態取得手段とを備えた車両の操舵装置において、前記転舵輪の転舵限界時に前記反力アクチュエータが前記操舵ハンドルに付与する終端反力を、前記操舵状態取得手段により取得した操舵状態と前記走行状態取得手段により取得した走行状態とのどちらか一方に応じて変化するように決定し、前記操舵ハンドルの操舵角が所定の基準操舵角から前記転舵輪の転舵限界時における操舵角である限界操舵角までの角度領域内の操舵角であるときに前記操舵ハンドルに付与するロック反力を、前記操舵状態取得手段により取得した操舵状態と前記走行状態取得手段により取得した走行状態とのどちらか一方に応じて変化するように決定する操舵反力決定手段を備え、前記操舵状態取得手段は前記操舵ハンドルの操舵角速度を取得する操舵角速度取得手段を有し、前記操舵反力決定手段は、前記操舵角速度取得手段により取得した操舵角速度が小さいほど、操舵角に対する前記ロック反力の増加率が小さくなるように前記ロック反力を決定することにある。
上記発明によれば、操舵ハンドルに付与すべき操舵反力は操舵反力決定手段によって決定される。操舵反力決定手段は、操舵状態取得手段により取得される操舵状態および/または、走行状態取得手段により取得される走行状態に応じて、転舵限界時における終端反力が変化するように操舵反力を決定する。したがって、操舵状態あるいは走行状態に応じた適度な終端反力を設定することができる。また、効率的に終端反力の制御を行うことができるので、消費電力の不必要な増加および発熱を抑えることができる。なお、本発明において、操舵反力決定手段は、操舵状態および/または走行状態に応じて終端反力が変化する部分を有すればよいのであって、例えば走行状態の一つである車速の変化に伴って終端反力が変化する車速の領域が一部でもあれば、車速によっては終端反力が変化しない(同じ)部分を持つようにしてもよく、必ずしも車速の変化に応じて常に終端反力が変化することを限定するものではない。
また、前記操舵反力決定手段は、前記操舵ハンドルの操舵角が所定の基準操舵角から前記転舵輪の転舵限界時における操舵角である限界操舵角までの角度領域内の操舵角であるときに前記操舵ハンドルに付与するロック反力を、前記操舵状態取得手段により取得した操舵状態と前記走行状態取得手段により取得した走行状態とのどちらか一方に応じて変化するように決定する。上記ロック反力を、操舵状態および/または走行状態に応じて変化するように決定することにより、転舵限界時における終端制御のみならず、基準操舵角から限界操舵角までの一定の操舵角領域(ロック反力領域)においても、操舵状態および/または走行状態に見合った反力設定をすることができる。よって、ロック反力領域においても効率的に反力の制御を行うことができ、消費電力の不必要な増加および発熱をより一層抑えることができる。なお、本発明において、操舵反力決定手段は、操舵状態および/または走行状態に応じてロック反力が変化する部分を有すればよいのであって、例えば操舵状態の一つである操舵角速度の変化に伴ってロック反力が変化する操舵角速度の領域が一部でもあれば、操舵角速度によってはロック反力が変化しない(同じ)部分を持つようにしてもよく、必ずしも操舵角速度の変化に応じて常にロック反力が変化することを限定するものではない。
また、前記操舵状態検出手段は前記操舵ハンドルの操舵角速度を取得する操舵角速度取得手段を有し、前記操舵反力決定手段は、前記ロック反力を、前記操舵角速度取得手段により取得した操舵角速度が小さいほど、操舵角に対する前記ロック反力の増加率が小さくなるように決定する。操舵ハンドルの操舵角速度が大きい、つまり操舵ハンドルを素早く回す場合には、慣性力によって操舵ハンドルを切込み過ぎる場合が想定される。このため、操舵角速度が大きいときは操舵角に対するロック反力の増加率を大きくしてロック反力や終端反力を高めに設定し、操舵ハンドルの切り込み過ぎを防止するのがよい。これに対し、操舵ハンドルの操舵角速度が小さい、つまり操舵ハンドルをゆっくり回す場合には、慣性力は小さいので操舵ハンドルを切り込み過ぎる可能性は小さい。したがって、操舵角速度が小さいときは、操舵角速度が大きいときと比べてロック反力や終端反力を小さく設定しても、操舵操作に与える影響は少ない。よって、操舵角速度が小さいほど操舵角に対するロック反力の増加率を小さくしてロック反力が小さくなる部分を有するようにして操舵角速度によるロック反力の補正を行うことにより、余分な反力の発生を防止でき、効率的な反力制御を実現することができる。
この場合、前記走行状態検出手段は車速を取得する車速取得手段を有し、前記操舵反力決定手段は、前記ロック反力を、前記車速取得手段により取得した車速が小さいほど小さくなるように決定するとよい。高速走行時に操舵ハンドルを切り込み過ぎると車両挙動が不安定となり、再び安定化させるためには時間がかかる。したがって、高速走行時はロック反力や終端反力を高めに設定し、操舵ハンドルの切り込み過ぎを防止するのがよい。一方、低速走行時であれば、操舵ハンドルを切り込み過ぎても、ドライバーの判断によりすぐさま操舵ハンドルを戻すことにより車両挙動を安定にすることができる。したがって、低速走行時は、高速走行時と比べてロック反力や終端反力を小さく設定しても、車両挙動に与える影響は少ない。よって、車速が小さいほどロック反力が小さくなるようにして車速によるロック反力の補正を行うことにより、余分な反力の発生を防止でき、効率的な反力制御を実現することができる。
さらにこの場合、車両の挙動状態(ヨーレートなど)を取得する挙動状態検出手段(ヨーレートセンサなど)を設け、操舵反力決定手段は、挙動状態検出手段により検出した挙動状態から車両の挙動が安定していると判断した場合には上記のように高速走行時にロック反力を高めに設定し、車両の挙動が不安定と判断した場合には高速走行時におけるロック反力の増加を抑えるかまたは逆に減少するように、ロック反力を決定するものであってもよい。例えば車両の挙動が既に不安定な状態にあって、ドライバーがカウンターステア操作をしているようなときには、操舵ハンドルに付与される操舵反力は小さい方が操作しやすい。したがって、このような場合にロック反力の増加を抑え、または減少することにより、車両の挙動不安定時における操舵操作性を向上させることができる。
また、前記走行状態検出手段は車両が前進状態であるか後進状態であるかを取得する前後進状態取得手段を有し、前記操舵反力決定手段は、前記前後進状態取得手段により車両が後進状態であることを取得した場合には、車両が前進状態であることを取得した場合に比較して反力が小さくなるように、前記ロック反力を決定するようにしてもよい。車両が前進走行している場合には、ドライバーは操舵ハンドルに面した姿勢を採っており、操舵ハンドルに強い力をかけることができる。これに対し、車両が後退走行している場合は、ドライバーは車両の進路を確認するために後ろを向いているので体勢がくずれており、このような体勢で操舵ハンドルに強い力をかけることができない。したがって、車両が後退走行しているときは、前進走行しているときよりも小さいロック反力を操舵ハンドルに付与することとしても体感的に違和感がなく、また後退走行時の終端反力を前進走行時の終端反力よりも小さいものとしても、十分に操舵ハンドルのそれ以上の回転を防止することができる。よって、後進状態である場合は前進状態である場合よりもロック反力や終端反力が小さくなるようにして前後進状態による補正を行うことにより、余分な反力の発生を防止でき、効率的な反力制御を実現することができる。なお、上記前後進状態取得手段は、少なくとも車両が前進状態であるか後進状態であるかを取得することができればよく、これらの状態に加えてその他の状態、例えばニュートラル状態や停止状態などを取得するものであってもよい。
また、操舵反力決定手段は、操舵角が前記限界操舵角に近づくに従い、操舵角速度が大きくなるにつれて操舵反力が増加する割合(粘性項の割合)が大きくなるように、操舵角速度に依存して操舵反力を決定するのがよい。限界操舵角付近で操舵角速度が大きい場合は、操舵ハンドルや反力アクチュエータの慣性に対抗するために大きな終端反力が必要となる場合がある。このとき、限界操舵角に近づくにつれて、操舵角速度が大きくなるにつれて操舵反力が増加する割合を増加するように操舵反力を決定しておけば、限界操舵角に達する前から操舵角速度が大きい場合は大きな操舵反力が付与されるために操舵ハンドルに大きな回動抵抗が作用し、斯かる回動抵抗によって操舵角速度が小さくなる。このため、限界操舵角における終端反力が結果的に小さくされる。これにより、反力アクチュエータの消費電力および発熱を抑制することができる。
(第一実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る車両の操舵装置の概略図である。
この車両の操舵装置は、ドライバーによって操舵操作される操舵操作装置10と、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2をドライバーの操舵操作に応じて転舵する転舵装置20とを機械的に分離したステアバイワイヤ方式を採用している。操舵操作装置10は、ドライバーによって回動操作される操作部としての操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は操舵入力軸12の上端に固定され、操舵入力軸12の下部には操舵反力用電動モータ13が組みつけられている。操舵反力用電動モータ13は、減速機構14を介して操舵入力軸12を軸線周りに回転駆動する。
転舵装置20は、車両の左右方向に延びて配置されたラックバー21を備えている。ラックバー21の両端部には、図示省略したタイロッドおよびナックルアームを介して転舵輪としての左右前輪FW1,FW2が転舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、ラックバー21の軸線方向の変位により左右に転舵される。ラックバー21の外周上には、ハウジング(図示省略)に組みつけられた転舵用電動モータ22が設けられている。転舵用電動モータ22の回転は、ねじ送り機構23により減速されるとともにラックバー21の軸線方向の変位に変換される。
次に、操舵反力用電動モータ13や転舵用電動モータ22を制御する電気制御装置30について説明する。電気制御装置30は、操舵角センサ31、車速センサ32、シフトポジションセンサ33およびを転舵角センサ34備えている。操舵角センサ31は、操舵入力軸12に組みつけられて、操舵入力軸12の軸線周りの回転を測定することにより、操舵ハンドル11の中立位置からの回転角を検出してハンドル操舵角θとして出力する。なお、ハンドル操舵角θは、操舵ハンドル11の中立位置を「0」とし、右方向の操舵角を正の値で表し、左方向の操舵角を負の値で表す。車速センサ32は車速Vを検出して出力する。シフトポジションセンサ33は、車両のエンジンに接続された変速機(図示省略)の変速状態あるいは変速機を作動させるためのシフトノブの位置Aが、前進状態あるいは前進位置(”D”位置)であるか、後退状態あるいは後退位置(”R”位置)であるか、それ以外(例えばパーキング位置(”P”位置)、ニュートラル位置(”N”位置))であるかを検出して出力する。転舵角センサ34は、ラックバー21に組みつけられて、ラックバー21の軸線方向の変位を測定することにより、左右前輪FW1,FW2の実転舵角δを検出して出力する。なお、実転舵角δは、左右前輪FW1,FW2の中立位置を「0」とし、左右前輪FW1,FW2の右方向の転舵角を正の値で表し、左方向の転舵角を負の値で表す。
また、電気制御装置30は、互いに接続された転舵用電子制御ユニット(以下、転舵用ECUという)35および操舵反力用電子制御ユニット(以下、操舵反力用ECUという)37を備えている。転舵用ECU35には、操舵角センサ31、車速センサ32および転舵角センサ34が接続されている。操舵反力用ECU37には、操舵角センサ31、車速センサ32およびシフトポジションセンサ33が接続されている。
これらのECUは、それぞれCPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とする。転舵用ECU35は、図2の転舵制御プログラムを実行して、転舵駆動回路36を介して転舵用電動モータ22を駆動制御する。操舵反力用ECU37は、図3の操舵反力制御プログラムを実行して、反力駆動回路38を介して操舵反力用電動モータ13を駆動制御する。
次に、上記のように構成した本実施形態の動作について説明する。イグニッションスイッチの投入により、転舵用ECU35および操舵反力用ECU37は、転舵制御プログラムおよび操舵反力制御プログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行し始める。
転舵制御プログラムは、図2のステップS100にて開始され、ステップ101にて転舵用ECU35は、操舵角センサ31からのハンドル操舵角θ、車速センサ32からの車速Vおよび転舵角センサ34からの実転舵角δをそれぞれ入力する。次に、転舵用ECU35は、ステップS102にて、ROM内に記憶されている転舵角テーブルを参照して、ハンドル操舵角θに応じて変化する目標転舵角δ*を計算する。転舵角テーブルは、図4に示すように、ハンドル操舵角θの増加に従って非線形に増加するステアバイワイヤ用の目標転舵角δ*を記憶している。この目標転舵角δ*のハンドル操舵角θに対する変化率は、ハンドル操舵角θの絶対値|θ|の小さな範囲内で小さく、|θ|が大きくなると大きくなるように設定されている。なお、この転舵角テーブルを利用するのに代えて、ハンドル操舵角θと目標転舵角δ*との関係を示す関数を予め用意しておき、同関数を利用してステアバイワイヤ用の目標転舵角δ*を計算するようにしてもよい。また、車速Vに応じて変化する車速係数KSを求め、上記の目標転舵角δ*に車速係数KSをかけあわせて、車速により補正した目標転舵角を算出してもよい。
次に、転舵用ECU35は、ステップS103にて、転舵角変更量Xを計算する。この転舵角変更量Xは、実転舵角δと目標転舵角δ*との差(δ*−δ)である。そして、ステップS104にて転舵角変更量Xだけ転舵角が変更されるように、転舵駆動回路36に指令信号を出力する。その後、ステップS105にてこの転舵制御プログラムの実行を終了する。これにより、転舵駆動回路36は、転舵角が上記転舵角変更量Xだけ変化するような駆動電流IXを転舵用電動モータ22に出力し、転舵用電動モータ22はこの駆動電流IXを受けて回転駆動される。転舵用電動モータ22の回転駆動力はねじ送り機構23により直線駆動力に変換され、この直線駆動力によってラックバー21が軸線方向に駆動する。これにより、左右前輪FW1,FW2が目標転舵角δ*となるように転舵制御される。
本実施形態の操舵装置は、上記の転舵制御プログラムの実行とともに、操舵ハンドルに所定の反力を加えるための操舵反力制御プログラムが操舵反力用ECU37にて実行される。この操舵反力制御用プログラムの実行は、図3のステップS200にて開始され、ステップS201にて操舵反力用ECU37は、操舵角センサ31からのハンドル操舵角θ、車速センサ32からの車速Vおよびシフトポジションセンサ33からのシフト位置Aをそれぞれ入力する。
次に、操舵反力用ECU37は、ステップS202にて操舵角速度ωを計算する。操舵角速度ωは、操舵角θの時間変化率(dθ/dt)に基づいて求めることができる。続いて、操舵反力用ECU37は、ステップS203にて、ROM内に記憶されている操舵反力テーブルを参照して、ハンドル操舵角θに応じて変化する目標操舵反力MT*を計算する。操舵反力テーブルは、図8に示すように、ハンドル操舵角θの増加に従って非線形に増加するステアバイワイヤ用の目標操舵反力MT*を記憶している。この目標操舵反力MT*のハンドル操舵角θに対する変化率は、ハンドル操舵角θの絶対値|θ|の小さな範囲内で小さく、|θ|が大きくなると大きくなり、|θ|の最大値付近で再び小さくなるように設定されている。なお、この転舵反力テーブルを利用するのに代えて、ハンドル操舵角θと目標操舵反力MT*との関係を示す関数を予め用意しておき、同関数を利用してステアバイワイヤ用の目標操舵反力MT*を計算するようにしてもよい。
続いて、操舵反力用ECU37は、ステップS204にて、ハンドル操舵角θの絶対値|θ|がロック反力基準操舵角θlockの絶対値|θlock|未満であるかを判定する。ここで、ロック反力基準操舵角θlockは、その操舵角を境に目標操舵反力MT*に従って操舵反力を算出するか、それとも車輪の転舵角が転舵限界に近づいてきたことによる補正を行った上で操舵反力を算出するかの分岐点となる角度である。|θlock|は、車輪FW1,FW2の転舵限界時におけるハンドル操舵角(限界操舵角)θlimitの絶対値|θlimit|よりも小さい範囲であれば任意に設定できるが、なるべくθlimitに近い値とするとよい。このステップS204における判定により|θ|が|θlock|未満であると判定された場合はステップS205に進み、|θ|が|θlock|以上であると判定された場合は、ステップS207に進む。なお、説明の便宜上、|θ|<|θlock|であるときに操舵ハンドル11に付与する操舵反力のことを通常反力と呼び、|θlock|≦|θ|<|θlimit|であるときに操舵ハンドル11に付与する操舵反力のことをロック反力と呼び、θ=θlimitであるときに操舵ハンドル11に付与する操舵反力のことを終端反力と呼ぶ。
ステップS204にて|θ|が|θlock|未満であると判定した場合(ステップS204:Yes)は、操舵角θが限界操舵角θlimitから遠ざかっているものと判断できる。この場合は、転舵角が転舵限界に近づくことによる補正を行う必要がない。よって、次のステップS205においては、ステップS203にて計算した目標操舵反力MT*をそのまま出力すべき操舵反力MTに設定する。次いで、ステップS206にて、操舵ハンドル11に操舵反力MTが付与されるように、反力駆動回路38に指令信号を出力する。その後、ステップS217にてこの操舵反力制御プログラムの実行を終了する。これにより、反力駆動回路38は、操舵反力が上記操舵反力MTとなるような駆動電流IMTを操舵反力用電動モータ13に出力し、操舵反力用電動モータ13はこの駆動電流IMTを受けて回転トルクを発生する。この回転トルクが減速機構14を介して操舵反力として操舵ハンドル11に作用する。このようにして、|θ|<|θlock|の操舵角度領域において通常反力制御が行われる。
一方、ステップS204にて|θ|が|θlock|以上であると判定された場合には、次のステップS207にて、|θ|が|θlimit|以下であるかを判定し、「Yes」であればステップS208に進み、「No」であればステップS216に進む。
ステップS208に進んだ場合は、操舵角θがθlock〜θlimitの領域内にあり、未だ限界操舵角θlimitとはなっていないが、限界操舵角θlimitに近づいていると判断できる。この場合は、転舵角が転舵限界となったときに操舵反力を大きくして実質的にそれ以上の操舵ハンドルの回動を抑止するために、目標操舵反力MT*を補正してより大きな反力(ロック反力)を事前に発生する必要がある。このため、ステップS208にて、目標操舵反力MT*に対して下記式1の計算の実行により目標操舵反力MT*に対してロック補正演算を行い、ロック補正反力MT1を演算する。
ここで、上記式1において、K1は傾き係数である。傾き係数K1は、操舵角θとロック反力基準操舵角θlockとの差に応じてMT*に上乗せする反力の増加割合を決定する係数であり、任意に設定できる。ステップS208にてロック補正反力MT1を計算した後は、ステップS209に進む。
このステップS209においては、車速補正演算を行う。ここで、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を使用して車両走行を行う場合、高速走行時に操舵ハンドルを切り込み過ぎると車両挙動が不安定となり、再び車両挙動を安定化するには時間がかかる。このため、高速走行時では、操舵ハンドルの切込み過ぎを防止するためにロック反力および終端反力を大きくするのがよい。しかし、低速走行時には、操舵ハンドルを切り込み過ぎても、ドライバーの判断によりすぐさま操舵ハンドルを戻すことにより車両挙動をすぐに安定化することができる。このため、低速走行時において操舵ハンドルの切り込み過ぎを防止するためにロック反力や終端反力を大きくする必要性は、高速走行時の場合よりも小さい。加えて、低速走行時においては、蛇行路を低速で走行する場合のように、ロック反力が付与される操舵角領域においても操舵ハンドルを頻繁に取り回す状況も想定され、斯かる状況の下では反力が小さいほうが操舵ハンドルの取り回しが容易にできる。本実施形態ではこれらの点に着目し、通常反力から終端反力に向かうまでのロック反力の設定領域において、車速に応じてロック反力が変化するように、特に、車速が小さい(低速走行時)程ロック反力が小さくなるように、ロック補正反力MT1に対して車速補正演算を行い、車速補正後の反力である車速補正反力MTvを求める。この車速補正反力MTvは、ステップS209にて下記式2の計算の実行により求められる。
ここで、上記式2において、K2は、図5に示すように車速Vに応じて変化する係数であり、車速が大きい高速領域ではK2はほぼ1であるが、車速が小さい低速領域では1未満(例えば0.7)とされる。また、車速が小さくなるほど係数K2が小さくなる部分を有する。上記式2の計算によって、車速が小さいほど車速補正反力MTvが小さく設定される。なお、車両のヨーレートセンサなどの車両の挙動状態を判断し得るセンサが設けられている場合であって、車両の挙動が不安定な状態である場合には、図5に示すグラフに代えて、高速走行時であってもK2が1未満となるようなグラフを用いて車速による補正をしてもよい。高速走行時に車両挙動が不安定な場合は、ドライバーがカウンターステアなどの操舵操作を行っている可能性があり、この場合は車速補正演算により高速であっても操舵反力を小さくして操舵操作性の向上を図るのが好ましい場合があるからである。ステップS209にて車速補正反力MTvを演算した後は、ステップS210に進む。
ステップS210では、操舵角速度補正演算を行う。ここで、ステアバイワイヤ方式の操舵装置を使用して車両走行を行う場合、操舵ハンドルの操舵角速度が大きい、つまり操舵ハンドルを素早く回す場合には、慣性力によって操舵ハンドルを切込み過ぎる場合が想定される。したがって、このような切込み過ぎを防止するためにロック反力および終端反力を大きく設定するのがよい。これに対し、操舵ハンドルの操舵角速度が小さい、つまり操舵ハンドルをゆっくり回す場合には、慣性力は小さいので操舵ハンドルを切り込み過ぎる可能性は小さい。このため、操舵角速度が小さい場合において操舵ハンドルの切り込み過ぎを防止するためにロック反力および終端反力を大きくする必要性は、操舵角速度が大きい場合よりも小さい。本実施形態ではこの点に着目し、ロック反力の設定領域において、操舵角速度に応じてロック反力が変化するように、特に、操舵角速度が小さいほどロック反力が小さくなるように、車速補正反力MTvに対して操舵角速度補正演算を行い、操舵角速度補正後の反力である操舵角速度補正反力MTaを求める。この操舵角速度補正反力MTaは、ステップS210にて下記式3の計算の実行により求められる。
ここで、上記式3において、K3は、操舵角速度に応じて変化する係数であり、図6に示すように、操舵角速度が大きい領域ではK3はほぼ1であるが、操舵角速度が小さい領域では1未満とされる。また、操舵角速度が小さくなるほど係数K3が小さくなる部分を有する。なお、本実施形態(図5、図6)ではK2およびK3が同一の特性を持つように示したが、K2およびK3は、異なった特性を有するものであってよいのは当然である。
ステップS210にて操舵角速度補正反力MTaを計算した後、操舵反力用ECU37は、ステップS211にてシフトポジションセンサ33から入力されるシフトポジションAが“R”(リバース)位置であるかを判定する。シフトポジションAが“R”である場合はステップS212に進み、それ以外である場合はステップS215に進む。
ステップS212においては、後退走行時におけるシフトポジション補正係数K4を設定する。その後、ステップS213に進む。ここで、車両が前進走行している場合、または停止している場合には、ドライバーは操舵ハンドルに対面した姿勢を採っており、操舵ハンドルを操舵操作する際には操舵ハンドルに強い力をかけることができる。このため、停止時あるいは前進走行時においては、ドライバーからの強い力による操舵ハンドルの切込み過ぎを防止するためにロック反力および終端反力を大きくするのがよい。しかし、車両が後退走行している場合は、ドライバーは車両の進路を確認するために後方を向いており、体勢がくずれている。したがって、このように体勢がくずれた状態のまま操舵ハンドルを操舵操作しても操舵ハンドルに強い力をかけることができない。よって、後退走行中にドライバーの力によって操舵ハンドルが切り込み過ぎとなる可能性は小さい。本実施形態ではこの点に着目し、シフトポジションセンサによって取得されたシフトポジションAに応じてロック反力が変化するように、特に、シフトポジションAが“R”位置であるときは、それ以外の位置、たとえば“D”(ドライブ)位置、“P”(パーキング)位置、“N”(ニュートラル)位置、である場合に比較して、ロック反力が小さくなるように、操舵角速度補正反力MTaに対してシフトポジション補正演算を行い、シフトポジション補正後の反力であるシフトポジション補正反力MTpを求める。このシフトポジション補正反力MTpは、ステップS212にてシフトポジション補正係数K4をS(0<S<1)と設定した後、ステップS213にて下記式4の計算の実行により求められる。
上記のようにステップS212を経てステップS213にてシフトポジション補正反力MTpを演算する場合には、K4がSに設定されており、Sは1未満の正数であるので、MTpはMTaよりも小さくなる。このようにしてシフトポジション補正が行われる。
また、ステップS211にてシフトポジションセンサから入力されるシフトポジションAが“R”位置以外であると判定した場合は、ドライバーは操舵ハンドルに対面している姿勢である状況と考えられるので、シフトポジション補正を行って反力を減少する必要がない。したがって、この場合はステップS215に進んでシフトポジション補正係数K4を1に設定した後、ステップS213に進み、シフトポジション補正反力MTpを演算する。ステップS215を経てステップS213にてシフトポジション補正反力MTpを演算する場合には、K4が1とされているので、MTpはMTaと等しい。よって、シフトポジションによる補正は実質的に行われなかったことになる。
ステップS213にてシフトポジション補正反力MTpを演算した後は、操舵反力用ECU37は、ステップS214にて操舵ハンドル11に付与すべき操舵反力MTをシフトポジション補正反力MTpに設定する。そして、ステップS206に進み、操舵ハンドル11に操舵反力MTが付与されるように、反力駆動回路38に指令信号を出力する。その後、ステップS217にてこの操舵反力制御プログラムの実行を終了する。これにより、反力駆動回路38は、操舵反力が上記操舵反力MTとなるような駆動電流IMTを操舵反力用電動モータ13に出力し、操舵反力用電動モータ13はこの駆動電流IMTを受けて回転トルクを発生する。この回転トルクが減速機構14を介して操舵反力として操舵ハンドル11に作用する。このようにして、|θlock|≦|θ|<|θlimit|の操舵角度領域においてロック反力制御が行われる。
また、ステップS207にて、操舵角θが限界操舵角θlimit以上であると判定した場合には、ステップS216に進んで終端反力の設定を行う。この場合、終端反力として、θ=θlimitのときにステップS213にて演算されたシフトポジション補正反力MTpを終端反力に設定する。なお、θ=θlimit時におけるシフトポジション補正反力MTpがステップS213にて演算されなかった場合には、このステップS216にて下記式5の計算の実行により、MTpを求めてもよい。
ここで、上記式5中、K1,K2,K3,K4は、それぞれ前述の、傾き係数、車速補正係数、操舵角速度補正係数、シフトポジション補正係数である。
ステップS216にてMTpを取得または演算した後は、操舵反力用ECU37は、ステップS217にて操舵ハンドル11に付与すべき操舵反力MTを上記のように設定したシフトポジション補正反力MTpに設定する。そして、ステップS206に進み、操舵ハンドル11に操舵反力MTが付与されるように、反力駆動回路38に指令信号を出力する。その後、ステップS217にてこの操舵反力制御プログラムの実行を終了する。これにより、駆動回路38は、操舵反力が上記操舵反力MTとなるような駆動電流IMTを操舵反力用電動モータ13に出力し、操舵反力用電動モータ13はこの駆動電流IMTを受けて回転トルクを発生する。この回転トルクが操舵反力として操舵ハンドル11に作用する。このようにして、|θlimit|<|θ|の操舵角度領域において終端反力制御が行われる。
図7は、上記のような操舵反力制御プログラムの実行の結果、操舵角に対して操舵ハンドルに付与される操舵反力MTの変化を示すグラフである。図7からわかるように、通常反力制御が行われる操舵角領域(|θ|<|θlock|)では、操舵反力MTは、通常の操舵反力制御に従った反力特性を示す。
また、ロック反力制御が行われる操舵角領域(|θlock|<|θ|≦|θlimit|)では、通常制御領域における場合に比較して、操舵角に対する操舵反力MTの増加率が大きくなっている。ただし、この領域では、車速補正、操舵角速度補正、シフトポジション補正が行われるため、これらの走行状態や操舵状態に応じて、操舵角に体する操舵反力MTの増加率が変化する。例えば、高速走行状態時、操舵角速度が大きい場合、あるいは前進走行時は、図7の特性線Aに示すように操舵角に対する操舵反力MTの増加率は大きく、低速走行状態時、操舵角速度が小さい場合、あるいは後退走行時は、図7の特性線Bに示すように操舵角に対する操舵反力MTの増加率は小さい(ただし、通常反力制御時における増加率よりは大きい)。このように、ロック反力制御が行われる領域において、車両の走行状態(例えば車速、前進または後退走行)や操舵状態(例えば操舵角速度)に応じてロック反力(特に操舵角に対するロック反力の増加率)が変化するように制御することによって、余分な反力を操舵反力用電動モータ13から発生することを防止することができ、消費電力の低減および発熱の防止を図ることができる。また、このように制御した場合においても、限界操舵角における終端反力を、走行状態や操舵状態に応じた適切な反力とすることができる。
また、終端反力制御が行われる操舵角領域(|θlimit|<|θ|)では、操舵反力MTは操舵角の変化にかかわらず一定の値に保たれる。したがって、転舵限界に達しているにも関わらず操舵ハンドルがそれ以上回動した場合でも操舵反力用電動モータが発生する回転トルクを一定にすることができ、消費電力の低減に寄与することができる。また、上記ロック反力制御が行われる操舵角領域において、車両の走行状態や操舵状態に応じてロック反力が変化するように制御しているので、その結果として終端反力も、走行状態や操舵状態に応じて異なった反力となる。このため、終端反力制御が行われる操舵角領域でも走行状態や操舵状態に見合った適切な終端反力が設定されるので、無駄な消費電力を抑えることができるとともに、操舵反力用電動モータの発熱も抑えることができる。なお、限界操舵角θlimitにおいては、実質的に人力で操舵ハンドルをそれ以上回動できない反力に設定するので、θlimitを越えた領域内で操舵反力が制御される機会は少ない。
(変形例)
上記実施の形態では、目標操舵反力MT*は、図8に示す操舵反力テーブルに基づいて演算される。この場合において、操舵ハンドルの操舵角速度が大きいと操舵ハンドルおよび操舵反力用電動モータの慣性が大きいため、限界操舵角において反力による「壁感」をドライバーに感じさせるためには、これらの慣性をも加味した反力とする必要がある。したがって、操舵ハンドルの操舵角速度が大きい場合には、限界操舵角における終端反力が大きくなる傾向にあり、消費電力が大きくなってしまう。この場合において、操舵反力用ECU37は、以下に示す粘性項補正プログラムの実行により目標操舵反力MT*を求めることにより、終端反力を小さくすることができる。
図9は、粘性項補正プログラムのフローチャートである。この粘性項補正プログラムは図9のステップS300にて開始され、ステップS301にて操舵ハンドルの操舵角θおよび転舵輪の転舵角δが入力される。次いで、ステップS302にて、操舵角速度が演算される。この操舵角速度は、操舵角の時間変化量(dθ/dt)から求められる。
次いで、操舵反力用ECU37は、ステップS303にて、下記式6の計算の実行により、基準操舵反力MT0を求める。
ここで、上記式6において、Kaは操舵角に応じて設定されるばね項、Kb0は操舵角速度に応じて設定される粘性項、Kcは車両の走行に伴う外力変数(慣性トルク、路面μトルク、セルフアライニングトルク等)である。
次いで、操舵反力用ECU37は、ステップS304にて、ROM内に記憶されている粘性項補正値テーブルを参照して、転舵角δに応じて変化する粘性項補正値Kb1を計算する。粘性項補正値テーブルは、図10に示すように、転舵角δの絶対値の増加に従って急激に増加する粘性項補正値Kb1を記憶している(図中、δlimitは、転舵限界時の転舵角(限界転舵角)である)。なお、この粘性項補正値テーブルを利用するのに代えて、転舵角と粘性項補正値Kb1との関係を示す関数を予め用意しておき、同関数を利用して粘性項補正値Kb1を計算するようにしてもよい。
次いで、操舵反力用ECU37は、ステップS305にて、MT0およびKb1を用いて、下記式7の計算の実行により目標操舵反力補正値MT*amを求める。
ステップS305にて目標操舵反力補正値MT*amを求めた後、ステップS306にてこの粘性項補正プログラムの実行を終了する。
上記のようにして求めた目標操舵反力補正値MT*amを、図3のステップS203において使用する目標操舵反力MT*とする。このように目標反力を補正することにより、限界操舵角θlimitの付近では粘性項補正値Kb1が大きくなり、その結果操舵角速度ωが大きいほど操舵反力が大きく設定される。このため、操舵ハンドル11を素早く回した場合にはより大きな操舵反力が作用して操舵ハンドル11を回しづらくなるので、限界操舵角に行き着くまでに操舵角速度ωが減速され、結果的に終端反力を小さくすることができる。なお、上記式7の計算の実行によって目標操舵反力補正値MT*amを求めるのに代えて、予め操舵角θ、操舵角速度ω、転舵角δなどから目標操舵反力補正値MT*amが計算されたマップを用意しておき、そのマップに基づいて目標操舵反力補正値MT*amを計算してもよい。
以上のように、本実施形態によれば、操舵状態や走行状態に応じて操舵反力を決定することにより、状況に応じた適度なロック反力および終端反力を設定することができ、消費電力の不必要な増加および発熱を抑えることができる。
10…操舵操作装置(操舵機構)、11…操舵ハンドル、13…操舵反力用電動モータ(反力アクチュエータ)、20…転舵装置(転舵機構)、22…転舵用電動モータ、30…電気制御装置、35…転舵用ECU、37…操舵反力用ECU(操舵反力決定手段)、MT…操舵反力、MT*…目標操舵反力、MT*am…目標操舵反力補正値、MT0…基準操舵反力、MT1…ロック補正反力、MTa…操舵角速度補正反力、MTp…シフトポジション補正反力、MTv…車速補正反力、θlimit…限界操舵角、θlock…ロック反力基準操舵角