JPWO2005075132A1 - 複合型ナノ粒子 - Google Patents
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Abstract
Description
従来、半導体装置の実装工程に於ける各種デバイスの基板への接合や、大電力の半導体装置の電極間接合等に広く用いられるSn−Pb系はんだは、環境保全の観点等から、鉛を含まないもので代替することが求められている。Sn−Pb系はんだのうち、通常の60%Sn−40%Pb等の低温はんだは、主として、Sn−Ag−Cu系の無鉛はんだによって、これを代替する技術がほぼ確立されている。しかしながら、融点が300℃程度のSn−95%Pb系の高温はんだは、これを代替する無鉛組成のはんだ材料の目途が未だ立っていないのが現状である。そこで、Sn−95%Pb系の高温はんだを、金属ナノ粒子または無機金属化合物ナノ粒子を核とした複合型ナノ粒子を主材とする接合材料で代替し、ナノ粒子自体が持つ低温焼結性に基づく接合を行うことによって、高温はんだ使用を全廃出来れば、その利点は著しく大きなものとなると考えられる。
一般的に金属ナノ粒子は、その粒径が小さくなるにしたがって、バルクの材料とは異なる性質を帯びることが知られている。これは、金属ナノ粒子の場合、1個のナノ粒子に含まれる原子のうち表面に露出しているものの割合が、バルクの場合に比べて遙かに大きいためであると考えられる。この金属ナノ粒子の代表的な性質の一つとして、焼結の起る温度がある。表1は、20〜50nm程度の粒径の各種金属ナノ粒子の焼結開始温度を示す(一ノ瀬昇、尾崎義治、賀集誠一郎、「超微粒子技術入門」(1988.7 オーム社)参照)。
一方、金属ナノ粒子は、一般に表面の活性が著しく高いので、常温でも金属ナノ粒子同士が接近して引合い、凝集してしまう傾向を持っている。そして、金属ナノ粒子が一旦凝集を起せば、粒子は粗大化してしまうので、金属ナノ粒子としてのユニークな特性は急速に失われる。このため、金属ナノ粒子を半導体の微細配線形成や極細径ビアの埋込み等に応用することは、一般に困難であると考えられていた。
このため、個々の金属ナノ粒子の周囲を有機物からなる被覆で囲んで保護するようにした複合型金属ナノ粒子が開発されている。この有機物で金属ナノ粒子の表面を被覆して保護する方法としては、(1)物理的手段によって、金属ナノ粒子を形成する途中で、粒子同士が衝突して凝集を起す前に、個々の粒子表面に溶剤被覆膜を形成する方法、及び(2)液相系内に溶媒、金属塩、保護剤及び還元剤などを共存させ、これを加熱することによる方法の2つの方法が一般に知られている。
(1)の物理的手段による金属ナノ粒子の生成を経由する方法では、主としてガス中で、原料金属を蒸発させる必要があり、このため生産性が低く、コストの高いプロセスにつながりやすいという欠点がある。一方、(2)の液相法では、大気圧下での粒子原料の液状化を伴いながら、複合型金属ナノ粒子を形成するので、(1)の方法に比べ、安価で量産性のあるプロセスを容易に構築できる利点がある。
(2)の方法を使用したものとして、例えばステアリン酸銀を原料とし、これを窒素ガス雰囲気中で250℃に加熱することによって複合型銀ナノ粒子を生成するようにした方法が提案されている(例えば、特開平10−183207号公報参照)。この場合、図1に示すように、例えば平均粒径d2が5nm程度の金属(銀)成分からなる金属核22の周りを、厚さh2が1.5nm程度の有機物24で被覆した複合型銀ナノ粒子20が生成される。この複合型銀ナノ粒子20は、金属核(金属成分)22の表面から有機物24を脱離させて、金属核22同しを均一に焼結させるのに、少なくとも250℃以上の温度が必要で、これを主材とした接合材料の接合温度も250℃以上となることがわかっている。これは、有機物24が金属核22と反応し、金属(銀)を内部に取込んだ有機金属化合物を介して、有機物24が金属核22の表面に化学的に結合しており、このため、結合エネルギも大きく、この結合を解いて有機物24を金属核22から脱離させるのに、高い温度(エネルギ)を必要とするためであると考えられる。
また、金属塩とアルコール系有機物とを共存させて、アルコール系有機物の分解開始温度以上の加熱を行うことによって、前述と同様に、複合型銀ナノ粒子を生成することが提案されている(例えば、国際公開第01/70435号パンフレット)。この場合、例えば平均粒径7〜10nm程度の金属(銀)成分からなる金属核の周りを厚さ1.5nm程度の有機物で被覆した複合型銀ナノ粒子が生成される。この複合型銀ナノ粒子も、前述と同様に、金属核の表面から有機物を脱離させて、金属核を均一に焼結させるのに、少なくとも250℃以上の温度が必要で、これを主材とした接合材料の接合温度も250℃以上となることがわかっている。これも、前述と同様に、有機物が金属核の表面に有機金属化合物を介して化学的に結合しているためであると考えられる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、金属核から有機物を脱離させて金属核を均一に焼結させる温度を大幅に低減させるか、または無機金属化合物を含む中心部から有機物を脱離させて該中心部を金属化させる温度を大幅に低減させて、はんだによる接合の代替に応用できるようにした複合型ナノ粒子及びその製造方法を提案することを目的とする。
本発明の複合型ナノ粒子は、中心部が金属成分からなり、該金属成分の周りを物理吸着的に結合した有機物で取囲んでいる。
このように、中心部の金属成分(金属核)の周りを物理吸着的に結合した有機物で取囲んだ構造にあっては、有機物は、化学的な結合とは異なり、金属成分の表面に緩く結合されており、このため、有機物が有機金属化合物を介して化学的に金属成分(金属核)の周囲に強固に結合した従来の複合型金属ナノ粒子に比べ、遙かに低い温度で、かつ低いエネルギで有機物を金属成分(金属核)の表面から脱離させることができる。
本発明の他の複合型ナノ粒子は、中心部が金属成分からなり、該金属成分の周りを、熱脱離開始温度が140℃以上で、190℃未満の有機物で取囲んでいる。
このように、中心の金属成分の周りを取囲む有機物の該金属成分からの熱脱離開始温度を140℃以上で、190℃未満とすることで、この複合型ナノ粒子(複合型金属ナノ粒子)を、例えば接合材料の主材として使用した場合、接合温度を200℃内外とすることができる。これによって、半導体装置や電気部品の接合等で多用されている、加熱温度(接合温度)が200℃内外のはんだによる接合を、この複合型ナノ粒子を応用した方法で代替することができる。
本発明の更に他の複合型ナノ粒子は、中心部が金属成分からなり、該金属成分の周りを、脱離エネルギが金属原子1個当り0.3eV以下の有機物で取囲んでいる。
このように、中心の金属成分の周りを取囲む有機物の該金属成分からの脱離エネルギを金属原子1個当たり0.3eV以下とすることで、有機物が有機金属化合物を介して化学的に金属成分(金属核)の周囲に結合した従来の複合型金属ナノ粒子に比べ、遙かに低いエネルギで有機物を金属成分(金属核)の表面から脱離させることができる。
前記有機物は、炭素、水素及び酸素のみからなることが好ましい。
複合型ナノ粒子の有機物に窒素(N)や硫黄(S)等のように、炭素(C),水素(H)または酸素(O)以外の元素を含む場合、有機物を金属成分から脱離させても、有機物中に含まれるNまたはS成分が金属成分を焼結させた焼結金属中に残留し、その結果、導電性等に悪影響を及ぼす場合がある。複合型ナノ粒子として、有機物にNやSが含まれないものを使用することで、有機物の脱離後にNやSが残留する現象をなくし、これによって、NやS成分の残留による導電率の低下等の悪影響をなくすことができる。
前記金属成分は、例えばCu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくとも1種からなる。
前記金属成分の含有量が全体の50〜99重量%であることが好ましい。
前記中心部の平均粒径は、1〜100nmであることが好ましい。
複合型ナノ粒子の中心部(金属成分)の粒径が変化しても、これを取囲む有機物被覆の厚さは基本的に同じであり、このため、金属成分と有機物の重量比は、金属成分の粒径によって変化する。すなわち、金属成分の粒径が小さ過ぎると、全体に占める有機物の比率が相対的に高まり、その結果、焼成した場合に有機物の金属成分からの脱離を速やかに行うことは困難となる。一方、金属成分の粒径が大きくなり過ぎれば、金属ナノ粒子としての特徴は急速に失われ、例えば接合で不可欠の低温焼結性を維持することが困難となる。つまり、金属粒子の焼結開始温度は粒径が小さくなると低下することが知られているが、その効果が現れ始めるのは100nm以下である。20nm以下になるとその効果が顕著となり、特に10nm以下になると焼結開始温度が大きく低下する。従って、利用面を考えると、中心部(金属成分)の平均粒径は、1〜20nmであるのが好ましく、5〜15nmであるのが特に好ましい。
本発明の更に他の複合型ナノ粒子は、中心部に少なくとも無機金属化合物を含み、該中心部の周りを物理吸着的に結合した有機物で被覆している。
従来の金属ナノ粒子の場合は、裸のままでは化学的に極めて活性であり、有機物で被覆することによって安定化させる必要がある。この発明の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)の場合は、中心部に比較的低温で熱分解する無機金属化合物を含んでおり、物理吸着程度の弱い結合力で該中心部の周囲を有機物で被覆するだけで安定な状態となる。このため従来の複合型金属ナノ粒子より低い200℃前後の温度で金属化させることが出来る。
前記有機物は、炭素、水素及び酸素のみからなることが好ましい。有機物は、物理吸着程度の弱い結合力で金属無機化合物を含む中心部を被覆すれば足りるので、窒素や硫黄など金属元素に対して強い結合力を有する元素を含む官能基を持つ必要はない。また、炭素、水素及び酸素のみからなる有機物を使用することで、金属無機化合物を金属化させた際に窒素や硫黄が金属中に残留する恐れもない。
前記無機金属化合物は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくともいずれかの金属の無機化合物からなることが好ましい。金属元素としては、ここに掲げたもののうちのどれか一種類であってもよいが、場合によってはこれらの混合物であっても良い。また無機化合物の形態としては低温で熱分解するものであればどのようなものであってもよいが、分解する際に残留などの問題を起さない炭酸塩や酸化物などが好ましい。
本発明の複合型ナノ粒子の製造方法は、無機金属塩と有機物質とを共存させ、前記無機金属塩が分解して金属ナノ粒子が生成され、金属ナノ粒子と有機物が反応を起して有機金属化合物が生成されることなく、金属ナノ粒子の周りに有機物が物理吸着的に結合されるように前記金属塩と有機物質を所定の温度に加熱し一定時間保持する。
これにより、無機金属塩と有機物質とを共存させ、所定の温度に加熱し一定時間保持することで、中心部の金属成分(金属核)の周りを、化学的結合ではなく、物理吸着的に結合した有機物で取囲んだ構造の複合型ナノ粒子(複合型金属ナノ粒子)を生成することができる。
本発明の他の複合型ナノ粒子の製造方法は、無機金属塩と有機物質とを共存させ、前記無機金属塩の少なくとも一部が前記有機物質と反応を起して有機金属化合物が生成されることなく、前記無機金属塩ないしその熱分解により生成された無機金属化合物を含む中心部の周りに有機物が物理吸着的に結合されるように前記無機金属塩と前記有機物質を所定の温度に加熱し一定時間保持する。
これにより、無機金属塩と有機物質とを共存させ、所定の温度に加熱し一定時間保持することで、少なくとも無機金属化合物を含む中心部の周りを、化学的結合ではなく、物理吸着的に結合した有機物で取囲んだ構造の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を生成することができる。
本発明の好ましい一態様は、前記無機金属塩と前記有機物質の加熱温度をT(℃)、この温度での保持時間をt(h)としたとき、下記の式(1)が成立する。
(T+273)(20+logt)×10−3≦7.98 (1)
前記無機金属塩は炭酸銀で、前記有機物質は高級アルコールであることが好ましい。
前記高級アルコールは、ミリスチルアルコールで、前記加熱温度は、70℃以上、140℃未満であることが好ましい。
このように、例えば炭酸銀(無機金属塩)とミリスチルアルコール(有機物質)とを70℃以上、140℃未満の温度で所定時間、例えば120℃の温度で2h加熱・保持することで、有機物が金属成分(銀)または無機金属化合物(炭酸銀)に化学的に結合されることなく、金属成分または無機金属化合物に物理吸着的に結合された複合型ナノ粒子を生成することができる。なお、炭酸銀(無機金属塩)とミリスチルアルコール(有機物質)を、上記限界範囲を超える140℃の温度で2h加熱・保持した場合には、有機物が金属成分(銀)または無機金属化合物(炭酸銀)と反応して有機金属化合物が生成され、金属成分または無機金属化合物に有機金属化合物を介して化学的に強固に結合された複合型ナノ粒子が生成される。
本発明の更に他の複合型ナノ粒子は、無機金属塩と有機物質とを共存させて加熱し、加熱温度をT(℃)、この温度での保持時間をt(h)としたとき、下記の(2)式が成立するように保持することにより製造される。
(T+273)(20+logt)×10−3≦7.98 (2)
本発明の複合型ナノ粒子によれば、中心部(金属成分及び/または無機金属化合物)を取囲んで保護する有機物は、中心部の表面に物理吸着的に、つまり化学的な結合とは異なり、中心部の表面に緩く結合されている。このため、有機物が化学的に金属成分(金属核)の周囲に結合した従来の複合型金属ナノ粒子に比べ、遙かに低い温度で、例えば140℃以上、190℃未満の加熱で有機物を中心部から脱離させることができる。これによって、半導体装置や電気部品の接合等で多用されている、加熱温度(接合温度)が200℃内外のはんだによる接合を、この複合型ナノ粒子を応用した方法で代替することができる。
図2は、本発明の実施の形態の複合型ナノ粒子(複合型金属ナノ粒子)を模式的に示す図である。
図3は、本発明の他の実施の形態の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を模式的に示す図である。
図4は、本発明の更に他の実施の形態の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を模式的に示す図である。
図5は本発明の実施の形態に係る複合型ナノ粒子の生成反応のモデルの一例を示すフローチャートである。
図6は、ナノ粒子の生成温度と粒径(平均値)の相関をアレニウスによる計算値と実測値の関係として示すグラフである。
図7は本発明の実施の形態に係る複合型ナノ粒子の生成反応のモデルの他の例を示すフローチャートである。
図8Aは、本発明の複合型ナノ粒子の熱分析曲線(DTA曲線及びTG曲線)を示すグラフで、図8Bは、比較例の複合型金属(銀)ナノ粒子の熱分析曲線(DTA曲線及びTG曲線)を示すグラフである。
図9は、本発明の他の複合型ナノ粒子の熱分析曲線を示すグラフである。
図10は、本発明の複合型ナノ粒子(供試材)の構成物質をX線回折法によって定性的に分析・同定したときのスペクトラムを示す図である。
図11は、本発明の複合型ナノ粒子(供試材)の加熱によるGC(ガスクロマトグラフィー)−質量分析・同定を行って得られたスペクトラムである。
図12は、本発明の複合型ナノ粒子生成時の加熱温度・保持時間と有機物の熱脱離温度の関係を示すグラフである。
図2は、本発明の実施の形態の複合型ナノ粒子(複合型金属ナノ粒子)を模式的に示す。図2に示すように、この複合型ナノ粒子10は、中心部が金属成分(金属核)12からなり、この金属成分12の周りを物理吸着的に結合した有機物14で取囲んだ構成をしている。この有機物14は、金属成分12の保護皮膜としての役割を果たすもので、このように、金属成分12の周囲を有機物14で被覆することにより、金属成分12同士が凝集する傾向が小さく、分散安定性が優れた複合型金属ナノ粒子10が構成される。
このように、中心部の金属成分(金属核)12の周りを物理吸着的に結合した有機物14で取囲んだ構造にあっては、有機物14は、化学的な結合とは異なり、金属成分12の表面に緩く結合されている。このため、図1に示す、有機物24が、有機金属化合物を介して化学的に金属成分(金属核)22の周囲に強固に結合した従来の複合型金属ナノ粒子20に比べ、遙かに低い温度で、かつ低いエネルギで有機物14を金属成分(金属核)12の表面から脱離させることができる。
この複合型ナノ粒子10の有機物14の金属成分12表面からの熱脱離開始温度は、140℃以上、190℃未満である。このように、中心部の金属成分12の周りを取囲む有機物14の該金属成分12からの熱脱離開始温度を140℃以上で、190℃未満とすることで、この複合型ナノ粒子10を、例えば接合材料の主材として使用した場合、この接合温度を約200℃とすることができる。これによって、半導体装置や電気部品の接合等で多用されている、加熱温度(接合温度)が200℃内外のはんだによる接合を、この複合型ナノ粒子10を応用した方法で代替することができる。
また、この複合型金属ナノ粒子10の有機物14の金属成分12表面からの脱離エネルギは、金属原子1個当り0.3eV以下である。これにより、この脱離エネルギを、図1に示す、従来の複合型金属ナノ粒子20における有機物24の金属成分(金属核)22の表面からの脱離エネルギに比べ、著しく小さくすることができる。
有機物14は、炭素(C)、水素(H)及び酸素(O)からなる。このように、複合型金属ナノ粒子10の有機物14に窒素(N)や硫黄(S)等が含まれないようにすることで、有機物14を金属成分12から脱離させた後、金属部分にNやSが残留し、これによって、金属成分12を焼結することによって得られる焼結金属の導電率が、残留するNやS成分によって低下してしまうことを防止することができる。
金属成分12は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくとも1種からなる。また、金属成分12の含有量が50〜99重量%であることが好ましく、金属成分(中心部)12の平均粒径d1は、一般的には、1〜100nmである。
ここで、複合型金属ナノ粒子10の金属成分12の粒径d1が変化しても、これを取囲む有機物14の被覆厚さh1は基本的に同じであり、このため、金属成分12と有機物14の重量比は、金属成分12の粒径d1によって変化する。すなわち、金属成分12の粒径d1が小さ過ぎると、全体に占める有機物14の比率が相対的に高まり、その結果、焼成した場合に有機物14の金属成分12からの脱離を速やかに行うことは困難となる。一方、金属成分12の粒径d1が大きくなり過ぎれば、金属ナノ粒子としての特徴は急速に失われ、接合で不可欠の低温焼結性も維持することが困難となる。つまり、金属成分12の焼結開始温度は粒径d1が小さくなると低下することが知られているが、その効果が現れ始める粒径d1は100nm以下である。粒径が20nm以下になるとその効果が顕著となり、特に10nm以下になると焼結開始温度が大きく低下する。従って、利用面を考えると、金属成分(金属核)12の平均粒径d1は、1〜20nmであるのが好ましく、5〜15nmであるのが特に好ましい。
図3は、本発明の他の実施の形態の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を模式的に示す。図3に示すように、この複合型ナノ粒子30は、中心部32が金属成分(金属核)34と該金属成分34の周囲を包囲する無機金属化合物36からなり、この無機金属化合物36の周りを物理吸着的に結合した有機物38で取囲んだ構成をしている。この有機物38は、保護皮膜としての役割を果たすもので、このように、中心部32の周囲を有機物38で被覆することにより、凝集する傾向が小さく、分散安定性が優れた複合型ナノ粒子30が構成される。
このように、中心部32の無機金属化合物36の周りを物理吸着的に結合した有機物38で取囲んだ構造にあっては、有機物38は、化学的な結合とは異なり、無機金属化合物36の表面に緩く結合されている。このため、従来の複合型金属ナノ粒子20(図1参照)に比べ、遙かに低い温度で、かつ低いエネルギで有機物38を無機金属化合物36の表面から脱離させることができる。
この複合型ナノ粒子30の有機物38の無機金属化合物36表面からの熱脱離開始温度、及び無機金属化合物36の熱分解開始温度は、140℃以上、190℃未満である。このように、有機物38の無機金属化合物36表面からの熱脱離開始温度、及び無機金属化合物36の熱分解開始温度を140℃以上で、190℃未満とすることで、この複合型ナノ粒子30を、例えば接合材料の主材として使用した場合、この接合温度を約200℃とすることができる。
有機物38は、前述と同様に、炭素(C)、水素(H)及び酸素(O)からなる。
無機金属化合物36は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくともいずれかの金属の無機化合物からなる。金属元素としては、ここに掲げたもののうちのどれか一種類であってもよいが、場合によってはこれらの混合物であっても良い。また、無機金属化合物36には上記金属から成る合金を含んでいてもよい。また無機化合物の形態としては低温で熱分解するものであればどのようなものであってもよいが、分解する際に残留などの問題を起こしにくい炭酸塩や酸化物などが好ましい。
ここで、複合型ナノ粒子30の中心部32の粒径d3は、前述の例と同様に、一般には100nm以下であるが、1〜20nmであるのが好ましく、5〜15nmであるのが特に好ましい。
図4は、本発明の更に他の実施の形態の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を模式的に示す。図4に示すように、この複合型ナノ粒子40は、中心部42が金属成分44と無機金属化合物46の混合物からなり、この中心部42の周りを物理吸着的に結合した有機物48で取囲んだ構成をしている。この有機物48は、保護皮膜としての役割を果たすもので、このように、中心部42の周囲を有機物48で被覆することにより、凝集する傾向が小さく、分散安定性が優れた複合型ナノ粒子40が構成される。
このように、金属成分44と無機金属化合物46の混合物からなる中心部42の周りを物理吸着的に結合した有機物48で取囲んだ構造にあっては、有機物48は、化学的な結合とは異なり、金属成分44及び無機金属化合物46の表面に緩く結合されている。このため、従来の複合型金属ナノ粒子20に比べ、遙かに低い温度で、かつ低いエネルギで有機物48を中心部42の表面から脱離させることができる。
この複合型ナノ粒子30の有機物48の中心部42からの熱脱離開始温度、及び無機金属化合物46の熱分解開始温度は、140℃以上、190℃未満である。このように、有機物48の中心部42からの熱脱離開始温度、及び無機金属化合物46の熱分解開始温度を140℃以上で、190℃未満とすることで、この複合型ナノ粒子40を、例えば接合材料の主材として使用した場合、この接合温度を約200℃とすることができる。
有機物48は、前述と同様に、炭素(C)、水素(H)及び酸素(O)からなる。また、無機金属化合物46は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくともいずれかの金属の無機化合物からなる。更に、複合型ナノ粒子40の中心部42の粒径d4は、前述の例と同様に、一般には100nm以下であるが、1〜20nmであるのが好ましく、5〜15nmであるのが特に好ましい。
図5は、図2に示す、本発明の実施の形態に係る複合型ナノ粒子10の生成反応のモデルの一例を示す。この例では、金属成分(金属核)が銀からなる複合型ナノ粒子(複合型銀ナノ粒子)の場合について、以下に詳述する。なお、金属核の組成は、銀に特定する必要はなく、製造方法としては、銀以外の組成の金属核の場合についても、類似の形態をとって行うことが出来ることは勿論である。
先ず、原料たる金属塩としての炭酸銀と有機物質としてのミリスチルアルコールとを均一に混合する。このミリスチルアルコールの融点は、36.4℃であり、常温では固体である。そして、この炭酸銀とミリスチルアルコールの混合物を、炭酸銀が分解して金属(銀)ナノ粒子が生成され、金属(銀)ナノ粒子と有機物が反応を起して有機金属化合物が生成されることなく、金属(銀)ナノ粒子の周りに有機物が物理吸着的に結合されるように、所定の温度、例えば70℃以上で、140℃未満の所定の温度に加熱して、この温度を一定時間保持する。例えば、炭酸銀とミリスチルアルコールの混合物を120℃で2h加熱・保持する。
これによって、この例によれば、図2において、金属(銀)成分12の平均粒径d1が約9nm、有機物14の被覆厚さh1が約1.5nmで、この有機物14が金属(銀)成分12の周りを物理的吸着によって結合した複合型ナノ粒子(複合型金属(銀)ナノ粒子)10が生成される。複合型金属(銀)ナノ粒子の生成機構は、以下のように考えられる。
<複合型金属(銀)ナノ粒子の生成>
ミリスチルアルコールは36.4℃で融解し、炭酸銀はこの溶融したミリスチルアルコール中に分散する。そして、例えば、120℃の加熱によって、炭酸銀は、先ず次式(3)のように分解する。
Ag2CO3 → Ag2O+CO2 (3)
式(3)の反応による生成物は、ある程度の粒子サイズをなしているが、この場合、原料の炭酸銀(Ag2CO3)が一定の大きさの核をなし、その周囲を酸化銀(Ag2O)で包囲された形態をとっている。
更に、この加熱・保持に伴って、コアを構成するAg2CO3が、式(3)の反応を起しつつ、順次微細な粒子に***する。この反応を繰返すことによって、最終的に分子状態のAg2Oが生成される(分子分散状態)。その直後、分子状のAg2Oは、簡単に還元されて原子状銀(銀原子)が生成され、この原子状銀は、短時間で凝集して一定サイズ、例えば9nm程度の銀ナノ粒子にまで成長する。つまり、原子状銀は、活性なため、単独で分散した状態では不安定であり、このため、複数の原子状銀が凝集して一定のサイズの凝集体に成長する。これは、系を加熱していることによって、ミリスチルアルコールが常時蒸発しているため、時間の経過と共に銀濃度が高まり、いずれ系内に銀濃度が高い状態、すなわち銀の過飽和状態が生じ、その結果、不可避的に系内で均一核生成を起すためである。これは、冷却中に溶融金属中で凝固の核生成が起る均一核生成と類似の現象と考えられる。
ここで、原子状銀が一定数凝集することによって、一定サイズの粒子の核が形成される。熱活性化過程によって、核の大きさが一定の臨界値以上に到達したものは、その後安定的に凝集・成長を続け、ある平衡的な大きさ(例えば9nm)の金属(銀)ナノ粒子に到達する。
銀粒子が凝集するのは、系全体の表面エネルギの総和を減少させるためであるが、一定の大きさに成長した時点で、周囲に存在する有機物の作用によって成長が停止し、銀ナノ粒子の表面が有機物で覆われた状態となる。これによって、原子状銀や銀粒子同士の凝集・合体は停止し、ミリスチルアルコール中に独立に分散した複合型銀ナノ粒子が生成される。
すなわち、ナノ粒子表面に金属が露出している場合、ナノ粒子表面の巨大な表面エネルギによって、即座に高速度でナノ粒子の凝集が開始されるが、一定のサイズまでナノ粒子の成長が進むと、相対的な成長速度が低下(安定成長)し、周囲の有機物との間の相互作用の方が活発に起るようになり、金属ナノ粒子の表面は、有機物によって被覆・保護される。こうして出来た複合型銀ナノ粒子は、独立・分散した形態で、ミリスチルアルコール中に存在する。
<粒子成長の温度依存性>
ここで、加熱温度と粒子成長の関係を考察する。加熱温度が高いと、金属(銀)粒子の核発生頻度が増大するので、核発生はより多くの場所で起る。その結果、核は多数個形成され、それぞれが周囲の原子状銀を取込んで成長していくので、周囲の原子状銀は、早期に減少・枯渇し、銀粒子の成長は早期に停止してしまう。したがって、それぞれの銀ナノ粒子の大きさは小さくなる。つまり、もともと小さい核から成長が始まるので、成長後の粒子サイズも低温の場合より小さくなる。
逆に低い温度で加熱・保持を行う場合は、粒子の核発生頻度が低くなり、系内に発生する核数は相対的に少なくなる。このため、少ない核が周囲の原子状銀を大量に取込み、この結果、それぞれの銀粒子は大きなサイズになるまで成長出来ることになる。この現象を、図6のナノ粒子の生成温度と粒径(平均値)の相関(アレニウス(Arrhenius)による計算値と実測値の関係)として示す。
以上のように、この方法によって製造される金属粒子の粒径は、加熱・保持温度が高いほど小さくなる。これは、液中に過飽和状態で存在する金属原子から熱活性化過程によって金属核が生成・成長して行く機構が働くことと符合している。
実際に使う粒子の粒径をどの程度にするかは、粒子を適用する分野や用途によって決める必要がある。例えば、触媒を目的として使う場合、表面積の合計が多いほど効果が大きいので、粒径は小さいほどよい。一方、接合部材として本粒子を用いる場合、接合時に有機物の殻を効率よく分解し除去する必要がある。このため、金属焼結を迅速に起すためには、粒子サイズを極度に小さくするのは不都合である。これは、有機物を分解し離脱させるためには、これと反応する酸素との結合を起すことが必要であって、この酸素の供給及び反応で生じたガスを拡散させるための流路を確保することが不可欠なためである。すなわち、粒子サイズが過度に小さいと粒間の隙間も小さくなるので、気体の出入りが困難になるという弊害を生む。したがって、適度なサイズを選択するのが良い。
<有機物による保護被覆の挙動>
前述のように、金属(銀)粒子の周囲が有機物によって被覆されて保護された状態になると、粒子としての成長は停止する。この有機物は、C−H−Oからなる直鎖型の構造をとっており、有機物が金属粒子に物理吸着的に結合した形態をとっている。つまり、この例によれば、例えば炭酸銀とミリスチルアルコールの混合物を120℃で2h加熱・保持することによって、図2に示す、金属(銀)成分12の周りを物理吸着的に結合した有機物14で取囲んだ複合型ナノ粒子(複合型金属(銀)ナノ粒子)10を生成することができる。
図2に示す複合型ナノ粒子(複合型金属(銀)ナノ粒子)10は、炭酸銀が完全に分解した時に生成される。しかし、製造条件とのかねあいで、図7に示すように、炭酸銀の分解途中で銀の凝集を起こす場合には、未分解の炭酸銀粒子が銀粒子の周囲に付着して、図3に示す、中心部32が金属成分(金属核)34と該金属成分34の周囲を包囲する無機金属化合物36からなり、この無機金属化合物36の周りを物理吸着的に結合した有機物38で取囲んだ構成の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)30が生成される。
つまり、無機金属塩と有機物質とを共存させ、無機金属塩の少なくとも一部が有機物質と反応を起して有機金属化合物が生成されることなく、無機金属塩ないしその熱分解により生成された無機金属化合物を含む中心部の周りに有機物質が物理吸着的に結合されるように無機金属塩と有機物質を所定の温度に加熱し一定時間保持することで、少なくとも無機金属化合物を含む中心部の周りを、化学的結合ではなく、物理吸着的に結合した有機物で取囲んだ構造の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を生成することができる。
これに対して、例えば炭酸銀とミリスチルアルコールの混合物を上記よりも高温の140℃で2h加熱・保持すると、有機物は徐々に変化する。すなわち、有機物は、前述のように、形成当初、C−H−Oからなる直鎖型の構造をとっているが、所定温度より高い温度に一定時間以上保持されることによって、有機物と金属との相互作用が進行し、有機金属化合物が支配的に存在するようになると考えられる。すなわち、元来物理吸着していた有機物が、有機金属化合物へと変質する。
つまり、炭酸銀とミリスチルアルコールの混合物を120℃で2h加熱・保持するだけでは、有機金属化合物の生成に至ることはなく、有機物は弱く吸着した物理吸着状態を維持するが、140℃×2hの加熱・保持を行えば、吸着した有機物と金属が反応を起して有機金属化合物を生成し、複雑な構造の被覆を持つ複合型金属ナノ粒子を形成することになる。以上の機構によって、120℃×2hの加熱・保持と、140℃×2hの加熱・保持とでは全く異なる複合型金属ナノ粒子が生成される。
ここで、前述のようにして、120℃×2hの加熱・保持によって生成した複合型銀ナノ粒子(本発明)と、140℃×2hの加熱・保持によって生成した複合型銀ナノ粒子(比較例)の熱分解曲線(DTA曲線及びTG曲線)を図8A及び8Bに示す。なお、図8A及び図8Bに示す熱分解曲線を求めた時の昇温速度は、5℃/minである。
図8A及び8Bで明らかなように、DTA曲線では、図8Aに示す本発明では、約180℃で、図8Bに示す比較例では、約220℃でピーク(発熱反応)がそれぞれ生じており、この温度付近で有機物の金属成分(金属核)表面からの脱離及び/または分解が生じていると考えられる。つまり、本発明にあっては、比較例に比べて、ピーク温度が約40℃も低い。しかも、本発明では、ピークが非常にシャープに生じているが、比較例にあっては、ピークの幅が広範囲に拡がっている。
これにより、120℃×2hの加熱・保持によって生成した本発明は、140℃×2hの加熱・保持によって生成した比較例に比べ、有機物が遙かに低温で分解・蒸散され、銀成分(銀核)から脱離する。また、そのために必要な脱離エネルギが銀原子1個当り0.3eVと極めて小さく、従来例のそれの1/8程度となっている。しかも、粒子特性の均一度が高い(曲線のピークがシャープに発現しているため)ということが明らかとなっている。これは、複合型銀ナノ粒子の低温焼結性を応用する接合には極めて好都合な特性と言える。
また、TG曲線では、図8Aに示す本発明の方が、図8Bに示す比較例に比べて、重量減少が遙かに急激に生じており、有機物の脱離が急速に生じることを示している。これは、本発明による複合型銀ナノ粒子の粒子径を含む粒子特性の均一度が高く、系内が所定の温度に到達した瞬間に殆ど全部の粒子で一斉に有機物の脱離が始まることを示している。これに対して、比較例の複合型銀ナノ粒子では、少なくとも粒子特性の均一度が本発明のそれより劣っており、このために、全ての有機物が金属成分(金属核)から脱離を開始するのに余計な時間がかかることを示す。均一な金属焼結を起すためには、有機物が短時間で金属成分(金属核)から脱離することが必須条件なので、本発明の複合型銀ナノ粒子は、比較例のそれを接合に応用する上での不都合を解消し、良好な接合を起すために好適なものとなっている。
図8Aは、120℃×2hの加熱・保持条件で、通常の温度管理レベル、つまり保持温度の制御偏差を±0.5℃以内として生成した複合型ナノ粒子の熱分解曲線を示している。120℃×2hの加熱・保持条件で、通常の温度管理レベルより遙かに厳しく、±0.1℃以内の制御偏差となるような温度管理を行って生成した複合型ナノ粒子の熱分解曲線を図9に示す。
図9から明らかなように、DTA曲線におけるピーク温度は、約178℃で、図8Aに示すそれとほぼ同じであるにも拘わらず、曲線のピークは著しく幅が狭くなっており、その温度でのTG曲線の変化挙動も極めて急激なものとなっている。これは、厳格な保持温度管理を行うことによって生成した複合型ナノ粒子は、その粒子特性の均一度が極めて高くなることに起因すると考えられ、高品質の接合に使用するのに好適となる。
図10は、図9に示すのと同様に、120℃×2hの加熱・保持条件で、±0.1℃以内の制御偏差となるような温度管理を行って生成した複合型ナノ粒子(供試材)の構成物質をX線回折法によって定性的に分析・同定したときのスペクトルを示す。図10から、この複合型ナノ粒子は、少なくとも炭酸銀と金属銀を共に含む、複合型無機金属化合物ナノ粒子の形態を有していることが判る。
なお、エネルギレベルの違いに起因して、X線回折法では有機物の検出は不可能である。
そこで、この複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)の有機物層を調べるため、試料の加熱によるGC(ガスクロマトグラフィー)−質量分析・同定を行った。図11は、その結果の一例を示す。図11から明らかなように、有機物の主成分は、分子式中にCを14個有するアルコール=テトラデカノールと判明した。
テトラデカノール(ミリスチルアルコールの別称)は、有機物全体の60wt%程度を占めており、これは原料として用いたミリスチルアルコールから由来したものであると考えられる。
更に、本発明の複合型ナノ粒子と従来の複合型ナノ粒子との間の大きな違いとして、有機物質に対する分散性の違いを指摘することが出来る。すなわち、比較例の複合型ナノ粒子は、トルエン等の溶剤に均一に分散させることが出来る。ところが、本発明の複合型ナノ粒子は、有機物質に対する分散性が無いことを特徴としている。なお、本発明の複合型金属ナノ粒子は、界面活性剤を加えた水には分散可能性を持っている。
<温度×時間効果>
以上述べたように、保持時間を2hで一定とした場合、加熱・保持温度が120℃(本発明)と140℃(比較例)では全く異なる性質の複合型銀ナノ粒子が生じる。これは主として金属核の周囲に存在する有機物の被覆形態の本質的違いに基づくと考えられる。つまり、このように、わずか20℃の温度の違いで、化学反応速度が急激に増加して、大きく性状の異なる結果を得られるのは、有機物の被覆形成機構が熱活性化過程によって引き起こされ、図5において、粒子生成時間の大半は、有機物被覆の形成・変化(吸着・有機金属化合物形成等)に費消されているためであると考えられる。
熱活性化過程の効果を定量的に記述する温度時間パラメータ(ラーソン・ミラーパラメータλ)を次式(4)によって計算すると、表2のようになる。原子の拡散を典型例とする熱活性化過程が根底にある現象においては、反応の進行量がT1(C+logt)の形のパラメータで表示されることがわかっており、この値が同じならば、同じ性質、状態に到達しているという一般的法則が成り立っている。そこで、式(4)に示すλをラーソン・ミラーパラメータとして熱活性化による反応量の指標として用いることが多い。
λ=T1(20+logt)×10−3 (4)
〔T1:加熱温度(K)、t:保持時間(h)〕
言い換えると、複合型ナノ粒子という同じ範疇にあっても、λ≦7.98(120℃×2h、100℃×14h)の場合、有機金属化合物は生じないが、少なくとも、λ=8.38(140℃×2h)以上の熱履歴を受ければ、有機金属化合物の生成反応が生じ、その結果、前述のような著しい粒子性状の差異が生起されることになる。したがって、ラーソン・ミラーパラメータλの大小は有機金属化合物形成の有無と符合している。
なお、式(4)では定数Cの値として金属の高温変形でよく使われる20を用いているが、原子の拡散が素過程になるという点で有機金属化合物形成の場合も類似の扱いが出来ると仮定している。
このように、有機金属化合物が形成される反応が起きる条件を考慮することによって、所望の性状の複合型銀ナノ粒子を得るためには、ラーソン・ミラーパラメータλが、少なくとも7.98以下となるような加熱・保持を行うことが必要となる。実用的な加熱操作(昇温・保持)としては、例えば加熱温度120℃で2h保持の処理を行うのが適当であり、120℃以上では、現象の進行速度が高まるので、有機金属化合物を生成するリスクが大きくなる。
一方、表2から明らかなように、加熱温度が100℃のように低くなると、保持時間を著しく長くとる必要を生じるので、製造時間が長引くことになって、不経済なプロセスとなり易い。したがって、加熱温度が80〜120℃程度で、保持時間が1〜24h程度の範囲内で、ラーソン・ミラーパラメータλが7.98以下となるような加熱・保持条件を満足しながら、現実的に実行可能な温度・保持時間を選定することが望ましい。
表3は、前述のように、炭酸銀とミリスチルアルコールを120℃×2hの加熱・保持することによって生成した複合型銀ナノ粒子(本発明)と、同じく140℃×2hの加熱・保持することによって生成した複合型銀ナノ粒子(比較例1)と、ステアリン酸銀を原料とし、これを窒素ガス雰囲気中で250℃に加熱することによって生成した複合型銀ナノ粒子(比較例2)の製造条件、特性及びこれらを接合材料の主材として使用した時の接合開始温度を示す。
表4は、本発明の実施にあたり加熱温度と加熱時間を変化して製造する場合の比較を示す。
図12は、本発明における製造時の加熱温度・保持時間によって、有機物の熱脱離温度がどのように変化するかを示す。図12は、熱分析曲線(TG曲線)の第1ピーク相当温度を横軸の値としてプロットして作成している。
図12によって、製造時の加熱温度・保持時間の有機物脱離性に及ぼす影響を定量的に見積ることが可能となる。
産業上の利用の可能性
本発明の複合型ナノ粒子は、例えば半導体装置の電極間等を接合するのに使用される接合材料の主材として利用される。
【発明の名称】複合型ナノ粒子及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)及びその製造方法に係り、特に半導体装置の電極間等を接合するのに使用される接合材料の主材として用いられる複合型ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や電気・電子部品の小型化に伴い、粒径が100nm以下の金属粒子、所謂、金属ナノ粒子の半導体装置等への応用可能性が注目を集めている。この金属ナノ粒子の半導体装置等への応用としては、例えば、金属ナノ粒子を含む微量液体による配線形成や導電性ペーストに関するものが挙げられる。
【0003】
従来、半導体装置の実装工程に於ける各種デバイスの基板への接合や、大電力の半導体装置の電極間接合等に広く用いられるSn−Pb系はんだは、環境保全の観点等から、鉛を含まないもので代替することが求められている。Sn−Pb系はんだのうち、通常の60%Sn−40%Pb等の低温はんだは、主として、Sn−Ag−Cu系の無鉛はんだによって、これを代替する技術がほぼ確立されている。しかしながら、融点が300℃程度のSn−95%Pb系の高温はんだは、これを代替する無鉛組成のはんだ材料の目途が未だ立っていないのが現状である。そこで、Sn−95%Pb系の高温はんだを、金属ナノ粒子または無機金属化合物ナノ粒子を核とした複合型ナノ粒子を主材とする接合材料で代替し、ナノ粒子自体が持つ低温焼結性に基づく接合を行うことによって、高温はんだ使用を全廃出来れば、その利点は著しく大きなものとなると考えられる。
【0004】
一般的に金属ナノ粒子は、その粒径が小さくなるにしたがって、バルクの材料とは異なる性質を帯びることが知られている。これは、金属ナノ粒子の場合、1個のナノ粒子に含まれる原子のうち表面に露出しているものの割合が、バルクの場合に比べて遙かに大きいためであると考えられる。この金属ナノ粒子の代表的な性質の一つとして、焼結の起る温度がある。表1は、20〜50nm程度の粒径の各種金属ナノ粒子の焼結開始温度を示す(一ノ瀬昇、尾崎義治、賀集誠一郎、「超微粒子技術入門」(1988.7 オーム社)参照)。
【表1】
【0005】
表1で明らかなように、金属ナノ粒子は、通常、工業的に用いられる粉体よりも著しく低い温度で焼結を開始することがわかる。このような金属ナノ粒子の低温焼結性を利用して、低温での部材の接合に金属ナノ粒子を応用することで、電気部品や半導体装置等の接合材料として多用されている鉛入りはんだを代替する可能性が大きいと考えられる。
【0006】
一方、金属ナノ粒子は、一般に表面の活性が著しく高いので、常温でも金属ナノ粒子同士が接近して引合い、凝集してしまう傾向を持っている。そして、金属ナノ粒子が一旦凝集を起せば、粒子は粗大化してしまうので、金属ナノ粒子としてのユニークな特性は急速に失われる。このため、金属ナノ粒子を半導体の微細配線形成や極細径ビアの埋込み等に応用することは、一般に困難であると考えられていた。
【0007】
このため、個々の金属ナノ粒子の周囲を有機物からなる被覆で囲んで保護するようにした複合型金属ナノ粒子が開発されている。この有機物で金属ナノ粒子の表面を被覆して保護する方法としては、(1)物理的手段によって、金属ナノ粒子を形成する途中で、粒子同士が衝突して凝集を起す前に、個々の粒子表面に溶剤被覆膜を形成する方法、及び(2)液相系内に溶媒、金属塩、保護剤及び還元剤などを共存させ、これを加熱することによる方法の2つの方法が一般に知られている。
【0008】
(1)の物理的手段による金属ナノ粒子の生成を経由する方法では、主としてガス中で、原料金属を蒸発させる必要があり、このため生産性が低く、コストの高いプロセスにつながりやすいという欠点がある。一方、(2)の液相法では、大気圧下での粒子原料の液状化を伴いながら、複合型金属ナノ粒子を形成するので、(1)の方法に比べ、安価で量産性のあるプロセスを容易に構築できる利点がある。
【0009】
(2)の方法を使用したものとして、例えばステアリン酸銀を原料とし、これを窒素ガス雰囲気中で250℃に加熱することによって複合型銀ナノ粒子を生成するようにした方法が提案されている(例えば、特開平10−183207号公報参照)。この場合、図1に示すように、例えば平均粒径d2が5nm程度の金属(銀)成分からなる金属核22の周りを、厚さh2が1.5nm程度の有機物24で被覆した複合型銀ナノ粒子20が生成される。この複合型銀ナノ粒子20は、金属核(金属成分)22の表面から有機物24を脱離させて、金属核22同しを均一に焼結させるのに、少なくとも250℃以上の温度が必要で、これを主材とした接合材料の接合温度も250℃以上となることがわかっている。これは、有機物24が金属核22と反応し、金属(銀)を内部に取込んだ有機金属化合物を介して、有機物24が金属核22の表面に化学的に結合しており、このため、結合エネルギも大きく、この結合を解いて有機物24を金属核22から脱離させるのに、高い温度(エネルギ)を必要とするためであると考えられる。
【0010】
また、金属塩とアルコール系有機物とを共存させて、アルコール系有機物の分解開始温度以上の加熱を行うことによって、前述と同様に、複合型銀ナノ粒子を生成することが提案されている(例えば、国際公開第01/70435号パンフレット)。この場合、例えば平均粒径7〜10nm程度の金属(銀)成分からなる金属核の周りを厚さ1.5nm程度の有機物で被覆した複合型銀ナノ粒子が生成される。この複合型銀ナノ粒子も、前述と同様に、金属核の表面から有機物を脱離させて、金属核を均一に焼結させるのに、少なくとも250℃以上の温度が必要で、これを主材とした接合材料の接合温度も250℃以上となることがわかっている。これも、前述と同様に、有機物が金属核の表面に有機金属化合物を介して化学的に結合しているためであると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の複合型金属ナノ粒子にあっては、金属核から有機物を脱離させて、金属核を均一に焼結させるのに、少なくとも約250℃以上の温度が必要であり、この複合型金属ナノ粒子を主材とした接合材料の接合温度も約250℃以上となる。このため、半導体装置や電気部品の接合等で多用されている、はんだ接合に必要とされる加熱温度(接合温度)が200℃内外の現状から判断すると、従来の複合型金属ナノ粒子を主材とした接合材料では、接合に要する温度が高過ぎる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、金属核から有機物を脱離させて金属核を均一に焼結させる温度を大幅に低減させるか、または無機金属化合物を含む中心部から有機物を脱離させて該中心部を金属化させる温度を大幅に低減させて、はんだによる接合の代替に応用できるようにした複合型ナノ粒子及びその製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の複合型ナノ粒子は、銀成分と炭酸銀成分とからなる中心部の周りを有機物が被覆している形態の複合型ナノ粒子であって、前記中心部の周りを被覆する有機物の離脱エネルギが銀1原子当り0.3eV以下であることを特徴とする。
【0014】
従来の金属ナノ粒子の場合は、裸のままでは化学的に極めて活性であり、有機物で被覆することによって安定化させる必要がある。この発明の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)の場合は、中心部に比較的低温で熱分解する無機金属化合物を含んでおり、物理吸着程度の弱い結合力で該中心部の周囲を有機物で被覆するだけで安定な状態となる。このため従来の複合型金属ナノ粒子より低い200℃前後の温度で金属化させることが出来る。
【0015】
前記有機物は、炭素、水素及び酸素のみからなることが好ましい。有機物は、物理吸着程度の弱い結合力で金属無機化合物を含む中心部を被覆すれば足りるので、窒素や硫黄など金属元素に対して強い結合力を有する元素を含む官能基を持つ必要はない。また、炭素、水素及び酸素のみからなる有機物を使用することで、金属無機化合物を金属化させた際に窒素や硫黄が金属中に残留する恐れもない。
【0016】
前記無機金属化合物は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくともいずれかの金属の無機化合物からなることが好ましい。金属元素としては、ここに掲げたもののうちのどれか一種類であってもよいが、場合によってはこれらの混合物であっても良い。また無機化合物の形態としては低温で熱分解するものであればどのようなものであってもよいが、分解する際に残留などの問題を起さない炭酸塩や酸化物などが好ましい。
【0017】
本発明の複合型ナノ粒子の製造方法は、炭酸銀とミリスチルアルコールとを共存させ、70℃以上、140℃未満の温度T(℃)で、下記の式(1)が成立する時間t(h)にわたって加熱して、銀成分と炭酸銀成分とからなる中心部の周りをミリスチルアルコールが被覆している形態の複合型ナノ粒子であって、前記中心部の周りを被覆するミリスチルアルコールの離脱エネルギが銀1原子当り0.3eV以下である複合型ナノ粒子を製造することを特徴とする。
7.85≦(T+273)(20+logt)×10 −3 ≦7.98 (1)
【0018】
このように、炭酸銀(無機金属塩)とミリスチルアルコール(有機物質)とを70℃以上、140℃未満の温度で所定時間、例えば120℃の温度で2h加熱・保持することで、有機物が金属成分(銀)または無機金属化合物(炭酸銀)に化学的に結合されることなく、金属成分または無機金属化合物に物理吸着的に結合された複合型ナノ粒子を生成することができる。なお、炭酸銀(無機金属塩)とミリスチルアルコール(有機物質)を、上記限界範囲を超える140℃の温度で2h加熱・保持した場合には、有機物が金属成分(銀)または無機金属化合物(炭酸銀)と反応して有機金属化合物が生成され、金属成分または無機金属化合物に有機金属化合物を介して化学的に強固に結合された複合型ナノ粒子が生成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図2は、本発明の実施の形態の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を模式的に示す。図2に示すように、この複合型ナノ粒子30は、中心部32が金属成分(金属核)34と該金属成分34の周囲を包囲する無機金属化合物36からなり、この無機金属化合物36の周りを物理吸着的に結合した有機物38で取囲んだ構成をしている。この有機物38は、保護皮膜としての役割を果たすもので、このように、中心部32の周囲を有機物38で被覆することにより、凝集する傾向が小さく、分散安定性が優れた複合型ナノ粒子30が構成される。
【0020】
このように、中心部32の無機金属化合物36の周りを物理吸着的に結合した有機物38で取囲んだ構造にあっては、有機物38は、化学的な結合とは異なり、無機金属化合物36の表面に緩く結合されている。このため、従来の複合型金属ナノ粒子20(図1参照)に比べ、遙かに低い温度で、かつ低いエネルギで有機物38を無機金属化合物36の表面から脱離させることができる。
【0021】
この複合型ナノ粒子30の有機物38の無機金属化合物36表面からの熱脱離開始温度、及び無機金属化合物36の熱分解開始温度は、140℃以上、190℃未満である。このように、有機物38の無機金属化合物36表面からの熱脱離開始温度、及び無機金属化合物36の熱分解開始温度を140℃以上で、190℃未満とすることで、この複合型ナノ粒子30を、例えば接合材料の主材として使用した場合、この接合温度を約200℃とすることができる。
【0022】
有機物38は、炭素(C)、水素(H)及び酸素(O)からなる。
無機金属化合物36は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくともいずれかの金属の無機化合物からなる。金属元素としては、ここに掲げたもののうちのどれか一種類であってもよいが、場合によってはこれらの混合物であっても良い。また、無機金属化合物36には上記金属から成る合金を含んでいてもよい。また無機化合物の形態としては低温で熱分解するものであればどのようなものであってもよいが、分解する際に残留などの問題を起こしにくい炭酸塩や酸化物などが好ましい。
ここで、複合型ナノ粒子30の中心部32の粒径d3は、一般には100nm以下であるが、1〜20nmであるのが好ましく、5〜15nmであるのが特に好ましい。
【0023】
図3は、本発明の他の実施の形態の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を模式的に示す。図3に示すように、この複合型ナノ粒子40は、中心部42が金属成分44と無機金属化合物46の混合物からなり、この中心部42の周りを物理吸着的に結合した有機物48で取囲んだ構成をしている。この有機物48は、保護皮膜としての役割を果たすもので、このように、中心部42の周囲を有機物48で被覆することにより、凝集する傾向が小さく、分散安定性が優れた複合型ナノ粒子40が構成される。
【0024】
このように、金属成分44と無機金属化合物46の混合物からなる中心部42の周りを物理吸着的に結合した有機物48で取囲んだ構造にあっては、有機物48は、化学的な結合とは異なり、金属成分44及び無機金属化合物46の表面に緩く結合されている。このため、従来の複合型金属ナノ粒子20に比べ、遙かに低い温度で、かつ低いエネルギで有機物48を中心部42の表面から脱離させることができる。
【0025】
この複合型ナノ粒子30の有機物48の中心部42からの熱脱離開始温度、及び無機金属化合物46の熱分解開始温度は、140℃以上、190℃未満である。このように、有機物48の中心部42からの熱脱離開始温度、及び無機金属化合物46の熱分解開始温度を140℃以上で、190℃未満とすることで、この複合型ナノ粒子40を、例えば接合材料の主材として使用した場合、この接合温度を約200℃とすることができる。
【0026】
有機物48は、前述と同様に、炭素(C)、水素(H)及び酸素(O)からなる。また、無機金属化合物46は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくともいずれかの金属の無機化合物からなる。更に、複合型ナノ粒子40の中心部42の粒径d4は、前述の例と同様に、一般には100nm以下であるが、1〜20nmであるのが好ましく、5〜15nmであるのが特に好ましい。
【0027】
図5は、本発明の実施の形態に係る複合型ナノ粒子の生成反応のモデルの一例を示す。
先ず、原料たる金属塩としての炭酸銀と有機物質としてのミリスチルアルコールとを均一に混合する。このミリスチルアルコールの融点は、36.4℃であり、常温では固体である。そして、この炭酸銀とミリスチルアルコールの混合物を、炭酸銀が分解して金属(銀)ナノ粒子が生成され、金属(銀)ナノ粒子と有機物が反応を起して有機金属化合物が生成されることなく、金属(銀)ナノ粒子の周りに有機物が物理吸着的に結合されるように、所定の温度、例えば70℃以上で、140℃未満の所定の温度に加熱して、この温度を一定時間保持する。例えば、炭酸銀とミリスチルアルコールの混合物を120℃で2h加熱・保持する。
【0028】
複合型ナノ粒子の生成機構は、以下のように考えられる。
<複合型ナノ粒子の生成>
ミリスチルアルコールは36.4℃で融解し、炭酸銀はこの溶融したミリスチルアルコール中に分散する。そして、例えば、120℃の加熱によって、炭酸銀は、先ず次式(3)のように分解する。
Ag2CO3 → Ag2O+CO2 (3)
式(3)の反応による生成物は、ある程度の粒子サイズをなしているが、この場合、原料の炭酸銀(Ag2CO3)が一定の大きさの核をなし、その周囲を酸化銀(Ag2O)で包囲された形態をとっている。
【0029】
更に、この加熱・保持に伴って、コアを構成するAg2CO3が、式(3)の反応を起しつつ、順次微細な粒子に***する。この反応を繰返すことによって、最終的に分子状態のAg2Oが生成される(分子分散状態)。その直後、分子状のAg2Oは、簡単に還元されて原子状銀(銀原子)が生成され、この原子状銀は、短時間で凝集して一定サイズ、例えば9nm程度の銀ナノ粒子にまで成長する。つまり、原子状銀は、活性なため、単独で分散した状態では不安定であり、このため、複数の原子状銀が凝集して一定のサイズの凝集体に成長する。これは、系を加熱していることによって、ミリスチルアルコールが常時蒸発しているため、時間の経過と共に銀濃度が高まり、いずれ系内に銀濃度が高い状態、すなわち銀の過飽和状態が生じ、その結果、不可避的に系内で均一核生成を起すためである。これは、冷却中に溶融金属中で凝固の核生成が起る均一核生成と類似の現象と考えられる。
【0030】
ここで、原子状銀が一定数凝集することによって、一定サイズの粒子の核が形成される。熱活性化過程によって、核の大きさが一定の臨界値以上に到達したものは、その後安定的に凝集・成長を続け、ある平衡的な大きさ(例えば9nm)の金属(銀)ナノ粒子に到達する。
【0031】
銀粒子が凝集するのは、系全体の表面エネルギの総和を減少させるためであるが、一定の大きさに成長した時点で、周囲に存在する有機物の作用によって成長が停止し、銀ナノ粒子の表面が有機物で覆われた状態となる。これによって、原子状銀や銀粒子同士の凝集・合体は停止し、ミリスチルアルコール中に独立に分散した複合型銀ナノ粒子が生成される。
【0032】
すなわち、ナノ粒子表面に金属が露出している場合、ナノ粒子表面の巨大な表面エネルギによって、即座に高速度でナノ粒子の凝集が開始されるが、一定のサイズまでナノ粒子の成長が進むと、相対的な成長速度が低下(安定成長)し、周囲の有機物との間の相互作用の方が活発に起るようになり、金属ナノ粒子の表面は、有機物によって被覆・保護される。こうして出来た複合型銀ナノ粒子は、独立・分散した形態で、ミリスチルアルコール中に存在する。
【0033】
<粒子成長の温度依存性>
ここで、加熱温度と粒子成長の関係を考察する。加熱温度が高いと、金属(銀)粒子の核発生頻度が増大するので、核発生はより多くの場所で起る。その結果、核は多数個形成され、それぞれが周囲の原子状銀を取込んで成長していくので、周囲の原子状銀は、早期に減少・枯渇し、銀粒子の成長は早期に停止してしまう。したがって、それぞれの銀ナノ粒子の大きさは小さくなる。つまり、もともと小さい核から成長が始まるので、成長後の粒子サイズも低温の場合より小さくなる。
【0034】
逆に低い温度で加熱・保持を行う場合は、粒子の核発生頻度が低くなり、系内に発生する核数は相対的に少なくなる。このため、少ない核が周囲の原子状銀を大量に取込み、この結果、それぞれの銀粒子は大きなサイズになるまで成長出来ることになる。この現象を、図4のナノ粒子の生成温度と粒径(平均値)の相関(アレニウス(Arrhenius)による計算値と実測値の関係)として示す。
【0035】
以上のように、この方法によって製造される金属粒子の粒径は、加熱・保持温度が高いほど小さくなる。これは、液中に過飽和状態で存在する金属原子から熱活性化過程によって金属核が生成・成長して行く機構が働くことと符合している。
【0036】
実際に使う粒子の粒径をどの程度にするかは、粒子を適用する分野や用途によって決める必要がある。例えば、触媒を目的として使う場合、表面積の合計が多いほど効果が大きいので、粒径は小さいほどよい。一方、接合部材として本粒子を用いる場合、接合時に有機物の殻を効率よく分解し除去する必要がある。このため、金属焼結を迅速に起すためには、粒子サイズを極度に小さくするのは不都合である。これは、有機物を分解し離脱させるためには、これと反応する酸素との結合を起すことが必要であって、この酸素の供給及び反応で生じたガスを拡散させるための流路を確保することが不可欠なためである。すなわち、粒子サイズが過度に小さいと粒間の隙間も小さくなるので、気体の出入りが困難になるという弊害を生む。したがって、適度なサイズを選択するのが良い。
【0037】
<有機物による保護被覆の挙動>
前述のように、金属(銀)粒子の周囲が有機物によって被覆されて保護された状態になると、粒子としての成長は停止する。この有機物は、C−H−Oからなる直鎖型の構造をとっており、有機物が金属粒子に物理吸着的に結合した形態をとっている。ここで、例えば炭酸銀とミリスチルアルコールの混合物を120℃で2h加熱・保持すると、図5に示すように、炭酸銀の分解途中で銀の凝集を起こす。これにより、未分解の炭酸銀粒子が銀粒子の周囲に付着して、図2に示す、中心部32が金属成分(金属核)34と該金属成分34の周囲を包囲する無機金属化合物36からなり、この無機金属化合物36の周りを物理吸着的に結合した有機物38で取囲んだ構成の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)30が生成される。
【0038】
つまり、無機金属塩と有機物質とを共存させ、無機金属塩の少なくとも一部が有機物質と反応を起して有機金属化合物が生成されることなく、無機金属塩ないしその熱分解により生成された無機金属化合物を含む中心部の周りに有機物質が物理吸着的に結合されるように無機金属塩と有機物質を所定の温度に加熱し一定時間保持することで、少なくとも無機金属化合物を含む中心部の周りを、化学的結合ではなく、物理吸着的に結合した有機物で取囲んだ構造の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を生成することができる。
【0039】
これに対して、例えば炭酸銀とミリスチルアルコールの混合物を上記よりも高温の140℃で2h加熱・保持すると、有機物は徐々に変化する。すなわち、有機物は、前述のように、形成当初、C−H−Oからなる直鎖型の構造をとっているが、所定温度より高い温度に一定時間以上保持されることによって、有機物と金属との相互作用が進行し、有機金属化合物が支配的に存在するようになると考えられる。すなわち、元来物理吸着していた有機物が、有機金属化合物へと変質する。
【0040】
つまり、炭酸銀とミリスチルアルコールの混合物を120℃で2h加熱・保持するだけでは、有機金属化合物の生成に至ることはなく、有機物は弱く吸着した物理吸着状態を維持するが、140℃×2hの加熱・保持を行えば、吸着した有機物と金属が反応を起して有機金属化合物を生成し、複雑な構造の被覆を持つ複合型金属ナノ粒子を形成することになる。以上の機構によって、120℃×2hの加熱・保持と、140℃×2hの加熱・保持とでは全く異なる複合型金属ナノ粒子が生成される。
【0041】
ここで、前述のようにして、120℃×2hの加熱・保持によって生成した複合型ナノ粒子(本発明)と、140℃×2hの加熱・保持によって生成した複合型銀ナノ粒子(比較例)の熱分解曲線(DTA曲線及びTG曲線)を図6A及び6Bに示す。なお、図6A及び図6Bに示す熱分解曲線を求めた時の昇温速度は、5℃/minである。
【0042】
図6A及び6Bで明らかなように、DTA曲線では、図6Aに示す本発明では、約180℃で、図6Bに示す比較例では、約220℃でピーク(発熱反応)がそれぞれ生じており、この温度付近で有機物の金属成分(金属核)表面からの脱離及び/または分解が生じていると考えられる。つまり、本発明にあっては、比較例に比べて、ピーク温度が約40℃も低い。しかも、本発明では、ピークが非常にシャープに生じているが、比較例にあっては、ピークの幅が広範囲に拡がっている。
【0043】
これにより、120℃×2hの加熱・保持によって生成した本発明は、140℃×2hの加熱・保持によって生成した比較例に比べ、有機物が遙かに低温で分解・蒸散され、銀成分(銀核)から脱離する。また、そのために必要な脱離エネルギが銀原子1個当り0.3eVと極めて小さく、従来例のそれの1/8程度となっている。しかも、粒子特性の均一度が高い(曲線のピークがシャープに発現しているため)ということが明らかとなっている。これは、複合型ナノ粒子の低温焼結性を応用する接合には極めて好都合な特性と言える。
【0044】
また、TG曲線では、図6Aに示す本発明の方が、図6Bに示す比較例に比べて、重量減少が遙かに急激に生じており、有機物の脱離が急速に生じることを示している。これは、本発明による複合型ナノ粒子の粒子径を含む粒子特性の均一度が高く、系内が所定の温度に到達した瞬間に殆ど全部の粒子で一斉に有機物の脱離が始まることを示している。これに対して、比較例の複合型銀ナノ粒子では、少なくとも粒子特性の均一度が本発明のそれより劣っており、このために、全ての有機物が金属成分(金属核)から脱離を開始するのに余計な時間がかかることを示す。均一な金属焼結を起すためには、有機物が短時間で金属成分(金属核)から脱離することが必須条件なので、本発明の複合型ナノ粒子は、比較例のそれを接合に応用する上での不都合を解消し、良好な接合を起すために好適なものとなっている。
【0045】
図6Aは、120℃×2hの加熱・保持条件で、通常の温度管理レベル、つまり保持温度の制御偏差を±0.5℃以内として生成した複合型ナノ粒子の熱分解曲線を示している。120℃×2hの加熱・保持条件で、通常の温度管理レベルより遙かに厳しく、±0.1℃以内の制御偏差となるような温度管理を行って生成した複合型ナノ粒子の熱分解曲線を図7に示す。
【0046】
図7から明らかなように、DTA曲線におけるピーク温度は、約178℃で、図6Aに示すそれとほぼ同じであるにも拘わらず、曲線のピークは著しく幅が狭くなっており、その温度でのTG曲線の変化挙動も極めて急激なものとなっている。これは、厳格な保持温度管理を行うことによって生成した複合型ナノ粒子は、その粒子特性の均一度が極めて高くなることに起因すると考えられ、高品質の接合に使用するのに好適となる。
【0047】
図8は、図7に示すのと同様に、120℃×2hの加熱・保持条件で、±0.1℃以内の制御偏差となるような温度管理を行って生成した複合型ナノ粒子(供試材)の構成物質をX線回折法によって定性的に分析・同定したときのスペクトルを示す。図8から、この複合型ナノ粒子は、少なくとも炭酸銀と金属銀を共に含む、複合型無機金属化合物ナノ粒子の形態を有していることが判る。
【0048】
なお、エネルギレベルの違いに起因して、X線回折法では有機物の検出は不可能である。
そこで、この複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)の有機物層を調べるため、試料の加熱によるGC(ガスクロマトグラフィー)−質量分析・同定を行った。図9は、その結果の一例を示す。図9から明らかなように、有機物の主成分は、分子式中にCを14個有するアルコール=テトラデカノールと判明した。
【0049】
テトラデカノール(ミリスチルアルコールの別称)は、有機物全体の60wt%程度を占めており、これは原料として用いたミリスチルアルコールから由来したものであると考えられる。
【0050】
更に、本発明の複合型ナノ粒子と従来の複合型ナノ粒子との間の大きな違いとして、有機物質に対する分散性の違いを指摘することが出来る。すなわち、比較例の複合型ナノ粒子は、トルエン等の溶剤に均一に分散させることが出来る。ところが、本発明の複合型ナノ粒子は、有機物質に対する分散性が無いことを特徴としている。なお、本発明の複合型ナノ粒子は、界面活性剤を加えた水には分散可能性を持っている。
【0051】
<温度×時間効果>
以上述べたように、保持時間を2hで一定とした場合、加熱・保持温度が120℃(本発明)と140℃(比較例)では全く異なる性質の複合型ナノ粒子が生じる。これは主として金属核の周囲に存在する有機物の被覆形態の本質的違いに基づくと考えられる。つまり、このように、わずか20℃の温度の違いで、化学反応速度が急激に増加して、大きく性状の異なる結果を得られるのは、有機物の被覆形成機構が熱活性化過程によって引き起こされ、図3において、粒子生成時間の大半は、有機物被覆の形成・変化(吸着・有機金属化合物形成等)に費消されているためであると考えられる。
【0052】
熱活性化過程の効果を定量的に記述する温度時間パラメータ(ラーソン・ミラーパラメータλ)を次式(4)によって計算すると、表2のようになる。原子の拡散を典型例とする熱活性化過程が根底にある現象においては、反応の進行量がT1(C+logt)の形のパラメータで表示されることがわかっており、この値が同じならば、同じ性質、状態に到達しているという一般的法則が成り立っている。そこで、式(4)に示すλをラーソン・ミラーパラメータとして熱活性化による反応量の指標として用いることが多い。
λ=T1(20+logt)×10−3 (4)
〔T1:加熱温度(K)、t:保持時間(h)〕
【0053】
【表2】
表2で明らかなように100℃×14h、と120℃×2hの加熱・保持の場合のラーソン・ミラーパラメータλは、夫々共に7.98と等しい値を示すが、140℃×2hの加熱・保持の場合、ラーソン・ミラーパラメータλは、8.38と前者よりも遙かに大きな値を示しており、この加熱・保持時間効果によって有機金属化合物を形成したと考えられる。
【0054】
言い換えると、複合型ナノ粒子という同じ範疇にあっても、λ≦7.98(120℃×2h、100℃×14h)の場合、有機金属化合物は生じないが、少なくとも、λ=8.38(140℃×2h)以上の熱履歴を受ければ、有機金属化合物の生成反応が生じ、その結果、前述のような著しい粒子性状の差異が生起されることになる。したがって、ラーソン・ミラーパラメータλの大小は有機金属化合物形成の有無と符合している。
【0055】
なお、式(4)では定数Cの値として金属の高温変形でよく使われる20を用いているが、原子の拡散が素過程になるという点で有機金属化合物形成の場合も類似の扱いが出来ると仮定している。
【0056】
このように、有機金属化合物が形成される反応が起きる条件を考慮することによって、所望の性状の複合型銀ナノ粒子を得るためには、ラーソン・ミラーパラメータλが、少なくとも7.98以下となるような加熱・保持を行うことが必要となる。実用的な加熱操作(昇温・保持)としては、例えば加熱温度120℃で2h保持の処理を行うのが適当であり、120℃以上では、現象の進行速度が高まるので、有機金属化合物を生成するリスクが大きくなる。
一方、表2から明らかなように、加熱温度が100℃のように低くなると、保持時間を著しく長くとる必要を生じるので、製造時間が長引くことになって、不経済なプロセスとなり易い。したがって、加熱温度が80〜120℃程度で、保持時間が1〜24h程度の範囲内で、ラーソン・ミラーパラメータλが7.98以下となるような加熱・保持条件を満足しながら、現実的に実行可能な温度・保持時間を選定することが望ましい。
【0057】
表3は、前述のように、炭酸銀とミリスチルアルコールを120℃×2hの加熱・保持することによって生成した複合型ナノ粒子(本発明)と、同じく140℃×2hの加熱・保持することによって生成した複合型銀ナノ粒子(比較例1)と、ステアリン酸銀を原料とし、これを窒素ガス雰囲気中で250℃に加熱することによって生成した複合型銀ナノ粒子(比較例2)の製造条件、特性及びこれらを接合材料の主材として使用した時の接合開始温度を示す。
【0058】
【表3】
本発明と比較例1の結果から明らかなように、わずか20℃の生成温度の違いによって、有機物の熱脱離温度、及び接合開始温度が大きく異なっており、本発明による複合型ナノ粒子の優位性が明らかとなっていることが判る。
【0059】
表4は、本発明の実施にあたり加熱温度と加熱時間を変化して製造する場合の比較を示す。
【表4】
表4の製造条件は、いずれもラーソン・ミラーパラメータλ=7.85(一定)としている。表4に示すように、製造時の加熱温度、保持時間が異なっても、ラーソン・ミラーパラメータλが等しいので、同じ形態の粒子が生成し、有機物の熱脱離温度が180℃程度と、互いに等しくなっていることを確認している。
【0060】
図10は、本発明における製造時の加熱温度・保持時間によって、有機物の熱脱離温度がどのように変化するかを示す。図10は、熱分析曲線(TG曲線)の第1ピーク相当温度を横軸の値としてプロットして作成している。
図10によって、製造時の加熱温度・保持時間の有機物脱離性に及ぼす影響を定量的に見積ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の複合型ナノ粒子は、例えば半導体装置の電極間等を接合するのに使用される接合材料の主材として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、従来の複合型金属ナノ粒子を模式的に示す図である。
【図2】 図2は、本発明の実施の形態の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を模式的に示す図である。
【図3】 図3は、本発明の他の実施の形態の複合型ナノ粒子(複合型無機金属化合物ナノ粒子)を模式的に示す図である。
【図4】 図4は、ナノ粒子の生成温度と粒径(平均値)の相関をアレニウスによる計算値と実測値の関係として示すグラフである。
【図5】 図5は本発明の実施の形態に係る複合型ナノ粒子の生成反応のモデル例を示すフローチャートである。
【図6】 図6Aは、本発明の複合型ナノ粒子の熱分析曲線(DTA曲線及びTG曲線)を示すグラフで、図6Bは、比較例の複合型金属(銀)ナノ粒子の熱分析曲線(DTA曲線及びTG曲線)を示すグラフである。
【図7】 図7は、本発明の他の複合型ナノ粒子の熱分析曲線を示すグラフである。
【図8】 図8は、本発明の複合型ナノ粒子(供試材)の構成物質をX線回折法によって定性的に分析・同定したときのスペクトラムを示す図である。
【図9】 図9は、本発明の複合型ナノ粒子(供試材)の加熱によるGC(ガスクロマトグラフィー)−質量分析・同定を行って得られたスペクトラムである。
【図10】 図10は、本発明の複合型ナノ粒子生成時の加熱温度・保持時間と有機物の熱脱離温度の関係を示すグラフである。
Claims (20)
- 中心部が金属成分からなり、該金属成分の周りを物理吸着的に結合した有機物で取囲んでいる複合型ナノ粒子。
- 中心部が金属成分からなり、該金属成分の周りを、熱脱離開始温度が140℃以上で、190℃未満の有機物で取囲んでいる複合型ナノ粒子。
- 中心部が金属成分からなり、該金属成分の周りを、脱離エネルギが金属原子1個当り0.3eV以下の有機物で取囲んでいる複合型ナノ粒子。
- 前記有機物は、炭素、水素及び酸素のみからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合型ナノ粒子。
- 前記金属成分は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合型ナノ粒子。
- 前記金属成分の含有量が50〜99重量%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合型ナノ粒子。
- 前記中心部の平均粒径が、1〜100nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合型ナノ粒子。
- 中心部に少なくとも無機金属化合物を含み、該中心部の周りを物理吸着的に結合した有機物で被覆している複合型ナノ粒子。
- 前記有機物は、炭素、水素及び酸素のみからなることを特徴とする請求項8記載の複合型ナノ粒子。
- 前記無機金属化合物は、Cu,Ag,Pt,Pd,Ni,Au,Ru及びRhのうちの少なくともいずれかの金属の無機化合物からなることを特徴とする請求項8記載の複合型無機金属化合物ナノ粒子。
- 金属成分の含有量が50〜99重量%であることを特徴とする請求項8記載の複合型ナノ粒子。
- 前記中心部の平均粒径が、1〜100nmであることを特徴とする請求項8記載の複合型ナノ粒子。
- 無機金属塩と有機物質とを共存させ、
前記無機金属塩が分解して金属ナノ粒子が生成され、金属ナノ粒子と有機物が反応を起して有機金属化合物が生成されることなく、金属ナノ粒子の周りに有機物が物理吸着的に結合されるように前記金属塩と有機物質を所定の温度に加熱し一定時間保持することを特徴とする複合型ナノ粒子の製造方法。 - 無機金属塩と有機物質とを共存させ、
前記無機金属塩の少なくとも一部が前記有機物質と反応を起して有機金属化合物が生成されることなく、前記無機金属塩ないしその熱分解により生成された無機金属化合物を含む中心部の周りに有機物質が物理吸着的に結合されるように前記無機金属塩と前記有機物質を所定の温度に加熱し一定時間保持することを特徴とする複合型ナノ粒子の製造方法。 - 前記無機金属塩と前記有機物質の加熱温度をT(℃)、この温度での保持時間をt(h)としたとき、下記の式(1)が成立することを特徴とする請求項13または14記載の複合型ナノ粒子の製造方法。
(T+273)(20+logt)×10−3≦7.98 (1) - 前記無機金属塩は炭酸銀で、前記有機物質は高級アルコールであることを特徴とする請求項13または14記載の複合型ナノ粒子の製造方法。
- 前記高級アルコールは、ミリスチルアルコールで、前記加熱温度は、70℃以上、140℃未満であることを特徴とする請求項16記載の複合型ナノ粒子の製造方法。
- 無機金属塩と有機物質とを共存させて加熱し、加熱温度をT(℃)、この温度での保持時間をt(h)としたとき、下記の(2)式が成立するように保持することにより製造された複合型ナノ粒子。
(T+273)(20+logt)×10−3≦7.98 (2) - 前記無機金属塩は炭酸銀で、前記有機物質は高級アルコールであることを特徴とする請求項18記載の複合型ナノ粒子。
- 前記高級アルコールはミリスチルアルコールで、前記加熱温度は70℃以上、140℃未満であることを特徴とする請求項19記載の複合型ナノ粒子。
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