JP6670510B2 - 車両の乗員保護装置 - Google Patents

Description

本発明は、車両の乗員保護装置に関する。

車両の乗員に近い領域で乗員を保護するための技術としてシートに搭載されるエアバッグがある。例えば搭乗者の頭部を保護するために、車両のボディサイド部と搭乗者の胸部から頭部にかけての部位との間にて展開膨張するエアバッグ本体部と、エアバッグ本体部から搭乗者の顔面前方に突出するように展開膨張するエアバッグ突出部とを備えるサイドエアバッグ装置などが提案されている（特許文献１参照）。

特開２００６−００８１０５号公報

自動運転技術の発展に伴い、車室内空間での着座位置及び着座状態の自由化が実現した場合、シートを従来の配置とは異なるものにしたときに、従来使用していた、ステアリング、インストルメントパネルなどに設けられるエアバッグでは乗員の保護が困難となる可能性がある。これに鑑みて、エアバッグなどの乗員の保護デバイスをシートに設ける必要性が高まる。
上述したような従来のサイドエアバッグ装置では全方位の衝突には対応することが困難である。

したがって、本発明が解決しようとする課題は、乗員が着座するシートの構成のみで様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能な車両の乗員保護装置を提供することである。

前記課題を解決するための手段として、本発明に係る車両の乗員保護装置は、乗員が着座するシートの表面を介して展開し、シートバックにおける前記乗員の上体より前記シートの幅方向の外側位置から、展開方向が前記シートの幅方向外側で、かつ、前方となるように膨出するエアバッグと、シートバックの側部とシート下部の側部とを連結し、前記エアバッグの展開を規制することが可能な規制手段と、を備え、前記規制手段は、前記エアバッグの膨出部位よりも後方から、前記シート外に露出して略膨満状態となった前記エアバッグにおける前記シートの幅方向外側と当接することで、前記エアバッグの先端部の展開方向を、前記シートバックにおける前記エアバッグの膨出位置よりも前記シートの幅方向内側に向かせて前記エアバッグの基端部を湾曲させることで前記先端部を前記乗員の上体前方に展開させる。

本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記規制手段の張力を上昇させた後に一旦緩め、再度張った状態となるように前記規制手段の長さを調節する調節手段を備えることが好ましい。

本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記規制手段の張力を段階的に上昇させるように前記規制手段の長さを調節する調節手段を備えることが好ましい。

本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記規制手段の長さを調節する調節手段を備え、前記規制手段は、前記エアバッグの展開前において前記シートの側部に埋設されて成り、前記調節手段は、前記エアバッグが展開する際に、前記規制手段が前記シートバックの側部と前記シート下部との間を最短距離で連結するように、前記規制手段の長さを小さくすることが好ましい。

本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記規制手段はテザー又は面状部材であることが好ましい。

本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記規制手段は、前記シートの幅方向における前記エアバッグの外側端部と中央部との間の領域に当接することが好ましい。

本発明によると、シートから前方又は上方に展開するエアバッグに対して規制部材がシートの幅方向外側から当接することでエアバッグの展開方向がシートの幅方向内側に向かうものとなる。これにより、シートから展開したエアバッグが乗員に近接して延在することとなるので、乗員の周囲をエアバッグが展開された状態となり、結果としてシートの構成のみで様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能な車両の乗員保護装置を提供することができる。

図１（ａ）〜（ｂ）は本発明の一実施形態である乗員保護装置を示す概略図であり、図１（ａ）は乗員保護装置を示す正面図であり、図１（ｂ）は乗員保護装置を示す平面図である。 図２は、図１に示したエアバッグの展開駆動を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。 図３（ａ）〜（ｂ）は、図１に示した乗員保護装置におけるエアバッグの一展開形態を示す説明図である。 図４（ａ）〜（ｂ）は、図１に示した乗員保護装置におけるエアバッグの一展開形態を示す説明図である。 図５は本発明の他の実施形態である乗員保護装置においてエアバッグと規制手段との位置関係を概略図である。

本発明に係る車両の乗員保護装置の一実施形態について、図１〜図４を参照しつつ説明する。
なお、図１（ａ）〜（ｂ）は本発明の一実施形態である乗員保護装置１を示す概略図であり、図１（ａ）は乗員保護装置１を示す正面図であり、図１（ｂ）は乗員保護装置１を示す平面図である。図２は、図１に示したエアバッグ２の展開駆動を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。図３（ａ）〜（ｂ）及び図４（ａ）〜（ｂ）は、図１に示した乗員保護装置１におけるエアバッグ２の一展開形態を示す説明図である。

図１に示すように、乗員保護装置１は、エアバッグ２と、テザー３とを備えている。なお、乗員保護装置１は、エアバッグ２の駆動及びテザー３の長さ調節のために、巻取手段４、検知手段５、計時手段６及び制御手段７も併せて備えている。

エアバッグ２は、乗員Ｐが着座するシート１００のシート表面を介して展開される。特に図１（ｂ）に示すように、エアバッグ２は、シートバック１０２から前方に延在して乗員Ｐの側方に位置する基端部２１と、基端部２１よりエアバッグ２の先端側であって、基端部２１からシート１００の幅方向に沿って延在し、乗員Ｐの前方に位置する先端部２２とを有する。
なお、シート１００は、乗員Ｐが着座可能なシートクッション１０１と、乗員Ｐが背面をもたれさせることのできるシートバック１０２とを有する。
エアバッグ２は、布製の袋体であり、展開前にはシートバック１０２内に配置されて成る収容部８に折り畳まれて収容される。エアバッグ２は全体形状として略板状である。エアバッグ２が展開する際には、収容部８に付設されて成るインフレータ９から発生するガスがエアバッグ２内に圧入されることで、エアバッグ２が収容部８外に膨出し、更にシートバック１０２のシート表面を開裂させて車室内空間へ展開することとなる。
なお、本実施形態におけるエアバッグ２は膨出部位がシート１００のシート表面に設定されているが、本発明においてはシートの周辺部材である適宜の内装材などからエアバッグが膨出することとしても良い。

テザー３は、シートバック１０２の側部と、シート１００下部の側部とを連結し、例えばエアバッグ２と同材料で形成されて成る長尺状部材である。具体的には、テザー３は、テザー３の一端部がシートバック１０２の上方側の側部に接続され、他端部がシート１００下部の一部材であるシートクッション１０１の前方側の側部に配置されて成る巻取手段４に接続される。
テザー３は、本発明における規制手段の一形態である。

巻取手段４は、テザー３の長さを調節し、図１に示すようにシートクッション１０１内に配置される。
巻取手段４は、テザー３の他端部を保持し、ガス又は電動により回転駆動することが可能となっている。巻取手段４は、回転軸の軸線方向を中心として回転駆動することでテザー３を巻取る。なお、巻取手段４は、テザー３の巻取りとは逆方向への回転を許容することでテザー３の繰出しが可能であっても良い。
巻取手段４は、本発明における調節手段の一形態である。
なお、本実施形態においてエアバッグ２は、テザー３の配置と、巻取手段４によるテザー３の巻取りとによって、エアバッグ２の展開が規制される。

検知手段５は、車両の衝突又は衝突可能性を検知する。具体的には、検知手段５は、適宜のカメラ、センサなどにより車外の周辺環境の監視結果に基づいて、他車両又は障害物と自車両との衝突又は衝突可能性の有無を検知する。検知手段５は、検知結果を制御手段７に出力することが可能となっている。
衝突の検知は、例えば車両に搭載される加速度センサなどによって自車両に作用する衝撃を検知することで、衝突が発生したと判別することができる。
また、衝突可能性の検知は、例えば車両に搭載される車外監視用カメラ、監視用センサなどによる他車両又は障害物の監視結果と、自車両の走行速度、方向などのパラメータとを併せることで、自車両に他車両又は障害物が接触し得る可能性を導出する。更に、導出結果が適宜のしきい値を超えているか否かによって衝突可能性の高低を判別することができる。
検知手段５としては、例えば車載カメラ、監視用センサ、加速度センサなどと、監視結果の解析のための演算処理装置とを組合せて用いることができる。

計時手段６は、インフレータ９の駆動開始後の経過時間を計測する。具体的には、計時手段６は、制御手段７がインフレータ９に対して駆動信号を出力した旨の電気信号が制御手段７から入力されると経過時間の計測を開始し、計時結果に係る電気信号を制御手段７に出力する。
計時手段６としては、例えば時間の計測を行うタイマ部材と車載用の演算処理装置であるＥＣＵなどとを組合せて用いることができる。

制御手段７は、インフレータ９及び巻取手段４の駆動を制御する。具体的には、制御手段７は、検知手段５から出力された検知結果に基づいて、インフレータ９を駆動させ、計時手段６から出力された計時結果に基づいて、巻取手段４を駆動させる制御を行う。インフレータ９を駆動させると、火薬への着火などによってガスが発生することとなる。巻取手段４を駆動させると、回転軸を中心にして巻取手段４が回転することとなる。制御手段７はインフレータ９及び巻取手段４に対して駆動信号を出力することが可能となっている。
制御手段７としては、例えば車載用の演算処理装置であるＥＣＵなどを用いることができる。

次に、乗員保護装置１の駆動制御について図２を参照しつつ制御フローの説明を行うと共に、エアバッグ２の展開形態について図３及び図４を参照しつつ説明する。

乗員保護装置１のエアバッグ２が展開するには、先ず、検知手段５が自車両の衝突又は衝突可能性の有無を判別する（ステップＳ１）。本工程では、検知手段５の検知結果に基づいて、実際に衝突が発生したと検知手段５が判別した場合に、次工程に移る（ステップＳ１のＹＥＳ）。また、本工程では、検知手段５の検知結果に基づいて、他車両若しくは障害物が自車両に接近することで増大するリスクを検知手段５が導出し、該リスクが適宜のしきい値を超えていれば衝突の可能性があると検知手段５が判別し、この場合にも同様に次工程に移る（ステップＳ１のＹＥＳ）。
なお、検知手段５の検知結果では衝突の発生が無いと検知手段５が判別した場合は、衝突に備える必要が無く、インフレータ９及び巻取手段４を駆動させる必要も無いので、本制御フローを完了する（ステップＳ１のＮＯ）。また、他車両若しくは障害物が自車両に接近していないことで衝突の可能性が無い場合、又は、他車両若しくは障害物が自車両に接近しているが上記リスクが適宜のしきい値を超えていないことで衝突の可能性が低い場合にも、同様に本制御フローを完了する（ステップＳ１のＮＯ）。
検知手段５の判別結果は制御手段７に出力される。

衝突の発生又は衝突可能性があると検知手段５により判別がなされた場合は（ステップＳ１のＹＥＳ）、制御手段７がインフレータ９の駆動制御を行う（ステップＳ２）。本工程では、インフレータ９に対して制御手段７から駆動信号が入力されることで、インフレータ９は例えば火薬に着火するなどしてガスを発生させる。インフレータ９から発生したガスは、エアバッグ２内に圧入されることでシートバック１０２のシート表面１０３を開裂させてシート１００外に膨出する。シート１００外に膨出し、テザー３による規制前のエアバッグ２を図３に示している。
なお、制御手段７は、本工程でインフレータ９に対して駆動信号を出力した旨の電気信号を、計時手段６に対して出力する。制御手段７からの信号入力がなされた計時手段６は、インフレータ９の駆動開始からの経過時間を計測し始める。

巻取手段４が駆動前のテザー３は、特に図３（ａ）に示すように、シートバック１０２の側部内及びシートクッション１０１の側部内に埋設されて配置されている。なお、テザー３が埋設されて成るシート１００は側部が開裂し易く形成されている。

図３に示すエアバッグ２は、所定量のガスが流入し、全体的に略膨満状態である。このとき、テザー３は、巻取手段４が駆動していないので、シート１００の側部に埋設された状態を維持している。
図３に示すエアバッグ２は、シート１００の幅方向外側かつシート１００の前方に向かって膨出している。

エアバッグ２が適宜の展開量以上に達すれば、次にエアバッグ２の展開の規制を行う。
エアバッグ２の展開の規制のための乗員保護装置１の制御フローとしては、図２に示すように、先ず計時手段６がエアバッグ２の展開から所定の経過時間が経過したか否かを判別する（ステップＳ３）。本工程では、インフレータ９の駆動開始からの経過時間、つまりエアバッグ２の展開開始からの経過時間が、所定の時間しきい値を超えているか否かについて計時手段６が判別を行う。エアバッグ２が展開し始めてからの経過時間が所定の時間しきい値を超えていれば、次工程に移る（ステップＳ３のＹＥＳ）。
なお、上記経過時間が所定の時間しきい値を超えていない場合は、本工程を繰り返し実行する（ステップＳ３のＮＯ）。
計時手段６の判別結果は制御手段７に出力される。

上記経過時間が所定の時間しきい値を超えていると計時手段６により判別がなされた場合は（ステップＳ３のＹＥＳ）、制御手段７が巻取手段４の駆動制御を行う（ステップＳ４）。本工程では、巻取手段４に対して制御手段７から駆動信号が入力されることで、巻取手段４の回転軸が回転する。巻取手段４が回転したときのエアバッグ２及びテザー３を図４に示している。

エアバッグ２が膨張しつつ巻取手段４によるテザー３の巻取りが進むと、図４に示す状態となってエアバッグ２の展開及び規制が完了する。
巻取手段４によりテザー３が巻取られると、シート１００の側部に埋設されていたテザー３がシート表面１０３を開裂させて引き出されることで、シート１００の側部において露出することになる。
更にテザー３の巻取りが進むと、テザー３がシートバック１０２の側部とシートクッション１０１の側部との間を略最短距離で連結するように、シート１００の側部におけるテザー３の長さが小さくなる。つまり、巻取手段４による巻取りによって、テザー３は、シートバック１０２に接続される一端部と、他端部が巻取られて成る巻取手段４との間が直線状となる。

エアバッグ２がシート表面１０３を開裂させるエアバッグ２の膨出部位よりも、シート１００に埋設されていたテザー３が後方に配置されていたことによって、テザー３がシート１００の側部に露出してから図４に示す状態となるまで、テザー３はシート１００の幅方向におけるエアバッグ２の外側に当接する。このとき、テザー３はエアバッグ２のシート１００外に露出する部分の後端部からエアバッグ２の表面を前方に向かって摺動することになる。テザー３は図４に示す状態となるとその張力が最大となり、シート１００の幅方向外側から内側に向かってテザー３がエアバッグ２を押圧する力も最大となる。
これによりエアバッグ２は、図４に示すように、回転駆動する巻取手段４によってテザー３が巻取られ、テザー３がエアバッグ２をシート１００の幅方向内側に向かって押圧することで、先端部２２がシート１００の幅方向内側に向いている。つまり、エアバッグ２は、基端部２１が湾曲し、シート１００の側部に張り渡されたテザー３によって展開がシート１００の幅方向内側に規制されることとなる。よって、エアバッグ２の先端部２２が乗員Ｐの上体前方に展開した状態となる。
図４に示すエアバッグ２は、シート１００の幅方向外側から内側に方向転換した展開が完了している。

図４に示したように、エアバッグ２は、シートバック１０２において乗員Ｐの上体よりシート１００の幅方向外側位置からシート１００の前方に膨出し、テザー３がエアバッグ２に対してシート１００の幅方向外側から当接することで、エアバッグ２の先端の展開方向がシート１００におけるエアバッグ２の膨出位置よりシート１００の幅方向内側に向けられ、乗員Ｐの上体前方に展開する。

よって、シートバック１０２から展開したエアバッグ２が乗員Ｐの上体の側方及び前方を囲んだ状態になるので、結果としてシート１００の構成のみで前方衝突、側方衝突、後方衝突及び斜め衝突などの様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能となる。

図３及び図４に示したように、エアバッグ２は、シート１００の幅方向外側かつ前方という展開方向を展開の終盤まで維持し続け、展開の終盤まで乗員Ｐに向かうような展開方向を有していない。これは、少なくともエアバッグ２が乗員Ｐより前側で前方に向かって十分に展開した状態になったときに、テザー３によってエアバッグ２がシート１００の幅方向内側に押圧されるように、計時手段６の時間しきい値が設定されているからである。これにより、エアバッグ２の展開の終盤、つまり展開に伴うエアバッグ２の様々な方向への動き、いわゆる展開暴れが収束しつつある段階において、テザー３の当接によってエアバッグ２が湾曲又は屈曲して乗員Ｐに近づくことになるので、エアバッグ２による乗員Ｐへの攻撃性を低減することができて好ましい。

更に、図１〜図４に示した実施形態において、テザー３は、シート１００内に埋設されている状態及びシート１００外に露出した状態のいずれにおいても乗員Ｐの上体に対してシート１００の幅方向外側に位置するように配置されている。これにより、乗員Ｐの上体に対してテザー３が接触しない又は接触し難くなる。これにより、テザー３による乗員Ｐへの攻撃性を低減することができる。また、テザー３が乗員Ｐの上体などに引掛かるなどの状態になり難いので、エアバッグ２に対して確実に当接すると共に、当接状態にバラつきが生じ難いので好ましい。結果として、エアバッグ２を図１及び図４に示す湾曲状態に確実に変位させることができるので、乗員Ｐの近接した領域の保護性能が向上する。

本発明における規制手段は、上述した実施形態のテザー３に代えて、面状部材を採用することもできる。面状部材としては、例えば上記テザー３の幅を大きくしたような形態であり、具体的にはシートバック１０２の側部における上端部から下端部までと、シートクッション１０１の側部における前端部から後端部までとを連結するシート状部材を用いることができる。規制手段として面状部材を用いると、エアバッグ２に対して確実に当接するので展開規制が確実に行われると共に、側方衝突の際にエアバッグ２を側方から面で支持する支持部材として機能するので、乗員保護性能の向上も図ることができる。
なお、面状部材としては、エアバッグ２に当接する際に面状に力を作用させることができれば良く、シート状部材以外にも、メッシュ状部材、及びテザーを格子状に編んだものなどを用いることができる。

上述した実施形態では、巻取手段４がテザー３の巻取りを行う際に、テザー３の張力が直線的に上昇していくような巻取り態様を採っていた。
本発明においては、テザー３の張力を上昇させた後に一旦緩め、再度張った状態とする態様、テザー３の張力を段階的に上昇させていく態様、テザー３の張力及び張力の変化を衝突形態に応じて変える態様などを採用することができる。

テザー３を一旦緩めて再度張る態様では、エアバッグ２における所定の部位に確実にテザー３を当接させることができる。
また、この態様ではエアバッグ２の展開より先にテザー３の巻取りを行って、エアバッグ２の展開軌道上にテザー３を予め配置しておく場合であっても、テザー３を一旦緩めることでエアバッグ２の展開を妨げることがなく、更にテザー３を再度張った状態としたときにエアバッグ２をシート１００の幅方向外側から確実に押圧することができる。

テザー３の張力を段階的にテザーの張力を上昇させる態様では、テザー３がシート１００の幅方向内側に向かってエアバッグ２を押圧する力が段階的に大きくなるので、エアバッグ２の先端部２２におけるシート１００の幅方向内側への変位が徐々に生じることとなる。これにより、エアバッグ２の安定的な展開が達成される。

衝突方向に応じてテザー３の張力及び張力の変化を衝突形態に応じて変える態様では、検知手段５の検知結果に基づいて導出される前方衝突又は側方衝突などの車両の衝突形態に応じて、巻取手段４による巻取り量を調節することでテザー３の張力を大きく又は小さくすることができる。また、巻取手段４による巻取り速度などを調節することでテザー３の張力の変化を変えることもできる。高い速度帯での前方衝突が生じた場合は、乗員Ｐの前方に迅速にエアバッグ２を展開させる必要があるので、巻取手段４の巻取り速度を大きく設定するのが良い。斜め衝突又は側方衝突が生じた場合は、乗員Ｐの前方より斜め又は側方にエアバッグ２が必要であるので、巻取手段４の巻取り速度は大きく設定しなくとも良い。また、側方衝突が生じた場合は、テザー３によりエアバッグ２を側方から支持するのが好ましいので、巻取手段４の巻取り量を大きく設定することでテザー３の張力を大きくするのが良い。

上述した実施形態では、シート１００の側部に埋設されて成るテザー３を直線状に張った状態とするために巻取手段４によるテザー３の巻取りを行っていた。テザー３を張った状態とするために、上記巻取手段４に代えて、テザー３の他端部を保持し、シート１００の前後方向に可動な移動体を用いることとしても良い。該移動体は、例えばシートクッション１０１後部の側部に設けられ、エアバッグ２の展開の際にテザー３の他端部を保持した状態で前方に移動することで、テザー３を図４（ａ）に示したように直線状に張った状態とすることができる。

上述した実施形態においては、エアバッグ２の展開を開始した後にテザー３を直線状に張った状態とすることで、エアバッグ２の展開方向の規制を行うこととしていた。本発明においては、テザーなどの規制手段をエアバッグの展開規制が可能な状態にした後に、エアバッグを展開することもできる。

図５には、規制手段を先に規制可能状態としたときに、規制手段とエアバッグとの好適な位置関係を示している。
図１に示したエアバッグ２とテザー３とを用いる場合に、先にテザー３が直線状に張った状態（規制可能状態）になり、エアバッグ２がテザー３に向かって展開する際の、エアバッグ２とテザー３との位置関係は、図５に示す配置が好ましい。
具体的には、テザー３が規制可能状態であるときにエアバッグ２がシートバック１０２から前方に展開されると、テザー３の後方からエアバッグ２の先端が当接することとなる。このとき、シート１００の幅方向におけるエアバッグ２の外側端部と、該幅方向におけるエアバッグ２の中央部との間の領域にテザー３が当接することで、エアバッグ２の展開方向がテザー３によってシート１００の幅方向内側に規制され易い。

本発明において、規制手段を規制可能状態にすると同時に又は規制可能状態とした後にエアバッグの展開を開始する態様は、例えば車両の衝突までの時間的猶予が短いとき又は側方衝突などの乗員保護の時間的猶予が短いときなどに採用するのが好ましい。この場合、上記巻取手段４などの駆動とインフレータの駆動とを同時又はインフレータの駆動を直後に行うように、制御手段から規制手段及びインフレータに駆動信号を出力するようにすることができる。

本発明における規制手段を規制可能状態とした後にエアバッグの展開をシートバックから行うこととすると、例えばエアバッグは、シートバックにおいて乗員の上体に対してシートの幅方向外側位置からシート前方に膨出し、規制可能状態となった規制手段に対してエアバッグが後方から当接することで、エアバッグの先端の展開方向がシートにおける膨出位置よりシートの幅方向内側に向けられ、乗員の上体前方に展開する。

なお、本発明における規制手段を規制可能状態とした後にエアバッグの展開をシートクッションから行うこととすると、例えばエアバッグは、シートクッションにおいて乗員の下肢に対してシートの幅方向外側位置からシートの上方に膨出し、規制可能状態となった規制手段に対してエアバッグが下方から当接することで、エアバッグの先端の展開方向がシートにおける膨出位置よりシートの幅方向内側に向けられ、乗員の下肢上方に展開する。
この形態では、シートクッションから展開したエアバッグが乗員の下肢の側方及び上方を囲んだ状態になるので、結果としてシートの構成のみで前方衝突、側方衝突、後方衝突及び斜め衝突などの様々な衝突形態での乗員の下肢に対する保護性能を確保することが可能となる。

更に、シートクッションからエアバッグが展開する形態の場合、テザーなどの規制手段は、シート内に埋設されている状態及びシート外に露出した状態のいずれにおいても乗員の下肢に対してシートの幅方向外側に位置するように配置されるのが好ましい。これにより、乗員の下肢に対して規制手段が接触しない又は接触し難くなる。これにより、規制手段による乗員の攻撃性を低減することができる。また、規制手段が乗員の下肢などに引掛かるなどの状態になり難いので、エアバッグに対して規制手段が確実に当接すると共に、当接状態にバラつきが生じ難いので好ましい。結果として、特にエアバッグの先端部を乗員の下肢上方に近接させた状態に確実に変位させることができるので、乗員の近接した領域の保護性能が向上する。

以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により、本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。

１、１１及び１２：乗員保護装置、２：エアバッグ、２１：基端部、２２：先端部、３：テザー（規制手段）、４：巻取手段（調節手段）、５：検知手段、６：計時手段、７：制御手段、８：収容部、９：インフレータ、１００：シート、１０１：シートクッション、１０２：シートバック、１０３：シート表面、Ｐ：乗員

Claims (6)

1. 乗員が着座するシートの表面を介して展開し、シートバックにおける前記乗員の上体より前記シートの幅方向の外側位置から、展開方向が前記シートの幅方向外側で、かつ、前方となるように膨出するエアバッグと、
   シートバックの側部とシート下部の側部とを連結し、前記エアバッグの展開を規制することが可能な規制手段と、を備え、
   前記規制手段は、前記エアバッグの膨出部位よりも後方から、前記シート外に露出して略膨満状態となった前記エアバッグにおける前記シートの幅方向外側と当接することで、前記エアバッグの先端部の展開方向を、前記シートバックにおける前記エアバッグの膨出位置よりも前記シートの幅方向内側に向かせて前記エアバッグの基端部を湾曲させることで前記先端部を前記乗員の上体前方に展開させる、
   車両の乗員保護装置。
2. 前記規制手段の張力を上昇させた後に一旦緩め、再度張った状態となるように前記規制手段の長さを調節する調節手段を備える、
   請求項１に記載の車両の乗員保護装置。
3. 前記規制手段の張力を段階的に上昇させるように前記規制手段の長さを調節する調節手段を備える、
   請求項１に記載の車両の乗員保護装置。
4. 前記規制手段の長さを調節する調節手段を備え、
   前記規制手段は、前記エアバッグの展開前において前記シートの側部に埋設されて成り、
   前記調節手段は、前記エアバッグが展開する際に、前記規制手段が前記シートバックの側部と前記シート下部との間を最短距離で連結するように、前記規制手段の長さを小さくする、
   請求項１〜３のいずれかに記載の車両の乗員保護装置。
5. 前記規制手段はテザー又は面状部材である、
   請求項１〜４のいずれかに記載の車両の乗員保護装置。
6. 前記規制手段は、前記シートの幅方向における前記エアバッグの外側端部と中央部との間の領域に当接する、
   請求項１〜５のいずれかに記載の車両の乗員保護装置。