以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態に係る制動装置1の構成の一例を示すブロック図である。
本実施形態における制動装置1は、車両に搭載され、該車両の物体への衝突を回避するために介入による制動を行うものである。なお、該車両は、任意の車両でよく、エンジンを駆動力源とする車両であってもよいし、ハイブリッド車であってもよいし、電動機のみを駆動力源とする電気自動車であってもよい。また、以下において、「物体」とは、自車両周辺に存在しうる移動体と固定物とを含む概念であり、例えば、他の車両やガードレール等である。
制動装置1は、ミリ波レーダ10、ステレオカメラ15、ミリ波レーダECU20、ステレオカメラECU25、車輪速センサ30、ヨーレートセンサ35、PCS ECU40、ブレーキECU50、ブレーキアクチュエータ60等を含む。また、制動装置1に関連する要素として、制動装置1が搭載された車両は、メータECU70、コンビネーションメータ80、報知音発生装置85等を含んでよい。
ミリ波レーダ10は、自車両前方の物体を検出する手段であり、例えば、車両のフロントバンパーやフロントグリル内の車両幅方向(左右方向)の中央付近に搭載されてよい。ミリ波レーダ10は、所定範囲に向けて、ミリ波帯(例えば、60GHz)の電波を発信し、その反射波を受信することにより、物体を検出することができる。また、後述するミリ波レーダECU20は、ミリ波レーダ10により受信された反射波の信号に基づいて、物体を認識し、自車両に対する当該物体の相対位置(距離、方位)及び相対速度を算出することができる。具体的には、発信した電波と受信した反射波との時間差(周波数差)に基づいて、当該物体から自車までの距離を算出し、ドップラー効果を用いて、発信した電波と受信した反射波の周波数の変化に基づいて、自車両に対する当該物体の相対速度を算出してよい。また、ミリ波レーダ10は、物体からの反射波を受信する複数のアンテナを有し、該複数のアンテナが受信した障害物からの反射波の位相差により自車両から見た当該物体の方位を算出してよい。なお、以下において、「物体の相対距離」とは、自車両から物体までの距離を意味し、「物体の相対速度」とは、自車両に対する物体の相対速度を意味し、「物体の方位」とは、自車両から見た物体の方位を意味する。
ステレオカメラ15は、自車両の前方を撮像する撮像手段である。後述するステレオカメラECU25は、ステレオカメラ15により撮像された画像情報に基づいて、自車両前方の物体を検出し、自車両に対する当該物体の相対位置(距離、方位)を算出することができる。
ミリ波レーダECU20は、ミリ波レーダ10と車載LANやじか線等により通信可能に接続され、上述のとおり、ミリ波レーダ10から受信した反射波の信号に基づき、検出された物体の相対位置、相対速度を算出する。ミリ波レーダECU20は、算出した物体の相対位置、相対速度を含む検出された物体に関する情報(物標情報)を後述するPCS ECU40に出力する。
ステレオカメラECU25は、ステレオカメラ15と車載LANやじか線等により通信可能に接続され、上述のとおり、ステレオカメラ15から受信した画像情報に基づき、検出された物体の相対位置を算出する。ステレオカメラECU25は、算出した物体の相対位置を含む検出された物体に関する情報(物標情報)を後述するPCS ECU40に出力する。
車輪速センサ30は、自車両の車輪速度を検出する手段であり、検出された車輪速度から自車両の速度(絶対速度)を算出することができる。車輪速センサ30としては、車輪速を検出可能なセンサであれば、任意のセンサを用いてよい。
ヨーレートセンサ35は、自車両のヨーレート(ヨー方向の回転角速度)を検出する手段である。ヨーレートセンサ35としては、自車両のヨーレートを検出可能なセンサであれば、任意のセンサを用いてよい。
PCS ECU40は、ミリ波レーダ10、ステレオカメラ15により検出された物体に基づく所定の制動制御、例えば、検出された物体との衝突回避のため、介入による衝突回避制動制御を行う電子制御ユニットである。具体的には、車載LAN等により通信可能に接続されたミリ波レーダECU20、ステレオカメラECU25、車輪速センサ30、ヨーレートセンサ35等から受信した物標情報や自車両の状態(車速、ヨーレート等)等に基づいて、当該物体と自車両とが衝突する可能性が高いか否か判定(衝突判定)してよい。そして、当該物体と自車両が衝突する可能性が高いと判定した場合、後述するブレーキECU50に介入制動要求を出力し、介入による制動力を発生させてよい。例えば、当該物体と自車両との衝突可能性の指標として、自車両の車速と当該物体の相対距離からTTC(Time To Collision;衝突余裕時間)を算出し、TTCが閾値以下になった場合に、当該物体との衝突可能性が高いと判定してよい。また、自車両の車速、当該物体の相対距離、及び運転者によるブレーキ操作(ブレーキ操作量)に基づき、該ブレーキ操作により検出された物体との衝突回避が可能か否かを判定することにより、衝突判定を行ってよい。なお、TTCを算出する際に用いられる検出された物体の相対距離は、ミリ波レーダECU20により算出された相対距離を用いてよい。また、ミリ波レーダ10により検出された物体がステレオカメラ15においても検出されている場合、ミリ波レーダECU20及びステレオカメラECU25から送信された物標情報から平均化処理等により、検出された物体の物標情報を再構成してよい。そして、この場合、TTCの算出において、再構成された物標情報に含まれる検出された物体の相対距離を用いてもよい。以下、ミリ波レーダ10で検出された物体の物標情報とステレオカメラ15で検出された物体の物標情報の双方に基づき、新たに物標情報を再構成することを「フュージョン」と呼ぶ。なお、ミリ波レーダ10により検出された物体の相対位置とステレオカメラ15により検出された物体の相対位置とが近い場合に、ミリ波レーダ10により検出された物体がステレオカメラ15により検出されたと判断する。例えば、ミリ波レーダ10により検出された物体の相対位置を中心とした所定範囲にステレオカメラ15により検出された物体の相対位置が含まれる場合に、ミリ波レーダ10により検出された物体がステレオカメラ15により検出されたと判断してよい。
また、PCS ECU40は、後述するメータECU70を介して、ミリ波レーダ10、ステレオカメラ15により検出された物体との衝突可能性を運転者に報知するための運転支援を行ってよい。具体的には、メータECU70は、運転者に対して表示による報知を行うコンビネーションメータ80や、運転者に対して音声による報知を行う報知音発生装置85等が接続されてよい。そして、メータECU70は、PCS ECU40からの報知要求に応じて、コンビネーションメータ80に表示する数値、文字、図形、インジケータランプ等の制御を行うとともに、報知音発生装置85にて報知する警報音や警報音声の制御を行ってよい。例えば、PCS ECU40は、ミリ波レーダ10、ステレオカメラ15により検出された物体との衝突可能性が高いと判定した場合、メータECU70に対して当該物体と衝突する可能性を運転者に報知するための警報音の出力やインジケータランプの点灯等を要求してよい。
また、PCS ECU40は、ミリ波レーダECU20から受信した物標情報に基づいて、ミリ波レーダ10により検出された物体がゴースト(実在しない物体)であるか否かを判定する。具体的には、ミリ波レーダECU20から受信した物標情報に基づいて、ミリ波レーダ10により検出された物体がゴーストである確率としてのゴースト確率を算出し、該ゴースト確率が所定の閾値以上である場合に、当該物体はゴーストであると判定する。ミリ波レーダ10により検出された物体がゴーストであるか否かの判定手法等の詳細については、後述する。
また、PCS ECU40は、ミリ波レーダ10により検出された物体がゴーストであると判定した場合、検出された物体(ゴースト)に基づく上記制動制御や上記運転支援を禁止する。即ち、PCS ECU40は、ゴーストであると判定された物体との衝突回避のための介入制動要求を出力しない。また、ゴーストであると判定された物体との衝突可能性を報知するための報知要求を出力しない。これにより、実在しない物体に基づく制動制御や運転支援が実行されることによる運転者の違和感を抑制することができる。
ブレーキECU50は、例えば、各車輪に配置された油圧式ブレーキ装置を作動させるブレーキアクチュエータ60を制御することにより、車両の制動制御を行う電子制御ユニットである。本実施形態においてブレーキECU50は、車載LAN等により通信可能に接続されたPCS ECU40から受信した介入制動要求に応じて、ブレーキアクチュエータ60の出力(ホイールシリンダ圧)を制御し、介入による制動力を発生させる。例えば、PCS ECU40からの介入制動要求を受信した場合に、上述したTTCに応じて衝突を回避するために必要な介入による制動力を決定し、該制動力を発生させてよい。具体的には、検出された物体との衝突可能性が高まる方向である、TTCが小さくなるのに応じて、介入による制動力を大きくしてよい。また、運転者によるブレーキ操作を考慮して、介入により発生させる制動力を発生させるか否かを判断してよい。具体的には、PCS ECU40から介入制動要求を受信した場合であって、運転者のブレーキ操作(ブレーキ操作量及びブレーキ操作速度)を考慮して、ブレーキの緊急操作が行われたと判断できる場合に介入による制動力を発生させてもよい。また、ミリ波レーダ10で検出された物体が、ステレオカメラ15でも検出された場合、即ち、ミリ波レーダ10及びステレオカメラ15の物標情報をフュージョン可能な場合、当該物体は、ゴーストではなく、実在する物体である可能性が非常に高いと判断可能である。そのため、ミリ波レーダ10及びステレオカメラ15の物標情報をフュージョン可能な場合は、フュージョン不可能な場合に比して、ミリ波レーダ10により検出された物体との衝突回避のために介入により発生させる制動力を強くしてもよい。なお、ハイブリッド車や電気自動車の場合は、PCS ECU40からの介入制動要求に基づいて、モータ出力(回生動作)が制御されることにより、制動制御が行われてもよい。
ブレーキアクチュエータ60は、高圧油を生成するポンプ(及びポンプを駆動するモータ)、各種バルブ、油圧回路等を含んでよい。また、当該油圧回路構成は任意であり、運転者のブレーキペダルの踏み込み量と無関係にホイールシリンダ圧を昇圧できる構成であればよく、典型的には、マスタシリンダ以外の高圧油圧源(高圧油を生成するポンプやアキュムレータ)を備えていればよい。また、ECB(Electric Control Braking system)に代表されるようなブレーキバイワイヤシステムで典型的に使用される回路構成が採用されてもよい。
なお、上述したミリ波レーダECU20、ステレオカメラECU25、PCS ECU40、ブレーキECU50は、マイクロコンピュータにより構成され、ROMに格納された各種プログラムをCPU上で実行することにより各種制御処理を実行してよい。また、ミリ波レーダECU20、ステレオカメラECU25、PCS ECU40、ブレーキECU50の機能は、任意のハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はそれらの組み合わせにより実現されてもよい。また、ミリ波レーダECU20、ステレオカメラECU25、PCS ECU40、ブレーキECU50の機能の一部又は全部は、他のECUにより実現されてもよい。また、ミリ波レーダECU20、ステレオカメラECU25、PCS ECU40、ブレーキECU50は、他のECUの機能の一部又は全部を実現するものであってもよい。例えば、ミリ波レーダECU20の機能の一部又は全部は、PCS ECU40により実現されてもよいし、ステレオカメラECU25の機能の一部又は全部は、PCS ECU40により実現されてもよい。また、PCS ECU40の機能の一部又は全部は、ブレーキECU50により実現されてもよいし、ブレーキECU50の機能の一部又は全部は、PCS ECU40により実現されてもよい。
次に、制動装置1による検出された物体がゴーストであるか否かの判定手法について、具体的に説明をする。
本実施形態に係る制動装置1は、ミリ波レーダ10により検出されるゴーストの特徴に基づいて、検出された物体がゴーストであるか否かを判定する。そこで、まず、図2を用いて、ミリ波レーダ10により検出されるゴーストの特徴について説明をする。
図2は、ミリ波レーダにより検出されるゴースト物標の特徴を説明する図である。制動装置1(ミリ波レーダ10)を搭載した車両100が図中下から上に車速Vcで走行している状況を平面視で表している。ミリ波レーダ10は、車両100の前端中央部に設けられ、車両前方、左右対称の検出範囲10aに対して、指向性の強い検出波を送信する。検出範囲10aは、例えば、平面視において、車両100の進行方向を基準にしてミリ波レーダ100から左右α°(例えば、15°)の角度範囲として設定されてよい。また、車両100が走行する車線の脇には、連続して反射強度が強い物体(以下において、反射体列と呼ぶ)200が設置されている。
ミリ波レーダ10から送信された送信波は、検出範囲10aにおいて高い強度となるように送信されるが、原理上、検出範囲外の送信波を皆無にすることはできない。そのため、車線脇の反射体列200内の反射体300が微弱な送信波をミリ波レーダ10で検出可能な強度の反射波として返す場合がある。
ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)は、上述したとおり、複数のアンテナにより受信した反射波の位相差に基づいて、検出した物体の方位を算出する。ただし、検出範囲を超える角度範囲では、複数のアンテナにより受信した反射波の位相差が2πを超えるため、検出した物体の方位を一意的に決定することができない。よって、複数のアンテナによる受信した検出範囲外の反射体300からの反射波の位相差は、2πを超えるため、ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)は、反射体300の方位を正確に検出することができず、反射体300を検出範囲内のゴースト物標300gとして検出(算出)する場合がある。そして、反射体列200として、連続した反射体300が設置されているため、継続的にゴースト物標300gが検出される場合がある。
ここで、ゴースト物標300gの特徴としては、以下の3つが挙げられる。以下、(1)〜(3)の特徴を列挙し、図2を用いて具体的に説明をする。
(1)ゴースト物標300gが検出される範囲は、近距離に限られる。
ゴースト物標300gは、ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)により反射体300と同じ相対距離の物標として検出(算出)される。よって、反射体300が、検出範囲外の微弱な送信波をミリ波レーダ10により検出可能な反射波として返した場合に、ゴースト物標300gが検出されるため、遠距離の反射体300がゴースト物標300gとして検出される可能性は低い。即ち、ゴースト物標300gが検出される範囲は、近距離に限られる。
(2)ゴースト物標300gの相対速度は、ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)により車両100に向かって接近する速度として検出(算出)されるが、ゴースト物標300gの相対位置は略変動しない。
上述したとおり、ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)は、ドップラー効果に基づいて、反射体300の相対速度を検出(算出)する。そのため、検出される相対速度は、反射体300の相対速度Vre0(大きさは、車両100の車速(絶対速度)Vcと同等であり、方向は、車両100の進行方向と逆向き)のうち、反射体300とミリ波レーダ10とを結ぶ線分方向成分Vre1(以下、レーダ方向成分Vre1と呼ぶ)である。レーダ方向成分Vre1は、車両100(ミリ波レーダ10)に接近する方向の相対速度である。そのため、ゴースト物標300gの相対速度Vre2は、レーダ方向成分Vre1と同じ大きさをもち、車両100(ミリ波レーダ10)に接近する方向成分を有する速度、即ち、車両100の進行方向と逆向きの速度として検出される。
一方、ミリ波レーダ10により継続して検出されるゴースト物標300gは、その時々により異なる反射体300が検出されたものであって、車両100(ミリ波レーダ10)から見て同じ方位の反射体300が検出されたものであるため、相対位置がほどんど変動しない。
(3)ゴースト物標300gは、ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)により静止物ではなく、車両100の前方を走行する車両として検出される。
反射体300は、車線脇の固定物(静止物)であるため、車両100の進行方向と逆向きに車両100の車速Vcの大きさと同等の相対速度Vre0を有する。しかし、ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)により検出(算出)される反射体300の相対速度は、上述したとおり、相対速度Vre0のうち、反射体300とミリ波レーダ10とを結ぶ線分方向成分Vre1として検出(算出)される。また、レーダ方向成分Vre1は、上述したとおり、車両100(ミリ波レーダ10)に接近する方向の相対速度である。そのため、ゴースト物標300gの相対速度Vre2の大きさは、車両100の車速Vcの絶対速度より小さく、車両100(ミリ波レーダ10)に接近する方向成分を有する速度として検出される。よって、車両100の車速Vcとゴースト物標300gの相対速度の和として算出されるゴースト物標の絶対速度は、0よりも大きな絶対値を有し、車両100の進行方向と同じ向きの速度として検出される。即ち、ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)は、ゴースト物標300gを車両100前方を走行する車両として認識する。
以下、ゴーストの特徴である上記(1)〜(3)を用いて、制動装置1(PCS ECU40)が、検出された物体がゴーストであるか否かを判定する手法について具体的に説明する。なお、以下の判定手法においては、ゴーストの特徴(1)〜(3)の全てを用いているが、例えば、主たるゴーストの特徴である(2)を用いて、判定を行ってもよいし、ゴーストの特徴(2)、(3)を用いて判定を行ってもよい。
図3、図4は、本実施形態に係る制動装置1(PCS ECU40)の動作を示すフローチャートである。具体的には、制動装置1による検出された物体のゴースト確率を算出する処理を示すフローチャートである。なお、図3、図4に示す処理フローは、車両のイグニッションスイッチがオンにされてからオフになるまでの間、所定の周期、例えば、ミリ波レーダ10の更新周期毎に実行される。また、以下において、図3、図4に示す処理が行われるミリ波レーダ10の更新のタイミングを「更新時期」と呼ぶことにする。
ここで、説明の簡単のため、記号の定義を行う。ミリ波レーダ10により検出された物体の相対距離をDs(以下、単に相対距離Dsと呼ぶ)とする。また、ミリ波レーダ10により検出された物体の相対速度をVs(以下、単に相対速度Vsと呼ぶ)とする。また、ミリ波レーダ10により検出された物体の絶対速度(物標速度)をVtgt(以下、単に物標速度Vtgtと呼ぶ)とする。また、自車両の車速(絶対速度)をVc(以下、単に、車速Vcと呼ぶ)とする。また、過去のミリ波レーダ10の更新時期におけるミリ波レーダ10により検出された物体の相対距離及び相対速度から予測されるミリ波レーダ10により検出された物体の相対距離(予測距離)をDest(以下、単に予測距離Destと呼ぶ)とする。また、ミリ波レーダ10の距離に関する計測誤差をΔDs(以下、単に計測誤差ΔDsと呼ぶ)とする。また、以下において、各速度(絶対速度、相対速度)は、自車両の進行方向を正とし、自車両に向かう方向を負とする。また、図3、図4のフローチャートの説明においては、ミリ波レーダ10により検出された物体を単に「検出された物体」と表記する。
なお、図3、図4に示すフローチャートの処理において、PCS ECU40は、ゴースト候補フラグ、ゴーストカウンタ、ゴースト確率の3つのパラメータを設定し、設定されたゴースト候補フラグ、ゴーストカウンタの値を確認しながら処理を進める。また、ゴースト候補フラグ、ゴーストカウンタ、ゴースト確率は、物体がミリ波レーダ10により継続して検出される限り、値が保持される。ゴースト候補フラグは、ゴースト候補として設定されるフラグであり、検出された物体がゴースト候補と判定されるとフラグがONにされ、ゴースト候補でないと判定されるとOFFにされる。また、ゴーストカウンタは、図4の処理フローに移行するか否か(下記ステップS106)を判定するためのカウンタである。また、ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)は、受信した反射波が弱い等の理由により検出された物体が新規物標であるか、又は継続して検出している物体なのかを判別できない場合がある。そこで、検出された物体が新規物標か、継続して検出されている物体かの判別可否を示すフラグとして、不確定フラグを設定する。ミリ波レーダECU20は、物標情報に不確定フラグを含めてよく、上記判別ができない場合、不確定フラグをONにして、PCS ECU40に送信する。また、PCS ECU40は、不確定フラグがONの場合は、検出された物体は、継続して検出されている物体であるとして下記処理フローを実行する。
ステップS101〜S105は、新しく検出された物体(新規物標)について、ゴーストである可能性がある物体(ゴースト候補)であるか否かを判定し、ゴースト候補フラグ、ゴーストカウンタ、ゴースト確率の初期設定を行うステップである。
まず、ステップS101では、検出された物体が新規物標であるか否かを判定する。検出された物体が新規物標でない場合、ステップS105に進む。検出された物体が新規物標である場合、ステップS102に進む。
ステップS102では、新しく検出された物体が上述したゴーストの特徴(1)、及び(3)に合致するか否かを判定する。具体的には、相対距離Dsが所定距離TH1以下(上述した(1)の特徴)であり、かつ、物標速度Vtgt(=車速Vc+相対速度Vs)が所定速度TH2以上(上述した(3)の特徴)であるか否かを判定する。当該条件を満足する場合、ステップS103に進み、当該条件を満足しない場合、ステップS105に進む。なお、上記所定距離TH1は、例えば、ミリ波レーダ10からの送信波の距離に対する減衰率、想定される車線脇の反射体の反射率、及びこれらに対する実験等に基づいて、適宜決定されてよい。また、上記所定速度TH2は、例えば、ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)により検出(算出)される相対速度の計測誤差の最大値として設定されてよい。
ここで、検出された物体が上述した特徴(2)に合致するか否かは、後述する図4におけるステップS118に示すように、相対距離Dsと、過去のミリ波レーダ10の更新時期における相対距離及び相対速度から予測される検出された物体の相対距離(予測距離)Destとの比較により判断される。即ち、検出された物体の相対距離Dsが予測距離Destよりミリ波レーダ10の計測誤差ΔDs以上大きいか否かにより判定することができる。しかしながら、ミリ波レーダ10(ミリ波レーダECU20)により検出(算出)される相対速度Vsが小さい場合、検出された相対速度がミリ波レーダ10の計測誤差によるものなのか、実際に検出された物体の相対速度であるのかを判別するのが困難となる場合がある。そのため、例えば、今回のミリ波レーダ10の更新時期における相対距離Dsと前回のミリ波レーダの更新時期における相対距離Ds及び相対速度Vsによる予測距離Destとにより上記条件を満足するか否かを判定すると、計測誤差ΔDsにより正確な判定が実行できない場合がある。そこで、図3の処理フロー(具体的には、後述するステップS111)において、相対距離Ds、相対速度Vsを履歴的に記憶(バッファリング)し、複数回(所定回数N回)前の相対位置を基準とした予測距離Destを算出する。これにより、検出された物体がゴーストである場合において、相対距離Dsと予測距離Destとの差を十分に設けることができるため、計測誤差の影響を抑制することができる。なお、本フローチャートにおいて、検出された物体の相対距離Ds、相対速度Vsをバッファリングした回数は、ゴーストカウンタをカウントアップすることによりカウントする。
フローチャートに戻って、ステップS103では、新しく検出された物体に対して、ゴースト候補フラグを「ON」に設定し、初期値としてゴースト確率を「20%」に設定し、ステップS104に進む。そして、ステップS104では、今回のミリ波レーダの更新時期における相対距離Ds、相対速度Vsを内部のRAM等に記憶(バッファリング)し、ゴーストカウンタを「1」に設定して、今回の処理を終了する。
ステップS105では、新しく検出された物体に対して、ゴースト候補フラグを「OFF」に設定し、ゴースト確率を「0%」に設定し、今回の処理を終了する。
次に、ステップS106〜S115は、継続してミリ波レーダ10により検出されている物体についてのゴースト確率の算出(設定)フローであり、物体がミリ波レーダ10により検出されている期間(回数)が比較的短い(少ない)場合のフローを示している。
まず、ステップS106では、ゴースト候補フラグがONであるか否かを判定する。ゴースト候補フラグがONである場合は、ステップS106に進む。ゴースト候補フラグがOFFである場合は、今回の処理を中止する。
ステップS107では、上述したように、ゴーストの特徴(2)を含めてゴースト確率を算出するフローに移行するか否かを判定する。相対距離Ds及び相対速度Vsをバッファリングした回数であるゴーストカウンタの値が所定回数Nより小さいか否かを判定する。ゴーストカウンタの値が所定回数Nより小さい場合、ステップS108に進む。ゴーストカウンタの値が所定回数N以上である場合、Aに進み、後述する図4のフローチャートに移行する。
ステップS108では、不確定フラグがONであるか否かを判定する。不確定フラグONの場合は、受信した反射波が弱い等の理由により検出された物体が新規物標であるか、又は継続して検出されている物体なのかを判別できない場合である。そのため、不確定フラグがONの場合、ステップS109に進み、検出された物体がゴーストである可能性が高くなったとみなし、ゴースト確率を5%引き上げて、今回の処理を終了する。不確定フラグがOFFの場合は、ステップS110に進む。
なお、不確定フラグがONの場合は、ミリ波レーダECU20により相対距離Ds、相対速度Vsを算出することができないため、相対距離Ds及び相対速度Vsのバッファリングは行わず、ゴーストカウンタもカウントアップしない。
ステップS110では、継続して検出されている物体が上述したゴーストの特徴(1)、及び(3)に合致するか否かを判定する。具体的には、相対距離Dsが所定距離TH1以下(上述した(1)の特徴)であり、かつ、物標速度Vtgt(=車速Vc+相対速度Vs)が所定速度TH2以上(上述した(3)の特徴)であるか否かを判定する。当該条件を満足する場合、ステップS111に進み、当該条件を満足しない場合、ステップS113に進む。
ステップS111では、ゴースト確率を5%引き上げて、ステップS112に進む。そして、ステップS112では、今回のミリ波レーダ10の更新時期における相対距離Ds及び相対速度Vsを内部のRAM等に記憶(バッファリング)し、ゴーストカウンタを1カウントアップして、今回の処理を終了する。
ステップS113では、ゴースト確率を2%引き下げ、ステップS114に進む。
ステップS114では、ゴースト確率が0%以下であるか否かを判定する。ゴースト確率が0%以下である場合、ステップS115に進み、検出された物体のゴースト候補フラグをOFFにし、内部のRAM等に履歴的に記憶させている相対距離Ds及び相対速度Vsを消去(バッファクリア)した上で、今回の処理を終了する。ゴースト確率が0%以下でない場合は、そのまま、今回の処理を終了する。
次に、ミリ波レーダ10により検出されている期間(回数)が比較的長い(多い)物体についてのフローについて説明をする。即ち、相対距離Dsと予測距離Destとの比較を行う際に、ミリ波レーダ10の計測誤差の影響を排除できる程度に、ゴーストカウンタの値が大きい場合のフローについて、図4を用いて説明をする。
上述したとおり、図3のステップS106にて、ゴーストカウンタの値が所定回数N以上の場合に、図4の処理フロー(ステップS116)に移行する。
ステップS116では、不確定フラグがONであるか否かを判定する。不確定フラグONの場合は、ステップS117に進み、ステップS109と同様、検出された物体がゴーストである可能性が高くなったとみなし、ゴースト確率を10%引き上げて、今回の処理を終了する。不確定フラグがOFFの場合は、ステップS118に進む。
ステップS118では、過去のミリ波レーダ10の更新時期における相対距離Ds及び相対速度Vsから予測される相対距離である予測距離Destを算出し、ステップS119に進む。
ここで、予測距離Destを算出する手法について、図5を用いて説明をする。
図5は、予測距離の算出方法を説明する図である。横軸にゴーストカウンタの値((1)〜(10))を示し、予測距離Destの算出に用いる相対距離Ds及び相対速度Vsの範囲を模式的に示している。なお、本図では、上記所定回数Nの一例として、N=7の場合について説明を行う。また、以下の説明において、iを1以上の整数として、ゴーストカウンタの値i(以下、ゴーストカウンタ(i)と呼ぶ)に対応する相対距離Ds,相対速度Vs、予測距離Destをそれぞれ、Ds(i)、Vs(i)、Dest(i)とし、ミリ波レーダ10の更新周期をTsとする。
上述したとおり、ゴーストカウンタの値が1から6までの間は、予測距離を算出せず、ステップS101〜S115の処理フローにより相対距離Dsと相対速度Vsをバッファリングする。
ゴーストカウンタが7以上になった場合は、ステップS106の判定により図4に示すフローに移行するため、上述したとおり、ステップS118にて予測距離を算出する。
ゴーストカウンタの値が7の場合、ゴーストカウンタ(1)に対応する相対距離Ds(1)を基準にして、ゴーストカウンタ(8)(今回の更新時期)に対応する予測距離Dest(8)を算出する。また、ゴーストカウンタが8の場合、ゴーストカウンタ(2)に対応する相対距離Ds(2)を基準にして、ゴーストカウンタ(9)(今回の更新時期)に対応する予測距離Dest(9)を算出する。また、ゴーストカウンタが9の場合、ゴーストカウンタ(3)を基準にして、ゴーストカウンタ(10)(今回の更新時期)に対応する予測距離Dest(10)を算出する。
具体的には、ゴーストカウンタの値が7の場合を例にして、Dest(8)=Ds(1)+Ts×{Vs(1)+Vs(2)+Vs(3)+Vs(4)+Vs(5)+Vs(6)+Vs(7)}のように、予測距離Destを算出してよい。
このように、今回のミリ波レーダ10の更新時期から遡って、過去の更新時期N回分の相対距離Ds及び相対速度Vsを用いて、予測距離Destを算出することができる。
図5に戻って、ステップS119では、検出された物体が上述したゴーストの特徴(1)〜(3)に合致するか否かを判定する。具体的には、相対距離Dsが所定距離TH1以下(上述した(1)の特徴)であり、かつ、物標速度Vtgt(=車速Vc+相対速度Vs)が所定速度TH2以上(上述した(3)の特徴)であり、かつ、相対距離Dsが予測距離Destよりミリ波レーダ10の計測誤差ΔDs以上大きい(上述した(2)の特徴)か否かを判定する。当該条件を満足する場合、ステップS120に進み、当該条件を満足しない場合、ステップS122に進む。
ステップS120では、ゴースト確率を10%引き上げ、ステップS121に進む。そして、ステップS121では、今回のミリ波レーダ10の更新時期における物体の相対距離Ds、相対速度Vsを内部のRAM等に記憶(バッファリング)し、ゴーストカウンタを1カウントアップして、今回の処理を終了する。
ステップS122では、ゴースト確率を5%引き下げ、ステップS123に進む。
ステップS123では、ゴースト確率が0%以下であるか否かを判定する。ゴースト確率が0%以下である場合、ステップS124に進み、検出された物体のゴースト候補フラグをOFFにし、内部のRAM等に履歴的に記憶させている検出された物体の相対距離Ds、相対速度Vsを消去(バッファクリア)した上で、今回の処理を終了する。ゴースト確率が0%以下でない場合は、そのまま、今回の処理を終了する。
このように、PCS ECU40は、例えば、ミリ波レーダ10の更新周期毎に、ミリ波レーダ10により検出された物体に対して、上述した図3、図4に示すフローチャートによるゴースト確率の算出処理を実行する。
PCS ECU40は、例えば、ミリ波レーダ10の更新周期毎に、算出されたゴースト確率が所定閾値Pth1(例えば、75%)以上であるか否かを判定し、当該条件を満足した場合、検出された物体は、ゴーストであると判定する。また、当該条件を満足しない場合、検出された物体はゴーストでないと判定する。なお、上述したとおり、ミリ波レーダ10により物体が継続して検出されている期間において、当該物体のゴースト確率は保持され、ミリ波レーダ10の更新周期毎に、図3、図4のフローチャートに基づき、ゴースト確率も更新される。そのため、ミリ波レーダ10により継続して検出された回数がある程度増加した時点で、検出された物体がゴーストであると判定されることになる。
PCS ECU40は、検出された物体がゴーストであると判定した場合、上述したとおり、検出された物体(ゴーストであると判定された物体)に基づく衝突回避制動制御及び(運転者に物体との衝突可能性を報知する)運転支援を禁止する。換言すれば、ゴーストでないと判定された物体に基づいて上記衝突回避制動制御や上記運転支援を実行する。これにより、実在しない物体であるゴースト物標に基づく上記衝突回避制動制御や上記運転支援が行われることによる運転者の違和感を抑制することができる。
なお、上述した図3、図4におけるゴースト確率の初期値、ゴースト確率の引き上げ幅、ゴースト確率の引き下げ幅等のパラメータや上記所定閾値Pth1は、上述した衝突回避制動制御等が実行される前にゴーストであるか否かの判定ができるように、適宜設定されるとよい。例えば、ミリ波レーダ10により物体が継続して検出される回数が、所定回数Nminに到達するまでにゴーストであるか否かを判定したい場合には、当該所定回数Nminまでにゴースト確率がPth1以上となるように、上記パラメータを設定するとよい。
次に、本実施形態に係る制動装置1の作用について説明をする。
制動装置1(PCS ECU40)は、ミリ波レーダ10により検出された物体の相対距離Ds及び相対速度Vsであって、ミリ波レーダECU20により算出された相対距離Ds及び相対速度Vsを、例えば、ミリ波レーダ10の更新周期毎に、履歴的にRAM等に記憶させる(バッファリングさせる)。また、制動装置1(PCS ECU40)は、バッファリングさせた過去のミリ波レーダ10の更新時期における当該物体の相対距離Ds及び相対速度Vsに基づいて、予測距離Destを算出する。また、自車両の車速Vcと相対速度Vsとの関係で表される物標速度Vtgt(=車速Vc+相対速度Vs)、及び相対距離Dsと予測距離Destとの比較に基づいて、ミリ波レーダ10により検出された物体がゴーストであるか否かを判定する。そして、ゴーストでないと判定された物体に基づいて所定の制動制御(上記衝突回避制動制御等)を実行する。具体的には、自車両の車速Vcと相対速度Vsの和で表される物標速度Vtgtが所定速度TH2以上であるか否か、及び相対距離Dsが予測距離Destよりもミリ波レーダ10の測定誤差ΔDs以上大きいか否かに基づいて、検出された物体がゴーストであるか否かを判定してよい。このように、上述したゴーストの特徴(2)及び(3)に基づいて、ゴーストであるか否かの判定を行うことにより、車線脇に連続して存在する反射体等により発生するゴーストを、正確にゴーストとして判別することが可能となる。また、具体的なゴーストの特徴に基づくことにより、実在する物体をゴーストであると判別することを抑制することができる。そのため、ミリ波レーダ10により検出された実在する物体に基づく上記衝突回避制動制御等を正確に実行させ、ゴースト物標に基づく上記衝突回避制動制御等の実行を抑制することができる。
また、制動装置1(PCS ECU40)は、相対距離Dsが所定距離TH1以下であるか否かに基づいて、ミリ波レーダ10により検出された物体がゴーストであるか否かを判定してよい。このように、ゴーストの特徴(2)、(3)に加えて、(1)を加えることにより、検出された物体がゴーストであるか否かを更に正確に判定することができる。また、ミリ波レーダ10の検出可能な距離範囲に実在する物体であっても、遠方の物体については、反射波の強度が減衰により弱まるため、相対距離Ds及び相対速度Vsの測定誤差が大きくなり、上記予測距離Destの精度が悪くなるおそれがある。そのため、実在する物体をゴーストであると判定してしまうおそれがある。しかしながら、ゴーストとして判定する物体を相対距離Dsが所定距離TH1以下であるもの(近距離の物体)に限定することによりこのような誤判定を防止することができる。
また、具体的には、ゴーストであるか否かの判定において、ミリ波レーダ10により検出された物体がゴーストである可能性を示す指標値(ゴースト確率)を算出する。そして、当該ゴースト確率と所定閾値Pth1との関係(ゴースト確率が所定閾値Pth1以上であるか否か)に基づいて、検出された物体がゴーストであるか否かを判定してよい。より具体的には、ミリ波レーダ10の更新周期毎に、継続して検出されている物体のゴースト確率を更新してよい。そして、物標速度Vtgt(=自車両の車速Vc+相対速度Vs)が所定速度TH2以上の場合であって、かつ、相対速度Dsが予測距離Destよりもミリ波レーダ10の測定誤差ΔDs以上大きい場合に、ゴースト確率を高めてよい。また、物標速度Vtgt(=自車両の車速Vc+相対速度Vs)が所定速度TH2以上の場合であって、かつ、相対速度Dsが予測距離Destよりもミリ波レーダ10の測定誤差ΔDs以上大きい場合であって、かつ、相対距離Dsが所定距離TH1以下である場合に、ゴースト確率を高めてよい。このように、ミリ波レーダ10の更新周期毎に、ゴーストの特徴(1)〜(3)の条件に該当する場合にゴースト確率を高めながら、ゴースト確率を更新し、当該ゴースト確率と所定閾値Pth1を比較することで、具体的にゴーストであるか否かの判定を行うことができる。また、ゴースト確率の高める量(引き上げ幅)やゴースト確率の初期値等を適宜設定することにより検出された物体に基づく上記衝突回避制動制御等が実行される前にゴーストであるか否かの判定を行うことができる。
また、予測距離Destの算出において、具体的には、今回のミリ波レーダ10の更新時期から遡って、所定回数N回前の相対距離を基準にして、所定回数N回の相対速度に基づいて、算出するとよい。これにより、上記ゴーストの特徴(2)に基づいて、相対距離Dsと予測距離Destを比較する場合に、ミリ波レーダ10の計測誤差の影響を排除して、正確にゴーストであるか否かを判定することができる。即ち、相対速度Vsが小さい場合、相対速度Vsが実際に検出された物体の相対速度なのか、計測誤差によるものであるのかを判別できない場合があるため、所定回数N回の相対速度に基づくことにより、相対速度Dsと予測距離Destとの差を測定誤差の影響を排除できる程度に大きくさせることができる。
[第2の実施形態]
次いで、第2の実施形態について説明をする。
本実施形態における制動装置1は、上述したゴーストの特徴(1)〜(3)に基づいて、検出された物体のゴースト確率を算出する点においては、第1の実施形態と同様である。しかしながら、本実施形態における制動装置1は、ミリ波レーダ10により検出された物体がステレオカメラ15により検出されたか否かに基づいて、ゴースト確率を変化させる点において、第1の実施形態と異なる。以下、第1の実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して、異なる部分を中心に説明をする。
本実施形態における制動装置1の構成は、第1の実施形態と同様、図1で表されるため、説明を省略する。
次に、本実施形態に係る制動装置1(PCS ECU40)が、検出された物体がゴーストであるか否かを判定する手法について具体的に説明する。
図6、図7は、本実施形態に係る制動装置1(PCS ECU40)の動作を示すフローチャートである。具体的には、制動装置1による検出された物体のゴースト確率を算出する処理を示すフローチャートである。なお、図6、図7に示す処理フローは、車両のイグニッションスイッチがオンにされてからオフになるまでの間、所定の周期、例えば、ミリ波レーダ10の更新周期毎に実行される。
ここで、図6に示すフローチャートのうち、ステップS201〜S212、及び、ステップS216〜217は、第1の実施形態における図3のステップS101〜S112、及びステップS114〜S115と同様であるため、具体的な説明を省略する。また、図7に示すフローチャートのうち、ステップS220〜S225、及びステップS229〜S230は、第1の実施形態における図4のステップS116〜S121、及びステップS123〜124と同様であるため、具体的な説明を省略する。以下、第1の実施形態と異なるステップS213〜S215、ステップS218〜S219、及びステップS226〜S228を中心に説明をする。
なお、第1の実施形態の図3、図4と同様の意味で、相対距離Ds、相対速度をVs、物標速度Vtgt、車速Vc、予測距離Dest、計測誤差ΔDsを利用する。また、以下において、第1の実施形態と同様、各速度(絶対速度、相対速度)は、自車両の進行方向を正とし、自車両に向かう方向を負とする。また、図6、図7のフローチャートの説明においては、ミリ波レーダ10により検出された物体を単に「検出された物体」と表記する。
図6のステップS206〜S217は、継続してミリ波レーダ10により検出されている物体についてのゴースト確率の設定(算出)フローであり、ミリ波レーダ10により検出されている期間(回数)が比較的短い(少ない)場合のフローを示している。
ステップS210では、継続して検出されている物体が上述したゴーストの特徴(1)、及び(3)に合致するか否かを判定する。具体的には、ミリ波レーダECU20から受信した相対距離Dsが所定距離TH1以下(上述した(1)の特徴)であり、かつ、物標速度Vtgt(=車速Vc+相対速度Vs)が所定速度TH2以上(上述した(3)の特徴)であるか否かを判定する。当該条件を満足する場合、ステップS211に進み、当該条件を満足しない場合、ステップS213に進む。
ここで、第1の実施形態においては、当該条件、即ち、ゴーストの特徴に関する条件を満足しない場合は、実在する可能性が高まるため、一律ゴースト確率を5%引き下げる(図3のステップS113)。しかしながら、本実施形態では、ミリ波レーダ10により検出された物体が、ステレオカメラ15においても検出されたか否かに応じて、ゴースト確率の引き下げ幅を変化させる。即ち、ステレオカメラ15により撮像された画像内の物体(画像物標)の中に、ミリ波レーダ10により検出された物体とフュージョンすることが可能な画像物標(以下、フュージョン画像物標と呼ぶ)が含まれるか否かに応じて、ゴースト確率の引き下げ幅を変化させる。以下、具体的に説明をする。
ステップS213では、フュージョン画像物標があるか否かを判定する。フュージョン画像物標がある場合は、ミリ波レーダ10で検出された物体がステレオカメラ15でも検出されていることから、実在する可能性が更に高まるため、ステップS214に進み、ゴースト確率を5%引き下げる。また、フュージョン画像物標がない場合は、ステップS215に進み、フュージョン画像物標がある場合よりもゴースト確率の下げ幅を抑えて、ゴースト確率を2%引き下げる。
また、ミリ波レーダ10により検出されている期間(回数)が比較的長い(多い)物体についてのフロー(図7のステップS218〜S230)におけるステップS226〜S228においても同様の考え方によりゴースト確率の下げ幅を変化させる。
ステップS223では、検出された物体が上述したゴーストの特徴(1)〜(3)に合致するか否かを判定する。具体的には、ミリ波レーダECU20から受信した相対距離Dsが所定距離TH1以下(上述した(1)の特徴)であり、かつ、物標速度Vtgt(=車速Vc+相対速度Vs)が所定速度TH2以上(上述した(3)の特徴)であり、かつ、相対距離Dsが予測距離Destよりミリ波レーダ10の計測誤差ΔDs以上大きい(上述した(2)の特徴)否かを判定する。当該条件を満足する場合、ステップS223に進み、当該条件を満足しない場合、ステップS226に進む。
ステップS226では、フュージョン画像物標があるか否かを判定する。フュージョン画像物標がある場合は、ミリ波レーダ10で検出された物体がステレオカメラ15でも検出されていることから、実在する可能性が更に高まるため、ステップS227に進み、ゴースト確率を10%引き下げる。また、フュージョン画像物標がない場合は、ステップS215に進み、フュージョン画像物標がある場合よりもゴースト確率の下げ幅を抑えて、ゴースト確率を5%引き下げる。
このように、ミリ波レーダ10により検出された物体がステレオカメラ15でも検出されているか否かに応じて、ゴースト確率の下げ幅を変化させることによりゴースト確率の精度をより高めることができる。
ところで、既にゴースト確率が比較的高くなっている場合、フュージョン画像物標があると判定すると、ゴースト確率の下げ幅が大きくなるため、ゴーストであると判定されるまでの時間を不要に要するおそれがある。それにより、ゴーストであると判定される前に、ゴーストである物体に基づく衝突回避制動制御や運転者への物体との衝突可能性を報知する運転支援が先に実行されるおそれがあり、運転者に違和感を与えるおそれがある。そこで、ゴースト確率が比較的高まっている場合には、ミリ波レーダ10により検出された物体(の物標情報)とステレオカメラ15による画像物標(の物標情報)とのフュージョンを行わないようにする(フュージョン解除)。以下、具体的に説明をする。
図7のステップS218では、ゴースト確率が所定閾値Pth2(<Pth1)よりも小さいか否かを判定する。当該条件を満足する場合、ステップS220に進む。当該条件を満足しない場合、即ち、ゴースト確率が比較的高まり、所定閾値Pth2以上である場合、ステップS219に進み、ミリ波レーダ10により検出された物体とステレオカメラ15により検出された物体とのフュージョンを禁止する(フュージョン解除)。これにより、ステップS226において、判定条件を満足せず、ステップS228に進むため、ゴースト確率の下げ幅を抑えることができる。そのため、検出された物体がゴーストであると判定されるまでの時間の長期化を抑制することができる。
なお、ステップS218〜S219の代わりに、ステップS223とステップS226との間に、ステップS218と同様の判定ステップを設けてもよい。この場合、当該ステップの判定条件(ゴースト確率が所定閾値Pth2より小さいか否か)を満足した場合は、そのまま、ステップS226に進み、フュージョン画像があるか否かによりゴースト確率の下げ幅を変化させてよい。また、当該条件を満足しない場合は、ゴースト確率が比較的高まっているので、ステップS228に進み、ゴースト確率の下げ幅を抑制するとよい。これにより、上述したステップS218〜S219と同様の効果が得られる。また、ステップS218〜S219と同様の処理を、図6のステップS207とステップS208の間に設定してもよい。
このように、PCS ECU40は、例えば、ミリ波レーダ10の更新周期毎に、検出された物体に対して、上述した図6、図7に示すフローチャートによるゴースト確率の算出処理を実行する。
PCS ECU40は、第1の実施形態と同様、例えば、ミリ波レーダ10の更新周期毎に、算出されたゴースト確率が所定閾値Pth1(例えば、75%)以上であるか否かを判定し、当該条件を満足した場合、検出された物体は、ゴーストであると判定する。また、当該条件を満足しない場合、検出された物体はゴーストでないと判定する。上述したとおり、ミリ波レーダ10により物体が継続して検出されている期間において、当該物体のゴースト確率は保持され、ミリ波レーダ10の更新周期毎に、図6、図7のフローチャートに基づき、ゴースト確率も更新される。そのため、ミリ波レーダ10により継続して検出された回数がある程度増加した時点で、検出された物体がゴーストであると判定されることになる。
PCS ECU40は、検出された物体がゴーストであると判定した場合、第1の実施形態と同様、検出された物体(ゴーストであると判定された物体)に基づく衝突回避制動制御及び(運転者に物体との衝突可能性を報知する)運転支援を禁止する。これにより、実在しない物体であるゴースト物標に基づく上記衝突回避制動制御や上記運転支援が行われることによる運転者の違和感を抑制することができる。
なお、上述した図6、図7におけるゴースト確率の初期値、ゴースト確率の引き上げ幅、ゴースト確率の引き下げ幅等のパラメータや上記所定閾値Pth1は、第1の実施形態と同様に、適宜設定されるとよい。
次に、本実施形態に係る制動装置1の作用について説明をする。なお、第1の実施形態と同様の作用については省略し、本実施形態に特有の作用を中心に説明する。
制動装置1(PCS ECU40)は、ミリ波レーダ10とは異なる原理で、自車両前方の物体を検出するステレオカメラ15が、ミリ波レーダ10により検出された物体を検出したか否かに基づいて、ミリ波レーダ10により検出された物体がゴーストであるか否かを判定する。具体的には、ゴースト確率の算出過程において、ミリ波レーダ10により検出された物体が、ステレオカメラ15により検出された場合、ゴースト確率を引き下げ幅を大きくする。このように、他の物体検出手段(ステレオカメラ15)により検出された物体との比較を行うことにより、実在する物体をゴーストであると判定することをより良く防止することができる。
また、ゴースト確率が所定閾値Pth2以上である場合、ミリ波レーダ10で検出された物体が、ステレオカメラ15で検出されたとしても、ゴースト確率の引き下げ幅を大きくすることはしない。これにより、比較的ゴースト確率が高まり、ゴーストであると判定される可能性が高い物体について、不要にゴーストであると判定されるまでの時間を長期化させることを抑制し、衝突回避制動制御等が実行される前にゴーストであるか否かの判定ができるようにすることができる。
以上、本発明を実施するための形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。