この発明に係る制御装置は、車両に搭載される自動変速機を制御の対象としている。特に、この発明で制御の対象とする自動変速機は、入力軸と出力軸との間に、第1変速機構を備えた第1伝動経路と、第2変速機構を備えた第2伝動経路とが形成されている。それら第1伝動経路および第2伝動経路は、入力軸と出力軸との間で互いに並列に配置されている。そして、それら第1伝動経路および第2伝動経路のいずれか一方が選択されて、自動変速機の入力軸と出力軸との間でトルクを伝達するように構成されている。
上記の第1伝動経路に設けられた第1変速機構は、この自動変速機の主変速部を構成している。そしてその第1変速機構は、変速比を連続的に変化させることが可能な変速機構であり、例えばベルト式無段変速機構により構成されている。一方、第2伝動経路に設けられた第2変速機構は、この自動変速機の副変速部を構成している。そしてその第2変速機構は、例えば歯車伝動機構により構成されている。また、その歯車伝動機構は、上記のベルト式無段変速機構では設定できない変速比を設定するように構成されている。したがって、歯車伝動機構は、複数の歯車を噛み合わせて構成されていて、そのギヤ比(歯数の比)によって設定される変速比が、ベルト式無段変速機構の最大変速比より大きい変速比となるように、あるいはベルト式無段変速機構の最小変速比より小さい変速比となるように構成されている。なお、この自動変速機を車両に搭載する場合には、例えば、車両が発進する際の大きいトルクがベルト式無段変速機構に掛からないようにするために、歯車伝動機構は、ベルト式無段変速機構の最大変速比よりも大きい変速比を設定できるように構成することが好ましい。また、走行中の車両におけるエンジンの回転数を低くして燃費を低下させるためには、歯車伝動機構はベルト式無段変速機構の最小変速比より小さい変速比を設定できるように構成することが好ましい。
上記のような自動変速機の具体的な構成の一例を図1に示してある。この発明で制御の対象とする自動変速機1は、車両Veに搭載される変速機であり、車両Veの駆動力源であるエンジン2に連結されて用いられる。具体的には、エンジン2の出力軸2aに、例えばロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ3が連結されている。このトルクコンバータ3は従来知られている構成のものである。例えば、フロントカバー3aと一体のポンプインペラー3bに対向してタービンランナー3cが配置されている、これらポンプインペラー3bとタービンランナー3cとの間には、一方向クラッチ(図示せず)を介して保持されたステータ3dが配置されている。さらに、タービンランナー3cと一体となって回転するロックアップクラッチ4が、フロントカバー3aの内面に対向して配置されている。そして、ロックアップクラッチ4を挟んだ両側の圧力差に応じて、ロックアップクラッチ4がフロントカバー3aの内面に接触してトルクを伝達する係合状態、および、フロントカバー3aの内面から離れてトルクの伝達を遮断する開放状態が設定されるように構成されている。
上記のトルクコンバータ3におけるタービンランナー3cに、自動変速機1の入力軸5が連結されている。そして、入力軸5と同一軸線上に、前後進切替機構6が配置されている。この前後進切替機構6は、エンジン2から出力されたトルクをその回転方向を変えずに後述のカウンタ軸10aに伝達する前進状態と、エンジン2から出力されたトルクをその回転方向を反転してカウンタ軸10aに伝達する後進状態とに切り替えるための機構である。
上記の前後進切替機構6は、この図1に示す例では、3つの回転要素が互いに差動作用をなすいわゆる差動機構によって構成されている。具体的には、ダブルピニオン型の遊星歯車機構によって前後進切替機構6が構成されている。この前後進切替機構6を構成しているダブルピニオン型の遊星歯車機構は、外歯歯車であるサンギヤ6a、サンギヤ6aと同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ6b、サンギヤ6aに噛み合っている第1ピニオンギヤ6c、第1ピニオンギヤ6cならびにリングギヤ6bに噛み合っている第2ピニオンギヤ6d、および、第1ピニオンギヤ6cならびに第2ピニオンギヤ6dを自転かつ公転可能に保持しているキャリア6eを備えている。そして、上記のサンギヤ6aに入力軸5が連結されていている。したがって、サンギヤ6aが入力要素となっている。また、リングギヤ6bの回転を選択的に止めるブレーキ機構Bが設けられている。したがって、リングギヤ6bが反力要素となっている。なお、ブレーキ機構Bは、ケーシングなどの固定部7とリングギヤ6bとの間に設けられている。このブレーキ機構Bは、例えば多板ブレーキなどの摩擦式ブレーキや噛み合い式のブレーキによって構成することができる。
そして、キャリア6eが出力要素となっている。このキャリア6eとサンギヤ6aもしくは入力軸5との間に、これらキャリア6eとサンギヤ6aとを連結して遊星歯車機構の全体を一体回転させるための第1クラッチ機構C1が設けられている。この第1クラッチ機構C1は、前後進切替機構6を前進状態に設定するためのものである。この第1クラッチ機構C1は、トルクの伝達および遮断を選択的に行うことができるものであればよい。したがって、第1クラッチ機構C1は、摩擦クラッチや噛み合いクラッチのいずれであってもよい。ただし、係合力に応じて伝達トルク容量が次第に増大もしくは減少する摩擦クラッチによって構成されていることが好ましい。
入力軸5のエンジン2と反対側(図1に示す例では左側)の端部に、ベルト式無段変速機構(CVT)8が配置されている。このCVT8は、従来知られている構成のものである。すなわち、駆動側の回転部材であるプライマリプーリ8aと、従動側の回転部材であるセカンダリプーリ8bと、これらのプライマリプーリ8aおよびセカンダリプーリ8bに巻き掛けられたベルト8cとを備えている。そして、プライマリプーリ8aおよびセカンダリプーリ8bは、ベルト8cが巻き掛けられている溝の幅を変化させることにより、ベルト8cの巻き掛け半径が大小に変化するように構成されている。すなわち、ベルト8cが巻き掛けられている溝幅を変化させて変速比を変更するように構成されている。
プライマリプーリ8aは、入力軸5と同一軸線上で、上記の前後進切替機構6を挟んでエンジン2とは反対側に配置されている。このプライマリプーリ8aと一体のプライマリシャフト8dが、前後進切替機構6における入力要素であるサンギヤ6aに連結されている。また、セカンダリプーリ8bは、その回転中心軸線が上記のプライマリプーリ8aの回転中心軸線と平行になるように配置されている。また、セカンダリプーリ8bの回転中心軸線に沿うように設けられたセカンダリシャフト8eを備えている。そして、セカンダリシャフト8eと同一軸線上に、出力軸9が配置されている。したがって、この出力軸9は、前述した入力軸5と平行になっている。
そして、この出力軸9とセカンダリシャフト8eとの間に、これら出力軸9とセカンダリシャフト8eとを選択的に連結する第2クラッチ機構C2が設けられている。この第2クラッチ機構C2は、セカンダリプーリ8bと出力軸9との間でのトルクの伝達および遮断を選択的に行うことができるものであればよい。したがって、摩擦クラッチや噛み合いクラッチのいずれであってもよい。ただし、係合力に応じて伝達トルク容量が次第に増大もしくは減少する摩擦クラッチによって構成されていることが好ましい。
この発明で制御対象とする自動変速機1は、上記のCVT8と並列に、ギヤ列10が配置されている。このギヤ列10は、複数の歯車から構成される歯車伝動機構である。そして、ギヤ列10は、CVT8とは設定する変速比が異なる変速機構として構成されている。具体的には、CVT8で設定可能な最大変速比よりも大きい変速比を設定する減速機構、もしくは、CVT8で設定可能な最小変速比より小さい変速比を設定する増速機構として構成されている。この図1に示す例では、ギヤ列10は減速機構として構成されている。
ここで、CVT8は、上記のように、変速比を連続的に変化させることができる構成となっていて、この発明における第1変速機構に相当している。それに対して、ギヤ列10は、上記のようにCVT8とは設定する変速比が異なる構成となっていて、この発明における第2変速機構に相当している。したがって、上記のCVT8を備えた伝動経路、すなわち、入力軸5からCVT8のプライマリプーリ8aおよびセカンダリプーリ8bを介して出力軸9に至る伝動経路が、この発明における第1伝動経路に相当している。それに対して、このギヤ列10を備えた伝動経路、すなわち、入力軸5からこのギヤ列10を介して出力軸9に至る伝動経路が、この発明における第2伝動経路に相当している。
具体的に、ギヤ列10は、入力軸5および出力軸9のそれぞれに対して平行に、カウンタ軸10aが配置されている。カウンタ軸10aの一方(図1に示す例では右側)の端部には、カウンタドリブンギヤ10bがカウンタ軸10aと一体回転するように取り付けられている。そして、このカウンタドリブンギヤ10bに、上述の前後進切替機構6のキャリア6eと一体回転する駆動ギヤ6fが噛み合っている。カウンタドリブンギヤ10bは、駆動ギヤ6fよりも大径の歯車である。そのため、駆動ギヤ6fからカウンタドリブンギヤ10bへの方向には、トルクが増幅されて伝達されるようになっている。
カウンタ軸10aの他方(図1に示す例では左側)の端部には、カウンタドライブギヤ10cがカウンタ軸10aと一体回転するように取り付けられている。このカウンタドライブギヤ10cは、上記のカウンタドリブンギヤ10bよりも小径の歯車である。そして、このカウンタドライブギヤ10cに、上述の出力軸9上で出力軸9に対して相対回転できるように配置された従動ギヤ10dが噛み合っている。この従動ギヤ10dはカウンタドライブギヤ10cよりも大径である。そのため、従動ギヤ10dからカウンタドライブギヤ10cへの方向には、トルクが増幅されて伝達されるようになっている。したがって、ギヤ列10の変速比(ギヤ比)は、上記の駆動ギヤ6fとカウンタドリブンギヤ10bとの間の変速比と、カウンタドライブギヤ10cと従動ギヤ10dとの間の変速比を乗算した変速比となる。この図1に示す例では、ギヤ列10の変速比は、その値がCVT8の最大変速比よりも大きくなるように構成されている。
さらに、従動ギヤ10dを出力軸9に動力伝達可能に連結した状態と、従動ギヤ10dと出力軸9との間の動力伝達を遮断した状態とを選択的に設定するための第3クラッチ機構C3が設けられている。この第3クラッチ機構C3は、係合および開放の2つの状態に切り替わる構成のものであればよい。すなわち、伝達トルク容量が徐々に変化する構成である必要がない。そのため、第3クラッチ機構C3は、ドグクラッチやシンクロナイザーなどの噛み合い式のクラッチによって構成することができる。この図1に示す例では、第3クラッチ機構C3は、従動ギヤ10dのボス部に形成されたスプラインと、出力軸9のハブに形成したスプラインとにスリーブを嵌合させることにより、従動ギヤ10dを出力軸9に連結するシンクロナイザーによって構成されている。
また、出力軸9から所定のギヤ列11およびデファレンシャル12を介して、この発明における出力部材に相当するドライブシャフト13にトルクを出力するように構成されている。すなわち、出力軸9のCVT8と反対側(図1に示す例では右側)の端部に、出力ギヤ9aが取り付けられている。この出力ギヤ9aに噛み合っている大径ギヤ11aが、減速ギヤシャフト11bの一方(図1に示す例では右側)の端部に取り付けられている。減速ギヤシャフト11bの他方(図1に示す例では左側)の端部には、小径ギヤ11cが取り付けられている。この小径ギヤ11cが、デファレンシャル12のリングギヤ12aに噛み合っている。そして、デファレンシャル12は、そのリングギヤ12aを介して伝達されたトルクを、左右のドライブシャフト13から駆動輪(図示せず)に伝達するように構成されている。
そして、この自動変速機1の動作を制御する電子制御装置(ECU)14が設けられている。このECU14は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成されている。そして、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算を行い、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される変速比の設定などの制御を実行するように構成されている。
一方、ECU14には、各種センサからの検出信号や情報信号が入力されるように構成されている。例えば、入力軸5の回転数を検出する入力軸回転数センサ(図示せず)、出力軸9の回転数を検出する出力軸回転数センサ(図示せず)、運転者のアクセル操作量を検出するアクセル開度センサ(図示せず)、エンジン2のスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ(図示せず)、シフト装置あるいはシフトレバーによって選択されるシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ(図示せず)、および車速を求めるため車両の各車輪の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサ(図示せず)等からの検出信号が、このECU14に入力されるように構成されている。
上記のように構成された自動変速機1は、前進方向に発進する場合、および後進走行する場合に、ギヤ列10を備えたトルク伝達経路(すなわち、この発明における第2伝動経路)を経由して出力軸9にトルクを伝達するように制御される。そして、ある程度車速が増大した状態での前進走行する場合には、CVT8を備えたトルク伝達経路(すなわち、この発明における第1伝動経路)を経由して入力軸5から出力軸9にトルクを伝達するように制御される。例えば、図示しないシフト装置あるいはシフトレバーによってドライブポジションが選択されると、第1クラッチ機構C1および第3クラッチ機構C3が係合させられ、また第2クラッチ機構C2およびブレーキ機構Bが開放させられる。
自動変速機1を制御する際の各係合機構の係合および開放の状態を、図2の表にまとめて示してある。なお、この図2で「ON」は係合していることを示し、「OFF」は開放していることを示している。
前進方向への発進時には、各係合機構を図2の表に示すように設定することにより、エンジン2が出力したトルクは、入力軸5を介して前後進切替機構6のサンギヤ6aに伝達される。また第1クラッチ機構C1を介してキャリア6eに伝達される。この場合、前後進切替機構6はその2つの回転要素が第1クラッチ機構C1によって連結されているので、前後進切替機構6の全体が一体化されている。したがって、前後進切替機構6は増速作用および減速作用のいずれも生じずに、入力されたトルクをキャリア6eから駆動ギヤ6fに伝達する。また、ギヤ列10における従動ギヤ10dが、第3クラッチ機構C3によって出力軸9に連結されているので、入力軸5のトルクはギヤ列10を介して出力軸9に伝達される。そして、出力ギヤ9aからギヤ列11およびデファレンシャル12を介して左右の駆動輪にトルクが伝達され、車両が発進する。
上記のように、発進時にはギヤ列10を経由して入力軸5から出力軸9にトルクが伝達されてギヤ列10が減速機構として機能する。その場合の変速比はCVT8で設定できる最大変速比より大きい変速比となる。その結果、車両としては大きい駆動力を得ることができる。また、CVT8には発進時の大きいトルクが掛からない。そのため、CVT8の伝達トルク容量を設定する油圧を高くする必要がない。したがって、油圧を発生させるための動力の消費が少なくなって燃費を改善することができ、また、CVT8の耐久性を向上させることができる。
発進後、予め決められている所定の車速にまで増速した場合は、CVT8の変速比が最大変速比もしくはそれに近い変速比に設定された状態で、第1クラッチ機構C1が開放される。それとともに、第2クラッチ機構C2が係合させられる。この場合、前後進切替機構6は、ブレーキ機構Bが開放されている状態で、更に第1クラッチ機構C1が開放されるので、いわゆる自由回転する状態になる。その結果、入力軸5とギヤ列10との間の動力伝達が遮断される。これに対して、セカンダリプーリ8bが第2クラッチ機構C2によって出力軸9に連結される。その結果、入力軸5と出力軸9とが、CVT8を経由してトルクを伝達するように連結される。したがって、CVT8による変速比を徐々に減少させること、あるいは車速とアクセル開度とに応じて変化させることにより、エンジン回転数を燃費の良い回転数に設定することができる。
上記のようにギヤ列10を経由するトルクの伝達状態からCVT8を経由するトルクの伝達状態に切り替える場合、ギヤ列10による変速比がCVT8の最大変速比より大きいことから、変速比あるいは駆動力が変化することになる。したがって、第1クラッチ機構C1を開放し、かつ第2クラッチ機構C2を係合させる場合には、過渡的にそれら第1クラッチ機構C1および第2クラッチ機構C2をそれぞれ滑り係合制御する。すなわち、第2クラッチ機構C2の係合圧が徐々に増大させられて、その伝達トルク容量が次第に増大させられる。それとともに、第1クラッチ機構C1の係合圧が徐々に低下させられて、その伝達トルク容量が次第に減少させられる。この制御は、従来、クラッチ・トゥ・クラッチ制御として知られている制御である。こうすることにより、出力軸9のトルクが滑らかに変化して変速ショックを抑制することができる。
一方、後進走行する場合には、図2に示すように、第1クラッチ機構C1および第2クラッチ機構C2が開放されるとともに、第3クラッチ機構C3およびブレーキ機構Bが係合させられる。この場合、前後進切替機構6は、リングギヤ6bがブレーキ機構Bによって固定された状態でサンギヤ6aにエンジン2からのトルクが入力される。そのため、キャリア6eがサンギヤ6aに対して反対方向に回転する。したがって、前進走行の際の発進時と同様に、ギヤ列10を経由して入力軸5から出力軸9にトルクが伝達され、かつ出力軸9が後進走行する方向に回転する。この場合の変速比は、ギヤ列10による変速比と、前後進切替機構6を構成している遊星歯車機構による変速比とを乗算した変速比となる。そして、出力ギヤ9aからギヤ列11およびデファレンシャル12を介して左右の駆動輪にトルクが伝達され、後進走行する。
そして、図2に示すように、第1クラッチ機構C1および第2クラッチ機構C2をいずれも開放させることにより、エンジン2と出力軸9との間の動力伝達を遮断したニュートラル状態を設定することができる。このように、第1クラッチ機構C1、第2クラッチ機構C2、第3クラッチ機構C3、およびブレーキ機構Bの係合・開放状態を制御して、前後進切替機構6の動作を制御することにより、前進状態、後進状態、およびニュートラル状態をそれぞれ設定することができる。言い換えると、動力源と同じ回転方向のトルクを出力軸9から出力する正転状態、動力源と反対の回転方向のトルクを出力軸9から出力する反転状態、および動力源と出力軸9との間の動力伝達を遮断するニュートラル状態のいずれかを選択的に設定することができる。
上記のように、この発明で制御対象にしている自動変速機1は、CVT8を備えた第1伝動経路とギヤ列10を備えた第2伝動経路との間で切替変速を行う場合に、クラッチ・トゥ・クラッチ制御を実行することにより、切り替え時のクラッチ機構における係合ショックを抑制することができる。そして、そのような切替変速を実行する際に、従来の制御技術では、第1伝動経路と第2伝動経路との間の変速比の格差の増大を防ぐために、例えば切替変速のためのクラッチ・トゥ・クラッチ制御の実行中はCVT8の変速比を固定するようにしている。しかしながら、前述したように、切替変速を実行する際にCVT8の変速比を固定した場合は、切替変速が実行される間にCVT8における実変速比と目標変速比との乖離が増長し、その結果、車両Veの燃費が悪化してしまったり、運転者に対して違和感を与えてしまったりする可能性があった。
そこで、この発明に係る制御装置では、上記のような切替変速を実行する際に、車両Veの燃費を悪化させることなく、かつ、運転者に違和感やショックを与えることのないよう、適切に切替変速を実行することができるように構成されている。以下、その制御例を説明する。
(第1制御例)
図3は、この発明に係る制御装置により実行される第1制御例を説明するためのフローチャートである。このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図3において、先ず、目標トータル変速比が求められる(ステップS1)。この目標トータル変速比は、自動変速機1で設定すべき変速比、すなわち入力軸5の入力軸回転数と出力軸9の出力軸回転数との比である。具体的には、運転者の駆動力要求を満たし、かつ適切な燃費で車両Veを走行させるための変速比の目標値として、車両Veの現時点での車速、およびアクセル開度もしくはアクセル開度に対応するエンジン2のスロットル開度に基づいて求められる。
ステップS1で目標トータル変速比が求められると、その目標トータル変速比が無段変速閾値(最大無段変速比)よりも大きいか否かが判断される(ステップS2)。これは、言い換えると、ステップS1で求めた目標トータル変速比が無段変速領域内の変速比であるか否かを判断するものである。なお、ここで説明する制御例では、自動変速機1が、ギヤ列10で設定する変速比がCVT8で設定可能な最大無段変速比よりも大きい構成であることを前提としている。したがって、このステップS2では、目標トータル変速比が無段変速閾値よりも大きいか否か、すなわち目標トータル変速比が無段変速領域内の変速比であるか否かが判断される。自動変速機1が、ギヤ列10で設定する変速比がCVT8で設定可能な最小無段変速比よりも小さい構成である場合には、目標トータル変速比が無段変速閾値(すなわち、この場合は最小無段変速比)よりも小さいか否かが判断される。
このステップS2における判断は、具体的には、図4に示すようなマップを用いて行うことができる。すなわち、求められた目標トータル変速比を図4に示すマップに当てはめ、その目標トータル変速比が、固定変速領域に属しているかもしくは無段変速領域に属しているかを判断することにより、目標トータル変速比が無段変速領域内の変速比であるか否かを判断することができる。
この図4に示すマップは、切替変速判断用のマップであり、自動変速機1の構成に基づいて予め設定されている。この切替変速判断用マップは、図4に示すとおり、ギヤ列10を備えた第2伝動経路で設定する変速比の領域を決めた固定変速領域と、CVT8を備えた第1伝動経路で設定する変速比の領域を決めた無段変速領域とでの2つの領域で表されるシンプルなマップである。このようなシンプルなマップを適用することにより、切替変速の要否の判断を容易に行うことができる。また、第2伝動経路におけるギヤ列10を複数の変速比を設定可能な有段変速機構として構成した場合に、その有段変速機構における変速制御のための変速線図を、この図4に示す切替変速判断用マップに統合することができる。そのため、変速制御を実行する際のECU14における演算負荷を軽減することができる。またマップ等を記憶するためのメモリ量の増加を抑制することができる。
目標トータル変速比が無段変速閾値よりも大きいこと、すなわち、目標トータル変速比が固定変速領域内に属する変速比であることにより、このステップS2で肯定的に判断された場合は、ステップS3へ進む。そして、目標トータル変速比を、ギヤ列10を備えた第2伝動経路における固定変速で実現する変速制御が実行される。この場合、第1伝動経路におけるCVT8の変速比は、固定変速採用時変速比に設定される。この固定変速採用時変速比は、第1伝動経路から第2伝動経路への切替変速に備えてCVT8の変速比をギヤ列10の変速比に近づけて待機させておくための変速比である。
したがって、この場合は、CVT8の最大無段変速比もしくはそれに近い変速比に設定される。そして、現時点で自動変速機1の動力伝達経路が第1伝動経路に設定されている場合は、その動力伝達経路を第1伝動経路から第2伝動経路へ切り替える切替変速が併せて実行される。現時点で自動変速機1の動力伝達経路が第2伝動経路に設定されている場合には、その状態が維持されて、ギヤ列10を介した変速制御が継続される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
一方、目標トータル変速比が無段変速閾値以下であること、すなわち、目標トータル変速比が無段変速領域内に属する変速比であることにより、ステップS2で否定的に判断された場合には、ステップS4へ進む。そして、目標トータル変速比を、CVT8を備えた第1伝動経路における無段変速で実現する変速制御が実行される。そして、現時点で自動変速機1の動力伝達経路が第2伝動経路に設定されている場合は、その動力伝達経路を第2伝動経路から第1伝動経路へ切り替えられる。すなわち、第2伝動経路から第1伝動経路への切替変速が併せて実行される。現時点で自動変速機1の動力伝達経路が第1伝動経路に設定されている場合には、その状態が維持されて、CVT8による無段変速制御が継続される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記の図3のフローチャートに示す第1制御例を実行した場合の、入力軸ならびに出力軸の回転数変化や、目標変速比ならびに実変速比の遷移を、図5のタイムチャートに示してある。この例は、例えば車両Veが停止した後に再発進する場合などのように、ギヤ列10を備えた第2伝動経路を経由して動力伝達を行う状態から、CVT8を備えた第1伝動経路を経由して動力伝達を行う状態へ切り替える場合の例を示している。
図5のタイムチャートにおいて、時刻t11で運転者のアクセル操作が行われ、車両Veが発進させられると、入力軸5に伝達される実入力回転数が、目標入力軸回転数に追従して徐々に増大する。そして、時刻t12で実入力軸回転数が無段変速時の目標入力軸回転数に達すると、自動変速機1全体に対する目標トータル変速比が徐々に低下させられる。すなわち、目標トータル変速比が、ギヤ列10からCVT8への切替変速に備えて、CVT8の最大無段変速比に近づくように低下させられる。
目標トータル変速比が、時刻t13で無段変速閾値(すなわち、前述したような最大無段変速比もしくはそれに近い変速比)に達すると、ギヤ列10からCVT8への切替変速が実行される。具体的には、目標入力軸回転数が、固定変速採用時の目標入力軸回転数から、無段変速時の目標入力軸回転数へ切り替えられて設定される。そして、時刻t13以降で、自動変速機1ではCVT8を介した動力伝達が行われるとともに、そのCVT8による無段変速制御が実行される。
(第2制御例)
図6は、この発明に係る制御装置により実行される第2制御例を説明するためのフローチャートである。前述の第1制御例では、目標トータル変速比が無段変速閾値を越えるまでの間は、実入力軸回転数すなわち実エンジン回転数が上昇することによって、切替変速の際に係合されるクラッチ機構における回転数差が生じる場合や、CVT8の変速比が燃費最適線から外れるために燃費の悪化が生じる場合がある。そこで、この発明は、この第2制御例として示すように、切替変速に要する切替変速時間を考慮して、その切替変速時間分を先行させて切替変速を実行することにより、上記のような課題を解決するように構成されている。なお、この第2制御例では、自動変速機1においてギヤ列10を介して動力を伝達する第2伝動経路が選択されている状態からCVT8を介して動力を伝達する第1伝動経路への切替変速を実行する場合を想定している。
図6において、先ず、アクセル開度もしくはエンジン2のスロットル開度、および出力軸回転数を基に、現状で切替変速を実行した場合にその切替変速が完了するまでに要する切替変速時間が推定される(ステップS10)。具体的には、アクセル開度(もしくはスロットル開度)の先読み情報として、アクセル開度センサ(もしくはスロットル開度センサ)によって検出したアクセル開度(もしくはスロットル開度)の微分値が演算される。また、出力軸回転数センサ(もしくは車輪速センサ)によって検出した出力軸回転数(もしくは車速)の先読み情報として、出力軸回転数(もしくは車速)の微分値が演算される。
このように、アクセル開度(もしくはスロットル開度)および出力軸回転数(もしくは車速)の微分値を求めることにより、それらアクセル開度(もしくはスロットル開度)および出力軸回転数(もしくは車速)の変化傾向や変化速度を知ることができる。そして、それらアクセル開度(もしくはスロットル開度)および出力軸回転数(もしくは車速)の変化傾向あるいは変化速度から、上記のような切替変速時間を推定することができる。
上記のようにして求められたアクセル開度(もしくはスロットル開度)の先読み情報および出力軸回転数(もしくは車速)の先読み情報を用いて、切替変速の要否について判断される(ステップS11)。すなわち、この場合は、第2伝動経路から第1伝動経路への切替変速、すなわち固定変速状態から無段変速状態への切替変速の要否について、推定された切替変速時間の分だけ先行して判断される。
具体的には、図7に示すような固定・無段変速切り替え線を記した切替変速マップを用いて行うことができる。この図7に示す切替変速マップは、例えば従来の有段変速機における変速制御で用いられる変速線を記した変速マップと同様に、アクセル開度(もしくはスロットル開度)と出力軸回転数(もしくは車速)とから切替変速の実行時期を決める変速線として、「固定→無段切り替え線」および「無段→固定切り替え線」を記したものである。この図7に示す切替変速マップ上において、「固定→無段切り替え線」を境界線にして出力軸回転数が低い側の領域が、固定変速領域となっている。一方、「固定→無段切り替え線」を境界線にして出力軸回転数が高い側の領域が、無段変速領域となっている。したがって、図7において実線で示す「固定→無段切り替え線」を運転点が出力軸回転数が増大する方向に越えた場合に、第2伝動経路から第1伝動経路への切替変速の実行開始が判断されるようになっている。また、図7において破線で示す「無段→固定切り替え線」を運転点が出力軸回転数が減少する方向に越えた場合には、第1伝動経路から第2伝動経路への切替変速の実行開始が判断されるようになっている。
そして、この発明では、この図7に示す切替変速マップに対して、上記のようにして求められたアクセル開度(もしくはスロットル開度)の先読み情報および出力軸回転数(もしくは車速)の先読み情報が当てはめられて、切替変速の要否が判断される。すなわち、推定された切替変速時間が考慮されて、その切替変速時間分早められた条件の下で切替変速の要否が判断される。したがって、この後に切替変速が実行される場合、通常よりも切替変速時間分だけ開始が早められた状態で切替変速が実行されることになる。
未だ第2伝動経路から第1伝動経路への切替変速の実行判断がないこと、すなわち、自動変速機1の運転点が、図7に示す切替変速マップ上で未だ固定変速領域にあることにより、このステップS11で肯定的に判断された場合は、ステップS12へ進む。そして、ギヤ列10を備えた第2伝動経路を介して動力伝達を行う固定変速の状態が維持されるとともに、第1伝動経路におけるCVT8の変速比が、固定変速採用時変速比に設定される。この固定変速採用時変速比は、第1伝動経路から第2伝動経路への切替変速に備えてCVT8の変速比をギヤ列10の変速比に近づけて待機させておくための変速比である。したがって、この場合は、CVT8の最大無段変速比もしくはそれに近い変速比に設定される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、第2伝動経路から第1伝動経路への切替変速の実行判断があったこと、すなわち、自動変速機1の運転点が、図7に示す切替変速マップ上で固定変速領域から無段変速領域へ移ったこと、すなわち、運転点が「固定→無段切り替え線」を出力軸回転数が増大する方向に越えたことにより、ステップS11で否定的に判断された場合には、ステップS13へ進む。そして、第1伝動経路のCVT8における目標変速比が求められる。
この発明では、このステップS13においてCVT8の目標変速比を算出する場合も、前述のステップS10で推定されたアクセル開度(もしくはスロットル開度)の先読み情報および出力軸回転数(もしくは車速)の先読み情報が用いられる。すなわち、前述のステップS11における切替変速の要否判断の場合と同様に、推定された切替変速時間が考慮されて、その切替変速時間分早められた条件の下でCVT8の目標変速比が求められる。
続いて、自動変速機1全体としての目標変速比(トータル変速比)を、CVT8を備えた第1伝動経路における無段変速で実現する変速制御が実行される。そして、自動変速機1の動力伝達経路が第2伝動経路から第1伝動経路へ切り替えられる。すなわち、ギヤ列10からCVT8への切替変速が併せて実行される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
上記の図6のフローチャートに示す第2制御例を実行した場合の、入力軸ならびに出力軸の回転数変化や、目標変速比ならびに実変速比の遷移を、図8のタイムチャートに示してある。この例は、例えば車両Veが停止した後に再発進する場合などのように、ギヤ列10を備えた第2伝動経路を経由して動力伝達を行う状態から、CVT8を備えた第1伝動経路を経由して動力伝達を行う状態へ切り替える場合の例を示している。
図8のタイムチャートにおいて、時刻t21で運転者のアクセル操作が行われ、車両Veが発進させられると、入力軸5に伝達される実入力回転数が、目標入力軸回転数に追従して徐々に増大する。そして、時刻t22で、図7に示す切替変速マップ上で自動変速機1の運転点(すなわち、推定された運転点)が、固定変速領域から無段変速領域へ移ると、第2伝動経路から第1伝動経路への切替変速が開始される。このとき切替変速の実行を判断する際に基準となる自動変速機1の運転点は、前述のようにアクセル開度の先読み情報および出力軸回転数の先読み情報を基に推定された運転点である。
ここで、前述の第1実施例をこの図8のタイムチャート上に示すと、ハッチングを施した部分のようになる。すなわち、この発明を適用しない通常の切替変速の開始時刻を時刻t23とすると、その時刻t23から切替変速が開始された後に、自動変速機1の実入力軸回転数が不可避的な応答遅れを伴って目標入力軸回転数に追従して切替変速が完了する時刻が時刻t24となる。したがって、時刻t23から時刻t24までの期間が切替変速時間となる。
これに対して、第2実施例で示すこの発明では、上記のように、アクセル開度の先読み情報および出力軸回転数の先読み情報を用いることにより、切替変速における切替変速時間が推定される。そして、その推定された切替変速時間の分だけ早められて、実際の切替変速が実行される。
上記の第2実施例で示したように、この発明によれば、自動変速機1の入力軸5と出力軸9との間で動力伝達を行う伝動経路を、第1伝動経路と第2伝動経路との間で切り替える切替変速を実行する場合に、その切替変速の実行が指示されてから、入力軸5の実入力軸回転数が目標入力軸回転数に追従して切替変速が完了するまでの時間が、切替変速時間として推定される。そして、その推定された切替変速時間の分だけ、実際の切替変速の開始時期が早められる。そのため、切替変速を、変速制御の不可避的な応答遅れも考慮した適切なタイミングで実行することができ、例えば、切替変速後のCVT8の実変速比と目標変速比との乖離を防止もしくは抑制することができる。その結果、車両Veの燃費を向上させることができる。また、切替変速のタイミングが適切でないことに起因して運転者に違和感や変速ショックを与えてしまう事態を回避もしくは抑制することができる。
なお、この発明では、上記の第2実施例のように、切替変速時間を推定し、その推定した切替変速時間を基に切替変速の実際の開始時期を早めるようにした制御を応用して、推定した切替変速時間を基に切替変速の実際の開始時期を遅らせるよう制御することも可能である。そのように、推定した切替変速時間を基に切替変速の実際の開始時期を遅らせるようした制御例を、図9のタイムチャートに示してある。この例も、例えば車両Veが停止した後に再発進する場合などのように、ギヤ列10を備えた第2伝動経路を経由して動力伝達を行う状態から、CVT8を備えた第1伝動経路を経由して動力伝達を行う状態へ切り替える場合の例を示している。
図9のタイムチャートにおいて、時刻t31で運転者のアクセル操作が行われ、車両Veが発進させられると、入力軸5に伝達される実入力回転数が、目標入力軸回転数に追従して徐々に増大する。そして、時刻t22でCVT8の実入力軸回転数が目標入力軸回転数に達すると、その時点から切替変速を開始した場合の切替変速時間が推定される。この切替変速時間は、上述した制御例の場合と同様の要領で求めることができる。
そして、この図9のタイムチャートで示す制御例では、上述した制御例の場合とは反対に、推定された切替変速時間の分だけ開始時期が遅らされて、実際の切替変速が実行される。前述したように、車両Veが低車速で走行する領域では、エンジン2は、燃費に有利なようにエンジン回転数が低く抑えられるように制御される。一方、低車速域では、CVT8の変速感度や変速速度が高く、すなわち高車速域の場合と比較して変速応答性が高い。そのため、この状態で切替変速が実行されると、CVT8における無段変速でエンジン回転数を一定に保とうとする一方で、そのCVT8の変速速度が速いことから、切替変速の途中でCVT8の無段変速による変速が行われることになる。その結果、図9のタイムチャートにおいて破線で示すように、目標入力軸回転数の追従する実入力軸回転数が2段階に変化し、それに起因して運転者に違和感やショックを与えてしまう場合がある。
それに対して、この発明では、上記のように切替変速の開始時期が遅くなるように調整される。そのため、CVT8における無段変速が安定した後に、切替変速が実行されることになる。その結果、上記のように運転者に違和感やショックを与えてしまう事態を回避することができる。
(第3制御例)
図10は、この発明に係る制御装置により実行される第3制御例を説明するためのブロック図である。この第3制御例は、切替変速の実行判断とCVT8における無段変速制御とを同時に演算し、それら切替変速とCVT8における無段変速とを協調させて実行するようにした例である。
この第3制御例では、図10のブロック図に示すように、ECU14は、車両状態判定部(ブロックB1)、切替変速判断部(ブロックB2)、無段変速判断部(ブロックB3)、および、切替変速判断部の判断結果に対応する出力部(ブロックB4)ならびに無段変速判断部の判断結果に対応する出力部(ブロックB5)を備えている。
車両状態判定部(ブロックB1)では、出力軸回転数もしくは車速や、アクセル開度もしくはスロットル開度等の情報を基に、現時点の車両Veの走行状態が判定されるとともに、車両Veの走行に対する運転者の走行意図が推定される。運転者の走行意図としては、具体的には、加速や変速安定性を優先した走行を意図しているか、あるいは、燃費を優先した走行を意図しているかが推定されて判断される。このような運転者の走行意図は、運転者がアクセル開度を操作する際の操作量や操作速度に基づいて推定することができる。例えば、アクセル操作の操作量および操作速度が大きいほど、運転者は加速を優先した走行を意図していると推定することができる。また、一定の操作量が所定の時間以上継続されているような場合は、運転者は燃費を優先した走行を意図していると推定することができる。
そして、この車両状態判定部では、上記のようにして判定もしくは推定した車両Veの走行状態および運転者の走行意図に基づいて、切替変速とCVT8における無段変速との協調制御の内容が決定される。例えば、運転者の走行意図が加速や変速安定性を優先していると推定された場合は、従来の制御のように、切替変速の実行中はCVT8の変速比を固定する制御モードが選択される。また、運転者の走行意図が燃費を優先していると推定された場合、および、燃費を優先するように設定されたスロットル開度領域である場合には、前述した第1実施例や第2実施例のように、CVT8の変速比を固定することなく、車速(もしくは出力軸回転数)やスロットル開度(もしくはアクセル開度)に応じた切替変速を実行する制御モードが選択される。
切替変速判断部(ブロックB2)では、例えば、前述した図4のマップあるいは図7のマップを用いて、切替変速の要否が判断される。すなわち、例えば出力軸回転数(もしくは車速)およびアクセル開度(もしくはスロットル開度)から決まる運転点がマップ上でどの領域に属しているかを判断することにより、切替変速の要否を判断することができる。そして、その判断結果に基づく制御内容の指示が、出力部(ブロックB4)から出力されるようになっている。
無段判断部(ブロックB3)では、例えば、従来行われている燃費最適線を記した変速マップに基づいて、CVT8で設定する変速比が目標無段変速比として求められる。そして、その目標無段変速比に実変速比を追従させる無段変速制御の指示が、出力部(ブロックB5)から出力されるようになっている。
上記の図10のブロック図に示す第3制御例を実行した場合の、入力軸ならびに出力軸の回転数変化や、目標変速比ならびに実変速比の遷移を、図11のタイムチャートに示してある。図11のタイムチャートにおいて、時刻t41で運転者のアクセル操作が行われ、車両Veが発進もしくは加速させられると、入力軸5に伝達される実入力回転数が、目標入力軸回転数に追従して徐々に増大する。そして、この第3制御例では、上記のように、車両Veの走行状態や運転者の走行意図に応じて、切替変速の実行の仕方が変更される。例えば、運転者の走行意図が加速や変速安定性を優先していると推定された場合は、時刻t42で切替変速の開始が指示されて、前述の第2制御例で示したような内容の切替変速が実行される。また、例えば、車両Veが所定の低車速域を走行している場合には、時刻t43で切替変速の開始が指示されて、前述の図9のタイムチャートで示した制御例のような内容の切替変速が実行される。
このように、この第3制御例では、車両Veの走行状態や運転者の走行意図に基づいて、切替変速およびCVT8における無段変速の制御内容が適宜変更されて、それら切替変速およびCVT8における無段変速が適切に実行される。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、ステップS14を実行する機能的手段が、この発明における「実行手段」に相当する。また、ステップS10を実行する機能的手段が、この発明における「推定手段」に相当する。そして、ステップS10,S11を実行する機能的手段が、この発明における「調整手段」に相当する。
なお、上述した具体例では、自動変速機1の構成において、ギヤ列10による変速比をCVT8の最大変速比よりも大きくした例を示しているが、この発明で制御対象とする自動変速機1は、CVT8で設定できない変速比をギヤ列10によって設定するように構成されていてもよい。したがって、この発明の自動変速機1では、例えば、ギヤ列10による変速比がCVT8での最小変速比よりも小さくなるように構成することもできる。そのように構成した場合、ロックアップクラッチ4の係合時やエンジン2を低負荷で運転して走行する際に、エンジン回転数をCVT8によるトルク伝達時よりも低回転数にすることができる。そのため、エンジン2の燃費を更に向上させることができる。また、ギヤ列10は、複数の変速比を選択的に設定できるように構成されていてもよい。