以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。同図は、ブレーキ制御装置において、スリップ制御に伴う主流路の増圧制御が行われていない状態を表している。
ブレーキ制御装置20は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。このブレーキ制御装置20は、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置20による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施の形態の車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
ブレーキ制御装置20は、車輪(図示せず)ごとに設けられたディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RR及び21RLと、マスタシリンダユニット10と、動力液圧源30と、液圧アクチュエータ40とを含む。
ディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RR及び21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、及び左後輪のそれぞれに制動力を付与する。マニュアル液圧源としてのマスタシリンダユニット10は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル24の運転者による操作量に応じて加圧されたブレーキフルードをディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出する。動力液圧源30は、動力の供給により加圧された作動液としてのブレーキフルードを、運転者によるブレーキペダル24の操作から独立してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに対して送出することが可能である。液圧アクチュエータ40は、動力液圧源30又はマスタシリンダユニット10から供給されたブレーキフルードの液圧を適宜調整してディスクブレーキユニット21FR〜21RLに送出する。これにより、液圧制動による各車輪に対する制動力が調整される。
次に、ディスクブレーキユニット21FR〜21RL、マスタシリンダユニット10、動力液圧源30、及び液圧アクチュエータ40のそれぞれについて説明する。
各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ23FR〜23RLを含む。そして、各ホイールシリンダ23FR〜23RLは、それぞれ異なる流体通路を介して液圧アクチュエータ40に接続されている。なお、以下の説明では適宜、ホイールシリンダ23FR〜23RLを総称して「ホイールシリンダ23」という。
ディスクブレーキユニット21FR〜21RLにおいては、ホイールシリンダ23に液圧アクチュエータ40からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。なお、本実施の形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ23を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。
マスタシリンダユニット10は、本実施の形態では液圧ブースタ付きマスタシリンダであり、液圧ブースタ31、マスタシリンダ32、レギュレータ33、及びリザーバ34を含む。液圧ブースタ31は、ブレーキペダル24に連結されており、ブレーキペダル24に加えられたペダル踏力を増幅してマスタシリンダ32に伝達する。動力液圧源30からレギュレータ33を介して液圧ブースタ31にブレーキフルードが供給されることにより、ペダル踏力は増幅される。そして、マスタシリンダ32は、ペダル踏力に対して所定の倍力比を有するマスタシリンダ圧を発生する。
マスタシリンダ32及びレギュレータ33の上部には、ブレーキフルードを貯留するリザーバ34が配置されている。マスタシリンダ32は、ブレーキペダル24の踏み込みが解除されているときにリザーバ34と連通する。一方、レギュレータ33は、リザーバ34と動力液圧源30のアキュムレータ35との双方と連通しており、リザーバ34を低圧源とすると共に、アキュムレータ35を高圧源とし、マスタシリンダ圧とほぼ等しい液圧を発生する。レギュレータ33における液圧を以下では適宜、「レギュレータ圧」という。
動力液圧源30は、アキュムレータ35及びポンプ36を含む。アキュムレータ35は、ポンプ36により昇圧されたブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギ、例えば14〜22MPa程度に変換して蓄えるものである。ポンプ36は、駆動源としてモータ36aを有し、その吸込口がリザーバ34に接続される一方、その吐出口がアキュムレータ35に接続される。また、アキュムレータ35は、マスタシリンダユニット10に設けられたリリーフバルブ35aにも接続されている。アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ35aが開弁し、高圧のブレーキフルードはリザーバ34へと戻される。
上述のように、ブレーキ制御装置20は、ホイールシリンダ23に対するブレーキフルードの供給源として、マスタシリンダ32、レギュレータ33及びアキュムレータ35を有している。そして、マスタシリンダ32にはマスタ配管37が、レギュレータ33にはレギュレータ配管38が、アキュムレータ35にはアキュムレータ配管39が接続されている。これらのマスタ配管37、レギュレータ配管38及びアキュムレータ配管39は、それぞれ液圧アクチュエータ40に接続される。
液圧アクチュエータ40は、複数の流路が形成されるアクチュエータブロックと、複数の電磁制御弁を含む。アクチュエータブロックに形成された流路には、個別流路41、42,43及び44と、主流路45とが含まれる。個別流路41〜44は、それぞれ主流路45から分岐されて、対応するディスクブレーキユニット21FR、21FL,21RR,21RLのホイールシリンダ23FR、23FL,23RR,23RLに接続されている。これにより、各ホイールシリンダ23は主流路45と連通可能となる。
また、個別流路41,42,43及び44の中途には、スリップ制御弁としてのABS保持弁51,52,53及び54が設けられている。各ABS保持弁51〜54は、ON/OFF制御されるソレノイド及びスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされた各ABS保持弁51〜54は、ブレーキフルードを双方向に流通させることができる。つまり、主流路45からホイールシリンダ23へとブレーキフルードを流すことができるとともに、逆にホイールシリンダ23から主流路45へもブレーキフルードを流すことができる。ソレノイドに通電されて各ABS保持弁51〜54が閉弁されると、個別流路41〜44におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
更に、ホイールシリンダ23は、個別流路41〜44にそれぞれ接続された減圧用流路46,47,48及び49を介してリザーバ流路55に接続されている。減圧用流路46,47,48及び49の中途には、スリップ制御弁としてのABS減圧弁56,57,58及び59が設けられている。各ABS減圧弁56〜59は、ON/OFF制御されるソレノイド及びスプリングをそれぞれ有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。各ABS減圧弁56〜59が閉状態であるときには、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて各ABS減圧弁56〜59が開弁されると、減圧用流路46〜49におけるブレーキフルードの流通が許容され、ブレーキフルードがホイールシリンダ23から減圧用流路46〜49及びリザーバ流路55を介してリザーバ34へと還流する。なお、リザーバ流路55は、リザーバ配管77を介してマスタシリンダユニット10のリザーバ34に接続されている。
主流路45は、中途に分離弁60を有する。この分離弁60により、主流路45は、個別流路41及び42と接続される第1流路45aと、個別流路43及び44と接続される第2流路45bとに区分けされている。第1流路45aは、個別流路41及び42を介して前輪側のホイールシリンダ23FR及び23FLに接続され、第2流路45bは、個別流路43及び44を介して後輪側のホイールシリンダ23RR及び23RLに接続される。
分離弁60は、ON/OFF制御されるソレノイド及びスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。分離弁60が閉状態であるときには、主流路45におけるブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されて分離弁60が開弁されると、第1流路45aと第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
また、液圧アクチュエータ40においては、主流路45に連通するマスタ流路61及びレギュレータ流路62が形成されている。より詳細には、マスタ流路61は、主流路45の第1流路45aに接続されており、レギュレータ流路62は、主流路45の第2流路45bに接続されている。また、マスタ流路61は、マスタシリンダ32と連通するマスタ配管37に接続される。レギュレータ流路62は、レギュレータ33と連通するレギュレータ配管38に接続される。
マスタ流路61は、中途にマスタカット弁64を有する。マスタカット弁64は、ON/OFF制御されるソレノイド及びスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁64は、マスタシリンダ32と主流路45の第1流路45aとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてマスタカット弁64が閉弁されると、マスタ流路61におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
また、マスタ流路61には、マスタカット弁64よりも上流側において、シミュレータカット弁68を介してストロークシミュレータ69が接続されている。すなわち、シミュレータカット弁68は、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69とを接続する流路に設けられている。シミュレータカット弁68は、ON/OFF制御されるソレノイド及びスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。シミュレータカット弁68が閉状態であるときには、マスタ流路61とストロークシミュレータ69との間のブレーキフルードの流通は遮断される。ソレノイドに通電されてシミュレータカット弁68が開弁されると、マスタシリンダ32とストロークシミュレータ69との間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。
ストロークシミュレータ69は、複数のピストンやスプリングを含むものであり、シミュレータカット弁68の開放時に運転者によるブレーキペダル24の踏力に応じた反力を創出する。ストロークシミュレータ69としては、運転者によるブレーキ操作のフィーリングを向上させるために、多段のバネ特性を有するものが採用されると好ましい。
レギュレータ流路62は、中途にレギュレータカット弁65を有する。レギュレータカット弁65も、ON/OFF制御されるソレノイド及びスプリングを有しており、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたレギュレータカット弁65は、レギュレータ33と主流路45の第2流路45bとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに通電されてレギュレータカット弁65が閉弁されると、レギュレータ流路62におけるブレーキフルードの流通は遮断される。
液圧アクチュエータ40には、マスタ流路61及びレギュレータ流路62に加えて、アキュムレータ流路63も形成されている。アキュムレータ流路63の一端は、主流路45の第2流路45bに接続され、他端は、アキュムレータ35と連通するアキュムレータ配管39に接続される。
アキュムレータ流路63は、中途に液圧供給制御弁としての増圧リニア制御弁66を有する。また、アキュムレータ流路63及び主流路45の第2流路45bは、減圧リニア制御弁67を介してリザーバ流路55に接続されている。増圧リニア制御弁66と減圧リニア制御弁67とは、それぞれリニアソレノイド及びスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型電磁制御弁である。増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67は、上下流間の差圧が所定値以上になったときに開弁し、開弁時にはそれぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。
増圧リニア制御弁66は、各車輪に対応して複数設けられた各ホイールシリンダ23に対して共通の増圧用制御弁として設けられている。また、減圧リニア制御弁67も同様に、各ホイールシリンダ23に対して共通の減圧用制御弁として設けられている。つまり、本実施の形態においては、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67は、動力液圧源30から送出される作動液を各ホイールシリンダ23へ給排制御する1対の共通の制御弁として設けられている。このように増圧リニア制御弁66等を各ホイールシリンダ23に対して共通化すれば、ホイールシリンダ23ごとにリニア制御弁を設けるのと比べて、コストの観点からは好ましい。
なお、ここで、増圧リニア制御弁66の上下流間の差圧は、アキュムレータ35におけるブレーキフルードの圧力と主流路45におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応し、減圧リニア制御弁67の上下流間の差圧は、主流路45におけるブレーキフルードの圧力とリザーバ34におけるブレーキフルードの圧力との差圧に対応する。また、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67のリニアソレノイドへの供給電流に応じた電磁駆動力をF1とし、スプリングの付勢力をF2とし、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67の上下流間の差圧に応じた差圧作用力をF3とすると、F1+F3=F2という関係が成立する。
従って、閉弁時においてリニアソレノイドに予め電流を供給して電磁駆動力F1を与えておくことで、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67が開弁するときの上下流間の差圧(開弁差圧)を設定しておくことができる。一方、開弁後は差圧作用力F3がなくなるため、電磁駆動力F1を大きくするほど、これに対抗するスプリングの付勢力F2が大きくなる。つまり、スプリングが弁部から後退するため、弁の開度が大きくなる。この弁の開度は、電磁駆動力F1、つまりソレノイドに供給される電流に比例する。
ブレーキ制御装置20において、動力液圧源30及び液圧アクチュエータ40は、本実施の形態における制御部としてのブレーキECU70により制御される。ブレーキECU70は、CPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポート及び通信ポート等を備える。そして、ブレーキECU70は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能であり、ハイブリッドECUからの制御信号や、各種センサからの信号に基づいて動力液圧源30のポンプ36や、液圧アクチュエータ40を構成する電磁制御弁51〜54,56〜59,60,64〜68を制御して、ブレーキ回生協調制御を実行可能である。
また、ブレーキECU70には、レギュレータ圧センサ71、アキュムレータ圧センサ72、及び制御圧センサ73が接続される。レギュレータ圧センサ71は、レギュレータカット弁65の上流側でレギュレータ流路62内のブレーキフルードの圧力、すなわちレギュレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。検出部としてのアキュムレータ圧センサ72は、増圧リニア制御弁66の上流側でアキュムレータ流路63内のブレーキフルードの圧力、すなわちアキュムレータ圧を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。制御圧センサ73は、主流路45の第1流路45a内のブレーキフルードの圧力を検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。各圧力センサ71〜73の検出値は、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、本実施の形態においては、各圧力センサ71〜73は自己診断機能を有しており、センサ内部での異常の有無をセンサごとに検出し、ブレーキECU70に異常の有無を示す信号を送信することができる。
分離弁60が開状態とされて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通している場合、制御圧センサ73の出力値は、増圧リニア制御弁66の低圧側の液圧を示すと共に減圧リニア制御弁67の高圧側の液圧を示す。また、増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67が閉鎖されていると共に、マスタカット弁64が開状態とされている場合、制御圧センサ73の出力値は、マスタシリンダ圧を示す。更に、分離弁60が開放されて主流路45の第1流路45aと第2流路45bとが互いに連通しており、各ABS保持弁51〜54が開放される一方、各ABS減圧弁56〜59が閉鎖されている場合、制御圧センサの73の出力値は、各ホイールシリンダ23に作用する作動液圧、すなわちホイールシリンダ圧を示す。
さらに、ブレーキECU70に接続されるセンサには、ブレーキペダル24に設けられたストロークセンサ25も含まれる。ストロークセンサ25は、ブレーキペダル24の操作量としてのペダルストロークを検知し、検知した値を示す信号をブレーキECU70に与える。ストロークセンサ25の出力値も、所定時間おきにブレーキECU70に順次与えられ、ブレーキECU70の所定の記憶領域に所定量ずつ格納保持される。なお、ストロークセンサ25以外のブレーキ操作状態検出手段をストロークセンサ25に加えて、あるいは、ストロークセンサ25に代えて設け、ブレーキECU70に接続してもよい。ブレーキ操作状態検出手段としては、例えば、ブレーキペダル24の操作力を検出するペダル踏力センサや、ブレーキペダル24が踏み込まれたことを検出するブレーキスイッチなどがある。
上述のように構成されたブレーキ制御装置20は、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置20は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求は例えば、運転者がブレーキペダル24を操作した場合や、走行中に他の車両との距離を自動制御している際に当該他の車両との距離が所定の距離よりも狭まった場合などに生起される。
制動要求を受けて、ブレーキECU70は、要求総制動力から回生による制動力を減じることにより、ブレーキ制御装置20により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、ハイブリッドECUからブレーキ制御装置20に供給される。そして、ブレーキECU70は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ23FR〜23RLの目標液圧を算出する。ブレーキECU70は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、増圧リニア制御弁66や減圧リニア制御弁67に対する供給電流の値を決定する。
その結果、ブレーキ制御装置20においては、動力液圧源30から増圧リニア制御弁66を介してブレーキフルードが各ホイールシリンダ23に供給されて車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ23からブレーキフルードが減圧リニア制御弁67を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。なお、このとき、ブレーキECU70は、レギュレータカット弁65を閉状態とし、レギュレータ33から送出されるブレーキフルードが主流路45へ供給されないようにする。更にブレーキECU70は、マスタカット弁64を閉状態とするとともにシミュレータカット弁68を開状態とする。これは、運転者によるブレーキペダル24の操作に伴ってマスタシリンダ32から送出されるブレーキフルードがストロークシミュレータ69へと供給されるようにするためである。
また、ブレーキ制御装置20は、各車輪の路面に対する滑りを抑制するための、いわゆるABS(Anti−lock Brake System)制御、VSC(Vehicle Stability Control)制御、及びTRC(Traction Control)制御を実行することができる。ABS制御は、急ブレーキ時や滑りやすい路面でブレーキをかけたときに起こるタイヤのロックを抑制するための制御である。VSC制御は、車両の旋回時における車輪の横滑りを抑制するための制御である。TRC制御は、車両の発進時や加速時に駆動輪の空転を抑制するための制御である。これらのABS制御等が行われる場合にはブレーキ回生協調制御は実行されずに、要求制動力はブレーキ制御装置20が発生させる液圧制動力でまかなわれる。なお、これらの車輪の滑りを抑制するためのスリップ制御を総称して、以下では適宜「ABS制御等」と称する。
ブレーキECU70が、ABS制御等を実行するために必要な演算等を行う。ブレーキECU70は、車両減速度やスリップ率等に基づいて公知の手法により算出された所定のデューティ比でABS保持弁51〜54、ABS減圧弁56〜59を開閉する。ABS保持弁51〜54を開状態とすることにより、ABS保持弁51〜54の上流に設けられた共通の制御弁である増圧リニア制御弁66及び減圧リニア制御弁67により調圧されたブレーキフルードが各ホイールシリンダ23に供給される。また、ABS減圧弁56〜59を開状態とすることにより、各ホイールシリンダ23のブレーキフルードがリザーバ34へと排出される。これにより、各ホイールシリンダ23にブレーキフルードが給排され、車輪の滑りが抑制されるように各車輪に付与される制動力が制御される。
図2は、ブレーキ制御装置においてスリップ制御による増圧制御が行われている状態を表す説明図である。
以下では便宜上、増圧リニア制御弁66からの作動液の供給対象となるホイールシリンダ23や主流路45等の容積、言い換えれば、増圧リニア制御弁66から送出された作動液が流入可能である容積を、以下では適宜、「消費油量」と称する。また、開状態とされたABS保持弁51〜54の数を、ABS保持弁51〜54の開弁数と適宜言うこととする。
ABS制御等の車輪の滑りを抑制するためのスリップ制御の実行中には、ABS保持弁51〜54の開閉状態に応じて消費油量が変動する。例えば、ABS保持弁51〜54の開弁数が増加すれば消費油量は増大し、逆に、ABS保持弁51〜54の開弁数が減少すれば消費油量は減少する。このような状況下で、一定の制御則により増圧リニア制御弁66を制御すると、ABS保持弁51〜54の開閉に伴う消費油量の変動に起因して、ABS保持弁51〜54の一次側の液圧も変動してしまう場合がある。このため、ABS制御等を実行する際には、ABS保持弁51〜54の一次側の液圧を一定の必要圧力に保持することが望ましい。なお、ここで、ABS保持弁51〜54の一次側の液圧とは、ABS保持弁51〜54の上流かつ増圧リニア制御弁66の下流の液圧、言い換えれば、主流路45における液圧である。また、必要圧力とは、ブレーキECU70がABS制御等を行うに際してABS保持弁51〜54の一次側に必要な液圧として演算した圧力である。この必要圧力は、ABS制御等によってABS保持弁51〜54及びABS減圧弁56〜59が開閉しても、各ホイールシリンダ23に安定した液圧を供給するために必要な元圧、つまりABS保持弁51〜54の一次側に保持すべき液圧である。
そこで、本実施の形態においては、ブレーキECU70は、消費油量が変動してもABS保持弁51〜54の一次側の液圧が速やかに上記必要圧力に収束するように、増圧リニア制御弁66の開弁差圧を設定する。
すなわち、既に述べたように、増圧リニア制御弁66の電磁駆動力F1、スプリングの付勢力F2、及び増圧リニア制御弁66の差圧作用力F3との間には、F1+F3=F2という関係が成立する。ここで、閉弁時のスプリングの付勢力F2は一定値であり、電磁駆動力F1と差圧作用力F3は、増圧リニア制御弁66のリニアソレノイドへの供給電力に応じて決まる。このため、このリニアソレノイドへの供給電流がある値に設定されれば、増圧リニア制御弁66は、その上下流間の差圧がその供給電流に対応した所定の開弁差圧を超えたときに機械的に開弁する。その上下流間の差圧がその開弁差圧以下になると、増圧リニア制御弁66は閉じる。増圧リニア制御弁66は、このような動作を繰り返すことになる。
そこで、本実施の形態では、このような増圧リニア制御弁66の作用を利用し、ABS保持弁51〜54の一次側の液圧が必要圧力に満たないときに増圧リニア制御弁66を機械的に開弁させ、常にその必要圧力が得られるようにする。
すなわち、ブレーキECU70は、要求液圧制動力に基づいて上述したABS制御等を実行するための演算を行ったうえで、ABS保持弁51〜54の一次側の液圧として上記必要圧力を算出する。ブレーキECU70は、続いて、アキュムレータ圧センサ72から取得したアキュムレータ圧とこの必要圧力との差圧を演算し、これを増圧リニア制御弁66の開弁差圧として設定する。つまり、その開弁差圧が設定されるように、増圧リニア制御弁66への供給電流が増減される。これら必要圧力やアキュムレータ圧はABS制御等の状態によって変化し得るため、この開弁差圧は逐次変更されることになる。
このようにして、増圧リニア制御弁66は、その上下流間の差圧がその開弁差圧になる度に開弁する。その結果、ABS保持弁51〜54の一次側の液圧が、常にABS制御等に必要な圧力に保持されることになる。
次に、本実施の形態のブレーキ制御処理について説明する。図3は、実施の形態におけるスリップ制御処理を表すフローチャートである。この処理は、制動時に所定の周期、例えば数msecごとに実行される。以下、この処理の流れをステップ番号(以下「S」で表記する)を用いて説明する。
上述した制動要求が発生して処理が開始されると、ブレーキECU70は、まず車輪の滑りを抑制するためのABS制御、VSC制御、あるいはTRC制御等の各ABS保持弁51〜54の開閉を伴う制御が実行されているか否かを判定する(S10)。これらの制御が実行されていないと判定された場合には(S10のNo)、ブレーキECU70は、スリップ制御処理を終了して通常のブレーキ制御を実行する。すなわち、上述したブレーキ回生協調制御等を実行する。
一方、これらの制御のいずれかが実行されていると判定された場合には(S10のYes)、ブレーキECU70は、各ABS保持弁51〜54の上流側の液圧、すなわち増圧リニア制御弁66の下流側となる主流路45における必要圧力Pwcを算出する(S12)。次いで、ブレーキECU70は、アキュムレータ圧センサ72により増圧リニア制御弁66の上流側の現在のアキュムレータ圧Paqを測定する(S14)。
そして、ブレーキECU70は、このアキュムレータ圧Paqと必要圧力Pwcとの差圧が増圧リニア制御弁66の開弁圧力となるように、増圧リニア制御弁66の制御電流を設定しておく(S16)。
これにより、増圧リニア制御弁66は、その下流の液圧、つまりABS保持弁51〜54の一次側の液圧が必要圧力よりも低下すると直ちに開弁して液圧を補うように動作する。その結果、ABS保持弁51〜54の一次側の液圧は、常に必要圧力に保持される。
以上に説明したように、本実施の形態のブレーキ制御装置では、ABS保持弁51〜54の上流の液圧が逐次算出される必要圧力となるように、増圧リニア制御弁66の開弁差圧が設定される。このため、ABS保持弁51〜54のいずれかの開弁によってその上流の液圧が減少し、増圧リニア制御弁66の上下流間の差圧が設定した開弁差圧より大きくなると、増圧リニア制御弁66が開弁してその液圧を所定圧力に戻すように作用する。その結果、ABS保持弁51〜54の上流には常に安定した液圧が保持されることになる。しかも、増圧リニア制御弁66は、その一次圧の検出値に基づくフィードバック制御がなされるのではなく、その開弁差圧の発生により機械的に開弁する。このため、制御の遅れを伴うことなく、一次圧が速やかに必要圧力に収束する。つまり、ABS保持弁51〜54は共通の一次圧のもとで独立に開閉制御されるけれども、その一次圧が安定に保持される。
なお、本実施の形態においては、スリップ制御時におけるスリップ制御弁の一次圧を、アキュムレータ35につながる増圧リニア制御弁66により供給する構成を示したが、レギュレータからレギュレータカット弁を介して供給する構成としてもよい。その場合には、そのレギュレータカット弁を、その上下流間の差圧が設定した開弁差圧になったときに開弁するようにすればよい。つまり、スリップ制御が行われる際に、レギュレータカット弁に電流を供給して、複数のスリップ制御弁の上流の液圧が所定圧力となるように開弁差圧を設定するようにすればよい。