しかしながら、特許文献1に記載の発明は、面接着を想定したものであり、例えば多軸調整等のためにエネルギー硬化型接着剤を厚く多量に必要とする場合等には利用できず接着形態が限定されるという問題がある。また、中間保持部材が必要とされ部品点数が増加する上に、被接着部材と接着部材と中間保持部材との3部材について接着性のよいエネルギー硬化型接着剤を考慮する必要があり、さらに、接着箇所が増えるという問題もある。
また、特許文献2に記載の発明及び特許文献3に記載の発明も、基本的に接着形態が面接着に限定されてしまう。さらに、UV硬化型接着剤の塗布むらがある場合は硬化収縮による位置ずれを回避できない可能性がある。
また、特許文献4に記載の発明では、最初に集光によって仮固定を行っても発散光による本固定の際の硬化収縮力が大きいため、位置ずれが大きくなってしまうという問題がある。一方、特許文献5に記載の発明では、熱変形以外の硬化収縮については考慮されておらず、硬化するごとにその硬化収縮量が積み重なっていくため、最終的には位置ずれが大きく現れることとなる。
また、特許文献6乃至特許文献8の各特許文献に記載の発明では、エネルギー硬化型接着剤の量を増やせばこれに比例して硬化収縮量も増えその分位置ずれが大きくなるため、エネルギー硬化型接着剤を多く必要とする接着形態等には好適とはいえず、また、添加剤を加えることにより光の透過率が低下しその分硬化させるためのエネルギーの照射量を多くする必要が生じる場合がある。
そこで、本願発明者は、このような問題に鑑みて、先に特願2003−185663号で、被接着部材とこの被接着部材に対して位置合わせされた接着部材との間のエネルギー硬化型接着剤を硬化させることによって被接着部材と接着部材とを接合するに際し、エネルギー硬化型接着剤の硬化層が被接着部材と接着部材とに架からないように未硬化層を残してエネルギー硬化型接着剤の一部を層状に硬化させた後に、未硬化の残部を硬化することで、先に硬化する接着層での硬化収縮力を未硬化層で吸収させることにより、接着部材と被接着部材との間に生じる硬化収縮力の伝達による相対的な位置ずれを低減し得る接着技術を提案した。
しかし、未硬化層を作るために硬化速度の異なる接着剤や吸収エネルギー帯が異なる接着剤を層状に塗布するのは容易ではなく、接着層が混ざり合うことで被接着部材と接着部材とが硬化層で早期に結合されてしまい、収縮力による部品のずれが発生し、所望の効果が低減してしまうという問題点があった。また、エネルギー線を接着剤に選択的に照射させることにより硬化層を形成して未硬化層を残す場合でも、接着剤の内部でのエネルギー線の散乱により被接着部材と接着部材との間で部分的に硬化層がつながってしまい、同じく所望の効果が低減してしまうという問題点があった。
そこで、本発明の目的は、エネルギー硬化型接着剤の硬化収縮による位置ずれを確実に抑制することができ、より容易に高精度な位置合わせを可能とする接合構造を有する物品、その接合方法を提供することにある。
本発明は、基本的に、接合すべき2つの部材間でエネルギー硬化型接着剤を硬化させることによって前記両部材を接合するに際し、エネルギー硬化型接着剤の硬化層が前記両部材間に架からないように未硬化層を残してエネルギー硬化型接着剤の一部を層状に硬化させた後に、未硬化の残部を硬化することで、先に硬化する接着層での硬化収縮力を未硬化層で吸収させ、これにより、前記両部材間に生じる硬化収縮力による相対的な位置ずれを抑制し、さらに、先に硬化される接着層と、該接着層の硬化後に硬化される接着層とが両者の硬化前に相互に混ざり合うことを確実に防止するための分離部材を両接着層間に配置することを特徴とする。
すなわち、請求項1に記載の発明は、2つの部材を該両部材間に配置されたエネルギー硬化型接着剤の硬化により接合すべく、前記エネルギー硬化型接着剤の層状に硬化された硬化層が前記両部材間に架からないように前記エネルギー硬化型接着剤に未硬化層を残して前記硬化層を形成した後、前記未硬化層を硬化して形成される接合構造を有する物品であって、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化部には、その硬化前に前記未硬化層及び前記硬化層のための各接着層を分離するための板状の分離部材が配置され、前記エネルギー硬化型接着剤の前記分離部材で分離された前記各接着層は硬化速度が相互に異なる接着剤からなることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の接合構造を有する物品において、前記分離部材は相互に接合される前記両部材のいずれか一方を取り巻いて配置されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、2つの部材を該両部材間に配置されたエネルギー硬化型接着剤の硬化により接合すべく、前記エネルギー硬化型接着剤の層状に硬化された硬化層が前記両部材間に架からないように前記エネルギー硬化型接着剤に未硬化層を残して前記硬化層を形成した後、前記未硬化層を硬化して形成される接合構造を有する物品であって、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化部には、その硬化前に前記未硬化層及び前記硬化層のための各接着層を分離するための板状の分離部材が配置され、前記エネルギー硬化型接着剤の前記分離部材で分離された前記各接着層は吸収エネルギー帯が相互に異なる接着剤からなることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の接合構造を有する物品において、前記分離部材は相互に接合される前記両部材のいずれか一方を取り巻いて配置されていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の接合構造を有する物品において、相互に接合される前記両部材のいずれか一方が支柱部を有し、その他方が前記支柱部を間隔をおいて受け入れる穴を有し、前記エネルギー硬化型接着剤は前記支柱部と前記穴の周壁との間隙に充填され、前記分離部材は前記穴内で前記エネルギー硬化型接着剤を各接着層に分離すべく前記支柱部を取り巻いて配置される環状部材からなり、前記エネルギー硬化型接着剤の前記分離部材の内側に位置する接着層は、前記分離部材の外側に位置する接着層の硬化速度よりも小さな硬化速度を示すことを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の接合構造を有する物品において、前記分離部材は、照射されるエネルギー線を透過しない材料から成ることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の接合構造を有する物品において、前記分離部材は伸縮性を有する材料から成ることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、2つの部材を該両部材間に配置されたエネルギー硬化型接着剤の硬化により接合すべく、前記エネルギー硬化型接着剤の層状に硬化された硬化層が前記両部材間に架からないように前記エネルギー硬化型接着剤に未硬化層を残して前記硬化層を形成した後、前記未硬化層を硬化する接合方法であって、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化過程で前記未硬化層を確保すべく、該未硬化層のための接着層と前記硬化層のための接着層とを分離するための板状の分離部材を配置した状態で前記エネルギー硬化型接着剤を硬化させる際に、前記分離部材で分離された前記各接着層に硬化速度が相互に異なる接着剤を用いることにより、前記エネルギー硬化型接着剤の前記硬化過程で前記硬化層及び前記未硬化層が形成されることを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、2つの部材を該両部材間に配置されたエネルギー硬化型接着剤の硬化により接合すべく、前記エネルギー硬化型接着剤の層状に硬化された硬化層が前記両部材間に架からないように前記エネルギー硬化型接着剤に未硬化層を残して前記硬化層を形成した後、前記未硬化層を硬化する接合方法であって、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化過程で前記未硬化層を確保すべく、該未硬化層のための接着層と前記硬化層のための接着層とを分離するための板状の分離部材を配置した状態で前記エネルギー硬化型接着剤を硬化させる際に、前記分離部材で分離された前記各接着層に吸収エネルギー帯が相互に異なる接着剤を用いることにより、前記エネルギー硬化型接着剤の前記硬化過程で前記硬化層及び前記未硬化層が形成されることを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、請求項8又は9に記載の接合方法において、前記分離部材で分離された前記各接着層への選択的なエネルギー線の照射により、前記エネルギー硬化型接着剤の前記硬化過程で前記硬化層及び前記未硬化層が形成されることを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の接合方法において、前記分離部材は、照射されるエネルギー線の透過を阻止する材料から成ることを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、請求項8又は9に記載の接合方法において、相互に接合される前記両部材のいずれか一方が支柱部を有し、その他方が前記支柱部を間隔をおいて受け入れる穴を有し、前記エネルギー硬化型接着剤は前記支柱部と前記穴の周壁との間隙に充填され、前記分離部材は前記穴内で前記エネルギー硬化型接着剤を各接着層に分離すべく前記支柱部を取り巻いて環状に配置され、前記エネルギー硬化型接着剤の前記分離部材の内側に位置する接着層が前記分離部材の外側に位置する接着層の硬化後に硬化されることを特徴とする。
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の接合方法において、前記分離部材は管状部材であり、該管状部材の内周面にエネルギー硬化型接着剤が塗布された後、前記管状部材が前記支柱部に挿入され、前記管状部材の外周面と前記穴の前記周壁との間にエネルギー硬化型接着剤が充填されることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、相互に接合される前記両部材間のエネルギー硬化型接着剤が前記分離部材により層状に分離されていることから、該分離部材により分離された未硬化層が硬化するまで、先に硬化した硬化層が前記分離部材を超えて前記両部材間に架かって形成されることを確実に防止することができ、この未硬化層により硬化層の硬化収縮による収縮力を確実に吸収することができるので、エネルギー硬化型接着剤の収縮力の伝達による両部材間での位置ずれが確実に低減されることから、高精度な接合構造を比較的容易に得ることができる。
また、エネルギー硬化型接着剤の硬化速度が相互に異なる各接合層は前記分離部材により確実に分離されていることから、1種類のエネルギー線を両接合層に同時的に照射することにより、前記エネルギー硬化型接着剤の硬化過程で、エネルギー硬化型接着剤に形成される硬化層が前記両部材間に架かることを確実に防止する未硬化層を硬化速度の違いによって容易に作ることができ、この未硬化層により、先に硬化した硬化層の硬化収縮での収縮力を確実に吸収することができるので、この収縮力の伝達による前記両部材間での位置ずれが確実に低減されることから、高精度な接合構造を比較的容易に得ることができる。
請求項2に記載の発明によれば、前記分離部材が相互に接合される前記両部材の一方を囲むように配置されていることで、前記分離部材を安定した状態で前記両部材間に設置することができ、これによりエネルギー硬化型接着剤の塗布が容易になり、該エネルギー硬化型接着剤の硬化過程で、このエネルギー硬化型接着剤に形成される硬化層が前記両部材間に架かることを確実に防止する未硬化層を確実かつ容易に作ることができ、従って、エネルギー硬化型接着剤の収縮による両部材間での位置ずれが確実に低減されることから、高精度な接合構造を比較的容易に得ることができる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様、相互に接合される前記両部材間のエネルギー硬化型接着剤が前記分離部材により層状に分離されていることから、該分離部材により分離された未硬化層が硬化するまで、先に硬化した硬化層が前記分離部材を超えて前記両部材間に架かって形成されることを確実に防止することができ、この未硬化層により硬化層の硬化収縮による収縮力を確実に吸収することができるので、エネルギー硬化型接着剤の収縮力の伝達による両部材間での位置ずれが確実に低減されることから、高精度な接合構造を比較的容易に得ることができる。
また、エネルギー硬化型接着剤の吸収エネルギー帯が相互に異なる各接合層は前記分離部材により確実に分離されていることから、エネルギー帯の異なるエネルギー線をそのエネルギー帯に適した両接合層のそれぞれに照射タイミングを違えて照射することにより、エネルギー硬化型接着剤の硬化過程で、エネルギー硬化型接着剤に形成される硬化層が前記両部材間に架かることを防止する未硬化層を確実に作ることができ、この未硬化層により、先に硬化した硬化層の硬化収縮での収縮力を確実に吸収することができるので、この収縮力の伝達による両部材間での位置ずれが確実に低減されることから、高精度な接合構造を比較的容易に得ることができる。
請求項4に記載の発明によれば、前記分離部材が相互に接合される前記両部材の一方を囲むように配置されていることで、前記分離部材を安定した状態で前記両部材間に設置することができ、これによりエネルギー硬化型接着剤の塗布が容易になり、該エネルギー硬化型接着剤の硬化過程で、このエネルギー硬化型接着剤に形成される硬化層が前記両部材間に架かることを確実に防止する未硬化層を確実かつ容易に作ることができ、従って、エネルギー硬化型接着剤の収縮による両部材間での位置ずれが確実に低減されることから、高精度な接合構造を比較的容易に得ることができる。
請求項5に記載の発明によれば、前記支柱部と前記穴の周壁との間隙がエネルギー硬化型接着剤で充填され、該エネルギー硬化型接着剤は前記支柱部を囲むように配置された環状の分離部材により、該分離部材の内側と外側で硬化速度の異なる接着層が確実に分離され、しかも内側に外側の硬化速度よりも小さな硬化速度を示す接着層が配置されることから、未硬化層をより少ない接着剤塗布量で形成することができるため、前記分離部材の外側の接着層の硬化後にその内側の未硬化層を硬化させる際の収縮量が少なくなるので、より高精度な接合構造を比較的容易に得ることができる。
請求項6に記載の発明によれば、前記分離部材がエネルギー線を透過しない材料で形成されていることから、前記分離部材で分離された一方の接着層を硬化させる際に、接着剤内部でのエネルギー線の散乱による他方の接着層の硬化が確実に防止されるので、前記一方の接着層の硬化によって形成される硬化層が前記両部材に架かって形成されることを確実に防止する未硬化層を容易に作ることができるので、エネルギー硬化型接着剤の収縮による両部材間での位置ずれを確実に低減することができ、高精度に両部材を接合することができる。
請求項7に記載の発明によれば、伸縮性を有する前記分離部材は、その伸縮性によって、先に硬化する接着層の硬化収縮に応じてが変形するため、先に硬化して形成される硬化層の内部残留応力が低減され、これにより内部残留応力による経時変化が少なくしかもエネルギー硬化型接着剤の収縮による両部材間での位置ずれが低減された高精度の接合構造を得ることができる。
請求項8に記載の発明によれば、相互に接合される前記両部材間のエネルギー硬化型接着剤が分離部材により層状に分離されていることから、前記分離部材により分離された一方の接合層を未硬化に保持してその流動性を確保した状態で前記分離部材により分離された他方の接合層を硬化させることができるので、前記分離部材の配置によって、前記他方の接合層の硬化過程で前記一方の接合層を確実に未硬化状態におくことができ、これにより前記他方の接合層の硬化によって形成される硬化層が前記両部材に架かって形成することを確実に防止することができ、この未硬化層によって硬化層の硬化収縮による収縮力を確実に吸収することができるので、この収縮力の伝達による両部材間での位置ずれを確実に低減することができ、高精度に両部材を接合することができる。
また、前記分離部材で分離された両接着層の硬化速度が異なることから、1種類のエネルギー線を分離部材で分離された両接着層に同時的に照射することにより、硬化層が両部材に架かって形成されることを確実に防止する未硬化層を容易に作ることができるので、エネルギー硬化型接着剤の収縮による両部材間での位置ずれを確実に低減することができ、高精度に両部材を接合することができる。
請求項9に記載の発明によれば、請求項8に記載の発明と同様、相互に接合される前記両部材間のエネルギー硬化型接着剤が分離部材により層状に分離されていることから、前記分離部材により分離された一方の接合層を未硬化に保持してその流動性を確保した状態で前記分離部材により分離された他方の接合層を硬化させることができるので、前記分離部材の配置によって、前記他方の接合層の硬化過程で前記一方の接合層を確実に未硬化状態におくことができ、これにより前記他方の接合層の硬化によって形成される硬化層が前記両部材に架かって形成することを確実に防止することができ、この未硬化層によって硬化層の硬化収縮による収縮力を確実に吸収することができるので、この収縮力の伝達による両部材間での位置ずれを確実に低減することができ、高精度に両部材を接合することができる。
また、前記分離部材で分離された両接着層の吸収エネルギー帯が異なることから、エネルギー帯の異なるエネルギー線を切り替えて各接着層を照射することにより、硬化層が両部材に架かって形成されることを確実に防止する未硬化層を容易に作ることができるので、エネルギー硬化型接着剤の収縮による両部材間での位置ずれを確実に低減することができ、高精度に両部材を接合することができる。
請求項10に記載の発明によれば、前記分離部材で分離された各接着層に選択的にエネルギー線を照射することにより、接着層の種類を変えることなく1種類の接着剤を用いて、硬化層が両部材に架かって形成されることを確実に防止する未硬化層を容易に作ることができるので、エネルギー硬化型接着剤の収縮による両部材間での位置ずれを確実に低減することができ、高精度に両部材を接合することができる。
請求項11に記載の発明によれば、前記分離部材がエネルギー線を透過しない材料で形成されていることから、前記分離部材で分離された一方の接着層を硬化させる際に、接着剤内部でのエネルギー線の散乱による他方の接着層の硬化が確実に防止されるので、前記一方の接着層の硬化によって形成される硬化層が前記両部材に架かって形成されることを確実に防止する未硬化層を容易に作ることができるので、エネルギー硬化型接着剤の収縮による両部材間での位置ずれを確実に低減することができ、高精度に両部材を接合することができる。
請求項12に記載の発明によれば、前記支柱部と前記穴の周壁との間隙がエネルギー硬化型接着剤で充填され、該エネルギー硬化型接着剤は前記支柱部を囲むように配置された環状の分離部材により、該分離部材の内側と外側で硬化速度の異なる接着層が確実に分離され、しかも内側に外側の硬化速度よりも小さな硬化速度を示す接着層が配置されることから、未硬化層をより少ない接着剤塗布量で形成することができるため、前記分離部材の外側の接着層の硬化後にその内側の未硬化層を硬化させる際の収縮量が少なくなるので、より高精度に両部材を接合することができる。
請求項13に記載の発明によれば、予め内周面にエネルギー硬化型接着剤を塗布した管状の分離部材を単に支柱部に挿入することにより、該支柱部と前記分離部材との間にほぼ均一な薄い未硬化層を容易に作ることができるため、前記分離部材と前記穴の周壁との間に充填される接着層の硬化によって形成される硬化層が前記両部材に架かって形成されることを確実に防止する未硬化層を容易に作ることができるので、エネルギー硬化型接着剤の収縮による両部材間での位置ずれを確実に低減することができ、高精度に両部材を接合することができる。
図1は、本発明に係る接合方法によって形成された接合構造(接合構造を有する物品)10を概略的に示す。
図1に示す例では、例えばガラス板、セラミック板あるいは金属板のような光学ベース部材11と、該光学ベース部材上の例えばレンズ、回折格子あるいはミラー等の光学素子、受光素子、発光素子、CCD等の固体撮像素子のような矩形の光学部材12とが、相互の位置合わせの終了後に、該光学部材の4隅の各接着部13で相互に接合されている。
各接着部13には、例えばUV(紫外線)硬化型あるいは可視光硬化型のような光硬化型接着剤、X線硬化型のような放射線硬化型接着剤等のエネルギーの照射により硬化するエネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)が適用されており、該エネルギー硬化型接着剤の硬化部分内には分離部材15が配置されている。この分離部材15は、基本的に、硬化前の両エネルギー硬化型接着剤14a、14bを分離し得るものであれば、金属或いは合成樹脂材料のような板状部材で形成することができる。
分離部材15は、図1に示す例では、光学ベース部材11上で、該光学ベース部材上に配置された矩形の光学部材12の各4隅で、該光学部材の互いに直角な2辺に間隔を置いてほぼ並行に配置される直角辺15a、15aと、該両直角辺間に形成された面取り辺15bとを備える。分離部材15の面取り辺15bを不要とし、互いに連続する両直角辺15a、15aで形成されるアングル形状の分離部材を用いることができる。
光学ベース部材11及び光学部材12の接合のために、先ず、両部材11、12の相互の位置合わせによって光学ベース部材11上の所定箇所に光学部材12が配置される。両部材11、12の相互の位置合わせ後、各分離部材15は、その直角辺15a、15aが光学部材12の各隅部の直角辺から間隔を置いて隅部に沿うように、光学ベース部材11上に配置される。
分離部材15の配置によって、該分離部材を境にして、該分離部材15の内側すなわち光学部材12の各隅部側と、分離部材15の外側とに区画される。分離部材15の配置後、該分離部材の内方には、該分離部材と光学部材12との間に接着剤14aが肉盛り状に供給され、また、分離部材15の外方には、該分離部材の外周面と光学ベース部材11とを接合するように光学部材12との間に接着剤14bが肉盛り状に供給される。
接着剤14a、14bの供給には、例えば、塗布シリンジを用いることができ、また、これに代えて、例えば、スプレー方式、ミスト方式等を適宜採用することができる。この接着剤14a、14bの供給により、図2に示すように、各分離部材15は、両接着剤14a、14bを区画するように、両接着層(14a、14b)間に位置する。図2に示す例では、一方の接着剤14aから成る接着層(14a)は、光学ベース部材11の上面に接しているが、一方の接着層(14a)と光学ベース部材11との間に僅かに間隔を設けることが望ましい。しかしながら、一方の接着層(14a)の光学部材12との接合面及び分離部材15との接合面に比較して、接着層(14a)の光学ベース部材11との接合面は極めて小さいことから、接着層(14a)と光学ベース部材11との直接の接合は、実質的にこれを無視することができる。また、図示の例では、一方の接着層(14a)の厚さ寸法、すなわち光学部材12及び分離部材15間の距離方向に沿った厚さ寸法は、他方の接着層(14b)のそれよりも小さい。
両接着剤14a、14bは、例えば同一のエネルギー硬化型接着剤を用いることができ、前記した分離部材15の配置により、その硬化前の流動性に拘わらず、相互に確実に分離される。
層状に区画された両接着剤14a、14bの各層は、例えば図3及び図4に示すような選択的な光の照射により、分離部材15により相互の混合が防止された状態で、同時に硬化することはなく、例えば他方の接着剤すなわち他方の接着層(14b)が硬化を終えるまで、一方の接着剤すなわち接着層(14a)は硬化を終えることなく、その流動性が確保される。
図3は、両接着層(14a、14b)の硬化を図るための照射光源16からの照射光が走査型反射ミラー17の回転もしくは水平方向の駆動により、エネルギー硬化型接着剤14a及び14bを選択的に照射する例を示す。
走査型反射ミラー17の駆動により、他方の接着層(14b)が照射光源16からの照射光を受けるとき、一方の接着層(14a)が照射を受けることはない。この選択的な照射により、先ず、他方の接着層(14b)の硬化が図られる。この他方の接着層(14b)の硬化により、該接着層すなわち硬化層(14a)には、その硬化に伴う硬化収縮力が生じるが、照射を受けない一方の接着層(14a)すなわち未硬化層(14a)には流動性が保持されることから、この未硬化層(14a)の流動性により、硬化層(14b)の硬化収縮力が吸収される。従って、硬化層(14b)の硬化によって分離部材15が光学部材12から離れる方向へ僅かに引き寄せられるものの、分離部材15と光学部材12との間に流動性を有する未硬化層(14a)が存在することから、硬化層すなわち他方の接着層(14b)の硬化収縮力によって光学部材12が光学ベース部材11上で変位することはない。
他方の接着層(14b)の硬化後、図3に示すように、未硬化層である一方の接着層(14a)が、走査型反射ミラー17からの走査光により、選択的に照射を受けることから、硬化する。この一方の接着層(14a)の硬化時には既に他方の接着層(14b)が硬化しており、また一方の接着層(14a)の厚さ寸法は他方の接着層(14b)のそれよりも小さいことから、この一方の接着層(14a)の硬化時には小さな硬化収縮力が光学部材12と分離部材15との間で引張り応力として作用するに過ぎず、しかも図示の例では、光学部材12の両側で各他方の接着層(14b)の小さな硬化収縮力がほぼ釣り合うように作用することから、光学部材12が一方の接着層(14a)の硬化収縮力により変位を生じることはない。
図4は、照射光源16からの光の透過量を可変とする、例えば透過光量可変フィルタのような調光部材18を用いて両接着層(14a、14b)を選択的に照射する例を示す。
調光部材18は、具体的には、例えば液晶フィルタが用いられ、電圧調整によりその透過光領域が調整される。液晶フィルタに代えて、偏光フィルタを組み合わせ、照射光源16からの偏光軸を変えることによって透過光領域を調整してもよい。
いずれにしても、図4(a)に示すように、調光部材18には、他方の接着層(14b)を選択的に照射できるように、調光部材18の中央部に遮光領域18aが形成され、該遮光領域を取り巻いて他方の接着層(14b)への透光を許す透光領域18bが形成される。この状態で、調光部材18を経て他方の接着層(14b)が照射光源16からの光の選択的な照射を受けることにより、他方の接着層(14b)が選択的に硬化される。
この他方の接着層(14b)の硬化により、該接着層には、その硬化に伴う硬化収縮力が生じるが、照射を受けない一方の接着層(14a)は未硬化におかれ、流動性が保持された状態にあることから、この未硬化の接着層(14a)の流動性により、他方の接着層(14b)の硬化収縮力が吸収される。従って、この未硬化の接着層(14a)の存在によって、他方の接着層(14b)の硬化時に光学部材12が光学ベース部材11上で変位を生じることはない。
その後、図4(b)に示すように、調光部材18の遮光領域18aと透光領域18bとが入れ替えられ、これにより、一方の接着層(14a)が光の選択的な照射を受けることにより、硬化されるが、このとき、図3に沿って説明したと同様に、一方の接着層(14a)の硬化時には、該接着層の硬化収縮力により光学部材12が光学ベース部材11上で変位を生じることはない。
図3及び図4に沿って説明したように、エネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)を分離部材15で相互に分離することにより、他方の接着層(14b)の選択的な硬化時に一方の接着層(14a)が硬化することを確実に防止することができ、この未硬化の一方の接着層(14a)の流動性により、他方の接着層(14b)の硬化時における光学部材12の変位を確実に防止することができる。また、分離部材15の配置により、他方の接着層(14b)の硬化時に、その硬化部が分離部材15を超えて一方の接着層(14a)に至ることを確実に防止することができる。
エネルギー硬化型接着剤14bの選択的な硬化のために該接着剤に選択的にエネルギー線が照射されているとき、照射を受けているエネルギー硬化型接着剤14bの内部で生じる散乱光が分離部材15を透過して一方のエネルギー硬化型接着剤14aに至ると、この一方の接着剤14aが部分的に硬化する虞がある。この一方の接着剤14aの不測の硬化を確実に防止する上で、エネルギー線を透過しない材料で分離部材15を構成することが望ましい。
また、エネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)を相互に分離するための分離部材15は、図5に示すように、光学部材12を取り巻く矩形枠体で構成することができる。矩形枠体からなる分離部材15を用いることにより、該分離部材を安定した状態で光学ベース部材11上の所定位置に位置させることができる。また、分離部材15の安定した配置により、エネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)の塗布を容易に行うことができる。
また、図6に示すように、光学部材12を取り巻く矩形枠体から成る分離部材15の内方及び外方の全周にエネルギー硬化型接着剤14の各接着層(14a、14b)を肉盛り状に形成することができ、これにより、光学部材12を取り巻いて接着部13を形成することができるので、より強固に両部材11、12を接合することができる。
前記したところでは、エネルギー硬化型接着剤14の両接着層(14a、14b)に同一のエネルギー硬化型接着剤を用いたが、一方の接着層(14a)に流動性を確保した状態で他方の接着層(14b)の硬化を図るために、両接着剤14a、14bに、後述する例におけると同様な相互に吸収エネルギー帯が異なる接着剤あるいは相互に硬化速度が異なる接着剤を用いることができる。
図7乃至図9に示す接合構造110では、光学ベース部材11には支柱部11aが形成され、光学部材12には、支柱部11aから間隔をおいて該支柱部を受け入れる穴12aが形成されており、該穴と支柱部11aに関連して両部材11、12を接合する接着部13が形成されている。
図7は両部材11、12の接合構造110の全体を示し、その接着部13は光学部材12の4隅部にそれぞれ形成されている。接着部13の一つが図8に拡大して示されており、図9は一つの接着部13の断面を示す。
図9に明確に示すように、光学部材12は光学ベース部材11上で、該光学ベース部材から間隔をおいて保持されており、該光学部材の穴12a内には光学ベース部材11の支柱部11aが挿通されている。支柱部11aには、環状部材からなる分離部材15が支柱部11aの周面から間隔をおいて配置されている。この分離部材15の外周面は穴12aの周壁から間隔をおく。分離部材15の支柱部11aとの間隔は穴12aの周壁との間隔よりも小さく設定されている。
分離部材15と支柱部11aとの間、すなわち分離部材15の内側には、一方の接着剤14aが充填され、分離部材15の外側である該分離部材15と穴12aの周壁との間には、他方の接着剤14bが充填されており、これら接着剤14a、14bから成る各接着層(14a、14b)の硬化により、各接着部13では、分離部材15が部分的に両接着層(14a、14b)内に埋設されている。
接合構造110の形成のために、図10(a)に示すように、先ず、光学ベース部材11及び光学部材12の相互の位置合わせによって、光学ベース部材11の支柱部11aが光学部材12の穴12a内に位置するように、光学ベース部材11上の所定箇所に光学部材12が配置される。両部材11、12の相互の位置合わせ後、環状部材からなる分離部材15は、支柱部11aの外周面及び穴12aの周壁から間隔を置くように、穴12a内で支柱部11aを取り巻くように配置される。この分離部材15の配置によって、該分離部材を境にして、分離部材15の内側には、支柱部11aとの間の間隙及び分離部材15の外側には穴12aの周壁との間に間隙がそれぞれ形成される。
分離部材15の内側の間隙には、図10(b)に示すように、例えば塗布シリンジ19aを用いて一方のエネルギー硬化型接着剤14aが充填され、この接着剤の充填により、一方の接着層(14a)が形成される。
その後、図10(c)に示すように、分離部材15の外側の間隙には、他の塗布シリンジ19bを用いて他方のエネルギー硬化型接着剤14bが充填され、この接着剤の充填により、他方の接着層(14b)が形成される。
支柱部11aを取り巻くように分離部材15を配置するに先立って、図11(a)に示すように、環状部材から成る分離部材15の内壁面に、予め例えば塗布シリンジ19aを用いて接着剤14aを塗布することができる。この接着剤14aの塗布では、環状の分離部材15をその軸線の回りに回転させながら、塗布シリンジ19aから接着剤14aを分離部材15の内周面に供給することが望ましく、これにより、分離部材15の内周面の全域に比較的容易に均一な接着層(14a)を形成することができる。
一方の接着剤14aが塗布された分離部材15を図11(b)に示すように、光学ベース部材11の支柱部11aに挿入し、その後、図11(c)に示すように、塗布シリンジ19bを用いて分離部材15と穴12aの周壁との間を他方の接着剤14bで充填することにより、他方の接着層(14b)を形成することができる。
図11(a)〜図11(c)に示したように、予め分離部材15に一方の接着剤14aを塗布し、この接着層(14a)が形成された分離部材15を支柱部11aに挿入し、その後、他方の接着層(14b)を形成することにより、分離部材15と支柱部11aとの間に均一な厚さ寸法を有する接着層(14a)を比較的容易に形成することができる。また、オフラインで事前に分離部材15に一方の接着剤14aを塗布しておくことができ、接着工程時間を短縮することが可能となる。
この両接着層(14a、14b)を形成する各エネルギー硬化型接着剤14a、14bに、互いに硬化速度の異なるエネルギー硬化型接着剤を用いることができ、また、これに代えて互いに吸収エネルギー帯の異なるエネルギー硬化型接着剤を用いることができる。
互いに硬化速度の異なるエネルギー硬化型接着剤が用いられる場合、例えば一方の接着層(14a)を構成する一方の接着剤14aの硬化速度は他方の接着層(14b)のそれよりも遅いものが用いられる。この場合、他方のエネルギー硬化型接着剤14bには、例えば、アクリル系接着剤((株)スリーボンド製3033B等)を用いることができ、他方、エネルギー硬化型接着剤14aには、エポキシ系接着剤(NTTアドバンステクノロジ(株)製AT9290F等)を用いることができる。
ここで、光硬化型接着剤は、光重合性オリゴマー、光重合性モノマー、光開始剤、硬化剤、その他の添加剤で構成されているが、硬化速度の違いはこの硬化剤の種類が異なることによる。硬化剤には、例えば脂肪族アミン、環状脂肪族アミン、芳香族アミン、酸無水物等が用いられる。
互いに硬化速度の異なるエネルギー硬化型接着剤が用いられた場合、図12に示すように、照射光源16からの光を接着部13の上方からエネルギー硬化型接着剤14a、14bの双方に一様に照射することにより、すなわち走査型反射ミラー17や調光部材18を用いることなく、一方の接着層(14a)を硬化させることなく他方の接着層(14b)を硬化させ、その後、一方の接着層(14a)を硬化させることができる。
図13は、照射光源16のエネルギー線照射の時間と照射のオン、オフ状態との関係、及びこの照射光源16からのエネルギー線照射によるエネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)の硬化率の変化と時間との関係が、それぞれ共通の時間軸(X軸)を有するグラフで示されている。
図13のグラフに示す特性線20は、時間t1で照射光源16からエネルギー線が連続して照射されることを示す。このエネルギー線の照射開始後、特性線21で示すように、先ず、他方の接着層14bにより構成された他方の接着層(14b)の硬化が始まり、その硬化率が飽和値100に向けて上昇する。他方の接着層(14b)の硬化の開始後、特性線22で示すように、一方の接着剤14aにより構成された一方の接着層(14a)の硬化が始まる。時間t1から所定の時間が経過した時間t2では、他方の接着層(14b)の硬化率はほぼ飽和値に達するが、このとき一方の接着層(14a)の硬化率は低い状態にあり、該接着層の流動性は維持されている。さらに時間t2から所定の時間が経過した時間t3では、一方の接着層(14a)の硬化率もほぼ飽和値に近づく。この時間t2と時間t3の間では、他方の接着層(14b)がほぼ硬化を完了するが、一方の接着層(14a)は硬化が進行するものの、硬化を完了することはなく、その流動性が保持されている。
ここで、エネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)の各層の硬化の完了とは、接着部13の対象となる層の全域で流動性がなくなる状態を言う。したがって、必ずしも重合率100%となった状態を示すものではない。
図13のグラフに沿って説明したように、エネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)の硬化速度を相互に異ならせることにより、一方の接着層(14a)の流動性を保持した状態で他方の接着層(14b)を硬化させることができ、この硬化層(14b)による硬化収縮に伴う引張応力が発生しても、この引張り応力は流動性を有する未硬化層(14a)により吸収される。また、硬化速度を異にするエネルギー硬化型接着剤14a、14bは、分離部材15により、確実に分離されていることから、未硬化状態の両者が混合することはなく、この混合によって他方の接着層14bの硬化部が分離部材15を超えて支柱部11aに至ることはなく、一方の接着層(14a)の未硬化状態ではエネルギー硬化型接着剤14の硬化部が光学部材12と光学ベース部材11の支柱部11aとに架かって形成されることはない。
その結果、光学ベース部材11と光学部材12との間に、他方の接着層である硬化層14bの硬化収縮による変位の発生が確実に防止される。
他方の接着層14bの硬化後、未硬化層である一方の接着層(14a)の硬化により、該接着層に硬化収縮が生じるが、一方の接着層(14a)の厚さ寸法は他方の接着層14bのそれより小さいことから、光学部材12は、この一方の接着層(14a)の僅かな硬化収縮の影響を受けるに過ぎない。従って、両接着層14a、14bの硬化収縮による従来のような大きな変位が光学ベース部材11と光学部材12との間に生じることはなく、従来に比較して高精度で接合された接合構造10が提供される。
また、分離部材15を用いることにより、硬化前における両エネルギー硬化型接着剤14a、14bの混合を確実に防止することができ、また各接着剤14a、14bの混合を招かない塗布作業を容易に行うことができる。
硬化速度の異なるエネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)が用いられる場合、各分離部材15は、照射光源16からのエネルギー線を透過する材料で形成することが望ましい。より具体的には、エネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)としてUV硬化型接着剤が用いられる場合、照射光源16からの紫外線の透過を許すポリプロピレン、3フッ化エチレン、ポリビニールアルコール、高圧法で作ったポリエチレン等で分離部材15を形成することが望ましく、これにより分離部材15による照射光の照射むらを防止し、この照射むらによるエネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)の部分的な硬化速度の低下あるいは未硬化部分の残留を確実に防止することができる。
両接着層(14a、14b)を形成する各エネルギー硬化型接着剤14a、14bに、互いに吸収エネルギー帯の異なるエネルギー硬化型接着剤が用いられる場合、例えば、エネルギー硬化型接着剤14bに可視光硬化型接着剤((株)スリーボンド製3170B等)が用いられ、エネルギー硬化型接着剤14aにはUV(紫外線)硬化型接着剤((株)スリーボンド製3033B等)が用いられる。吸収エネルギー帯の違いはエネルギー硬化型接着剤に含まれる光開始剤の吸光波長が異なることによる。光開始剤には、例えばベンジル、ベンゾフェノン、ミフィラーズケトン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩等が用いられる。なお、ここでは可視光硬化型接着剤とUV硬化型接着剤とを例に挙げたが、これに限られず、例えば放射線硬化型接着剤、X線硬化型接着剤等、吸収エネルギー帯が異なるものであればどのような組み合わせであってもよい。
可視光硬化型接着剤で構成される他方の接着層(14b)とUV硬化型接着剤で構成される一方の接着層(14a)とが環状部材から成る分離部材15で分離された構造を有する接着部13の硬化には、図14に示すように、UV光照射光源16a及び可視光照射光源16bが用いられる。
図15は、各UV光照射光源16a及び可視光照射光源16bの照射時間と照射のオンオフとの関係、及び各照射光源16a、16bからの各エネルギー線照射による各エネルギー硬化型接着剤14a、14bの硬化率の変化と時間との関係が、それぞれ共通の時間軸(X軸)を有するグラフで示されている。各照射光源16a、16bからの照射光の照射を制御するために、それぞれにシャッタ16cが組み込まれている。
図15のグラフに示す特性線23は、時間t1で可視光照射光源16bのシャッタ16cが解放され、可視光照射光源16bからの可視光が接着部13に連続して照射されることを示す。この可視光の照射開始後、特性線24で示すように、所定の時間の経過後の時間t2でUV光照射光源16aのシャッタ16cが解放され、先の可視光に加えて、UV光照射光源16aからのUV光が接着部13に重複して照射される。
図15のグラフの特性線25に示すように、時間t1での可視光の照射により、先ず、他方の接着層14bにより構成された他方の接着層(14b)の硬化が始まり、その硬化率が飽和値100に向けて上昇する。他方の接着層(14b)の硬化の開始後、特性線26で示すように、UV光の照射後、一方の接着剤14aにより構成された一方の接着層(14a)の硬化が始まる。時間t1から所定の時間が経過した時間t2では、他方の接着層(14b)の硬化率はほぼ飽和値に達するが、このとき一方の接着層(14a)の硬化率は低い状態にあり、該接着層の流動性は維持されている。さらに時間t2から所定の時間が経過した時間t3では、一方の接着層(14a)の硬化率もほぼ飽和値に近づく。この時間t2と時間t3の間では、図13に示した例におけると同様に、他方の接着層(14b)がほぼ硬化を完了するが、一方の接着層(14a)は硬化が進行するものの、硬化を完了することはなく、その流動性が保持されている。
従って、各エネルギー硬化型接着剤14a、14bに、互いに吸収エネルギー帯の異なるエネルギー硬化型接着剤を用いることによっても、一方の接着層(14a)の流動性を保持した状態で他方の接着層(14b)を硬化させることができ、この他方の接着層すなわち硬化層(14b)による硬化収縮に伴う引張応力が発生しても、この引張り応力を流動性を有する未硬化の一方の接着層すなわち未硬化層(14a)により吸収することができる。また、他方の接着層(14b)が分離部材15により、一方の接着層(14a)から確実に分離されていることから、未硬化状態の両者が混合することはなく、この混合によって他方の接着層14bの硬化部が分離部材15を超えて支柱部11aに至ることはなく、一方の接着層(14a)の未硬化状態ではエネルギー硬化型接着剤14の硬化部が光学部材12と光学ベース部材11の支柱部11aとに架かって形成されることはない。
その結果、光学ベース部材11と光学部材12との間に、他方の接着層14bの硬化収縮による変位の発生が確実に防止され、これにより一方の接着層(14a)の硬化によって従来に比較して高精度の接合構造10が得られる。
実施例1及び2で説明した各分離部材15を伸縮性を有する材料で形成することができる。分離部材15には、他方の接着層(14b)の硬化後に一方の接着層(14a)が硬化するとき、この接着層の硬化による収縮力が作用する。この分離部材15に伸縮性を与えることにより、該分離部材自体の変形を許すことにより、硬化後の一方の接着層(14a)に該接着層の硬化収縮に従う残留応力が残ることを防止することができ、この残留応力に起因する経時変化、温度変化による光学部材12の位置ずれを低減することができる。
図16には、本発明の接合方法を実施するのに好適な接合装置が概略的に示されている。
接合装置30は、図16に示すように、相互に接合される両部材11、12をそれぞれ取り扱うための各保持手段31、32と、両部材11、12間にエネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)を供給する供給手段19a、19bと、両部材11、12間の位置ずれを検出する検出手段33と、該検出手段からの検出結果をもとに両部材11、12を整合させるべく保持手段32の動作を制御する制御手段34と、エネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)にエネルギー線を照射するエネルギー線照射手段16a、16bと、両部材11、12間に分離部材15を挿入する挿入手段35とを備える。制御手段34は、制御回路からなり、保持手段32の動作の他、各動作部の動作を制御する。分離部材15は、具体例2に示したと同様、光学ベース部材11の支柱部11aと、該支柱部を受け入れる穴12aが形成された光学部材12との間に挿入される管状部材からなる。供給手段19a、19bは、図示の例では、吸収エネルギー帯を相互に異にするエネルギー硬化型接着剤14a、14bを両部材11、12の接着部13に供給する塗布シリンジ19a、19bから成る。両塗布シリンジ19a、19bは、制御回路34の制御下で動作する各動作回路19cにより、分離部材15の内方及び外方のそれぞれにエネルギー硬化型接着剤14a、14bを供給するように作動される。また、エネルギー線照射手段16a、16bは、吸収エネルギー帯を相互に異にする各エネルギー硬化型接着剤14a、14bを硬化させるための光照射光源16a、16bから成り、それぞれに具体例2で説明したと同様なシャッタ16cが設けられている。各光源16a、16bのシャッタ16cは、制御回路34によりその開閉動作を制御される。
一方の保持手段31は、ワークテーブル36上で光学ベース部材11を把持するための把持装置からなる。また、他方の保持手段32は、ワークテーブル36上で、制御回路34により多軸(x軸、y軸・・γ軸)方向へ調整可能のアーム37に設けられた把持装置からなり、ワークテーブル36上で把持装置31に保持された光学ベース部材11に関して光学部材12を所定の姿勢及び位置に位置決める。ワークテーブル36上で位置決められた両部材11、12の位置情報は例えば撮像装置からなる検出手段33により検出され、この位置情報は、制御回路34に送られる。
挿入手段35は、ワークテーブル36の外方から該ワークテーブルの上方に伸びるガイド部35aと、制御回路34の制御下でガイド部35a上を移動可能のヘッド部35bと、該ヘッド部に設けられ、制御回路34の制御下で、昇降動作、分離部材15の保持及びその解放動作が可能の把持装置35cとを有する。
制御回路34が両部材11、12を位置決めると、制御回路34は、検出手段33からの位置情報に基づいて、分離部材15を光学ベース部材11の支柱部11aと光学部材12の穴12aとの間に挿入すべく、挿入手段35を作動させる。この挿入手段35の作動により、分離部材15が支柱部11a及び穴12aの周壁から間隔を置くように所定位置に挿入されると、塗布シリンジ19aの作動により、分離部材15と支柱部11aとの間隙に一方のエネルギー硬化型接着剤14aが供給され、また塗布シリンジ19bの作動により、分離部材15と穴12aの周壁との間隙に他方のエネルギー硬化型接着剤14bが供給される。
両エネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)の供給後、一方の光源16bのシャッタ16cが開放動作され、先ず、他方のエネルギー硬化型接着剤14bの硬化が開始する。この他方の接着剤14bの硬化がほぼ完了すると、他方の光源16aのシャッタ16cが開放動作され、これにより、一方のエネルギー硬化型接着剤14aの硬化が開始する。
従って、接合装置30によれば、前記したように、両部材11、12間に供給手段である各塗布シリンジ19a、19bから供給された各エネルギー硬化型接着剤14a、14bの層状に硬化された硬化層(14b)が両部材11、12間に架からないように、硬化層(14a)を残して硬化層(14b)を形成した後、未硬化層(14a)を硬化して両部材11、12を接合することができる。
また、両エネルギー硬化型接着剤14(14a、14b)を分離するための分離部材15を自動的に適正位置に配置することができるので、本発明に係る方法を容易に実施することができ、これにより従来に比較して高精度の接合構造を容易に得ることができる。
前記したところでは、エネルギー硬化型接着剤として光硬化型接着剤を用いた例について説明したが、エネルギー硬化型接着剤であればこれに限られず、例えば熱硬化型接着剤、嫌気硬化型接着剤を用いることができる。熱硬化型接着剤の場合は、熱エネルギーを加えることによって各接着層を硬化開始のタイミングをずらしながら硬化させることにより、未硬化層を残して硬化層を形成することができる。
しかしながら、熱硬化型接着剤の場合は、硬化させるためにオーブン等で部分的に熱を加える必要があり、生産効率の向上の妨げになったり、相互に接合される部材の材質によっては熱を許容できなかったりすることがある。また、嫌気硬化型接着剤の場合は、硬化させるために空気を遮断する必要があり、そのために接着形態が限定される可能性がある。
これらに対し、具体例で示したように、光硬化型接着剤にはこのような問題がなく、取り扱いが容易であり、実用的であることから、光硬化型接着剤を用いることが望ましい。