つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用した車両の駆動系を図3に示す。図3は、この発明を適用した車両Veが、例えば四輪駆動車両Veである例を示している。図3に示す車両Veにおいて、動力源1の出力側には、動力源1の回転出力を変速する変速機2が配置され、その変速機2の出力側には、変速機2から伝達される駆動力を前輪側の駆動軸3と後輪側の駆動軸4とに分配するトランスファ(副変速機)5が設けられている。
動力源1としては、例えば、内燃機関または電動機の少なくとも一方を用いることができる。電動機としては、例えば電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを有するモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この実施例では、動力源1として、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどのエンジン1が用いられている場合について説明する。また、変速機2としては、手動変速機、あるいは自動変速機、あるいは無段変速機などの各種の変速機を用いることが可能である。
トランスファ5は、変速機2の回転出力を減速することなく駆動軸3,4へ伝達する高速側のハイギヤ列と、変速機2の回転出力をさらに減速して駆動軸3,4へ伝達する低速側のローギヤ列との二つのギヤ列を備えており、トランスファ5用のシフトレバー(図示せず)の操作によって、ハイギヤ列とローギヤ列とを選択的に切り換えて使用することができるように構成されている。また、このトランスファ5は、その内部に差動装置(センターデファレンシャル)(図示せず)を備えており、車両Veの旋回時に生じる前輪と後輪との回転差を吸収することができるように構成されている。
前輪側の駆動軸3は、フロントデファレンシャル6を介して左右の前輪駆動軸7,8に連結されていて、前輪駆動軸7,8には、左右前輪となる車輪9,10が連結されている。また、後輪側の駆動軸4は、リヤデファレンシャル11を介して左右の後輪駆動軸12,13に連結されていて、後輪駆動軸12,13には、左右後輪となる車輪14,15が連結されている。このような各機構により形成される動力伝達系統を介して、エンジン1の出力トルクが各車輪9,10,14,15に伝達される構成となっている。
ここで、上述した四輪駆動車両Veである車両Veは、例えば図4に示すようなエンジン縦置き型のFR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の二輪駆動車両Ve’をベースとした四輪駆動車両Veであり、エンジン1の出力トルクすなわち駆動力が、前記トランスファ5による動力の分配率に基づき、主として左右の後輪14,15に伝達されるように構成されている。すなわち、エンジン1から伝達される駆動力の大きい車輪が、左右の後輪14,15であり、エンジン1から伝達される駆動力の小さい車輪が、左右の前輪9,10である。言い換えると、左右の後輪14,15が、エンジン1から伝達される駆動力が相対的に大きい主駆動輪であって、左右の前輪9,10が、エンジン1から伝達される駆動力が相対的に小さい従駆動輪であると言うことができる。なお、左右の前輪9,10と左右の後輪14,15とに対する駆動力の分配率が等しくなる場合であっても、この実施例における車両Veが上記のようなFR方式の二輪駆動車両Ve’をベースとした四輪駆動車両Veである場合は、左右の後輪14,15が主駆動輪であり、左右の前輪9,10が従駆動輪であると言うことができる。
また、この発明は、上述した四輪駆動車両Veだけではなく、例えば上記の図4に示すような二輪駆動車両Ve’にも適用することができる。図4に示す二輪駆動車両Ve’は、変速機2から伝達される駆動力が後輪側の駆動軸4およびリヤデファレンシャル11および左右の後輪駆動軸12,13を介して左右の後輪14’,15’に伝達され、左右の前輪9’,10’には伝達されないように構成されている。この図4に示す二輪駆動車両Ve’は、変速機2を介して伝達されるエンジン1の出力トルクが、後輪側の駆動軸4およびリヤデファレンシャル11および左右の後輪駆動軸12,13を介して、駆動力として左右の後輪14’,15’に伝達されるように構成されている。したがって、左右の後輪14’,15’が、エンジン1から駆動力が伝達される駆動輪となっていて、左右の前輪9’,10’が、駆動力が伝達されない非駆動輪となっている。
このように、図4に示す二輪駆動車両Ve’は、図3に示す四輪駆動車両Veに対して、トランスファ5、前輪側の駆動軸3、フロントデファレンシャル6,左右の前輪駆動軸7,8が設けられていない他は、ほぼ図3に示す四輪駆動車両Veと同様の構成となっている。そのため図4に示す二輪駆動車両Ve’のその他の構成について、図3に示す構成と同様の部分には、図3に付した符号と同様の符号を付してその詳細な説明を省略する。
なお、この発明を上記のような二輪駆動車両Ve’に適用した場合は、エンジン1から伝達される駆動力の大きい車輪、すなわちエンジン1から駆動力が伝達される駆動輪が、左右の後輪14,15であり、エンジン1から伝達される駆動力の小さい車輪、すなわちエンジン1から駆動力が伝達されない非駆動輪が、左右の前輪9,10である。
そして、各車輪9,10,14,15には、あるいはこの発明を図4に示す二輪駆動車両Ve’に適用した場合は、各車輪9’,10’,14’,15’には、制動装置16がそれぞれに設けられている。また、制動装置16を構成するホイールシリンダ17と、マスタシリンダ18とを接続する作動液の液圧系には、運転者のブレーキ操作とは別に、ホイールシリンダ17内の液圧を増減し、各車輪9,10,14,15に、あるいは各車輪9’,10’,14’,15’に付与する制動力を制御するブレーキアクチュエータ19が設けられている。なお、この発明の実施例の説明において、「車両Ve」を「車両Ve’」に、「各車輪9,10,14,15」を「各車輪9’,10’,14’,15’」に、「主駆動輪(左右の後輪)14,15」を「駆動輪(左右の後輪)14’,15’」に、「従駆動輪(左右の前輪)9,10」を「非駆動輪(左右の前輪)9’,10’」にそれぞれ読み替えることにより、この発明を図4に示すような二輪駆動車両Ve’に適用した場合の説明とすることができるため、以下の説明では、二輪駆動車両Ve’に関する詳細な説明を一部省略する。
図5に、ブレーキアクチュエータ19の構成を概略的に示す。なお、ブレーキアクチュエータ19は、各車輪9,10,14,15の各制動装置16毎に、独立して液圧を制御することが可能なように構成されていて、図5には、各車輪9,10,14,15のうちの一つの車輪に関するブレーキアクチュエータ19の構成を代表的に示している。したがって他の車輪についても同様の構成となっている。
ブレーキアクチュエータ19を構成する液圧系統には、モータ20によって回転駆動される液圧ポンプ21が設けられている。この液圧ポンプ21は、制動力を制御する際の液圧源として機能し、液圧ポンプ21の吐出口21aは、管路22を介して、遮断弁23と保持弁24との間の管路25に接続されている。なお、液圧ポンプ21の吐出口21a側には、液圧ポンプ21の吐出方向とは逆方向の作動液の流れを阻止する逆止弁26が設けられている。
一方、液圧ポンプ21の吸入口21bは、管路27を介してリザーバ28に接続されていて、管路27には、液圧ポンプ21の吸入方向とは逆方向の作動液の流れを阻止する逆止弁29,30が設けられている。この逆止弁29,30の間の管路27は、管路31を介してリザーバタンク32に接続されていて、リザーバタンク32内の作動液が、管路27を介して液圧ポンプ21に吸い込まれるように構成されている。また、管路31の途中には、この管路31を開閉させる、ノーマルクローズ形(通電時に開弁する形式)の吸込弁33が設けられている。
前述の、マスタシリンダ18とホイールシリンダ17とを接続する管路25には、ノーマルオープン形(通電時に閉弁する形式)の遮断弁23が設けられており、作動液の液圧制御が実行される際に閉弁されてマスタシリンダ18とホイールシリンダ17との間の管路25を遮断するように構成されている。また、遮断弁23よりもホイールシリンダ17側の管路25には、ノーマルオープン形の保持弁24が設けられており、この保持弁24が閉弁されることにより、保持弁24からホイールシリンダ17側の液圧系を閉塞状態にするように、すなわち保持弁24からホイールシリンダ17側の液圧系の液圧を保持するように構成されている。
したがって、保持弁24を閉弁状態に制御することにより、保持弁24からホイールシリンダ17側の液圧系の液圧、すなわちブレーキ液圧を保持することができ、その結果、各車輪9,10,14,15に付与された制動力をそれぞれ保持することができる。
そして、保持弁24とホイールシリンダ17との間の管路25は、管路34によってリザーバ28に接続されている。この管路34には、ノーマルクローズ形の減圧弁35が設けられており、ON/OFFの2値状態の駆動制御信号によって、減圧弁35をduty駆動させることにより、管路34の連通状態を変化させることができる。
したがって、減圧弁35の開閉状態を制御することにより、管路34の連通状態を変化させ、保持弁24からホイールシリンダ17側の液圧系の液圧(ブレーキ液圧)を変化させることができる。例えば上記のように、ブレーキ液圧を保持していた状態、すなわち各車輪9,10,14,15に付与された制動力をそれぞれ保持していた状態から、減圧弁35を開弁状態に制御して管路34を連通状態にし、ブレーキ液圧を減圧させることによって、各車輪9,10,14,15に付与された制動力の保持状態を解除することができる。
このように、液圧ポンプ21および各種の弁装置等によって構成されるブレーキアクチュエータ19は、電子制御装置100によってその動作が制御される。すなわち、電子制御装置100により、ブレーキアクチュエータ19の動作を制御し、制動装置16のホイールシリンダ17内の液圧が増減制御される。したがって、電子制御装置100から出力される信号に基づいて、各車輪9,10,14,15に設けられた制動装置16をそれぞれ制御することができる。
図6に、電子制御装置100の構成を概略的に示す。電子制御装置100には、各車輪9,10,14,15の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサ101、シフトレバーのシフトポジションを検知するシフトポジションセンサ102、ブレーキペダル36の踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ103、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ104、トランスファ5用のシフトレバーによって選択されたギヤ列を検知する選択ギヤ列検出スイッチ105、各車輪9,10,14,15の駆動トルクを検知する駆動トルクセンサ106、車両Veの前後方向の加速度を検出する前後加速度センサ107、走行路面の傾斜角を検出する傾斜角センサ108などの各種センサが設けられており、それらの各センサの出力信号が電子制御装置100に入力されるように構成されている。
また、電子制御装置100には、各種のデータが記憶されており、電子制御装置100に入力される信号、および記憶されているデータに基づいて、電子制御装置100から、ブレーキアクチュエータ19を制御する信号が出力されるように構成されている。
前述したように、この発明は、車両Veの制動制御、すなわち各車輪9,10,14,15に付与される制動力の制御を実行する場合に、その制動制御の内容およびその制御を実行するための構成を簡素化し、容易に制動制御を実行することを目的としていて、そのために、この発明の制御装置は以下の制御を実行するように構成されている。
図1は、その制御の第1の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、まず、ドライバの制動意志によるブレーキペダル36の踏み込みによって、車両Veが停止した状態であるか否かが判断される(ステップS1)。すなわち、ドライバによりブレーキペダル36が踏み込まれ、その際に、例えばブレーキペダルセンサ103によって検出されるブレーキペダル36の踏み込み力もしくは踏み込み量などに応じて各車輪9,10,14,15に制動力が付与されて、その制動力により車両Veが停止した状態であるか否かが判断される。またこの場合の車両Veの停止状態の判断は、例えば各車輪9,10,14,15の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサ101の検出結果が全て零であることにより判断することができる。
車両Veが停止状態でないこと、例えば各車輪速センサ101の検出結果の少なくともいずれか一つが零でないことによって、このステップS1で否定的に判断された場合は、以降の制御は実行されずに、このルーチンを一旦終了する。
一方、車両Veが停止状態にあることによって、ステップS1で肯定的に判断された場合は、ステップS2へ進み、路面傾斜角が算出され、そのデータが保存される。この路面傾斜角の算出処理については、例えば車両Veに搭載された傾斜角センサ108の検出結果により求めることができる。あるいは、前後加速度センサ107によって得られる路面傾斜角に応じた車両Veの前後方向の加速度の検出結果を基に推定することもできる。また、車輪速センサ101によって得られる各車輪9,10,14,15の回転速度の変化状態から推定することも可能である。またあるいは、ナビゲーションシステム(図示せず)から得られる地理情報などを基に推定することも可能である。
続いて、上記のステップS2で求められた路面傾斜角が、基準値αよりも小さいか否かが判断される(ステップS3)。ここで基準値αは、各車輪9,10,14,15への制動力の付与状態、具体的には、全車輪すなわち主駆動輪である左右後輪14,15および従駆動輪である左右前輪9,10に制動力を付与する状態と、主駆動輪である左右後輪14,15には制動力を付与せずに従駆動輪である左右前輪9,10に制動力を付与する状態とを、路面傾斜角の大きさに応じて選択的に適宜設定するための予め定められた閾値である。
すなわち、路面傾斜角が基準値αよりも小さい場合は、停車中の車両Veに作用する、重力による車両Veを傾斜面の降坂方向へ降下させる力が小さく、その力に対抗するために相対的に大きな制動力は必要ないと判断できるため、主駆動輪14,15には制動力を付与せずに従駆動輪9,10に制動力を付与する状態が選択されて設定される。これに対して、路面傾斜角が基準値α以上である場合は、停車中の車両Veに作用する、重力による車両Veを傾斜面の降坂方向へ降下させる力が大きく、その力に対抗するために相対的に大きな制動力が必要であると判断できるため、全車輪9,10,14,15に制動力を付与する状態が選択されて設定される。
したがって、路面傾斜角が基準値αよりも小さいことによって、このステップS3で肯定的に判断された場合は、ステップS4へ進み、駆動力の大きい主駆動輪14,15には制動力が付与されずに、駆動力の小さい従駆動輪9,10に制動力が付与され、その制動力が保持される。これに対して、路面傾斜角が基準値α以上であることによって、ステップS3で否定的に判断された場合には、ステップS5へ進み、全車輪9,10,14,15に制動力が付与されて、その制動力が保持される。具体的には、前述したように、ブレーキアクチュエータ19の保持弁24が閉弁状態となるように制御されることにより、ブレーキ液圧が保持され、従駆動輪9,10に付与された制動力、もしくは全車輪9,10,14,15に付与された制動力がそれぞれ保持される。
このように前述のステップS2で求められる路面傾斜角は、その角度の大小に応じて、例えば車両Veが坂路の途中で停止した場合に、重力の作用により車両Veを坂路の降坂方向へ移動させる力の大小を推定できるパラメータとなっている。また、上記の重力の作用により車両Veを坂路の降坂方向へ移動させる力、あるいは、例えば強風などの外力の影響により車両Veに作用する車両Veを移動させようとする力が、この発明におけるいわゆる移動力に相当している。そのため、前記の路面傾斜角もこの発明におけるいわゆる移動力に相当すると言うことができる。なお、上記のような強風の影響などにより、車両Veに作用する車両Veを移動させようとする力は、例えば前述の前後加速度センサ107によって得られる車両Veの前後加速度の検出結果、あるいは車輪速センサ101によって得られる各車輪9,10,14,15の回転速度の変化状態などから、その場合に車両Veに作用する移動力として推定して算出することができる。
上記のステップS4で、主駆動輪14,15には制動力が付与されずに従駆動輪9,10に制動力が付与されて保持されると、もしくは、ステップS5で、全車輪9,10,14,15に制動力が付与されて保持されると、例えば、シフトレバーなどの操作により選択される変速機2のシフトポジション位置もしくはギヤ位置が、発進のためのシフトポジション位置もしくはギヤ位置にシフトされたことなどによるドライバの発進意志があったか否かが判断される(ステップS6)。
発進のためのシフトポジション位置もしくはギヤ位置とは、例えば車両Veに搭載されている変速機2が自動変速機である場合は、シフトレバーなどの操作により選択される変速機2のシフトポジション位置が、D(ドライブ)レンジあるいはR(リバース)レンジである状態のことであり、特に変速機が有段式の自動変速機である場合には、これらのDレンジおよびRレンジに加えて、L(1速)レンジあるいは2nd(2速)レンジなども発進のためのシフトポジション位置とすることができる。また、例えば車両Veに搭載されている変速機2が手動変速機である場合には、例えばクラッチペダルセンサ(図示せず)により所定量以上のクラッチペダル(図示せず)の踏み込みが検出され、シフトレバーなどの操作により選択される変速機2のギヤ位置が、ローギヤあるいはリバースギヤなどのギヤ位置にシフトされた状態を、発進のためのギヤ位置とすることができる。
変速機2のシフトポジション位置もしくはギヤ位置が、発進のためのシフトポジション位置もしくはギヤ位置でないこと、すなわち、例えば変速機2が自動変速機である場合に、そのシフトポジション位置が、N(ニュートラル)レンジあるいはP(パーキング)レンジなどである状態、もしくは変速機2が手動変速機である場合に、そのギヤ位置が、ニュートラルである状態あるいはクラッチペダルが所定量以上踏み込まれたままの状態であることによって、このステップS6で否定的に判断された場合は、未だドライバに発進の意志がないものと判断して、ステップS3へ戻り、それ以降の制御が繰り返し実行される。
一方、変速機2のシフトポジション位置もしくはギヤ位置が、発進のためのシフトポジション位置もしくはギヤ位置であることによって、ステップS6で肯定的に判断された場合には、ステップS7へ進み、例えばアクセルペダル(図示せず)の踏み込みなどによる、ドライバの発進意志があったか否かが判断される。この場合のドライバの発進意志の有無の判断は、例えばアクセルペダルセンサ104によって検出されるアクセルペダルの踏み込み量が所定量以上であり、かつその踏み込みが継続されている状態である場合にドライバの発進意志があると判断することができる。なお、アクセルペダルの踏み込み量以外に、例えばアクセルレバーの操作量など、その操作量の応じてエンジン1のスロットル開度を増減させる所定の装置における操作量に基づいて、ドライバの発進意志の有無を判断することもできる。
ドライバの発進意志がないこと、すなわち、例えば所定量以上のアクセルペダルの踏み込みが検出されていないこと、あるいはアクセルペダルの踏み込みが継続されずに中断されたことなどによって、このステップS7で否定的に判断された場合は、ステップS3へ戻り、それ以降の制御が繰り返し実行される。
一方、例えば所定量以上のアクセルペダルの踏み込みが検出され、その踏み込みが継続されていることによってドライバの発進意志があると判断され、すなわちステップS7で肯定的に判断された場合には、ステップS8へ進み、例えば駆動トルクセンサ106により検出される駆動トルクが、基準値β以上であるか否かが判断される。
ここで基準値βは、ドライバの発進意志によりアクセルペダルが踏み込まれ、かつその踏み込みが継続されることによってエンジン1の出力トルクが増大し、それに伴って駆動トルクが、車両Veのスムーズな発進のために必要な大きさまで増大されたことを検出するための閾値であって、路面傾斜角の検出結果に応じて設定される所定の値である。したがって、この基準値βも、前述のように、この発明におけるいわゆる移動力に相当すると言うことができる。
駆動トルクが基準値βよりも小さいことによって、このステップS8で否定的に判断された場合は、駆動トルクが増大するのを待つために、ステップS7へ戻り、それ以降の制御が繰り返し実行される。言い換えると、駆動トルクすなわちエンジン1から従駆動輪9,10、もしくは全車輪9,10,14,15に伝達される駆動力が移動力よりも小さい場合は、駆動力の大きい主駆動輪14,15には制動力が付与されずに、駆動力の小さい従駆動輪9,10に制動力が付与される。
一方、駆動トルクが基準値β以上であることによって、ステップS8で肯定的に判断された場合には、ステップS9へ進み、従駆動輪9,10、もしくは全車輪9,10,14,15に付与されていた制動力の保持状態が解除される。具体的には、前述したように、ブレーキアクチュエータ19における減圧弁35が開弁状態に制御されて管路34が連通状態にされ、ブレーキ液圧が減圧させられることにより、従駆動輪9,10、もしくは全車輪9,10,14,15に付与された制動力の保持状態が解除される。そして、車両Veの制動力が解除されると、エンジン1から伝達される駆動力によって車両Veの発進が開始される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、非駆動輪9’,10’、もしくは全車輪9’,10’,14’,15’に付与されていた制動力の保持状態が解除される。そして、車両Veの制動力が解除されると、エンジン1から伝達される駆動力によって車両Veの発進が開始される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
すなわち、車両Veの発進時に増大される駆動トルクが、基準値βよりも大きくなった時点で、従駆動輪9,10、もしくは全車輪9,10,14,15に付与されていた制動力の保持状態を解除しても、車両Veが前述のような移動力により移動されること、すなわち、例えば車両Veが坂路の途中で停止した場合に、重力の作用により車両Veが坂路の降坂方向へ降下されることはないと判断することができるため、その場合に、従駆動輪9,10、もしくは全車輪9,10,14,15に付与されていた制動力の保持状態が解除され、車両Veの発進が開始される。
また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、車両Ve’の発進時に増大される駆動トルクが、基準値βよりも大きくなった時点で、非駆動輪すなわち左右の前輪9’,10’、もしくは全車輪9’,10’,14’,15’に付与されていた制動力の保持状態を解除しても、車両Ve’が前述のような移動力により移動されることはないと判断することができるため、その場合に、非駆動輪9’,10’、もしくは全車輪9’,10’,14’,15’に付与されていた制動力の保持状態が解除され、車両Ve’の発進が開始される。
以上のように制御が実行されることによって、車両Ve,Ve’の停止時にその停止状態を維持するための制動力の制御が実行される際に、例えば車両Ve,Ve’が登坂路で停止していた場合の路面傾斜角が求められる。そして、その路面傾斜角が予め定められた基準値αよりも小さい場合、すなわち車両Ve,Ve’に作用する移動力が小さく、その移動力に対抗するために相対的に大きな制動力が必要とされない場合に、エンジン1から各車輪9,10,14,15に伝達される駆動力の大きい車輪、すなわち主駆動輪である左右の後輪14,15、あるいは駆動輪である左右の後輪14’,15’は制動されずに、駆動力の小さい車輪、すなわち従駆動輪である左右の前輪9,10、あるいは非駆動輪である左右の前輪9’,10’が制動される。すなわち、駆動力の小さい従駆動輪9,10、あるいは非駆動輪9’,10’のみに制動力が付与される。言い換えると、駆動力の小さい従駆動輪9,10、あるいは非駆動輪9’,10’のみに制動力が付与されることによって車両Ve,Ve’の停止状態が維持される。
また、車両Ve,Ve’を発進させる際に、エンジン1から各車輪9,10,14,15に伝達される駆動力が、基準値βよりも小さい場合、すなわち上記のような路面傾斜角と相関する移動力よりも小さい場合には、駆動力の大きい主駆動輪14,15、あるいは駆動輪14’,15’は制動されずに駆動力の小さい従駆動輪9,10、あるいは非駆動輪9’,10’が制動される。すなわち、駆動力の小さい従駆動輪9,10、あるいは非駆動輪9’,10’のみに制動力が付与された状態が継続される。言い換えると、車両Ve,Ve’を発進させる場合、駆動力が移動力以上に増大されるまで、駆動力の小さい従駆動輪9,10、あるいは非駆動輪9’,10’に制動力が付与されることによって車両Ve,Ve’の停止状態が維持される。
そのため、例えば全ての車輪に制動力を付与するように制御する場合と比較して、制動制御の内容およびその制御を実行するための構成を簡素化し、容易に制動制御を実行することができる。また、車両Ve,Ve’を発進させる際に、駆動力の大きい主駆動輪14,15、あるいは駆動輪14’,15’におけるいわゆるブレーキの引き摺りの発生を回避し、ブレーキの摩耗を低減することができる。
なお、移動力が予め定められた基準値α以上である場合、すなわち車両Ve,Ve’に作用する移動力が大きく、その移動力に対抗するために相対的に大きな制動力が必要とされる場合には、駆動力の小さい従駆動輪9,10、あるいは非駆動輪9’,10’に加えて駆動力の大きい主駆動輪14,15、あるいは駆動輪14’,15’が制動される。すなわち全ての車輪に制動力が付与される。そのため、移動力が大きく、その移動力により車両Ve,Ve’が移動させられる可能性がある場合においても、全ての車輪に制動力が付与されることよって、制動された車輪の路面に対する接地面積を増加させて車両Ve,Ve’の制動力を増大させることができ、その結果、より確実に車両Ve,Ve’の停止状態を維持することができる。
図2は、この発明における制動制御装置による第2の制御例を説明するためのフローチャートであって、図1のフローチャートで示すルーチンと同様、この図2のフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。また、この図2のフローチャートで示す第2の制御例は、図1のフローチャートで示す第1の制御例における制御内容を一部変更したものである。そのため、制御内容が同一のステップについては、図1のフローチャートに付したステップ番号と同様のステップ番号を付してその説明を省略する。
前述の図1のフローチャートで示す第1の制御例においては、この発明における車両Veが、四輪駆動車両Ve、あるいは二輪駆動車両Ve’に適用される場合の制御例として説明しているが、このうち二輪駆動車両Ve’を制御の対象とした場合は、車両Veの登坂能力の限界に近い路面傾斜角の大きな登坂路での走行や、そのような登坂路での停止がおこなわれる頻度あるいは可能性が、四輪駆動車両Veの場合と比較して相対的に低いと想定できる。そこで、この図2のフローチャートで示す第2の制御例においては、二輪駆動車両Ve’を制御の対象として、図1のフローチャートで示す第1の制御例における制御内容を簡略化して、制動力制御を容易に実行できるようにしている。
すなわち、図2において、上記の図1のフローチャートで示す第1の制御例の場合と同様に、車両Ve’が停止状態にあることによって、ステップS1で肯定的に判断されると、ステップS21へ進み、駆動輪すなわち左右の後輪14’,15’には制動力が付与されずに非駆動輪すなわち左右の前輪9’,10’に制動力が付与され、その制動力が保持される。
そして、第1の制御例の場合と同様に、以降のステップS6ないしS8の制御が実行され、ステップS8において、駆動トルクが基準値βよりも大きいことによって、ステップS8で肯定的に判断されると、ステップS22へ進み、非駆動輪9’,10’に付与されていた制動力の保持状態が解除される。そして、車両Ve’の制動力が解除されると、エンジン1から伝達される駆動力によって車両Ve’の発進が開始される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
すなわち、車両Ve’の発進時に増大される駆動トルクが、基準値βよりも大きくなった時点で、非駆動輪9’,10’に付与されていた制動力の保持状態を解除しても、車両Ve’が前述のような移動力により移動されることはないと判断することができるため、その場合に、非駆動輪9’,10’に付与されていた制動力の保持状態が解除され、車両Ve’の発進が開始される。
以上のように制御が実行されることによって、第1の制御例の場合と同様に、例えば全ての車輪に制動力を付与するように制御する場合と比較して、制御が煩雑になることを回避し、より容易に制動力制御を実行することができる。また、車両Ve’を発進させる際に、全ての駆動力が伝達される駆動輪14’,15’におけるいわゆるブレーキの引き摺りの発生を回避し、ブレーキの摩耗を低減することができる。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS3ないしS8、およびステップS21,S6ないしS8の機能的手段が、この発明の制動力制御手段に相当する。また、ステップS2の機能的手段が、この発明の移動力算出手段に相当し、ステップS8の機能的手段が、この発明の駆動力算出手段に相当する。さらに、ステップS3,S4の機能的手段が、この発明の請求項2における駆動力の大きい車輪を制動せずに駆動力の小さい車輪を制動する手段に相当し、ステップS3,S5の機能的手段が、この発明の請求項3における駆動力の小さい車輪に加えて駆動力の大きい車輪を制動する手段に相当する。そして、ステップS7,S8の機能的手段が、この発明の請求項4における駆動力の大きい車輪を制動せずに駆動力の小さい車輪を制動する手段に相当する。
なお、この発明は、上記の具体例に限定されないのであって、車輪に付与する制動力を制御するためのブレーキアクチュエータは、図5に示すように、作動液の液圧によりホイールシリンダを動作させるアクチュエータとして例示しているが、例えば電動式のサーボモータにより車輪に制動力を付与するように動作するアクチュエータであってもよく、要は、運転者のブレーキ操作とは別に、車輪に付与する制動力を制御する機構であればよい。
また、図6に示すように、路面傾斜角を検出するためのセンサとして傾斜角センサが設けられている例を示しているが、傾斜角センサを設けずに、前後加速度センサあるいは車輪速センサなどの検出値を基に路面傾斜角を推定することも可能である。
1…動力源(エンジン)、 2…変速機、 9,10,14,15(9’,10’,14’,15’)…車輪、 16…制動装置、 17…ホイールシリンダ、 19…ブレーキアクチュエータ、 36…ブレーキペダル、 100…電子制御装置、 Ve(Ve’)…車両。