つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用した車両の駆動系を図3に示す。図3は、この発明を適用した車両Veが、例えば四輪駆動車両Veである例を示している。図3に示す車両Veにおいて、動力源1の出力側には、動力源1の回転出力を変速する変速機2が配置され、その変速機2の出力側には、変速機2から伝達される駆動力を前輪側の駆動軸3と後輪側の駆動軸4とに分配するトランスファ(副変速機)5が設けられている。
動力源1としては、例えば、内燃機関または電動機の少なくとも一方を用いることができる。電動機としては、例えば電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを有するモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この実施例では、動力源1として、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどのエンジン1が用いられている場合について説明する。また、変速機2としては、手動変速機、あるいは自動変速機、あるいは無段変速機などの各種の変速機を用いることが可能である。
トランスファ5は、変速機2の回転出力を減速することなく駆動軸3,4へ伝達する高速側のハイギヤ列と、変速機2の回転出力をさらに減速して駆動軸3,4へ伝達する低速側のローギヤ列との二つのギヤ列を備えており、トランスファ5用のシフトレバー(図示せず)の操作によって、ハイギヤ列とローギヤ列とを選択的に切り換えて使用することができるように構成されている。また、このトランスファ5は、その内部に差動装置(センターデファレンシャル)(図示せず)を備えており、車両Veの旋回時に生じる前輪と後輪との回転差を吸収することができるように構成されている。
前輪側の駆動軸3は、フロントデファレンシャル6を介して左右の前輪駆動軸7,8に連結されていて、前輪駆動軸7,8には、左右前輪となる車輪9,10が連結されている。また、後輪側の駆動軸4は、リヤデファレンシャル11を介して左右の後輪駆動軸12,13に連結されていて、後輪駆動軸12,13には、左右後輪となる車輪14,15が連結されている。このような各機構により形成される動力伝達系統を介して、エンジン1の出力トルクが各車輪9,10,14,15に伝達される構成となっている。
ここで、上述した四輪駆動車両Veである車両Veは、例えば図4に示すようなエンジン縦置き型のFR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の二輪駆動車両Ve’をベースとした四輪駆動車両Veであり、エンジン1の出力トルクすなわち駆動力が、前記トランスファ5による動力の分配率に基づき、主として左右の後輪14,15に伝達されるように構成されている。すなわち、エンジン1から伝達される駆動力の大きい車輪が、左右の後輪14,15であり、エンジン1から伝達される駆動力の小さい車輪が、左右の前輪9,10である。言い換えると、左右の後輪14,15が、エンジン1から伝達される駆動力が相対的に大きい主駆動輪であって、左右の前輪9,10が、エンジン1から伝達される駆動力が相対的に小さい従駆動輪であると言うことができる。なお、左右の前輪9,10と左右の後輪14,15とに対する駆動力の分配率が等しくなる場合であっても、この実施例における車両Veが上記のようなFR方式の二輪駆動車両Ve’をベースとした四輪駆動車両Veである場合は、左右の後輪14,15が主駆動輪であり、左右の前輪9,10が従駆動輪であると言うことができる。
また、この発明は、上述した四輪駆動車両Veだけではなく、例えば上記の図4に示すような二輪駆動車両Ve’にも適用することができる。図4に示す二輪駆動車両Ve’は、変速機2を介して伝達されるエンジン1の出力トルクが、後輪側の駆動軸4およびリヤデファレンシャル11および左右の後輪駆動軸12,13を介して、駆動力として左右の後輪14’,15’に伝達されるように構成されている。したがって、左右の後輪14’,15’が、エンジン1から駆動力が伝達される駆動輪となっていて、左右の前輪9’,10’が、駆動力が伝達されない非駆動輪となっている。
このように、図4に示す二輪駆動車両Ve’は、図3に示す四輪駆動車両Veに対して、トランスファ5、前輪側の駆動軸3、フロントデファレンシャル6,左右の前輪駆動軸7,8が設けられていない他は、ほぼ図3に示す四輪駆動車両Veと同様の構成となっている。そのため図4に示す二輪駆動車両Ve’のその他の構成について、図3に示す構成と同様の部分には、図3に付した符号と同様の符号を付してその詳細な説明を省略する。
なお、この発明を上記のような二輪駆動車両Ve’に適用した場合は、エンジン1から伝達される駆動力の大きい車輪、すなわちエンジン1から駆動力が伝達される駆動輪が、左右の後輪14,15であり、エンジン1から伝達される駆動力の小さい車輪、すなわちエンジン1から駆動力が伝達されない非駆動輪が、左右の前輪9,10である。
そして、各車輪9,10,14,15には、あるいはこの発明を図4に示す二輪駆動車両Ve’に適用した場合は、各車輪9’,10’,14’,15’には、制動装置16がそれぞれに設けられている。また、制動装置16を構成するホイールシリンダ17と、マスタシリンダ18とを接続する作動液の液圧系には、運転者のブレーキ操作とは別に、ホイールシリンダ17内の液圧を増減し、各車輪9,10,14,15に、あるいは各車輪9’,10’,14’,15’に付与する制動力を制御するブレーキアクチュエータ19が設けられている。なお、この発明の実施例の説明において、「車両Ve」を「車両Ve’」に、「各車輪9,10,14,15」を「各車輪9’,10’,14’,15’」に、「主駆動輪(左右の後輪)14,15」を「駆動輪(左右の後輪)14’,15’」に、「従駆動輪(左右の前輪)9,10」を「非駆動輪(左右の前輪)9’,10’」にそれぞれ読み替えることにより、この発明を図4に示すような二輪駆動車両Ve’に適用した場合の説明とすることができるため、以下の説明では、二輪駆動車両Ve’に関する詳細な説明を一部省略する。
図5に、ブレーキアクチュエータ19の構成を概略的に示す。なお、ブレーキアクチュエータ19は、各車輪9,10,14,15の各制動装置16毎に、独立して液圧を制御することが可能なように構成されていて、図5には、各車輪9,10,14,15のうちの一つの車輪に関するブレーキアクチュエータ19の構成を代表的に示している。したがって他の車輪についても同様の構成となっている。
ブレーキアクチュエータ19を構成する液圧系統には、モータ20によって回転駆動される液圧ポンプ21が設けられている。この液圧ポンプ21は、制動力を制御する際の液圧源として機能し、液圧ポンプ21の吐出口21aは、管路22を介して、遮断弁23と保持弁24との間の管路25に接続されている。なお、液圧ポンプ21の吐出口21a側には、液圧ポンプ21の吐出方向とは逆方向の作動液の流れを阻止する逆止弁26が設けられている。
一方、液圧ポンプ27の吸入口21bは、管路27を介してリザーバ28に接続されていて、管路27には、液圧ポンプ21の吸入方向とは逆方向の作動液の流れを阻止する逆止弁29,30が設けられている。この逆止弁29,30の間の管路27は、管路31を介してリザーバタンク32に接続されていて、リザーバタンク32内の作動液が、管路27を介して液圧ポンプ21に吸い込まれるように構成されている。また、管路31の途中には、この管路31を開閉させる、ノーマルクローズ形(通電時に開弁する形式)の吸込弁33が設けられている。
前述の、マスタシリンダ18とホイールシリンダ17とを接続する管路25には、ノーマルオープン形(通電時に閉弁する形式)の遮断弁23が設けられており、作動液の液圧制御が実行される際に閉弁されてマスタシリンダ18とホイールシリンダ17との間の管路25を遮断するように構成されている。また、遮断弁23よりもホイールシリンダ17側の管路25には、ノーマルオープン形の保持弁24が設けられており、この保持弁24が閉弁されることによって、保持弁24からホイールシリンダ17側の液圧系を閉塞状態にするように、すなわち保持弁24からホイールシリンダ17側の液圧系の液圧を保持するように構成されている。
したがって、保持弁24を閉弁状態に制御することにより、保持弁24からホイールシリンダ17側の液圧系の液圧、すなわちブレーキ液圧を保持することができ、その結果、各車輪9,10,14,15に付与された制動力をそれぞれ保持することができる。
そして、保持弁24とホイールシリンダ17との間の管路25は、管路34によってリザーバ28に接続されている。この管路34には、ノーマルクローズ形の減圧弁35が設けられており、ON/OFFの2値状態の駆動制御信号によって、減圧弁35をduty駆動させ、管路34の連通状態を変化させることができる。
したがって、減圧弁35の開閉状態を制御することにより、管路34の連通状態を変化させ、保持弁24からホイールシリンダ17側の液圧系の液圧(ブレーキ液圧)を変化させることができる。例えば上記のように、ブレーキ液圧を保持していた状態、すなわち各車輪9,10,14,15に付与された制動力をそれぞれ保持していた状態から、減圧弁35を開弁状態に制御して管路34を連通状態にし、ブレーキ液圧を減圧させることによって、各車輪9,10,14,15に付与された制動力の保持状態を解除することができる。
このように、液圧ポンプ21および各種の弁装置等によって構成されるブレーキアクチュエータ19は、電子制御装置100によってその動作が制御される。すなわち、電子制御装置100により、ブレーキアクチュエータ19の動作を制御し、制動装置16のホイールシリンダ17内の液圧が増減制御される。したがって、電子制御装置100から出力される信号に基づいて、各車輪9,10,14,15に設けられた制動装置16をそれぞれ制御することができる。
図6に、電子制御装置100の構成を概略的に示す。電子制御装置100には、各車輪9,10,14,15の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサ101、シフトレバーのシフトポジションを検知するシフトポジションセンサ102、ブレーキペダル36の踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ103、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ104、トランスファ5用のシフトレバーによって選択されたギヤ列を検知する選択ギヤ列検知センサ105、車両Veの前後方向の加速度を検出する前後加速度センサ106、走行路面の傾斜角を検出する傾斜角センサ107などの各種センサが設けられており、それらの各センサの出力信号が電子制御装置100に入力されるように構成されている。
また、電子制御装置100には、各種のデータが記憶されており、電子制御装置100に入力される信号、および記憶されているデータに基づいて、電子制御装置100から、ブレーキアクチュエータ19を制御する信号が出力されるように構成されている。
前述したように、この発明は、車両Veの制動制御、すなわち各車輪9,10,14,15に付与される制動力の制御をおこなう場合に、エンジン1から駆動力が伝達される駆動輪、もしくは主として駆動力が伝達される主駆動輪におけるブレーキの引き摺りを防止もしくは低減することを目的としていて、そのために、この発明の制御装置は以下の制御を実行するように構成されている。
図1は、その制御の第1の制御例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、ドライバの制動意志によるブレーキペダル36の踏み込みによって、車両Veが停止した状態であるか否かが判断される(ステップS1)。すなわち、ドライバによりブレーキペダル36が踏み込まれ、その際に、例えばブレーキペダルセンサ103によって検出されるブレーキペダル36の踏み込み力もしくは踏み込み量などに応じて各車輪9,10,14,15に制動力が付与されて、その制動力により車両Veが停止した状態であるか否かが判断される。またこの場合の車両Veの停止状態の判断は、例えば各車輪9,10,14,15の回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサ101の検出結果が全て零であることにより判断することができる。
車両Veが停止状態でないこと、例えば各車輪速センサ101の検出結果の少なくともいずれか一つが零でないことによって、このステップS1で否定的に判断された場合は、以降の制御は実行されずに、このルーチンを一旦終了する。
一方、車両Veが停止状態にあることによって、ステップS1で肯定的に判断された場合は、ステップS2へ進み、路面勾配が算出され、そのデータが保存される。この路面勾配の算出処理については、例えば車両Veに搭載された傾斜角センサ107の検出結果により求めることができる。あるいは、前後加速度センサ106によって得られる路面勾配に応じた車両Veの前後方向の加速度の検出結果を基に推定することもできる。また、車輪速センサ101によって得られる各車輪9,10,14,15の回転速度の変化状態から推定することも可能である。またあるいは、ナビゲーションシステム(図示せず)から得られる地理情報などを基に推定することも可能である。
続いて、車両Veに作用する車両Veを移動させる移動力が算出され、そのデータが保存される(ステップS3)。車両Veを移動させる移動力とは、例えば車両Veが坂路の途中で停止した場合に、重力の作用により車両Veを坂路の降坂方向へ降下させる力であり、上記のステップS2で算出された路面勾配および車両Veの車重などから算出することができる。また、路面勾配が零の場合であっても、例えば、強風の影響などにより、車両Veに、車両Veを移動させようとする力が作用するような場合は、例えば上記の加速度センサ106によって得られる車両Veの前後加速度の検出結果、あるいは車輪速センサ101によって得られる各車輪9,10,14,15の回転速度の変化状態などから、その場合に車両Veに作用する移動力として推定して算出することができる。
そして、上記のステップS3で算出された車両Veに作用する移動力に基づいて、車両Veに作用させる制動力が求められ、その制動力が保持される(ステップS4)。具体的には、車両Veに作用する移動力に対抗して車両Veの停止状態を維持するために必要な制動力が求められ、その制動力が各車輪9,10,14,15に付与された状態で保持される。すなわち、前述したように、ブレーキアクチュエータ19の保持弁24が閉弁状態となるように制御されることにより、ブレーキ液圧が保持され、各車輪9,10,14,15に付与された制動力がそれぞれ保持される。
車両Veの制動力、すなわち各車輪9,10,14,15に付与された制動力が保持されると、ドライバにより踏み込まれていたブレーキペダル36が開放されたか否かが判断される(ステップS5)。この場合のブレーキペダル36の開放状態の判断は、例えばブレーキペダルセンサ103によって検出されるブレーキペダル36の踏み込み力もしくは踏み込み量などの検出結果を基に判断することができる。
ブレーキペダル36が開放されていないことによって、このステップS5で否定的に判断された場合は、未だドライバに発進の意志がないものと判断して、ステップS3へ戻り、それ以降の制御が繰り返し実行される。
一方、ブレーキペダル36が開放されたことによって、ステップS5で肯定的に判断された場合には、ステップS6へ進み、シフトレバーなどの操作により選択される変速機2のシフトポジション位置もしくはギヤ位置が、発進のためのシフトポジション位置もしくはギヤ位置であるか否かが判断される。
発進のためのシフトポジション位置もしくはギヤ位置とは、例えば車両Veに搭載されている変速機2が自動変速機である場合は、シフトレバーなどの操作により選択される変速機2のシフトポジション位置が、D(ドライブ)レンジあるいはR(リバース)レンジである状態のことであり、特に変速機が有段式の自動変速機である場合には、これらのDレンジおよびRレンジに加えて、L(1速)レンジあるいは2nd(2速)レンジなども発進のためのシフトポジション位置とすることができる。また、例えば車両Veに搭載されている変速機2が手動変速機である場合には、例えばクラッチペダルセンサ(図示せず)により所定量以上のクラッチペダル(図示せず)の踏み込みが検出され、シフトレバーなどの操作により選択される変速機2のギヤ位置が、ローギヤあるいはリバースギヤなどのギヤ位置にシフトされた状態を、発進のためのギヤ位置とすることができる。
変速機2のシフトポジション位置もしくはギヤ位置が、発進のためのシフトポジション位置もしくはギヤ位置でないこと、すなわち、例えば変速機2が自動変速機である場合に、そのシフトポジション位置が、N(ニュートラル)レンジあるいはP(パーキング)レンジなどである状態、もしくは変速機2が手動変速機である場合に、そのギヤ位置が、ニュートラルである状態あるいはクラッチペダルが所定量以上踏み込まれたままの状態であることによって、このステップS6で否定的に判断された場合は、未だドライバに発進の意志がないものと判断して、ステップS3へ戻り、それ以降の制御が繰り返し実行される。
一方、変速機2のシフトポジション位置もしくはギヤ位置が、発進のためのシフトポジション位置もしくはギヤ位置であることによって、ステップS6で肯定的に判断された場合には、ステップS7へ進み、例えばアクセルペダル(図示せず)の踏み込みなどによるドライバの発進意志があったか否かが判断される。この場合のドライバの発進意志の有無の判断は、例えばアクセルペダルセンサ104によって検出されるアクセルペダルの踏み込み量が所定量以上ある場合にドライバの発進意志が有ると判断することができる。なお、アクセルペダルの踏み込み量以外に、例えばアクセルレバーの操作量など、その操作量に応じてエンジン1のスロットル開度を増減させる所定の装置における操作量に基づいて、ドライバの発進意志の有無を判断することができる。
ドライバの発進意志がないこと、すなわち、例えば所定量以上のアクセルペダルの踏み込みが検出されていないことなどによって、このステップS7で否定的に判断された場合は、ステップS3へ戻り、それ以降の制御が繰り返し実行される。
一方、例えば所定量以上のアクセルペダルの踏み込みが検出されたことにより、ドライバの発進意志があると判断され、ステップS7で肯定的に判断された場合には、ステップS8へ進み、各車輪9,10,14,15に付与されて保持されていた制動力のうち、主駆動輪すなわち左右の後輪14,15に付与されていた制動力の保持状態が解除される。具体的には、前述したように、ブレーキアクチュエータ19における減圧弁35が開弁状態に制御されて管路34が連通状態にされ、ブレーキ液圧が減圧させられることによって、主駆動輪すなわち左右の後輪14,15に付与された制動力の保持状態が解除される。言い換えると、主駆動輪すなわち左右の後輪14,15に付与されていた制動力の大きさが低減されて零にされる。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、駆動輪すなわち左右の後輪14’,15’に付与されていた制動力の保持状態が解除される。言い換えると、駆動輪すなわち左右の後輪14’,15’に付与されていた制動力の大きさが低減されて零にされる。
このとき、各車輪9,10,14,15に付与されて保持されていた制動力のうち、従駆動輪すなわち左右の前輪9,10に付与されていた制動力の保持状態はそのまま維持され、車両Veの停止状態が維持される。すなわち、ドライバの発進意志による車両Veの発進時に、エンジン1から伝達される駆動力の大きい車輪、言い換えると、エンジン1から伝達される駆動力が相対的に大きい主駆動輪、すなわち左右の後輪14,15には制動力が付与されずに、エンジン1から伝達される駆動力の小さい車輪、言い換えると、エンジン1から伝達される駆動力が相対的に小さい従駆動輪、すなわち左右の前輪9,10に制動力が付与されることによって、車両Veの停止状態が維持される。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、各車輪9’,10’,14’,15’に付与されて保持されていた制動力のうち、非駆動輪すなわち左右の前輪9’,10’に付与されていた制動力の保持状態はそのまま維持され、車両Ve’の停止状態が維持される。すなわち、ドライバの発進意志による車両Ve’の発進時に、エンジン1から伝達される駆動力の大きい車輪、言い換えると、エンジン1から駆動力が伝達される駆動輪、すなわち左右の後輪14’,15’には制動力が付与されずに、エンジン1から伝達される駆動力の小さい車輪、言い換えると、エンジン1から駆動力が伝達されない非駆動輪、すなわち左右の前輪9’,10’に制動力が付与されることによって、車両Ve’の停止状態が維持される。
続いて、エンジン1から主駆動輪すなわち左右の後輪14,15に伝達される駆動力が、車両Veに作用する車両Veを移動させる移動力よりも大きいか否かが判断される(ステップS9)。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、エンジン1から駆動輪すなわち左右の後輪14’,15’に伝達される駆動力が、車両Ve’に作用する車両Ve’を移動させる移動力よりも大きいか否かが判断される。
エンジン1から主駆動輪すなわち左右の後輪14,15に伝達される駆動力が、車両Veに作用する車両Veを移動させる移動力以下であることによって、このステップS9で否定的に判断された場合は、ステップS3へ戻り、それ以降の制御が繰り返し実行される。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、エンジン1から駆動輪すなわち左右の後輪14’,15’に伝達される駆動力が、車両Ve’に作用する車両Ve’を移動させる移動力以下であることによって、このステップS9で否定的に判断された場合は、ステップS3へ戻り、それ以降の制御が繰り返し実行される。
一方、エンジン1から主駆動輪すなわち左右の後輪14,15に伝達される駆動力が、車両Veに作用する車両Veを移動させる移動力よりも大きいことによって、ステップS9で肯定的に判断された場合には、ステップS10へ進み、従駆動輪すなわち左右の前輪9,10に付与されていた制動力の保持状態が解除され、エンジン1から伝達される駆動力によって車両Veの発進が開始される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、エンジン1から駆動輪すなわち左右の後輪14’,15’に伝達される駆動力が、車両Ve’に作用する車両Ve’を移動させる移動力よりも大きいことによって、ステップS9で肯定的に判断された場合には、ステップS10へ進み、非駆動輪すなわち左右の前輪9’,10’に付与されていた制動力の保持状態が解除され、エンジン1から伝達される駆動力によって車両Ve’の発進が開始される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
すなわち、車両Veの発進時に増大されるエンジン1から主駆動輪すなわち左右の後輪14,15に伝達される駆動力の大きさと、車両Veに作用する車両Veを移動させる移動力の大きさとが比較される。そしてその駆動力の大きさが移動力の大きさよりも大きくなった時点で、従駆動輪すなわち左右の前輪9,10に付与されていた制動力の保持状態を解除しても、車両Veが移動力により移動されること、例えば車両Veが坂路の途中で停止した場合に、重力の作用により車両Veが坂路の降坂方向へ降下されることはないと判断することができるため、その場合に、従駆動輪すなわち左右の前輪9,10に付与されていた制動力の保持状態が解除され、車両Veの発進が開始される。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、車両Ve’の発進時に増大されるエンジン1から駆動輪すなわち左右の後輪14’,15’に伝達される駆動力の大きさと、車両Ve’に作用する車両Ve’を移動させる移動力の大きさとが比較される。そしてその駆動力の大きさが移動力の大きさよりも大きくなった時点で、非駆動輪すなわち左右の前輪9’,10’に付与されていた制動力の保持状態が解除され、車両Ve’の発進が開始される。
以上のように制御が実行されることによって、車両Ve,Ve’を発進させようとする際に、エンジン1から各車輪9,10,14,15、あるいは各車輪9’,10’,14’,15’に伝達される駆動力が、車両Ve,Ve’に作用する車両Ve,Ve’を移動させる移動力よりも小さい場合には、駆動力の大きい車輪、すなわち主駆動輪である左右の後輪14,15、あるいは駆動輪である左右の後輪14’,15’は制動されずに、駆動力の小さい車輪、すなわち従駆動輪である左右の前輪9,10、あるいは非駆動輪である左右の前輪9’,10’が制動される。すなわち、主駆動輪である左右の後輪14,15、あるいは駆動輪である左右の後輪14’,15’への制動力が解除され、従駆動輪である左右の前輪9,10、あるいは非駆動輪である左右の前輪9’,10’のみに制動力が付与される。言い換えると、駆動力が移動力以上に増大されるまでは、従駆動輪である左右の前輪9,10、あるいは非駆動輪である左右の前輪9’,10’に制動力が付与されることによって、車両Ve,Ve’の停止状態が維持される。
そのため、移動力による車両Ve,Ve’の移動を防止もしくは抑制することができると共に、駆動力の大きい車輪、すなわち主駆動輪である左右の後輪14,15、あるいは駆動輪である左右の後輪14’,15’におけるいわゆるブレーキの引き摺りの発生を回避することができ、ブレーキの摩耗を低減することができる。
図2は、この発明における制動制御装置による第2の制御例を説明するためのフローチャートであって、図1のフローチャートで示すルーチンと同様、この図2のフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。また、この図2のフローチャートで示す第2の制御例は、図1のフローチャートで示す第1の制御例におけるステップS8およびステップS10の制御内容を変更したものである。そのため、その他の制御内容が同一のステップについては、図1のフローチャートに付したステップ番号と同様のステップ番号を付してその説明を省略する。
すなわち、図2において、上記の図1のフローチャートで示す第1の制御例の場合と同様に、ステップS1ないしS7の制御が実行され、ステップS7において、ドライバの発進意志があると判断され、このステップS7で肯定的に判断された場合には、ステップS21へ進み、各車輪9,10,14,15に付与されていた制動力が、所定の割合で分配された状態で付与されて保持される。すなわち、各車輪9,10,14,15にほぼ均等の制動力が付与されて保持されていた状態から、伝達される駆動力の小さい車輪、すなわち従駆動輪である左右の前輪9,10に付与される制動力が、伝達される駆動力の大きい車輪、すなわち主駆動輪である左右の後輪14,15に付与される制動力よりも大きくなるように分配され、その状態が保持される。
具体的には、例えば、ブレーキアクチュエータ19における減圧弁35の開閉状態が制御されて、従駆動輪すなわち左右の前輪9,10のブレーキ液圧が、主駆動輪すなわち左右の後輪14,15のブレーキ液圧よりも高くなるように、主駆動輪すなわち左右の後輪14,15のブレーキ液圧が減圧させられることによって、従駆動輪すなわち左右の前輪9,10に付与される制動力が、主駆動輪すなわち左右の後輪14,15に付与される制動力よりも大きくなるように分配され、その状態が保持される。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、非駆動輪すなわち左右の前輪9’,10’に付与される制動力が、駆動輪すなわち左右の後輪14’,15’に付与される制動力よりも大きくなるように分配され、その状態が保持される。
続いて、エンジン1から各車輪9,10,14,15に伝達される駆動力が、車両Veに作用する車両Veを移動させる移動力よりも大きいか否かが判断される(ステップS9)。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、エンジン1から各車輪9’,10’,14’,15’に伝達される駆動力が、車両Ve’に作用する車両Ve’を移動させる移動力よりも大きいか否かが判断される。
エンジン1から各車輪9,10,14,15に伝達される駆動力が、車両Veに作用する車両Veを移動させる移動力以下であることによって、このステップS9で否定的に判断された場合は、ステップS3へ戻り、それ以降の制御が繰り返し実行される。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、エンジン1から各車輪9’,10’,14’,15’に伝達される駆動力が、車両Ve’に作用する車両Ve’を移動させる移動力以下であることによって、このステップS9で否定的に判断された場合は、ステップS3へ戻り、それ以降の制御が繰り返し実行される。
一方、エンジン1から各車輪9,10,14,15に伝達される駆動力が、車両Veに作用する車両Veを移動させる移動力よりも大きいことによって、ステップS9で肯定的に判断された場合には、ステップS22へ進み、各車輪9,10,14,15にそれぞれ分配されて付与されていた制動力の保持状態が解除され、エンジン1から伝達される駆動力によって車両Veの発進が開始される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、エンジン1から各車輪9’,10’,14’,15’に伝達される駆動力が、車両Ve’に作用する車両Ve’を移動させる移動力よりも大きいことによって、ステップS9で肯定的に判断された場合には、ステップS22へ進み、各車輪9’,10’,14’,15’にそれぞれ分配されて付与されていた制動力の保持状態が解除され、エンジン1から伝達される駆動力によって車両Ve’の発進が開始される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
すなわち、車両Veの発進時に増大されるエンジン1から各車輪9,10,14,15に伝達される駆動力の大きさと、車両Veに作用する車両Veを移動させる移動力の大きさとが比較される。そしてその駆動力の大きさが移動力の大きさよりも大きくなった時点で、各車輪9,10,14,15にそれぞれ分配されて付与されていた制動力の保持状態を解除しても、車両Veが移動力により移動されることはないと判断することができるため、その場合に、各車輪9,10,14,15にそれぞれ分配されて付与されていた制動力の保持状態が解除され、車両Veの発進が開始される。また、この発明が二輪駆動車両Ve’に適用されている場合は、車両Ve’の発進時に増大されるエンジン1から各車輪9’,10’,14’,15’に伝達される駆動力の大きさと、車両Ve’に作用する車両Ve’を移動させる移動力の大きさとが比較される。そしてその駆動力の大きさが移動力の大きさよりも大きくなった時点で、各車輪9’,10’,14’,15’にそれぞれ分配されて付与されていた制動力の保持状態が解除され、車両Ve’の発進が開始される。
以上のように制御が実行されることによって、車両Ve,Ve’を発進させようとする際に、エンジン1から各車輪9,10,14,15、あるいは各車輪9’,10’,14’,15’に伝達される駆動力が、車両Ve,Ve’に作用する車両Ve,Ve’を移動させる移動力よりも小さい場合には、駆動力の小さい車輪、すなわち従駆動輪である左右の前輪9,10、あるいは非駆動輪である左右の前輪9’,10’に付与される制動力が、駆動力の大きい車輪、すなわち主駆動輪である左右の後輪14,15、あるいは駆動輪である左右の後輪14’,15’に付与される制動力よりも大きくなるように、分配されて保持される。言い換えると、駆動力が移動力以上に増大されるまでは、主として、従駆動輪である左右の前輪9,10、あるいは非駆動輪である左右の前輪9’,10’に制動力が付与されることにより、車両Ve,Ve’の停止状態が維持される。
そのため、主として駆動力の小さい車輪、すなわち従駆動輪である左右の前輪9,10、あるいは非駆動輪である左右の前輪9’,10’に付与される制動力によって、移動力による車両Ve,Ve’の移動を防止もしくは抑制しつつ、駆動力が移動力以上に増大されるまでの間、駆動力の大きい車輪、すなわち主駆動輪である左右の後輪14,15、あるいは駆動輪である左右の後輪14’,15’に付与される制動力によっても、移動力による車両Ve,Ve’の移動を防止もしくは抑制することができ、より確実に車両Ve,Ve’の移動を防止もしくは抑制することができる。また、それと共に、相対的にブレーキが摩耗し易い駆動力の大きい車輪、すなわち主駆動輪である左右の後輪14,15、あるいは駆動輪である左右の後輪14’,15’におけるいわゆるブレーキの引き摺りの発生を回避もしくは抑制することができ、ブレーキの摩耗を低減することができる。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS2,S3の機能的手段が、この発明の移動力算出手段に相当し、ステップS9、およびステップS21の機能的手段が、この発明の駆動力算出手段に相当する。また、ステップS7ないしS9、およびステップS7,S21,S9の機能的手段が、この発明の制動力制御手段に相当する。そのうち、ステップS7ないしS9の機能的手段が、この発明の請求項2における駆動力の大きい車輪を制動せずに駆動力の小さい車輪を制動する手段に相当する。
なお、この発明は、上記の具体例に限定されないのであって、車輪に付与する制動力を制御するためのブレーキアクチュエータは、図5に示すように、作動液の液圧によりホールシリンダを動作させるアクチュエータとして例示しているが、例えば電動式のサーボモータにより車輪に制動力を付与するように動作するアクチュエータであってもよく、要は、運転者のブレーキ操作とは別に、車輪に付与する制動力を制御する機構であればよい。
また、図6に示すように、路面勾配を検出するためのセンサとして傾斜角センサが設けられている例を示しているが、傾斜角センサを設けずに、前後加速度センサあるいは車輪速センサなどの検出値を基に路面勾配を推定することも可能である。
1…動力源(エンジン)、 2…変速機、 9,10,14,15(9’,10’,14’,15’)…車輪、 16…制動装置、 17…ホイールシリンダ、 19…ブレーキアクチュエータ、 36…ブレーキペダル、 100…電子制御装置、 Ve(Ve’)…車両。