JP4352190B2 - チタン材の脱スケール方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チタン材の表面に生成した酸化スケールを除去する脱スケール方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
チタンおよびチタン合金の板、棒あるいは線等(本発明では、これらを総称してチタン材という)の製造においては、焼鈍などによって表面に生成する酸化スケールを除去する必要がある。スケールの除去方法としては、硝酸とふっ化水素酸の混酸水溶液(以下、硝ふっ酸酸洗液と記す)を用いて酸洗する方法が最も一般的である。
【0003】
しかし、熱間圧延後に焼鈍されたチタン板のようにスケールが厚い場合には、硝ふっ酸酸洗液による酸洗のみでは完全に脱スケールすることができない。そのため、例えば厚さが3mm以上のチタン板の脱スケールにおいては、ショットブラスト処理のような機械的な脱スケールをおこなった後で酸洗する方法が採用されることが多い。
【0004】
冷間圧延されたチタンのストリップ(帯状の板)は、生産効率を高めるために通常ステンレス鋼のストリップと同様に連続焼鈍酸洗ライン(APライン)を用いて連続的に焼鈍および脱スケールが施される。
【0005】
焼鈍炉は通常、炭化水素ガスを燃料としたトンネル型の燃焼加熱炉であり、ストリップが炉内を通過する間に700〜800℃程度の温度に加熱されるので、表面に酸化スケールが生成する。焼鈍後のストリップ表面の酸化スケールを除去するため、最初に溶融アルカリ塩浴への浸漬処理が施され、次いで硝ふっ酸酸洗液で酸洗がおこなわれる。
【0006】
通常冷間圧延されたチタンのストリップは、板厚が2mm以下と比較的薄いので、ショットブラストのような機械的な脱スケール処理をおこなうと、板の残留歪や反りが大きくなる。したがって、この場合には機械的な処理に代えて溶融アルカリ塩浴が用いられる。
【0007】
通常使用される溶融アルカリ塩浴は、水酸化ナトリウムと硝酸ナトリウムを主成分とするアルカリと塩類の混合物を430〜550℃に加熱、融解したものである。
【0008】
例えば、特公平4−72914号公報には、チタンの冷間圧延板表面の酸化スケールを除去する方法として、水酸化ナトリウムを主成分とし、これに酸化剤を添加した溶融アルカリ塩浴に浸漬した後、硝ふっ酸酸洗液により酸洗する方法が開示されている。しかし、この溶融アルカリ塩浴に浸漬する方法では、浴中でチタン板表面にスパーク疵が発生しやすいという問題がある。
【0009】
このスパーク疵は、溶融アルカリ塩浴中でチタンストリップとそれを溶融アルカリ塩浴に浸漬するための鉄製の浸漬ロールとの間に電位差が生じるために発生する。すなわち、表面の酸化スケールが溶解したチタンストリップが鉄製のロールに接触した瞬間に放電してチタン板表面が局部的に溶融してスパーク疵となる。
【0010】
特開平3−247785号公報には、上記のようなスパーク疵の発生を防止することのできるチタン板の脱スケール方法が開示されている。この方法は、溶融アルカリ塩浴の鉄製浸漬ロールにチタン製の犠牲陽極を短絡させて、チタンとストリップとの電位差を小さくする方法である。
【0011】
しかし、この方法では犠牲陽極に用いたチタンが溶融アルカリ塩浴中に溶け込むため、溶融アルカリ塩浴の老化が早まるという問題や、高価なチタンを無駄に消費するという問題がある。
【0012】
また、特開平4−45293号公報には、溶融アルカリ塩浴の入側浸漬ロールを浴中に浸漬させ、出側浸漬ロールを浴面上に出すことによりスパーク疵の発生を防止する方法が開示されている。
【0013】
この方法では、入側浸漬ロールにおいてはチタン板表面の酸化スケールがチタンとロールの接触を防ぎ、出側ロールにおいてはチタン板表面の酸化スケールが溶解して無くなっていても、ロールが浴面上に出ているため電池が形成されないのでスパークの発生が防止できる。
【0014】
しかし、上記方法はスケールの厚さやスケールの溶解速度に応じて浸漬ロールの高さを調節する必要があるため、実際の操業への適用が難しい。このようなスパーク疵発生の問題があるため、チタンのストリップの生産においては充分な溶融アルカリ塩処理を施すことができず、しばしば脱スケール後のスケール残りが生じているのが現状である。
【0015】
冷間圧延等の冷間加工後の焼鈍を真空中または窒素ガス等の不活性ガス中で行うことによりスケールの生成を防ぎ、溶融アルカリ塩を使用した脱スケールを省略する方法も従来より工業的に実施されている。しかし、実際には完全な真空や完全な不活性ガス雰囲気を得ることは困難であるため、微量に存在する水蒸気や酸素の作用によりチタンの表面に薄い酸化皮膜が生成し、テンパーカラーと呼ばれる干渉色が着色したり、表面が硬化する現象が起きることが多い。さらに、真空焼鈍では設備が大がかりになり、設備費が嵩む。
【0016】
水素を多量(20体積%以上)に含む還元性の強い雰囲気中で焼鈍することによってスケールの生成を防止することも考えられるが、この場合には雰囲気中の水素がチタンと結合してチタンの水素化物を生成する可能性があり、このためにストリップが脆化して破断する危険性がある。
【0017】
真空焼鈍炉を使用しないで弱酸化性雰囲気中で焼鈍し、チタン材表面に生成した酸化スケールを溶融アルカリ塩処理を施すことなく除去できれば、また溶融アルカリ塩処理を施す場合でもスパーク疵の発生が防止できれば、その経済的効果は大きい。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、熱間加工や焼鈍等でチタン材に生成した酸化スケールを、従来の溶融アルカリ塩浴法では避けがたいスパーク疵を発生させることなく脱スケールでき、しかも脱スケール後に良好な表面状態(粗度、光沢)が得られる脱スケール方法を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
チタン材の脱スケール方法に係わる本発明の要旨は、以下の通りである。
【0020】
(1)表面に10nm以上、350nm以下の厚さの酸化スケールを有するチタン材を電解質水溶液(ふっ酸を含む電解質水溶液を除く)中で電解し、次いでふっ酸を含む酸洗液で酸洗することを特徴とするチタン材の脱スケール方法。
【0021】
(2)表面に350nmを超える厚さの酸化スケールを有するチタン材を溶融アルカリ塩浴に浸漬処理した後、電解質水溶液(ふっ酸を含む電解質水溶液を除く)中で電解し、次いでふっ酸を含む酸洗液で酸洗することを特徴とするチタン材の脱スケール方法。
【0022】
ここで、チタンとは純チタンまたはチタン合金を示し、これらの板、線および棒材等をチタン材といい、形状は限定されないものとする。
【0023】
本発明者らは、表面にスケールを有するチタン材を、溶融アルカリ塩浴法では避けがたいスパーク疵を発生させることなく効率よく脱スケールする方法、さらには溶融アルカリ塩浴による処理を省略した脱スケール方法を開発すべく種々実験検討した結果、下記の知見を得て本発明を完成するに至った。
【0024】
a)厚さ10nm未満の薄いスケールであれば、硝ふっ酸等酸洗液に浸漬するのみで十分脱スケールができるが、10nm以上のスケールを、硝ふっ酸等の酸洗液のみにより脱スケールすると、長時間を要し、表面粗度が大きくなり、不均一な酸洗となり光沢むらが発生し易い。
【0025】
b)厚さが10〜350nm程度と比較的薄いスケールを除去する場合、従来の溶融アルカリ塩浴による処理に代え、電解質水溶液中での電解処理を施し、次いで硝ふっ酸等の酸洗液に浸漬することにより脱スケールが完全にでき、表面状態も良好となる。
【0026】
d)約350nm以上とスケール厚さが厚いチタン材は、上記b)の方法でも、酸洗時間が長くなり酸洗効率が低下するので、溶融アルカリ塩浴に浸漬してスケール厚さを約300nm以下、スパークが発生しない約30nm以上と薄くしてから、電解質水溶液中での電解処理、酸洗をおこなうのがよい。
【0027】
e)電解質水溶液中で電解処理をおこなったチタン材は、従来から使用されている硝ふっ酸酸洗液以外の酸洗液でも満足な酸洗ができ、特に硫酸および/または塩酸にふっ化水素酸および過酸化水素を添加した混酸水溶液が好ましい。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明の脱スケール方法の対象となるチタン材は、板、棒および線等の種々の形態のチタン材で、酸化物を主成分とする厚さ10〜600nm程度の酸化スケールを表面に備えた材料である。この酸化スケールは、冷間加工(冷間圧延、冷間線引きなど)後に弱酸化性雰囲気や炭化水素ガス燃焼雰囲気中で焼鈍することによって生成するスケールがその代表的なものであるが、かならずしも焼鈍することによって生成したものでなくても厚さが10〜600nm程度であれば本発明の方法を適用することができる。
【0029】
スケールの厚さが10nm未満の場合には、硝ふっ酸酸洗液による酸洗のみで十分脱スケールが可能である。しかし、10nmを超える厚さのスケールが生成したチタン材を硝ふっ酸酸洗液による酸洗のみで脱スケールしようとすると長時間を要し、また脱スケール後の表面粗度が大きくなったり、不均一な酸洗による光沢むらが発生しやすい。
【0030】
スケールの厚さが約10〜350nm程度のチタン材に対しては、溶融アルカリ塩浴による処理を施す必要はなく、電解質水溶液中での電解処理を施し、次いで硝ふっ酸等の酸洗液に浸漬することにより効率的に脱スケールできる。
【0031】
また、スケール厚さが約350nm以上と厚いチタン材は、溶融アルカリ塩浸漬法によりスパークが絶対に発生しないスケール厚さ50nm程度にスケールを溶解した後、残存するスケールを電解質水溶液中で電解して酸洗する方法で除去すれば効率的なチタンの脱スケールが可能となり、その後の酸洗によって極めて平滑で光沢の良い表面が得られる。
【0032】
溶融アルカリ塩浴に浸漬中にスパークを発生させることなく、また後の電解質水溶液中での電解処理、酸洗による脱スケールを効率よくおこなうには、溶融アルカリ塩浴に浸漬後のスケール厚さを30〜300nmにするのが好ましく、さらに好ましくは50〜200nmである。
【0033】
上述したように溶融アルカリ塩浴に浸漬処理することなく電解質水溶液中で電解して酸洗する脱スケール方法に適用するのに好適なチタン材は、弱酸化性雰囲気中で焼鈍した比較的薄いスケールを表面に有するチタン材である。
【0034】
弱酸化性雰囲気とは、それを明確に定義することは難しいが、通常の空気のように酸化力の強い酸素を約21容量%(以下、雰囲気ガスの%表示は容量%を意味する)含むものや、ステンレス鋼板の連続焼鈍酸洗ラインの焼鈍炉の炭化水素ガス燃焼雰囲気のように酸化力の強い水蒸気や残留酸素を数%〜十数%含むものに比べて酸化性が弱い雰囲気である。
【0035】
また、ステンレス鋼の光輝焼鈍に通常用いられる75%水素+25%窒素のように還元性の強い水素を多量に含むものに比べて酸化性が強い雰囲気である。
【0036】
具体的には、酸化性でも還元性でもない窒素やアルゴン等の不活性ガスを主成分とし、これに酸化力のある酸素、水蒸気、二酸化炭素を単独または複合で0.001〜2%程度を含むような雰囲気や、さらに還元力のある水素や一酸化炭素を1〜20%程度含むような雰囲気である。また、1〜数百Pa(パスカル)程度の低真空雰囲気(比較的真空度の悪い雰囲気)も弱酸化雰囲気に相当する。
【0037】
このような雰囲気中でチタン材を数十秒〜数分間焼鈍すると、その表面は黄土色、紫、青等の干渉色となる。干渉色の色調は表面の酸化スケールの厚さによって異なるが、数十〜200nm程度の厚さの時が最も鮮明であり、これより厚くなるにつれて灰色系の不鮮明な色調となる。したがって、本発明の溶融アルカリ塩処理を施さない方法は、外観上干渉色を呈するスケールおよびそれより少し厚いスケールを有するチタンおよびチタン合金の脱スケールに最も適している。
【0038】
冷間圧延されたチタンのストリップの場合には、ステンレス鋼のストリップの光輝焼鈍(BA)に用いられるような焼鈍設備を用いて連続的に焼鈍することができる。ステンレス鋼の光輝焼鈍の場合のように、75%程度と水素濃度の高い雰囲気でチタンを焼鈍すると脆い水素化物が生成してストリップが破断する恐れがある。 そこで、チタン材においては焼鈍炉の雰囲気を窒素ガスのみ、または20%以下の水素を含む窒素ガスとするのが好適である。水素は、窒素に比べて高価であるので、雰囲気中の水素濃度を低めることは処理コスト削減にも役立つ。ただし、実際の焼鈍炉においては、炉壁からの水蒸気や酸素の放出、あるいはストリップによる酸素や水分(吸着水)の持ち込みが避けられず、これらの酸化性物質による表面酸化が進みやすいので、これをなるべく抑制するためには、雰囲気ガスへの水素の添加が有効である。また、水素と同様に還元性のある一酸化炭素を雰囲気に添加して表面酸化を抑制してもよい。しかし、一酸化炭素は毒性が強いので漏れた場合の被害をなるべく小さくするため、濃度を20%以下程度とするのがよい。一方、冷間圧延後のストリップをコイル状に巻き取ったままバッチ式の焼鈍炉に入れて焼鈍することもできる。このようなバッチ炉の雰囲気としては前述のように、1〜数百Pa程度の低真空度の雰囲気を用いることもできるし、窒素ガスやアルゴンのような不活性ガスとすることもできる。これらの不活性ガスに酸素、水蒸気あるいは二酸化炭素のような酸化性ガスが含まれる場合には、スケールの厚さを10〜200nm程度とするために水素や一酸化炭素の添加が望ましい。また、雰囲気中に窒素が含まれる場合には、スケール中に窒化物が生成することがあるが、その濃度が20%以下であれば本発明の方法で脱スケールが可能である。
【0039】
また、弱酸化性雰囲気中での焼鈍ではなく、炭化水素を燃料とする燃焼加熱炉を用いた焼鈍であっても、下記の条件を満たす焼鈍であれば、溶融アルカリ塩浴に浸漬することなく、電解質水溶液中で電解して酸洗する方法に好適な比較的薄いスケールを表面に有するチタン材とすることができる。
【0040】
すなわち、冷間圧延されたチタンのストリップの場合には、通常ステンレス鋼板に適用されているような炭化水素を燃料とした連続焼鈍酸設備を用いて焼鈍することができる。ただし、焼鈍温度は750℃以下とし、焼鈍時間は板厚によっても異なるが50〜150秒間程度とするのがよい。もし、焼鈍温度が750℃を超え、焼鈍時間も150秒間を超えるようであれば、電解脱スケール、酸洗のみによる脱スケール方法では時間が長くかかるので、電解処理の前に溶融アルカリ塩浴処理をおこなうのがよい。
【0041】
溶融アルカリ塩浴としては、例えば硝酸ナトリウム5〜20質量%、残余水酸化ナトリウムのような組成のものが推奨され、浴温は450〜500℃、浸漬時間は5〜20秒間程度が適当である。ただし、前述のように、この際の溶融アルカリ塩処理は、浸漬ロールとチタンストリップの間のスパークが完全に防止できる程度のスケールを残存させる処理条件とすることが肝要である。
【0042】
次に、電解質水溶液について説明する。
【0043】
電解質として酸類(硫酸、硝酸および塩酸の1種または2種以上)や塩類(硫酸、硝酸および塩酸の塩の1種または2種以上)、およびこれらの両方、アルカリ(アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物)を用いることができ、また酸化剤(過マンガン酸塩等の過酸化物)を添加することができる。
【0044】
酸類としては酸化力のある酸がチタンのスケールを6価イオンとして溶解させるために望ましく、この意味から硝酸または硝酸を含む酸が適している。
【0045】
硝酸を単独で用いる場合の硝酸の濃度は特に厳密に限定する必要はないが、濃度が低すぎると電気抵抗が大きいために電力ロスが大きくなり、濃度が高すぎると有害ガスの発生が多くなるので、3〜30質量%(以下、電解液の濃度は質量%を意味する)程度が適当である。
【0046】
また、硫酸は比較的安価なので処理コストを低減するためには役立つが、単独で用いると陰極電解の過程でチタンの水素吸収が起きるので、硝酸と混合して用いることが望ましい。その場合の硝酸に対する硫酸の比率はモル比で2:1以下が適当である。
【0047】
塩酸は電解による脱スケールを速める作用を示すが、それ自体がチタンの地金を溶解する能力がかなり大きい酸なので、単独で用いると比較的早く脱スケールされた部位が深く侵食されるために肌荒れが大きくなりやすい。従って、塩酸も硝酸と混合して用いることが望ましく、硝酸に対する塩酸の比率はモル比で2:1以下が適当である。
【0048】
これらの酸類の水溶液の温度は特に限定するものではないが、温度が低いとスケールの溶解速度が遅く、高すぎると酸の蒸気の発生が多いので、20〜60℃程度が適当である。
【0049】
塩類は、溶解度と電離度が大きい塩類が水溶液の電気抵抗が小さく、電解時の消費電力を少なくする上で望ましい。この意味で代表的強酸である硫酸、硝酸および塩酸と強アルカリの塩のうち、溶解度が大きいものが推奨される。具体的には、硫酸ナトリウムが価格、化学的安定性等の面からも優れており、硝酸ナトリウムや塩化ナトリウムも適している。
【0050】
これらの塩類溶液の濃度や温度も特に限定されるものではないが、濃度が低いと電気抵抗が大きくなって電解時の消費電力が多くなるので、濃度は10%〜飽和濃度とすることが望ましい。また、温度が高いほど溶解度が大きくなり、電気抵抗が小さくなるが、槽の寿命が短くなるので、温度は50〜90℃程度とするのがよい。
【0051】
酸類と塩類の両方を用いることも可能であるが、酸類として硫酸または塩酸を用いる場合には陰極電解の過程で水素吸収が起きる恐れがあるので、その濃度を10%以下とし、酸化力のある硝酸塩や硝酸と混合して用いることが望ましい。アルカリ類としては、水溶液中での解離度が大きいものが望ましく、具体的には水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属の水酸化物が好適である。また、アルカリ水溶液に酸化剤を共存させることによって脱スケール能力を高めることができる。酸化剤としては、硝酸ナトリウムや過マンガンカリウムのような硝酸塩や過マンガン酸塩が好適であり、その他に過酸化水素なども適用できる。これらのアルカリ類溶液の濃度や温度も特に限定されるものではないが、濃度が低いと電気抵抗が大きくなって電解時の消費電力が多くなるので、濃度は10%〜飽和濃度とすることが望ましい。また、温度が高いほど溶解度が大きくなり、電気抵抗が小さくなるが、槽の寿命が短くなるので、温度は50〜90℃程度とするのがよい。
【0052】
電解質として硝酸を用いる電解処理は、ステンレス鋼(特に、フェライト系ステンレス鋼)の脱スケール方法として一般におこなわれており、その脱スケール機構は、溶融アルカリ塩浸漬処理や中性塩電解処理で溶け残った3価の鉄を主成分とするスケールを陰極電解によって還元して溶解するものと考えられている。
【0053】
また、電解質として硫酸ナトリウム等の塩類を用いる電解処理はやはりステンレス鋼の脱スケール方法として一般におこなわれており、その脱スケール機構は、酸化スケール中の主成分であるクロムの酸化物が、陽極電解の過程で6価のクロムイオンとして溶解するものといわれる。
【0054】
本発明における電解処理は、工業的にはステンレス鋼の場合と同様に間接通電方式の電解槽を用いておこなうことができる。
【0055】
図1は、本発明の脱スケール方法における間接通電法による電解状態を模式的に示したものである。電解質水溶液が入れられた電解槽の中のチタン材の進行方向に正極と負極とが配列されている。正極は上側正極1−1と下側正極1−2とを対面させて設置されており、両者間をチタン材2が通過する。負極も同様に上側負極3−1と下側負極3−2とが対面して配置されている。直流電源4に接続されている正極から電流がストリップに流れて負極に向かうので、正極近傍のストリップ表面では陰極電解、負極近傍のストリップ表面では陽極電解がおこなわれる。
【0056】
電解質水溶液中での電解処理は陽極電解または交番電解した時に脱スケール効果が大きく、陰極電解した時には比較的脱スケール効果が小さい。
【0057】
チタン材の電解処理の脱スケール機構は現在のところ明確ではないが、陽極電解の過程で、スケール中のチタンの酸化物が6価のイオンとして溶解し、陰極電解の過程でスケール中のTiO2が還元され、3価のイオン(Ti3+)として溶解するものと推測される。
【0058】
チタンのストリップに対して陽極電解のみを行おうとする場合には、連続電気めっきなどに使われるような通電ロールで給電する必要があるが、表面にスケールが存在する場合にはスケールの電気抵抗が大きいため適用できない。これに対して、間接通電法によってストリップを電解する場合には、必然的にそのストリップは交番電解されるので、交番電解が推奨される。
【0059】
一方、シート状、棒状あるいは線状のチタンの場合には、ステンレス鋼や白金などを対極とし、これらと直流電源や交流電源をリード線で接続することにより、陽極電解または交番電解が実施できる。電解時の電流密度は、脱スケール効果に大きな影響を及ぼし、電流密度が大きいほど脱スケール効果も大きくなる。通常、0.5A/dm2未満では脱スケール効果がほとんどなく、50A/dm2を超えると酸素、水素、酸化窒素等のガスの発生が大きくなって電流効率が低下する。また、電解時間が長いほど脱スケールは進むが、不必要に長い電解は電力の無駄使いとなるので、正味の陽極電解時間としては、5〜60秒間が適当である。なお、電解液が酸化性物質を含まない硫酸または塩酸の場合には、電解でスケールが全て溶解した後で、地金が侵食される可能性があるので長時間の浸漬は避けるべきである。
【0060】
以下、電解質水溶液中での電解によって脱スケールした後のチタン材の酸洗に用いる酸洗液について説明する。
【0061】
酸洗液としては、硝酸とふっ化水素酸を適当な濃度で混合した硝ふっ酸酸洗液が推奨される。ふっ化水素酸の濃度は0.5〜3質量%程度が適当であり、濃度が濃いほどチタンの地金およびスケールの溶解速度が速く脱スケール能力が高いが、酸洗後の表面肌が粗くなりやすい。硝酸の濃度は5〜20質量%程度が適当であり、濃度が濃いほど酸洗後の表面肌が滑らかになり光沢が良くなるが、脱スケール能力は低下する傾向にある。
【0062】
また、硝酸を添加せず、ふっ化水素酸単味の水溶液でも酸洗は可能であるが、酸洗後の表面が粗くなり、水素を吸収して脆化する危険性が生じる。硝ふっ酸酸洗液を用いたチタンの酸洗において水素吸収を防ぐためには、硝酸とふっ化水素酸の比率を10:1以上にするのが好ましい。また、硝ふっ酸酸洗液の温度は20〜60℃程度が適当であり、温度が高いほど酸洗速度は速まる。
【0063】
ところで、硝ふっ酸酸洗液は硝酸を含むため、酸洗の過程で有害な二酸化窒素や酸化窒素のガスを発生する。また、能力が劣化した硝ふっ酸酸洗液をアルカリ中和法で廃酸処理して得られる廃液中には多量の有害な硝酸イオンが含まれるため、そのまま排水として放出することができない。
【0064】
そこで、硝酸を含まない酸洗液の開発をおこなった結果得られた、硫酸および塩酸の一方または両方にふっ化水素酸と過酸化水素を添加した混酸水溶液が好ましい。
【0065】
硫酸および塩酸の一方を用いる場合の適正濃度は硫酸が5〜20質量%(約1.1〜4.7規定)、塩酸が2〜15質量%(約1.1〜4.3規定)程度であり、両方を用いる場合は、その合量の濃度が1.1〜4.5規定になるように調節すればよい。また、ふっ化水素酸の濃度は0.5〜5質量%、過酸化水素の濃度は2〜10質量%程度が適当であり、温度は20〜45℃程度が適当である。これらの酸以外に、10〜50質量%で50〜90℃の硫酸や5〜30質量%で20〜60℃の塩酸などによってもチタンの酸洗は可能であるが、ふっ化水素酸を含む酸洗液に比べて酸洗速度は遅い傾向にある。
【0066】
なお、スケールが厚いチタン材で板厚が厚い場合は、電解処理の前にショットブラスト処理を施すのもよい。
【0067】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す化学組成の工業用純チタンおよびチタン合金の帯状冷延板(ストリップ)より横100mm、縦150mmの大きさの試験片を切り出し、雰囲気を調整することができる電気炉を用いて表2に示す条件で焼鈍した。表2に示すように焼鈍雰囲気は、90%N2+10%H2および70%N2+1%CO2+14%CO+15%H2の2種とした。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
これらの雰囲気は、高純度の窒素、水素、二酸化炭素、一酸化炭素および酸素に必要に応じて加湿器で水蒸気を添加する方法で調整した。
【0071】
なお、表2に示したスケールの厚さは、焼鈍後の試験片の一部を臭素メタノール法で溶解し、剥離した表面皮膜の質量から換算して求めたものである(皮膜の密度を3.9g/cm3として計算した)。また、スケールの厚さの測定値の正確さを確かめるため、別途これらの試験片の一部を樹脂に埋め込んで断面を研磨し、エッチング処理後に走査型電子顕微鏡を用いてスケールの厚さを測定したところ、上記の臭素メタノール法で剥離して測定した値とよく一致した。
【0072】
次に、表3に示す組成および温度の電解液を用いて表4に示す条件で電解処理を行った。さらに、電解処理および水洗後に下記2種の酸洗液で酸洗し、水洗、乾燥した。
【0073】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
また、比較のために、一部の試験片については、電解処理を省略して上記条件で酸洗液MまたはNのみによる脱スケールをおこなった。次に、試験片の表面を肉眼および光学顕微鏡で観察し、スケールの残存程度を評価すると共に、脱スケールが完了した試験片については、JIS B0601にしたがい平均表面粗さRaを測定した。これらの結果を表5〜7に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
【表7】
【0080】
なお、スケールの残存評価は下記の5段階とした。
【0081】
1:肉眼で確認できる多くのスケールが残存
2:肉眼で確認できるかなりのスケールが残存
3:光学顕微鏡による観察で、かなりスケールが残存
(肉眼では、わずかなスケールの残存が確認できる)
4:光学顕微鏡による観察で、わずかにスケールが残存
5:光学顕微鏡による観察で、全くスケールの残存無し
これらの表から明らかなように、本発明例では脱スケールした試験片には光学顕微鏡観察でも全くスケールの残存は認められないか、光学顕微鏡による観察でわずかにスケールが残存する程度であり、表面粗さはRaが0.08〜0.21μmの範囲であった。これに対して、電解を省略した場合には、肉眼でも多くのスケール残存が認められた。そこで、電解を省略した場合に脱スケールを完全におこなうために、硝ふっ酸酸洗液による酸洗条件を、酸洗液:10%HNO3−3%HF、50℃、浸漬:180秒として酸洗した。その結果を表8に示す。
【0082】
【表8】
【0083】
同表から明らかなように、HF濃度を高め、浸漬時間を長くすることによって、スケールは完全に除去されたが、、表面粗さはRaが1.03〜1.51μmとなり、酸洗による肌荒れが著しかった。
【0084】
なお、表5の電解条件のうち、交番電解条件は陰極電解後に陽極電解する条件のみを示したが、別途行った脱スケール試験の結果、陽極電解後に陰極電解する条件でも脱スケール能力には全く差が無く、脱スケール処理後の試験片には光学顕微鏡観察で全く残存スケールが認められなかった。
【0085】
(実施例2)
雰囲気ガスを種々に制御できる連続焼鈍電気炉を用いて、表1の記号AおよびEの工業用チタンおよびチタン合金の冷間圧延後のストリップを100%N2雰囲気で焼鈍した。
【0086】
また、表1の記号AおよびCの工業用チタンおよびチタン合金の冷間圧延後のストリップをコイル状に巻いた状態でバッチ式加熱炉を用いて95%N2+5%H2雰囲気で焼鈍した。これらの焼鈍条件および焼鈍によって生成したスケールの厚さの測定結果を表9に示した。
【0087】
【表9】
【0088】
なお、スケールの厚さは実施例1と同じく、臭素メタノール法によって剥離したスケールの質量から換算した。
【0089】
次に、ステンレス鋼の電解脱スケールに用いられるものと同様な間接通電方式の電解槽に表4の組成および温度の電解液を入れ、電解電流を種々に変えながら焼鈍後のストリップを電解処理した。
【0090】
次いで、10%HNO3−1%HF(50℃)を用いて硝ふっ酸酸洗液により酸洗した。また、比較例として一部のコイルについては電解処理を施さないで、直接硝ふっ酸酸洗液による酸洗をおこなった。
【0091】
なお、電解槽は1槽または2槽を用い、2槽を用いる場合にはそれぞれの槽に異なる電解液を入れた。
【0092】
酸洗後のストリップより試験片を採取し、実施例1と同じ評価基準でスケールの残存程度と平均表面粗さを調べた。これらの結果を表10に示す。
【0093】
【表10】
【0094】
同表より明らかなように、本発明例では、脱スケールした試験片には光学顕微鏡観察でも全くスケールの残存は認められず、平均表面粗さもRaが0.07〜0.18μmであった。一方、比較例の酸洗のみにより脱スケールした場合は、肉眼で多くのスケールの残存が認められた。
【0095】
(実施例3)
表1の記号A、BおよびEの工業用純チタンおよびチタン合金の冷間圧延後のストリップを、炭化水素ガスを燃料とするトンネル型の燃焼加熱炉を用いて連続的に焼鈍し、引き続いて下記組成の480℃の溶融アルカリ塩浴に10秒間浸漬後水洗する処理をおこなった。
【0096】
硝酸ナトリウム:10.2質量%
塩化ナトリウム:8.3質量%
炭酸ナトリウム:2.5質量%
残余:水酸化ナトリウム
なお、焼鈍時の雰囲気、焼鈍温度、加熱時間および焼鈍によってチタン表面に生成したスケールの厚さは表11に示す通りである。表11の記号XIIの供試材については、溶融アルカリ塩浴への浸漬は省略した。
【0097】
【表11】
【0098】
次に、焼鈍後のストリップより横100mm、縦150mmの大きさの試験片を切り出し、表3の記号a、cおよびdの組成および温度の電解液を用いて表12に示す条件で電解処理をおこなった。さらに、下記組成の50℃の硝ふっ酸酸洗液に60秒間浸漬して水洗、乾燥した。
【0099】
硝酸:10質量%
ふっ酸:1質量%
【0100】
【表12】
【0101】
得られた試験片について、実施例1と同じ評価基準で試験片表面のスケールの残存程度と平均表面粗さを調べた。これらの結果を表13に示す。
【0102】
【表13】
【0103】
同表より明らかなように、本発明例では、脱スケールした試験片には光学顕微鏡観察でも全くスケールの残存は認められず、表面粗さもRaが0.09〜0.11μmであった。これに対して溶融アルカリ塩処理は行ったが電解は省略した場合(試験No.105および122)には、肉眼でかなりのスケール残存が認められ、溶融アルカリ塩処理と電解の両方を省略した場合(試験No.106、114および123)には、肉眼で多くのスケール残存が認められた(ほとんど脱スケールがおこなわていなかった)。また、溶融アルカリ塩処理した後のチタン材表面を目視観察したところ、スパークの発生は認められなかった。
【0104】
【発明の効果】
本発明の脱スケール方法により、チタンおよびチタン合金表面に生成した酸化スケールを従来の溶融アルカリ塩浴法では避け難いスパーク疵を発生させることなく確実に除去することが可能となった。また、冷間加工したチタン材を安価な弱酸化性雰囲気炉により焼鈍することができることや表面粗圧度が小さくて光沢の良い製品が得られること等、産業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】ストリップの連続電解処理のための間接通電状態を示す模式図である。
【符号の簡単な説明】
1−1、1−2 正極 3−1、3−2 負極
2 ストリップ 4 電源
Claims (2)
- 表面に10nm以上、350nm以下の厚さの酸化スケールを有するチタン材を電解質水溶液(ふっ酸を含む電解質水溶液を除く)中で電解し、次いでふっ酸を含む酸洗液で酸洗することを特徴とするチタン材の脱スケール方法。
- 表面に350nmを超える厚さの酸化スケールを有するチタン材を溶融アルカリ塩浴に浸漬処理した後、電解質水溶液(ふっ酸を含む電解質水溶液を除く)中で電解し、次いでふっ酸を含む酸洗液で酸洗することを特徴とするチタン材の脱スケール方法。
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