以下、本発明による車両用ブレーキの制御装置の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1には、第1実施形態に係る車両用ブレーキの制御装置を含む電動ブレーキ装置の全体が示されている。この電動ブレーキ装置は、左右前輪FL,FR及び左右後輪RL,RRに設けられた電動ディスクブレーキ10と、電気制御装置20と、駆動回路30と、サービスブレーキ用のブレーキ操作部材としてのブレーキペダル50とを含んでいる。
電動ディスクブレーキ10は、図2に詳細に示したように、車輪と一体的に回転する被制動部材であるディスクロータ102を備えている。ディスクロータ102の両面はそれぞれ摩擦面104,106とされ、前記摩擦面104,106に対向して一対のブレーキパッド108,110が配設されている。各ブレーキパッド108,110は、前面において各摩擦面104,106と接触する摩擦材108a,110aをそれぞれ備えるとともに、同摩擦材108a,110aの背面に鋼製の裏板108b,110bが固着された構造を有している。
電動ディスクブレーキ10は、マウンティングブラケット112を備えている。マウンティングブラケット112は、一対のブレーキパッド108,110を跨ぐ状態で車体側部材に回転不能に取付けられ、同一対のブレーキパッド108,110を同ディスクロータ102の回転軸線に平行な方向に移動可能となるように保持している。
また、電動ディスクブレーキ10は、キャリパ114を含んでいる。キャリパ114は、アーム(図示省略)を一体に備えていて、このアームからパッド移動方向に平行に伸びる一対のピン(図示省略)がマウンティングブラケット112のピン孔に摺動可能に嵌合されることにより、ディスクロータ102の回転軸線に平行な方向に移動可能に保持されている。
一対のブレーキパッド108,110のうちの内側のインナパッド110の背後には、加圧部材116が軸方向に移動可能に配設されている。加圧部材116は、所定量だけインナパッド110方向に移動したとき、その前面において同インナパッド110の背面に当接させられるようになっている。また、加圧部材116の背後には電動モータ11が配置されている。加圧部材116と電動モータ11は、パッド移動方向に平行に互いに同軸に配置されるとともに、運動変換機構としてのボールねじ118により互いに連結されている。
電動モータ11のハウジング120は、円筒状をなす本体部120aと、同本体部120aの一方の開口を閉塞する閉塞部120bとがボルト(図示省略)により一体的に結合されることにより構成され、他方の開口の端部においてキャリパ114に対してボルト(図示省略)により固定されている。電動モータ11のステータ122は、ハウジング120の内側に固定されていて、金属製のコア124と、コア124に巻回されたコイル126とを備えている。また、ステータ122に僅かな距離を隔てて対向する状態で、永久磁石128が設けられている。永久磁石128は、ボールねじ118のナット130に固定され、同ナット130とともに電動モータ11のロータを構成している。
ナット130は、貫通孔を有する円筒形状をなし、ラジアル軸受け132を介してモータハウジング120の閉塞部120bに回転可能に支持される小径部と、ラジアルスラスト軸受け134を介してキャリパ114に回転可能、且つ軸方向に移動不能に支持される大径部とを有している。ナット130の前記大径部と前記小径部との間の外周部には前記永久磁石128が固定されている。ナット130の内周面には、ボールねじ118のボールを保持するためのボール溝が等間隔にて形成されている。また、ナット130は前記ボール溝の適宜個所から同ボール溝の他の個所に至るボール経路を構成するチューブ(図示省略)を有している。
ナット130の外周部にはN極及びS極が等間隔で交互に配置された永久磁石136が固定されている。この永久磁石136に対向するようにホール素子からなる位置センサ12がキャリパ114に固定されている。位置センサ12は、ナット130の回転を前記永久磁石136の回転に伴う磁界の変化に基づいて検出することで制動部材であるインナパッド110のモータ11に対する相対位置Xを検出するようになっている。
前記加圧部材116には、前記ナット130の内部を挿通するネジ軸138が一体に形成されていて、同ネジ軸138の外周には、ボールねじ118のボール溝が所定のリード角を有するように形成されている。このネジ軸138のボール溝及び前記ナット130の内周に形成されたボール溝と、前記チューブとによってボールねじのボールの循環経路が形成される。前記ボールねじ118は、この循環経路内に複数のボール140が一列に連続して収容されることにより構成される周知の形式のものである。なお、本例においては、ボールねじ118の循環経路をチューブ式としたが、所謂コマ式であってもよい。
このような構成により、ナット130が電動モータ11により正転(所定の方向に回転)されるとボールねじ118の作用によりネジ軸138が図2において右方向に移動し、加圧部材116が制動部材であるインナパッド110を被制動部材であるディスクロータ102に向けて押動するとともに、同ディスクロータ102に押圧する。
加圧部材116のインナパッド110に当接する面には、歪センサである加圧力センサ13が埋設されている。加圧力センサ13は、加圧部材116がインナパッド110を押圧する実際の加圧力(実加圧力P)を加圧部材116に生じる歪み量から検出するようになっている。
再び、図1を参照すると、電気制御装置20は、図示しないメモリ及びCPUを有するマイクロコンピュータ21を含んでいて、同メモリ内に格納されたプログラムを実行するようになっている。また、電気制御装置20は、上記位置センサ12と、上記加圧力センサ13と、図示しない変速機の出力軸の回転を検出することにより車両の速度(以下、車速と云う。)SPDを検出する車速センサ41と、駐車ブレーキの作動を制御するために運転者により操作されて駐車ブレーキ作動指示信号PKBを発生する駐車ブレーキ操作スイッチ42と、車両の状態量検出手段の一つとして運転者によるブレーキペダル50のペダル踏力Fを検出する踏力センサ43と、同じく車両の状態量検出手段の一つとして同ブレーキペダル50の操作ストロークSTを検出するストロークセンサ44と、モータ電流センサ45と、車両の状態量検出手段の一つとして4輪FL,FR,RL,RRにそれぞれ設けられ各輪の車輪速度VFL,VFR,VRL,VRRを検出する車輪速センサ46a〜46dとが接続されていて、これらからの信号を入力するようになっている。
駆動回路30は、入力側が電気制御装置20に、出力側が電動モータ11に接続されるとともに電源としての車両のバッテリ(図示省略)と接続されたスイッチング回路であって、電気制御装置20からのデューティ比を表す指令信号(同指令信号には電流の向きも含まれる。)に応じた電流を各々の電動モータ11に供給するようになっている。駆動回路30と各電動モータ11の電流供給ラインには上記モータ電流センサ45が接続されていて、このモータ電流センサ45は、電動モータ11に実際に供給された実供給電流I(デューティ比を考慮して得られた値)を検出するようになっている。
次に、上記車両用ブレーキの制御装置の作動について説明する。図3はマイクロコンピュータ21がブレーキ制御(加圧力Pの制御)のために所定時間の経過毎に実行するプログラム(メインルーチン)を示すフローチャートである。図4は、目標加圧力P*、実加圧力P、電動モータ11に供給される電流I、及びフラグF1,F2の値を時間の経過に従って示したタイムチャートである。なお、一般には、目標加圧力P*が先に変化し実加圧力Pがこれに追従するように変化するが、図4においては、説明の便宜上、目標加圧力P*が一定の場合であって実加圧力Pが電動モータ11の慣性その他の要因で変化する場合を示した。図5はマイクロコンピュータ21が参照するメモリ内に格納されたマップである。
先ず、通常のブレーキ制御が行われている場合、即ち、車輪がロックした際に行われるアンチロックブレーキ制御(以下、ABS制御)中でない場合であって、図4の時刻t1直前の状態、即ち電動モータ11が回転されておらず、且つ実加圧力Pが目標加圧力P*の近傍にある場合から説明する。マイクロコンピュータ21は所定のタイミングにてステップ300から図3に示したルーチンの処理を開始し、ステップ305に進んでABS制御中か否かを判定する。現段階はABS制御中ではないので、マイクロコンピュータ21はステップ305にて「No」と判定しステップ310に進み、図5(A)に示したペダル踏力Fに対する目標加圧力P*のマップと踏力センサ43により検出された実際のペダル踏力Fとから現時点の目標加圧力P*を求める。
次いで、マイクロコンピュータ21はステップ315に進み、フラグF1の値が「1」か否かを判定する。フラグF1の値は電動モータ11が逆転されている場合に「0」、その他の場合に「1」に設定される。時刻t1直前の時点では、電動モータ11は逆転していないから、フラグF1の値は「1」とされているので、マイクロコンピュータ21は、ステップ315にて「Yes」と判定してステップ320に進み、同ステップ320にて加圧力センサ13が検出する実加圧力Pと前記目標加圧力P*との差(P−P*)が所定の閾値A(Aは正の値)より大きいか否かを判定する。現時点は時刻t1直前であるから実加圧力Pと前記目標加圧力P*との差は所定の閾値Aより小さいので、マイクロコンピュータ21はステップ320にて「No」と判定してステップ325に進む。
マイクロコンピュータ21は、ステップ325にてフラグF2の値が「1」か否かを判定する。フラグF2の値は電動モータ11が正転されている場合に「0」、その他の場合に「1」に設定される。時刻t1直前の時点では電動モータ11は正転されておらず、フラグF2の値は「1」とされているので、マイクロコンピュータ21は、ステップ325にて「Yes」と判定してステップ330に進み、同ステップ330にて目標加圧力P*と実加圧力Pとの差(P*−P)が所定の閾値B(Bは正の値)より大きいか否かを判定する。現時点は時刻t0直前であるから目標加圧力P*と実加圧力Pとの差(P*−P)は所定の閾値Bより小さいので、マイクロコンピュータ21はステップ330にて「No」と判定してステップ395に進み、同ステップ395にて本ルーチンを一旦終了する。
このように、電動モータに電流が供給されておらず、同電動モータ11が正転又は逆転していない場合であって、実加圧力Pと目標加圧力P*との差(P−P*)が閾値−Bから閾値Aの間にあるときは、マイクロコンピュータ21は電動モータ11への電流供給を開始せず、従って、電動モータ11は回転されない。
次に、実加圧力Pと目標加圧力P*との差が閾値Aより大きくなる場合(時刻t2参照)について説明する。この場合、マイクロコンピュータ21が所定のタイミングにて図3に示したルーチンの処理を開始すると、同マイクロコンピュータ21はステップ305,310,315を実行し、続くステップ320にて「Yes」と判定してステップ335に進み、同ステップ335にて電動モータ11に供給する電流Iを所定の負の電流(−I0)とする。これにより、図示しない電動モータ駆動ルーチンにより電流−I0が電動モータ11に供給され、同電動モータ11が逆転される。次いで、マイクロコンピュータ21はステップ340にてフラグF1の値を「0」に設定する。
次に、マイクロコンピュータ21はステップ325に進み、フラグF2の値は依然として「1」であるから同ステップ325にて「Yes」と判定し、目標加圧力P*と実加圧力Pの差(P*−P)は閾値Bより小さいから続くステップ330にて「No」と判定してステップ395に進み、同ステップ395にて本ルーチンを一旦終了する。
このように、実加圧力Pが目標加圧力P*に閾値Aを加えた値より大きくなると、マイクロコンピュータ21は電動モータ11を逆転して、実加圧力Pを低下させ、同実加圧力Pを目標加圧力P*に近づける。
電動モータ11に電流−I0を与えて逆転させる場合、同電動モータ11に加わる負荷は、同電動モータ11を正転させる場合の負荷に比べ非常に小さい。電動モータ11を正転させる場合には、加圧部材116により制動部材であるブレーキパッド108,110を被制動部材であるディスクロータ102に押圧させる必要があるが、逆転させる場合にはこのような必要がないからである。このため、同電動モータ11は一定の電流−I0が供給されることで逆転を続けるので、実加圧力Pが低下し続ける。しかしながら、時刻t2までの期間においては、実加圧力Pは目標加圧力P*よりも大きい。
この状態で、マイクロコンピュータ21が図3に示したルーチンを実行すると、同マイクロコンピュータ21は、フラグF1の値が先のステップ340により「0」とされていることからステップ305,310に続くステップ315にて「No」と判定してステップ345に進み、同ステップ345にて実加圧力Pが目標加圧力P*以下となったか否かを判定する。前述したように、現時点では実加圧力Pは目標加圧力P*よりも大きいので、マイクロコンピュータ21はステップ345にて「No」と判定し、ステップ325,330、及びステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。この結果、電動モータ11は逆転を続け、実加圧力Pは更に低下する。
これにより、時刻t2になると、実加圧力Pと目標加圧力P*とが等しくなる。従って、時刻t2またはその直後にマイクロコンピュータ21が図3に示したルーチンを実行すると、同マイクロコンピュータ21はステップ305,310,315に続くステップ345にて「Yes」と判定してステップ350に進み、同ステップ350にて電動モータ11への供給電流Iを「0」として同電動モータ11の逆転を停止する。次いで、マイクロコンピュータ21は、ステップ355にてフラグF1の値を「1」とし、ステップ325,330、及びステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上のように、電動モータ11は、実加圧力Pと目標加圧力P*との差(P−P*)が閾値Aよりも大きくなると逆転され、実加圧力Pが目標加圧力P*以下となると同逆転が停止される。なお、電動モータ11の慣性を考慮し、実加圧力Pと目標加圧力P*との差(P−P*)が「0」〜閾値Aの範囲内の所定の閾値となったとき、同電動モータ11の逆転を停止するように構成してもよい。
時刻t2から時刻t3の期間においては、実加圧力Pは目標加圧力P*より小さくなるが、同目標加圧力P*の近傍にあって、同目標加圧力P*と同実加圧力Pの差(P*−P)は所定の閾値Bより小さい。この状態においては、マイクロコンピュータ21はステップ305,310,315,320と進み、同ステップ320にて「No」と判定してステップ325に進む。
そして、フラグF2の値は「1」であるから、マイクロコンピュータ21はステップ325にて「Yes」と判定してステップ330に進み、目標加圧力P*と実加圧力Pの差(P*−P)は所定の閾値Bより小さいから同ステップ330にて「No」と判定し、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このように、目標加圧力P*と実加圧力Pの差(P*−P)が閾値Bより小さい場合には、電動モータ11に電流が供給されないので、同電動モータ11は停止された状態に維持される。
次に、目標加圧力P*と実加圧力Pの差(P*−P)が閾値Bより大きくなった場合(時刻t3を参照)について説明する。この場合、マイクロコンピュータ21は、ステップ305,310,315,320,325,330と進み、同ステップ330にて「Yes」と判定しステップ360に進む。
マイクロコンピュータ21はステップ360にて、図5(B)に示した目標加圧力P*と供給電流Iとの関係を示すマップと、現時点の目標加圧力P*とから供給電流Iを求める。この結果、図示しない電動モータ駆動ルーチンにより電流I=g(P*)が電動モータ11に供給され、同電動モータ11が正転して実加圧力Pが増大する。次いで、マイクロコンピュータ21はステップ365にてフラグF2の値を「0」に設定し、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
この時点以降において、マイクロコンピュータ21が図3に示したプログラムを実行すると、同マイクロコンピュータ21はステップ305,310,315,320,325へと進む。この場合、先のステップ365にてフラグF2の値が「0」とされていることから、マイクロコンピュータ21はステップ325にて「No」と判定してステップ370に進み、同ステップ370にて実加圧力Pが目標加圧力P*以上となったか否かを判定する。現時点は、電動モータ11の正転が開始されたばかりであるあから、実加圧力Pは目標加圧力P*より小さい。従って、マイクロコンピュータ21は、ステップ370にて「No」と判定してステップ375に進み、同ステップ375にて電動モータ11への供給電流Iを所定電流iだけ増大する。その後、マイクロコンピュータ21はステップ395に進み、同ステップ395にて本ルーチンを一旦終了する。
以上により、図示しない電動モータ駆動ルーチンが実行されると、所定電流iだけ増大された供給電流Iが電動モータ11に供給される。この結果、同電動モータ11の正転方向への回転トルクが増大されるので、実加圧力Pが更に増大する。このようにして実加圧力Pは次第に増加するが、時刻t4にて目標加圧力P*以上となるまでは、上記ステップ375が繰り返し実行される。
次に、上述のように電動モータ11が正転されている場合に、実加圧力Pが目標加圧力P*以上となった場合(時刻t4参照)について説明する。この場合、マイクロコンピュータ21は、ステップ305,310,315,320,325,370と進み、同ステップ370にて「Yes」と判定してステップ380に進む。そして、マイクロコンピュータ21はステップ380にて電動モータ11の正転を停止すべく供給電流Iの値を「0」とし、ステップ385にてフラグF2の値を「1」とした後、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このように、電動モータ11は、目標加圧力P*と実加圧力Pとの差(P*−P)が閾値Bよりも大きくなると正転され、実加圧力Pが目標加圧力P*と等しくなると同正転が停止される。なお、電動モータ11の慣性を考慮し、目標加圧力P*と実加圧力Pとの差(P*−P)が「0」〜閾値B以内の所定の閾値となったとき、同電動モータ11の正転を停止するように構成してもよい。
なお、時刻t4以降のように、実加圧力Pと目標加圧力P*との差(P−P*)が閾値−B〜閾値Aの範囲内にある場合、マイクロコンピュータ21は、時刻t1以前と同様に、ステップ305,310,315,320,325,330を実行し、ステップ395にて本ルーチンを一旦終了する。従って、電動モータ11は回転されない。
以上が、本実施形態における通常時の加圧力制御である。このように、本実施形態においては、実加圧力Pと目標加圧力P*との差(P−P*)が閾値−B〜閾値Aの範囲(制御不感帯)内にある場合には、電動モータ11を回転させることを禁止しているので、同電動モータの頻繁な正転・逆転の繰り返しが回避される。この結果、電動モータ11の寿命を延ばすことができるとともに、無駄なエネルギ消費を排除し、且つ騒音を低減することができる。なお、本実施形態においては、時刻t3〜時刻t4の間で電動モータ11への供給電流を次第に増大させているが、PID制御等を採用して、目標加圧力P*と実加圧力Pとの差に応じて電流値を可変とし、同目標加圧力P*と実加圧力Pとの差が最大となるまでは供給電流を増大させ、それ以降は減少させるように構成することもできる。
次に、ABS制御における作動について図3、及び図6〜図11を参照して説明する。マイクロコンピュータ21は図3に示したメインルーチンに加え図6に示した左後輪RLについてのABS制御ルーチンを所定時間Δt1の経過毎に実行している。なお、マイクロコンピュータ21は右後輪RR、及び左右前輪FL,FRにつていも図6と同様なルーチンを所定時間Δt1の経過毎に実行するようになっている。
先ず、図11の時刻t0〜時刻t1に示したように、ブレーキペダル50の踏込みが開始された場合であって、車輪がロック状態になく、且つABS制御が実行されていない場合から説明する。この期間においては、図3に示したメインルーチンの実行によりペダル踏力Fに応じて目標加圧力P*が決定され(ステップ370)、実加圧力Pが決定された目標加圧力P*となるように電動モータ11が駆動される。
一方、マイクロコンピュータ21は所定のタイミングにてABS制御ルーチンの処理をステップ600から開始し、ステップ605にて下記数1に示した計算式に従って車両の状態量の一つとして実スリップ率Sを計算する。数1において、VSは車体速度であり、VWは車輪速度である。この車輪速度VWは、制御対象が左後輪RLであるから左後輪の車輪測VRLであり、他の車輪を対象とする場合には、それぞれ対象とする車輪速度VRR,VFL,VFRとなる。
S=(VS−VW)/VS …(数1)
車体速度VSは、車輪速センサ46a〜46dが検出する車輪速度VFL,VFR,VRL,VRRのうちの最大値をVWmax、前回の本ルーチン実行時に求められた車体速度をVS0、及びαu,αdを所定の正の定数とするとき、下記数2により求められる。なお、MEDは括弧内に示された変数の中から中間の大きさの変数を選択する関数である。
VS=MED(VWmax,VS0+αu・Δt1,VS0−αd・Δt1) …(数2)
次いで、マイクロコンピュータ21は、ステップ610に進んで偏差eを数3に従って計算する。S*は目標スリップ率であり、路面にもよるが、ここでは一定値(例えば、0.2)とする。
e=S*−S …(数3)
次に、マイクロコンピュータ21は、ステップ615に進んでABS制御が終了しているか否かを判定する。現時点は、ABS制御中でないので、マイクロコンピュータ21はステップ615にて「Yes」と判定してステップ620に進み、偏差eが第1の基準偏差−e1(e1は正の値)より小さいか否かを判定する。現時点は、車輪がロック状態にないから、偏差eは第1の基準偏差−e1より大きいので、マイクロコンピュータ21はステップ620にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。従って、この場合には、ABS制御は開始されない。
次に、車輪が時刻t1にてロック状態となった場合について説明する。時刻t1以降において、マイクロコンピュータ21が初めてステップ615に進んだときには、未だABS制御は開始されていない。このため、マイクロコンピュータ21はステップ615にて「Yes」と判定してステップ620に進む。また、この場合には車輪がロック状態にあるから、偏差eは第1の基準偏差−e1より小さくなっている。従って、マイクロコンピュータ21はステップ620にて「Yes」と判定してステップ625に進み、同ステップ625にて現時点の実加圧力P(現時点の目標加圧力P*であってもよい。)を初期加圧力PMとしてメモリ内に格納した後、ステップ630に進んで急減モードを開始すべく図7に示した急減モードサブルーチンの実行を開始し、ステップ695に進んで本ABSルーチンを一旦終了する。これにより、ABS制御が開始される。
マイクロコンピュータ21は、図7の急減モードサブルーチンの実行を開始すると、他のモードのサブルーチンの実行が開始されるまで、同急減モードサブルーチンを所定時間Δt2の経過毎に繰り返し実行する。この急減モードサブルーチンにおいては、マイクロコンピュータ21はステップ700を介してステップ705に進み、同ステップ705にて現在の目標加圧力P*から所定の正の値aを減じた値を新たな目標加圧力P*として設定する。
この場合、マイクロコンピュータ21が所定のタイミングにて図3に示したメインルーチンの実行を開始すると、ABS制御中であるか否かを判定するステップ305にて「Yes」と判定してステップ315に進む。この結果、ステップ310は実行されないので、目標加圧力P*はステップ310にてペダル踏力Fに応じて決定される目標加圧力P*とはならず、前記急減モードサブルーチンのステップ705により決定された目標加圧力P*となる。次いで、マイクロコンピュータ21はステップ315以降を実行するため、実加圧力Pが上記のように決定された目標加圧力P*となるように電動モータ11の供給電流Iが制御される。
このようにして、急減モードが開始されると、所定時間Δt2の経過毎に目標加圧力P*が正の値aだけ減少され、これに応じて電動モータ11が回転(逆転)駆動されて実加圧力Pが減少され、従って、制動トルクが急減する。なお、以上ような目標加圧力P*の設定、及び実加圧力Pを目標加圧力P*に等しくするための電動モータ11に対する供給電流Iの制御(図3)は、後述する他のABS制御モード(緩減モード、急増モード、緩増モード)についても同様に行われる。
この状態にて、マイクロコンピュータ21が再び図6のABS制御ルーチンの処理をステップ600から開始すると、ステップ605にて実スリップ率Sが更新され、ステップ610にて偏差eが更新される。そして、現段階は急減モードであってABS制御中であることから、マイクロコンピュータ21はステップ615にて「No」と判定してステップ635に進み、同ステップ635にて現在が急減モードであるか否かを判定する。現時点は急減モードであるから、マイクロコンピュータ21は、ステップ635にて「Yes」と判定してステップ640に進み、同ステップ640にて偏差eが第2の基準偏差−e2(e2はe1より小さい正の値)より大きいか否かを判定する。この場合、制動トルクの急減を開始した直後であり、車輪がロック状態から復帰していないから、偏差eは第2の基準偏差−e2より小さい。このため、マイクロコンピュータ21はステップ640にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このような状態が継続すると、図7のステップ705が繰り返し実行されるため、目標加圧力P*が急減する。この結果、制動トルクが急減して車輪速度VRLが回復(増大)してくるため、実スリップ率Sが目標スリップ率S*に近づき、図11の時刻t2に示したように、偏差eが第2の基準偏差−e2より大きくなる。これにより、マイクロコンピュータ21は、所定のタイミングにてステップ640に進んだとき、同ステップ640にて「Yes」と判定してステップ645に進み、緩減モードを開始すべく図8に示した緩減モードサブルーチンの実行を開始する。マイクロコンピュータ21は、急減モードサブルーチンと同様、緩減モードサブルーチンの実行を開始すると、他のモードのサブルーチンの実行が開始されるまで、同緩減モードサブルーチンを所定時間Δt2の経過毎に繰り返し実行する。
この緩減モードサブルーチンにおいては、マイクロコンピュータ21は、ステップ800を介してステップ805に進み、同ステップ805にて現在の目標加圧力P*から所定の正の値bを減じた値を新たな目標加圧力P*として設定する。所定の正の値bは、前記所定の正の値aよりも小さい値とされている。これにより、図3に示したメインルーチンが実行されると、所定の正の値bだけ減少された目標加圧力P*に応じて電動モータ11が回転(逆転)駆動されて制動トルク(実加圧力P)が正の値bに対応したトルクだけ減少される。
この状態にて、図6のABS制御ルーチンの処理が開始されると、マイクロコンピュータ21は、ステップ605,610を実行し、また、現段階は緩減モードであることからステップ615,635の両ステップにて「No」と判定してステップ650に進み、同ステップ650にて現在が緩減モードであるか否かを判定する。そして、マイクロコンピュータ21は、ステップ650にて「Yes」と判定してステップ655に進み、同ステップ655にて偏差eが第3の基準偏差−e3(e3はe2より小さい正の値)より大きいか否かを判定する。現時点は、緩減モードに移行した直後であるから偏差eは第3の基準偏差−e3より小さい(e<−e3)ため、マイクロコンピュータ21はステップ655にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このような状態が継続すると、図8のステップ805が繰り返し実行されるため、目標加圧力P*が緩やかに(所定時間Δt2の経過毎にbだけ)減少する。この結果、制動トルクは徐々に減少して車輪速度VRLが更に回復する。従って、実スリップ率Sは目標スリップ率S*に近づき、図11の時刻t3に示したように、偏差eは第3の基準偏差−e3より大きくなる。これにより、マイクロコンピュータ21は、所定のタイミングにてステップ655に進んだとき、同ステップ655にて「Yes」と判定してステップ660に進み、急増モードを開始すべく図9に示した急増モードサブルーチンの実行を開始する。マイクロコンピュータ21は、急減及び緩減モードサブルーチンと同様、急増モードサブルーチンの実行を開始すると、他のモードのサブルーチンの実行が開始されるまで、同急増モードサブルーチンを所定時間Δt2の経過毎に繰り返し実行する。
この急増モードサブルーチンにおいては、マイクロコンピュータ21は、ステップ900を介してステップ905に進み、同ステップ905にて現在の目標加圧力P*に所定の正の値cを加えた値を新たな目標加圧力P*として設定し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。所定の正の値cは、前記所定の正の値aと同程度の大きさに選択されている。これにより、図3に示したメインルーチンが実行されると、所定の正の値cだけ増大された目標加圧力P*に応じて電動モータ11が回転(正転)駆動されて制動トルク(実加圧力P)が正の値cに対応したトルクだけ増大される。
この状態にて、図6のABS制御ルーチンの処理が開始されると、マイクロコンピュータ21は、ステップ605,610を実行し、また、現段階は急増モードであることからステップ615,635,650の各ステップにて「No」と判定してステップ665に進み、同ステップ665にて目標加圧力P*が先のステップ625にてメモリに格納した急減モード開始時の実加圧力(初期加圧力)PMの所定値α倍(例えば、0.8倍(即ち、0.8・PM))の値より大きくなったか否かを判定する。この段階では、急増モードが開始された直後であるので、目標加圧力P*は初期加圧力PMのα倍よりも小さい。従って、マイクロコンピュータ21は、ステップ665にて「No」と判定してステップ670に進み、同ステップ670にて偏差eが第4の基準偏差e4(e4はe3より大きい正の値)より大きいか否かを判定する。現時点は、制動トルクの急増に移行した直後であるから、偏差eは第4の基準偏差e4より小さい。このため、マイクロコンピュータ21はステップ670にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このような状態が継続すると、図9のステップ905が繰り返し実行されるため、目標加圧力P*が急速に増大(所定時間Δt2の経過毎にcだけ増大)し、この結果、制動トルクも急増する。このとき、偏差eが前記第4の基準偏差e4より大きくなる前に、目標加圧力P*が初期加圧力PMのα倍より大きくなると(図11の時刻t4参照)、マイクロコンピュータ21は、所定のタイミングにて図6のステップ665に進んだとき、同ステップ665にて「Yes」と判定してステップ675に進み、緩増モードを開始すべく図10に示した緩増モードサブルーチンの実行を開始する。
一方、急増モードにおいて、目標加圧力P*が初期加圧力PMのα倍より大きくなる前に、偏差eが前記第4の基準偏差e4より大きくなると(図11の時刻t4参照)、マイクロコンピュータ21は、所定のタイミングにて図6のステップ670に進んだとき、同ステップ670にて「Yes」と判定してステップ675に進み、緩増モードを開始すべく図10に示した緩増モードサブルーチンの実行を開始する。マイクロコンピュータ21は、急減モードサブルーチン等と同様、緩増モードサブルーチンの実行を開始すると、同緩増モードサブルーチンを所定時間Δt2の経過毎に繰り返し実行する。
緩増モードサブルーチンにおいては、マイクロコンピュータ21はステップ1000を介してステップ1005に進み、同ステップ1005にて現在の目標加圧力P*に所定の正の値dを加えた値を新たな目標加圧力P*として設定する。所定の正の値dは、前記所定の正の値bと同程度の大きさを有し、前記所定の正の値a,cよりも小さい。
次いで、マイクロコンピュータ21は、ステップ1010にて現在のペダル踏力Fと図5(A)に示したマップとから暫定目標加圧力P0*を求め、続くステップ1015にて目標加圧力P*が暫定目標加圧力P0*より大きいか否かを判定する。現時点では緩増モードが開始された直後であるから、一般には目標加圧力P*は暫定目標加圧力P0*より小さい。従って、マイクロコンピュータ21はステップ1015にて「No」と判定し、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
これにより、図3に示したメインルーチンが実行されると、所定の正の値cだけ増大された目標加圧力P*に応じて電動モータ11が回転(正転)駆動されて制動トルク(実加圧力P)が正の値dに対応したトルクだけ増大される。
以降においては、図10の緩増モードサブルーチンが所定時間Δt2の経過毎に実行されるから、目標加圧力P*はステップ1005により次第に増大し、この結果、制動トルクは緩増(所定時間Δt2の経過毎に正の値dに対応するトルクだけ増大)する。このとき、ブレーキペダル50に対するペダル踏力Fが小さくされて暫定目標加圧力P0*が小さくなることにより又は時間経過に伴って同目標加圧力P*が増大することにより、同目標加圧力P*が同暫定目標加圧力P0*より大きくなると、マイクロコンピュータ21はステップ1015にて「Yes」と判定してステップ1020に進み、同1020にてABS制御を終了し、続く1095にて本ルーチンを一旦終了する。
以上説明したように、第1実施形態のABS制御においては、偏差eが第1基準偏差−e1より小さくなったとき(スリップ率が第1スリップ率(=S*+e1)より大きくなったとき)、急減モードを開始して目標加圧力P*を急減し、これにより実加圧力P(制動トルク)が急減されて過大なスリップが直ちに抑制される。
そして、偏差eが第2基準偏差−e2より大きくなると(スリップ率が第2スリップ率(=S*+e2)より小さくなると)、緩減モードを開始して目標加圧力P*を緩減し、これにより実加圧力P(制動トルク)が緩減される。また、偏差eが第3基準偏差−e3より大きくなると(スリップ率が第3スリップ率(=S*+e3)より小さくなると)、急増モードを開始して目標加圧力P*を急増し、偏差eが第4基準偏差e4より大きくなると(スリップ率が第4スリップ率(=S*−e4)より小さくなると)、緩増モードを開始して目標加圧力P*を緩増する。
一般に、ABS制御においては、スリップ率が過大となったときに制動トルクを急減させることで同スリップ率を低下させ、その後同制動トルクを急増させることで同スリップ率をある程度まで増大させている。この制御を電動モータ11を備えた電動ディスクブレーキ10で実施するためには、同電動モータ11を大きな速さで逆転させた後、直ちに大きな速さで正転させる必要がある。しかしながら、電動モータ11を大きな速さで逆転させた後に大きな速さで正転するために、同電動モータ11への供給電流を逆転用の電流から正転用の電流に切換えたとき、同電動モータ11はその慣性により逆転を続けるので、実加圧力Pにアンダーシュートが発生したり、次の加圧力の増圧応答が悪化する恐れがある。従って、上記実施形態のように、急減モードの後に緩減モードを実施し、その後急増モードを開始するようにすれば、制動トルクのアンダーシュートを招かず、スリップ率の過度の低下を招かないという利点がある。
また、電動モータ11を使用した場合には、緩減モードにより制動トルクを減少させることが可能であるから、制動トルクを急減した後に保持しその後急増する場合よりも同制動トルクの減少分を小さくできる。これを、図12を参照して説明すると、油圧式ブレーキでは、加圧力(制動トルク)の緩減が構造上困難であるから、同制動トルクの急減の後に同制動トルクの保持を行う。しかし、加圧力(制動トルク)を保持した場合には、制動トルクの減少が望めないから、スリップ率が基準値S1以下に低下するまで加圧力(制動トルク)を急減せざるを得ない。これに対し、制動トルクの緩減が可能な本実施形態においては、スリップ率が基準値S1より大きい基準値S2まで低下した時点で同緩減モードを開始することにより、同スリップ率の回復を待つことが可能であり、これにより制動トルクの過度な減少を回避するとともに、その後に続く急増モードにおいて電動モータ11を必要以上に回転する必要がなく、その結果、無駄なエネルギ消費を回避することができる。
また、上記実施形態においては、緩減モードの後に急増モードを開始し、実加圧力P又は目標加圧力P*が、ABS制御開始時(急減モード開始時)の実加圧力P又は目標加圧力P*(初期加圧力PM)のα倍の値(α・PM)まで回復したときに緩増モードに移行する。これにより、ABS制御開始時の実加圧力P又は目標加圧力P*にまで実加圧力Pを急増した場合に比べて、車輪が再びロック状態となる可能性が低減されるから、加圧力の急減、急増の頻繁な繰り返しが回避され、より安定したABS制御が達成され得る。
なお、上記第1実施形態において、ステップ320,345、330,370は、検出された車両の状態量であるペダル踏力F(目標加圧力P*)と実加圧力Pとに基づいて制動トルクを増大すべきであるか、又は同制動トルクを減少すべきであるかを決定する制動トルク増減要求決定手段を構成している。また、ステップ335,350、360,375,380は、前記制動トルクが増大すべきであると決定されたとき前記電動モータ11を所定方向に回転(正転)させる電流を同電動モータ11に供給するとともに、前記制動トルクが減少すべきであると決定されたとき同電動モータ11に同所定方向へ回転させない電流を同電動モータ11に供給する(供給電流を遮断する、又は同電動モータ11を同所定方向と反対の方向に回転(逆転)させる電流を同電動モータ11に供給する)電流供給手段の機能を達成している。
また、ステップ320、330は、車両の状態量に基づく制動トルクの変更要求量である実加圧力Pと目標加圧力P*との差が所定量より大きいか否かを判定する判定手段を構成していて、ステップ335,360は、同変更要求量が所定量(閾値A,B)より大きいか否かに応じて電動モータ11に所定の電流を供給する(電流の供給を開始する)電流供給手段を構成している。さらに、ステップ310,705,805,905,1005は、車両の状態量に基づいて目標加圧力P*を決定する目標加圧力決定手段を構成している。
更に、図3及び図6〜図10に示した各ルーチンは、取得されたスリップ率S(上記例では、偏差e)に応じて前記加圧力の変化速度が変更されるように目標加圧力P*を変化させ、この目標加圧力P*に実加圧力Pが等しくなるように前記電動モータ11に供給する電流を制御する電流制御手段とを構成するとともに、取得されたスリップ率が所定量より大きくなったとき(上記例では、偏差eが第1の基準偏差−e1より小さくなったとき)前記目標加圧力P*を低下させて加圧力の減少を開始し、その後(図11の時刻t3を参照)、同目標加圧力P*を増大して同加圧力を増大するとともに、同加圧力の増大時における同目標加圧力P*の変化速度を変更することで同加圧力の変化速度が次第に低下するように前記電動モータ11に供給する電流を制御する電流制御手段とを構成している。
また、図3及び図6〜図8は、取得されたスリップ率が所定量より大きくなったとき(上記例では、偏差eが第1の基準偏差−e1より小さくなったとき)前記加圧力を急激に減少させ、その後(偏差eが第2の基準偏差−e2より大きくなったときに)同加圧力を緩やかに減少させるように前記電動モータ11に供給する電流を制御する電流制御手段を構成している。
次に、上記第1実施形態の変形例を説明する。この変形例は、電動ディスクブレーキ10−1が図13に示したようにローラねじを採用している点においてのみ上記第1実施形態と異なる。従って、以下においては、図2に示した電動ディスクブレーキ10と同一構成部分には同一符号を付して説明を省略し、上記相違点についてのみ説明する。
この変形例に係る電動ディスクブレーキ10−1においては、加圧部材116−1と電動モータ11は運動変換機構としてのローラねじ118−1により互いに連結されている。より具体的に述べると、ナット130−1の内周面には所定のリード角を有するねじが設けられている。また、前記加圧部材116−1に一体に形成され、且つナット130−1の内部を挿通するネジ軸138−1の外周面にもねじがが設けられている。そして、前記ナット130−1内周面のねじと前記ネジ軸138−1の外周面のねじの両者に螺合する複数のねじ付きローラ142がネジ軸138−1の軸線方向に沿って設けられている。このねじ付きローラ142は、ナット130−1の回転運動の際に、軸方向に移動することなく遊星歯車のように回転し、加圧部材116−1(ネジ軸138−1)を軸方向に移動させるようになっている。
このようなローラねじ118−1を採用した電動ディスクブレーキ装置10−1においては、加圧部材116−1が制動力を弱める方向に移動する力(図13において左方向の力)を受けた場合であっても、ローラねじ118−1の逆効率が悪い(逆効率が前述のボールねじの約半分程度と小さい)ため、同加圧部材116−1の移動が阻止される。従って、このような電動ディスクブレーキ装置10−1を採用した場合に実加圧力Pを低下させるには、上記第1実施形態と同様に電動モータ11を逆転する必要がある。
次に、本発明による車両用ブレーキの制御装置の第2実施形態について説明する。この第2実施形態に係るブレーキの制御装置の全体は図1に示した第1実施形態と同様である。
第2実施形態においては、図2に示した電動ディスクブレーキ10に代わり図14に示した電動ディスクブレーキ10−2が使用される。この電動ディスクブレーキ10−2は、リターン機構を有している点においてのみ図2に示した電動ディスクブレーキ10と相違している。従って、以下においては、電動ディスクブレーキ10と同一部分については同一符号を付して説明を省略するとともに、上記相違点について説明する。
即ち、この電動ディスクブレーキ装置10−2は、加圧部材116の電動モータ11側の外周部に同加圧部材116の軸直方向に延設された鍔部116aを有している。また、キャリパ114には、上記鍔部116aに対向するように突出部114aが設けられている。鍔部116aと突出部114aにはリターンスプリングとしての圧縮スプリング115が介装され、同リターンスプリング115は加圧部材116を電動モータ11側(図14において左方向)に付勢している。このリターンスプリング115は、ブレーキパッド108,110をディスクロータ102から離間させる機能(周知の液圧式ディスクブレーキにおけるピストンシールと同様の機能)を有し、上記鍔部116a及び上記突出部114aとともに上記リターン機構(前記電動モータが前記制動部材を前記被制動部材に押圧する力と反対向きの力を同電動モータに付与するリターン力付与手段)を構成している。これにより、電動モータ11が加圧部材116をディスクロータ102の方向(図14において右方向)へ押圧する力を発生していないとき、同加圧部材116は前記リターンスプリング115の付勢力によりディスクロータ102から離間する方向(図14において左方向)に移動され、この結果、制動トルクが発生しないようになっている。
次に、第2実施形態に係るブレーキの制御装置の作動について説明する。第2実施形態においては、マイクロコンピュータ21は図3に示したメインルーチンに変わり、図15に示したメインルーチンを所定時間の経過毎に実行する。なお、図15に示したメインルーチンは図3に示したメインルーチンと共通のステップを有しているので、同一のステップについては同一の符号を付している。
先ず、ABS制御中でない場合から説明すると、マイクロコンピュータ21は所定のタイミングにてステップ1500から処理を開始し、現在がABS制御中か否かを判定するステップ1505にて「No」と判定してステップ1510に進み、図5(A)に示したペダル踏力Fに対する目標加圧力P*のマップと踏力センサ43により検出された実際のペダル踏力Fとから現時点の目標加圧力P*を求める。次いで、マイクロコンピュータ21はステップ1515に進み、実加圧力Pが求められた目標加圧力P*より小さいか否かを判定し、実加圧力Pが目標加圧力P*より小さい場合には同ステップ1515にて「Yes」と判定してステップ1520に進み、同ステップ1520にて図5(B)に示した目標加圧力P*と供給電流Iとの関係を示すマップと、ステップ1510にて求めた目標加圧力P*とから供給電流Iを求める。この結果、図示しない電動モータ駆動ルーチンにより電流I=g(P*)が電動モータ11に供給され、同電動モータ11が正転して実加圧力Pが増大し、制動トルクが増大する。次いで、マイクロコンピュータ21はステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、実加圧力Pが目標加圧力P*より大きい場合、マイクロコンピュータ21は上記ステップ1515にて「No」と判定してステップ1525に進み、同ステップ1525にて電動モータ11への供給電流Iの値を「0」とする。従って、電動モータ11には電流が流れず、同電動モータ11は回転トルクを発生しない。この結果、上述したリターン機構により加圧部材116がディスクロータ102から離間する方向に押動されるため、実加圧力Pが減少してブレーキパッド110がディスクロータ102から離間する方向に移動するため、制動トルクも減少する。次いで、マイクロコンピュータ21はステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。以上がABS制御中でない場合の作動である。
次に、第2実施形態に係るABS制御の作動について説明する。マイクロコンピュータ21は、第1実施形態において説明した図6〜図9に示したルーチンを所定時間の経過毎に実行するとともに、図10に代わる図16に示したルーチンを所定時間の経過毎に実行する。従って、第2実施形態は、図6のステップ675にて示した緩増モード制御ルーチンが実行されるまで、第1実施形態とほぼ同様に作動する。
具体的に説明すると、ABS制御が実行されていない状態において、偏差e(=目標スリップ率S*−実スリップ率S)が第1基準偏差−e1以下になると、マイクロコンピュータ21はABS制御を急減モードから開始し、図7に示した急減モードサブルーチンを所定時間Δt2の経過毎に実行するようになる。この場合、マイクロコンピュータ21が図15に示したメインルーチンをステップ1500から開始すると、ABS制御が開始されたことからステップ1505にて「Yes」と判定してステップ1530に進み、同ステップ1530にてフラグFHOJIの値が「1」であるか否かを判定する。フラグFHOJIの値は、後述する緩増モードサブルーチンにおける加圧力の保持要求時に「1」とされ、その他の場合には「0」とされている。従って、この時点ではフラグFHOJIの値は「0」であるからマイクロコンピュータ21はステップ1530にて「No」と判定してステップ315以降に進む。
この場合、急減モードサブルーチンにおいて目標加圧力P*が正の値aだけ減少されているから、マイクロコンピュータ21はステップ320にて「Yes」と判定してステップ335に進み、同ステップ335にて電動モータ11に供給する電流Iを所定の負の電流(−I0)とする。これにより、図示しない電動モータ駆動ルーチンにより電流−I0が電動モータ11に供給され、同電動モータ11が逆転して実加圧力Pが遅れなく低下する。
即ち、第2実施形態においては、加圧部材116にリターン機構が設けられているから、電動モータ11に電流を供給しなければ実加圧力Pは自然に低下する(ABS制御以外におけるステップ1525を参照)。しかしながら、ABS制御、特に急減モードの初期においては、過大なスリップ率を直ちに抑制する必要があるから、電動モータ11への通電を停止しただけでは実加圧力Pの低下が遅れる。そこで、第2実施形態では、上記ステップ335に示したようにABS制御における減圧要求があったとき、電動モータ11に逆転させるような電流Iを供給するようにしている。その後、マイクロコンピュータ21は、ステップ340,325,330を実行し、ステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以降、急減モードが継続されるため実加圧力Pは低下し、制動トルクが低下することから偏差eが第2の基準偏差−e2より大きくなる。従って、マイクロコンピュータ21は図6のステップ640にて「Yes」と判定してステップ645に進み、緩減モードを開始し、以降図8に示した緩減モードサブルーチンを所定時間Δt2の経過毎に実行する。この場合もフラグFHOJIの値は「0」に維持されているから、マイクロコンピュータ21は図15のステップ315〜385の所定のステップを実行する。この結果、ステップ335が実行されて実加圧力Pが緩減し、制動トルクも緩やかに減少する。
この状態が継続して偏差eが第3の基準偏差−e3より大きくなると、マイクロコンピュータ21は図6のステップ655にて「Yes」と判定してステップ660に進み、急増モードを開始し、以降図9に示した急増モードサブルーチンを所定時間Δt2の経過毎に実行する。この場合もフラグFHOJIの値は「0」に維持されているから、マイクロコンピュータ21は図15のステップ315〜385の中から該当するステップを実行する。この結果、ステップ360,375が実行されて実加圧力Pが急増し、制動トルクも急増する。
その後、実加圧力Pが急減モード開始時の実加圧力P又は目標加圧力P*(即ち、初期加圧力PM)のα倍(α・PM)まで回復したとき、又は偏差eが第4の基準偏差e4より大きくなったとき、マイクロコンピュータ21は緩増モードを開始して、以降同緩増モードサブルーチンを所定時間Δt2の経過毎に実行する。
この緩増モータルーチンの処理について説明すると、マイクロコンピュータ21はステップ1600に続くステップ1605にてタイマTの値が所定値T0より大きいか否かを判定する。タイマTの初期値は図示しないイニシャルルーチンにて最大値とされている。これにより、マイクロコンピュータ21はステップ1605にて「Yes」と判定し、ステップ1610にて目標加圧力P*を正の値dだけ増大する。そして、ステップ1615にてタイマTの値を「0」にクリアし、ステップ1620にてフラグFHOJIの値を「0」とする。この時点においては、フラグFHOJIの値は「0」であったから、ステップ1620は確認的な動作となる。
次いで、マイクロコンピュータ21はステップ1625に進んで現在のペダル踏力Fと図5(A)に示したマップとから暫定目標加圧力P0*を求め、ステップ1630にて目標加圧力P*が暫定目標加圧力P0*より大きいか否かを判定する。そして、目標加圧力P*が暫定目標加圧力P0*より大きい場合にはステップ1635に進んでABS制御を終了し、ステップ1695にて本ルーチンを終了する。また、目標加圧力P*が暫定目標加圧力P0*より小さい場合には、マイクロコンピュータ21は直接ステップ1695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以下、目標加圧力P*が暫定目標加圧力P0*を越えない状態が継続すると仮定して説明を続けると、マイクロコンピュータ21は上記ステップ1635に進まないので、ABS制御は終了されない。従って、マイクロコンピュータ21は所定のタイミングにて図15のメインルーチンを実行するとき、ステップ1505にて「Yes」と判定し、またフラグFHOJIの値は「0」に維持されているからステップ1530にて「No」と判定し、続くステップ315〜385のうち該当するステップ(ステップ360,375)を実行する。この結果、実加圧力Pが正の値dだけ増大された目標加圧力P*に近づく。
また、マイクロコンピュータ21は所定時間Δt2の経過後に再びステップ1600から緩増モードサブルーチンの処理を開始する。この場合、タイマTの値は先のステップ1615にて「0」とされているから、同タイマTの値は所定値T0より小さい。従って、マイクロコンピュータ21はステップ1605にて「No」と判定し、ステップ1640に進んでタイマTの値を「1」だけ増大する。そして、ステップ1645にてフラグFHOJIの値を「1」に設定し、ステップ1625,1630,1695と進んで本ルーチンを一旦終了する。
この状態でマイクロコンピュータ21が図15のメインルーチンを実行すると、同マイクロコンピュータ21はステップ1505にて「Yes」と判定してステップ1530に進んだとき、同ステップ1530にて「Yes」と判定する。そして、マイクロコンピュータ21はステップ1535に進み、同ステップ1535にて電動モータ11への供給電流Iを保持電流IHOJI(所定の正の電流)とする。これにより、図示しない電動モータ駆動ルーチンにより電流IHOJIが電動モータ11に供給され、同電動モータ11は加圧部材116(インナパッド110)をディスクロータ102に向けて押圧する向きの力を発生する。この力は前述したリターン機構による加圧部材116をディスクロータ102から離間させようとする力と釣り合う力に設定されているので、加圧部材116の位置は移動しない。この結果、実加圧力P(制動トルク)が一定値に保持される。
このような状態が継続すると、図16のステップ1640が繰り返し実行される。従って、タイマTの値は次第に大きくなり、所定の時間が経過すると所定値T0を越える。この場合において、マイクロコンピュータ21がステップ1600から緩増モードサブルーチンの処理を開始すると、同マイクロコンピュータ21はステップ1605にて「Yes」と判定し、前述したステップ1610〜1620を実行する。これにより、目標加圧力P*が再び正の値dだけ増大され、また、フラグFHOJIの値が「0」に設定されるから、図15のステップ360又はステップ375が実行され、実加圧力Pが正の値dに応じた分だけ増大される。
以降、目標加圧力P*はタイマTの値が所定値T0となる毎に正の値dだけ増大され、その後「0」にクリアされたタイマTの値が所定値T0を越えるまで同目標加圧力P*が一定に維持される。そして、このような状態において、目標加圧力P*が暫定目標加圧力P0*より大きくなると、ステップ1630,1635が実行されてABS制御が終了される。
以上説明したように、上記第2実施形態に係るブレーキの制御装置は、ABS制御中でない通常のサービスブレーキ時においては、実加圧力Pが目標加圧力P*より小さいときに電動モータ11に同目標加圧力P*を得るために必要な正の電流I(=g(P*))を供給し、実加圧力Pが目標加圧力P*より大きいときには同電動モータ11に供給する電流Iを「0」として同電動モータ11自体にトルクを発生させず、リターン機構により実加圧力Pを低下させる。従って、電動モータの正転・逆転の繰り返しを必要としないので、同電動モータ11の寿命が延長される。
なお、上記第2実施形態において、ステップ1515、320,345、330,370は、検出された車両の状態量であるペダル踏力F(目標加圧力P*)と車両の状態量である実加圧力Pとに基づいて制動トルクを増大すべきであるか、又は同制動トルクを減少すべきであるかを決定する制動トルク増減要求決定手段を構成している。また、ステップ1520、1525、335,350、360,375,380は、前記制動トルクが増大すべきであると決定されたとき前記電動モータ11を所定方向に回転(正転)させる電流を同電動モータ11に供給するとともに、前記制動トルクが減少すべきであると決定されたとき同電動モータ11に同所定方向へ回転させない電流を同電動モータ11に供給する(供給電流を遮断して同電流を供給しない、又は同電動モータ11を同所定方向と反対の方向に回転(逆転)させる電流を同電動モータ11に供給する)電流供給手段の機能を達成している。更に、ステップ1535は、検出された車両の状態量に基づいて制動トルクを一定値に保持すべきと判定したとき前記電動モータ11に所定の電流(IHOJI)を供給する電流供給手段を構成している。
次に、本発明による車両用ブレーキの制御装置の第3実施形態について説明する。この第3実施形態は、図17に示したように、左右後輪RL,RRに適用されるブレーキが電動ドラムブレーキ70である点においてのみ、第2実施形態と異なっている。従って、以下においては、この相違点を中心に説明する。なお、図17において、図1に示したブレーキの制御装置と同一構成部分については同一の符号を付し、その詳細説明を省略する。
電動ドラムブレーキ70は、車輪と一体的に回転する被制動部材であるドラム71と、車体側部材であるバッキングプレートに回転不能に保持されるとともに前記ドラム71に対して所定のクリアランス(間隔)を有するように配設された制動部材としてのブレーキシュー72と、供給される電流に応じた力を発生する直流電動モータ73と、ブレーキシュー72の位置Xを検出する位置センサ74と、加圧力センサ75とを含んでいて、電動モータ73の発生する力によりブレーキシュー72をドラム71の内周面に向けて移動(押動)させて当接させ、さらに同ブレーキシュー72を同ドラム71の内周面に押圧することで車輪の回転を抑制する制動トルクを発生するようになっている。
この電動ドラムブレーキ70は、図18に詳細を示すようにデュオサーボ型のものであり、図示しない車体側部材に回転不能に取り付けられるとともに円板状を成したバッキングプレート200と、そのバッキングプレート200に設けられ、概して円弧状を成した一対のブレーキシュー202a,202b(図17においては符号72で表している。)と、内周面に摩擦面204を備えて車輪と共に回転するドラム206(図17においては符号71で表している。)と、一対のシュー202a,202bの一端部同士を拡開させる電動アクチュエータ300とを含んでいる。
一対のブレーキシュー202a,202bは、それぞれ、互いに対向する一端部において、バッキングプレート200に固定されたアンカピン208に係合させられることによって、ドラム206と共に回転することを防止された状態で回動可能に保持されている。
また、一対のブレーキシュー202a,202bは、他端部同士がストラット210によって連結され、同ストラット210によって一方のシューに作用する力が他方のシューに伝達されるようになっている。なお、一対のブレーキシュー202a,202bは、シューホールドダウン装置212a,212bによってバッキングプレート200にそれの面に沿って移動可能とされている。
一対のブレーキシュー202a,202bの他端部同士は、スプリング214により互いに接近する向きに付勢されており、一端部は各シューリターンスプリング215a,215bによりアンカピン208に向かって付勢されている。また、一端部には、ストラット216、及びリターンスプリングが設けられている。
各ブレーキシュー202a,202bの外周面には、それぞれ、摩擦係合部材としてのブレーキライニング219a,219bが保持され、それら一対のブレーキライニング219a,219bがドラム206の内周面204に摩擦係合させられることにより、ブレーキライニング219a,219bとドラム206との間に摩擦力が発生するようになっている。本実施形態においては、ストラット210がアジャスト機構を備えたものであり、ブレーキライニング219a,219bの摩耗に応じてブレーキライニング219a,219bとドラム内周面204との隙間が調整されるようになっている。
各ブレーキシュー202a,202bは、それぞれリム224a,224bとウェブ222a,222bとを含み、ウェブ222aにはレバー230の一端部がピン232を介して回動可能に設けられている。レバー230とウェブ222a、及びウェブ222bの互いに対向する部分にはそれぞれ切欠が設けられている。前記ストラット216は、これらの切欠に係合している。
レバー230の他端部には、電動モータ73を含む電動アクチュエータ300が連結されていて、サービスブレーキ用のブレーキペダル50が操作されると、電動モータ73(電動アクチュエータ300)の駆動によってレバー230が回動させられ、ブレーキシュー202aがストラット216と同ブレーキシュー202a及びレバー230との係合点を支点としてドラム内周面204に向けて押動させられるとともに、ブレーキシュー202bがドラム内周面204から反力を受けたストラット216によりドラム内周面204に向けて押動させられるようになっている。即ち、電動モータ73の回動により、一対のブレーキシュー202a,202bが拡開させられ、摩擦係合部材(ブレーキライニング219a,219b)がドラム206の内周面204に押し付けられて同摩擦係合部材がドラム内周面204に摩擦係合させられ、これにより車輪に制動トルクTが付与されるようになっている。
なお、上記構造においては、一方のシュー202bにおいて生じた摩擦力に基づくつれまわり力と、電動アクチュエータ300によるブレーキ作動力D(一対のシュー202a,202bを拡開させる拡開力であると考えることができる。)とが他端部からストラット210を介して他方のシュー202aの他端部に伝達されるようになっている。この結果、他方のシュー202aは、前記つれまわり力と前記拡開力との和によりドラム内周面204に押し付けられ、一方のシュー202bより大きな摩擦力が生じる。このように、一方のシュー202bの出力が他方のシュー202aの入力となり、しかも、二重のサーボ効果が得られるため、デュオサーボ型ドラムブレーキにおいては、大きな制動トルクを得ることができる。
アンカピン208には、前記加圧力センサ75として、同アンカピン208に加わる荷重を検出する歪センサ250が取り付けられている。上述したように、デュオサーボ型の電動ドラムブレーキ70においては、一方のシューにおいて生じた摩擦力に基づくつれまわり力と電動アクチュエータ300による拡開力とがストラット210を介して他方のシューの他端部に伝達され、他方のシューは、このつれまわり力と拡開力との和によりドラム206に押し付けられることとなる。そして、他方のシューのサーボ作用により他方のシューにストラット210を介して伝達された力がさらに増大させられてアンカピン208に作用する。その結果、アンカピン208に加わる荷重に基づいて制動トルクを求めれば、デュオサーボ型電動ドラムブレーキ70において生じる実際の制動トルクT(実制動トルクT)を検出することができる。この実制動トルクTは、車輪が回転している場合、及び坂路上等に車両があって車輪に回転しようとするトルクが加わっている場合には、制動部材としてのシュー202a,202b(ブレーキライニング219a,219b)が被制動部材としてのドラム206に実際に押圧される力(実加圧力P)を表す。
電動アクチュエータ300は、図19に示したように、上記電動モータ73と、同電動モータ73の回転運動を作動軸302の往復直線運動に変換する駆動部304とからなっている。電動モータ73は、同電動モータ73の回転位置を検出することで前記シュー202a(202b)の位置Xを検出する上記位置センサ74を内蔵している。なお、前記ブレーキシュー202a(202b)の位置Xは、バッキングプレート200等に固定されたギャップセンサ等により直接検出してもよい。
駆動部304のハウジング306には電動モータ73が組付けられ、同ハウジング306及び電動モータ73は前記バッキングプレート200に固定されている。電動モータ73の回転軸23aにはピニオン308が固定されている。ピニオン308は第1減速ギヤ310と噛合され、その第1減速ギヤ310は第2減速ギヤ312と噛合されている。
上記第2減速ギヤ312は、ナット312aと一体的に回転するようになっている。ナット312aは、ハウジング306に回転可能且つ作動軸302の軸方向に移動不能となるように同ハウジング306に支持されている。また、前記作動軸302は、ハウジング306に回転不能、かつ軸方向に移動可能となるように同ハウジング306に支持されている。この作動軸302は、その一端に前記レバー230に連結される連結部302aを有し、他端にネジ軸部302bを有している。
上記ナット312aと前記作動軸302のネジ軸部302bは、図2に示した運動変換機構としてのボールねじ118と同様なボールねじ機構(図示省略)により連結されていて、ナット312aの回転が作動軸302の軸方向への移動に変換されるようになっている。
この第3実施形態においては、リターンスプリング218(制動部材を被制動部材から離間する向きに付勢する付勢手段、前記電動モータが前記制動部材を前記被制動部材に押圧する力と反対向きの力を同電動モータに付与するリターン力付与手段)等により、シュー202a,202bがドラム内周面204から離間する方向に付勢力を受けていること、及び、電動アクチュエータ300の運動変換機構が逆効率の高いボールねじ機構を採用していることから、電動モータ73に電流が供給されない場合、同シュー202a,202bはドラム内周面204から離間し、実加圧力Pは自然に減少する。このため、第2実施形態と同様なプログラムが採用されて電動モータ73の供給電流Iが制御される。
以上説明したように、各実施形態によれば、アクチュエータとして電動モータを採用したブレーキの制御が適切に実施される。なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、総ての車輪に対し直流電動モータ11(73)がアクチュエータの駆動源として採用されていたが、何れかの車輪に直流電動モータ11(73)が採用される車両に対しても本発明を適用することができる。この場合、左右前輪FL,FRが従来の油圧式ブレーキ装置であって、左右後輪RL,RRが上記電動モータを採用した電動ブレーキ装置であってもよいし、左右前輪FL,FRが上記電動モータを採用した電動ブレーキ装置であって、左右後輪RL,RRが従来の油圧式ブレーキ装置であってもよい。
また、各車輪に使用されるブレーキは、ディスクブレーキであってもドラムブレーキであってもよく、各ブレーキが上記リターン機構を有していても、又は有していなくてもよい。この場合、上記リターン機構の有無に従って第1実施形態又は第2実施形態のプログラムを適宜採用すればよい。更に、上記各実施形態において、ブレーキ操作量以外の車両の状態量に基づく制動トルクの制御は、ABS制御であったが、例えば、トラクションコントロール、自動ブレーキ制御、緊急ブレーキ制御、車両挙動安定化制御等の制動トルク制御であってもよい。
10…電動ディスクブレーキ、11…直流電動モータ、12…位置センサ、13…加圧力センサ、20…電気制御装置、21…マイクロコンピュータ、42…駐車ブレーキ操作スイッチ、43…踏力センサ、46a〜46d…車輪速センサ、50…ブレーキペダル。