JP3971059B2 - ガラス系抗菌剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は酸化亜鉛を高濃度で含有するガラスからなる抗菌剤に関する。
本発明の抗菌剤は、抗菌効果が高く、且つ加工時、保存時及び使用時に経時的に変色が極めて少なく、各種高分子化合物に配合して、防かび性、防藻性及び抗菌性を有する抗菌性樹脂組成物とし、これを加工して繊維製品、塗料製品、成形製品等に使用可能なものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から無機系の抗菌剤として、銀や銅等の抗菌性金属をアパタイト、ゼオライト、ガラス、リン酸ジルコニウム、シリカゲル等に担持させたものが知られている。これらは有機系の抗菌剤と比較して安全性が高いうえ、揮発及び分解しないため抗菌効果の持続性が長く、しかも耐熱性にすぐれる特徴を有している。そのため、これらの抗菌剤と各種高分子化合物とを混合することにより抗菌性樹脂組成物とし、これを用いて繊維状、フィルム状又は各種成形体等に加工し、各種用途に用いられている。
【0003】
中でも、銀、銅又は亜鉛等の抗菌性金属を含有させたガラスからなる抗菌剤は、粒度、屈折率及び抗菌性金属の溶出性等を目的に応じて容易に制御することができる特性を活かし、各種樹脂組成物に配合され、利用されている。
【0004】
例えば、銀を含有するガラスからなる抗菌剤として特公平4−74453号が提案され、亜鉛を含有するガラスからなる抗菌剤として特開平7−257938号が提案されている。
しかし、従来の銀含有ガラスからなる抗菌剤は、抗菌効果が高い利点を有する反面、樹脂に練り込み加工する際の熱や樹脂加工後の紫外線暴露等の影響で、樹脂加工製品が変色したり、樹脂自体が変質する等の劣化が起こり、樹脂加工製品の本来の優れた特性を損なうことが多いという問題があった。
【0005】
また、銅含有ガラスからなる抗菌剤は、青く着色しており、樹脂に練り込み加工した際に樹脂加工製品をも着色してしまうため、白色・淡色製品への使用が困難であり、各種色彩に色合わせをする際にも支障をきたす等により使用範囲が限定される問題があった。
さらにまた、銅または亜鉛を含有するガラスからなる抗菌剤は、銀を含有するガラスと比較して抗菌性が低いため、樹脂組成物において抗菌効果を十分発揮させようとすると、樹脂への添加量を多くせざるを得ず、本来の樹脂物性を低下させてしまう問題があった。
【0006】
これらの問題を解決するために、P2O5を40〜55モル%、ZnOを35〜45モル%、Al2O3を5〜15モル%、B2O3を1〜10モル%含むガラス100重量部に対して、Ag2Oを0.01〜1.0重量%含有する抗菌剤が提案されている(特開平8−175843号公報)。しかし、この抗菌剤において十分な抗菌性を発揮させるために加えられているAg2Oは、銀イオンに起因する変色を抑制するため添加量が制限されており実質的には抗菌性が満足できるものではない。また、ここで用いたガラスは、抗菌性金属(Zn)の溶出速度が大きく、初期の抗菌性は高いが、抗菌効果の持続性が十分ではない。更に又、このガラスからなる抗菌剤の耐水性が低いため、これを練り込み加工した抗菌性樹脂成形品は温水により白化或いは変形したり、加工時の熱で黄変することがある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、樹脂に配合して優れた抗菌性を発揮すると共に耐変色性、耐水性にも優れたガラスからなる抗菌剤を提供することを課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ZnOを極めて高濃度で含有するとともに、B2O3及びP2O5を特定濃度含有し、且つ、アルカリ金属酸化物の濃度が0〜1モル%であるホウ酸−リン酸塩系ガラスは、抗菌性が高く、しかも耐変色性、耐水性に優れ、上記の課題をことごとく解消する優れたものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、ZnOを50〜70モル%、B2O3を20〜40モル%、P2O5を1〜5モル%、SiO2を0〜20モル%およびアルカリ金属酸化物を0〜1モル%含有するガラスからなるガラス系抗菌剤である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
○抗菌剤
本発明のガラス系抗菌剤は、ZnOを50〜70モル%、B2O3を20〜40モル%、P2O5を1〜4モル%、SiO2を0〜20モル%、アルカリ金属酸化物を0〜1モル%含有するガラスからなる。
好ましいZnOの含有割合は、53〜65モル%であり、より好ましくは、55〜60モル%である。ZnOを70モル%より多く配合すると、安定したガラスが得られにくいという問題があり、50モル%未満では本発明のガラスの抗菌性が不十分となる。
【0010】
B2O3の好ましい含有割合は、25〜35モル%であり、より好ましくは25〜30モル%である。B2O3を40モル%より多く配合すると、本発明のガラスからなる抗菌剤の水溶解性が大きくなってしまい、本発明におけるガラスが有する優れた抗菌性、耐変色性及び耐水性が損なわれるという問題があり、20モル%未満では安定したガラスが得られにくいという問題がある。
【0011】
P2O5の好ましい含有割合は、2〜4モル%であり、4モル%より多く配合すると、本発明のガラスからなる抗菌剤の耐水性、耐変色性が損なわれるという問題があり、1モル%未満では、抗菌性が低下する問題がある。
アルカリ金属酸化物は、ガラスの修飾成分であり、多くなればガラスの溶解性が上昇する。即ち、アルカリ金属酸化物の含有割合が1モル%より大きいと、本発明におけるガラスの水溶解性が大きくなり、本発明の抗菌剤における耐変色性及び耐水性が損なわれてしまう。
SiO2は、ガラス形成成分であり、好ましい含有割合は、5〜15モル%である。SiO2を20モル%より多く配合すると、本発明におけるガラスからなる抗菌剤の抗菌性が低下する問題がある。
【0012】
本発明における必須のガラス形成成分は、B2O3、P2O5であるが、所望によりその他のガラス形成成分を追加することができる。その他のガラス形成成分の好ましい例として、SiO2、ZrO2、TiO2等があるが、特にSiO2が好ましい。その他のガラス形成成分の好ましい含有割合は、20モル%以下であり、より好ましくは15モル%以下である。
又、所望により、MgO、CaO及びCaF2等を適宜含有させることができる。これらの所謂「修飾成分」は、ガラスの溶融や成形性を容易にするのに有効であるが、多量に含有させると、ガラスの耐水性が低下する恐れがあるので、多くとも3モル%以下とするのが好ましく、より好ましくは1モル%以下である。
【0013】
本発明の抗菌剤を樹脂に配合する際、通常粉末状とし、一般的には平均粒径で20μm以下のものが樹脂への分散加工上好ましく、繊維製品や塗料、フィルム等に加工する場合には、物性低下を生じさせないために平均粒径5μm以下、最大粒径20μm以下のものが好ましい。
【0014】
本発明の抗菌剤を製造する方法に制限はなく、既知の製造方法を採用できる。一般には、ガラスの原料調合物を溶融釜で1000〜2000℃で溶解した後、溶解物を急冷して、ガラスを調製後、得られた塊状ガラスを粉砕することにより粉末状のガラスを容易に得ることができる。
【0015】
本発明の抗菌剤は、従来と比較して格段に優れた抗菌性を発揮させるために、酸化亜鉛(融点:約2000℃)の濃度が従来の抗菌剤に比較して高いので、ガラス化が難しいと考えられるかもしれないが、適当な溶融温度で溶解し、溶融物の冷却特性に合った急冷手段を用いれば、本発明における任意の組成を有するガラスを容易に得ることができる。
【0016】
急冷効果を高めるには、溶解物と冷却体との接触面積を大きくすることが有効であり、例えば水等の冷媒で冷却された2個の回転する金属ローラー間にガラスの溶解物を高速で通すことにより、極めて大きな冷却効果が得られ、この冷却方法を用いれば、ガラス化は極めて容易である。又、この方法により冷却すると、ローラー間から出たガラスは薄い板状に成形されているので、粉末状に粉砕することも極めて容易に行うことができる。
【0017】
本発明の抗菌剤を樹脂や繊維に練り込んだ場合、抗菌性能は表面に存在する抗菌剤により発現しているが、この抗菌剤が表面の摩擦、洗浄、洗濯等により脱落することがある。脱落が著しい場合には抗菌効果が低下し、極めて短期間に効果が消失してしまう例もある。
本発明の抗菌剤を樹脂等に練り込み加工する場合に、密着性や接着性を向上させ、脱落を防止するために、シランカップリング剤等により表面処理してもかまわない。
【0018】
本発明に用いられる表面処理剤は、用途や樹脂種類、加工方法等により適宜最適なものを選択すればよく、従来より無機粉体の表面処理用のカップリング剤として使用されているものはいずれも使用可能であり、特に制限はない。
表面処理剤の具体例としてビニルトリエトキシシランやビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシランやγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリロキシシランあるいはグリシドキシラン、テトラエトキシシラン、シリコーンオイル、テトライソプロポキシチタン、アルミニウムエチラート等が挙げられる。
表面処理の方法は、特に制限はなく、従来より無機系紛体の表面処理法として知られているいかなる方法でもよい。例えば、乾式法、湿式法、スプレー法、ガス化法等がある。
【0019】
本発明の抗菌剤は、単独で用いることができるが、銀系無機抗菌剤を併用すると、その抗菌性を一層高めることができる。これはガラス中の亜鉛イオンと銀系無機抗菌剤中の銀イオンの2種の異なる抗菌成分による相乗効果が得られるためである。
また、本発明の抗菌剤は、その耐変色防止効果が極めて優れているので、銀系無機抗菌剤を併用することで樹脂製品の着色、変色が起こることはない。
【0020】
本発明の抗菌剤と併用する銀系無機抗菌剤は、銀を担持させた無機化合物であれば特に制限はなく、銀イオンを担持させる無機化合物としては、例えば以下のものがある。
即ち、活性アルミナ、シリカゲル等の無機系吸着剤、ゼオライト、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、チタン酸カリウム、含水酸化ビスマス、含水酸化ジルコニウム、ハイドロタルサイト等の無機イオン交換体がある。
【0021】
これらの無機化合物の中で、無機イオン交換体は銀イオンを強固に担持できることから好ましく、特に下記一般式〔1〕のMがZrであるリン酸ジルコニウム塩からなる銀系無機抗菌剤は好ましいものである。
AgaAbM2(PO4)3・nH2O [1]
(Aはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオンまたは水素イオンから選ばれる少なくとも1種のイオンであり、Mは4価金属であり、nは0≦n≦6を満たす数であり、a及びbはいずれも正数である。但し、mはAの価数である。)
【0022】
本発明の抗菌剤には、樹脂への練り込み加工性やその他の物性を改善するために、必要に応じて種々の他の添加剤を混合することもできる。具体例としては顔料、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、金属石鹸、防湿剤及び増量剤、カップリング剤、流動性改良剤、消臭剤、木粉、防汚剤、防錆剤などがある。また、有機系抗菌・防カビ剤をさらに添加することにより、効果の速効性、防かび効果向上をはかることもできる。
【0023】
本発明の抗菌剤に添加する有機系抗菌防カビ化合物の好ましい例として、第4アンモニウム塩系化合物、脂肪酸エステル系化合物、ビグアナイド類化合物、ブロノポ−ル、フェノ−ル系化合物、アニリド系化合物、ヨウ素系化合物、イミダゾ−ル系化合物、チアゾ−ル系化合物、イソチアゾロン系化合物、トリアジン系化合物、ニトリル系化合物、フッ素系化合物、キトサン、トロポロン系化合物及び有機金属系化合物(ジンクピリチオン、OBPA)等がある。
【0024】
本発明の抗菌剤を樹脂と配合することにより抗菌性樹脂組成物を容易に得ることができる。用いることができる樹脂の種類に制限はなく、天然樹脂、合成樹脂、半合成樹脂のいずれであってもよく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。具体的な樹脂としては成形用樹脂、繊維用樹脂、ゴム状樹脂のいずれであってもよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアセタ−ル、ポリカ−ボネイト、PBT、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタンエラストマ−、ポリエステルエラストマ−、メラミン、ユリア樹脂、四フッ化エチレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、レ−ヨン、アセテ−ト、アクリル、ポリビニルアルコ−ル、キュプラ、トリアセテ−ト、ビニリデン等の繊維用樹脂、天然ゴム、シリコ−ンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、クロルスルホン化ポリエチレンゴム、ブタジエンゴム、合成天然ゴム、ブチルゴム、ウレタンゴムおよびアクリルゴム等のゴム状樹脂がある。
【0025】
抗菌剤の抗菌性樹脂組成物における好ましい配合割合は、抗菌性樹脂組成物100重量部に対して0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。0.01部より少ないと抗菌性樹脂組成物の抗菌性が不充分となる恐れがあり、一方10部より多く配合しても抗菌効果の向上がほとんどない。
【0026】
抗菌剤を樹脂へ配合する方法は公知の方法をどれも採用できる。例えば、▲1▼抗菌剤の粉末を、この粉末と樹脂とが付着しやすくするための添着剤や抗菌剤粉末の分散性を向上させるための分散剤を使用し、ペレット状樹脂またはパウダー状樹脂とミキサーで直接混合する方法、▲2▼前記のようにして混合して、押し出し成形機にてペレット状に成形した後、その成形物をペレット状樹脂に配合する方法、▲3▼抗菌剤をワックスを用いて高濃度でペレット状に成形後、その成形物をペレット状樹脂に配合する方法、▲4▼抗菌剤をポリオ−ル等の高粘度の液状物に分散混合したペ−スト状組成物をペレット状樹脂に配合する方法等がある。
【0027】
上記の抗菌性樹脂組成物の成形には、各種樹脂の特性に合わせてあらゆる公知の加工技術と機械が使用可能であり、適当な温度又は圧力で加熱及び加圧又は減圧しながら混合、混入又は混練りの方法によって容易に調製することができ、それらの具体的操作は常法により行えば良く、塊状、スポンジ状、フィルム状、シート状、糸状またはパイプ状或いはこれらの複合体等の種々の形態に成形することができる。
【0028】
この様にして得られた抗菌性樹脂成形体は、その配合成分である抗菌剤が優れた抗菌性と耐変色性を有しているため、抗菌剤と樹脂との混合時、及びその後の抗菌性樹脂組成物の保存時又は使用時に劣化することがない。
【0029】
本発明の抗菌剤の使用形態には特に制限はなく、用途に応じて適宜他の成分と混合したり、他の材料と複合させることができる。例えば、粉末状、粉末分散液状、粒状、塗料状、繊維状、紙状、フィルム状、エアゾ−ル状等の種々の形態で用いることができる。
【0030】
○用途
本発明の抗菌剤を配合した抗菌性樹脂組成物は、防かび、防藻及び抗菌性を必要とされる種々の分野即ち電化製品、台所製品、繊維製品、住宅建材製品。トイレタリー製品、紙製品、玩具、皮革製品、文具およびその他の製品として利用することができる。
さらに具体的用途を例示すると、電化製品としては食器洗浄機、食器乾燥機、冷蔵庫、洗濯機、ポット、テレビ、パソコン、CDラジカセ、カメラ、ビデオカメラ、浄水器、炊飯器、野菜カッタ−、レジスタ−、布団乾燥器、FAX、換気扇、エアコンデョナ−等があり、台所製品としては、食器、まな板、押し切り、トレ−、箸、旧茶器、魔法瓶、包丁、おたまの柄、フライ返し、弁当箱、しゃもじ、ボ−ル、水切り篭、三角コ−ナ−、タワシいれ、ゴミ篭、水切り袋等がある。
【0031】
繊維製品としては、シャワ−カ−テン、布団綿、エアコンフィルタ−、パンスト、靴下、おしぼり、シ−ツ、布団側地、枕、手袋、エポロン、カ−テン、オムツ、包帯、マスク、スポ−ツウェア等があり、住宅・建材製品としては、化粧板、壁紙、床板、窓用フィルム、取っ手、カ−ペット、マット、人工大理石、手摺、目地、タイル、ワックス等がある。またトイレタリー製品としては、便座、浴槽、タイル、おまる、汚物いれ、トイレブラシ、風呂蓋、軽石、石鹸容器、風呂椅子、衣類篭、シャワ−、洗面台等があり、紙製品としては、薬包紙、薬箱、スケッチブック、カルテ、折り紙等があり、玩具としては、人形、ぬいぐるみ、紙粘土、ブロック、パズル等がある。
【0032】
さらに皮革製品としては、靴、鞄、ベルト、時計バンド、内装、椅子、グロ−ブ、吊革等があり、文具としては、ボ−ルペン、シャ−プペン、鉛筆、消しゴム、クレヨン、用紙、手帳、フロッピ−ディスク、定規、ポストイット、ホッチキス等がある。その他の製品としてはインソ−ル、化粧容器、タワシ、化粧用パフ、補聴器、楽器、タバコフィルタ−、掃除用粘着紙シ−ト、吊革握り、スポンジ、キッチンタオル、カ−ド、マイク、理容用品、自販機、カミソリ、電話機、体温計、聴診器、スリッパ、衣装ケ−ス、歯ブラシ、砂場の砂、食品包装フィルム、スプレ−等がある。
【0033】
【作用】
本発明の抗菌剤が優れた抗菌性、耐変色性及び耐水性を有する機構について以下のように推定される。即ち、本発明におけるガラスは高濃度のZnOを含有し、且つアルカリ金属の含有割合が極めて低濃度であることから、本発明の抗菌剤の水溶解性は極めて小さく、先ず耐水性が優れる。ガラス表面層からのZnの溶出が少ないので、ガラス表面層には常に高濃度のZnが存在し、Znによる抗菌性を長時間持続させることができる。また、ガラスの水溶解性が小さいので変色要因となるZnイオンやアルカリ金属イオンの溶出が少なく、耐変色性に優れる。
主たるガラス形成成分はB2O3であるが、B2O3のみでなくP2O5を併用すると、抗菌性能が格段に向上する。理由はよくわからないが、3価のホウ素が形成するガラス網目に、5価であるリンが特定量固溶することにより、亜鉛の抗菌性能がより活性化されると考えられる。
【0034】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
○実施例1(抗菌剤の調製)
表1に示した組成(試料No.1〜3)の原料調合物を1000〜1400℃で加熱溶融しガラスを作製後、得られたガラスをボ−ルミルにて湿式粉砕して平均粒径約10μのガラスからなる抗菌剤を得た。
試料No.2の抗菌剤5kgをヘンセルミキサーに入れ、攪拌しながらγ−アミノプロピルトリメトキシシラン50gを含むエタノール溶液200gを噴霧し、取り出した後、120℃で12時間加熱処理することにより表面処理を行なった(試料No.6)。
【0035】
○比較例1(抗菌剤の調製)
表1に示した組成(試料No.4,5)の原料調合物を用いた以外は実施例1と同様にしてガラスからなる抗菌剤を得た。
【0036】
【表1】
【0037】
試験例1(変色性試験、抗菌性試験及び耐水性試験)
住友化学株式会社製ポリスチレン樹脂(商品名ST850)に対し、抗菌剤(試料No.1〜3,6)を0.3重量%配合し、名機製作所株式会社製射出成形機M−50AII−DMを用いて成形温度220℃で射出成形し、11cm×11cm×2mmの抗菌性プレート(試作No.1〜3)を作製した(但し、各試作番号の抗菌性プレートは試作番号と同じ試料番号の試料を用いたものであり、以下同じ。)。また、射出成形時にシリンダ−内で樹脂組成物を溶融状態で5分間滞留させたものについても成形し、色彩を確認することで変色性評価とした。
【0038】
比較のため、試料No.4,5の抗菌剤0.3重量%のみを成形したもの(試作No4,5)、及びポリスチレン樹脂のみを成形したもの(試作No.7)を同様に射出成形した。
また、作製した各種試作ポリスチレンプレートの抗菌力を、以下の方法により評価した。
【0039】
被検菌には黄色ブドウ球菌を用い、抗菌性プレートを5cm×5cmに切断し、プレ−ト1枚当りの菌数が105〜106個となるように菌液0.5mlを表面に滴下し、その上から4.5cm×4.5cmのポリエチレン製フィルムを被せ、表面に一様に接触させ、温度35℃、湿度95RH%で24時間保存した。保存開始から0時間後(理論添加菌数)及び24時間保存した後に、菌数測定用培地(SCDLP液体培地)で供試品片上の生残菌を洗い出し、この洗液について、菌数測定用培地普通寒天培地を用いる混釈平板培養法(37℃2日間)により生菌数を測定して、抗菌性プレートの5cm×5cm当りの生菌数に換算した。
上記のようにして得られた抗菌性試験の結果を表3に示した。なお、初発菌数は3.0×105、24時間後のサンプルを用いずに同様の操作を行った対照の菌数は1.2×106であった。
【0040】
さらに樹脂をポリスチレンからポリプロピレン樹脂(グランドポリマ−株式会社製、商品名J105H)に変更した以外は試作No.1〜7と同様にして成形した各種試作ポリプロピレンプレ−トを90℃の温水に1週間浸漬し、浸漬後のプレ−トの外観状態を確認することで耐水性を評価した。
【0041】
【表2】
【0042】
本発明の抗菌剤を配合した抗菌性プレート(試作No1〜3、6)は抗菌性、耐変色性、耐水性とも優れた性能を有している。
本発明のガラス成分の中で、P2O5を含まないガラスからなる抗菌剤を配合した抗菌性プレート(試作No.4)は、耐変色性、耐水性に優れるもの抗菌性が不十分である。アルカリ金属酸化物を1モル%以上含むガラスからなる抗菌剤を配合した抗菌性プレート(試作No.5)は、抗菌性は優れるものの、耐変色性、耐水性に劣る。
【0043】
【発明の効果】
本発明の抗菌剤は、優れた抗菌性、耐変色性及び耐水性を有しており、抗菌効果を長時間持続させることができる抗菌剤として極めて有用である。
本発明の抗菌剤を樹脂に配合した抗菌性樹脂組成物を成形することにより、抗菌性、耐変色性及び耐水性に優れた抗菌性樹脂成形体を容易に得ることができる。
Claims (2)
- ZnOを50〜70モル%、B2O3を20〜40モル%、P2O5を1〜5モル%、SiO2を0〜20モル%およびアルカリ金属酸化物を0〜1モル%含有するガラスからなるガラス系抗菌剤。
- SiO2の含有割合が、5〜15モル%である請求項1記載のガラス系抗菌剤。
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