JP3943745B2 - 食品用膨張剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、衣付き、花咲き感、ボリューム感、生地の浮き等の外観、及びさくみ、軽み、ソフト感等の食感に優れた天ぷら、スポンジケーキ、蒸しパン等を得るための食品用膨張剤、並びに食品用ミックスに関する。
【0002】
【従来の技術】
天ぷらは、小麦粉を主体とした天ぷら衣を水で溶き、これに揚げ種をつけ、高温に熱した油で油ちょうして得られる衣揚げの一種である。またスポンジケーキ類、蒸しパン類は、小麦粉を主体とした原料を焼成又は蒸すことにより得られる菓子類である。かかる天ぷらは、衣付きがよく、花の咲いたような華やかでボリューム感のある外観、及びさくみ、軽みのある食感を有することが好ましい。また、スポンジケーキ類、蒸しパン類は、生地の浮きが良好で、ボリューム感のある外観、及びソフトで軽い食感を有することが好ましい。
【0003】
かかる良好な外観、食感を有する食品を得るため、原料中に膨張剤を配合し、油ちょうあるいは焼成等の際にガスを発生させる技術が知られている。かかる膨張剤は、天ぷらや菓子の種類、油ちょうや焼成等の温度、時間等を考慮して、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等と、酒石酸、ミョウバン等の酸性剤とを適宜組み合わせて配合するとされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記天ぷら等の種類、温度、時間等をどのように参酌すればよいか全く知られていなかったため、従来の膨張剤を用いると、良好な外観、食感を得るのが困難であった。すなわち、油ちょうや焼成等の際ガス発生量が十分でなく、花咲き感やボリューム感に欠け、さくみ、軽み、ソフト感のある食感が得られない場合、ガス発生が速すぎ、ガスが散逸してしまってボリューム感が得られない場合がほとんどであった。
【0005】
このため、天ぷら等の種類、油ちょうや焼成等の温度、時間に係わらず、油ちょうや焼成等の開始から終了までの全ガス発生量をコントロールすれば、外観、食感が優れた天ぷらやスポンジケーキ等が得られると考え、全ガス発生量と外観、食感の関係を検討したが、何ら相関関係は見出せず、職人的技量によらなければ、外観、食感に優れた天ぷらやスポンジケーキ等を得ることは困難なのが実状であった。
【0006】
したがって本発明は、外観、食感に優れた食品を容易に製造することができる食品用膨張剤及び食品用ミックスを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、油ちょう、焼成、又は蒸し等の開始から特定時間の累積ガス発生量に着目した。そして全く意外にも開始から30秒、60秒及び120秒における累積ガス発生量が特定範囲にある膨張剤を用いれば、衣付きがよく、花咲き感、ボリューム感、生地の浮き等に優れた外観、及びさくみ、軽み、ソフト感等のある食感を有する食品、特に天ぷら、スポンジケーキ類、蒸しパン類等が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、天ぷら、スポンジケーキ類又は蒸しパン類の製造に用いられる食品用膨張剤であって、該食品用膨張剤4gに50℃の水100mLを加えて攪拌したとき、撹拌開始時から30秒で150〜320mL、60秒で160〜330mL、及び120秒で170〜340mLの累積ガス量を発生するように、炭酸水素ナトリウムを30〜40重量%と、酒石酸、フマル酸及びそれらの塩からなる群より選ばれる速効型酸性剤を15〜33重量%と、リン酸塩及びピロリン酸塩からなる群より選ばれる中間型酸性剤を10〜35重量%と、焼ミョウバン又はその塩、グルコノデルタラクトン及びグルコン酸塩からなる群より選ばれる遅効性酸性剤を15重量%以下配合したことを特徴とする食品用膨張剤を提供することにより、上記目的を達成したものである。本発明はまた、小麦粉と、前記食品用膨張剤を小麦粉100重量部に対して1〜3重量部含有することを特徴とする食品用ミックスを提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の食品用膨張剤及び食品用ミックスのガス発生量は以下の方法で測定する。食品用膨張剤の場合、300mL丸底フラスコに50℃の水100mL及び食品用膨張剤4gを50℃に保持しながら加える。直ちにガスビュレットに連結し、振盪器にて120回/分で振盪させながら、食品用膨張剤添加後30秒、60秒及び120秒における累積ガス発生量を読みとる。食品用ミックスの場合、1000mL三角フラスコに50℃の水500mL及び長手方向の長さ65mmのスターラーを入れ、50℃に保持しながら、食品用ミックス50gを加える。直ちにガスビュレットに連結し、スターラーを約680rpmで撹拌しながら、食品用ミックス添加後30秒、60秒及び120秒における累積ガス発生量を読みとる。
【0010】
本発明の食品用膨張剤は、上記方法で測定した累積ガス発生量が、30秒で150〜320mL、好ましくは195〜290mLであり、60秒で160〜330mL、好ましくは210〜300mLであり、120秒で170〜340mL、好ましくは220〜310mLである。30秒、60秒及び120秒での累積ガス発生量が上記範囲であれば、他の時間における累積ガス発生量に係わりなく、これを用いて外観、食感が優れた食品を得ることができる。
【0011】
本発明の食品用膨張剤中の、炭酸水素ナトリウムの含有量は、25〜45重量%、特に30〜40重量%であることが、得られる食品の風味、外観、食感の向上の観点から好ましい。
【0012】
複合酸性剤は、速効型酸性剤、中間型酸性剤、さらに必要に応じて遅効型酸性剤を含有する。速効型酸性剤としては、酒石酸、フマル酸、及び酒石酸水素カリウム、フマル酸ナトリウム等の該酸の塩が挙げられる。中間型酸性剤としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム等のリン酸塩、酸性ピロリン酸ナトリウム等のピロリン酸塩等が挙げられる。遅効型酸性剤としては、焼ミョウバン、焼ミョウバン塩、グルコノデルタラクトン、グルコン酸塩等が挙げられる。速効型、中間型、遅効型各酸性剤はそれぞれ2種以上用いてもよい。
【0013】
本発明の食品用膨張剤中の、速効型酸性剤の含有量は、15〜33重量%が好ましく、20〜30重量%がより好ましく、22〜25重量%が特に好ましい。中間型酸性剤の含有量は、10〜35重量%が好ましく、15〜30重量%が特に好ましい。遅効型酸性剤の含有量は、15重量%以下が好ましく、10重量%以下が特に好ましい。含有量が上記範囲であれば、得られる食品の風味、外観、食感が向上する。
【0014】
本発明の食品用ミックスは、小麦粉及び上記食品用膨張剤を含有するものである。小麦粉は、食品の種類に応じて薄力粉、中力粉、強力粉等から任意に選択することができる。本発明の食品用ミックスは、上記方法で測定した累積ガス発生量が、30秒で10〜15mL、60秒で20〜30mL、120秒で35〜50mLである。30秒、60秒及び120秒での累積ガス発生量が上記範囲であれば、他の時間における累積ガス発生量に係わりなく、これを用いて外観、食感が優れた食品を得ることができる。
【0015】
本発明の食品用ミックスは、小麦粉、食品用膨張剤の他に、食品用ミックスに一般に用いられる、澱粉類、卵類、乳化剤等を混合し、適宜撹拌等することにより得ることができる。本発明の食品用膨張剤の配合量は、小麦粉100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましく、0.5〜5重量部がより好ましく、1〜3重量部が特に好ましい。
【0016】
本発明の食品用膨張剤及び食品用ミックスは、天ぷら、スポンジケーキ類、蒸しパン類の製造に特に適している。天ぷらの種に特に制限はなく、例えばエビ、キス等の魚介類、サツマイモ等の穀類、ピーマン等の野菜類等が挙げられる。スポンジケーキ類としては、例えばロールケーキ、ショートケーキ、ブッセ等が挙げられる。蒸しパン類としては、例えばチーズ蒸しパン、バニラ蒸しパン、黒糖蒸しパン等が挙げられる。本発明の食品用膨張剤は、炭酸水素ナトリウム、複合酸性剤及び必要に応じて他の食品素材を混合、撹拌することにより得ることができる。
【0017】
本発明の食品用膨張剤を混合した天ぷら用小麦粉、または天ぷら衣ミックスを水で溶き、揚げ種に付着させ、常法に従い油ちょうすることにより、外観、食感に優れた天ぷらを得ることができる。また本発明の食品用膨張剤を混合したスポンジケーキ用ミックスを、常法に従い焼成等することにより、外観、食感に優れたスポンジケーキを得ることができる。さらに本発明の食品用膨張剤を混合した蒸しパン用ミックスを、常法に従い蒸す等することにより、外観、食感に優れた蒸しパンを得ることができる。
【0018】
【実施例】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1、2及び比較例1
表1に示す各原料を混合、撹拌して食品用膨張剤を製造し、次いで表2に示す各原料を混合、撹拌して天ぷら衣ミックスを製造した。さらに該天ぷら衣ミックス100gに水150gを添加して撹拌し、天ぷら用バッターを得た。サツマイモを1cm×1cm×5cmに切り(6g/個)、これを該天ぷら用バッターに浸漬してバッターを付着させた後、180℃に加熱した油に入れて3分間油ちょうし、サツマイモ天ぷらを得た。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
試験例1
300mL丸底フラスコに、50℃の水100mLを入れ、50℃に保持しながら、上記で得られた各食品用膨張剤4gを添加した。直ちにガスビュレットに連結し、振盪器にて120回/分で振盪しながら、各食品用膨張剤添加時から4分後までの累積ガス発生量を測定した。結果を図1に示す。実施例1では、累積ガス発生量が、30秒で199mL、60秒で214mL、120秒で223mLであった。実施例2では30秒で283mL、60秒で296mL、120秒で309mLであった。一方比較例1では30秒で79mL、60秒で103mL、120秒で131mLであった。
【0023】
試験例2
1000mL三角フラスコに50℃の水500mL及び長手方向の長さ65mmのスターラーを入れ、50℃に保持しながら、天ぷら粉ミックス50gを加えた。直ちにガスビュレットに連結し、スターラーを約680rpmで撹拌しながら、天ぷら粉ミックス添加時から4分後までの累積ガス発生量を測定した。結果を図2に示す。実施例1では、累積ガス発生量が、30秒で11mL、60秒で23mL、120秒で39mLであった。実施例2では30秒で13mL、60秒で28mL、120秒で44mLであった。一方比較例1では30秒で4mL、60秒で10mL、120秒で19mLであった。
【0024】
試験例3
上記で得られた天ぷら用バッターの粘度(BM型粘度計で測定)、及びサツマイモ10個当たりの該天ぷら用バッターの付着量を測定した。また各サツマイモ天ぷらの外観及び食感を、10名のパネラーを用い、以下の評価基準で評価した。結果を表3に示す。
◎評価基準
外観
5:衣付きが良好でボリューム感に優れ、花咲き感にも優れている。
4:衣付きがやや良好でボリューム感がややあり、花咲き感もやや良好である。
3:衣付きは普通であり、ボリューム感、花咲き感も普通である。
2:衣付きはやや少なく、ホリューム感、花咲き感もやや悪い。
1:衣付きは少なく、ボリューム感、花咲き感が悪い。
食感
5:非常にさくさくしており、軽い食感である。
4:さくさくしており、やや軽い食感である。
3:あまりさくさくしていないが、しんなりもしていない普通の食感である。
2:ややしんなりしたやや重い食感である。
1:しんなりした重い食感である。
【0025】
【表3】
【0026】
実施例1及び2は比較例1と比べて、天ぷら用バッターの粘度に大きな差はないが、該バッターの付着量は多く、得られたサツマイモ天ぷらの外観、食感とも優れていることが確認された。
【0027】
実施例3及び比較例2
表4に示す各原料を混合、撹拌してロールケーキ用膨張剤を製造した。次いで表5に示す配合中、小麦粉と膨張剤を篩った後他の原料を加え、中高速で2分間ミキシングして生地を得た(比重0.5)。該生地の厚さが約0.8cmとなるように流し広げた後、250℃(上火3、下火1)で8分間焼成し、ロールケーキを得た(実施例3)。別に比較例1の膨張剤を用いた以外は実施例3と同様にしてロールケーキを得た(比較例2)。
【0028】
【表4】
【0029】
【表5】
【0030】
試験例4
試験例1と同様にして、ロールケーキ用膨張剤添加後30秒、60秒及び120秒後の累積ガス発生量を測定した。その結果、30秒後は218mL、60秒後は227mL、120秒後は236mLであった。
【0031】
試験例5
上記で得られた各ロールケーキの高さを測定し、外観及び食感を10名のパネラーを用いて以下の評価基準で評価した。結果を表6に示す。
◎評価基準
外観
5:生地の浮きが良好で、ボリューム感に優れている。
4:生地の浮きがやや良好で、ボリューム感がややある。
3:生地の浮き、ボリューム感とも普通である。
2:生地の浮きがやや少なく、ボリューム感もややない。
1:生地の浮きが少なく、ボリューム感もない。
食感
5:非常にソフトであり、かつ軽い食感である。
4:ソフトであり、かつやや軽い食感である。
3:あまりソフトでないが、固くもない普通の食感である。
2:ソフト感がやや不足し、やや重い食感である。
1:ソフト感がなく、重い食感である。
【0032】
【表6】
【0033】
実施例3のロールケーキは、比較例2のロールケーキと比べて、高さがあり、ボリューム感に優れ、生地の浮きが良好で、ソフトで軽い食感であり、製品価値の高いものであった。
【0034】
実施例4及び比較例3
表7に示す各原料を混合、撹拌して蒸しパン用膨張剤を製造した。次いで表8に示す配合中、小麦粉、膨張剤以外の原料を中高速で1分間ミキシングし(比重0.7)、予め篩っておいた小麦粉、膨張剤を添加し、中高速で30秒間ミキシングして生地を得た(比重0.75)。該生地80gを、楕円形の型に厚さが約2.5cmとなるように流し広げた後、20分間蒸して蒸しパンを得た(実施例4)。別に比較例1の膨張剤を用いた以外は、実施例4と同様にして蒸しパンを得た(比較例3)。
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【0037】
試験例6
試験例1と同様にして、蒸しパン用膨張剤添加後30秒、60秒及び120秒後の累積ガス発生量を測定した。その結果、30秒後は270mL、60秒後は282mL、120秒後は293mLであった。
【0038】
試験例7
上記で得られた各蒸しパンの高さを測定し、外観及び食感を10名のパネラーを用い、以下の評価基準に従って評価した。結果を表9に示す。
◎評価基準
外観
5:生地の浮きが良好で、ボリューム感に優れている。
4:生地の浮きがやや良好で、ボリューム感がややある。
3:生地の浮き、ボリューム感とも普通である。
2:生地の浮きがやや少なく、ボリューム感もややない。
1:生地の浮きが少なく、ボリューム感もない。
食感
5:非常にソフトで軽く、かつ口溶けも良好である。
4:ソフトでやや軽く、口溶けもやや良好である。
3:あまりソフトでないが、固くもなく、口溶けも普通である。
2:ソフト感がやや不足し、やや重く、口溶けもやや不良である。
1:ソフト感がなく、重く、口溶けも悪い。
【0039】
【表9】
【0040】
実施例4の蒸しパンは、比較例3の蒸しパンと比べて、高さがあり、ボリューム感に優れ、軽く、ソフトで、口溶け感も良好であり、製品価値の高いものであった。
【0041】
【発明の効果】
本発明の食品用膨張剤または食品用ミックスを用いれば、衣付き、花咲き感、ボリューム感、生地の浮き等の外観、及びさくみ、軽み、ソフト感等の食感に優れた天ぷら、スポンジケーキ類、蒸しパン類等が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1、2及び比較例1の各食品用膨張剤の累積ガス発生量を示す図である。
【図2】実施例1、2及び比較例1の各天ぷら衣ミックスの累積ガス発生量を示す図である。
Claims (2)
- 天ぷら、スポンジケーキ類又は蒸しパン類の製造に用いられる食品用膨張剤であって、該食品用膨張剤4gに50℃の水100mLを加えて攪拌したとき、撹拌開始時から30秒で150〜320mL、60秒で160〜330mL、及び120秒で170〜340mLの累積ガス量を発生するように、炭酸水素ナトリウムを30〜40重量%と、酒石酸、フマル酸及びそれらの塩からなる群より選ばれる速効型酸性剤を15〜33重量%と、リン酸塩及びピロリン酸塩からなる群より選ばれる中間型酸性剤を10〜35重量%と、焼ミョウバン又はその塩、グルコノデルタラクトン及びグルコン酸塩からなる群より選ばれる遅効型酸性剤を15重量%以下配合したことを特徴とする食品用膨張剤。
- 小麦粉と、請求項1記載の食品用膨張剤を小麦粉100重量部に対して1〜3重量部含有することを特徴とする食品用ミックス。
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