JP3839248B2 - 電動パワーステアリング装置の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置の制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図17は、従来の自動車等に使用される電動パワーステアリング装置に係る制御装置の概略を示す。
【0003】
ステアリングホイール41に連結したステアリングシャフト42には、トーションバー43が設けられている。このトーションバー43には、トルクセンサ44が装着されている。そして、ステアリングシャフト42が回転してトーションバー43に力が加わると、加わった力に応じてトーションバー43が捩れ、その捩れをトルクセンサ44が検出している。
【0004】
又、ステアリングシャフト42には減速機45が固着されている。この減速機45には、モータ46の回転軸に取着したギア47が噛合されている。さらに、減速機45にはピニオンシャフト48が固着されている。ピニオンシャフト48の先端には、ピニオン49が固着されるとともに、このピニオン49はラック51と噛合している。
【0005】
ラック51の両先端には、タイロッド52が固設されている。このタイロッド52の両端には、ナックル53が回動可能に連結されている。このナックル53には、前輪54が固着されている。又、ナックル53は、クロスメンバ55に回動可能に連結されている。
【0006】
従って、モータ46が回転すると、その回転数は減速機45によって減少されてピニオンシャフト48に伝達され、ラック&ピニオン機構50を介してラック51に伝達される。そして、ラック51に固設されたタイロッド52に連結されたナックル53は、モータ46の回転方向に応じて右方向又は左方向に移動する。なお、前輪54には車速センサ56が設けられている。
【0007】
そして、前記モータ46の回転数及び回転方向は、モータ駆動装置57から供給される正負のアシスト電流によって決定されている。このモータ駆動装置57がモータ46に供給するアシスト電流は、モータ駆動装置57を制御するアシスト電流決定手段58によって演算されている。アシスト電流決定手段58は、トルクセンサ44からの検出信号VTからその時々のステアリングホイール41の操舵トルクThを演算するとともに、車速センサ56からの検出信号からその時々の車速Vを演算する。
【0008】
そして、アシスト電流決定手段58は、この演算した操舵トルクThと車速Vに基づいてアシスト電流(アシスト電流指令値)を算出する。この算出は、アシスト電流決定手段58内のメモリに予め記憶したアシストマップから求められる。そして、アシスト電流決定手段58はアシストトルクを発生させるモータ46の電流を前記アシスト電流(アシスト電流指令値)となるように制御する。
【0009】
しかし、前記アシストマップはある特定の路面反力状況(例えば平坦アスファルト路)で設定した値であって、路面反力状況が変わってしまう、すなわち、雪路等の低μ路やタイヤの空気圧低下、タイヤの諸元(摩耗、タイヤ種類等)が変わると、路面反力が変わり、そのため操舵力が変化してしまい、フィーリングの悪化を招いていた。
【0010】
又、操舵角θに対する操舵トルクThの立ち上がり(ビルドアップ感)を操舵フィーリングの判定の指標としているが、前記制御装置においては、操舵トルクThと車速Vに対しアシスト電流を決定しているため、操舵角θに対し所定の操舵トルクThを出す(すなわち、ビルドアップ感を出す)ためのマップデータを設定することが非常に難しい問題があった。
【0011】
又、早い操舵等をしてモータや減速機等による慣性、粘性による外乱トルクが発生すると、アシスト電流決定手段ではこの外乱トルクを打ち消すことができないため、別途慣性、粘性を打ち消す制御が必要であった。
【0012】
又、左右に操舵した時の操舵トルクThのヒステリシスのコントロールが自由に設定できず、理想の操舵フィーリングを実現するための自由度が低い問題があった。
【0013】
そこで、これらのような不具合を解決するために、本出願人は、操舵角θ、車速Vに応じて目標操舵トルクTh*を設定し、操舵トルクThと目標操舵トルクTh*及びモータ電流Imによりアシスト電流指令値を決定してモータを制御(以下、MA−MT制御という。)する装置を提案している。
【0014】
すなわち、ステアリングシャフト42の操舵角θを検出する操舵角センサ59(図17においては2点鎖線で示す)を設け、この装置のアシスト電流決定手段58は、操舵角センサ59からの操舵角θと車速Vに基づいて目標操舵トルクTh*を設定する。
【0015】
さらに、操舵トルクTh、前記目標操舵トルクTh*、及びモータのモータ電流Imとに基づいてアシスト電流(アシスト電流指令値)を算出する。
この結果、車速Vと操舵角θに対する目標操舵トルクTh*を自由に設定でき、操舵角θに対する操舵トルクThの傾きが容易に設定可能となり、ビルドアップ感の適合が容易に行われる。又、路面反力が低下したり、モータ6やモータに接続される減速機等による粘性や慣性により実操舵トルクが減少したり、増加したりしても、操舵トルクThが目標操舵トルクTh*となるようにアシスト電流(アシスト電流指令値)を調整する作用が働き、安定した操作フィーリングの提供が可能となる。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のようにMA−MT制御を行う制御装置においては、操舵角センサで検出した操舵角θと車速Vとに応じて目標操舵トルクTh*を設定している。しかし、路面反力が変化しても、目標操舵トルクTh*は車速Vと操舵角θに対して一義的に決まって制御されるため、例えば路面反力が低い凍結路を走行しても乾燥アスファルト路を走行している場合と同じような操舵フィーリングとなる。
【0017】
又、バンクを走行している場合に、例えば右上から左下に傾斜しているバンクを走行すると、通常油圧パワーステアリング装置等では、右操舵すると重く、左操舵すると、軽くなるが、MA−MT制御では左右とも同一の操舵フィーリングとなる。
【0018】
このようにMA−MT制御を行うと、路面情報(路面μ、路面の傾斜等)が運転者に伝わらない(伝わりにくい)ため、不自然な操舵フィーリングとなる問題があった。
【0019】
従って、本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は路面の反力が小さい場合や、大きい場合において、ステアリングホイールから運転者に伝わってくる路面反力情報が失われることなく、かつ路面の反力の変化に応じて走行安定性に優れた操舵フィーリングを得ることができる電動パワーステアリング装置の制御装置を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、アシスト電流指令値に基づいてモータを駆動制御する制御手段を備えた電動パワーステアリング装置の制御装置において、モータ電流値に基づいて、あるいはモータ電流値と操舵トルクに基づいて路面の反力を推定する推定手段と、入力した操舵角、車速、及び前記推定手段により推定した路面の反力に基づいて目標操舵トルクを設定する目標操舵トルク設定手段と、操舵トルク、前記目標操舵トルク、及び前記モータのモータ電流値に基づいてアシスト電流指令値を演算するアシスト電流演算手段と、を備え、前記推定手段は、右操舵と左操舵に応じて、路面摩擦係数をそれぞれ推定し、その路面摩擦係数を介して路面の反力を推定するものであることを要旨とする。
【0022】
請求項2の発明は、請求項1において、前記推定手段は、路面摩擦係数を推定するに当たり、過去に推定した路面摩擦係数を加味したなまし処理を行うことを要旨とする。
【0023】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2において、前記推定手段が推定した路面摩擦係数が異常値か否かを検出する異常検出手段と、前記異常検出手段が異常検出する以前の正常な路面摩擦係数を記憶する記憶手段を備え、前記異常検出手段が、前記推定手段の推定した路面摩擦係数を異常値であると検出したとき、前記推定手段は、前記記憶手段に記憶した正常な路面摩擦係数を推定した値と置き換えることを要旨とする。
(作用)
従って、請求項1に記載の発明においては、制御手段は、アシスト電流指令値に基づいてモータを駆動制御する。推定手段は、モータ電流値に基づいて、あるいはモータ電流値と操舵トルクに基づいて路面の反力を推定する。目標操舵トルク設定手段は、入力した操舵角、車速、及び推定手段により推定した路面の反力に基づいて目標操舵トルクを設定する。アシスト電流演算手段は、操舵トルク、前記目標操舵トルク、及び前記モータのモータ電流値に基づいてアシスト電流指令値を演算する。そのため、路面の反力が小さければ路面反力情報が失われない程度に目標操舵トルクを小さく設定し、路面の反力が大きければ目標操舵トルクを大きく設定する。
【0024】
そして、前記推定手段は、右操舵と左操舵に応じて、路面摩擦係数をそれぞれ推定し、その路面摩擦係数を介して路面の反力を推定する。
【0025】
請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の作用に加えて、前記推定手段は、路面摩擦係数を推定するに当たり、過去に推定した路面摩擦係数を加味したなまし処理を行う。
【0026】
請求項3に記載の発明においては、請求項1又は請求項2に記載の作用に加えて、異常検出手段は、前記推定手段が推定した路面摩擦係数が異常値か否かを検出する。記憶手段は、前記異常検出手段が異常検出する以前の正常な路面摩擦係数を記憶する。前記異常検出手段が、前記推定手段の推定した路面摩擦係数を異常値であると検出したとき、前記推定手段は、前記記憶手段に記憶した正常な路面摩擦係数を推定した値と置き換える。
【0027】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
以下、本発明を、自動車に搭載したラックアシスト型の電動パワーステアリング装置の制御装置に具体化した実施形態を図1〜図13に従って説明する。
【0028】
図1は、電動パワーステアリング装置の概略を示す。
ハンドルとしてのステアリングホイール1に連結したステアリングシャフト2には、トーションバー3が設けられている。なお、説明の便宜上、ステアリングホイールを以下、ハンドルということがある。このトーションバー3には、トルクセンサ4が装着されている。そして、ステアリングシャフト2が回転してトーションバー3に力が加わると、加わった力に応じてトーションバー3が捩れ、その捩れ、すなわちステアリングホイール1にかかる操舵トルクThをトルクセンサ4が検出している。又、ステアリングシャフト2にはステアリングシャフト2の操舵角θを検出する操舵角センサ17が装着されている。これらのセンサ出力は制御装置20へ供給される。
【0029】
又、ステアリングシャフト2にはピニオンシャフト8が固着されている。ピニオンシャフト8の先端には、ピニオン9が固着されるとともに、このピニオン9はラック10と噛合している。前記ラック10とピニオン9とによりラック&ピニオン機構11が構成されている。前記ラック10の両端には、タイロッド12が固設されており、そのタイロッド12の先端部にはナックル13が回動可能に連結されている。このナックル13には、タイヤとしての前輪14が固着されている。又、ナックル13の一端は、クロスメンバ15に回動可能に連結されている。
【0030】
又、ラック10と同軸的に配置された電動モータ(以下、モータという)6は、モータ6が発生した補助操舵力をボールナット機構6aを介してラック10に伝達する。
【0031】
従って、モータ6が回転すると、その回転数はボールナット機構6aによって減少されてラック10に伝達される。そして、ラック10は、タイロッド12を介してナックル13に設けられた前輪14の向きを変更して車両の進行方向を変えることができる。
【0032】
前輪14には、車速センサ16が設けられている。
次に、前記電動パワーステアリング装置の制御装置20の電気的構成を図1に示す。
【0033】
トルクセンサ4は、ステアリングホイール1の操舵トルクThを示す信号を出力している。操舵角センサ17はステアリングシャフト2の操舵角θを示す操舵角信号を出力している。車速センサ16は、その時の車速Vを前輪14の回転数に相対する検出信号を制御装置20へ出力する。又、制御装置20には、モータ6に流れる駆動電流(モータ電流Im、モータ電流値に相当)を検出するモータ駆動電流センサ18が電気的に接続されており、モータ駆動電流センサ18からのモータ電流Imを示す信号が供給されている。
【0034】
制御装置20は、制御手段としての中央処理装置(CPU)21、読み出し専用メモリ(ROM)22及びデータを一時記憶する読み出し及び書き込み専用メモリ(RAM)23を備えている。
【0035】
このROM22には、CPU21により実行される各種制御プログラムが格納されている。RAM23は、CPU21が演算処理を行うときの演算処理結果等を一時記憶する。RAM23は記憶手段に相当する。
【0036】
前記CPU21は、制御手段、推定手段、目標操舵トルク設定手段、異常検出手段、アシスト電流演算手段に相当する。
(路面摩擦係数μの推定)
ここで、本実施形態における路面摩擦係数μ(以下、路面μという)の推定方法について説明する。
【0037】
ある車速V、ある操舵角θにおける路面の反力(以下、路面反力という)は、路面μにより変化することが知られている。従って、基準となる路面μにおけるある車速V、ある操舵角θに対する路面反力を予め記憶しておき、演算で算出した路面反力と比較することにより、路面μが推定できる。
【0038】
路面反力はラック推力Fと等しく、ラックアシスト型の電動パワーステアリング装置の場合、次式でラック推力Fを表すことができる。
F = Fm + Fh ……(A)
ここで、Fmはモータ6がアシストする推力、Fhはハンドル操舵による推力であり、下記の式でそれぞれ求めることができる。
【0039】
Fm=2π・Tm・ηb/L ……(B)
Fh=2π・Th・ηp/St ……(C)
なお、Tmはモータトルク、ηbはボールナット機構6aのボールねじ効率、Lはそのボールねじリードである。Thは操舵トルク、ηpは前記ラック&ピニオン機構11のラック&ピニオンギヤ効率、Stはそのストローク比である。
【0040】
従って、ラック推力Fは、下記の式となる。
F=(Tm・ηb・St/L + Th・ηp)・2π/St
ここで、ηbとηpとは、経験上その効率がほぼ等しいと考えることができるから、
G(減速比)=St/L
より、
F∝(Tm・G+Th)=f
となる。
【0041】
すなわち、路面反力(=ラック推力F)はfに比例する。
この結果、路面反力を表す評価関数としてf=Tm・G+Thを導入し、予め記憶しておいた基準路面(本実施の形態では、アスファルト路としている)における基準値としての基準路評価関数f0との評価関数比α(=f/f0)を算出する。この評価関数比αは路面μに比例した値であり、評価関数比αを算出することは、路面μを推定することに相当する。
【0042】
次に、図2〜図8を参照して、アシスト制御を説明する。
なお、以下のCPU21内部の機能の説明では、「車速V」、「操舵トルクTh」、「操舵角θ」等の各種パラメータは、説明の便宜上、それらの対応する信号の意味として使用するものとする。
【0043】
図2は、CPU21の制御ブロック図である。この実施形態ではCPU21内部においてプログラムで実行される機能を示している。例えば、位相補償器30は独立したハードウエアではなく、CPU21内部で実行される位相補償機能を示している。同じく図6及び図7は、CPU21内部の構成はCPU21がプログラムによって実行する処理機能を制御ブロック図で示しており、実際のハード構成を意味するものではない。
【0044】
以下、CPU21の機能と動作を説明する。
CPU21は、図2に示すように位相補償器30,35、アシスト電流演算手段として電流指令値演算部31、目標操舵トルク設定手段として目標操舵トルク設定部32、減算器33、電流制御部34、推定手段としての路面μ推定部100等の機能を備えている。前記CPU21には、後述する電流制御部34を備え、電流制御部34では、モータ電流がアシスト指令電流値となるようにモータ6をPWM演算を行い、その演算結果に基づいて駆動するようにされている。
【0045】
(操舵角θの検出処理)
操舵角センサ17が出力した操舵角信号を、位相補償器35にて位相を進ませる位相補償した後の値を操舵角θとして、目標操舵トルク設定部32及び路面μ推定部100に出力する。
【0046】
詳しく説明すると、位相補償器35は図3に示すように微分器36とゲイン乗算部37と、加算器38とから構成されている。
微分器36では、操舵角センサ17からの操舵角信号を微分して操舵角速度θVを求め、ゲイン乗算部37では、その操舵角速度θVに予め設定したゲインTを乗算した値θV・Tを加算器38に出力する。前記ゲインTは、操舵角信号の位相遅れにより、操舵角信号に対する操舵トルク(実操舵トルク)が狙った目標操舵トルクTh*に一致しない現象が生じないように予め試験等よって得られた値に基づいて定められている。加算器38は、操舵角信号に対してθV・Tを加算して位相を進ませた値(本実施形態では、これを操舵角θという。)とし、目標操舵トルク設定部32及び路面μ推定部100に出力する。
【0047】
(路面μの推定処理)
図2に示すように前記路面μ推定部100は、位相補償器35から操舵角θ、車速センサ16から車速V、トルクセンサ4から操舵トルクTh、モータ駆動電流センサ18からモータ電流Imを入力し、右操舵評価関数比(右操舵路面反力情報)αr、左操舵評価関数比(左操舵路面反力情報)αlの設定を行う。
【0048】
具体的に、右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αlの設定の仕方を、CPU21が実行する路面μ推定制御プログラムのフローチャート(図5,6参照)に従って説明する。
【0049】
この路面μ推定制御プログラムのフローチャートは、定時割り込みで実行される。
まず、CPU21は、ステップ(以下、ステップをSという)1において、車両の走行中その時々において、車速センサ16からの検出信号,トルクセンサ4からの検出信号、操舵角センサ17からの検出信号及びモータ駆動電流センサ18からの検出信号をRAM23に読み込む。次に、S2において、車速センサ16からの検出信号に基づいてその時々の車速Vを演算するとともに、トルクセンサ4からの検出信号に基づいてステアリングホイール1のその時々の操舵トルクThを演算する。又、操舵角センサ17からの検出信号に基づいて操舵角θを演算する。又、操舵角θを微分して操舵角速度θVを演算する。
【0050】
S3では、S2で算出した車速Vが判定車速下限値V1と判定車速上限値V2(>V1)の範囲内にあるか否かを判定する。この判定は路面μを推定するのに適切な車速範囲内か否かを判定するためのものである。S3で判定車速下限値V1と判定車速上限値V2との間にあれば、S4に移行し、そうでない場合にはこの処理ルーチンを一旦終了する。
【0051】
S4では、S2で算出した操舵角θの絶対値が判定操舵角下限値θ1と判定操舵角上限値θ2(>θ1)の範囲内にあるか否かを判定する。操舵角θは右回転操舵と、左回転操舵があるため、右回転操舵を正、左回転操舵を負とする。この判定は路面μを推定するのに適切な操舵角範囲内か否かを判定するためのものである。S4で操舵角θが判定操舵角下限値θ1と判定操舵角上限値θ2との間にあれば、S5に移行し、そうでない場合にはこの処理ルーチンを一旦終了する。
【0052】
S5では、S2で算出した操舵角速度θVの絶対値が判定操舵角速度下限値θV1と判定操舵角速度上限値θV2(>θV1)との範囲内にあるか否かを判定する。操舵角速度θVは右回転の場合の角速度と、左回転の場合の角速度があるため、右回転の場合を正、左回転の場合を負とする。この判定は適切な操舵角速度範囲内か否かを判定するためのものである。S5で操舵角速度θVが判定操舵角速度下限値θV1と判定操舵角速度上限値θV2との間にあれば、S6に移行し、そうでない場合にはこの処理ルーチンを一旦終了する。
【0053】
次のS6では、操舵角θと操舵角速度θVの正負の符号が同じか否かを判定する。例えば、走行が直進状態であるときの中立位置からステアリングホイール1を左右いずれかの方向に操舵したときは、操舵角θと操舵角速度θVの符号は同じであり、ステアリングホイール1を一旦操舵してから、戻し(ハンドル戻し)の場合は、操舵角θと操舵角速度θVとは符号が互いに反対となる。
【0054】
従って、操舵角θと操舵角速度θVの両者の符号が同じときは、ステアリングホイール1(ハンドル)を切っているものとしてS7に移行し、符号が不一致の場合には、この処理ルーチンを一旦終了する。
【0055】
S7では、S2で演算した操舵トルクThの絶対値が判定操舵トルク下限値Th1と判定操舵トルク上限値Th2の範囲内か否かを判定する。ここでの判定は、車輪が縁石に当たったり、車輪が溝等に脱輪した場合等の異常な状態の操舵トルクか否かを判定するのである。操舵トルクThがこの範囲以内である場合には、S8に移行し、範囲外である、すなわち、異常であると判定すると、この処理ルーチンを一旦終了する。
【0056】
次のS8では、モータ電流Imに基づいてモータトルクTmを演算する。このモータトルクTmは下記の式で算出する。
Tm=Kt・Im
なお、Ktはモータ6のトルク定数である。
【0057】
S8のモータトルクTm演算の処理の後、S9においては右操舵か否かを判定する。操舵角θ≧0の場合には、右操舵であるとしてS10に移行し、操舵角θ<0の場合には左操舵であるとして、S20に移行する。
【0058】
ここでS10〜S16は右操舵評価関数比αrの算出処理ルーチンであり、又、S20〜S26は左操舵評価関数比αlの算出処理ルーチンである。
右操舵評価関数比αrの算出ルーチンについて説明すると、S10では、右操舵瞬時評価関数frを算出する。すなわち、右操舵瞬時評価関数frは、この制御サイクル時に得られる右操舵瞬時評価関数のことであり、同右操舵瞬時評価関数frは下記の式で得られる。
【0059】
fr=Tm・G+Th
Gは前記したように減速比(定数)である。
次のS11では、基準路評価関数f0を割り出す。基準路評価関数f0は図8に示すマップを参照して求める。このマップは横軸に操舵角θ、縦軸に基準路評価関数f0の値を備え、複数の車速Vに応じた基準路評価関数f0を割り出すことができるようになった3次元マップである。すなわち、このマップは、ROM22に予め記憶されており、車速Vと、操舵角θとが決定されれば、基準路評価関数f0の値が選択できる。
【0060】
同図に示すように、操舵角θが大きくなるほど、基準路評価関数f0の値がリニアに大きくなり、又、車速Vが大きくなるほど、操舵角θが同じであれば、基準路評価関数f0の値を大きくしている。
【0061】
そして、右操舵瞬時評価関数frと、基準路評価関数f0とに基づいて評価関数比(以下、右操舵暫定評価関数比という。)αrx(=fr/f0)を算出する。すなわち、S11では、右操舵暫定評価関数比αrxの算出は、瞬時路面μの演算が行われたことに相当する。
【0062】
続く、S12では、なまし処理として加重平均処理を行い、右操舵評価関数比αrを算出する。図7はなまし処理の詳細を示すフローチャートである。
まず、S30において、加重平均回数値N2をインクリメントする。続く、S31において、積算値Σαrを演算する。Σαrの算出は、前回の制御サイクル時に算出した積算値Σαrに対して、今回求めた右操舵暫定評価関数比αrxを加算するものである。
【0063】
従って、積算値Σαrは、いくつかの過去の制御サイクル時に求めた複数の評価関数比が加算されたものである。
続く、S32においては、積算回数チェックを行う。すなわち、S30でインクリメントした加重平均回数値N2が所定値N1(本実施形態では、30回)以下か否かを判定する。
【0064】
S32において、加重平均回数値N2がN1以下であれば、S33において、S31で算出した積算値Σαrを加重平均回数値N2(≦N1)で除して、加重平均処理を行い、最終的に路面μにかかる右操舵評価関数比αrを算出し、このフローを抜け出る。
【0065】
前記S32において、加重平均回数値N2がN1を越えていれば、S34において、加重平均処理を行う。すなわち、S31で算出した積算値Σαrから、前回の制御サイクル時に記憶した右操舵評価関数比αrを減算したものを今回制御サイクル時の積算値Σαrとし、RAM23に記憶する。
【0066】
さらに、S34においては、前記算出した今回制御サイクル時の積算値Σαrを所定値N1で除して加重平均処理を行い、最終的に路面μにかかる右操舵評価関数比αrを算出した上で、RAM23に記憶する。又、S34において、前記所定値N1を加重平均回数値N2としてRAM23に記憶する。このS32の処理が終了すると、このフローを抜け出る。
【0067】
前記S33、S34の加重平均処理はなまし処理に相当する。
以上のようにして、S12において、最終的に路面μにかかる右操舵評価関数比αrを算出する。この右操舵評価関数比αrの演算は、図2においては、路面μ推定部(路面μ推定手段)100で実行される。
【0068】
話しは図6の路面μ推定制御プログラムのフローチャートに戻るが、次のS13では、右操舵評価関数比αrがαrmin ≦αr≦αrmax の範囲内か否かを判定する。すなわち、この処理は、S12で算出された右操舵評価関数比αrが異常値ではないか否かを判定するのである。なお、前記αrmin ,αrmax は実験等で求められた値であり、予めROM22に格納されている。
【0069】
αr<αrmin 又は、αr>αrmax の場合には、異常値であるとしてS17に移行する。
αrがαrmin ≦αr≦αrmax であれば、S14において、αrの変化量を算出する。すなわち、前回制御サイクル時に算出したαrとの差Δαrを算出するのである。そして、S15において、|Δαr|<Δαrmax であるか否かを判定する。すなわち、S14で算出された差Δαrが異常値ではないか否かを判定するのである。なお、前記Δαrmax は実験等で求められた値であり、予めROM22に格納されている。
【0070】
|Δαr|≧Δαrmax の場合には、異常値であるとしてS17に移行する。又、|Δαr|<Δαrmax である場合には、正常値であるとしてS16に移行し、RAM23の所定領域であるバッファ領域にバッファ処理(格納)して、このルーチンを一旦終了する。
【0071】
前記S13及びS15から、S17に移行した場合には、RAM23のバッファ領域に以前の制御サイクル時に格納した正常な値である右操舵評価関数比αrを読み出して、後に行われる各種制御補正値の計算に供するために、所定の記憶領域に格納し、このルーチンを一旦終了する。
【0072】
このS17にて行う処理は、今回制御サイクル時に算出したαrがαrmin よりも小さい、又はαrmax よりも大きい、あるいは、|Δαr|がΔαrmax 以上の大きさであり、異常な値であるため、後の各種制御補正値計算では使用させないようにするためである。
【0073】
次に、S9において、操舵角θ<0の場合、左操舵であるとして、S20に移行する。
左操舵評価関数比αlの算出ルーチンについては、右操舵評価関数比αrの算出ルーチンと同じ処理を行うため、右操舵評価関数比αrの算出ルーチンの各ステップに相当するステップには、1桁の末尾番号を共通とし、20番台を付している(S20〜S26参照)。
【0074】
従って、左操舵評価関数比αlの算出ルーチンは、上記の右操舵評価関数比αrの算出ルーチンにおける説明中、右操舵評価関数比αrは左操舵評価関数比αlに、frはflに、読み替えるものとする。又、右操舵瞬時評価関数frは左操舵瞬時評価関数flに、右操舵暫定評価関数比αrx(=fr/f0)は左操舵暫定評価関数比αlx(=fl/f0)に、αrmin はαlmin に、αrmax はαlmax に、ΔαrはΔαlに、Δαrmax はΔαlmax に読み替える。
【0075】
又、左操舵評価関数比αlの算出ルーチンのS22においての加重平均処理では、図7に示すS30〜S34に相当する処理がなされるが、この各ステップにおいて、右操舵評価関数比αrは左操舵評価関数比αlに、読み替えるものとする。又、同じく積算値Σαrは、積算値Σαlに、右操舵暫定評価関数比αrx(=fr/f0)は左操舵暫定評価関数比αlx(=fl/f0)に読み替えることによって、その説明となるので、ここでは繰り返さない。
【0076】
(MA−MT制御)
(目標操舵トルクTh*の設定)
次に、MA−MT制御を実行するための目標操舵トルクTh*の設定について説明する。
【0077】
図2に示すように、目標操舵トルク設定部32は、車速センサ16から車速V、操舵角センサ17から操舵角θ、路面μ推定部100から右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αlを入力し、目標操舵トルクTh*の設定を行う。
【0078】
なお、目標操舵トルク設定部32は、右操舵及び左操舵に応じて右用及び左用目標操舵トルク設定マップを備えている。図11は右用目標操舵トルク設定マップを示している。
【0079】
以下、右用目標操舵トルク設定マップについて説明する。
右用目標操舵トルク設定マップ(以下、右操舵路面反力情報マップという。)は、互いに異なる複数の右操舵評価関数比αrに対応して複数用意されている。そして、その一つ一つの右操舵路面反力情報マップには、互いに異なる複数の車速Vに対応して複数の目標操舵トルク設定マップ(以下、右操舵車速対応マップという。)を備えている。右操舵車速対応マップは、車速Vが大きくなるにつれて、車速Vが小さい場合に比して目標操舵トルクTh*の傾きが急になるように、すなわち大きくなるように設定されている。
【0080】
なお、左用目標操舵トルク設定マップについては、右用目標操舵トルク設定マップの右操舵路面反力情報マップ、及び右操舵車速対応マップと同様の左操舵路面反力情報マップ、及び左操舵車速対応マップを備えている。
【0081】
次に、具体的な目標操舵トルクTh*の設定の仕方を、CPU21が実行する目標操舵トルク設定ルーチンのフローチャート(図9,10参照)に従って説明する。
【0082】
なお、このフローチャートは図2における目標操舵トルク設定部32の機能の説明に加えて、電流指令値演算部31、電流制御部34の機能も説明する。
まず、S101において、操舵角θを読込み、今回の操舵状態が右操舵(右方向への操舵)か否かを判断するために、操舵角θを微分して操舵角速度θVを算出する。そして、θV>0の際には今回右操舵であるとしS102に移行し、そうでない場合には、S107に移行する。
【0083】
次のS102では、「前回の操舵状態」が右か否かを判定する。この判定は、コンディションフラグが「1」又は「0」のいずれかになっているかによって判定する。そして、S102において、「前回の操舵状態」が右の場合(コンディションフラグが「1」の場合)には、S103で、右操舵路面反力情報マップを選択し、S104で「前回の操舵状態」を右の設定のまま(コンディションフラグを「1」にセットする。)にし、S113に移行する。
【0084】
一方、S102で、「前回の操舵状態」が右でないと判定した際(コンディションフラグが「0」の場合)には、S105に移行し、左操舵路面反力情報マップを選択し、S106で「前回の操舵状態」を右に設定し直し(コンディションフラグを「1」にセットする。)、S113に移行する。
【0085】
そして、S113では右操舵路面反力情報マップを選択しているか否かを判定する。
S113で右操舵路面反力情報マップを選択していると判定した際には、S114において、右操舵評価関数比αr、車速V、操舵角θに基づき目標操舵トルクTh*を求める以下の処理を行う。
【0086】
右操舵評価関数比αrに対し、予めROM22に記憶されている複数の右操舵路面反力情報マップのうち、右操舵評価関数比αrに近い右操舵路面反力情報に係る右操舵路面反力情報マップを検索する。この右操舵評価関数比αrに近い、マップ側の右操舵評価関数比をαr1,αr2とする(αr1≦αr<αr2)。
【0087】
そして、車速Vに対し、予めROM22に記憶されている右操舵評価関数比αr1における複数の右操舵車速対応マップのうち、車速Vに近い車速に係る右操舵車速対応マップを検策する。この車速Vに近い、マップ側の車速をV1,V2とする(V1≦V<V2)。
【0088】
続いて、右操舵評価関数比αr1における、検索した車速V1,V2の右操舵車速対応マップから、操舵角θに応じて仮目標操舵トルクTh1*,Th2*をそれぞれ求める。
【0089】
そして、以下の線形補間の式で「車速Vでの目標操舵トルクTh11*」を求める。
Th11*=[(Th2*−Th1*)/(V2−V1)]×(V−V1)+Th1*
そして、右操舵評価関数比αr2においても、上記右操舵評価関数比αr1と同様にして、車速Vでの目標操舵トルクTh12*を求める。
【0090】
次に、前記右操舵評価関数比αr、車速V、操舵角θにおける目標操舵トルクTh*は右操舵評価関数比αrに対する以下の線形補間の式で求める。
Th*=[(Th12*−Th11*)/(αr2−αr1)]×(αr−αr1)+Th11*
このようにして、S114では右操舵評価関数比αr、車速V、操舵角θに基づき目標操舵トルクTh*を求めると、S116に移行する。
【0091】
一方、S113で右操舵路面反力情報マップを選択していないと判定した際には、S115において、左操舵評価関数比αl、車速V、操舵角θに基づき目標操舵トルクTh*を求める処理を行う。このときの目標操舵トルクTh*の求め方は、左操舵評価関数比αlに対し、予めROM22に記憶されている複数の左操舵路面反力情報マップのうち、左操舵評価関数比αlに近い左操舵路面反力情報に係る左操舵路面反力情報マップを検索し、以下、検索した結果の左操舵路面反力情報マップを基にして、S114と同様の処理を行う。
【0092】
従って、S115の処理においては、S114の右操舵評価関数比αr,αr1,αr2を左操舵評価関数比αl,αl1,αl2に、右操舵路面反力情報マップを左操舵路面反力情報マップに、右操舵車速対応マップを左操舵車速対応マップに読み替えることによって、その説明となるので、説明の便宜上ここでは繰り返し説明しない。
【0093】
この結果、S115では左操舵評価関数比αl、車速V、操舵角θに基づき目標操舵トルクTh*を求め、S116に移行する。
S116では、目標操舵トルクTh*、操舵トルクTh、モータ電流Imに基づき、アシスト電流指令値Iを算出する。なお、このS116は図2における電流指令値演算部31に相当し、アシスト電流指令値Iの算出の仕方の詳しい説明は後述する。
【0094】
S116からS117に移行すると、アシスト電流指令値Iに基づきPI制御を行い、モータ電流Imがアシスト電流指令値Iに一致するように制御を行い、このルーチンを終了する。
【0095】
一方、S101において、θV>0でないと判定した際には、S107に移行する。S107において、θV<0の際には今回左操舵であるとしてS108に移行し、そうでない場合には保舵していると判定し、操舵路面反力情報マップ及び操舵状態(操舵の方向)は前回の制御サイクル時のものを選択してS113に移行する。
【0096】
次のS108では、「前回の操舵状態」が左か否か(コンディションフラグが「0」か否か)を判定し、「前回の操舵状態」が左の場合(コンディションフラグが「0」の場合)には、S109で、左操舵路面反力情報マップを選択し、S110で「前回の操舵状態」を左の設定のまま(コンディションフラグを「0」に設定)にし、S113に移行する。
【0097】
一方、S108で、「前回の操舵状態」が左でないと判定した際には、S111に移行し、右操舵路面反力情報マップを選択し、S112で「前回の操舵状態」を左に設定し直し(コンディションフラグを「0」に設定)、S113に移行する。
【0098】
上記のようにして目標操舵トルク設定ルーチンのフローチャートは処理される。
なお、S101〜S115は図2における目標操舵トルク設定部32にて処理され、S116は図2における電流指令値演算部31で処理される。又、S117は図2における電流制御部34で処理される。
【0099】
この結果、右操舵を継続している場合には、車速V、操舵角θ、及び右操舵評価関数比αrに基づき、目標操舵トルクTh*を決定し、その目標操舵トルクTh*に応じてアシスト電流指令値Iを設定する。又、左操舵を継続している場合には、車速V、操舵角θ、及び左操舵評価関数比αlに基づき、目標操舵トルクTh*を決定し、その目標操舵トルクTh*に応じてアシスト電流指令値Iを設定する。
【0100】
次に電流指令値演算部31について説明する。
図2に示すように、トルクセンサ4から入力された操舵トルクThは、位相補償器30で操舵系の安定を高めるために位相補償され、電流指令値演算部31に入力される。又、車速センサ16で検出された車速V、モータ駆動電流センサ18で検出されたモータ電流Im及び目標操舵トルク設定部32からの目標操舵トルクTh*はそれぞれ電流指令値演算部31に入力される。
【0101】
電流指令値演算部31は、入力された操舵トルクTh、車速V、目標操舵トルクTh*、モータ電流Imに基づいて、モータ6に供給する電流の制御目標値である車速感応アシスト指令値(アシスト電流指令値に相当する、以下、アシスト電流指令値という。)Iを決定する。
【0102】
電流指令値演算部31は、図12に示すように不感帯幅設定部25、車速感応アシストトルク演算部26とを備えている。
不感帯幅設定部25は、車速Vに基づき、図13に示すように、ROM22に予め格納された不感帯幅マップMPを使用して、通電しない操舵トルクの不感帯幅T0を求め、車速感応アシストトルク演算部26に供給する。なお、不感帯幅マップMPは、車速Vと、不感帯幅T0からなる二次元マップからなり、車速Vから、一義的に不感帯幅T0が求められる。
【0103】
車速感応アシストトルク演算部26は、図4に示すように、目標操舵トルク設定部32で求められた目標操舵トルクTh*が前記不感帯幅T0(すなわち、図4では、不感帯幅T0は、−T0〜T0の間のことである。)の中にある場合には、アシスト電流指令値Iを0と決定し、この値を減算器33に出力する。
【0104】
目標操舵トルクTh*が不感帯幅T0の範囲外の場合には、現時点での操舵トルクThとモータ電流Imで演算されるラック推力と、目標操舵トルクTh*、アシスト電流指令値Iでのラック推力が釣り合うようにアシスト電流指令値Iを設定する。
【0105】
以下に、本実施形態のラックアシスト型の電動パワーステアリング装置の制御装置の場合の、アシスト電流指令値Iの決定の仕方について説明する。
ラックアシスト型の場合、操舵トルクTh、モータ電流Imの時のラック推力Fは下記の(A)式で求まる。
【0106】
F = Fm + Fh ……(A)
ここで、Fmはモータ6がアシストする推力、Fhはハンドル操舵による推力であり、下記の式でそれぞれ求めることができる。
【0107】
Fm=2π・Tm・ηb/L ……(B)
Fh=2π・Th・ηp/St ……(C)
上記(B)中、Tmはモータトルクを表し、
Tm=Kt×Im ……(D)
で求まる。
【0108】
なお、Tmはモータトルク、ηbはボールナット機構6aのボールねじ効率、Lはそのボールねじリードである。Thは操舵トルク、ηpは前記ラック&ピニオン機構のラック&ピニオンギヤ効率、Stはそのストローク比である。又、Ktはトルク定数である。
【0109】
従って、上記の(A)式を用いて、車速V、操舵角θにおける目標操舵トルクTh*、アシスト電流指令値Iのときのラック推力F(以下、この推力をF(Th*,I)で表す。)と、操舵トルクTh、モータ電流Imのときのラック推力F(以下、この推力をF(Th,Im)で表す。)が等しくなるようにアシスト電流指令値Iを設定する。
【0110】
F(Th*,I)=F(Th,Im)に、上記(B)、(C)、(D)を代入して、Iを求めれば、下記の式となる。
I=Im+ (Th−Th*)L・ηp/(St・Kt・ηb)
このようにして得られたアシスト電流指令値Iを減算器33に出力する。
【0111】
なお、アシスト電流指令値Iが目標操舵トルクTh*と逆符号、すなわち、逆アシストとなる場合には、アシスト電流指令値Iをゼロと決定して、減算器33に出力する。
【0112】
減算器33は実際のモータ電流Imとの差に相当する信号(アシスト電流制御値に相当する)を電流制御部34に出力する。
電流制御部34は本実施形態では、公知のPI制御を行うようにされており、減算器33の出力と実際のモータ電流Imとの差に相当する信号に基づいてフィードバック制御を行うべくモータ駆動装置24に供給する。すなわち、電流制御部34では、モータ電流がアシスト指令電流値となるようにモータ6をPWM演算を行い、その演算結果に基づいて駆動する。
【0113】
この結果、モータ駆動装置24を介してモータ6を駆動制御することにより、モータ6による適正なアシスト力が得られる。
上記実施形態の電動パワーステアリング装置の制御装置によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0114】
(1)本実施形態においては、操舵角θ、車速V、操舵トルクTh、モータ電流Imに応じて右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αlを設定した。そして、車速V、操舵角θ、右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αlに応じて目標操舵トルクTh*を設定した。さらに、操舵トルクThと目標操舵トルクTh*及びモータ電流Imによりアシスト電流指令値Iを制御(MA−MT制御)するようにした。
【0115】
この結果、路面反力が小さければ路面反力情報としての右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αlが失われない程度に目標操舵トルクTh*を小さく設定し、路面反力が大きければ目標操舵トルクTh*を大きく設定できる。これにより、路面反力情報に応じて補正された目標操舵トルクTh*をMA−MT制御に用いることができる。
【0116】
従って、凍結路などのような路面反力が小さい場合でも路面反力情報(右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αl)が失われることなく、かつ路面反力の変化に応じて走行安定性に優れた操舵フィーリングを得ることができる。
【0117】
(2)本実施形態においては、右操舵している場合には、車速V、操舵角θ、及び右操舵評価関数比αrに基づき、目標操舵トルクTh*を決定し、その目標操舵トルクTh*に応じてアシスト電流指令値Iを設定する。又、左操舵している場合には、車速V、操舵角θ、及び左操舵評価関数比αlに基づき、目標操舵トルクTh*を決定し、その目標操舵トルクTh*に応じてアシスト電流指令値Iを設定する。
【0118】
従って、バンク等を走行している場合でも右操舵と左操舵との操舵感覚が異なることなく、かつ走行安定性に優れた操舵フィーリングを得ることができる。
(3)本実施形態においては、CPU21(推定手段)は、路面μを推定するに当たり、S12において、過去に推定した路面μを加味した加重平均処理(なまし処理)を行うようにした。このため、加重平均処理によって、ばらつきを減らし、より正確な値を推定できる。
【0119】
例えば、路面の状態(悪路、砂利道等)により、車両がピッチング(上下に振動)する影響や、路面の状態、タイヤの状態によって、瞬時に計算している路面μの値にばらつきが生じ、正確な値を算出することが難しくなる。本実施形態では、数十回程度(S24において30回)の加重平均(サンプリング10msとした場合、数msの平均)によるなまし処理を行うことにより、ばらつきを抑えることができ、より正確な路面μを算出できる。
【0120】
(4)本実施形態においては、CPU21は、異常検出手段として、右操舵のときに推定した路面μが異常値か否かを検出するようにした。すなわち、S13においては、右操舵評価関数比αrがαrmin ≦αr≦αrmax の範囲内か否かを判定して、S12で算出された右操舵評価関数比αrが異常値ではないか否かを判定するようにした。
【0121】
又、S23では、左操舵のときに推定した路面μが異常値か否かを検出するようにした。すなわち、S23においては、左操舵評価関数比αlがαlmin ≦αl≦αlmax の範囲内か否かを判定して、S22で算出された左操舵評価関数比αlが異常値ではないか否かを判定するようにした。
【0122】
この結果、仮に異常検出が行われない場合には、トルクセンサ4、モータ駆動電流センサ18の検出信号や、推定演算に異常があった場合、操舵フィーリングに違和感が生じるだけでなく、ハンドル操舵が急に軽くなり、切れすぎたり、逆に重くて切れなくなることがあるが、本実施形態では、このようなことがなくなる。
【0123】
(第2実施形態)
次に第2実施形態を図14及び図15を参照して説明する。
前記第1実施形態では、路面μの推定を、モータ電流Im、操舵トルクThに基づいて推定したが、本実施形態ではモータ電流Imに基づいて路面μを推定している。
【0124】
なお、第1実施形態と同一構成又は相当する構成については同一符号を付してその説明を省略する。又、本実施形態においても、電動パワーステアリング装置は第1実施形態と同様のハード構成を備えているものとする。
【0125】
図14は、本実施形態の制御装置20の電気的構成の一部である路面μ推定手段60を示しており、同図において、CPU21内部構成はプログラムで実行される機能を示している。例えば、路面μ推定手段60は独立したハードウエアではなく、CPU21内部で実行される路面μ推定処理を示している。
【0126】
なお、同図においては、第1実施形態の構成中、位相補償器30、電流指令値演算部31、目標操舵トルク設定部32、減算器33、電流制御部34、位相補償器35は説明の便宜上省略されているが、本実施形態においても、CPU21はこれらの機能
(構成)を備えている。
【0127】
路面μ推定手段60には、車速センサ16、モータ駆動電流センサ18、絶対舵角検出手段90が電気的に接続され、車速V、モータ電流Im、絶対操舵角(以下、絶対舵角という)θZを入力し、絶対舵角θZ、車速Vの所定条件を満たした際に、モータ電流Imに基づいて路面反力の推定を行うべく、すなわち、路面μの推定を行う。絶対舵角検出手段90は、ステアリングホイール1の操舵時の絶対舵角θZを検出するためのものであり、絶対角度センサ等にて構成されている。絶対舵角は、予め設定された基準位置からの角度をいう。
【0128】
(第2実施形態の作用)
さて、上記のように構成された電動パワーステアリング装置の制御装置20において、路面μ推定制御プログラムを実行したときの作用を説明する。この制御プログラムは、車速Vが0のとき、すなわち、自動車が停止した状態で、据え切りを行った際に、路面反力の推定を行うべく、路面μを推定するものである。
【0129】
なお、この路面μ推定制御プログラムは第1実施形態と同様にROM22に格納されており、定時割り込みで実行される。
S50では、ROM22から基準路面μ、基準モータ電流Im0を読込みするとともに、絶対舵角θZを入力する。基準路面μは、本実施形態ではドライ路(乾燥路)であるアスファルト路の路面摩擦係数であり、車速Vが0のときに、絶対舵角θZが所定の舵角(基準舵角)に操舵したときの値を採用している。なお、基準舵角θ0は、ある所定の範囲を持つ。基準モータ電流Im0は前記基準路面μを決定した際のモータ電流であり、これらは予め測定され、ROM22に記憶されている。
【0130】
S51では、入力した絶対舵角(入力舵角)θZが基準舵角θ0の範囲内か否か判定し、基準舵角θ0の範囲内でなければ、このフローチャートを一旦終了する。又、基準舵角θ0の範囲内であれば、S52で車速Vを入力し、S53に移行する
S53では、車速Vが0であるか否かを判定する。車速Vが0でなければ、すなわち自動車が停止していなければ、このフローチャートを一旦終了し、そうでなければ、S54でモータ電流Imを入力する。
【0131】
S55では下記の式でモータ電流比較演算を行い、モータ電流比Irを算出する。
Ir= Im/Im0 ……(1)
そして、次のS56で、下記の式に基づいて路面μ演算を行った後、このフローチャートを一旦終了する。
【0132】
路面μ=基準路面μ × Ir ……(2)
本実施形態では、S50〜S56のステップは路面μ推定手段60に相当する。そして、このように算出して得られた路面μは、目標操舵トルク設定部32に供される。
【0133】
本実施形態での目標操舵トルク設定部32は、共通目標操舵トルク設定マップを備えている。共通目標操舵トルク設定マップは、路面μ、車速V、操舵角θ、目標操舵トルクTh*からなるマップから構成されており、路面μ、車速V、操舵角θが入力されると、一義的に、目標操舵トルクTh*が割り出されるようにされている。すなわち、目標操舵トルクTh*は、路面μ、車速V、操舵角θをそれぞれ変えた値の元で行った実験によって得られた値がマップ化されて、予めROM22に格納されている。
【0134】
従って、目標操舵トルク設定部32は、車速V、操舵角θ、路面μに応じて目標操舵トルクTh*を設定する。以下、第1実施形態と同様に、操舵トルクThと目標操舵トルクTh*及びモータ電流Imによりアシスト電流指令値Iを制御(MA−MT制御)する。
【0135】
こうすると、路面反力が小さければ路面反力情報としての路面μの情報が失われない程度に目標操舵トルクTh*を小さく設定し、路面反力が大きければ目標操舵トルクTh*を大きく設定できる。
【0136】
従って、この場合においても、凍結路などのような路面反力が小さい場合でも路面反力情報(路面μの情報)が失われることなく、走行安定性に優れた操舵フィーリングを得ることができる。
【0137】
上記実施形態の電動パワーステアリング装置の制御装置によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態においては、モータ電流Im(モータ電流値)に基づいて路面反力の推定を行うべく、路面μを推定するCPU21(推定手段)を備えた。すなわち、CPU21は路面μ推定手段60を備えるようにした。
【0138】
従って、自動車が積雪路やアイスバーン路を走行する場合にも操安性を向上することができる。
本実施形態では、第1実施形態よりもさらにパラメータ数を少なくして、モータ電流Im(モータ電流値)のみに基づいて路面μを推定しているため、第1実施形態よりもさらに演算時間も短くて済み、使用するCPU21を構成するマイコンは高性能が要求されることはなく、安価なものでも構成することができる。
【0139】
しかも、パラメータが少ないと、検出時におけるノイズが入る確率も少なくなるため、ノイズの影響をそれだけ少なくて済み、路面μの推定を精確に行うことができる。
【0140】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
○前記第1実施形態では、ラックアシスト型の電動パワーステアリング装置の制御装置において、MA−MT制御を行うように構成したが、図16に示すようにコラム及びピニオンアシスト型の電動パワーステアリング装置の制御装置に具体化してもよい。
【0141】
なお、図16において、ステアリングシャフト2には減速機5が固着されている。この減速機5にはモータ6の回転軸に取着したギア7が噛合されている。さらに、減速機5にはピニオンシャフト8が固着されている。他の構成は、第1実施形態と同様の構成を備えているため詳細な説明は省略する。
【0142】
又、この態様においては、第1実施形態の電気的構成と同様の構成を採用し、アシスト電流指令値Iの決定の仕方についてのみ、第1実施形態と異なるため、このアシスト電流指令値Iの決定の仕方について以下説明する。
【0143】
コラム及びピニオンアシスト型の場合、操舵トルクTh、モータ電流Imの時のラック推力Fは次式(E)で求まる。
F(Th,Im)=2π(Th+Kt・Im・G・ηg)・ηp/St…(E)
なお、Thは操舵トルク、ηpはラック&ピニオンギヤ効率、Stはそのストローク比である。又、Ktはトルク定数、Gは減速機5の減速比、ηgは減速機5の減速機効率である。
【0144】
従って、上記式(E)を用いて、車速V、操舵角θにおける目標操舵トルクTh*、アシスト電流指令値Iのときのラック推力F(以下、この推力をF(Th*,I)で表す。)と、操舵トルクTh、モータ電流Imのときのラック推力F(以下、この推力をF(Th,Im)で表す。)が等しくなるようにアシスト電流指令値Iを設定する。
【0145】
F(Th*,I)=F(Th,Im)に、上記(E)式を代入して、Iを求めれば、下記の式となる。
I=Im+(Th−Th*)/(Kt・G・ηg)
このようにして得られたアシスト電流指令値Iを減算器33に出力する。
【0146】
なお、アシスト電流指令値Iが目標操舵トルクTh*と逆符号、すなわち、逆アシストとなる場合には、アシスト電流指令値Iをゼロと決定して、減算器33に出力する。
【0147】
なお、他の処理は第1実施形態と同様に処理する。
又、このような変更を第2実施形態に具体化してもよい。
○ 第1実施形態では、右操舵、左操舵に応じて、右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αlを介して各操舵における路面μを推定するようにし、各操舵に応じた目標操舵トルクを設定して、MA−MT制御を行った。これに代えて、右操舵、左操舵に関わりなく、共通の評価関数比αを求めてもよい。
【0148】
すなわち、操舵角θ、車速V、操舵トルクTh、モータ電流Imに応じて操舵評価関数比αを設定し、車速V、操舵角θ、操舵評価関数比αに応じて目標操舵トルクTh*を設定する。さらに、操舵トルクThと目標操舵トルクTh*及びモータ電流Imによりアシスト電流指令値Iを制御(MA−MT制御)する。
【0149】
こうすると、路面反力が小さければ路面反力情報としての操舵評価関数比αが失われない程度に目標操舵トルクTh*を小さく設定し、路面反力が大きければ目標操舵トルクTh*を大きく設定できる。
【0150】
従って、この場合においても、凍結路などのような路面反力が小さい場合でも路面反力情報(操舵評価関数比α)が失われることなく、かつ路面反力の変化に応じて走行安定性に優れた操舵フィーリングを得ることができる。
【0151】
○第1、第2実施形態では路面反力に反映されるものとして路面μ(路面側の状況)に着目し、推定手段として路面μ推定部100、路面μ推定手段60を用いたが、路面側の状況ではなくタイヤ(前輪14)側の状況を推定して各制御に反映させるようにしても良い。
【0152】
なお、本明細書では、路面側の状況、タイヤ側の状況をはじめ、路面反力に反映される状況を総称して路面反力情報と定義している。
前記タイヤ(前輪14)側の状況とは、夏季用タイヤ、冬季用タイヤといったタイヤ種別、タイヤ空気圧、タイヤの摩耗具合等である。夏季用タイヤの方が冬季用タイヤよりも接地抵抗が小さくされており、タイヤ空気圧が大きいほど接地面積が小さくなるので接地抵抗も小さくなり、タイヤの摩耗が大きいほど接地抵抗が小さくなる。
【0153】
そこで、基準となるタイヤ種別におけるある車速V、ある操舵角θに対する路面反力を予め記憶しておき、演算で算出した路面反力と比較することにより、タイヤ種別が推定できる。そして、先の各実施形態と同様、基準評価関数との右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αlを算出し、この右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αlとゲインとが対応した2次元マップを用いて各制御を行うことができる。タイヤ空気圧、タイヤ摩耗についても同様である。
【0154】
○さらにいえば、路面反力には、車両の重心位置も反映される。すなわち、前輪操舵車両であれば、上り坂なら車両の重心は後方へ移動して前輪14の接地抵抗は小さく、下り坂ならば前輪14の接地抵抗は大きい。又、車両後部の積載荷重が大きければ、重心は後方へ移動して前輪14の接地抵抗は小さく、前部の積載荷重が大きければ前輪14の接地抵抗は大きい。又、加減速時にも、同様の重心移動が発生する。
【0155】
そこで、各実施形態、前記別例と同様の手段によって車両の重心位置を推定し、基準評価関数との右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αlを算出し、この右操舵評価関数比αr、左操舵評価関数比αlとゲインとが対応した2次元マップを用いて各制御を行うことができる。
【0156】
○前記第1実施形態では、なまし処理として加重平均処理を行ったが、なまし処理としてローパスフィルタを使用したり、移動平均処理を行っても良い。
○前記第1実施形態では、路面μが異常であるか否かを、右操舵評価関数比αr、及び左操舵評価関数比αlが予め設定した値の範囲内か否か(S13,S23参照)、並びに右操舵評価関数比αrの増減を表す|Δαr|、及び左操舵評価関数比αlの増減を表す|Δαl|が予め設定した範囲内か否かによって判定した。
【0157】
これに代えて、右操舵評価関数比αr、及び左操舵評価関数比αlがあり得ない値を示した場合に、異常と判定してもよい。
又、右操舵瞬時評価関数frや左操舵瞬時評価関数flがあり得ない異常値であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0158】
【発明の効果】
請求項1〜3に記載の発明によれば、凍結路などのような路面の反力が小さい場合でも路面反力情報が失われることなく、かつ路面の反力の変化に応じて走行安定性に優れた操舵フィーリングを得ることができる。
【0159】
特に、請求項1に記載の発明によれば、右操舵、及び左操舵において、それぞれ独立して路面摩擦係数を推定しているため、左右のそれぞれの操舵で、路面摩擦係数に起因した路面の反力が異なる状況においても、正しくその状況を認識することができる。
【0160】
請求項2に記載の発明によれば、路面摩擦係数を推定するに当たり、過去に推定した路面摩擦係数を加味したなまし処理を行うため、なまし処理によって、路面摩擦係数のばらつきを減らし、より正確な値を推定できる。
【0161】
請求項3に記載の発明によれば、推定した路面摩擦係数が異常値の際には、正常な路面摩擦係数と置き換えるため、操舵フィーリングに違和感が生じることがなく、ハンドル操舵が急に軽くなったり、切れすぎたり、逆に重くて切れなくなることはなくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施形態における電動パワーステアリング装置の制御装置の概略図。
【図2】 同じく制御装置のブロック図。
【図3】 同じく位相補償器の機能ブロック図。
【図4】 同じく不感帯の説明図。
【図5】 路面μ推定制御プログラムのフローチャート。
【図6】 路面μ推定制御プログラムのフローチャート。
【図7】 加重平均処理のフローチャート。
【図8】 基準路評価関数f0を求めるためのマップ。
【図9】 目標操舵トルク設定ルーチンのフローチャート。
【図10】 目標操舵トルク設定ルーチンのフローチャート。
【図11】 目標操舵トルク設定マップの説明。
【図12】 電流指令値演算部のブロック図。
【図13】 不感帯幅の算出の説明図。
【図14】 第2実施形態の制御装置のブロック図。
【図15】 同じく路面μ推定制御プログラムのフローチャート。
【図16】 他の実施形態の電動パワーステアリング装置に係る制御装置の概略図。
【図17】 従来の電動パワーステアリング装置に係る制御装置の概略図。
【符号の説明】
6…モータ、
21…CPU(制御手段、目標操舵トルク設定手段、異常検出手段、アシスト電流演算手段、推定手段)、
23…RAM(記憶手段)、I…アシスト電流指令値、
Im…モータ電流値としてのモータ電流、θ…操舵角、V…車速、
Th…操舵トルク、Th*…目標操舵トルク、μ…路面摩擦係数。
Claims (3)
- アシスト電流指令値に基づいてモータを駆動制御する制御手段を備えた電動パワーステアリング装置の制御装置において、
モータ電流値に基づいて、あるいはモータ電流値と操舵トルクに基づいて路面の反力を推定する推定手段と、
入力した操舵角、車速、及び前記推定手段により推定した路面の反力に基づいて目標操舵トルクを設定する目標操舵トルク設定手段と、
操舵トルク、前記目標操舵トルク、及び前記モータのモータ電流値に基づいてアシスト電流指令値を演算するアシスト電流演算手段と、
を備え、
前記推定手段は、右操舵と左操舵に応じて、路面摩擦係数をそれぞれ推定し、その路面摩擦係数を介して路面の反力を推定するものであることを特徴とする電動パワーステアリング装置の制御装置。 - 前記推定手段は、路面摩擦係数を推定するに当たり、過去に推定した路面摩擦係数を加味したなまし処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
- 前記推定手段が推定した路面摩擦係数が異常値か否かを検出する異常検出手段と、
前記異常検出手段が異常検出する以前の正常な路面摩擦係数を記憶する記憶手段を備え、
前記異常検出手段が、前記推定手段の推定した路面摩擦係数を異常値であると検出したとき、前記推定手段は、前記記憶手段に記憶した正常な路面摩擦係数を推定した値と置き換えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置。
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