JP3812944B2 - 中空状ナノファイバーの製造法、中空状ナノファイバー、中空状ナノファイバー含有組成物、触媒組成物、および電子放出材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は中空状ナノファイバーの製造法に関し、さらに詳しくは、太さが細く、かつグラファイト層の欠陥が少ない、特にカーボンナノチューブと定義される領域の中空状ナノファイバーの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カーボンナノチューブは、グラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、2層以上に巻いたものを多層カーボンナノチューブという。多層カーボンナノチューブの中で、特に2層のものを2層カーボンナノチューブという。これらのカーボンナノチューブは、高い機械的強度、高い導電性を有することから、燃料電池やリチウム2次電池用負極材として、複合材料として用いた場合には、樹脂や有機半導体との複合材料として、具体的には、高強度材料、導電性を付与した樹脂、電磁波シールド材として、期待されている。またナノサイズの空間を有することから吸着材料、医薬用ナノカプセル、MRI造影剤として、また先端が非常に細いためフィールドエミッションの電子源として大きく期待されている。また、1本1本のナノチューブを用いる、ナノピンセット、走査型トンネル顕微鏡用プローブとして期待されている。いずれの用途の場合にも、ナノチューブは太さの細いものの方が有利であり、グラファイト層の欠陥が少ない方が特性的に優れている。
【0003】
従来、このようなカーボンナノチューブの製造方法としては、アーク放電法及び化学蒸着法(化学気相成長法と呼ばれることもあり、以下、CVD法という)による方法が知られている。
【0004】
前者のアーク放電法は、真空中又は不活性気体雰囲気中で炭素棒を電極として、高電圧・高電流のアーク放電を行うことにより、カーボンナノチューブを製造するようにしたものであって、カーボンナノチューブは陰極堆積物中にグラファイト、カーボンナノパーティクルなどと一緒に得られる。後者のCVDによる方法は、鉄、ニッケルなどの金属微粒子の存在下で原料ガスを数百℃で反応させることにより、カーボンナノチューブを製造するようにしたものである。このときの原料ガスとしては、ベンゼン、トルエン、オルトメチルジアリルケトン、アセチレン、エチレン、メタン等が用いられる。
【0005】
アーク放電法により作られたカーボンナノチューブは、グラファイト層の欠陥の少ないナノチューブが得られるが、アモルファスカーボンなどの不純物が多いという欠点がある。また、CVD法で作られたカーボンナノチューブは、不純物が少なく、しかも安価にカーボンナノチューブを製造することができる利点があるが、生成したカーボンナノチューブはグラファイト層に欠陥が多いため、後処理として2000℃程度の熱処理をしないと、欠陥の少ないグラファイト層が形成されないという欠点がある。
【0006】
このような問題を解決する方法として、篠原らは、粉末状のY型ゼオライトにコバルトとバナジウムを担持させた触媒を用いることにより、欠陥の少ない約10層の多層カーボンナノチューブを製造可能にすることを報告している(非特許文献1)。
【0007】
このようにゼオライトに金属を担持させた触媒を用いる製造方法によると、グラファイト層の欠陥の少ない約10層の多層カーボンナノチューブを安価に作ることができる。しかし、太さの細い単層カーボンナノチューブを得るためには、800〜900℃の高温で反応させる必要があるが、従来使われていたゼオライトでは800〜900℃で構造変化を起こすため、800℃を越える温度でカーボンナノチューブを生成させる反応を行うと、反応中に触媒担体のゼオライトが構造変化し、その際に担持されている金属の凝集が起こり、細くて良質の単層カーボンナノチューブが安定に得られにくくなるという問題があった。また、この方法では2〜5層の多層カーボンナノチューブは得られたことはなかった。
【0008】
また、単層カーボンナノチューブは、細いため非常に有用であるが、層が一層だけであるため耐久性に問題があった。しかし、多層カーボンナノチューブであっても、層が多すぎると太くなり、性能面で単層カーボンナノチューブに劣るという欠点があった。
【0009】
【非特許文献1】
ケミカル・フィジクス・レター(Chemical Physics Letters 303(1999) 117-124)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ゼオライトを金属触媒の担体として用いる製造方法において、高温で生成反応を行っても太さが細く、かつグラファイト層の欠陥が少ないカーボンナノチューブを得られるようにする中空状ナノファイバーの製造法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、細さと耐久性とを両立させた2〜5層の多層カーボンナノチューブが得られるようにする中空状ナノファイバーの製造法を提供することにある。
【0012】
本発明の更に他の目的は、上記製法により得られるカーボンナノチューブ(中空状ナノファイバー)、そのカーボンナノチューブからなる電子放出材料、さらに上記製法に有用な触媒組成物を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するの本発明は以下の構成を有する。
【0014】
(1)構造骨格内にアルミニウム、ケイ素以外のヘテロ元素を含むメタロシリケートゼオライトに金属を担持させた触媒と炭素含有化合物とを温度500〜1200℃で接触させ、炭素を主成分とする中空状ナノファイバーを生成することを特徴とする中空状ナノファイバーの製造法。
【0015】
(2)前記メタロシリケートゼオライトが、チタノシリケートゼオライト、ボロシリケート、コバルトシリケート、又は鉄シリケートである前記(1)に記載の中空状ナノファイバーの製造法。
【0016】
(3)前記炭素含有化合物の濃度が0.1 vol %以上、2 vol %以下であり、かつ、前記触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリヤガス込み)が1.0×10 -5 (g−触媒・分/ml)以上、8.0×10 -3 (g−触媒・分/ml)以下であることを特徴とする前記(1)又は(2”に記載の中空状ナノファイバーの製造法。
【0017】
(4)窒素雰囲気中で5℃/分で昇温して900℃まで熱分析を行ったとき、温度600〜900℃の範囲に発熱ピークを持たない特性として定義される900℃の耐熱性を有するゼオライトに金属を担持させた触媒と炭素含有化合物を温度500〜1200℃で接触させ、炭素を主成分とする中空状ナノファイバーを生成する中空状ナノファイバーの製造法であって、前記炭素含有化合物の濃度が0.1 vol %以上、2 vol %以下であり、かつ、前記触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリヤガス込み)が1.0×10 -5 (g−触媒・分/ml)以上、8.0×10 -3 (g−触媒・分/ml)以下であることを特徴とする中空状ナノファイバーの製造法。
【0018】
(5)触媒と炭素含有化合物との接触が反応装置を用いて行われ、該反応装置が縦型の固定床型反応装置であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の中空状ナノファイバーの製造法。
【0019】
(6)構造骨格内にアルミニウム、ケイ素以外のヘテロ元素を含むメタロシリケートゼオライトに金属を担持した構成からなる炭素を主成分とする中空状ナノファイバー製造用触媒組成物。
【0047】
本発明の製造方法を用いると、炭素を主成分とする中空状ナノファイバーを生成させると、グラファイト層の欠陥が少なく、アモルファスカーボンの生成が少なく、かつ太さの細い良質なカーボンナノチューブを得ることができる。
【0048】
これらの方法によれば、グラファイト層の欠陥が少ないカーボンナノチューブを直接生成するため、後処理でグラファイト化するための熱処理(温度2000℃以上)を不要にすることが可能になる。また、太さを外径50nm以下、内径0.3nm以上15nm以下の細いカーボンナノチューブと定義される領域の良質の中空状ナノファイバーを製造することができる。
【0049】
【発明の実施の形態】
本発明においてゼオライトとは、分子サイズの細孔径を有する結晶性無機酸化物からなるものである。ここに分子サイズとは、世の中に存在する分子のサイズの範囲であり、一般的には、0.2nmから2nm程度の範囲を意味する。さらに具体的には、結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、あるいは結晶性メタロアルミノフォスフェート等で構成された結晶性マイクロポーラス物質のことである。
【0050】
結晶性シリケート、結晶性アルミノシリケート、結晶性メタロシリケート、結晶性メタロアルミノシリケート、結晶性アルミノフォスフェート、結晶性メタロアルミノフォスフェートとしては、特に種類は制限されないが、例えば、アトラス オブ ゼオライト ストラクチュア タイプス(マイヤー、オルソン、バエロチャー、ゼオライツ、17(1/2)、1996)(Atlas of Zeolite Structure types(W. M. Meier, D. H. Olson, Ch. Baerlocher, Zeolites, 17(1/2),1996))に掲載されている構造をもつ結晶性無機多孔性物質が挙げられる。また、本発明におけるゼオライトは、本文献に掲載されているものに限定されるものではなく、近年次々と合成されている新規な構造を有するゼオライトも含む。好ましい構造は、入手が容易なFAU型、MFI型、MOR型、BEA型、LTL型、LTA型であるが、これに限定されない。
【0051】
本発明で使用するゼオライトが900℃の耐熱性を有するとは、窒素または乾燥空気の雰囲気中で900℃で30分間焼成した時、その焼成前後において室温で粉末X線回折(XRD)を行った時、そのゼオライトのピーク位置、ピーク高さ比が共に同様のピークを有していることを意味する。好ましくは、900℃で加熱後、粉末X線回折を行った時、焼成前のゼオライトと同様のピークを有するだけでなく、実質的構造変化がないものがよい。
【0052】
したがって、焼成前後で同じピーク位置に結晶のピークがあっても、ピークが幅広くなっていたり、鋭くなっていたり、又は各ピークの強度比が著しく異なるものは、実質的構造変化があるとする。特に限定しないが、例えば任意の2本のピークを取り出して、そのピーク強度比が3%以上違う場合は、構造変化したと見なすことができる。また、ピークの半値幅が、5%以上変化したものは構造変化したと見なすことができる。ピーク強度比は、測定サンプルの調製により、変化する場合があるので注意を要する。
【0053】
実質的構造変化の有無は、窒素雰囲気中で5℃/分で昇温して900℃まで示差熱分析(DTA)を行ったとき、600〜900℃までに発熱ピークが現れるかどうかでも判断することができる。すなわち、600〜900℃の範囲に発熱ピークがないものは900℃まで実質上構造変化はないと判断できる。
【0054】
600℃以降にDTA曲線が一度上に上がってから下に下がり、そのピークが900℃以前にある場合は、発熱ピークが現れるという。ピークかどうか判断が付かない場合は、曲線の登りはじめと、下がりきったところを結んでベースラインとし、そのベースラインからの垂線と曲線が交わったところで一番長いところを選び、その長さがノイズの高さの5倍以上の長さがある場合をピークという。また、その交点のところの温度を読みとり、発熱曲線のピークとする(図11参照)。逆に、X線回析に多少の差異があっても、DTAで600〜900℃の範囲で発熱ピークのないものは耐熱性があると見なすが、特に900℃焼成前後でX線回析図が同等で、かつ熱分析のDTAで600〜900℃に発熱ピークがないゼオライトが好ましい。
【0055】
たとえ、900℃焼成前後でX線回折(XRD)のピークに実質的に差異が無くても、実質的に有機物が存在しないのに熱分析(DTA)で発熱ピークがある場合には、構造がエネルギー状態が高い状態から低い状態へ移行したことを示している。すなわち、このようなゼオライトを使うと、中空状カーボンナノファイバーを作る過程において触媒自体が構造変化を起こしているわけであるから、安定的に中空状カーボンナノファイバーを得ることはできない。
【0056】
本発明において耐熱性が高いゼオライトとは、具体的には、実質的に4価の金属(Si,Ti,Ge,Zr等)と酸素で骨格が構成されているゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)>200)と、3価以下の金属を骨格中に含むゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)<200)であって、前述のごとき900℃での耐熱性を有するものである。ここで4価の金属の主成分はSiである。3価以下の金属を骨格中に含むゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)<200)においては、一般にSi原子以外の原子(ヘテロ原子)が少ない方が耐熱性が高い。ゼオライト骨格中のSi/ヘテロ原子の原子比が10以上のものが耐熱性が高く好ましく、さらに好ましくは15以上であるものがよい。ゼオライト骨格中のSi/ヘテロ原子の原子比は、29Si MAS NMRで測定することができる。
【0057】
シリカ成分が多くても、構造に欠陥の多いものは耐熱性が低い。900℃の耐熱性のあるゼオライトの具体例としては、骨格組成が実質的にシリカのみであるシリカライト−1、シリカライト−2等の結晶性シリケート、TS−1等の結晶性チタノシリケートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
実質的に4価の金属(Si,Ti,Ge,Zr等)と酸素で骨格が構成されているゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)>200)が、本発明で使用される最も好ましい例である理由を以下に説明する。
【0059】
ゼオライトは、その骨格が4面体の中心にSi又はAlやチタン等のヘテロ原子(Si以外の原子)、4面体の頂点に酸素を有するシリケート構造を有している。従って、4価の金属がその4面体構造の中心に入るのが最も安定であり、耐熱性が期待できる。したがって、理論的にはAl等の3価の成分を実質的に含まないか、或いは少ないゼオライトが耐熱性が高い。これらの製造法としては、従来公知の水熱合成法などで直接合成するか、後処理で3価の金属を骨格から抜くようにする。
【0060】
実質的にアルミニウムなどの3価の成分を含まないゼオライトの後処理による製造法としては、予めアルミニウムなどを含んだ結晶性アルミノシリケートを製造し、キールの方法(ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー、71巻、4155頁、(1967年))又はスキールらの方法(第6回国際ゼオライト学会予稿集、87ページ(1984年))で、脱アルミニウムしてハイシリカゼオライトにして、耐熱性を向上させる方法もある。しかし、通常は、このままでは、焼成中にゼオライトは構造変化を起こす。それは、アルミニウムが抜けたところが構造欠陥となるためである。この構造欠陥が焼成中に構造変化を起こす原因となる。
【0061】
このようなゼオライトは、予め乾燥ガス中で、更に好ましくは反応温度以上で焼成することにより、熱に対して安定なゼオライトにすることができる。一般に良く知られるハイシリカY型ゼオライトは、USY(例えば、東ソー製HSZ−390HUA)と呼ばれる耐熱性ゼオライトであるが、市販のものは通常窒素雰囲気中で熱分析すれば、600〜900℃に発熱ピークを有するものである。しかし、一旦、反応温度以上で焼成すれば、反応中に安定的に使用できるようになる。
【0062】
その理由は、通常の耐熱性Y型ゼオライトは、アルミニウムが抜けた後がSi−OHとなっており、乾燥ガス中で加熱すると縮合を起こしてSi−O−Siとなる。市販の耐熱性ゼオライトといわれるものは、余り高い温度で焼成されておらず、900℃では、縮合を起こすようなSi−OHを多く有しており、予め900℃で焼成すると、このようなSi−OHが安定なSi−O−Siに変化するからである。例えば、反応温度が900℃であれば、900℃で30分焼成した後、触媒用金属の担体として使用することができる。焼成温度は制限はないが、900℃以上で焼成することが好ましい。焼成時間は長ければ長い程良い。
【0063】
3価以下の金属を骨格中に含むゼオライト(4価の金属/3価以下の金属(原子比)<200)であって、前述のごとき900℃での耐熱性を有するものにおいて、ゼオライト骨格中のSi/3価のヘテロ原子の原子比は高いほうが耐熱性が高いが、カーボンナノチューブの収率は、ヘテロ原子の量が多いほど高い。3価の金属の場合、耐熱性とカーボンナノチューブの収率のバランスから、Si/ヘテロ原子の原子比は10〜150、好ましくは 15〜80であるのがよい。Tiのような4価の金属の場合は、ヘテロ原子は多ければ多いほど好ましい。
【0064】
本発明において、金属触媒の支持体に使用するゼオライトには、構造骨格内にアルミニウム、シリコン以外のヘテロ元素を含むメタロシリケートゼオライトを使用することができる。前述したゼオライトでは、特に耐熱性のみに注目していたが、本発明者らが鋭意検討した結果によれば、触媒となる金属と支持体との親和性が高品質のカーボンナノチューブを作る上で、またカーボンナノチューブの層数や太さを制御する上で重要な因子になっていることを知見した。
【0065】
ここでいうメタロシリケートゼオライトは、メタロアルミノシリケートゼオライトも含む。ヘテロ原子に特に制限は無いが、例としては、鉄、コバルト、バナジウム、ガリウム、チタン、クロム、ホウ素、マンガン、亜鉛などが挙げられる。ヘテロ原子は2種類以上含んでいてもよい。中でも、チタンを含むチタノシリケートゼオライト、ホウ素を含むボロシリケートゼオライト、コバルトを含むコバルトシリケートゼオライト、および鉄を含む鉄シリケートゼオライトを使用すると、他のCVD法では得られないような結晶性のよい多層カーボンナノチューブが得られる。メタロシリケートゼオライトを金属触媒の担体として使用することにより、このような高品質のカーボンナノチューブが得られることは従来知られていなかったことである。
【0066】
メタロシリケートゼオライトは、種類や耐熱性は特に限定されないが、耐熱性が高いほうが好ましい。反応温度以上の温度に対して耐熱性を有することが好ましく、特に900℃以上の耐熱性を有するものが好ましい。900℃での耐熱性の定義は前述したとおりである。メタロシリケートの効果は、メタロシリケート上に担持された金属とメタル近傍の電子的な相互作用に起因するものと考えられる。
【0067】
したがって、Si/ヘテロ原子の原子比は、低いほうが電子的効果の点では好ましいが、ヘテロ原子が4価でない場合は耐熱性の点では高いほうがよい。したがって、Si/ヘテロ原子の原子比は10以上が好ましく、より好ましくは10〜200、さらに好ましくは15〜100であるものがよい。ヘテロ原子は骨格にあることが好ましいが、焼成中などに骨格外へ抜け出ていても構わない。たとえ抜け出ていても、金属との相互作用の点では十分に効果を奏するものと考えられる。
【0068】
上記のようなゼオライトの結晶の大きさは特に制限はない。一般には数10nmから数10μmである。結晶が小さい方が外表面積が大きいので、カーボンナノチューブの収量を多くすることができて好ましい。しかし、余り小さくても凝集がはげしく、実質的な外表面積が減少するので、大きさとしては0.1〜10μmの結晶であることが好ましい。
【0069】
チタノシリケートゼオライトの場合、条件を選べば、新規な2層カーボンナノチューブの束(バンドル、ロープ)や一部が3層以上になった2層カーボンナノチューブを得ることができる。このように得た2層カーボンナノチューブのバンドルは、2層カーボンナノチューブ同士の間隙を利用した吸着剤などとして利用することができる。また、一部が3層以上になった2層カーボンナノチューブは、3層以上の部分を修飾して、樹脂との親和性を向上できるなどの利点があるため、複合材料用途などに利用することができる。ゼオライトと金属を含む触媒で2層カーボンナノチューブが選択的に合成されることは、今まで知られていなかったことである。
【0070】
ゼオライトは微細孔を使い金属を微粒子分散できること、ゼオライト骨格のヘテロ原子が均一に孤立分散していることにより金属に対する電子的効果も均一に制御できることから、今までに得られにくかった2層カーボンナノチューブを選択的に合成できたと推定できる。ここでいう金属とは、下述する金属と同じ解釈でよい。
【0071】
本発明において触媒は、上述した耐熱性ゼオライトまたはメタロシリケートゼオライトに金属が担持された触媒組成物の形態で使用される。金属の種類は、特に限定されないが、3〜12族の金属、特に好ましくは、5〜11族が好ましく用いられる。中でも、V,Mo,Fe,Co,Ni,Pd,Pt,Rh等が特に好ましく用いられる。ここで金属とは、0価の状態とは限らない。反応中では0価の金属状態になっていると推定できるが、反応中の状態を調べる手段がないので、広く金属を含む化合物又は金属種という意味で解釈してよい。
【0072】
金属は1種類だけを担持させても、2種類以上を担持させてもよいが、好ましくは、2種類以上を担持させるようにした方がよい。2種類の金属を担持させる場合は、Co,Ni,Pd,Pt,Rhと他の金属の組み合わせが特に好ましい。CoとFe,Ni,V,Mo,Pdの1種以上とを組み合わせる場合が最も好ましい。
【0073】
ゼオライトに対する金属の担持方法は、特に限定されない。例えば、担持したい金属の塩を溶解させた非水溶液中(例えばエタノール溶液)又は水溶液中に、ゼオライトを含浸し、充分に分散混合した後、乾燥させ、窒素、水素、不活性ガスまたはその混合ガス又は真空中で高温(300〜600℃)で加熱することにより、ゼオライトに金属を担持させることができる(含浸法)。
【0074】
ゼオライトのような多孔性物質に金属を担持させるには、金属塩の水溶液量をなるべく少なくし、ゼオライトの細孔内に水溶液を吸着させ、余分な水溶液はろ過などで除去して乾燥させる平衡吸着法が最も好ましい。その理由は、ゼオライトの細孔径は均一であり、平衡吸着法で金属を担持させると比較的担持された金属の径が均一になり、生成した中空状ナノファイバーの径が均一になるためである。また、金属はゼオライト細孔入り口付近に存在し、高温下でも凝集しにくくなるので、特に耐熱性ゼオライトを用いた場合には、平衡吸着法は有効な金属の担持法である。
【0075】
または、金属塩の水溶液にゼオライトを含浸し、含浸法又は平衡吸着法で金属塩を担持させ、乾燥させ、窒素、水素、不活性ガスまたはその混合ガスまたは真空中で高温(300〜600℃)で加熱することにより、耐熱性ゼオライトの結晶表面に金属を担持させることもできる。勿論、金属塩を担持した後、空気中で焼成して金属酸化物にした後、水素を使用して還元することにより、ゼオライトに金属を担持させることもできる。
【0076】
または、コバルトシリケート、鉄シリケートなどのメタロシリケートを合成し、これを高温で焼成し、骨格中のコバルト、鉄をゼオライト表面に析出させ、微粒子化する方法を用いることもできる。本方法を用いることで、数十nm以上の大きさを持つ金属粒子の生成を抑制できるため、6層以上の多層カーボンナノチューブや、外径が50nm以上のナノファイバーの生成を抑制することができる。本方法として、コバルトシリケート、鉄シリケートなど、1種類のヘテロ原子を骨格内に有するゼオライトだけでなく、鉄、コバルト、チタンなど、2種類以上のヘテロ原子を骨格内に有するゼオライトも好んで用いられる。
【0077】
金属担持量は、多いほどカーボンナノチューブの収量が上がるが、多すぎると金属の粒子径が大きくなり、生成するカーボンナノチューブが太くなる。金属担持量が少ないと、担持される金属の粒子径が小さくなり、細いカーボンナノチューブが得られるが、収率が低くなる傾向がある。最適な金属担持量は、ゼオライトの細孔容量や外表面積、担持方法によって異なる。2種類以上の金属を使用する場合、その比率は限定されない。
【0078】
本発明において、900℃の耐熱性を有するゼオライト又はメタロシリケートゼオライト等のゼオライトに金属を担持させた触媒に接触させる炭素含有化合物は、特に限定されないが、好ましくは炭化水素又は一酸化炭素を使うとよい。
【0079】
炭化水素は芳香族であっても、非芳香族であってもよい。芳香族の炭化水素では、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン又はこれらの混合物などを使用することができる。また、非芳香族の炭化水素では、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチレン、プロピレンもしくはアセチレン、又はこれらの混合物等を使用することができる。炭化水素には、また酸素を含むもの、例えばメタノール若しくはエタノール、プロパノール、ブタノールのごときアルコール類、アセトンのごときケトン類、及びホルムアルデヒドもしくはアセトアルデヒドのごときアルデヒド類、トリオキサン、ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテルのごときカルボン酸類、酢酸エチルなどのエステル類又はこれらの混合物であってもよい。これらの中でも、特に非芳香族の炭化水素は、質の良い中空状ナノファイバーを得ることができるため、最も好ましい炭素源である。
【0080】
触媒と炭素含有化合物とを接触させる温度は、500〜1200℃であり、好ましくは600℃〜1000℃の範囲がよい。温度が500℃よりも低いと、ナノファイバーの収率が悪くなり、また温度が1200℃よりも高いと、使用する反応器の材質に制約があると共に、ナノファイバー同士の接合が始まり、ナノファイバーの形状のコントロールが困難になる。単層カーボンナノチューブや2層から5層カーボンナノチューブ等の細いカーボンナノチューブは、比較的高い温度で得られる。炭素源によるが、800℃以上で接触させることが好ましい。
【0081】
触媒と炭素含有化合物との接触のさせ方は、特に限定されない。例えば、管状炉に設置された石英製、アルミナ製等の耐熱性の反応管内に、上述した触媒を置き、加熱下に炭素含有化合物ガスを流すことにより達成することができる。触媒と炭素含有化合物の接触方法は、上記のような方法のほかに、触媒を噴霧する方法、触媒を攪拌しながら接触させる方法であってもよい。接触させている時間(反応時間)は、目的とするカーボンナノチューブや炭化水素のガス流量、炭化水素の濃度によって最適値は変わるが、数分から数時間が一般的である。反応時間は短いほうが細いカーボンナノチューブが得られるが、収量は少なくなる。また、反応時間が長くなると収量は増加するが、カーボンナノチューブは太くなる傾向がある。
【0082】
また、本発明は、反応装置が固定床型反応装置であることを特徴とする中空状ナノファイバーの製造法に関するものである。一般的に、ガス状の反応物と固体触媒の反応器は、固定床型、流動床型、異動床型の3つに大別される。特に、固定床型反応装置では、以下の長所がある。
1)反応収率が高い。
2)反応ガスと触媒の接触時間を広範囲に変化させることができ、制御が容易である。
【0083】
固定床型反応装置での触媒層の形成方式には、触媒を反応管内に詰め触媒層を形成する方式、ラジアルフロー式、平交流式、モノリス式、管壁式等があり、反応機構に応じて使い分けられる。その方式は特に限定されないが、触媒を反応管内に詰め触媒層を形成する方式が好んで用いられる。
最も好ましくは、縦型の反応器に触媒を一定の厚さで充填する方法である。
【0084】
炭素含有化合物以外に希釈ガスも好ましく用いられる。希釈ガスとしては、特に限定されないが、酸素ガス以外のものが好ましく使用される。酸素は爆発の可能性があるので通常使用しないが、爆発範囲外であればかまわない。窒素、アルゴン、水素、ヘリウム等が好ましく使用される。これらのガスは、炭素含有化合物ガスの濃度のコントロールやキャリヤガスとして効果がある。水素は、特に触媒金属の活性化に効果があるので好ましい。Arの如き分子量が大きいガスはアニーリング効果が大きく、アニーリングを目的とする場合には好ましい。キャリアガス中の炭素含有化合物の蒸気の濃度が高くなると、収量は向上するが太いカーボンナノチューブができる傾向がある。炭化水素濃度は、2vol%以下が好んで用いられる。また、蒸気の濃度が低くなると、細いカーボンナノチューブができるが、収量が低くなる傾向がある。0.1vol%以上が好んで用いられる。より好ましい炭化水素濃度は、0.2vol%以上1.5vol%以下である。最も好ましい炭化水素濃度は、0.5vol%以上1vol%以下である。
【0085】
キャリアーガスの使用、不使用にかかわらず、減圧条件下での中空状ナノファイバーの合成も好んで行われる。減圧下での合成のメリットは、キャリアーガスによる炭化水素原料のアニーリングが抑えられること、生成した中空状ナノファイバー表面への不純物の付着が低減されることが上げられる。減圧下で中空状ナノファイバーを合成する場合の炭化水素分圧は、15.2Torr(2.03×10 3 Pa)以下0.76Torr(1.01×10 2 Pa)以上が好んで用いられる。より好ましい炭化水素分圧は、1.52Torr(2.03×10 2 Pa)以上11.4Torr(1.52×10 3 Pa)以下である。最も好ましい炭化水素分圧は、3.8Torr(5.07×10 2 Pa)以上7.6Torr(1.01×10 3 Pa)以下である。
【0086】
反応ガスと触媒の接触時間に関し、接触時間が長すぎると、目的量の中空状ナノファイバーを得るのに長時間を要し、また副反応が多くなり炭素付着物が多くなったり、太いファイバーになる傾向が高い。このような観点から固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)が8.0×10-3(g−触媒・分/ml)以下、より好ましくは1.0×10-3(g−触媒・分/ml)以下である。一方、接触時間が短すぎると、炭化水素原料が有効に利用されずに排気される。そこで、固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)が1.0×10-5(g−触媒・分/ml)以上が好んで用いられる。
【0087】
生成された炭素を主成分とする中空状ナノファイバーは、中空状であれば特に制限はない。ナノファイバーが中空状であることは、透過型電子顕微鏡で確認することができる。本発明から得られる中空状ナノファイバーは、外径が50nm以下、内径が0.3nm以上15nm以下の極細の中空状ナノファイバーにすることができる。特に、中空状ナノファイバーの壁を欠陥の少ないグラファイト層で形成することができる。このように欠陥の少ないグラファイト層からなることは、高分解能透過型電子顕微鏡によって確認することができる。
【0088】
上記のような極細の中空状ナノファイバーは、一般的にカーボンナノチューブと定義される。多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブは、ともに炭素を主成分とする中空状ナノファイバーに含まれる。
【0089】
中空状ナノファイバーに含まれる繊維状物質の外直径は透過型電子顕微鏡で観察することができる。本発明にある中空状ナノファイバーの外直径分布曲線は、直径0.4〜10nmの範囲に1つ以上のピークを持つことを特徴としている。また、直径分布を以下の4範囲に分けたときに、ピークを2つ以上持ち、かつ、それぞれのピークが異なった2つの範囲にあるものも製造できる。
1) 直径0.4〜1nmの範囲
2) 直径1〜3nmの範囲
3) 直径3〜5nmの範囲
4) 直径5〜10nmの範囲
【0090】
このように、中空状ナノファイバーの直径分布が2つのピークを持つ理由は、中空状ナノファイバーを生成する触媒の形態に分布があるためと推測される。また、直径の異なる中空状ナノファイバーが混在することで、それぞれのナノファイバーの特性を生かした効果が期待される。例えば、コンポジット用途の場合、大きい直径を持つ中空状ナノファイバーが強度を付与し、小さい直径を持つ中空状ナノファイバーが、樹脂と大きい直径を持つ中空状ナノファイバー間を網目状に橋渡しする、等の効果が考えられる。
【0091】
また、本発明は、上記中空状ナノファイバーであって、上記1)〜4)のいずれかの範囲にピークを1つ以上持ち、さらに、直径10〜50nmの範囲にピークを1つ以上持つ中空状ナノファイバーも含む。この場合は、特に大きい触媒粒子を混在させることで、上記組成の中空状ナノファイバーを製造できる。ここで、上記1)〜4)のいずれかの範囲にあるピーク強度を(1)とし、直径10〜50nmの範囲にあるピーク強度を(2)とすると、それらの強度比が(1)/(2)=1以上となる。これは、細い中空状ナノファイバーの方が本数が多く製造されることを意味している。これにより、高いナノ添加効果が付与されることが推測される。
【0092】
前記直径10〜50nmの中空状ナノファイバーは、中空内径が外直径の30%以下であるものもできる。このような中空状ナノファイバーは、強度が極めて高いと推測される。
【0093】
また、本発明は、上記中空状ナノファイバーであって、長さ500nm以内に節状の構造を1つ以上持つものも含む。このような中空状ナノファイバーは、ファイバー表面に凹凸が沢山あることから、樹脂などに添加した場合に、高い親和性付与効果を発現する。 また、本発明は、上記中空状ナノファイバーであって、外直径の分布曲線のピーク付近の外直径を有する繊維状物質の中空部分に混入物がないものも含む。中空部分に混入する物質として、アモルファスカーボンや触媒金属が、従来から知られている。しかし、本発明にある製造法を用いることでこれら混合物を中空部分に混入しない中空状ナノファイバーを製造することができる。中空部分に混入物がないことで、中空状ナノファイバーの比重を高めることがなく、高いナノ添加効果を維持できる。また、中空部分に混入物がないことで、中空状ナノファイバーの電気特性への影響がなく、好ましい。
【0094】
また、本発明は、上記中空状ナノファイバーであって、外直径の分布曲線のピーク付近の外直径を有する繊維状物質の外表面に粒子状の付着物がないものも含む。配表面に付着するものとして、アモルファスカーボンや触媒金属が、従来から知られている。しかし、本発明にある製造法を用いることでこれら付着物を外表面に付着しない中空状ナノファイバーを製造することができる。外表面に付着物がないことで、中空状ナノファイバーの比重を高めることがなく、高いナノ添加効果を維持できる。また、中空部分に混入物がないことで、中空状ナノファイバーの電気特性への影響がなく、好ましい。
【0095】
また、本発明は、カーボンナノチューブの主成分が2層から5層カーボンナノチューブであることを特徴とする中空状ナノファイバーの製造方法に関するものである。本発明において、特にTS−1のような結晶性チタノシリケートゼオライトを触媒金属の支持体(担体)として、800℃以上で中空状ナノファイバーを製造すると、2層から5層のカーボンナノチューブ、特に2層カーボンナノチューブのバンドルや一部が3層以上になった2層カーボンナノチューブを得ることができる。このような2層から5層のカーボンナノチューブ、特に2層カーボンナノチューブのバンドルは、2層カーボンナノチューブ同士の間隙を利用した吸着剤などとして利用することができる。
【0096】
また、一部が3層以上になった2層カーボンナノチューブは、3層以上の部分を修飾して樹脂との親和性を向上できるため、複合材料用途などに好ましく利用することができる。また、2層から5層のカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブより耐久性に優れ、しかも一般に得られる多層カーボンナノチューブより細い。
【0097】
また、本発明にあるカーボンナノチューブは最大内径と最小内径の差が小さく、グラファイト化度が高く、炭素六員環配列の乱れが少ないため、有効な電子放出材料となりうる。本発明にあるカーボンナノチューブを含む電子放出材料をフィールドエミッションの電子源に用いた場合、直径が細いため、電荷の集中が起こりやすく、印加電圧を低く抑えることができる。また、単層カーボンナノチューブに比べ耐久性も高く、フィールドエミッションディスプレイの寿命を高めることができる。耐久性の点では層数が多い方が好ましく、2層から5層カーボンナノチューブが好んで用いられる。また、3層から5層カーボンナノチューブは、耐久性と印加電圧の低さから最も好んで用いられる。
【0098】
本発明において、2層から5層、特に2層カーボンナノチューブのバンドルとは、2層カーボンナノチューブが2本以上束になっているものをいう。本発明の製造法で得られた2層カーボンナノチューブのバンドルや、一部が3層以上になった2層カーボンナノチューブは、触媒金属が付着していないのが最大の特徴である。金属の含有量は1体積%未満である。金属が付着しない理由は、本発明においては触媒金属種がゼオライト表面に固定化されており,そこからカーボンナノチューブが成長していくのでカーボンナノチューブ中には、実質的に触媒金属種が含まれない。更には、太さが均一な良質のナノチューブにすることができる。本発明の製法によれば、2層だけでなく、3層〜5層の細い多層カーボンナノチューブも得やすくすることが出来る。
【0099】
ここで、太さが均一であるとは、高分解能透過電子顕微鏡で観察したとき、長さ30nmの範囲で内径の最大のところと最小のところとの差が1nm未満であることを意味し、またこのことはグラファイト層に欠陥が少ないことを示している。グラファイト層に欠陥が少ないということは、強度や導電性が優れているということである。また、触媒金属が付着していると、それを取り除く必要があるが、その除去のために酸で処理すると、ナノチューブの表面が酸化されることにより欠陥が生ずるので好ましくない。
【0100】
本発明の製法では、触媒調製法のコントロールによりカーボンナノチューブのコントロールが可能である。本発明から得られる一つの2層カーボンナノチューブは、平均の内径が約2nmより大きいのが特徴である。一般に内径が大きい2層カーボンナノチューブは比較的ゆがみが多く、太さが均一にならない場合が多いが、本発明の製造方法で生成された2層〜5層カーボンナノチューブは、上述したように太さが均一であり、しかも触媒金属粒子を多く含まないという特徴を有している。
【0101】
本発明の製造方法では、2層〜5層カーボンナノチューブとしては比較的内径が太い、5〜12nmの内径の2層〜5層カーボンナノチューブを選択的に得ることが出来る。特に内径7nm以上の2〜5層のカーボンナノチューブが得られる。このようなカーボンナノチューブは今まで得られなかった。カーボンナノチューブの中空部分には、金属を始めとした様々な物質を取り込めることが知られているが、内径が太い2層〜5層カーボンナノチューブでは、その内容積の大きさから、将来的に取り込める物質の種類が増えるだけでなく、分子ふるい効果を付与できる可能性がある。また、比重が小さいので、超軽量材料のフィラーとして使用することができる。
【0102】
さらに、反応条件、触媒前処理条件を選べば、今まで得られたことがない、内径が1nm以下の2層〜5層カーボンナノチューブが得られる。これは1nm以下のゼオライト特有の微細孔に金属触媒が入れ子状に担持されているためであり、ゼオライトを担体に使うことにより始めて得られるものである。ゼオライトの細孔入口径に近い0.4〜1.0nm、特に0.6〜0.9nmの内径を有する2〜5層のカーボンナノチューブが得られる。単層カーボンナノチューブ中にフラーレンを導入した後、加熱して得られるナノチューブは2層であるが、短い2層部分しか得られず(約10nm:Chemical Physics Letters, 337(2001) 48-54 )、このような短いカーボンナノチューブは、本発明では、2層カーボンナノチューブとはいわない。
【0103】
本発明の2層カーボンナノチューブは、内径が1nm以下であり、長さは15nm以上である。長さは好ましくは20nm以上であり、特に好ましくは30nm以上である。本発明の方法では、更に今までに見られたことのない内径が1nm以下の細い2層カーボンナノチューブのバンドルができる。このように細い2〜5層のカーボンナノチューブは、電子放出材料として有用である。
【0104】
上述のようなカーボンナノチューブの内径や長さなどは、高分解能透過型電子顕微鏡により見積もることが出来る。本発明の2層カーボンナノチューブの層間距離は、特に限定しないが、例えば10層以上の多層カーボンナノチューブの層間距離を0.34nmと仮定して補正すると、0.38±0.20nmである。
【0105】
また、本発明で得られる中空状ナノファイバーは、金属含有量が0.5wt%以下であり、かつ、主成分が2層から5層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブである。本発明の製造方法を用いることで、中空状ナノファイバーのファイバー中に触媒金属を含まないものを製造することができる。なお、純度100%の2層から5層カーボンナノチューブを得ることは困難であり、それを同定することも困難であるため、ここで言う主成分が2層から5層カーボンナノチューブとは20万倍以上の倍率で透過型電子顕微鏡で見たときに、その電子顕微鏡の視野の中に見られるナノファイバーの本数の中で、2層から5層カーボンナノチューブが50%以上あれば主成分が2層から5層カーボンナノチューブと言って差し支えない。
【0106】
本発明のカーボンナノチューブは2〜5層であるが、この中でも層数は多いほど耐久性が高いので好ましい。一方、カーボンナノチューブを切断する必要がある用途や、比重が重要な用途や、細さが必要な用途においては、2層のように層数が少ない方が好ましい。細さと耐久性の両立の点では2〜5層のカーボンナノチューブは実用面において非常に重要である。
【0107】
また、本発明で得られる中空状ナノファイバーは、2層〜5層カーボンナノチューブの50%以上がバンドルを形成しておらず、かつ主成分が2層〜5層カーボンナノチューブであることを特徴としている。ここでいう50%以上がバンドルを形成していない状態とは、透過型電子顕微鏡で20万倍以上の倍率で観察したときに、視野内に観察できる2層〜5層カーボンナノチューブのなかで、バンドルを形成している本数とバンドルを形成していない本数を比較したとき、バンドルを形成していない本数の方が多いことをいう。バンドルを形成しにくいことで、生成したカーボンナノチューブを容易に分散化でき、ポリマーに添加するときや、フィールドエミッションディスプレイとして用いるときに、ナノ添加効果や電子放出能を高めることができ、好ましい。
【0108】
また、本発明は次の要件を満たす中空状ナノファイバー含有組成物に関するものである。
(1)高分解能電子顕微鏡で2層カーボンナノチューブが観察されること。
(2)走査型電子顕微鏡で観察したときに、50%以上がファイバー状物質であること。
(3)遷移金属の総量が1重量%以下であること。
(4)共鳴ラマン散乱測定により、150〜350cm-1の領域にピークが観察されること。
【0109】
ここでいう高分解能電子顕微鏡による2層カーボンナノチューブの観察手法は、特に限定されるものではないが、例えば、中空状ナノファイバーを含有組成物をエタノールなど揮発性の高い溶媒に添加し、中空状ナノファイバー含有組成物を溶媒中に分散させた後、中空状ナノファイバーを含む溶媒数滴をマイクログリッド上に滴下し、溶媒を揮発させた後に、高分解能電子顕微鏡で観察する手法が好んで用いられる。2層カーボンナノチューブを観察するためには、倍率を50万倍以上、好ましくは100万倍以上に上げる手法が用いられる。観察されるカーボンナノチューブの壁を構成するグラフェンシートが2本で観察されるものが2層カーボンナノチューブである。また、単層カーボンナノチューブの壁が部分的に2層になっていたり、多層カーボンナノチューブの壁が部分的に2層になっているものは2層カーボンナノチューブとは言わない。カーボンナノチューブの壁を構成するグラフェンシートが2本で観察される領域が、少なくとも30nm以上連続していなければ、2層カーボンナノチューブとは言わない。グラフェンシートが2本で観察される領域が長ければ長いほど、均質な2層カーボンナノチューブと言えるため好ましい。
【0110】
また、走査型電子顕微鏡で観察したときに、50%以上がファイバー状物質であるとは、例えば、上記手法で調製した試料を倍率を1万倍以上、好ましくは2万倍以上に上げて観察し、観察された写真の繊維状部分の面積と、それ以外の形態を有する部分の面積を求め、繊維状部分の面積の方が多いことを言う。ファイバー状物質が多いほど、目的とする中空状ナノファイバーの純度が向上し好ましい。先述のアーク放電法で製造した中空状ナノファイバーはほとんどがカーボン粒子である。中空状ナノファイバーの純度が高いほど、後述する用途に適用したときに、中空状ナノファイバーに起因する特性が発現する。
【0111】
また、遷移金属の総量は、中空状ナノファイバー含有組成物の元素分析を行うことで求めることができる。元素分析とは原子吸光分析、蛍光X線分析、走査型電子顕微鏡に付属のEDX装置などを用いて遷移金属の総量が1重量%以下であれば、中空状ナノファイバー組成物の耐酸化性が向上するとともに、遷移金属に起因する影響を低減することができ好ましい。より好ましくは0.5重量%であり、特に好ましくは0.2重量%である。
【0112】
また、本発明にある中空状ナノファイバー含有組成物は共鳴ラマン散乱測定により、150〜350cm-1の領域にピークが観察されることを特徴としている。共鳴ラマン散乱測定により、150〜350cm-1の領域にピークが観察されるとは、RBM(Radial Breathing Mode)が観察されることを言う。RBMとは、細いカーボンナノチューブの伸縮振動に起因するピークであり、直径0.7〜1.6nmのカーボンナノチューブが存在することを示唆している。このように細いカーボンナノチューブが存在することで、樹脂添加剤に用いたときには高いナノ添加効果が発現し、フィールドエミッションディスプレイに用いたときには、高い電界放出能を発現することができる。また好ましくは、共鳴ラマン散乱測定により、1560〜1600cm-1の範囲内で最大のピーク強度をG、1310〜1350cm-1の範囲内で最大のピーク強度をDとしたときに、G/D比が1.5以上である。
【0113】
また、本発明は次の要件を満たす中空状ナノファイバー含有組成物に関するものである。
【0114】
(1)共鳴ラマン散乱測定により、1560〜1600cm-1の範囲内で最大のピーク強度をG、1310〜1350cm-1の範囲内で最大のピーク強度をDとしたときに、G/D比が1.5以上であり、かつ20以下であること。
(2)高分解能電子顕微鏡で2層カーボンナノチューブが観察されること。
【0115】
共鳴ラマン散乱では、100〜350cm-1付近のピークがRBM(Radial Breathing Mode)、1560〜1600cm-1付近の構造がG-bandであり、その他に不純物のアモルファスや中空状ナノファイバーの欠陥に起因するものとして、1310〜1350cm-1付近のD-bandと呼ばれるピークが観測される。ラマン強度はグラファイトの1000倍程度に達し、共鳴効果が支配的である。中空状ナノファイバーは、キラリティー、直径により、それぞれ異なった電子構造を取る。その中で、励起光が中空状ナノファイバーのEgと一致する場合に共鳴が起こり、ラマンスペクトルが発現する。そのため、励起光波長を変えていくと、次々とスペクトルは変化する。中空状ナノファイバーのG-bandは共鳴効果により強調されるため、試料の純度によって強度が大きく変化する。一方、1330cm-1付近のブロードなD-bandは不純物による寄与が大きく、これは共鳴効果により強い強調を受けないため、G-bandとD-bandの強度比を取ることにより、中空状ナノファイバー含有組成物試料の純度を見積ることが可能となる。本発明にある製造方法を用いることで、純度の高い中空状ナノファイバー含有組成物を製造することができ、その結果、G/D比は1.5以上となる。また、中空状ナノファイバー含有組成物を用途展開する上で、ポリマーに混ぜたり溶媒に分散させる必要が生じる。そのときに、中空状ナノファイバー表面に構造欠陥に起因するダングリングボンドが少ないと、分散性が低下するといった問題が生じる。そこで、構造欠陥が適度に存在する中空状ナノファイバーが好ましく、G/D比は20以下が好ましい。本発明において、前出の製造方法を用いることで、G/D比が1.5以上であり、かつ20以下である中空状ナノファイバーを製造することが可能である。また好ましくは、ラマン分光においてRBMが観察され、更に好ましくは走査型電視顕微鏡で観察したときに、ファイバー状物質が50%以上である。
【0116】
また、本発明にある中空状ナノファイバー含有組成物は高分解能電子顕微鏡で2層カーボンナノチューブが観察されることを特徴とする。これに関する説明は先述の通りである。
【0117】
また、本発明は、次の要件を満たす中空状ナノファイバー含有組成物である。高分解能透過型電視顕微鏡で2層カーボンナノチューブが観察され、かつ共鳴ラマン散乱測定法で測定したときに得られるスペクトルで、特にレーザーの波長が630〜650cm-1であるときに、350cm-1以下の領域において、195〜200cm−1内の最大ピーク強度をA、217〜222cm-1内の最大ピーク強度をB、197cm−1以下の最大ピーク強度をCとしたときに以下の関係が成り立つことを特徴とする。
A/B>1.2
A/C>2
【0118】
ここで論ずる領域はRBMであり、振動数と中空状ナノファイバー直径の関係は片浦らの報告に詳しい(Eur. Phys. J. B 22, 3, (2001) pp. 307-320.)。例えば、Aに帰属される中空状ナノファイバーの直径は約1.25nm、Bに帰属される中空状ナノファイバーの直径は約1.10nm、Cに帰属される中空状ナノファイバーの直径は約1.25nm以上である。本発明にある中空状ナノファイバー含有組成物がこのようなRBMを示す理由は定かではないが、触媒金属の粒径分布に帰因していることが推測される。
【0119】
また、本発明は、高分解能透過型電子顕微鏡で観察したときに2層カーボンナノチューブが見られる中空状ナノファイバー含有組成物であり、かつ共鳴ラマン散乱測定法で測定したときに得られるスペクトルで、特にレーザーの波長が630〜650cm-1であるときに、195〜200cm-1内の最大ピーク強度をA、220〜350cm-1内の最大ピーク強度をDとしたときに、以下の関係が成り立つことを特徴とする。
【0120】
A/D>1.2
ここで、Dに帰属される中空状ナノファイバーの直径は1.1nm以下である。ピーポッドと呼ばれるフラーレン内包カーボンナノチューブから製造した2層カーボンナノチューブでは、Dに含まれるピークが極めて高く発現する。これは、単層カーボンナノチューブの内側に2層目が生成することから、その直径が極めて細くなるからであり、本手法とは明らかに異なった直径分布を有する。
【0121】
本発明は次の要件を全て満たす中空状ナノファイバー含有組成物である。
(1)高分解能透過型電子顕微鏡で、、チューブの少なくとも片端の層全てが開放端となっている2層〜5層カーボンナノチューブが観測されること。
(2)走査型電子顛微鏡で観察したときに、50%以上がファイバー状物質であること。
【0122】
前述の高分解能透過型電子顕微鏡で観察した時に、2層〜5層カーボンナノチューブであって、チューブの少なくとも片端の最外層が開放端となっているカーボンナノチューブが観察され、走査型電子顕微鏡で観察したときに50%以上がファイバー状物質であることが重要である。開放端があることで、官能基を付与させやすく、ポリマーなどとの親和性向上に有効である。また、フィールドエミッションディスプレイとして用いた場合に、2層〜5層カーボンナノチューブは直径が細く電荷の集中が起こりやすいだけでなく、開放端になっていることでより電子が放出されやすくなり好んで用いられる。
【0123】
本発明は、次の要件を全て満たす中空状ナノファイバー含有組成物も含む。
(1)高分解能透過型電子顕微鏡で、、チューブの両端の層全てが開放端となっている2層〜5層カーボンナノチューブが観測されること。
(2)走査型電子顕微鏡で観察したときに、50%以上がファイバー状物質であること。
【0124】
また本発明は、前記2層〜5層カーボンナノチューブであって、チューブの少なくとも片端の層全てが開放端となっていることを特徴とするものも含む。片端の層全てが開放端となることで、カーボンナノチューブのチューブ内にガスなどを吸着させることができ、吸着剤用途で有効となる。
【0125】
前述の高分解能透過型電子顕微鏡で観察した時に、2層〜5層カーボンナノチューブであって、チューブの両端の層全てが開放端となっているカーボンナノチューブを含み、チューブの両端の層全てが開放端となっていることで、カーボンナノチューブのチューブ内へのガス吸着がより起こりやすくなり、吸着剤用途でより有効となる。
【0126】
これら開放端は、製造直後から形成されているものが多い。また、精製処理によってゼオライト触媒からカーボンナノチューブが切り離されるときに開放端になる場合もある。
【0127】
また、上記のごとき中空状ナノファイバー含有組成物は、好ましくは共鳴ラマン散乱測定法の測定により、1500〜1650cm-1の範囲内のピークが***して観測される。共鳴ラマン散乱測定において、1500〜1650cm-1の範囲内のピークは上述の通り、G−bandと呼ばれ、カーボン材料のグラファイト化度の高さを示す指標となる。カーボン材料のグラファイト化度が特に高い材料では、グラファイト構図に起因して、G−bandがさらに***して2本以上現れることがある。このようなカーボンナノファイバーはグラファイト化度が極めて高く、高い導電性や強度を示す材料となりうる。
【0128】
触媒金属は、その大部分が、触媒担体と中空状ナノファイバーの界面に存在するため、後処理により、中空状ナノファイバーと容易に分離することができる。その分離方法は特に限定されないが、例えば、中空状ナノファイバーは溶解しないが、担体であるゼオライトや金属触媒が溶解する溶液中で処理する方法が好んで用いられる。該溶液として、フッ酸、硫酸、硝酸、塩酸の水溶液が好んで用いられる。また、後処理の効果を高めるために、予め、または処理の途中に、300から500℃程度の空気中で焼成し、触媒金属のまわりを覆うアモルファスカーボンを除去する方法も好んで用いられる。
【0129】
900℃の耐熱性を有するゼオライト、特に窒素雰囲気中で5℃/分で昇温して900℃まで熱分析を行ったとき600〜900℃に発熱ピークを持たない特性のゼオライトとそのゼオライトの結晶表面に担持された金属からなる触媒組成物、また構造骨格内にアルミニウム、シリコン以外のヘテロ元素を含むメタロシリケートゼオライトとそのゼオライトの結晶表面に担持された金属からなる触媒組成物は、炭素を主成分とする高品質の中空状ナノファイバーを製造する上で重要な役割をしている。
【0130】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
【0131】
【実施例】
(実施例1)
〔耐熱性ゼオライトの合成〕
18.9gのピペラジンヘキサハイドレート(アルドリッチ)と、5.2gのテトラプロピルアンモニウムブロマイド(アルドリッチ)に蒸留水164gを添加して攪拌した。加熱しながら溶けるまで攪拌した。それに、さらに11.7gのヒュームドシリカ(アルドリッチ)を添加し、80℃に加熱して透明な水溶液を得た。これをポリ4フッ化エチレン・ラインのオートクレーブに入れ、150℃で5日間加熱した。その後冷却して、濾過、水洗、乾燥を行った後、550℃で空気中で焼成した。
【0132】
得られた粉末のX線回折(XRD)を測定したところ、MFI型の構造を有するシリカライト−1であることがわかった。この粉末を、島津製作所製の熱分析装置DTG−50で窒素50 ml/分の気流中で、5℃/分の昇温速度で900℃まで加熱したが、DTA曲線に発熱ピークは現れなかった(図1)。
【0133】
〔耐熱性ゼオライトへの金属塩の担持〕
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.08gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.11gとをメタノール(ナカライテスク社製)7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液に上記シリカライト−1の粉末1.0gを加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でメタノールを除去することにより、シリカライト−1の結晶表面に金属塩が担持した触媒を得た。
【0134】
〔ナノファイバーの合成(600℃)〕
内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に、上記のようにして得た金属塩を担持したシリカライト−1を0.057g取り、窒素を30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を600℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を6ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は1.6×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0135】
得られた反応物を日本電子データム(株)の走査電子顕微鏡JSM−6301NFで観察したところ、ほとんど非晶質のカーボン質の堆積は無かった。ファイバー状物質の形状を透過型電子顕微鏡で測定したところ、外径が30nm以下で内径が5nm程度の細い中空状ナノファイバーが主成分であることがわかった。高分解能透過型電子顕微鏡で中空状ナノファイバーを観察したところ、ナノファイバーの壁はグラファイト層で構成されていた。
【0136】
〔ナノファイバーの合成(900℃)〕
同じく内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に、金属塩を担持したシリカライト−1を0.034g取り、窒素を30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を900℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を6ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は0.84×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0137】
石英プレート上に堆積した反応物の一部の形状を透過型電子顕微鏡で測定したところ、外径が30nm以下で内径が5nm程度の細い中空状ナノファイバーであった。また、高分解能透過型電子顕微鏡で中空状ナノファイバーを観察したところ、ナノファイバーの壁はきれいなグラファイト層で構成されており、8〜20層のカーボンナノチューブに混ざって単層カーボンナノチューブが見られた。
【0138】
(実施例2)
〔結晶性チタノシリケートの耐熱性〕
エヌイーケムキャット社から購入したチタノシリケート粉末(Si/Ti 比=50)のX線回折(XRD)を測定したところ、MFI型の構造を有するTS−1であることがわかった。この粉末を、島津製作所製の熱分析装置DTG−50で窒素50 ml/分の気流中で、5℃/分の昇温速度で900℃まで加熱したが、DTA曲線に発熱ピークは現れなかった(図2)。
【0139】
このゼオライトを900℃で30分焼成した後にXRD回折したところMFI型ゼオライトのピークが残っていた(図3)。
【0140】
〔耐熱性ゼオライトへの金属塩の担持〕
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.08gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.11gとをメタノール(ナカライテスク社製)7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液に上記TS−1の粉末1.0gを加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でメタノールを除去することにより、TS−1の結晶表面に金属塩を担持した触媒を得た。
【0141】
〔ナノファイバーの合成(600℃)〕
内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に、上記で得た金属塩を担持したTS−1を0.050g取り、窒素を30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を600℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を6ml/分で30分間供給した後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0142】
石英プレート上に堆積した反応物を日本電子データム(株)走査電子顕微鏡JSM−6301NFで観察したところ、ほとんど非晶質のカーボン質の堆積は無かった。ファイバー状物質の形状を透過型電子顕微鏡で測定したところ、外径が30nm以下で内径が5nm程度の細い中空状ナノファイバーが主成分であることがわかった。また、高分解能透過型電子顕微鏡で中空状ナノファイバーを観察したところ、ナノファイバーの壁はグラファイト層で構成されていた。
【0143】
〔ナノファイバーの合成(900℃)〕
同じく内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に、金属塩を担持したTS−1を0.034g取り、窒素を30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を900℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を6ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は1.4×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0144】
石英プレート上に堆積した反応物の一部の形状を透過型電子顕微鏡で測定したところ、外径が30nm以下で内径が5nm程度の細い中空状ナノファイバーであった。また、高分解能透過型電子顕微鏡で中空状ナノファイバーを観察したところ、ナノファイバーの壁はグラファイト層で構成されていた。
【0145】
〔2層ナノチューブの合成(900℃)〕
同じく内径100mmの石英管の中央部の石英プレート上に、金属塩を担持したTS−1を0.09g取り、アルゴンを250ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を900℃に加熱した(昇温時間約30分)。900℃に到達した後、超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を10ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は0.34×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0146】
石英プレート上に堆積した反応物の一部の形状を高分解能透過型電子顕微鏡で測定したところ、バンドルを形成しない内径約3nmの2層カーボンナノチューブ(図4(A) )内径約3nmの2層カーボンナノチューブで構成されたバンドル(図4(B) )や、一部が3層以上になった2層カーボンナノチューブ(図5)や、片端が開放端となった2層カーボンナノチューブ(図19)が生成していた。図4(A) の2層カーボンナノチューブは、長さ30nmの間で最も内径の大きいところが3.2nmで、最も小さいところが2.4nmであった。また、この試料のラマン分光を測定したところ、Dバンド、Gバンドは観測されたが、ラジアルブリージングモードは観測されなかった。
【0147】
得られたナノファイバーの直径を透過型電子顕微鏡で観察し、その分布をとったところ、直径5〜10nmに一つのピーク(1)を、直径20nm付近にもう一つのピーク(2)を有し、そのピーク強度比(1)/(3)は約3であった。
【0148】
また、800℃で同じ反応を行ったところ、節目の多い2層カーボンナノチューブ(図20)多層カーボンナノチューブ(図6)が得られた。ナノファイバーの壁は非常に結晶性の良いグラファイト層で構成されていた。また、繊維状物質の割合は約80%であった。
【0149】
得られたナノファイバーの直径を透過型電子顕微鏡で観察し、その分布をとったところ、直径0.4〜1nmに一つのピークを持ち、5〜10nmにもう一つのピークを有した。
【0150】
〔2層ナノチューブの精製〕
合成した2層ナノチューブ、TS−1、金属触媒混合物を5%フッ化水素酸水溶液に加え、3時間激しく攪拌した。これをろ過し、蒸留水で数回洗浄した。得られた黒色固形物を乾燥し、EDXで元素分析した結果、TS−1に起因するケイ素、チタンの濃度は検出限界以下であった。次いで、空気中300℃で2時間焼成した。その後、1N 塩酸水溶液中で3時間激しく攪拌した。これをろ過し、蒸留水で数回洗浄した。得られた黒色固形物を乾燥し、EDXで元素分析した結果、触媒金属に起因するコバルトは0.1wt%、鉄は0wt%であった。なお、処理後のサンプルを透過電子顕微鏡で観察した結果、処理前と同様な2層ナノチューブが観察された。また、繊維状物質の割合は約80%であった。
【0151】
〔単層ナノチューブの合成(900℃)〕
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.08gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.11gを水7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。ここに、1.0gのTS−1粉末を加え、超音波洗浄機で10分間処理し、100℃の恒温下で水を除去して、TS−1粉末に金属塩が担持された触媒を得た。
【0152】
次いで、内径100mmの石英管の中央部の石英プレート上に、上記金属塩を担持したTS−1を0.09g取り、アルゴンを250ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を900℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を10ml/分で30分間供給した後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0153】
石英プレート上に堆積した反応物の一部の形状を高分解能透過型電子顕微鏡で測定したところ、単層ナノチューブのバンドル(図7(A)(B)(C) )であった。電子顕微鏡から、単層ナノチューブの内径は約0.6nmであった。また、繊維状物質の割合は約80%であった。
(比較例1)
〔Y型ゼオライトの耐熱性評価〕
Na-Y型ゼオライト(東ソー製)を島津製作所製の熱分析装置DTG−50で窒素50 ml/分の気流中で、5℃/分の昇温速度で900℃まで加熱した結果、DTA曲線に発熱ピークが現れた。発熱は、760℃から始まり867℃でピークを迎えた(図8)。
【0154】
このゼオライトを、窒素気流中600℃で30分間焼成した後の粉末X線回折の測定(図9)と、900℃で30分焼成した粉末X線回折の測定(図10)とを行った。900℃で焼成したサンプルのXRD回折図には、ゼオライトのピークは全く見られなかった。
【0155】
〔Y型ゼオライトへの金属塩の担持〕
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.08gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.11gとをエタノール(ナカライテスク社製)7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液に上記Na-Y型ゼオライト粉末(東ソー製)を1.0g加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でエタノールを除去して、Na-Y型ゼオライト粉末に金属塩が担持された触媒を得た。
【0156】
〔ナノファイバーの合成(600℃)〕
内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に、上記で得た金属塩を担持したNa-Y型ゼオライト粉末を0.029g取り、窒素を30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を600℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を6ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は0.80×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0157】
石英プレート上に堆積した反応物反応物の形状を日本電子データム(株)走査電子顕微鏡JSM−6301NFで測定したところ、15%程度の非晶質のカーボン質が生成していた。また、チューブ状生成物を透過型電子顕微鏡で観察したところ外径が30nm以下で内径が5nm程度の中空状ナノファイバーが得られていることがわかった。
【0158】
〔ナノファイバーの合成(900℃)〕
同じく内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に、金属塩を担持したNa-Y型ゼオライト粉末を0.031g取り、窒素を30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を900℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を6ml/分で30分間供給した後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0159】
石英プレート上に堆積した反応物の形状を日本電子データム(株)走査電子顕微鏡JSM−6301NFで測定したところ、ナノファイバーは得られていなかった。
(実施例3,4、比較例2)
東ソー製のゼオライトHSZ-390HUA(ゼオライト1とする)を島津製作所製の熱分析装置DTG−50で窒素50 ml/分の気流中で、5℃/分の昇温速度で900℃まで加熱した結果、DTA曲線に発熱ピークが現れた(図11)。
【0160】
乾燥空気中900℃で30分間焼成した後、XRD測定を行ったところ、Y型ゼオライトの構造を保持していたが、焼成前よりもピークは鋭くかつ大きくなっていた(焼成前のXRD:図13、焼成後のXRD:図14)。900℃への昇温中に何らかの構造変化があったものと考えられる。
【0161】
900℃で30分焼成したゼオライトHSZ-390HUA(ゼオライト2とする)を島津製作所製の熱分析装置DTG−50で窒素50 ml/分の気流中で、5℃/分の昇温速度で900℃まで加熱した結果、DTA曲線に発熱ピークが現れないように変化していた(図12)。
【0162】
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.08gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.11gとをエタノール(ナカライテスク社製)7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液にそれぞれ上記ゼオライト1及び2の粉末を1.0gずつ加え、超音波洗浄機で10分間処理し、120℃の恒温下でエタノールを除去することにより、それぞれ2種類の金属担持触媒1及び2を得た(触媒1:比較例2、触媒2:実施例3)。
【0163】
酢酸鉄第一鉄(アルドリッチ社製)0.16gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク社製)0.22gをエタノール(ナカライテスク社製)3mlに加え、超音波洗浄機で10分間処理して溶解させた。この溶液に500℃で焼成したゼオライト2をデシケータ中で冷却後1.0g加えて振とうし、30分間静置した後、ろ過して触媒層を取り、120℃で乾燥した(触媒3:実施例4)。
【0164】
〔ナノファイバーの合成(900℃)〕
内径30mmの3本の石英管の中央部の石英プレート上に、それぞれ上記3種類の触媒1、2及び3を0.03gずつ取り、それぞれに窒素を30ml/分で供給した。各石英管を電気炉中に設置して中心温度を900℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を6ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は0.84×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0165】
それぞれ3本の反応管中の石英プレート上に堆積した反応物反応物の形状を日本電子データム(株)走査電子顕微鏡JSM−6301NFで測定したところ、触媒2及び3で反応させたものでは、ナノファイバー状物質が多く見られ、触媒1で反応させたものは、ナノファイバー状物質が多く見られなかった。また、触媒3で反応させたものの方が、触媒2で反応させたものよりも細いナイファイバーが得られた。しかし、触媒1で得られたものは、触媒2,3のものよりも太いナノファイバーであった。
【0166】
更に、高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、触媒2及び3から得た中空状ナノファイバーのグラファイト層は欠陥が少なく、単層カーボンナノチューブも見られた。これに対して、触媒1から得られた中空状ナノファイバーの壁のグラファイト層は欠陥が多かった。単層カーボンナノチューブも見られたが、触媒2,3から得たものに比べ半分以下しか得られていなかった。また、繊維状物質の割合は約80%であった。
【0167】
〔単層カーボンナノチューブの選択合成〕
触媒を内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に0.03g取り、アルゴンを30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を800℃に加熱した。エタノール(試薬特級、東京化成製)をマイクロフィーダーで2.1mg/分で30分間供給した後,エタノールの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0168】
反応管中の石英プレート上に堆積した生成物の形状を日本電子データム(株)走査型電子顕微鏡JSM−6301NFで測定したところ、極めて細いナノファイバー状物質が多く見られた。さらに、高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、生成物のほとんどが、単層カーボンナノチューブであった。また、繊維状物質の割合は約100%であった。
(実施例5)
〔鉄シリケートゼオライトへの金属塩の担持〕
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.08gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.11gとをメタノール(ナカライテスク社製)7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液にMFI型鉄シリケートゼオライト粉末(エヌ・イー・ケムキャット社製、Si/Fe=50)を1.0g加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でメタノールを除去して金属塩が担持した触媒を得た。
【0169】
〔ナノファイバーの合成(600℃)〕
内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に、上記で得た金属塩を担持した鉄シリケートゼオライトを0.050g取り、窒素を30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を600℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を6ml/分で30分間供給した後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0170】
石英プレート上に堆積した反応物を日本電子データム(株)走査電子顕微鏡JSM−6301NFで観察したところ、ほとんど非晶質のカーボン質の堆積は無かった。ファイバー状物質の形状を透過型電子顕微鏡で測定したところ、外径が20nm以下で内径が5nm程度の細い中空状ナノファイバーが主成分であることがわかった。高分解能透過型電子顕微鏡で中空状ナノファイバーを観察したところナノファイバーの壁はグラファイト層で構成されていた。また、繊維状物質の割合は約60%であった。
(実施例6)
〔Coシリケートゼオライトへの金属塩の担持〕
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.08gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.11gとをメタノール(ナカライテスク社製)7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液にMFI型Co−シリケートゼオライト粉末(エヌ・イー・ケムキャット社製,Si/Co=50 )を1.0g加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でメタノールを除去して、金属塩が担持された触媒を得た。
【0171】
〔ナノファイバーの合成(600℃)〕
内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に、上記で得た金属塩を担持したMFI型Co−シリケートゼオライトを0.050g取り、窒素を30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を600℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を6ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は1.4×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0172】
石英プレート上に堆積した反応物を日本電子データム(株)走査電子顕微鏡JSM−6301NFで観察したところ、ほとんど非晶質のカーボン質の堆積は無かった。ファイバー状物質の形状を透過型電子顕微鏡で測定したところ、外径が20nm以下で内径が5nm程度の細い中空状ナノファイバーが主成分であることがわかった。高分解能透過型電子顕微鏡で中空状ナノファイバーを観察したところナノファイバーの壁はグラファイト層で構成されていた。また、繊維状物質の割合は約70%であった。
(実施例7)
〔Moシリケートゼオライトへの金属塩の担持〕
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.08gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.11gとをメタノール(ナカライテスク社製)7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液にMFI型Mo−シリケートゼオライト粉末(エヌ・イー・ケムキャット社製,Si/Mo=50 )を1.0g加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃恒温下でメタノールを除去して、金属塩が担持された触媒を得た。
【0173】
〔ナノファイバーの合成(600℃)〕
内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に、上記で得た金属塩を担持したMFI型Mo−シリケートゼオライトを0.050g取り、窒素を30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を600℃に加熱した。超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を6ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は1.4×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0174】
石英プレート上に堆積した反応物を日本電子データム(株)走査電子顕微鏡JSM・6301NFで観察したところ、ほとんど非晶質のカーボン質の堆積は無かった。ファイバー状物質の形状を透過型電子顕微鏡で測定したところ、外径が20nm以下で内径が5nm程度の細い中空状ナノファイバーが主成分であることがわかった。高分解能透過型電子顕微鏡で中空状ナノファイバーを観察したところナノファイバーの壁はグラファイト層で構成されていた。また、繊維状物質の割合は約60%であった。
(実施例8)
〔細い2層ナノチューブの合成(900℃)〕
内径100mmの石英管の中央部の石英プレート上に、実施例2でメタノール溶媒で調製した金属塩を担持したTS−1を0.09g取り、アルゴンを250ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を900℃に加熱した。昇温時間を90分かけた(他の実施例では30分)。900℃に到達してから、超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を10ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は0.34×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0175】
石英プレート上に堆積した反応物の一部の形状を高分解能透過型電子顕微鏡でで測定したところ、内径約0.9nmの2層ナノチューブ(図15)が多く得られた。また、バンドル状の細いカーボンナノチューブも得られた。図16は、同時に得られた多層CNTと共に写した写真である。多層CNTの層間を0.34と仮定してこの長さを基準に補正したところ、2層カーボンナノチューブの層間は、0.38nm、内径は0.99nmであった。これら2層カーボンナノチューブはバンドルを形成するものが約50%、バンドルを形成しないものが約50%であった。また、繊維状物質の割合は約80%であった。
(実施例9)
〔耐熱性ゼオライトへの金属塩の担持〕
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.10gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.06gとをメタノール(ナカライテスク社製)7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液に上記TS−1の粉末1.0gを加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でメタノールを除去することにより、TS−1の結晶表面に金属塩を担持した触媒を得た。
【0176】
〔2層カーボンナノチューブの合成(850℃)〕
内径30mmの石英管の中央部の石英プレート上に、上記で得た金属塩を担持したTS−1を0.02g取り、アルゴンを30ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を850℃に加熱した(昇温時間約30分)。850℃に到達した後、超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を1ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は0.64×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0177】
石英プレート上に堆積した反応物の一部の形状を高分解能透過型電子顕微鏡で測定したところ、内径約8nmの2層カーボンナノチューブ(図17)が多く生成していた。これら2層カーボンナノチューブは80%以上がバンドルを形成していなかった。また、チューブ内壁および外壁に不純物の付着は見られなかった。また、繊維状物質の割合は約80%であった。
(実施例10)
〔メタロシリケートによる2層カーボンナノチューブの合成〕
MFI型Co−シリケートゼオライト粉末(エヌ・イー・ケムキャット社製,Si/Co=25 )をアルゴン気流中、900℃で2時間焼成した。これを、内径100mmの石英管の中央部の石英プレート上に0.07g取り、アルゴンを250ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を800℃に加熱した。800℃に到達してから、超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を4ml/分で30分間供給した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は0.28×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。石英プレート上に堆積した反応物の一部の形状を高分解能透過型電子顕微鏡でで測定したところ、内径約3nmの2層カーボンナノチューブが多く得られた。また、バンドル状の細いカーボンナノチューブも得られた。繊維状物質の割合は約80%であった。
(実施例11)
〔耐熱性ゼオライトへの金属塩の担持(高流速)〕
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.10gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.06gとをメタノール(ナカライテスク社製)7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液に上記TS−1の粉末1.0gを加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でメタノールを除去することにより、TS−1の結晶表面に金属塩を担持した触媒を得た。
【0178】
〔2層カーボンナノチューブの合成(800℃)〕
内径30mmの縦型石英管の中央部に石英ウールを詰め、その上に上記で得た金属塩を担持したTS−1を1.0g取り、アルゴンを600ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を800℃に加熱した(昇温時間約30分)。800℃に到達した後、超高純度アセチレンガス(高圧ガス工業製)を5ml/分で30分間供給した後、アセチレンガスの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。なお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は1.7×10-3(g一触媒・分/ml)である。
【0179】
石英ウール上に堆積した反応物の一部の形状を高分解能透過型電子顕微鏡で測定したところ、内径約4nmの2層カーボンナノチューブが多く生成していた。繊維状物質の割合はほぼ100%であった。そのラマンスペクトルの結果(図18)、G/D比は2.75、195〜200cm−1内の最大ピーク強度をA、217〜222cm-1内の最大ピーク強度をB、197cm−1以下の最大ピーク強度をC、220〜350cm-1内の最大ピーク強度をDとしたとき、A/B=2.0、A/C=20、A/D=4.0であった。
【0180】
〔2層ナノチューブの精製〕
合成した2層ナノチューブ、TS−1、金属触媒混合物を5%フッ化水素酸水溶液に加え、3時間激しく攪拌した。これをろ過し、蒸留水で数回洗浄した。得られた黒色固形物を乾燥し、EDXで元素分析した結果、TS−1に起因するケイ素、チタンの濃度は検出限界以下であった。次いで、空気中300℃で2時間焼成した。その後、1N 塩酸水溶液中で3時間激しく攪拌した。これをろ過し、蒸留水で数回洗浄した。得られた黒色固形物を乾燥し、EDXで元素分析した結果、触媒金属に起因するコバルトは0.1wt%、鉄は0wt%であった。なお、処理後のサンプルを透過電子顕微鏡で観察した結果、処理前と同様な2層ナノチューブが観察された。また、繊維状物質の割合は約80%であった。
(実施例12)
(Co+Fe)/ボロシリケート
〔ボロシリケート型ゼオライトへの金属塩の担持〕
酢酸第一鉄(アルドリッチ社製)0.064gと酢酸コバルト4水和物(ナカライテスク)社製)0.088gとをエタノール(ナカライテスク社製)7mlに加え、超音波洗浄機で10分間懸濁した。この懸濁液に、ボロシリケートゼオライト(エヌイーケムキャット製、ケイ素/ホウ素比50)を1.0g加え、超音波洗浄機で10分間処理し、60℃の恒温下でエタノールを除去して、ボロシリケート型ゼオライト粉末に金属塩が担持された触媒を得た。
【0181】
〔ナノファイバーの合成(800℃)〕
内径30mmの縦型石英管の中央部の石英ウール上に、上記で得た金属錯体を担持したボロシリケート型ゼオライト粉末を0.1g取り、アルゴンを60ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して中心温度を800℃に加熱した。エタノールをマイクロフィーダーでガスとして0.5ml/分で300分間供給したなお、この条件での固体触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリアガス込み)は1.7×10-3(g一触媒・分/ml)である。その後、エタノールの供給をやめ、温度を室温まで冷却した。
【0182】
石英プレート上に堆積した反応物反応物の形状を高分解能透過型電子顕微鏡で測定したところ、外径が1.5nm以下で内径が0.8nm程度の2層カーボンナノチューブのバンドルが見られた。高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、ナノファイバーの壁は比較的きれいなグラファイト層で構成されており、50%以上が1〜5層のカーボンナノチューブであった。直径20nm以上のナノファイバーは全く観察されなかった。そのラマンスペクトルの結果(図21)、1500〜1650cm-1の範囲内のピークが***して観測された。
【0183】
【発明の効果】
本発明の製造方法によると、900℃の耐熱性を有するゼオライトに金属を担持させた触媒、若しくは構造骨格内にアルミニウム、シリコン以外のヘテロ元素を含むメタロシリケートゼオライトの結晶表面に金属を担持させた触媒と炭素含有化合物とを温度500〜1200℃で接触させることにより、グラファイト層の欠陥が少なく、かつ太さの細い良質なカーボンナノチューブを効率良く得ることができる。
【0184】
特に、グラファイト層の欠陥が少ないカーボンナノチューブを直接生成するため、後処理でグラファイト化するための費用がかかる高温の熱処理を不要にすることが可能になる。また、太さが外径50nm以下、内径0.3nm以上15nm以下である2層〜5層の多層カーボンナノチューブを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明において触媒支持体の一例として使用されるシリカライト−1のTGA及びDTA曲線図である。
【図2】本発明において触媒支持体の他の一例に使用されるTS−1のTGA及びDTA曲線図である。
【図3】本発明において触媒支持体の一例に使用されるTS−1の900℃で焼成後のXRDパターン図である。
【図4】(A)は、本発明で得た2層カーボンナノチューブを例示した高分解能電子顕微鏡写真であり、(B)は2層カーボンナノチューブのバンドルを例示した高分解能電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明により得た一部が3層以上である2層カーボンナノチューブを例示した高分解能電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明により得た多層カーボンナノチューブを例示した高分解能電子顕微鏡写真である。
【図7】(A)(B)(C)は、それぞれ本発明により得た単層カーボンナノチューブを例示した高分解能電子顕微鏡写真である。
【図8】Y型ゼオライトのTGA及びDTA曲線図である。
【図9】Y型ゼオライトの600℃で焼成後のXRDパターン図である。
【図10】Y型ゼオライトの900℃で焼成後のXRDパターン図である。
【図11】ゼオライトHSZ-390HUA(東ソー製)のTGA及びDTA曲線図である。
【図12】900℃で焼成したゼオライトHSZ-390HUA(東ソー製)のTGA及びDTA曲線図である。
【図13】ゼオライトHSZ-390HUA(東ソー製)のXRDパターン図である。
【図14】900℃で焼成したゼオライトHSZ-390HUA(東ソー製)のXRDパターン図である。
【図15】本発明で得た2層カーボンナノチューブを例示した高分解能電子顕微鏡写真である。
【図16】本発明で得た2層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブを例示した高分解能電子顕微鏡写真である。
【図17】本発明で得た2層カーボンナノチューブを例示した高分解能電子顕微鏡写真である。
【図18】本発明で得た2層カーボンナノチューブを主成分とする中空状ナノファイバーのラマン分光スペクトルである。
【図19】本発明で得た片端が開放端になっている2層カーボンナノチューブを例示した高分解能電子顕微鏡写真である。
【図20】本発明で得た節目構造が多い中空状ナノファイバーを例示した高分解能電子顕微鏡写真である。
【図21】本発明で得た2層カーボンナノチューブを主成分とする中空状ナノファイバーのラマン分光スペクトルである。
Claims (6)
- 構造骨格内にアルミニウム、ケイ素以外のヘテロ元素を含むメタロシリケートゼオライトに金属を担持させた触媒と炭素含有化合物とを温度500〜1200℃で接触させ、炭素を主成分とする中空状ナノファイバーを生成することを特徴とする中空状ナノファイバーの製造法。
- 前記メタロシリケートゼオライトが、チタノシリケートゼオライト、ボロシリケート、コバルトシリケート、又は鉄シリケートである請求項1に記載の中空状ナノファイバーの製造法。
- 前記炭素含有化合物の濃度が0.1 vol %以上、2 vol %以下であり、かつ、前記触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリヤガス込み)が1.0×10 -5 (g−触媒・分/ml)以上、8.0×10 -3 (g−触媒・分/ml)以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空状ナノファイバーの製造法。
- 窒素雰囲気中で5℃/分で昇温して900℃まで熱分析を行ったとき、温度600〜900℃の範囲に発熱ピークを持たない特性として定義される900℃の耐熱性を有するゼオライトに金属を担持させた触媒と炭素含有化合物を温度500〜1200℃で接触させ、炭素を主成分とする中空状ナノファイバーを生成する中空状ナノファイバーの製造法であって、前記炭素含有化合物の濃度が0.1 vol %以上、2vol %以下であり、かつ、前記触媒重量(担体込み)/原料ガス流量(キャリヤガス込み)が1.0×10 -5 (g−触媒・分/ml)以上、8.0×10 -3 (g−触媒・分/ml)以下であることを特徴とする中空状ナノファイバーの製造法。
- 触媒と炭素含有化合物との接触が反応装置を用いて行われ、該反応装置が縦型の固定床型反応装置であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中空状ナノファイバーの製造法。
- 構造骨格内にアルミニウム、ケイ素以外のヘテロ元素を含むメタロシリケートゼオライトに金属を担持した構成からなる炭素を主成分とする中空状ナノファイバー製造用触媒組成物。
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