JP3797270B2 - 渦電流減速装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等の車両に用いられる主ブレーキを補助するディスクタイプの渦電流減速装置に関し、さらに詳しくは、制動時の磁気効率に優れ、簡易な構造で小型、軽量化が可能であるとともに、長時間にわたって使用した場合であっても、熱疲労亀裂が発生し難く、または、制動ディスクの変形が抑制され、安定した制動力を確保することができ、耐久性が向上した渦電流減速装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
トラックやバス等の自動車用の制動装置には、主ブレーキであるフットブレーキ、補助ブレーキである排気ブレーキの他に長い坂道の降坂等において安定した減速を行い、さらにフットブレーキのベーパーロック現象や焼損を防止するために、渦電流減速装置が使用されている。
【0003】
そして、この渦電流減速装置への要請として、製造コストの低減を図るとともに、小型車への搭載も可能にするような、車両への搭載性を向上させる要請が強くなっている。この搭載性の向上には、小型で軽量化が図れ、かつ簡易構造で経済性に優れることが要求される。
【0004】
上記の要請に対して、ディスクタイプの渦電流減速装置を前提として、永久磁石の磁極面を制動ディスクに対向させて接近させ、ディスク自体に制動トルクを発生させる方式(以下、「磁石極面対向方式」という場合がある)が開発されている。この方式であれば、永久磁石の磁力線を短い磁路長さで制動ディスクに付加できるので、磁気回路の磁気抵抗が小さくなり、磁気効率が向上し、制動トルクを増大させることができる。
【0005】
図1および図2は、永久磁石を用いた「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置の構成例を示す断面図である。図1は制動時における装置構成を示しており、図2は非制動時における装置構成を示している。
【0006】
この渦電流減速装置では、回転軸1に取り付けられた強磁性体からなる制動ディスク2と、この制動ディスク2の側方に配置された非磁性体からなる案内筒3から構成される。案内筒3は車両等の非回転部分に支持されており、その内部には、制動ディスク2の制動面に対し垂直方向に前後進が可能な強磁性体からなる保持リング4が収容され、さらに、案内筒3には保持リング4を前後進させるシリンダー5が設けられている。一方、案内筒3の制動ディスクと対向する端面には、強磁性材(ポールピース)8が配置される。
【0007】
保持リング4の制動ディスク2と対向する側面には、複数の永久磁石7が周方向に配置されている。永久磁石7の磁極の方向は制動ディスク2の制動面に対向しており、隣接する永久磁石の磁極が互いに逆向きに配置されている。各永久磁石7の磁極面に対向する強磁性材8は、周方向に永久磁石7と対をなすように複数配置される。
【0008】
永久磁石7の駆動機構は、案内筒3の外端壁にシリンダー5が配置され、シリンダー5に嵌合するピストンロッド6が案内筒3の外端壁を貫通して保持リング4に結合している。このように構成することによって、シリンダー5の作動により制動ディスク2に対し直交する方向に、保持リング4を前後進させることができる。
【0009】
制動時には、図1の矢印で示すように、シリンダー5のピストンロッド6が右方へ移動し、保持リングが制動ディスク2の回転軸方向に前進し、永久磁石7が制動ディスクに対向して接近する。
【0010】
このとき、各永久磁石7が強磁性材8を経て制動ディスク2の制動面に垂直に及ぼす磁力線を回転する制動ディスク2が横切る時、制動ディスク内の磁束の変化から制動ディスク2に渦電流が流れ、制動トルクが発生する。
【0011】
非制動に切り換える際には、シリンダー5の作動を切り換えて、図2の矢印で示すように、ピストンロッド6に直結された保持リング4を左方へ移動させるので、永久磁石7が強磁性材(ポールピース)8から離れ、永久磁石7が制動ディスク2へ及ぼす磁力は弱いものとなる。
【0012】
前記の図1および図2に示す、永久磁石を用いた「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置では、強磁性材(ポールピース)が設けられている。これは、永久磁石は温度依存性が強く、一定温度以上になると磁力が低下し、制動トルクが低減するので、永久磁石の昇温を抑制するため、永久磁石と発熱源である制動ディスク間に適当な距離を設けていることによる。すなわち、これらの距離が大きくなると、制動トルクが低下するため、強磁性材(ボールピース)を両者の間に介在させて、磁気回路上のギャップが最小になるようにしているためである。
【0013】
ところが、案内筒がドラムに覆われたドラムタイプに比べ、ディスクタイプでは、案内筒を発熱部である制動ディスクの外部に露出した構造にできるので、案内筒そのものの放熱性が優れる。そのため、案内筒への入熱量が同等であるとしても、ディスクタイプの案内筒では、外気と直接接する構造にでき、放冷可能な面積を増加できるので、ドラムタイプに比べ案内筒内の温度上昇を抑制できる。
【0014】
さらに、装置の構造をディスクタイプにすることによって、ドラムタイプに比べ、冷却フィンを取り付けることが容易となり、発熱源である制動ディスクの放熱能力を増大させることができる。したがって、制動時において永久磁石の温度上昇が抑制でき、加えて制動ディスクから伝えられる熱そのものも低減できるので、永久磁石と制動ディスクとの距離を極端に小さくすることが可能になる。
【0015】
その結果として、永久磁石を制動ディスクに充分に近づけることができ、強磁性体(ポールピース)を用いずに磁気回路を構成したとしても、十分な制動トルクを確保することができる。このような知見に基づいて、新たに、強磁性体(ポールピース)を用いない「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置が開発されるようになった。
【0016】
図3は、強磁性体(ポールピース)を用いない「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置の構成を示す図である。図3に示す渦電流減速装置では、基本的な構成や各部材の作用は前記図1および図2に示す「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置と同じであるが、案内筒3は、その制動ディスクと対向する端面に強磁性体(ポールピース)を配置させることなく、非磁性材で構成されている。
【0017】
また、図3に示す渦電流減速装置では、永久磁石と対向する端面を含む案内筒により永久磁石を覆うようにしているので、永久磁石の磁極面が異物によって損傷し、または湿気によって錆が生じる恐れがない。さらに、強磁性材(ポールピース)を設けなくとも、永久磁石からの磁力線を短い磁路長さで、直接、制動ディスクに付加できるので、制動トルクの発生効率を向上させることができる。
【0018】
以下の説明において、図3に示す、強磁性体(ポールピース)を用いない「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置を特定する場合には、「ポールピースレス方式」の渦電流減速装置という。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
前述の通り、永久磁石を制動ディスクに対向させて配置した「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置、および「ポールピースレス方式」の渦電流減速装置では、制動時の磁気効率に優れるとともに、簡易な構造で小型、軽量化が可能であり、経済性にも優れるものである。したがって、渦電流減速装置に対する所期の要請には充分対応できる。
【0020】
ところが、最近では、渦電流減速装置を搭載する車両の数や種類が増加し、渦電流減速装置に要求される性能が多様化すると同時に、高度化しており、例えば、装置の耐久性についても所定の性能が要求されるようになっている。そのため、ディスクタイプの渦電流減速装置を長時間にわたって使用して、搭載する車種や使用条件によって、制動ディスクの変形が大きくなり、制動力が不足するようになった場合や、制動ディスクの表面に熱疲労亀裂が発生した場合に、耐久性の向上を図って、装置寿命を延長させることが要求される。
【0021】
具体的には、連続して渦電流減速装置を使用する車種では、制動ディスクが長時間にわたって高温にさらされるため、発生する熱変形が大きくなる。また、頻繁に制動および非制動を繰り返す車種では、制動ディスクに非弾性ひずみが多数回繰返し負荷されることから、熱疲労亀裂が発生する。このため、搭載する車両に応じて制動ディスクの変形を抑制したり、熱疲労亀裂の発生を防止することが必要になる。
【0022】
本発明は、永久磁石を用いた「磁石極面対向方式」および「ポールピースレス方式」の渦電流減速装置に新たに要請される、耐久性の向上に鑑みてなされたものであり、制動時の磁気効率に優れ、簡易な構造で小型、軽量化が可能であるとともに、長時間にわたって使用した場合であっても、制動ディスクの変形が抑制でき、安定した制動力の確保が可能であり、また、頻繁に制動および非制動を繰り返す場合であっても、熱疲労亀裂の発生を防止し、耐久性を向上させることができる渦電流減速装置を提供することを目的としている。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、制動ディスクでの変形の発生状況や、熱疲労亀裂の発生状況について詳細に検討を行った結果、制動ディスクを長時間にわたり繰り返し使用した場合に、制動ディスクに徐々に非弾性ひずみが蓄積され、制動力が低下する過程や、または熱疲労亀裂が発生する過程を明らかにした。
【0024】
制動時に、永久磁石から及ぼされる磁力を制動ディスク表面に作用させると、制動ディスクには渦電流が発生し、ジュール熱が発生する。この発熱によって制動ディスクは熱膨張するが、回転軸に固定されているため、半径方向の熱膨張は拘束される。
【0025】
さらに、渦電流は表皮効果によって表面近傍に集中して流れるため、制動ディスクの永久磁石に対向する表面は高温になる。その結果、制動ディスクの永久磁石と対向する表面の熱膨張量は、その反対側の表面の熱膨張量より大きくなって拘束され、永久磁石に対向する高温の表面には、非弾性ひずみ(塑性ひずみ+クリープひずみ)が発生する。そのため、制動ディスクは、熱変形によって、その肉厚方向、すなわち、回転軸方向に反ることになる。
【0026】
一方、頻繁に制動および非制動を繰返すことによって、制動ディスクには非弾性ひずみが繰り返し負荷されるため、熱疲労亀裂が発生する。さらに、制動ディスクに変形が蓄積されると、制動ディスクと永久磁石との距離が変動するため、制動ディスクの表面に作用する磁束が一定せず、制動力が不安定となる。
【0027】
これらの防止策を検討した結果、制動ディスクを永久磁石からの磁束が作用する外周部分と、その内側で永久磁石からの磁束が作用しない内周部分とで構成して、内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より薄くすると、制動時に制動ディスクの熱膨張を拘束する力が弱まり、その高温側に発生する非弾性ひずみを減少させることができる。その結果、制動および非制動の繰り返しによる熱負荷が加わっても、熱変形によって制動ディスクが半径方向に膨張するのを拘束する力が弱くなり、熱疲労亀裂が発生しにくくなる。
【0028】
一方、制動ディスクを同様に構成して、内周側の肉厚を外周部分の肉厚より厚くすると、熱によって制動ディスクが回転軸方向、すなわち、永久磁石と反対方向に倒れて折れ曲がる変形を抑制することができる。その結果、長時間にわたって使用した場合であっても、制動力の低下を抑制することができる。
【0029】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものであり、下記の(1)〜(4)の渦電流減速装置を要旨としている。
(1) 永久磁石を用いた「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置、すなわち、回転軸に取り付けられた制動ディスクと、非回転部分に支持されて前記制動ディスクの側方に配置された案内筒と、この案内筒の内部に収容され、前記制動ディスクの回転軸方向に移動可能な保持リングと、この保持リングの円周方向に前記制動ディスクに対向して、隣接する磁極が互いに逆向きに配した複数の永久磁石と、この永久磁石と対向するように前記案内筒の端面に配設された強磁性材とを設け、前記永久磁石を回転軸方向に移動自在とした渦電流減速装置であって、前記制動ディスクを永久磁石からの磁束が作用する外周部分と、その内側で永久磁石からの磁束が作用しない内周部分とで構成し、内周部分の肉厚を前記外周部分の肉厚より薄くしたことを特徴とする渦電流減速装置である。
(2) 永久磁石を用いた「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置であって、前記制動ディスクを永久磁石からの磁束が作用する外周部分と、その内側で永久磁石からの磁束が作用しない内周部分とで構成し、内周部分の肉厚を前記外周部分の肉厚より厚くしたことを特徴とする渦電流減速装置である。
(3) 「ポールピースレス方式」の渦電流減速装置、すなわち、回転軸に取り付けられた制動ディスクと、非回転部分に支持されて前記制動ディスクの側方に配置された案内筒と、この案内筒の内部に収容され、前記制動ディスクの回転軸方向に移動可能な保持リングと、この保持リングの円周方向に前記制動ディスクに対向して、隣接する磁極が互いに逆向きに配した複数の永久磁石とを設け、前記案内筒は永久磁石と対向する端面を含む全体を非磁性材で構成し、前記永久磁石を回転軸方向に移動自在とした渦電流減速装置であって、前記制動ディスクを永久磁石からの磁束が作用する外周部分と、その内側で永久磁石からの磁束が作用しない内周部分とで構成し、内周部分の肉厚を前記外周部分の肉厚より薄くしたことを特徴とする渦電流減速装置である。
(4) 「ポールピースレス方式」の渦電流減速装置であって、前記制動ディスクを永久磁石からの磁束が作用する外周部分と、その内側で永久磁石からの磁束が作用しない内周部分とで構成し、内周部分の肉厚を前記外周部分の肉厚より厚くしたことを特徴とする渦電流減速装置である。
【0030】
【発明の実施の形態】
前述の通り、本発明の渦電流減速装置に用いられる制動ディスクでは、使用状態によって、制動ディスクの表面に熱疲労亀裂が発生したり、制動ディスクが変形して制動力が低下することがある。まず、制動ディスクに発生する熱疲労亀裂は、制動時に永久磁石と対向する制動ディスクの表面が高温になり、非弾性ひずみが発生するが、制動および非制動の繰り返しによって、この非弾性ひずみが繰り返し負荷されることによって発生する。
【0031】
一般的に、繰り返し負荷される非弾性ひずみの値が大きいほど、熱疲労亀裂は発生し易くなる。このため、制動ディスクでの熱疲労亀裂の発生を抑制するには、制動ディスクに生じる非弾性ひずみを低い値に抑制すればよい。
【0032】
さらに、制動ディスクに非弾性ひずみが発生する要因として、制動ディスクの内周部分が回転軸に固定されているため、制動ディスクの温度上昇にともなう、半径方向の熱膨張が拘束されることがある。
【0033】
したがって、制動ディスクの内周部分の肉厚を外周部分に比べて薄くすることにより、制動ディスクの半径方向の熱膨張を拘束する力を低減することができる。このように制動ディスクを構成することによって、繰り返し負荷される非弾性ひずみの値を小さくして、熱疲労亀裂の発生を抑制する。
【0034】
図4は、熱疲労亀裂の発生を抑制するため、制動ディスクの内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より薄くした構成を示す図である。同図に示すように、本発明の渦電流減速装置に用いられる制動ディスク2は、永久磁石と対向して、永久磁石からの磁束が作用する外周部分2aと、その内側で永久磁石からの磁束が作用しない内周部分2bとで構成されている。
【0035】
制動時には、永久磁石と対向する外周部分2aの表面が高温になり、非弾性ひずみが発生するが、制動および非制動の繰り返しによって、この非弾性ひずみが繰り返し負荷される。このとき、永久磁石と対向しない内側にある内周部分2bの肉厚を外周部分2aの肉厚より薄くすることによって、負荷される非弾性ひずみの値を小さくすることができる。後述する実施例からは、内周部分2bの肉厚を外周部分2aの肉厚より20%以上薄くするのが望ましい。
【0036】
図4(a)に示す制動ディスクでは、平円板状のディスクを作製した後、内周部分を平切削して仕上げている。同(b)および(c)は、厚肉の外周用円板と薄肉の内周用円板とを組み合わせて制動ディスクを作製している。外周用円板と内周用円板との接合には、通常、円周溶接が施されるが、ボルトなどを用いて両者を固定するようにしてもよい。
【0037】
図4(a)に示す制動ディスクでは、内周部分と外周部分との肉厚を連続的に変化させたが、2段階または3段階において段階的に変化させるようにしてもよい。また、。同(b)および(c)に示す制動ディスクでは、外周用円板と内周用円板を同材質で構成しても、異材質で構成してもよい。
【0038】
制動ディスクを長時間にわたって使用すると、制動ディスクは熱変形によって、回転軸方向であって永久磁石と反対方向に倒れるように反って変形することがある。この変形量が大きくなると、制動ディスクと永久磁石との距離が広くなり、制動ディスクに作用する磁束密度が減少して制動力が低下する。
【0039】
熱変形にともなって、制動ディスクが回転軸方向に変形する要因は、制動ディスクの永久磁石と対向する表面が高温となり、肉厚方向に温度差が生じるためである。このとき、高温となる制動ディスクの表面側の熱膨張量が大きいため、制動ディスクは永久磁石と反対方向となる回転軸方向に倒れるように反る。
【0040】
すなわち、制動ディスクの内周部分は回転軸に固定されているため、制動ディスクの変形は、高温の外周部分部だけではなく、その内側の内周部分から、断面が折れ曲がるように、永久磁石と反対方向に倒れるように変形する。
【0041】
制動ディスクの内周部分に回転軸方向に折れ曲がりが発生すると、外周部分になるにしたがって、制動ディスクと永久磁石との距離が広がって、制動力が徐々に低下することになる。
【0042】
そのため、制動ディスクの内周部分の肉厚を厚くして剛性を増すと、内周部分から断面が折れ曲がるような変形を抑制できることから、制動ディスクと永久磁石との距離の広がりを防止できる。この場合には、変形する位置を外周側に移動することができるため、制動ディスクの変形量の絶対値を低減することが可能となる。
【0043】
このようなことから、制動ディスクを永久磁石からの磁束が作用する外周部分と、その内側の永久磁石と対向しない内周部分とで構成し、内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より厚くすることによって、制動ディスクを長時間にわたって使用した場合であっても、制動力の低下を抑制し、安定化を図ることができる。
【0044】
図5は、長時間の使用による制動力の低下を抑制するため、制動ディスクの内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より厚くした構成を示す図である。同図に示す構成では、制動ディスク2の内周部分2bの剛性を増しているので、制動時に内周部分2bから断面が折れ曲がるような変形を抑制でき、制動ディスク2と永久磁石との距離の広がりを防止できる。後述する実施例からは、内周部分2bの肉厚を外周部分2aの肉厚より20%以上厚くするのが望ましい。
【0045】
図5(a)に示す制動ディスクでは、平円板状のディスク2を作製した後、外周部分2aを平切削して仕上げている。同(b)および(c)は、薄肉の外周用円板と厚肉の内周用円板とを組み合わせて制動ディスクを作製している。外周用円板と内周用円板との接合は、円周溶接でもよく、ボルトなどによる接合であってもよい。また、制動ディスクの内周部分と外周部分との肉厚変化の状況や、外周用円板と内周用円板の材質組み合わせは、前記図4に示す制動ディスクの場合と同様に、同材質で構成しても、異材質で構成してもよい。
【0046】
以上説明したように、本発明の渦電流減速装置に用いられる制動ディスクの構成は、制動時の熱変形によって、制動ディスクの表面に熱疲労亀裂が発生したり、制動ディスクが変形することを回避するものであるから、永久磁石を用いた「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置であっても、また「ポールピースレス方式」の渦電流減速装置であっても適用できる。これにより、いずれの渦電流減速装置であっても、耐久性を向上させ、装置寿命を延長させることができる。
【0047】
また、本発明の制動ディスクの構成を採用するに際し、制動ディスクの内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より薄くするか、または厚くするか、いずれの構成を採用するかは、制動ディスクの表面に発生する熱疲労亀裂や熱変形の状態に応じて検討することになる。
【0048】
【実施例】
以下に、本発明の渦電流減速装置に用いられる制動ディスクの具体的な効果を、実施例1および2に基づいて説明する。
(実施例1)
熱疲労亀裂の抑制効果を確認するため、前記図4(a)〜(c)に示すような、制動ディスクの内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より薄くする構成からなる制動ディスクを用いて耐久試験を実施した。耐久試験に供した制動ディスク2は、CrMo系の低合金鋼からなり、全体寸法は外径で450mm、内径で130mmとした。また、永久磁石と対向して磁束が作用する外周部分2aの肉厚は10mmとした。
【0049】
図4(a)に示す制動ディスクは、直径が270mmの位置から最外周部(外径450mm)まで均一肉厚(10mm)で、直径が250mmの位置から最内周部(内径130mm)までの肉厚を7mmまたは9mmに変化させた。また、直径が250mmの位置から270mmの位置までの間は傾斜させて連続的に厚さが変化するよう加工した。
【0050】
図4(b)および(c)に示す制動ディスクは、外周用円板2aを外径450mmで内径を240mm〜290mmの範囲で変化させ、内周用円板2bを内径130mmで外形を260mm〜300mmの範囲で変化させた。さらに、外周用円板2aと内周用円板2bとの接合は、円周溶接を実施した。
【0051】
耐久試験では、前記図1に示す渦電流減速装置を用いて、制動ディスクを2,000rpmで回転させ、制動に切り替え後、永久磁石と対向する制動ディスクの表面温度が650℃になった時点で、非制動に切り替え、100℃まで冷却した時点で、再度、制動に切り替える操作を繰り返した。
【0052】
熱疲労亀裂の抑制効果を調査するため、制動および非制動を1,000サイクル繰り返すごとに制動ディスクの表面を観察し、熱疲労亀裂の有無を観察した。耐久試験は、最高で10,000サイクルまで試験を行った。比較のため、外径450mmおよび内径130mmで肉厚10mm均一の平板からなる制動ディスクを作製し、耐久試験に供した。制動ディスクの形状および耐久試験の結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
比較例の試験No.9は、2000サイクルの時点で永久磁石と対向する制動ディスク表面に熱疲労亀裂が観察された。その後、亀裂の数および深さが増加し、4000サイクルの時点で制動ディスクのほば全周に深い亀裂が発生したため、その時点で試験を中止した。
【0055】
本発明例のうち試験No.1および2は、それぞれ7,000サイクルまたは4,000サイクルで亀裂が観察された。10,000サイクル後には、制動ディスク表面の一部に、浅い亀裂が発生していた。
【0056】
本発明例のうち試験No.3〜5は、いずれも10,000サイクル後においても亀裂が観察されなかった。本発明例で図4(c)に示した形状の制動ディスクでは、試験No.6および7は、それぞれ7,000サイクルまたは9,000サイクルで亀裂が観察され、10,000サイクル後には、制動ディスク表面の一部に、浅い亀裂が発生していた。一方、試験No.8は、10,000サイクル後においても亀裂が観察されなかった。
【0057】
以上の結果から、本発明例で示すように、制動ディスクの内周部分または内周用円板の肉厚を外周部分または外周用円板の肉厚より薄く構成することによって、制動ディスク表面の亀裂発生までの寿命が長く、耐久性が高いことが確認できた。特に、本発明例の試験No.6の結果から、内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より20%以上薄くするのが望ましいことが分かる。
(実施例2)
制動ディスクの変形防止の効果を確認するため、前記図5(a)〜(c)に示すような、制動ディスクの内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より厚くする制動ディスクを用いて耐久試験を実施した。耐久試験に供した制動ディスク2は、CrMo系の低合金鋼からなり、全体寸法は外径で450mm、内径で130mmとした。また、永久磁石と対向して磁束が作用する外周部分2aの肉厚は10mmとした。
【0058】
図5(a)に示す制動ディスクは、直径が270mmの位置から最外周部(外径450mm)まで均一肉厚(10mm)で、直径が250mmの位置から最内周部(内径130mm)までの肉厚を20mmおよび15mmに変化させた。また、直径が250mmの位置から270mmの位置までの間は傾斜させて連続的に厚さが変化するよう加工した。さらに、図5(b)および(c)に示す制動ディスクは、前述の図4(b)および(c)に示す制動ディスクと同じ構成とした。
【0059】
耐久試験では、前記図3に示す渦電流減速装置を用いて、制動ディスクを2,000rpmで回転させ、制動に切り替え後、永久磁石と対向する制動ディスクの表面温度が650℃になった時点で、非制動に切り替え、100℃まで冷却した時点で、再度、制動に切り替える操作を繰り返した。
【0060】
制動ディスクの変形を確認するため、制動および非制動を1,000サイクル繰り返すごとに制動トルクを測定し変形の程度を観察した。耐久試験は、最高で10,000サイクルまで試験を行った。試験が10,000サイクルに到達するまでに、制動トルクが初期(1サイクル目)のものに比べて10%以上低下した場合は、その時点で試験を中止した。
【0061】
比較のため、外径450mmおよび内径130mmで肉厚10mm均一の平板からなる制動ディスクを作製し、耐久試験に供した。制動ディスクの形状および耐久試験の結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
比較例の試験No.11は、2000サイクル後の制動トルクが初期トルクに比べて10%以上低下したため、その時点で試験を中止した。
【0064】
本発明例のうち試験No.1および2は、それぞれ8,000サイクルまたは7,000サイクルの時点で制動トルクが初期のものから10%以上低下した。一方、試験No.3〜5は、いずれも10,000サイクル後においても、初期トルクからのトルク低下率が10%以内と良好な結果であった。
【0065】
本発明例のうち試験No.6および7は、それぞれ7,000サイクルまたは9,000サイクルの時点で制動トルクが初期トルクから10%以上低下したため、試験を中止した。これに対し、試験No.8は、10,000サイクル後においてもトルクの低下率が10%以内と良好であった。さらに、試験No.9および10では内周部分と外周部分の肉厚差を小さくしたが、それぞれ7,000サイクルまたは4,000サイクルの時点で試験を中止した。
【0066】
以上の結果から、本発明例で示すように、制動ディスクの内周部分または内周用円板の肉厚を外周部分または外周用円板の肉厚より厚くすることによって、長時間にわたって連続使用する場合でも、制動力の低下が小さく、耐久性が高いことが確認できた。特に、本発明例の試験No.9の結果から、内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より20%以上厚くするのが望ましいことが分かる。
【0067】
【発明の効果】
本発明の渦電流減速装置によれば、永久磁石を用いた「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置であっても、「ポールピースレス方式」の渦電流減速装置であっても、制動時の磁気効率に優れ、簡易な構造で小型、軽量化が可能であるとともに、頻繁に制動および非制動を繰り返す場合であっても、熱疲労亀裂の発生を防止し、長時間にわたって使用した場合であっても、制動ディスクの変形が抑制され、安定した制動力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】永久磁石を用いた「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置の制動時の構成例を説明する図である。
【図2】永久磁石を用いた「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置の非制動時の構成例を説明する図である。
【図3】強磁性体(ポールピース)を用いない「磁石極面対向方式」の渦電流減速装置の構成を示す図である。
【図4】熱疲労亀裂の発生を抑制するため、制動ディスクの内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より薄くした構成を示す図である。
【図5】長時間の使用による制動力の低下を抑制するため、制動ディスクの内周部分の肉厚を外周部分の肉厚より厚くした構成を示す図である。
【符号の説明】
1:回転軸、 2:制動ディスク
2a:外周部分、外周用円板
2b:内周部分、内周用円板
3:案内筒、 4:保持リング
5:シリンダー、 6:ピストンロッド
7:永久磁石、 8:強磁性材、ポールピース
Claims (4)
- 回転軸に取り付けられた制動ディスクと、非回転部分に支持されて前記制動ディスクの側方に配置された案内筒と、この案内筒の内部に収容され、前記制動ディスクの回転軸方向に移動可能な保持リングと、この保持リングの円周方向に前記制動ディスクに対向して、隣接する磁極が互いに逆向きに配した複数の永久磁石と、この永久磁石と対向するように前記案内筒の端面に配設された強磁性材とを設け、前記永久磁石を回転軸方向に移動自在とした渦電流減速装置であって、前記制動ディスクを永久磁石からの磁束が作用する外周部分と、その内側で永久磁石からの磁束が作用しない内周部分とで構成し、内周部分の肉厚を前記外周部分の肉厚より薄くしたことを特徴とする渦電流減速装置。
- 回転軸に取り付けられた制動ディスクと、非回転部分に支持されて前記制動ディスクの側方に配置された案内筒と、この案内筒の内部に収容され、前記制動ディスクの回転軸方向に移動可能な保持リングと、この保持リングの円周方向に前記制動ディスクに対向して、隣接する磁極が互いに逆向きに配した複数の永久磁石と、この永久磁石と対向するように前記案内筒の端面に配設された強磁性材とを設け、前記永久磁石を回転軸方向に移動自在とした渦電流減速装置であって、前記制動ディスクを永久磁石からの磁束が作用する外周部分と、その内側で永久磁石からの磁束が作用しない内周部分とで構成し、内周部分の肉厚を前記外周部分の肉厚より厚くしたことを特徴とする渦電流減速装置。
- 回転軸に取り付けられた制動ディスクと、非回転部分に支持されて前記制動ディスクの側方に配置された案内筒と、この案内筒の内部に収容され、前記制動ディスクの回転軸方向に移動可能な保持リングと、この保持リングの円周方向に前記制動ディスクに対向して、隣接する磁極が互いに逆向きに配した複数の永久磁石とを設け、前記案内筒は永久磁石と対向する端面を含む全体を非磁性材で構成し、前記永久磁石を回転軸方向に移動自在とした渦電流減速装置であって、前記制動ディスクを永久磁石からの磁束が作用する外周部分と、その内側で永久磁石からの磁束が作用しない内周部分とで構成し、内周部分の肉厚を前記外周部分の肉厚より薄くしたことを特徴とする渦電流減速装置。
- 回転軸に取り付けられた制動ディスクと、非回転部分に支持されて前記制動ディスクの側方に配置された案内筒と、この案内筒の内部に収容され、前記制動ディスクの回転軸方向に移動可能な保持リングと、この保持リングの円周方向に前記制動ディスクに対向して、隣接する磁極が互いに逆向きに配した複数の永久磁石とを設け、前記案内筒は永久磁石と対向する端面を含む全体を非磁性材で構成し、前記永久磁石を回転軸方向に移動自在とした渦電流減速装置であって、前記制動ディスクを永久磁石からの磁束が作用する外周部分と、その内側で永久磁石からの磁束が作用しない内周部分とで構成し、内周部分の肉厚を前記外周部分の肉厚より厚くしたことを特徴とする渦電流減速装置。
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