JP2946888B2 - 列型燃料噴射ポンプ - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、エンジンにより回転さ
れるカムシャフトに形成したカムの回転によりプランジ
ャを往復運動させ、このプランジャにより燃料を供給す
る列型燃料噴射ポンプに係り、特にカムの回転をプラン
ジャの往復運動に変換するタペットの構造に関する。

【０００２】

【従来の技術】エンジンに燃料を供給するための列型燃
料噴射ポンプは、エンジンにより回転駆動されるカムシ
ャフトに、軸方向に沿って複数のカムを形成し、これら
カムの回転をそれぞれタペットにより往復運動に変換し
てプランジャに伝え、これらプランジャの往復運動によ
りポンプ室内の燃料を加圧して各気筒に設けた噴射弁に
供給するようにしている。

【０００３】上記カムの回転をプランジャの往復運動に
変換するために用いられている上記タペットは、実公昭
６３−１６８６０号公報にも示されている通り、ポンプ
ハウジングの内壁に沿ってプランジャの往復運動と同方
向に摺動可能なタペット本体と、このタペット本体に形
成されて上記カムシャフトと略平行な挿通孔に挿通され
たタペットピンと、このタペットピンに取着され上記カ
ムに当接されるカムローラとを備えており、上記タペッ
トピンの一端側に環状のリング溝を設けるとともに、上
記挿通孔の一端側の内面に上記リング溝と対向する内溝
を形成し、これらリング溝と内溝とに亘って止め輪を嵌
め込むことによりこの止め輪で上記タペットピンをタペ
ット本体に係止させる構造が採用されている。

【０００４】ところで、最近では、ディーゼル機関の排
ガス対策として燃料の高圧噴射が有効であることから燃
料噴射ポンプの吐出圧の高圧化が進められている。吐出
圧を高くするにはカムのリフトを高くする必要がある。
しかし、このようにするとタペットにかかる負荷が増大
し、タペットピンの焼き付きが心配される。

【０００５】すなわち、上記燃料噴射ポンプのタペット
ピンについて、その荷重の加わり具合を図７にもとづき
説明する。

【０００６】図７の（Ａ）図は、カムシャフトに対する
荷重のかかり具合を模式的に示すもので、カムシャフト
は両端部が軸受によりポンプハウジングに支持され、そ
の途中箇所に設けたカムにカムローラが当接するので、
両端支持のはりに荷重が作用しているものと考えること
ができる。ここで、カムシャフトがはり５０に相当し、
軸受が支点５１、５１となり、かつカムローラの接触点
が力点５２に相当する。

【０００７】カムシャフトの回転によってタペットが往
復運動され、この動きでプランジャを押して燃料を噴射
する時、燃料の噴射抵抗によりタペットに反力が加えら
れ、タペット側のカムローラがカムシャフトを押すので
カムシャフトに荷重が加わり、カムシャフトは想像線で
示すようにたわむ。なお、この時のたわみ量およびたわ
み角θは計算により知ることができる。

【０００８】このような荷重が作用する初期の段階で
は、カムローラが軸方向に沿う全幅長で接触している
が、上記のような荷重によるたわみが生じると図７
（Ｂ）図に示すように、カムローラ２４は一端部、図示
の場合は左端部でカム７に局所的に当接するようにな
る。この場合、タペット本体２１はポンプハウジング１
に案内されて摺動するから傾きが規制されており、上記
カムローラ２４の左端部には局部荷重が集中して発生
し、このためタペットピン２３には同図（Ｃ）に示すよ
うな圧力分布が発生する。

【０００９】ここでプラス（＋）方向の圧力はタペット
本体２１とタペットピン２３との間に発生する圧力であ
り、マイナス（−）方向はタペットピン２３とカムロー
ラ２４との間に発生する圧力を示す。

【００１０】上記の圧力分布から判る通り、タペットピ
ン２３には軸方向に沿って接触面圧の不均衡が生じる。

【００１１】

【発明が解決しようとする課題】ところで、先に説明し
たように、タペットピン２３をタペット本体２１に係止
させる手段として、タペットピン２３の一端側にリング
溝２５を設けるとともに、タペット本体２１に形成した
挿通孔２２の一端側の内面に上記リング溝２５と対向す
る内溝２６を形成し、これらリング溝２５と内溝２６と
に亘って止め輪２７を嵌め込む構造が採用されている。

【００１２】すなわち、タペットピン２３の一端側の周
面にリング溝２５を形成した場合、実質的にこの部分の
受圧面積が減少する。したがって、このような受圧面積
の減少する箇所に前記した局部荷重による高い接触面圧
が加わると、焼き付きを生じたり、摩耗が大きくなり、
ポンプ寿命を縮める原因となる。

【００１３】本発明はこのような事情にもとづきなされ
たもので、その目的とするのは、タペットピンにおける
受圧面積の減少する箇所に高い接触面圧が加わるのを回
避し、焼き付きや摩耗を防止してポンプの長寿命化を可
能にした列型燃料噴射ポンプを提供しようとするもので
ある。

【００１４】

【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
本発明は、カムシャフトに設けたカムの回転運動をプラ
ンジャの往復運動に変換するためのタペットは、プラン
ジャの往復運動と同方向に摺動可能なタペット本体と、
このタペット本体に形成された挿通孔に挿通されたタペ
ットピンと、このタペットピンに取着され上記カムに当
接されるカムローラとからなり、上記タペットピンの一
端側にリング溝を設けるとともに、上記挿通孔の一端側
の内面に上記リング溝と対向する内溝を形成し、これら
リング溝と内溝とに亘って止め輪を嵌め込むことにより
上記タペットピンをタペット本体に係止させた列型燃料
噴射ポンプにおいて、各タペットピンの端部に取着され
る止め輪は、各タペットに最も近い軸受から離れる方向
の端部に取着したことを特徴とする。

【００１５】

【作用】本発明によれば、タペットピンに形成されるリ
ング溝を軸受から離れる方向の端部に形成すれば接触面
圧の低い部分にリング溝が形成されることになり、これ
は図７（Ｃ）図における想像線で示す領域に形成される
ためこの部分で受圧面積が減少しても接触面圧が低いの
で焼き付きや摩耗が防止されることになり、ポンプ寿命
を長くすることができる。

【００１６】

【実施例】以下本発明について、図１ないし図４に示す
第１の実施例にもとづき説明する。

【００１７】図において１はポンプハウジングを示し、
このポンプハウジング１内には、下部にカム室２が形成
されている。カム室２にはカムシャフト３が挿通されて
おり、このカムシャフト３は軸受４、４により回転自在
に支持されている。軸受４、４はポンプハウジング１に
取着したベアリングカバ−５、６により支持されてい
る。

【００１８】カムシャフト３は図示しないエンジンによ
り回転駆動されるようになっており、このカムシャフト
３には軸方向に間隔を存してカム７…が形成されてい
る。これらカム７…は互いに回転位相が異なるカム面を
有している。なお、カム７…は、カムシャフト３に一体
成形してもよく、または別に形成して一体に回転するよ
うに取付けてもよい。

【００１９】なお、カム室２には潤滑オイルが収容され
ており、上記カム７…の下部はこの潤滑オイルに浸漬さ
れている。よってカム７の外周面は潤滑オイルにより潤
滑される。

【００２０】ポンプハウジング１の上部には、複数のプ
ランジャバレル８…が上記カムシャフト３の軸方向に沿
って一列に配列して嵌挿されている。各プランジャバレ
ル８にはポンプ室９が形成されており、これらポンプ室
９にはそれぞれプランジャ１０の上端部が摺動自在に嵌
挿されている。

【００２１】各プランジャ１０の下端にはタペット２０
が連結されており、これらタペット２０は後述するが、
タペットピン２３を介してカムロ−ラ２４を回転自在に
支持している。各タペット２０のカムロ−ラ２４は上記
カムシャフト３のカム７に当接している。

【００２２】上記プランジャ１０は上下のばね座１１、
１２の間に掛け渡されたスプリング１３により常時下向
きに押されており、したがって上記カムロ−ラ２４はカ
ム７に対して所定の押圧力で下向きに圧接されている。
カム７の回転によりカムロ−ラ２４を介してプランジャ
１０が押し上げられ、このプランジャ１０はプランジャ
バレル８のポンプ室９に吸引した燃料を押圧し、この燃
料の圧力が吐出弁１４の開弁圧以上になると、ポンプ室
４の高圧燃料が吐出口体１５を通じてエンジンの噴射弁
（図示しない）へ供給されるようになっている。

【００２３】上記タペット２０について説明する。タペ
ット２０は、図３に示すように、プランジャの往復運動
と同方向に運動するタペット本体２１を有し、このタペ
ット本体２１には上記カムシャフト３と平行するように
挿通孔２２を形成してある。この挿通孔２２にはタペッ
トピン２３が挿通されており、このタペットピン２３に
は上記カムローラ２４が回転自在に取着されている。そ
して、上記タペットピン２３の一端側には環状をなして
リング溝２５を設けてあり、これに対向して上記挿通孔
２２の一端には、内面に上記リング溝２５と対向する内
溝２６を形成してある。これらリング溝２５と内溝２６
とに亘って止め輪２７が嵌め込まれ、この止め輪２７に
より上記タペットピン２３はタペット本体２１に係止さ
れて抜け出しが防止されている。

【００２４】ところで、上記タペット本体２１はポンプ
ハウジング１に形成した摺動孔１６の内面に沿って往復
運動するようになっており、このタペット本体２１の外
周面には図４に示すように、嵌込み孔２８が形成されて
いる。この嵌込み孔２８にはスライダ２９が嵌合されて
おり、このスライダ２９はタペット本体２１の外周面か
ら外に突出している。このようなスライダ２９に対し、
前記ポンプハウジング１に形成した摺動孔１６には、そ
の内面にタペット２０の往復運動方向に沿って上記スラ
イダ２９が摺動するガイド溝１７を形成してある。

【００２５】このため、タペット本体２１は摺動孔１６
内で、スライダ２９とガイド溝１７の案内作用によりプ
ランジャの往復運動と同方向、つまり図示の上下方向に
に沿って摺動し、この場合スライダ２９とガイド溝１７
の係合によりタペット本体２１はポンプハウジング１に
対して周方向に相対的に回転しないようになっている。

【００２６】ところで、本実施例においては４気筒用の
列型燃料噴射ポンプを示してあり、したがって、カム７
は４個、タペット２０も４個、プランジャ１０も４個
（１個のみ示す）設けられている。そして、各タペット
２０におけるタペットピン２３を固定するための止め輪
２７の取り付け位置は左右で異なる位置に設置してあ
る。つまり、図１および図２に示す通り、中心よりも図
示の左側に位置する２個のタペット２０、２０において
は、タペットピン２３、２３を固定するための止め輪２
７、２７がそれぞれタペットピン２３、２３の右側端部
に設置されており、これら左側に位置する２個のタペッ
ト２０、２０に最も接近する左側の軸受４から遠ざかる
方の端部に上記止め輪２７、２７を取着してある。

【００２７】同じく、中心よりも図示の右側に位置する
２個のタペット２０、２０においては、タペットピン２
３、２３を固定するための止め輪２７、２７がそれぞれ
タペットピン２３、２３の左側端部に設置されており、
これら右側に位置する２個のタペット２０、２０に最も
接近する軸受４、つまり右側の軸受４から遠ざかる方の
端部に上記止め輪２７、２７を取着してある。

【００２８】このような止め輪２７…の取り付け位置を
設定するため、本実施例の場合はポンプハウジング１の
摺動孔１６に形成するガイド溝１７の位置を変えてあ
る。つまり、図２から判るとおり、図示左側に位置する
２個の摺動孔１６におけるガイド溝１７と、図示右側に
位置する２個の摺動孔１６におけるガイド溝１７との位
置は上下反対の関係にあり、このためタペット２０…を
摺動孔１６に嵌挿する場合は各タペット２０の向きが左
右で変り、この結果タペットピン２３…の向きも変わる
ので、各タペット２０…においてはそれぞれこのタペッ
ト２０に近い軸受４から遠ざかる方の端部に止め輪２７
が取着されるようになる。

【００２９】このような構成による第１の実施例の作用
を説明する。

【００３０】燃料噴射作用、つまりポンピング作用によ
りカムシャフト３には、図７に示すような荷重が加わ
り、このためカムシャフト３は想像線で示すように撓み
変形する。

【００３１】このため、カムローラ２４がカム７に対し
て片側端部で当接し、したがってタペットピン２３には
図７の（Ｃ）図に示すような不均衡な接触面圧の分布が
生じる。このような面圧の偏り分布は、各タペット２０
からみてこれに近い軸受４に向かう端部に大きな圧力が
生じる。

【００３２】これに対し、本実施例では、中心よりも図
示の左側に位置する２個のタペット２０、２０において
は、タペットピン２３に対し左側の軸受４から遠ざかる
方の端部に止め輪２７、２７を取着してあり、また中心
よりも図示の右側に位置する２個のタペット２０、２０
においては、タペットピン２３に対し右側の軸受４から
遠ざかる方の端部に止め輪２７、２７を取着してあるの
で、これらの取り付け位置は、図７（Ｃ）図における想
像線で示すような接触面圧の低い部分に止め輪２７が取
り付けられることになる。つまり、タペットピン２３に
形成する環状のリング溝２５は接触面圧の低い部分に形
成されることになるから、リング溝２５を形成したこと
により実質的に受圧面積が減少しても、ここは接触面圧
が低いのでタペットピン２３に焼き付きを生じたり、摩
耗が発生するのが防止され、よってポンプ寿命を長くす
ることができる。

【００３３】また、上記実施例の場合、各タペットピン
２３の向きを変えるためにタペット２０が嵌挿されるポ
ンプハウジング１の摺動孔１６におけるガイド溝１７の
位置を変えるようにしたから、タペット２０は従来と同
様の構造により実施することができる。

【００３４】本発明は上記実施例に制約されるものでは
なく、種々の変形が可能である。

【００３５】すなわち、第１の実施例では、図２に示す
とおり、ポンプハウジング１に形成した図示左側に位置
する２個の摺動孔１６におけるガイド溝１７を図示の下
側に形成するとともに、図示右側に位置する２個の摺動
孔１６におけるガイド溝１７は上下反対に図示の上側に
形成し、これによりタペットピン２３…の向きを変える
ようにしたが、本発明は図５に示す第２の実施例のよう
に、全部の摺動孔１６のそれぞれ図示上下位置にガイド
溝１７を形成し、これらガイド溝１７を選択して用いる
ことにより各タペットピン２３…の向きを変えるように
してもよい。

【００３６】さらに、本発明は、図６に示す第３の実施
例のようにしてもよい。この実施例の場合は、タペット
本体２１の外周面に形成する嵌込み孔２８は、対称位置
に２個形成してあり、これら嵌込み孔２８、２８のいづ
れか一方にスライダ２９を嵌合することができる。この
場合もタペットピン２３…の向きを容易に変えることが
できる。

【００３７】さらに、上記実施例では４気筒用の燃料噴
射ポンプについて説明したが、もちろん６気筒や他の多
気筒用燃料噴射ポンプに適用可能であり、また、カムシ
ャフトの中心部を他の軸受により支持した構造の場合で
あってもよく、要するに軸受に支持されたカムシャフト
におけるこれら軸受間の中心から一方に偏った位置にタ
ペットが設置される場合に適用して有効である。

【００３８】

【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、タ
ペットピンに形成されるリング溝を軸受から離れる方向
の端部に形成したので、リング溝は接触面圧の低い部分
に形成されることになり、したがってリング溝を形成す
ることにより受圧面積が実質的に減少しても、この箇所
は接触面圧が低いので焼き付きや摩耗を防止することが
でき、ポンプ寿命を長くすることができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の第１の実施例を示し、燃料噴射ポンプ
の全体を一部断面して示す正面図。

【図２】図１におけるII−II線に沿う横断面図。

【図３】同実施例におけるタペットの断面図。

【図４】図３におけるIV−IV線の断面図。

【図５】本発明の第２の実施例を示し、図２と同様なポ
ンプハウジングの横断面図。

【図６】本発明の第３の実施例を示すタペットの断面
図。

【図７】従来の技術を示すもので、（Ａ）図はカムシャ
フトに作用する荷重の関係を示す模式図、（Ｂ）図はタ
ペットの断面図、（Ｃ）図はタペットピンの正面図。

【符号の説明】

１…ポンプハウジング、３…カムシャフト、７…カム、
８…プランジャバレル、９…ポンプ室、１０…プランジ
ャ、１３…コイルばね、１６…摺動孔、１７…ガイド
溝、２０…タペット、２１…タペット本体、２２…挿通
孔、２３…タペットピン、２４…カムローラ、２５…リ
ング溝、２６…内溝、２７…止め輪、２８…嵌込み孔、
２９…スライド。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.⁶，ＤＢ名) F02M 59/10 F02M 59/20 F02M 59/28 F04B 9/04

Claims (1)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 エンジンにより回転されるカムシャフト
   を軸受を介してポンプハウジングに取付け、このカムシ
   ャフトに軸方向に沿って複数のカムを形成し、これらカ
   ムにそれぞれタペットを対向させ、上記カムの回転によ
   り各タペットを往復運動させ、これらタペットの運動を
   上記ポンプハウジング内に設置した各プランジャに伝え
   て往復運動させ、これらプランジャにより燃料を圧送す
   るようにし、上記タペットは、プランジャの往復運動と
   同方向に摺動可能なタペット本体と、このタペット本体
   に形成した挿通孔に挿通されたタペットピンと、このタ
   ペットピンに取着され上記カムに当接されるカムローラ
   とからなり、上記タペットピンの一端側にリング溝を設
   けるとともに、上記挿通孔の一端側の内面に上記リング
   溝と対向する内溝を形成し、これらリング溝と内溝とに
   亘って止め輪を嵌め込むことにより上記タペットピンを
   タペット本体に係止させた列型燃料噴射ポンプにおい
   て、 上記各タペットピンの端部に取着される止め輪は、各タ
   ペットに最も近い軸受から離れる方向の端部に取着した
   ことを特徴とする列型燃料噴射ポンプ。