JP2023111899A - 短葯形質を有するイネ、及びその製造方法 - Google Patents

短葯形質を有するイネ、及びその製造方法 Download PDF

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均 吉田
Hitoshi Yoshida
剛 黒羽
Takeshi Kuroba
フェビエン ロンバルド
Lombardo Fabien
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Abstract

【課題】短葯形質を有するイネの製造方法等を提供すること。【解決手段】イネの、特定のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の機能を人為的に抑制する工程を含む、短葯形質を有するイネの製造方法である。【選択図】なし

Description

本発明は、短葯形質を有するイネ、及びその製造方法に関する。
イネは、基本的に高頻度で自家受粉する植物であるものの、開花後に花粉を外部にも飛散させるため、低頻度ながら他家受粉もすることが知られている。
そのため、生産者や消費者の中には、遺伝子組換え作物が周辺の一般栽培作物に交雑・混入することについて強い懸念があり、遺伝子組換え作物を実用化する上で大きな障害となっている。花粉の飛散による周辺の野生植物や同種作物との交雑を防止するためには、栽培距離の確保、開花時期が重ならないような栽培時期の調整、摘花、除雄、花への袋がけ、防風ネットの設置等が行われるが、いずれの場合も多大な労力を要する。
また、水稲の種子生産現場においても異品種混入が大きな問題となっており、自然交雑により発生した異株の発見・抜き取り作業に多くの労力を要している。これは、高齢化が進み人手不足である水稲種子生産農家にとって大きな負担となる。
以上のことから、労力をかけずに交雑を抑制する方法等が求められており、このような方法として、例えば、開花せずに受粉する形質を有するイネ(閉花受粉性イネ)の利用が考えられている。閉花受粉性を有する水稲品種等のイネが実用化出来れば、品種の純度維持がより低コストで可能となり、種子生産の持続的かつ安定的維持に寄与できることが期待される。
かかる背景の下、開花に関与する器官である鱗被の形成不全によって、閉花受粉性を有する突然変異体spw1-cls1の実用化が試みられている(特許文献1)。しかしながら、当該突然変異体は、低温下では穎花形成時期に開花することが明らかにされており、新たな交雑抑制技術の開発が望まれている。
この点に関し、san-1(short anther)は、T65を原品種として、化学変異源物質によって誘発された突然変異体であり、葯長が、野生型に比べて約30%減少する短葯性を示す(非特許文献1)。そして、かかる葯の短さ故、葯が頴から抽出し難く、また花粉も飛散し難いため、新たな交雑抑制技術としての利用が期待される。
しかながら、この突然変異体の表現型に関与する原因遺伝子は未だ同定されていない。そのため、T65以外の品種において、かかる短葯形質を有する系統を作出すること、ひいては当該系統を利用して交雑を抑制することは困難であった。
特開2007-300876号公報
科学研究費助成事業 2016年度 研究成果報告書、研究代表者 吉田 均、研究課題名:イネの花器官サイズの制御機構の解明、公開日:2018年3月22日
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、san-1における短葯形質に関与する原因遺伝子を同定し、当該遺伝子を標的とする短葯形質を有するイネの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成すべく、先ず、短葯形質を有するイネの突然変異体 san-1とイネ品種カサラスを交配し、F2集団を用いたマップベースクローニングを行った。その結果、原因遺伝子は第5染色体上のマーカーRM18639とRM6841の間に存在すると予想された。さらに候補領域を絞り込んだ結果、候補領域はマーカーIRIC11とRM18719の間に存在すると予想された。この候補領域内にはRAP-DBデータベース上に20遺伝子も存在していた。次に、遺伝子配列を比較したところ、san-1において、遺伝子Os05g0421300の翻訳開始点から数えて236番目のグアニンがアデニンに置換することにより、未成熟終始コドンが生じていることを見出した。
そこで、当該候補遺伝子(配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子)内の第1エキソンにおいて、異なる2箇所にガイドRNAを設計し、CRISPR/Cas9法でのゲノム編集を用いてフレームシフト変異を引き起こした。さらに、第2エキソンにおいても、ゲノム編集を用いてフレームシフト変異を引き起こした。その結果、いずれのガイドRNAを用いた場合においてもsan-1と同様の短葯性を示したため、当該遺伝子がsan-1における短葯形質に関与する原因遺伝子であることが遂に明らかとなり、本発明を完成するに至った。したがって、本発明は以下を提供するものである。
<1> 短葯形質を有するイネの製造方法であって、
イネの、下記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の機能を人為的に抑制する工程を含む、方法
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを含む遺伝子。
<2> 下記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の機能が人為的に抑制された、短葯形質を有するイネ
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを含む遺伝子。
本発明によれば、短葯形質を有するイネを製造することが可能となる。当該イネは、その短葯故、葯が頴から抽出し難く、また花粉も飛散し難い。そのため、他のイネ等との交雑を抑制することも可能となる。
イネ突然変異体san-1は短葯形質を有することを示す図である。図中、(A)は、野生型(T65)及びsan-1に関し、外穎を取り除いた穎花を各々観察した結果を示す写真である。(B)は、野生型と比較してsan-1は、葯長が30%程短縮していることを示すグラフである。(C)は、内穎長においては、野生型とsan-1とで有意な差はみられないことを示すグラフである。 san-1における原因遺伝子のマッピング経緯を示す、概要図である。原因遺伝子の候補領域であるマーカーIRIC11とRM18719の間において、RAP-DBデータベースで推測される遺伝子の領域を矢印で示す。これらの20遺伝子のうち、遺伝子Os05g0421300がsan-1の原因遺伝子として同定された。 san-1の原因遺伝子にみられた塩基置換の概要を示す図である。遺伝子Os05g0421300の翻訳開始点から数えて236番目のグアニン(G)がアデニン(A)に置換することにより、本来トリプトファン(W)をコードするコドンが未成熟終始コドン(stop)に変化していた。 イネSAN遺伝子の構造を示す、概略図である。イネSAN遺伝子は、N末端側にARM(Armadillo repeat)ドメイン、C末端側にTPR(tetratricopeptide repeat)ドメインを持つ601アミノ酸をコードする。 イネゲノム編集ベクターの概略を示す図である。 イネsan-CR1ゲノム編集体における塩基挿入部位を示す、概略図である。イネSAN遺伝子の翻訳開始点から数えて392番目と393番目の塩基の間にチミンが挿入することにより、フレームシフトが生じていた。 イネsan-CR2ゲノム編集体における塩基挿入部位を示す、概略図である。イネSAN遺伝子の翻訳開始点から数えて153番目と154番目の塩基の間にチミンが挿入することにより、フレームシフトが生じていた。 イネSANゲノム編集体における短葯化を観察した結果を示す、写真である。san-CR1、san-CR2いずれのゲノム編集体においても、san-1と同様の短葯性がみられた。 イネsan-CR3ゲノム編集体における塩基挿入部位を示す、概略図である。イネSAN遺伝子の翻訳開始点から数えて1667番目と1668番目の塩基の間にチミンが挿入することにより、フレームシフトが生じていた。 イネSAN-CR3ゲノム編集体における短葯化を観察した結果を示す、写真及びグラフである。san-CR3#3ゲノム編集体(#5)では、san-CR2編集体(#14-1)よりも弱い短葯性がみられた。
(短葯形質を有するイネの製造方法)
後述の実施例に示すとおり、本発明者らは、マップベースクローニング等によって、短葯形質を有するイネの系統であるsan-1(short anther)の表現型に関与する候補遺伝子(配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子)を選抜した。さらに、当該遺伝子の機能をゲノム編集法により抑制することによって、野生型のイネに短葯形質を付与することに成功した。したがって、本発明の短葯形質を有するイネの製造方法は、前記遺伝子(短葯遺伝子)の機能を人為的に抑制する工程を含むことを特徴とし、より具体的には以下を提供する。
短葯形質を有するイネの製造方法であって、
イネの、下記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の機能を人為的に抑制する工程を含む、方法
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを含む遺伝子。
本発明において、「短葯形質」とは、雄蕊の葯の長さ(葯長)が短縮する形質を意味する。ここで「葯長」とは、略楕円形である葯の縦(長軸)の長さを意味する。また「短縮」とは、例えば、本発明にかかる短葯遺伝子の機能を人為的に抑制する前(例えば、野生型のイネ)と比較して10%以上(好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上)短くなることが挙げられる。
本発明において、短葯形質の付与対象となる「イネ」としては、イネ科イネ属に属する植物であれば、特に制限はなく、例えば、ジャポニカ種であってもよく、インディカ種であってもよい。また野生種であってもよく、栽培種であってもよい。さらに、これらイネの遺伝子組み換え体やゲノム編集体(例えば、病害耐性作物、除草剤耐性作物、害虫耐性作物、食味向上作物、保存性向上作物、収量向上作物)であってもよい。このように、本発明において、短葯形質の付与対象となるイネとしては、特に制限はないが、より交雑を抑制するという観点から、閉花受粉性を有するイネが好ましい。かかるイネとしては、より具体的に、spw1-cls1、spw1-cls2(Lombardo F.et al.、Plant Biotechnol.J.、2017年、15巻、97~106ページ)が挙げられる。
本発明において機能抑制の対象となる「短葯遺伝子」として、典型的なアミノ酸配列をコードする遺伝子の例は、下記表1に示すとおりである。
なお、自然界においてもヌクレオチド配列が変異することは起こり得ることである。そして、それに伴いコードするアミノ酸も変化し得る。したがって、本発明の短葯遺伝子には、その機能が抑制されることによって短葯形質を付与し得る限り、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。
ここで「複数」とは、通常120アミノ酸以内、好ましくは90アミノ酸以内、より好ましくは60アミノ酸以内、さらに好ましくは55アミノ酸以内、より好ましくは50アミノ酸以内、さらに好ましくは45アミノ酸以内、より好ましくは40アミノ酸以内、さらに好ましくは35アミノ酸以内、より好ましくは30アミノ酸以内(例えば、25アミノ酸以内、20アミノ酸以内、15アミノ酸以内)、特に好ましくは10アミノ酸以内(例えば、9アミノ酸以内、8アミノ酸以内、7アミノ酸以内、6アミノ酸以内、5アミノ酸以内、4アミノ酸以内、3アミノ酸以内、2アミノ酸)である。
さらに、現在の技術水準においては、当業者であれば、特定の遺伝子が得られた場合、その遺伝子のヌクレオチド配列情報を利用して、同種の植物から、その相同遺伝子を同定することが可能である。相同遺伝子を同定するための方法としては、例えば、ハイブリダイゼーション技術(Southern,E.M.,J.Mol.Biol.,98:503,1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki,R.K.,et al.Science,230:1350-1354,1985、Saiki,R.K.et al.Science,239:487-491,1988)が挙げられる。相同遺伝子を同定するためには、通常、ストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行なう。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件としては、6M 尿素、0.4% SDS、0.5xSSCの条件又はこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M 尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いれば、より相同性の高い遺伝子の単離を期待することができる。本発明の短葯遺伝子には、その機能が抑制されることによって短葯形質を付与し得る限り、配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(例えば、配列番号:1に記載のヌクレオチド配列)からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを含む遺伝子が含まれる。
同定された相同遺伝子がコードするタンパク質は、通常、前記特定の遺伝子がコードするそれと高い相同性(高い類似性)、好ましくは高い同一性を有する。ここで「高い」とは、少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)のことである。本発明の短葯遺伝子には、その機能が抑制されることによって短葯形質を付与し得る限り、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性(類似性)又は95%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子が含まれる。
配列の相同性は、BLASTのプログラム(Altschul et al.J.Mol.Biol.,215:403-410,1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:2264-2268,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873-5877,1993)に基づいている。例えば、BLASTによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res.25:3389-3402,1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
本発明の「短葯遺伝子の機能の人為的抑制」には、該機能の完全な抑制(阻害)及び部分的な抑制の双方が含まれる。また、短葯遺伝子の発現の人為的抑制の他、短葯遺伝子がコードするタンパク質の活性の人為的抑制が含まれる。そして、かかる人為的抑制は、例えば、短葯遺伝子のコード領域、非コード領域、転写制御領域(プロモーター領域等)に変異を導入することによって行なうことができる。
本発明において、短葯遺伝子に導入される変異としては、該遺伝子の機能を抑制する限り特に制限はなく、例えば、ヌクレオチドの置換、欠失、付加、及び/又は挿入が挙げられるが、フレームシフト変異、ナンセンス変異、ヌル変異、インフレーム変異、逆位、転座が好ましい。また、本発明において、短葯遺伝子に導入される変異は、かかるヌクレオチドにおける変異を伴わない、エピジェネティック制御における変異であってもよい。エピジェネティック制御としては、例えば、DNAのメチル化、ヒストンの化学的修飾(アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化等)が挙げられる。また、短葯遺伝子に導入される変異の個数としても、該遺伝子の機能を抑制する限り特に制限はなく、1個でもよく、また複数個(例えば、2個、3個以下、5個以下、10個以下、20個以下、30個以下、40個以下、50個以下)でもよい。
このような変異としては、例えば、後述の実施例に示すように、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の557位以降のアミノ酸(全体の約7%)の変更又は欠失を伴うヌクレオチド変異、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の131位以降のアミノ酸(全体の約78%)の変更又は欠失を伴うヌクレオチド変異、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の79位以降のアミノ酸(全体の約87%)の変更又は欠失を伴うヌクレオチド変異、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の52位以降のアミノ酸(全体の約91%)の変更又は欠失を伴うヌクレオチド変異が挙げられる。そして、このような欠失等により、本発明の短葯遺伝子の機能は抑制され、短葯形質を有するイネを得ることができる。
したがって、短葯遺伝子に導入される変異としては、当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列全部を失わせる必要はなく、その一部が失われるか変化するように当該遺伝子内に導入されてもよい。
なお、遺伝子の変異により発現するタンパク質の一部が欠失する場合、通常、全体の5%以上(例えば、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上)のアミノ酸が変更又は欠失すればよく、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上(例えば、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)が変更又は欠失していればよい。
このようにアミノ酸配列が変更又は欠失する領域としては、特に制限はないが、例えば、後述の実施例に示すように、C末側の領域が挙げられる。また、本発明の短葯遺伝子がコードするアミノ酸配列において、その機能(タンパク質間相互作用等)を発揮する上で重要であると示唆される領域(ARM(アルマジロリピート)ドメイン及び/又はTPR(テトラトリコペプチドリピート))も、アミノ酸配列が変更又は欠失する領域の例として挙げられる。
また、本発明においては、短葯遺伝子における、変異の導入箇所、導入する変異の種類、又はそれらに伴いアミノ酸配列が変更又は欠失する領域を調整することによって、葯長の短縮の程度を制御することも可能となる。例えば、後述の実施例に示すように、短葯遺伝子の上流(コードするアミノ酸配列において1~400位に相当する領域)に変異を導入することによって強い短葯化がもたらされる一方で、下流(コードするアミノ酸配列において401位~601位に相当する領域)に変異を導入することによって弱い短葯化がもたらされる。また、インフレーム変異等でコードするタンパク質の活性を弱めることにより、弱い短葯化をもたらすことも可能となる。
短葯遺伝子への変異の導入は、当業者であれば公知の変異導入方法により達成することができる。かかる公知の方法としては、ゲノム編集法、物理的変異導入法、化学的変異剤を用いる方法、トランスポゾン等をゲノムDNAに導入する方法、siRNA、アンチセンスRNA及びリボザイム活性を有するRNA等を用いた、転写産物を標的とする方法が挙げられるが、これらに限定はされない。
これらの中で、短葯遺伝子を標的として人為的に変異を導入できるという観点から、ゲノム編集法、転写産物を標的とする方法、後述のTILLING法が好ましい。
ゲノム編集法は、部位特異的なヌクレアーゼ(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR-Cas酵素等のDNA二本鎖切断酵素)を利用して、標的遺伝子を改変する方法である。例えば、ZFNs(米国特許6265196号、8524500号、7888121号、欧州特許1720995号)、TALENs(米国特許8470973号、米国特許8586363号)、ヌクレアーゼドメインが融合されたPPR(pentatricopeptiderepeat)(Nakamura et al.,Plant Cell Physiol 53:1171-1179(2012))等の融合タンパク質や、CRISPR-Cas9(米国特許8697359号、国際公開2013/176772号)、CRISPR-Cpf1(Zetsche B.et al.,Cell,163(3):759-71,(2015))やTarget-AID(K.Nishida et al.,Targeted nucleotide editing using hybrid prokaryotic and vertebrate adaptive immune systems,Science,DOI:10.1126/science.aaf8729,(2016))等のガイドRNAとタンパク質の複合体、あるいはタンパク質の複合体を用いる方法が挙げられる。
「Cas酵素」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、I型CRISPR系酵素、II型CRISPR系酵素、III型CRISPR系酵素等が挙げられるが、II型CRISPR系酵素であるCas9が好ましい。「Cas9」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)のCas9、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のCas9、S.サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)のCas9、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のCas9等が挙げられるが、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)のCas9(SpCas9)が好ましい。また、これらの生物に由来するCas9の変異体であってもよく、ニッカーゼ(一方のDNA鎖のみにnickを入れるDNA切断酵素)として機能することが知られているCas9のD10A変異体であってもよく、Cas9ホモログ、又はオルソログであってもよい。
物理的変異導入法としては、例えば、重イオンビーム(HIB)照射、速中性子線照射、ガンマ線照射、紫外線照射が挙げられる(Hayashiら、Cyclotrons and Their Applications、2007年、第18回国際会議、237~239ページ、及び、Kazamaら、Plant Biotechnology、2008年、25巻、113~117ページ 参照)。
化学的変異剤を用いる方法としては、例えば、化学変異剤によって種子等を処理する方法(Zwar及びChandler、Planta、1995年、197巻、39~48ページ等 参照)が挙げられる。化学変異剤としては特に制限はないが、N-メチル-N-ニトロソウレア(MNU)、エチルメタンスルホート(EMS)、N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)、アジ化ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ヒドリキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトログアニジン(MNNG)、N-メチル-N’-ニトロソグアニジン(NTG)、O-メチルヒドロキシルアミン、亜硝酸、蟻酸及びヌクレオチド類似体が挙げられる。
トランスポゾン等をゲノムDNAに導入する方法としては、例えば、TOS17等のトランスポゾン、T-DNA等を植物のゲノムDNAに挿入する方法が挙げられる(Kumarら、Trends Plant Sci.、2001年、6巻、3号、127~134ページ、及び、Tamaraら、Trends in Plant Science、1999年、4巻、3号、90~96ページ 参照)。
以上の方法により変異が導入されたイネについては、公知の方法により、短葯遺伝子に変異が導入されていることを確認することができる。かかる公知の方法としては、例えば、DNAシークエンス法(次世代シークエンシング法等)、PCR法、マイクロアレイを用いた解析法、サザンブロット法、ノーザンブロット法が挙げられる。かかる方法によれば、短葯遺伝子に変異が導入されているか否かを、変異導入前後の当該遺伝子の配列又は長さを比較することによって判断することができる。また、ノーザンブロット法、RT-PCR法、ウェスタンブロット法、ELISA法、マイクロアレイによる解析法等を利用することにより、転写制御領域等に変異が導入されたイネにおいて、短葯遺伝子の転写産物又は翻訳産物の発現量の低下が認められれば、該イネは短葯遺伝子に変異が導入されたイネであると確認することもできる。
また、短葯遺伝子に変異が導入されていることを確認する他の方法として、TILLING(標的誘導型ゲノム特定位傷害、Targeting Induced Local Lesions IN Genomes)が挙げられる(Sladeら、Transgenic Res.、2005年、14巻、109~115ページ、及び、Comaiら、Plant J.、2004年、37巻、778~786ページ 参照)。特に、前述の重イオンビーム照射や化学的変異剤等を用いてイネゲノム中に非選択的変異を導入した場合には、短葯遺伝子又はその一部をPCRで増幅した後に、該増幅産物に変異を有する個体を、前記TILLING等により選抜することができる。
また、上述の方法により変異が導入されたイネと野生型のイネとを交配させ、戻し交配を行うことにより、目的とする遺伝子以外の遺伝子に導入された変異を除去することもできる。
短葯遺伝子に変異を導入することにより当該遺伝子の機能が抑制されたイネが、短葯遺伝子のヘテロ接合体(heterozygote)である場合がある。そのような場合、例えば、かかるヘテロ接合体同士を交配してF1植物体を得ることにより、当該F1植物体から当該変異が導入された短葯遺伝子を有するホモ接合体(homozygote)を選抜する。この場合、「当該変異が導入された短葯遺伝子を有するホモ接合体であるイネ」には、互いに同一である変異を有する短葯遺伝子の対立遺伝子(allele)を2つ有するイネだけでなく、第1の変異を有し活性が抑制されたタンパク質をコードする第1の短葯遺伝子と、第2の変異を有し活性が抑制されたタンパク質をコードする第2の短葯遺伝子とを有するイネが含まれる。
本発明において、短葯遺伝子の機能を人為的に抑制するための方法として、上述の変異導入の他、短葯遺伝子の転写産物と相補的なdsRNA(二重鎖RNA、例えばsiRNA)をコードするDNAを用いる方法、短葯遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA(アンチセンスDNA)を用いる方法、短葯遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNAを用いる方法(リボザイム法)といった、短葯遺伝子の転写産物を標的とする方法も挙げられる。
本発明において、短葯遺伝子の機能の人為的な抑制は、上述の方法等に応じ、イネの植物体、種子又は植物細胞に対して行うことができる。植物細胞には、イネ由来の培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。さらに、種々の形態のイネ由来の細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルス、未熟胚、花粉等が含まれる。
また、本発明において、上述の、部位特異的ヌクレアーゼ、融合タンパク質又はガイドRNAとタンパク質の複合体をコードするDNA、トランスポゾンをコードするDNA、二重鎖RNAをコードするDNA、アンチセンスRNAをコードするDNA、リボザイム活性を有するRNAをコードするDNA等を、ベクターに挿入した形態にてイネの細胞に導入してもよい。
短葯遺伝子の機能を人為的に抑制するための前記DNAが挿入されるベクターとしては、イネの細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はないが、前記DNAを恒常的又は誘導的に発現させるためのプロモーターを含有しうる。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、イネのユビキチンプロモーター、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター、イネのアクチンプロモーター、トウモロコシのユビキチンプロモーター等が挙げられる。また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布等の外因によって発現することが知られているプロモーター等が挙げられる。さらに、本発明にかかるDNAとしてガイドRNA、siRNA等の短いRNAをコードするDNAを発現させるためのプロモーターとしては、U6プロモーター等polIII系のプロモーターが好適に用いられる。
イネの細胞へ前記DNA又は該DNAが挿入されたベクター等を導入する方法としては、例えば、パーティクルボンバードメント法、アグロバクテリウムを介する方法(アグロバクテリウム法)、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)等、当業者に公知の種々の方法を用いることができる。
なお、DNAの形態をとらずとも、上述の、部位特異的ヌクレアーゼ、融合タンパク質、トランスポゾンは、タンパク質として、上述の、ガイドRNA、二重鎖RNA、アンチセンスRNA、リボザイム活性を有するRNAは、RNAとして、イネの細胞に導入しても、変異を導入することはできる。
このように、本発明においては、前記DNA、該DNAが挿入されたベクター、前記タンパク質、前記RNAといった短葯遺伝子を標的とする物質を用いることにより、イネに短葯形質を付与することができる。したがって、本発明は、前記DNA、該DNAが挿入されたベクター、前記タンパク質及び前記RNAからなる群から選択される、短葯遺伝子を標的とする少なくとも1の物質を有効成分として含む、イネに短葯形質を付与するための薬剤も提供し得る。
かかる薬剤においては、2種の有効成分を1つの組成物中に含む態様であってもよく、2種の有効成分を別々の組成物中に含む態様(所謂、キット)であってもよい。また、本発明の薬剤においては、上記物質の他、緩衝液、安定剤、保存剤、防腐剤等の他の成分が添加してあってもよい。
また、上述の方法等により遺伝子の機能が人為的に抑制された細胞からイネの植物体を再生することにより、短葯形質を有するイネを得ることができる。
例えば、イネにおいて、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Datta,S.K.In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.)pp66-74,1995)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Toki et al.Plant Physiol.100,1503-1507,1992)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al.Bio/technology,9:957-962,1991)及びアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al.Plant J.6:271-282,1994)等、いくつかの技術が既に確立し、本発明の技術分野において広く用いられている。また、Tabeiら(田部井豊 編、「形質転換プロトコール[植物編]」、株式会社化学同人、2012年9月20日出版)に記載に方法等を用い、形質転換及び植物体への再生を行なうことができる。
(短葯形質を有するイネ)
上述の方法等により、本発明の短葯遺伝子の機能が人為的に抑制された、短葯形質を有するイネを得ることができる。したがって、本発明は、
下記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の機能が人為的に抑制された、短葯形質を有するイネ
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを含む遺伝子
を提供する。
なお、短葯遺伝子、その機能の人為的抑制、該抑制によって短葯形質が付与されるイネ等については、上述のとおりであるが、本発明の短葯形質を有するイネとしては、san-1を除いたイネであることが好ましく、本発明の短葯遺伝子の機能が人為的に抑制されたイネ品種T65(Taichung 65)を、除いたイネであることがより好ましい。
また、一旦、短葯遺伝子の機能が人為的に抑制されている植物体が得られれば、該植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることが可能である。さらに、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、切穂、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。したがって本発明には、短葯形質を有するイネの子孫及びクローン、並びに、それらの繁殖材料が含まれる。なお、繁殖材料としては、例えば、種子、株、カルス、プロトプラストが挙げられる。
<短葯形質を有するか否かを判定する方法>
本発明の、短葯形質を有するか否かを判定する方法は、被検イネにおける、短葯遺伝子、又はその発現制御領域のヌクレオチド配列を解析することを特徴とする。より具体的には以下のとおりである。
イネにおいて短葯形質を有するか否かを判定する方法であって、被検イネにおける短葯遺伝子又はその発現制御領域のヌクレオチド配列を解析することを特徴とする方法。なお、本発明の判定方法において検出対象となる短葯遺伝子は、上述のとおりである。
後述の実施例において示すように、短葯遺伝子において、ヌクレオチドの挿入や欠失が導入されることで、葯長が短縮することとなる。したがって、短葯遺伝子領域のヌクレオチド配列を解析することによって、短葯形質を有するか否かを判定することができる。
また、短葯遺伝子の発現量、並びにその発現量を制御する転写制御領域(エンハンサー、プロモータ-、サイレンサー、インスレーター等)のヌクレオチド配列を解析することによって、短葯形質を有するか否かを判定することもできる。
短葯遺伝子又はその発現制御領域のヌクレオチド配列の解析に際しては、本発明の短葯遺伝子又はその発現制御領域をPCRにより増幅した増幅産物を用いることができる。前記PCRを実施する場合において、用いられるプライマーは、短葯遺伝子又はその発現制御領域を特異的に増幅できるものである限り制限はなく、短葯遺伝子又はその発現制御領域の配列情報に基づいて適宜設計することができる。
なお、短葯形質を有するか否かを判定する方法においては、例えば、「対照のヌクレオチド配列」と比較する工程を含むことができる。被検イネにおける短葯遺伝子又はその発現制御領域のヌクレオチド配列と比較する「対照のヌクレオチド配列」は、イネであれば、例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子又はその発現制御領域のヌクレオチド配列である。
決定した被検イネにおける短葯遺伝子又はその発現制御領域のヌクレオチド配列と、前記対照のヌクレオチド配列とを比較することにより、被検イネにおいて短葯形質を有するか否かを判定することができる。例えば、前記対照のヌクレオチド配列(例えば、配列番号:1)と比較して、ヌクレオチド配列において大きな相違がある場合(特に、新たな終止コドンの出現やフレームシフトにより、コードするタンパク質の分子量やアミノ酸配列に大きな変化が生じる場合)、被検イネは短葯形質を有するイネである蓋然性が高いと判定される。
なお、本発明の判定方法における、被検イネからのDNAの調製は、常法、例えば、CTAB法を用いて行うことができる。DNAを調製するための植物としては、成長した植物体のみならず、種子や幼植物体を用いることもできる。また、ヌクレオチド配列の決定は、常法、例えば、ジデオキシ法やマキサム-ギルバート法などにより行なうことができる。ヌクレオチド配列の決定においては、市販のシークエンスキット及びシークエンサーを利用することができる。
被検イネにおける短葯遺伝子又はその発現制御領域のヌクレオチド配列が、対照のヌクレオチド配列と相違するか否かは、上記した直接的な塩基配列の決定以外に、種々の方法により間接的に解析することができる。このような方法としては、例えば、PCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造多型)法、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用したRFLP法やPCR-RFLP法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(denaturant gradient gel electrophoresis:DGGE)、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法が挙げられる。
本発明の、短葯形質を有するか否かを判定する別の方法は、被検イネにおける短葯遺伝子の発現又は増幅産物若しくは発現産物の分子量を検出することを特徴とする。より具体的には以下のとおりである。
イネにおいて短葯形質を有するか否かを判定する方法であって、被検イネにおける短葯遺伝子の発現又は増幅産物若しくは発現産物の分子量を検出することを特徴とする方法。
なお、本発明の判定方法において検出対象となる短葯遺伝子は、上述のとおりである。
後述の実施例において示すように、短葯遺伝子において、ヌクレオチドの挿入や欠失が導入されることにより、発現産物の分子量は低減し、葯長が短縮することとなる。したがって、短葯遺伝子の増幅産物又は発現産物の分子量を検出することによって、短葯形質を有するか否かを判定することができる。また、短葯遺伝子の発現を検出することによって、短葯形質を有するか否かを判定することができる。
ここで「短葯遺伝子の発現の検出」には、転写レベルにおける検出及び翻訳レベルにおける検出の双方を含む意である。また、「発現の検出」には、発現の有無の検出のみならず、発現の程度の検出も含む意である。
短葯遺伝子の転写レベルにおける検出は、常法、例えば、RT-PCR法やノーザンブロッティング法により実施することができる。前記PCRを実施する場合において用いられるプライマーは、本発明の検出対象DNAを特異的に増幅できるものである限り制限はなく、既に決定された短葯遺伝子の配列情報に基づいて適宜設計することができる。
一方、翻訳レベルにおける検出は、常法、例えば、ウェスタンブロッティング法により、実施することができる。ウェスタンブロッティングに用いる抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよく、これら抗体の調製方法は、当業者に周知である。
遺伝子発現の検出の結果、被検イネにおいて、短葯遺伝子の発現量が、例えば、イネにおいては、野生型(例えば、日本晴)の発現量よりも有意に低ければ(例えば、短葯遺伝子が実質的に発現していなければ)、また、短葯遺伝子の増幅産物又は発現産物の分子量が野生型における分子量と有意に異なれば、短葯形質を有する植物である蓋然性が高いと判定される。
<短葯形質を有するイネを育種する方法>
本発明は、短葯形質を有するイネを育種する方法を提供する。かかる育種方法は、(a)短葯形質を有する植物と任意の品種とを交配させる工程、
(b)工程(a)における交配により得られた個体の中から、上述の方法により、短葯形質を有すると判定された植物を、選抜する工程を含む。
「短葯形質を有するイネ」とは、例えば、san-1、上述の短葯遺伝子の機能が抑制されたことにより短葯形質を有するイネが挙げられる。また当該植物と交配させる「任意の品種」としては、例えば、短葯遺伝子の機能が抑制されておらず短葯形質を有さないイネの品種が挙げられるが、これに制限されない。また、より交雑を抑制するという観点から、任意の品種として上述の閉花受粉性を有するイネが好ましい。本発明の育種方法を利用すれば、短葯形質を有するイネの品種を、幼植物等の段階で適宜選抜することが可能となり、当該形質を有する品種の育成を、短期間で行うことが可能となる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1) イネ短葯変異体の原因遺伝子候補の探索
イネのsan-1(short anther)突然変異体は、イネ品種T65(Taichung 65)を原品種として、化学変異源物質 N-Methyl-N-nitrosourea(MNU)によって誘発された突然変異体集団の中から得られたものである。san-1の葯長は、野生型に比べて約30%減少する短葯性を示す一方、内穎長には差がみられない特徴を持つ(図1、非特許文献1)。
しかしながら、この短葯形質の原因遺伝子は明らかにされていなかった。そこで先ず、san-1とイネ品種カサラス(Kasalath)を交配し、F2集団を用いたマップベースクローニングを行った。その結果、原因遺伝子は第5染色体上のマーカーRM18639とRM6841の間に存在すると予想された(図2)。
そこで鋭意検討を重ね、さらに候補領域を絞り込んだ結果、候補領域はマーカーIRIC11とRM18719の間に存在すると予想された。この候補領域内にはRAP-DBデータベース(https://rapdb.dna.affrc.go.jp/index.html)上に20遺伝子存在していた。遺伝子配列を比較したところ、san-1において、遺伝子Os05g0421300の翻訳開始点から数えて236番目のグアニンがアデニンに置換することにより、未成熟終始コドンが生じていることを見出した(図3)。同遺伝子は、N末端側に核局在シグナルとARM(Armadillo repeat)ドメイン、C末端側にTPR(tetratricopeptide repeat)ドメインを持つ機能未知のタンパク質をコードする(図4)。
(実施例2) 遺伝子Os05g0421300を標的とするゲノム編集による短葯化1
前記にて同定された候補遺伝子が、イネ短葯変異体の原因遺伝子であるかを明らかにすべく、以下に示す方法にて、当該遺伝子を標的とするゲノム編集を行い、短葯の形質が発現するかどうかを検証した。
<ガイドRNA及びSpCas9等を発現するためのベクターの構築>
遺伝子Os05g0421300のゲノム配列をRAP-DBデータベース(https://rapdb.dna.affrc.go.jp/index.html)から取得した。第1エキソンと予測される配列のうち、ゲノム編集の標的とするガイドRNA配列(20bp長)として2カ所を選定した。それぞれをSAN-CR1(位置:376-395番、配列5’-CCATTGGTTGAACTCTTACG-3’、配列番号:3)及びSAN-CR2(位置:137-156番、配列5’-TTCTCCCTATTAGTGGTCTT-3’、配列番号:4)とした。
そして、それぞれのガイドRNA及びSpCas9を発現するためのベクター(ゲノム編集系発現ベクター)を、常法に沿って作製した。当該ベクターは、pZNH2GTR-U6ベクター(図5)に基づくものであり、ガイドRNAをコードするDNAは、OsU6-2プロモーターとScaffold配列の間に挿入されている。さらに、SpCas9をコードするDNAは、イネUbi1bプロモーターとイネUbi1bターミネーター配列との間に挿入されている。また、このゲノム編集系発現ベクターは、形質転換体の選抜用にハイグロマイシン抵抗性遺伝子の発現用カセットの配列を有する。
<ゲノム編集イネの作出及び解析>
(1)イネカルスへの形質転換
前記にて作製したゲノム編集系発現ベクターは、Oikawaら、Plant Mol.Biol.55,687-700(2004)に記載の方法に従って、アグロバクテリウムを介した形質転換により、イネ品種 日本晴のイネ胚盤由来のカルスに導入した。そして、ハイグロマイシンを含む培地で培養することにより、形質転換カルスを選抜した。
(2)葉からのゲノムDNAの抽出
ハイグロマイシンにより選抜され再分化させた形質転換イネを、培養土(ボンソル1号)へ移植し、約2週間後に伸長してきた葉の先端約5mm程度を採取し1.5mLプラスチックチューブに入れ、DNAを抽出しPCRに供試した。
(3)PCRによる、SAN 標的変異導入対象箇所のDNA断片の増幅
ガイドRNA SAN-CR1又はSAN-CR2を用いてゲノム編集を引き起こした植物体の、標的変異対象部位を増幅するために使用したプライマー配列は以下のとおりである。
SAN-CR1解析用プライマー
SAN_CR1_seqF 5’-TCAACTTGGGGATATTTGAATG-3’(配列番号:5)
SAN_CR1_seqR 5’-ACTTCTCCATGGTCAGCAACT-3’
(配列番号:6)
SAN-CR2解析用プライマー
SAN_CR2_seqF 5’-TCATTTGTCTCTCACGATGGA-3’ (配列番号:7)
SAN_CR2_seqR 5’-TGTGCTGCATAATATGGGATG-3’ (配列番号:8)。
PCR酵素は、Tks Gflex DNA Polymerase(TAKARA社製)を使用し、全量10μLの反応液組成を以下のとおりとし、0.2mL容量の8連チューブ内で反応させた。
2×Gflex PCR Buffer 5μL
100μM Forward プライマー 0.2μL
100μM Reverse プライマー 0.2μL
Tks Gflex DNA Polymerase(1.25U/μL) 0.2μL
純水 3.4μL
DNA抽出液 1μL。
PCR機は、TaKaRa PCR Thermal Cycler Diceを使用し、以下の条件で運転した。
94℃1分、その後98℃10秒、55℃15秒及び68℃30秒を40サイクル。
(4)PCR増幅断片のシーケンス解析
SAN-CR1を含む領域のPCR産物(野生型で断片長301bp)及びSAN-CR2を含む領域PCR産物(野生型で断片長321bp)を、1%アガロースゲル電気泳動にて展開し、増幅を確認した。増幅が確認されたPCR産物は、ExoSAP-IT Express(ThermoFisher Scientific社製)により精製し、増幅に用いたForwardプライマーを用いてダイレクトシーケンス解析を行った。
(5)葯長の観察
SANゲノム編集体における葯長の観察は、遺伝的に固定したT1世代において行った。葯が穎花の中程まで伸長した、開花前の穎花を採取した。ピンセットにより採取した穎花の外穎を取り外し、葯を露出させて実体顕微鏡により葯長を観察した。
<ゲノム編集イネの解析結果>
上記のとおり、ゲノム編集系発現ベクターをイネカルスに導入し、ハイグロマイシンにより形質転換体を選抜した。当該カルスから再分化させた植物体を、培土入りのポットに移植し隔離温室で育成した。伸長した葉からゲノムDNAを抽出し、PCR増幅及びシーケンス解析により、遺伝子Os05g0421300の各ガイドRNA領域にゲノム編集が生じているか否かを解析した。
その結果、表2に示すとおり、解析したT0世代の実生当たり83~85%の割合でゲノム編集が生じていた。
次いで、ゲノム編集が検出された植物体についてポットに移植し、隔離温室内での栽培を継続し後代種子を取得した。ガイドRNAとしてSAN-CR1を使用した系統のうち#20-1、SAN-CR2を使用した系統のうち#14-1について、T1世代を育成し各個体のシーケンス解析を行い、ホモ接合体としてゲノム編集が生じている個体を選抜した。その結果、ゲノム編集体 san-CR1 #20-1では遺伝子Os05g0421300の翻訳開始点から数えて392番目と393番目の塩基の間にチミンが1塩基挿入(図6)、san-CR2 #14-1では153番目と154番目の塩基の間にチミンが1塩基挿入する変異が生じることにより(図7)、フレームシフトが生じていることを見出した。
次に、遺伝子Os05g0421300にフレームシフトを引き起こす変異をホモ接合体として持つ、ゲノム編集体san-CR1 #20-1個体及びsan-CR2 #14-1個体に加え、ゲノム編集が生じていない個体を、隔離温室内で育成し、開花前の穎花を採取した。そして、実体顕微鏡下で外穎を除去し葯を露出させて葯長を比較した。
その結果、ゲノム編集が生じていない個体(図8における「ベクターコントロール」)と比較して、san-CR1 #20-1及びsan-CR2 #14-1個体の両方について30%程度の短葯化が認められた(図8)。
よって、遺伝子Os05g0421300が、san-1における短葯化の原因遺伝子(SAN遺伝子)であることが明らかとなり、当該遺伝子を標的とし、その機能を抑制することによって、イネに短葯形質を付与することが可能となった。
(実施例3) 遺伝子Os05g0421300を標的とするゲノム編集による短葯化2
上記実施例2においては、遺伝子Os05g0421300(SAN遺伝子)において、第1エキソンと予測される配列を標的としてゲノム編集を行ったが、今度はそれよりも下流の第2エキソンと予測される配列を標的としてゲノム編集を行い、短葯化の有無、程度を評価した。具体的には、ゲノム編集の標的とするガイドRNA配列を、SAN-CR3(位置:1651-1670番、配列5’-CATGGGGGAATCCATTGCGA-3’、配列番号:9)とし、当該SAN-CR3を用いてゲノム編集を引き起こした植物体の、標的変異対象部位を増幅するために下記プライマーセットを用いた以外は、実施例2に記載の方法にて、同様のゲノム編集イネの作出及び解析を行った。得られた結果を、図9及び10に示す。
SAN-CR3解析用プライマー
SAN_CR3_seqF 5’-GATATGCTTGGTTTAGCGAAAGAG-3’ (配列番号:10)
SAN_CR3_seqR 5’-GTTCTTCCATTCAGTTTCATCATCT-3’ (配列番号:11)。
上記のとおり、SAN遺伝子がコードするタンパク質のC末端側を標的とするガイドRNA(SAN_CR3)を設計し、ゲノム編集体を作成した。その結果、得られたゲノム編集体san-CR3#5では、翻訳開始点から数えて1667番目と1668番目の塩基の間にチミンが挿入することにより、フレームシフトが生じていた(図9)。そして、このゲノム編集体における葯長を観察した結果、san-CR3#5においても、ゲノム編集が生じていない個体(図10における「コントロール」)と比較して短葯化が認められた。また、その短葯化の程度は、N末端側に変異が生じたsan-CR2#14-1よりも弱いものであった(図10及び11)。
よって、短葯化の程度は、SAN遺伝子のより上流に変異を導入したsan-CR2よりも弱いものの、C末側の領域のアミノ酸配列をたった7%程度変更及び欠失させた場合でもイネに短葯形質を付与できることが確認された。
さらに、このように、SAN遺伝子がコードするアミノ酸配列のC末側において、変更又は欠失する領域の大きさに応じて、短葯化の程度を制御できることも明らかとなった。
以上説明したように、本発明によれば、短葯形質を有するイネを製造することが可能となる。そして、この短葯形質によって、葯が頴から抽出し難く、また花粉も飛散し難いため、他品種等との交雑を抑制することができる。よって、本発明は、イネに関する農業分野において有用である。

Claims (2)

  1. 短葯形質を有するイネの製造方法であって、
    イネの、下記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の機能を人為的に抑制する工程を含む、方法
    (a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
    (b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
    (c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子
    (d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを含む遺伝子。
  2. 下記(a)~(d)からなる群から選択される少なくとも一つの遺伝子の機能が人為的に抑制された、短葯形質を有するイネ
    (a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
    (b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子
    (c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列と95%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子
    (d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを含む遺伝子。
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