以下では、車両用駆動装置100の実施形態について、図面を参照して説明する。車両用駆動装置100は、例えば、内燃機関及び回転電機を複数の車輪の駆動力源とするハイブリッド自動車や、回転電機を複数の車輪の駆動力源とする電気自動車に搭載される駆動装置である。本実施形態では、図1に示すように、車両用駆動装置100は、第1車輪及び第2車輪の駆動力源として回転電機1のみを備えている。2輪駆動の4輪車の場合には、これによって電気自動車が実現できる。また、4輪駆動の4輪車の場合には、他の2輪を内燃機関の駆動力によって駆動することでハイブリッド車両が実現できる。当然ながら、4輪駆動の4輪車の場合には、本実施形態の車両用駆動装置100を他の2輪にも適用することで、4輪駆動の電気自動車を実現することもできる。
本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。なお、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。
図1に示すように、車両用駆動装置100は、第1車輪及び第2車輪の駆動力源となる回転電機1と、回転電機1に駆動連結された入力部材2と、カウンタギヤ機構3と、入力部材2及びカウンタギヤ機構3を介して伝達される回転電機1からの駆動力を第1車輪及び第2車輪のそれぞれに分配する差動歯車装置4と、回転電機1、入力部材2、カウンタギヤ機構3、及び差動歯車装置4を収容するケース5と、を備えている。
回転電機1及び入力部材2は、それらの回転軸心としての第1軸A1上に配置され、カウンタギヤ機構3は、その回転軸心としての第2軸A2上に配置され、差動歯車装置4は、その回転軸心としての第3軸A3上に配置されている。第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3は、互いに異なる仮想軸であり、互いに平行に配置される。
以下の説明では、上記の軸A1〜A3に平行な方向を、車両用駆動装置100の「軸方向L」とする。そして、軸方向Lにおいて、回転電機1に対して入力部材2が配置される側を「軸方向第1側L1」とし、入力部材2に対して回転電機1が配置される側を「軸方向第2側L2」とする。また、上記の第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向R」とする。なお、どの軸を基準とするかを区別する必要がない場合やどの軸を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。図1には、第1軸A1を基準とした径方向Rを示している。ここで、各部材についての方向は、それらが車両用駆動装置100に組み付けられた状態での方向を表す。
図1及び図2に示すように、ケース5は、回転電機1、入力部材2、カウンタギヤ機構3、及び差動歯車装置4を内部に収容している。ケース5は、これらの径方向Rにおける外側を囲む周壁部51を有している。また、図1に示すように、ケース5は、径方向Rに沿って延在する、第1側壁部52、及び第2側壁部53を有している。第1側壁部52は、周壁部51、入力部材2及びカウンタギヤ機構3に対して軸方向第1側L1に配置されている。第2側壁部53は、周壁部51及び回転電機1に対して軸方向第2側L2に配置されている。更に、車両用駆動装置100は、ケース5に加えて、ケース5とは別体の支持部材7を備えている。支持部材7は、軸方向Lにおいて第1側壁部52と第2側壁部53との間に配置されている。支持部材7は、ケース5の内部に配置されており、ケース5に固定されている。本実施形態では、支持部材7は、径方向Rに沿って延在する板状に形成されている。第1側壁部52と第2側壁部53との間に形成されたケース5の内部空間は、支持部材7によって区画されている。第1側壁部52と支持部材7との間の空間には、入力部材2の主要部、カウンタギヤ機構3、及び差動歯車装置4の主要部が配置されている。一方、第2側壁部53と支持部材7との間の空間には、回転電機1が配置されている。尚、図1では、ケース5及び支持部材7の断面にのみハッチングを付している。
回転電機1は、第1車輪及び第2車輪の駆動力源である。回転電機1は、ステータ11と、ロータ12とを備えている。ステータ11は、ケース5に固定された円筒状のステータコア111を有している。ロータ12は、ステータ11に対して回転可能な円筒状のロータコア121を有している。本実施形態では、回転電機1は回転界磁型の回転電機であるため、ステータコア111にはコイル112が巻装され、ロータコア121には永久磁石が設けられている。また、本実施形態では、回転電機1はインナロータ型の回転電機であるため、ステータコア111よりも径方向Rの内側にロータコア121が配置されている。更に、ロータコア121の内周面には、軸方向Lに沿って延在する円筒状のロータ軸13が連結されている。ここで、「円筒状」とは、多少の異形部分を有していたとしてもその全体としての概略形状が円筒であることを意味する(以下、形状等に関して「状」を付して用いる他の表現に関しても同様とする)。
ロータ軸13は、ロータ12と一体的に、第1軸A1回りに回転する。ロータ軸13は、ロータコア121の軸方向Lの両端面から突出するように、軸方向Lに沿って延在している。ロータ軸13の軸方向第1側L1の端部は、第1ロータ軸受91を介して、支持部材7に回転可能に支持されている。ロータ軸13の軸方向第2側L2の端部は、第2ロータ軸受92を介して、ケース5の第2側壁部53に回転可能に支持されている。ロータ軸13には入力部材2が連結されており、ロータ軸13と入力部材2とが一体的に回転する。尚、ロータ12及びロータ軸13が回転電機1の回転部材14に相当し、回転部材14の軸方向第1側L1の端部が、第1ロータ軸受91を介して、支持部材7に回転可能に支持されている。
入力部材2は、回転電機1に駆動連結されている。そして、入力部材2は、回転電機1のロータ軸13と一体的に、第1軸A1回りに回転する。つまり、回転電機1及び入力部材2は、第1軸A1上に配置されている。また、入力部材2は、軸部21と、駆動ギヤ22とを有している。
軸部21は、円筒状に形成され、軸方向Lに沿って延在している。軸部21の軸方向第2側L2の端部は、ロータ軸13の軸方向第1側L1の端部と連結されている。本実施形態では、ロータ軸13の径方向Rの内側に軸部21が位置するように、軸部21の軸方向第2側L2の端部がロータ軸13の軸方向第1側L1の端部に挿入され、当該端部同士がスプライン係合によって連結されている。軸部21の軸方向第1側L1の端部は、第1入力軸受93を介して、ケース5の第1側壁部52に回転可能に支持されている。また、軸部21における、ロータ軸13との連結部分よりも軸方向第1側L1の部分が、第2入力軸受94を介して、支持部材7に回転可能に支持されている。このように軸部21が第1側壁部52及び支持部材7に回転可能に支持されることで、入力部材2の軸方向第1側L1の端部が第1側壁部52に回転可能に支持され、入力部材2の軸方向第2側L2の端部が支持部材7に回転可能に支持されている。
駆動ギヤ22は、回転電機1からの駆動力をカウンタギヤ機構3に伝達するギヤである。駆動ギヤ22は、軸部21に設けられている。駆動ギヤ22は、第1入力軸受93と第2入力軸受94との間に配置されている。本実施形態では、駆動ギヤ22は、第1入力軸受93に対して軸方向第2側L2に隣接するように配置されている。そして、本実施形態では、駆動ギヤ22は、軸部21と一体的に形成されている。
カウンタギヤ機構3は、駆動力の伝達経路において、入力部材2と差動歯車装置4との間に配置されている。カウンタギヤ機構3は、回転電機1及び入力部材2の回転軸心である第1軸A1とは異なる第2軸A2回りに回転する。つまり、カウンタギヤ機構3は、第1軸A1とは異なる第2軸A2上に配置されている。カウンタギヤ機構3は、カウンタシャフト31と、入力部材2に設けられた駆動ギヤ22に噛み合う第1ギヤ32と、差動歯車装置4の差動入力ギヤ41に噛み合う第2ギヤ33とを有している。
カウンタシャフト31は、軸方向Lに沿って延在している。カウンタシャフト31の軸方向第1側L1の端部は、第1カウンタ軸受95を介して、ケース5の第1側壁部52に回転可能に支持されている。カウンタシャフト31の軸方向第2側L2の端部は、第2カウンタ軸受96を介して、支持部材7に回転可能に支持されている。このようにカウンタシャフト31が第1側壁部52及び支持部材7に回転可能に支持されることで、カウンタギヤ機構3の軸方向第1側L1の端部が第1側壁部52に回転可能に支持され、カウンタギヤ機構3の軸方向第2側L2の端部が支持部材7に回転可能に支持されている。
第1ギヤ32は、カウンタギヤ機構3の入力要素である。第1ギヤ32は、入力部材2の駆動ギヤ22と噛み合っている。第1ギヤ32は、カウンタシャフト31と一体的に回転するように、カウンタシャフト31に設けられている。本実施形態では、第1ギヤ32は、カウンタシャフト31と一体的に回転するように、カウンタシャフト31とスプライン係合によって連結されている。第1ギヤ32は、第1カウンタ軸受95と第2カウンタ軸受96との間であって、第2ギヤ33よりも軸方向第2側L2に配置されている。本実施形態では、第1ギヤ32は、第2カウンタ軸受96に対して軸方向第1側L1に隣接するように配置されている。
第2ギヤ33は、カウンタギヤ機構3の出力要素である。第2ギヤ33は、後述する差動歯車装置4の差動入力ギヤ41と噛み合っている。本実施形態では、第2ギヤ33は、第1ギヤ32よりも小径に形成されている。第2ギヤ33は、カウンタシャフト31と一体的に回転するように、カウンタシャフト31に設けられている。本実施形態では、第2ギヤ33は、カウンタシャフト31と一体的に形成されている。第2ギヤ33は、第1ギヤ32と同軸となるように配置されている。更に、第2ギヤ33は、第1カウンタ軸受95と第2カウンタ軸受96との間であって、第1ギヤ32よりも軸方向第1側L1に配置されている。本実施形態では、第2ギヤ33は、第1カウンタ軸受95に対して軸方向第2側L2に隣接するように配置されている。
差動歯車装置4は、入力部材2及びカウンタギヤ機構3を介して伝達される回転電機1からの駆動力を、第1ドライブシャフトDS1と第2ドライブシャフトDS2とを介して、それぞれ第1車輪と第2車輪とに分配する。差動歯車装置4は、差動入力ギヤ41と、差動ケース42と、ピニオンシャフト43と、一対のピニオンギヤ44と、第1サイドギヤ45及び第2サイドギヤ46とを有している。本実施形態では、一対のピニオンギヤ44、並びに第1サイドギヤ45及び第2サイドギヤ46は、いずれも傘歯車である。つまり、差動歯車装置4は、傘歯車型の差動歯車装置である。
差動入力ギヤ41は、差動歯車装置4の入力要素である。差動入力ギヤ41は、カウンタギヤ機構3の第2ギヤ33と噛み合っている。差動入力ギヤ41は、回転電機1及び入力部材2の回転軸心である第1軸A1、及びカウンタギヤ機構3の回転軸心である第2軸A2とは異なる第3軸A3回りに回転する。差動入力ギヤ41は、差動ケース42と一体的に回転するように、差動ケース42に連結されている。差動入力ギヤ41は、差動歯車装置4の径方向Rにおける最外側に配置されている。
差動ケース42は、差動入力ギヤ41と一体的に、第3軸A3回りに回転する。差動ケース42は、中空の部材であり、その内部にピニオンシャフト43と、一対のピニオンギヤ44と、第1サイドギヤ45及び第2サイドギヤ46とが収容されている。差動ケース42は、軸方向L視で第1ギヤ32と重複する位置に配置されている。第1サイドギヤ45は、第1車輪に駆動連結された第1ドライブシャフトDS1と連結されており、第2サイドギヤ46は、第2車輪に駆動連結された第2ドライブシャフトDS2と連結されている。尚、一対のピニオンギヤ44と第1サイドギヤ45と第2サイドギヤ46とにより、歯車機構47が構成されており、差動ケース42は、歯車機構47を収容している。
なお、本実施形態において、2つの部材の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線に直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの部材の双方に交わる領域が存在することを指す。
差動ケース42の軸方向第1側L1の端部は、第1差動軸受97を介して、ケース5の第1側壁部52に回転可能に支持されている。差動ケース42の軸方向第2側L2の端部は、第2差動軸受98を介して、支持部材7に回転可能に支持されている。このように差動ケース42が第1側壁部52及び支持部材7に回転可能に支持されることで、差動歯車装置4の軸方向第1側L1の端部が第1側壁部52に回転可能に支持され、差動歯車装置4の軸方向第2側L2の端部が支持部材7に回転可能に支持されている。本実施形態では、差動ケース42は、第3軸A3を基準とした径方向Rにおける外側から差動ケース42内に油を導入するための油孔が形成されていない、密閉型のケースとなっている。このため、差動ケース42は、径方向Rに油孔を有する一般的な開放型のケースに比べて、肉厚が薄く、外形が小さいものとなっている。
第1サイドギヤ45には、第1ドライブシャフトDS1の軸方向第2側L2の端部が連結されている。第1ドライブシャフトDS1は、第3軸A3上に配置されている。第1ドライブシャフトDS1は、差動歯車装置4から軸方向第1側L1に延び、第1側壁部52を貫通してケース5の外部まで延びている。
第2サイドギヤ46には、中間部材8の軸方向第1側L1の端部が連結されている。中間部材8は、第3軸A3上に配置されている。中間部材8の軸方向第2側L2の端部は、中間軸受99を介して、第2側壁部53に回転可能に支持されている。中間部材8は、支持部材7に形成された貫通孔71を通って軸方向Lに延在し、中間部材8の軸方向第1側L1の端部は、差動歯車装置4に連結されている。そして、中間部材8の少なくとも一部がケース5の内部に収容されている。
また、中間部材8の軸方向第2側L2の端部は、第2ドライブシャフトDS2と連結されている。本実施形態では、中間部材8と第2ドライブシャフトDS2とは一体的に形成されている。第2ドライブシャフトDS2は、第2側壁部53を貫通してケース5の外部まで延びている。
以上のように構成された差動歯車装置4においては、上述のように、差動入力ギヤ41と差動ケース42とが第3軸A3回りに回転する。つまり、差動歯車装置4は、第1軸A1及び第2軸A2とは異なる第3軸A3上に配置されている。
図1に示すように、ケース5は、周壁部51と第1側壁部52と第2側壁部53とを有している。周壁部51は、回転電機1、入力部材2、カウンタギヤ機構3、及び差動歯車装置4の径方向Rにおける外側を囲んでいる。周壁部51は、軸方向Lに延びる筒状に形成されている。第1側壁部52は、入力部材2、カウンタギヤ機構3、及び差動歯車装置4の軸方向第1側L1を囲んでおり、周壁部51に対して軸方向第1側L1に設けられている。第1側壁部52は、径方向Rに延びる板状に形成されている。第2側壁部53は、回転電機1の軸方向第2側L2を囲んでおり、周壁部51に対して軸方向第2側L2に設けられている。第2側壁部53は、径方向Rに延びる板状に形成されている。
周壁部51は、第1周壁部511と、第1周壁部511に対して軸方向第2側L2から接合された第2周壁部512と、によって構成されている。本実施形態では、第1周壁部511と第1側壁部52とは一体的に形成され、第2周壁部512と第2側壁部53とは一体的に形成されている。つまり、ケース5は、第1周壁部511と第1側壁部52とで構成された第1ケース部と、第2周壁部512と第2側壁部53とで構成された第2ケース部と、で2つのケース部で構成されている。
第1周壁部511の軸方向第2側L2の端部には、第1周壁部511の本体部から径方向Rの外側に突出する第1ボス部B1が形成されている。第2周壁部512の軸方向第1側L1の端部には、第2周壁部512の本体部から径方向Rの外側に突出する第2ボス部B2が形成されている。第1周壁部511と第2周壁部512とは、第1ボス部B1と第2ボス部B2とをボルト等の締結部材を用いて締結した状態で、接合されている。また、第1周壁部511の第1ボス部B1と第2周壁部512の第2ボス部B2との間には、第1周壁部511と第2周壁部512との内からの油の漏れを防ぐためのシール材(図示せず)が備えられている。このシール材としては、例えば、液状ガスケット等が好適に用いられる。
図2に示すように、車両用駆動装置100には、油が貯留される油貯留部54が備えられている。この油貯留部54は、ケース5内の下部空間に形成されている。油貯留部54の油面の高さは、車両用駆動装置100に備えられる各油路を含む各部に存在する油量によって変化する。本実施形態では、複数の車輪の回転が停止している車両停止状態(車両が停止中の状態で一定期間が経過した後の定常状態)での油貯留部54の油面の高さを第1高さH1とし、複数の車輪が回転している車両走行状態(車両が走行している状態)での油貯留部54の油面の高さを第2高さH2としている。また、本実施形態では、第1高さH1は、車両が平坦路に停止している状態での油貯留部54の油面の高さとし、第2高さH2は、車両が平坦路を基準速度(例えば時速50km)で直進している状態(すなわち、油貯留部54に慣性力が作用していない状態)での油貯留部54の油面の高さとしている。
油貯留部54は、第1軸A1及び第3軸A3を含む仮想平面Fに対して下方側となる。そして、この車両用駆動装置100では、第2軸A2は、仮想平面Fに対して油貯留部54と同じ下方側に配置されている。本実施形態では、第2軸A2だけでなく、カウンタギヤ機構3の全体が、仮想平面Fに対して下方側に配置されている。また、本実施形態では、車両が平坦路に停止している状態での鉛直方向を上下方向Xとしている。
図1に示すように、車両用駆動装置100は、第1カバー部材61と第2カバー部材62とを備えている。第1カバー部材61及び第2カバー部材62は、ケース5に固定されている。第1カバー部材61は、カウンタギヤ機構3と油貯留部54の油とを区画するように配置されている。第2カバー部材62は、差動歯車装置4と油貯留部54の油とを区画するように配置されている。
図3に示すように、第1カバー部材61は、第1ギヤ32と油貯留部54の油とを区画する第1部分611と、第2ギヤ33と油貯留部54とを区画する第2部分612と、を備えている。第1部分611は、第1ギヤ32の径方向Rの外側を囲う円筒状の部分と、第1ギヤ32の軸方向Lの両側を囲う部分とを有している。第2部分612は、第2ギヤ33の径方向Rの外側を囲う円筒状の部分を有している。本実施形態では、第2部分612の内側の空間は、軸方向第2側L2において第1部分611の内側の空間と連通しており、第1部分611と第2部分612とは一体的に形成されている。また、第2ギヤ33の軸方向第1側L1は第1側壁部52により囲われているため、第2部分612は、軸方向第1側L1に開口しており、第2ギヤ33の軸方向第1側L1を囲う部分を有していない。
第1カバー部材61には、第1開口613と第2開口614とが形成されている。第1開口613は、第1部分611に形成されている。第2開口614は、第2部分612に形成されている。第1ギヤ32は、第1開口613を通して駆動ギヤ22と噛み合っている。第2ギヤ33は、第2開口614を通して差動入力ギヤ41と噛み合っている。第1開口613及び第2開口614は、第2高さH2よりも上方で開口するように形成されている。本実施形態では、第1開口613及び第2開口614の双方が、第1高さH1よりも上方で開口するように形成されている。つまり、第1開口613及び第2開口614は、車両走行状態における油貯留部54の油面より高い箇所に形成されている。本実施形態では、第1開口613及び第2開口614は連なって一つの開口を形成している。
また、本実施形態では、第1カバー部材61は、油貯留部54の油をカウンタギヤ機構3側に導入するための油導入孔615を備えている。図3に示す例では、この油導入孔615は、第1カバー部材61における第1ギヤ32の軸方向第2側L2を囲う部分に形成されている。油導入孔615は、車両走行状態での油貯留部54の油面の高さである第2高さH2よりも下方に配置されていると好適である。これにより、車両走行状態であっても、常に、油導入孔615から第1カバー部材61の内側に油が導入される。従って、車両走行状態におけるカウンタギヤ機構3の潤滑を適切に行うことができる。なお、本実施形態では、油導入孔615は、第2ギヤ33における径方向Rの外側の端部に対して、第2軸A2を基準とした径方向Rの外側であって、軸方向L視で第1ギヤ32と重複する位置に設けられている。
そして、油貯留部54に貯留されている油が、油導入孔615を通して第1カバー部材61内に導入され、導入された油によりカウンタギヤ機構3が潤滑される。ここで、カウンタギヤ機構3が回転していない停止状態では、第1カバー部材61内の油面の高さは、油貯留部54の油面の高さと一致する。一方、カウンタギヤ機構3が回転している回転状態では、第1カバー部材61内の油は、第1ギヤ32及び第2ギヤ33の回転によって第1開口613及び第2開口614を通して第1カバー部材61の外部に排出される。そのため、第1カバー部材61の内側のカウンタギヤ機構3の周囲に存在する油の量は、油導入孔615を通して第1カバー部材61の内側に導入される油の量と、カウンタギヤ機構3の回転によって第1カバー部材61の外側に掻き出される油の量とのバランスによって定まる。そこで、本実施形態では、カウンタギヤ機構3の潤滑に必要な最小限の油量が、油導入孔615を通して導入されるように、油導入孔615の大きさ(流路断面積)を設定している。これにより、カウンタギヤ機構3の適切な潤滑を行いつつ、カウンタギヤ機構3によって油を撹拌することによるエネルギ効率の低下を最小限に抑えるようにしている。なお、油導入孔615の大きさの設定方法は、これ以外の方法であってもよい。
図1に示すように、中間部材8には、差動歯車装置4に油を供給するための油路81が形成されている。本実施形態では、中間部材8は、軸方向Lに延びる円筒状に形成されており、中間部材8の内部に油路81が形成されている。油路81は、軸方向Lに沿って形成されており、軸方向第1側L1の端部は、差動ケース42内に連通している。なお、油路81の軸方向第2側L2の端部付近には、図示しない油圧ポンプからの油圧が供給される供給路82が連通している。これにより、中間部材8の油路81を介して、差動ケース42内の差動歯車装置4のギヤ機構に潤滑油を供給している。
また、本実施形態では、第2カバー部材62の下部とケース5の内面との間に隙間625が形成されている。油貯留部54に貯留されている油が、この隙間625を通って第2カバー部材62内に導入され、導入された油により差動歯車装置4の差動入力ギヤ41が潤滑される。ここで、差動歯車装置4が回転していない停止状態では、第2カバー部材62内の油面の高さは、油貯留部54の油面の高さと一致する。一方、差動歯車装置4が回転している回転状態では、第2カバー部材62内の油は、差動入力ギヤ41の回転によって第2カバー部材62と第2ギヤ33との噛合い部に形成された開口を通して第2カバー部材62の外部に排出される。そのため、第2カバー部材62の内側の差動歯車装置4の周囲に存在する油の量は、隙間625を通して第2カバー部材62の内側に導入される油の量と、差動入力ギヤ41の回転によって第2カバー部材62の外側に掻き出される油の量とのバランスによって定まる。そこで、本実施形態では、差動入力ギヤ41の潤滑に必要な最小限の油量が、隙間625を通して導入されるように、隙間625の大きさ(流路断面積)を設定している。これにより、差動入力ギヤ41の適切な潤滑を行いつつ、差動入力ギヤ41によって油を撹拌することによるエネルギ効率の低下を最小限に抑えるようにしている。なお、隙間625の大きさの設定方法は、これ以外の方法であってもよい。
3.その他の実施形態
次に、車両用駆動装置のその他の実施形態について説明する。
(1)上記実施形態では、差動歯車装置4と油貯留部54の油とを区画する第2カバー部材62を備える構成を例として説明したが、これに限定されず、第2カバー部材62を備えない構成としてもよい。
(2)上記実施形態では、第1カバー部材61に、油貯留部54の油をカウンタギヤ機構3側に導入するための油導入孔615を備える構成を例として説明したが、この油導入孔615を備えない構成としてもよい。この場合において、カウンタギヤ機構3に油を供給するための油路をカウンタシャフト31に形成してもよい。
(3)上記実施形態では、差動歯車装置4の差動ケース42が、径方向Rにおける外側から差動ケース42内に油を導入するための油孔が形成されていない、密閉型のケースである構成を例として説明したが、これに限定されない。差動ケース42が、径方向Rに油孔を有する開放型のケースであってもよい。この場合において、中間部材8に、差動歯車装置4に油を供給するための油路81が設けられていない構成としてもよい。
(4)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
4.上記実施形態の概要
以下、上記において説明した車両用駆動装置の概要について説明する。
車両用駆動装置は、複数の車輪の駆動力源となる回転電機(1)と、前記回転電機(1)に駆動連結された入力部材(2)と、カウンタギヤ機構(3)と、前記入力部材(2)及び前記カウンタギヤ機構(3)を介して伝達される前記回転電機(1)からの駆動力を、前記複数の車輪に分配する差動歯車装置(4)と、前記回転電機(1)、前記入力部材(2)、前記カウンタギヤ機構(3)、及び前記差動歯車装置(4)を収容するケース(5)と、前記ケース(5)内の下部に設けられ、油が貯留される油貯留部(54)と、第1カバー部材(61)と、を備え、前記回転電機(1)及び前記入力部材(2)は、第1軸(A1)上に配置され、前記カウンタギヤ機構(3)は、前記第1軸(A1)とは異なる第2軸(A2)上に配置され、前記差動歯車装置(4)は、前記第1軸(A1)及び前記第2軸(A2)とは異なる第3軸(A3)上に配置され、前記第2軸(A2)は、前記第1軸(A1)及び前記第3軸(A3)を含む仮想平面(F)に対して前記油貯留部(54)と同じ側に配置され、前記第1カバー部材(61)は、前記カウンタギヤ機構(3)と前記油貯留部(54)の油とを区画するように配置されている。
この構成によれば、カウンタギヤ機構(3)を油貯留部(54)と同じ側の比較的下方側に配置することができる。これにより、仮想平面(F)に対して油貯留部(54)とは反対側にカウンタギヤ機構(3)を配置した場合に比べて、車両用駆動装置の上部に空間的な余裕を確保し易い。一方、第2軸(A2)を仮想平面(F)に対して油貯留部(54)と同じ側に配置したことで、カウンタギヤ機構(3)が油貯留部(54)に貯留された油に浸かり易くなる。しかし、この構成によれば、カウンタギヤ機構(3)と油貯留部(54)に貯留された油とを区画する第1カバー部材(61)を設けたことにより、カウンタギヤ機構(3)が、油貯留部(54)に貯留された油に浸かった状態で回転し続ける事態を生じ難くすることができる。よって、油貯留部(54)に貯留された油をカウンタギヤ機構(3)によって撹拌することによるエネルギ効率の低下を抑制することができる。
ここで、第2カバー部材(62)を更に備え、前記第2カバー部材(62)は、前記差動歯車装置(4)と前記油貯留部(54)の油とを区画するように配置されていると好適である。
この構成によれば、差動歯車装置(4)と油貯留部(54)に貯留された油とを区画する第2カバー部材(62)を設けたことにより、差動歯車装置(4)が、油貯留部(54)に貯留された油に浸かった状態で回転し続ける事態を生じ難くすることができる。よって、油貯留部(54)に貯留された油を差動歯車装置(4)によって撹拌することによるエネルギ効率の低下を抑制することができる。
また、前記第3軸(A3)上に配置されて前記差動歯車装置(4)に連結されている中間部材(8)を更に備え、前記中間部材(8)には、前記差動歯車装置(4)に油を供給するための油路(81)が形成されていると好適である。
この構成によれば、中間部材(8)を通して差動歯車装置(4)に対して潤滑用の油を供給できる。そのため、差動歯車装置(4)に対して周囲から供給される油の量が少ない場合であっても、差動歯車装置(4)が潤滑不足の状態となり難いようにすることができる。
また、前記差動歯車装置(4)は、歯車機構(47)を収容する差動ケース(42)を備え、前記第3軸(A3)を基準とした径方向(R)における外側から前記差動ケース(42)内に油を導入するための油孔が、前記差動ケース(42)に形成されていないと好適である。
この構成によれば、差動ケース(42)に油孔を形成した場合に比べて、差動ケース(42)の肉厚を薄くしながらも差動ケース(42)に十分な強度を確保し易い。このため、差動ケース(42)の小型化や軽量化を図ることが容易となり、ひいては車両用駆動装置の小型化を図ることも容易となる。
また、前記第1カバー部材(61)は、前記油貯留部(54)の油を前記カウンタギヤ機構(3)側に導入するための導入油孔(615)を備えていると好適である。
この構成によれば、油貯留部(54)の油を、油導入孔(615)を通して第1カバー部材(61)の内側に導入できるため、カウンタギヤ機構(3)が潤滑不足の状態となり難いようにすることができる。また、第1カバー部材(61)の内側のカウンタギヤ機構(3)の周囲に存在する油の量は、油導入孔(615)を通して第1カバー部材(61)の内側に導入される油の量と、カウンタギヤ機構(3)の回転によって第1カバー部材(61)の外側に掻き出される油の量とのバランスによって定まる。従って、油導入孔(615)の大きさを適切に設定することによって、カウンタギヤ機構(3)の適切な潤滑と、カウンタギヤ機構(3)によって油を撹拌することによるエネルギ効率の低下の抑制とのバランスを適切なものにすることが可能となる。