以下、実施形態によるディスクブレーキを、添付図面に従って詳細に説明する。
図1ないし図5は、第1の実施形態を示している。車輪(図示せず)と共に回転するディスク1は、例えば車両が前進方向に走行するときに、矢示A方向(図2参照)に回転し、車両が後退するときには矢示B方向(図2参照)に回転するものである。
キャリアと呼ばれる取付部材2は、ディスク1の外周側をディスク1の軸方向に跨いで車両の非回転部分(図示せず)に取り付けられている。ここで、取付部材2は、一対の腕部2A,2Aと、支承部2Bと、補強ビーム2Cとを含んで構成されている。各腕部2A,2Aは、ディスク1の周方向(図1および図2の左右方向、本出願においてはディスク周方向という)に離間してディスク1の外周を跨ぐようにディスク1の軸方向(図1の上下方向、図2の表,裏方向、本出願においてはディスク軸方向という)に延びている。
支承部2Bは、各腕部2Aの基端側を一体化するように接続して設けられ、ディスク1のインナ側となる位置で車両の非回転部に固定されている。補強ビーム2Cは、ディスク1のアウタ側となる位置で各腕部2Aの先端側を互いに連結している。これにより、取付部材2の各腕部2Aは、ディスク1のインナ側で支承部2Bにより一体的に連結されると共に、アウタ側で補強ビーム2Cにより一体的に連結されている。
取付部材2の各腕部2Aのうちディスク軸方向に関する中間部には、ディスク1の外周(回転軌跡)に沿って弧状に延びるディスクパス部(図示せず)が形成されている。取付部材2のうちディスクパス部の両側(ディスク軸方向の両側)には、インナ側,アウタ側のパッドガイド3(アウタ側のみ図示)が形成されている。即ち、取付部材2には、ディスク周方向の両側に位置してインナ側とアウタ側とでそれぞれ支持部としてのパッドガイド3が形成されている。
各パッドガイド3は、断面コ字形状をなす凹溝として形成され、摩擦パッド7が摺動変位する方向、即ちディスク1の軸方向に延びている。パッドガイド3は、摩擦パッド7を構成する裏板8の耳部8B,8Cを上,下方向(ディスク径方向)から挟み、摩擦パッド7をディスク1の軸方向にガイドするものである。
キャリパ4は、取付部材2にディスク1の軸方向へ移動(摺動)可能に設けられている。キャリパ4は、インナ脚部4Aと、ブリッジ部4Bと、アウタ脚部4Cとにより構成されている。インナ脚部4Aは、ディスク1の軸方向一側であるインナ側に設けられている。ブリッジ部4Bは、取付部材2の各腕部2A間でディスク1の外周側を跨ぐようにインナ脚部4Aからディスク1の軸方向他側であるアウタ側へと延設されている。アウタ脚部4Cは、ブリッジ部4Bの先端側であるアウタ側からディスク径方向の内向きに延び、先端側が二又状をなした爪部となっている。
キャリパ4のインナ脚部4Aには、例えばシングルボアとなる1個のシリンダが設けられている。このシリンダ内には、ピストン4D(図2参照)が摺動可能に挿嵌されている。図1および図2に示すように、インナ脚部4Aには、ディスク周方向に突出する一対の取付部4E,4Eが一体に設けられている。これら各取付部4E,4Eは、キャリパ4全体を摺動ピン5を介して取付部材2の各腕部2Aに摺動可能に支持するものである。
パッドスプリング6は、取付部材2の各腕部2Aと摩擦パッド7との間に配置され、取付部材2の各腕部2Aにそれぞれ取り付けられている。パッドスプリング6は、パッドガイド3に嵌め込まれ、インナ側,アウタ側の摩擦パッド7を弾性的に支持すると共に、摩擦パッド7の摺動変位を滑らかにする。
インナ側,アウタ側の摩擦パッド7,7は、ディスク1の軸方向両側面に対向して配置されている。各摩擦パッド7は、取付部材2にディスク軸方向の移動可能に取り付けられ、キャリパ4のピストン4Dによりディスク1に押圧されるものである。ここで、図3に示すように、摩擦パッド7は、ディスク周方向に略扇形状をなして延びる平板状の裏板8と、該裏板8に接合(貼付)され、ディスク1の表面(軸方向側面)に摩擦接触する摩擦材としてのライニング9とを含んで構成されている。なお、裏板8は、金属や樹脂等で成形することができる。
摩擦パッド7の裏板8は、中央部に位置する主板部8Aと、主板部8Aのディスク周方向両端側に設けられた耳部8B,8Cとを備えている。裏板8の主板部8Aのうち一面側となるディスク1に対向するディスク対向面8A1には、ライニング9が接合されている。また、裏板8の他面側となる、ディスク対向面8A1と反対側のディスク軸方向外面8A2には、後述の突出部11が設けられている。なお、ディスク対向面8A1とディスク軸方向外面8A2とを接続する面が裏板8の側面8A3となっている。
各耳部8B,8Cは、略凸形状に形成され、パッドスプリング6を介して取付部材2のパッドガイド3にそれぞれ摺動可能に挿入(挿嵌)されている。そして、各耳部8B,8Cは、車両のブレーキ操作時にディスク1から摩擦パッド7が受ける制動トルクを、取付部材2のパッドガイド3に伝達するトルク伝達部を構成するものである。
摩擦パッド7(裏板8)の耳部8B,8Cは、左,右対称に形成され、互いに同一の形状をなしている。ここで、一方(図3の右方)の耳部8Bは、車両の前進時に矢示A方向に回転するディスク周方向の入口側(回入側)に配置され、他方(図3の左方)の耳部8Cは、ディスク周方向の出口側(回出側)に配置されている。各耳部8B,8Cのうちディスク1の回入側に位置する一方の耳部8Bには、後述のばね成形体13が取り付けられている。実施形態では、ディスク1の回入側にのみばね成形体13が設けられており、回出側には設けられていない。但し、必要に応じて回出側にも設けてもよい。
裏板8の各耳部8B,8Cのうち裏板8の側面となる、パッドガイド3の奥壁面との対向面8B1,8C1には、それぞれ段差部10A,10Bが形成されている。これら各段差部10A,10Bは、耳部8B,8Cの先端側(突出側)の端面である対向面8B1,8C1を部分的にL字状に切欠くことにより形成されている。各段差部10A,10Bは、耳部8B,8Cの幅方向(ディスク径方向)の中心位置よりも径方向外側寄りとなる位置に配置されている。
ディスク1の回入側に位置する段差部10Aは、後述のばね成形体13のサイド押しばね14の一部を収納するための収容隙間を構成している。この段差部10Aには、サイド押しばね14がディスク軸方向に延出して配置されている。この場合、サイド押しばね14の先端となる振動部17が、裏板8のディスク対向面8A1とディスク1との間に入り込んでいる。即ち、サイド押しばね14および/または振動部17は、裏板8の対向面8B1(側面)に臨むようにディスク軸方向に延出して形成されている。
なお、実施形態では、サイド押しばね14の先端(振動部17)は、ライニング9の摩耗検知機能を兼ねているので、サイド押しばね14の先端をディスク対向面8A1とディスク1との間まで延ばしているが、摩耗検知機能を兼ねない場合は、ディスク対向面8A1とディスク1との間まで延ばさなくてもよい。
突出部11は、裏板8のディスク軸方向外面8A2のうちディスク周方向の入口側に設けられたものである。突出部11は、耳部8Bの近傍位置、即ち耳部8Bの基端(根元)側に位置して、ディスク軸方向外面8A2からディスク1から離間する方向(ディスク軸方向外側)に向けて突出している。一方、突出部12は、裏板8のディスク軸方向外面8A2のうちディスク周方向の出口側に設けられたものである。突出部12は、耳部8Cの近傍位置、即ち耳部8Cの基端(根元)側寄りに位置して、ディスク軸方向外面8A2からディスク軸方向外側に向けて突出している。
これら突出部11,12は、後述のばね成形体13を摩擦パッド7の裏板8に取り付けるためのものである。即ち、裏板8は、インナ側とアウタ側のどちらにも用いることができるように、裏板8のディスク周方向両側に突出部11と突出部12とを設けている。なお、図2ないし図3に示すように、実施形態では、突出部11にのみばね成形体13が取り付けられており、回出側には取り付けられていない。但し、必要に応じて回出側にも取り付けてもよい。
突出部11,12は、例えばプレス加工により形成される。具体的には、裏板8のディスク軸方向外面8A2に突出部11,12の外径形状の孔を有する金型(図示せず)を当接し、裏板8のディスク対向面8A1側から金型に向けて加圧する。これにより、裏板8のディスク軸方向外面8A2に当接された金型の孔から突出部11,12が加圧成型される。
次に、摩擦パッド7に取り付けられたばね成形体13について説明する。
ばね成形体13は、摩擦パッド7に固定され、取付部材2に当接することで取付部材2に対して摩擦パッド7を弾性的に変位させるものである。このばね成形体13は、摩擦パッド7をディスク周方向(の回出側)に付勢する周方向付勢部材としてのサイド押しばね14と、ライニング9の摩耗限界を警報する振動部17と、摩擦パッド7をディスク1から離間する戻し方向に付勢する戻しばね18とを一体成形した構成となっている。
図3ないし図5に示すように、ばね成形体13は、摩擦パッド7をディスク周方向の回出側(図2の矢示C方向)に押圧する機能(サイド押し機能)、ライニング9の摩耗限界を警報する機能(摩耗検知機能)、摩擦パッド7をディスク1から離間させた戻し位置に戻す機能(戻し機能)を有する戻しばね18の全体として3つの機能を合わせ持つ金属製の一体成形ばね部材として形成されている。なお、実施形態では、3つの機能を合わせ持つ金属製の一体成形ばね部材として構成することにより、組付性を高めている。
しかし、これに限らず、ばね成形体は、それぞれの機能を別々に備えた3つの部材を設ける構成としてもよい。または、サイド押し機能、摩耗検知機能を省略した戻し機能のみの戻しばねとしてもよい。
ばね成形体13は、インナ側,アウタ側の摩擦パッド7を構成する裏板8の各側縁部(耳部8B,8C)のうち、車両前進時にディスク回入側となる側縁部(耳部8B)に設けられている。ばね成形体13は、ステンレス鋼板等のばね性を有する金属板からプレス成形等の手段を用いて型取りされたばね素材を折曲げ加工することにより、サイド押しばね14と戻しばね18とを一体に成形してなるものである。なお、インナ側のばね成形体13とアウタ側のばね成形体13とは、ディスク1を挟んで対称(面対称)に形成されている点が相違する以外、同様の構成としており、以下の説明は、主としてアウタ側のばね成形体13を中心に説明する。
サイド押しばね14は、後述の戻しばね18と共にばね成形体13を構成するもので、サイド押しばね14は、車両前進時にディスク回入側となる耳部8Bと、これに対向する取付部材2のパッドガイド3の奥壁面との間に設けられている。サイド押しばね14は、パッドガイド3を付勢して摩擦パッド7をディスク1の回出側となるディスク周方向(図2の矢示C方向)に押圧する押圧機能を有している。また、これと共に、サイド押しばね14は、摩擦パッド7の裏板8とディスク1との間に配置される先端、即ち振動部17(の先端17A)が、ディスク1と接触したときに音を発生することにより、運転者等にライニング9の摩耗限界を警報する機能を有するものである。
サイド押しばね14は、後述の戻しばね18と共用の固定部15と、押付部16とを含んで構成されている。これら固定部15と押付部16とは、後述の振動部17と共に金属板のばね素材を折曲げ加工することにより戻しばね18と一体的に形成されている。押付部16は、固定部15のディスク周方向外側端部からディスク軸方向外側に向けて延び、略U字状に折返して形成された折曲げ片部16Aと、該折曲げ片部16Aからディスク軸方向内側に向けて延びる当り部16Bとにより構成されている。
当り部16Bは、取付部材2のパッドガイド3の奥壁面にパッドスプリング6を介して弾性変形状態で当接(弾接)する。サイド押しばね14の押付部16は、当り部16Bがパッドスプリング6を介して奥壁面に弾接することにより、摩擦パッド7をディスク周方向、より具体的には、ディスク1の回出側に付勢する。
サイド押しばね14と一体に形成された振動部17は、押付部16(当り部16B)の先端側からディスク1に向けて延びている。振動部17は、摩擦パッド7のライニング9が予め設定した所定部位(摩耗限界)まで摩耗したときに、その先端17Aがディスク1の軸方向側面(表面)と接触して振動することにより、音(異音)を発生する摩耗センサである。
次に、ばね成形体13を構成する戻しばね18について説明する。
戻しばね18は、摩擦パッド7と取付部材2との間、具体的には、摩擦パッド7(裏板8)の耳部8Bと取付部材2に取り付けられたパッドスプリング6との間に設けられている。戻しばね18は、摩擦パッド7をディスク1から離間する戻し方向に付勢するもので、サイド押しばね14、振動部17と共に、金属板のばね素材を折曲げ加工することにより形成されるものである。
戻しばね18は、基端側が摩擦パッド7の裏板8に固定され、先端側が基端側よりもディスク径方向外側で取付部材2側に弾性的に当接する構成となっている。即ち、戻しばね18は、摩擦パッド7の裏板8に固定され、裏板8のディスク径方向外側の側面8A3(耳部8B,8Cの側面も含む)に臨むようにディスク軸方向に延出して形成されている。このために、戻しばね18は、固定部15と、延出部19と、当接部20、突片部21とを含んで構成されている。
平板状の固定部15は、摩擦パッド7(裏板8)のディスク軸方向外面8A2に固定されるものである。固定部15は、摩擦パッド7(裏板8)の耳部8B側の突出部11にかしめ固定されることで、ディスク周方向も含めた位置決めをする。このために、固定部15のほぼ中央には、突出部11に係合する係合孔15Aが穿設されている。これにより、ばね成形体13(戻しばね18)は、摩擦パッド7の突出部11に固定部15の係合孔15Aを係合させた状態で、固定部15のうち摩擦パッド7に当接する面であるパッド当接面15Bを、摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2に当接させ、突出部11を押圧してかしめることにより摩擦パッド7に取り付けられる。
延出部19は、基端側が固定部15に接続され、先端側がディスク軸方向に沿って摩擦パッド7から離間する方向(ディスク軸方向外側)に延出している。具体的には、延出部19は、固定部15のディスク径方向内側端部からディスク軸方向外側に向けて延び、途中部位がディスク周方向外側に向けて延びる平面視(図5の上方からみて)略L字状となっている。
当接部20は、延出部19からディスク径方向外側に向けて延び、先端側がパッドスプリング6を介して取付部材2に弾性的に当接している。具体的には、当接部20は、延出部19の先端側(ディスク軸方向外側の端部)の一部分(ディスク周方向外側の部分)から折り返されて取付部材2側に当接するものである。
この当接部は、延出部19の先端側からディスク径方向の外側および取付部材2に近付く方向に、鋭角ないし直角(略45〜90度)に折曲げられた立上り部20Aと、立上り部20Aの先端側からディスク軸方向内側に向けて延び、先端側がU字状に折返されて取付部材2(パッドスプリング6)に弾性的に当接する折返し部20Bとにより形成されている。
これにより、戻しばね18は、摩擦パッド7(裏板8)をディスク1から離れる戻し方向に常に付勢し、例えば車両のブレーキ操作を解除したときに摩擦パッド7を戻し位置(初期位置、待機位置)に向け安定して戻すことができる。この場合、戻しばね18は、先端側となる当接部20が基端側となる固定部15よりもディスク径方向外側で、取付部材2に弾性を持って当接する。
突片部21は、延出部19の先端側の他の部分から突出して摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2に隙間をもって対面している。即ち、突片部21は、当接部20の立上り部20Aよりもディスク周方向内側に位置して、延出部19の先端側からディスク径方向内側に向けて突出している。従って、延出部19の先端側には、一部分に当接部20が接続され、他の部分に突片部21が接続されている。即ち、当接部20と突片部21とは、ディスク周方向で互いに離間して配置され、当接部20の方が突片部21よりもディスク周方向の外側寄りの位置に設けられている。
突片部21は、ディスク周方向に長尺な板状体からなり、固定部15に対してほぼ平行に形成されている。即ち、突片部21は、ばね成形体13の係合孔15Aを摩擦パッド7の突出部11に嵌め込んだ状態で、摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2に対面している。突片部21は、ばね成形体13を摩擦パッド7に仮置き(仮止め)したときに、摩擦パッド7の突出部11からばね成形体13が抜け落ちるのを抑制するために設けられた押え部分を構成するものである。
固定具22は、ばね成形体13を摩擦パッド7の裏板8に仮置きしたときに、ばね成形体13(戻しばね18)の突片部21を押圧してばね成形体13を摩擦パッド7に仮止めするものである。即ち、固定具22は、突片部21を押圧してばね成形体13が突出部11から抜け落ちるのを抑制したり、摩擦パッド7に対するばね成形体13の傾き(位置ずれ)を小さくしたりするものである。図4、図5に示すように、固定具22は、例えば金属材料、樹脂材料等からなる棒状体で、ディスク軸方向に延びる押圧部22Aと、押圧部22Aのディスク径方向内側から摩擦パッド7に向けて突出する位置決め突起22Bとにより構成されている。
固定具22の押圧部22Aのうち摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2と対面する面が突片部21と当接する突片部当接面22A1となっている。このため、突片部当接面22A1は、突片部21と略同形状に形成されている。また、突片部当接面22A1のディスク径方向内側には、突片部21のディスク径方向内側の端部が当接することにより固定具22を位置決めする位置決め突起22Bが形成されている。
固定具22は、突片部当接面22A1がばね成形体13(戻しばね18)の突片部21に当接して、ばね成形体13を摩擦パッド7の主板部8Aにむけて押圧することにより、ばね成形体13が突出部11から抜け落ちるのを抑制する。この場合、固定具22は、突片部当接面22A1と位置決め突起22Bとを突片部21に当接させることができるので、安定して突片部21を押圧することができる。
第1の実施形態によるディスクブレーキは、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、車両のブレーキ操作時には、キャリパ4のインナ脚部4A(シリンダ)にブレーキ液圧を供給することによりピストン4Dをディスク1に向けて摺動変位させ、これによりインナ側の摩擦パッド7をディスク1の一側面に押圧する。このとき、キャリパ4は、ディスク1からの押圧反力を受けるため、キャリパ4全体が取付部材2の腕部2Aに対してインナ側に摺動変位し、アウタ脚部4Cがアウタ側の摩擦パッド7をディスク1の他側面に押圧する。
これにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド7は、例えば図2中の矢示A方向(車両の前進時)に回転しているディスク1を、両者の間で軸方向両側から強く挟持することができ、このディスク1に制動力を与えることができる。そして、ブレーキ操作を解除したときには、ピストン4Dへの液圧供給が停止されることにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド7がディスク1から離間し、再び非制動状態に復帰する。このとき、インナ側とアウタ側の摩擦パッド7は、戻しばね18によりディスク1から離間した戻し位置(初期位置、待機位置)に安定して戻される。
このようなブレーキ操作時、解除時(非制動時)には、摩擦パッド7の耳部8B,8Cのうちディスク1の回入側に位置する耳部8Bが、サイド押しばね14の押付部16によって、図2中の矢示C方向に付勢され、摩擦パッド7は、ディスク1の回出側(図2中の矢示A方向)に弱い力で常時付勢される。そして、ディスク1の回出側に位置する耳部8Cは、このときの付勢力によりパッドスプリング6を介してパッドガイド3の奥壁面に押付けられる。このため、摩擦パッド7が車両走行時の振動等でディスク周方向にがたつくことを規制することができる。
そして、車両前進時のブレーキ操作時には、摩擦パッド7がディスク1から受ける制動トルク(矢示A方向の回転トルク)を、回出側の腕部2A(パッドガイド3の奥壁面)により受承することができる。これにより、ディスク1の回出側に位置する摩擦パッド7の耳部8Cは、パッドガイド3の奥壁面にパッドスプリング6を介して当接し続ける。しかも、回出側の耳部8Cは、ブレーキ操作前にサイド押しばね14の押付部16の付勢力により、パッドガイド3の奥壁面に押付けられた状態となっているので、制動トルクによって摩擦パッド7が移動して異音(ラトル音)が発生することを抑制することができる。
また、摩擦パッド7の耳部8B,8Cは、ディスク1の回入側,回出側に位置するパッドガイド3,3内にパッドスプリング6を介して摺動可能に挿嵌され、パッドスプリング6によってディスク1の径方向外側へと付勢されている。これにより、摩擦パッド7の耳部8B,8Cをディスク径方向外側へと弾性的に押付けることができる。このため、走行時の振動等により摩擦パッド7がディスク1の径方向にがたつくことを抑制することができる。そして、ブレーキ操作時には、インナ側,アウタ側の摩擦パッド7をディスク1の軸方向へと円滑に案内することができる。
次に、摩擦パッド7の裏板8にばね成形体13を取り付ける取付作業について説明する。
まず、裏板8の突出部11にばね成形体13の固定部15に形成された係合孔15Aを係合させて、ばね成形体13を裏板8に仮置きする。次に、突出部11を押しつぶす(かしめる)ことにより、ばね成形体13を裏板8に取り付けることができる。
ところで、係合孔15Aは、裏板8の突出部11に係合させるために、突出部11よりも若干大きく形成されている。従って、従来技術では、突出部11をかしめたときに摩擦パッド7に対してずれた状態で取り付けられる虞がある。また、摩擦パッド7に仮置きしたばね成形体13は、摩擦パッド7の突出部11をかしめる前に、突出部11から抜け落ちてしまう虞がある。
そこで、図4、図5に示すように、本実施形態では、ばね成形体13(戻しばね18)の延出部19に摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2に略平行な突片部21を設けている。これにより、ばね成形体13を仮置きしているときに、ばね成形体13を摩擦パッド7の裏板8に安定的に固定することができる。
具体的には、ばね成形体13の固定部15に形成された係合孔15Aを摩擦パッド7の突出部11に係合させる(仮置きする)。次に、ばね成形体13の摩擦パッド7に対する傾き(位置ずれ)を小さくした状態で固定具22により突片部21を押圧する。この場合、ばね成形体13は、突片部21が固定具22の突片部当接面22A1と位置決め突起22Bとに当接することにより、裏板8に安定して固定(仮止め)することができる。そして、この状態で突出部11を押しつぶしてかしめることにより、ばね成形体13を摩擦パッド7の裏板8に取り付けることができる。
かくして、第1の実施形態では、ばね成形体13(戻しばね18)の延出部19にばね成形体13を摩擦パッド7に安定的に固定するための突片部21を設けている。これにより、ばね成形体13を摩擦パッド7に仮置きしたときに、ばね成形体13が突出部11から抜け落ちるのを抑制することができる。また、ばね成形体13の摩擦パッド7に対する位置ずれを可及的に小さくして、ばね成形体13を摩擦パッド7の裏板8に精度よく取り付けることができる。
その結果、ばね成形体13を摩擦パッド7に取り付ける取付作業の作業性、生産性を向上することができる。また、ばね成形体13を摩擦パッド7に精度よく取り付けることができるので、ばね成形体13のサイド押しばね14、振動部17、戻しばね18が備えるサイド押し機能、摩耗検知機能、戻しばね機能のいずれの機能も向上することができる。
次に、図6、図7は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、ばね成形体(戻しばね)の延出部の先端側(ディスク軸方向外側端部)のうちディスク周方向内側部位に突片部を設けたことにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
突片部31は、延出部19の先端側の他の部分(当接部20が接続されている部分とは異なる部分)から突出して摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2に隙間をもって対面している。突片部31は、ばね成形体13(戻しばね18)の延出部19の先端側(ディスク軸方向外側端部)からディスク径方向内側に向けて突出している。この突片部31は、延出部19の先端のうちディスク周方向内側部位に設けられている。即ち、図7に示すように、延出部19の先端には、ディスク周方向外側に当接部20の立上り部20Aが設けられ、立上り部20Aからディスク周方向内側に所定の隙間寸法Lをもって突片部31が設けられている。
突片部31は、固定部15に対してほぼ平行に形成されている。即ち、突片部31は、ばね成形体13を摩擦パッド7の突出部11に嵌め込んだ状態で、摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2に隙間をもって対面している。突片部31のディスク周方向の長さ寸法は、第1の実施形態の突片部21のディスク周方向の長さ寸法のほぼ半分に形成されている。突片部31は、ばね成形体13を摩擦パッド7に仮置き(仮止め)したときに、摩擦パッド7の突出部11からばね成形体13が抜け落ちるのを抑制するために設けられた押え部分を構成するものである。
固定具32は、ばね成形体13を摩擦パッド7の裏板8に仮置きしたときに、ばね成形体13(戻しばね18)の突片部31を押圧してばね成形体13を摩擦パッド7に仮止めするものである。即ち、固定具32は、突片部31を押圧してばね成形体13が突出部11から抜け落ちるのを抑制したり、摩擦パッド7に対するばね成形体13の傾き(位置ずれ)を小さくしたりするものである。
図6、図7に示すように、固定具32は、例えば金属材料、樹脂材料等からなる棒状体で、ディスク軸方向に延びる押圧部32Aと、押圧部32Aのディスク周方向外側から摩擦パッド7に向けて突出する位置決め突起32Bとにより構成されている。即ち、固定具32は、略直方体形状のブロック体のディスク軸方向の一部を切欠くことにより、押圧部32Aと位置決め突起32Bとの段付状に形成されている。
押圧部32Aのうち摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2と対面する面が突片部31と当接する突片部当接面32A1となっている。このため、突片部当接面32A1は、突片部31と略同形状に形成されている。また、突片部当接面32A1のディスク周方向外側には、突片部31のディスク周方向外側の端部が当接すると共に、延出部19のディスク径方向内側面に入り込む位置決め突起32Bが形成されている。
固定具32は、突片部当接面32A1がばね成形体13(戻しばね18)の突片部31に当接して、ばね成形体13を摩擦パッド7の主板部8Aにむけて押圧することにより、ばね成形体13が突出部11から抜け落ちるのを抑制する。この場合、固定具32は、突片部当接面32A1と位置決め突起32Bとを突片部31に当接させることができるので、安定して突片部31を押圧することができる。
かくして、第2の実施形態においても第1の実施形態と同様に、ばね成形体13を摩擦パッド7に仮置きしたときに、ばね成形体13が突出部11から抜け落ちるのを抑制することができる。また、ばね成形体13の摩擦パッド7に対する位置ずれを可及的に小さくして、ばね成形体13を摩擦パッド7の裏板8に精度よく取り付けることができる。
その結果、ばね成形体13を摩擦パッド7に取り付ける取付作業の作業性、生産性を向上することができる。また、ばね成形体13を摩擦パッド7に精度よく取り付けることができるので、ばね成形体13が備えるサイド押し機能、摩耗検知機能、戻しばね機能のいずれの機能も向上することができる。
次に、図8、図9は、第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、ばね成形体(戻しばね)の延出部の先端側(ディスク軸方向外側端部)のうち立上り部20Aに隣合うように突片部を設けたことにある。なお、第3の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
突片部41は、延出部19の先端側の他の部分(当接部20が接続されている部分とは異なる部分)から突出して摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2に隙間をもって対面している。突片部41は、ばね成形体13(戻しばね18)の延出部19の先端側(ディスク軸方向外側端部)からディスク径方向内側に向けて突出している。この突片部41は、延出部19の先端側からディスク径方向外側に向けて延びる当接部20の立上り部20Aに隣合うように設けられている。
突片部41は、固定部15に対してほぼ平行に形成されている。即ち、突片部41は、ばね成形体13を摩擦パッド7の突出部11に嵌め込んだ状態で、摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2に隙間をもって対面している。突片部41のディスク周方向の長さ寸法は、第1の実施形態の突片部21のディスク周方向の長さ寸法のほぼ半分に形成されている。また、突片部41は、第2の実施形態の突片部31よりもディスク周方向外側に位置している。突片部41は、ばね成形体13を摩擦パッド7に仮置き(仮止め)したときに、摩擦パッド7の突出部11からばね成形体13が抜け落ちるのを抑制するために設けられた押え部分を構成するものである。
固定具42は、ばね成形体13を摩擦パッド7の裏板8に仮置きしたときに、ばね成形体13(戻しばね18)の突片部41を押圧してばね成形体13を摩擦パッド7に仮止めするものである。即ち、固定具42は、突片部41を押圧してばね成形体13が突出部11から抜け落ちるのを抑制したり、摩擦パッド7に対するばね成形体13の傾き(位置ずれ)を小さくしたりするものである。
図8、図9に示すように、固定具42は、例えば金属材料、樹脂材料等からなる棒状体で、ディスク軸方向に延びる押圧部42Aと、押圧部42Aのディスク周方向内側から摩擦パッド7に向けて突出する位置決め突起42Bとにより構成されている。即ち、固定具42は、略直方体形状のブロック体のディスク軸方向の一部を切欠くことにより、押圧部42Aと位置決め突起42Bとの段付状に形成されている。
押圧部42Aのうち摩擦パッド7のディスク軸方向外面8A2と対面する面が突片部41と当接する突片部当接面42A1となっている。このため、突片部当接面42A1は、突片部41と略同形状に形成されている。また、突片部当接面42A1のディスク周方向内側には、突片部41のディスク周方向内側の端部が当接すると共に、延出部19のディスク径方向内側面に入り込む位置決め突起42Bが形成されている。
固定具42は、突片部当接面42A1がばね成形体13(戻しばね18)の突片部41に当接して、ばね成形体13を摩擦パッド7の主板部8Aにむけて押圧することにより、ばね成形体13が突出部11から抜け落ちるのを抑制する。この場合、固定具42は、突片部当接面42A1と位置決め突起42Bとを突片部41に当接させることができるので、安定して突片部41を押圧することができる。
かくして、第3の実施形態においても第1の実施形態と同様に、ばね成形体13を摩擦パッド7に仮置きしたときに、ばね成形体13が突出部11から抜け落ちるのを抑制することができる。また、ばね成形体13の摩擦パッド7に対する位置ずれを可及的に小さくして、ばね成形体13を摩擦パッド7の裏板8に取り付けることができる。
その結果、ばね成形体13を摩擦パッド7に取り付ける取付作業の作業性、生産性を向上することができる。また、ばね成形体13を摩擦パッド7に精度よく取り付けることができるので、ばね成形体13が備えるサイド押し機能、摩耗検知機能、戻しばね機構のいずれの機能も向上することができる。
なお、上述した第1の実施形態では、突片部21を延出部19からディスク径方向内側に向けて突出させた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば突片部を延出部からディスク径方向外側に向けて突出させてもよい。このことは、第2,第3の実施形態についても同様である。
実施形態では、ばね成形体13は、摩擦パッド7をディスク1から離間させた戻し位置に戻す戻しばね機能(戻しばね18)、摩擦パッド7をディスク周方向の回出側に押圧するサイド押し機能(サイド押しばね14)、およびライニング9の摩耗限界を警報する摩耗検知機能(振動部17)との3つの機能を合わせ持ったものとして例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばばね成形体は、少なくとも戻しばね機能のみを有しているものも含まれる。また、その他の実施形態として、上記3つの機能のうちサイド押し機能のみを有しているばね成形体も考えられる。この実施形態の場合、上述した第1〜3の実施形態における延出部19が、折曲げ片部16Aと同様に固定部15のディスク周方向外側端部からディスク軸方向外側に延び、この延出部の先端側から折り曲げられて、固定部15に対してほぼ平行に形成された突片部を備える構成となる。
実施形態では、ばね成形体13(サイド押しばね14、戻しばね18)を金属板からなる板ばねとして構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば金属板以外の素材(例えば樹脂材等)により形成した各種のばねを戻しばねおよびサイド押しばねとして用いることができる。
実施形態では、キャリパ4のインナ脚部4Aに1個のピストン4Dを設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばキャリパのインナ脚部に2個のピストンを設けるツインボアの構成としてもよいし、キャリパのインナ脚部に3個以上のピストンを設ける構成としてもよい。
実施形態では、キャリパ4のインナ脚部4Aにシリンダを介してピストン4Dを摺動可能に設け、キャリパ4のアウタ脚部4Cをアウタ側の摩擦パッド7に当接させる構成とした所謂フローティングキャリパ型のディスクブレーキを例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばキャリパのインナ側とアウタ側とにそれぞれピストンを設ける構成とした所謂対向ピストン型のディスクブレーキに適用してもよい。