JP2010215002A - 車両用スタビライザシステム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】1対のトーションバーと、それら1対のトーションバーを相対回転させることによってそれら1対のトーションバーの捩り反力を変更可能なアクチュエータとを備え、1対のトーションバーの実際の相対回転量を指標するものとして、設定されている基準相対回転位置からの1対のトーションバーの相対回転量である制御用相対回転量が目標相対回転量となるようにアクチュエータを制御することで捩り反力を制御する車両用スタビライザシステムにおいて、車体のロール量を低減させるための制御に対応した基準相対回転位置(S14)とロール振動を減衰させるための制御に対応した基準相対回転位置(S13)とを、互いに異なる規則に基づいて設定するように構成する。このような構成によれば、各制御に適した基準相対回転位置を設定することが可能となる。
【選択図】図9
Description
それら1対のトーションバーをそれぞれの軸線回りに相対回転可能に保持するとともに、それら1対のトーションバーを相対回転させることによって、前記1対のトーションバーが発生させる捩り反力を変更可能なアクチュエータと、
前記1対のトーションバーの実際の相対回転量を指標するものとして、設定されている基準相対回転位置からの相対回転量である制御用相対回転量を用い、その制御用相対回転量が目標相対回転量となるように前記アクチュエータを制御することで、前記1対のトーションバーが発生させる捩り反力を制御する制御装置と
を備えた車両用スタビライザシステムであって、
前記制御装置が、
前記捩り反力を、それの少なくとも一部が車体のロール振動を減衰させるためのロール振動減衰力となるように制御するロール振動減衰制御を実行するロール振動減衰制御実行部と、
前記捩り反力を、それの少なくとも一部が車両の旋回に起因して生じるロール量を低減させるためのロール量低減力となるように制御するロール量低減制御を実行するロール量低減制御実行部と、
前記基準相対回転位置を、前記ロール振動減衰制御の開始時点と前記ロール量低減制御の開始時点とにおいて、互いに異なる規則に基づいて設定する基準相対回転位置設定部と
を有する車両用スタビライザシステム。
前記制御装置が、発生させるべき前記捩り反力に対応する前記中立相対回転位置からの相対回転量を前記目標相対回転量として決定する目標相対回転量決定部を有する(1)項に記載の車両用スタビライザシステム。
前記目標相対回転量決定部が、
車体が受けるロールモーメントを指標するロールモーメント指標の値に応じて前記ロール量低減成分を決定するように構成された(2)項に記載の車両用スタビライザシステム。
前記基準相対回転位置を、前記ロール量低減制御の開始時点において、その時点での前記制御用相対回転量がその時点において前記目標相対回転量決定部によって決定される前記ロール量低減成分と等しくなるように設定するように構成された(3)項に記載の車両用スタビライザシステム。
前記目標相対回転量決定部が、
車体のロール振動の速度を指標するロール速度指標の値に応じて前記ロール振動減衰成分を決定するように構成された(2)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の車両用スタビライザシステム。
前記基準相対回転位置を、前記ロール振動減衰制御の開始時点において、その時点での前記制御用相対回転量がその時点において前記目標相対回転量決定部によって決定される前記ロール振動減衰成分より少なくなるように設定するように構成された(7)項に記載の車両用スタビライザシステム。
前記目標相対回転量決定部が、
車体が受けるロールモーメントを指標するロールモーメント指標の値に応じて前記ロール量低減成分を決定するように構成されるとともに、
前記ロール量低減制御実行部が、前記ロールモーメント指標の値がロール量低減制御開始閾値を超えた時点で前記ロール量低減制御の実行を開始するように構成され、
前記ロール振動減衰制御開始閾値が、
前記ロール速度指標の値がそのロール振動減衰制御開始閾値を超えた時点で決定される前記ロール振動減衰成分が、前記ロールモーメント指標の値が前記ロール量低減制御開始閾値を越えた時点で決定される前記ロール量低減成分より多くなるように設定されたものである(9)項または(10)項に記載の車両用スタビライザシステム。
前記基準相対回転位置を、前記ロール量低減制御の開始時点において、その時点での前記制御用相対回転量がその時点において前記目標相対回転量決定部によって決定される前記ロール量低減成分と等しくなるように設定するとともに、
前記ロール振動減衰制御の開始時点においては、前記基準相対回転位置を前回の前記ロール量低減制御において設定されていた前記基準相対回転位置に設定するように構成された(11)項に記載の車両用スタビライザシステム。
前記基準相対回転位置を、前記ロール振動減衰制御の開始時点において、その時点での前記制御用相対回転量が0となるように設定するように構成された(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の車両用スタビライザシステム。
前記基準相対回転位置設定部が、前記ロール量低減制御の実行が既に開始されている場合には、前記ロール振動減衰制御の実行が開始されても、前記基準相対回転位置を前記ロール量低減制御の開始時点において設定されている前記基準相対回転位置に維持するように構成された(1)項ないし(13)項のいずれか1つに記載の車両用スタビライザシステム。
前記基準相対回転位置設定部が、前記ロール振動減衰制御の実行が既に開始されている場合には、前記ロール量低減制御の実行が開始されても、前記基準相対回転位置を前記ロール振動減衰制御の開始時点において設定されている前記基準相対回転位置に維持するように構成された(1)項ないし(14)項のいずれか1つに記載の車両用スタビライザシステム。
前記制御装置が、
発生させるべき前記捩り反力に対応する前記中立相対回転位置からの相対回転量を前記目標相対回転量として決定する決定部であって、前記ロール量低減制御と前記ロール振動減衰制御とを並行して実行する場合に、車体が受けるロールモーメントを指標するロールモーメント指標の値に応じて前記ロール量低減成分を、車体のロール振動の速度を指標するロール速度指標の値に応じて前記ロール振動減衰成分を、それぞれ決定し、それら決定された前記ロール量低減成分と前記ロール振動減衰成分とを合計して前記目標相対回転量を決定する目標相対回転量決定部を有する(14)項または(15)項に記載の車両用スタビライザシステム。
前記アクチュエータが、前記1対のトーションバーのシャフト部を相対回転させるものである(1)項ないし(16)項のいずれか1つに記載の車両用スタビライザシステム。
i)スタビライザシステムの全体構成
図1に、本実施例の車両用スタビライザシステム10を模式的に示す。本スタビライザシステム10は、車両の前輪側、後輪側の各々に配設された1対のスタビライザ装置14を含んで構成されている。スタビライザ装置14はそれぞれ、両端部において左右の車輪16を保持する車輪保持部材としてのサスペンションアーム(図2,3参照)に連結されたスタビライザバー20を備えている。そのスタビライザバー20は、それが分割された1対のトーションバーとしてのスタビライザバー部材22を含む構成のものとされている。それら1対のスタビライザバー部材22は、アクチュエータ26によって相対回転可能に接続されている。
本システム10を搭載する車両には、各車輪16に対応した4つのサスペンション装置が設けられている。転舵輪である前輪のサスペンション装置と非転舵輪である後輪のサスペンション装置とは、車輪を転舵可能とする機構を除き略同様の構成とみなせるため、説明の簡略化に配慮して、後輪のサスペンション装置を代表して説明する。図2,3に示すように、サスペンション装置30は、独立懸架式のものであり、マルチリンク式サスペンション装置とされている。サスペンション装置30は、それぞれがサスペンションアームである第1アッパアーム32,第2アッパアーム34,第1ロアアーム36,第2ロアアーム38,トーコントロールアーム40を備えている。5本のアーム32,34,36,38,40のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪16を回転可能に保持するアクスルキャリア42に回動可能に連結されている。それら5本のアーム32,34,36,38,40により、アクスルキャリア42は、車体に対して略一定の軌跡を描くような上下動が可能とされている。また、サスペンション装置30は、コイルスプリング44と液圧式のショックアブソーバ46とを備えており、それらは、それぞれ、ばね上部の一構成部分であるタイヤハウジングに設けられたマウント部48と、ばね下部の一構成部分である第2ロアアーム38との間に、互いに並列的に配設されている。つまり、サスペンション装置30は、ばね上部とばね下部とを弾性的に相互支持するとともに、それらの接近離間に伴う振動に対する減衰力を発生させているのである。
スタビライザ装置14の各スタビライザバー部材22はそれぞれ、図2,3に示すように、概して車幅方向に延びるシャフト部50と、シャフト部50と一体をなしてそれと交差して概ね車両の前方に延びるアーム部52とに区分することができる。各スタビライザバー部材22のシャフト部50は、アーム部52に近い箇所において、車体に固定的に設けられた保持具54によって回転可能に保持され、互いに同軸的に配置されている。各シャフト部50の端部(アーム部52側とは反対側の端部)は、それぞれ、後に詳しく説明するようにアクチュエータ26に接続されている。一方、各アーム部52の端部(シャフト部50側とは反対側の端部)は、リンクロッド56を介して第2ロアアーム38に連結されている。第2ロアアーム38には、リンクロッド連結部57が設けられ、リンクロッド56の一端部は、そのリンクロッド連結部57に、他端部はスタビライザバー部材22のアーム部52の端部に、それぞれ遥動可能に連結されている。
本システム10では、図1に示すように、2つのスタビライザ装置14に対応する電子制御ユニット(ECU)90が設けられている。ECU90は、各スタビライザ装置14、詳しくは、各アクチュエータ26の作動を制御する制御装置であり、各アクチュエータ26が有する電磁モータ60に対応する駆動回路としての2つのインバータ92と、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体とするコントローラ96とを備えている(図12参照)。インバータ92の各々は、コンバータ98を介してバッテリ100に接続されており、対応するスタビライザ装置14の電磁モータ60に接続されている。電磁モータ60は定電圧駆動され、電磁モータ60への供給電力は、供給電流量を変更することによって変更される。供給電流量の変更は、インバータ92がPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
図5に示すように、電磁モータ60は、Δ結線された3相のDCブラシレスモータであり、各相(U,V,W)に対応してそれぞれ通電端子122u,122v,122w(以下、総称して「通電端子122」という場合がある)を有している。インバータ92は、各通電端子、つまり各相(U,V,W)に対応して、high(正)側,low(負)側の2つのスイッチング素子を備えている。つまり、3つの高電位側スイッチング素子(以下、3つのスイッチング素子の各々を、「UHC」,「VHC」,「WHC」と呼ぶ場合がある)124と3つの低電位側スイッチング素子(以下、3つのスイッチング素子の各々を、「ULC」,「VLC」,「WLC」と呼ぶ場合がある)126とを備えている。また、スイッチング素子切換回路は、電磁モータ60に設けられた3つのホール素子HA,HB,HC(図では、Hと表記している)の検出信号により回転角(電気角)を判断し、その回転角に基づいて6つのスイッチング素子の各々のON/OFFの切り換えを行う。なお、インバータ92は、バッテリ100の高電位側の端子130hと低電位側の端子130lとにコンバータ98を介して接続されている。
図6を参照しつつ説明すれば、制御通電モードでは、いわゆる120゜通電矩形波駆動と呼ばれる方式にて、各スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのON/OFFが、電磁モータ60の回転角に応じて切り換えられる。詳しく言えば、高電位側スイッチング素子UHC,VHC,WHCのうちの1つのスイッチング素子と低電位側スイッチング素子ULC,VLC,WLCのうちの1つのスイッチング素子とがON状態(閉状態)とされるとともに、残りのスイッチング素子の全てがOFF状態(開状態)とされ、ON状態(閉状態)とされる2つのスイッチング素子が3つのホール素子HA,HB,HCの検出信号に応じて変更される。また、低電位側スイッチング素子ULC,VLC,WLCのみが、デューティ制御を実行するようになっており、そのデューティ比を変更することによって、電磁モータ60への供給電流量が変更されるようになっている。図6における「1*」は、そのことを示している。ちなみに、各スイッチング素子の切換形態は、モータ力の発生方向に応じて異なっており、その方向を、便宜的に、右方向(CW方向)と左方向(CCW方向)と呼ぶこととする。
ブレーキモードでは、電磁モータ60の各通電端子が相互に導通させられており、本作動モードは、全端子間導通モードの一種と考えられる。つまり、スイッチング素子のうちのhigh側,low側の一方に配置されたすべてのものを閉状態に維持し、high側,low側の他方に配置されたすべてのものを開状態に維持する。具体的に言えば、本システム10では、図6に示すように、高電位側スイッチング素子UHC,VHC,WHCのいずれもが、ON状態(閉状態)とされ、低電位側スイッチング素子ULC,VLC,WLCのいずれもが、OFF状態(開状態)とされる。それらON状態とされた高電位側スイッチング素子UHC,VHC,WHCにより、電磁モータ60の各相は、あたかも相互に短絡させられた状態となる。このような状態では、電磁モータ60に対して、いわゆる短絡制動の効果が得られることになる。したがって、アクチュエータ26は、車体のロール等による外部入力によって速度の大きな動作を強いられる場合に、バッテリ100から電磁モータ60に電力が供給されなくても、比較的大きな抵抗を発揮するのである。
フリーモードでは、バッテリ100の高電位側の端子130hから電磁モータ60の3つの通電端子122への通電が禁止されるとともに、電磁モータ60の3つの通電端子122からバッテリ100の低電位側の端子130lへの通電が禁止される。つまり、本作動モードは、全端子非通電モードの一種と考えれれる。具体的に言えば、図6に示すように、スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのすべてが、OFF状態(開状態)とされる。このため、本作動モードでは、電磁モータ60による制動効果が殆ど得られないか、あるいは、得られても比較的小さい効果しか得られない。したがって、本作動モードを採用すれば、外部入力がアクチュエータ26に作用する場合に、アクチュエータ26は、あまり抵抗を受けることなく作動することになる。
スタンバイモードでは、モータ力発生方向の指令に応じた各スイッチング素子の切り換えが実行されるものの、実際には電源から電磁モータ60への電力供給が行われない。図6に示すように、上記制御通電モードと同様、各スイッチング素子UHC,ULC,VHC,VLC,WHC,WLCのON/OFFが、電磁モータ60の回転位相に応じて切り換えられる。ただし、制御通電モードと異なり、低電位側スイッチング素子ULC,VLC,WLCのいずれにおいても、デューティ制御が行われれない(デューティ比が0となるようにデューティ制御が行われるともいえる)。つまり、パルスオン時間が存在せず、低電位側スイッチング素子ULC,VLC,WLCは、実際にはOFF状態(開状態)とされていることから、実際には、電磁モータ60には、バッテリ100から電力が供給されない状態とされるのである。図6における「0*」は、そのことを示している。
本システム10では、スタビライザ装置14は、上述のように、制御通電モードにおいて、左右の車輪16のばね上部とばね下部とを相対的に接近・離間させる力であるスタビライザ力を制御可能に発生させることが可能である。そこで、スタビライザ装置14が発生させるスタビライザ力を制御することによって、車両の旋回,車両の走行路面の起伏等に起因して生じる車体のロールを抑制する制御が実行可能とされている。本システム10における車体のロールの抑制制御には、車体のロール量を低減させるためのロール量低減制御と、車体のロール方向の振動を減衰するためのロール振動減衰制御との2つの制御があり、それら2つの制御が総合された制御が実行されている。この総合された制御では、スタビライザ装置14において、車体が受けるロールモーメント,車体のロール速度等に基づいて、適切なスタビライザ力を発生させるべく、1対のスタビライザバー部材22の相対回転量、つまり、電磁モータ130のモータ回転角が制御されている。詳しく言えば、基準モータ回転角からの回転量を上記制御に用いるモータ回転角(以下、「制御用モータ回転角」という場合がある)θSと定義し、その制御用モータ回転角θSが、車体が受けるロールモーメント,車体のロール速度等に基づいて決定される目標モータ回転角θ*となるように電磁モータ60が制御される。
ロール量低減目標モータ回転角成分(ロール量低減成分)θ* T
ロール振動減衰目標モータ回転角成分(ロール振動減衰成分)θ* G
である。以下に、ロール量低減制御,ロール振動減衰制御の各々を、その各々の目標モータ回転角成分の決定方法を中心に詳しく説明するとともに、目標モータ回転角に基づく上記電磁モータ60への供給電力の決定および、制御用モータ回転角の算出について詳しく説明する。
ロール量低減制御では、車両の旋回時において、その旋回に起因して生じる車体のロール量を低減させるべく、その旋回に起因して車体が受けるロールモーメントに応じたロール量低減力を発生させる。具体的に言えば、まず、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度として、ステアリングホイールの操舵角δと車両走行速度vに基づいて推定された推定横加速度Gycと、実測された実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定される。
Gy*=K1・Gyc+K2・Gyr
ここで、K1,K2はゲインであり、そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール量低減成分θ* Tが決定される。コントローラ96内には制御横加速度Gy*をパラメータとするロール量低減成分θ* Tのマップデータが格納されており、そのマップデータを参照して、ロール量低減成分θ* Tが決定される。なお、本システム10において、ロール量低減制御の実行は、ロールモーメント指標としての実横加速度Gyrが設定閾加速度Gy1を超えた場合に開始され、実横加速度Gyrが設定閾加速度Gy1以下となった場合に停止させられる。つまり、設定閾加速度Gy1が、ロール量低減制御の実行を開始するためのロール量低減制御開始閾値として機能するとともに、制御を終了するためのロール量低減制御終了閾値として機能する。
ロール振動減衰制御では、車体のロール方向の振動を減衰させるべく、スタビライザ力を、水平面を基準とした車体のロール速度に応じた大きさのロール振動減衰力となるように制御している。具体的には、まず、各車輪16に対応して設けられたばね上縦加速度センサ106によって検出される各ばね上部のばね上縦加速度Guに基づいてばね上絶対速度Vuがそれぞれ演算される。右前輪に対応するばね上絶対速度と右後輪に対応するばね上絶対速度との平均値である右輪対応平均ばね上絶対速度VuAVRと、左前輪に対応するばね上絶対速度と左後輪に対応するばね上絶対速度との平均値である左輪対応平均ばね上絶対速度VuAVLとの差が計算され、その速度差および前輪側のトレッド幅と後輪側のトレッド幅との平均値である平均トレッド幅Lに基づき、車体のロール速度ωが、次式に従って決定される。
ω=(VuAVR−VuAVL)/L
そして、その決定された車体のロール速度ωに基づき、減衰モーメントMが、次式に従って演算される。
M=Cr・ω
ここで、Crは、車体のロール方向の動作速度に応じた減衰力を発生させるためのゲインであり、車体のロール動作に対する減衰係数と考えることができる。そのように決定された減衰モーメントMに基づいて、ロール振動減衰成分θ* Gが決定される。コントローラ96内には減衰モーメントMをパラメータとするロール振動減衰成分θ* Gのマップデータが格納されており、そのマップデータを参照して、ロール振動減衰成分θ* Gが決定される。なお、本システム10において、ロール振動減衰制御の実行は、車体のロール速度を指標するロール速度指標としての車体のロール速度ωが設定閾速度ω1を超えた場合に開始され、ロール速度ωが設定閾速度ω1を超えない状態が設定時間t0継続した場合に停止させられる。つまり、設定閾速度ω1が、ロール振動減衰制御の実行を開始するためのロール振動減衰制御開始閾値として機能するとともに、制御を終了するためのロール振動減衰制御終了閾値として機能する。
以上のように、ロール量低減成分θ* T,ロール振動減衰成分θ* Gがそれぞれ決定されると、目標モータ回転角θ*が、次式に従って決定される。
θ*=θ* T+θ* G
そして、上記制御用モータ回転角θSが決定された目標モータ回転角θ*になるように、電磁モータ130が制御される。この電磁モータ60の制御において、電磁モータ60に供給される電力は、制御用モータ回転角θSの目標モータ回転角θ*に対する偏差であるモータ回転角偏差Δθ(=θ*−θS)に基づいて決定される。詳しく言えば、モータ回転角偏差Δθに基づくフィードバック制御の手法に従って決定される。具体的には、まず、後に詳しく説明するように、電磁モータ60が備えるモータ回転角センサ78の検出値に基づいて制御用モータ回転角θSを算出する。そして、その制御用モータ回転角θSに基づいて上記モータ回転角偏差Δθが認定され、次いで、それをパラメータとして、次式に従って、目標供給電流i*が決定される。
i*=KP・Δθ+KI・Int(Δθ)
この式は、PI制御則に従う式であり、第1項,第2項は、それぞれ、比例項、積分項を、KP,KIは、それぞれ、比例ゲイン,積分ゲインを意味する。また、Int(Δθ)は、モータ回転角偏差Δθの積分値に相当する。このように決定された目標供給電流i*は、それの符号により電磁モータ60のモータ力の発生方向を表すものとなっており、電磁モータ60の駆動制御にあたっては、目標供給電流i*に基づいて、電磁モータ60を駆動するためのデューティ比およびモータ力発生方向が決定される。そして、それらデューティ比およびモータ力発生方向についての指令がインバータ92に発令され、インバータ92によって、その指令に基づいた電磁モータ60の駆動制御がなされる。
制御に利用される制御用モータ回転角として、モータ回転角センサ78によって検出される実モータ回転角を採用することが考えられる。この場合、制御の基準となる基準モータ回転角は制御開始時点での実モータ回転角となり、その制御開始時点での実モータ回転角から回転する角度が目標モータ回転角となるように電磁モータ60が制御される。このように制御開始時点での実モータ回転角を基準モータ回転角として上記ロール量低減制御を実行すると、本システム10でのロール量低減制御は、上述したように、実横加速度Gyrが設定閾加速度Gy1を超えた場合に開始されることから、ロール量低減制御が開始される時点の目標モータ回転角はある程度大きくなり、ロール量低減制御の開始時点においてアクチュエータ26が急激に大きく作動させられることになる。具体的に以下に図を用いて説明する。
θS=θR+α
このように制御用モータ回転角θSを算出すれば、制御開始時点での実モータ回転角θRが0であることから、制御開始時点での制御用モータ回転角θSが、ロール量低減成分αと等しくなり、ロール量低減制御開始時点においてアクチュエータ26の動作量は0となる。つまり、基準モータ回転角が、制御開始時点での制御用モータ回転角θSがその開始時点でのロール量低減成分αと等しくなるように設定されることで、ロール量低減制御開始時点でのモータ回転角偏差Δθが0となり、制御開始時点でのアクチュエータ26の急激な作動を抑制することが可能となるのである。
θS=θR+β
ここで、βは、ロール速度ωが設定閾速度ω1を越えた時点t2でのロール振動減衰成分であり、上記ロール量低減成分αより大きな値となっている。ロール振動が発生する頻度は、車両が旋回される頻度と比較すると比較的多いため、ロール振動減衰成分βが低く設定されると、ロール振動減衰制御を実行する頻度が相当高くなるためである。
本システム10において、スタビライザ装置14の発生させるスタビライザ力の制御は、図9にフローチャートを示すスタビライザ装置制御プログラムがコントローラ96によって実行されることで行われる。このプログラムは、イグニッションスイッチがON状態とされている間、設定された時間間隔Δtをおいて繰り返し実行されている。以下に、その制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。なお、本制御プログラムは、前後の車輪に対して設けられた1対のスタビライザ装置14の各アクチュエータ26ごとに実行されるが、以降の説明においては、説明の簡略化に配慮して、1つのアクチュエータ26に対しての処理について説明する。
上記スタビライザ装置制御プログラム実行するコントローラ96は、それの実行処理に鑑みれば、図12に示すような機能構成を有するものと考えることができる。図から解るように、コントローラ96は、S1〜S3の処理を実行する機能部、つまり、目標相対回転量としての目標モータ回転角θ*を決定する機能部として、目標相対回転量決定部140を、S8〜S14の処理を実行する機能部、つまり、基準モータ回転角からの回転量を示す制御用モータ回転角θSを決定する機能部として、制御用相対回転量決定部142を、S15〜S17,S27〜S32の処理を実行する機能部、つまり、ロール量低減制御を実行する機能部として、ロール量低減制御実行部144を、S15〜S17,S47〜S52の処理を実行する機能部、つまり、ロール振動減衰制御を実行する機能部として、ロール振動減衰制御実行部146を、それぞれ備えている。なお、目標相対回転量決定部140は、S21〜S26の処理を実行する機能部、つまり、ロール量低減成分を決定する機能部として、ロール量低減成分決定部148を、S41〜S46の処理を実行する機能部、つまり、ロール振動減衰成分を決定する機能部として、ロール振動減衰成分決定部150を、それぞれ備えている。ちなみに、制御用モータ回転角θSは基準相対回転位置としての基準モータ回転角を設定しなければ算出することができないため、制御用相対回転量決定部142は、基準相対回転位置設定部としての機能をも有するものと考えられる。
上記システム10において、ロール振動減衰制御を実行する場合には、スタビライザバー20が殆ど捩られていない状態を基準としてアクチュエータ26を制御するべく、モータ回転角センサ78によって検出される実モータ回転角θRをそのまま制御用モータ回転角θSとして採用しているが、ロール振動減衰制御開始時のアクチュエータ26の急激な作動をある程度抑制すべく、ロール振動減衰制御に対応する基準モータ回転角を、ロール量低減制御に対応して設定された基準モータ回転角としてもよい。つまり、ロール振動減衰制御の開始時点の制御用モータ回転角がロール振動減衰成分βより少ないロール量低減成分αとなるように基準モータ回転角を設定してもよい。具体的には、ロール振動減衰制御での制御用モータ回転角θSも、ロール量低減制御と同様に、次式に従って算出してもよい。
θS=θR+α
Claims (7)
- 左右の車輪に対応して設けられ、それぞれが車幅方向に延びて配設され、それぞれの先端部が左右の車輪の対応するものを保持する車輪保持部に連結される1対のトーションバーと、
それら1対のトーションバーをそれぞれの軸線回りに相対回転可能に保持するとともに、それら1対のトーションバーを相対回転させることによって、前記1対のトーションバーが発生させる捩り反力を変更可能なアクチュエータと、
前記1対のトーションバーの実際の相対回転量を指標するものとして、設定されている基準相対回転位置からの相対回転量である制御用相対回転量を用い、その制御用相対回転量が目標相対回転量となるように前記アクチュエータを制御することで、前記1対のトーションバーが発生させる捩り反力を制御する制御装置と
を備えた車両用スタビライザシステムであって、
前記制御装置が、
前記捩り反力を、それの少なくとも一部が車体のロール振動を減衰させるためのロール振動減衰力となるように制御するロール振動減衰制御を実行するロール振動減衰制御実行部と、
前記捩り反力を、それの少なくとも一部が車両の旋回に起因して生じるロール量を低減させるためのロール量低減力となるように制御するロール量低減制御を実行するロール量低減制御実行部と、
前記基準相対回転位置を、前記ロール振動減衰制御の開始時点と前記ロール量低減制御の開始時点とにおいて、互いに異なる規則に基づいて設定する基準相対回転位置設定部と
を有する車両用スタビライザシステム。 - 前記1対のトーションバーが相対回転していないと想定される状態での前記1対のトーションバーの相対回転位置を中立相対回転位置と、前記目標相対回転量を構成する成分であって、前記ロール量低減制御についての成分を、ロール量低減成分と、それぞれ定義した場合に、
前記制御装置が、
発生させるべき前記捩り反力に対応する前記中立相対回転位置からの相対回転量を前記目標相対回転量として決定するとともに、車体が受けるロールモーメントを指標するロールモーメント指標の値に応じて前記ロール量低減成分を決定する目標相対回転量決定部を有し、
前記基準相対回転位置設定部が、
前記基準相対回転位置を、前記ロール量低減制御の開始時点において、その時点での前記制御用相対回転量がその時点において前記目標相対回転量決定部によって決定される前記ロール量低減成分と等しくなるように設定するように構成された請求項1に記載の車両用スタビライザシステム。 - 前記1対のトーションバーが相対回転していないと想定される状態での前記1対のトーションバーの相対回転位置を中立相対回転位置と、前記目標相対回転量を構成する成分であって、前記ロール振動減衰制御についての成分を、ロール振動減衰成分と、それぞれ定義した場合に、
前記制御装置が、
発生させるべき前記捩り反力に対応する前記中立相対回転位置からの相対回転量を前記目標相対回転量として決定するとともに、車体のロール振動の速度を指標するロール速度指標の値に応じて前記ロール振動減衰成分を決定する目標相対回転量決定部を有し、
前記基準相対回転位置設定部が、
前記基準相対回転位置を、前記ロール振動減衰制御の開始時点において、その時点での前記制御用相対回転量がその時点において前記目標相対回転量決定部によって決定される前記ロール振動減衰成分より少なくなるように設定するように構成された請求項1または請求項2に記載の車両用スタビライザシステム。 - 前記目標相対回転量を構成する成分であって、前記ロール量低減制御についての成分を、ロール量低減成分と定義した場合に、
前記目標相対回転量決定部が、車体が受けるロールモーメントを指標するロールモーメント指標の値に応じて前記ロール量低減成分を決定するように構成されるとともに、
前記ロール量低減制御実行部が、前記ロールモーメント指標の値がロール量低減制御開始閾値を超えた時点で前記ロール量低減制御の実行を開始するように構成され、
前記ロール振動減衰制御実行部が、前記ロール速度指標の値がロール振動減衰制御開始閾値を超えた時点で前記ロール振動減衰制御の実行を開始するように構成され、
前記ロール振動減衰制御開始閾値が、
前記ロール速度指標の値がそのロール振動減衰制御開始閾値を超えた時点で決定される前記ロール振動減衰成分が、前記ロールモーメント指標の値が前記ロール量低減制御開始閾値を越えた時点で決定される前記ロール量低減成分より多くなるように設定されたものであり、
前記基準相対回転位置設定部が、
前記基準相対回転位置を、前記ロール量低減制御の開始時点において、その時点での前記制御用相対回転量がその時点において前記目標相対回転量決定部によって決定される前記ロール量低減成分と等しくなるように設定するとともに、
前記ロール振動減衰制御の開始時点においては、前記基準相対回転位置を前回の前記ロール量低減制御において設定されていた前記基準相対回転位置に設定するように構成された請求項3に記載の車両用スタビライザシステム。 - 前記基準相対回転位置設定部が、
前記基準相対回転位置を、前記ロール振動減衰制御の開始時点において、その時点での前記制御用相対回転量が0となるように設定するように構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車両用スタビライザシステム。 - 前記ロール振動減衰制御実行部が、前記ロール量低減制御と並行して前記ロール振動減衰制御を実行可能に構成され、
前記基準相対回転位置設定部が、前記ロール量低減制御の実行が既に開始されている場合には、前記ロール振動減衰制御の実行が開始されても、前記基準相対回転位置を前記ロール量低減制御の開始時点において設定されている前記基準相対回転位置に維持するように構成された請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の車両用スタビライザシステム。 - 前記ロール量低減制御実行部が、前記ロール振動減衰制御と並行して前記ロール量低減制御を実行可能に構成され、
前記基準相対回転位置設定部が、前記ロール振動減衰制御の実行が既に開始されている場合には、前記ロール量低減制御の実行が開始されても、前記基準相対回転位置を前記ロール振動減衰制御の開始時点において設定されている前記基準相対回転位置に維持するように構成された請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の車両用スタビライザシステム。
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