以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
本件発明者は、発明が解決しようとする課題の欄で挙げた問題点に鑑みて、特に、光通信モジュールのレーザダイオードの精密温調に用いるサーモモジュールを前提として、光通信モジュール全体の鉛フリー化並びにレーザダイオードの光軸安定化の観点から鋭意研究を進め、当該サーモモジュール組立て用に適した融点280℃の金含有量80重量パーセント金スズ共晶ハンダの実用化方法を確立した。
図1は、本発明に基づき製造された金スズ接合ペルチェ素子熱電変換モジュール(以下、金スズ接合サーモモジュールと略称する)10の概念側面構造を示す図である。
この金スズ接合サーモモジュール10は、放熱側のセラミック基板11と冷却側のセラミック基板12との間に、P型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体素子13bを複数対接合した構造を有している。
セラミック基板11,12の片方の面(パターン面)上には、それぞれ、複数の各々独立したランド部(メタライズ層)111,121が例えば印刷パターンにより形成される。
各対のP型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体素子13bは、セラミック基板11のパターン面上にあるそれぞれ対応するランド部111上に配置される。
もう一方のセラミック基板12は、そのパターン面がP型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体素子13bの表面(セラミック基板11のランド部111と接合されていない側)に臨むように反転され、該パターン面上の各ランド部121内に各対のP型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体素子13bが配置されるべく位置合わせされたうえでセラミック基板11に対向配置される。
ここで、セラミック基板11のランド部111と、セラミック基板12のランド部121は、上述した対向配置状態において全ての熱電半導体素子13(13a,13b)が電気回路的に直列に接続されるように互いに位置がずれた配列パターンで形成されている。
つまり、この金スズ接合サーモモジュール10では、セラミック基板11とこれに対向配置されるセラミック基板12との間に、複数のP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bが縦横に交互に配列され、かつセラミック基板11,12のランド部111,121を介して電気的に直列に接続されている。
かかる配置形態を有する本発明の金スズ接合サーモモジュール10において、各対のP型熱電半導体素子13a,N型熱電半導素子13bと、これら素子13a,13bを挟んで対向配置されるセラミック基板11のランド部111並びにセラミック基板12のランド部121との間は、それぞれ金スズ層113,123により接合されている。
本発明では、上記金スズ層113,123としては、金の含有量が概ね80重量パーセントの金スズ共晶組成ハンダが用いられている。
また、セラミック基板11のパターン面端部には、熱電半導体素子搭載用のランド部111とは別に一対のリード線取付ランド部112a−1,112a−2(112a−2は図中に現われず)が形成される。
これらリード線取付ランド部112a−1,112a−2には、図示しない電源の正極と負極にそれぞれ接続されて当該金スズ接合サーモモジュール10へ電力の供給を行なう一対のリード線15が接合されている。
本発明では、リード線取付ランド部112a−1,112a−2に対するリード線15の接合にも、金の含有量が概ね80重量パーセントの金スズ共晶組成ハンダを用いている。
なお、この金スズ接合サーモモジュール10においては、上記リード線15に代えて、ポストと称する金属製の角柱が用いられる場合もある。この場合には、上記リード線取付ランド部112a−1,112a−2に代えてポスト取付ランド部112b−1,112b−2(図24,図25,図26参照)を形成し、当該ポストを上記割合の共晶組成から成る金スズハンダを用いてポスト取付ランド部112b−1,112b−2に接合することができる。
かかる構造の金スズ接合サーモモジュール10に対して、上記電源よりN型熱電半導体素子13bからP型熱電半導体素子13aの方向に直流電流を流すと、上側のセラミック基板12は冷却され、下側のセラミック基板11は発熱するように動作する。
セラミック基板11のパターン面の裏面(非パターン面)側には、放熱対象物との接合を図るための裏面メタライズ層114が形成され、セラミック基板12のパターン面の裏面(非パターン面)側には、冷却対象物との接合を図るための裏面メタライズ層124が形成されている。
このように、本発明に係わる金スズ接合サーモモジュール10は、セラミック基板11,12、P型熱電半導体素子13a、N型熱電半導体素子13b、電力供給用のリード線15(若しくは金属ポスト)を主たる構成要素とするサーモモジュールにおいて、P型熱電半導体素子13a並びにN型熱電半導体素子13bとセラミック基板11,12間の接合に、金の含有量が概ね80重量パーセントの金スズ共晶組成ハンダを用いたものである。
ここで、本発明の概要について説明する。
本件発明者は、まず、上述した金スズ接合サーモモジュール10の組立て用ハンダとして融点280℃の金含有量80重量パーセントの金スズ共晶ハンダを用いる場合、金スズをどのような形態にするかの検討を行った。
最も単純な方式は、金スズペーストをセラミック基板11,12のP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bの搭載位置(ランド部111,121)に印刷法もしくはディスペンサによる塗布を行う方法であるが、通常ランド部111,121のメタライズ最表面は金メッキ仕上げとなっているために、溶融した金スズハンダがランド部111,121の側面まで流れるため、回路のショートなどの危険性がある。
この不都合を回避するためには、P型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを搭載する面のみ金メッキ仕上げとし、その他の側面は金と合金を形成し難い銅などの金属面のままにする必要がある。この点に関しては、セラミック基板11,12の作成方法をサブトラクティブ法からセミアディティブ法に切り替えることにより達成可能である。
次に簡単な方法は、セラミック基板11,12並びにP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bの最表面を金面仕上げとし、その間に所定の金含有量の金スズペレットをはさみ、加熱融着する方法である。
この方法は、熱電半導体素子13a,13bのサイズが比較的大きなサーモモジュールに対しては有効であるが、1mm角を下回る微小サイズの熱電半導体素子13a,13bを用いるサーモモジュールの組立てには最適な方法とは言えない。
すなわち、1mm角を下回る金スズペレットを位置ズレなしに所定の位置に配置し、その上に熱電半導体素子13a,13bを立てて接合するためには、位置ズレ防止用の治具の開発が必要不可欠であり、大量生産には不向きだからである。
しかし、高粘性フラックスをうまく使用すれば、金スズペレットをセラミック基板11,12のランド部111,121にほぼ正確に固定可能であり、熱電半導体素子13a,13bの位置決めは金属プレートの所定の位置に穴をあけて位置決めすればこの方法でも金スズ接合は達成可能と判断する。
より高度な方式としては、P型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bの最表面に所定の組成の金スズ層(113,123)を析出させる方式がある。
メッキ法で金スズ層(113,123)を形成する方法は、所定の溶液から半導体素子表面に電界を印加しながら析出させるため、析出面内における析出層の厚みのバラツキを均一化すること、並びに金含有量80重量パーセントの金スズ組成のバラツキがないことが必要である。
プロセス的には複雑となるが、P型およびN型の熱電半導体ブロック(後述するインゴットに相当)の最表面を金メッキ仕上げとし、次いでこのブロックに所定の金含有率の金スズフォイルまたは箔を予め融着してしまい、その後、当該ブロックをダイシングすることによりP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを生成して、これら熱電半導体素子13a,13bを金面仕上げのセラミック基板11,12のランド部111,121に配列し、加熱融着する方法がある。
この方法も、前述したように、各熱電半導体素子13a,13bの位置決め精度が問題となるが、ここでも高粘性フラックスを固定用に使用すれば、実現可能と考えられる。
上述した問題点について、以下に述べるような対策を施すことにより、金スズ接合サーモモジュール10を実用化できると判断し、種々実験を行って本発明に至った。
また、当該サーモモジュール10の組立てを金スズ接合で行いながら、電力供給用のリード線15またはそれに代わる金属製ポストの接合を融点の低いスズアンチモン系ハンダを用いたのでは鉛フリー化の効果が乏しいため、鋭意実験を積み重ね実用的なリード部材接合法に到達した。
以下、代表的な実施例について詳細に説明する。
実施例1
本実施例では、まず、図2に示す如くの工程を経てP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを生成した。
まず最初に、ビスマス−テルルを主成分とするP型およびN型熱電半導体粉末を加熱加圧しながらそれぞれのインゴット(熱電半導体ブロック)70を作成した。
次に、各インゴット70をスライスし、P型とN型のそれぞれの熱電半導体ウェハー71を得た。ウェハーサイズは、概ね30mm×40mmで、厚みはモジュール性能により概ね0.8mmのものを準備した。
P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71をそれぞれ無機酸の混酸でエッチングし、これらウェハー71の全周にわたり無電解ニッケルメッキを概ね4μm厚さ施した。
その後、金メッキを0.2〜0.3μm付けた。この状態でウェハー71を治具に固定し、ダイシング(細断)を行なってP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを得た。細断後のP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bの素子サイズは0.64mm×0.64mmである。
上記工程により得たP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを用いたサーモモジュールの組立ては、図4および図5に示す一連の如くの工程を経て行なった。
まず最初に、図4(a)に示す如く、セラミック基板11のランド部111に金スズのペーストを塗布することから行った。用いた金スズペーストは市販品で、金属成分中の金の含有量が概ね80重量パーセントの共晶組成の金スズ合金である。このペースト中には粒径25〜32μmの金スズ粒子とRMAタイプのフラックスが含まれている。
また、用いたセラミック基板11(セラミック基板12も同様。但し、リード線取付ランド部は有せず)は、厚みが0.3mmのアルミナ製で、その片面はP型熱電半導体素子13a及びN型熱電半導体素子13bが1個ずつ配置できるようにしたランド部111が31個だけパターン形成され、更に電源供給用のリード線15を取付けるためのリード線取付ランド部112a−1,112a−2(図4では、簡単化のため省略)が形成されている。
ランド部111(セラミック基板12のランド部112も同様)の構成は、図3に示す如く、セラミック側から銅のメタライズ層1111、その上にニッケルのメタライズ層1112、更にその上には金が0.2〜0.3μmメッキ(金メッキ1113)された構造であり、各ランド部111の側壁は銅、ニッケル、金のむき出し構造となっている。
セラミック基板11の素子搭載面の裏面は、セラミック基板11の外周部から0.1mm小さめにメタライズされており、全面にわたって銅(銅メタライズ層1141)、ニッケル(ニッケルメタライズ層1142)、金(金メッキ1143)からなるメタライズ構造(裏面メタライズ層114)を有している。
図4(a)に示す金スズペースト塗布工程においては、セラミック基板11のパターン面に対してパターン(ランド部111)の位置と同じ位置に穴を持つ金属製のマスクをかぶせ、この上から金スズペーストをスクイーズした。
均一な厚みになるように金属へらで過剰分の金スズペーストを取り除き、大凡50μmの金スズペーストを塗布した。
金属マスクを取り除いた後、熱電半導体素子13a,13bの配置位置に穴が空いた厚み約1mmのカーボン製の治具をかぶせ、図2に示す方法で生成した金メッキ仕上げの熱電半導体素子13a,13bを配列した〔図4(b)参照〕。
この状態で位置ズレ防止のための重しをのせて、真空炉中に置き、10℃/分の昇温速度で320℃まで加熱、1分保持して金スズ接合を行った〔図4(c)参照〕。
得られたセラミック基板11と熱電半導体素子13a,13bの一方のみが接合したπ組状態モジュールは、金スズの流れ出しも無く、接合状態は良好であった。
次に、図5(a)に示すように、もう一枚のセラミック基板12も同様の方法でランド部121上に金スズペーストを塗布し、先に作成したπ組状態モジュールの金面素子(熱電半導体素子13a,13b)側と重ねた。
その後、図5(b)に示すような加熱工程に移り、ここでは、カーボン治具の代わりに全体(両組み状態とされたモジュール全体)を金属製のプレートで挟み込み、真空炉で加熱した。加熱条件は、上述したπ組状態モジュール生成時〔図4(c)参照〕と同様とした。
以上の工程を経て得られた金スズ接合サーモモジュール10は、リード線取り付け後の内部抵抗(R1)を計測し、その後-40℃/85℃(30分/サイクル、20サイクル)のサーマルショック試験と反転通電試験(冷却側/放熱側の到達温度差が70〜75℃になるように電流を印加、7.5秒切替え、72サイクル)を実施した。
試験後の内部抵抗(R2)を計測し、抵抗変化率を求めた結果、いずれのサーモモジュールも0.5パーセント程度の内部抵抗変化率であり、サーモモジュールとして十分機能することを確認した。
従って、金スズペーストを用いたサーモモジュール10の組立ては有効であることが確認出来た。
実施例2
本実施例においても、図2に示す如くの工程を経てP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを生成した。
まず、ビスマス−テルルを主成分とするP型およびN型熱電半導体粉末を加熱加圧しながらそれぞれのインゴット70を作成した。これら各インゴット70をスライスし、P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71を得た。ウェハーサイズは概ね30mm×40mmで、厚みはモジュール性能により概ね0.8mmのものを準備した。
このウェハー71を実施例1と同様の方法(図2参照)で金メッキ仕上げのP型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体素子13bとし、それぞれ固定治具に取り付けて0.64mm×0.64mmのサイズにダイシングした。
本実施例でのサーモモジュールの組立てに用いたセラミック基板11(セラミック板12も同様。但し、リード線取付ランド部は有せず)は、厚みが0.3mmのアルミナ製で、その片面はP型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体素子13bが各1個ずつ配置できるようにしたランド部111が31個形成され、更に電源供給用のリード線15を取付けるためのリード線取付ランド部112a−1,112a−2が形成されている。
セラミック基板11上のランド部111(セラミック基板12のランド部112も同様)の構成は、セラミック側から銅のメタライズ層、その上にニッケルのメタライズ層、更にその上には金を0.2〜0.3μmメッキした構造であり、各ランド部111の側壁は銅、ニッケル、金のむき出しの構造となっている(図3参照)。
セラミック基板11,12のパターン面と反対面はセラミック基板11,12の外周部から0.1mm小さめにメタライズされており、全面にわたって銅、ニッケル、金からなるメタライズ構造を有している(図3参照)。
本実施例では、上述したP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13b並びにセラミック基板11,12を用いて、図6および図7に示す一連の工程を経て金スズ接合サーモモジュール10の組立てを行なった。
まず最初に、図6(a)に示すように、セラミック基板11のパターン(ランド部111)に高粘性フラックスを塗布した。
その後、ランド部111の位置と同じ位置に穴を持つカーボン製のマスクをかぶせ、この上に熱電半導体素子13a,13bとほぼ同サイズ(0.7mm角)に打ち抜いた金スズ箔(厚み35μm)を付着させた〔図6(b)参照〕。
次いで、図6(c)に示すように、カーボン製治具を用いて上記金スズ箔の上に金メッキ仕上げの熱電半導体素子13a,13bを配列した後、図6(d)に示すように、位置ズレ防止のための重しをのせて真空炉を用いて加熱溶解した。
加熱条件は、10℃/分の昇温速度で320℃まで加熱、1分保持して金スズ接合を行った。得られたセラミック基板11と熱電半導体素子13a,13bの一方のみが接合したπ組状態モジュールは金スズの流れ出しも無く、接合状態は良好であった。
次に、上記カーボン製治具を取り外し、図7(a)に示すように、接合されなかった熱電半導体素子13a,13bの金メッキ仕上げ表面に高粘性フラックスを用いて金スズ箔を付着させて、もう1枚のセラミック基板12を重ねた後、更に、図7(b)に示すように、位置ズレ防止用の金属製治具に固定して真空炉中で加熱溶融した。
加熱条件は、上述したπ組状態モジュール生成時〔図6(d)参照〕と同様の温度条件とした。
このようにして作成した金スズ接合サーモモジュール10の一方の面に熱電対を鉛スズハンダで接合し、もう一方の面を温度コントロールされた水冷板上にセットし、冷却面に熱電対を張り付け、当該モジュール10に最大電流(約1.2A)印加時に冷却側基板11と放熱側基板12間で約70℃の温度差が出ることを確認した。従って、金スズのペレット(箔)を用いたサーモモジュール10の組立ても十分可能なことが確認できた。
実施例3
本実施例では、図8に示す如くの工程を経てP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを生成した。
まず最初に、ビスマス−テルルを主成分とするP型およびN型熱電半導体粉末を加熱加圧しながらそれぞれのインゴット70(図2参照)を作成した。各インゴット70をスライスし、P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71を得た。ウェハーサイズは概ね30mm×40mmで厚みはモジュール性能により概ね0.8mmのものを準備した。
密着力確保のためP型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71をそれぞれ無機酸の混酸でエッチングし、その後ウェハー全周にわたって無電解ニッケルメッキを概ね4μm厚さ施した。その後、金メッキを0.2〜0.3μm付けた。
次に、この金メッキし上げしたウェハーに35μm厚みの金スズフォイル(箔)を還元雰囲気(微量水素ガスを添加した高純度窒素ガス)下で熱融着した。使用した金スズフォイルのサイズは15mm×40mmで、これをウェハー71の片面に2枚ずつ並べて融着を行った。加熱条件は、昇温速度10℃/分で320℃まで加熱し、その温度で1分保持とした。冷却速度も10℃/分で室温まで冷却した。
次いで、得られた金スズ融着ウェハー71を治具に固定し、0.64mm×0.64mmの大きさにダイシングして、P型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを得た。
本実施例のサーモモジュールの組立てに用いたセラミック基板11(セラミック板12も同様。但し、リード線取付ランド部は有せず)は、厚みが0.3mmのアルミナ製で、その片面はP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bが1個ずつ配置できるようにしたランド部111が31対だけ形成され、更に電源供給用のリード線を取付けるためのリード線取付ランド部112a−1,112a−2がパターンが形成されている。
セラミック基板11のランド部111(セラミック基板12のランド部121も同様)の構成は、銅のメタライズ層、その上にニッケルのメタライズ層、更にその上には金が0.2〜0.3μmメッキした構造であり、各パターン(ランド部111,121)の側壁は銅、ニッケル、金のむき出しとなっている(図3参照)。
また、セラミック基板11のパターン面(素子搭載面)の反対面は、セラミック基板11の外周部より0.1mm小さめに全面にわたって銅、ニッケル、金からなるメタライズ構造を有している(図3参照)。
本実施例では、上述したP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13b並びにセラミック基板11,12を用いて、図9および図10に示す一連の工程を経て金スズ接合サーモモジュール10の組立てを空気中で行なった。
具体的には、セラミック基板11のパターン面のランド部111に対して高粘性フラックスを塗布し〔図9(a)参照〕、次いでこの上に金スズを融着したP型熱電半導体素子13a、N型熱電半導体素子13bを配列し〔図9(b)参照〕、更に、加熱部設定温度390℃、20秒で金スズ接合を行った〔図9(c)参照〕。
上記工程を経て得られたセラミック基板11と熱電半導体素子13a,13bの一方のみが接合されたπ組状態モジュールは、金スズのセラミック基板11への濡れも良好で、接合状態は良好であった。
次に、もう一枚のセラミック基板12を上記π組状態モジュールのものと重ね合わせ〔図10(a)参照〕、更に、固定用治具と共に345℃、3分加熱して〔図10(b)参照〕、金スズ接合サーモモジュール10を得た。
得られたサーモモジュール10は、リード線15取り付け後の内部抵抗(R1)を計測し、その後-40℃/85℃(30分/サイクル、20サイクル)のサーマルショック試験と反転通電試験(冷却側/放熱側の到達温度差が70〜75℃になるように電流を印加、7.5秒切替え、72サイクル)を実施した。
試験後の内部抵抗(R2)を計測し、抵抗変化率を求めた結果、いずれのサーモモジュール10も0.5パーセント程度の上昇であり、サーモモジュール10として十分機能することを確認した。
以上のことから、P型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bの最表面におよそ80重量パーセントの金を含む共晶組成の金スズ層を設け、これを接合剤としてサーモモジュール10を組み立てることも十分可能であることが確認できた。
実施例4
本実施例では、図11に示す如くの工程を経てP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを生成した。
まず最初に、ビスマス−テルルを主成分とするP型およびN型熱電半導体粉末を加熱加圧しながらそれぞれのインゴット70(図2参照)を作成し、各インゴット70をスライスして、P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71を得た。ウェハーサイズは、概ね30mm×40mmで、厚みはモジュール性能から概ね0.8mmとした。
P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71をそれぞれ無機酸の混酸でエッチングし、その後ウェハー全周にわたって無電解ニッケルメッキを4μm施した。
その後、金メッキをフラッシュ金相当(蛍光X線膜厚測定で0.01μm)、0.2〜0.3μm、5μm、10μm、20μm(ダイシング後の樹脂埋め込み断面観察)を水準とした金メッキ仕上げウェハーを試作した。なお、比較のため、ニッケルメッキで止めた水準(図示せず)も試作した。
次に、各金メッキウェハーおよびニッケルメッキのみのウェハーの両面に、35μm厚みの金スズフォイル(箔)を配置し、真空炉を用いて融着した。融着条件は実施例3と同様、還元雰囲気下320℃、1分保持である。
かかる工程においては、金メッキ仕上げのウェハーに対して金スズは元の面積よりも広がる傾向が見られたが、ニッケルメッキのみのウェハーでは広がりが一切見られず、また、ニッケルと金スズ箔の接合も不十分であった。
その後、各ウェハーを0.64mm×0.64mm角にダイシングし、P型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを得た。この工程においては、金メッキしたウェハーは問題なかったが、ニッケルメッキのみのウェハーでは金スズ層がダイシング中に部分剥離を起こし、モジュール組立てに供試出来なかった。
本実施例におけるサーモモジュールの組立ては、23対のランド部を有するアルミナ基板を用いて行った。具体的には、組立て自動機を用いて、アルミナ基板に高粘性フラックスを塗布し、その上に各金メッキ水準ごとのP型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体素子13bを配列し、375℃20秒の加熱条件でπ組状態モジュールとした。
その後、π組状態モジュールの基板にもう1枚のセラミック基板を重ね、両組用治具で挟み込みながら加熱して、23対の熱電半導体素子対から成る金スズ接合サーモモジュール10とした。
組立て完了後、リード線付けを行い、内部抵抗(R1)を計測し、その後-40℃/85℃(30分/サイクル、20サイクル)のサーマルショック試験と反転通電試験(冷却側/放熱側の到達温度70〜75℃になるように電流印加、7.5秒切替え、72サイクル)を実施した。
試験後の内部抵抗(R2)を計測し、抵抗変化率を求めた結果、いずれのサーモモジュールも0.5パーセント程度の上昇であり、サーモモジュールとして十分機能することが確認できた。
その後、サーモモジュールの両面にスズ銀銅ハンダ(融点217℃)を用いて厚み1mmの銅タングステン(20%)板を接合した。このようにして作成したサンプルのサーマルショック試験による耐久性を評価した結果、1000サイクル終了後の抵抗値変化は、金メッキの厚みにより異なった。
最も抵抗値変化量が大きかったのは0.01μmの金メッキ水準で、その他の金メッキ水準は殆ど同レベルであった。0.01μmの金メッキ水準は、約100サイクルで5パーセントの内部抵抗変化率に達したが、その他の水準は1000サイクル経過後でも2パーセント未満の内部抵抗変化率であった。
従って、金スズフォイルを熱電半導体ウェハーに融着加工する場合、ウェハー最表面に金メッキを施すことが必要であり、望ましくは0.01μm以上の金メッキを施す必要がある。
実施例5
本実施例では、図12に示す如くの工程を経てP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを生成した。
まず最初に、ビスマス−テルルを主成分とするP型およびN型熱電半導体粉末を加熱加圧しながらそれぞれのインゴット70(図2参照)を作成し、各インゴット70をスライスして、P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71を得た。ウェハーサイズは、概ね30mm×40mmで、厚みはモジュール性能により概ね0.8mmのものを準備した。
P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71をそれぞれ無機酸の混酸でエッチングし、その後、ウェハー全周にわたって無電解ニッケルメッキを概ね4μm厚さ施した。
その後、ウェハー71の最表面にスズメッキ層を1μm、2μm付けた水準を試作し、比較のためにニッケルメッキで止めた水準を試作した。
これら各表面処理ウェハーの両面に35μm厚みの金スズ箔をはさみ、還元雰囲気の真空炉で320℃×1分保持の加熱条件で金スズフォイル(箔)との融着を試みた。
各ウェハーをダイシングにより0.64mm×0.64mm角に細断したが、ニッケルメッキ仕上げに金スズフォイルを融着したウェハーは、ダイシング中に金スズ層の部分剥離が見られた。スズメッキ仕上げを経たウェハーに関しては、熱電半導体と強固に密着しており、剥離は観測されなかった。
上記観測により組立て可能と認められたスズメッキ仕上げの熱電半導体素子13a,13bを用いて実施例4と同様の方法で金スズ接合サーモモジュール10の組立てを行った。その結果、特に、金スズの融点が大幅に変化することはなく、モジュール組立て後の破壊試験でも素子と基板の密着性は良好であった。
組立後の金スズ接合サーモモジュール10にリード線を取り付けた後、サーマルショック試験と反転通電試験前後の抵抗の変化率は、金メッキ仕上げの場合もスズメッキ仕上げの場合も0.3〜0.6パーセントで通常の鉛系のハンダを使用した場合と同レベルであった。
実施例6
本実施例では、図13に示す如くの工程を経てP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを生成した。
まず最初に、ビスマス−テルルを主成分とするP型およびN型熱電半導体粉末を加熱加圧しながらそれぞれのインゴット70(図2参照)を作成し、各インゴット70をスライスして、P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71を得た。ウェハーサイズは、概ね30mm×40mmで、厚みはモジュール性能から概ね0.8mmとした。
P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71をそれぞれ無機酸の混酸でエッチングし、その後ウェハー全周にわたって無電解ニッケルメッキを4μm施した。その後、更に金メッキを0.2〜0.3μm取り付け、金メッキ仕上げウェハーを試作した。
この金メッキ仕上げウェハーの両面を所定の厚みの金スズフォイル(箔)と真空炉を用いて融着した。準備した金スズ箔の厚みは20μm、35μm、50μm、60μmの4水準で、それぞれ融着後、0.64mm×0.64mm角にダイシングし、23対ランド部保有アルミナ基板を用いて金スズ接合サーモモジュール10とした。
その後、サーマルショック試験、反転通電試験を行った後、サーモモジュールの両面にスズ銀銅ハンダを用いて厚み1mmの銅タングステン(20%)板を接合した。
このようにして作成したサンプルのサーマルショック試験による耐久性を評価した結果、1000サイクル終了後の抵抗値変化は、融着に用いた金スズフォイルの厚みにより異なった。
結果として、厚い金スズ箔を用いるよりも薄い金スズを用いた方が内部抵抗変化率は小さい傾向が見られた。また、60μmの金スズフォイルを用いた場合、サーモモジュール組立て時に過剰の金スズがP型熱電半導体素子とN型熱電半導体素子間に溜まり、これ以上厚い金スズ箔を用いた場合は、組立時に短絡の可能性があることが明らかとなった。
従って、実用範囲として、20μm〜60μmの金スズ箔を融着することが良好な結果が得られると判断した。
実施例7
本実施例では、図14に示す如くの工程を経てP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを生成した。
まず最初に、ビスマス−テルルを主成分とするP型およびN型熱電半導体粉末を加熱加圧しながらそれぞれのインゴット70(図2参照)を作成した。各インゴット70をスライスし、P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71を得た。ウェハーサイズは、概ね30mm×40mmで、厚みはモジュール性能により概ね0.8mmのものを準備した。
P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71をそれぞれ無機酸の混酸でエッチングし、その後ウェハー71の全周にわたって無電解ニッケルメッキを概ね4μm厚さ施した。
その後、市販の金スズメッキ液を用いて、ニッケル上に金スズの合金層を析出させた。予備試験として金スズ層の厚みが5μmになるように析出させ、蛍光X線で膜厚と成分分析を行った。
厚みが5μm程度の場合、析出した金スズ層の厚みはほぼ均一であったが、組成は金/スズの比率がねらいの80/20から金リッチの90/10に近いものであった。
その後、電解液の組成を変更し、ほぼねらい通りの金/スズが80/20の組成のものを析出させ、厚みを35μmねらいで試作を行った。析出する金スズ層の厚みが35μm程度の厚みになると、ウェハー中心部が35μm前後であるのに対してウェハー外周部は60μm程度の厚みとなった。
電鋳により最表面に金スズ層を被覆したウェハー(図14参照)を0.64mm×0.64mmの大きさにダイシングし、これにより得られたP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子を用いて金スズ接合サーモモジュール10の組立てを行った。
本実施例での組立てに用いたセラミック基板11は、厚みが0.3mmのアルミナ製で、その片面にはP型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体素子13bが1個ずつ搭載できるようにしたランド部111が18対形成され(もう一方のセラミック基板12もランド部121が18対形成される)、更に電源供給用のリード線15を取付けるためのリード線取付ランド部112a−1,112a−2がパターンとして形成されている。
ランド部111(もう一方の基板12上のランド部121も同様)の構造は、セラミック基板側から銅のメタライズ層、その上にニッケルのメタライズ層、更にその上には金が0.25〜0.35μmメッキされている(図3参照)。
セラミック基板11,12のパターン面(素子搭載面)の反対面は、セラミック基板11,12の外周部から0.1mm小さめに全面にわたって銅、ニッケル、金からなるメタライズ構造を有している(図3参照)。
本実施例におけるサーモモジュールの組立ては自動機を用いて空気中で行った。具体的にはセラミック基板11のパターン側のランド部111に対して高粘性フラックスを塗布し、この上に図14に示す析出法を用いて金スズを融着したP型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体素子13bを配列し、加熱部設定温度400℃、20秒で接合を行った。
上記工程で得られたセラミック基板11と熱電半導体素子13a,13bの一方の端面のみが接合したπ組状態モジュールは、各ランド部111によって濡れ性にムラがあった。これは、先にも述べた熱電半導体素子13a,13bに析出した金スズ層の厚みにバラツキがあるためと推測される。
次に、もう一枚のセラミック基板12とπ組状態モジュールのものを両組みの状態に重ね合わせ、固定治具と共に360℃、3分加熱して金スズ接合サーモモジュール10を得た。
得られたサーモモジュール10にリード線付けを行い、サーマルショック試験、反転通電試験前後のサーモモジュール10の抵抗変化率は最大で0.7パーセントであり、サーモモジュール10として機能することを確認した。
その後、当該サーモモジュール10をエボキシ系樹脂に埋め込み、研磨して接合状態の確認を行った。図15は、その接合状態を側面から観察した図である。
なお、比較のために、実施例2で作成したサーモモジュール10に関する同条件(エポキシ系樹脂埋め込み、研磨)での接合状態の観察結果を図16に示す。
実施例8
本実施例では、図2に示す如くの工程を経てP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを生成した後、これら熱電半導体素子13a,13bの最表面に金スズ層を形成している。
まず最初に、ビスマス−テルルを主成分とするP型およびN型熱電半導体粉末を加熱加圧しながらそれぞれのインゴット70を作成した。各インゴット70をスライスし、P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71を得た。ウェハーサイズは、概ね30mm×40mmで、厚みはモジュール性能により概ね0.8mmのものを準備した。
その後、これらウェハー71をエッチングし、次いでウェハー全周に渡って無電解ニッケルメッキ(4μm)を施し、更に金メッキを0.2〜0.3μm付ける。
この金メッキ仕上げのP型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71を固定治具に取り付け、0.64mm×0.64mm角にダイシングすることにより、P型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを得た(以上、図2参照)。
更に、これらP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bの最表面への金スズ箔の融着はカーボン製の治具を用いて実施した。
カーボン製治具は、例えば、図17(a)に示すように、厚み約5mmのカーボンプレート171に深さ1mm、φ1のリーマ穴172を多数あけた構造をしている。
この治具170に、図17(b)に示すように、0.7mm角に打ち抜いた35μmの金スズ箔を1枚ずつ入れ、その上に金メッキ仕上げの熱電半導体素子13a,13bを直立させた。その後、熱電半導体素子13a,13bの上面側の金メッキ面にも同一サイズの金スズ箔を載せ、更に、図17(c)に示す如くの還元雰囲気で熱融着を行った。融着条件は、還元雰囲気320℃、1分保持で実施した。
このように、熱電半導体素子13a,13bとして細断した後の素子状態で金スズ箔を融着した場合、素子1個当たりの金スズ量は厳密にコントロール出来るが、素子上に形成される金スズ層は、図17(d)に示すように、表面張力によりお椀を伏せたような球面に近い状態であった。
しかしながら、この形状は組立てに問題とはならない程度なので、実施例3で述べた方法と同様の方法で、当該熱電半導体素子13a,13bと31対のランド部を有する一対のセラミック基板11,12とを用いて金スズ接合サーモモジュール10の組立を行った。
なお、組立後のサーモモジュール10を破壊して金スズの接合状態を検査したところ、金スズの量がコントロールされているため、各パターン(ランド部)間の金スズの広がりが均一であるという結果が得られた。
上記方法で組み立てられたサーモモジュール10に対してリード線15を取り付けた後、内部抵抗(R1)を計測し、その後、-40℃/85℃(30分/サイクル、20サイクル)のサーマルショック試験と反転通電試験(冷却側/放熱側の到達温度70〜75℃になるように電流印加、7.5秒切替え、72サイクル)を実施した。
この試験後の内部抵抗(R2)を計測し、抵抗変化率を求めた結果、いずれのサーモモジュール10も0.5パーセント程度の上昇であり、サーモモジュール10として十分機能することを確認した。
以上のことから、P型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを細断後にその最表面に金スズ層を設け、これら素子13a,13bを用いて金スズ接合サーモモジュール10を組み立てることの有効性が確認された。
実施例9
本実施例では、図18に示す如くの工程を経てニッケルメッキ層の厚みが異なるP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを生成した後、これら素子13a,13bを用いてモジュールを組み立て、サーマル試験を試みた。
まず最初に、ビスマス−テルルを主成分とするP型およびN型熱電半導体粉末を加熱加圧しながらそれぞれのインゴット70(図2参照)を作成し、各インゴット70をスライスして、P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71を得た。ウェハーサイズは、概ね30mm×40mmで、厚みはモジュール性能により概ね0.8mmのものを準備した。
次に、P型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71をそれぞれ無機酸の混酸でエッチングし、その後、ニッケルメッキを施した。
ここでは、水準として通常の無電解ニッケルメッキ水準、その他に装飾用に使用される電解ニッケルメッキ水準を概ね4μm析出させた。これらニッケルメッキの上に金メッキを0.2〜0.3μm施し、金メッキ仕上げウェハーを用意した。
次に、各金メッキウェハーの両面を35μm厚みの金スズフォイル(箔)と真空炉を用いて融着した後、0.64mm×0.64mm角にダイシングすることにより、P型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bを得、これら素子13a,13bを用いて23対の素子対を有する金スズ接合サーモモジュール10に組み立てた。
その後、このサーモモジュールに対してサーマルショック試験、反転通電試験を行った後、当該サーモモジュール10の両面にスズ銀銅ハンダを用いて厚み1mmの銅タングステン(20%)板を接合した。
このようにして作成したサンプルモジュールの反転通電(放熱側基板の温度と冷却側基板の温度が25℃から85℃の間を行き来するように電流を印加)による耐久性を評価した結果、4万サイクルを経過後の抵抗値の変化は、ニッケルメッキの種類によらず、合否判定の5パーセント未満であった。
比較のために、本実施例では、ウェハー71をエッチング後直ちに金メッキを0.2〜0.3μm施したサンプルを試作した。
このサンプルに対して、他のニッケルメッキ仕上げのウェハーと同様に、35μm厚の金スズの箔を両面融着し、ダイシングして熱電半導体素子13a,13bとした後、これら素子13a,13bを用いて23対の素子対を持つサンプルモジュールを作成した。
このサンプルモジュールに対しても、他のモジュール10と同様に、銅タングステン板接合後、耐久性を評価したが、いずれのサンプルモジュールもごく短いサイクル数で、抵抗値変化量が5パーセントを超えた。これらは、Bi-Te母材と金スズ層界面で剥離が起こっており、これにより抵抗値が上昇したものと推測される。
実施例10
本実施例では、実施例3と同様の方法(図8参照)で金スズ箔を熱融着したP型熱電半導体ウェハー71とN型熱電半導体ウェハー71を作成した。
但し、本実施例では、下地のエッチング処理薬品、処理時間を変化させて、金スズ融着ウェハー71を作成した。その結果、エッチング条件によって、金スズウェハー表面に例えば図19に示すようなクレータ状のシワが発生した。
このようなクレータ状のシワが発生した金スズ融着ウェハー71をダイシングした場合、シワの発生している箇所でビスマス−テルル母材とニッケル界面で剥離が多発することから、局部的に母材/ニッケル界面の密着力が弱くなっていることが推察される。
この密着力の大小を定量的に把握するため、同一エッチング条件のニッケル/金メッキ仕上げウェハーを3mm角にダイシングし、その片面をスズアンチモンハンダで2mm厚みの銅板にハンダ付けし、その反対面には鉛スズハンダを用いてスズメッキ仕上げの銅製の釘をハンダ付けした。
このようにして作成した試料を用いて、20mm/minの一定速度で垂直に引っ張り、破断強度を密着力として評価した。その結果、1平方センチ当たり密着力が50kg未満の場合に上記クレータ状のシワが発生することが明らかとなった。逆に、クレータ上のシワが発生しないためには、1平方センチメートル当たり50kg以上の密着力が必要であることが分かった。
更に、本実施例では、上記実験結果を基に、例えば図20に示す手順に従い、P型およびN型熱電半導体ウェハー71から、密着力Fが1平方メートル当たり大凡40kgの試料、大凡50kgの試料、大凡80kgの試料、大凡100kgの試料を作成し、それぞれの試料(ウェハー)に金スズ箔を熱融着し、更にダイシングして熱電半導体素子13a,13bとした後、これら素子13a,13bを用いて金スズ接合サーモモジュール10を作成した。
なお、前述のように1平方メートル当たりの密着力が50kg未満の試料はクレータ状のシワが発生し、ダイシング時に剥離が多発したが、剥離のないものを選別して組立てに供した。
上記4水準の試料を用いて組み立てた各サーモモジュールを、マイナス40℃と85℃を15分間隔で印加するサーマルショック試験(100サイクル)に供した結果、試験前後の内部抵抗値の変化量が密着力80kg以上のサーモモジュールに比べて密着力が40kgのサーモモジュールは明らかに大きかった。
ここで、2パーセントの変化率があるものを不良品と判定した場合、不良率と密着力には明らかに相間があり、1平方センチ当たり80kg以上の密着力のあるサーモモジュールは不良率が0パーセント(0個/50個)あるのに対して、40kgの密着力のサーモモジュールでは18パーセント(9個/50個)の不良率であった。また、50kgの密着力のサーモモジュールでは4(2個/50個)パーセントの不良率であった。
以上のことから、金スズ接合サーモモジュール10において、P型熱電半導体並びにN型熱電半導体とニッケル界面の密着力が1平方センチ当たり50kg以上、望ましくは80kg以上有することが、実用上必要なことが確認できた。
実施例11
実施例10と同様の試験を金スズペースト法についても実施した。具体的には、実施例10と同様にエッチング条件を変化させてビスマス−テルル母材とニッケル界面の密着力の異なるニッケル/金メッキ仕上げのウェハーを作成し、実施例1と同様の方法で金スズ接合サーモモジュール10を作成した。
その後、実施例10に記載したサーマルショック試験を実施して、密着力と不良率の関係を調べたが、この場合も実施例10と同様、密着力が50kg未満では不良率が高く、実用的でないことが明らかとなった。
実施例12
本実施例では、図21に示す手順により、セラミック基板11,12のランド部(メタライズ層)111,121に金スズ層を形成し、金メッキ仕上げのみの熱電半導体素子13a,13bを用いて金スズ接合サーモモジュール10の組み立てを行なった。
本実施例において、基板メタライズ面への金スズ層の作成は、市販の金スズペーストを所定量だけセラミック基板11,12のメタライズ面(ランド部111,121)に塗布し〔図21(a)参照〕、次いで真空炉中還元雰囲気中で320℃、1分間加熱して実施した〔図21(b)参照〕。
使用したセラミック基板11,12は、セミアディティブ法で作成したアルミナ製の23対ランド部保有基板で、外形寸法は概ね6mm×8mmである。
一回の塗布・加熱処理で金スズ層の厚みは断面観察からおよそ10μm程度〔図21(b)参照〕であった。
この処理を更に2回繰り返して、おおよそ30μmの金スズ層をランド部に形成した〔図21(c)参照〕。なお、基板11,12をセミアディティブ法で作成しているので、ランド部111,121の側壁の大部分は銅がむき出しとなっており、溶融時に金スズが側壁にまで流れ込むことは無かった。
このようにして得られたセラミック基板11,12と、金メッキ仕上げした熱電半導体素子13a,13b(例えば、図2の方法で生成されたもの)とを用いて金スズ接合サーモモジュール10を組み立てた〔図21(d)参照〕。
組立方法は、自動機を用いて所定の位置に基板11を置き、高粘性フラックスを基板11のランド部111に塗布しながら熱電半導体素子13a,13bを配置していく方法で行った。
熱電半導体素子13a,13bの配置後、直ちに350℃、12秒の設定で加熱接合し、π組状態モジュールとした。その後、もう1枚の基板12をπ組状態モジュールに重ね、350℃、2分の条件で加熱することにより、熱電半導体素子13a,13bと基板11,12間が金スズ層113,123で接合された金スズ接合サーモモジュール10を生成した。
この両組み状態でエボキシ系樹脂に埋め込み、研磨して接合状態を確認したが、再溶融した金スズは他の実施例で作成したモジュールの接合状態と殆ど変わりなく、良好な接合状態を呈していた。
その後、サーモモジュール10にリード線15を取付け、内部抵抗(R1)を計測し、-40℃/85℃(30分/サイクル、20サイクル)のサーマルショック試験と反転通電試験(冷却側/放熱側の到達温度差が70〜75℃になるように電流を印加、7.5秒切替え、72サイクル)を実施した。
試験後の内部抵抗(R2)を計測し、抵抗変化率を求めた結果、いずれのサーモモジュールも0.5パーセント程度の上昇であり、サーモモジュール10として十分機能することを確認した。
実施例13
従来からの鉛スズ共晶ハンダ(融点183℃)やスズアンチモンハンダ(融点232℃)を用いたサーモモジュールにおいても、基板サイズが大きくなると基板自身に反りが発生するため、サーモモジュールの中央部分の熱電半導体素子が片方の基板メタライズ層と接合されずに浮いた状態となる場合がある。
このような組立て不具合を回避するため、基板のメタライズ面にも熱電半導体素子と同一のハンダをコーティーングし、その組立て不良の低減がなされている。
接合剤として金スズを用いた場合も同様の現象が危惧されるため、本実施例においては、基板側メタライズ面への金スズの予備ハンダを実施した。
つまり、本実施例は、セラミック基板11,12のメタライズ層(ランド部)と熱電半導体素子13a,13bの双方に金スズ層を形成したうえでサーモモジュールの組み立てを行なうものである。
図22は、本実施例におけるサーモモジュール組み立て工程を示す図である。
図22に示すように、本実施例での基板メタライズ面への金スズの予備ハンダは、市販の金スズペーストを所定量だけセラミック基板11,12のメタライズ層(ランド部111,121)に塗布し〔図22(a)参照〕、次いで真空炉中還元雰囲気中で320℃、1分間加熱して実施した〔図22(b)参照〕。
使用したセラミック基板11,12はアルミナ製の47対ランド部保有基板で、外形寸法は概ね6mm×14mmである。予備ハンダの厚みは、断面観察からおよそ10μm程度であった。
図22(a),(b)の工程を経て得られた予備ハンドを有するセラミック基板11,12と、例えば図8に示す方法で得られた最表面に金スズ層が形成された熱電半導体素子13a,13bとを用いてモジュール組み立てを行ない、熱電半導体素子13a,13bと基板11,12間が金スズ層113,123で接合された金スズ接合サーモモジュール10を得た〔図22(c)参照〕。
本実施例での金スズ接合サーモモジュール10の組立ては、セラミック基板11,12に予備ハンダを行った以外、実施例3と同様の方法で行った。
比較のために予備ハンダを実施しない水準(モジュール)を試作し、リード線取り付け後の内部抵抗(R1)を計測してサーマルショック試験、反転通電試験後の内部抵抗(R2)から抵抗変化率を求め、良品率(変化率が基準値以下を良品と判定)を比較した。
その結果、基板11,12に予め金スズを予備ハンダして組立てを行った方が良品率100パーセントだったのに対して、予備ハンダ無しで試作したモジュールは80パーセントであった。これらの傾向はスズアンチモンハンダを用いたサーモモジュールでもしばしば観測される。
このことから、セラミック基板11,12に金スズの予備ハンダを実施することにより、接合不良を低減できることが明らかとなった。
実施例14
本実施例では、実施例3と同様に21対ランド部保有のアルミナ基板11,12と、35μm厚みの金スズ箔融着熱電半導体素子13a,13bを用いて、還元雰囲気下真空炉で接合条件の検討を行った。
この場合における接合面近傍の温度は、基板11,12の裏面側に熱電対を耐熱テープで固定し計測した。
このようにして計測した温度が金スズの融点である280℃の他、300℃、320℃、340℃の温度条件で、5秒、10秒、20秒、30秒、1分、3分、5分の時間条件で接合を行った結果、融点である280℃以上に10秒以上加熱すれば、接合可能であることを確認した。但し、基板メタライズ(ランド部)全般に金スズが流れていわゆる「濡れている状態」を実現するためには、約1分の加熱時間が必要であった。
また、このような温度、時間条件で作成したサーモモジュールの耐久性は、それぞれの条件で作成したサーモモジュールを冷却側基板12と放熱側基板11の温度差が80℃になるように7.5秒間隔で反転通電する加速試験で評価した結果、接合温度依存性は認められず、10秒以上加熱したサーモモジュールはいずれも2万サイクルの耐久性を示した。但し、加熱時間5秒の試料は、2千サイクルで殆どのモジュールの抵抗が高くなり、実用的ではなかった。
以上のことから、セラミック基板11,12と熱電半導体素子13a,13bの接合に金スズを使用する場合、少なくとも融点以上の温度に10秒以上加熱することが必要であることが明らかとなった。
実施例15
本実施例では、熱電半導体素子13a,13bの両表面に融着されている金スズ層の厚みを20μm〜50μmまで変化させてサーモモジュールの組立てを行った。
従来の鉛スズ系のハンダやスズアンチモン系のハンダでは、接合後のハンダ層の厚みは熱電半導体素子のハンダ量によらず10〜20μmとなるが、金スズ接合の場合は、熱電半導体素子13a,13bに融着した金スズの厚みと殆ど変化が無く接合される。本実施例では、従来モジュール以上の荷重を接合時に加え、接合層の厚みを5μm〜50μmの範囲で変化させた。
モジュール組立て後、サーモモジュールの両端に1mm厚みの銅タングステン板をスズ銀銅ハンダにより接合し、−40℃と85℃の温度サイクルを繰り返すサーマルショック試験を実施した。
上記サーマルショック試験を100サイクル実施後の抵抗の変化率は、いずれの接合厚さの水準(モジュール)も合否判定の5パーセント未満であり、十分実用範囲にあることを確認した。従って、実験した金スズ層の厚み5μm〜50μmは耐久性のある金スズ接合サーモモジュール10を作成するための適正範囲と考えられる。
実施例16
本実施例では、試験段階において、モジュールの組立て後、固形分中の金含有量が概ね80重量パーセントの金スズペーストを用いて電源供給用のリード線15を取り付けた。
使用した金スズペーストは、市販品で、フラックスタイプはRMAタイプ、粘度は約200Pa・sのものである。具体的手法としては、ハンダ小手を用い、空気中で基板のメタライズ層とスズメッキ銅線との接合を図った。
別途、純ニッケルの最表面を金メッキ仕上げしたプレートにφ0.3のスズメッキ銅線を接合し、比較試料としてスズアンチモンハンダで接合した場合の密着力と上記金スズ接合による密着力とを、ピール試験(リード線15を接合面に対し鉛直方向への引っ張り試験)により比較した。
金スズ接合では、いずれも2kgf以上の強度を示したのに対して、スズアンチモンハンダ接合の場合には、1kgfから1.5kgでfハンダ切れを起こす試料もあった。このことから、金スズによる接合は強度的にも十分なことが確認された。
次に、実施例3で試作したのと同様の方法で試作した31対ランド部保有金スズ接合サーモモジュール10に対して金スズペーストを用いてリード線15の取り付けを付けを行った。
図23は、本実施例におけるリード線取り付け工程を示す概念図である。図23に示すように、本実施例では、サーモモジュール10の放熱側基板11のパターン面端部に形成されるリード線取付ランド部112a−1,112a−2上に上記共晶組成成分比率を満足する金スズペーストを配置し、その上に一対のリード線15のそれぞれを配置する。
このサーモモジュール10用に用いたリード線15は、線径φ0.3mmのスズメッキ銅線で、ハンダ小手により接合を行った。接合後の表面状態は滑らかで、ブローホールと呼ばれるピット状の穴も見られなかった。
このようにして作成した金スズ接合サーモモジュール10をサーマルショック試験、反転通電試験により合否判定したが、試作した30個全てがサーモモジュールとして機能していることを確認した。
また、この金スズ接合サーモモジュール10に1mm厚さの銅タングステン板をスズ銀銅ハンダで取り付け、反転通電による耐久性を評価したが、通常光通信用サーモモジュールに求められるサイクル数を経ても金スズ接合したリード部に変化は認められなかった。
実施例17
本実施例では、組み立て後のサーモモジュールに対して金スズペレットを用いてリード線を接合するものである。
試験段階において、まず、純ニッケルのプレートに金メッキ仕上げを行い、これに50μm厚みの金スズ箔をφ1mmに打ち抜いた金スズペレットを用いてφ0.3mmのスズメッキ銅線との接合を試みた。
真空炉中還元雰囲気で溶融接合した場合も、ハンダ小手を用いて空気中で溶融接合した場合も、いずれの場合も十分な接合強度があることを確認した。
次に、実施例3と同様の方法で試作した31対ランド部保有の金スズ接合サーモモジュール10に対して、金スズペレットを用いてリード線15の取り付けを行った。
ここで用いたリード線15は、線径φ0.3mmのスズメッキ銅線で、ハンダ小手を用いて空気中で接合を行った。接合後の表面状態は滑らかで、ピット等は無かった。
このようにして作成した金スズ接合リード付きサーモモジュール10をサーマルショック試験、反転通電試験により合否判定したが、試作した30個全てがサーモモジュールとして機能していることを確認した。
実施例18
本実施例では、実施例17で用いたリード線15の代わりにニッケル製ポストを用いて組み立て後の金スズ接合サーモモジュール10のポスト取り付け位置との接合を行なうものである。
ニッケルポストは、ニッケルプレートの外周部に金メッキを施し、その後約1mm角に細断したものであり、近年光通信分野ではリード線15の代わりに多用されているものである。
実験では、組立て後のサーモモジュール10のポスト取り付け位置に金スズペーストを塗布し、この上にニッケル製ポストを配置して、真空炉にて350℃、1分保持の条件で接合した。具体的な接合手順は、後述する実施例19と同様である。
接合後の抗折力を、通常使用されているスズアンチモンハンダ接合の場合と比較すると、2倍以上の強度があることが確認され、ポストの接合に金スズを使用する有効性が確認できた。
実施例19
サーモモジュールにおける電力供給用のリード部材として、実施例17で用いたリード線15の代わりに、概ね1mm角、高さ2mmの金属製四角柱(ポスト)を用いる場合がある。
本実施例は、金属製ポストと基板上のメタライズ層(ランド部)との接合に金スズを用いたものである。
特に、本実施例では、上述した各実施例で述べてきた、基板11,12と熱電半導体素子13a,13b間の接合を金スズで行なったサーモモジュール10を組み立てた後、該金スズ接合サーモモジュール10に対して、固形分中の金含有量が概ね80重量パーセントの金スズペーストを用いて電力供給用の金属製ポストの取り付けを行なった。
使用した金スズペーストは、市販品で、フラックスタイプはRMAタイプ、粘度は約200Pa・sのものである。
接合は、例えば図24に示すような手順で行なった。まず最初に、組み立て後のサーモモジュール10のセラミック基板11上に設けられたポスト取り付け位置(ポスト取付ランド部112b−1,112b−2)に上記金スズペーストを塗布し〔図24(a)参照〕、次にこの金スズペースト上に金メッキ仕上げを行なった一対のニッケル製ポスト16をそれぞれ載せ〔図24(b)参照〕、その後、位置ズレ防止用治具で押さえて真空炉中で350℃、1分の加熱条件でポスト接合を行った〔図24(c)参照〕。
このポスト接合工程において、熱電半導体素子13a,13bとセラミック基板11,12との接合に使用している金スズ層113,123が再溶融したかどうか確認できなかったが、位置ズレ等は認められなかった。
接合後、ポスト16の上面にφ0.3のスズメッキ銅線を金スズペーストにより取り付け、サーマルショック、反転通電試験を行い、放熱側基板11と冷却側基板12の温度差を測定したところ、所定の70℃の温度差を発生することが確認できた。
従って、金スズペーストを用いて電力供給用のポストを接合することは可能であり、組立て用ハンダとして共晶組成の金スズを使用した金スズ接合サーモモジュール10を作成することは可能である。
実施例20
本実施例は、実施例18、実施例19で用いた金スズペーストの代わりにφ1.2mm、厚さ50μmの金スズのペレットを用いてサーモモジュールに対する金属製ポストの接合を行なうものである。
具体的には、実施例5で説明した23対ランド部保有のアルミナ基板11,12と金スズ融着熱電半導体素子13a,13bを用いて組み立てた金スズ接合サーモモジュール10を用意し、接合面(1mm角)が金メッキ仕上げで高さが2mmのニッケル製ポストをφ1.2mm、厚み50μmの金スズペレットを用いてポスト取付位置への接合を行った。
接合条件は真空炉中350℃、1分加熱とし、接合に際しては、位置ズレ防止のためのアルミ製治具を用いた。
ニッケル製ポストを接合した後、該ポスト上面にφ0.3mmのスズメッキ銅線を金スズペーストで取り付け、内部抵抗(R1)を計測し、その後-40℃/85℃(30分/サイクル、20サイクル)のサーマルショック試験と反転通電試験(冷却側/放熱側の到達温度差が70〜75℃になるように電流を印加、7.5秒切替え、72サイクル)を実施した。
試験後の内部抵抗(R2)を計測し、抵抗変化率を求めた結果、いずれのサーモモジュールも0.5パーセント程度の内部抵抗変化率であり、サーモモジュールとして十分機能することを確認した。
実施例21
本実施例は、熱電半導体素子13a,13bを組み立てる前のメタライズ層形成基板(放熱側基板11)に予め金属製ポストを金スズペーストにより接合し、その後、このポストが接合された基板11ともう一方の基板12(冷却側基板)との間に熱電半導体素子13a,13bを接合してサーモモジュールを組み立てるものである。
本実施例で使用した基板11は、23対ランド部保有のアルミナ基板で、P型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体素子13bを搭載するためのパターン(ランド部111)が23箇所、その他にポスト取付用のパターン(ポスト取付ランド部112b−1,112b−2)が2箇所メタライズされている。
もう一方のセラミック基板12は、上記ポスト取付用のパターンは有せず、素子搭載用パターン(ランド部121)のみ23箇所形成されるものである。
ポストの材質は純ニッケルで、サイズは底面が1mm角で高さが1.8mmあり、1mm角の両面は0.25〜0.35μmの金メッキ仕上げが行なわれている。
本実施例におけるポスト接合並びにモジュール組み立て工程は、例えば図25に示すような手順で行なった。
まず最初に、モジュールとして組み立てる前の放熱側セラミック基板11上に設けられたポスト取り付け位置(ポスト取付ランド部112b−1,112b−2)に金スズペーストを塗布し〔図25(a)参照〕、次にこの金スズペースト上に上記の如く金メッキ仕上げを行なった一対のニッケル製ポスト16をそれぞれ載せ、更に位置ズレ防止用治具で押さえて真空炉中で350℃、1分という加熱条件でポスト接合を行った〔図25(b)参照〕。
その後、放熱側基板11にニッケル製ポスト16を付けた状態で、熱電半導体素子13a,13b並びに冷却側基板12を取り付けてモジュール組立てを行った。
具体的には、ニッケル製ポスト16の立っている放熱側基板11のランド部11に高粘性フラックスを塗布し、その上に両表面にスズアンチモンハンダ層を有するP型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体を配列し、この状態で加熱接合してπ組状態モジュールを生成した〔図25(c)参照〕。
このπ組状態モジュール生成段階での接合は、熱源設定温度が320℃で加熱時間は12秒とした。通常、熱源温度に比べ接合面の温度は大凡50℃低いため、先に付けたニッケル製ポスト16が位置ズレを起こすことはなかった。
次いで、得られたπ組状態モジュールの基板11を洗浄後、放熱側基板12をそのランド部121が対応する熱電半導体素子13a,13bの対に位置が合うように重ね合わせたうえで、320℃、18秒の加熱条件で加熱接合した〔図25(d)参照〕。
なお、図25の例では、放熱側基板11にニッケル製ポスト16を付けた後、該放熱側基板11上に熱電半導体素子13a,13bを取り付けてπ組状態モジュールとした後、冷却側基板12を取り付けることにより金スズ接合サーモモジュール10を完成させているが、別の方法としては、放熱側基板11にニッケル製ポスト16を付けた後、該ポスト16が立っていない冷却側基板12上に熱電半体素子13a,13bを取り付けてπ組状態モジュールとした後、該π組状態モジュールをポスト16の立っている放熱側基板11に組み合わせることにより金スズ接合サーモモジュール10を完成させるようにしても良い方法もある。
図26は、この別の方法に基づくポスト接合並びにモジュール組み立て工程手順を示す図である。
この場合、図25(a),(b)と同様の方法で放熱側基板11にニッケル製ポスト16を付けた後〔図26(a),(b)参照〕、ニッケル製ポスト16の立っていない冷却側基板12のランド部121上に高粘性フラックスを塗布し、その上に両表面にスズアンチモンハンダ層を有するP型熱電半導体素子13aとN型熱電半導体13bを配列し、この状態で加熱接合してπ組状態モジュールを生成した〔図26(c)参照〕。
次いで、このπ組状態モジュールの基板12を反転させて、そのランド部121に取りつけられた熱電半導体素子13a,13bの対が放熱側基板11のランド部111の各対(予め高粘性フラックスを塗布しておく)と位置が合うように当該基板12を放熱側基板11に重ね合わせたうえで、加熱接合した〔図26(d)参照〕。
図25あるいは図26の工程を経て得られた金スズ接合サーモモジュール10のニッケル製ポスト16にφ0.3のスズメッキ銅線をスズアンチモンハンダで取り付けた後、内部抵抗(R1)を計測し、その後-40℃/85℃(30分/サイクル、20サイクル)のサーマルショック試験と反転通電試験(冷却側/放熱側の到達温度差が70〜75℃になるように電流を印加、7.5秒切替え、72サイクル)を実施した。
試験後の内部抵抗(R2)を計測し、抵抗変化率を求めた結果、いずれのサーモモジュール10も0.5パーセント程度の上昇であり、サーモモジュールとして十分機能することを確認した。
本実施例でのモジュール組立てに用いたハンダは、金スズよりも融点の低いスズアンチモンハンダ(融点232℃)を使用した。通常、同種のハンダを用いた場合、ポスト16を取り付けた後、素子13a,13bの組立てを行うことは出来ないが、本実施例ではポスト16の接合に用いた金スズがスズアンチモンハンダよりも融点が遙かに高いため、先に取り付けたポスト16の位置ズレは起こさず組み立てることが可能であり、この方法の有効性が確認された。
以上に述べた各実施例から、セラミック基板11とポスト16を金スズ層で接合することの有効性が確認できた。
次に、本発明の金スズ接合サーモモジュール10の利用形態について説明する。
本発明の金スズ接合サーモモジュール10の用途の一つに、光通信モジュールのレーザダイオードの精密温調が挙げられる。
図27は、本発明の金スズ接合サーモモジュール10を実装して成る光通信モジュール100の概念断面構成を示す図である。
この光通信モジュール100は、パッケージ60内部に、上記各実施例での研究成果を基に製造された金スズ接合サーモモジュール10が実装されている。
具体的には、パッケージ60の内部底面部に上記金スズ接合サーモモジュール10の放熱側セラミック基板11の非パターン面が当接するように実装される。また、この状態で、金スズ接合サーモモジュール10の冷却側セラミック基板12の非パターン面上には、例えばCuW(銅−タングステン合金)製のヒートスプレッター20を介して、光通信モジュール100の光源であるレーザダイオード30が配置される。
レーザダイオード30は、図示しない制御部から給電を受けて所定の伝送データにより変調されたレーザ光を発生する。このレーザ光は、光ファイバ40に導かれ、該光ファイバ40内を所定の受信回路へ向けて送信される。
ヒートスプレッター20上には、サーミスタ50が設けられる。上記制御部は、このサーミスタ50による検出温度に基づき金スズ接合サーモモジュール10への給電を制御することにより冷却側基板12の冷却温度を可変制御する。これにより、レーザダイオード30は目標温度に制御され、常に適正な発振周波数を維持する。
本発明に係わる光通信モジュール100を組み立てる場合、ヒートスプレッター20と金スズ接合サーモモジュール10の冷却側セラミック基板12及びレーザダイオード30との間は、例えば、スズアンチモンハンダにより接合される。
ここで、スズアンチモンハンダの融点温度(232℃)は、金スズ接合サーモモジュール10のセラミック基板11,12および熱電半導体素子13a,13b間の接合に用いた金スズ層の融点温度(280℃)に比べてはるかに低い。
つまり、本発明に係わる光通信モジュール100においては、金スズ接合サーモモジュール10を、当該サーモモジュール10の金スズ層に溶融等の影響を招来することなくそのパッケージ60内部に組み込み実装できる。
また、本発明に係わる光通信モジュール100によれば、鉛スズ共晶ハンダ(融点183℃)を用いずに、これより融点温度の高いスズアンチモンハンダ(融点232℃)を用いて金スズ接合サーモモジュール10を組み込むことができ、また該サーモモジュール10自身が上述したように鉛成分を含まない接合剤(金スズ)を使用していることから、光通信モジュール100全体から見た鉛フリー化も果たせる。
また、光通信モジュール100に実装される金スズ接合サーモモジュール10はP型熱電半導体素子13aおよびN型熱電半導体素子13bとセラミック基板11,12間をヤング率が高く、耐クリープ特性の良好な金スズ層で接合する構造のため、熱変化が生じた場合もセラミック基板11,12の変形が少なくて済む。
これにより、特に、レーザダイオード30を載せている冷却側セラミック基板12の上記熱変化に伴なう変形を抑えてその変形がレーザダイオード30の姿勢変化に及ぼす影響を低減でき、結果として、上記熱変化に対するレーザダイオード30の光軸ずれを大幅に低減することができる。
このように、本発明に係わる金スズ接合サーモモジュール10は、P型およびN型熱電半導体素子とセラミック基板間を金スズ層で接合する構造を有することで、鉛フリー化、並びに光通信モジュール100のレーザダイオード30の精密温調に使用する時のレーザダイオード光軸安定化の2つの面に貢献できる。
なお、本発明は上記し、且つ図面に示す実施例に限定することなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。
例えば、上記実施例では、光通信モジュール100のレーザダイオード30の精密温調に用いるサーモモジュールを前提とした金スズ接合構造について述べたが、本発明の金スズ接合構造は他の用途のサーモモジュールにも適用可能である。
発明の効果
以上説明したように、本発明によれば、P型およびN型熱電半導体素子とセラミック基板間を、金の含有量が概ね80重量パーセントの金スズ共晶組成接合剤を用いて接合する構造としたため、該金スズ接合ペルチェ素子熱電交換モジュールを例えば光通信モジュールのレーザダイオードの精密温調に利用する場合にも、融点温度が金スズ層よりは低くかつ鉛スズハンダよりも高いハンダを用いて当該熱電変換モジュールをレーザダイオード等に接合でき、当該熱電変換モジュールの光通信モジュール内部への組み込みを確実に行なえると共に、光通信モジュール全体から見た鉛フリー化も実現できる。
また、光通信モジュールに組み込まれた金スズ接合ペルチェ素子熱電変換モジュールは鉛スズハンダよりもヤング率が高く、耐クリープ特性の良好な金スズ層を用いた強固な接合構造のため、温度変化に対するセラミック基板の変形が小さく、該熱電変換モジュールに接合されるレーザダイオードの姿勢変形への影響を抑えながら、温度変化に対するレーザダイオードの光軸ずれ防止にも貢献できる。