JP2004051919A - 蛍光体の製造方法、蛍光体及びプラズマディスプレイパネル - Google Patents
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Abstract
【解決手段】液体にケイ素系材料を分散させてなるケイ素系液状物と、焼成することにより前記ケイ素系材料と共にケイ酸塩蛍光体を構成する金属元素を含む金属系液状物とを混合してケイ酸塩蛍光体の前駆体を形成する前駆体形成工程と、得られた前駆体を焼成してケイ酸塩蛍光体を得る焼成工程とを含む蛍光体の製造方法により、ケイ酸塩蛍光体を製造する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラズマディスプレイパネル等の表示装置や細管型蛍光ランプ等の照明装置等のデバイス、電子機器及び各種蛍光体使用物品に幅広く使用できる蛍光体、蛍光体の製造方法及びプラズマディスプレイパネルに関する。
【0002】
【従来の技術】
蛍光体は、励起線(紫外線、可視光、赤外線、熱線、電子線、X線及び放射線等)を照射することにより、前記励起線のエネルギーを光(紫外線、可視光及び赤外線等)に変換する材料である。蛍光体は、蛍光塗料、灰皿、文房具、アウトドア用品、案内板、誘導物、安全標識等の標示物等、種々の物品に使用されている。この他に、蛍光ランプ、電子管、蛍光表示管、エレクトロルミネッセンスパネル、シンチレーション検出器、X線イメージインテンシファイア、熱蛍光線量計及びイメージングプレート等の各種のデバイス、冷陰極ディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の表示装置にも適用されている(例えば、「蛍光体ハンドブック」、蛍光体同学会編、オーム社参照)。
【0003】
上記で挙げた表示装置のうち、特に、PDPは画面の大型化及び薄型化が可能なことから、陰極線管(CRT)に代わり得るフラットパネルディスプレイとして注目されている。PDPは、2枚の電極を備えたガラス基板と、基板間に設けられた隔壁によって形成される多数の微少放電空間(以下、セルという)とを有している。各セルを囲む隔壁の側面と底面(一方のガラス基板)とには、赤、緑、青等に発光する蛍光体層が設けられている。セルは、隔壁により所定形状に形成され、基板上に規則正しく配置され、Xe、Ne等を主成分とする放電ガスが封入されている。このセルは、放電の拡がりを一定領域に抑えるものであり、電極間に電圧を印加して放電させると、放電ガスに起因する紫外線が発生し、これにより蛍光体が励起されて可視光を発光する。セルあるいはセルの一部を選択的に放電させることにより所望の情報をフルカラーで表示することができる。
【0004】
現在、PDP用の蛍光体として主に使用されているものに、(Y、Gd)BO3:Eu(赤)、Zn2SiO4:Mn(緑)、BaMgAl10O17:Eu(青)等がある。これらの蛍光体は、一般に、固相法により製造されている。固相法とは、蛍光体母体を構成する元素を含む化合物と賦活剤元素を含む化合物を所定量混合し、所定の温度で焼成して固相間反応により蛍光体を得る方法(「蛍光体ハンドブック」参照)である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、PDP等のディスプレイでは、輝度向上や滑らかな動画表示等が求められている。そこで、輝度を高めるために、蛍光体の発光強度を向上することが考えられる。特に、緑色蛍光体は視感度が高く、白色輝度を向上させるためには、緑色蛍光体の発光強度を高めることが重要である。一方、滑らかな動画表示のためには、極めて短い単位時間ごとに次々と情報を表示しなければならず、残光時間の短い蛍光体が求められる。
しかしながら、上記で挙げたZn2SiO4:Mn(緑)等のケイ酸塩蛍光体は、残光時間が長く、次の新たな情報を表示したときに、残像や画像のちらつき等を生じる恐れがあった。このため、Zn2SiO4:Mn等のケイ酸塩蛍光体については、発光強度の向上とともに残光時間の短縮化が求められている。
【0006】
そこで、Zn2SiO4:Mnを高純度に製造することにより、発光強度の向上とともに残光時間を短縮することが考えられる。しかし、従来の固相法では、固相間反応であり、反応しない余剰の不純物や反応によって生じる副塩等が残留し、化学量論的に高純度な蛍光体を得ることが難しかった。さらに、無機蛍光体では一般に賦活剤の量を変化させることにより、発光強度や残光時間等をコントロールすることができるが、固相法では、組成中のこれらの量を厳密にコントロールするのは困難であった。
本発明の課題は、発光強度が高く、且つ、残光時間の短い蛍光体を製造する方法及び蛍光体並びに蛍光体を用いたPDPを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、液体にケイ素系材料を分散させてなるケイ素系液状物と、焼成することにより前記ケイ素系材料と共にケイ酸塩蛍光体を構成する金属元素を含む金属系液状物とを混合してケイ酸塩蛍光体の前駆体を形成する前駆体形成工程と、得られた前駆体を焼成してケイ酸塩蛍光体を得る焼成工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、液体にケイ素系材料を分散させてなるケイ素系液状物と、焼成することによりケイ素系材料とともにケイ酸塩蛍光体を構成する金属元素を含む金属系液状物とを混合し、液相中でケイ酸塩蛍光体の前駆体を形成することで、化学量論的に高純度で、組成の均一な前駆体を形成することができる。その結果、焼成後に得られる蛍光体も、組成が均一で、高純度なものにすることができ、発光強度が高く、且つ、残光時間の短い優れた蛍光体となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の蛍光体の製造方法において、前記ケイ素系材料は二酸化ケイ素であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、二酸化ケイ素を用いてケイ酸塩蛍光体を製造することにより、より発光強度が高く、且つ、残光時間の短い優れた蛍光体を得ることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の蛍光体の製造方法において、前記ケイ素系材料のBET比表面積が50m2/g以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、前記金属元素は、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Zr、Al、Ga、La、Ce、Eu及びTbからなる群から少なくとも一つ選ばれることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、前記ケイ素系液状物と、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Zr、Al、Ga、La、Ce、Eu及びTbからなる群から少なくとも一つ選ばれる金属元素を含む金属系液状物とを混合して、前駆体を形成し、焼成することにより、目的の発光を有するケイ酸塩蛍光体を得ることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、前記前駆体形成工程において、前記金属元素と反応して沈殿物を形成する沈殿剤を含む溶液を混合することを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の蛍光体の製造方法において、前記沈殿剤は有機酸又は水酸化アルカリであることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、前記ケイ素系液状物をあらかじめ調整することを特徴とする。
【0017】
ここで、「調整」とは、ケイ素系材料の液体中での分散状態をあらかじめ調整し、所望の状態とすることを示す。
【0018】
請求項7記載の発明によれば、ケイ素系液状物をあらかじめ調整して、液体中のケイ素系材料の分散状態を所望の状態にすることにより、ケイ素系材料の凝集粒径を一定に制御することができる。これにより、得られる前駆体は、組成が均一で、粒径等の分布が狭い単分散なものとなる。よって焼成後に得られるケイ酸塩蛍光体も化学的に高純度で、粒径等のより均一なものとすることができる。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、前記液体は、水若しくはアルコール類又はそれらの混合物を溶媒とすることを特徴とする。
【0020】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、前記金属系液状物は、水若しくはアルコール類又はそれらの混合物を含むことを特徴とする。
【0021】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、前記焼成工程は、400℃以上1400℃以下の温度で前記前駆体を焼成することを特徴とする。
【0022】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0023】
請求項11に記載の発明によれば、請求項1〜10のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法で製造された蛍光体なので、この蛍光体は発光強度が高く、且つ、残光時間が短い優れた特性を示す。
【0024】
請求項12に記載の発明は、粒子表面の任意の2点a、b間の距離が最大となるaとbとをつなぐ方向を長軸とし、長軸方向に垂直な軸を短軸とするとき、前記短軸の長さの長軸方向における変化が少なくとも2つの極大値を有することを特徴とする。
【0025】
請求項12に記載の発明によれば、上記のように、蛍光体が長軸方向に垂直な短軸の変動が少なくとも2つの極大値を有するという特殊な形状を有することにより、明確な理由は定かではないが、蛍光体の発光強度が向上し、且つ、残光時間が短くなる。
【0026】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の蛍光体において、請求項1〜10のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0027】
請求項14に記載の発明は、所定間隔をあけて対向配置された2つの基板と、基板間に設けられて基板間の空間を複数に区画する隔壁と、前記隔壁と基板とに囲まれて形成された複数の放電セルとを備えるプラズマディスプレイにおいて、前記複数の放電セルのうち少なくとも一つの放電セルの内側には、請求項11〜13のいずれか一項に記載の蛍光体を含む蛍光体層が設けられていることを特徴とする。
【0028】
請求項14に記載の発明によれば、請求項11〜13のいずれか一項に記載の蛍光体を含む蛍光体層を有するので、この蛍光体層の発光強度は高く、残光時間の短いものとなる。これにより、プラズマディスプレイパネルの輝度が向上し、動画を滑らかに表示することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
まず、本発明に係る蛍光体について説明する。本発明に係る蛍光体は、ケイ酸塩蛍光体であり、ケイ素系材料と、焼成することによりケイ素系材料と共にケイ酸塩蛍光体を構成する金属元素等から構成される。具体的には、Zn2SiO4:Mn/(Sr,Ba)Al2Si2O8:Eu/(Ba,Mg)2SiO4:Eu/Y2SiO5:Ce,Tb/Sr2Si3O8−2SrCl2:Eu/Zr2SiO4,MgAl11O19:Ce,Tb/Ba2SiO4:Eu/Ca2Y8(SiO4)6O2:Eu等の組成式で示されるものである。
【0031】
本発明における蛍光体は、平均粒径が0.1〜3μmの範囲であり、より好ましくは0.1〜1μmの範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.5μmの範囲である。
本発明における平均粒径とは、粒子が立方体あるいは八面体のいわゆる、正常晶の場合には、粒子の綾の長さをいう。また、正常晶ではない場合、例えば、球状、棒状あるいは平板状の場合には、粒子の体積と同等な球を考えたときの直径をいう。
【0032】
また、粒子は単分散であることが好ましい。ここでいう単分散とは、下記式で求められる単分散度が40%以下の場合を示す。本発明において、単分散度としては30%以下が更に好ましく、0.1〜20%が特に好ましい。
【数1】
単分散度=(粒径の標準偏差/粒液の平均値)×100 (1)
【0033】
本発明の一態様としての蛍光体は、粒子表面の任意の2点a、b間の距離が最大となるaとbとをつなぐ方向を長軸とし、長軸方向に垂直な軸を短軸とするとき、前記短軸の長さの長軸方向における変化が少なくとも2つの極大値を有するものである。このような形状としては、例えば、図1に示すような形状を挙げることができる。
【0034】
上記のような特殊な形状を有する本発明の蛍光体において、一次粒子の長軸径は、好ましくは0.1〜3μmの範囲であり、より好ましくは0.1〜1μmの範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.5μmの範囲である。
【0035】
また、長軸径と短軸径の極大値との比は、好ましくは1.1〜10の範囲であり、より好ましくは1.3〜8の範囲であり、更に好ましくは1.5〜5の範囲である。さらに、短軸径の極大値と極小値との比は、好ましくは1.1〜10の範囲であり、より好ましくは1.2〜5の範囲であり、更に好ましくは1.3〜3の範囲である。
【0036】
上記の形状を有する蛍光体が、80重量%以上含まれることが好ましく、90重量%以上含まれることがより好ましい。
【0037】
上記のような形状を有することにより、明確な理由は定かではないが、蛍光体の発光強度が高くなり、且つ、残光時間が短くなると考えられる。特に、Zn2SiO4:Mnの組成式で示される緑色発光蛍光体については、その効果が顕著に現れる。
【0038】
次に、本発明に係る蛍光体の製造方法を説明する。
本発明に係る蛍光体の製造方法は、ケイ酸塩蛍光体の前駆体を液相中で形成する前駆体形成工程と、得られた前駆体を焼成してケイ酸塩蛍光体を得る焼成工程とを有している。焼成工程を行う前に、乾燥工程を行ってもよい。
【0039】
まず、前駆体形成工程について説明する。
前駆体形成工程では、液体にケイ素系材料を分散させてなるケイ素系液状物と、焼成することによりケイ素系材料と共にケイ酸塩蛍光体を構成する金属元素を含む金属系液状物とを混合して、液相中でケイ酸塩蛍光体の前駆体を形成する。
【0040】
まず、ケイ素系液状物について説明する。
本発明において、ケイ素系材料は、後述する液体に実質的に不溶であることが好ましく、ケイ素(単体)又はケイ素を含む化合物をいう。
ケイ素を含む化合物としては、二酸化ケイ素(シリカ)を特に好ましく使用できる。二酸化ケイ素としては、例えば、気相法シリカ、湿式シリカ、コロイダルシリカ等を用いることができる。
【0041】
本発明におけるケイ素系材料のBET比表面積は、50m2/g以上が好ましく、より好ましくは100m2/g以上、更に好ましくは200m2/g以上である。
【0042】
ここで、「BET比表面積」とは、BET法で測定した比表面積をいう。比表面積とは、単位量の粉体に含まれる粒子の表面積の総和で表される量をいい、この場合、単位質量に含まれるケイ素系材料粒子の表面積の総和を示したものである。
BET法は、比表面積を測定するために一般に使用されている方法で、気体の吸着を利用するものであり、粉体粒子表面に予め大きさの知られている分子あるいはイオンを吸着させ、BET等温吸着式を適用し、吸着量から表面積を計算する方法である。
【0043】
本発明におけるケイ素系材料の1次粒径または2次凝集粒径は、1μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下、更に好ましくは0.1μm以下である。ケイ素系材料の1次粒径または2次凝集粒径が0.1μm以下であるとより微少な蛍光体を得ることができて好ましい。
ここで、1次粒径とは、ひとつの結晶子を1次粒子としたときのその粒径を指す。また、2次凝集粒径とは、液体中でケイ素系材料の1次粒子同士が凝集することにより形成された2次凝集粒子の粒径をいう。
【0044】
ケイ素系材料を分散させる液体としては、ケイ素系材料を実質的に溶解しなければどのようなものでもよく、水またはアルコール類またはそれらの混合物であることが好ましい。アルコール類としては、ケイ素系材料を分散させるものならばいかなるものであっても良く、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。これらのうち、比較的ケイ素系材料が分散しやすいエタノールが好ましい。
ここで、「ケイ素系材料を実質的に溶解しない」とは、液体に対するケイ素系材料の溶解度が0.1%以下の範囲を指す。
【0045】
本発明においては、ケイ素系液状物をあらかじめ調整することが好ましい。ここで、「調整」とは、ケイ素系材料の液体中での分散状態や前記二次凝集粒径等をあらかじめ調整し、所望の状態とすることを示す。
【0046】
調整方法の一例として、攪拌が挙げられる。攪拌する際には、ケイ素系液状物に対する撹拌回転数と攪拌する時間を組み合わせることにより、ケイ素系材料の二次凝集粒径や分散状態を所望の状態にすることができる。より効果的な方法としてケイ素系液状物を超音波分散することが挙げられる。
また、調整時には、必要に応じて界面活性剤や分散剤を添加してもよい。さらに、調整を行う場合のケイ素系液状物の温度は、50℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは10℃以下で行うことがケイ素系材料の再凝集による粘度上昇を防ぐ上で好ましい。
【0047】
なお、上記したコロイダルシリカを用いる場合には、液体中での粒径及び分散状態があらかじめ調製されているので、適宜、適切なものを使用すればよい。特に限定はないが、コロイダルシリカはアニオン性のものが好ましい。また、粒径としては、上記と同様に1μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.1μm以下である。
【0048】
上記のように、ケイ素系液状物をあらかじめ調整するか、コロイダルシリカを用いることにより、液体中のケイ素系材料の分散状態を良好にし、二次凝集粒径等も一定になる。これにより、得られる前駆体は、均一な組成のものとなり、よって焼成後に得られるケイ酸塩蛍光体も化学的に高純度で、より均一なものとすることができる。
【0049】
次に、金属元素系液状物について説明する。
本発明において、金属元素とは、上述の通り、焼成することによりケイ素系材料と共にケイ酸塩蛍光体を構成する金属元素であり、ケイ素は含まない。これらの金属元素は、単体であってもよいし、塩化物や硝酸塩等の各種金属化合物であってもよい。
【0050】
また、金属系液状物とは、上記の金属を液体に陽イオン等の状態で溶解させたもの、あるいは液体に金属元素を固体のまま分散させたものをいう。
【0051】
上記のような金属元素として、例えば、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Zr、Al、Ga、La、Ce、Eu及びTbからなる群から選ばれる一種以上の金属元素が挙げられる。これらの金属元素は、製造する蛍光体の組成に応じて、適宜、選定すればよい。例えば、Zn2SiO4:Mnの組成式で示される蛍光体を製造する場合には、Zn及びMnを選べばよい。
また、上記に挙げた金属元素を適宜用いることにより、目的の発光を有するケイ酸塩蛍光体を得ることができる。
【0052】
金属元素を溶解又は分散させる液体は、ケイ素系材料を実質的に溶解しなければどのようなものでもよく、上記と同様に、水若しくはアルコール類又はそれらの混合物であることが好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。特に、エタノールが好ましい。
【0053】
前駆体形成工程において、ケイ素系液状物と、金属系液状物とを混合する際に、金属元素と反応して沈殿物を形成する沈殿剤を含む溶液を混合してもよい。
ここで、沈殿剤を含む溶液とは、以下に示す沈殿剤を水若しくはアルコール類又はそれらの混合物に溶解させたものを指す。アルコール類として、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられ、ケイ素系材料を分散させるものならばいかなるものであってもよい。
【0054】
沈殿剤としては、有機酸または水酸化アルカリを好ましく使用できる。有機酸または水酸化アルカリは金属元素と反応し、沈殿物として有機酸塩または水酸化物を形成する。このとき、これらの沈殿物がケイ素系材料の周囲に析出していることが好ましい。
また、使用する沈殿剤の量としては、前記金属元素が有機酸塩または水酸化物等の沈殿物として析出するのに必要な化学量論量の1倍以上が好ましい。
【0055】
有機酸としては、カルボン酸基(−COOH)を有するものが好ましく、具体的には、シュウ酸、蟻酸、酢酸、酒石酸等が挙げられる。また、加水分解等により、シュウ酸、蟻酸、酢酸、酒石酸等を生じるものであってもよい。
特に、シュウ酸は、上記で金属元素としてあげたZn、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Zr、Al、Ga、La、Ce、Eu、Tbの陽イオンと反応しやすく、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Zr、Al、Ga、La、Ce、Eu、Tbの陽イオンがシュウ酸塩として析出しやすく、好ましい。また、加水分解等によりシュウ酸を生ずるシュウ酸ジメチル等も好ましく使用できる。
【0056】
水酸化アルカリとしては、水酸基(−OH)を有するもの、あるいは水と反応して水酸基を生じたり、加水分解により水酸基を生じたりするものであればいかなるものでもよく、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、尿素等が挙げられる。この中で、アンモニアが好ましく使用され、特に好ましくはアルカリ金属を含まないアンモニアである。
【0057】
前駆体形成工程において、ケイ素系液状物と、金属系液状物との混合は、いかなる方法で行ってもよい。例えば、撹拌による混合方法は、混合状態等を制御しやすく、低コストであるので好ましい。また、混合方法としては、バッチ式、連続式、外部循環混合等どのような方法でもよい。
【0058】
具体的には、ケイ素系液状物を母液とし、母液を撹拌しながらその中に金属系液状物を添加する方法、あるいは母液を外部循環させ、外部循環経路中に設けた混合器に金属系液状物を添加する方法、または、ケイ素系材料を含まない溶液を母液とし、母液を攪拌しながらこの中にケイ素系液状物と金属系液状物とをダブルジェットで同時に添加する方法、あるいは母液を外部循環させ、外部循環経路中に設けた混合器にケイ素系液状物と金属系液状物とをダブルジェットで同時に添加する方法などが挙げられる。このような方法で混合すると、ケイ素系材料を液体中に良好に分散させた状態で反応を行うことができ好ましい。
【0059】
また、沈殿剤を含む溶液を添加する場合においても、いかなる方法、順序に従ってケイ素系液状物と、金属系液状物と、沈殿剤を含む溶液とを混合してもよい。具体的には、ケイ素系液状物を母液とし、母液を撹拌しながらその中に他の液をダブルジェットで同時に添加する方法、あるいは母液を外部循環させ、外部循環経路中にもうけた混合器に他の液をダブルジェットで同時に添加する方法、またはケイ素系材料を含まない液体を母液とし、母液を攪拌しながらこの中にケイ素系液状物と、金属系液状物と、沈殿剤を含む溶液とをトリプルジェットで同時に添加する方法、あるいは母液を外部循環させ、外部循環経路中に設けた混合器にケイ素系液状物と、金属系液状物と、沈殿剤を含む溶液とをトリプルジェットで同時に添加する方法などが挙げられる。このような方法で混合すると、ケイ素系材料を液体中に良好に分散させた状態で反応を行うことができ好ましい。
【0060】
沈殿剤を含む溶液の有無に関わらず、これらの液の添加位置は母液表面でも母液中でもどちらでもよく、より均一な混合という観点から母液中が好ましい。更に撹拌レイノルズ数は、1,000以上、好ましくは3,000以上、より好ましくは5,000以上が好ましい。攪拌レイノルズ数を1,000以上にすることにより、各液をより均一に混合することができる。
【0061】
前駆体形成工程において、各液を均一に混合しながら前駆体を形成することにより、反応時のケイ酸塩蛍光体を構成する各イオンの分散が極めて良好になる。その結果、化学量論的に高純度で、組成の均一な前駆体を得やすい。さらに、後述する焼成工程により得られる蛍光体についても、組成が均一で、高純度であり、発光強度が高く、且つ、残光時間の短い優れたものとなる。
【0062】
上記の前駆体形成工程終了後、焼成工程に先だって乾燥工程を行うと好ましい。乾燥温度としては、20〜300℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは90〜200℃である。直接乾燥させる方法としては、エバポレーションや、顆粒化しながら乾燥させるスプレードライを挙げることができる。
【0063】
また、乾燥工程において、前駆体を乾燥する前に、必要に応じて不溶な塩類を濾過水洗、膜分離等の既存の方法により除去することが好ましい。更にその後、濾過や遠心分離等の方法により前駆体を液体から分離することが好ましい。
【0064】
次に、焼成工程について説明する。前駆体の焼成は、いかなる方法で行ってもよく、焼成温度や時間は適宜調整すればよい。例えば、前駆体をアルミナボートに充填し、所定のガス雰囲気中で所定の温度で焼成することで所望の蛍光体を得ることができる。また、緑色蛍光体(Zn2SiO4:Mn等)の前駆体を焼成する場合は、不活性雰囲気中で400〜1400℃の温度範囲、0.5〜40時間の範囲で1回以上焼成することが好ましい。更に必要に応じて、大気雰囲気(もしくは酸素雰囲気)、還元雰囲気を組み合わせてもよい。還元雰囲気を組み合わせる場合には、結晶中からの亜鉛等の金属元素の蒸発を防止するために800℃以下の温度で焼成することが好ましい。還元性雰囲気を得る方法として、前駆体の充填されたボート内に黒鉛の塊を入れる方法、窒素−水素の雰囲気中、あるいは希ガス・水素の雰囲気中で焼成する方法等が挙げられる。これらの雰囲気に水蒸気が含まれていてもよい。
【0065】
前駆体を焼成することにより、前駆体が焼成反応して、所望の組成を有する蛍光体が形成される。その際、前駆体の形状が液相中で行われることで、より均一な組成を有する蛍光体が得られる。さらに、蛍光体内部にSiO2の固溶体が形成されることにより、得られた蛍光体の残光時間が短くなるのではないかと推定される。
【0066】
焼成工程終了後、得られたケイ酸塩蛍光体に、分散、水洗、乾燥、篩い分け等の処理を行ってもよい。
【0067】
上記の方法で製造した蛍光体は、蛍光ランプ、蛍光表示管等の各種デバイス、PDP、FED等の各種表示装置、あるいは、蛍光塗料、灰皿、文房具、アウトドア用品、案内板、誘導物、安全標識等の蛍光体使用物品に好適に使用することができる。
【0068】
以下、図2を参照して、本発明に係る蛍光体を用いた表示装置の一例としてのプラズマディスプレイパネルを説明する。なお、PDPには、電極の構造及び動作モードから大別すると、直流電圧を印加するAC型と、交流電圧を印加するDC型のものとがあるが、図2には、AC型PDPの構成概略の一例を示した。
【0069】
図2に示すPDP1は、電極11、21が設けられた2枚の基板10、20と、これらの基板10、20の間に設けられた隔壁30と、この隔壁30によって所定形状に区画される複数の微少放電空間(以下、放電セルという)31とを有している。図2に示した放電セル31は、いわゆるストライプ型と呼ばれるもので、基板10、20を水平に配置したときに、隔壁30が所定間隔毎に平行に(すなわち、ストライプ状に)設けられたものである。
【0070】
各放電セル31R、31G、31Bには赤(R)、緑(G)、青(B)のいずれかに発光する蛍光体から構成された蛍光体層35R、35G、35Bが設けられている。また、各放電セル31の内側には、放電ガスが封入されており、平面視において前記電極11、21が交差する点が少なくとも一つ設けられている。本発明に係るPDP1は、上記の蛍光体層35Gを、前記した本発明に係る製造方法で製造した蛍光体を用いて形成したものである。
【0071】
以下、PDP1の各構成要素について説明する。
まず、2枚の基板のうち、表示側に配置される前面板10側の構成について説明する。前面板10は、放電セル31から発せられる可視光を透過し、基板上に各種の情報表示を行うもので、PDP1の表示画面として機能する。
【0072】
前面板10として、ソーダライムガラス(青板ガラス)等の可視光を透過する材料を好ましく使用できる。前面板10の厚さとしては、1〜8mmの範囲が好ましく、より好ましくは2mmである。
前面板10には、放電電極11、誘電体層12、保護層13等が設けられている。
【0073】
放電電極11は、前面板10の背面板20と対向する面に複数設けられ、規則正しく配置されている。放電電極11は、走査電極11aと維持電極11bとを備え、幅広の帯状に形成された走査電極11a上に、同じく帯状に形成された維持電極11bが積層された構造となっている。なお、維持電極11bの幅は、走査電極11aよりも狭く形成されている。
また、放電電極11は、平面視において前記した隔壁30と直交している。
【0074】
前記走査電極11aとしては、ネサ膜等の透明電極が使用でき、そのシート抵抗は、100Ω以下であることが好ましい。走査電極7の幅としては、10〜200μmの範囲が好ましい。
前記維持電極11bは、抵抗を下げるためのバス電極であり、Cr/Cu/Crのスパッタリング等により形成できる。維持電極11bの幅としては、5〜50μmの範囲が好ましい。
【0075】
前記誘電体層12は、前面板10の放電電極11が配された表面全体を覆っている。誘電体層12は、低融点ガラス等の誘電物質から形成することができる。誘電体層12の厚さとしては、20〜30μmの範囲が好ましい。
【0076】
上記の誘電体層12の表面は保護層13により全体的に覆われる。保護層13は、MgO膜を使用することができる。保護層13の厚さとしては、0.5〜50μmの範囲が好ましい。
【0077】
次に、2枚の基板10、20のうち、他方である背面板20側の構成について説明する。
背面板20には、アドレス電極21、誘電体層22、隔壁30、蛍光体層35R、35G、35B等が設けられている。
【0078】
背面板20は、前面板10と同様に、ソーダライムガラス(青板ガラス)等が使用できる。背面板20の厚さとしては、1〜8mmの範囲が好ましく、より好ましくは2mm程度である。
【0079】
上記のアドレス電極21は、背面板20の、前面板20と対向する面に複数設けられている。アドレス電極21も、走査電極11aや維持電極11bと同様に帯状に形成されている。アドレス電極21は、平面視において、前記放電電極11と直交するように、所定間隔毎に複数設けられる。
【0080】
アドレス電極21は、Ag厚膜電極等の金属電極を使用することができる。アドレス電極21の幅は、100〜200μmの範囲が好ましい。
【0081】
前記誘電体層22は、背面板20のアドレス電極21が配された表面全体を覆っている。この誘電体層22は、低融点ガラス等の誘電物質から形成することができる。誘電体層22の厚さとしては、20〜30μmの範囲が好ましい。
【0082】
上記の誘電体層22上に、背面板20側から前面板10側に突出するように、前記隔壁30が設けられる。隔壁30は長尺に形成され、アドレス電極21の両側方に設けられ、上記したように平面視においてストライプ状に放電セル31を形成する。
【0083】
隔壁30は、低融点ガラス等の誘電物質から形成することができる。隔壁30の幅は、10〜500μmの範囲が好ましく、100μm程度がより好ましい。隔壁30の高さ(厚み)としては、通常、10〜100μmの範囲であり、50μm程度が好ましい。
【0084】
放電セル31には、上述のように各色に発光する蛍光体層35R、35G、35Bのいずれかが規則正しい順序で設けられている。
【0085】
各蛍光体層35R、35G、35Bのうち、緑色に発光する蛍光体層35Gは、上記特殊形状を有し、且つ、組成式がZn2SiO4:Mnで示される蛍光体から構成すると好ましい。このとき、蛍光体の1次粒子の長軸径が0.1〜0.5μmの範囲にあると好ましい。また、長軸径と短軸径の極大値との比は、1.5〜5の範囲であると好ましく、長軸径と短軸径の極小値との比は、1.3〜3の範囲であると好ましい。
【0086】
赤色又は青色に発光する蛍光体層35R、35Bを構成する蛍光体については、特に限定されるものではないが、赤色に発光する蛍光体層35Rに用いる蛍光体としては、例えば、組成式が(Y,Gd)BO3:Euで示されるものを好ましく使用することができる。また、青色に発光する蛍光体層35Bに用いる蛍光体としては、例えば、組成式がBaMgAl10O17:Euで示されるものを好ましく使用できる。また、これらの蛍光体の平均粒径は0.1〜3.0μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜1.0μmの範囲である。なお、平均粒径とは、粒子の体積と同等な球を考えたときの直径のことをいう。
【0087】
また、上記各蛍光体層35R、35G、35Bの厚さは特に限定されるものではないが、5〜50μmの範囲程度が好ましい。
【0088】
図1に示すPDP1は、例えば、以下に示すような方法により製造できる。
まず、前面板10に、走査電極11aとして透明電極を配置する。次に、Cr−Cu−Crをスパッタリングし、フォトエッチングを行うことにより維持電極11bを走査電極11a上に形成し、放電電極11とする。そして、前記表面ガラス基板10上に、放電電極11を覆うように低融点ガラスを印刷し、これを500〜600℃で焼成することにより誘電体層12を形成する。さらに誘電体層12の上に、MgOを電子ビーム蒸着して保護膜13を形成する。
【0089】
一方、背面板20上には、Ag厚膜を印刷し、これを焼成することにより、アドレス電極30を形成する。そして、前記背面板20上で、且つ、アドレス電極30の両側方に隔壁30を形成する。隔壁30は、低融点ガラスをピッチ0.2mmで印刷し、焼成することにより形成できる。さらに、前記隔壁30により区画された放電セル31の底面(アドレス電極21上)と側面とにペースト状に調整した蛍光体を塗布又は充填する。その後、蛍光体ペーストを乾燥又は焼成して、ペースト中の有機成分を除去し、放電セル31R、31G、31Bにそれぞれ発光色が異なる蛍光体層35R、35G、35Bを形成する。
【0090】
なお、蛍光体をペースト状に調整する際には、蛍光体に溶剤、バインダー樹脂、分散剤等を適宜混合すればよい。
【0091】
そして、前記電極11、21等が配置された前記前面板10と背面板20とを、それぞれの電極配置面が向き合うように位置合わせし、約1mmのギャップを保った状態で、その周辺をシールガラス(図示略)により封止する。そして、前記基板10、20間に、放電により紫外線を発生するキセノン(Xe)と主放電ガスのネオン(Ne)とを混合したガスを封入して気密密閉した後、エージングを行う。以上によって、PDP1を製造できる。
【0092】
このような本発明に係るPDP1等のディスプレイは、本発明の製造方法により得た緑色蛍光体を使用することにより、輝度が向上し、動画を滑らかに表示することができる。特に、視感度の高い緑色の蛍光体の発光強度が向上し、且つ、残光時間が短くなるので、白色輝度が向上するとともに、残光による残像や画像のちらつき等を防ぐことができる。
さらに、本発明に係る蛍光体は特殊な形状を有し、且つ、その長軸径が0.1〜3μmと極めて微少であるため、例えば、PDP1の放電セル31G等の微小放電空間内に効率良く、蛍光体を塗布することが可能となる。したがって、よりディスプレイ等の輝度を向上させることができる。
【0093】
【実施例】
次に、本発明を実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに何等限定されるものではない。
【0094】
本実施例では、蛍光体1−1〜1−7及び比較例としてZn2SiO4:Mnの組成式で示される蛍光体を製造し、それぞれの蛍光体について発光強度、残光時間及び粒子形状について評価した。
なお、蛍光体1−1〜1−7については、ケイ素系材料として二酸化ケイ素(SiO2)を用い、二酸化ケイ素を水又はエタノールに分散させたケイ素系液状物と、金属系液状物等と混合して、Zn2SiO4:Mnを製造した。
一方、比較例の蛍光体では、二酸化ケイ素に代えてメタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)を用い、これを純水に溶解したメタケイ酸ナトリウム溶液と、金属系液状物と混合して蛍光体を製造した。
まず、蛍光体1−1〜1−7の製造について説明する。
【0095】
(1)蛍光体1−1の製造
まず、二酸化ケイ素(日本アエロジル株式会社製AEROSIL200、BET比表面積200m2/g)4.51gをエタノール235.38gに混合してA液を調整した。同時に、硝酸亜鉛6水和物42.39gと硝酸マンガン6水和物2.15gをエタノール101.91gに溶解してB液を調整した。さらに、シュウ酸2水和物22.69gをエタノール106.14gに溶解してC液を調整した。
【0096】
次に、図3に示す反応装置100を用いて、A液を撹拌しながら、ローラーポンプ110を使ってB液とC液を10cc/minの添加速度でA液表面にダブルジェットで同時添加した。B液、C液の添加終了後、吸引濾過により固液分離を行いながら、エタノールを用いて十分に洗浄を行った。次いで、100℃、12時間乾燥を行い、乾燥済み前駆体を得た。得られた前駆体を窒素100%の雰囲気中で1200℃、3時間焼成して蛍光体1−1を得た。
【0097】
(2)蛍光体1−2の製造
まず、二酸化ケイ素(日本アエロジル株式会社製AEROSIL200、BET比表面積200m2/g)4.51gを純水297.95gに混合してA液を調整した。同時に、硝酸亜鉛6水和物42.39gと硝酸マンガン6水和物2.15gを純水126.84gに溶解してB液を調整した。さらに、アンモニア水(28%)21.90gを純水125.67gに混合してC液を調整した。
【0098】
次に、上記の(1)と同様に図3に示す反応装置100を用いてA液を撹拌しながら、ローラーポンプ110を使ってB液とC液を10cc/minの添加速度でA液表面にダブルジェットで同時添加した。B液、C液の添加終了後、吸引濾過により固液分離を行いながら、純水を用いて十分に洗浄を行った。次いで、100℃、12時間乾燥を行い、乾燥済み前駆体を得た。得られた前駆体を窒素100%の雰囲気中で1200℃、3時間焼成して蛍光体1−2を得た。
【0099】
(3)蛍光体1−3の製造
A液を20℃以下に保ったまま超音波分散を10分間行い、あらかじめA液の調整を行う以外は、上記(1)の蛍光体1−1と同様にして蛍光体1−3を製造した。
【0100】
(4)蛍光体1−4の製造
A液を20℃以下に保ったまま超音波分散を10分間行い、あらかじめA液の調整を行う以外は、上記(2)の蛍光体1−2と同様にして蛍光体1−4を得た。
【0101】
(5)蛍光体1−5の製造
二酸化ケイ素(日本アエロジル株式会社製AEROSIL200、BET比表面積200m2/g)4.51gと分散剤(東亞合成株式会社製SD−10、40wt%)0.06gを純水297.90gに混合して撹拌を10分間行い、あらかじめA液の調整を行う以外は、上記(2)の蛍光体1−2と同様にして蛍光体1−5を得た。なお、分散剤は、ポリアクリル酸ヒドロキシアルキルである。
【0102】
(6)蛍光体1−6の製造
コロイダルシリカ(クラリアント社製KLEBOSOL30R25、30wt%)15.02gを純水287.38gに混合してA液を調整する以外は、上記(2)の蛍光体1−2と同様にして蛍光体1−6を得た。
【0103】
(7)蛍光体1−7の製造
前駆体の焼成を大気雰囲気中で1200℃、3時間行い、更に、窒素95%、水素5%の還元雰囲気中で800℃、1時間行う以外は上記(2)の蛍光体1−2と同様にして蛍光体1−7を得た。
【0104】
〔比較例〕
次に、比較例として用いる蛍光体の製造方法について説明する。
まず、純水300gのみを秤量したものをA液とした。
次に、硝酸亜鉛6水和物42.39gと硝酸マンガン6水和物2.15gを純水126.84gに溶解してB液を調整した。また、メタケイ酸ナトリウム9.15gを純水149.02gに溶解してC液を調整した。
上記の(1)〜(7)と同様に、図3に示す反応装置100を用いて、A液を撹拌しながら、ローラーポンプ110を使ってB液とC液を10cc/minの添加速度でA液表面にダブルジェットで同時添加した。B液、C液の添加終了後、吸引濾過により固液分離を行いながら、純水を用いて十分に洗浄を行った。次いで、100℃、12時間乾燥を行い、乾燥済み前駆体を得た。得られた前駆体を窒素100%の雰囲気中で1200℃、3時間焼成して蛍光体を得た。
【0105】
〔評価〕
上記の(1)〜(7)で得られた蛍光体1−1〜1−7及び比較例で得られた蛍光体について、発光強度、残光時間及び粒子形状について評価した。
まず、発光強度について説明する。
【0106】
1.発光強度の評価
蛍光体1−1〜1−7及び比較例で得た蛍光体にそれぞれ0.1〜1.5Paの真空槽内でエキシマ146nmランプ(ウシオ電機社製)を用いて紫外線を照射して、蛍光体から緑色光を発光させた。次に、得られた緑色光を検出器(MCPD−3000(大塚電子株式会社製))を用いてその強度を測定した。そして、発光のピーク強度を、比較例で得た蛍光体を100とした相対値で求めた。得た結果を表1に示す。
【表1】
【0107】
上記表1より、比較例に対して、蛍光体1−1〜1−7は発光強度が21〜31%高く、本発明に係る蛍光体の製造方法で蛍光体を製造することにより発光強度の高い蛍光体を得ることができる。
ここで、蛍光体の製造条件についてみると、比較例では、母液であるA液として純水を用い、このA液に、メタケイ酸ナトリウムを純水に溶解させたメタケイ酸ナトリウム溶液と、金属系液状物とを添加しながら混合して前駆体を形成し、その前駆体を焼成して、Zn2SiO4:Mnを得ている。一方、蛍光体1−1〜1−7では、二酸化ケイ素をエタノール又は純水に分散させたケイ素系液状物をA液とし、このA液の中に金属系液状物を添加しながら混合して前駆体を形成し、その前駆体を焼成してZn2SiO4:Mnを得たものである。
このように、ケイ素系材料を液体に分散させた状態で前駆体の形成を行うことにより、明確な理由は定かではないが、ケイ素に対する亜鉛とマンガンの比がより均一になり、発光強度を向上させることができるのではないかと考えられる。
【0108】
次に、A液の調整の有無と相対発光強度の関係についてみる。
まず、A液の調整の有無以外は、同じ条件で製造した蛍光体1−1と蛍光体1−3についてみる。尚、蛍光体1−3はA液をあらかじめ10分間超音波分散して調整して得たものである。表1をみると、蛍光体1−1の相対発光強度は124であるのに対して、蛍光体1−3の相対発光強度は131である。したがって、A液を10分間超音波分散することにより、相対発光強度がさらに向上することが分かる。
【0109】
蛍光体1−2と蛍光体1−4の相対発光強度の比較によっても上記と同様のことが言える。蛍光体1−4の製造条件は、A液を10分間超音波分散させて調整した以外は、蛍光体1−2の製造条件と同一である。表1をみると、蛍光体1−2の相対発光強度は、121であるのに対して、蛍光体1−4の相対発光強度は128であり、上記と同様に、蛍光体を製造する際に、A液を予め調整することによって、相対発光強度がより向上することが分かる。
【0110】
次に、A液をあらかじめ調整する際の方法と相対発光強度との関係をみる。蛍光体1−4〜1−6は、A液の調整方法が異なる以外は、同一の製造条件である。蛍光体1−4は、上記の通り、10分間超音波分散を行うことにA液を調整したものであり、蛍光体1−5は、分散剤とともに10分間攪拌することによりA液を調整したものであり、蛍光体1−6は、予め二酸化ケイ素の分散状態が調整されたコロイダルシリカを純水に混合してA液を調整したものである。
その結果、蛍光体1−4、蛍光体1−5、蛍光体1−6の相対発光強度は、それぞれ128、126、130であった。
【0111】
したがって、蛍光体1−4〜1−6の相対発光強度はほぼ同程度といえるが、A液を調整する際に、蛍光体1−5のようにA液に分散剤を添加して攪拌を行うよりも、蛍光体1−4のように超音波分散により二酸化ケイ素を液体(この場合は純水)に分散させるか、蛍光体1−6のように予め分散状態が調整されたコロイダルシリカを使用することがより好ましい。
【0112】
次に、A液に使用する溶媒と相対発光強度の関係についてみる。
ここでは、溶媒の違い以外は、同じ製造条件で製造した蛍光体1−1と蛍光体1−2、蛍光体1−3と蛍光体1−4について比較する。蛍光体1−1と蛍光体1−3はA液の溶媒としてエタノールを使用し、蛍光体1−2と蛍光体1−4ではA液の溶媒として純水を使用している。
表1をみると、蛍光体1−1及び蛍光体1−3の相対発光強度はそれぞれ124、131である。一方、蛍光体1−2及び蛍光体1−4の相対発光強度はそれぞれ121、128である。したがって、ほぼ同一の製造条件とした場合に、溶媒としてエタノールを使用した方が、二酸化ケイ素をより良好に分散させることができ、その結果、蛍光体の発光強度をより向上することができる。
【0113】
さらに、焼成条件と発光強度の関係についてみる。蛍光体1−2と蛍光体1−7の製造条件はほぼ同一であるが、蛍光体1−2では、窒素雰囲気中で1200℃、3時間焼成しているのに対し、蛍光体1−7では、大気雰囲気中で1200℃、3時間焼成後、窒素95%、水素5%の還元雰囲気下で800℃、1時間焼成を行っている。その結果、蛍光体1−2の相対発光強度は121であるのに対して、蛍光体1−7は123と、ほぼ同程度であった。
【0114】
2.残光時間の評価
次に、蛍光体1−1〜1−7及び比較例の蛍光体についてそれぞれ残光時間を蛍光寿命測定器を用いて測定した。残光時間は、励起光を遮断した後の発光強度が、遮断直前の発光強度の1/10になるまでの時間とし、比較例で得た蛍光体を100とした相対値で表す。結果を表2に示す。
【表2】
【0115】
表2をみると、蛍光体1−1〜1−7については、いずれも比較例で得た蛍光体に対して残光時間が約半分の値を示すことが分かる。この結果より、発光強度の場合と同様に、蛍光体1−1〜1−7の製造条件のように、ケイ素系材料を液体に分散させた状態で前駆体を形成し、焼成を行うことにより、蛍光体内部にSiO2固溶体が形成され、それにより残光時間を短くすることができるのではないかと考えられる。
【0116】
ここで、発光強度を評価したときと同様に、まず、A液の調整の有無と残光時間との関係についてみる。A液を調整していない蛍光体1−1の相対発光残光時間は53であるのに対して、A液を10分間超音波分散させた蛍光体1−3の相対残光時間は45である。
また、蛍光体1−2と蛍光体1−4についてみると、A液を調整していない蛍光体1−2の相対残光時間は、57であるのに対して、A液を10分間超音波分散させた蛍光体1−4の相対残光時間は47である。
したがって、発光強度の場合と同様に、蛍光体を製造する際に、A液を予め調整し、A液中の二酸化ケイ素の分散状態を所望の状態とすることにより、残光時間をより短くすることができる。
【0117】
次に、A液をあらかじめ調整する際の方法と残光時間との関係をみる。蛍光体1−4、蛍光体1−5、蛍光体1−6は、上述の通りA液の調整方法が異なる以外は、ほぼ同一の製造条件である。
表2をみると、蛍光体1−4、蛍光体1−5、蛍光体1−6の残光時間は、それぞれ47、51、46であった。したがって、残光時間についても、A液を攪拌により調整するよりも、超音波分散又はコロイダルシリカを用いることによりA液を調整した方がより好ましく、残光時間を短くすることができる。
【0118】
次に、A液の溶媒と残光時間との関係についてみる。蛍光体1−1と蛍光体1−2、蛍光体1−3と蛍光体1−4について比較すると、A液の溶媒としてエタノールを使用した蛍光体1−1及び蛍光体1−3の相対残光時間はそれぞれ53、45である。一方、A液の溶媒として純水を使用した蛍光体1−2及び蛍光体1−4の相対残光時間はそれぞれ57、47である。したがって、ほぼ同一の製造条件とした場合に、溶媒としてエタノールを使用した方が、二酸化ケイ素の液体への分散状態が良好になり、より残光時間の短い蛍光体を得ることができる。
【0119】
さらに、焼成条件と残光時間との関係についてみる。発光強度を評価した場合と同様に、蛍光体1−2と蛍光体1−7について比較すると、それぞれの相対残光時間は、57、56であり、ほぼ同程度であった。
【0120】
以上の発光強度と残光時間の評価結果より、本発明の蛍光体の製造方法によってケイ酸塩系蛍光体を製造することにより、紫外線励起下で発光輝度に優れるとともに、残光時間の短い蛍光体を得ることができる。したがって、本発明の蛍光体の製造方法により製造した蛍光体を用いることにより、PDPなどの各種ディスプレイの輝度を向上させることができ、残光時間が短いので動画等を滑らかに表示することができる。
【0121】
3.粒子形状の評価
次に、上記(1)で得られた蛍光体1−1と比較例で得た蛍光体の粒子形状を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて評価した。
評価は次のように行った。まず、無作為に粒子1000個を選び、粒子表面の任意の2点a、b間の距離が最大となるaとbとをつなぐ方向を長軸とし、長軸方向に垂直な軸を短軸とした。そして、前記短軸の長さの長軸方向における変化が少なくとも2つの極大値を有する形状を持つ粒子(SS)の割合(R)を求めた。次に、SSについて長軸径(L)、短軸径の極大値(Smax)、短軸径の極小値(Smin)を測定し、L、L/Smax、Smax/Sminをそれぞれ算出し、平均値で示した。評価結果を、蛍光体の単分散度とあわせて表3に示す。また、蛍光体1−1のSEM写真を図1に示す。
【表3】
【0122】
表3より、次のことが分かる。まず、蛍光体1−1は、特殊形状を有する粒子、SSが全体の85%を占めるのに対して、比較例で得た蛍光体にはそのような形状の蛍光体は一切得られなかった。したがって、上記の(1)で示した方法で、蛍光体を製造することにより、図1に示すような本発明に特有の特殊な形状を有する蛍光体が得られることが分かる。
【0123】
【発明の効果】
本発明の蛍光体の製造方法によれば、ケイ素系材料を液体に分散させてなるケイ素系液状物と、焼成することによりケイ素系材料と共にケイ酸塩蛍光体を構成する金属元素を含む金属系液状物とを混合して、液相中でケイ酸塩蛍光体の前駆体を形成し、前記前駆体を焼成することにより、反応量論的に高純度で、組成の均一な蛍光体を得ることができる。
また、本発明の蛍光体の製造方法により蛍光体を製造することにより、得られた形状が、前記蛍光体の粒子表面の任意の2点a、b間の距離が最大となるaとbとをつなぐ方向を長軸とし、長軸方向に垂直な軸を短軸とするとき、短軸の長さの長軸方向における変化が少なくとも2つの極大値を有する特殊な形状となり、さらに、SiO2固溶体が蛍光体内部に形成されると考えられる。以上により、発光強度が高く、残光時間の短い蛍光体を得ることができる。
さらに、上記のように、本発明にかかる蛍光体は、発光強度が高く、残光時間が短いので、PDP等のディスプレイに使用すると、輝度が向上し、さらには、動画等を滑らかに表示することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る蛍光体の一例を示した走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係るプラズマパネルディスプレイの一例を示した概略構成図である。
【図3】本発明に係る蛍光体を製造する際に使用する反応装置の一例を示した概略図である。
【符号の説明】
1 PDP
35G 蛍光体層
Claims (14)
- 液体にケイ素系材料を分散させてなるケイ素系液状物と、焼成することにより前記ケイ素系材料と共にケイ酸塩蛍光体を構成する金属元素を含む金属系液状物とを混合してケイ酸塩蛍光体の前駆体を形成する前駆体形成工程と、
得られた前駆体を焼成してケイ酸塩蛍光体を得る焼成工程とを含むことを特徴とする蛍光体の製造方法。 - 請求項1に記載の蛍光体の製造方法において、
前記ケイ素系材料は二酸化ケイ素であることを特徴とする蛍光体の製造方法。 - 請求項1又は2に記載の蛍光体の製造方法において、
前記ケイ素系材料のBET比表面積が50m2/g以上であることを特徴とする蛍光体の製造方法。 - 請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、
前記金属元素は、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Zr、Al、Ga、La、Ce、Eu及びTbからなる群から少なくとも一つ選ばれることを特徴とする蛍光体の製造方法。 - 請求項1〜4のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、
前記前駆体形成工程において、前記金属元素と反応して沈殿物を形成する沈殿剤を含む溶液を混合することを特徴とする蛍光体の製造方法。 - 請求項5に記載の蛍光体の製造方法において、
前記沈殿剤は有機酸又は水酸化アルカリであることを特徴とする蛍光体の製造方法。 - 請求項1〜6のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、
前記ケイ素系液状物をあらかじめ調整することを特徴とする蛍光体の製造方法。 - 請求項1〜7のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、
前記液体は、水若しくはアルコール類又はそれらの混合物であることを特徴とする蛍光体の製造方法。 - 請求項1〜8のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、
前記金属系液状物は、水若しくはアルコール類又はそれらの混合物を含むことを特徴とする蛍光体の製造方法。 - 請求項1〜9のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法において、
前記焼成工程は、400℃以上1400℃以下の温度で前記前駆体を焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。 - 請求項1〜10のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法により製造されたことを特徴とする蛍光体。
- 粒子表面の任意の2点a、b間の距離が最大となるaとbとをつなぐ方向を長軸とし、長軸方向に垂直な軸を短軸とするとき、前記短軸の長さの長軸方向における変化が少なくとも2つの極大値を有することを特徴とする蛍光体。
- 請求項12に記載の蛍光体において、
請求項1〜10のいずれか一項に記載の蛍光体の製造方法によって製造されたことを特徴とする蛍光体。 - 所定間隔をあけて対向配置された2つの基板と、基板間に設けられて基板間の空間を複数に区画する隔壁と、前記隔壁と基板とに囲まれて形成された複数の放電セルとを備えるプラズマディスプレイにおいて、
前記複数の放電セルのうち少なくとも一つの放電セルの内側には、請求項11〜13のいずれか一項に記載の蛍光体を含む蛍光体層が設けられていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
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