以下、本発明に係る回転電機の回転子の好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る回転子1が搭載された回転電機100の概略図である。図1の回転電機100は、例えばタービン発電機である。図2は、実施の形態1に係る回転子1の径方向の部分断面図である。さらに、図3は、実施の形態1に係る回転子1のウェッジ8のウェッジ孔81部分の拡大図である。図4は、回転子鉄心2の径方向外側からみた本発明の実施の形態1の回転子のウェッジ8を示す図である。また、図5は、実施の形態1に係る回転子1のウェッジ8を示す図である。
図1に示すように、回転電機100は、回転子1と、固定子110とを備えている。さらに、回転電機100は、冷却器130と、2つのファン140と、回転軸150とを備えている。固定子110は、円筒状に形成されている。固定子110の内周面が回転子1の外周面に対向するように、回転子1は、固定子110内に配置されている。以下では、固定子110の内周面を、固定子内周面111と呼び、回転子1の外周面を回転子外周面10と呼ぶこととする。固定子内周面111と回転子外周面10との間には空隙があり、以下では、当該空隙を、エアギャップ120と呼ぶこととする。このように、固定子110は、回転子1の外周に対してエアギャップ120を介して配置されている。
回転子1は、回転子鉄心2と回転子コイル5とを備えて構成されている。回転子鉄心2は回転軸150に固定され、回転軸150の回転により回転する。また、2つのファン140は、それぞれ、回転子1の両端部の位置で回転軸150に固定されている。各ファン140は、回転軸150の回転により回転し、回転電機100内に冷却ガス160を循環させる。図1の矢印は、冷却ガス160の流れを示す。冷却器130は、回転電機100の熱を吸収した冷却ガス160を回収して冷却する。冷却された冷却ガス160は、再び、ファン140によって、回転電機100内を循環する。
回転子1を構成する回転子鉄心2の外周面には、回転子鉄心2の軸方向に延びた複数のコイルスロット3が設けられている。それらのコイルスロット3は、回転子鉄心2の周方向に間隔をおいて形成されている。図2では、複数のコイルスロット3のうち、1つのコイルスロット3のみを示している。なお、各コイルスロット3は、すべて、図2に示したコイルスロット3と同様の構成を有しているため、ここでは、1つのコイルスロット3についてのみ説明する。
コイルスロット3は、回転子鉄心2の軸方向に沿って、回転子鉄心2の一端側から他端側に亘って形成されている。図2に示すように、コイルスロット3は、U字型の凹部となっており、回転子鉄心2の回転子外周面10側に開口部を有している。コイルスロット3内には、複数の回転子コイル5が積層されて配置されている。これらの回転子コイル5は、絶縁物7を介して、コイルスロット3の開口部に嵌合されたウェッジ8によって固定されている。ウェッジ8は、図2、図4および図5に示すように、回転子鉄心2の径方向に貫通して、コイルスロット3の内部と外部とを連通させるウェッジ孔81を少なくとも1つ有している。さらに、各回転子コイル5の間には、ターン絶縁物6が介挿されている。
また、図2に示すように、複数の回転子コイル5とターン絶縁物6には、それぞれ、それらを回転子鉄心2の径方向に貫通する少なくとも一つ以上のラジアルパス9が形成されている。また、絶縁物7は、回転子鉄心2の径方向に貫通する絶縁物孔71を有している。絶縁物孔71は、ラジアルパス9と連通するとともに、ウェッジ孔81と連通している。ウェッジ孔81は、例えば円型の貫通孔から構成されている。
また、各コイルスロット3の底部には、U字型のチャンネル4が形成されている。チャンネル4の内部は、空洞である。チャンネル4と、ラジアルパス9と、絶縁物孔71と、ウェッジ孔81とは、冷却ガス160が流れる通風路を形成している。冷却ガス160は、チャンネル4から各コイルスロット3内に入り、ラジアルパス9、絶縁物孔71、および、ウェッジ孔81を通って、エアギャップ120に流れ込む。
また、本実施の形態1においては、図2、図3、図4および図5に示すように、ウェッジ孔81の内径は、第1の内径と、第1の内径より大きい第2の内径とを含んでいる。ウェッジ孔81の第2の内径を有する第2の部分85は、ウェッジ孔81の第1の内径を有する第1の部分86よりも、回転子鉄心2の径方向外側に配置されている。以下では、第2の部分を「孔径拡大部85」と呼ぶこととする。
本実施の形態1では、図2、図3、図4および図5に示すように、回転子1の回転子外周面10に位置するウェッジ孔81の孔出口に、孔径拡大部85が設けられている。孔径拡大部85は、ウェッジ孔81の孔出口から、予め設定された深さΔHにかけて、断面L字型の切欠きを設けることにより、L字型の段付き部85aを形成することで、構成されている。孔径拡大部85は、ウェッジ孔81の全周にわたって均等に偏りなく設けられており、すなわち、環状に構成されており、構造に指向性を持たない。すなわち、孔径拡大部85は、ウェッジ孔81からエアギャップ120に向けて噴出される回転子1内の冷却ガス流れ11の向きを意図的に特定の方向に制御する構成は有していない。図2および図3において、孔径拡大部85の内壁が、ウェッジ孔81の中心軸を軸として左右対称に図示されていることから分かるように、孔径拡大部85の内壁は、ウェッジ孔81の全周、すなわち、360°にわたって、ウェッジ孔81の中心軸を軸として軸対称な形状になるように構成されている。換言すれば、図4に示すように、回転子鉄心2の径方向外側からウェッジ8を見ると、ウェッジ孔81の中心軸に対して対称の構成になっている。また、図5は、ウェッジ8単体の一部を示している。孔径拡大部85の内径を第2の内径とし、ウェッジ孔81の他の部分の内径を第1の内径とすると、第2の内径は、段付き部85aの段差の奥行き分だけ、第1の内径よりも大きい。なお、本実施の形態1においては、第1の内径および第2の内径は、共に、径方向外側に向かって徐々に増減することなく、径方向に沿って一定である。
このように、本実施の形態1においては、段付き部85aの段付き位置を境にして、孔径拡大部85部分を「ウェッジ孔81の第2の内径を有する第2の部分」とし、ウェッジ孔81の孔径拡大部85以外の他の部分86を「ウェッジ孔81の第1の内径を有する第1の部分」としたとき、ウェッジ孔81は、第1の内径を有する第1の部分86と、第1の部分86よりも回転子鉄心2の径方向外側に配置され、ウェッジ孔81の全周にわたって第1の内径よりも大きい第2の内径を有する第2の部分とを有している。
ところで、回転子1の回転で生じる回転子外周面10の壁面剪断力により、粘性を有する冷却ガス160は、エアギャップ120内で回転子1の周方向に加速され、周方向の冷却ガス流れ121が生じる。図6に、エアギャップ120内の冷却ガス160の周方向流速分布を示す。縦軸は、冷却ガス160の回転子周方向の流速Vを回転子外周面10における周速度VRで除した無次元速度V/VRである。横軸は、固定子内周面111を基準としたときのエアギャップ120内のエアギャップ幅方向の距離xをエアギャップ幅Lで除した無次元距離x/Lである。従って、回転子外周面10の無次元距離x/Lの値は1で、固定子内周面111の無次元距離x/Lの値は0となる。
図6に示されるように、回転子外周面10および固定子内周面111の境界層の影響を受ける領域以外では、回転子1の周方向の冷却ガス160の冷却ガス流れ121の平均周速度は、回転子外周面10における冷却ガス流れ121aの周速度の約1/2であると考えられている。
また、図1に示すように、回転子1の両端に設けられた2つのファン140から押し出された冷却ガス160がエアギャップ120の入口から流入し、エアギャップ120内を軸方向に流れることにより、軸方向にも冷却ガス160の冷却ガス流れ121bが生じる。
この軸方向の冷却ガス流れ121bの量および速度は、エアギャップ120の入口からエアギャップ120内への冷却ガス160の流入量、回転子1からエアギャップ120への冷却ガス160の流入量、および、エアギャップ120から固定子110への冷却ガス160の流出量から決定される。
このように、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121は、回転子1の軸方向の流れと回転子1の周方向の流れとが合成したものであり、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121を正確に予測するためには非常に高度な設計を要する。
図7は、形成された旋回流、即ち、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121の様子を図示したものである。図中、実線122は、回転子1上にとった回転座標系からみた流速分布である。上記の通り、実際のエアギャップ120内の冷却ガス流れ121は、軸方向流れと周方向流れとが合成されたものであるが、図7では、簡単のため、周方向流れの流速分布のみを用いて説明する。エアギャップ120内の冷却ガス流れ121には、流速分布122に示されるように、固定子内周面111および回転子外周面10では、急峻な流速勾配を有する乱流境界層が発達する。従って、ウェッジ孔81からエアギャップ120に向けて噴出される回転子1内の冷却ガス流れ11は、この境界層を打ち破るために大きなエネルギを要する。換言すれば、回転子1内の冷却ガス流れ11は、噴出の際に通風抵抗を生じることになる。
ここで、本実施の形態1の効果を説明するために、比較例として、図8に、一般的な回転子のウェッジ孔の孔出口部分の構成について示す。ウェッジ孔81からエアギャップ120へ回転子1内の冷却ガスが排出される際に、エアギャップ120内の高速な冷却ガス流れと衝突することによって、ウェッジ孔81から排出される回転子1内の冷却ガス流れ11が妨げられる。その結果として通風抵抗が発生する。回転子1は定格運転時には高速で回転するため、エアギャップ120内の冷却ガス160は周方向に高速で流れる。そのため、回転子1の回転時のウェッジ孔81での通風抵抗は、回転子1の静止時の約3倍に増加する。従って、回転子コイル5の温度を一定基準以下に保つためには、差圧の大きな通風ファンを採用する必要がある。しかし、差圧の大きな通風ファンを採用すると、ファン動力損が大きくなるため、回転電機の運転効率が低下してしまう問題点があった。
そのため、本実施の形態1では、ウェッジ孔81の孔出口の全周にわたって孔径拡大部85を設けている。図7を用いて上述したように、回転子外周面10には、急峻な流速勾配を有する乱流境界層が形成されている。このとき、本実施の形態1のように、孔径拡大部85を設けている場合には、回転子1内の冷却ガス流れ11が、回転子外周面10に形成される乱流境界層に衝突する際に、孔径拡大部85が無い場合に比べて、回転子1内の冷却ガス流れ11は穏やかに偏向することができる。したがって、冷却ガス流れ11の乱流境界層との衝突角を小さくすることができる。その結果、冷却ガス流れ11の噴出の際に必要なエネルギを低減することができる。回転子1内の冷却ガス流れ11がエアギャップ120内へ噴出する際の通風抵抗は低減される。そのため、本実施の形態1では、差圧の大きなファンを採用する必要が無い。その結果、ファン動力損を抑え、回転電機の運動効率の向上を図ることができる。
なお、本実施の形態1では、孔径拡大部85を設けたことによる孔径拡大に伴い、孔径拡大部85には回転子1内の冷却ガス流れ11の一部が剥離したことで、剥離領域124が形成されるため、拡流損失を生じるが、当該拡流損失は微々たるものであり、全体として通風損失は低減される。
ところで、回転子1内の冷却ガス流れ11とエアギャップ120内の冷却ガス流れ121の衝突を緩和する従来の技術としてウェッジ孔81に指向性の構造を持たしたものがある。
指向性ウェッジ孔を有する従来の回転電機の回転子の例として、図9および図10に示すように、V字溝902をウェッジ孔81の開口部の上流側に設け、さらに、ウェッジ孔81の下流側に傾斜面903を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。なお、上記ウェッジ8を回転子鉄心2の径方向外側からみると図10に示すような構成に見える。
図10より明らかなように、特許文献1に記載されるような回転子1のウェッジ8は、エアギャップ120内の冷却ガス121の流れの周方向成分が支配的な時に効果が高いが、回転子端部のような、軸方向流れが大きい箇所での効果は低くなる。そのため、指向性ウェッジ孔を適用する箇所で効果が変化してしまう課題がある。
指向性ウェッジ孔を有する従来の回転電機の回転子の他の例として、図11および図12に示すように、突起901をウェッジ孔81の開口部の上流側に設け、さらに、ウェッジ孔81の下流側に傾斜面902を設けたものがある(例えば、特許文献2参照)。なお、上記ウェッジ8を回転子鉄心2の径方向外側からみると図12に示すような構成に見える。
図11より明らかなように、上記ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果は突起901の設置位置で大きく変化する。すなわち、突起901を正確にエアギャップ120内の冷却ガス流れ121の上流側に設置できれば大きな低減効果を得ることができるが、設置位置が適切でないと低減効果は得ることができない。しかし、上述の通り、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121は回転子1の軸方向の流れと回転子1の周方向の流れとが合成したものである。そのため、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121を正確に予測するためには非常に高度な設計を要し、期待した低減効果を得ることは難しい。
そこで、ウェッジ孔81を無指向性構造とすることで、上記課題を回避することができる。すなわち、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121がどの方向からきても、一定の通風抵抗低減効果を得ることができる。
なお、従来の回転電機の回転子として、図13および図14に示すように、回転子のコイルスロットに挿入された導体バー904に設けられた通風孔906の径方向外側部分に、テーパー部905が形成されているものがある(例えば、特許文献3参照)。その場合、導体バーの通風孔出口の全周面に対してテーパー加工を行うため、どの方向からエアギャップ内の冷却ガスが流れてきても一定の効果が期待できる。なお、図14に示す通り、回転子鉄心2の径方向外側からウェッジ8をみると図4と同様な構成になっているように見える。しかしながら、通電加熱する導体バー904にテーパー加工を施すことにより、通電する導体バー904の断面積が減少し、銅損が増大するという問題が生じる。一方、本実施の形態1においては、通電加熱を伴わないウェッジ8に対して加工を施すため、特許文献3に記載の従来技術のように、銅損増大を招くこともない。
ところで、ファン140が脈動を起こした際には、回転電機100の各部における冷却ガス160の流量が変動することになる。当然のことながら、エアギャップ120の流量も変動する。このような場合、ウェッジ孔81が指向性をもつ構造であった場合、エアギャップ120の冷却ガス160の変動に合わせて、ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果も変動する。一方、本実施の形態1のように、ウェッジ孔81が指向性が無く、通風抵抗を低減できるような構造をウェッジ孔81に適用した場合、ファン140の脈動に関係なく、安定したウェッジ孔81の通風抵抗低減効果を期待できる。
また、ファン140に偏流が発生した際にも、エアギャップ120の冷却ガス160の流量分布に偏りが生じる可能性がある。例えば図15のように、冷却器130が回転電機100の上側のみに設置されている場合、冷却ガス160はファン140の上側から吸い込まれ、下側に押し出される傾向が強くなる。結果として、エアギャップ120に流入する際の冷却ガス160の流量分布は周方向で偏りが生じる。このような場合、ウェッジ孔81が指向性をもつ構造であった場合、エアギャップ120の冷却ガス160の偏りに合わせて、ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果も変動する。一方、本実施の形態1のように、指向性が無く、通風抵抗を低減できるような構造をウェッジ孔81に適用した場合、ファン140の偏流に関係なく、安定したウェッジ孔81の通風抵抗低減効果を期待できる。
ところで、回転電機100の運転時には、各ラジアルパス9への冷却ガス160の流量分配の偏りなどのため、局所的な高温部が回転子コイル5に発生する場合がある。以下では、この局所的な高温部をホットスポットと呼ぶこととする。ホットスポットが発生した場合、回転電機100の絶縁不良または回転子1の熱変形に伴う回転軸ぶれを起こす場合がある。また、その結果、最終的に回転電機100の破損につながる可能性がある。そのため、従来の技術では、予め冷却ガス160の流量が不足する可能性があるラジアルパス9に連通されたウェッジ孔81の孔径を他のラジアルパス9に連通されたウェッジ孔81と比べ広く、逆に、冷却ガス160の流量が過剰になる可能性があるラジアルパス9に連通されたウェッジ孔81の孔径を他のラジアルパス9に連通されたウェッジ孔81と比べ狭くするなどして、回転子1の各ラジアルパス9に供給される冷却ガス160の流量分配を調整してきた。
本実施の形態1においては、予め冷却ガス160の流量が不足する可能性があるラジアルパス9に連通されたウェッジ孔81に対してのみ、孔径拡大部85を設けるようにする。その場合、孔径拡大部85が設けられたラジアルパス9に供給される冷却ガス160の流量を増やすことができる。その結果、ホットスポットの発生を抑制し、回転子コイル5を均一に冷却することができる。
あるいは、個々のウェッジ孔81の孔径を調節する従来の技術と本実施の形態1とを併せて回転電機100に適用することにより、回転子1の冷却能力を向上できるだけでなく従来よりも均一に冷却できる。
以上のように構成された実施の形態1の回転子1によれば、回転子鉄心2に、軸方向に延びた複数のコイルスロット3を形成し、各コイルスロット3にチャンネル4を形成している。そして、各コイルスロット3に、複数の回転子コイル5とターン絶縁物6とを積層して絶縁物7を介してウェッジ8で固定している。さらに、複数の回転子コイル5とターン絶縁物6に、それぞれ径方向に貫通するとともに、チャンネル4と連通する少なくとも一つ以上のラジアルパス9を形成している。絶縁物7とウェッジ8には、これら少なくとも一つ以上のラジアルパス9と連通するとともに、外周側に開口する、絶縁物孔71とウェッジ孔81とを形成している。そして、チャンネル4と、少なくとも一つ以上のラジアルパス9と、絶縁物7およびウェッジ8に形成された絶縁物孔71とウェッジ孔81により、冷却ガス160の通風路を形成している。さらに、ウェッジ8に穿てられたウェッジ孔81の回転子1の径方向外側に位置する孔出口には孔径拡大部85が設けられている。
これにより、実施の形態1の回転子1によれば、簡単な構造を用いて、回転子コイル5の銅損を増加させることなく、回転電機100の回転子1の通風抵抗を安定して低減することができ、回転子1の冷却能力をより向上できる。
実施の形態2.
図16および図17を用いて、本発明の実施の形態2に係る回転子1に設けられたウェッジ孔81について説明する。図16は、本発明の実施の形態2に係る回転子1のウェッジ8部分を示す部分断面図である。図17は、回転子鉄心2の径方向外側からみた本発明の実施の形態2に係る回転子1のウェッジ8を示す図である。
図16に示すように、実施の形態2においては、回転子1のウェッジ孔81に、傾斜面82aから構成された孔径拡大部82が設けられている。実施の形態1に係る孔径拡大部85の孔径が径方向に沿って一定だったのに対し、実施の形態2に係る孔径拡大部82の内径、すなわち、第2の内径が、回転子1の径方向外側に向かって連続的に増加している点が実施の形態1と異なる。他の構成は実施の形態1と同様である。
本実施の形態2においては、図16に示すように、回転子1のウェッジ孔81の孔出口の先端の内側部分が、傾斜面82aになっている。すなわち、ウェッジ孔81の孔出口の形状が、逆テーパー状になっており、開口部分が最も内径が大きくなっている。
上述したように、本実施の形態2においては、回転子1のウェッジ孔81に、傾斜面82aから構成された孔径拡大部82が設けられているが、この場合に限らず、図18に示すように、傾斜面82aの代わりに、曲面82bから孔径拡大部82を構成するようにしてもよい。曲面82bの場合も、傾斜面82aと同様に、孔径拡大部82の内径は、回転子1の径方向外側に向かって連続的に増加している。
なお、図16および図18において、孔径拡大部82の内壁が、ウェッジ孔81の中心軸を軸として左右対称に図示されていることから分かるように、孔径拡大部82の内壁は、ウェッジ孔81の全周、すなわち、360°にわたって、ウェッジ孔81の中心軸を軸として軸対称な形状になるように構成されている。従って、本実施の形態2においても、ウェッジ孔81の構造は指向性を有さない。なお、ウェッジ8を回転子鉄心2の径方向外側からみると、図17に示すような構成に見える。
このように、本実施の形態2においては、ウェッジ孔81の全周にわたって傾斜面82aまたは曲面82bからなる孔径拡大部82を設けている。そのため、回転子1内の冷却ガス流れ11が、回転子外周面10に形成される乱流境界層に衝突する際に、回転子1内の冷却ガス流れ11が傾斜面82aまたは曲面82bに沿って緩やかに偏向する。これにより、冷却ガス流れ11の噴出の際に必要なエネルギを低減できる。すなわち、ウェッジ孔81の孔出口の全周にわたって、傾斜面82aまたは曲面82bを設けることにより、回転子1内の冷却ガス流れ11がエアギャップ120内へ噴出する際の通風抵抗は抑制される。
このとき、本実施の形態2においては、ウェッジ孔81に傾斜面82aまたは曲面82bを設けることで、回転子1内の冷却ガス流れ11が孔径拡大部82を通過する際に生じる剥離領域124を、実施の形態1よりも低減することができるため、実施の形態1よりも高い通風抵抗低減効果が期待できる。
なお、この低減効果は、ウェッジ孔81に傾斜面82aを設けた場合よりも、曲面82bを設けた場合の方が高い。
また、本実施の形態2においても、ウェッジ孔81の構造は指向性を持たないため、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121がどの方向からきても一定の通風抵抗低減効果が期待できる。そのため、例えば特許文献2などの従来技術のように、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121を予測する必要がなく、より簡便に冷却性能が向上した回転子1を得ることができる。
また、通電加熱を伴わないウェッジ8に対して加工を施すため、特許文献3に記載の従来技術のように銅損増大を招くこともない。
ところで、ファン140が脈動を起こした際には、回転電機100の各部における冷却ガス160の流量が変動することになる。当然のことながら、エアギャップ120の流量も変動する。このとき、ウェッジ孔81が指向性をもつ構造であった場合、エアギャップ120の冷却ガス160の変動に合わせて、ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果も変動する。一方、本実施の形態2のように、指向性が無く、且つ、通風抵抗を低減できるような構造をウェッジ孔81に適用した場合、ファン140の脈動に関係なく、安定したウェッジ孔81の通風抵抗低減効果を期待できる。
また、ファン140に偏流が発生した際にも、エアギャップ120の冷却ガス160の流量分布に偏りが生じる可能性がある。このような場合、ウェッジ孔81が指向性をもつ構造であった場合、エアギャップ120の冷却ガス160の偏りに合わせて、ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果も変動する。一方、本実施の形態2のように、指向性が無く、且つ、通風抵抗を低減できるような構造をウェッジ孔81に適用した場合、ファン140の偏流に関係なく、安定したウェッジ孔81の通風抵抗低減効果を期待できる。
さらに、予め冷却ガス160の流量が不足する可能性があるラジアルパス9に連通されたウェッジ孔81に対してのみ本実施の形態2の孔径拡大部82を適用してもよい。その場合には、適用されたラジアルパス9に供給される冷却ガス160の流量を増やすことができ、ホットスポットの発生を抑制し、回転子コイル5を均一に冷却することができる。
そして、上述の個々のウェッジ孔81の孔径を調節する従来の技術と本実施の形態2を併せて回転電機100に適用することにより、回転子1の冷却能力を向上できるだけでなく従来よりも均一に冷却することが期待できる。
なお、本実施の形態2において、傾斜面82aまたは曲面82bが始まる位置を境にして、孔径拡大部82を「ウェッジ孔81の第2の内径を有する第2の部分」とし、ウェッジ孔81の孔径拡大部82以外の他の部分を「ウェッジ孔81の第1の内径を有する第1の部分」としたとき、実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、ウェッジ孔81は、第1の内径を有する第1の部分と、第1の部分よりも回転子鉄心2の径方向外側に配置され、第1の内径よりも大きい第2の内径を有する第2の部分とを有している。
これにより、実施の形態2による回転子1のウェッジ8によれば、簡単な構造を用いて、回転子コイル5の銅損を増加させることなく、回転電機100の回転子1の通風抵抗を低減することができ、回転子1の冷却能力をより向上できる。
実施の形態3.
図19および図20を用いて、本発明の実施の形態3に係る回転子1に設けられたウェッジ孔81について説明する。図19は、本発明の実施の形態3に係る回転子1のウェッジ8部分を示す部分断面図である。図20は、回転子鉄心2の径方向外側からみた本発明の実施の形態3の回転子1のウェッジ8を示す図である。
図19に示すように、実施の形態3においては、回転子1のウェッジ孔81に対して、溝86がウェッジ8の表面に形成されている点が実施の形態1および実施の形態2と異なる。他の構成は実施の形態1および実施の形態2と同様である。
なお、図19において、溝86が、ウェッジ孔81の中心軸を軸として左右対称に図示されていることから分かるように、溝86は、ウェッジ孔81の全周、すなわち、360°にわたって、ウェッジ孔81の中心軸を軸として軸対称な形状になるように構成されている。従って、本実施の形態3においても、ウェッジ孔81の構造は指向性を有さない。なお、上記ウェッジ8を回転子鉄心2の径方向外側からみると図20に示すような構成に見える。
このとき、本実施の形態3においては、ウェッジ孔81に溝86を設けることで、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121は、ウェッジ孔81から噴出される回転子内の冷却ガス流れ11と衝突する前に、溝86によって偏向する。そのため、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121とウェッジ孔81から噴出される回転子内の冷却ガス流れ11との衝突角は、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121が溝86によって偏向した分だけ、さらに大きくなる。結果として、実施の形態1および実施の形態2よりも高い通風抵抗低減効果が期待できる。
また、本実施の形態3においても、ウェッジ孔81の構造は指向性を持たないため、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121がどの方向からきても一定の通風抵抗低減効果が期待できる。そのため、例えば特許文献2などの従来技術のように、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121を予測する必要がなく、より簡便に冷却性能が向上した回転子1を得ることができる。
また、通電加熱を伴わないウェッジ8に対して加工を施すため、特許文献3に記載の従来技術のように銅損増大を招くこともない。
ところで、ファン140が脈動を起こした際には、回転電機100の各部における冷却ガス160の流量が変動することになる。当然のことながら、エアギャップ120の流量も変動する。このとき、ウェッジ孔81が指向性をもつ構造であった場合、エアギャップ120の冷却ガス160の変動に合わせて、ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果も変動する。一方、本実施の形態3のように、指向性が無く、且つ、通風抵抗を低減できるような構造をウェッジ孔81に適用した場合、ファン140の脈動に関係なく、安定したウェッジ孔81の通風抵抗低減効果を期待できる。
また、ファン140に偏流が発生した際にも、エアギャップ120の冷却ガス160の流量分布に偏りが生じる可能性がある。このような場合、ウェッジ孔81が指向性をもつ構造であった場合、エアギャップ120の冷却ガス160の偏りに合わせて、ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果も変動する。一方、本実施の形態2のように、指向性が無く、且つ、通風抵抗を低減できるような構造をウェッジ孔81に適用した場合、ファン140の偏流に関係なく、安定したウェッジ孔81の通風抵抗低減効果を期待できる。
さらに、予め冷却ガス160の流量が不足する可能性があるラジアルパス9に連通されたウェッジ孔81に対してのみ本実施の形態2の孔径拡大部82を適用してもよい。その場合には、適用されたラジアルパス9に供給される冷却ガス160の流量を増やすことができ、ホットスポットの発生を抑制し、回転子コイル5を均一に冷却することができる。
そして、上述の個々のウェッジ孔81の孔径を調節する従来の技術と本実施の形態3を併せて回転電機100に適用することにより、回転子1の冷却能力を向上できるだけでなく従来よりも均一に冷却することが期待できる。
これにより、実施の形態3による回転子1のウェッジ8によれば、簡単な構造を用いて、回転子コイル5の銅損を増加させることなく、回転電機100の回転子1の通風抵抗を低減することができ、回転子1の冷却能力をより向上できる。
実施の形態4.
図21および図22を用いて、本発明の実施の形態4による回転子1を構成するウェッジ孔81について説明する。図21は、本発明の実施の形態4による回転子1のウェッジ8を示す部分断面図である。図22は、回転子鉄心2の径方向外側からみた本発明の実施の形態4の回転子1のウェッジ8を示す図である。実施の形態4においては、ウェッジ孔81が、突起83aから構成された突縁を有している点が、実施の形態1〜3とは異なる。本実施の形態4では、第2の内径を有する第2の部分としての孔径拡大部83が、当該突縁によって構成されている。他の構成は実施の形態1〜3と同様である。
本実施の形態4においては、図21に示すように、回転子1の径方向外側に位置するウェッジ孔81の孔出口の全周にわたって突起83aが施されて、ウェッジ孔81の突縁が形成されている。突起83aは、図21に示すように、回転子鉄心2の回転子外周面10から突出するように設けられている。突起83aからなる突縁は、短円筒形状を有し、その壁厚は、全周にわたって一定である。本実施の形態4では、突起83aで囲まれている部分を、孔径拡大部83と呼ぶこととする。ここで、突起83aは、図21に示すように、ウェッジ孔81の出口孔よりも外側の部分に設けられているため、突起83aから構成された孔径拡大部83の内径、すなわち、第2の内径は、ウェッジ孔81の全周にわたって他の部分の内径、すなわち、第1の内径よりも大きい。
なお、図21において、孔径拡大部83の内壁および外壁が、ウェッジ孔81の中心軸を軸として左右対称に図示されていることから分かるように、孔径拡大部83の内壁および外壁は、ウェッジ孔81の全周、すなわち、360°にわたって、ウェッジ孔81の中心軸を軸として軸対称な形状になるように構成されている。従って、本実施の形態4においても、ウェッジ孔81の構造は指向性を有さない。なお、上記ウェッジ8を回転子鉄心2の径方向外側からみると、図22に示すような構成に見える。
このように、本実施の形態4において、突起83aで囲まれている孔径拡大部83を「ウェッジ孔81の第2の内径を有する第2の部分」とし、ウェッジ孔81の孔径拡大部83以外の他の部分を「ウェッジ孔81の第1の内径を有する第1の部分」としたとき、本実施の形態4においても、実施の形態1と同様に、ウェッジ孔81は、第1の内径を有する第1の部分と、第1の部分よりも回転子鉄心2の径方向外側に配置され、第1の内径よりも大きい第2の内径を有する第2の部分とを有している。
本実施の形態4では、回転子1の径方向外側に位置するウェッジ孔81の孔出口全周にわたって突起83aを設けることにより、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121は、ウェッジ孔81から噴出される回転子内の冷却ガス流れ11と衝突する前に、突起83aに衝突することで一部が剥離し、ウェッジ孔81の周囲には剥離領域が形成される。
図23は、回転子1の径方向外側に位置するウェッジ孔81の孔出口全周にわたって突起83aが施されている場合における、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121の様子を図示したものである。図23において、実線122は、回転子1上にとった回転座標系からみた流速分布である。上記の通り、実際のエアギャップ120内の冷却ガス流れ121は、軸方向流れと周方向流れが合成されたものである。但し、図23では、簡単のため、周方向流れの流速分布を用いて説明する。
図23に示すように、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121は、突起83aに衝突し、突起83aの上方、すなわち、回転子鉄心2の外径方向に偏向される。さらに、冷却ガス流れ121は、突起83aの上端に達した後、その一部が剥離する。この剥離現象に伴い、突起83aの下流の流速分布は、図23の流速分布のように逆流が生じ、死水領域123が形成される。この死水領域123での冷却ガス流れ121の速さは、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121の主流の速さと比較して微々たるものである。また、死水領域123内の静圧は低くなっている。即ち、乱流剪断層が強ければ強いほど、それを打ち破って流体を噴出させるのに要するエネルギは大きいことを考えれば、突起83aによって形成される死水領域123に冷却ガス流れ11を噴出させるには小さなエネルギで十分であることは明らかである。
本実施の形態4においては、回転子外周面10に位置するウェッジ孔81の孔出口の全周にわたって、突起83aを設けている。それにより、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121が、回転子1のウェッジ孔81から噴出される回転子1内の冷却ガス流れ11と衝突する前に、突起83aと衝突する。その結果、回転子1内の冷却ガス流れ11がウェッジ孔81を通過してエアギャップ120へ排出される際の通風抵抗を抑制できる。
また、図21から分かるように、突起83aの高さはエアギャップ120の幅に比べて十分に小さいため、突起83aを通過するために伴う通風抵抗は小さい。そのため、ウェッジ孔81から噴出した回転子1内の冷却ガス流れ11がウェッジ孔81の下流にある突起83aとの衝突に伴う通風抵抗の増加は微々たるものであり、全体として通風抵抗は低減される。
また、下流側に位置する突起83aを死水領域123内に納まるように設置した場合、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121が下流側の突起83aと衝突する際の通風抵抗は、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121が上流側の突起83aと衝突する際の通風抵抗に比べ小さくなるため、より高い冷却能力をもつ回転電機100の回転子1が得られる。
本発明の実施の形態4においても、実施の形態1,2と同様に、ウェッジ孔81の構造が指向性を持たないため、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121がどの方向から流れてきても一定の通風抵抗低減効果が期待できる。そのため、特許文献2の従来技術のように、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121を予測する必要がなく、より簡便に回転子1の冷却性能を向上することができる。
また、通電加熱を伴わないウェッジ8に対して加工を施すため、特許文献3に記載の技術のように銅損増大を招くこともない。
ところで、ファン140が脈動を起こした際には、回転電機100の各部における冷却ガス160の流量が変動することになる。当然のことながら、エアギャップ120の流量も変動する。このような場合、ウェッジ孔81が指向性をもつ構造であった場合、エアギャップ120の冷却ガス160の変動に合わせて、ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果も変動する。一方、本実施の形態4のように、指向性が無く、且つ、通風抵抗を低減できるような構造をウェッジ孔81に適用した場合、ファン140の脈動に関係なく、安定したウェッジ孔81の通風抵抗低減効果を期待できる。
また、ファン140に偏流が発生した際にも、エアギャップ120の冷却ガス160の流量分布に偏りが生じる可能性がある。このような場合、ウェッジ孔81が指向性をもつ構造であった場合、エアギャップ120の冷却ガス160の偏りに合わせて、ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果も変動する。一方、本実施の形態4のように、指向性が無く、且つ、通風抵抗を低減できるような構造をウェッジ孔81に適用した場合、ファン140の偏流に関係なく、安定したウェッジ孔81の通風抵抗低減効果を期待できる。
さらに、予め冷却ガス160の流量が不足する可能性があるラジアルパス9に連通されたウェッジ孔81に対してのみ、本実施の形態4の突起83aを適用すれば、適用されたラジアルパス9に供給される冷却ガス160の流量を増やすことができ、ホットスポットの発生を抑制し、回転子コイル5を均一に冷却することができる。
そして、個々のウェッジ孔81の孔径を調節する従来の技術と本実施の形態4の突起83aとを併せて回転電機100に適用することにより、回転子1の冷却能力を向上できるだけでなく従来よりも均一に冷却することが期待できる。
これにより、実施の形態4による回転子1のウェッジ8によれば、簡単な構造を用いて、回転子コイル5の銅損を増加させることなく、回転電機100の回転子1の通風抵抗を低減することができ、回転子1の冷却能力をより向上できる。
なお、本実施の形態4において、ウェッジ孔81の第2の内径の拡がり方によっても効果の程度が異なる。たとえば、第1の内径に対する第2の内径の比を、ウェッジ孔81の第2の内径の拡がりとして、第1の内径に対する第2の内径の比を、1.6倍以下程度とすると良い。
実施の形態5.
図24および図25を用いて、実施の形態5による回転子1を構成するウェッジ孔81について説明する。図24は、本発明の実施の形態5による回転子1のウェッジ8部分を示す部分断面図である。図25は、回転子鉄心2の径方向外側からみた本発明の実施の形態5の回転子1のウェッジ8を示す図である。図24に示すように、実施の形態5においては、回転子1の径方向外側に位置するウェッジ孔81の孔出口の全周にわたって、回転子外周面10よりも外側に向かって突出した傾斜面84aが施されている点が、実施の形態1〜4とは異なる。他の構成は実施の形態1〜4と同様である。
本実施の形態5においては、図24に示すように、回転子1の径方向外側に位置するウェッジ孔81の孔出口全周にわたって、傾斜面84aが施されている。実施の形態5においては、傾斜面84aの一部が回転子外周面10から突出することで、ウェッジ孔81が、突起から構成された突縁を有している点が、実施の形態2とは異なる。すなわち、本実施の形態4では、第2の内径を有する第2の部分としての孔径拡大部83の一部が、当該突縁によって構成されている。以下では、傾斜面84aで囲まれている部分を、孔径拡大部84と呼ぶこととする。
孔径拡大部84の製造方法としては、例えば、図8に示すような一般的なウェッジ8の厚みを予め設定された厚み分だけ厚くする。その場合、回転子外周面10から、回転子の径方向外側に向かって、当該厚み分だけ、ウェッジ8の先端が突出することになる。このとき、ウェッジ8の先端の内側面が一定の角度の傾斜面になるように形成することにより、傾斜面84aを形成することができる。また、外側面においても同様に形成することで、孔径拡大部84を形成することができる。
このように、本実施の形態5において、傾斜面84aで囲まれている孔径拡大部84を「ウェッジ孔81の第2の内径を有する第2の部分」とし、ウェッジ孔81の孔径拡大部84以外の他の部分を「ウェッジ孔81の第1の内径を有する第1の部分」としたとき、実施の形態1と同様に、ウェッジ孔81は、第1の内径を有する第1の部分と、第1の部分よりも回転子鉄心2の径方向外側に配置され、ウェッジ孔81の全周にわたって第1の内径よりも大きい第2の内径を有する第2の部分とを有している。
なお、ウェッジ8の先端の内側面の形状は、図24に示す傾斜面84aに限定されるものではなく、例えば、図26に示すように、曲面84bであってもよい。
また、孔径拡大部84の突起部分の外側面は、図24に示すように、回転子外周面10に対して直角である必要はなく、例えば、図27に示すように、傾斜面84cであってもよい。傾斜面84cは、図27に示されるように、傾斜面84aの頂点から回転子外周面10に向かって一定の角度で傾斜している。このとき、傾斜面84cが、傾斜面84aと反対側に向かって傾斜しているため、2つの傾斜面84a,84cから形成された部分は、図27に示すように、山状になっている。なお、図27は、図24の構成に対して傾斜面84cを設けた例を示しているが、図28は、図26の構成に対して、傾斜面84cを設けた例を示す。図28に示すように、曲面84bから形成された孔径拡大部84の外側面を傾斜面84cから構成するようにしてもよい。
また、孔径拡大部84の突起部分の外側面に、図29に示すように、溝86を設けるように構成してもよい。
なお、図24〜図28において、孔径拡大部84の内壁および外壁が、ウェッジ孔81の中心軸を軸として左右対称に図示されていることから分かるように、孔径拡大部84の内壁および外壁は、ウェッジ孔81の全周、すなわち、360°にわたって、ウェッジ孔81の中心軸を軸として軸対称な形状になるように構成されている。従って、本実施の形態5においても、ウェッジ孔81の構造は指向性を有さない。なお、ウェッジ8を回転子鉄心2の径方向外側からみると図25に示すような構成に見える。
図29においても、径拡大部84の内壁および外壁、そして溝86が、ウェッジ孔81の中心軸を軸として左右対称に図示されていることから分かるように、孔径拡大部84の内壁および外壁は、ウェッジ孔81の全周、すなわち、360°にわたって、ウェッジ孔81の中心軸を軸として軸対称な形状になるように構成されている。従って、本実施の形態5においても、ウェッジ孔81の構造は指向性を有さない。
図30は、回転子1の径方向外側に位置するウェッジ孔81の孔出口の全周にわたって、回転子外周面10から突出した孔径拡大部84が施されている場合において、回転子1の回転座標系からみた流速分布図である。上記の通り、実際のエアギャップ120内の冷却ガス流れ121は、軸方向流れと周方向流れとが合成されたものである。図30では、簡単のため、周方向流れの流速分布のみを用いて説明する。各ウェッジ孔81の孔出口全周にわたって突出した孔径拡大部84を設けることにより、実施の形態4の場合と同様に、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121は、以下のようになる。すなわち、冷却ガス流れ121は、ウェッジ孔81から噴出される回転子内の冷却ガス流れ11と衝突する前に、突出した孔径拡大部84の外側面に衝突する。それにより、ウェッジ孔81の周囲には死水領域123が形成される。死水領域123の形成に伴う静圧低下により、回転子1内の冷却ガス流れ11がウェッジ孔81を通過する際の通風抵抗は低下する。また、ウェッジ孔81内側には傾斜面84aまたは曲面84bが施されているため、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121との衝突角を緩和でき、よりいっそう高い通風抵抗低減効果が期待できる。
本実施の形態5に係るウェッジ孔81の構造は、指向性を持たないため、エアギャップ120内の冷却ガス流れ121がどの方向からきても一定の通風抵抗低減効果が期待できる。そのため、特許文献2の従来技術のようにエアギャップ120内の冷却ガス流れ121を予測する必要がなく、より簡便に回転子1の冷却性能を向上することができる。
また、通電加熱を伴わないウェッジ8に対して加工を施すため、特許文献3に記載の技術のように銅損増大を招くこともない。
ところで、ファン140が脈動を起こした際には、回転電機100の各部における冷却ガス160の流量が変動することになる。当然のことながら、エアギャップ120の流量も変動する。このような場合、ウェッジ孔81が指向性をもつ構造であった場合、エアギャップ120の冷却ガス160の変動に合わせて、ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果も変動する。一方、本実施の形態5のように、指向性が無く、且つ、通風抵抗を低減できるような構造をウェッジ孔81に適用した場合、ファン140の脈動に関係なく、安定したウェッジ孔81の通風抵抗低減効果を期待できる。
また、ファン140に偏流が発生した際にも、エアギャップ120の冷却ガス160の流量分布に偏りが生じる可能性がある。このような場合、ウェッジ孔81が指向性をもつ構造であった場合、エアギャップ120の冷却ガス160の偏りに合わせて、ウェッジ孔81の通風抵抗低減効果も変動する。一方、本実施の形態5のように、指向性が無く、且つ、通風抵抗を低減できるような構造をウェッジ孔81に適用した場合、ファン140の偏流に関係なく、安定したウェッジ孔81の通風抵抗低減効果を期待できる。
さらに、予め冷却ガス160の流量が不足する可能性があるラジアルパス9に連通されたウェッジ孔81に対してのみ、本実施の形態5の孔径拡大部84を適用すれば、適用されたラジアルパス9に供給される冷却ガス160の流量を増やすことができ、ホットスポットの発生を抑制し、回転子コイル5を均一に冷却することができる。
そして、個々のウェッジ孔81の孔径を調節する従来の技術と本発明の実施の形態5を併せて回転電機100に適用することにより、回転子1の冷却能力を向上できるだけでなく従来よりも均一に冷却することが期待できる。
これにより、実施の形態5による回転子1のウェッジ8によれば、簡単な構造を用いて、回転子コイル5の銅損を増加させることなく、回転電機100の回転子1の通風抵抗を低減することができ、回転子1の冷却能力をより向上できる。
なお、本実施の形態5においても、実施の形態4と同様に、ウェッジ孔81の第2の内径の拡がり方によっても効果の程度が異なる。たとえば、第1の内径に対する第2の内径の比を、ウェッジ孔81の第2の内径の拡がりとして、第1の内径に対する第2の内径の比を、1.6倍以下程度とすると良い。
上記の実施の形態1〜5は、本発明のいくつかの実施形態を示すものであり、本発明は、それに限定されるものではない。本発明は、その発明の範囲内において、適宜、変形、省略することが可能である。また、本発明は、冷却ガス160の種類に依存するものではない。
本発明に係る回転子は、軸方向に延びた複数のコイルスロットが外周面に設けられた円筒状の回転子鉄心と、前記コイルスロット内に配置された回転子コイルと、前記コイルスロットの開口部に設けられ、前記回転子コイルを前記コイルスロット内に固定させるとともに、前記回転子鉄心の径方向に延びて前記コイルスロットの内部から外部に向かって冷却ガスを流通させる1以上のウェッジ孔を有する、ウェッジとを備え、前記ウェッジ孔のうちの少なくとも1つは、第1の内径を有する第1の部分と、前記第1の部分よりも前記回転子鉄心の径方向外側に配置され、ウェッジ孔全周にわたって前記第1の内径よりも大きい第2の内径を有する第2の部分とを有し、前記ウェッジ孔のうちの前記少なくとも1つは、前記回転子鉄心の前記外周面から突出した突縁を有し、前記第2の部分の全部または一部は、前記突縁によって構成される。