実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
まず、シミュレーションの対象となる空気入りタイヤ(以下「タイヤ」)及びリムの構造について説明する。まずタイヤについて説明する。タイヤのタイヤ幅方向両側には、金属(例えば鋼)製のビードワイヤが環状に複数周巻かれて形成されたビードコアが設けられている。ビードコアの外径側にはビードフィラーが設けられている。
また、カーカスプライが、タイヤ幅方向内側から外側に折り返されてビードコア及びビードフィラーを包むと共に、空気入りタイヤの骨格を形成している。カーカスプライのタイヤ径方向外側にはベルトが設けられ、ベルトのタイヤ径方向外側に接地面を有するトレッドゴムが設けられている。またカーカスプライのタイヤ幅方向両側においては、リムストリップ及びサイドウォールゴムが設けられている。リムストリップは、ビードコア及びビードフィラーのタイヤ幅方向外側の場所に設けられている。サイドウォールゴムは、トレッドゴムとリムストリップとの間の場所に設けられている。カーカスプライの内側にはインナーライナーが設けられている。
なお、タイヤにおけるビードコア及びその近傍部分(タイヤの径方向内側の端部を含む部分)のことをビード部と言う。また、ビード部の内径面のことをビード底面と言う。
次にリムについて説明する。リムには、タイヤがリムに嵌合したときにタイヤのビード底面が接触する面であるビードシートが設けられている。ビードシートの一方側(タイヤ幅方向外側)には、ビードシートの径方向外側へ広がるフランジが設けられている。また、ビードシートの他方側(タイヤ幅方向内側)には、ビードシートの径方向外側へ突出した断面円弧状のハンプが設けられている。このリムとディスクとが一体となってホイールとなっている。
次に、実施形態のシミュレーションに使用するシミュレーション装置10の一例について説明する。図1に示すように、実施形態のシミュレーション装置10は、入力部12、2次元モデル作成部14、インフレート解析部16、3次元モデル作成部18、傾斜路面設定部20、接触定義設定部22、摩擦係数設定部24、リム外れ解析部26及び出力部28を有している。
このシミュレーション装置10は、汎用のコンピュータを基本ハードウェアとして用いることにより実現することができる。すなわち、上記の入力部12、2次元モデル作成部14、インフレート解析部16、3次元モデル作成部18、傾斜路面設定部20、接触定義設定部22、摩擦係数設定部24、リム外れ解析部26及び出力部28は、上記のコンピュータに搭載されたプロセッサにプログラムを実行させることにより実現することができる。上記のプログラムは、上記のコンピュータの記憶装置に記憶されていても良いし、上記のコンピュータとは別の装置(例えばデータベースサーバ)に記憶され上記のコンピュータが通信によりアクセスできるようになっていても良い。
以下の[1]~[9]でシミュレーション装置10の各部について説明する。このシミュレーション装置10によるシミュレーションは有限要素法を用いて行われるものとする。
[1]入力部12
入力部12は、シミュレーションの対象となるタイヤ及びリムのデータを取得する。タイヤのデータとしては、タイヤ全体の形状及び寸法、並びにタイヤを構成する各部材(例えばビードコア、ビードフィラー、カーカスプライ、ベルト、トレッドゴム、サイドウォールゴム、リムストリップ、インナーライナー等)の形状、配置及び材料物性値等が挙げられる。また、リムのデータとしては、リムの形状及び各部の寸法(具体的にはリム径やリム幅等)等が挙げられる。これらの入力は、キーボード、CD-ROM等の記録媒体又はネットワークを介して行われる。
[2]2次元モデル作成部14
2次元モデル作成部14は、入力部12で取得されたデータに基づき、タイヤ断面モデル30とリム断面モデル40とからなる2次元のリム付タイヤモデルを作成する。
まず、2次元モデル作成部14は、タイヤの幅方向断面を再現したタイヤ断面モデル30を作成する。タイヤ断面モデル30は2次元モデルである。図2に示すように、タイヤ断面モデル30は、タイヤ断面を有限個の要素に分割した有限要素モデルである。
図2に示すように、タイヤ断面モデル30には、タイヤのビードコア、ビードフィラー、カーカスプライ、ベルト、トレッドゴム、サイドウォールゴム、リムストリップ、インナーライナー等をそれぞれ再現するビードコア部31、ビードフィラー部32、カーカスプライ部33、ベルト部34、トレッドゴム部35、サイドウォールゴム部36、リムストリップ部37、インナーライナー部38等が設けられている。これらの部分を有するタイヤ断面モデル30の各要素には、要素番号、節点番号、節点座標、材料物性値(例えば密度、ヤング率、ポアソン比等)等が設定される。
また、トレッドゴム部35には、トレッドゴムに形成されている溝を再現する溝部39が形成されている。本実施形態における溝部39は、タイヤのトレッドゴムに形成されている複数の溝のうち一番深い溝であり、かつ、タイヤ周方向に延びる溝である主溝を再現している。
有限要素モデルの要素長は5mm以下が好ましい。ただし、本実施形態ではタイヤのビード部がリムから外れる現象を再現しようとしており、タイヤ断面モデル30におけるビード部の移動に着目している。そこで、ビードコア部31とその周辺部(例えば、ビードコア部31のタイヤ径方向外側端部よりもタイヤ径方向内側の部分で、リムストリップ部37やカーカスプライ部33の一部を含む部分)については、要素長を他の部分より小さく例えば2~4mmとすることが好ましい。ビードコア部31を含む部分の要素長を他の部分より小さくすることにより、タイヤのビード部の動きを精密に再現できる。
また、2次元モデル作成部14は、リムの幅方向断面を再現したリム断面モデル40を作成する。リム断面モデル40は2次元モデルである。リム断面モデル40は、リムを有限個の要素に分割した有限要素モデルである。図2に示すように、リム断面モデル40には、リムのビードシート、フランジ及びハンプをそれぞれ再現するビードシート部41、フランジ部42及びハンプ部43が設けられている。これらの部分を有するリム断面モデル40の各要素には、要素番号、節点番号、節点座標、材料物性値(例えば密度、ヤング率、ポアソン比等)等が設定されている。なお、リム断面モデル40は、変形体としてモデル化しても良いが、剛体としてモデル化しても良い。
なお、本実施形態ではホイールのうち左右のリムのみをモデル化すれば十分だが、ディスク部を含むホイール全体をモデル化しても良い。
さらに、2次元モデル作成部14は、タイヤ断面モデル30のビード部(ビードコア部31の近傍部分)をリム断面モデル40のビードシート部41に嵌合させる。嵌合の具体的方法としては既知の様々な方法が適用できる。例えば、まずタイヤ断面モデル30のビード部をタイヤ幅方向内側に変形させてリム断面モデル40の幅方向両側のハンプ部43の間に配置し、次にタイヤ断面モデル30のビード部を元の形状に復元させることによりビードシート部41に嵌合させる。
タイヤ断面モデル30がリム断面モデル40に嵌合した状態において、ビード底面52がビードシート部41に接触し、ビード部外面53の少なくとも一部がフランジ部42に接触する。また、ビードトウ50(ビード部におけるタイヤ幅方向内側の端部かつタイヤ径方向内側の端部)よりもタイヤ幅方向内側に、ハンプ部43が存在する。
また、2次元モデル作成部14は、タイヤ断面モデル30がリム断面モデル40に食い込まないように、タイヤ断面モデル30とリム断面モデル40との接触定義をする。接触定義の具体的方法は限定されず、例えば後述するラグランジュの未定乗数法又はペナルティ法が適用される。
タイヤ断面モデル30において接触定義をする範囲は、ビード底面52とビード部外面53である。ビード底面52はビード部のタイヤ径方向内側の面で、その一端がビードトウ50である。また、ビード部外面53は、ビード底面52から、リムストリップ部37とサイドウォールゴム部36とのタイヤ外面上の境界54まで、タイヤ断面モデル30の外面に沿ってタイヤ径方向外側へ延びる面である。従って、タイヤ断面モデル30において、ビードトウ50から、リムストリップ部37とサイドウォールゴム部36とのタイヤ外面上の境界54までの範囲に、接触定義をすることになる。
また、リム断面モデル40において接触定義をする範囲は、ビードシート部41及びフランジ部42における、タイヤ断面モデル30と接触する方の面である。
さらに、2次元モデル作成部14は、タイヤ断面モデル30とリム断面モデル40との間の摩擦係数を設定する。摩擦係数が設定される部分は、ビード底面52とビードシート部41との接触部及びビード部外面53とフランジ部42との接触部である。設定される摩擦係数は、例えば0.1~1.5の間のいずれかの値であるが、好ましいのは0.7~1.0の間のいずれかの値である。いずれの値とするかは、過去の実験結果や、計算の通りやすさ等を考慮して決定すれば良い。
なお、シミュレーション対象のタイヤのものと同じゴムで作製したゴムサンプルと、シミュレーション対象のリムのものと同じ金属で作製した金属サンプルとを用いて、摩擦係数を求める実験を予め行っておいても良い。そして求まった摩擦係数をタイヤ断面モデル30とリム断面モデル40との間の摩擦係数として設定しても良い。
[3]インフレート解析部16
インフレート解析部16は、2次元モデル作成部14が作成した2次元のリム付タイヤモデルのインフレート解析を実行する。具体的には、インフレート解析部16は、2次元のリム付タイヤモデルにおけるタイヤ断面モデル30のインナーライナー部38に内圧を付与しながら、タイヤ断面モデル30の変形を計算する。このとき付与される内圧の大きさは適宜設定される。
[4]3次元モデル作成部18
3次元モデル作成部18は、2次元のリム付タイヤモデルを、タイヤ回転軸を中心としてタイヤ周方向に複写展開することにより、3次元のリム付タイヤモデル66を作成する。これにより、2次元のリム付タイヤモデルの各節点が、タイヤ周方向に小角度刻みで複写展開され、3次元の有限要素モデルが完成する。図3及び図4に示すように、3次元のリム付タイヤモデル66は、3次元のタイヤモデル60と、3次元のリムモデル62とからなる。3次元のタイヤモデル60の要素数は例えば100000~200000要素である。
以下の説明において、3次元のタイヤモデル60及び3次元のリムモデル62における各部の名称及び符号として、2次元のタイヤ断面モデル30及び2次元のリム断面モデル40における各部の名称及び符号をそのまま使用する。
[5]傾斜路面設定部20
傾斜路面設定部20は、図5に示すようにタイヤモデル60の幅方向(図5の左右方向)に対して傾斜した傾斜路面モデル64を設定する。傾斜路面モデル64は例えば剛体平面として設定される。タイヤモデル60の幅方向に対する傾斜路面モデル64の傾斜角(図5のθ)は、1~20°であることが好ましい。傾斜角が20°以下であると計算が収束しやすい。
傾斜路面設定部20は、傾斜路面モデル64をタイヤモデル60の幅方向の一方側の場所に配置する。この配置により、タイヤモデル60又は傾斜路面モデル64をタイヤモデル60の幅方向(ただしタイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接近する方向)に移動させたときに、タイヤモデル60が傾斜路面モデル64に当たることとなる。
さらに、傾斜路面設定部20は、タイヤモデル60が傾斜路面モデル64に当たることができるように、タイヤモデル60と傾斜路面モデル64との接触定義を行う。ここでの接触定義の具体的方法は限定されず、例えば後述するラグランジュの未定乗数法又はペナルティ法が適用される。また、傾斜路面設定部20は、タイヤモデル60と傾斜路面モデル64との摩擦係数を設定する。摩擦係数の値は実験結果等に基づき適宜決定する。
[6]接触定義設定部22
接触定義設定部22は複数の接触定義を行う。まず、接触定義設定部22は、タイヤモデル60の内面(すなわち内圧が付与される面、インナーライナー部38の面)においてビードトウ50からタイヤ径方向外側へ延びるビード部内面51と、リムモデル62のハンプ部43との接触定義を行う。接触定義がされる場所であるビード部内面51の長さは、ハンプ部43の円弧の長さの1.0~1.2倍が好ましい。ビード部内面51の長さとは、ビードトウ50からタイヤ径方向外側へ向かう、タイヤモデル60の内面に沿った長さのことである。また、ハンプ部43の円弧の長さとは、リム断面モデル40上でのハンプ部43の形状に沿った長さのことである。
ビード部内面51とハンプ部43との接触定義を行うのは、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れるときに、図6に示すようにタイヤモデル60のビード部内面51がリムモデル62のハンプ部43と接触しビード部がハンプ部43を乗り越えるようにする必要があり、ビード部内面51がハンプ部43を貫通してしまうことを防ぐ必要があるからである。
また、接触定義設定部22は、トレッドゴム部35の溝部39の内壁同士の接触定義を行う。接触定義がされる範囲は、溝部39の左右の側壁39a(図2及び図7(a)参照)だけでも良いし、溝部39の左右の側壁39a及び底面39b(図2及び図7(a)参照)でも良い。この接触定義を行うのは、タイヤモデル60が図7(b)に示すように大きく変形したときに、溝部39の内壁同士を接触させ、溝部39の一方の内壁が他方の内壁を貫通してしまうことを防ぐ必要があるからである。
なお、溝部39の内壁同士の接触定義を行わずに、溝部39の一方の内壁が他方の内壁を貫通してしまうことを防ぐ方法もある。具体的には、溝部39の内壁に沿って仮想要素を追加する。そして、この仮想要素に、ヤング率がタイヤの材料の1/1000~1/10000、ポアソン比が0の物性値を設定する。溝部39にこの仮想要素が存在すれば、溝部39の内壁同士が接触しようとしても仮想要素が圧縮されるだけで、溝部39の内壁同士が接触することはなく、溝部39の一方の内壁が他方の内壁を貫通してしまうこともない。
また、接触定義設定部22は、タイヤモデル60の内面(インナーライナー部38の面)同士の接触定義を行う。接触定義がされる範囲は、例えば、タイヤモデル60の内面全体である。この接触定義を行うのは、図8に示すようにタイヤモデル60が大きく変形したときに、タイヤモデル60の内面同士を接触させ、タイヤモデル60の内面の一部がタイヤモデル60の内面の他の一部を貫通してしまうことを防ぐ必要があるからである。
接触定義設定部22が行う上記のそれぞれの接触定義の方法としては、ラグランジュの未定乗数法又はペナルティ法が好ましい。ラグランジュの未定乗数法は端的に言えば接触面に接触表面力を追加する方法である。また、ペナルティ法は端的に言えばバネを接触面間に張って釣り合いを取る方法である。
[7]摩擦係数設定部24
摩擦係数設定部24は、接触定義設定部22が接触定義を行う各接触部、すなわちビード部内面51とハンプ部43との接触部、溝部39の内壁同士の接触部、タイヤモデル60の内面同士の接触部における摩擦係数を設定する。
摩擦係数設定部24による摩擦係数の設定方法は限定されない。例えば、圧力又は滑り速度を独立変数、摩擦係数を従属変数とする関数(具体的には、二次関数、高次関数、指数関数、対数関数等)を予めシミュレーション装置10に設定しておき、その関数に基づき、シミュレーション中に、圧力又は滑り速度の変化に応じて摩擦係数を変化させても良い。そのような関数は、実験等に基づき予め決定しておくことができる。また、そのような関数の代替として、圧力又は滑り速度と、摩擦係数との関係を示すテーブルをシミュレーション装置10に設定しておいても良い。
また、圧力を独立変数、摩擦係数を従属変数とする関数が予めわかっている場合は、別の方法で摩擦係数を設定することもできる。例えば、まず各接触部における摩擦係数をそれぞれ適当な値としたうえで後述する図10の方法で予備的なシミュレーションを行い、各接触部に生じる平均接触圧又は最大接触圧を求める。そして、予めわかっている上記の関数と、予備的なシミュレーションで求まった平均接触圧又は最大接触圧とから、各接触部における摩擦係数を設定する。
[8]リム外れ解析部26
有限要素法には陽解法と陰解法があるが、リム外れ解析部26は陽解法にてシミュレーションを実行する。
リム外れ解析部26は、シミュレーションを実行する前に、ビードコア部31のヤング率として2種類のヤング率を設定する。1つは、実際のタイヤのビードコアの材料のヤング率又はそれに近いヤング率(これらをまとめて「実際のヤング率」とする)である。ちなみに実際のタイヤのビードコアの材料のヤング率は、例えば180~220GPaであり、タイヤを構成する材料の中でも特に大きい。もう1つは、実際のヤング率より値の小さいヤング率(「初期ヤング率」とする)である。初期ヤング率の値は、例えば、実際のヤング率の値の1/100以下である。リム外れ解析部26は、シミュレーション開始時には、ビードコア部31のヤング率を初期ヤング率としておく。
2種類のヤング率を設定した後、リム外れ解析部26は、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方を、タイヤモデル60の幅方向、かつ、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64とを押しつける方向に移動させる。リム外れ解析部26は、この移動のために、移動させるモデルに移動速度を設定する。移動速度は例えば150~250mm/秒である。リム外れ解析部26は、モデルを移動させている間、タイヤモデル60を非転動状態に維持し続ける。
この移動により、まず図9に示すようにタイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接触する。リム外れ解析部26は、タイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接触した後も、さらにモデルを同じ方向へ移動させ続ける。タイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接触した後は、タイヤモデル60とリムモデル62との間に力が発生する。
タイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接触した後もモデルを移動させ続けていると、タイヤモデル60が徐々に変形していく。具体的には、まずはトレッドゴム部35が変形し、次にサイドウォールゴム部36が変形し始め、次にサイドウォールゴム部36の表面上にあるタイヤ最大幅位置が変位し始め、次にリムストリップ部37とサイドウォールゴム部36とのタイヤ外面上の境界54(図2参照)が変位し始める。タイヤモデル60の変形がさらに進行すると、ある時点でタイヤモデル60のビードコア部31が変位し始める。そしてその後のある時点でタイヤモデル60のビード部がリムモデル62のハンプ部43を乗り越えてタイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れる。リム外れ解析部26は、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れたことを検知した場合、モデルの移動を終了する。
なお、タイヤモデル60と傾斜路面モデル64とが接触した後さらにモデルを移動させ続けても、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れない場合もある。その場合、すなわち、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れることなく、タイヤモデル60のビード部とリムモデル62との間に発生する力が大きくなっていき、その力が所定値を超えたことをリム外れ解析部26が検知した場合、リム外れ解析部26は、タイヤモデル60がリムモデル62から外れることを待たずにモデルの移動を終了する。
リム外れ解析部26は、このようにリム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方を移動させている間、タイヤモデル60とリムモデル62との間に発生する力を監視する。監視する力は例えば接触圧力又はせん断応力である。
力を監視する範囲は、リム付タイヤモデル66の幅方向断面上では、タイヤモデル60とリムモデル62との接触定義がされている範囲である。すなわち、監視する範囲は、タイヤモデル60についてはビード部内面51、ビード底面52及びビード部外面53で、リムモデル62についてはビードシート部41、フランジ部42及びハンプ部43である。タイヤモデル60及びリムモデル62のうち一方の上記範囲のみを監視しても良いし、タイヤモデル60及びリムモデル62の両方の上記範囲を監視しても良い。
ただし、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れるとき、タイヤモデル60のビードトウ50とリムモデル62のハンプ部43とが最後まで接触していると想定される。そこで、監視する範囲を、ビードトウ50及びハンプ部43のいずれか一方又は両方としても良い。
また、監視する範囲は、リム付タイヤモデル66の周方向に関しては、リム付タイヤモデル66の周方向全体でも良い。ただし、タイヤモデル60のビード部がリムモデル62から外れ始めるとき、リム付タイヤモデル66の周方向の最下部(すなわち、傾斜路面モデル64との接触部に一番近い部分)において外れ始めると想定される。そこで、監視する範囲を、リム付タイヤモデル66の周方向の最下部(すなわち、傾斜路面モデル64との接触部に一番近い部分)のみとしても良い。
このようにタイヤモデル60とリムモデル62との間に発生する力を監視し、監視している力がなくなった時点(例えば0になった時点)を、タイヤモデル60がリムモデル62から外れた時点として検知する。
また、リム外れ解析部26は、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方を移動させている途中で、ビードコア部31のヤング率を、値の小さい初期ヤング率から、実際のヤング率へ変更する。具体的には、リム外れ解析部26は、モデルの移動を開始する時、ビードコア部31のヤング率を初期ヤング率に設定しておく。そして、リム外れ解析部26は、所定の基準時より前でのビードコア部31のヤング率を初期ヤング率のまま維持し、その基準時より後でのビードコア部31のヤング率を実際のヤング率とする。なお基準時におけるヤング率は、初期ヤング率でも実際のヤング率でも良い。
ここで基準時とは、タイヤモデル60の変形がある程度進んでビードコア部31が変位し始めた時、又は、ビードコア部31が変位し始める前の所定時である。ビードコア部31が変位し始める前の所定時とは、例えば、サイドウォールゴム部36の表面上にあるタイヤ最大幅位置が変位し始めた時、又は、リムストリップ部37とサイドウォールゴム部36とのタイヤ外面上の境界54(図2参照)が変位し始めた時である。ここで、ビードコア部31、タイヤ最大幅位置及び境界54が変位し始めた時とは、それらの部分や位置等の節点が変位し始めた時のことである。
このように基準時の前後でヤング率を変更する理由について説明する。まず陽解法におけるクーラン条件について説明する。
短い時間で起こる動的な現象を陽解法を用いてシミュレーションするとき、シミュレーション全体の時間を細かく分割して各時刻における状態を順次計算していく。このようなシミュレーションでは、モデルに入力された力がモデルの中を波(応力波)として伝わる様子を計算することになるが、上記のように分割した単位時間(時間増分Δt)当たりに波が進む距離が要素を飛び越えてしまうと波が伝わる様子を正しく計算することができない。
そこで必要になるのが、次の式(I)で表されるクーラン条件である。
ここでΔtCRは臨界時間増分である。式(I)からわかるように、クーラン条件は、時間増分Δtが臨界時間増分ΔtCRを超えないように制限するものである。
臨界時間増分ΔtCRは、有限要素モデルの要素の最小エッジ長さLmin及び応力波の伝播速度Cを用いて次の式(II)で表される。
また応力波の伝播速度Cは材料のヤング率E及び密度ρを用いて次の式(III)で表される。
式(I)~(III)から、要素の最小エッジ長さLminが短い場合や、ヤング率Eが大きい場合は、臨界時間増分ΔtCRが小さくなることがわかる。そして臨界時間増分ΔtCRが小さいと時間増分Δtを小さくしなければならないためシミュレーションに要する時間が長くなる。
従って、本実施形態におけるビードコア部31のヤング率を、値の大きな実際のヤング率とした場合、シミュレーションに要する時間が長くなる。ここで、ビードコア部31が変位している間は、正確なシミュレーションを行うためにビードコア部31のヤング率を実際のヤング率としておく必要がある。しかし、ビードコア部31が変位し始める前は、ビードコア部31のヤング率を実際のヤング率としても、シミュレーションに要する時間が長くなるだけで、シミュレーションの正確さには影響しない。
そこで、上記の基準時より前の段階では、ビードコア部31のヤング率を、値の小さい初期ヤング率としておき、それによってビードコア部31が変位し始めるまでのシミュレーションを短時間でできるようにする。そして、上記の基準時より後の段階では、ビードコア部31のヤング率を、値の大きい実際のヤング率とし、それによって正確なシミュレーションを実行できるようにするのである。
[9]出力部28
出力部28は、リム外れ解析部26によるシミュレーションの結果として、少なくともタイヤモデル60がリムモデル62から外れたか否かを出力する。また、出力部28は、リム外れ解析部26がモデルを移動させている時又はタイヤモデル60がリムモデル62から外れた時の、各節点の物理量(例えば変位や応力)を出力しても良い。また、出力部28は、リム外れ解析部26によるシミュレーションの途中経過を逐一出力しても良い。出力の方法としては、表示装置への表示や記憶装置への保存等が挙げられる。
以上の構成のシミュレーション装置10によるシミュレーション方法を図10に基づき説明する。
まず、ステップS1において、入力部12が、シミュレーションの対象となるタイヤ及びリムのデータを取得する。
次に、ステップS2において、2次元モデル作成部14が、入力部12で取得されたデータに基づき、タイヤ断面モデル30及びリム断面モデル40を作成する。そして、2次元モデル作成部14が、タイヤ断面モデル30をリム断面モデル40に嵌合させ、2次元のリム付タイヤモデルを作成する。また、2次元モデル作成部14は、タイヤ断面モデル30におけるビード底面52からビード部外面53にかけての部分と、リム断面モデル40におけるビードシート部41からフランジ部42にかけての部分との接触定義を行い、接触定義した部分の摩擦係数の設定も行う。なお、タイヤ断面モデル30をリム断面モデル40に嵌合させるシミュレーションは陰解法によって行われるため、このときのビードコア部31のヤング率として実際のヤング率が使用される。
次に、ステップS3において、インフレート解析部16が、2次元のリム付タイヤモデルのインフレート解析を実行する。このときインフレート解析部16がタイヤ断面モデル30に所定の内圧を付与する。インフレート解析は陰解法によって行われるため、このときのビードコア部31のヤング率として実際のヤング率が使用される。
次に、ステップS4において、3次元モデル作成部18が、2次元のリム付タイヤモデルをタイヤ周方向に複写展開して、3次元のタイヤモデル60と3次元のリムモデル62とからなる3次元のリム付タイヤモデル66を作成する。
次に、ステップS5において、傾斜路面設定部20が、タイヤモデル60の幅方向に対して傾斜した傾斜路面モデル64を、タイヤモデル60の幅方向の一方側の場所に配置する。ここで、傾斜路面設定部20は、タイヤモデル60と傾斜路面モデル64との接触定義及びタイヤモデル60と傾斜路面モデル64との間の摩擦係数の設定も行う。
次に、ステップS6において、接触定義設定部22が複数の接触定義を行う。ここで行われる接触定義は、タイヤモデル60のビード部内面51とリムモデル62のハンプ部43との接触定義、タイヤモデル60のトレッドゴム部35の溝部39の内壁同士の接触定義、及びタイヤモデル60の内面同士の接触定義である。
次に、ステップS7において、摩擦係数設定部24が、ビード部内面51とハンプ部43との接触部、溝部39の内壁同士の接触部、及びタイヤモデル60の内面同士の接触部のそれぞれにおける摩擦係数を設定する。
次に、ステップS8において、リム外れ解析部26が陽解法にてシミュレーションを行う。具体的には、リム外れ解析部26が、タイヤモデル60を非転動状態に維持しながら、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64とを接触させ、リム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64との少なくとも一方を、タイヤモデル60の幅方向かつリム付タイヤモデル66と傾斜路面モデル64とを押し付ける方向に移動させる。そして、リム外れ解析部26は、タイヤモデル60とリムモデル62との間に発生する力を監視し、その力がなくなった時点をタイヤモデル60がリムモデル62から外れた時点として検知する。また、リム外れ解析部26は、タイヤモデル60がリムモデル62から外れることなくタイヤモデル60とリムモデル62との間に発生する力が大きくなっていき所定値を超えたことを検知すると、タイヤモデル60がリムモデル62から外れることを待たずにモデルの移動を終了する。
このステップS8において、リム外れ解析部26は、初めはビードコア部31のヤング率を値の小さい初期ヤング率に設定しておく。そして、上記の基準時(ビードコア部31が変位し始めた時又はビードコア部31が変位し始める前の所定時)より前ではビードコア部31のヤング率を初期ヤング率のまま維持し、上記の基準時より後ではビードコア部31のヤング率を実際のヤング率とする。
次に、ステップS9において、出力部28が、リム外れ解析部26によるシミュレーション結果を出力する。
以上のステップS1~S9を実行し、タイヤモデル60がリムモデル62から外れなかったことがステップS9において判明した場合、ステップS3においてタイヤ断面モデル30に付与する内圧を下げたうえで再度ステップS4~S9を実行しても良い。タイヤモデル60がリムモデル62から外れるまで内圧を下げながらステップS3~S9を繰り返すことにより、タイヤモデル60がリムモデル62から外れる内圧が判明する。このようにステップS3~S9を繰り返すことは、上記のリム外れ性能試験を再現していることになる。
なお、ステップS1~S9の順番は適宜入れ替えても良い。例えば上記のステップS3とステップS4を入れ替えて、3次元のリム付タイヤモデル66を作成した後にインフレート解析を実行しても良い。
以上の実施形態の効果について説明する。上記のように本実施形態では、金属製のビードコアを備えるタイヤを再現した有限要素モデルを準備するステップと、有限要素モデルにヤング率を含む材料物性値を設定するステップと、有限要素モデルのビードコア部31の変位を伴うシミュレーションを陽解法にて行うステップとを含むタイヤのシミュレーションを実行する。このシミュレーションにおいて、ビードコア部31が変位し始めた時又はビードコア部31が変位し始める前の所定時を基準時とし、基準時より前でのビードコア部31のヤング率を、基準時より後でのビードコア部31のヤング率より小さくしておく。
このように基準時より前のビードコア部31のヤング率を実際のヤング率より小さくしておくことにより、ビードコア部31が変位し始める前のシミュレーションを短時間で行うことができる。そのため、本実施形態によれば、陽解法を用いたタイヤのシミュレーションを短時間で行うことができる。
また、本実施形態のシミュレーションはタイヤがリムから外れる現象を再現するシミュレーションであり、タイヤモデル60のビードコア部31の変位に着目するシミュレーションであるため、ビードコア部31の要素長を短くすることが好ましい。ビードコア部31の要素長を短くした場合はシミュレーションに要する時間が長くなるが、本実施形態では基準時より前のビードコア部31のヤング率を実際のヤング率より小さくするため、シミュレーションに要する時間が長くなり過ぎないようにすることができる。
ここで、基準時より前でのビードコア部31のヤング率(初期ヤング率)を、基準時より後でのビードコア部31のヤング率(実際のヤング率)の1/100以下にすることにより、シミュレーションに要する時間を効果的に短くできる。
以上の実施形態に対して様々な変更を行うことができる。例えば、以上の実施形態はタイヤがリムから外れるシミュレーションの実施形態であったが、本発明はビードコアの変位を伴う様々な現象のシミュレーションに適用することができる。それにより陽解法を用いたタイヤのシミュレーションを短時間で行うことができる。
また、境界要素法や有限差分法等の他の解析手法を用いて上記実施形態と同様のシミュレーションを行うこともできる。
また、タイヤ断面モデル30及びリム断面モデル40の少なくともいずれか一方、2次元のリム付タイヤモデル、又は3次元のリム付タイヤモデル66が予め作成されており、その予め作成されたモデルを入力部12が取得してシミュレーションに使用しても良い。