以下、空気入りタイヤにおける一実施形態について、図1~図8を参照しながら説明する。なお、各図(図9及び図10も同様)において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
各図において、第1の方向D1は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)1の回転中心であるタイヤ回転軸と平行であるタイヤ幅方向D1であり、第2の方向D2は、タイヤ1の直径方向であるタイヤ径方向D2であり、第3の方向D3は、タイヤ回転軸周りのタイヤ周方向D3である。
なお、タイヤ幅方向D1において、内側は、タイヤ赤道面S1に近い側となり、外側は、タイヤ赤道面S1から遠い側となる。また、タイヤ径方向D2において、内側は、タイヤ回転軸に近い側となり、外側は、タイヤ回転軸から遠い側となる。
タイヤ赤道面S1とは、タイヤ回転軸に直交する面で且つタイヤ1のタイヤ幅方向D1の中心に位置する面のことであり、タイヤ子午面とは、タイヤ回転軸を含む面で且つタイヤ赤道面S1と直交する面のことである。また、タイヤ赤道線とは、タイヤ1のタイヤ径方向D2の外表面(後述する、トレッド面2a)とタイヤ赤道面S1とが交差する線のことである。
図1に示すように、本実施形態に係るタイヤ1は、ビードを有する一対のビード部11と、各ビード部11からタイヤ径方向D2の外側に延びるサイドウォール部12と、一対のサイドウォール部12のタイヤ径方向D2の外端部に連接され、タイヤ径方向D2の外表面が路面に接地するトレッド部2とを備えている。本実施形態においては、タイヤ1は、内部に空気が入れられる空気入りタイヤ1であって、リム20に装着される。
また、タイヤ1は、一対のビードの間に架け渡されるカーカス層13と、カーカス層13の内側に配置され、空気圧を保持するために、気体の透過を阻止する機能に優れるインナーライナー層14とを備えている。カーカス層13及びインナーライナー層14は、ビード部11、サイドウォール部12、及びトレッド部2に亘って、タイヤ内周に沿って配置されている。
タイヤ1は、タイヤ赤道面S1に対して非対称となる構造である。本実施形態においては、タイヤ1は、車両への装着向きを指定されたタイヤであり、リム20に装着する際に、タイヤ1の左右何れを車両に対面するかを指定されたタイヤである。なお、トレッド部2のトレッド面2aに形成されるトレッドパターンは、タイヤ赤道面S1に対して非対称となる形状としている。
車両への装着の向きは、サイドウォール部12に表示されている。具体的には、サイドウォール部12は、タイヤ外表面を構成すべく、カーカス層13のタイヤ幅方向D1の外側に配置されるサイドウォールゴム12aを備え、該サイドウォールゴム12aの表面に、表示部を有している。
例えば、車両装着時に内側(各図における左側であって、以下、「車両内側」ともいう)D11に配置される一方のサイドウォール部12は、車両内側となる旨の表示(例えば、「INSIDE」等)を付されている。また、例えば、車両装着時に外側(各図における右側であって、以下、「車両外側」ともいう)D12に配置される他方のサイドウォール部12は、車両外側となる旨の表示(例えば、「OUTSIDE」等)を付されている。なお、車両内側D11は、タイヤ1が車両に装着された際に、車両中心に近い側となり、車両外側D12は、タイヤ1が車両に装着された際に、車両中心から遠い側となる。
トレッド部2は、路面に接地するトレッド面2aを有するトレッドゴム21と、トレッドゴム21とカーカス層13との間に配置されるベルト部22とを備えている。また、トレッド部2は、ベルト部22を補強するために、トレッドゴム21とベルト部22との間に配置されるベルト補強部23を備えている。
トレッド面2aは、実際に路面に接地する接地面を有しており、当該接地面のうち、タイヤ幅方向D1の外側端は、接地端2b,2cという。なお、接地端2b,2cのうち、車両内側D11の接地端2bは、車両内側接地端2bといい、車両外側D12の接地端2cは、車両外側接地端2cという。また、該接地面は、タイヤ1を正規リム20にリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤ1を平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの路面に接地するトレッド面2aを指す。
正規リム20は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ1ごとに定めるリム20であり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば「Design Rim」、ETRTOであれば「Measuring Rim」となる。
正規内圧は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ1ごとに定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATIONPRESSURE」であるが、タイヤ1が乗用車用である場合には180kPaとする。
正規荷重は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ1ごとに定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば上記の表に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」であるが、タイヤ1が乗用車用である場合には内圧180kPaの対応荷重の85%とする。
ベルト部22は、少なくとも一つ(本実施形態においては、二つ)のベルト層22a,22bを備えている。具体的には、ベルト部22は、第1ベルト層22aと、第1ベルト層22aよりもタイヤ径方向D2の外側に配置される第2ベルト層22bとを備えている。なお、ベルト層22a,22bの層数は、特に限定されない。
ベルト補強部23は、ベルト層22a,22bをタイヤ幅方向D1に亘って覆うように配置されるキャップ補強層23aを備えている。また、ベルト補強部23は、ベルト層22a,22bのタイヤ幅方向D1の端部を覆うように配置されるエッジ補強層23b,23bを備えている。なお、ベルト補強部23の有無及び位置は、特に限定されない。
図1及び図2に示すように、トレッドゴム21は、タイヤ周方向D3に延びる複数の主溝3a,3bを備えている。主溝3a,3bは、タイヤ周方向D3に連続して延びている。本実施形態においては、主溝3a,3bは、タイヤ周方向D3に沿ってストレート状に延びている、という構成であるが、斯かる構成に限られず、例えば、屈折を繰り返してジグザグ状に延びている、という構成でもよく、また、例えば、湾曲を繰り返して波状に延びている、という構成でもよい。
主溝3a,3bは、例えば、摩耗するにしたがって露出することで摩耗度合が分かるように、溝を浅くしてある部分、所謂、トレッドウエアインジケータ(図示していない)を備えている。また、例えば、主溝3a,3bは、接地端2b,2c間の距離(接地端2b,2c間のタイヤ幅方向D1の寸法)の3%以上の溝幅を有している。また、例えば、主溝3a,3bは、5mm以上の溝幅を有している。
複数の主溝3a,3bにおいては、タイヤ幅方向D1の最も外側に配置される一対の主溝3a,3aは、ショルダー主溝3aといい、また、一対のショルダー主溝3a,3a間に配置される主溝3bは、センター主溝3bという。なお、車両内側D11のショルダー主溝3aは、車両内側ショルダー主溝3aといい、車両外側D12のショルダー主溝3aは、車両外側ショルダー主溝3aという。また、センター主溝3bの有無及び個数は、特に限定されないが、本実施形態においては、センター主溝3bの個数は、二つである。
トレッドゴム21は、主溝3a,3b及び接地端2b,2cによって区画される複数の陸部4~8を備えている。複数の陸部4~8においては、ショルダー主溝3aと接地端2b,2cとによって区画される陸部4,5は、ショルダー陸部4,5といい、隣接される主溝3a,3b同士によって区画され、一対のショルダー陸部4,5間に配置される陸部6~8は、ミドル陸部6~8という。
ミドル陸部6~8のうち、ショルダー主溝3aとセンター主溝3bとによって区画される陸部6,7は、メディエイト陸部6,7といい、センター主溝3b,3b同士によって区画される陸部8は、センター陸部8という。なお、車両内側D11のショルダー陸部4は、車両内側ショルダー陸部4といい、車両外側D12のショルダー陸部5は、車両外側ショルダー陸部5といい、車両内側D11のメディエイト陸部6は、車両内側メディエイト陸部6といい、車両外側D12のメディエイト陸部7は、車両外側メディエイト陸部7という。
本実施形態においては、センター主溝3b,3bは、タイヤ赤道面S1を挟むように配置されている。これにより、センター陸部8は、タイヤ赤道面S1を含むように配置されている。これにより、車両内側ショルダー陸部4及び車両内側メディエイト陸部6の全体は、タイヤ赤道面S1よりも、車両内側D11に配置され、車両外側ショルダー陸部5及び車両外側メディエイト陸部7の全体は、タイヤ赤道面S1よりも、車両外側D12に配置されている。
また、陸部4~8は、複数の陸溝3c,3dを備えている。複数の陸溝3c,3dは、タイヤ周方向D3に対して交差するように延びている。そして、タイヤ周方向D3に対して交差するように延びている陸溝3c,3dのうち、溝幅が1.6mm以上である陸溝3cは、幅溝3cといい、溝幅が1.6mm未満である陸溝3dは、サイプ3dという。なお、陸部4~8は、溝幅が主溝3a,3bの溝幅よりも小さく且つタイヤ周方向D3に沿って連続的又は断続的に延びる陸溝を備えていてもよく、斯かる陸溝は、周溝という。
図3に示すように、トレッドゴム21は、タイヤ径方向D2の外表面であるトレッド面2aを有するゴム表層部9と、ゴム表層部9よりもタイヤ径方向D2の内側に配置されるゴム内層部21aとを備えている。なお、ゴム内層部21aの有無及び層数は、特に限定されない。また、ゴム内層部21aのうち、タイヤ径方向D2の最も内側に配置されるゴム内層部21aは、ベースゴムといい、ゴム表層部9及び他のゴム内層部21aは、キャップゴムという。
ゴム表層部9は、第1ゴムで形成される第1ゴム部9aと、第1ゴムのゴム硬度よりも大きいゴム硬度である第2ゴムで形成される第2ゴム部9bとを備えている。なお、ゴム硬度は、「JIS K6253-1-2012 3.2 デュロメータ硬さ」に基づき、23℃で測定した硬度である。
各ゴムのゴム硬度は、特に限定されないが、例えば、第1ゴムのゴム硬度は、66~70としてもよく、また、例えば、第2ゴムのゴム硬度は、70~74としてもよい。また、例えば、第1ゴムと第2ゴムとのゴム硬度差は、特に限定されないが、例えば、2~6としてもよい。
ゴム表層部9は、第1ゴム部9aと第2ゴム部9bとの界面9cを備えている。そして、界面9cは、一対のショルダー主溝3a,3a間に配置されている。これにより、制動時に、一対のショルダー主溝3a,3a間に配置される界面9cに、歪みが発生するため、当該歪みが路面に対する抵抗となる。したがって、制動距離を低減させることができるため、制動性能を向上させることができる。
また、本実施形態においては、界面9cは、トレッド面2aに現れるように、主溝3a,3bではなく、陸部8に位置している。これにより、界面9cで発生する歪みが、路面に対する直接的な抵抗となる。
しかも、本実施形態においては、界面9cは、センター陸部8、具体的には、タイヤ赤道面S1に位置している。これにより、タイヤ赤道面S1に近いほど制動時の接地圧が大きくなることに対して、界面9cが、タイヤ赤道面S1に最も近い(具体的には、タイヤ赤道面S1を含む)センター陸部8に位置していることになる。これにより、界面9cで発生する歪みが、路面に対して効果的な抵抗となるため、制動距離を効果的に低減させることができる。
また、第1ゴム部9aは、ゴム表層部9の車両内側D11に配置されており、第2ゴム部9bは、ゴム表層部9の車両外側D12に配置されている。これにより、外輪として旋回する際に大きな力が作用する車両外側D12に、ゴム硬度が相対的に大きい第2ゴム部9bが、配置されている。したがって、ゴム表層部9の車両外側D12の剛性を大きくすることができるため、旋回時の操縦安定性能を向上させることができている。
なお、界面9cは、例えば、主溝3a,3bに位置しており、トレッド面2aに現れていない、という構成でもよい。また、界面9cは、ミドル陸部6~8に位置しているものの、センター陸部8ではなく、メディエイト陸部6,7に位置している、という構成でもよい。
また、界面9cは、センター陸部8に位置しているものの、タイヤ赤道面S1から離れて位置している、という構成でもよい。例えば、界面9cとタイヤ赤道面S1との間の距離は、接地端2b,2c間の距離(接地端2b,2c間のタイヤ幅方向D1の寸法)の10%以下であることが好ましく、また、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることが非常に好ましい。
図2に戻り、本実施形態においては、第1ゴム部9aで構成される陸部4,6,8のボイド比は、第2ゴム部9bで構成される陸部5,7,8のボイド比よりも、小さくなっている。これにより、ゴム硬度が相対的に小さい第1ゴム部9aで構成される陸部4,6,8のボイド比は、ゴム硬度が相対的に大きい第2ゴム部9bで構成される陸部5,7,8のボイド比よりも、小さくなっている。したがって、車両内側D11の陸部4,6,8と車両外側D12の陸部5,7,8との剛性差が大きくなることを抑制できる。
なお、第1ゴム部9aで構成される陸部4,6,8は、車両内側ショルダー陸部4及び車両内側メディエイト陸部6と、センター陸部8のうち、界面9c(タイヤ赤道面S1)よりも車両内側D11の領域である。したがって、第1ゴム部9aで構成される陸部4,6,8のボイド比とは、車両内側接地端2bと界面9cとの間の陸部4,6,8の面積(主溝3a,3bを含まず、陸溝3c,3dを含む)の総和に対する、陸溝3c,3dの面積の総和の比率のことである。
また、第2ゴム部9bで構成される陸部5,7,8は、車両外側ショルダー陸部5及び車両外側メディエイト陸部7と、センター陸部8のうち、界面9c(タイヤ赤道面S1)よりも車両外側D12の領域である。したがって、第2ゴム部9bで構成される陸部5,7,8のボイド比とは、車両外側接地端2cと界面9cとの間の陸部5,7,8の面積(主溝3a,3bを含まず、陸溝3c,3dを含む)の総和に対する、陸溝3c,3dの面積の総和の比率のことである。
なお、車両内側メディエイト陸部6における、幅溝3c(サイプ3dは除く)のピッチ(タイヤ周方向D3の間隔)は、車両外側メディエイト陸部7における、幅溝3c(サイプ3dは除く)のピッチよりも、大きくなっている。また、車両内側ショルダー陸部4における、幅溝3c(サイプ3dは除く)のピッチは、車両外側ショルダー陸部5における、幅溝3c(サイプ3dは除く)のピッチよりも、大きくなっている。
ここで、陸部4~8の構成について、図4~図6を参照しながら説明する。
図4~図6に示すように、トレッド部2のタイヤ径方向D2の外表面には、基準面となるプロファイル面S2が存在する。プロファイル面S2は、タイヤ赤道面S1を基準として対称となっている。図4~図6(図9及び図10も同様)においては、プロファイル面S2は、破線で図示されている。
そして、タイヤ赤道面S1よりも車両外側D12のトレッド面2aは、プロファイル面S2と一致している。一方、タイヤ赤道面S1よりも車両内側D11のトレッド面2aの一部は、プロファイル面S2よりも、タイヤ径方向D2で外側に位置している。即ち、タイヤ赤道面S1よりも車両内側D11の陸部4,6は、プロファイル面S2からタイヤ径方向D2の外側に突出する突出部41,61を備えている。なお、図4~図6(図9及び図10も同様)においては、突出部41,61は、誇張して図示されている。
本実施形態においては、全体がタイヤ赤道面S1よりも車両内側D11に配置されている陸部4,6、即ち、車両内側ショルダー陸部4及び車両内側メディエイト陸部6が、突出部41,61を備えている。これにより、タイヤ赤道面S1よりも車両内側D11のタイヤ外径R1の平均は、タイヤ赤道面S1よりも車両外側D12のタイヤ外径R2の平均よりも、大きくなっている。
なお、突出部41,61がプロファイル面S2からタイヤ径方向D2の外側に突出する量(以下、単に「突出量」ともいう)W1は、タイヤ赤道面S1からタイヤ幅方向D1に同じ距離W2だけ離れた位置同士のタイヤ外径R1,R2の差(以下、単に「タイヤ外径差」という)ΔR(=R2-R1)から算出できる。具体的には、突出部41,61の突出量W1は、当該タイヤ外径差ΔRの50%である。
図5に示すように、車両内側メディエイト陸部6は、タイヤ幅方向D1で均等に三つの領域A61~A63に区分できる。そして、各領域A61~63は、タイヤ幅方向D1の内側から、それぞれ内側領域A61,中央領域A62,外側領域A63という。
そして、車両内側メディエイト陸部6の突出部61の突出量W1が最大となるトレッド面2aの位置、即ち、突出部61の頂点62は、車両内側メディエイト陸部6の中央領域A62に配置されている。なお、本実施形態においては、車両内側メディエイト陸部6のうち、タイヤ外径差ΔRが最大となるトレッド面2aの位置は、突出部61の頂点62である。
図6に示すように、車両内側ショルダー陸部4は、タイヤ幅方向D1で均等に三つの領域A41~A43に区分できる。そして、各領域A41~43は、タイヤ幅方向D1の内側から、それぞれ内側領域A41,中央領域A42,外側領域A43という。
そして、車両内側ショルダー陸部4の突出部41の突出量が最大となるトレッド面2aの位置、即ち、突出部41の頂点42は、車両内側ショルダー陸部4の中央領域A42に配置されている。なお、本実施形態においては、車両内側ショルダー陸部4のうち、タイヤ外径差ΔRが最大となるトレッド面2aの位置は、突出部41の頂点42である。
ところで、陸部4,6の中央領域A42,A62は、内側領域A41,A61及び外側領域A43,A63よりも路面に接地し難いことに対して、突出部41,61の頂点42,62は、陸部4,6の中央領域A42,A62に配置されている。これにより、陸部4,6がタイヤ幅方向D1の全域に亘って接地することができる。
また、図5及び図6に示すように、車両内側ショルダー陸部4のタイヤ外径差ΔRの平均は、車両内側メディエイト陸部6のタイヤ外径差ΔRの平均よりも、大きくなっている。そして、車両内側ショルダー陸部4のタイヤ外径差ΔRの最大値は、車両内側メディエイト陸部6のタイヤ外径差ΔRの最大値よりも、大きくなっている。
即ち、車両内側ショルダー陸部4の突出部41の突出量W1の最大値は、車両内側メディエイト陸部6の突出部61の突出量W1の最大値よりも、大きくなっている。なお、突出部41,61の突出量W1の最大値は、特に限定されないが、例えば、ショルダー主溝3aの深さの1%~3%とすることができる。
本実施形態に係る空気入りタイヤ1の構成については以上の通りであり、次に、本実施形態に係る空気入りタイヤ1の作用について比較例と比較して説明する。
比較例に係るタイヤは、本実施形態に係るタイヤ1と比較して、トレッド面2aがタイヤ赤道面S1を基準として対称となっている、即ち、比較例に係るタイヤは、本実施形態に係るタイヤ1に対して、タイヤ幅方向D1の全域に亘ってタイヤ外径差ΔRがない、という構成に変更されたタイヤである。
図7は、比較例に係るタイヤの接地形状を示しており、図8は、本実施形態に係るタイヤ1の接地形状を示している。具体的には、図7及び図8に係る接地形状は、外輪として旋回した時の接地形状を示している。なお、図7及び図8においては、陸溝3c,3dは、図示されていない。
図7に示すように、外輪として旋回した際には、車両外側D12に大きな力が作用するため、車両内側D11の接地長(接地形状のタイヤ周方向D3の長さ)は、車両外側D12の接地長に対して、非常に短くなる。これにより、比較例に係るタイヤにおいては、タイヤ1全体における接地面積が小さくなるため、旋回時の制動性能が低下する。
それに対して、本実施形態に係るタイヤ1においては、タイヤ赤道面S1よりも車両内側D11のタイヤ外径R1の平均は、タイヤ赤道面S1よりも車両外側D12のタイヤ外径R2の平均よりも、大きくなっている。これにより、図8に示すように、車両内側D11の接地長が短くなることを抑制することができるため、タイヤ1全体における接地面積が大きくなる。
しかも、外輪として旋回した際には、車両内側D11に位置するほど、接地長が短くなり易いことに対して、車両内側ショルダー陸部4のタイヤ外径差ΔRの平均は、車両内側メディエイト陸部6のタイヤ外径差ΔRの平均よりも、大きくなっている。これにより、車両内側D11に位置するほど接地長が短くなることを効果的に抑制することができている。したがって、旋回時の制動性能を効果的に向上させることができる。
さらに、ゴム硬度が相対的に大きい第2ゴム部9bが、車両外側D12に配置されている。これにより、車両外側D12の領域の剛性を大きくすることができるため、旋回時の操縦安定性能を向上させることもできている。このように、本実施形態に係るタイヤ1においては、異なるゴム硬度を有するゴムの界面9cをゴム表層部9に有しつつも、旋回時の操縦安定性能及び旋回時の制動性能が低下することを抑制することができている。
また、ゴム硬度が相対的に小さい第1ゴム部9aは、ゴム硬度が相対的に大きい第2ゴム部9bと比較して、摩耗し易い。そして、第1ゴム部9aが車両内側D11に配置されているため、タイヤ1がキャンバー角のある車両に装着された場合には、第1ゴム部9aのゴムの摩耗量が大きくなる。
それに対して、第1ゴム部9aの陸部4,6が、突出部41,61を備えている。これにより、第1ゴム部9aの陸部4,6のゴム体積が大きくなっているため、第1ゴム部9aのゴムの摩耗量が大きい場合でも、タイヤ1の寿命が短くなることを抑制することができる。
以上より、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向D3に延びる複数の主溝3a,3bを備える空気入りタイヤ1であって、タイヤ径方向D2の外表面を有するゴム表層部9を備え、前記ゴム表層部9は、第1ゴムで形成される第1ゴム部9aと、第1ゴムのゴム硬度よりも大きいゴム硬度である第2ゴムで形成される第2ゴム部9bと、を備え、前記第1ゴム部9aは、車両装着時に内側D11に配置され、前記第2ゴム部9bは、車両装着時に外側D12に配置され、前記第1ゴム部9aと前記第2ゴム部9bとの界面9cは、タイヤ幅方向D1で最も外側に配置される一対の主溝3a,3a間に配置され、車両装着時にタイヤ赤道面S1よりも内側D11のタイヤ外径R1の平均は、車両装着時にタイヤ赤道面S1よりも外側D12のタイヤ外径R2の平均よりも、大きい。
斯かる構成によれば、制動時に、第1ゴム部9aと第2ゴム部9bとの界面9cには、歪みが発生する。そして、界面9cが、タイヤ幅方向D1で最も外側に配置される一対の主溝3a,3a間に配置されているため、当該歪みが路面に対する抵抗となる。したがって、制動距離を低減させることができるため、制動性能を向上させることができる。
また、外輪として旋回する際に、車両装着時に外側D12の領域に大きな力が作用することに対して、ゴム硬度が相対的に大きい第2ゴム部9bが、車両装着時に外側D12に配置されている。これにより、車両装着時に外側D12の領域の剛性を大きくすることができるため、旋回時の操縦安定性能を向上させることができる。
ところで、旋回時の外輪において、車両装着時に内側D11の領域の接地長が、短くなり易い。そこで、車両装着時にタイヤ赤道面S1よりも内側D11のタイヤ外径R1の平均は、車両装着時にタイヤ赤道面S1よりも外側D12のタイヤ外径R2の平均よりも、大きくなっている。
これにより、外輪として旋回した際に、車両装着時に内側D11の領域の接地長が短くなることを抑制することができる。したがって、旋回時の外輪において、タイヤ1全体の接地面積が大きくなるため、旋回時の制動性能を向上させることができる。その結果、異なるゴム硬度を有するゴムの界面9cをゴム表層部9に有しつつも、旋回時の操縦安定性能及び旋回時の制動性能が低下することを抑制することができる。
また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、前記複数の主溝3a,3b及び接地端2b,2cによって区画される複数の陸部4~8を備え、前記複数の陸部4~8のうち、全体が車両装着時にタイヤ赤道面S1よりも内側D11に配置される陸部4,6は、少なくとも二つ備えられ、車両装着時に最も内側D11に配置される陸部4の、タイヤ赤道面S1からタイヤ幅方向D1に同じだけ離れた位置同士のタイヤ外径差ΔRの平均は、車両装着時に内側D11から2番目に配置される陸部6の、タイヤ赤道面S1からタイヤ幅方向D1に同じだけ離れた位置同士のタイヤ外径差ΔRの平均よりも、大きい、という構成である。
斯かる構成によれば、旋回時に、車両内側D11に位置するほど、接地長が短くなり易いことに対して、車両装着時に最も内側D11に配置される陸部4の、タイヤ赤道面S1からタイヤ幅方向D1に同じだけ離れた位置同士のタイヤ外径差ΔRの平均は、車両装着時に内側D11から2番目に配置される陸部6の、当該タイヤ外径差ΔRの平均よりも、大きくなっている。これにより、車両内側D11に位置するほど接地長が短くなることを効果的に抑制することができている。
また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、前記複数の主溝3a,3bと接地端2b,2cとによって区画される複数の陸部4~8を備え、前記第1ゴム部9aで構成される陸部4,6,8のボイド比は、前記第2ゴム部9bで構成される陸部5,7,8のボイド比よりも、小さい、という構成である。
斯かる構成によれば、ゴム硬度が相対的に小さい第1ゴム部9aで構成される陸部4,6,8のボイド比は、ゴム硬度が相対的に大きい第2ゴム部9bで構成される陸部5,7,8のボイド比よりも、小さくなっている。これにより、車両装着時に内側D11に配置される陸部4,6,8と車両装着時に外側D12に配置される陸部5,7,8との剛性差が大きくなり過ぎることを抑制することができる。
また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、前記複数の主溝3a,3bによって区画されることによって、前記タイヤ赤道面S1を含むセンター陸部8を備え、前記界面9cは、前記センター陸部8に位置する、という構成である。
斯かる構成によれば、界面9cがセンター陸部8に位置しているため、界面9cで発生する歪みが、路面に対する直接的な抵抗となる。しかも、タイヤ赤道面S1に近いほど制動時の接地圧が大きくなることに対して、界面9cが、タイヤ赤道面S1に最も近いセンター陸部8に位置しているため、界面9cで発生する歪みが、路面に対して効果的な抵抗となる。
なお、空気入りタイヤ1は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。また、空気入りタイヤ1は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
(1)上記実施形態に係る空気入りタイヤ1においては、突出部41,61の頂点42,62は、陸部4,6の中央領域A42,A62に配置されている、という構成である。しかしながら、空気入りタイヤ1は、斯かる構成に限られない。例えば、突出部41,61の頂点42,62は、陸部4,6の内側領域A41,A61に配置されている、という構成でもよい。
また、例えば、図9に示すように、突出部61の頂点62は、陸部6の外側領域A63に配置されている、という構成でもよい。斯かる構成によれば、旋回時に、車両内側D11に位置するほど、接地長が短くなり易いことに対して、当該接地長が短くなることを効果的に抑制することができる。
(2)また、上記実施形態に係る空気入りタイヤ1においては、突出部41,61は、頂点42,62を備えている、という構成である。しかしながら、空気入りタイヤ1は、斯かる構成に限られない。例えば、図10に示すように、突出部61がプロファイル面S2から突出する量は、陸部6のタイヤ幅方向D1の所定の領域に亘って同じである、即ち、突出部61は、頂点62を備えていない、という構成でもよい。なお、図10に係る突出部61は、角部に面取りを備えている、という構成であるが、面取りを備えていない、という構成でもよい。
(3)また、上記実施形態に係る空気入りタイヤ1においては、突出部41,61は、タイヤ赤道面S1よりも車両内側D11に配置される陸部4,6のみに備えられている、という構成である。しかしながら、空気入りタイヤ1は、斯かる構成に限られない。例えば、突出部は、タイヤ赤道面S1よりも車両外側D12に配置される陸部5,7,8にも備えられている、という構成でもよい。
(4)また、上記実施形態に係る空気入りタイヤ1においては、突出部41,61は、車両内側ショルダー陸部4及び車両内側メディエイト陸部6の二つの陸部4,6に備えられている、という構成である。しかしながら、空気入りタイヤ1は、斯かる構成に限られない。例えば、突出部41,61は、車両内側ショルダー陸部4又は車両内側メディエイト陸部6の一つの陸部4,6のみに備えられている、という構成でもよい。即ち、突出部41,61を有する陸部4,6の個数は、特に限定されない。
(5)また、上記実施形態に係る空気入りタイヤ1においては、車両内側ショルダー陸部4のタイヤ外径差ΔRの平均は、車両内側D11から2番目の陸部6である車両内側メディエイト陸部6のタイヤ外径差ΔRの平均よりも、大きい、という構成である。しかしながら、空気入りタイヤ1は、斯かる構成が好ましいものの、斯かる構成に限られない。例えば、車両内側ショルダー陸部4のタイヤ外径差ΔRの平均は、車両内側メディエイト陸部6のタイヤ外径差ΔRの平均以下である、という構成でもよい。
(6)また、上記実施形態に係る空気入りタイヤ1においては、車両内側ショルダー陸部4のタイヤ外径差ΔRの最大値は、車両内側D11から2番目の陸部6である車両内側メディエイト陸部6のタイヤ外径差ΔRの最大値よりも、大きい、という構成である。しかしながら、空気入りタイヤ1は、斯かる構成が好ましいものの、斯かる構成に限られない。例えば、車両内側ショルダー陸部4のタイヤ外径差ΔRの最大値は、車両内側メディエイト陸部6のタイヤ外径差ΔRの最大値以下である、という構成でもよい。
(7)また、上記実施形態に係る空気入りタイヤ1においては、第1ゴム部9aで構成される陸部4,6,8のボイド比は、第2ゴム部9bで構成される陸部5,7,8のボイド比よりも、小さい、という構成である。しかしながら、空気入りタイヤ1は、斯かる構成が好ましいものの、斯かる構成に限られない。例えば、第1ゴム部9aで構成される陸部4,6,8のボイド比は、第2ゴム部9bで構成される陸部5,7,8のボイド比以上である、という構成でもよい。